説明

有機エレクトロルミネッセンス素子および有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、表示装置

【課題】本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、劣化要因因子の影響が防止された高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を提供することを課題とする。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有し、且つ、前記酸化モリブデン含有層が少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス(以下、ELと略す)現象を利用した有機EL素子および有機EL素子の製造方法、表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、少なくともエレクトロルミネッセンス現象を呈する有機発光層を挟持してなる構造を有し、電極間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
【0003】
さらに、発光効率を増大させるなどの目的から、陽極と有機発光層との間に正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、又は、及び、有機発光層と陰極との間に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などが適宜選択して設けられている。そして、有機発光層とこれら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などを合わせて発光媒体層と呼ばれている。
【0004】
これら発光媒体層の各層は、有機材料や無機材料からなる。有機材料には低分子系材料と高分子系材料とがある。
【0005】
低分子系材料を用いた例としては、例えば、正孔注入層に銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層にN,N’―ジフェニル ―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)、有機発光層にトリス(8―キノリノール)アルミニウム(Alq3)、電子輸送層に2―(4―ビフェニリル)―5―(4―tert―ブチル―フェニル)―1,3,4,―オキサジゾール(PBD)、電子注入層にLiFなどを用いたものが挙げられる。
【0006】
これら低分子系材料よりなる発光媒体層の各層は、一般に0.1〜200nm程度の厚みで、主に抵抗加熱方式などの真空蒸着法やスパッタ法などの真空中の乾式法(ドライプロセス)によって成膜されている。
【0007】
また、低分子系材料は種類が豊富で、その組み合わせによって発光効率や発光輝度、寿命などの向上が期待されている。
【0008】
高分子系材料としては、例えば、有機発光層に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子中に低分子の発光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(以下、PPVと略す)、ポリアルキルフルオレン誘導体(以下、PAFと略す)等の高分子蛍光体、希土類金属系等の高分子燐光体が用いられている。
【0009】
これら高分子系材料は一般に、溶剤に溶解または分散され、塗布や印刷などの湿式法(ウエットプロセス)を用いて、1〜100nm程度の厚みで成膜されている。
【0010】
湿式法を用いた場合、真空蒸着法などの真空中の乾式法を用いた場合に比べ、大気中で成膜が可能、設備が安価である、大型化が容易である、短時間に効率よく成膜可能である、などの利点がある。
【0011】
また、高分子系材料を用いて成膜した有機薄膜は結晶化や凝集が起こりにくく、さらには他層のピンホールや異物を被覆するため、短絡やダークスポットなどの不良を防ぐことができる利点もある。
【0012】
一方、無機材料としては、キヤリア輸送層に、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、更にはこれらの合金、酸化物、炭化物、窒化物、硼化物、硫化物、ハロゲン化物などの無機化合物が用いられている。
【0013】
無機材料は、有機材料より密着性や熱安定性が高いものが多く、リーク電流による誤発光現象の抑制やダークスポットと称される非発光領域発生の低減、発光特性や寿命向上などが期待される。また、無機材料は有機材料に比べ比較的安価で大型のディスプレイや、量産品への応用を考えた場合、コストの低減の点で重要な役割を果たす。
【0014】
この特徴を利用して有機発光層と正孔注入電極である陽極との間に無機材料を用いた無機正孔注入層を設ける構成が知られている(特許文献1、特許文献3、特許文献4、特許文献5、引用文献6、引用文献7)。
【0015】
また、有機発光層と電子注入電極である陰極の間に無機材料を用いた無機電子注入層を設ける構成が知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4、引用文献7)。
【0016】
このうち特に酸化モリブデンは、成膜が容易である、正孔注入電極からの正孔注入機能が高い、正孔を安定に輸送する機能に優れていることや、安定性の点など正孔輸送材料や電子注入材料の一部として有用な材料であることが知られている。
【0017】
ところで、酸化モリブデンは主に三酸化モリブデン(MoO)と二酸化モリブデン(MoO)に大別される。成膜時の透過率は三酸化モリブデンが高く、二酸化モリブデンは低いため、三酸化モリブデンを用いるのが一般的である。
【0018】
しかし、三酸化モリブデンは水にわずかに可溶であるため三酸化モリブデン形成後、水分と反応し、物性が変化し易い。一方、二酸化モリブデンや他の無機化合物のほとんどは水に不溶であるため物性変化は生じにくい。
【0019】
特に酸化モリブデンと隣接する発光媒体層が、搬送や成膜など大気に触れる製造工程を含む場合には、大気中の水分などの劣化要因因子によって膜が劣化し、発光効率や発光輝度、寿命などの表示特性が低下する問題がある。
【0020】
即ち、真空中の乾式法のみで発光媒体層を積層した場合には、三酸化モリブデン層の表面に吸着する劣化要因因子の量は少なく、影響は小さいが、大気中で成膜を行う製造工程を含む場合、表示特性の大幅な低下を引き起こす場合がある。
【0021】
また、湿式法のような大気中で成膜を行う製造工程で水系、アルコール系、ケトン系、カルボン酸系、ニトリル系、エステル系の溶媒を用いる場合、三酸化モリブデンは溶解し、物性や膜厚を変化させてしまい、特に発光効率及び発光輝度の低下を引き起こす問題が生じる。
【0022】
従って酸化モリブデンを用いる場合、様々な劣化要因因子による劣化が懸念され、全ての製造工程で安定した発光媒体層を形成することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平11−307259号公報
【特許文献2】特開2002−367784号公報
【特許文献3】特開平5−41285号公報
【特許文献4】特開2000−68065号公報
【特許文献5】特開2000−215985号公報
【特許文献6】特開2006−114521号公報
【特許文献7】特開2006−155978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、劣化要因因子の影響が防止された高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を提供することを課題とする。また、全ての製造工程において劣化要因因子の影響が防止され、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を効率よく安価に安定して製造することができる製造方法を提供することを課題とする。さらには、劣化要因因子の影響が防止された高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い安価な表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1にかかる発明は、基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有し、且つ、前記酸化モリブデン含有層が少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0026】
請求項2にかかる発明は、前記酸化モリブデン含有層は、三酸化モリブデンを含む層と他の無機化合物を含む層が積層された層を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0027】
請求項3にかかる発明は、前記他の無機化合物が二酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化チタン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化錫、酸化鉛、酸化ニオブ、酸化アルミ、酸化銅、酸化マンガン、酸化プラセオジム、酸化クロム、酸化ビスマス、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナリウム、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、窒化ガリウム、窒化ガリウムインジウム、マグネシウム銀、アルミリチウム、銅リチウム、のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子である。
【0028】
請求項4にかかる発明は、前記三酸化モリブデンを含む層が、三酸化モリブデン層であることを特徴とする請求項2至請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0029】
請求項5にかかる発明は、前記他の無機化合物を含む層の膜厚が、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0030】
請求項6にかかる発明は、前記酸化モリブデン含有層が、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層のいずれかの層であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0031】
請求項7にかかる発明は、基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物とを同時に成膜する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0032】
請求項8にかかる発明は、基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、少なくとも三酸化モリブデンを含む第一の材料と他の無機化合物からなる第二の材料とを相前後して成膜する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0033】
請求項9にかかる発明は、前記他の無機化合物が二酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化チタン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化錫、酸化鉛、酸化ニオブ、酸化アルミ、酸化銅、酸化マンガン、酸化プラセオジム、酸化クロム、酸化ビスマス、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナリウム、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、窒化ガリウム、窒化ガリウムインジウム、マグネシウム銀、アルミリチウム、銅リチウムのいずれかであることを特徴とする請求項7乃至請求項8に記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法である。
【0034】
請求項10にかかる発明は、前記第一の材料が三酸化モリブデンであることを特徴とする請求項8乃至請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0035】
請求項11にかかる発明は、前記無機化合物からなる第二の材料を成膜する工程で形成される無機化合物層の膜厚が、5nm以上30nm以下、であることを特徴とする請求項8乃至請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0036】
請求項12にかかる発明は、基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、三酸化モリブデンを成膜する工程の後、成膜された膜表面をエッチングする工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0037】
請求項13にかかる発明は、前記膜表面をエッチングする工程で形成される二酸化モリブデン層の膜厚が、5nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0038】
請求項14にかかる発明は、前記成膜する工程が、蒸着法、スパッタ法、CVD法のいずれかの方法で成膜する工程であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0039】
請求項15にかかる発明は、前記酸化モリブデン含有層が、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層のいずれかの層であることを特徴とする請求項7乃至請求項14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0040】
請求項16にかかる発明は、前記酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を形成する工程が、大気中で形成する工程であることを特徴とする請求項7乃至請求項15のいずれかに有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0041】
請求項17にかかる発明は、前記酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を形成する工程が、湿式法で形成する工程であることを特徴とする請求項7乃至請求項16のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0042】
請求項18にかかる発明は、前記発光媒体層を湿式法で形成する工程において、該発光媒体層の塗布液の溶媒が水系、アルコール系、ケトン系、カルボン酸系、ニトリル系、エステル系、芳香族系の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項17に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0043】
請求項19にかかる発明は、前記湿式法が印刷法であることを特徴とする請求項17又は18に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0044】
請求項20にかかる発明は、前記印刷法が凸版印刷法であることを特徴とする請求項19に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0045】
請求項21にかかる発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を、表示素子として備えたことを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含む酸化モリブデン含有層を具備することにより、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子及び表示装置を提供することができた。
【0047】
さらには、三酸化モリブデンと他の無機化合物とを同時に成膜する工程を含むことで、全ての製造工程において劣化要因因子の影響が防止され、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を迅速に効率よく安価に安定して製造できる製造方法を提供することができた。
【0048】
また、三酸化モリブデンを含む第一の材料と他の無機化合物からなる第二の材料とを相前後して成膜する工程を含むことで、全ての製造工程において劣化要因因子の影響が防止され、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を迅速に効率よく安価に安定して製造できる製造方法を提供することができた。
【0049】
そして、三酸化モリブデンを成膜する工程の後、成膜された膜表面をエッチングする工程を含むことで、全ての製造工程において劣化要因因子の影響が防止され、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子を迅速に効率よく安価に安定して製造できる製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の凸版印刷法の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の表示装置の一例を示す説明図である。
【図11】二酸化モリブデンの膜厚による透過率変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明において参照する図面は、本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は、実際のものとは異なる。また、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
図1に、本発明の有機EL素子の一例を示す。図1は、断面の模式図である。
【0053】
基板101側が表示側である場合、基板101には、透光性があり、ある程度の強度がある基材を使用することができる。例えば、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができ、0.2から1.0mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を得ることができる。
【0054】
第1電極102には、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質を好適に使用することができる。
【0055】
第1電極102が陽極である場合、例えば、インジウムと錫の複合酸化物(以下、ITOと略す)、インジウムと亜鉛の複合酸化物(以下、IZOと略す)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等が挙げられる。
【0056】
低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性が高い等からITOを好ましく用いることができ、前記基板101上に蒸着またはスパッタリング法などにより成膜することができる。
【0057】
また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板101上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金、銀等の金属を半透明状に蒸着することもできる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0058】
上記、第1電極102は、必要に応じてエッチング等によりパターニングを行うことができる。また、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行うこともできる。
【0059】
発光媒体層103は、複数の機能層より構成され、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層、電子ブロック層、有機発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、電子注入輸送層、絶縁層等が挙げられる。
【0060】
十分な発光効率及び発光輝度、寿命を得る為には、そのうち少なくとも有機発光層と他の1層以上の機能層を積層した構造が好ましい。
【0061】
そして、その機能層に、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含む酸化モリブデン含有層を含むことにより、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子及び表示装置を提供することができる。
【0062】
MoO(x=2〜3)で表され、主に三酸化モリブデン(MoO)と二酸化モリブデン(MoO、2<x<3の化合物を含む。以下同じ)に大別される酸化モリブデンは、有機材料に比べ、密着性や熱安定性が高く、リーク電流による誤発光現象の抑制やダークスポットと称される非発光領域発生を低減することができ、有機EL素子及び表示装置の発光特性や寿命を向上させることができる。また、有機材料に比べ比較的安価であるので、大型の表示装置や、量産品への応用を考えた場合、コストの低減の点で重要な役割を果たす。
【0063】
また、他の無機材料に比べ沸点が(1155℃)と低く、成膜が容易である、正孔注入電極から正孔の注入を容易にする機能が高い、正孔を安定に輸送する機能に優れているなど有用な材料であることが知られている。
【0064】
さらに、一般に、湿式法で成膜した膜の平坦性を向上させることは難しいが、酸化モリブデン含有層は一般的に乾式法で成膜するため、膜の平坦性が高い。平坦性が悪いと、膜厚が薄い箇所に電界が集中し画素内に非発光部が発生し、均一な発光面が得られない。
【0065】
特に表示装置における見かけ上の輝度は、表示装置の画素内発光面積に比例し、画素内発光面積が半分になれば、見かけ上の輝度も約半分となってしまうため、表示装置としては暗く感じる。すると、例えば、画素内発光面積が通常の表示装置と、画素内発光面積が通常の半分の表示装置とを作製し、見かけ上同一輝度で点灯した場合の輝度半減時間は、一般にべき乗で差が生じ、画素内発光面積が半分の表示装置は、通常の画素内発光面積を有する表示装置よりも圧倒的に短寿命となってしまうことになる。
【0066】
例えば、正孔注入層の高分子材料として一般的に用いられるポリエチレンジオキシチオフェンなどは、平坦性を向上させるため様々な工夫が必要なのに対し、酸化モリブデンを乾式法で成膜する場合には、容易に均一な発光面が得られ、高輝度、高寿命、均一性が高いなどの点で優れる。
【0067】
そして、酸化モリブデン含有層に、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含むことにより、三酸化モリブデンの優れた正孔輸送性能や高透明性を維持しつつ、他の無機化合物により、三酸化モリブデンの水分等の劣化要因因子による劣化を抑制し、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機EL素子及び表示装置を迅速に効率よく安価に安定して提供することができる。
他の無機化合物は、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素の合金、酸化物、炭化物、窒化物、硼化物、硫化物、ハロゲン化物の中から任意に選択できる。
【0068】
中でも酸化物、窒化物、合金は安定性が高く、可視光透過率が高く、簡便なプロセスで成膜できるため好ましい。更に、酸化アルミ(Al)、酸化シリコン(SiO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化チタン(TiO、Ti、TiO、TiOx(x=1〜2))、酸化バナジウム(V、V、V、VOx(1.5〜2))、酸化クロム(Cr、CrO)、酸化マンガン(MnO、MnO、Mn、Mn)、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)、酸化コバルト(CoO、Co)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga)、二酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化砒素(As)、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニオブ(NbO、Nb、NbO、)、五酸化ニオブ(Nb)、二酸化モリブデン(MoO、MoOx(2<x<3))、酸化ルテニウム(RuO)、酸化パラジウム(PdO)、酸化銀(AgO)、過酸化銀(Ag)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウム(InO、InO、In)、酸化錫(SnO、SnO)、酸化アンチモン(Sb、Sb、Sb)、酸化テルル(TeO、TeO、TeO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(TaO、Ta、TaO)、酸化タングステン(WO、WO)、酸化レニウム(ReO、Re、ReO)、酸化オスミウム(OsO、Os)酸化イリジウム(IrO、Ir),酸化タリウム(TlO、Tl)、酸化鉛(PbO、Pb、Pb、PbO、PbOx(1<x<2))、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO、Ce)、酸化プラセオジム(Pr、PrO11、PrO、PrOx(1<x<2))、酸化ネオジム(Nd)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ユーロピウム(EuO、Eu)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化テルビウム(Tb、Tb、TbO、TbOx(x=1.5〜2))、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化エルビウム(Er)、酸化ツリウム(Tm)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化ルテチウム(Lu)、酸化トリウム(ThO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化ガリウムインジウム(GaInN)、亜鉛セレン(ZnSe)、マグネシウム銀(MgAg)などの薄膜は、大気中の水分をはじめとする劣化要因因子によって劣化しにくいため好ましい。
【0069】
酸化モリブデン含有層を正孔輸送層に用いる場合、仕事関数は4.0〜6.0eVで正孔輸送性がある無機化合物が好ましく、電子輸送層に用いる場合、仕事関数が1.0〜4.0eVで電子輸送性のある無機化合物が好ましい。
【0070】
従って、二酸化モリブデン(MoO、MoOx(2<x<3))、酸化インジウム(InO、InO、In)、酸化チタン(TiO、Ti、TiO、TiOx(1<x<2))、酸化イリジウム(IrO、Ir)、酸化タンタル(TaO、Ta、TaO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タングステン(WO、WO)、酸化バナジウム(V、V、V、VOx(1.5〜2))、酸化錫(SnO、SnO)、酸化鉛(PbO、Pb、Pb、PbO、PbOx(1<x<2))、酸化ニオブ(NbO、Nb、NbO、)、酸化アルミ(Al)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化マンガン(MnO、MnO、Mn、Mn)、酸化プラセオジム(Pr、Pr11、PrO、PrOx(1<x<2))、酸化クロム(Cr、CrO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化セシウム(CsO)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナリウム(NaF)、セレン化亜鉛(SeZn)、テルル化亜鉛(TeZn)、窒化ガリウム(GaN)、窒化ガリウムインジウム(GaInN)、マグネシウム銀(MgAg)、アルミリチウム(AlLi)、銅リチウム(CuLi)、は更に好ましい。
【0071】
無機化合物の成膜方法としては、真空中で抵抗加熱や電子ビーム(EB)によって蒸着する方法、またはArガスとOガスやNガスなどの反応性ガスを用いたスパッタによる方法、CVD法などがある。
【0072】
中でも二酸化モリブデンをスパッタによって成膜する場合は、金属モリブデンターゲットや酸化モリブデンターゲットとOガスを用いた反応性スパッタ法で、スパッタパラメータを制御することによって成膜可能であり、三酸化モリブデンと同一ターゲットを使用することができるため、プロセスが簡便で迅速に有機EL素子、および有機EL表示装置を製造することが可能である。
【0073】
更には三酸化モリブデン膜表面をArエッチングすることで二酸化モリブデン膜を形成できるためプロセスが簡便で優れる。
【0074】
ここで、三酸化モリブデンのイオン化ポテンシャルは5.7eVから6.0eV、二酸化モリブデンのイオン化ポテンシャルは5.3eVから5.5eVである。
【0075】
酸化モリブデン含有層のイオン化ポテンシャルは、それに隣接する層のイオン化ポテンシャルや、他の発光媒体層による正孔と電子のキャリアバランスを考慮した上で無機化合物やその含有率を適宜選択することが好ましい。
【0076】
例えば、図1のように、酸化モリブデン含有層104が陽極102上に設けられている場合には、陽極からの正孔注入バランスを最適にするため、イオン化ポテンシャルは、4.0eVから6.0eV更には5.5eVから5.7eVが好ましい。例えば、二酸化モリブデンの三酸化モリブデンに対する割合を20%から60%とすることで実現することができる。
【0077】
さらに、イオン化ポテンシャルや導電率を制御するため、酸化モリブデン含有層に、他の有機材料や無機材料を任意に混合しても良い。特に、酸化モリブデン含有層を有機発光層と陰極の間に用いるときは、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、およびその塩や酸化物等を混合することが陰極からの電子注入バランスを最適にするのでより好ましい。
【0078】
図1においては、発光媒体層103は、陽極102上に、酸化モリブデン含有層104、電子ブロック層103b、有機発光層103c、電子注入層103dから成っているが、層構成は任意に選択することが出来る。
【0079】
また、図1においては、酸化モリブデン含有層104は正孔注入層として設けられているが、任意の層として設けることが出来る。さらには、複数の酸化モリブデン含有層を異なる機能層として用いることもできる。
【0080】
図2に、酸化モリブデン含有層104’が電子注入層として設けられた例、図3に、酸化モリブデン含有層104、104’がそれぞれ正孔注入層、電子注入層として設けられた例を示す。
【0081】
酸化モリブデン含有層が電子注入層として設けられる場合、仕事関数が1.0eVから4.0eVとなることが好ましい。例えばフッ化リチウムの三酸化モリブデンに対する割合は、陰極からの電子注入バランスを最適にするため、40%以上90%以下が好ましい。
【0082】
図4に、三酸化モリブデンを含む層104aと、他の無機化合物を含む層104bからなる酸化モリブデン含有層104が正孔注入層として設けられており、かつ三酸化モリブデンを含む層104aと隣接した上層に他の無機化合物を含む層104bが設けられた例、図5に三酸化モリブデンを含む層と他の無機化合物を含む層からなる酸化モリブデン含有層104が、正孔注入層として設けられており、かつ三酸化モリブデンを含む層104aと隣接する上層および下層にそれぞれ他の無機化合物を含む層104b、104b’が設けられている例を示した。
【0083】
図6に、三酸化モリブデンを含む層104a’と他の無機化合物を含む層104cからなる酸化モリブデン含有層104’が、電子注入層として設けられており、かつ三酸化モリブデンを含む層104a’と隣接した下層に他の無機化合物を含む層104cが設けられた例、図7に三酸化モリブデンを含む層104a’と他の無機化合物を含む層104c、104c’からなる酸化モリブデン含有層104’が、電子注入層として設けられており、かつ三酸化モリブデンを含む層104a’と隣接する下層および上層にそれぞれ他の無機化合物を含む層104c、104c’が設けられている例を示した。
【0084】
図8に、三酸化モリブデンを含む層と他の無機化合物を含む層からなる酸化モリブデン含有層104、104’がそれぞれ正孔注入層、電子注入層として設けられており、前者は、三酸化モリブデンを含む層104aと、それに隣接する上層および下層にそれぞれ他の無機化合物を含む層104b、104b’が設けられ、後者は、三酸化モリブデンを含む層104a’と、それに隣接する下層および上層にそれぞれ他の無機化合物を含む層104c、104c’が設けられている例を示した。
【0085】
図1または図2、図3のような、酸化モリブデン含有層104、104’の膜厚は任意であるが好ましくは0.1nm〜200nmであり、また0.1〜100nmであることが駆動電圧の上昇を防ぐことができる為より好ましい。厚すぎると、電圧の降下や透過率低下による効率低下が無視できなくなる。薄すぎると、キャリア注入や輸送の効果が小さくなるので何れの場合でも電圧降下が起こる。特に絶縁性の高い材料である場合、膜厚は0.1〜10nmの範囲で製膜することで、良好な注入性、輸送性が得られる。
【0086】
図1または図2、図3の酸化モリブデン含有層104、104’は、例えば、少なくとも他の無機化合物と三酸化モリブデンを同時に成膜することで、三酸化モリブデンと他の無機化合物を混合した層として得ることができる。成膜方法としては、真空中で抵抗加熱や電子ビーム(EB)によって蒸着する方法、またはArガスとO2ガスやN2ガスなどの反応性ガスを用いたスパッタによる方法、CVD法などがある。
【0087】
また、酸化モリブデン含有層に、適宜無機化合物以外の無機材料や有機材料を同様の方法で混合しても良い。酸化モリブデン含有層が正孔注入層の場合、例えば、無機材料としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、有機材料としては、低分子系材料としては銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ―p―トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル ―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)等の芳香族アミン系などを抵抗加熱蒸着法などの真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、CVD法等を用いて好適に混合することができる。酸化モリブデン含有層が電子注入層の場合、例えば、無機材料としては、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、有機材料としては、トリアゾール系、オキサゾール系、オキサジアゾール系、シロール系、ボロン系等を抵抗加熱蒸着法などの真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、CVD法等、で好適に混合することができる。
【0088】
図4〜図8の三酸化モリブデンを含む層104a、104a’は、少なくとも三酸化モリブデンを真空中で抵抗加熱やエレクトロンビーム(EB)によって蒸着する方法、またはArガスとOガスを用いたスパッタによる方法、CVD法等の方法で得ることができる。
【0089】
また、三酸化モリブデンを含む層に、適宜無機化合物以外の無機材料や有機材料を同様の方法で混合しても良い。酸化モリブデン含有層が正孔注入層の場合、例えば、無機材料としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、有機材料としては、低分子系材料としては銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ―p―トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル ―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)等の芳香族アミン系などを真空中で抵抗加熱やEBによって蒸着する方法、またはスパッタによる方法、CVD法等によって好適に混合することができる。酸化モリブデン含有層が電子注入層の場合、例えば、無機材料としては、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、有機材料としては、トリアゾール系、オキサゾール系、オキサジアゾール系、シロール系、ボロン系等を真空中で抵抗加熱やEBによって蒸着する方法、またはスパッタによる方法、CVD法等によって好適に混合することができる。
【0090】
他の無機化合物を含む層104b、104b’、104c、104c’は、真空中で抵抗加熱や電子ビーム(EB)によって蒸着する方法、またはArガスとOガスやNガスなどの反応性ガスを用いたスパッタによる方法、CVD法によって得ることができる。
【0091】
さらには、三酸化モリブデン層形成後ArやOガスを用いたエッチングにより三酸化モリブデン層の表面を二酸化モリブデン層とする方法も挙げられる。
【0092】
三酸化モリブデン層形成後、ArやOガスによってエッチングを行うと組成変化が生じ、条件によって酸化モリブデンMoOxのxが2〜3、またはそれらの混合物となることが知られている(Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena, 5(1974) 351-367参照)。これらはX線光電子分光などの組成分析によって確認することができるので、xが2となる条件でエッチングを行えば、二酸化モリブデンを形成することができる。ここでエッチングとは、ArやOガスを熱電子で帯電させ高電圧により加速させ試料表面に衝突させることによって試料表面が削れる現象をいう。特に酸化モリブデンの場合、モリブデン原子より酸素原子の方がエッチングされ易いため、表面が削れると同時にMoOxのxが2〜3のような組成変化が生じると考えられる。
【0093】
このような現象は、Au、AgO、Ag、PdO、CuO、CuO、IrO、PbO、NiO、PbO、CdO、FeO、RuO、WO、WO、Fe、Feでも生じるため、これら無機化合物層を成膜した後、同様の方法で組成変化をさせてもよい。
【0094】
三酸化モリブデン層の膜厚は任意であるが好ましくは5nm以上、100nm以下である。
【0095】
他の無機化合物を含む層の膜厚は任意であるが好ましくは0.5nm以上70nm以下であることが好ましい。70nmを超えると、電圧の降下や透過率低下等の特性低下が生じる。0.5nmより薄いと、劣化要因因子による影響を抑制することができない。さらには、電圧降下、透過率の低下の抑制と劣化要因因子に対するバリア性の十分な確保を両立させるためには、膜厚は5nm以上30nm以下の範囲が好ましい。
【0096】
有機EL素子の発光スペクトルを考慮すると透過率は、波長380nm以上、800nm以下の可視光領域が評価対象となる。透過率は発光輝度に影響し、従って輝度半減寿命にも大きく影響し非常に重要である。他の無機化合物を含む層の透過率はこれらを考慮して可視光波長領域で少なくとも70%以上であることが望ましい。
【0097】
図12はガラス上に他の無機化合物を真空蒸着法にて膜厚20nm成膜した場合と50nm成膜した試料の透過率を東芝社製顕微分光装置(FA310A)で測定した結果である。膜厚20nmでは可視光領域で透過率、約70%以上であるのに対して、50nmでは60%以上である。
【0098】
そして、酸化モリブデン含有層全体の透過率は、可視光波長領域で少なくとも60%以上であることが望ましい。
【0099】
ここで、酸化モリブデン含有層の高い透過率は、図1のように、酸化モリブデン含有層104が、有機発光層103cよりも、光を取り出す基板101側にある場合に効果を奏する。即ち、例えば、図2のような構造であって、基板101側が表示側である場合、酸化モリブデン含有層104’の透過率は任意とすることができる。
【0100】
一方、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層に用いることのできる酸化モリブデン以外の材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものを好適に使用することができ、例えば、低分子系材料としては銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ―p―トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル ―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)等の芳香族アミン系などが挙げられ、真空中での真空蒸着法等の乾式法により成膜が可能である。
【0101】
また、これらの材料をトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて正孔注入塗布液および正孔輸送塗布液、正孔注入輸送塗布液として用いれば、大気中での湿式法により成膜が可能である。
【0102】
また、高分子系材料としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物やPPV誘導体、PAF誘導体等が挙げられる。これら正孔注入性材料および正孔輸送性材料はトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて正孔注入塗布液および正孔輸送塗布液、正孔注入輸送塗布液とし、大気中での湿式法による成膜が可能である。
【0103】
ここで、上記溶媒のうち、特に水系、アルコール系、ケトン系、カルボン酸系、ニトリル系、エステル系、芳香族系を用いて形成した正孔注入層および正孔輸送層、正孔注入輸送層に酸化モリブデン含有層が隣接する場合でも、酸化モリブデン含有層が本発明の構成であれば、酸化モリブデン含有層の物性や膜厚は変化することなく安定した構造を保つことが出来る。
【0104】
また、さらには、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Db、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどのランタノイド系元素、Thなどのアクチノイド系元素、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Ar、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Al、Ga、In、Sn、Tl、Pb、およびBiなどの金属元素、B、Si、Ge、As、Sb、Teなどの半金属元素、更にはこれらの合金、酸化物、炭化物、窒化物、硼化物、硫化物、ハロゲン化物などの無機材料を、蒸着法やスパッタ法、CVD法等を用いて形成することもできる。
【0105】
電子ブロック層103bに用いる電子ブロック材料としては、OXD−1、PBD、BCP、Alq3、3−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZともいう。)、4,4’−ビス(1,1−ジフェニルエテニル)ビフェニル(DPVBiともいう。)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1.3.4−オキサジアゾール(BNDともいう。)4,4’−ビス(1,1−ビス(4−メチルフェニル)エテニル)ビフェニル(DTVBiともいう。)、2,5−ビス(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾール(BBDともいう。)、オキサジアゾール系高分子化合物、トリアゾール系高分子化合物、などが挙げられる。
【0106】
有機発光層103cに用いる有機発光体としては、一般に有機発光材料として用いられているものを好適に使用することができ、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’―ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’―ジアリール置換ピロロピロール系等、一重項状態から発光可能な公知の蛍光性低分子系材料や、希土類金属錯体系の三重項状態から発光可能な公知の燐光性低分子系材料が挙げられ、これらは真空中の真空蒸着法等の乾式法で成膜が可能である。
【0107】
また、これらの材料をトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液として用いれば、大気中の湿式法による成膜が可能である。
【0108】
また、高分子系材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’―ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’―ジアリール置換ピロロピロール系等の蛍光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、PPV系やPAF系等の高分子蛍光発光体や、希土類金属錯体を含む高分子燐光発光体などの高分子発光体を用いることができる。
【0109】
これら高分子系材料はトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液とし大気中の湿式法により成膜できる。
【0110】
特にトルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン等の芳香族系溶媒は高分子系材料の溶解性が良く、扱いも容易であることからより好ましい。
【0111】
上記溶媒のうち、特に極性の大きい溶媒、例えば水系、アルコール系、ケトン系、カルボン酸系、ニトリル系、エステル系、芳香族系を用いて形成した有機発光層に酸化モリブデン含有層が隣接する場合でも、酸化モリブデン含有層が本発明の構成であれば、酸化モリブデン含有層の物性や膜厚は変化することなく安定した構造を保つことが出来る。
【0112】
そして、電子注入層103dに用いることのできる酸化モリブデン以外の材料としては、フッ化リチウムや酸化バリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、およびその塩や酸化物等を好適に用いることができ、真空中の真空蒸着等の乾式法による成膜が可能である。
【0113】
発光媒体層の各層の厚みは任意であるが0.1から200nmが好ましい。
【0114】
第2電極105が陰極の場合には、Mg,Al,Yb等の金属単体、電子注入効率と安定性を両立させることのできる仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えば、MgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用できる。
【0115】
陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法などの真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法等を用いることができる。陰極の厚さは、10nmから1000nm程度が好ましい。
【0116】
図1においては、基板101上に陽極としての電極から積層されているが、陰極としての電極からの積層も適宜可能である。
【0117】
また、図1においては、基板101側が表示側であるが、基板101側と反対側からの表示も適宜可能である。
【0118】
そして、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含む酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を大気中で形成することができる。
【0119】
例えば、図1の酸化モリブデン含有層104の上方に隣接する発光媒体層を大気中で形成しても、酸化モリブデン含有層104が他の無機化合物を含有することで、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化要因因子による劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0120】
また、例えば、図2の酸化モリブデン含有層104’の下方に隣接する発光媒体層を大気中で形成しても、他の無機化合物を含有することで、下層に残留する大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0121】
また、例えば、図3の酸化モリブデン含有層104の上方に隣接する発光媒体層、および酸化モリブデン含有層104’の下方に隣接する発光媒体層を大気中で形成しても、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104および104’の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0122】
また、例えば、図4の三酸化モリブデンを含む層104aの上方に他の無機化合物を含む層104bが形成された酸化モリブデン含有層104の、上方に隣接する発光媒体層を大気中で形成する場合でも、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0123】
また、例えば、図5の三酸化モリブデンを含む層104aの上方と下方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104b、他の無機化合物を含む層104b’が形成された酸化モリブデン含有層104の、上方に隣接する発光媒体層を大気中で形成しても、大気中の水分などの劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止され、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。さらには、基板101や第1電極102からの劣化要因因子も防止される。
【0124】
また、例えば、図6の他の無機化合物を含む層104cの上方に三酸化モリブデンを含む層104a’が形成された酸化モリブデン含有層104の、下方に隣接する発光媒体層を大気中で形成する場合でも、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0125】
また、例えば、図7の三酸化モリブデンを含む層104a’の下方と上方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104c、他の無機化合物を含む層104c’が形成された酸化モリブデン含有層104の、下方に隣接する発光媒体層を大気中で形成する場合でも、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0126】
また、例えば、図8の三酸化モリブデンを含む層104aの上方と下方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104b、他の無機化合物を含む層104b’が形成された酸化モリブデン含有層104の上方、及び、三酸化モリブデンを含む層104a’の下方と上方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104c、他の無機化合物を含む層104c’が形成された酸化モリブデン含有層104’の下方、に隣接する発光媒体層を大気中で形成する場合でも、大気中の水分等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104および104’の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0127】
さらには、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含む酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を湿式法で形成することができる。
【0128】
例えば、図1の酸化モリブデン含有層104の上方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、他の無機化合物を含有することで、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化要因因子による劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0129】
また、例えば、図2の酸化モリブデン含有層104の下方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、他の無機化合物を含有することで、下層に残留する溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0130】
また、例えば、図3の酸化モリブデン含有層104の上方に隣接する発光媒体層、および酸化モリブデン含有層104’の下方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104および104’の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0131】
また、例えば、図4の三酸化モリブデンを含む層104aの上方に他の無機化合物を含む層104bが形成された酸化モリブデン含有層104の、上方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0132】
また、例えば、図5の三酸化モリブデンを含む層104aの上方と下方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104b、他の無機化合物を含む層104b’が形成された酸化モリブデン含有層104の、上方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。さらには、基板101や第1電極102からの劣化要因因子も防止される。
【0133】
また、例えば、図6の他の無機化合物を含む層104cの上方に三酸化モリブデンを含む層104aが形成された酸化モリブデン含有層104の、下方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0134】
また、例えば、図7の三酸化モリブデンを含む層104a’の下方と上方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104c、他の無機化合物を含む層104c’が形成された酸化モリブデン含有層104’の、下方に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0135】
また、例えば、図8の三酸化モリブデンを含む層104aの上方と下方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104b、他の無機化合物を含む層104b’が形成された酸化モリブデン含有層104の上方、及び、三酸化モリブデンを含む層104a’の下方と上方にそれぞれ、他の無機化合物を含む層104c、他の無機化合物を含む層104c’が形成された酸化モリブデン含有層104’の下方、に隣接する発光媒体層を湿式法で形成しても、溶剤等の劣化要因因子による酸化モリブデン含有層104および104’の劣化が防止された、製造プロセスが効率的な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0136】
湿式法には塗布法、印刷法などがあり、塗布法にはスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を好適に用いることができる。
【0137】
さらには、直接パターンを容易に形成することができる印刷法を好適に用いることができる。
【0138】
このことから、湿式法により発光媒体層を成膜する際には、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などの公知の印刷法を好適に用いることができる。
【0139】
特に、凸版印刷法は、塗布液の粘性特性が良好な粘度範囲で、基材を傷つけることのなく印刷することができ、塗布液材料の利用効率が良い点から有機EL素子の製造に適している。
【0140】
図9に、本発明の凸版印刷法の一例を示す。図9は、発光媒体層の材料からなる塗布液を、電極等が形成された被印刷基板201上にパターン印刷する際の、凸版印刷法の概略を示している。
【0141】
本凸版印刷法はインクタンク202と、インクチャンバー203と、アニロックスロール204と、凸部が設けられた版205がマウントされた版胴206を有している。インクタンク202には、発光媒体層の材料からなる塗布液が収容されており、インクチャンバー203にはインクタンク202より塗布液を送り込むことができる。また、アニロックスロール204はインクチャンバー203の塗布液供給部に接して回転可能に支持されている。
【0142】
アニロックスロール204の回転に伴い、アニロックスロール表面に供給された塗布液の塗布層204aは均一な膜厚に形成される。この塗布層204aはアニロックスロール204に近接して回転駆動される版胴206にマウントされた版205の凸部に転移する。
【0143】
また、平台207には、被印刷基板201が版205の凸部による印刷位置にまで図示していない搬送手段によって搬送されるようになっている。そして、版205の凸部にあるインクは被印刷基板201に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経ることで、被印刷基板201上に、好適に発光媒体層を成膜することができる。
【0144】
凸版が設けられた版205は、公知のものを好適に使用可能であるが、感光性樹脂凸版が好ましい。感光性樹脂凸版は、露光した樹脂版を現像する際に用いる現像液が有機溶剤である溶剤現像タイプのものと現像液が水である水現像タイプのものがあるが、溶剤現像タイプのものは水系のインクに対し耐性を示し、水現像タイプのものは有機溶剤系のインクに耐性を示す。発光媒体層の材料からなる塗布液の特性に従い、溶剤現像タイプ、水現像タイプを好適に選ぶことができる。
【0145】
図1に示した有機EL素子は、例えば、酸化モリブデン含有層104を正孔注入層として真空中で設けた後、電子ブロック層103b、有機発光層103cを、大気中で凸版印刷法により形成し、真空中で電子注入層103dを形成し製造することができる。
【0146】
さらには、図2に示した有機EL素子を、例えば、正孔注入層103a、電子ブロック層103bを真空中で設けた後、有機発光層103cを大気中で凸版印刷法を用い形成した後、真空中で電子注入層として酸化モリブデン含有層104を形成するといったように、真空中での発光媒体層の形成と、大気中での発光媒体層の形成を好適に組み合わせて製造することも可能である。
【0147】
次に、本発明の有機EL素子を用いたパッシブマトリックスタイプの表示装置の一例を、図10に示す。図10は、断面の模式図である。
【0148】
基板301側が表示側の場合、ライン状の透明または半透明の陽極としての第1電極302を好適に形成した後、必要に応じ、隣接する電極間に、例えば、感光性材料を用いて、フォトリソ法等の公知の方法により絶縁層306を形成することができる。
【0149】
絶縁層306を隣接する電極間に設けることにより、各電極上に塗布される発光媒体層の材料からなる塗布液の拡がりを抑えることができる。
【0150】
特に、複数色の発光媒体層を形成する場合の、混色を防止することができる。
【0151】
絶縁層306を形成する感光性材料としてはポジ型レジスト、ネガ型レジスト等好適に使用することができる。絶縁性を有する材料としては、例えば、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系といったものが挙げられる。
【0152】
また、表示特性を向上させるため、光遮光性の材料を感光性材料に含有させることもできる。さらには、塗布液の絶縁層への拡がりを防ぐために、撥液性材料を感光性材料に含有させることもできる。
【0153】
絶縁層306を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の塗布方法を用いて塗布することができ、フォトリソ法等によりパターニングすることができる。
【0154】
スピンコーターを使用した場合、1回の塗布では所望の膜厚の塗布膜を得られないことがあるが、その場合は同様の工程を複数回繰り返すことにより、所望の膜厚を得ることができる。
【0155】
必要に応じ、形成された絶縁層306をプラズマ洗浄、UV洗浄などの処理を施し、表面を撥液性に調整することもできる。
【0156】
そして、絶縁層306を形成後、例えば、酸化モリブデン含有層304を真空中で成膜し、電子ブロック層303b、有機発光層303cを大気中で凸版印刷法を用いて成膜した後、真空中で電子注入層303dを成膜することができる。
【0157】
ここで、図10では、酸化モリブデン含有層304を隔壁間に設けた形態を例示したが、酸化モリブデン含有層の電気特性を十分に制御すれば、図11のように、隔壁間と隔壁全体を覆って形成することもできる。
【0158】
隔壁間に酸化モリブデン含有層304を設けた場合には、酸化モリブデン含有層304間の電荷の漏れを確実に防止することができる。一方、隔壁間と隔壁全体を覆って酸化モリブデン含有層304を設けると、マスクの使用やフォトリソ工程等を省略でき、製造プロセスの効率が向上する。
【0159】
図10においては、発光媒体層303は電子ブロック層303b、有機発光層303c、電子注入層303dから成っているが、層構成は任意に選択することが出来る。
【0160】
また、図10においては、酸化モリブデン含有層304は正孔注入層として設けられているが、任意の層として設けることが出来る。さらには、複数の酸化モリブデン含有層を複数の異なる機能層として設けることも可能である。
【0161】
また、図10においては、電子ブロック層303b、有機発光層303cを大気中で形成したが、正孔注入層303a、電子ブロック層303b、有機発光層303dを大気中で凸版印刷法を用い形成した後、真空中で酸化モリブデン含有層304を形成するといったように、真空中での発光媒体層の形成と、大気中での発光媒体層の形成を好適に組み合わせて製造することも可能である。
【0162】
そして、第1電極302と直交するように、ライン状の陰極としての第2電極305を好適に形成することができる。
【0163】
図10においては、基板301上に陽極としての電極から積層されているが、陰極としての電極からの積層も適宜可能である。
【0164】
また、図10においては、基板301側が表示側であるが、基板301側と反対側からの表示も適宜可能である。
【0165】
また、図10においては、ライン電極を用いるパッシブマトリックスタイプの駆動方式の表示装置を例示したが、任意のパターン電極を用いたセグメントタイプ、画素電極や薄膜トランジスタを用いたアクティブマトリックスタイプなど、公知の駆動方式を好適に選択可能である。
【0166】
また、必要に応じて、このように製造した有機EL素子を、外部の酸素や水分から保護する為に、例えば、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、表示装置とすることもできる。さらには、基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止し、表示装置とすることもできる。
【実施例】
【0167】
(実施例1)
まず、厚さが0.7mm、対角1.8インチサイズのガラス基板を基板として用い、この基板上に、陽極材料であるITOを使用し、スパッタ法を用いて真空中でITO膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングしてライン電極を設けた。ラインパターンは、線幅136μm、スペース30μmで、192ライン形成した。
【0168】
次にライン電極を形成したガラス基板上に、絶縁層材料として、アクリル系のフォトレジスト材料を全面にスピンコートした。スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後、500rpmで20秒間回転させ、高さ1.5μmの塗膜を得た。その後、フォトリソ法により、電極間にライン状の絶縁層を形成した。
【0169】
次に、正孔注入層または、および正孔輸送層として二酸化モリブデンと三酸化モリブデンを真空中で共蒸着することによって、膜厚100nmの酸化モリブデン含有層を形成した。このとき二酸化モリブデンの三酸化モリブデンに対する割合は5%とした。
【0170】
次に、有機発光材料であるPPV誘導体の重量濃度が1%、キシレン及びアニソールの重量濃度がそれぞれ84%、15%の塗布液を使用し、同じく大気中で凸版印刷法にて、正孔輸送層上に有機発光層を形成した。このとき、130線/インチのアニロックスロールおよび水現像タイプの感光性樹脂版を使用し、乾燥後膜厚が80nmの有機発光層を形成した。
【0171】
次に、電子注入材料であるBaを、真空中で真空蒸着法により、マスクを使用し、ラインパターンの厚さ5nmの電子注入層を形成した。
【0172】
最後に、陰極材料であるAlを使用し、ITOで形成された陽極と直交するように、真空中の真空蒸着法により、マスクを使用し、ラインパターンの厚さ150nmの電極を形成した。ラインパターンは、線幅136μm、スペース30μmで、192ライン形成した。
そしてガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を得た。
【0173】
本実施の形態で得られたパッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2600cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は170時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0174】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、3000時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0175】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、波長380nmから800nmの可視光領域で透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で80%以上であった。
【0176】
(実施例2)
実施例1の酸化モリブデン含有層の構成を、三酸化モリブデンを含む層と二酸化モリブデン層とし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。三酸化モリブデンを含む層は、三酸化モリブデンを真空蒸着法により真空中で100nm成膜形成し、その後、二酸化モリブデン層として二酸化モリブデンを同様の方法で2nm積層し、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0177】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2600cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は180時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0178】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、3000時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0179】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で80%以上であった。
【0180】
(実施例3)
実施例2の酸化モリブデン含有層を、三酸化モリブデンを含む層100nmに二酸化モリブデン層2nmを挟持させる構成とし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0181】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2500cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は230時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0182】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、4000時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0183】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、77%以上であった。
【0184】
(実施例4)
実施例2のニ酸化モリブデン層の膜厚を50nmとし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0185】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで1800cd/m2、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は180時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0186】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、3500時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0187】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、60%以上であった。
【0188】
(実施例5)
実施例3の三酸化モリブデンを含む層を狭持したニ酸化モリブデン層の膜厚を50nmとし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0189】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで1600cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は200時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0190】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、4500時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0191】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、55%以上であった。
【0192】
(実施例6)
実施例2のニ酸化モリブデン層の膜厚を10nmとし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0193】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2400cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は230時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0194】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、3800時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0195】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、75%以上であった。
【0196】
(実施例7)
実施例3の三酸化モリブデンを含む層を狭持した二酸化モリブデン層の膜厚を10nmとし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0197】
得られた表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2200cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は280時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0198】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、4500時間まで発光面にダークスポットは認められなかった。
【0199】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、77%以上であった。
【0200】
(実施例8)
実施例1の酸化モリブデン含有層を酸化チタンと三酸化モリブデンを真空中で共蒸着した膜厚40nmの酸化モリブデン含有層とし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0201】
本実施の形態で得られたパッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2600cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は300時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0202】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、上限の5500時間まで発光の確認を行なったが、発光面にダークスポットは認められなかった。
【0203】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、波長380nmから800nmの可視光領域で透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で80%以上であった。
【0204】
(実施例9)
実施例1の酸化モリブデン含有層を酸化ニッケルと三酸化モリブデンを真空中で共蒸着した膜厚20nmの酸化モリブデン含有層とし、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0205】
本実施の形態で得られたパッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置の発光特性を評価したところ、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯でき、ムラの無い均一な発光がなされていると同時に、輝度が6Vで2600cd/m、また、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は350時間の、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。
【0206】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、上限の5500時間まで発光の確認を行なったが、いずれも発光面にダークスポットは認められなかった。
【0207】
酸化モリブデン含有層成膜後、ガラス基板上に酸化モリブデン含有層のみ成膜されている部分を用いて、波長380nmから800nmの可視光領域で透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で75%以上であった。
【0208】
(比較例1)
実施例1の酸化モリブデン含有層を設けず、正孔輸送層として三酸化モリブデンのみを真空蒸着し、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子の表示装置を作成した。
【0209】
得られた表示装置は、電極同士の短絡がなく選択した画素のみを点灯はできたが、部分的に発光ムラが認められた。また輝度は6Vで1500cd/m、初期輝度1800cd/mにおける輝度半減時間は150時間であった。
【0210】
また温度60℃、湿度90%の恒温高湿環境で加速試験を行った結果、1500時間で発光面にダークスポットが発見され、酸化モリブデン含有層を設けた実施例1に比較し、低発光効率、低発光輝度で短寿命、耐湿性の低い表示特性であった。
【0211】
三酸化モリブデン層成膜後、ガラス基板上に三酸化モリブデンを含む層のみ成膜されている部分を用いて、透過率測定を行ったところ、380nmから800nmの可視光領域で、80%以上であった。
【符号の説明】
【0212】
101,301:基板
102,302:第1電極
103,303:発光媒体層
103a,303a:正孔注入層
103b,303b:電子ブロック層
103c,303c:有機発光層
103d,303d:電子注入層
104,304:酸化モリブデン含有層
104a,104a’,304a,304a’:三酸化モリブデンを含む層
104b,104b’,104c,104c’:他の無機化合物を含む層
105,305:第2電極
306:絶縁層
201:被印刷基板
202:インキタンク
203:インキチャンバー
204:アニロックスロール
204a:塗布層
205:版
206:版胴
207:平台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有し、且つ、前記酸化モリブデン含有層が少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記酸化モリブデン含有層は、少なくとも三酸化モリブデンを含む層と他の無機化合物を含む層とが積層されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記他の無機化合物が二酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化チタン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化錫、酸化鉛、酸化ニオブ、酸化アルミ、酸化銅、酸化マンガン、酸化プラセオジム、酸化クロム、酸化ビスマス、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナリウム、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、窒化ガリウム、窒化ガリウムインジウム、マグネシウム銀、アルミリチウム、銅リチウム、のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記三酸化モリブデンを含む層が、三酸化モリブデン層であることを特徴とする請求項2至請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記他の無機化合物を含む層の膜厚が、5nm以上30nm以下、であることを特徴とする請求項2乃至請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記酸化モリブデン含有層が、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層のいずれかの層であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、少なくとも三酸化モリブデンと他の無機化合物とを同時に成膜する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、少なくとも三酸化モリブデンを含む第一の材料と他の無機化合物からなる第二の材料とを相前後して成膜する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記他の無機化合物が二酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化チタン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化錫、酸化鉛、酸化ニオブ、酸化アルミ、酸化銅、酸化マンガン、酸化プラセオジム、酸化クロム、酸化ビスマス、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナリウム、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、窒化ガリウム、窒化ガリウムインジウム、マグネシウム銀、アルミリチウム、銅リチウムのいずれかであることを特徴とする請求項7乃至請求項8に記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記第一の材料が三酸化モリブデンであることを特徴とする請求項8乃至請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記無機化合物からなる第二の材料を成膜する工程で形成される無機化合物層の膜厚が、5nm以上30nm以下、であることを特徴とする請求項8乃至請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
基板と、前記基板上に設けられた第一電極と、前記第一電極上に設けられた少なくとも有機発光層と酸化モリブデン含有層を含む発光媒体層と、前記発光媒体層を挟んで前記第一電極と対向する第二電極とを有した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記酸化モリブデン含有層を形成する工程が、三酸化モリブデンを成膜する工程の後、成膜された膜表面をエッチングする工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記膜表面をエッチングする工程で形成される二酸化モリブデン層の膜厚が、5nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記成膜する工程が、蒸着法、スパッタ法、CVD法のいずれかの方法で成膜する工程であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項15】
前記酸化モリブデン含有層が、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層のいずれかの層であることを特徴とする請求項7乃至請求項14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項16】
前記酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を形成する工程が、大気中で形成する工程であることを特徴とする請求項7乃至請求項15のいずれかに有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項17】
前記酸化モリブデン含有層に隣接する発光媒体層の少なくとも一方を形成する工程が、湿式法で形成する工程であることを特徴とする請求項7乃至請求項16のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項18】
前記発光媒体層を湿式法で形成する工程において、該発光媒体層の塗布液の溶媒が水系、アルコール系、ケトン系、カルボン酸系、ニトリル系、エステル系、芳香族系の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項17に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項19】
前記湿式法が印刷法であることを特徴とする請求項17又は18に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項20】
前記印刷法が凸版印刷法であることを特徴とする請求項19に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を、表示素子として備えたことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−103460(P2010−103460A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50424(P2009−50424)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】