説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及び表示装置

視野角特性が良好で、高効率な有機EL素子及び表示装置を提供する。 透明電極(12)と、透明電極(12)に対向して配置された対向電極(14)と、透明電極(12)と対向電極(14)の間に、1以上の中間導電層(30),(32),(34)と、1以上の有機発光層(20),(22),(24),(26)とを含み、1つの中間導電層(30)の屈折率をn、1つの有機発光層(20)の屈折率をnとしたとき、中間導電層(30)の屈折率nと、有機発光層(20)の屈折率nとの差が0.2以内である有機エレクトロルミネッセンス素子(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び表示装置に関する。
【背景技術】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスを「EL」と略記する。)の長寿命化、高効率化技術の一つとして、陰極/有機発光層/陽極のユニットを複数積層する技術がある(例えば、特開平6−176870号公報、特開平11−312584号公報、特開平11−312585号公報参照。)。
このような素子は、単層素子に比べ、同一の輝度を得るのに電流密度が低くてすむため素子の長寿命化が図れるという長所がある。しかしながら、これらの技術においては、隣り合う有機発光層の中間に配置される注入電極より電極を引き出す必要があり、配線が複雑になり、配線抵抗による電力ロスが無視できなくなるという問題点があった。
これを回避する技術として、中間の電極として、片側の面が正孔注入性、もう片方の面が電子注入性、という性質を有する構成を採用することにより、中間の引出し電極を不要にすることを可能とした(例えば、特開平11−329748号公報、特開2003−45676号公報参照。)。
しかしながら、この技術にも、発光素子を正面から観察したときと斜めから観察したときで発光色が変わる、すなわち素子の視野角依存性が悪いという問題点があった。また、発光効率も不十分という問題点もあった。
本発明は上記課題に鑑み、視野角特性が良好で、高効率な有機EL素子及び表示装置を提供することを目的とする。
【発明の開示】
中間導電層の構成として、特開平11−329748号公報では薄膜金属/透明電極の積層体、特開2003−45676号公報では、導電性無機化合物や誘電体と金属の積層膜が開示されている。これらの構造を詳細に検討したところ、例えば、導電性無機化合物を用いた場合、その屈折率は有機発光層の屈折率に比べて大きいために、視野角特性が悪化することがわかった。また、金属膜を積層した場合には、その吸収係数が大きいために、発光効率が低下することが分かった。
本発明では、視野角特性向上、発光効率向上という課題に対し、中間導電層の屈折率と有機発光層の屈折率との差を0.2以内とすることにより、発光素子を斜めから観察しても人間の目に感じない程度の色度変化に抑えられることを見出した。
本発明の第一の態様によれば、透明電極と、透明電極に対向して配置される対向電極と、透明電極と対向電極の間に、1以上の中間導電層と、1以上の有機発光層とを含み、1つの中間導電層の屈折率をn、1つの有機発光層の屈折率をnとしたとき、nとnとの差が0.2以内である有機EL素子が提供される。
本発明の第二の態様によれば、透明電極と、透明電極に対向して配置される対向電極と、透明電極と対向電極の間に、1以上の中間導電層と、中間導電層を挟んで位置する複数の有機発光層とを含み、1つの中間導電層の屈折率をn、その中間導電層を挟む第1の有機発光層と第2の有機発光層の屈折率をそれぞれn,nとしたとき、中間導電層の屈折率nと、有機発光層の屈折率n及び/又はnとの差が0.2以内である有機EL素子が提供される。
これらの有機EL素子において、中間導電層の屈折率nと、有機発光層の屈折率n及び/又はnとの差は、好ましくは0.15以内である。また、nとnは同一でもよい。
中間導電層は、屈折率n及び/又はnよりも大きな屈折率を示す層と、屈折率n及び/又はnよりも小さな屈折率を示す層の積層体として構成することができる。このとき、積層体は、2又は3以上の層から構成されていてもよい。
また、屈折率n及び/又はnよりも大きな屈折率を示す材料と、屈折率n及び/又はnよりも小さな屈折率を示す材料の混合物を含む層として構成することもできる。
本発明の第三の態様によれば、上記第一又は第二の態様の有機エレクトロルミネッセンス素子を含んで構成される表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。
図2は図1の部分拡大図である。
図3は本発明の有機EL素子の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。この有機EL素子は、有機発光層を4層積層した例である。
この有機EL素子1は、支持基板10上に、透明陽極(透明電極)12が設けられ、この透明陽極12に、陰極(対向電極)14が対向して設けられている。透明陽極12と陰極14の間には、有機発光層20,22,24,26と、中間導電層30,32,34が、1つの中間導電層が2つの有機発光層の間に介在するように、設けられている。有機発光層20,22,24,26が発する光は、透明陽極12を通して支持基板10から取り出す。
図2は、図1が示す有機発光層22,24とその間に介在する中間導電層32の部分拡大図である。
有機発光層22,24は、それぞれ、正孔注入層200、発光層202、電子注入層204からなる。発光層202において、正孔注入層200から供給される正孔と、電子注入層204から供給され電子が結合して発光する。中間導電層32は、有機発光層22側の面が正孔注入性であり、有機発光層24側の面が電子注入性である。
図1に戻り、本発明において、少なくとも1つの任意の中間導電層、例えば、中間導電層32の屈折率をn、その中間導電層32を挟む有機発光層(第1及び第2の有機発光層)22,24の屈折率をそれぞれn,nとしたとき、これら屈折率は以下のいずれかの関係を満たす。
▲1▼ |n−n|<0.2
▲2▼ |n−n|<0.2
▲3▼ |n−n|<0.2、かつ、|n−n|<0.2
好ましくは、▲3▼の関係を満たす。
また、好ましくは、中間導電層を挟む2つの有機発光層の全ての屈折率が上記の関係を満たす。
有機発光層の発光を効率よく素子の外部に取出すためには、中間導電層32の吸収係数は2.5(1/μm)以下であることが好ましい。全ての中間導電層30,32,34の吸収係数が2.5(1/μm)以下であることがより好ましい。
4層の有機発光層20,22,24,26、3層の中間導電層30,32,34は、それぞれ異なっていても、同一でもよい。
尚、この実施形態では、有機発光層は4層積層されているが、有機発光層は、2層、3層又は5層以上積層してもよい。
また、この実施形態では、透明電極は陽極であるが、陰極でも構わない。
図3は、本発明の有機EL素子の別の実施形態を示す図である。
この有機EL素子2は、有機発光層を1層のみ形成した例である。即ち、本発明は有機発光層が1層のみの場合にも有効である。
この有機EL素子2は、支持基板10上に、透明陽極(透明電極)12が設けられ、この透明電極12に陰極(対向電極)14が対向して設けられている。透明陽極12と陰極14の間には、透明陽極12側から順に中間導電層30と有機発光層20が1層ずつ積層されている。有機発光層20が発する光は透明電極12を通して支持基板10から取り出す。
尚、中間導電層と有機発光層の積層の順序は、透明陽極12側から、有機発光層20、中間導電層30の順序になっていても構わない。
有機発光層と中間導電層が積層体の場合、有機発光層と中間導電層の屈折率は等価屈折率として定義される。
例えば、高屈折率材料からなる膜と低屈折率材料からなる膜を積層した場合における、波長λの光に対する中間導電層の屈折率の定義について説明する。高屈折率材料の膜厚をd、屈折率をn、低屈折率材料層の膜厚をd、屈折率をnとし、さらに量δ、δを数式(1)のように定義する。

さらに、2×2行列Mを数式(2)のように定義する。

このとき、積層膜の等価屈折率Nを数式(3)のように定義する。

有機発光層の屈折率は、有機発光層を形成する正孔注入材料、発光材料、電子注入材料の屈折率から、数式(1)〜(3)と同様な方法で等価屈折率として定義することができる。これら有機発光層を形成する材料の屈折率として1.7〜1.8程度のものが多く、結果として有機発光層の等価屈折率も1.7〜1.8程度の値となる。
従って、中間導電層の屈折率は1.5〜2.0の範囲のものが好ましい。
以下、有機EL素子の各部材について説明する。
1.支持基板
支持基板は、有機EL素子や、TFTなどを支持するための部材であり、そのため機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましい。このような基板としては、具体的には、ガラス板、金属板、セラミックス板、あるいはプラスチック板(ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂など)などを挙げることができる。
また、これらの材料からなる基板は、有機EL表示装置内への水分の侵入を避けるために、さらに無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好ましい。特に、有機発光媒体への水分の侵入を避けるために、基板における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好ましい。
具体的に、支持基板の含水率を0.0001重量%以下の値及びガス透過係数を1×10−13cc・cm/cm・sec.cmHg以下の値とすることがそれぞれ好ましい。なお、本実施形態では、支持基板側から光を取出すため支持基板は可視光に対する透過率が50%以上の透明であることが望ましいが、その反対側、すなわち、陰極側からEL発光を取り出す場合には、基板は必ずしも透明性を有する必要はない。
2.透明陽極
透明陽極としては仕事関数の大きい(例えば、4.0eV以上)金属、合金、電気電導性化合物又はこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、インジウムチンオキサイド(ITO)、インジウム銅、スズ、酸化亜鉛、金、白金、パラジウムなどの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、陽極の厚さも特に制限されるものではないが、10〜1000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10〜200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。さらに、透明電極に関しては、有機発光層から放射された光を外部に有効に取り出すことが出来るように、実質的に透明、より具体的には、光透過率が50%以上の値であることが好ましい。
3.陰極
陰極には、仕事関数の小さい(例えば、4.0eV未満)金属、合金、電気電導性化合物又はこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、銀などの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、陰極の厚さも特に制限されるものではないが、10〜1000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10〜200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。
陰極を透明電極として使用する場合は、上記の材料のうち透明なものを選択する。
4.有機発光層
有機発光層は、電子と正孔とが再結合して、EL発光が可能な有機発光媒体を含む層と定義することができる。かかる有機発光層は、例えば、陽極上に、以下の各層を積層して構成することができる。
▲1▼有機発光媒体
▲2▼正孔注入層/有機発光媒体
▲3▼有機発光媒体/電子注入層
▲4▼正孔注入層/有機発光媒体/電子注入層
▲5▼有機半導体層/有機発光媒体
▲6▼有機半導体層/電子障壁層/有機発光媒体
▲7▼正孔注入層/有機発光媒体/付着改善層
これらの中で、▲4▼の構成が、より高い発光輝度が得られ、耐久性にも優れていることから通常好ましく用いられる。
有機発光媒体における発光材料としては、例えば、p−クオーターフェニル誘導体、p−クィンクフェニル誘導体、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、金属キレート化オキシノイド化合物、オキサジアゾール系化合物、スチリルベンゼン系化合物、ジスチリルピラジン誘導体、ブタジエン系化合物、ナフタルイミド化合物、ペリレン誘導体、アルダジン誘導体、ピラジリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、スチリルアミン誘導体、クマリン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、8−キノリノール誘導体を配位子とする金属錯体、ポリフェニル系化合物などの1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
また、これらの有機発光材料のうち、芳香族ジメチリディン系化合物としての、4,4’−ビス(2,2−ジ−t−ブチルフェニルビニル)ビフェニルや、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル及びこれらの誘導体がより好ましい。
さらに、ジスチリルアリーレン骨格などを有する有機発光材料をホスト材料とし、当該ホスト材料に、ドーパントとしての青色から赤色までの強い蛍光色素、例えばクマリン系材料、あるいはホストと同様の蛍光色素をドープした材料を併用することも好適である。より具体的には、ホスト材料として、上述した4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニルなどを用い、ドーパントとして、N,N−ジフェニルアミノベンゼンなどを用いることが好ましい。
この他、発光材料として、特願2002−097812等に記載の公知のものを適宜選択して使用できる。
また、正孔注入層には、1×10〜1×10V/cmの範囲の電圧を印加した場合に測定される正孔移動度が、1×10−6cm/V・秒以上であって、イオン化エネルギーが5.5eV以下である化合物を使用することが好ましい。
このような正孔注入層を設けることにより、有機発光媒体への正孔注入が良好となり、高い発光輝度が得られたり、あるいは、低電圧駆動が可能となる。
このような正孔注入層の構成材料としては、具体的に、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、縮合芳香族環化合物、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルや、4,4’,4”−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミンなどの有機化合物が挙げられる。
また、正孔注入層の構成材料として、p型−Siやp型−SiCなどの無機化合物を使用することも好ましい。なお、上述した正孔注入層と、陽極層との間、あるいは、上述した正孔注入層と、有機発光媒体との間に、導電率が1×1010S/cm以上の有機半導体層を設けることも好ましい。このような有機半導体層を設けることにより、さらに有機発光媒体への正孔注入がより良好となる。
また、電子注入層には、1×10〜1×10V/cmの範囲の電圧を印加した場合に測定される電子移動度が、1×10−6cm/V・秒以上であって、イオン化エネルギーが5.5eVを超える化合物を使用することが好ましい。
このような電子注入層を設けることにより、有機発光媒体への電子注入が良好となり、高い発光輝度が得られたり、あるいは、低電圧駆動が可能となる。このような電子注入層の構成材料としては、具体的に、8−ヒドロキシキノリンの金属錯体(Alキレート:Alq)、又はその誘導体、あるいは、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。
また、付着改善層は、かかる電子注入層の一形態とみなすことができ、すなわち、電子注入層のうち、特に陰極との接着性が良好な材料からなる層であり、8−ヒドロキシキノリンの金属錯体又はその誘導体などから構成することが好ましい。なお、上述した電子注入層に接して、導電率が1×10−10S/cm以上の有機半導体層を設けることも好ましい。このような有機半導体層を設けることにより、さらに有機発光媒体への電子注入性が良好となる。
また、有機発光層の厚さについては,好ましくは5nm〜5μmの範囲内で設定することができる。この理由は、有機発光層の厚さが5nm未満となると、発光輝度や耐久性が低下する場合があり、一方、有機発光層の厚さが5μmを超えると、印加電圧の値が高くなる場合があるためである。従って、有機発光媒体の厚さを10nm〜3μmの範囲内の値とすることがより好ましく、20nm〜1μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
5.中間導電層
中間導電層は、図2に示すように隣り合う有機発光層の間に介在し、又は図3に示すように1つの有機発光層と隣接しており、一方の面から正孔を注入し、他方の面から電子を注入する機能を有するものであれば各種用いることができる。
中間導電層を構成する材料としては、In,Sn,Zn,Ti,Zr,Hf,V,Mo,Cu,Ga,Sr,La,Ru等の金属の酸化物、窒化物、ヨウ化物、ホウ化物等を挙げることができる。また、これらの金属の複数種類からなる多元系金属化合物を挙げることができる。その具体例としては、例えば、ITO、IZO、SnO、ZnO、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、MoOx、CuI、InN、GaN、CuAlO、CuGaO、SrCu、LaB、RuOなどの透明導電材料を用いることができる。この中でも特に、ITO、IZO、SnO、ZnO、TiOx、VOx、MoOx、RuOといった導電性金属酸化物が好適に用いられる。
本発明では、発光素子の視野角特性を向上するため、中間導電層の屈折率と有機発光層の屈折率との差を0.2以内とする。そこで、中間導電層の電荷注入性を損なわない範囲で、低屈折率材料と前記透明導電材料とを含む膜を用いることができる。
低屈折率材料としては、金属酸化物(SiOなど)や金属フッ化物(NaF,LiF,CaF,NaAlF,AlF,MgF,ThF,LaF,NdFなど)などの金属ハロゲン化物である無機化合物、含フッ素樹脂等の有機化合物を用いることができる。
中間導電層を、低屈折率材料と透明導電材料を含む膜とするためには、低屈折率材料と透明導電材料の混合膜としたり、低屈折率材料と透明導電材料との積層膜とすることが好ましい。
例えば、LiFに代表される金属弗化物などの金属ハロゲン化物のような低屈折率材料と前記透明導電材料との混合物からなる膜や、金属弗化物と透明導電材料とを積層した多層膜を用いることができる。
透明導電材料と金属ハロゲン化物などの低屈折率材料を混合した中間導電層は、例えば、二つの蒸着源を用意し、各々の材料を蒸着源に充填し共蒸着することにより成膜することができる。屈折率は各々の蒸着のレートで制御することができる。低屈折率材料がLiFのような金属ハロゲン化物の場合、その比率が増えると、中間導電層の導電性が悪化するとともに、均質に混合しなくなる傾向にあるため好ましくない。具体的には、膜中の金属ハロゲン化物の比率は、0.6より小さいことが好ましい。
透明導電材料からなる膜と低屈折率材料からなる膜を積層する場合、電子、正孔それぞれの電荷を注入するという中間導電層の機能を維持していれば、どのような積層構造も可能であるが、透明導電材料/低屈折率材料/透明導電材料という3層構造となっていることが好ましい。中間導電層の膜厚に対する低屈折率材料の膜厚比率は、0.6より小さいことが好ましい。
また、有機発光層の発光を効率よく素子の外部に取出すという観点で、可視光に対する中間導電層の吸収係数は2.5(1/μm)以下であることが好ましい。より好ましくは2.2(1/μm)以下である。吸収係数が2.5(1/μm)以下の場合、たとえば、中間導電層の膜厚が30nmとすると、中間導電層一層の透過率は92%である。これが二層では86%、三層では80%というように、透過率が減衰していくものの、ある程度高く保つことができる。透明導電材料は一般に、消衰係数として0.1を越える値を持つものが多く、一方、LiFに代表される材料は消衰係数がほとんど0である。そのため、透明導電材料と低屈折率材料の混合あるいは積層により吸収係数を低減し素子の発光効率を高めるという作用も生まれる。中間導電層は、吸収係数が2.5(1/μm)以下という観点では、その消衰係数が0.1以下であることが好ましい。
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
(1)ITO付きガラス基板の準備
25mm×75mmの支持基板(OA2ガラス:日本電気硝子社製)を純水及びイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し,エアブローにて乾燥後,UV洗浄した。次に、この基板をスパッタ装置に移動し、ITOを150nmの厚みになるように成膜した。
(2)有機発光層の成膜
次に、この基板を有機蒸着装置に移動し、基板ホルダーに基板を固定し、真空槽を5×10−7torrまで減圧した後,正孔注入層、有機発光媒体、電子注入材料を順次成膜した。
まず、正孔注入層としては、4,4’,4”−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミン(MTDATA)を蒸着し、膜厚55nmとした。
次に、有機発光媒体としては、ホストとして、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を蒸着速度0.1〜0.3nm/秒、ドーパントとして、1,4−ビス[4−(N,N−ジフェニルアミノスチリルベンゼン)](DPAVB)を蒸着速度0.003〜0.008nm/秒にて共蒸着し、膜厚40nmとした。
次に、電子注入層としてトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)を蒸着し,膜厚20nmとした。
(3)中間導電層の成膜
蒸着源として、酸化バナジウム(V)と弗化リチウム(LiF)をそれぞれ独立に準備し、Vを10nm、LiFを10nm、Vを10nmの順序で順次成膜した。
(4)有機発光層、中間導電層、有機発光層、陰極の成膜
次に、有機発光層、中間導電層、有機発光層を、順次、上記(1),(2)の有機発光層と中間導電層と同じ要領で成膜した。
次に、陰極としてアルミニウムを150nmの膜厚になるように成膜し、有機EL素子を得た。
(5)有機発光層と中間導電層の屈折率測定
ガラス基板(OA2ガラス:日本電気硝子社製)上に、上記(2)の方法により正孔注入層、有機発光媒体、電子注入層をそれぞれ0.2ミクロンの厚みで単独に成膜し、エリプソメータにて波長500nmの光に対する屈折率を測定した。そして上記(2)のそれぞれの膜厚値を用いて有機発光層の等価屈折率を求めたところ、1.79であった。
また、ガラス基板上に、上記(3)の方法により、酸化バナジウムと弗化リチウムをそれぞれ単独に成膜し、エリプソメータにて波長500nmの光に対する屈折率を測定した。そして上記(3)のそれぞれの膜厚値を用いて中間導電層の等価屈折率を測定したところ1.95であった。また、吸光度計を用い吸収係数を測定したところ2.01であった。
(6)有機EL素子の発光性能測定
電流密度が1.4mA/cmとなるようにITOとアルミニウム陰極の間に通電したところ青い発光を得た。分光放射輝度計(ミノルタ製CS1000)を用い、素子正面方向での輝度と色度を測定したところ、輝度は387nit、色度は(0.157、0.339)であった。
次に、素子を50°だけ傾けて同様に色度を測定し、次の数式(4)により正面方向と視野角50度の間の色差を求めたところ、0.025という良好な値であった。

実施例1、及び後述する実施例2〜5並びに比較例1、2で作製した有機EL素子の構成及び評価結果を表1に示す。

【実施例2】
中間導電層を、VとLiFの共蒸着(膜厚30nm)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製した。中間導電層全体に対するLiFの蒸着比率は0.46とした。中間導電層の屈折率は1.76、吸収係数は2.22であった。有機EL素子の正面方向の輝度は392nit、色度は(0.167,0.366)、正面方向と視野角50度の間の色差は、0.021という良好な値であった。
【実施例3】
中間導電層を、MoOの単層膜(膜厚30nm)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製した。中間導電層の屈折率は1.85、吸収係数は2.48であった。有機EL素子の正面方向の輝度は342nit、色度は(0.150,0.299)、正面方向と視野角50度の間の色差は、0.007という良好な値であった。
比較例1
中間導電層を、Vの単層膜(膜厚30nm)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製した。中間導電層の屈折率は2.20、吸収係数は3.02であった。有機EL素子の正面方向の輝度は320nit、色度は(0.154,0.351)、正面方向と視野角50度の間の色差は、0.042であり、目視で色度の違いが認識できるレベルであった。
【実施例4】
有機発光媒体を以下に述べるような橙色発光媒体と青色発光媒体の積層型としたこと以外は、実施例3と同様の方法で有機EL素子を作製した。尚、正孔注入層の上に、橙色発光媒体を先に積層して、その後に青色発光媒体を積層した。
橙色発光媒体は、下記式(1)に示す材料と下記式(2)に示す材料を5:0.01の比で、膜厚5nmとなるように成膜した。


青色発光媒体は、上記式(1)に示す材料と下記式(3)に示す材料を35:0.8の比で、膜厚35nmとなるように成膜した。

有機発光層の屈折率は他の実施例と同様1.79であった。中間導電層の屈折率は1.85、吸収係数は2.48であった。有機EL素子の正面方向の輝度は392nit、色度は(0.228,0.285)、正面方向と視野角50度の間の色差は、0.014という良好な値であった。
【実施例5】
実施例1と同じ方法で準備した、ITOの厚み150nmであるガラス基板を有機蒸着装置に移動し、真空槽を5×10−7torrまで減圧した後、中間導電層、有機発光層、陰極の順序で成膜した。
中間導電層としては、MoOの単層膜(膜厚30nm)とした。
有機発光層としては、正孔注入層としてMTDATAを55nm、青色発光層として、上記式(1)に示す材料と上記式(3)に示す材料を10:0.25の比で10nm、橙色発光層として、上記式(1)に示す材料と上記式(2)に示す材料を30:0.8の比で30nm、電子注入層としてAlqを20nm、陰極としてアルミニウムを150nmの厚みで順次成膜した。
有機発光層の屈折率は1.79であり、中間導電層の屈折率は1.85、吸収係数は2.48であった。有機EL素子の正面方向の輝度は161nit、色度は(0.273,0.352)、正面方向と視野角50度の間の色差は0.018という良好な値であった。
比較例2
中間導電層をVの単層膜(膜厚30nm)としたこと以外は、実施例5と同様の方法で有機EL素子を作製した。中間導電層の屈折率は2.20、吸収係数は3.02であった。有機EL素子の正面方向の輝度は153nit、色度は(0.246,0.330)、正面方向と視野角50度の間の色差は0.031であり、目視で色度の違いが認識できるレベルであった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、視野角特性が良好で、高効率な有機EL素子及び表示装置を提供することができる。
従って、本発明の有機EL素子は、公知の構成と組み合わせて、民生用TV、大型表示ディスプレイ、携帯電話用表示画面など各種表示装置の画面に用いることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と、
前記透明電極に対向して配置される対向電極と、
前記透明電極と前記対向電極の間に、
1以上の中間導電層と、
1以上の有機発光層とを含み、
1つの中間導電層の屈折率をn、1つの有機発光層の屈折率をnとしたとき、
前記中間導電層の屈折率nと、前記有機発光層の屈折率nの差が0.2以内である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
透明電極と、
前記透明電極に対向して配置される対向電極と、
前記透明電極と前記対向電極の間に、
1以上の中間導電層と、
前記中間導電層を挟んで位置する複数の有機発光層とを含み、
1つの中間導電層の屈折率をn、その中間導電層を挟む第1の有機発光層と第2の有機発光層の屈折率をそれぞれn,nとしたとき、
前記中間導電層の屈折率nと、前記有機発光層の屈折率n及び/又はnとの差が0.2以内である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記中間導電層(屈折率n)が、
屈折率n及び/又はnよりも大きな屈折率を示す層と、屈折率n及び/又はnよりも小さな屈折率を示す層の積層体である、請求の範囲第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記中間導電層(屈折率n)が、
屈折率n及び/又はnよりも大きな屈折率を示す材料と、屈折率n及び/又はnよりも小さな屈折率を示す材料の混合物を含む層からなる、請求の範囲第1項又は第2項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記中間導電層(屈折率n)が、低屈折率材料と、金属の酸化物,窒化物,ヨウ化物及びホウ化物の中から選択される透明導電材料を含む、請求の範囲第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記低屈折率材料が金属ハロゲン化物であり、前記透明導電材料が導電性金属酸化物である請求の範囲第5項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記中間導電層(屈折率n)の吸収係数(単位:1/μm)が2.5以下である請求の範囲第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求の範囲第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含んで構成される表示装置。

【国際公開番号】WO2004/095892
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505778(P2005−505778)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005762
【国際出願日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】