説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】製造プロセスにおける損傷を防止し、所望の駆動電圧を得ることのできる有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板101上に、陽極102と、発光層を有する複数の有機機能層103と、陰極104と、がこの順に形成された有機エレクトロルミネッセンス素子100において、複数の有機機能層103のうちの少なくとも1層が、鉛筆硬度がH以上3H以下の高硬度層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」ともいう。)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
一方、有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層や有機機能層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
このような有機エレクトロルミネッセンス素子として、発光層及び有機機能層の全ての層を重合硬化型化合物によって形成した例が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法として、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法)等(以下、塗布法とも言う)があるが、真空プロセスを必要とせず連続生産が簡便であるという理由で、近年はロール状のフィルム(連続フレキシブル基板)に対して成膜処理を行う所謂ロールツーロール方式によるウェットプロセス生産が注目されている。
ロールツーロール方式によるフィルムの製造工程においては、フィルム搬送にローラによる曲げ部分を複数設けたり、ローラによる巻き取りを設けたりすることが生産性の観点や設備の小型化といった観点から好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−297882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロールツーロール方式による製造を行う際に、最表層の硬度が十分でないと製造プロセス中に引っ掻き傷又は損傷を受けるという問題がある。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子においては所望の駆動電圧を得るという観点において膜厚に制限がある。具体的には、膜厚が厚すぎると駆動電圧が高くなり、消費電力が大きくなる。そのため製造中において損傷を受け易いという問題がある。なお、上記特許文献1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子は、硬度についての記載は何等開示されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、製造プロセスにおける損傷を防止し、所望の駆動電圧を得ることのできる有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板上に、陽極と、発光層を有する複数の有機機能層と、陰極と、がこの順に形成された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記複数の有機機能層のうちの少なくとも1層が、鉛筆硬度がH以上3H以下の高硬度層であることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記高硬度層が、前記複数の有機機能層のうちの、前記陽極側に接する最表層又は前記陰極側に接する最表層であることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層の鉛筆硬度が、6B以上2B未満であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記高硬度層が、分子内に少なくとも2個以上の重合性結合基を有する有機化合物の重合性膜からなることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記重合性膜が、光、熱、電子線の少なくとも1つにより重合させて形成された膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンスを製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記基板が帯状で可撓性を有し、
前記基板を連続的に搬送して、当該基板上に、陽極、発光層を有する有機機能層及び陰極をこの順に形成して前記有機エレクトロルミネッセンス素子をロールツーロール方式で製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造プロセスにおける損傷を防止し、所望の駆動電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】照明用に使用する有機ELパネルの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1のII-II線に沿った概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[有機エレクトロルミネッセンス素子]
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と言う)は、基板上にITO(Indium tin oxide)等の透明導電膜からなる陽極が設けられ、その上に発光層を含む有機機能層、及び陽極と交差して成膜されたアルミニウム等からなる陰極がこの順に設けられることにより構成されたものである。
例えば発光層は蛍光性有機化合物の非常に薄い層となっている。通常、有機物は絶縁体であるが有機機能層の膜厚を非常に薄くすることにより電流注入が可能となり有機EL素子として10V以下の低電圧で駆動することが可能となる。有機EL素子は蛍光性有機化合物の非常に薄い薄膜を陽極と陰極ではさみ電流を流すことで発光する電流駆動型発光素子であり、近年、フラットディスプレイなどの表示装置や、電子写真複写機、プリンターなどの光源への使用が検討されている。
【0015】
図1は、照明用に使用する有機ELパネルの一例を示す概略斜視図、図2は、図1のII-II線に沿った概略断面図である。
図1、図2に示すように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子100(以下、有機EL素子とも言う)は、基板101上に、陽極102、有機機能層103、陰極104が順次設けられた構成である。有機EL素子100の非発光面となる上面は、ガラスカバー105で覆われ、このように有機EL素子100を接着剤層108を介してガラスカバー105で覆った状態を有機ELパネルという。なお、ガラスカバー105内には窒素ガス106が充填され、捕水剤107が設けられている。
なお、図1、図2は発光領域(発光層)の各発光ドットから発した光が基板101の裏面側から外部に放射されるように構成されたボトムエミッション型であるが、ガラスカバー105の表面側から外部に放射されるように構成されたトップエミッション型であっても良い。
陽極102と陰極104との間の有機機能層103の代表的な層構成としては、例えば、以下の(i)〜(v)の構成が挙げられる。
【0016】
《有機EL素子の層構成》
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極
(v)陽極/正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極
なお、本発明において陽極、陰極を除く層が本発明で言う有機機能層である。
【0017】
本発明の有機EL素子では、有機機能層のうちの少なくとも1層の鉛筆硬度がH以上3H以下である。検討の結果、このように有機機能層のうちの少なくとも1層の鉛筆硬度をH以上3H以下とすることにより、ロールツーロール方式による成膜時にパーティクル付着等による傷が付きにくく良好な整流比の素子を得ることができることを見出した。
また、鉛筆硬度がH以上3H以下である高硬度層が、複数の有機機能層のうち陰極側の最表層又は陽極側の最表層であることが好ましい。具体的には、図1に示すボトムエミッション構成では、前記高硬度層が陰極側の最表層の電子輸送層又は電子注入層であることが好ましい。また、図示しないがトップエミッション構成の場合には、前記高硬度層が陽極側の最表層の正孔輸送層であることが好ましい。このように高硬度層を陰極側又は陽極側の最表層とすることによって、有機EL素子の輸送又は製造プロセス中に引っ掻き傷や損傷を受けることを防止することができる。その結果、膜厚を厚くすることもなく、所望の駆動電圧を得ることができる。
【0018】
また、前記高硬度層が、分子内に少なくとも2個以上の重合性結合基を有する有機化合物の重合性膜からなることが好ましい。また、この重合性膜が、光、熱、電子線の少なくとも1つにより重合させて形成された膜であることが好ましい。
さらに、発光層の鉛筆硬度が6B以上2B未満であることが好ましい。発光層の鉛筆硬度を6B以上2B未満とすることにより、前記H以上3H以下の層のロールツーロール方式による成膜曲げ時の応力を緩和することができ、この層の破断を防ぐことが可能となる。
以下に各層について詳細に説明する。
【0019】
《発光層》
発光層とは、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよいが、層間での励起子の失活等が考えられることから発光層の層内であることが好ましい。
発光層の膜厚は特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは5〜100nmの範囲に調整される。
本発明において、発光層の鉛筆硬度は、6B以上2B未満とすることにより、前記H以上3H以下の層のロールツーロール方式による成膜曲げ時の応力を緩和することができ、この層の破断を防ぐことが可能となる。
【0020】
以下に、発光層に含まれるホスト化合物(発光ホストとも言う)と発光ドーパントについて説明する。
《ホスト化合物》
本発明に用いられるホスト化合物について説明する。
ここで、本発明においてホスト化合物とは、発光層に含有される化合物の内でその層中での質量比が20%以上であり、且つ室温(25℃)においてりん光発光のりん光量子収率が0.1未満の化合物である。好ましくはりん光量子収率が0.01未満である。
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光ドーパントを複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0021】
以下に、ホスト化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0022】
また、本発明に用いられる発光ホストとしては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位を持つ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(重合性発光ホスト)でも良い。
ホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、なお且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。ホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物も挙げられる。
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0023】
《発光ドーパント》
本発明に用いられる発光ドーパントについて説明する。
本発明に用いられる発光ドーパントとしては、蛍光ドーパント、りん光ドーパントを用いることができるが、より発光効率の高い有機EL素子を得る観点からは、有機EL素子の発光層や発光ユニットに使用される発光ドーパントとして、上記のホスト化合物を含有すると同時にりん光ドーパントを含有することが好ましい。
りん光ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
本発明に係るりん光ドーパントとしては、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0024】
以下に、りん光ドーパントとして用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0025】
《注入層:電子注入層》
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機機能層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
正孔注入層(陽極バッファー層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
また、高分子バッファー層には導電性向上のためにポリスチレンスルホン酸(PSS)のような酸をドープすることが一般的に良く用いられる。しかしながら、ドープした酸等の不純物が加熱や電圧印加等で素子内部に拡散し、素子性能に悪影響を与えることが懸念される。
正孔注入層の膜厚は特に制限はないが、形成する膜の均質性の観点から、2〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは5〜100nmの範囲に調整される。
【0026】
電子注入層は必要に応じて設け、陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層(陰極バッファー層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
上記注入層(バッファー層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0027】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げたアザカルバゾール誘導体を含有することが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。更には、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対しそのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係る正孔阻止層、電子阻止層の膜厚としては、好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。
【0029】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0030】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0031】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
また、特開平11−251067号公報、 文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139 J.Huang et.al.)に記載されているような、所謂p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
【0032】
また、有機EL素子がトップエミッション構成の場合、正孔輸送層は鉛筆硬度がH以上3H以下の高硬度層であることが好ましい。
正孔輸送層が上記鉛筆硬度を満たす高硬度層の場合、当該高硬度層は分子内に少なくとも2個以上の重合性結合基を有する有機化合物の重合性膜からなることが好ましく、さらには、重合性膜が、光、熱、電子線の少なくとも1つにより重合させて形成された膜であることが好ましい。
【0033】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0034】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0035】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
また、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0036】
また、有機EL素子がボトムエミッション構成の場合、電子輸送層は鉛筆硬度がH以上3H以下の高硬度層であることが好ましい。
電子輸送層が上記鉛筆硬度を満たす高硬度層の場合、当該高硬度層は分子内に少なくとも2個以上の重合性結合基を有する有機化合物の重合性膜からなることが好ましく、さらには、重合性膜が、光、熱、電子線の少なくとも1つにより重合させて形成された膜であることが好ましい。
このような重合性膜としては、下記化合物ET−2、ET−3が好ましい。
【化11】

【化12】

【0037】
その他の化合物としては、以下のものが挙げられる。
【化13】

【化14】

【0038】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0039】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0040】
《基板》
本発明に係る有機EL素子に用いることのできる基板(以下、「基体」、「基材」、「支持基板」、「支持体」等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。基板側から光を取り出す場合には、基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい基板は、ロールツーロールにおける生産性向上をすることができ、また、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0041】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(JSR製)あるいはアペル(三井化学製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0042】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、水蒸気透過度が0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には酸素透過度10−3cm/(m・24h・atm)以下(1atmは、1.01325×10Paである)、水蒸気透過度10−5cm/(m・24h・atm)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0043】
不透明な基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=(有機EL素子外部に発光した光子数)/(有機EL素子に流した電子数)×100である。
カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、また、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0044】
《封止》
本発明の有機EL素子の封止手段としては、例えば、封止部材と電極、基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。更には、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3cm/(m・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m/24h)以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0045】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。
封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
また、有機機能層を挟み基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機機能層を被覆し、基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。
これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0046】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0047】
《有機EL素子の作製方法》
本発明の有機EL素子の作製方法は、生産性の観点からウェットプロセスで成膜することが好ましい。さらに好ましくは、基板としてロール状の樹脂フィルム(連続フレキシブル基板)を使用した所謂ロールツーロール方式によるウェットプロセスが好ましい。
ロールツーロール方式とは、端的には、ロール状の樹脂フィルムを搬送しながら、そのロール状の樹脂フィルム上に陽極や有機機能層、陰極などを順次連続的に形成する製造方式である。
本発明でいうウェットプロセスとは、層を形成する際に層形成材料を溶液の形態で供給し、層形成を行うものである。
【0048】
本発明の有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極からなる有機EL素子の作製法を説明する。
まず、適当な基板上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ陽極を作製する。
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の有機化合物薄膜(有機機能層)を形成させる。
これら各層の形成方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、ダイコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法)等がある。更には均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、本発明においてはスピンコート法、ダイコート法、インクジェット法、スプレー法、印刷法等の塗布法による成膜が好ましい。さらに好ましくは、ロールツーロール方式による上記ウェットプロセスによる成膜が好ましい。
【0049】
本発明の有機EL素子をウェットプロセスで作製する際に、材料を溶解または分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、アニソール等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒や、あるいは水を用いることができる。
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
また、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0050】
《保護膜、保護板》
有機機能層を挟み基板と対向する側の前記封止膜、あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量且つ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0051】
《光取り出し》
有機EL素子は空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7〜2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光の内15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げるためである。
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、有機EL素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等がある。
【0052】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明はこれらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた有機EL素子を得ることができる。
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚みで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど外部への取り出し効率が高くなる。
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。また、更に1.35以下であることが好ましい。
【0053】
また、低屈折率媒質の厚みは媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは低屈折率媒質の厚みが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は回折格子が1次の回折や2次の回折といった所謂ブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光の内、層間での全反射等により外に出ることができない光をいずれかの層間、もしくは媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0054】
導入する回折格子は、二次元的な周期的屈折率を持っていることが望ましい。これは発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がそれほど上がらない。しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては、前述の通りいずれかの層間もしくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である発光層の近傍が望ましい。このとき、回折格子の周期は媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度が好ましい。
回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0055】
《集光シート》
本発明の有機EL素子は基板の光取り出し側に、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより、特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に、例えば一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0056】
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば、住友スリーエム製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば、基板に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
また、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0057】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/mでのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることを言う。本発明の有機EL素子の発光層には、発光ホスト化合物とゲスト材料としての発光ドーパントの少なくとも一種を含有することが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
また、下記で用いる化合物の構造を以下に示す。
【化15】

【化16】

【0059】
《有機EL素子101の作製》
厚さ0.1mmの透明基板(PEN:ポリエチレンナフタレート)上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜しパターニングを行って陽極を形成した後、このITO透明電極を設けた透明基板をノルマルプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
この透明基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を膜厚30nmとなるようにブレード法であるアプリケーターにて塗布した後、200℃にて1時間乾燥し正孔注入層を設けた。
次いで、透明基板を窒素雰囲気下のグローブボックスへと移動し、化合物HT−2をモノクロロベンゼンに溶解させた溶液を用いて、膜厚約20nmとなるようにアプリケーターにて塗布し、160℃、30分間窒素下で乾燥し、正孔輸送層とした。
さらに、酢酸イソプロピルを溶媒に用い、化合物D−1を化合物H−27に対して20質量%として、膜厚が40nmとなるように濃度調整を行った塗布液を調製し、アプリケーターにて塗布を行った。これを120℃、30分間窒素下で乾燥し、発光層とした。
次いで、化合物ET−1を2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに溶解させた溶液をもちいて、アプリケーターにて膜厚約20nmとなるように塗布し、120℃、30分間窒素下で乾燥し、電子輸送層とした。
透明基板を真空蒸着装置に取付け、真空槽を4×10−4Paまで減圧し、電子注入層としてLiFを2nmで成膜し、その後アルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子101を作製した。
【0060】
《有機EL素子102の作製》
有機EL素子101の作製において、化合物ET−1に代えて化合物ET−2を用いて電子輸送層を形成した以外は同様にして、有機EL素子102を作製した。
【0061】
《有機EL素子103の作製》
有機EL素子101の作製において、化合物ET−1に代えて化合物ET−3を用い、120℃30分の加熱条件により硬化させて電子輸送層を形成した以外は同様にして、有機EL素子103を作製した。
【0062】
《有機EL素子104の作製》
有機EL素子103の作製において、化合物ET−3の硬化をUVランプを照射しながら行った以外は同様にして、有機EL素子104を作製した。
【0063】
《有機EL素子105の作製》
有機EL素子103の作製において、化合物ET−3の硬化をUVランプを照射しながら150℃で30分行った以外は同様にして、有機EL素子105を作製した。
【0064】
《有機EL素子106の作製》
有機EL素子103の作製において、化合物D−1、化合物H−27に代えて、それぞれ化合物D−2、化合物EM−2を用いて100℃30分の加熱条件により硬化させて発光層とした以外は同様にして、有機EL素子106を作製した。
【0065】
《有機EL素子107の作製》
有機EL素子106の作製において、硬化条件を120℃30分とした以外は同様にして、有機EL素子107を作製した。
【0066】
[評価実験]
《鉛筆硬度の評価》
JIS K5600-5-4に従い、最表層と、発光層の鉛筆硬度を測定した。その結果を下記表1に示した。
【0067】
《有機EL素子の評価》
作製した有機EL素子101〜107について、下記の評価を行った。その結果を下記表1に示した。
(生産性適合評価)
(1)発光の見られた素子数
ロール径10cmおよび20cmのロールツーロール方式による生産を想定して、次のような生産性適合評価を行った。
各水準につき10素子を作製し、10素子中、故障が発生する素子数を評価した。ロール径10cmおよび20cmのロールに巻きつけて1時間保持した後にロールから外し、発光故障がないかどうかを確認した。発光故障とは、電極のひび割れによる短絡等により素子の少なくとも一部分が発光しなくなる現象のことをいう。生産性適合評価後も発光の見られた素子の数を評価し、さらに、次の項目においても評価を行った。
【0068】
(2)発光面積変化のない素子数
作製した有機EL素子各水準につき10素子に対し、正面輝度1000cd/mとなるような電流を与え、生産性適合評価前後で発光面積の変化のない素子の数を評価した。
【0069】
(3)輝度変化のない素子数
作製した有機EL素子各水準につき10素子に対し、2.5mA/cmの定電流条件下により駆動したとき、生産性適合評価前後で発光面積の変化のない素子の数を評価した。
【0070】
(駆動電圧)
作製した有機EL素子に対し、正面輝度1000cd/mとなるような電流を与えたときの駆動電圧を求めた。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果より、本発明に係る有機EL素子102〜107は、生産性適合評価及び駆動電圧に優れていることが認められる。
【符号の説明】
【0073】
100 有機EL素子
101 基板
102 陽極
103 有機機能層
104 陰極
105 ガラスカバー
106 窒素ガス
107 捕水剤
108 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極と、発光層を有する複数の有機機能層と、陰極と、がこの順に形成された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記複数の有機機能層のうちの少なくとも1層が、鉛筆硬度がH以上3H以下の高硬度層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記高硬度層が、前記複数の有機機能層のうちの、前記陽極側に接する最表層又は前記陰極側に接する最表層であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層の鉛筆硬度が、6B以上2B未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記高硬度層が、分子内に少なくとも2個以上の重合性結合基を有する有機化合物の重合性膜からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記重合性膜が、光、熱、電子線の少なくとも1つにより重合させて形成された膜であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンスを製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記基板が帯状で可撓性を有し、
前記基板を連続的に搬送して、当該基板上に、陽極、発光層を有する有機機能層及び陰極をこの順に形成して前記有機エレクトロルミネッセンス素子をロールツーロール方式で製造することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−234972(P2012−234972A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102651(P2011−102651)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】