説明

有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】有機EL素子の構成材料として好適な電子受容性材料を提供する。
【解決手段】式(I)で表されるインデノフルオレンジオン誘導体。(式中、X1、X2は互いに同一でも異なっていてもよく、ジシアノメチレン基、シアノイミノ基等の二価の基を表し、R1〜R10は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。R3〜R6、又はR7〜R10は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」と略記することがある)は、電界を印可することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。
【0003】
イーストマン・コダック社のC.W.Tang等による積層型素子による低電圧駆動有機EL素子の報告がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。
Tang等が報告した有機EL素子は、トリス(8−ヒドロキシキノリノールアルミニウム)を発光層に、トリフェニルジアミン誘導体を正孔輸送層にする積層構造を有する。積層構造の利点としては、発光層への正孔の注入効率を高めること、陰極より注入された電子をブロックして再結合により生成する励起子の生成効率を高めること、及び発光層内で生成した励起子を閉じ込めること等が挙げられる。
【0004】
有機EL素子の積層構造としては、正孔輸送(注入)層、電子輸送性発光層の二層型、又は正孔輸送(注入)層、発光層、電子輸送(注入)層の3層型等がよく知られている。こうした積層型構造素子では、注入された正孔と電子の再結合効率を高めるため、素子構造や形成方法の工夫がなされている。
【0005】
従来、有機EL素子に用いられる正孔輸送材料として、芳香族ジアミン誘導体や、芳香族縮合環ジアミン誘導体が知られていた。
しかしながら、それらの芳香族ジアミン誘導体を正孔輸送材料に用いた有機EL素子で十分な発光輝度を得るには、印加電圧を高くする必要があるため、素子寿命の低下や消費電力が大きくなる等の問題を生じていた。
【0006】
それらの問題の解決法として、有機EL素子の正孔注入層にルイス酸等の電子受容性化合物をドープする方法が提案されている(特許文献1〜7等)。ただし、特許文献1〜4で用いられている電子受容性化合物は、有機EL素子の製造工程において取扱い上、不安定であったり、あるいは有機EL素子駆動時において、耐熱性等の安定性が不足し、寿命が低下する等の問題があった。
また、特許文献3、5〜7等に例示されている電子受容性化合物であるテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(TCNQF)は、分子量が小さく、また、フッ素で置換されていることにより、昇華性が高く、有機EL素子を真空蒸着で作製する際に装置内に拡散し、装置や素子を汚染する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−031365号公報
【特許文献2】特開2001−297883号公報
【特許文献3】特開2000−196140号公報
【特許文献4】特開平11−251067号公報
【特許文献5】特開平4−297076号公報
【特許文献6】特表2004−514257号公報
【特許文献7】US2005/0255334A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、有機EL素子の構成材料として好適な電子受容性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究した結果、インデノフルオレンジオン骨格に着目した。これらの化合物は、キノン部位をジシアノメチレン基やシアノイミノ基に変換した場合でも、立体障害が小さく、分子平面性を保持し、熱的に安定であり、昇華温度も高く、蒸着による有機EL素子作製も可能である。また、分子内に2個のキノン部位を有しているため、電子受容性も高い。さらに、特定の置換基を導入することで、電子受容性を高めたり、結晶性を変化することが可能である。例えば、無置換のインデノフルオレンジオン骨格は結晶性が高いため、膜厚を厚くした場合に結晶化によるリーク電流の発生等のおそれがある。そのため、有機EL素子作製時には、薄膜にする、又はアミン系化合物等の正孔輸送材料と混合することで結晶化を抑制することができる。さらに、膜厚を厚くして使用する場合、又は素子の作製条件により結晶化が問題となる場合には、インデノフルオレンジオン骨格にフェニル基等のかさ高い置換基を導入することで、結晶状態を変化した誘導体を適用できる。
これらの特徴を有する本発明のインデノフルオレンジオン誘導体を有機EL素子、特に正孔注入層に適した場合、駆動電圧の低電圧化や長寿命化、電圧上昇の抑制を実現できることを見出した。
【0010】
本発明によれば、以下の有機EL素子用材料等が提供される。
1.下記式(I)で表されるインデノフルオレンジオン誘導体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化1】

(式中、X、Xは互いに同一でも異なっていてもよく、下記(a)〜(e)に示す二価の基のいずれかであり、R〜R10は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。R〜R、又はR〜R10は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。)
【化2】

(式中、R51〜R53は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基又は複素環基であり、R52とR53が互いに結合して環を形成してもよい。)
2.前記インデノフルオレンジオン誘導体が、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表されるいずれかの化合物を少なくとも1つ以上含む1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化3】

(式中、R11〜R50は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、フッ素原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。但し、R11〜R50の全てが水素原子の場合は除く。R11〜R50は、それぞれ結合して環を形成してもよい。)
3.アセトニトリル溶液中での還元電位が−1.0V(vsFc/Fc;ここでFcはフェロセンを示す)以上である1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
4.正孔注入材料である1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
5.陽極と陰極の間に有機薄膜層を有し、
前記有機薄膜層が、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含む積層体であり、
前記正孔注入層が1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
6.前記正孔注入層が、さらに、下記式(IV)で表されるフェニレンジアミン化合物を含有する5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】

(式中、R61〜R66は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アルキル基、アリール基又は複素環であり、あるいは結合するフェニル基とともに、ナフタレン骨格、カルバゾール骨格又はフルオレン骨格を形成してもよい。nは1又は2である。)
7.下記式(I)で表されるインデノフルオレンジオン誘導体。
【化5】

(式中、X、Xは互いに同一でも異なっていてもよく、下記(a)〜(e)に示す二価の基のいずれかであり、R〜R10は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。R〜R、又はR〜R10は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。)
【化6】

(式中、R51〜R53は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基又は複素環基であり、R52とR53が互いに結合して環を形成してもよい。)
8.下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表されるいずれかの化合物である7に記載のインデノフルオレンジオン誘導体。
【化7】


(式中、R11〜R50は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、フッ素原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。但し、R11〜R50の全てが水素原子の場合は除く。R11〜R50は、それぞれ結合して環を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な有機EL素子用材料を提供できる。また、低電圧で駆動でき、長寿命な有機EL素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の有機EL素子の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに本発明の有機EL素子用材料について説明する。
本発明の有機EL素子用材料は、下記式(I)で表されるインデノフルオレンジオン誘導体を含む。
【化8】

(式中、X、Xは互いに同一でも異なっていてもよく、下記(a)〜(e)に示す二価の基のいずれかであり、R〜R10は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。R〜R、又はR〜R10は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。)
【0014】
【化9】

(式中、R51〜R53は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基又は複素環基であり、R52とR53が互いに結合して環を形成してもよい。)
【0015】
〜R10で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられる。
フルオロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロアダマンチル基等が挙げられる。
アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
アリーロキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、ペンタフルオロベンジルオキシ基、4−トリフルオロメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。
複素環の例としては、ピリジン、ピラジン、フラン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チオフェン等が挙げられる。
【0016】
また、R〜R10で表されるアルキル基、アリール基、フルオロアルキル基、又は複素環は、各々置換基でさらに置換されていてもよい。これらの置換基は上記で挙げたハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、フルオロアルキル基、又は複素環と同じであってもよい。またR51〜R53で表されるフルオロアルキル基、アルキル基、アリール基又は複素環基も同様である。
【0017】
尚、R〜R、又はR〜R10は、互いに結合して環を形成していてもよい。環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ピラジン環、ピリジン環、フラン環等が挙げられる。
同様に、R52とR53は互いに結合して環を形成してもよい。
【0018】
式(I)で表される構造を有することで、化合物の耐熱性や昇華性等の安定性や電子受容性を高めることができる。この化合物は電子受容性を有し、また、耐熱性に優れ、昇華精製も可能であるため、高純度化が可能となる。有機EL素子に使用することで素子の駆動電圧を低下することができ、また、寿命を向上できる。さらに、素子の製造時において、成膜装置内部に飛散することがないため、成膜装置又は有機EL素子を汚染することもない。
従って、有機EL素子用材料、特に正孔注入材料として好適である。
【0019】
上記式(I)で表される化合物は、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表されるいずれかの化合物が好ましい。
【化10】


(式中、R11〜R50は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環、フッ素原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。但し、R11〜R50の全てが水素原子の場合は除く。R11〜R50は、それぞれ結合して環を形成してもよい。)
11〜R50で表されるアルキル基、アリール基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又は複素環の例は、上記R〜R10の場合と同様である。
【0020】
尚、式(I)のX及びXの置換基の種類によっては異性体が存在する。例えば、式(IIa)の場合、2つのシアノイミン基のシアノ基の結合位置による異性体(IIb)や(IIc)が存在するが、本発明の材料は特定の異性体に限定されるものではなく、各単独の構造の化合物でもよく、シン型、アンチ型、又はこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の有機EL素子用材料は、好ましくはアセトニトリル溶液中での還元電位が−1.0V(vsFc/Fc)以上であり、特に好ましくは、−0.8V以上(vsFc/Fc)である。尚、Fcはフェロセンである。還元電位が−1.0V以上の化合物を使用することにより、電子受容性がより強くなる。
電子受容性が大きくなることにより、ITOや他のITOよりも低仕事関数の材料を用いた陽極との電子授受がされやすくなったり、また、正孔輸送材料のHOMO準位と電子受容性化合物のLUMO準位が近くなることに正孔をより注入しやすくなる。
以下に本発明の有機EL素子用材料の具体例を示す。
【0022】
【化11】









【0023】
本発明のインデノフルオレンジオン誘導体は、例えば、Organic Letters 4巻 2157頁(2002年)、又はOrganic Letters 7巻 4229頁(2005年)に記載の合成法に従い合成したインデノフルオレンジオン誘導体を、さらに、下記のスキーム1により合成することで得られる。合成条件等、詳細はLiebigs Ann.Chem.(1986年)142頁等を参照できる。それらの反応により得られた結晶を、さらに昇華精製することで不純物を低減し、有機EL素子材料に用いた際に素子の寿命等で良好な性能を与えることができる。
【化12】

(R〜R10は上記式(I)と同様である。)
【0024】
続いて、本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極の間に有機薄膜層を有する。有機薄膜層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含み、正孔注入層が、本発明の有機EL素子用材料を含有する。
【0025】
図1は本発明の有機EL素子の一実施形態を示す概略断面図である。
有機EL素子1では、基板(図示せず)上に陽極10、正孔注入層20、正孔輸送層30、発光層40、電子輸送層50、陰極60がこの順に積層されている。この素子において、有機薄膜層は正孔注入層20、正孔輸送層30、発光層40及び電子輸送層50からなる積層構造となっている。本発明では正孔注入層20が本発明の有機EL素子用材料を含有する。これにより、有機EL素子の駆動電圧を低くでき、また、長寿命化、電圧上昇の抑制を達成できる。
尚、正孔注入層以外の他の有機層が本発明の有機EL素子用材料を含有していてもよい。この場合、後述する各層を構成する材料と混合して使用してもよい。
正孔注入層における本発明の有機EL素子用材料の含有量は、好ましくは1〜100モル%である。
【0026】
本発明の有機EL素子では、正孔注入層が上記式(I)、(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)の化合物の他に下記式(IV)で表されるフェニレンジアミン化合物を含有することが好ましい。
【化13】

(式中、R61〜R66は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アルキル基、アリール基又は複素環であり、あるいは結合するフェニル基とともに、ナフタレン骨格、カルバゾール骨格又はフルオレン骨格を形成してもよい。nは1又は2である。)
【0027】
このフェニレンジアミン化合物を含有させると、本発明の化合物を単独に使用した際の膜質の均質性や、耐熱性、あるいは電荷注入性を改良できる場合もある。
【0028】
式(IV)において、R61〜R66のハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0029】
61〜R66のアルキル基として、例えば、メチル基、イソプロピル基、tertブチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0030】
61〜R66のアリール基として、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基が好ましい。尚、これらはメチル基等で置換されていてもよい。
【0031】
61〜R66の複素環として、例えば、ピリジン環、ピラジン環が好ましい。
【0032】
またR61〜R66は、結合するフェニル基を含んでナフタレン骨格、カルバゾール骨格又はフルオレン骨格を形成してもよい。尚、これらはメチル基等で置換されていてもよい。
【0033】
正孔注入層に対する式(IV)の化合物の含有量は、好ましくは0.1〜98モル%である。
上記式(I)、(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表される化合物と式(IV)で表されるフェニレンジアミン化合物との混合割合は、陽極の材料に応じて適宜選択してよい。
以下に式(IV)の化合物の好適例を示す。
【化14】


【0034】
尚、本発明の有機EL素子用材料は、上記実施形態の構成以外の素子にも使用できる。例えば、以下に示す(1)〜(15)の構成を有する素子にて、素子を形成する発光層等の各有機層の材料として使用してもよい。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(3)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/付着改善層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極(図1)
(7)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(8)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(9)陽極/絶縁層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(10)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(11)陽極/無機半導体層/絶縁層/正孔輸送層/発光層/絶縁層/陰極
(12)陽極/絶縁層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(13)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(14)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(15)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/絶縁層/陰極
【0035】
これらの中で、通常(4)、(6)、(7)、(8)、(12)、(13)及び(15)の構成が好ましく用いられる。
以下、本発明の有機EL素子を構成する各部材について説明する。
【0036】
(透光性基板)
本発明の有機EL素子は透光性の基板上に作製する。ここでいう透光性基板は有機EL素子を支持する基板であり、400〜700nmの可視領域の光の透過率が50%以上で、平滑な基板が好ましい。
具体的には、ガラス板、ポリマー板等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等が挙げられる。またポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。
尚、光取り出し方向の反対側に支持基板が位置する場合には透光性は不要である。
【0037】
(陽極)
有機EL素子の陽極は、正孔を正孔輸送層又は発光層に注入する役割を担うものであり、陽極側に透明性を必要とする場合は、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化錫(NESA)、酸化インジウム亜鉛合金(IZO)、金、銀、白金、銅等が適用できる。また、透明性を必要としない、反射型電極とする場合には、それらの金属の他に、アルミ、モリブデン、クロム、ニッケル等の金属や合金を使用することもできる。
特に、仕事関数の低い(例えば、5.0eV以下)陽極と、本発明の有機EL素子用材料を用いた正孔注入層を組み合わせて用いても、電子授受が可能であり、良好な注入性を示す。
これら材料は単独で用いることもできるが、これら材料同士の合金や、その他の元素を添加した材料も適宜選択して用いることができる。
陽極はこれらの電極物質を蒸着法やスパッタリング法等の方法で薄膜を形成させることにより作製することができる。
発光層からの発光を陽極から取り出す場合、陽極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。また陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、通常1nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選択される。
【0038】
(発光層)
有機EL素子の発光層は以下(1)〜(3)の機能を併せ持つものである。
(1) 注入機能;電界印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能
(2) 輸送機能;注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能
(3) 発光機能;電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能
正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさに違いがあってもよく、また、正孔と電子の移動度で表される輸送能に大小があってもよいが、どちらか一方の電荷を移動することが好ましい。
この発光層を形成する方法としては、例えば蒸着法、スピンコート法、LB法等の公知の方法を適用することができる。発光層は、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで分子堆積膜とは、気相状態の材料化合物から沈着され形成された薄膜や、溶液状態又は液相状態の材料化合物から固体化され形成された膜のことであり、通常この分子堆積膜は、LB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区分することができる。
また、特開昭57−51781号公報に開示されているように、樹脂等の結着剤と材料化合物とを溶剤に溶かして溶液とした後、これをスピンコート法等により薄膜化することによっても、発光層を形成することができる。
本発明においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により発光層に本発明の新規化合物からなる発光材料以外の他の公知の発光材料を含有させてもよく、また、本発明の新規化合物からなる発光材料を含む発光層に、他の公知の発光材料を含む発光層を積層してもよい。
【0039】
発光層に使用できる発光材料又はドーピング材料としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、テトラセン、コロネン、クリセン、フルオレセイン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ペリノン、フタロペリノン、ナフタロペリノン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、アルダジン、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、ピラジン、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、イミン、ジフェニルエチレン、ビニルアントラセン、ジアミノカルバゾール、ピラン、チオピラン、ポリメチン、メロシアニン、イミダゾールキレート化オキシノイド化合物、キナクリドン、ルブレン及び蛍光色素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
発光層に使用できるホスト材料としては、下記(i)〜(ix)で表される化合物が好ましい。
下記式(i)で表される非対称アントラセン。
【化15】

(式中、Arは置換もしくは無置換の核炭素数10〜50の縮合芳香族基である。
Ar’は置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族基である。
〜Xは各々、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基である。
a、b及びcは、それぞれ0〜4の整数である。
nは1〜3の整数である。また、nが2以上の場合は、[ ]内は、同じでも異なっていてもよい。)
【0041】
下記式(ii)で表される非対称モノアントラセン誘導体。
【化16】

(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環基であり、m及びnは、それぞれ1〜4の整数である。ただし、m=n=1でかつArとArのベンゼン環への結合位置が左右対称型の場合には、ArとArは同一ではなく、m又はnが2〜4の整数の場合にはmとnは異なる整数である。
71〜R80は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のシリル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基である。)
【0042】
下記式(iii)で表される非対称ピレン誘導体。
【化17】

(式中、Ar及びArは、それぞれ置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族基である。
及びLは、それぞれ置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフタレニレン基、置換もしくは無置換のフルオレニレン基又は置換もしくは無置換のジベンゾシロリレン基である。
mは0〜2の整数、nは1〜4の整数、sは0〜2の整数、tは0〜4の整数である。
また、L又はArは、ピレンの1〜5位のいずれかに結合し、L又はArは、ピレンの6〜10位のいずれかに結合する。
ただし、n+tが偶数の時、Ar,Ar,L,Lは下記(1) 又は(2) を満たす。
(1) Ar≠Ar及び/又はL≠L(ここで≠は、異なる構造の基であることを示す。)
(2) Ar=ArかつL=Lの時
(2−1) m≠s及び/又はn≠t、又は
(2−2) m=sかつn=tの時、
(2−2−1) L及びL、又はピレンが、それぞれAr及びAr上の異なる結合位置に結合しているか、(2−2−2) L及びL、又はピレンが、Ar3及びAr4上の同じ結合位置で結合している場合、L及びL又はAr及びArのピレンにおける置換位置が1位と6位、又は2位と7位である場合はない。)
【0043】
下記式(iv)で表される非対称アントラセン誘導体。
【化18】

(式中、A及びAは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数10〜20の縮合芳香族環基である。
Ar及びArは、それぞれ独立に、水素原子、又は置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環基である。
81〜R90は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5〜50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のシリル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基又はヒドロキシル基である。
Ar、Ar、R89及びR90は、それぞれ複数であってもよく、隣接するもの同士で飽和もしくは不飽和の環状構造を形成していてもよい。
ただし、式(iv)において、中心のアントラセンの9位及び10位に、該アントラセン上に示すX−Y軸に対して対称型となる基が結合する場合はない。)
【0044】
下記式(v)で表されるアントラセン誘導体。
【化19】

(式中、R91〜R100は、それぞれ独立に水素原子,アルキル基,シクロアルキル基,置換しても良いアリール基,アルコキシル基,アリーロキシ基,アルキルアミノ基,アルケニル基,アリールアミノ基又は置換しても良い複素環式基を示し、a及びbは、それぞれ1〜5の整数を示し、それらが2以上の場合、R91同士又はR92同士は、それぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、またR91同士又はR92同士が結合して環を形成していてもよいし、R93とR94,R95とR96,R97とR98,R99とR100が互いに結合して環を形成していてもよい。Lは単結合、−O−,−S−,−N(R)−(Rはアルキル基又は置換しても良いアリール基である)、アルキレン基又はアリーレン基を示す。)
【0045】
下記式(vi)で表されるアントラセン誘導体。
【化20】

(式中、R101〜R110は、それぞれ独立に水素原子,アルキル基,シクロアルキル基,アリール基,アルコキシル基,アリーロキシ基,アルキルアミノ基,アリールアミノ基又は置換しても良い複数環式基を示し、c,d,e及びfは、それぞれ1〜5の整数を示し、それらが2以上の場合、R101同士,R102同士,R106同士又はR107同士は、それぞれにおいて、同一でも異なっていてもよく、またR101同士,R102同士,R106同士又はR107同士が結合して環を形成していてもよいし、R103とR104,R108とR109がたがいに結合して環を形成していてもよい。Lは単結合、−O−,−S−,−N(R)−(Rはアルキル基又は置換しても良いアリール基である)、アルキレン基又はアリーレン基を示す。)
【0046】
下記式(vii)で表されるスピロフルオレン誘導体。
【化21】

(式中、A〜Aは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のビフェニル基又は置換もしくは無置換のナフチル基である。)
【0047】
下記式(viii)で表される縮合環含有化合物。
【化22】

(式中、A〜A14は前記と同じ、R111〜R113は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数5〜18のアリールオキシ基、炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、炭素数5〜16のアリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のエステル基又はハロゲン原子を示し、A〜A14のうち少なくとも1つは3環以上の縮合芳香族環を有する基である。)
【0048】
下記式(ix)で表されるフルオレン化合物。
【化23】

(式中、R114及びR115は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換アミノ基、シアノ基又はハロゲン原子を表わす。異なるフルオレン基に結合するR114同士は、同じであっても異なっていてもよく、同じフルオレン基に結合するR114及びR115は、同じであっても異なっていてもよい。R116及びR117は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基を表わし、異なるフルオレン基に結合するR116同士、R117同士は、同じであっても異なっていてもよく、同じフルオレン基に結合するR116及びR117は、同じであっても異なっていてもよい。Ar及びArは、ベンゼン環の合計が3個以上の置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基又はベンゼン環と複素環の合計が3個以上の置換あるいは無置換の炭素でフルオレン基に結合する縮合多環複素環基を表わし、Ar及びArは、同じであっても異なっていてもよい。nは、1〜10の整数を表す。)
【0049】
以上のホスト材料の中でも、好ましくはアントラセン誘導体、さらに好ましくはモノアントラセン誘導体、特に好ましくは非対称アントラセンである。
【0050】
また、発光材料としては、りん光発光性の化合物を用いることもできる。りん光発光性の化合物を使用する場合、ホスト材料はカルバゾール環を含む化合物が好ましい。ドーパントとしては三重項励起子から発光することのできる化合物であり、三重項励起子から発光する限り特に限定されないが、Ir、Ru、Pd、Pt、Os及びReからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体であることが好ましく、ポルフィリン金属錯体又はオルトメタル化金属錯体が好ましい。
カルバゾール環を含む化合物からなるりん光発光に好適なホストは、その励起状態からりん光発光性化合物へエネルギー移動が起こる結果、りん光発光性化合物を発光させる機能を有する化合物である。ホスト化合物としては励起子エネルギーをりん光発光性化合物にエネルギー移動できる化合物ならば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。カルバゾール環以外に任意の複素環等を有していても良い。
【0051】
このようなホスト化合物の具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。ホスト化合物は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
具体例としては、以下のような化合物が挙げられる。
【0052】
【化24】

【0053】
りん光発光性のドーパントは三重項励起子から発光することのできる化合物である。三重項励起子から発光する限り特に限定されないが、Ir、Ru、Pd、Pt、Os及びReからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体であることが好ましく、ポルフィリン金属錯体又はオルトメタル化金属錯体が好ましい。ポルフィリン金属錯体としては、ポルフィリン白金錯体が好ましい。りん光発光性化合物は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
オルトメタル化金属錯体を形成する配位子としては種々のものがあるが、好ましい配位子としては、2−フェニルピリジン誘導体、7、8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体、2−フェニルキノリン誘導体等が挙げられる。これらの誘導体は必要に応じて置換基を有しても良い。特に、フッ素化物、トリフルオロメチル基を導入したものが、青色系ドーパントとしては好ましい。さらに補助配位子としてアセチルアセトナート、ピクリン酸等の上記配位子以外の配位子を有していても良い。
りん光発光性のドーパントの発光層における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.1〜70質量%であり、1〜30質量%が好ましい。りん光発光性化合物の含有量が0.1質量%未満では発光が微弱でありその含有効果が十分に発揮されず、70質量%を超える場合は、濃度消光と言われる現象が顕著になり素子性能が低下する。
【0054】
発光層は、必要に応じて正孔輸送材、電子輸送材、ポリマーバインダーを含有しても良い。
発光層の膜厚は、好ましくは5〜50nm、より好ましくは7〜50nm、最も好ましくは10〜50nmである。5nm未満では発光層形成が困難となり、色度の調整が困難となる恐れがあり、50nmを超えると駆動電圧が上昇する恐れがある。
【0055】
(正孔輸送層:正孔注入層)
正孔輸送層は発光層への正孔注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい。このような正孔輸送層としてはより低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、さらに正孔の移動度が、例えば10〜10V/cmの電界印加時に、少なくとも10−4cm/V・秒であれば好ましい。
【0056】
正孔輸送層の材料の具体例として、例えば、トリアゾール誘導体(米国特許3,112,197号明細書等参照)、オキサジアゾール誘導体(米国特許3,189,447号明細書等参照)、イミダゾール誘導体(特公昭37−16096号公報等参照)、ポリアリールアルカン誘導体(米国特許3,615,402号明細書、同第3,820,989号明細書、同第3,542,544号明細書、特公昭45−555号公報、同51−10983号公報、特開昭51−93224号公報、同55−17105号公報、同56−4148号公報、同55−108667号公報、同55−156953号公報、同56−36656号公報等参照)、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体(米国特許第3,180,729号明細書、同第4,278,746号明細書、特開昭55−88064号公報、同55−88065号公報、同49−105537号公報、同55−51086号公報、同56−80051号公報、同56−88141号公報、同57−45545号公報、同54−112637号公報、同55−74546号公報等参照)、フェニレンジアミン誘導体(米国特許第3,615,404号明細書、特公昭51−10105号公報、同46−3712号公報、同47−25336号公報、同54−119925号公報等参照)、アリールアミン誘導体(米国特許第3,567,450号明細書、同第3,240,597号明細書、同第3,658,520号明細書、同第4,232,103号明細書、同第4,175,961号明細書、同第4,012,376号明細書、特公昭49−35702号公報、同39−27577号公報、特開昭55−144250号公報、同56−119132号公報、同56−22437号公報、西独特許第1,110,518号明細書等参照)、アミノ置換カルコン誘導体(米国特許第3,526,501号明細書等参照)、オキサゾール誘導体(米国特許第3,257,203号明細書等に開示のもの)、スチリルアントラセン誘導体(特開昭56−46234号公報等参照)、フルオレノン誘導体(特開昭54−110837号公報等参照)、ヒドラゾン誘導体(米国特許第3,717,462号明細書、特開昭54−59143号公報、同55−52063号公報、同55−52064号公報、同55−46760号公報、同57−11350号公報、同57−148749号公報、特開平2−311591号公報等参照)、スチルベン誘導体(特開昭61−210363号公報、同第61−228451号公報、同61−14642号公報、同61−72255号公報、同62−47646号公報、同62−36674号公報、同62−10652号公報、同62−30255号公報、同60−93455号公報、同60−94462号公報、同60−174749号公報、同60−175052号公報等参照)、シラザン誘導体(米国特許第4,950,950号明細書)、ポリシラン系(特開平2−204996号公報)、アニリン系共重合体(特開平2−282263号公報)、導電性高分子オリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)等を挙げることができる。
【0057】
正孔輸送層の他、さらに正孔の注入を助けるために別途正孔注入層を設ける。正孔注入層の材料としては本発明の有機EL用材料単独でもよいし、他の材料と混合して用いてもよい。他の材料としては正孔輸送層と同様の材料や、上記式(IV)で例示した化合物を使用することができる。他に、ポルフィリン化合物(特開昭63−295695号公報等に開示のもの)、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物(米国特許第4,127,412号明細書、特開昭53−27033号公報、同54−58445号公報、同55−79450号公報、同55−144250号公報、同56−119132号公報、同61−295558号公報、同61−98353号公報、同63−295695号公報等参照)を用いることもできる。
【0058】
また米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有する、例えば4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル(NPD)、また特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等を挙げることができる。
【0059】
また、芳香族ジメチリディン系化合物の他、p型Si、p型SiC等の無機化合物も正孔注入層の材料として使用することができる。
【0060】
正孔注入層又は正孔輸送層は、例えば、上述した化合物を真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の公知の方法により薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層、正孔輸送層としての膜厚は特に制限はないが、通常は1nm〜5μmである。正孔注入、輸送層は正孔輸送帯域に本発明の化合物を含有していれば、上述した材料の一種又は二種以上からなる一層で構成されてもよいし、又は前記正孔注入、輸送層とは別種の化合物からなる正孔注入、輸送層を積層したものであってもよい。
【0061】
尚、有機半導体層も正孔輸送層の一部であるが、これは発光層への正孔注入又は電子注入を助ける層であって、10−10S/cm以上の導電率を有するものが好適である。このような有機半導体層の材料としては、含チオフェンオリゴマーや特開平8−193191号公報に開示してある含アリールアミンオリゴマー等の導電性オリゴマー、含アリールアミンデンドリマー等の導電性デンドリマー等を用いることができる。
【0062】
(電子注入層・輸送層)
電子注入層・輸送層は、発光層への電子の注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、電子移動度が大きい。尚、付着改善層は電子注入層の中で特に陰極との付着が良い材料からなる層である。
電子輸送層は数nm〜数μmの膜厚で適宜選ばれるが、特に膜厚が厚いとき、電圧上昇を避けるために、10〜10V/cmの電界印加時に電子移動度が少なくとも10−5cm/Vs以上であることが好ましい。
電子注入層に用いられる材料としては、8−ヒドロキシキノリン又はその誘導体の金属錯体やオキサジアゾール誘導体が好適である。上記8−ヒドロキシキノリン又はその誘導体の金属錯体の具体例としては、オキシン(一般に8−キノリノール又は8−ヒドロキシキノリン)のキレートを含む金属キレートオキシノイド化合物、例えばトリス(8−キノリノール)アルミニウムを電子注入材料として用いることができる。
【0063】
一方、オキサジアゾール誘導体としては、以下の式で表される電子伝達化合物が挙げられる。
【0064】
【化25】

【0065】
(式中、Ar11,Ar12,Ar13,Ar15,Ar16,Ar19はそれぞれ置換又は無置換のアリール基を示し、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。またAr14,Ar17,Ar18は置換又は無置換のアリーレン基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい)
ここでアリール基としてはフェニル基、ビフェニリル基、アントリル基、ペリレニル基、ピレニル基が挙げられる。また、アリーレン基としてはフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントリレン基、ペリレニレン基、ピレニレン基等が挙げられる。また、置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又はシアノ基等が挙げられる。この電子伝達化合物は薄膜形成性のものが好ましい。
【0066】
上記電子伝達性化合物の具体例としては下記のものを挙げることができる。
【0067】
【化26】

【0068】
さらに、電子注入層及び電子輸送層に用いられる材料として、下記式(A)〜(F)で表されるものも用いることができる。
【0069】
【化27】

【0070】
(式(A)及び(B)中、A21〜A23は、それぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子である。
Ar21は、置換もしくは無置換の核炭素数6〜60のアリール基、又は置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のヘテロアリール基であり、Ar22は、水素原子、置換もしくは無置換の核炭素数6〜60のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のヘテロアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基である。ただし、Ar21及びAr22のいずれか一方は、置換もしくは無置換の核炭素数10〜60の縮合環基、又は置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のモノヘテロ縮合環基である。
Ar23は、置換もしくは無置換の炭素数6〜60のアリーレン基、又は置換もしくは無置換の炭素数3〜60のヘテロアリーレン基である。
11、L12及びL13は、それぞれ独立に、単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜60のアリーレン基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のヘテロアリーレン基、又は置換もしくは無置換のフルオレニレン基である。
121及びR122はそれぞれ、水素原子、置換もしくは無置換の核炭素数6〜60のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のヘテロアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基であり、nは0〜5の整数であり、nが2以上の場合、複数のR121及びR122は同一でも異なっていてもよく、また、隣接する複数のR121及びR122同士で結合して、炭素環式脂肪族環又は炭素環式芳香族環を形成していてもよい。
123は、水素原子、置換もしくは無置換の核炭素数6〜60のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜60のヘテロアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、又は−L11−Ar21−Ar22である。)で表される含窒素複素環誘導体。
【0071】
HAr−L14−Ar24−Ar25 (C)
(式中、HArは、置換基を有していてもよい炭素数3〜40の含窒素複素環であり、L14は、単結合、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよい炭素数3〜60のヘテロアリーレン基又は置換基を有していてもよいフルオレニレン基であり、Ar24は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60の2価の芳香族炭化水素基であり、Ar25は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜60のヘテロアリール基である。)で表される含窒素複素環誘導体。
【0072】
【化28】

【0073】
(式中、X11及びY11は、それぞれ独立に炭素数1〜6の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロ環又はX11とY11が結合して飽和又は不飽和の環を形成した構造であり、R125〜R128は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1から6までのアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、アミノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アゾ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、スルフィニル基、スルフォニル基、スルファニル基、シリル基、カルバモイル基、アリール基、ヘテロ環基、アルケニル基、アルキニル基、ニトロ基、ホルミル基、ニトロソ基、ホルミルオキシ基、イソシアノ基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基もしくはシアノ基又は隣接した場合には置換若しくは無置換の環が縮合した構造である。)で表されるシラシクロペンタジエン誘導体。
【0074】
【化29】

【0075】
(式中、R131〜R138及びZは、それぞれ独立に、水素原子、飽和もしくは不飽和の炭化水素基、芳香族基、ヘテロ環基、置換アミノ基、置換ボリル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、X12、Y12及びZは、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の炭化水素基、芳香族基、ヘテロ環基、置換アミノ基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を示し、ZとZの置換基は相互に結合して縮合環を形成してもよく、nは1〜3の整数を示し、nが2以上の場合、Zは異なってもよい。但し、nが1、X12、Y12及びR132がメチル基であって、R138が、水素原子又は置換ボリル基の場合、及びnが3でZがメチル基の場合を含まない。)で表されるボラン誘導体。
【0076】
【化30】

【0077】
[式中、Q及びQは、それぞれ独立に、下記式(G)で示される配位子を表し、L15は、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基、−OR(Rは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基である。)又は−O−Ga−Q(Q)(Q及びQは、Q及びQと同じ)で示される配位子を表す。]
【0078】
【化31】

【0079】
[式中、環A24及びA25は、置換基を有してよい互いに縮合した6員アリール環構造である。]
【0080】
この金属錯体は、n型半導体としての性質が強く、電子注入能力が大きい。さらには、錯体形成時の生成エネルギーも低いために、形成した金属錯体の金属と配位子との結合性も強固になり、発光材料としての蛍光量子効率も大きくなっている。
式(G)の配位子を形成する環A24及びA25の置換基の具体的な例を挙げると、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基等の置換もしくは無置換のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、3−メチルフェニル基、3−メトキシフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−トリクロロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、3−ニトロフェニル基等の置換もしくは無置換のアリール基、メトキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基、ペンタフルオロプロポキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロポキシ基、6−(パーフルオロエチル)ヘキシルオキシ基等の置換もしくは無置換のアルコキシ基、フェノキシ基、p−ニトロフェノキシ基、p−t−ブチルフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基、ペンタフルオロフェニル基、3−トリフルオロメチルフェノキシ基等の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、t−ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、フェニルチオ基、p−ニトロフェニルチオ基、p−t−ブチルフェニルチオ基、3−フルオロフェニルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基、3−トリフルオロメチルフェニルチオ基等の置換もしくは無置換のアリールチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等のモノ又はジ置換アミノ基、ビス(アセトキシメチル)アミノ基、ビス(アセトキシエチル)アミノ基、ビス(アセトキシプロピル)アミノ基、ビス(アセトキシブチル)アミノ基等のアシルアミノ基、水酸基、シロキシ基、アシル基、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等の置換もしくは無置換のカルバモイル基、カルボン酸基、スルフォン酸基、イミド基、シクロペンタン基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基等のアリール基、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、インドリニル基、キノリニル基、アクリジニル基、ピロリジニル基、ジオキサニル基、ピペリジニル基、モルフォリジニル基、ピペラジニル基、トリアチニル基、カルバゾリル基、フラニル基、チオフェニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、トリアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、プラニル基等の複素環基等がある。また、以上の置換基同士が結合してさらなる6員アリール環もしくは複素環を形成しても良い。
【0081】
本発明の好ましい形態に、電子を輸送する領域又は陰極と有機層の界面領域に、還元性ドーパントを含有する素子がある。ここで、還元性ドーパントとは、電子輸送性化合物を還元ができる物質と定義される。従って、一定の還元性を有するものであれば、様々なものが用いられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物又は希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体、希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも一つの物質を好適に使用することができる。
【0082】
また、より具体的に、好ましい還元性ドーパントとしては、Li(仕事関数:2.9eV)、Na(仕事関数:2.36eV)、K(仕事関数:2.28eV)、Rb(仕事関数:2.16eV)及びCs(仕事関数:1.95eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属や、Ca(仕事関数:2.9eV)、Sr(仕事関数:2.0〜2.5eV)、及びBa(仕事関数:2.52eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ土類金属が挙げられる仕事関数が2.9eV以下のものが特に好ましい。
これらのうち、より好ましい還元性ドーパントは、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属であり、さらに好ましくは、Rb又はCsであり、最も好ましいのは、Csである。
【0083】
これらのアルカリ金属は、特に還元能力が高く、電子注入域への比較的少量の添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。また、仕事関数が2.9eV以下の還元性ドーパントとして、これら2種以上のアルカリ金属の組み合わせも好ましく、特に、Csを含んだ組み合わせ、例えば、CsとNa、CsとK、CsとRbあるいはCsとNaとKとの組み合わせであることが好ましい。
Csを組み合わせて含むことにより、還元能力を効率的に発揮することができ、電子注入域への添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
【0084】
本発明においては陰極と有機層の間に絶縁体や半導体で構成される電子注入層をさらに設けてもよい。この時、電流のリークを有効に防止して、電子注入性を向上させることができる。
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。電子注入層がこれらのアルカリ金属カルコゲナイド等で構成されていれば、電子注入性をさらに向上させることができる点で好ましい。
【0085】
具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe及びNaOが挙げられ、好ましいアルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、及びCaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaF、KF、CsF,LiCl、KCl及びNaCl等が挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF及びBeFといったフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。
【0086】
また、電子輸送層を構成する半導体としては、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Li、Na、Cd、Mg、Si、Ta、Sb及びZnの少なくとも一つの元素を含む酸化物、窒化物又は酸化窒化物等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、電子輸送層を構成する無機化合物が、微結晶又は非晶質の絶縁性薄膜であることが好ましい。電子輸送層がこれらの絶縁性薄膜で構成されていれば、より均質な薄膜が形成されるために、ダークスポット等の画素欠陥を減少させることができる。
尚、このような無機化合物としては、上述したアルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0087】
(陰極)
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム・銀合金、アルミニウム/酸化アルミニウム、アルミニウム・リチウム合金、インジウム、希土類金属等が挙げられる。
この陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
【0088】
ここで発光層からの発光を陰極から取り出す場合、陰極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。
また陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmである。
【0089】
(絶縁層)
有機ELは超薄膜に電界を印可するために、リークやショートによる画素欠陥が生じやすい。これを防止するために、一対の電極間に絶縁性の薄膜層を挿入することが好ましい。
絶縁層に用いられる材料としては例えば酸化アルミニウム、弗化リチウム、酸化リチウム、弗化セシウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、弗化マグネシウム、酸化カルシウム、弗化カルシウム、弗化セシウム、炭酸セシウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。
これらの混合物や積層物を用いてもよい。
【0090】
(有機EL素子の作製例)
以上例示した材料により陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層等を形成し、さらに陰極を形成することにより有機EL素子を作製することができる。また陰極から陽極へ、前記と逆の順序で有機EL素子を作製することもできる。
【0091】
以下、透光性基板上に陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極が順次設けられた構成の有機EL素子の作製例を記載する。
まず適当な透光性基板上に陽極材料からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように蒸着やスパッタリング等の方法により形成して陽極を作製する。
次に、この陽極上に正孔注入層及び正孔輸送層を設ける。これらの形成は、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の方法により行うことができるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。
【0092】
真空蒸着法により正孔注入層及び正孔輸送層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物、目的とする正孔注入層及び正孔輸送層の結晶構造や再結合構造等により異なるが、一般に蒸着源温度50〜450℃、真空度10−7〜10−3torr、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚1nm〜5μmの範囲で適宜選択することが好ましい。
【0093】
次に、正孔輸送層上に発光層を設ける。発光層の形成も、所望の有機発光材料を用いて真空蒸着法、スパッタリング、スピンコート法、キャスト法等の方法により有機発光材料を薄膜化することにより形成できるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法により発光層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物により異なるが、一般的に正孔輸送層と同じような条件範囲の中から選択することができる。
【0094】
次にこの発光層上に電子輸送層を設ける。正孔輸送層、発光層と同様、均質な膜を得る必要から真空蒸着法により形成することが好ましい。蒸着条件は正孔輸送層、発光層と同様の条件範囲から選択することができる。
【0095】
最後に陰極を積層して有機EL素子を得ることができる。
陰極は金属から構成されるもので、蒸着法、スパッタリングを用いることができる。しかし下地の有機物層を製膜時の損傷から守るためには真空蒸着法が好ましい。
これまで記載してきた有機EL素子の作製は一回の真空引きで一貫して陽極から陰極まで作製することが好ましい。
【0096】
尚、本発明の有機EL素子の各層の形成方法は特に限定されない。具体的には、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE法)、又は材料を溶媒に解かした溶液を使用したディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の塗布法による公知の方法で形成することができる。
【0097】
本発明の有機EL素子の各有機層の膜厚は特に制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nmから1μmの範囲が好ましい。
【0098】
有機EL素子は電極間に電圧を印加することによって発光する。有機EL素子に直流電圧を印加する場合、陽極を+、陰極を−の極性にして、5〜40Vの電圧を印加すると発光が観測できる。尚、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れず、発光は全く生じない。また、交流電圧を印加した場合には陽極が+、陰極が−の極性になった時のみ均一な発光が観測される。印加する交流の波形は任意でよい。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の有機EL素子用材料及び有機EL素子について、実施例をもとに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り実施例に限定されない。
尚、各実施例で合成又は使用した化合物の構造を以下に示す。
【化32】

【0100】
実施例1[式(A−1)で示される化合物の合成]
(A−1)は以下の合成スキームに従い合成した。
【化33】

【0101】
(1)中間体Aの合成
文献(Organic Letters 7巻, 19号、4229頁)に記載の合成法に従い、合成した3,9−ジブロモーインデノフルオレンジオン2.2gをアルゴン気流下で、4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸2.1g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.14g、トリス−t−ブチルホスフィン0.091g、フッ化カリウム1.9g及びトルエン40mlと混合し、8時間、還流撹拌を行った。冷却後、反応液をろ過し、赤紫色固体を水、メタノールで洗浄した。得られた固体のマススペクトル測定によりM/Z=570にピークが確認された。
【0102】
(2)(A−1)の合成
先に合成した中間体A2.0gを塩化メチレン100mlに撹拌、溶解した。フラスコ内をアルゴン雰囲気にして、食塩−氷浴で溶液温度を−10℃以下に冷却した。その溶液に四塩化チタン2.7gを加え、その後、ビストリメチルシリルカルボジイミド8.2gと塩化メチレン40mlの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間、冷却を継続した後、4時間、室温で撹拌し、さらに2時間、還流撹拌した。析出した赤紫色固体をろ過し、メタノールで洗浄した。
さらに本化合物の昇華精製を行い、1.4gを得た。
この化合物のIRを測定し、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2183cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=618にピークが確認された。
この化合物をアセトニトリル中に0.01モル/リットルの濃度で溶解させ、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)、作用電極にグラッシーカーボン電極、対極に白金電極、参照電極に銀−塩化銀電極を用い、サイクリック・ボルタンメトリーにより還元電位を測定した。掃引速度0.1V/sで(A−1)の還元電位は−0.3Vであった。
標準物質としてフェロセン(以下Fcとする)を同様に測定し、第一酸化電位は0.5Vであり、そのフェロセンの酸化電位を基準とした場合、(A−1)の還元電位は−0.8V(vs Fc/Fc)であった。
【0103】
実施例2[式(A−2)で示される化合物の合成]
【化34】

【0104】
先に合成した中間体A1.5g、マロノニトリル0.35g、ピリジン80mlを加え、90℃で8時間加熱攪拌を行った。冷却後、固体をろ過し、水、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。その後、昇華精製を行い、紫色結晶1.2gを得た。
【0105】
この化合物のIRを測定し、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2222cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=666にピークが確認された。
この化合物を実施例1と同様にしてサイクリック・ボルタンメトリーにより還元電位を測定した。標準物質としてフェロセン(以下Fcとする)の第一酸化電位を基準とした場合、(A−2)の還元電位は−0.75V(vs Fc/Fc)であった。
【0106】
実施例3[式(A−15)で示される化合物の合成]
下記に示す化合物Bから(A−15)を合成した。
【化35】

【0107】
実施例1の(A−1)の合成において、中間体Aを化合物B1.1gに変更した以外は同様に操作を行い、化合物(A−15)である橙色固体0.8gを得た
この化合物のIRを測定した結果、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2181cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=366にピークが確認された。
この化合物の還元電位を実施例1と同様にして測定した結果、−0.7V(vs Fc/Fc)であった。
【0108】
実施例4[式(A−16)で示される化合物の合成]
【化36】

【0109】
実施例2の(A−2)の合成において、中間体Aを化合物B0.8gに変更した以外は同様に操作を行い、化合物(A−16)である橙色固体0.6gを得た。
この化合物のIRを測定した結果、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2223cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=414にピークが確認された。
この化合物の還元電位を実施例1と同様にして測定した結果、−0.7V(vs Fc/Fc)であった。
【0110】
実施例5[式(A−3)で示される化合物の合成]
【化37】

【0111】
(1)中間体Cの合成
3,9−ジブロモーインデノフルオレンジオン2.4gをアルゴン気流下で、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸3.4g、テトラキス(トリフェニレンホスフィン)パラジウム(0)0.23g、2M炭酸ナトリウム20ml、及びトルエン130mlと混合し、12時間、還流撹拌を行った。冷却後、反応液をろ過し、水、メタノールで洗浄して、中間体Cである赤紫色固体を3.5gを得た。
得られた固体のマススペクトル測定によりM/Z=706にピークが確認された。
【0112】
(2)(A−3)の合成
実施例1の(A−1)の合成において、中間体Aを中間体C2.4gに変更した以外は同様な操作を行い、(A−3)を1.5g得た。この化合物のIRを測定した結果、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2182cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=754にピークが確認された。
この化合物の還元電位を実施例1と同様にして測定した結果、−0.65V(vs Fc/Fc)であった。
【0113】
実施例6[式(A−4)で示される化合物の合成]
【化38】

【0114】
実施例2の(A−2)の合成において、中間体Aを中間体C1.8gに変更した以外は同様に操作を行い、化合物(A−4)である橙色固体1.2gを得た。
この化合物のIRを測定した結果、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2223cm−1にシアノ基の吸収が観測された。マススペクトル測定によりM/Z=802にピークが確認された。
この化合物の還元電位を実施例1と同様にして測定した結果、−0.6V(vs Fc/Fc)であった。
【0115】
実施例7[式(A−38)で示される化合物の合成]
【化39】

【0116】
(1)中間体Dの合成
3,9−ジブロモーインデノフルオレンジオン3.0gをアルゴン気流下で、4−フルオロ−3−(トリフロメチル)フェニルボロン酸3.3g、テトラキス(トリフェニレンホスフィン)パラジウム(0)0.29g、2M 炭酸ナトリウム 25ml、及びトルエン160mlと混合し、12時間、還流撹拌を行った。冷却後、反応液をろ過し、水、メタノールで洗浄して、中間体Dである赤紫色固体を3.7gを得た。得られた固体は、マススペクトル測定によりM/Z=606にピークが確認された。
【0117】
(2)(A−38)の合成
合成した中間体D2.7gとマロノニトリル0.73g、ピリジン67mlを加え、80℃で7時間、加熱撹拌を行った。固体をろ過し、水、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。その後、昇華精製を行い、化合物(A−38)である紫色結晶1.7gを得た。
得られた化合物のIRを測定した結果、カルボニル基の吸収が消失し、新たに2185cm−1にシアノ基の吸収が観測された。また、マススペクトル測定によりM/Z=702にピークが確認された。
この化合物の還元電位を実施例1と同様にして測定した結果、−0.75V(vs Fc/Fc)であった。
【0118】
[有機EL素子]
実施例8
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。
【0119】
洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に前記透明電極を覆うようにして膜厚60nmで、実施例2で合成した式(A−2)で表される化合物及び下記式(C−1)で表される化合物を、2:98(モル比)の比になるように成膜した。この混合膜は、正孔注入層として機能する。
【0120】
続けて、この混合膜上に膜厚20nmで、下記式で示す化合物(HTM−1)の層を成膜した。この膜は正孔輸送層として機能する。
【0121】
さらに膜厚40nmのEM1を蒸着し成膜した。同時に発光分子として、下記のスチリル基を有するアミン化合物D1を、EM1とD1の重量比が40:2になるように蒸着した。この膜は、発光層として機能する。
【0122】
この膜上に膜厚10nmのAlq膜を成膜した。これは、電子注入層として機能する。この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを二元蒸着させ、電子注入層(陰極)としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成した。このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し有機EL素子を形成した。
【0123】
【化40】

【0124】
電流密度10mA/cmにおける駆動電圧と、初期輝度1000nit、室温、DC定電流駆動での発光の半減寿命を測定した結果を表1に示す。
【0125】
実施例9
実施例8において、正孔注入層に実施例6で合成した(A−4)のみを用い、その膜厚を10nmとし、正孔輸送層である(HTM−1)の膜厚を70nmとした以外は同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0126】
実施例10
実施例9において、正孔注入層に実施例7で合成した(A−38)のみを用いた以外は同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0127】
実施例11
実施例9において、正孔注入層に実施例5で合成した(A−3)のみを用いた以外は同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0128】
実施例12
実施例9において、正孔注入層に実施例1で合成した(A−1)のみを用いた以外は同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0129】
実施例13
実施例9において、正孔注入層に実施例2で合成した(A−2)のみを用いた以外は同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0130】
比較例1
実施例8において、正孔注入層を式(C−1)で示される化合物単独で成膜した以外は、同様に有機EL素子を形成し、評価した。結果を表1に示す。
比較例1の有機EL素子は駆動時間が5000時間経過した際の電圧上昇が1V以上であったのに対し、実施例8〜13の有機EL素子は電圧上昇がいずれも0.5V以下であり、電圧上昇が抑制されていることが分かった。
【0131】
比較例2
実施例9において、正孔注入層を化合物B(2,7−ジフルオロインデノフルオレンジオン)単独で成膜した以外は、同様に有機EL素子を形成し、評価した。その結果、得られた有機EL素子のリーク電流が大きく、また均一な発光が得られなかった。これは、化合物Bの結晶化の影響、及びキノン構造であるためにアクセプターが不足していること等によるものと考えられる。
【0132】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の有機EL素子用材料は、有機EL素子の構成材料、特に、正孔輸送層、正孔注入層の材料として好適である。また、電子写真感光体の電荷輸送材料としても用いることができる。
本発明の有機EL素子は、平面発光体やディスプレイのバックライト等の光源、携帯電話、PDA、カーナビゲーション、車のインパネ等の表示部、照明等に好適に使用できる。
この明細書に記載の文献内容をここに援用する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表されるインデノフルオレンジオン誘導体。
【化41】

(式(IIa)中、R11及びR12は、水素原子である。R13、R15〜R17、R19及びR20は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R14及びR18は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(IIb)中、R21及びR22は、水素原子である。R23、R25〜R27、R29及びR30は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R24及びR28は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(IIc)中、R31及びR32は、水素原子である。R33、R35〜R37、R39及びR40は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R34及びR38は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(III)中、R41及びR42は、水素原子である。R43、R45〜R47、R49及びR50は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R44及びR48は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。)
【請求項2】
前記置換基が、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、フルオロアルキル基及び複素環から選択される1以上である請求項1記載のインデノフルオレンジオン誘導体。
【請求項3】
下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(III)で表されるいずれかのインデノフルオレンジオン誘導体を少なくとも1つ以上含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化42】

(式(IIa)中、R11及びR12は、水素原子である。R13、R15〜R17、R19及びR20は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R14及びR18は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(IIb)中、R21及びR22は、水素原子である。R23、R25〜R27、R29及びR30は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R24及びR28は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(IIc)中、R31及びR32は、水素原子である。R33、R35〜R37、R39及びR40は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R34及びR38は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。
式(III)中、R41及びR42は、水素原子である。R43、R45〜R47、R49及びR50は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。R44及びR48は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、置換基で置換されてもよいアルキル基、置換基で置換されてもよいアリール基、置換基で置換されてもよいフルオロアルキル基、置換基で置換されてもよいアルコキシ基、置換基で置換されてもよいアリーロキシ基、又は置換基で置換されてもよい複素環である。)
【請求項4】
前記置換基が、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、フルオロアルキル基及び複素環から選択される1以上である請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項5】
正孔注入材料である請求項3又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項6】
陽極と陰極の間に有機薄膜層を有し、
前記有機薄膜層が、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含む積層体であり、
前記正孔注入層が請求項3又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記正孔注入層が、さらに、下記式(IV)で表されるフェニレンジアミン化合物を含有する請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化43】

(式中、R61〜R66は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アルキル基、アリール基又は複素環であり、あるいは結合するフェニル基とともに、ナフタレン骨格、カルバゾール骨格又はフルオレン骨格を形成してもよい。nは1又は2である。)
【請求項8】
下記式(A−1)〜(A−14)、(A−32)、(A−33)、(A−38)〜(A−59)及び(A−78)〜(A−89)のうちいずれかひとつで表される請求項1記載のインデノフルオレンジオン誘導体。
【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

【化48】

【化49】

【化50】

【請求項9】
下記式(A−1)〜(A−14)、(A−32)、(A−33)、(A−38)〜(A−59)及び(A−78)〜(A−89)のうちいずれかひとつで表されるインデノフルオレンジオン誘導体を少なくとも1つ以上含む請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化51】

【化52】

【化53】

【化54】

【化55】

【化56】

【化57】


【図1】
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【公開番号】特開2013−100288(P2013−100288A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255618(P2012−255618)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2008−555542(P2008−555542)の分割
【原出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】