説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】ロールツーロール方式で長尺基材の上に形成した有機エレクトロルミネッセンス構造体を、水分や酸素による劣化から防止するために被覆する長尺の封止部材を、有機エレクトロルミネッセンス構造体の陽極と陰極のそれぞれの引き出し部から容易に除去する製造方法を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された長尺基材の有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された面に、接着剤層を介して長尺の封止部材を重畳し被覆する工程と、長尺基材を被覆する封止部材を切断して、有機エレクトロルミネッセンス構造体の陽極および陰極の引き出し部を露出する工程と、
陽極および陰極の引き出し部位置で切断された封止部材を、長尺基材から除去する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有する基材上に有機エレクトロルミネッセンス構造体を所定の間隔で連続して形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光素子として有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELともいう)素子が注目されている。有機EL素子は、ガラス等の基材上に有機化合物の発光層(以下有機発光層あるいは有機層ともいう)を陰電極と陽電極の2つの電極で挟持した構成の有機EL構造体を配置し、陰電極および陽電極間に電流を供給することにより有機発光層の発光を行う素子である。最近では、有機EL素子の用途の拡大等により、樹脂フィルム等の可撓性の基材を用いた有機EL素子も登場しており、このような可撓性基材を用いることにより、ロールツーロール方式にて有機EL素子の製造も行われるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。ここで、ロールツーロール方式の製造方法とは、ロール状に巻かれた基材を繰り出して基材上に有機EL構造体を形成し、EL構造体を形成した基材を再度ロールに巻き取る形態の製造方法を称する。ロールツーロール方式による製造は、連続生産が可能なので生産効率を向上させることができるというメリットを有する。
【0003】
ところで、有機発光層は水分や酸素による影響を受けやすく、空気中に放置すると水分や酸素により品質の劣化を招くので、有機EL素子の製造では、封止と呼ばれる外気の影響を低減するための保護膜を形成する工程を付加している。有機EL素子の封止技術としては、例えば、窒化物や窒化酸化物等の薄膜を電子ビーム法やスパッタリング法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等により有機EL構造体上に被覆する方法、具体的には、対向ターゲット式のスパッタ装置を用いた封止技術(例えば、特許文献2参照)や、シート状の封止部材を有機EL構造体に貼り合わせて封止を行う技術(例えば、特許文献3参照)等が挙げられる。
【0004】
ロールツーロール方式における封止部材を貼り合わせる封止技術は、有機EL構造体が形成された長尺の基材に、長尺の封止部材を連続的に接着して被覆することにより行われる。封止部材は有機EL構造体全体を被覆するので、有機EL構造体に通電したときに短絡を招かないように封止部材には絶縁性の素材が選択される。
【0005】
ところで、有機EL素子は、有機発光層を挟持している陽電極と陰電極間に電流を供給されることにより発光するが、陽電極と陰電極への電流の供給は、通常、陽極と陰極それぞれの引き出し部からなされる。前述のように、ロールツーロール方式の生産方式においては、封止部材と基材とをほぼ同一の幅寸法にすると位置合わせが容易になるため、長尺の基材上に所定の間隔にて連続的に形成された有機EL構造体を長尺の封止部材で連続的に被覆する。すなわち、陽極と陰極それぞれの引き出し部も絶縁性の素材で形成された封止部材で被覆される。従って、陽電極と陰電極へ電流を供給するには、それぞれの引き出し部を被覆する絶縁体である封止部材を除去する必要がある。封止部材の引き出し部からの除去は、有機EL構造体の引き出し部位置で封止部材を切断して、封止部材片を除去することによりなされる。この、封止部材の引き出し部からの除去にあたり、有機発光層や基材を傷つけないことが求められるが、有機EL構造体や引き出し部を被覆した封止部材を、有機発光層や基材を傷つけることなく、容易に引き出し部から除去する技術は見出されていなかった。
【特許文献1】国際公開第01/005194号パンフレット
【特許文献2】特開2002−332567号公報
【特許文献3】特開2005−4063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ロールツーロール方式で長尺基材の上に有機EL構造体を形成し、形成した有機EL構造体を、水分や酸素による劣化から防止するために長尺の封止部材で被覆する有機EL素子の製造方法において、長尺基材を被覆する封止部材を、有機EL構造体の陽極と陰極のそれぞれの引き出し部から安全に除去する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、以下の手段により達成される。
1.ロールツーロール方式により、可撓性の長尺基材の上に、有機発光層と、それぞれ引き出し部を有する陽極および陰極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス構造体を形成する工程を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された前記長尺基材の前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された面に接着剤層を介して長尺の封止部材を重畳し被覆する工程と、
前記長尺基材を被覆する前記封止部材を切断して、前記陽極および陰極の引き出し部を露出する工程と、
前記陽極および陰極の引き出し部位置で切断された前記封止部材を、前記長尺基材から除去する工程と、
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
2.前記接着剤層を、前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された前記長尺基材における前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域に形成することを特徴とする1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
3.前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域への前記接着剤層の形成を、スクリーン印刷法により実施することを特徴とする1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
4.前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域への前記接着剤層の形成を、開口を有する接着シートを、前記開口を前記引き出し部に対応させて重置することにより形成することを特徴とする1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
5.前記陽極および陰極の引き出し部を露出する工程における前記封止部材の切断に超音波カッターを用いることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、2に記載の発明により、長尺基材を被覆する封止部材を、有機EL構造体の陽極と陰極のそれぞれの引き出し部から容易に除去するロールツーロール方式の有機EL素子の製造方法を提供できる。また、請求項3、4に記載の発明により、有機EL構造体の陽極と陰極のそれぞれの引き出し部から封止部材を安全に除去するに好適な接着剤層を形成する有機EL素子の製造方法を提供できる。また、請求項5に記載の発明により、長尺基材を被覆する封止部材を、有機EL構造体の陽極と陰極のそれぞれの引き出し部を傷つけずに安全に切断する有機EL素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明の製造方法はロールツーロール方式による生産形態であり、ロールツーロール方式とは、ロール状に巻いた可撓性を有する基材、例えばフィルムを繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら基材上に有機発光層と、それぞれ引き出し部を有する陽極および陰極と、を有する有機EL構造体を連続的に形成し、再びロールに巻き取る方式である。
【0011】
実施形態の製造方法は、インラインにて基材上に有機EL構造体を所定間隔で形成し、オフラインにて有機EL構造体を封止部材で被覆した後に基材を切断して有機EL素子を形成する。ここで、インラインとは、ロール状に巻かれた基材が、製造工程に繰り出されてから再びロールに巻き取られるまでの間を言い、オフラインとは、基材が一旦ロール状上に巻き取られた後に、別の工程に投入されることを言う。
【0012】
ロールツーロール方式と個別に切り離された基材を工程毎に搬送する枚葉方式とを比較すると、枚葉方式では、それぞれの工程に基材の搬入部、搬出部を設ける必要があり、工程毎の装置規模が大きくなりやすいが、ロールツーロール方式では、基材は各工程間を間欠的、或いは連続的に流れるため各工程を互いに連結でき、基材搬送に伴う作業の削減や装置の小型化が可能となる。
【0013】
(発明の実施の形態)
本発明に係わる実施の形態について、その一例を以下、図面に基づいて説明する。
【0014】
先ず、有機EL素子について以下に説明する。図1は、有機EL素子10の構成を説明する模式図である。図1(a)は有機EL素子の平面図であり、また図1(b)は有機EL素子の断面図である。図1(b)に示すように、有機EL素子10は、基材11上に、第1電極12、有機発光層13、第2電極14を形成して有機EL構造体とし、さらに有機EL構造体の上面を接着剤層15を介して封止部材層16で積層した構成を有する。また図1(b)に示すように、有機EL構造体は有機発光層13を含む上面部が封止部材層16で被覆されており、封止部材層16の図示左側に第1電極12の一部が露出し、封止部材層16の図示右側に第2電極14の一部が露出している。第1および第2電極の封止部材層16の図示左右側に露出する部分から電流を供給することにより有機発光層13が発光する。この第1電極12の封止部材層16の図示左側に露出する部分を第1電極引き出し部12aと称することにし、同様に、第1電極14の封止部材層16の図示右側に露出する部分を第2電極引き出し部14aと称することにする。
【0015】
基材11は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等の可撓性を有する素材から形成される。
【0016】
第1電極12は、陽極であって、透明にする場合はインジウムチンオキサイド(ITO)、インジウムジンクオキサイド(IZO)、金、酸化錫、酸化亜鉛等の仕事関数が4eV以上で透過率が40%以上の導電性材料による電極である。第1電極12はその一端に引き出し部である第1電極引き出し部12aを有する。第1電極引き出し部12aは封止部材層16により被覆されず露出しており、第1電極引き出し部12aを介して第1電極12に外部から電流を供給することができる。
【0017】
有機層発光13は、発光層を含む数nm〜数μmの有機化合物又は錯体等の有機材料からなる単層、または複数の層であり、例えば、陽極と接する正孔輸送層、発光材料を備える発光層、陰極と接する電子輸送層の3層等からなり、フッ化リチウム層や無機金属塩の層、またはそれらを含有する層などが任意の位置に配置されていてもよい。
【0018】
第2電極14は、陰極であって、反射電極とする場合はアルミニウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、銀、カルシウム等の仕事関数が4eV未満で、反射率が60%以上の金属材料からなる電極である。第2電極14はその一端に引き出し部である第2電極引き出し部14aを有する。第1電極引き出し部12aは封止部材層16により被覆されず露出しており、第2電極引き出し部14aを介して第2電極14に外部から電流を供給することができる。
【0019】
本発明における有機EL素子は、第1電極(陽極)12、第2電極(陰極)14に外部から供給された電流により、有機発光層13において電子および正孔が結合し、結合により生じた励起エネルギーを利用した発光を行う素子で、有機発光層13からの光は第1電極(陽極)12を通して取り出される。励起エネルギーを利用する発光としては、1重項励起エネルギーを発光に利用する蛍光、或いは、3重項励起エネルギーを発光に利用する燐光が挙げられる。特に、燐光は、3重項励起子が発光に寄与するため、蛍光に比べ高い発光効率が得られるので、光源として望ましい発光である。
【0020】
有機EL素子10の発光層からの発光は、第1電極12、基材11を透過して取り出されるが、第2電極(陰極)を、薄膜の陰極材料と透過率の高い陽極材料を積層して構成し、実質的に透明として、陰極から光を取り出す、所謂トップエミッションの構成にしてもよい。
【0021】
また、封止用のフィルムにはさらに、あらかじめバリア膜が形成されていてもよく、例えば、金属の酸化膜、酸化窒化膜、窒化膜、金属薄膜等の、厚み50nm以上50μm以下の薄膜である。これにより封止機能をさらに高められる。具体的にはアルミナ蒸着フィルム、あるいは、樹脂フィルムがラミネートされた金属箔等を使用しても良い。
【0022】
次に、本発明に係る有機EL素子の製造方法を説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態である有機EL素子の製造におけるプロセスを示すブロック図である。本発明の有機EL素子の製造方法は、有機EL構造体形成工程120、封止部材接着工程140、切断工程150を有する。有機EL構造体形成工程120は、複数の第1電極(陽極)12が所定の間隔で連続的にパターニングされた基材の第1電極12の上面に、有機発光層13および第2電極14から成る有機EL構造体をロールツーロールの製造プロセスにて形成する。ここで、有機EL構造体を形成した後に窒化物等のバリア膜を形成しても良い。次いで、ロール状に巻き取られた有機EL構造体が形成された基材をオフラインに移し、封止部材接着工程140にて有機EL構造体が形成された基材を封止部材にて被覆し、さらに、切断工程150にて所定の寸法に切断して単葉の有機EL素子を形成する。なお、封止部材接着工程140は、接着剤層形成工程141、ラミネート工程142、硬化工程143、電極部露出工程144を有しており、それぞれの詳細は後述する。
【0024】
前述の第1電極は、インラインで電極形成のパターニングを行ってもよいが、電極の形成時の金属粉の飛散等による有機EL構造体の電極間でのショートの懸念があり、このときは金属粉の有機EL構造体形成工程への遮断対策が必要である。
【0025】
また、第1電極(陽極)のパターンは、照明用途のときは、面上に電極がパターニングされたもの、ディスプレイ用途のときは、TFTがあらかじめマトリクス状に配置されたアクティブタイプ、或いは、配線がマトリクス状にパターニングされたパッシブタイプでもよい。
【0026】
なお、基材の端部には、第1電極(陽極)のパターンニング位置に対応して等間隔にマーキング孔が設けられている。前述の、有機EL構造体形成工程120、封止部材接着工程140、切断工程150にては、マーキング孔を基準にしてそれぞれの工程動作が実行される。すなわち、マーキング孔を基準にして、有機EL構造体形成工程120にては基材上に等間隔に有機EL構造体が形成され、封止部材接着工程140では有機EL構造体の所定の位置を所定の封止部材にて被覆し、切断工程150にては所定の位置で基材を切断して単葉の有機EL素子が形成される。
【0027】
有機EL構造体の表面にバリア膜を形成された基材は、再びロールに巻き取られる。そして、ロール状に巻き取られた有機EL構造体およびバリア膜が形成された基材11は、オフラインの封止部材接着工程140および切断工程150に投入されて、封止部材層が形成された後に所定の位置で切断され、単葉の有機EL素子10に形成される。
【0028】
次に、本発明の有機EL素子の具体的な製造プロセスの詳細を以下に説明する。
【0029】
図3は、本発明の有機EL素子の製造プロセスの模式図である。ロール状に巻かれた基材11は、洗浄工程110に繰り出されて、超音波洗浄槽111に浸して超音波洗浄を行った後、リンス槽112で純水により洗浄液のリンス、シャワーヘッド113ですすぎを行い、乾燥ゾーン114で乾燥される。
【0030】
その後、バッファゾーン115により後工程との搬送速度が調整され、第3緩衝チャンバー116aを経由して、プラズマ槽116に移送される。プラズマ槽116は、圧力が1Pa以下の真空環境であり、基材11を酸素プラズマにより洗浄する。
【0031】
第3緩衝チャンバー116aは隔壁により分離された3つの圧力調整室116a1、116a2、116a3からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、およびプラズマ槽への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基材表面、特に有機EL構造体形成側となる表面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、基材11は、シールロール117の間隙を通過してプラズマ槽116に移送される。
【0032】
圧力調整室116a1、116a2、116a3は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて各圧力調整室の圧力が調整され、圧力調整室116a1の入口側の大気圧環境から、圧力調整室116a3の出口側のプラズマ槽116の真空環境に至るよう減圧度が調整される。バッファゾーン115と、プラズマ槽116との間に第3緩衝チャンバー116aを設けることにより、基材11は大気圧環境にあるバッファゾーン115から真空環境にあるプラズマ槽116へ連続的に搬送でき、また、プラズマ槽116は所定の真空環境を保持できる。なお、第3緩衝チャンバー116aの圧力調整室は三つで示したが、三つに限定されものではなく、プラズマ槽116の真空条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0033】
プラズマ槽116にて酸素プラズマによる洗浄が行われた後、基材11は第1緩衝チャンバー121aを経由して、有機EL構造体形成工程120に搬送される。有機EL構造体形成工程120における有機EL構造体の形成が行われる蒸着槽121は、圧力が1×10-03Pa以下であり、真空度がプラズマ槽116よりもさらに高度の真空環境である。
【0034】
第1緩衝チャンバー121aは隔壁により分離された2つの圧力調整室121a1、121a2からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、蒸着槽121への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基材表面、特に有機EL構造体形成側となる表面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、基材11は、シールロール117の間隙を通過してプラズマ槽116から蒸着槽121に移送される。
【0035】
圧力調整室121a1、121a2は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて圧力調整室それぞれの圧力が調整され、圧力調整室121a1の入口側のプラズマ槽116の環境から、圧力調整室121a2の出口側の蒸着槽121の真空環境に至るよう減圧度が調整される。プラズマ槽116と、蒸着槽121との間に第1緩衝チャンバー121aを設けることにより、基材11はプラズマ槽116からより高度の真空環境にある蒸着槽121へ連続的に搬送でき、また、プラズマ槽116および蒸着槽121は所定の圧力環境を保持できる。また、プラズマ槽からの排ガスが蒸着槽121内に混入することを防止できる。なお、第1緩衝チャンバー121aの圧力調整室は2つで示したが、2つに限定されものではなく、プラズマ槽116および蒸着槽121の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0036】
有機EL構造体形成工程120では、基材11に設けられたマーキング孔17が蒸着槽内の所定の位置に到達すると搬送が停止し、前記バッファゾーン115により搬送が調整されている間に、蒸着槽121において蒸着が行われる。蒸着槽121にては、1×10-4Pa以下の圧力の真空環境下で、蒸着源122から有機材料或いは金属材料が昇華されて、マスク123により所定のパターンで、基材11にあらかじめパターンニングされている陽極の上に有機層、陰極が積層されて、有機EL構造体が形成される。
【0037】
有機EL構造体形成工程120における有機EL構造体の形成は、基材11に等間隔に設けられたマーキング孔17を基準にして、各マーキング孔毎に実施されるので、基材11には複数の有機EL構造体が連続的に等間隔にで形成される。
【0038】
有機EL構造体は、例えば、陽極/正孔輸送層/発光層/陰極の構成からなる有機EL構造体の場合、陽極が形成された基材上に、正孔輸送層(α−NPD);500Å、発光層(Alq3);600Åの厚さで順次形成した後、その上に陰極(アルミニウム)を2000Åの膜厚で蒸着形成する。
【0039】
蒸着槽121にて有機EL構造体が形成された基材11は、第2緩衝チャンバー121bを経由して、保護膜形成工程130に搬送される。
【0040】
保護膜形成工程130のスパッタ槽131では、10-2Pa〜大気圧環境下にて、対向ターゲット132内に発生させたスパッタガスプラズマによりターゲット132がスパッタされて基材11上に形成された有機EL構造体を覆うようにバリア膜が製膜される。
【0041】
第2緩衝チャンバー121bは、隔壁により分離された2つの圧力調整室121b1、121b2からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、スパッタ槽131への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基板表面、特に有機EL構造体が形成された面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、有機EL構造体が形成された基材11は、シールロール117の間隙を通過して蒸着槽121からスパッタ槽131に移送される。
【0042】
圧力調整室121b1、121b2は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて圧力調整室それぞれの圧力が調整され、圧力調整室121b1の入口側の蒸着槽121の環境から、圧力調整室121b2の出口側のスパッタ槽131の環境に至るよう減圧度が調整される。蒸着槽121と、スパッタ槽131との間に第2緩衝チャンバー121bを設けることにより、基材11は蒸着槽121からスパッタ槽131へ連続的に搬送でき、また、蒸着槽121およびスパッタ槽131は所定の圧力環境を保持できる。なお、第2緩衝チャンバー121bの圧力調整室は二つで示したが、二つに限定されものではなく、蒸着槽121およびスパッタ槽131の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0043】
保護膜であるバリア膜は、金属の酸化膜、酸化窒化膜、窒化膜、金属薄膜、ダイヤモンドライクカーボン膜を少なくとも1種以上含んでいる膜である。好ましい金属としては珪素、アルミニウム等の金属であり、例えば、好ましいバリア膜材料として酸化窒化珪素、窒化珪素が挙げられる。ここでは、スパッタ装置、例えばRFマグネトロンスパッタ装置が用いられる。
【0044】
スパッタ槽131では、有機EL構造体形成工程120と同様に基材11の端部に設けられたマーキング孔17が所定の位置に到達すると搬送が停止して所定の位置にスパッタが行われる。そして、スパッタ槽131では、対向ターゲット132内に発生させたスパッタガスプラズマによりターゲット132がスパッタされて、蒸着槽121にて基材11上に形成された有機EL構造体を覆うようにバリア膜が製膜される。
【0045】
ターゲット132は、有機EL構造体に形成させるバリア膜の構成材料と同一材料、あるいは、スパッタガスとの反応により構成材料と同一となる材料で構成されている。例えば、スパッタガスとしては、例えば酸素5体積%を含むアルゴンを用い、ターゲットとしてSi34を用い、酸化窒化珪素膜を形成する。
【0046】
こうして、有機EL構造体およびバリア膜がインラインで順次形成された基材11は、スパッタ槽131から第4緩衝チャンバー131bを経由して、大気圧環境下へ移送され、ロール状に巻き取られる。
【0047】
第4緩衝チャンバー131bは隔壁により分離された3つの圧力調整室131b1、131b3からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、大気圧環境下への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基板表面、特に有機EL構造体が形成された面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、有機EL構造体およびバリア膜が形成された基材11は、シールロール117の間隙を通過して大気圧環境下に移送される。
【0048】
圧力調整室131b1、131b2、131b3は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて圧力調整室それぞれの圧力が調整され、圧力調整室131b1の入口側のスパッタ槽131の圧力環境から、圧力調整室116cの出口側の大気圧環境に至るよう減圧度が調整される。スパッタ槽131と、大気圧環境との間に第4緩衝チャンバー131bを設けることにより、有機EL構造体およびバリア膜が形成された基材11はスパッタ槽131から大気圧環境へ連続的に搬送でき、また、スパッタ槽131は所定の圧力条件を保持できる。なお、第4緩衝チャンバー131bの圧力調整室は3つで示したが、3つに限定されものではなく、スパッタ槽131の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0049】
ロール状に巻き取られた有機EL構造体およびスパッタによるバリア膜が形成された基材11は、オフラインの封止部材接着工程140および切断工程150に投入されて、封止部材層が形成された後に所定の大きさに切断され、有機EL素子に形成される。
【0050】
封止部材接着工程140は、有機EL構造体およびバリア膜が形成された基材のロールを、再び基材を繰り出して、長尺の封止部材を基材に接着して有機EL構造体上に封止部材層16を形成する工程である。有機EL構造体に封止部材層16を形成することにより、有機EL構造体の有機発光層は封止部材により被覆され、空気中の水分や酸素により品質の劣化を招くことなく、高品質と高信頼性を維持できる。
【0051】
封止部材接着工程140は、概ね数万Paから数十万Paの大気圧環境である。ここにおいては、既に有機EL構造体上にスパッタによるバリア膜が成膜されており、水分や酸素を低減させた真空環境とする必要がない。
【0052】
図4は、発明の実施の形態における封止部材接着および切断の製造プロセスの模式図である。図4を用いて、封止部材接着工程140および切断工程150について説明する。
【0053】
封止部材接着工程140は、接着剤層形成工程141、ラミネート工程142、硬化工程143、電極部露出工程144を有する。
【0054】
接着剤層形成工程141は、有機EL構造体が形成された基材の選択された領域に接着剤を塗布し接着剤層15を形成する工程である。接着剤層形成工程141では有機EL構造体の陽極および陰極の引き出し部12a、14aを除外した領域に接着剤層15を形成する。
【0055】
ラミネート工程142は接着剤層を介して封止部材である封止フィルム16Aを基材11にローラにより圧着して有機EL構造体上に封止部材層16を形成する工程である。
硬化工程143は接着剤を硬化させる工程、また、電極部露出工程144は有機EL構造体の電極引き出し部12a、14aから封止部材を除去して引き出し部を露出する工程である。
【0056】
また、切断工程150は、封止部材が接着され封止部材層16が形成された長尺基材を所定の位置で切断し、枚葉の有機EL素子を得る工程である。
【0057】
封止部材接着工程140にては、接着剤層15は接着剤をスクリーン印刷法により基材11の所定の範囲、すなわち、陽極および陰極の引き出し部12a、14aを除外した領域にのみ選択的に塗布することにより形成される。
【0058】
スクリーン印刷法はインキをスキージ(ヘラ)により版(ステンシル)に展延、摺擦し、版の開口部に張られたスクリーンの網目を通して媒体にインキを付着させて印刷する印刷方法であり、媒体の版の開口部に対向する位置範囲にのみインキを選択的に付着させることができる印刷方法である。本実施の形態では、スクリーン印刷法におけるインキを接着剤とし、媒体を有機EL構造体が形成された基材として、接着剤を基材の所定の範囲にのみ選択的に付着させることにより、基材の所定の範囲にのみ選択的に接着剤層を形成するものである。なお、以下の説明では、版をステンシルと称し、ステンシルにおける接着剤を透過させる部分を開口部、接着剤を透過させる部分をマスク部と称することにする。
【0059】
なお、本実施の形態に使用する接着剤は、エポキシ系、アクリル系、アクリルウレタン系等の紫外線で硬化するタイプの接着剤であるが、紫外線で硬化するタイプに限定するものではなく、加熱により硬化するタイプのものでも良い。
【0060】
接着剤層形成工程141は非図示の移動手段により図示矢印方向に往復移動するスキージ141Bを有し、スキージ141Bはその先端部にて接着剤141Aをステンシル141C面に展延、摺擦する。ステンシル141Cは開口に接着剤の透過が可能なスクリーンを張った開口部と、接着剤の透過が不可能なマスク部とを有し、スキージ141Bによりステンシル141C上に展延、摺擦された接着剤141Aは、開口部のスクリーンを通過して、基材11の開口部に対向する領域に塗布される。一方、マスク部は接着剤の通過が不可能なので、接着剤はマスク部に対向する領域には塗布されない。
【0061】
図5は、基材上に接着剤層15を形成する領域を示す図である。図5(a)は平面図、図5(b)断面図であり、基材11に形成された第1電極12、有機発光層13、第2電極14を示す。ここで、A部は基材11の面上に形成された有機発光層13を包含する領域である。図5に示すA部にのみ選択的に接着剤層15を形成する。一方、電極の引き出し部、すなわち第1電極引き出し部12a、第2電極引き出し部14aが形成されている領域には接着剤層を形成しない。
【0062】
図6は、発明の実施の形態におけるスクリーン印刷のステンシル141Cを示す模式図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は断面図である。
【0063】
ステンシル141Cは、接着剤の通過を遮蔽する素材で構成される平板形状のマスク部141Cー2と、マスク部141Cー2の一部に、開口に接着剤を通過させることができるスクリーンを張った開口部141Cー1とを有している。開口部141Cー1の寸法、形状は、図5に示した有機EL構造体のA部を包含する寸法、形状とし、接着剤層形成工程141において所定の位置に停止した基材11にステンシル141Cを対向させたときに、開口部141C−1を通して有機EL構造体のA部に接着剤が塗布されて接着剤層15が形成される。一方、マスク部141C−2が対向する有機EL構造体のA部の周囲、少なくとも陽極および陰極の引き出し部には接着剤層が形成されない。
【0064】
図4において、ロールから繰り出された基材11が接着剤層形成工程141に到達すると、基材11の端部に設けられたマーキング孔17を基準にして所定の位置に基材11搬送が一時停止される。そして、ステンシル141Cを所定の位置に停止した基材11に対向、当接させ、次いでスキージ141Bにより接着剤141Aをステンシル141Cの面上に摺擦する。ステンシル141Cの面上に展延、摺擦された接着剤141Aは開口部141C−1を通過して基材11に付着し開口部141C−1により限定された領域に接着剤層15を形成する。
【0065】
前述のように、開口部141C−1は図5に示す有機EL構造体のA部に対応する位置に形成されているので、接着剤層15は、有機EL構造体の発光層を被覆する位置に選択的に形成される。一方、電極の引き出し部12aおよび14aの位置には、マスク部141C−2により接着剤の通過が遮蔽されるので接着剤層15が形成されない。
【0066】
所定位置へ接着剤層15が形成された基材11はラミネート工程142に搬送される。
【0067】
ラミネート工程142は、長尺ローラから繰り出される封止部材である封止フィルム16Aを接着剤層15を介して基材11上にラミネートして有機EL構造体に封止部材層16を形成する工程である。ラミネート工程142は上下ローラを有し、上下ローラの加圧により封止フィルム16Aを基材11に接着剤層15を介してラミネートする。実施の形態における封止フィルム16Aは、可撓性を有する薄い(厚さ10μm〜1mm)ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであるが、これに限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、エチレンポリビニルアルコール、エチレンビニルアセテート、ETFE等の樹脂フィルムや、エチレンビニルアセテートフィルムと、旭硝子製ETFE(アフレックス厚さ25μm)の耐候性樹脂とを貼り合わせて一体化したフィルム等、積層フィルムでもよい。
【0068】
硬化工程143は、接着剤層15を硬化させて、封止フィルム16Aを固着する工程である。接着剤層の硬化手段はハロゲンランプ等のUV光源143Aであり、UV光を照射して光反応により紫外線硬化型の接着剤により形成された接着剤層15を硬化させる。接着剤層15の硬化により封止フィルム16Aは有機EL構造体の上面に固着される。また、接着剤が熱硬化を利用したタイプのときには、所定温度に加熱して硬化させる。
【0069】
電極部露出工程144は、有機EL構造体の陽極および陰極の引き出し部から封止部材である封止フィルムを除去して引き出し部を露出する工程である。
電極部露出工程144は封止部材を切断する封止部材切断手段である超音波カッター144Xおよび144Yを有し、それぞれの切り刃にて封止部材である封止フィルムを所定の位置で切断する。
【0070】
超音波カッターは、いわゆる超音波領域の高周波にて切り刃を振動させつつ被加工物に押圧して被加工物を切断するもので、小さい押圧力で被加工物を切断することが可能であり、厚みが0.1〜数mmの非常に薄い被加工物の切断をスムーズ、かつ確実に実施できる。
【0071】
本実施の形態の超音波カッター144Xおよび144Yは、それぞれ発信器を内蔵し、発信器により発生させた周波数15〜30KHz、振幅10〜150μmの高周波信号にて振動子を振動させ、振動子の振動をホーンを経由して切り刃に伝達して切り刃を高周波にて振動させる。高周波にて振動する切り刃にて封止フィルムを切断すことにより、封止フィルムの切断を有機発光層や基材を傷つけずに実施できる。
【0072】
図7は、有機EL構造体に接着剤層15を形成された基材11に封止フィルム16Aを接着した後、封止フィルム16Aを切断して第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aを開放する過程を説明する図である。
【0073】
図7(a)は有機EL構造体のA部に接着剤層を形成された基材11を示す平面模式図である。図7(a)において、斜線を施したA部は、接着剤層形成工程141にて接着剤層が形成された領域であり、有機EL構造体の有機発光層13を包含している。第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面には接着剤層は形成されない。
【0074】
図7(b)は基材11に封止フィルム16Aが接着された状況を示す図である。基材11はラミネート工程142にて長尺状の封止フィルム16Aに重畳され、後続の硬化工程143にて接着剤層が硬化されることにより、基材11と封止フィルム16Aとは接着剤層を介して接着される。基材11と封止フィルム16Aとは接着剤層の存在する領域、範囲でのみ接着され、接着剤層15の存在しない領域、範囲では接着されずに、単に重畳されている。よって第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aには、封止フィルム16Aは接着されない。
【0075】
図7(b)に示す直線X−XおよびY−Yは電極部露出工程144にて封止フィルム16Aを切断する位置である。直線X−Xは第2電極引き出し部14aの上面の接着剤層が形成されているA部の近傍に位置するように設定される。直線X−Xに沿って封止フィルム16Aを切断すると、封止フィルム16Aは接着剤層が形成されない第2電極引き出し部14aの位置で切断される。直線Y−Yは第1電極引き出し部12aの上面の接着剤層が形成されているA部の近傍に位置するように設定される。直線Y−Yに沿って封止フィルム16Aを切断すると、封止フィルム16Aは接着剤層が形成されない第1電極引き出し部12a位置で切断される。封止フィルム16Aが直線X−Xおよび直線Y−Yの2個所にて切断されることにより直線X−Xおよび直線Y−Yの間に形成される封止フィルム片は、基材11には接着されておらず、基材11から容易に離脱、除去させることができる。
【0076】
図7(c)は電極の引き出し部の開放がなされた状況を示す図である。封止フィルム16Aが直線X−Xおよび直線Y−Yの2個所にて切断され、2個所にて切断されることにより形成された封止フィルム片を基材11の上面から除去した状態を示す。封止フィルム16Aを2個所で切断することにより、基材11上の有機EL構造体に接着された封止フィルム16Aは図1に示した封止部材層16となる。また、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aは封止フィルム片が除去されて上面が開放される。
【0077】
図4に示す電極部露出工程144にては、超音波カッター144Xおよび超音波カッター144Yは、それぞれ非図示の移動手段およびガイドにより、それぞれの切り刃が封止フィルム16Aを押圧しつつ、直線X−Xおよび直線Y−Yに沿って移動する。電極部露出工程144にて、マーキング孔17を基準にして所定の位置に停止した封止フィルム16Aが接着された基材11は、封止フィルム16Aが超音波カッター144Xにて直線X−Xに沿い、超音波カッター144Yにて直線Y−Yに沿って、2個所で切断される。
【0078】
144Cは吸着、移送手段であり、吸着、移送手段144Cは、封止フィルム16Aが2個所で切断されることにより形成された封止フィルム片を吸着して引き出し部から封止フィルム片を除去し、基材11に形成されている第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aを開放させる。吸着、移送手段144Cに吸着された封止フィルム片は、非図示の封止フィルム片集積手段に移送され、集積される。
【0079】
このように、接着剤層を基材の選択された領域に形成し、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aには形成しないことにより、封止フィルムは第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aには接着されないので、各引き出し部の位置で切断された封止フィルムは電極の引き出し部の位置から容易に除去することができ、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面を容易に開放できる。
【0080】
電極部露出工程144に後続する切断工程150は、基材11を所定の大きさに裁断する工程である。切断工程150は切断手段151Aおよび切断手段151Bを有し、基板11は切断工程150にて切断手段151Aおよび切断手段151Bによりマーキング孔17を基準にして切断され、有機発光層が封止部材層16で被覆され、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面が開放された単葉の有機EL素子10が形成される。切断手段151Aおよび切断手段151Bは、上下動するカッターでもよいし、振動を抑えた円形の回転カッターを利用してもよい。
【0081】
次に本発明の異なる実施の形態について説明する。
【0082】
前述の実施の形態は、基材11の選択された範囲への接着剤層の形成を、スクリーン印刷により実施するものであったが、異なる実施の形態は接着シートを使用して接着剤層を形成するものである。
【0083】
接着シートはPET等の基材フィルムの両面に接着剤等を塗布したもので、接着剤層を介して接着シート挟持した媒体を接着する。以下説明する異なる実施の形態においては、接着シートを基材に重ね合わせることにより接着剤層を形成し、接着剤層を介して保護部材を基材に接着するものである。
【0084】
図8は、発明の異なる実施の形態における封止部材接着および切断の製造プロセスの模式図である。図8を用いて、異なる実施の形態における封止部材接着工程140および切断工程150について説明する。異なる実施の形態に使用する記号は前述の実施の形態と同じ機能を発揮する個所については前述の実施の形態に使用した記号を使用している。
【0085】
封止部材接着工程140は、接着剤層形成工程141、ラミネート工程142、硬化工程143、電極部露出工程144を有する。
【0086】
接着剤層形成工程141は、有機EL構造体が形成された基材11に開口を有する接着シート141Dを重ね合わせて接着剤層15を形成する工程である。
【0087】
ラミネート工程142は接着剤層を介して封止部材である封止フィルム16Aを基材11にローラにより圧着して有機EL構造体上に封止部材層16を形成する工程である。
【0088】
硬化工程143は接着剤を硬化させる工程、また、電極部露出工程144は有機EL構造体の電極引き出し部から封止部材を除去して引き出し部を露出する工程である。
【0089】
また、切断工程150は、封止部材が接着され封止部材層16が形成された長尺基材を所定のを所定の位置で切断し、単葉の有機EL素子を得る工程である。
【0090】
封止部材接着工程140にては、部分的に開口を有する接着シート141Dを基材に接着シートを重ね合わることにより基材の選択された領域に接着剤層15を形成し、陽極および陰極の引き出し部には接着剤層を形成しない。すなわち、発明の異なる実施の形態においても、先に図5で示した基材11の面上に形成された有機発光層13を包含する領域であるA部に選択的に接着剤層を形成し、一方、電極の引き出し部すなわち第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aが形成されている領域には接着剤層を形成しない。
【0091】
接着シート141Dの開口について以下説明する。図9は、接着シート141Dを用いて基材11上に接着剤層を形成し、封止フィルム16Aを接着した後、封止フィルム16Aを切断して第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aを開放する過程を説明する図である。
【0092】
図9(a)は有機EL構造体が形成された基材11の平面模式図である。前述の有機EL構造体形成工程120において、基材11への有機EL構造体は連続的に等間隔で形成され、図9(a)に示すように、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aを含む有機EL構造体は、基材11上に一定の周期間隔pにて等間隔にて形成されている。有機EL構造体の有機発光層を包含するA部も基材11上に周期pの等間隔にて形成されている。
【0093】
図9(b)は接着シート141Dを示す平面模式図である。図9(b)に示す接着シート141Dは、等間隔に設けられた開口を有する長尺の基材フィルムの表面および裏面に紫外線硬化型の接着剤を塗布したものである。なお、接着剤は紫外線硬化型に限定されるものではなく、例えば熱で硬化するタイプのものでも良い。
【0094】
接着シート141Dは、有機EL構造体が形成された基材11の所定の位置に重ね合わせたときに、基材11における有機EL構造体のA部を被覆する被覆領域部Qと、開口部Rとが、基材11における有機EL構造体が形成されている周期間隔pと同じ周期間隔にて等間隔にて形成されている。
【0095】
接着剤層形成工程141において基材11に接着シート141Dを重ね合わせるときに、接着シートの被覆領域部Qを図9(a)に示す有機EL構造体のA部に位置させ、開口部Rを、基材11上に連続的に形成された有機EL構造体の、相隣接する電極の引き出し部に位置させるように、基材11の端部に設けられたマーキング孔17を基準にして所定の位相で重ね合わせることにより、有機EL構造体のA部には接着シート141Dの被覆領域部Qが位置してA部には接着剤層を形成し、電極の引き出し部には開口部Rが位置して電極の引き出し部には接着剤層を形成しないようにすることができる。
【0096】
基材11に接着シート141Dを所定の位相で重ね合わせたときの状況を図9(c)に示す。図9(c)に示すように、基材11に接着シート141Dを所定の位相で重ね合わせると、接着シート141Dの被覆領域部Qは基材11における有機EL構造体のA部に位置してA部に接着剤層を形成する。一方、開口部Rは電極の引き出し部、すなわち、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aに位置するので第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面には接着剤層は形成されない。
【0097】
図8において、ロールから繰り出された基材11は、接着剤層形成工程141にて、基材11の端部に設けられたマーキング孔17を基準にして所定の位相にて接着シート141Dが重ね合わされ、基材11の選択された領域、すなわち基材11に形成されている有機EL構造体のA部に、接着シート141Dによる接着剤層15を形成する。一方、有機EL構造体の電極の引き出し部、すなわち第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aには接着剤層は形成されない。
【0098】
基材11上の所定位置へ接着シート141Dによる接着剤層15が形成された基材11はラミネート工程142に搬送される。
【0099】
ラミネート工程142は、長尺ローラから繰り出される封止部材である封止フィルム16Aを接着剤層15を介して基材11上にラミネートして有機EL構造体に封止部材層16を形成する工程である。ラミネート工程142は上下ローラを有し、上下ローラの加圧により封止フィルム16Aを基材11に接着剤層15を介してラミネートする。実施の形態における封止フィルム16Aは、可撓性を有する薄い(厚さ10μm〜1mm)ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであるが、これに限定されるものではない。
【0100】
硬化工程143は、接着剤層15を硬化させて、封止フィルム16Aを固着する工程である。接着剤層の硬化手段はハロゲンランプ等のUV光源143Aであり、UV光を照射して光反応により紫外線硬化型の接着剤により形成された接着シート141Dにより形成された接着剤層を硬化させる。接着剤層の硬化により封止フィルム16Aは有機EL構造体の上面に固着される。また、接着剤が熱硬化を利用したタイプのときには、所定温度に加熱して硬化させる。
【0101】
図9(d)は、ラミネート工程142および硬化工程143を経て基材11上に封止フィルム16Aが接着された状況を示す図である。図9(d)に斜めの破線で示す部分は接着シートによる接着剤層が形成されている領域であり、硬化工程143にて接着剤層を硬化させることにより接着剤層を介して基材11と封止フィルム16Aは接着されている。また、接着剤層が形成されていない領域では基材11と封止フィルム16Aは接着されていない。よって、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aは、封止フィルム16Aに覆われるが封止フィルム16Aは接着されない。
【0102】
図9(d)に示す直線X−XおよびY−Yは電極部露出工程144にて封止フィルム16Aを切断する位置である。直線X−Xは第2電極引き出し部14aの上面の、接着剤層が形成されている部分の近傍に位置するように設定される。直線X−Xに沿って封止フィルム16Aを切断すると、封止フィルム16Aは接着剤層が形成されない第2電極引き出し部14a位置で切断される。直線Y−Yは第1電極引き出し部12aの上面の接着剤層が形成されている部分の近傍に位置するように設定される。直線Y−Yに沿って封止フィルム16Aを切断すると、封止フィルム16Aは接着剤層が形成されない第1電極引き出し部12a位置で切断される。封止フィルム16Aが直線X−Xおよび直線Y−Yの2個所にて切断されることにより、直線X−Xおよび直線Y−Yの間に形成される封止フィルム片は基材11には接着されておらず、基材11から容易に離脱、除去させることができる。
【0103】
図9(e)は電極の引き出し部の開放がなされた状況を示す図である。封止フィルム16Aが直線X−Xおよび直線Y−Yの2個所にて切断され、2個所にて切断されることにより形成された封止フィルム片を基材11の上面から除去した状態を示す。
【0104】
封止フィルム16Aを2個所で切断することにより、基材11上の有機EL構造体に接着された封止フィルム16Aは図1に示した封止部材層16となる。また、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aは封止フィルム片が除去されて上面が開放される。
【0105】
図8に示す電極部露出工程144にては、超音波カッター144Xおよび超音波カッター144Yは、それぞれ非図示の移動手段およびガイドにより、それぞれの切り刃が封止フィルム16Aを押圧しつつ、直線X−Xおよび直線Y−Yに沿って移動する。
【0106】
電極部露出工程144にて、マーキング孔17を基準にして所定の位置に停止した封止フィルム16Aが接着された基材11は、封止フィルム16Aが超音波カッター144Xにて直線X−Xに沿い、超音波カッター144Yにて直線Y−Yに沿って、2個所で切断される。
【0107】
144Cは吸着、移送手段であり、吸着、移送手段144Cは、封止フィルム16Aが2個所で切断されることにより形成された封止フィルム片を吸着して引き出し部から封止フィルム片を除去し、基材11に形成されている第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aを開放させる。吸着、移送手段144Cに吸着された封止フィルム片は、非図示の封止フィルム片集積手段に移送され、集積される。
【0108】
このように、接着剤層を基材の選択された領域に形成し、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aに形成しないことにより、封止フィルムは第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aには接着されないので、各引き出し部の位置で切断された封止フィルムは電極の引き出し部の位置から容易に除去することができ、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面を容易に開放できる。
【0109】
電極部露出工程144に後続する切断工程150は、基材11を所定の大きさに裁断する工程である。切断工程150は切断手段151Aおよび切断手段151Bを有し、基板11は切断工程150にて切断手段151Aおよび切断手段151Bによりマーキング孔17を基準にして切断され、有機発光層が封止部材層16で被覆され、第1電極引き出し部12aおよび第2電極引き出し部14aの上面が開放された単葉の有機EL素子10が形成される。切断手段151Aおよび切断手段151Bは、上下動するカッターでもよいし、振動を抑えた円形の回転カッターを利用してもよい。
【0110】
以上本発明による有機EL素子を製造する方法について、好ましい実施の態様を示した。本発明により封止部材を電極引き出し部から除去するにあたり、有機発光層や基材を傷つけず、安全に電極引き出し部から除去できる有機EL素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】有機EL素子10の構成を説明する模式図である。
【図2】本発明の実施の形態である有機EL素子の製造のプロセスを示すブロック図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造プロセスの模式図である。
【図4】封止部材接着および切断の製造プロセスの模式図である。
【図5】基材上に接着剤層15を形成する領域を示す図である。
【図6】スクリーン印刷のステンシルを示す平面模式図である。
【図7】基材11に封止フィルムを接着した後、第1電極引き出し部および第2電極引き出し部を開放する過程を説明する図である。
【図8】発明の異なる実施の形態における封止部材接着および切断の製造プロセスの模式図である。
【図9】接着シートを用いて基材上に接着剤層を形成し、封止フィルムを接着した後第1電極引き出し部および第2電極引き出し部を開放する過程を説明する図である。
【符号の説明】
【0112】
10 有機EL素子
11 基材
12 第1電極
13 有機発光層
14 第2電極
15 接着剤層
16 封止部材層
16A 封止フィルム
110 洗浄工程
120 有機EL構造体形成工程
130 保護膜形成工程
140 封止部材接着工程
141C ステンシル
141D 接着シート
144X、144Y 超音波カッター
150 切断工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロール方式により、可撓性の長尺基材の上に、有機発光層と、それぞれ引き出し部を有する陽極および陰極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス構造体を形成する工程を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された前記長尺基材の前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された面に接着剤層を介して長尺の封止部材を重畳し被覆する工程と、
前記長尺基材を被覆する前記封止部材を切断して、前記陽極および陰極の引き出し部を露出する工程と、
前記陽極および陰極の引き出し部位置で切断された前記封止部材を、前記長尺基材から除去する工程と、
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記接着剤層を、前記有機エレクトロルミネッセンス構造体が形成された前記長尺基材における前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域に形成することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域への前記接着剤層の形成を、スクリーン印刷法により実施することを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記陽極および陰極の引き出し部を除外した領域への前記接着剤層の形成を、開口を有する接着シートを、前記開口を前記引き出し部に対応させて重置することにより形成することを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記陽極および陰極の引き出し部を露出する工程における前記封止部材の切断に超音波カッターを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−179783(P2007−179783A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374645(P2005−374645)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】