説明

有機エレクトロルミネッセンス素子および該有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】高発光効率および高輝度を有し、耐久性に優れた有機発光EL素子、および該有機発光EL素子の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の有機発光EL素子は、一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子において、燐光発光性高分子化合物からなり、不純物の含有量が1.0重量%以下である有機EL化合物層(A)を含む。また、本発明の有機発光EL素子の製造方法は、一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子の製造方法において、(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が前記光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし、(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、前記燐光発光性高分子化合物からなる有機EL化合物層(A)が製造される工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(本明細書において、有機ELともいう。)素子および該有機EL素子の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子、および該有機発光EL素子の製造方法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子については、高速応答性および高い発光効率が得られるため、3重項励起子を経由した燐光発光を利用する素子の検討がなされている。
燐光発光性化合物において、原理的に高い発光効率が期待できる理由は以下のとおりである。キャリア再結合により生成される励起子は1重項励起子と3重項励起子からなり、その確率は1:3である。これまでの有機EL素子は、1重項励起子から基底状態に遷移する際の蛍光を発光として取り出していたが、原理的にその発光収率は生成された励起子数に対して、25%でありこれが原理的上限であった。しかしながら、3重項から発生する励起子からの燐光を用いれば、原理的に少なくとも3倍の収率が期待され、さらに、エネルギー的に高い1重項からの3重項への項間交差による転移を考え合わせれば、原理的には4倍の100%の発光収率が期待できる。
【0003】
たとえば、CBP(4,4'-n,n'-dicarbazole-biphenyl)中にEu(TTA)3phen錯体をドープし
た材料を用いた素子が開示されている(非特許文献1)。
しかしながら、燐光発光性化合物を用いた有機EL素子では、特に、通電状態の発光劣化が問題となっていた。発光劣化の原因は明らかではないが、一般に3重項寿命が1重項寿命より、3桁以上長いために、分子がエネルギーの高い状態に長く置かれるため、周辺物質との反応、励起多量体の形成、分子微細構造の変化、周辺物質の構造変化などが起こるのではないかと考えられている。いずれにしても、燐光発光性化合物を用いた素子は高発光効率が期待されるが、一方で通電劣化が問題となっていた。
【0004】
これに対して、特許文献1では、有機EL化合物層に含まれる不純物に着目している。すなわち、不純物の含有量が、素子の初期特性、耐久性能などに強く影響を与えていることに着目し、不純物の含有量を一定量以下にした有機EL素子が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記有機EL素子は、発光効率、輝度などの特性の点で、さらなる改善が求められていた。
【特許文献1】特開2002−373785号公報
【非特許文献1】Electroluminescence mechanisms in organic light emitting devices employing a europium chelate doped in a wide energy gap bipolar conducting host (C. Adachi et. al, Journal of Applied Physics, Vol. 87, No. 11, pp.8049 (2000))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高発光効率および高輝度を有し、耐久性に優れた有機発光EL素子、および該有機発光EL素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至っ
た。
すなわち、本発明は以下のとおりに要約される。
【0008】
[1]一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子において、
燐光発光性高分子化合物からなり、不純物の含有量が1.0重量%以下である有機EL化合物層(A)を含むことを特徴とする有機EL素子。
【0009】
[2]上記不純物の含有量が、0.5重量%以下であることを特徴とする上記[1]に記載の有機EL素子。
【0010】
[3]上記不純物の含有量が、0.1重量%以下であることを特徴とする上記[1]に記載の有機EL素子。
【0011】
[4]上記不純物が、消光物質であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0012】
[5]上記不純物が、上記燐光発光性高分子化合物に由来する分解生成物であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0013】
[6]正孔輸送性化合物からなり、不純物の含有量が1.0質量%以下である有機EL化合物層(B)をさらに含むことを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0014】
[7]電子輸送性化合物からなり、不純物の含有量が1.0質量%以下である有機EL化合物層(C)をさらに含むことを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0015】
[8]不純物の含有量が1.0質量%以下である正孔注入層(D)をさらに含むことを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0016】
[9]不純物の含有量が1.0質量%以下である励起子拡散防止層(E)をさらに含むことを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載の有機EL素子。
【0017】
[10]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機EL素子を用いた面発光光源。
【0018】
[11]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機EL素子を用いた表示装置用バックライト。
【0019】
[12]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機EL素子を用いた表示装置。
【0020】
[13]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機EL素子を用いた照明装置。
【0021】
[14]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機EL素子を用いたインテリア。
【0022】
[15]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機発光素子を用いたエクステリア。
【0023】
[16]一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子の製造方法において、
(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が上記
光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし(式中、Iは、有機EL化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度(ルクス)を表し、Tは、燐光発光性高分子化合物が上記光に暴露される時間(秒)を表す。)、
(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、
上記燐光発光性高分子化合物からなる有機EL化合物層(A)が製造される工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【0024】
[17]一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子において、
(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が上記光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし(式中、Iは、有機EL化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度(ルクス)を表し、Tは、燐光発光性高分子化合物が上記光に暴露される時間(秒)を表す。)、
(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、
上記燐光発光性高分子化合物からなる有機EL化合物層(A)が製造されることを特徴とする有機EL素子。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高発光効率および高輝度を有し、耐久性に優れた有機発光EL素子、および該有機発光EL素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む。
【0027】
本発明に係る有機EL素子の構成の一例を図1に示すが、本発明に係る有機EL素子の構成は、これに限定されない。図1では、透明基板(1)上に設けた陽極(2)および陰極(6)の間に、正孔輸送層(3)、発光層(4)および電子輸送層(5)を、この順で設けている。上記有機EL素子では、例えば、陽極(2)と陰極(6)の間に、1)正孔輸送層/発光層、2)発光層/電子輸送層のいずれかを設けてもよい。また、3)正孔輸送性化合物、発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、4)正孔輸送性化合物、発光性化合物を含む層、5)発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、6)発光性化合物の単独層のいずれかの層を一層のみ設けてもよい。さらに、発光層を2層以上積層してもよい。
【0028】
また、陽極(2)と正孔輸送層(3)との間に正孔注入層を設けてもよく、発光層(4)と電子輸送層(5)との間に励起子拡散防止層を設けてもよい。
なお、本明細書中においては、特に断りのない限り、電子輸送性化合物、正孔輸送性化合物、発光性化合物の全てあるいは一種類以上からなる化合物を有機EL化合物と呼び、また、これらの化合物からなる層を有機EL化合物層と呼ぶ。
【0029】
本発明に係る有機EL素子には、有機EL化合物層(A)が含まれ、該化合物層は燐光発光性高分子化合物からなる。
本発明に用いる燐光発光性高分子化合物は、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子化合物を少なくとも一つ含む。このような燐光発光性高分子化合物は、燐光発光性単位とキャリア輸送性単位とが一つの分子内に備えられているため、高い発光効率と高い輝度を有する。
【0030】
また、燐光発光性単位と正孔輸送性単位と電子輸送性単位とが一つの分子内に備えられている燐光発光性高分子化合物は、燐光発光性単位上で、正孔と電子とが効率よく再結合するため、より高い発光効率および高い輝度が得られるためより好ましい。また、このような燐光発光性高分子化合物は、発光性、正孔輸送性、電子輸送性のすべての機能を有するため、この化合物からなる層を用いれば、他の有機EL化合物層を形成せずに、高い発光効率および高い輝度を有する有機EL素子が製造でき、製造工程が簡略化される利点もある。
【0031】
上記燐光発光性高分子化合物は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。また、上記燐光発光性高分子化合物は、一つの燐光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つの燐光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上の燐光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0032】
上記燐光発光性化合物としては、イリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、これらのうちでイリジウム錯体が好ましい。上記重合性置換基を有する燐光発光性化合物としては、例えば、下記式(E−1)〜(E−49)に示す金属錯体の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
これらの燐光発光性化合物における重合性置換基としては、例えば、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基およびその誘導体、ビニルアミド基およびその誘導体などが挙げられる。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。これらのうちで、ビニル基、メタクリレート基、スチリル基およびその誘導体が好ましい。
【0040】
上記重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物としては、正孔輸送性および/または電子輸送性の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。このような化合物の代表的な例として、下記式(E−43)〜(E−60)に示した化合物を挙げることができる。
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
例示したこれらのキャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基およびその誘導体、ビニルアミド基およびその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0044】
また、燐光発光性高分子化合物の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である。
【0045】
上記燐光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャ
リア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対する燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0046】
重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。
【0047】
上記燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325、特開2003−119179、特開2003−113246、特開2003−206320、特開2003−147021、特開2003−171391、特開2004−346312、特開2005−97589に開示されている。
【0048】
有機EL化合物層(A)においては、不純物の含有量は1.0重量%以下であり、0.5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。このように、有機EL化合物層(A)では、不純物の含有量が特定の量以下に抑えられているため、燐光発光性高分子化合物の劣化が抑制され、耐久性に優れた素子を得られる。
【0049】
本明細書において、上記不純物は、発光効率を向上させるために故意に加える不純物ではない。上記不純物としては、「消光物質」、すなわち、上記燐光発光性高分子化合物の発光波長エネルギー以下のエネルギーを吸収でき、該燐光発光性高分子化合物の発光を消光させる化合物が挙げられる。この発光波長エネルギーとは、上記燐光発光性高分子化合物の発光波長ピークに相当するフォトンエネルギーで規定される。例えば、発光波長ピークが640nmであれば、発光波長エネルギーは2eVである。
【0050】
また、ある化合物が「消光物質」であるか否かは、以下のようにして調べることもできる。燐光発光性高分子化合物に対してある化合物を添加し、この組成物に紫外線(波長365nm)を照射した場合、添加前に比較して燐光発光強度が低下するならば、この添加した化合物は「消光物質」(不純物)である。なお、消光物質の濃度[Q]と発光強度Iの間にはスタン・ボルマーの式(I0/I=KSV[Q]+1)が成り立つ。ここで、I0は、消光物質が存在しないときの燐光発光強度であり、Iは、消光物質が存在するときの燐光発光強度であり、KSVは、スタン・ボルマー係数と呼ばれる。このように、有機EL化合物層(A)に消光物質が含まれる場合は、消光物質の濃度の増加に伴って燐光発光強度が低下する。
【0051】
また、上記不純物として、具体的には、有機EL化合物層(A)を構成する燐光発光性高分子化合物に由来する分解生成物および反応副生成物が挙げられる。上記分解生成物の含有量が、特定の量以下に抑えられていることが好ましい。このような分解生成物および反応副生成物としては、例えば、精製が不十分で最初から有機EL化合物層(A)中に混入しているもの、蒸着時の加熱による熱分解で発生するもの、素子作製中に外光、空気、空気中の水分によって有機EL化合物が変質したものなどが挙げられ、意図せずに混入してしまう不純物である。
【0052】
通電による発光劣化の原因は必ずしも明らかではないが、一般には、少なくとも発光性化合物、キャリア輸送性化合物そのものの劣化によるもののほか、その周辺分子(不純物など)による発光性化合物の環境変化に関連したものなどが想定されている。したがって、本発明の有機EL素子では、上記のような不純物の含有量が特定の量以下に抑えられているため高い耐久性を有する。
【0053】
本発明に係る有機EL素子は、有機EL化合物層(A)のほかに、正孔輸送性化合物か
らなる有機EL化合物層(B)、電子輸送性化合物からなる有機EL化合物層(C)、正孔注入層(D)、および励起子拡散防止層(E)からなる群より選ばれる少なくとも一層を含んでいてもよい。
【0054】
上記各層に用いる正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物、正孔注入層材料、励起子拡散防止層材料としては、公知のものが用いられる。
なお、正孔注入層(D)に用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる有機EL化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はないが、これまで一般に用いられてきた化合物を適用することがより好ましい。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。上記界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、および第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0055】
有機EL化合物層(B)における不純物の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。この層では、不純物の含有量が特定の量以下であるため、有機EL素子の劣化が抑制される。有機EL化合物層(C)〜(E)においても、有機EL化合物層(B)と同様である。
【0056】
また、有機EL化合物層(B)に含まれる不純物とは、有機EL化合物層(A)に含まれる不純物と同義である。上記不純物として、具体的には、有機EL化合物層(B)を構成する化合物に由来する分解生成物が挙げられる。この含有量が、特定の含有量以下に抑えられていることが好ましい。有機EL化合物層(C)〜(E)においても、有機EL化合物層(B)と同様である。
【0057】
有機EL化合物層(A)〜(E)は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などにより形成することが可能である。
【0058】
有機EL化合物層(A)には、上記燐光発光性高分子化合物が用いられるため、主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法によって簡便に製造できる。
【0059】
また、本発明において、一対の電極間に少なくとも一層の有機EL化合物層を含む有機EL素子の製造方法は、
(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が上記光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし(式中、Iは、有機EL化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度(ルクス)を表し、Tは、燐光発光性高分子化合物が上記光に暴露される時間(秒)を表す。)、
(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、
上記燐光発光性高分子化合物からなる有機EL化合物層(A)が製造される工程を含む。
【0060】
上記のような条件下で有機EL化合物層(A)を製造すれば、不純物の含有量が1.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である有機EL化合物層(A)を含む有機EL素子が得られる。このような素子は発光効率が高く、劣化しにくい利点を有する。
【0061】
ここで、光の照度I(ルクス)とは、光検出部に500nmのオーバーカットフィルターを取り付けたルクスメーターを用いて、有機EL化合物層(A)が形成される位置で測定した光照度をいう。上記光に暴露される時間T(秒)とは、該光に暴露された状態で、有機EL化合物層(A)の製造に要する時間をいう。たとえば、T(秒)は、スピンコート法を用いる場合は、上記光に暴露された状態で、燐光発光性高分子化合物を含む溶液をITO電極などの上に落としてから、得られた膜を乾燥し、陰極形成などのために減圧工程
に入るまでの時間をいう。
【0062】
本発明に用いる陽極は、ITOに代表される導電性かつ光透過性の層により形成される。有機発光を基板を通して観察する場合には、陽極の光透過性は必須であるが、有機発光をトップエミッション、すなわち上部の電極を通して観察する用途の場合では陽極の透過性は必要なく、仕事関数が4.1eVよりも高い金属あるいは金属化合物のような適当な
任意の材料を陽極として用いることができる。例えば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などを単独で、あるいは組み合わせて用いることが可能である。当該陽極は、金属の酸化物、窒化物、セレン化物および硫化物からなる群より選ぶこともできる。また、光透過性の良好なITOの表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの薄い膜として、上記の金属を成膜したものを陽極として用いることもできる。これらの陽極材料表面への成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。陽極の厚さは2〜300nmが好ましい。
【0063】
本発明に用いる陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9e
V以上であることが好ましい。これらの陰極材料の成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0064】
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファー層として、陰極より仕事関数の低い金属層を陰極と陰極に隣接する有機層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金または金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファー層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜1
0nmがより一層好ましい。
【0065】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の物質と電子輸送性化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送性化合物としては上記の電子輸送性化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの既
述の成膜方法を用いることができる。この場合の陰極バッファー層の厚さは0.1〜10
0nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい
。陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0066】
本発明に係る有機発光素子の基板としては、上記発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板が好適に用いられ、具体的には、ガラスのほか、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等の透明プラスチックなどが用いられる。
【0067】
本発明に係る有機EL素子は、公知の方法によって、面発光光源、表示装置用バックライト、表示装置、照明装置、インテリア、またはエクステリアなどに好適に用いられる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例]
[実施例1]
以下に示す層構成の有機EL素子を作製した。ガラス基板/ITO電極(70nm)/有機EL化合物層(A)(50nm)/Ba(3nm)/Al電極(100nm)
ビニルスチリル基を有する以下のモノマー、重合性置換基を有するイリジウム錯体(E−2)、正孔輸送性化合物(E−46)、および電子輸送性化合物(E−52)を共重合して、燐光発光性高分子化合物を得た。脱水トルエン溶液に上記のモノマーをE-2:E-46:E-52=1:4:5(モノマー仕込み重量比)で溶解させ、凍結脱気操作を行った後に真空密閉し、70℃で100時間攪拌した。反応後、反応液をアセトン中に滴下して沈殿を生じさせ、さ
らにトルエン−アセトンでの再沈殿精製を3回繰り返して精製した。ここで、アセトンおよびトルエンは高純度グレード(和光純薬製)を蒸留したものを用いた。また、再沈殿精製操作後の溶剤は高速液体クロマトグラフィーで分析を行い、3回目の再沈殿精製後の溶剤中に400nm以上の吸収を有する物質が検出できないことを確認した。このようにして、
燐光発光性高分子化合物中の不純物を取り除いた。その後、上記燐光発光性高分子化合物を、室温で2日間真空乾燥した。得られた燐光発光性高分子化合物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(検出波長254nm)により、99.9%を超えることを確認した。
【0069】
この燐光発光性高分子化合物を窒素雰囲気中でトルエンに溶解し、溶液(A)を得た。次いで、ITO電極上に、溶液(A)を、以下の条件((1)〜(2))下で、スピンコート法(回転数3000rpm、塗布時間20秒)により塗布して、有機EL化合物層(A)を得た。
(1)I×T=300(ルクス・秒)(有機EL化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度I=10(ルクス)、上記光に暴露される時間T=30(秒))
(2)窒素雰囲気、露点=−70℃
なお、BaおよびAl電極は、真空蒸着法(真空度10-4Pa以下)で形成した。
【0070】
得られた有機EL素子に電圧を印加すると、イリジウム錯体からの発光が確認された。また、ITO電極を陽極として、電流−発光輝度プロットを行った。また、この素子に1mAの電流を印加した状態での輝度の経時変化をプロットし、この結果から輝度半減時間を見積もった。この結果を表1に示す。
【0071】
[実施例2〜3]
実施例1において用いた溶液(A)を、下記のような混合溶液(C)に変更したほかは、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0072】
溶液(A)を空気中に取り出し、紫外線滅菌灯(18W、254nm)下に1時間放置して、溶液(B)を得た。高速液体クロマトグラフィー(検出波長254nm)により、溶液(B)における上記燐光発光性高分子化合物の残存量は5%未満であることを確認した。また、溶液(B)は、分光光度計により、上記燐光発光性高分子化合物の発光波長(530nm)に強い光吸収を示した。溶液(A)および溶液(B)を混合し、表1に示す割合で溶液(B)が含まれる混合溶液(C)を得た。
【0073】
[参考例1〜2]
実施例1において用いた溶液(A)を、表1に示す割合で溶液(B)が含まれる混合溶液(C)に変更したほかは、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示す様に、溶液(B)の含有量が増すと、有機EL素子の発光効率が大きく減少することを確認した。溶液(B)は、上記燐光発光性高分子化合物の発光波長(530nm)に相当する領域に強い光吸収を示し、該燐光発光性高分子化合物の発光波長(530nm)エネルギーを吸収する化合物を含む。上記実施例および参考例において、この成分が不純物である。
【0076】
本実施例では、故意に溶液(B)すなわち不純物を混入させたが、実際に不純物が混入されるのは、精製が不十分で成膜前から材料中に燐光発光性高分子化合物に由来する不純物成分が残っている場合、金属電極の蒸着時に加熱され、その熱で分解され、燐光発光性高分子化合物に由来する不純物成分が混入する場合などが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、有機発光素子の一実施態様の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1: 透明基板
2: 陽極
3: 正孔輸送層
4: 発光層
5: 電子輸送層
6: 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に少なくとも一層の有機エレクトロルミネッセンス化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子において、
燐光発光性高分子化合物からなり、不純物の含有量が1.0重量%以下である有機エレクトロルミネッセンス化合物層(A)を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記不純物の含有量が、0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記不純物の含有量が、0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記不純物が、消光物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記不純物が、前記燐光発光性高分子化合物に由来する分解生成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
正孔輸送性化合物からなり、不純物の含有量が1.0質量%以下である有機エレクトロルミネッセンス化合物層(B)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
電子輸送性化合物からなり、不純物の含有量が1.0質量%以下である有機エレクトロルミネッセンス化合物層(C)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
不純物の含有量が1.0質量%以下である正孔注入層(D)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
不純物の含有量が1.0質量%以下である励起子拡散防止層(E)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた面発光光源。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置用バックライト。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたインテリア。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機発光素子を用いたエクステリア。
【請求項16】
一対の電極間に少なくとも一層の有機エレクトロルミネッセンス化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が前記光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし(式中、Iは、有機エレクトロルミネッセンス化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度(ルクス)を表し、Tは、燐光発光性高分子化合物が前記光に暴露される時間(秒)を表す。)、
(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、
前記燐光発光性高分子化合物からなる有機エレクトロルミネッセンス化合物層(A)が製造される工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項17】
一対の電極間に少なくとも一層の有機エレクトロルミネッセンス化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子において、
(1)500nm未満の波長成分からなる光の照度Iと、燐光発光性高分子化合物が前記光に暴露される時間Tとが、I×T<10000(ルクス・秒)の関係を満たし(式中、Iは、有機エレクトロルミネッセンス化合物層(A)が形成される位置での500nm未満の波長成分からなる光の照度(ルクス)を表し、Tは、燐光発光性高分子化合物が前記光に暴露される時間(秒)を表す。)、
(2)酸素濃度が0.1重量%以下であり、露点が−40℃未満である雰囲気下で、
前記燐光発光性高分子化合物からなる有機エレクトロルミネッセンス化合物層(A)が製造されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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