有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法
【課題】容易に形成でき、且つ発光特性などの品質が高い有機EL素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】基板と、基板の主面の少なくとも一部の領域上に設けられた第1電極層と、第1電極層の面の少なくとも一部の領域上に設けられ、水に不溶性の有機材料で形成された有機下地層と、有機下地層上に設けられ、有機下地層がその上に複数の画素領域を有するように配置された隔壁と、有機下地層上であって画素領域内に設けられた有機発光層と、有機発光層上に設けられた第2電極層と、第1電極層と第2電極層の間であり、かつ、隔壁の側壁部と、第1電極層および有機下地層の間に介在する層とが隣り合う境界領域の全部または一部に設けられ、少なくとも前記有機発光層より電気抵抗の高い、リーク電流ブロック層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子とする。
【解決手段】基板と、基板の主面の少なくとも一部の領域上に設けられた第1電極層と、第1電極層の面の少なくとも一部の領域上に設けられ、水に不溶性の有機材料で形成された有機下地層と、有機下地層上に設けられ、有機下地層がその上に複数の画素領域を有するように配置された隔壁と、有機下地層上であって画素領域内に設けられた有機発光層と、有機発光層上に設けられた第2電極層と、第1電極層と第2電極層の間であり、かつ、隔壁の側壁部と、第1電極層および有機下地層の間に介在する層とが隣り合う境界領域の全部または一部に設けられ、少なくとも前記有機発光層より電気抵抗の高い、リーク電流ブロック層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ということがある。)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、通常、基板上に所定の層が順次積層されて形成され、一対の電極(陽極および陰極)と、該電極間に配置された発光層とを含んで構成される。電極間には、発光層の他に、いわゆる電荷注入層(正孔注入層または電子注入層)、および電荷輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)などが必要に応じて設けられる。有機EL素子は、電圧を印加すると陽極および陰極からそれぞれ電子および正孔が注入され、両電極から注入された電子および正孔が発光層で再結合することによって発光する。このような有機EL素子は、照明装置や画像表示装置に用いることができる。
【0003】
例えば表示装置では、格子状の隔壁(バンクとも呼ばれる)が基板に設けられ、該隔壁で囲まれた各画素領域に各有機EL素子が形成されているのが通常である。たとえば発光層は、発光層材料を含むインキを各画素領域にそれぞれ供給し、さらに乾燥させることによって形成される。
従来、有機蛍光体層(発光層)を形成する際に、各画素領域にそれぞれ設けられる有機蛍光体層の厚みがばらついてしまうという問題があった。このばらつきの発生を抑制することなどを目的として、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)を含む溶液を基板上にスピンコーティングし、さらに乾燥させることによって有機下地層(正孔注入層)を形成した後、該有機下地層上に隔壁を設ける工程を経て作製された有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また隔壁を電極上に直接形成する場合には、発光層(インク)のパターニング精度を高めることができる反面、インク液滴が隔壁の前記画素領域に臨む表面(以下、隔壁の側面という場合がある)ではじかれることに起因して、基板上に形成される下部電極と隔壁との境界部において発光層の厚さが薄くなる場合がある。この問題を回避するため、例えば特許文献2には、下部電極と隔壁との間に、下部電極の周縁部を覆う酸化シリコン等の無機絶縁膜を設けた素子構成が開示されている。発光層の厚さが薄くなる部分に無機絶縁膜を設けることによって、隔壁と下部電極との境界部における絶縁耐圧を向上させることができ、電気的リークを抑制している。
【0005】
【特許文献1】特開2004−235128号公報
【特許文献2】特開2005−203215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォトリソグラフィ法によって隔壁を形成する場合、有機蛍光体層(発光層)の膜厚のばらつきを抑制することを目的として設けた有機下地層が現像処理において浸食され、その膜厚が不均一になってしまう。そうすると、有機下地層上に形成される有機蛍光体層(発光層)の平坦性が低下するとともに、有機下地層の膜厚が不均一になるので、結果として各有機EL素子の発光強度が不均一となり、表示品質が不充分となる場合がある。
【0007】
また、特許文献2の方法では、一般的に、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)やスパッタリング法等の真空装置を用いた方法によって無機絶縁膜を形成しなければならない。そのため、特許文献2の方法は、高額な設備投資を必要とする共に、工程が複雑化し、大画面化への対応が困難であるという問題がある。さらに、特許文献2の方法においては、以下に説明するように正孔注入層を介して流れるリーク電流に対しては無機絶縁膜が効果的に機能しないという課題があった。
【0008】
図10に、従来の有機EL素子の一例を示す。図10に示す有機EL素子110では、基板101上に島状の下部電極が離散的に設けられ、各下部電極の周縁部を覆うとともに各下部電極上に設定される各画素領域R1を囲む隔壁104が形成されている。画素領域において、下部電極102上に有機発光層105が積層され、さらに、上部電極107が形成されている。有機発光層105は、有機発光層105となる材料を含むインクをインクジェット法などによって画素領域に吐出し、着弾したインクを固化させることで形成し得る。インクジェット法などのいわゆるウエットプロセスによって層を形成する場合、インクの粘度やインクが接触する部材の材質等によって決まる表面張力等の影響を受け、必ずしも画素領域全面にわたり完全に平坦な層を形成することは難しい。例えばインクは、溶質の割合が通常1重量%程度と低く、そのほとんどが乾燥時に除去される溶媒によって構成される。従って有機発光層105の体積に比して多量のインクが画素領域に供給されることになるが、隔壁がインクに対して撥液性を示す場合、隔壁の側面(隔壁の画素領域に臨む表面)にインクが弾かれつつ溶媒が乾燥していくので、図10の例に示すように、インクが画素領域の中央部に寄ってしまい、そのまま硬化する。そうすると、有機発光層105の周縁部が中央部に比べて薄くなり、また隔壁104と有機発光層105とが隣り合う境界領域R2に、有機発光層105が形成されない場合が生じうる。境界領域R2にできた有機発光層105と隔壁104との間の隙間に上部電極107が入り込んで形成されるので、本来の設計よりも下部電極102と上部電極107との間隔が狭まり、この部分においてリーク電流が生じやすくなってしまう場合がある。
【0009】
図11には、従来の有機EL素子の他の例を示す。図11に示す有機EL素子120では、電荷注入層103の上に、有機発光層105が設けられている。図11に示すように、隔壁に囲まれた画素領域R1にインクジェット法などのように液体を吐出して、さらに乾燥させることによって層を形成する場合、前述したように有機発光層105の体積に比して多量のインクが画素領域に供給されることになる。隔壁がインクに対して親液性を示す場合、インクが隔壁の側面に引きづられつつ溶媒が乾燥していくので、隔壁104の側面に沿って形成される這い上がり部103aおよび105aが形成される場合がある。このような場合も、結果として、図10に示す例と同様に、隔壁104と、層が隣り合う境界領域R2において、リーク電流が生じやすくなってしまう場合がある。このようなリーク電流が生じると、発光効率が低下し、ひいては素子寿命が低下し、発光特性などの品質が低下する。
【0010】
本発明は、上記のような状況に鑑み成されたものであり、容易に形成でき、且つ発光特性などの品質が高い有機EL素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明では、下記の構成を備える有機EL素子およびその製造方法を提供する。
【0012】
〔1〕基板と、
前記基板の主面上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、
前記有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、
前記画素領域に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、
前記第1電極層および前記第2電極層の間において、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備え、
前記基板の厚み方向における前記リーク電流ブロック層の電気抵抗が、前記基板の厚み方向における前記有機発光層の電気抵抗よりも高い、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔2〕前記リーク電流ブロック層の電気抵抗率が、106Ωcm以上である、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔3〕前記リーク電流ブロック層が、熱または光により架橋した高分子樹脂層である、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔4〕前記有機下地層が正孔注入層である、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔5〕前記有機下地層が、正孔注入層と、該正孔注入層の第2電極層側の主面に積層されて成るインターレイヤーとから成る、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔6〕前記有機下地層の電気抵抗率が1010Ωcm以上である、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔7〕前記水に不溶性の有機材料が、架橋した高分子化合物である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔8〕前記基板の厚み方向から見た前記境界領域の平面形状が、略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む略長円形状をなし、前記リーク電流ブロック層が、境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部に設けられている、上記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔9〕基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程と、
前記第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程と、
前記有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程と、
前記画素領域に有機発光層を設ける工程と、
前記画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、前記有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程と、
前記リーク電流ブロック層を形成した後、前記有機発光層を基準にして前記第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程とを含む、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔10〕前記隔壁を撥液性を有する材料で形成し、前記隔壁内に設ける層を、インクジェット法により形成する、上記〔9〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL素子は、隔壁の下に発光素子の積層構造の一部として有機下地層を有し、さらに当該有機下地層として水に不溶性の有機材料を用いることにより、表示品質が高い有機EL素子を容易に形成することができる。また本発明の有機EL素子の製造方法によれば、前記本発明の有機EL素子を容易に製造することができる。また、本発明によれば、簡素な構造でリーク電流を防止し得る有機EL素子を提供し得る。本発明により、信頼性の高い有機EL素子を簡便に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしも図の通りに基板が鉛直方向の下方に配置されて製造または使用等がなされるわけではない。
【0015】
本発明の有機EL素子は、基板と、基板の主面上に設けられた第1電極層と、第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、画素領域に設けられた有機発光層と、有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、第1電極層と前記第2電極層の間であり、かつ、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と、前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備える。リーク電流ブロック層は、基板の厚み方向における有機発光層の電気抵抗より高い電気抵抗を有する。なお、以下では、基板の厚み方向の一方を上方(または上)といい、基板の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。
【0016】
図1から図3に、本発明の有機EL素子およびこれを複数備えられた有機エレクトルミネッセンス装置(以下、有機EL装置という場合がある)の一実施形態を示す。図1は、複数の有機EL素子が搭載された有機EL装置の一部を示すものであり、図2の斜視図における切断面線A−Aから見た矢視断面図である。図2は、有機EL装置60における基板及び電極の位置関係を示す斜視図である。図3は、図1の断面図の一部を拡大した図である。
【0017】
図2に示す有機EL装置60は、いわゆるパッシブマトリクス型に構成されている。パッシブマトリクス型の有機EL装置60では、基板1の一方の主面上において線状に延びる複数本の第1電極層2が互いに平行に設けられ、平面視で前記第1電極層2に直交するように線状に延びる複数本の第2電極層7が互いに平行に設けられている。すなわち平面視で第1電極層2及び第2電極層7が格子状に設けられる。第1電極層2と第2電極層7の間には、有機発光層5などを含む積層体が形成され、この積層体と第1および第2電極層2、7とによって有機EL素子が構成される。平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する領域に、後述する隔壁により規定される画素領域が設定され、この画素領域に前述した積層体が設けられる。なお、各電極層に接続し、所定のタイミングで所定の電極層に所定の電圧を印加することによって各有機EL素子を駆動する回路(不図示)を有機EL装置60はさらに備える。
【0018】
有機下地層3は、基板1の厚み方向の一方から第1電極層2および基板1の表面を覆って形成される。図2に示すように、本実施形態では、有機下地層3は、平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する各交点の最外周を内包するマトリクス領域12の全領域に連続的に一体形成されている。有機下地層3は、第1電極層上において画素領域にのみ形成されてもよい。すなわち、第1電極層上において、各第1電極層2に沿って島状の有機下地層3を離散的に形成してもよいが、製造上は、例えばインクジェット法以外の、蒸着法やスピンコーティング法などによって有機下地層3を基板1上に連続的に一体形成する方が簡便である。
【0019】
有機下地層3上には、各画素領域R1を囲む隔壁4が形成される。前述したように各画素領域R1は、平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する領域であり、隔壁4は、有機下地層3の主面のうちの画素領域R1を除く残余の表面に形成される。すなわち隔壁4は、有機下地層3の主面上において格子状に設けられる。
【0020】
画素領域R1(隔壁で囲まれた領域)には、前述したように有機発光層5が設けられる。有機発光層5は、有機化合物を含み、インクジェット法などのいわゆるウエットプロセスで形成される場合が多い。なお、インクの粘度や周囲との相性などによっては、インクが画素領域の中央部に向かって収縮して固化し、有機発光層5の端部の層厚が薄くなってしまう場合がある(図10参照)。有機発光層5の膜厚の薄い部分に直接的に第2電極7またはその補助層が設けられると、この部分を介してリーク電流が発生するおそれがある。しかし、図1および図3に示すように、本実施形態では、有機発光層5と隔壁4とが隣り合う境界領域R2に、リーク電流ブロック層6が設けられており、リーク電流の発生を防止している。有機EL素子では、いくつかの構成層の形成方法としてインクジェット法やフォトリソグラフィ法などの方法が採用されるところ、本実施の形態の有機EL素子は、有機下地層3とリーク電流ブロック層6を備え、上記のような層形成方法を採用して作製した場合であっても、各層が平坦に形成されやすく、リーク電流が生じにくい構造を有する。そのため、本実施の形態の有機EL素子は、欠損なども少なく、発光性能に優れた有機EL素子である。
【0021】
まず、各層の構成および構造を中心として、さらに説明する。
1.基板
本発明に用いる基板としては、有機EL素子に用いられる各種の基板を採用することができる。本明細書では、有機EL素子の層の構成に関する記載においては、特に断らない限り「上」「下」及び「水平」方向は、基板を水平に置き、その上方に有機発光層および他の層を設けた場合の位置関係を示す。
【0022】
2.電極層
本発明の有機EL素子は、電極として、基板上に設けられる第1電極層、及び有機下地層及び有機発光層の上に設けられる第2電極層を含む。これらの一方を陽極、他方を陰極とする。第1電極層を陽極とすることが多いがこれに限られず第2電極層を陽極とすることもできる。
【0023】
電極層の具体的な形状は、前述したパッシブマトリクス型の表示装置用の形状に特に限定されず、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置等に適した各種の形状とすることができる。好ましくは、アクティブマトリックス型の表示装置又はパッシブマトリックス型の表示装置等のドットマトリックス表示装置を構成する形状とすることができる。例えばアクティブマトリックス型の表示装置では、例えば基板上において島状の第1電極層が行列状に設けられ、第2電極層が平板状に設けられる。第1電極層は、基板の主面の全面に設けられていてもよいが、通常、多数の画素を構成するためのパターンに従い、基板の主面上の一部の領域上に設けられる。
【0024】
3.有機下地層
本発明の有機EL素子において、有機下地層は、前記第1電極層の面の少なくとも一部の領域上に設けられる。
有機下地層が第1電極層の「少なくとも一部の領域上」に設けられるとは、第1電極層の上側の面上の少なくとも一部の領域に有機下地層が存在している領域があることをいう。従って、第1電極層の上面の全てを有機下地層が覆っていてもよく、第1電極層の上面の一部のみを有機下地層が覆っていてもよい。ただし、通常、第1電極層のうち、後述する画素領域に属する部分は、その全面を有機下地層が覆うよう構成される。また、基板の主面上の、前記第1電極層で覆われていない部分については、有機下地層で覆われていてもよく、覆われていなくてもよい。
【0025】
有機下地層が「少なくとも一部」に設けられるとは、1枚の基板の主面上の一部又は全部の領域を、一枚の有機下地層のみが占めている状態でもよく、1枚の基板の主面が複数の領域に区分され、それぞれの区分された領域を、それぞれ別の有機下地層が占め、複数枚の有機下地層が設けられている状態でもよいことをいう。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、有機下地層は、基板上の複数の画素領域を包含する領域全面を覆うように設けられ、より好ましくは基板上の全ての画素領域を包含する領域全面を覆うように設けられる。このような態様で有機下地層を設けることにより、均一な有機下地層を、スピンコート法などの簡便な方法で形成することができる。
【0027】
さらに、このような有機下地層の構造を、図1に示す実施形態例を再び参照して説明する。この例において、基板1上の上には複数の第1電極層1が設けられ、第1電極層2、およびその間隙の第1電極層2で覆われていない基板1表面の両方にわたり、有機下地層4が一体となった層として連続的に形成されている。このような構成とすることにより、第1電極層2の上に、第1電極層2上において均一な厚さを有し、且つ画素領域間における厚さのばらつきの少ない有機下地層を、スピンコート法などの簡便な手法で容易に設けることができる。
【0028】
本発明の有機EL素子は、図1に示す通り積層構造を有しない1層の有機下地層のみからなってもよいが、積層構造を有する2層以上の有機下地層を有していてもよく、さらに3層以上の有機下地層を有していてもよい。3層以上の層を設けると、電極と隔壁との間隔が厚くなるため、隣接する画素領域とのクロストークを抑制する観点からは、1層又は2層で構成することが好ましい。複数の層で構成される有機下地層を採用する場合、少なくとも、最も第2電極層側に設けられる層は、水に不溶性の有機材料で形成される。
【0029】
また、基板の平面が複数の領域に区分され、それぞれの領域をそれぞれ別の有機下地層が占め、複数枚の有機下地層が設けられている場合は、その区分された領域のそれぞれにおいて、1層の有機下地層又は2層以上の積層された有機下地層を有するように構成してもよい。
【0030】
本発明の有機EL素子における有機下地層は、有機EL素子を構成するために必要な層であって第1電極層以外のいずれかの層の機能を担うことができる。
【0031】
例えば、第1電極層が陽極である場合、有機下地層は、正孔注入層、インターレイヤー及び正孔輸送層のうちの1層以上とすることができる。より好ましい態様において、本発明の有機EL素子は、有機下地層として正孔注入層である1層のみを有するか、または第1の有機下地層及びその上に積層された第2の有機下地層を有し、第1の有機下地層を正孔注入層とし第2の有機下地層をインターレイヤーとすることができる。
【0032】
一方、第1電極層が陰極である場合、有機下地層は、電子注入層、インターレイヤー及び電子輸送層のうちの1層以上とすることができる。より好ましい態様において、本発明の有機EL素子は、有機下地層として電子注入層である1層のみを有するか、又は第1の有機下地層及びその上に積層された第2の有機下地層を有し、第1の有機下地層を電子注入層とし第2の有機下地層をインターレイヤーとすることができる。
【0033】
本発明において、有機下地層の抵抗率は、好ましくは1×1010Ωcm以上である。ここで、有機下地層の抵抗率は、抵抗率計(例えば、ダイアインスツルメンツ社製 ロレスタGP MCP−T610型)により測定することができる。
【0034】
本発明において、有機下地層は、水に不溶性の有機材料で形成される。有機下地層が複数の層からなる場合、少なくとも最上の隔壁と接する層が水に不溶性の有機材料からなり、好ましくは全ての層が水に不溶性の有機材料からなる。本発明に用いられる有機下地層は、水に不溶性の有機材料からなるため、有機下地層上に水を含む溶液を塗布する工程、または後述する隔壁をフォトリソグラフィ法により形成する工程においても、当該層の膜厚が実質的に減少しない。水に不溶性の有機材料としては、水1gに溶解する量が0.1mg以下であることが好ましく、0.01mg以下であることがより好ましく、0.001mg以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明においては、素子を構成する層の1層以上を有機下地層として隔壁の下に設けることにより、スピンコート法等の簡易な成膜方法で形成することができると共に、有機下地層として水に不溶性の材料を採用することにより、この後の隔壁の形成の工程においても有機下地層が損なわれず、その結果高品質な表示性能を得ることができる。
【0036】
4.隔壁
本発明において、隔壁は、有機下地層上に設けられ、有機下地層のそれぞれの上に複数の画素領域を規定する。ここで、有機下地層の「それぞれの上に複数の」画素領域を規定するとは、基板上に有機下地層が複数枚存在する場合は、それぞれの上に複数の画素領域が規定されることを意味する。基板上に有機下地層が一枚存在する場合は、勿論その上に全ての画素領域が規定される。このような構成とすることにより、本発明の有機EL素子においては、隣接する複数の画素における有機下地層が一体に形成されることとなる。即ち、基板表面上の隣接する複数の画素、好ましくは基板表面上の全ての画素の存在する一領域において、有機下地層が別個の層ではなく連続して一体となった層となる。
【0037】
上記構成を、再び図1の例を参照して説明すると、隔壁4は、第1電極層2及び第2電極層7が上下に存在する矩形の領域R1内に画素領域が規定されるよう、その周囲を囲んで、平坦に形成された有機下地層3上に設けられる。即ち、隔壁4に周囲を囲まれ、隔壁4が存在しない領域が画素領域R1となり、一枚の有機下地層3上に、複数の画素領域が規定される。
【0038】
5.有機発光層
本発明において、有機発光層は、隔壁によって規定された画素領域に設けられる。そして、このように設けられた有機発光層の上にさらに、上に述べた第2電極層を形成することにより有機EL素子を構成することができる。
【0039】
図1の例を参照して説明すると、有機発光層5は、隔壁4で規定された画素領域R1に充填される形で設けられ、第1電極層2の上に、有機下地層3を介して積層されている。この上に、平面視で第1電極層2と直交するように第2電極層7を設けることにより、第1電極層2および第2電極層7の間に有機下地層3および有機発光層5が積層された有機EL素子を構成することができる。
【0040】
6.リーク電流ブロック層
本発明の有機EL素子においては、第1電極層と第2電極層の間であり、かつ、隔壁と、第1電極層および有機下地層の間に介在する層との境界領域にリーク電流ブロック層が設けられる。リーク電流ブロック層は、境界領域全体に設けて設けてもよいし、必要に応じて一部分に設けてもよい。リーク電流ブロック層は、第1電極層と第2電極層の間で電流のリークが生じないように、第1電極層と第2電極層との不適切な近接又は直接的な接触を遮断するように設けられる。
【0041】
リーク電流ブロック層は、所定の電気抵抗を有する有機材料を含むインクを画素領域の所定の位置に供給し、これを固化させて形成することができる。例えば、ブロック層を形成する工程においては、有機溶剤および高抵抗有機材料の高分子樹脂を含むインクを用いて、インクジェット法にて吐出した後、熱及び/または光により架橋してリーク電流ブロック層を形成し得る。このとき、高抵抗有機材料の粘度を適宜調整して、インク吐出後の乾燥工程に至るまで上記所定の位置に留まるようにする。
【0042】
ここで、リーク電流ブロック層を形成する有機材料としては、架橋基を有する高分子化合物に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物、高分子化合物と架橋材料を混合した後に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物等があげられる。
【0043】
リーク電流ブロック層は、不適切な電流の流れを遮断するものであり、所定の電気抵抗を有する。リーク電流ブロック層6は、少なくとも有機発光層の電気抵抗より高く設定される。好ましい電気抵抗を数値として示すと、好ましくは106Ωcm以上である。このような電気抵抗を有するリーク電流ブロック層を設けることにより、隔壁と積層体の隣り合う境界領域において不適切な電流の流れを防止し得る。また、リーク電流ブロック層6は、隔壁の側面周辺に、インクジェット法などの簡単なプロセス工程にて形成し得るので、低コストにて大幅に画質の改善をすることができる。
【0044】
通常予定される画素領域の大きさからすると、リーク電流ブロック層の幅は、平面視で隔壁から画素領域の中央部への向かう方向の長さとして、好ましくは1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。
【0045】
リーク電流ブロック層について、図3から図5を参照しつつ、その具体的な実施形態例について説明する。
図3は、図1の断面図の一部を拡大した図である。図3に示されるように、本実施形態では、隔壁4と有機発光層5とが隣り合う境界領域R2に設けられている。リーク電流ブロック層6は、隔壁4の側面に沿って形成されており、隔壁4の上面部近くの上端部6aから、隔壁4の下端部、そして有機発光層5に一部重なる端部6bまでを覆っている。このような位置にリーク電流ブロック層を設けることにより、隔壁近傍で生じやすいリーク電流を抑制し得る。
【0046】
図4および図5は、画素領域R1を基板上方から見た平面図であり、それぞれリーク電流ブロック層6が設けられる領域についての例を示す。図4に示す実施形態例では、リーク電流ブロック層6は、画素領域R1に臨む隔壁4の表面(以下、側面という場合がある)に沿って全周にわたって設けられている。
【0047】
他方、図5に示す実施形態例では、平面視で境界領域R2が略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む概略小判型(略長円形状)を成し(図4参照)、境界領域R2のうちの境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部のみにリーク電流ブロック層6Bが設けられている。リーク電流は、このような湾曲部で発生しやすい場合がある。本実施形態は、危険性のより高い部分について選択的にリーク電流ブロック層6Bを形成する例を示すものである。
【0048】
より信頼性の確率を高めたい場合には、図4に示すように隔壁の側面の全周にわたってリーク電流ブロック層を設けることが好適である。他方、リーク電流が生じやすい部位をさらに特定し得る場合には、例えば図5に示すように、選択的にリーク電流ブロック層6Bを形成することにより、リーク電流ブロック層に有機材料に用する費用を軽減し、コストの削減を図ることができる。
【0049】
7.封止部材
本発明の有機EL素子はさらに、前記各層を挟んで基板とは反対側に、封止のための部材を有することができる。例えば、図2に示す全画素領域を内包する領域(マトリクス領域12)の周辺を囲う領域1Sに設けられた枠状の接着層を介して、封止部材を基板1に貼り合わせることにより、各有機EL素子を構成する各層を封止することができる。
【0050】
8.その他の構成要素
本発明の有機EL素子は、上記構成要素に加えて、さらに他の構成要素を有することができる。具体的には例えば、隔壁により規定される画素領域に、有機発光層に加えてさらに1層以上の他の層を有機EL素子は有していてもよい。例えば、第1電極層と第2電極層との間に介在する層として、有機下地層及び有機発光層に加えて、さらに他の層を設けた複数層で積層体を構成してもよい。他の層としては、電荷注入層(正孔注入層または電子注入層)、電荷輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)、その他のインターレイヤー(ブロック層、保護層など)が挙げられる。また、各層は、一層で構成されてもよいし、複数層によって構成されてもよい。
【0051】
上記必須の構成要素及び任意の構成要素による本発明の有機EL素子の層の構成について、以下により具体的に説明する。
【0052】
一般に、有機EL素子は、少なくとも1対の電極(陽極及び陰極)を有し、その間に少なくとも有機発光層を有する。陽極と有機発光層との間には任意に正孔注入層を有することができ、さらに、有機発光層と正孔注入層(正孔注入層が存在する場合)又は陽極(正孔注入層が存在しない場合)との間に任意にインターレイヤー、正孔輸送層のうちの1層以上を有することができる。他方、陰極と有機発光層との間には任意に電子注入層を有することができ、さらに、有機発光層と電子注入層(電子注入層が存在する場合)又は陰極(電子注入層が存在しない場合)との間に任意にインターレイヤー、電子輸送層のうちの1層以上を有することができる。即ち有機EL素子は下記の層構成a)を有することができ、または、層構成a)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0053】
a)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−陰極
【0054】
ここで、符号「−」は各層が隣接して積層されていることを示す。「(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)」は、正孔輸送層のみからなる層、インターレイヤーのみからなる層、正孔輸送層−インターレイヤーの層構成、インターレイヤー−正孔輸送層の層構成、又はその他の、正孔輸送層及びインターレイヤーをそれぞれ一層以上含む任意の層構成を示す。「(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)」は、電子輸送層のみからなる層、インターレイヤーのみからなる層、電子輸送層−インターレイヤーの層構成、インターレイヤー−電子輸送層の層構成、又はその他の、電子輸送層及びインターレイヤーをそれぞれ一層以上含む任意の層構成を示す。以下の層構成の説明においても同様である。
【0055】
さらに、有機EL素子は、一つの積層構造中に2層の有機発光層を有することができる。この場合、有機EL素子は下記の層構成b)を有することができ、または、層構成b)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0056】
b)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−陰極
【0057】
さらに、有機EL素子は、一つの積層構造中に3層以上の有機発光層を有することができる。この場合、有機EL素子は下記の層構成c)を有することができ、または、層構成c)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0058】
c)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−繰返し単位A−繰返し単位A・・・−陰極
ここで「繰返し単位A」は、電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層の層構成の単位を示す。
【0059】
本発明の有機EL素子も、上記の一般的な有機EL素子がとりうるものと同様の層構成とすることができる。そして、第1電極層を陽極とした場合は、陽極に近い側の1層以上、好ましくは1層若しくは2層を、有機下地層とすることができ、それよりも陽極から遠い層を、隔壁により規定された画素領域内に設けることができる。一方、第1電極層を陰極とした場合は陰極に近い側の1層以上、好ましくは1層若しくは2層を、有機下地層とすることができる。
【0060】
本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体的としては、下記のものが挙げられる。下記において、記号< >で囲まれた要素は有機下地層として設けられる層を示し、その他のもので且つ電極以外のものは隔壁により規定された画素領域内に設けられる層を示す。
【0061】
d)陽極−<正孔注入層>−有機発光層−陰極
e)陽極−<正孔輸送層>−有機発光層−陰極
f)陽極−<インターレイヤー>−有機発光層−陰極
g)陽極−<正孔注入層−正孔輸送層>−有機発光層−陰極
h)陽極−<正孔注入層−インターレイヤー>−有機発光層−陰極
i)陽極−<正孔注入層>−正孔輸送層−インターレイヤー−有機発光層−陰極
j)陽極−<正孔輸送層>−インターレイヤー−有機発光層−陰極
k)陽極−<正孔注入層−正孔輸送層>−インターレイヤー−有機発光層−陰極
d2)〜k2) 上記d)〜k)において、有機発光層と陰極との間に、さらに電子注入層を有するもの。
d3)〜k3) 上記d)〜k)において、有機発光層と陰極との間に、さらにインターレイヤー−電子輸送層を有するもの。
d4)〜k4) 上記d2)〜k2)において、有機発光層と電子注入層との間に、さらにインターレイヤー−電子輸送層を有するもの。
なお、上記の例示に示されるとおり、インターレイヤーが存在する場合は、インターレイヤーは有機発光層に隣接することが好ましい。
【0062】
本発明の有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷(即ち正孔又は電子)の注入の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層(即ち正孔輸送層又は電子輸送層)又は有機発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができる。
【0063】
本発明の有機EL素子を、基板側から出光するボトムエミッション型の素子として構成する場合、少なくとも有機発光層よりも基板側の全ての層を、光透過性を有する部材で構成する。他方、基板と反対の面側から出光するトップエミッション型の素子として構成する場合は、少なくとも有機発光層よりも第2電極層側の全ての層を、光透過性の部材で構成する。
【0064】
例えば、図1に示す有機EL素子がボトムエミッション型の素子である場合、有機発光層5よりも基板1側の全ての層、即ち有機下地層3、第1電極層2及び基板1の全てが光透過性を有するように素子を構成する。他方、図1に示す有機EL素子がトップエミッション型の素子である場合、有機発光層5よりも第2電極層7側の全ての層、即ち第2電極層2及び封止部材(不図示)の全てが光透過性を有するように素子を構成する。ここで、光透過性は、透明および半透明が含まれ、透明であることが好ましい。光透過性について、数値により例示すると、有機発光層5から光を放出する層までの可視光透過率が40%以上であることが好ましい。紫外領域又は赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において40%以上の透過率を有することが好ましい。
【0065】
本発明の有機EL素子は、さらに必要に応じて、カラーフィルター又は蛍光変換フィルター等のフィルター、画素の駆動に必要な配線等の、表示素子を構成するための任意の構成要素を有することができる。
【0066】
9.各層を構成する材料
次に、本発明の有機EL素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。
【0067】
<基板>
本発明の有機EL素子を構成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。前記基板としては、市販のものが入手可能であり、又は公知の方法により製造することができる。
【0068】
<陽極>
本発明の有機EL素子の陽極としては、光透過性(透明又は半透明)の電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成しうるため好ましい。かかる光透過性の電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、IZOが好ましい。作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0069】
陽極側から光を取り出さない場合、陽極には光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0070】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0071】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と有機発光層との間に設けることができる。
【0072】
本発明の有機EL素子において、正孔注入層を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0073】
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔注入層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0074】
正孔注入層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔注入材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔注入材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0075】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0076】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キヤピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成をする場合には、パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0077】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとして、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0078】
本発明において、正孔注入層を水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体からなる群から連ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物を正孔注入層の材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔注入層の材料としては、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、下記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、下記式(1)で表される繰り返し単位および下記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0079】
【化1】
【0080】
【化2】
【0081】
[式(1)および(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。R1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい。R3〜R7から選ばれる任意の2個の置換基が互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0082】
前記アルキル基は、炭素数が通常1〜20であり、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、3−メチルブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n一ラウリル基等が挙げられる。
【0083】
前記アリール基は、炭素数が通常6〜60であり、置換基を有していてもよい。アリール基が有している置換基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数1〜20のシクロアルキル基があげられる。アリール基の具体例としては、フェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基(C1〜C12は、炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、C1〜C12アルキルフェニル基がより好ましい。
【0084】
R1とR2は互いに結合して環を形成していてもよく、R3〜R7から選ばれる任意の2個の置換基が互いに結合して環を形成していてもよい。当該環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、シクロオクタトリエン環等が挙げられる。
【0085】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0086】
正孔輸送層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。溶液からの成膜に用いる溶媒は前述の正孔注入層の成膜に用いる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、前述の正孔注入層を溶液から成膜する方法と同様の成膜方法が挙げられる。
【0087】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0088】
本発明において、正孔輸送層を水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体からなる群から選ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物を正孔輸送層の材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔輸送層の材料としては、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(1)で表される繰り返し単位および前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0089】
<インターレイヤー>
インターレイヤーを構成する材料としては、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などが例示される。
【0090】
インターレイヤーの成膜の方法に制限はないが、溶液からの成膜による方法が例示される。溶液からの成膜に用いる溶媒は前述の正孔注入層の成膜に用いる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、前述の正孔注入層を溶液から成膜する方法と同様の成膜方法が挙げられる。
【0091】
インターレイヤーの膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない.従って、該インターレイヤーの膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜20nmである。
【0092】
本発明において、インターレイヤーを水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体からなる群から選ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物をインターレイヤーの材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔輸送層の材料としては、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(1)で表される繰り返し単位および前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0093】
本発明に用いられる有機下地層は、水に不溶性の架橋高分子化合物からなることが好ましい。該架橋高分子化合物は、架橋基を有する高分子化合物を硬化させて製造してもよく、高分子化合物と架橋剤との混合物を硬化させて製造してもよい。
【0094】
<隔壁>
隔壁は、例えば、感光性ポリイミドなどの感光性樹脂を材料として用い、いわゆるフォトリソグラフィ法などによって形成することができる。隔壁は、下部電極を実質的に包囲するように形成される。隔壁の上下方向の厚みとしては、0.1〜5μm程度がよい。隔壁の材料としては、加熱による変化が少ない、即ち耐熱性に優れた有機材料を用いるのが望ましく、ポリイミドの他に、アクリル系(メタクリル系)やノボラック系の樹脂材料を用いてもよい。これらの樹脂材料には、パターニングを容易にするため、感光性が付加されていることが望ましい。感光性を有する有機材料を用いると、材料の塗布、プリベーク、露光、現像、ポストベークという一連のフォトリソグラフィ法で、隔壁を形成できる。露光光としてはUV光のg、h、i線の混合光であってもよく、g,h,i線の単波長であってもよい。現像液としては、有機、無機アルカリの水溶液を使用できる。
【0095】
<有機発光層>
本発明においては、発光層は有機化合物を含む層であり、通常、主として蛍光またはりん光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる有機発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0096】
色素系材料
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0097】
金属錯体系材料
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0098】
高分子系材料
高分子系材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0099】
ドーパント材料
有機発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような有機発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0100】
<有機発光層の成膜方法>
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒があげられる。
発光材料を含む溶液を隔壁によって囲まれる画素領域に供給する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに有機発光層を形成する方法も用いることができる。
【0101】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0102】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0103】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法があげられる。
【0104】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0105】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極との間、または有機発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、有機発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0106】
<陰極材料>
本発明の有機EL素子で用いる陰極の材料としては、仕事関数の小さく有機発光層への電子注入が容易な材料が好ましく、また電気伝導度が高く、及び/又は可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−B族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0107】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0108】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0109】
<絶縁層>
本発明の有機EL素子が任意に有しうる、膜厚2nm以下の絶縁層は電荷注入を容易にする機能を有するものである。上記絶縁層の材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料等が挙げられる。膜厚2nm以下の絶縁層を設けた有機EL素子としては、陰極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたもの、陽極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたものが挙げられる。
【0110】
本発明の有機EL素子は面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライトとして用いることができる。
【0111】
10.本発明の有機EL素子の製造方法
本発明の有機EL素子の製造方法は、少なくとも次の(i)〜(vi)の工程を含む。
(i)基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程
(ii)第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程
(iii)有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程
(iv)画素領域に有機発光層を設ける工程
(v)画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程
(vi)リーク電流ブロック層を形成した後、有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程
【0112】
本発明の製造方法は、インクジェット法などのウエットプロセスで、1または2以上の層を形成する有機EL素子の製造方法において好適である。1つには、隔壁を形成する前に有機下地層を予め作製するため、平坦な層の上に、隔壁や有機発光層などの他の層を形成するため、平坦な層を逐次積層しやすい。有機下地層は、水に不溶性の材料で形成されるため、有機下地層を形成後、フォトリソグラフィ法によって隔壁を形成したりインクジェット法などの方法を用いて有機発光層などを形成したとしても、有機下地層は浸食されにくい。
【0113】
さらに本発明の製造方法では、所定の位置にリーク電流ブロック層が形成される。積層体と隔壁との間の境界領域では、層の形成を設計通りに正確に行うことが難しい場合があるが、リーク電流ブロック層を設けることにより、万が一設計通りに層を形成できなかった場合でも、リーク電流を防止することができる。
【0114】
インクジェット法などを用いて複数の画素領域に所定のインクを供給する際に生じうるインクの混色を防止するためなどの観点から、供給されるインクに対する撥液性を予め隔壁に付与することがある。このように隔壁が撥液性を有する場合、隔壁内に供給されたインクは、隔壁の側面に弾かれつつ、溶媒が乾燥し固化するので、固化した層の周縁部が隔壁から離れてしまったり、固化した層の周縁部が中央部に比べて膜厚が薄くなったりする場合がある。このような境界領域においてリーク電流が生じやすくなるが、リーク電流防止層を隔壁と積層体との間に設けることにより、リーク電流を防止することができ、インクジェット法などのウエットプロセスを利用した積層方法を採用する際に留意しなければならないリーク電流などのデメリットを大幅に軽減し得る。
【0115】
すなわち、本発明の好ましい一形態として、隔壁を撥液性を有する材料で形成し、隔壁で囲まれた画素領域内に設ける層を、インクジェット法で形成する形態が挙げられる。また、他の好ましい一形態としては、隔壁の少なくとも側面を撥液性を有する材料でコーティングし、前記隔壁で囲まれた画素領域内に設ける層を、インクジェット法で形成する形態が挙げられる。
【0116】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一実施形態を、図1および図6から図9を参照して説明する。
【0117】
図6を参照しつつ、隔壁を設ける工程の途中までについて説明する。まず、基板1の主面上に第1電極層2が設けられた基板を用意する。第1電極層2は、陽極の場合と陰極の場合、それぞれの構成材料等に応じて形成することができる。また、第1電極層2が付設された基板1を購入してもよい。次に、第1電極層2の少なくとも一部、好ましくは全部を覆うように有機下地層3を設ける。図6示す例においては、有機下地層3は一層のみからなるが、2層以上の有機下地層を設ける場合は、ここで2層以上の積層を行なうことができる。有機下地層3は、基板1及び第1電極層2の上に、有機下地層材料の組成物をスピンコート等の方法により連続した一枚の塗膜として設け、その後必要に応じて有機下地層を設けない部分(例えば、図2に示す基板の周辺領域1S)の層を拭い去り、さらに必要に応じて塗膜を硬化させることにより、容易に設けることができる。なお有機下地層3は所望のパターンに従って形成することも可能である。続いて、有機下地層3の主面上に、隔壁を形成するためのフォトレジスト層P4を設ける。
【0118】
次に、図7に示すように、フォトレジスト層P4のうちの画素領域を形成する領域の部分を、フォトリソグラフィ等により除去し、画素領域R1を規定する隔壁4を形成する。この画素領域R1は、図2においては、第1電極層2および第2電極層7が平面視で重なる交差領域に形成される。
【0119】
さらに、図8に示すように、隔壁4により規定された画素領域R1に、有機発光層5を設ける。有機発光層5は、有機発光層5の材料組成物の塗膜を画素領域R1内に設け、必要に応じて硬化させることで形成することができる。材料組成物の塗膜を画素領域R1内に設ける方法としては、インクジェット法を好ましく挙げることができる。また、単色表示の表示素子を構成する場合は、有機発光層5の材料組成物をスピンコート法等で一面に設けてもよい。
【0120】
有機発光層5を形成した後、隔壁4と有機発光層5の境界領域にリーク電流ブロック層6を設ける。リーク電流ブロック層6は隔壁4の側面(画素領域に臨む面)に沿って薄膜を形成することによって設けることができる。結果として、図9に示す例では、リーク電流ブロック層は、隔壁4の側面に沿う薄膜を形成しつつ、有機発光層5の丸みを帯びた周縁部に重なるように設けてられている。リーク電流ブロック層は、所定の電気抵抗を有する材料を、所定の部位に塗布して設けることもできる。より簡便な方法として、所定の電気抵抗を有する材料を顔料とする低粘度のインクを調整し、これを画素領域全体を覆ってしまうほどの余剰な量ではなく、境界領域を覆うために足りる少量のインクを画素領域にインクジェット方式で吐出し、重力やインクの滑性に任せて有機発光層5と隔壁で挟まれる凹部に流し込み、そのまま固化させてもよい。必要に応じて、インクを加熱処理、光照射などを施し、硬化させてもよい。
【0121】
有機発光層5およびリーク電流ブロック層6を設けた後、その上に、所望のパターンに従って第2電極層7を設ける。このようにして、基板1−第1電極層2−有機下地層3−有機発光層5−第2電極層7を有し、有機発光層5と隔壁4の境界領域にリーク電流ブロック層が介在する積層体を得ることができる。さらに、封止部材及び画素の駆動に必要な配線等の任意の構成要素を加えることにより、有機EL素子を搭載した有機EL装置を作製することができる。
【実施例】
【0122】
以下、実際の有機EL素子の作製工程に基づく、作製例および試験例を示しつつ、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0123】
<作製例1:有機下地層を有する有機EL素子の作製>
(1−1:有機下地層の形成)
正孔注入材料である水に不溶性の高分子材料1、架橋剤であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、重合開始剤であるイルガキュアー360(チバガイギー社製)を重量比で1:0.25:0.01の割合で混合し、混合物を得た。有機溶剤に、前記混合物を1質量%の割合で溶解し、有機下地層形成用インクを得た。
陽極としてのITOパターンを有する平板状のガラス基板の、当該パターンを有する側の面全面に、前記インクをスピンコートし、約60nmの厚さの塗膜を作製した。その後、基板周辺部の封止エリア及び取り出し電極部分等の表示素子を作製しない領域の塗膜を拭き取り、ホットプレート上で200℃、10分間熱処理・乾燥して不溶化し、正孔注入層として機能する有機下地層を得た。本有機下地層は、水に不溶性の架橋高分子化合物からなる。有機下地層の抵抗率は2×1014Ωcm以上であった。
【0124】
(1−2:隔壁の形成)
上記(1−1)で得た有機下地層の上に、フォトレジスト(東京応化製TELR−P003)を、回転数1000rpmでスピンコートし、フォトレジスト層を得た。この層に、所望のパターンが形成されているフォトマスクを介して、露光機(大日本スクリーン製、MA−1200)を用いて露光処理を施し、続いてKOH 1質量%水溶液で現像することで、所望のパターンを得た。得られた膜を230℃×20分間オーブンで乾燥し、隔壁を得た。得られた隔壁は、厚さが1.5μmであった。また、隔壁を上面から観察すると、有機下地層が露出している素子領域の開口が、70×210μmの矩形であり、隣接する素子領域との距離が20μmであった。
【0125】
(1−3:有機発光層の形成)
上記(1−2)で得た陽極、有機下地層及び隔壁を有する基板の上に、赤色発光有機EL材料(Lumation RP158(Sumation社製))のキシレン溶液(溶液における赤色発光有機EL材料の割合が1質量%)を、スピンコートし、その後、キシレンを浸した布で基板周辺部、及び隔壁頂部上などの不要部分を拭き取った後、減圧下80℃で1時間乾燥し、厚さ80nmの有機発光層を隔壁内の画素領域に形成した。
【0126】
(1−4:陰極の形成)
(1−3)で得た陽極、有機下地層、隔壁及び有機発光層を有する基板の上に、厚さ約5nmのバリウムと、その上の厚さ約100nmのアルミニウムの2層からなる陰極を、蒸着法により形成した。陰極の形状は、シャドーマスクを用いて規定し、平面視において、有機発光層上でITO陽極と直交する形状とし、陽極と陰極とでパッシブマトリクス型の電極を構成した。
【0127】
(1−5:封止)
封止用ガラス基板の主面の周辺部に、UV硬化性封止材(ナガセケムテックス社製XNR5516Z)を、ディスペンサーを用いて塗布した。この塗布面を下側として、(1−4)で得た積層構造を有する基板と位置合わせして、減圧下(−25KPa)で貼り合わせた。その後大気圧に戻し、UV光を照射して封止材を硬化することにより(1−1)〜(1−4)で得た層を封止し、有機EL素子を得た。
【0128】
(1−6:評価)
(1−5)で得られた素子の電極に電源を接続し駆動させたところ、単色(赤色)の画像が表示されることが確認された。画素中の発光は均一であった。
【0129】
<作製例2:有機下地層を有する有機EL素子の作製>
発光層ポリマー(Lumation G1302(Sumation社製))を、有機下地層用インクと同じ有機溶媒に0.8質量%の割合で溶解し、粘度8cPのインクを調製した。
【0130】
作製例1の工程(1−1)〜(1−2)と同様にして得た陽極、有機下地層及び隔壁を有する基板の上に、上記インクを塗布し、有機発光層を作製した。
インクの塗布は、Litrex社製インクジェット装置120Lを用い、隔壁により規定された画素領域のそれぞれに7滴ずつ吐出した。
【0131】
インク塗布後、真空中で約100℃、60分間加熱処理し、続いて作製例1の工程(1−4)〜(1−5)と同様に操作し、有機EL素子を得た。
【0132】
得られた素子の電極に電源を接続し駆動させたところ、クロストークの無い明瞭な動画像が表示されることを確認した。一画素のリーク電流は、−10Vにおいて0.1μA以下であった。また、有機下地層の抵抗率は2×1014Ωcmであった。
【0133】
<比較例1>
(1−1:有機下地層の形成)
有機下地層形成用インクとして、水溶性であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、バイエル社製、商品名;Baytron P CH 8000)を含む水溶液を用いた他は、作製例1の工程(1−1)と同様にして、ITO陽極及び有機下地層を有する基板を得た。
得られた有機下地層上に、作製例1の工程(1−2)と同様に隔壁を形成しようとしたところ、隔壁形成のフォトリソグラフィの過程で有機下地層の厚さが不均一となった。
【0134】
<作製例3:リーク電流ブロック層を有する有機EL素子の作製>
本作製例では、全周にわたって画素の周辺部にリーク電流ブロック層が備えられた有機EL素子を作製した。
[基板前処理]
ガラス基板上にITO電極パターンが形成され、その上に住友化学製フォトレジスト(M302R)をパターニングして隔壁形成した基板を使用した。隔壁サイズは170μm×50μm、画素ピッチ237μmであった。基板洗浄後、リアクティブイオンエッチング装置(サムコ社製RIE−200L)により基板の表面処理を行った。表面処理条件はO2プラズマ処理(圧力5Pa、出力30W、O2流量40sccm、時間10分)を行い、続けてCF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間5分)を行った。
【0135】
[正孔注入層形成]
正孔注入層としてPEDOT(H.C、Stark社製CH8000LVW185)に2−ブトキシエタノールを2wt%混合し、0.45μmフィルタにてろ過したものを使用した。そして、Litrex社製80Lを用い、インクジェット塗布を行った。このとき、等間隔に液滴を塗布し、一画素あたりの液滴数は4滴であった。塗布後、真空乾燥を行った。
【0136】
[画素の周辺部にリーク電流ブロック層形成]
熱/光硬化性の絶縁性高分子1を有機溶剤に溶かしたインクを使用し、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。インク添加剤として、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬社製)、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)を重量比で、絶縁性高分子1:DPHA:イルガキュア907=1:0.25:0.01の割合で配合し、絶縁性高分子1が0.4wt%になるようインクを作製した。このとき、1μmフィルタでろ過を行い、粘度を3cPとした。隔壁内全体に塗布する場合には一画素あたり3〜5滴程度を隔壁内に等間隔に塗布した。塗布後、真空中で約200℃、20分加熱処理を行い、絶縁性高分子を硬化させた。
【0137】
[有機発光層塗布前処理]
加熱処理によって隔壁の撥液効果が消失してしまうため、CF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間1分)を行った。また、硬化した絶縁性高分子1上の撥水性を低減するため、UV/O3処理を1分行った。
【0138】
[有機発光層形成]
発光層インクの溶媒として絶縁性高分子1と同じ有機溶媒を使用した。発光層ポリマーとして、GP1302(サメイション社製)を使用し、インク濃度を0.8wt%とし、粘度を8cPとした。このとき、1μmフィルタにてろ過して使用した。その後、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。一画素あたり7滴ずつ吐出した。塗布後、真空中で約100℃で、60分間の加熱処理を行った。
【0139】
[蒸着、封止]
加熱処理後、大気にさらさずに蒸着工程へ移行させて、100ÅのBa膜、200ÅのAl膜の順で発光層上に蒸着し陰極を形成した。その後、ガラス封止を行った。
以上の方法にて有機EL素子を作製すると、リーク電流が抑制された良好な動作をする有機EL素子を得ることができた。
【0140】
<作製例4:リーク電流ブロック層を有する有機EL素子の作製>
本作製例は、画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成する有機EL素子を作製した。
[画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成]
作製例3のリーク電流ブロック層の形成工程において、絶縁性高分子1のインクを画素周辺部全体に形成するのではなく、画素の湾曲部のみに形成することを除いては作製例3と同様にして素子作製を行った。ただし、この場合には、画素の湾曲部分にのみ(1画素につき2箇所に)1滴ずつ吐出した。本作製例4の有機EL素子は、作製例3のものと比較してインクの量を削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明に係る有機EL素子の一実施形態における、画素領域の一部を示す図2のA−A線に沿う矢視断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL装置の一実施形態における、電極配線等を示す斜視図である。
【図3】図1に示す例の隔壁周辺部を拡大表示した断面図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の一実施形態における、画素領域を凹部の開口側から見た平面図である。
【図5】本発明に係る有機EL素子の変形例における、画素領域を凹部の開口側から見た平面図である。
【図6】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図7】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図8】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図9】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図10】従来の有機EL素子の一例の断面図である。
【図11】従来の有機EL素子の他の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0142】
1 基板
1S 基板平面の周辺部
2 第1電極層
3 有機下地層
4 隔壁
5 有機発光層
6、6B リーク電流ブロック層
6a、6b リーク電流ブロック層の端部
7 第2電極層
12 マトリクス領域
60 有機EL装置
P4 フォトレジスト層
R1 画素領域
R2 境界領域
110、120 従来の有機EL素子の一例
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ということがある。)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、通常、基板上に所定の層が順次積層されて形成され、一対の電極(陽極および陰極)と、該電極間に配置された発光層とを含んで構成される。電極間には、発光層の他に、いわゆる電荷注入層(正孔注入層または電子注入層)、および電荷輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)などが必要に応じて設けられる。有機EL素子は、電圧を印加すると陽極および陰極からそれぞれ電子および正孔が注入され、両電極から注入された電子および正孔が発光層で再結合することによって発光する。このような有機EL素子は、照明装置や画像表示装置に用いることができる。
【0003】
例えば表示装置では、格子状の隔壁(バンクとも呼ばれる)が基板に設けられ、該隔壁で囲まれた各画素領域に各有機EL素子が形成されているのが通常である。たとえば発光層は、発光層材料を含むインキを各画素領域にそれぞれ供給し、さらに乾燥させることによって形成される。
従来、有機蛍光体層(発光層)を形成する際に、各画素領域にそれぞれ設けられる有機蛍光体層の厚みがばらついてしまうという問題があった。このばらつきの発生を抑制することなどを目的として、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)を含む溶液を基板上にスピンコーティングし、さらに乾燥させることによって有機下地層(正孔注入層)を形成した後、該有機下地層上に隔壁を設ける工程を経て作製された有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また隔壁を電極上に直接形成する場合には、発光層(インク)のパターニング精度を高めることができる反面、インク液滴が隔壁の前記画素領域に臨む表面(以下、隔壁の側面という場合がある)ではじかれることに起因して、基板上に形成される下部電極と隔壁との境界部において発光層の厚さが薄くなる場合がある。この問題を回避するため、例えば特許文献2には、下部電極と隔壁との間に、下部電極の周縁部を覆う酸化シリコン等の無機絶縁膜を設けた素子構成が開示されている。発光層の厚さが薄くなる部分に無機絶縁膜を設けることによって、隔壁と下部電極との境界部における絶縁耐圧を向上させることができ、電気的リークを抑制している。
【0005】
【特許文献1】特開2004−235128号公報
【特許文献2】特開2005−203215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォトリソグラフィ法によって隔壁を形成する場合、有機蛍光体層(発光層)の膜厚のばらつきを抑制することを目的として設けた有機下地層が現像処理において浸食され、その膜厚が不均一になってしまう。そうすると、有機下地層上に形成される有機蛍光体層(発光層)の平坦性が低下するとともに、有機下地層の膜厚が不均一になるので、結果として各有機EL素子の発光強度が不均一となり、表示品質が不充分となる場合がある。
【0007】
また、特許文献2の方法では、一般的に、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)やスパッタリング法等の真空装置を用いた方法によって無機絶縁膜を形成しなければならない。そのため、特許文献2の方法は、高額な設備投資を必要とする共に、工程が複雑化し、大画面化への対応が困難であるという問題がある。さらに、特許文献2の方法においては、以下に説明するように正孔注入層を介して流れるリーク電流に対しては無機絶縁膜が効果的に機能しないという課題があった。
【0008】
図10に、従来の有機EL素子の一例を示す。図10に示す有機EL素子110では、基板101上に島状の下部電極が離散的に設けられ、各下部電極の周縁部を覆うとともに各下部電極上に設定される各画素領域R1を囲む隔壁104が形成されている。画素領域において、下部電極102上に有機発光層105が積層され、さらに、上部電極107が形成されている。有機発光層105は、有機発光層105となる材料を含むインクをインクジェット法などによって画素領域に吐出し、着弾したインクを固化させることで形成し得る。インクジェット法などのいわゆるウエットプロセスによって層を形成する場合、インクの粘度やインクが接触する部材の材質等によって決まる表面張力等の影響を受け、必ずしも画素領域全面にわたり完全に平坦な層を形成することは難しい。例えばインクは、溶質の割合が通常1重量%程度と低く、そのほとんどが乾燥時に除去される溶媒によって構成される。従って有機発光層105の体積に比して多量のインクが画素領域に供給されることになるが、隔壁がインクに対して撥液性を示す場合、隔壁の側面(隔壁の画素領域に臨む表面)にインクが弾かれつつ溶媒が乾燥していくので、図10の例に示すように、インクが画素領域の中央部に寄ってしまい、そのまま硬化する。そうすると、有機発光層105の周縁部が中央部に比べて薄くなり、また隔壁104と有機発光層105とが隣り合う境界領域R2に、有機発光層105が形成されない場合が生じうる。境界領域R2にできた有機発光層105と隔壁104との間の隙間に上部電極107が入り込んで形成されるので、本来の設計よりも下部電極102と上部電極107との間隔が狭まり、この部分においてリーク電流が生じやすくなってしまう場合がある。
【0009】
図11には、従来の有機EL素子の他の例を示す。図11に示す有機EL素子120では、電荷注入層103の上に、有機発光層105が設けられている。図11に示すように、隔壁に囲まれた画素領域R1にインクジェット法などのように液体を吐出して、さらに乾燥させることによって層を形成する場合、前述したように有機発光層105の体積に比して多量のインクが画素領域に供給されることになる。隔壁がインクに対して親液性を示す場合、インクが隔壁の側面に引きづられつつ溶媒が乾燥していくので、隔壁104の側面に沿って形成される這い上がり部103aおよび105aが形成される場合がある。このような場合も、結果として、図10に示す例と同様に、隔壁104と、層が隣り合う境界領域R2において、リーク電流が生じやすくなってしまう場合がある。このようなリーク電流が生じると、発光効率が低下し、ひいては素子寿命が低下し、発光特性などの品質が低下する。
【0010】
本発明は、上記のような状況に鑑み成されたものであり、容易に形成でき、且つ発光特性などの品質が高い有機EL素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明では、下記の構成を備える有機EL素子およびその製造方法を提供する。
【0012】
〔1〕基板と、
前記基板の主面上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、
前記有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、
前記画素領域に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、
前記第1電極層および前記第2電極層の間において、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備え、
前記基板の厚み方向における前記リーク電流ブロック層の電気抵抗が、前記基板の厚み方向における前記有機発光層の電気抵抗よりも高い、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔2〕前記リーク電流ブロック層の電気抵抗率が、106Ωcm以上である、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔3〕前記リーク電流ブロック層が、熱または光により架橋した高分子樹脂層である、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔4〕前記有機下地層が正孔注入層である、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔5〕前記有機下地層が、正孔注入層と、該正孔注入層の第2電極層側の主面に積層されて成るインターレイヤーとから成る、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔6〕前記有機下地層の電気抵抗率が1010Ωcm以上である、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔7〕前記水に不溶性の有機材料が、架橋した高分子化合物である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔8〕前記基板の厚み方向から見た前記境界領域の平面形状が、略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む略長円形状をなし、前記リーク電流ブロック層が、境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部に設けられている、上記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔9〕基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程と、
前記第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程と、
前記有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程と、
前記画素領域に有機発光層を設ける工程と、
前記画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、前記有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程と、
前記リーク電流ブロック層を形成した後、前記有機発光層を基準にして前記第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程とを含む、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔10〕前記隔壁を撥液性を有する材料で形成し、前記隔壁内に設ける層を、インクジェット法により形成する、上記〔9〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL素子は、隔壁の下に発光素子の積層構造の一部として有機下地層を有し、さらに当該有機下地層として水に不溶性の有機材料を用いることにより、表示品質が高い有機EL素子を容易に形成することができる。また本発明の有機EL素子の製造方法によれば、前記本発明の有機EL素子を容易に製造することができる。また、本発明によれば、簡素な構造でリーク電流を防止し得る有機EL素子を提供し得る。本発明により、信頼性の高い有機EL素子を簡便に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしも図の通りに基板が鉛直方向の下方に配置されて製造または使用等がなされるわけではない。
【0015】
本発明の有機EL素子は、基板と、基板の主面上に設けられた第1電極層と、第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、画素領域に設けられた有機発光層と、有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、第1電極層と前記第2電極層の間であり、かつ、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と、前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備える。リーク電流ブロック層は、基板の厚み方向における有機発光層の電気抵抗より高い電気抵抗を有する。なお、以下では、基板の厚み方向の一方を上方(または上)といい、基板の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。
【0016】
図1から図3に、本発明の有機EL素子およびこれを複数備えられた有機エレクトルミネッセンス装置(以下、有機EL装置という場合がある)の一実施形態を示す。図1は、複数の有機EL素子が搭載された有機EL装置の一部を示すものであり、図2の斜視図における切断面線A−Aから見た矢視断面図である。図2は、有機EL装置60における基板及び電極の位置関係を示す斜視図である。図3は、図1の断面図の一部を拡大した図である。
【0017】
図2に示す有機EL装置60は、いわゆるパッシブマトリクス型に構成されている。パッシブマトリクス型の有機EL装置60では、基板1の一方の主面上において線状に延びる複数本の第1電極層2が互いに平行に設けられ、平面視で前記第1電極層2に直交するように線状に延びる複数本の第2電極層7が互いに平行に設けられている。すなわち平面視で第1電極層2及び第2電極層7が格子状に設けられる。第1電極層2と第2電極層7の間には、有機発光層5などを含む積層体が形成され、この積層体と第1および第2電極層2、7とによって有機EL素子が構成される。平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する領域に、後述する隔壁により規定される画素領域が設定され、この画素領域に前述した積層体が設けられる。なお、各電極層に接続し、所定のタイミングで所定の電極層に所定の電圧を印加することによって各有機EL素子を駆動する回路(不図示)を有機EL装置60はさらに備える。
【0018】
有機下地層3は、基板1の厚み方向の一方から第1電極層2および基板1の表面を覆って形成される。図2に示すように、本実施形態では、有機下地層3は、平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する各交点の最外周を内包するマトリクス領域12の全領域に連続的に一体形成されている。有機下地層3は、第1電極層上において画素領域にのみ形成されてもよい。すなわち、第1電極層上において、各第1電極層2に沿って島状の有機下地層3を離散的に形成してもよいが、製造上は、例えばインクジェット法以外の、蒸着法やスピンコーティング法などによって有機下地層3を基板1上に連続的に一体形成する方が簡便である。
【0019】
有機下地層3上には、各画素領域R1を囲む隔壁4が形成される。前述したように各画素領域R1は、平面視で第1電極層2及び第2電極層7が交差する領域であり、隔壁4は、有機下地層3の主面のうちの画素領域R1を除く残余の表面に形成される。すなわち隔壁4は、有機下地層3の主面上において格子状に設けられる。
【0020】
画素領域R1(隔壁で囲まれた領域)には、前述したように有機発光層5が設けられる。有機発光層5は、有機化合物を含み、インクジェット法などのいわゆるウエットプロセスで形成される場合が多い。なお、インクの粘度や周囲との相性などによっては、インクが画素領域の中央部に向かって収縮して固化し、有機発光層5の端部の層厚が薄くなってしまう場合がある(図10参照)。有機発光層5の膜厚の薄い部分に直接的に第2電極7またはその補助層が設けられると、この部分を介してリーク電流が発生するおそれがある。しかし、図1および図3に示すように、本実施形態では、有機発光層5と隔壁4とが隣り合う境界領域R2に、リーク電流ブロック層6が設けられており、リーク電流の発生を防止している。有機EL素子では、いくつかの構成層の形成方法としてインクジェット法やフォトリソグラフィ法などの方法が採用されるところ、本実施の形態の有機EL素子は、有機下地層3とリーク電流ブロック層6を備え、上記のような層形成方法を採用して作製した場合であっても、各層が平坦に形成されやすく、リーク電流が生じにくい構造を有する。そのため、本実施の形態の有機EL素子は、欠損なども少なく、発光性能に優れた有機EL素子である。
【0021】
まず、各層の構成および構造を中心として、さらに説明する。
1.基板
本発明に用いる基板としては、有機EL素子に用いられる各種の基板を採用することができる。本明細書では、有機EL素子の層の構成に関する記載においては、特に断らない限り「上」「下」及び「水平」方向は、基板を水平に置き、その上方に有機発光層および他の層を設けた場合の位置関係を示す。
【0022】
2.電極層
本発明の有機EL素子は、電極として、基板上に設けられる第1電極層、及び有機下地層及び有機発光層の上に設けられる第2電極層を含む。これらの一方を陽極、他方を陰極とする。第1電極層を陽極とすることが多いがこれに限られず第2電極層を陽極とすることもできる。
【0023】
電極層の具体的な形状は、前述したパッシブマトリクス型の表示装置用の形状に特に限定されず、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置等に適した各種の形状とすることができる。好ましくは、アクティブマトリックス型の表示装置又はパッシブマトリックス型の表示装置等のドットマトリックス表示装置を構成する形状とすることができる。例えばアクティブマトリックス型の表示装置では、例えば基板上において島状の第1電極層が行列状に設けられ、第2電極層が平板状に設けられる。第1電極層は、基板の主面の全面に設けられていてもよいが、通常、多数の画素を構成するためのパターンに従い、基板の主面上の一部の領域上に設けられる。
【0024】
3.有機下地層
本発明の有機EL素子において、有機下地層は、前記第1電極層の面の少なくとも一部の領域上に設けられる。
有機下地層が第1電極層の「少なくとも一部の領域上」に設けられるとは、第1電極層の上側の面上の少なくとも一部の領域に有機下地層が存在している領域があることをいう。従って、第1電極層の上面の全てを有機下地層が覆っていてもよく、第1電極層の上面の一部のみを有機下地層が覆っていてもよい。ただし、通常、第1電極層のうち、後述する画素領域に属する部分は、その全面を有機下地層が覆うよう構成される。また、基板の主面上の、前記第1電極層で覆われていない部分については、有機下地層で覆われていてもよく、覆われていなくてもよい。
【0025】
有機下地層が「少なくとも一部」に設けられるとは、1枚の基板の主面上の一部又は全部の領域を、一枚の有機下地層のみが占めている状態でもよく、1枚の基板の主面が複数の領域に区分され、それぞれの区分された領域を、それぞれ別の有機下地層が占め、複数枚の有機下地層が設けられている状態でもよいことをいう。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、有機下地層は、基板上の複数の画素領域を包含する領域全面を覆うように設けられ、より好ましくは基板上の全ての画素領域を包含する領域全面を覆うように設けられる。このような態様で有機下地層を設けることにより、均一な有機下地層を、スピンコート法などの簡便な方法で形成することができる。
【0027】
さらに、このような有機下地層の構造を、図1に示す実施形態例を再び参照して説明する。この例において、基板1上の上には複数の第1電極層1が設けられ、第1電極層2、およびその間隙の第1電極層2で覆われていない基板1表面の両方にわたり、有機下地層4が一体となった層として連続的に形成されている。このような構成とすることにより、第1電極層2の上に、第1電極層2上において均一な厚さを有し、且つ画素領域間における厚さのばらつきの少ない有機下地層を、スピンコート法などの簡便な手法で容易に設けることができる。
【0028】
本発明の有機EL素子は、図1に示す通り積層構造を有しない1層の有機下地層のみからなってもよいが、積層構造を有する2層以上の有機下地層を有していてもよく、さらに3層以上の有機下地層を有していてもよい。3層以上の層を設けると、電極と隔壁との間隔が厚くなるため、隣接する画素領域とのクロストークを抑制する観点からは、1層又は2層で構成することが好ましい。複数の層で構成される有機下地層を採用する場合、少なくとも、最も第2電極層側に設けられる層は、水に不溶性の有機材料で形成される。
【0029】
また、基板の平面が複数の領域に区分され、それぞれの領域をそれぞれ別の有機下地層が占め、複数枚の有機下地層が設けられている場合は、その区分された領域のそれぞれにおいて、1層の有機下地層又は2層以上の積層された有機下地層を有するように構成してもよい。
【0030】
本発明の有機EL素子における有機下地層は、有機EL素子を構成するために必要な層であって第1電極層以外のいずれかの層の機能を担うことができる。
【0031】
例えば、第1電極層が陽極である場合、有機下地層は、正孔注入層、インターレイヤー及び正孔輸送層のうちの1層以上とすることができる。より好ましい態様において、本発明の有機EL素子は、有機下地層として正孔注入層である1層のみを有するか、または第1の有機下地層及びその上に積層された第2の有機下地層を有し、第1の有機下地層を正孔注入層とし第2の有機下地層をインターレイヤーとすることができる。
【0032】
一方、第1電極層が陰極である場合、有機下地層は、電子注入層、インターレイヤー及び電子輸送層のうちの1層以上とすることができる。より好ましい態様において、本発明の有機EL素子は、有機下地層として電子注入層である1層のみを有するか、又は第1の有機下地層及びその上に積層された第2の有機下地層を有し、第1の有機下地層を電子注入層とし第2の有機下地層をインターレイヤーとすることができる。
【0033】
本発明において、有機下地層の抵抗率は、好ましくは1×1010Ωcm以上である。ここで、有機下地層の抵抗率は、抵抗率計(例えば、ダイアインスツルメンツ社製 ロレスタGP MCP−T610型)により測定することができる。
【0034】
本発明において、有機下地層は、水に不溶性の有機材料で形成される。有機下地層が複数の層からなる場合、少なくとも最上の隔壁と接する層が水に不溶性の有機材料からなり、好ましくは全ての層が水に不溶性の有機材料からなる。本発明に用いられる有機下地層は、水に不溶性の有機材料からなるため、有機下地層上に水を含む溶液を塗布する工程、または後述する隔壁をフォトリソグラフィ法により形成する工程においても、当該層の膜厚が実質的に減少しない。水に不溶性の有機材料としては、水1gに溶解する量が0.1mg以下であることが好ましく、0.01mg以下であることがより好ましく、0.001mg以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明においては、素子を構成する層の1層以上を有機下地層として隔壁の下に設けることにより、スピンコート法等の簡易な成膜方法で形成することができると共に、有機下地層として水に不溶性の材料を採用することにより、この後の隔壁の形成の工程においても有機下地層が損なわれず、その結果高品質な表示性能を得ることができる。
【0036】
4.隔壁
本発明において、隔壁は、有機下地層上に設けられ、有機下地層のそれぞれの上に複数の画素領域を規定する。ここで、有機下地層の「それぞれの上に複数の」画素領域を規定するとは、基板上に有機下地層が複数枚存在する場合は、それぞれの上に複数の画素領域が規定されることを意味する。基板上に有機下地層が一枚存在する場合は、勿論その上に全ての画素領域が規定される。このような構成とすることにより、本発明の有機EL素子においては、隣接する複数の画素における有機下地層が一体に形成されることとなる。即ち、基板表面上の隣接する複数の画素、好ましくは基板表面上の全ての画素の存在する一領域において、有機下地層が別個の層ではなく連続して一体となった層となる。
【0037】
上記構成を、再び図1の例を参照して説明すると、隔壁4は、第1電極層2及び第2電極層7が上下に存在する矩形の領域R1内に画素領域が規定されるよう、その周囲を囲んで、平坦に形成された有機下地層3上に設けられる。即ち、隔壁4に周囲を囲まれ、隔壁4が存在しない領域が画素領域R1となり、一枚の有機下地層3上に、複数の画素領域が規定される。
【0038】
5.有機発光層
本発明において、有機発光層は、隔壁によって規定された画素領域に設けられる。そして、このように設けられた有機発光層の上にさらに、上に述べた第2電極層を形成することにより有機EL素子を構成することができる。
【0039】
図1の例を参照して説明すると、有機発光層5は、隔壁4で規定された画素領域R1に充填される形で設けられ、第1電極層2の上に、有機下地層3を介して積層されている。この上に、平面視で第1電極層2と直交するように第2電極層7を設けることにより、第1電極層2および第2電極層7の間に有機下地層3および有機発光層5が積層された有機EL素子を構成することができる。
【0040】
6.リーク電流ブロック層
本発明の有機EL素子においては、第1電極層と第2電極層の間であり、かつ、隔壁と、第1電極層および有機下地層の間に介在する層との境界領域にリーク電流ブロック層が設けられる。リーク電流ブロック層は、境界領域全体に設けて設けてもよいし、必要に応じて一部分に設けてもよい。リーク電流ブロック層は、第1電極層と第2電極層の間で電流のリークが生じないように、第1電極層と第2電極層との不適切な近接又は直接的な接触を遮断するように設けられる。
【0041】
リーク電流ブロック層は、所定の電気抵抗を有する有機材料を含むインクを画素領域の所定の位置に供給し、これを固化させて形成することができる。例えば、ブロック層を形成する工程においては、有機溶剤および高抵抗有機材料の高分子樹脂を含むインクを用いて、インクジェット法にて吐出した後、熱及び/または光により架橋してリーク電流ブロック層を形成し得る。このとき、高抵抗有機材料の粘度を適宜調整して、インク吐出後の乾燥工程に至るまで上記所定の位置に留まるようにする。
【0042】
ここで、リーク電流ブロック層を形成する有機材料としては、架橋基を有する高分子化合物に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物、高分子化合物と架橋材料を混合した後に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物等があげられる。
【0043】
リーク電流ブロック層は、不適切な電流の流れを遮断するものであり、所定の電気抵抗を有する。リーク電流ブロック層6は、少なくとも有機発光層の電気抵抗より高く設定される。好ましい電気抵抗を数値として示すと、好ましくは106Ωcm以上である。このような電気抵抗を有するリーク電流ブロック層を設けることにより、隔壁と積層体の隣り合う境界領域において不適切な電流の流れを防止し得る。また、リーク電流ブロック層6は、隔壁の側面周辺に、インクジェット法などの簡単なプロセス工程にて形成し得るので、低コストにて大幅に画質の改善をすることができる。
【0044】
通常予定される画素領域の大きさからすると、リーク電流ブロック層の幅は、平面視で隔壁から画素領域の中央部への向かう方向の長さとして、好ましくは1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。
【0045】
リーク電流ブロック層について、図3から図5を参照しつつ、その具体的な実施形態例について説明する。
図3は、図1の断面図の一部を拡大した図である。図3に示されるように、本実施形態では、隔壁4と有機発光層5とが隣り合う境界領域R2に設けられている。リーク電流ブロック層6は、隔壁4の側面に沿って形成されており、隔壁4の上面部近くの上端部6aから、隔壁4の下端部、そして有機発光層5に一部重なる端部6bまでを覆っている。このような位置にリーク電流ブロック層を設けることにより、隔壁近傍で生じやすいリーク電流を抑制し得る。
【0046】
図4および図5は、画素領域R1を基板上方から見た平面図であり、それぞれリーク電流ブロック層6が設けられる領域についての例を示す。図4に示す実施形態例では、リーク電流ブロック層6は、画素領域R1に臨む隔壁4の表面(以下、側面という場合がある)に沿って全周にわたって設けられている。
【0047】
他方、図5に示す実施形態例では、平面視で境界領域R2が略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む概略小判型(略長円形状)を成し(図4参照)、境界領域R2のうちの境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部のみにリーク電流ブロック層6Bが設けられている。リーク電流は、このような湾曲部で発生しやすい場合がある。本実施形態は、危険性のより高い部分について選択的にリーク電流ブロック層6Bを形成する例を示すものである。
【0048】
より信頼性の確率を高めたい場合には、図4に示すように隔壁の側面の全周にわたってリーク電流ブロック層を設けることが好適である。他方、リーク電流が生じやすい部位をさらに特定し得る場合には、例えば図5に示すように、選択的にリーク電流ブロック層6Bを形成することにより、リーク電流ブロック層に有機材料に用する費用を軽減し、コストの削減を図ることができる。
【0049】
7.封止部材
本発明の有機EL素子はさらに、前記各層を挟んで基板とは反対側に、封止のための部材を有することができる。例えば、図2に示す全画素領域を内包する領域(マトリクス領域12)の周辺を囲う領域1Sに設けられた枠状の接着層を介して、封止部材を基板1に貼り合わせることにより、各有機EL素子を構成する各層を封止することができる。
【0050】
8.その他の構成要素
本発明の有機EL素子は、上記構成要素に加えて、さらに他の構成要素を有することができる。具体的には例えば、隔壁により規定される画素領域に、有機発光層に加えてさらに1層以上の他の層を有機EL素子は有していてもよい。例えば、第1電極層と第2電極層との間に介在する層として、有機下地層及び有機発光層に加えて、さらに他の層を設けた複数層で積層体を構成してもよい。他の層としては、電荷注入層(正孔注入層または電子注入層)、電荷輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)、その他のインターレイヤー(ブロック層、保護層など)が挙げられる。また、各層は、一層で構成されてもよいし、複数層によって構成されてもよい。
【0051】
上記必須の構成要素及び任意の構成要素による本発明の有機EL素子の層の構成について、以下により具体的に説明する。
【0052】
一般に、有機EL素子は、少なくとも1対の電極(陽極及び陰極)を有し、その間に少なくとも有機発光層を有する。陽極と有機発光層との間には任意に正孔注入層を有することができ、さらに、有機発光層と正孔注入層(正孔注入層が存在する場合)又は陽極(正孔注入層が存在しない場合)との間に任意にインターレイヤー、正孔輸送層のうちの1層以上を有することができる。他方、陰極と有機発光層との間には任意に電子注入層を有することができ、さらに、有機発光層と電子注入層(電子注入層が存在する場合)又は陰極(電子注入層が存在しない場合)との間に任意にインターレイヤー、電子輸送層のうちの1層以上を有することができる。即ち有機EL素子は下記の層構成a)を有することができ、または、層構成a)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0053】
a)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−陰極
【0054】
ここで、符号「−」は各層が隣接して積層されていることを示す。「(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)」は、正孔輸送層のみからなる層、インターレイヤーのみからなる層、正孔輸送層−インターレイヤーの層構成、インターレイヤー−正孔輸送層の層構成、又はその他の、正孔輸送層及びインターレイヤーをそれぞれ一層以上含む任意の層構成を示す。「(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)」は、電子輸送層のみからなる層、インターレイヤーのみからなる層、電子輸送層−インターレイヤーの層構成、インターレイヤー−電子輸送層の層構成、又はその他の、電子輸送層及びインターレイヤーをそれぞれ一層以上含む任意の層構成を示す。以下の層構成の説明においても同様である。
【0055】
さらに、有機EL素子は、一つの積層構造中に2層の有機発光層を有することができる。この場合、有機EL素子は下記の層構成b)を有することができ、または、層構成b)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0056】
b)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−陰極
【0057】
さらに、有機EL素子は、一つの積層構造中に3層以上の有機発光層を有することができる。この場合、有機EL素子は下記の層構成c)を有することができ、または、層構成c)から正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有することもできる。
【0058】
c)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層−繰返し単位A−繰返し単位A・・・−陰極
ここで「繰返し単位A」は、電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−有機発光層−(電子輸送層及び/又はインターレイヤー)−電子注入層の層構成の単位を示す。
【0059】
本発明の有機EL素子も、上記の一般的な有機EL素子がとりうるものと同様の層構成とすることができる。そして、第1電極層を陽極とした場合は、陽極に近い側の1層以上、好ましくは1層若しくは2層を、有機下地層とすることができ、それよりも陽極から遠い層を、隔壁により規定された画素領域内に設けることができる。一方、第1電極層を陰極とした場合は陰極に近い側の1層以上、好ましくは1層若しくは2層を、有機下地層とすることができる。
【0060】
本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体的としては、下記のものが挙げられる。下記において、記号< >で囲まれた要素は有機下地層として設けられる層を示し、その他のもので且つ電極以外のものは隔壁により規定された画素領域内に設けられる層を示す。
【0061】
d)陽極−<正孔注入層>−有機発光層−陰極
e)陽極−<正孔輸送層>−有機発光層−陰極
f)陽極−<インターレイヤー>−有機発光層−陰極
g)陽極−<正孔注入層−正孔輸送層>−有機発光層−陰極
h)陽極−<正孔注入層−インターレイヤー>−有機発光層−陰極
i)陽極−<正孔注入層>−正孔輸送層−インターレイヤー−有機発光層−陰極
j)陽極−<正孔輸送層>−インターレイヤー−有機発光層−陰極
k)陽極−<正孔注入層−正孔輸送層>−インターレイヤー−有機発光層−陰極
d2)〜k2) 上記d)〜k)において、有機発光層と陰極との間に、さらに電子注入層を有するもの。
d3)〜k3) 上記d)〜k)において、有機発光層と陰極との間に、さらにインターレイヤー−電子輸送層を有するもの。
d4)〜k4) 上記d2)〜k2)において、有機発光層と電子注入層との間に、さらにインターレイヤー−電子輸送層を有するもの。
なお、上記の例示に示されるとおり、インターレイヤーが存在する場合は、インターレイヤーは有機発光層に隣接することが好ましい。
【0062】
本発明の有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷(即ち正孔又は電子)の注入の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層(即ち正孔輸送層又は電子輸送層)又は有機発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができる。
【0063】
本発明の有機EL素子を、基板側から出光するボトムエミッション型の素子として構成する場合、少なくとも有機発光層よりも基板側の全ての層を、光透過性を有する部材で構成する。他方、基板と反対の面側から出光するトップエミッション型の素子として構成する場合は、少なくとも有機発光層よりも第2電極層側の全ての層を、光透過性の部材で構成する。
【0064】
例えば、図1に示す有機EL素子がボトムエミッション型の素子である場合、有機発光層5よりも基板1側の全ての層、即ち有機下地層3、第1電極層2及び基板1の全てが光透過性を有するように素子を構成する。他方、図1に示す有機EL素子がトップエミッション型の素子である場合、有機発光層5よりも第2電極層7側の全ての層、即ち第2電極層2及び封止部材(不図示)の全てが光透過性を有するように素子を構成する。ここで、光透過性は、透明および半透明が含まれ、透明であることが好ましい。光透過性について、数値により例示すると、有機発光層5から光を放出する層までの可視光透過率が40%以上であることが好ましい。紫外領域又は赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において40%以上の透過率を有することが好ましい。
【0065】
本発明の有機EL素子は、さらに必要に応じて、カラーフィルター又は蛍光変換フィルター等のフィルター、画素の駆動に必要な配線等の、表示素子を構成するための任意の構成要素を有することができる。
【0066】
9.各層を構成する材料
次に、本発明の有機EL素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。
【0067】
<基板>
本発明の有機EL素子を構成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。前記基板としては、市販のものが入手可能であり、又は公知の方法により製造することができる。
【0068】
<陽極>
本発明の有機EL素子の陽極としては、光透過性(透明又は半透明)の電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成しうるため好ましい。かかる光透過性の電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、IZOが好ましい。作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0069】
陽極側から光を取り出さない場合、陽極には光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0070】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0071】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と有機発光層との間に設けることができる。
【0072】
本発明の有機EL素子において、正孔注入層を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0073】
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔注入層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0074】
正孔注入層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔注入材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔注入材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0075】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0076】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キヤピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成をする場合には、パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0077】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとして、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0078】
本発明において、正孔注入層を水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体からなる群から連ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物を正孔注入層の材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔注入層の材料としては、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、下記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、下記式(1)で表される繰り返し単位および下記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0079】
【化1】
【0080】
【化2】
【0081】
[式(1)および(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。R1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい。R3〜R7から選ばれる任意の2個の置換基が互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0082】
前記アルキル基は、炭素数が通常1〜20であり、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、3−メチルブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n一ラウリル基等が挙げられる。
【0083】
前記アリール基は、炭素数が通常6〜60であり、置換基を有していてもよい。アリール基が有している置換基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数1〜20のシクロアルキル基があげられる。アリール基の具体例としては、フェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基(C1〜C12は、炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、C1〜C12アルキルフェニル基がより好ましい。
【0084】
R1とR2は互いに結合して環を形成していてもよく、R3〜R7から選ばれる任意の2個の置換基が互いに結合して環を形成していてもよい。当該環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、シクロオクタトリエン環等が挙げられる。
【0085】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0086】
正孔輸送層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。溶液からの成膜に用いる溶媒は前述の正孔注入層の成膜に用いる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、前述の正孔注入層を溶液から成膜する方法と同様の成膜方法が挙げられる。
【0087】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0088】
本発明において、正孔輸送層を水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体からなる群から選ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物を正孔輸送層の材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔輸送層の材料としては、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(1)で表される繰り返し単位および前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0089】
<インターレイヤー>
インターレイヤーを構成する材料としては、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などが例示される。
【0090】
インターレイヤーの成膜の方法に制限はないが、溶液からの成膜による方法が例示される。溶液からの成膜に用いる溶媒は前述の正孔注入層の成膜に用いる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、前述の正孔注入層を溶液から成膜する方法と同様の成膜方法が挙げられる。
【0091】
インターレイヤーの膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない.従って、該インターレイヤーの膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜20nmである。
【0092】
本発明において、インターレイヤーを水に不溶性の有機下地層として設ける場合、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体からなる群から選ばれる高分子化合物であって親水基を有さない高分子化合物をインターレイヤーの材料として用いることが好ましい。特に好ましい正孔輸送層の材料としては、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物、前記式(1)で表される繰り返し単位および前記式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物があげられる。
【0093】
本発明に用いられる有機下地層は、水に不溶性の架橋高分子化合物からなることが好ましい。該架橋高分子化合物は、架橋基を有する高分子化合物を硬化させて製造してもよく、高分子化合物と架橋剤との混合物を硬化させて製造してもよい。
【0094】
<隔壁>
隔壁は、例えば、感光性ポリイミドなどの感光性樹脂を材料として用い、いわゆるフォトリソグラフィ法などによって形成することができる。隔壁は、下部電極を実質的に包囲するように形成される。隔壁の上下方向の厚みとしては、0.1〜5μm程度がよい。隔壁の材料としては、加熱による変化が少ない、即ち耐熱性に優れた有機材料を用いるのが望ましく、ポリイミドの他に、アクリル系(メタクリル系)やノボラック系の樹脂材料を用いてもよい。これらの樹脂材料には、パターニングを容易にするため、感光性が付加されていることが望ましい。感光性を有する有機材料を用いると、材料の塗布、プリベーク、露光、現像、ポストベークという一連のフォトリソグラフィ法で、隔壁を形成できる。露光光としてはUV光のg、h、i線の混合光であってもよく、g,h,i線の単波長であってもよい。現像液としては、有機、無機アルカリの水溶液を使用できる。
【0095】
<有機発光層>
本発明においては、発光層は有機化合物を含む層であり、通常、主として蛍光またはりん光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる有機発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0096】
色素系材料
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0097】
金属錯体系材料
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0098】
高分子系材料
高分子系材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0099】
ドーパント材料
有機発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような有機発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0100】
<有機発光層の成膜方法>
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒があげられる。
発光材料を含む溶液を隔壁によって囲まれる画素領域に供給する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに有機発光層を形成する方法も用いることができる。
【0101】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0102】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0103】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法があげられる。
【0104】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0105】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極との間、または有機発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、有機発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0106】
<陰極材料>
本発明の有機EL素子で用いる陰極の材料としては、仕事関数の小さく有機発光層への電子注入が容易な材料が好ましく、また電気伝導度が高く、及び/又は可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−B族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0107】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0108】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0109】
<絶縁層>
本発明の有機EL素子が任意に有しうる、膜厚2nm以下の絶縁層は電荷注入を容易にする機能を有するものである。上記絶縁層の材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料等が挙げられる。膜厚2nm以下の絶縁層を設けた有機EL素子としては、陰極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたもの、陽極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたものが挙げられる。
【0110】
本発明の有機EL素子は面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライトとして用いることができる。
【0111】
10.本発明の有機EL素子の製造方法
本発明の有機EL素子の製造方法は、少なくとも次の(i)〜(vi)の工程を含む。
(i)基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程
(ii)第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程
(iii)有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程
(iv)画素領域に有機発光層を設ける工程
(v)画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程
(vi)リーク電流ブロック層を形成した後、有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程
【0112】
本発明の製造方法は、インクジェット法などのウエットプロセスで、1または2以上の層を形成する有機EL素子の製造方法において好適である。1つには、隔壁を形成する前に有機下地層を予め作製するため、平坦な層の上に、隔壁や有機発光層などの他の層を形成するため、平坦な層を逐次積層しやすい。有機下地層は、水に不溶性の材料で形成されるため、有機下地層を形成後、フォトリソグラフィ法によって隔壁を形成したりインクジェット法などの方法を用いて有機発光層などを形成したとしても、有機下地層は浸食されにくい。
【0113】
さらに本発明の製造方法では、所定の位置にリーク電流ブロック層が形成される。積層体と隔壁との間の境界領域では、層の形成を設計通りに正確に行うことが難しい場合があるが、リーク電流ブロック層を設けることにより、万が一設計通りに層を形成できなかった場合でも、リーク電流を防止することができる。
【0114】
インクジェット法などを用いて複数の画素領域に所定のインクを供給する際に生じうるインクの混色を防止するためなどの観点から、供給されるインクに対する撥液性を予め隔壁に付与することがある。このように隔壁が撥液性を有する場合、隔壁内に供給されたインクは、隔壁の側面に弾かれつつ、溶媒が乾燥し固化するので、固化した層の周縁部が隔壁から離れてしまったり、固化した層の周縁部が中央部に比べて膜厚が薄くなったりする場合がある。このような境界領域においてリーク電流が生じやすくなるが、リーク電流防止層を隔壁と積層体との間に設けることにより、リーク電流を防止することができ、インクジェット法などのウエットプロセスを利用した積層方法を採用する際に留意しなければならないリーク電流などのデメリットを大幅に軽減し得る。
【0115】
すなわち、本発明の好ましい一形態として、隔壁を撥液性を有する材料で形成し、隔壁で囲まれた画素領域内に設ける層を、インクジェット法で形成する形態が挙げられる。また、他の好ましい一形態としては、隔壁の少なくとも側面を撥液性を有する材料でコーティングし、前記隔壁で囲まれた画素領域内に設ける層を、インクジェット法で形成する形態が挙げられる。
【0116】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一実施形態を、図1および図6から図9を参照して説明する。
【0117】
図6を参照しつつ、隔壁を設ける工程の途中までについて説明する。まず、基板1の主面上に第1電極層2が設けられた基板を用意する。第1電極層2は、陽極の場合と陰極の場合、それぞれの構成材料等に応じて形成することができる。また、第1電極層2が付設された基板1を購入してもよい。次に、第1電極層2の少なくとも一部、好ましくは全部を覆うように有機下地層3を設ける。図6示す例においては、有機下地層3は一層のみからなるが、2層以上の有機下地層を設ける場合は、ここで2層以上の積層を行なうことができる。有機下地層3は、基板1及び第1電極層2の上に、有機下地層材料の組成物をスピンコート等の方法により連続した一枚の塗膜として設け、その後必要に応じて有機下地層を設けない部分(例えば、図2に示す基板の周辺領域1S)の層を拭い去り、さらに必要に応じて塗膜を硬化させることにより、容易に設けることができる。なお有機下地層3は所望のパターンに従って形成することも可能である。続いて、有機下地層3の主面上に、隔壁を形成するためのフォトレジスト層P4を設ける。
【0118】
次に、図7に示すように、フォトレジスト層P4のうちの画素領域を形成する領域の部分を、フォトリソグラフィ等により除去し、画素領域R1を規定する隔壁4を形成する。この画素領域R1は、図2においては、第1電極層2および第2電極層7が平面視で重なる交差領域に形成される。
【0119】
さらに、図8に示すように、隔壁4により規定された画素領域R1に、有機発光層5を設ける。有機発光層5は、有機発光層5の材料組成物の塗膜を画素領域R1内に設け、必要に応じて硬化させることで形成することができる。材料組成物の塗膜を画素領域R1内に設ける方法としては、インクジェット法を好ましく挙げることができる。また、単色表示の表示素子を構成する場合は、有機発光層5の材料組成物をスピンコート法等で一面に設けてもよい。
【0120】
有機発光層5を形成した後、隔壁4と有機発光層5の境界領域にリーク電流ブロック層6を設ける。リーク電流ブロック層6は隔壁4の側面(画素領域に臨む面)に沿って薄膜を形成することによって設けることができる。結果として、図9に示す例では、リーク電流ブロック層は、隔壁4の側面に沿う薄膜を形成しつつ、有機発光層5の丸みを帯びた周縁部に重なるように設けてられている。リーク電流ブロック層は、所定の電気抵抗を有する材料を、所定の部位に塗布して設けることもできる。より簡便な方法として、所定の電気抵抗を有する材料を顔料とする低粘度のインクを調整し、これを画素領域全体を覆ってしまうほどの余剰な量ではなく、境界領域を覆うために足りる少量のインクを画素領域にインクジェット方式で吐出し、重力やインクの滑性に任せて有機発光層5と隔壁で挟まれる凹部に流し込み、そのまま固化させてもよい。必要に応じて、インクを加熱処理、光照射などを施し、硬化させてもよい。
【0121】
有機発光層5およびリーク電流ブロック層6を設けた後、その上に、所望のパターンに従って第2電極層7を設ける。このようにして、基板1−第1電極層2−有機下地層3−有機発光層5−第2電極層7を有し、有機発光層5と隔壁4の境界領域にリーク電流ブロック層が介在する積層体を得ることができる。さらに、封止部材及び画素の駆動に必要な配線等の任意の構成要素を加えることにより、有機EL素子を搭載した有機EL装置を作製することができる。
【実施例】
【0122】
以下、実際の有機EL素子の作製工程に基づく、作製例および試験例を示しつつ、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0123】
<作製例1:有機下地層を有する有機EL素子の作製>
(1−1:有機下地層の形成)
正孔注入材料である水に不溶性の高分子材料1、架橋剤であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、重合開始剤であるイルガキュアー360(チバガイギー社製)を重量比で1:0.25:0.01の割合で混合し、混合物を得た。有機溶剤に、前記混合物を1質量%の割合で溶解し、有機下地層形成用インクを得た。
陽極としてのITOパターンを有する平板状のガラス基板の、当該パターンを有する側の面全面に、前記インクをスピンコートし、約60nmの厚さの塗膜を作製した。その後、基板周辺部の封止エリア及び取り出し電極部分等の表示素子を作製しない領域の塗膜を拭き取り、ホットプレート上で200℃、10分間熱処理・乾燥して不溶化し、正孔注入層として機能する有機下地層を得た。本有機下地層は、水に不溶性の架橋高分子化合物からなる。有機下地層の抵抗率は2×1014Ωcm以上であった。
【0124】
(1−2:隔壁の形成)
上記(1−1)で得た有機下地層の上に、フォトレジスト(東京応化製TELR−P003)を、回転数1000rpmでスピンコートし、フォトレジスト層を得た。この層に、所望のパターンが形成されているフォトマスクを介して、露光機(大日本スクリーン製、MA−1200)を用いて露光処理を施し、続いてKOH 1質量%水溶液で現像することで、所望のパターンを得た。得られた膜を230℃×20分間オーブンで乾燥し、隔壁を得た。得られた隔壁は、厚さが1.5μmであった。また、隔壁を上面から観察すると、有機下地層が露出している素子領域の開口が、70×210μmの矩形であり、隣接する素子領域との距離が20μmであった。
【0125】
(1−3:有機発光層の形成)
上記(1−2)で得た陽極、有機下地層及び隔壁を有する基板の上に、赤色発光有機EL材料(Lumation RP158(Sumation社製))のキシレン溶液(溶液における赤色発光有機EL材料の割合が1質量%)を、スピンコートし、その後、キシレンを浸した布で基板周辺部、及び隔壁頂部上などの不要部分を拭き取った後、減圧下80℃で1時間乾燥し、厚さ80nmの有機発光層を隔壁内の画素領域に形成した。
【0126】
(1−4:陰極の形成)
(1−3)で得た陽極、有機下地層、隔壁及び有機発光層を有する基板の上に、厚さ約5nmのバリウムと、その上の厚さ約100nmのアルミニウムの2層からなる陰極を、蒸着法により形成した。陰極の形状は、シャドーマスクを用いて規定し、平面視において、有機発光層上でITO陽極と直交する形状とし、陽極と陰極とでパッシブマトリクス型の電極を構成した。
【0127】
(1−5:封止)
封止用ガラス基板の主面の周辺部に、UV硬化性封止材(ナガセケムテックス社製XNR5516Z)を、ディスペンサーを用いて塗布した。この塗布面を下側として、(1−4)で得た積層構造を有する基板と位置合わせして、減圧下(−25KPa)で貼り合わせた。その後大気圧に戻し、UV光を照射して封止材を硬化することにより(1−1)〜(1−4)で得た層を封止し、有機EL素子を得た。
【0128】
(1−6:評価)
(1−5)で得られた素子の電極に電源を接続し駆動させたところ、単色(赤色)の画像が表示されることが確認された。画素中の発光は均一であった。
【0129】
<作製例2:有機下地層を有する有機EL素子の作製>
発光層ポリマー(Lumation G1302(Sumation社製))を、有機下地層用インクと同じ有機溶媒に0.8質量%の割合で溶解し、粘度8cPのインクを調製した。
【0130】
作製例1の工程(1−1)〜(1−2)と同様にして得た陽極、有機下地層及び隔壁を有する基板の上に、上記インクを塗布し、有機発光層を作製した。
インクの塗布は、Litrex社製インクジェット装置120Lを用い、隔壁により規定された画素領域のそれぞれに7滴ずつ吐出した。
【0131】
インク塗布後、真空中で約100℃、60分間加熱処理し、続いて作製例1の工程(1−4)〜(1−5)と同様に操作し、有機EL素子を得た。
【0132】
得られた素子の電極に電源を接続し駆動させたところ、クロストークの無い明瞭な動画像が表示されることを確認した。一画素のリーク電流は、−10Vにおいて0.1μA以下であった。また、有機下地層の抵抗率は2×1014Ωcmであった。
【0133】
<比較例1>
(1−1:有機下地層の形成)
有機下地層形成用インクとして、水溶性であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、バイエル社製、商品名;Baytron P CH 8000)を含む水溶液を用いた他は、作製例1の工程(1−1)と同様にして、ITO陽極及び有機下地層を有する基板を得た。
得られた有機下地層上に、作製例1の工程(1−2)と同様に隔壁を形成しようとしたところ、隔壁形成のフォトリソグラフィの過程で有機下地層の厚さが不均一となった。
【0134】
<作製例3:リーク電流ブロック層を有する有機EL素子の作製>
本作製例では、全周にわたって画素の周辺部にリーク電流ブロック層が備えられた有機EL素子を作製した。
[基板前処理]
ガラス基板上にITO電極パターンが形成され、その上に住友化学製フォトレジスト(M302R)をパターニングして隔壁形成した基板を使用した。隔壁サイズは170μm×50μm、画素ピッチ237μmであった。基板洗浄後、リアクティブイオンエッチング装置(サムコ社製RIE−200L)により基板の表面処理を行った。表面処理条件はO2プラズマ処理(圧力5Pa、出力30W、O2流量40sccm、時間10分)を行い、続けてCF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間5分)を行った。
【0135】
[正孔注入層形成]
正孔注入層としてPEDOT(H.C、Stark社製CH8000LVW185)に2−ブトキシエタノールを2wt%混合し、0.45μmフィルタにてろ過したものを使用した。そして、Litrex社製80Lを用い、インクジェット塗布を行った。このとき、等間隔に液滴を塗布し、一画素あたりの液滴数は4滴であった。塗布後、真空乾燥を行った。
【0136】
[画素の周辺部にリーク電流ブロック層形成]
熱/光硬化性の絶縁性高分子1を有機溶剤に溶かしたインクを使用し、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。インク添加剤として、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬社製)、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)を重量比で、絶縁性高分子1:DPHA:イルガキュア907=1:0.25:0.01の割合で配合し、絶縁性高分子1が0.4wt%になるようインクを作製した。このとき、1μmフィルタでろ過を行い、粘度を3cPとした。隔壁内全体に塗布する場合には一画素あたり3〜5滴程度を隔壁内に等間隔に塗布した。塗布後、真空中で約200℃、20分加熱処理を行い、絶縁性高分子を硬化させた。
【0137】
[有機発光層塗布前処理]
加熱処理によって隔壁の撥液効果が消失してしまうため、CF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間1分)を行った。また、硬化した絶縁性高分子1上の撥水性を低減するため、UV/O3処理を1分行った。
【0138】
[有機発光層形成]
発光層インクの溶媒として絶縁性高分子1と同じ有機溶媒を使用した。発光層ポリマーとして、GP1302(サメイション社製)を使用し、インク濃度を0.8wt%とし、粘度を8cPとした。このとき、1μmフィルタにてろ過して使用した。その後、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。一画素あたり7滴ずつ吐出した。塗布後、真空中で約100℃で、60分間の加熱処理を行った。
【0139】
[蒸着、封止]
加熱処理後、大気にさらさずに蒸着工程へ移行させて、100ÅのBa膜、200ÅのAl膜の順で発光層上に蒸着し陰極を形成した。その後、ガラス封止を行った。
以上の方法にて有機EL素子を作製すると、リーク電流が抑制された良好な動作をする有機EL素子を得ることができた。
【0140】
<作製例4:リーク電流ブロック層を有する有機EL素子の作製>
本作製例は、画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成する有機EL素子を作製した。
[画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成]
作製例3のリーク電流ブロック層の形成工程において、絶縁性高分子1のインクを画素周辺部全体に形成するのではなく、画素の湾曲部のみに形成することを除いては作製例3と同様にして素子作製を行った。ただし、この場合には、画素の湾曲部分にのみ(1画素につき2箇所に)1滴ずつ吐出した。本作製例4の有機EL素子は、作製例3のものと比較してインクの量を削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明に係る有機EL素子の一実施形態における、画素領域の一部を示す図2のA−A線に沿う矢視断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL装置の一実施形態における、電極配線等を示す斜視図である。
【図3】図1に示す例の隔壁周辺部を拡大表示した断面図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の一実施形態における、画素領域を凹部の開口側から見た平面図である。
【図5】本発明に係る有機EL素子の変形例における、画素領域を凹部の開口側から見た平面図である。
【図6】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図7】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図8】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図9】本発明の有機EL素子製造の一実施形態における一工程を示す図である。
【図10】従来の有機EL素子の一例の断面図である。
【図11】従来の有機EL素子の他の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0142】
1 基板
1S 基板平面の周辺部
2 第1電極層
3 有機下地層
4 隔壁
5 有機発光層
6、6B リーク電流ブロック層
6a、6b リーク電流ブロック層の端部
7 第2電極層
12 マトリクス領域
60 有機EL装置
P4 フォトレジスト層
R1 画素領域
R2 境界領域
110、120 従来の有機EL素子の一例
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、
前記有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、
前記画素領域に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、
前記第1電極層および前記第2電極層の間において、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備え、
前記基板の厚み方向における前記リーク電流ブロック層の電気抵抗が、前記基板の厚み方向における前記有機発光層の電気抵抗よりも高い、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記リーク電流ブロック層の電気抵抗率が、106Ωcm以上である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記リーク電流ブロック層が、熱または光により架橋した高分子樹脂層である、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機下地層が正孔注入層である、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記有機下地層が、正孔注入層と、該正孔注入層の第2電極層側の主面に積層されて成るインターレイヤーとから成る、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機下地層の電気抵抗率が1010Ωcm以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記水に不溶性の有機材料が、架橋した高分子化合物である請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記基板の厚み方向から見た前記境界領域の平面形状が、略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む略長円形状をなし、前記リーク電流ブロック層が、境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部に設けられている、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程と、
前記第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程と、
前記有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程と、
前記画素領域に有機発光層を設ける工程と、
前記画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、前記有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程と、
前記リーク電流ブロック層を形成した後、前記有機発光層を基準にして前記第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程とを含む、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記隔壁を撥液性を有する材料で形成し、前記隔壁内に設ける層を、インクジェット法により形成する、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層の主面上に設けられ、水に不溶性の有機材料により構成された有機下地層と、
前記有機下地層の主面上に設けられ、画素領域を囲むように配置された隔壁と、
前記画素領域に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層を基準にして第1電極層とは反対側に設けられた第2電極層と、
前記第1電極層および前記第2電極層の間において、前記第1電極層および前記有機下地層の間に介在する層と前記隔壁との間の境界領域に設けられたリーク電流ブロック層とを備え、
前記基板の厚み方向における前記リーク電流ブロック層の電気抵抗が、前記基板の厚み方向における前記有機発光層の電気抵抗よりも高い、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記リーク電流ブロック層の電気抵抗率が、106Ωcm以上である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記リーク電流ブロック層が、熱または光により架橋した高分子樹脂層である、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機下地層が正孔注入層である、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記有機下地層が、正孔注入層と、該正孔注入層の第2電極層側の主面に積層されて成るインターレイヤーとから成る、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機下地層の電気抵抗率が1010Ωcm以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記水に不溶性の有機材料が、架橋した高分子化合物である請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記基板の厚み方向から見た前記境界領域の平面形状が、略平行に相対する略直線状の二つの直線部を含む略長円形状をなし、前記リーク電流ブロック層が、境界領域のうちの前記二つの直線部を除く湾曲部に設けられている、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
基板の主面上に第1電極層が設けられた基板を用意する工程と、
前記第1電極層の主面上に、水に対して不溶性の有機材料により構成される有機下地層を設ける工程と、
前記有機下地層の主面上に、画素領域を囲む隔壁を設ける工程と、
前記画素領域に有機発光層を設ける工程と、
前記画素領域に臨む前記隔壁の表面に沿うように、前記有機発光層よりも電気抵抗が高い材料を用いて、リーク電流ブロック層を形成する工程と、
前記リーク電流ブロック層を形成した後、前記有機発光層を基準にして前記第1電極層とは反対側に第2電極層を設ける工程とを含む、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記隔壁を撥液性を有する材料で形成し、前記隔壁内に設ける層を、インクジェット法により形成する、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−33971(P2010−33971A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196961(P2008−196961)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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