説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える有機エレクトロルミネッセンス装置

【課題】 所望の発光層の発光効率が向上された有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】 基板上に、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明導電膜からなるホール注入電極を形成する。ホール注入電極上に、ホール注入層を形成する。次に、ホール注入層上に、ホール輸送層、第1の発光層5a、薄膜層5c、第2の発光層5bおよび電子輸送層を真空蒸着により順に形成する。さらに、この電子輸送層上に電子注入電極を形成する。上記の薄膜層5cは、第1の発光層5aのホスト材料と同じ材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える有機エレクトロルミネッセンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報技術の興隆に伴い、厚さ数mm程度の薄型でフルカラー表示が可能な薄型表示素子への要望が高まっている。このような薄型表示素子として、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する)の開発が進められている。
【0003】
フルカラー表示を実現するための手段としては、赤色発光素子、緑色発光素子および青色発光素子を用いる方法と、白色発光素子と、光の3原色の単色光を透過させるカラーフィルタとを組み合わせて用いる方法が挙げられる。この白色光素子は青色発光材料とオレンジ色発光材料とを含み、青色発光材料が発する青色光とオレンジ色発光材料が発するオレンジ色光とを同時に発光させて白色を実現している。
【0004】
上記白色発光素子においては、青色光を発する発光層およびオレンジ色光を発する発光層が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−52870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような有機EL素子においては、使用目的に応じてオレンジ色光を発する発光層の発光効率を向上させたい場合、または青色光を発する発光層の発光効率を向上させたい場合がある。
【0006】
本発明の目的は、所望の発光層の発光効率が向上された有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1の電極と第2の電極との間に第1の発光層と第2の発光層とを順に備え、第1の発光層と第2の発光層との間に薄膜層をさらに備え、第1の発光層は、第1のホスト材料および第1の波長の光を発生する第1の発光ドーパントを含み、第2の発光層は、第2のホスト材料および第1の波長よりも短い第2の波長の光を発生する第2の発光ドーパントを含み、薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルよりも高いものである。
【0008】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、第1の発光層と第2の発光層との間に薄膜層が設けられている。そして、薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルよりも高い。
【0009】
それにより、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルへエネルギー障壁が形成される。これにより、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルに電子が移動することが困難になる。その結果、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルにある電子は、第2の発光層内で最高被占有分子軌道のエネルギーレベルにあるホールと再結合しやすくなる。したがって、第2の発光層の発光効率が向上され、有機エレクトロルミネッセンス素子全体の発光効率が向上される。
【0010】
(2)薄膜層は、第1の発光層の第1のホスト材料と同じ誘導体材料からなってもよい。この場合、薄膜層はホールを輸送する役割も担う。それにより、ホールと電子との再結合領域が電子注入電極側へ移動する。したがって、ホールと再結合することなくホール注入電極側の層へ到達する電子が低減され、電子注入電極側でホールと電子とが再結合されやすくなる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率が向上される。
【0011】
(3)薄膜層は、第2の発光層の第2のホスト材料と同じ誘導体材料からなってもよい。この場合、第1の発光層の第1のホスト材料の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルへ高いエネルギー障壁が形成される。これにより、第1の発光層の第1の発光ドーパントおよび第1のホスト材料の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルにホールが移動することが困難になる。その結果、第1の発光層の第1の発光ドーパントおよび第1のホスト材料の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルにあるホールは、それぞれ第1の発光層内で最低空分子軌道のエネルギーレベルにある電子と再結合しやすくなる。したがって、第1の発光層の発光効率が向上され、有機エレクトロルミネッセンス素子全体の発光効率が向上される。
【0012】
(4)薄膜層は、第1の発光層の第1のホスト材料と同じ誘導体材料と、第2の発光層の第2のホスト材料と同じ誘導体材料との混合物からなってもよい。
【0013】
この場合、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道にある電子が、それよりも高い薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルを超えて移動することが困難となる。それにより、第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルにある電子は、第2の発光層内でホールと再結合しやすくなる。したがって、第2の発光層の発光効率が向上され、有機エレクトロルミネッセンス素子全体の発光効率が向上される。
【0014】
また、薄膜層は第1の発光層の第1のホスト材料と同じ誘導体材料と、第2の発光層の第2のホスト材料と同じ誘導体材料とを含む。この薄膜層における2つの誘導体材料からなる混合物の混合比率を変えることにより、薄膜層の最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベルは変わらないが、第2の発光層へのホールの輸送性を変化させることが可能となる。すなわち、第1の発光層のホスト材料の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルから第2の発光層へのエネルギー障壁によるホールの移動阻止性を調整することが可能となる。それにより、第1の発光層内および第2の発光層内での再結合の確率を調整することができる。したがって、発光色(発光強度)を調整することができる。
【0015】
これらにより、使用目的に応じて発光効率を向上させることができるとともに、使用目的に応じて発光色を適切に調整することができる。
【0016】
(5)第2の発光層は、ホール輸送性材料からなる補助ドーパントをさらに含み、薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、第2の発光層の補助ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルと同じである、またはそれよりも高くてもよい。
【0017】
この場合、第2の発光層の補助ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルへより高いエネルギー障壁が形成される。これにより、第2の発光層の第2の発光ドーパントおよび補助ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルから薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルに電子が移動することがより困難になる。その結果、第2の発光層の第2の発光ドーパントおよび補助ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルにある電子は、それぞれ第2の発光層内で最高被占有分子軌道のエネルギーレベルにあるホールとより再結合しやすくなる。したがって、第2の発光層の発光効率がより向上され、有機エレクトロルミネッセンス素子全体の発光効率がより向上される。
【0018】
(6)第1のホスト材料は、式(1)で示される分子構造を有するトリアリールアミン誘導体を含み、式(1)中のAr5〜Ar7は同一または異なり、芳香族置換基であってもよい。この場合、ホールと再結合することなくホール注入電極側の層へ到達する電子が低減され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率が向上される。
【0019】
【化1】

【0020】
(7)トリアリールアミン誘導体は、式(2)で示される分子構造を有するベンジジン誘導体を含み、式(2)中のAr8〜Ar11は同一または異なり、芳香族置換基であってもよい。この場合、ホールと再結合することなくホール注入電極側の層へ到達する電子が低減され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率がより向上される。
【0021】
【化2】

【0022】
(8)ベンジジン誘導体は、式(3)で示される分子構造を有するN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジンを含んでもよい。この場合、ホールと再結合することなくホール注入電極側の層へ到達する電子が低減され、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率がさらに向上される。
【0023】
【化3】

【0024】
(9)第2の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板と、基板上に形成された第1の発明に係る1または複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、有機エレクトロルミネッセンス素子の上または下に形成された色変換部材とを備えたものである。
【0025】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置においては、1または複数の有機エレクトロルミネッセンス素子により発生された光が色変換部材を透過して外部に出射される。また、第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子が用いられているので、第2の発光層の発光効率が向上され、有機エレクトロルミネッセンス素子全体の発光効率が向上された有機エレクトロルミネッセンス装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子における所望の発光層の発光効率が向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)素子およびそれを備える有機EL装置について説明する。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る有機EL装置を示す模式的な断面図であり、図2は、図1の有機EL装置の構造を詳細に示した断面図である。
【0029】
図1の有機EL装置は、有機EL素子100、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFG、青色カラーフィルタ層CFBおよび基板1から構成される。
【0030】
赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBは、有機EL素子100および基板1の間に形成される。また、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBにより有機EL装置の各画素が形成されるように配置される。
【0031】
これら各カラーフィルタ層は、例えばガラスまたはプラスチック等の透明な材料からなる。また、各カラーフィルタ層として、CCM(色彩転換媒体)を用いてもよく、ガラスまたはプラスチック等の透明な材料およびCCMの両方を用いてもよい。
【0032】
次に、図2を用いて図1の有機EL装置の構造の詳細を説明する。
【0033】
図2に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明の基板1上に、例えば酸化シリコン(SiO2 )からなる層と窒化シリコン(SiNx )からなる層との積層膜11が形成される。
【0034】
積層膜11上の一部にTFT(薄膜トランジスタ)20が形成される。TFT20はチャネル領域12、ドレイン電極13d、ソース電極13s、ゲート酸化膜14およびゲート電極15からなる。
【0035】
例えば、積層膜11上の一部にポリシリコン層等からなるチャネル領域12が形成される。チャネル領域12上には、ドレイン電極13dおよびソース電極13sが形成される。チャネル領域12上にゲート酸化膜14が形成される。ゲート酸化膜14上にゲート電極15が形成される。
【0036】
TFT20のドレイン電極13dは後述のホール注入電極2に接続され、TFT20のソース電極13sは電源線(図示せず)に接続される。
【0037】
ゲート電極15を覆うようにゲート酸化膜14上に第1の層間絶縁膜16が形成される。ドレイン電極13dおよびソース電極13sを覆うように第1の層間絶縁膜16上に第2の層間絶縁膜17が形成される。ゲート電極15は電極(図示せず)に接続される。
【0038】
なお、ゲート酸化膜14は、例えば窒化シリコンからなる層と酸化シリコンからなる層との積層構造を有する。また、第1の層間絶縁膜16は、例えば酸化シリコンからなる層と窒化シリコンからなる層との積層構造を有し、第2の層間絶縁膜17は、例えば窒化シリコンからなる。
【0039】
第2の層間絶縁膜17上に、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBがそれぞれ形成される。赤色カラーフィルタ層CFRは、赤色の波長領域の光を透過させ、緑色カラーフィルタ層CFGは、緑色の波長領域の光を透過させ、青色カラーフィルタ層CFBは、青色の波長領域の光を透過させる。なお、図2においては、青色カラーフィルタ層CFBを例示する。青色カラーフィルタ層CFBは、400nm〜530nmの波長領域の光を70%以上透過させることが好ましく、80%以上透過させることがより好ましい。
【0040】
赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBを覆うように第2の層間絶縁膜17上に、例えばアクリル樹脂等からなる第1の平坦化層18が形成される。
【0041】
第1の平坦化層18上に有機EL素子100が形成される。有機EL素子100は、ホール注入電極2、ホール注入層3、ホール輸送層4、第1の発光層5a、薄膜層5c、第2の発光層5b、電子輸送層6および電子注入電極7を順に含む。第1の平坦化層18上にホール注入電極2が各画素ごとに形成され、画素間の領域においてホール注入電極2を覆うように絶縁性の第2の平坦化層19が形成される。なお、ホール注入電極2は、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明導電膜からなる。電子注入電極7は、例えばフッ化リチウムとアルミニウムとが積層されて形成される。
【0042】
基板1は、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である。ホール注入層3は、例えば、プラズマCVD法(プラズマ化学的気相成長法)により形成されたCFX (フッ化炭素)からなる。
【0043】
ホール輸送層4としては、例えば、下記式(1)に示されるトリアリールアミン誘導体を用いることができる。
【0044】
【化4】

【0045】
式(1)において、Ar5〜Ar7は芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。
【0046】
式(1)中のAr5〜Ar7の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、トリアリールアミン誘導体の分子量が小さくなるので、ホール輸送層4の作製時における真空蒸着が容易になる。
【0047】
ホール輸送層4として用いられるトリアリールアミン誘導体は、例えば、下記式(2)に示されるベンジジン誘導体である。
【0048】
【化5】

【0049】
式(2)において、Ar8〜Ar11は芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(2)中のAr8〜Ar11の芳香族置換基としては、フェニル基、3-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1,1'-ビフェニル-4-イル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
【0050】
式(2)中のAr8〜Ar11の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、ベンジジン誘導体の分子量が小さくなるので、ホール輸送層4の作製時における真空蒸着が容易になる。
【0051】
本実施の形態においては、ホール輸送層4は、下記式(3)に示されるN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン(N,N'-Di(1-naphthyl)-N,N'-diphenyl-benzidine)(以下、NPBと略記する)である。
【0052】
【化6】

【0053】
また、本実施の形態においてホール輸送層4として用いられるトリアリールアミン誘導体は、下記式(4)に示されるトリフェニルアミン誘導体でもよい。
【0054】
【化7】

【0055】
式(4)において、Ar12〜Ar14は芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(4)中のAr12〜Ar14の芳香族置換基としては、フェニル基、3-メチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1,1'-ビフェニル-4-イル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
【0056】
式(4)中のAr12〜Ar14の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、トリフェニルアミン誘導体の分子量が小さくなるので、ホール輸送層4の作製時における真空蒸着が容易になる。
【0057】
第1の発光層5aは、ホスト材料に第1のドーパントおよび第2のドーパントがドープされた構成を有する。
【0058】
第1の発光層5aのホスト材料としては、例えば、ホール輸送層4の材料と同じトリアリールアミン誘導体を用いることができる。
【0059】
第1の発光層5aのホスト材料として用いられるトリアリールアミン誘導体は、例えば、ベンジジン誘導体である。
【0060】
本実施の形態においては、第1の発光層5aのホスト材料は、NPBである。
【0061】
また、本実施の形態において第1の発光層5aのホスト材料として用いられるトリアリールアミン誘導体はトリフェニルアミン誘導体でもよい。
【0062】
第1の発光層5aの第1のドーパントとしては、例えば、下記式(5)に示されるテトラセン誘導体を用いることができる。
【0063】
【化8】

【0064】
式(5)において、Ar15〜Ar18は水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(5)中のAr15〜Ar18の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、tert-ブチル基等が挙げられる。式(5)中のAr15〜Ar18の芳香族置換基としては、フェニル基、3-メチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、4-tert-ブチル-1-ナフチル基、1,1'-ビフェニル-4-イル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
【0065】
式(5)中のAr15〜Ar18の脂肪族置換基は、炭素数が4以下であることが好ましく、式(5)中のAr15〜Ar18の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、テトラセン誘導体の分子量が小さくなるので、第1の発光層5aの作製時における真空蒸着が容易になる。
【0066】
本実施の形態においては、第1の発光層5aの第1のドーパントは、例えば下記式(6)に示される5,12-ビス(4-ターシャリー-ブチルフェニル)-ナフタセン(5,12-Bis(4-tert-butylphenyl)-naphthacene)(以下、tBuDPNと略記する)である。
【0067】
【化9】

【0068】
また、本実施の形態においては、第1の発光層5aの第1のドーパントとして、下記式(7)に示されるペリレン誘導体を用いてもよい。
【0069】
【化10】

【0070】
式(7)において、Ar19〜Ar22は水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(7)中のAr19〜Ar22の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、tert-ブチル基等が挙げられる。式(7)中のAr19〜Ar22の芳香族置換基としては、フェニル基、3-メチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、4-tert-ブチル-1-ナフチル基等が挙げられる。
【0071】
式(7)中のAr19〜Ar22の脂肪族置換基は、炭素数が4以下であることが好ましく、式(7)中のAr19〜Ar22の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、ペリレン誘導体の分子量が小さくなるので、第1の発光層5aの作製時における真空蒸着が容易になる。
【0072】
第1の発光層5aの第2のドーパントとしては、例えば、下記式(8)に示される5,12-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)-6,11-ジフェニルナフタセン(5,12-Bis(4-(6-methylbenzothiazol-2-yl)phenyl)-6,11-diphenylnaphthacen)(以下、DBzRと略記する)を用いることができる。
【0073】
【化11】

【0074】
ここで、第1の発光層5aの第2のドーパントは発光し、第1のドーパントは、その最低空分子軌道(LUMO)および最高被占有分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルが、それぞれホスト材料のLUMOレベルと第2のドーパントのLUMOレベルとの間におけるLUMOレベル、およびホスト材料のHOMOレベルと第2のドーパントのHOMOレベルとの間におけるHOMOレベルとなり、ホスト材料から第2のドーパントへのエネルギーの移動を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。それにより、第1の発光層5aは、500nmよりも大きく650nmよりも小さいピーク波長を有する橙色光を発生する。
【0075】
本実施の形態においては、薄膜層5cは、第1の発光層5aのホスト材料と同じ誘導体材料から形成される。本実施の形態では、薄膜層5cはNPBからなる。
【0076】
第2の発光層5bは、ホスト材料に第1のドーパントおよび第2のドーパントがドープされた構成を有する。
【0077】
第2の発光層5bのホスト材料としては、例えば、下記式(9)に示されるアントラセン誘導体を用いることができる。
【0078】
【化12】

【0079】
上記式(9)において、Ar1〜Ar4は水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよく、nは1〜3のいずれかの整数を示す。式(9)中のAr1およびAr3はアントラセン環の9位および10位に置換し、Ar2およびAr4はアントラセン環の1〜8位のいずれかの位置に置換する。上記式(9)中のAr1〜Ar4の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、tert-ブチル基等が挙げられる。上記式(9)中のAr1〜Ar4の芳香族置換基としては、フェニル基、3-メチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、4-tert-ブチル-1-ナフチル基、1,1'-ビフェニル-4-イル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
【0080】
式(9)中のAr1〜Ar4の脂肪族置換基は、炭素数が4以下であることが好ましく、式(9)中のAr1〜Ar4の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、アントラセン誘導体の分子量が小さくなるので、第2の発光層5bの作製時における真空蒸着が容易になる。
【0081】
本実施の形態においては、第2の発光層5bは、下記式(10)に示されるターシャリー-ブチル置換ジナフチルアントラセン(tert-butyl substituted dinaphthylanthracene)(以下、TBADNと略記する)を用いることができる。
【0082】
【化13】

【0083】
第2の発光層5bの第1のドーパントとしては、例えば、ホール輸送層4の材料と同じトリアリールアミン誘導体を用いることができる。
【0084】
本実施の形態において第2の発光層5bの第1のドーパントとして用いられるトリアリールアミン誘導体は、例えば、ベンジジン誘導体である。
【0085】
本実施の形態においては、第2の発光層5bの第1のドーパントは、NPBである。
【0086】
第2の発光層5bの第2のドーパントとしては、例えば、下記式(11)に示される1,4,7,10-テトラ-ターシャリー-ブチルペリレン(1,4,7,10-Tetra-tert-butylPerylene)(以下、TBPと略記する)を用いることができる。
【0087】
【化14】

【0088】
ここで、第2の発光層5bの第2のドーパントは発光し、第1のドーパントはホール輸送性材料からなり、ホールの輸送を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。それにより、第2の発光層5bは、400nmよりも大きく500nmよりも小さいピーク波長を有する青色光を発生する。
【0089】
電子輸送層6としては、電子移動度の高い材料を用いることが好ましい。例えば、下記式(12)に示されるフェナントロリン誘導体を用いることができる。
【0090】
【化15】

【0091】
式(12)において、R23〜R26は互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。式(12)中のR23〜R26は、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族置換基または芳香族置換基を示し、R25およびR26は式(12)のベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位のいずれの位置にあってもよい。式(12)の23〜R26の脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、tert-ブチル基等が挙げられ、芳香族置換基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、9-アンスリル基、2-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基等が挙げられる。
【0092】
式(12)中のR23〜R26の脂肪族置換基は、炭素数が4以下であることが好ましく、式(12)中のR23〜R26の芳香族置換基は、炭素数が16以下であることが好ましい。この場合、フェナントロリン誘導体の分子量が小さくなるので、電子輸送層6の作製時における真空蒸着が容易になる。
【0093】
本実施の形態においては、電子輸送層6は、下記式(13)に示される2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)(以下、BCPと略記する)からなる。
【0094】
【化16】

【0095】
なお、電子輸送層6として、下記式(14)に示されるトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum)(以下、Alqと略記する)を用いてもよい。
【0096】
【化17】

【0097】
図3は、本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層5a、薄膜層5cおよび第2の発光層5bの最低空分子軌道(LUMO)および最高被占有分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。
【0098】
上述したように、第1の発光層5aのホスト材料と薄膜層5cと第2の発光層5bの第1のドーパントとは同一誘導体材料を用いているため、第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルと薄膜層5cのLUMOレベルと第2の発光層5bの第1のドーパントのLUMOレベルとは等しい。第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベル、薄膜層5cのLUMOレベルおよび第2の発光層5bの第1のドーパントのLUMOレベルをL1とする。
【0099】
また、第1の発光層5aのホスト材料と薄膜層5cと第2の発光層5bの第1のドーパントとは同一誘導体材料を用いているため、第1の発光層5aのホスト材料のHOMOレベルと薄膜層5cのHOMOレベルと第2の発光層5bの第1のドーパントのHOMOレベルとは等しい。第1の発光層5aのホスト材料のHOMOレベル、薄膜層5cのHOMOレベルおよび第2の発光層5bの第1のドーパントのHOMOレベルをH1とする。
【0100】
また、第1の発光層5aの第1のドーパントのLUMOレベルおよびHOMOレベルをそれぞれL3およびH3とし、第1の発光層5aの第2のドーパントのLUMOレベルおよびHOMOレベルをそれぞれL4およびH4とする。
【0101】
また、第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルおよびHOMOレベルをそれぞれL0およびH0とし、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルおよびHOMOレベルをそれぞれL2およびH2とする。
【0102】
図3に示すように、第1の発光層5aにおいては、(第2のドーパントのLUMOレベルL4)≦(第1のドーパントのLUMOレベルL3)≦(ホスト材料のLUMOレベルL1)の関係が成立する。なお、電子のエネルギーは矢印Vの方向に高くなる。
【0103】
第2の発光層5bにおいては、(第2のドーパントのLUMOレベルL2)≦(第1のドーパントのLUMOレベルL1)≦(ホスト材料のLUMOレベルL0)の関係が成立する。
【0104】
また、第1の発光層5aにおいては、(第2のドーパントのHOMOレベルH4)≦(第1のドーパントのHOMOレベルH3)≦(ホスト材料のHOMOレベルH1)の関係が成立する。なお、ホールのエネルギーは矢印Uの方向に高くなる。
【0105】
第2の発光層5bにおいては、(第2のドーパントのHOMOレベルH2)≦(第1のドーパントのHOMOレベルH1)≦(ホスト材料のHOMOレベルH0)の関係が成立する。
【0106】
図2の有機EL素子100のホール注入電極2と電子注入電極7との間に駆動電圧が印加されると、ホール注入電極2より供給されたホールがホール注入層3に注入され、電子注入電極7より供給された電子が電子輸送層6に注入される。
【0107】
ホール注入層3に注入されたホールはホール輸送層4を介して第1の発光層5a、薄膜層5cおよび第2の発光層5bに輸送され、電子輸送層6に注入された電子は第2の発光層5b、薄膜層5cおよび第1の発光層5aに輸送される。
【0108】
電子輸送層6から第2の発光層5bおよび薄膜層5cを通して第1の発光層5aへ輸送される電子は、ホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に移動する。
【0109】
第1の発光層5aにおいて、LUMOレベルL1にある電子は、LUMOレベルL3またはL4に移動する。
【0110】
また、電子輸送層6から第2の発光層5bへ輸送される電子は、ホスト材料のLUMOレベルL0、第1のドーパントのLUMOレベルL1および第2のドーパントのLUMOレベルL2に移動する。
【0111】
第2の発光層5bにおいて、LUMOレベルL0にある電子は、LUMOレベルL1またはL2に移動する。
【0112】
ここで、第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルL0および第1のドーパントのLUMOレベルL1に移動した電子は、薄膜層5cのLUMOレベルL1ならびに第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に移動する。
【0113】
一方、本実施の形態においては、(第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2)≦(薄膜層5cのLUMOレベルL1)の関係が成立するので、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2から薄膜層5cのLUMOレベルL1へエネルギー障壁が形成される。それにより、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2から薄膜層5cのLUMOレベルL1ならびに第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に電子が移動することが困難になる。
【0114】
ホール輸送層4から第1の発光層5aへ輸送されるホールは、ホスト材料のHOMOレベルH1、第1のドーパントのHOMOレベルH3および第2のドーパントのHOMOレベルH4に移動する。
【0115】
第1の発光層5aにおいて、HOMOレベルH1にあるホールは、HOMOレベルH3またはH4に移動する。
【0116】
また、ホール輸送層4から第1の発光層5aおよび薄膜層5cを通して第2の発光層5bへ輸送されるホールは、ホスト材料のHOMOレベルH0、第1のドーパントのHOMOレベルH1および第2のドーパントのHOMOレベルH2に移動する。
【0117】
第2の発光層5bにおいて、HOMOレベルH0にあるホールは、HOMOレベルH1またはH2に移動する。
【0118】
第1の発光層5aにおいて、HOMOレベルH4のホールとLUMOレベルL4の電子とが再結合し、第1の発光層5aがオレンジ色に発光する。第2の発光層5bにおいて、HOMOレベルH2のホールとLUMOレベルL2の電子とが再結合し、第2の発光層5bが青色に発光する。
【0119】
本実施の形態に係る有機EL装置は、以下の構成を有してもよい。
【0120】
図4は、他の実施の形態に係る有機EL装置を示す詳細断面図である。図4の有機EL装置は以下の点で図2の有機EL装置と構造が異なる。
【0121】
図4の有機EL装置においては、図2の有機EL装置と同様に、基板1上に積層膜11、TFT20、第1の層間絶縁膜16、第2の層間絶縁膜17、青色カラーフィルタ層CFB、第1の平坦化層18、第2の平坦化層19および有機EL素子100が形成される。なお、図4においても、青色カラーフィルタ層CFBを例示する。
【0122】
その後、有機EL素子100上に、透明の接着剤層23を介してオーバーコート層22、青色カラーフィルタ層CFBおよび透明の封止基板21が順に積層された積層体が接着される。これにより、トップエミッション構造の有機EL装置が完成する。
【0123】
有機EL素子100により発生された光は、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBと透明の封止基板21とを通じて外部に取り出される。
【0124】
図4の有機EL装置において、基板1は不透明な材料により形成されてもよい。また、有機EL素子100のホール注入電極2は、例えば膜厚約50nmのインジウム−スズ酸化物(ITO)と膜厚約100nmのアルミニウム、クロムまたは銀とを積層することにより形成される。この場合、ホール注入電極2は、有機EL素子100により発生された光を封止基板21側へ反射する。
【0125】
電子注入電極7は、透明な材料からなる。電子注入電極7は、例えば膜厚約100nmのインジウム−スズ酸化物(ITO)と膜厚約20nmの銀とを積層することにより形成される。
【0126】
オーバーコート層22は、例えば厚み約1μmのアクリル樹脂等により形成される。赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBはそれぞれ約1μmの厚みを有する。
【0127】
封止基板21としては、例えばガラス、酸化シリコン(SiO2 )からなる層または窒化シリコン(SiNx )からなる層を用いることができる。
【0128】
図4の有機EL装置においては、トップエミッション構造であることによりTFT20上の領域も画素領域として用いることができる。すなわち、図4の有機EL装置では、図2の青色カラーフィルタ層CFBよりも大きい青色カラーフィルタ層CFBを用いることができる。それにより、より広い領域を画素領域として用いることができるので、有機EL装置の発光効率が向上する。
【0129】
(第1の実施の形態における効果)
上記実施の形態においては、第1の発光層5aと第2の発光層5bとの間に薄膜層5cを設けている。そして、薄膜層5cのLUMOレベルL1は、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2よりも高い。それにより、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2にある電子は、第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に移動することが困難になる。これにより、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2にある電子は、第2の発光層5b内でHOMOレベルH2のホールと再結合しやすくなる。したがって、第2の発光層5bの発光効率が向上される。その結果、有機EL素子100全体の発光効率が向上される。
【0130】
(第2の実施の形態)
本実施の形態に係る有機EL素子が第1の実施の形態に係る有機EL素子100と異なる点は、薄膜層5cが第2の発光層5bのホスト材料と同じ誘導体材料からなる点である。本実施の形態では、薄膜層5cはTBADNからなる。
【0131】
図5は、本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層5a、薄膜層5cおよび第2の発光層5bの最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベルならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。なお、以下の説明においては、図3の例と同じ構成および作用については省略する。
【0132】
図5に示すように、第2の発光層5bのホスト材料と薄膜層5cとは同一誘導体材料を用いているため、第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルと薄膜層5cのLUMOレベルとは等しい。
【0133】
第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルL0に移動した電子は、薄膜層5cのLUMOレベルL0ならびに第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に移動する。
【0134】
本実施の形態においては、(第1の発光層5aの第2のホスト材料のHOMOレベルH1)≦(薄膜層5cのHOMOレベルH0)の関係が成立するので、第1の発光層5aのホスト材料のHOMOレベルH1から薄膜層5cのHOMOレベルH0へエネルギー障壁が形成される。それにより、第1の発光層5aの第1のドーパントのHOMOレベルH3、第2のドーパントのHOMOレベルH4およびホスト材料のHOMOレベルH1から薄膜層5cのHOMOレベルH0ならびに第2の発光層5bのホスト材料のHOMOレベルH0、第1のドーパントのHOMOレベルH1および第2のドーパントのHOMOレベルH2にホールが移動することが困難になる。
【0135】
(第2の実施の形態における効果)
このように、本実施の形態においては、薄膜層5cのHOMOレベルH0は、第1の発光層5aの第1のドーパントのHOMOレベルH3、第2のドーパントのHOMOレベルH4およびホスト材料のHOMOレベルH1よりも高い。それにより、第1の発光層5aの第1のドーパントのHOMOレベルH3、第2のドーパントのHOMOレベルH4およびホスト材料のHOMOレベルH1にあるホールは、第2の発光層5bのホスト材料のHOMOレベルH0、第1のドーパントのHOMOレベルH1および第2のドーパントのHOMOレベルH2に移動すること困難になる。これにより、第1の発光層5aの第1のドーパントのHOMOレベルH3、第2のドーパントのHOMOレベルH4およびホスト材料のHOMOレベルH1にあるホールは、第1の発光層5a内でそれぞれLUMOレベルL3,L4,L1の電子と再結合しやすくなる。したがって、第1の発光層5aの発光効率がより向上される。その結果、有機EL素子100全体の発光効率がより向上される。
【0136】
(第3の実施の形態)
本実施の形態に係る有機EL素子が第1の実施の形態に係る有機EL素子100と異なる点は、薄膜層5cが第1の発光層5aのホスト材料と同じ誘導体材料と第2の発光層5bのホスト材料と同じ誘導体材料との混合物からなる点である。本実施の形態では、薄膜層5cはNPBとTBADNとの混合物からなる。
【0137】
図6は、本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層5a、薄膜層5cおよび第2の発光層5bの最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベル、ならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。なお、以下の説明においては、図3および図5の例と同じ構成および作用については省略する。
【0138】
図6に示すように、薄膜層5cは、第1の発光層5aのホスト材料と同じ誘導体材料と第2の発光層5bのホスト材料と同じ誘導体材料との混合物を用いているため、第1の発光層5aのホスト材料および第2の発光層5bのホスト材料の両方のLUMOレベルと同じLUMOレベルを有し、かつ、第1の発光層5aのホスト材料および第2の発光層5bのホスト材料の両方のHOMOレベルと同じHOMOレベルを有する。
【0139】
第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルL0に移動した電子は、第1のドーパントのLUMOレベルL1および第2のドーパントのLUMOレベルL2に移動する。
【0140】
ここで、第2の発光層5bのホスト材料のLUMOレベルL0および第2の発光層5bの第1のドーパントのLUMOレベルL1に移動した電子は、薄膜層5cのLUMOレベルL0およびLUMOレベルL1に移動し、さらに第1の発光層5aのホスト材料のLUMOレベルL1、第1のドーパントのLUMOレベルL3および第2のドーパントのLUMOレベルL4に移動する。
【0141】
本実施の形態においては、(第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2)≦(薄膜層5cのLUMOレベルL0,L1)の関係が成立するので、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2から薄膜層5cのLUMOレベルL0,L1ヘエネルギー障壁が形成される。それにより、第1の実施の形態と同様に、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2にある電子が、第1の発光層5aへ移動することが困難となる。
【0142】
一方、ホール輸送層4からのホールは、薄膜層5cを介して第2の発光層5bホスト材料のHOMOレベルH0、第1のドーパントのHOMOレベルH1および第2のドーパントのHOMOレベルH2に移動するが、本実施の形態においては、薄膜層5cはHOMOレベルH0,H1を有する。
【0143】
したがって、第1の発光層5aのホスト材料のHOMOレベルH1から第2の発光層5bに移動するホールに対しては、薄膜層5cのHOMOレベルH0がエネルギー障壁となる。それにより、薄膜層5cが第1の発光層5aのホスト材料と同じ誘導体材料のみで構成されている場合(図3の構成)に比べて、ホールの移動は制限される。
【0144】
(第3の実施の形態における効果)
上記のような構成により、本実施の形態では、電子に対しては、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2から第1の発光層5aへの移動を妨げるエネルギー障壁を形成する。その結果、第2の発光層5bの第2のドーパントのLUMOレベルL2にある電子は、第2の発光層5b内でHOMOレベルH2のホールと再結合しやすくなる。したがって、第2の発光層5bの発光効率が向上される。その結果、有機EL素子全体の発光効率が向上される。
【0145】
また、薄膜層5cは、第2の発光層5bのホスト材料であるTBADNに加えてホール輸送性材料であるNPBを含む。薄膜層5cにおける2つの誘導体材料からなる混合物の混合比率を変えることにより、薄膜層5cのLUMOレベルおよびHOMOレベルは変わらないが、第2の発光層5bへのホールの輸送性を変化させることが可能となる。すなわち、第1の発光層5aのホスト材料のHOMOレベルH1から第2の発光層5bへのエネルギー障壁によるホールの移動阻止性を調整することが可能となる。それにより、第1の発光層5a内および第2の発光層5b内での再結合の確率を調整することができる。したがって、発光色(発光強度)を調整することができる。
【0146】
これらにより、使用目的に応じて発光効率を向上させることができるとともに、使用目的に応じて発光色を適切に調整することができる。
【0147】
(他の実施の形態)
なお、上記各実施の形態においては、第1の発光層5aのホスト材料としてホール輸送層4と同じ材料が用いられているが、第1の発光層5aがホール輸送層としての役割を担うことができるのであれば、第1の発光層5aのホスト材料とホール輸送層4の材料とが互いに異なってもよい。
【0148】
(請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係)
上記各実施の形態においては、ホール注入電極2が第1の電極に相当し、電子注入電極7が第2の電極に相当し、第1の発光層5aの第2のドーパントが第1の発光ドーパントに相当し、第2の発光層5bの第2のドーパントが第2の発光ドーパントに相当し、第2の発光層5bの第1のドーパントが補助ドーパントに相当し、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBが色変換部材に相当する。
【実施例】
【0149】
以下、実施例1〜3および比較例の有機EL素子を作製し、作製した有機EL素子の発光効率およびCIE(Commission Internationale d'Eclairage:国際照明委員会)色度座標(x,y)をそれぞれ測定した。なお、作製した各有機EL素子においては、ホール注入層3は設けなかった。
【0150】
(実施例1)
実施例1においては、図2の構成を有する有機EL素子100を次のように作製した。
【0151】
ガラスからなる基板1上にインジウム−スズ酸化物(ITO)からなるホール注入電極2を形成した。
【0152】
次に、ホール注入電極2上に、ホール輸送層4、第1の発光層5a、薄膜層5c、第2の発光層5bおよび電子輸送層6を真空蒸着により順に形成した。
【0153】
ホール輸送層4は、膜厚155nmのNPBからなる。第1の発光層5aは、膜厚300nmを有し、NPBからなるホスト材料にtBuDPNからなる第1のドーパントを20体積%添加し、第2のドーパントを3体積%添加することにより形成される。また、薄膜層5cは、膜厚5nmのNPBからなる。
【0154】
第2の発光層5bは、膜厚450nmを有し、ホスト材料にNPBからなる第1のドーパントを20体積%添加し、第2のドーパントを2.5体積%添加することにより形成される。また、電子輸送層6は、膜厚10nmを有する。
【0155】
その後、電子輸送層6上に、1nmのフッ化リチウム膜および200nmのアルミニウム膜の積層構造からなる電子注入電極7を形成した。
【0156】
以上のようにして作製した有機EL素子の20mA/cm2 での発光効率およびCIE色度座標(x,y)を測定した。なお、CIE色度座標(x,y)は、それぞれ色空間をXYZ座標系で表したCIE表色系でのx座標およびy座標である。
【0157】
その結果、発光効率は14.16cd/Aとなり、CIE色度座標(x,y)は、(0.19,0.38)となった。
【0158】
(実施例2)
実施例2においては、薄膜層5cを第2の発光層5bのホスト材料により構成した点を除いて、実施例1と同じ構成を有する有機EL素子を作製した。
【0159】
作製した有機EL素子の20mA/cm2 での発光効率およびCIE色度座標(x,y)を測定した。
【0160】
その結果、発光効率は14.78cd/Aとなり、CIE色度座標(x,y)は、(0.43,0.42)となった。
【0161】
(実施例3)
実施例3においては、薄膜層5cを第2の発光層5bのホスト材料に対してNPBを20体積%混合することによって得られた膜により形成した点を除いて、実施例1と同じ構成を有する有機EL素子を作製した。
【0162】
作製した有機EL素子の20mA/cm2 での発光効率およびCIE色度座標(x,y)を測定した。
【0163】
その結果、発光効率は13.61cd/Aとなり、CIE色度座標(x,y)は、(0.29,0.39)となった。
【0164】
(比較例)
比較例においては、薄膜層5cを設けなかった点を除いて、実施例1と同じ構成を有する有機EL素子を作製した。
【0165】
作製した有機EL素子の20mA/cm2 での発光効率およびCIE色度座標(x,y)を測定した。
【0166】
その結果、発光効率は11.97cd/Aとなり、CIE色度座標(x,y)は、(0.27,0.38)となった。
【0167】
(評価)
上記の実施例1〜3で作製した有機EL素子100の発光効率は、比較例で作製した有機EL素子の発光効率よりも10〜20%高くなった。それにより、消費電力を低減することができた。
【0168】
また、各有機EL素子における発光色は、CIE色度座標(x,y)からわかるように、実施例1の有機EL素子では青寄りの白色、実施例2の有機EL素子ではオレンジ寄りの白色、実施例3の有機EL素子ではほぼ白色となった。
【0169】
これらは、実施例1の有機EL素子では青色発光層である第2の発光層5bで多くの再結合が起こり、実施例2の有機EL素子ではオレンジ色発光層である第1の発光層5aで多くの再結合が起こり、実施例3の有機EL素子では、第1の発光層5aおよび第2の発光層5bの両発光層での再結合の割合が調整された結果、発光強度のバランスが適切になったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、各光源または表示装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】第1の実施の形態に係る有機EL装置を示す模式的な断面図である。
【図2】図1の有機EL装置の構造を詳細に示した断面図である。
【図3】本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層、薄膜層および第2の発光層の最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベルならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。
【図4】他の実施の形態に係る有機EL装置を示す詳細断面図である。
【図5】本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層、薄膜層および第2の発光層の最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベルならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。
【図6】本実施の形態に係る有機EL素子における第1の発光層、薄膜層および第2の発光層の最低空分子軌道および最高被占有分子軌道のエネルギーレベルならびに電子およびホールの移動過程の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0172】
1 基板
2 ホール注入電極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5a 第1の発光層
5b 第2の発光層
5c 薄膜層
6 電子輸送層
7 電子注入電極
100 有機エレクトロルミネッセンス素子
CFR 赤色カラーフィルタ層
CFG 緑色カラーフィルタ層
CFB 青色カラーフィルタ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間に第1の発光層と第2の発光層とを順に備え、
前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に薄膜層をさらに備え、
前記第1の発光層は、第1のホスト材料および第1の波長の光を発生する第1の発光ドーパントを含み、
前記第2の発光層は、第2のホスト材料および前記第1の波長よりも短い第2の波長の光を発生する第2の発光ドーパントを含み、
前記薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、前記第2の発光層の第2の発光ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルよりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記薄膜層は、前記第1の発光層の第1のホスト材料と同じ誘導体材料からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記薄膜層は、前記第2の発光層の第2のホスト材料と同じ誘導体材料からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記薄膜層は、前記第1の発光層の第1のホスト材料と同じ誘導体材料と、前記第2の発光層の第2のホスト材料と同じ誘導体材料との混合物からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第2の発光層は、ホール輸送性材料からなる補助ドーパントをさらに含み、
前記薄膜層の最低空分子軌道のエネルギーレベルは、前記第2の発光層の補助ドーパントの最低空分子軌道のエネルギーレベルと同じである、またはそれよりも高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記第1のホスト材料は、式(1)で示される分子構造を有するトリアリールアミン誘導体を含み、式(1)中のAr5〜Ar7は同一または異なり、芳香族置換基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

【請求項7】
前記トリアリールアミン誘導体は、式(2)で示される分子構造を有するベンジジン誘導体を含み、式(2)中のAr8〜Ar11は同一または異なり、芳香族置換基であることを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

【請求項8】
前記ベンジジン誘導体は、式(3)で示される分子構造を有するN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジンを含むことを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

【請求項9】
基板と、
前記基板上に形成された請求項1〜8のいずれかに記載の1または複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の上または下に形成された色変換部材とを備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−100806(P2006−100806A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246022(P2005−246022)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】