説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】バッファ層と第2電極との間のリークを抑止した有機EL素子を低コストに製造する方法を提供する。
【解決手段】第1電極11と、バッファ層30と、発光層40と、第2電極50とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子1を製造する方法に関する。エレクトロルミネッセンス発光材料を含有するインクを、バッファ層30上に、バッファ層30の上面内に表面張力により保持できる最大体積量よりも大きい量でもって吐出する吐出工程と、バッファ層30上に吐出されたインクを乾燥させることにより発光層40を得る工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代平面表示素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称する。)が注目されている。
【0003】
一般的に、有機EL素子は、第1電極と、第1電極の上に設けられたバッファ層(正孔輸送層、正孔注入層等)と、バッファ層の上に設けられた発光層と、発光層の上に設けられた第2電極とを有する。
【0004】
有機EL素子では、正孔輸送層等のバッファ層が発光層により完全に被覆されることが好ましい。バッファ層が発光層の上に形成される第2電極と直接接触すると電流のリークが発生するため、発光効率が低下する。
【0005】
しかしながら、インクジェット法を用いてバッファ層や発光層を形成する場合、バッファ層の表面の一部が発光層から露出してしまう恐れがあるという問題がある。
【0006】
このような問題に鑑み、例えば特許文献1には、発光層の成膜領域が正孔輸送層の成膜領域と同じか若しくはそれ以上である有機EL素子が開示されている。特許文献1に記載された有機EL素子によれば、正孔輸送層/正孔注入層と第2電極(陰極)間のリークを防ぐことができると記載されている。
【特許文献1】特再表01/074121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発光層の成膜領域が正孔輸送層の成膜領域と同じか若しくはそれ以上となるような製造条件を見出すためには実際に有機EL素子を試作してみる必要があった。このため、製造に要するコストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バッファ層と第2電極との間のリークを抑止した有機EL素子を低コストに製造する方法を実現することにある。
【0009】
尚、特許文献1にはバッファ層を形成するためのインク(以下、「バッファ層形成インク」と略称する。)の体積量よりも発光層を形成するためのインク(以下、「発光層形成インク」と略称する。)の体積量を大きくすることにより、発光層の成膜領域が正孔輸送層の成膜領域と同じか若しくはそれ以上とすることが開示されている。しかしながら、バッファ層形成インクよりも発光層形成インクの体積量を大きくしたとしても、必ずしも発光層の成膜領域が正孔輸送層の成膜領域と同じか若しくはそれ以上となるわけではない。このため、やはりバッファ層形成インクよりも発光層形成インクの体積量を大きくした場合であっても、好適な製造条件を見出すために、実際に有機EL素子を作製する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る製造方法は、第1電極と、第1電極の上に設けられたバッファ層と、バッファ層の上に設けられ、エレクトロルミネッセンス発光材料を含有する発光層と、発光層の上に設けられた第2電極とを少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する方法に関する。本発明に係る製造方法は、エレクトロルミネッセンス発光材料を含有するインク(発光層形成インク)を、バッファ層上に、バッファ層の上面内に表面張力により保持できる最大体積量よりも大きい量でもって吐出する吐出工程と、バッファ層上に吐出された発光層形成インクを乾燥させることにより発光層を得る工程とを有する。また、本発明に係る製造方法は、最大体積量を求める算出工程をさらに有していてもよい。
【0011】
本発明に係る製造方法では、吐出された発光層形成インクの体積量がバッファ層の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インクの最大体積量よりも大きい。このため、吐出された発光層形成インクはバッファ層上から溢れる。従って、バッファ層を発光層で被覆することができる。その結果、バッファ層と第2電極との間のリークの発生を抑制することができる。
【0012】
また、バッファ層の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インクの最大体積量はバッファ層の表面積及び、バッファ層に対する発光層形成インクの表面張力を用いて計算により求めることができる。このため、実際に有機EL素子を試作せずとも好適な製造条件を見出すことができる。従って、製造に先立つ試作等に要する時間、コストを削減することができるので、本発明に係る製造方法によれば低コストに有機EL素子を製造することができる。
【0013】
さらに、形状寸法等の仕様変更があった場合であっても、バッファ層形成インク及び発光層形成インクの組成が共通である限り、実験することなく、計算のみによって好適な製造条件を見出すことができる。
【0014】
尚、均一な発光層を得る観点から、バンクに対する発光層形成インクの表面張力を大きくする試みは従来なされていた。しかし、バッファ層に対する発光層形成インクの表面張力に関しては従来注目されていなかった。バッファ層に対する発光層形成インクの表面張力に着目することで、バッファ層を発光層により容易に被覆することができることは本発明者らが誠意研究した結果、初めて見出されたことである。
【0015】
本発明にかかる製造方法では、吐出工程を発光層形成インクを複数回に分けてバッファ層上に吐出することにより行ってもよい。この場合、バッファ層上に吐出される発光層形成インクの総体積量がバッファ層の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インクの最大体積量よりも大きければよい。
【0016】
本発明にかかる製造方法では、バッファ層は正孔注入層及び/又は正孔輸送層であってもよい。
【0017】
本発明に係る有機EL素子は上記本発明に係る製造方法により製造されたものである。このため、本発明に係る有機EL素子は、高い発光効率を有し、かつ製造コストが低い。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によればバッファ層と第2電極との間のリークを抑止した有機EL素子を低コストに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
(実施形態1)図1は本実施形態1に係る有機EL素子1の一部分の断面図である。尚、下記実施形態は本発明の一例を示しているにすぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
本実施形態1に係る有機EL素子1はアクティブマトリクス基板10と、アクティブマトリクス基板10上に格子状に形成されたバンク(隔壁)20とを有する。アクティブマトリクス基板10の表面にはマトリクス状に配列された複数の第1電極(例えば陽極)11が設けられている。バンク20は隣接する第1電極11の間に設けられ、第1電極11をそれぞれに区画するように格子状に設けられている。バンク20は横断面が略台形となるように形成されている。ここで、「略台形」とは台形の角部が鈍角化された形状をいう。角部を鈍角化するとは、90度を超える角(複数でもよい)又は曲線で角部を構成することをいう。曲線と鈍角との組み合わせによって角部を構成しても構わない。尚、本実施形態1に係る有機EL素子1では、バンク20から露出する第1電極11の部分の形状はほぼ円形である。
【0022】
バンク20によってそれぞれに区画された第1電極11の上にはバッファ層30が形成されている。さらにバッファ層30の上には発光層40が形成されている。バッファ層30は正孔注入層及び/又は正孔輸送層により構成してもよい。正孔注入層を設けることにより第1電極11から発光層40への正孔注入効率を向上することができる。正孔輸送層を設けることにより第1電極11から発光層40への正孔輸送効率を向上することができる。
【0023】
発光層40の上には第2電極50が設けられている。詳細には、第2電極50は複数の発光層40及びバンク20の全表面を覆うように面状に形成されている。発光層40と第2電極50との間に更にバッファ層を形成してもよい。この場合、発光層40と第2電極50との間に形成されるバッファ層は電子注入層及び/又は電子輸送層であってもよい。
【0024】
本実施形態1ではバッファ層30は発光層40によって被覆されている。換言すれば、バッファ層30の全表面の上には発光層40が形成されている。このため、バッファ層30と第2電極50とが直接接触することが抑制されている。従って、バッファ層30と第2電極50との間の電流リークが抑制されるので、有機EL素子1は高い発光効率を有する。
【0025】
本実施形態1に係る有機EL素子1では、バンク20の表面の一部を被覆するようにバッファ層30を形成することが好ましい。例えば、バンク20の斜面の一部を覆うようにバッファ層30を形成してもよい。また、バンク20の斜面及び頂面の一部を覆うようにバッファ層30を形成してもよい。このように、バンク20の表面の一部を被覆するようにバッファ層30を設けることによって、バンク20が設けられた領域をも発光領域とすることができる。このため、高い開口率を実現することができる。
【0026】
より高い開口率を実現する観点からバンク20の表面のうちバッファ層30に被覆されている部分がバンク20の全表面の40%以上であることが好ましい。50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。
【0027】
また、例えば、平面視において、バッファ層30が占める領域が第1電極11が占める領域よりも大きくなるようにバッファ層30を形成してもよい。
【0028】
だたし、隣接するバッファ層30間における電流リーク等の発生を抑止するため、バンク20の中央にバッファ層30が形成されていないことが好ましい。換言すれば、バンク20の表面のうちバッファ層30に被覆されている部分がバンク20の全表面の90%以下であることが好ましい。より好ましくは、80%以下であり、さらに好ましくは70%以下である。
【0029】
尚、バッファ層30は3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)等を含むことが好ましい。
【0030】
次に、図1及び図2を参照しながら有機EL素子1の製造方法について説明する。
【0031】
まず、表面にマトリクス状に複数の第1電極11が形成されたアクティブマトリクス基板10を用意する。用意したアクティブマトリクス基板10の上にバンク20を形成する。バンク20は例えば感光性のノボラック系樹脂やアクリル系樹脂により形成することができる。具体的には、アクティブマトリクス基板10の上にノボラック系樹脂等からなる膜をスピンコート法等により形成し、フォトリソグラフィー法等を用いてパターニングすることによりバンク20を得る。尚、第1電極11の表面は親液性(以降の工程で滴下するインクに対してなじむ性質)を有し、バンク20の表面は發液性(以降の工程で滴下するインクをはじく性質)を有することが好ましい。例えば、バンク20形成後に、酸素ガスとフルオロカーボンガスを用いてプラズマ処理することにより、第1電極11の表面を親液性に、バンク20の表面を撥液性にすることができる。第1電極11の表面を親液性にすることにより、第1電極11とバッファ層30との親和性を向上することができるので、均一なバッファ層30を形成することができる。また、バンク20の表面を撥液性にすることで、インクの溢れ等を抑止することができる。
【0032】
バンク20によりそれぞれに区画された第1電極11の上にバッファ層30を形成する。バッファ層30はインクジェット法等のウエットプロセスにより形成することができる。具体的には、正孔輸送材料は正孔注入材料等を含むバッファ層形成インクを調製する。そのバッファ層形成インクを第1電極11の上に滴下(吐出)し、乾燥させることによりバッファ層30を形成する。
【0033】
バッファ層30の上に発光層40を形成する。発光層40も、バッファ層30と同様に、インクジェット法等のウエットプロセスにより形成することができる。具体的には、エレクトロルミネッセンス発光材料を含有する発光層形成インク41を調製する。その発光層形成インク41をバッファ層30の上に滴下(吐出)し、乾燥させることにより発光層40を形成する。尚、発光層40及びバッファ層30はインクを複数回に分けて吐出することにより形成しても構わない。
【0034】
図2は発光層形成インク41を滴下する工程を表す断面図である。
【0035】
図2を参照しながら発光層40を形成する工程について更に詳細に説明する。本実施形態1では、バッファ層30の上に滴下する発光層形成インク41の体積量はバッファ層30の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インク41の最大体積量よりも大きい。このため、吐出された発光層形成インク41はバッファ層30上から溢れる。従って、バッファ層30を発光層40で被覆することができる。その結果、バッファ層30と第2電極50との間のリークの発生を抑制することができる。
【0036】
また、バッファ層30の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インク41の最大体積量は、バッファ層30の表面積、及びバッファ層30に対する発光層形成インク41の表面張力さえ与えられれば計算により求めることができる。このため、実際に有機EL素子1を試作せずとも好適な製造条件を見出すことができる。従って、製造に先立つ試作等に要する時間、コストを削減することができる。
【0037】
また、形状寸法等の仕様変更があった場合であっても、バッファ層形成インク及び発光層形成インク41の組成が共通である限り、実験することなく、計算のみによって好適な製造条件を見出すことができる。
【0038】
次に、バッファ層30の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インク41の最大体積量(以下、単に「最大体積量」とすることがある。)の算出方法の一例を示す。例えばガラス基板上にバッファ層を形成する。その上に発光層形成インク41を滴下する。そして、滴下されたインク滴とバッファ層との接触角を測定する。測定された接触角を元に最大体積量を算出することができる。
【0039】
例えば、本実施形態1では、バンク20から露出する第1電極11の部分の形状がほぼ円形である。円の半径をrとし、接触角をθとすると、最大体積量Vmaxは下記数式1で求めることができる。
【0040】
【数1】

【0041】
(実施形態2)図3は実施形態2に係る有機EL素子2の一部分の断面図である。
【0042】
図4は有機EL素子2のバンク20周辺部分の拡大断面図である。
【0043】
実施形態2に係る有機EL素子2は、実施形態1に係る有機EL素子1とバンク20の形状が異なる点を除いてほぼ同一の形態を有する。ここでは、実施形態1とは異なるバンク20周辺部分について詳細に説明する。尚、以下の実施形態2において、実施形態1と実質的に同じ機能を有する構成要素を共通に参照符号で説明し、説明を省略する。
【0044】
実施形態2に係る有機EL素子2では、バンク20は表面の横断面が円弧となるように形成されている。言い換えれば、バンク20の表面は曲面により構成されている。本実施形態2に係る有機EL素子2でも実施形態1に係る有機EL素子1と同様に、バンク20の表面の一部を被覆するようにバッファ層30を形成することが好ましい。例えば、バンク20の表面のうち、頂部付近を残した全表面を覆うようにバッファ層30を形成してもよい。具体的には、アクティブマトリクス基板10から頂部までの高さをHとすると、アクティブマトリクス基板10からの高さがHの50%以上(好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上)である部分を除いてバッファ層30で被覆してもよい。このように、バンク20の表面の一部を被覆するようにバッファ層30を設けることによって、バンク20が設けられた領域をも発光領域とすることができる。このため、高い開口率を実現することができる。また、図3に示すように、平面視において、バッファ層30が占める領域A2が第1電極11が占める領域A1よりも大きくなるようにバッファ層30を形成してもよい。
【0045】
だたし、隣接するバッファ層30間における電流リーク等の発生を抑止するため、バンク20の中央にバッファ層30が形成されていないことが好ましい。具体的には、バッファ層30により被覆される領域はアクティブマトリクス基板10からの高さがHの90%以下(好ましくは80%以下)の領域であることが好ましい。
【0046】
尚、バッファ層30は3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)等を含むことが好ましい。
【0047】
また、実施形態2に係る有機EL素子2においても、バッファ層30は発光層40により被覆されている。このため、バッファ層30と第2電極50との間の電流リークを抑止することができる。従って、高い発光効率を実現することができる。
【0048】
実施形態2に係る有機EL素子2も、実施形態1に係る有機EL素子1と同様の製造工程で製造することができる。すなわち、バッファ層30の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インク41の最大体積量はバッファ層30の表面積及び、バッファ層30に対する発光層形成インク41の表面張力を用いて計算により求めることができる。また、平板ガラス上にバッファ層をスピンコート法などにより成膜し、この上に発光層インクを滴下して接触角をはかる等の簡便な方法で接触角を求め、これを使って保持できる発光層形成インクの最大体積量を計算により求めてもよい。このため、実際に有機EL素子2を試作せずとも好適な製造条件を見出すことができる。従って、製造に先立つ試作等に要する時間、コストを削減することができるので、本実施形態2に係る製造方法によっても低コストに有機EL素子2を製造することができる。
【0049】
また、形状寸法等の仕様変更があった場合であっても、バッファ層形成インク及び発光層形成インク41の組成が共通である限り、実験することなく、計算のみによって好適な製造条件を見出すことができる。
【0050】
尚、一般的に、バッファ層形成インクのバンク20に対する表面張力よりも、発光層形成インク41のバンク20に対する表面張力の方が小さい。換言すれば、発光層形成インク41の方が、バッファ層形成インクよりもバンク20に濡れやすい。この場合、それぞれの第1電極11上に吐出される発光層形成インク41の体積量はそれぞれの第1電極11上に吐出されるバッファ層形成インクの体積量よりも小さいことが好ましい。吐出される発光層形成インク41の体積量がバッファ層形成インクの体積量よりも小さくてもバッファ層30を発光層40により被覆することができる。また、吐出される発光層形成インク41の体積量を比較的小さくすることによって発光層形成インク41がバンク20を超えて溢れ出すことを抑制することができる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)実施例1として、実施形態1と同様の形態を有する有機EL素子を製造した。ここでは説明の便宜上、実施形態1と実質的に同じ機能を有する構成要素を共通に参照符号で説明し、説明を省略する。
【0052】
まず、表面にインジウムスズ酸化物(ITO)からなる第1電極11がマトリクス状には位置されたアクティブマトリクス基板10を用意した。アクティブマトリクス基板10の上に感光性アクリル樹脂をスピンコートした。スピンコートされたアクリル樹脂膜をフォトリソグラフィー法によりパターニングすることによりバンク20を形成した。バンク20に設けられた、第1電極11に開口する開口部は円形とした。開口部の半径は200μmとした。
【0053】
酸素ガスとフルオロカーボンガスとを用いて連続してプラズマ処理を施した。これにより、バンク20の表面を撥液性となり、第1電極11の表面を親液性となった。
【0054】
3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)の水分散液(バイエル社製、BYTRON P)を用いて正孔輸送層を形成するためのインク(正孔輸送層形成インク)を調製した。正孔輸送層形成インクの組成は下記表1に示す通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
PEDOT/PSSの濃度は7重量%とした。この正孔輸送層形成インクの表面張力は44mN/mであった。尚、本明細書において、インクの表面張力は協和界面科学(株)社製CBVP−Zにより測定した。
【0057】
1滴あたり40pl(ピコリットル)のインクを吐出することができるインクジェットヘッドを用いて、得られた正孔輸送層形成インクを第1電極11上(開口部)に吐出した。開口部のそれぞれには50滴のインク、合計2000plのインクを吐出した。吐出後、ホットプレートを用いて、200℃で30分間焼成することにより正孔輸送層(バッファ層)30を得た。得られた正孔輸送層30は円形で、半径は約205μmであった。
【0058】
ポリフルオレン系高分子誘導体を1,3,5−トリメチルベンゼンに溶解させて発光層形成インク41を調製した。発光層形成インク41の濃度は10mg/mlであった。また、表面張力は29mN/mであった。
【0059】
バッファ層30の上面内に表面張力により保持できる発光層形成インク41の最大体積量(Vmax)を求めた。具体的には下記方法により最大体積量(Vmax)を求めた。まず、正孔輸送層30を形成するのに用いた正孔輸送層形成インクをガラス基板上にスピンコートし、200℃で30分間焼成することにより評価用基板を作製した。評価用基板上に正孔輸送層形成インクを1μl滴下し、接触角を測定した。尚、本実施例では接触角の測定には協和界面科学(株)社製CA−Wを用いた。実施例1では発光層形成インク41の正孔輸送層30に対する接触角(θ)は11°であった。この結果から、上記数式1を用いて最大体積量(Vmax)を算出した。その結果、最大体積量(Vmax)は1307plと算出された。
【0060】
正孔輸送層30が形成されたアクティブマトリクス基板10上に、1滴あたり40pl(ピコリットル)のインクを吐出することができるインクジェットヘッドを用いて、得られた発光層形成インク41を吐出した。具体的には開口部あたり、計算された最大体積量1307plより多い1320pl(33滴)を吐出した。その後、200℃で30分焼成することにより発光層40を得た。
【0061】
顕微鏡で観察したところ、得られた発光層40は円形で、半径は約207μmであった。また、正孔輸送層30は発光層40により被覆されており、正孔輸送層30が表面に露出している部分は観察されなかった。また、発光層形成インク41がバンク20をこえて溢れたところも観察されなかった。
【0062】
最後に、蒸着法を用いて層厚20nmのカルシウム薄膜と、スパッタ法を用いて層厚200nmのアルミニウム薄膜とを形成し、第2電極50を得た。
【0063】
(実施例2)開口部あたりの発光層形成インク41の吐出量を除いては実施例1と同様の条件で実施例2に係る有機EL素子を作製した。
【0064】
実施例2では、開口部あたりの発光層形成インク41の量を2000plとした。その結果、得られた発光層を顕微鏡により観察すると、正孔輸送層30は発光層40により被覆されており、正孔輸送層30が表面に露出している部分は観察されなかった。発光層形成インク41がバンク20をこえて溢れた箇所は観察された。
【0065】
(比較例)開口部あたりの発光層形成インク41の吐出量を除いては実施例1と同様の条件で比較例に係る有機EL素子を作製した。
【0066】
比較例では、開口部あたりの発光層形成インク41の量を1000plとした。その結果、得られた発光層を顕微鏡により観察すると、正孔輸送層30は発光層40により被覆されていない箇所(正孔輸送層30が表面に露出している箇所)が観察された。発光層形成インク41がバンク20をこえて溢れたところは観察されなかった。
【0067】
実施例1、2及び比較例の結果を下記表2にまとめた。
【0068】
【表2】

【0069】
表2からわかるように、接触角から最大体積量を算出することにより、正孔輸送層30を発光層40によって被覆することができる好適な製造条件が見いだせることがわかった。また、有機EL素子を試作して製造条件を見いだす方法に比較して、正孔輸送層30に対する発光層形成インク41の接触角の測定実験は容易であるため、容易かつ迅速に好適な製造条件を見いだすことができた。
【0070】
実施例1及び実施例2の結果から、発光層形成インク41の体積量を正孔輸送層形成インクの体積量よりも小さくすることによって発光層形成インク41の溢れ出しを効果的に抑制することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は本実施形態1に係る有機EL素子1の一部分の断面図である。
【図2】発光層形成インク41を滴下する工程を表す断面図である。
【図3】実施形態2に係る有機EL素子2の一部分の断面図である。
【図4】有機EL素子2のバンク20周辺部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1、2 有機EL素子
10 アクティブマトリクス基板
11 第1電極
20 バンク
30 バッファ層
40 発光層
41 発光層形成インク41
50 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
上記第1電極の上に設けられたバッファ層と、
上記バッファ層の上に設けられ、エレクトロルミネッセンス発光材料を含有する発光層と、
上記発光層の上に設けられた第2電極とを少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記エレクトロルミネッセンス発光材料を含有するインクを、上記バッファ層上に、該バッファ層の上面内に表面張力により保持できる最大体積量よりも大きい量でもって吐出する吐出工程と、
上記バッファ層上に吐出された上記インクを乾燥させることにより上記発光層を得る工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記最大体積量を求める算出工程をさらに有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記吐出工程は、上記インクを複数回に分けて上記バッファ層上に吐出することにより行うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記バッファ層は正孔注入層及び/又は正孔輸送層である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載された製造方法によって製造された有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−192311(P2008−192311A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142399(P2005−142399)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】