説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】高分子材料を用いて塗布法や印刷法により作成することができる積層型有機エレクトロルミネッセンス素子の提供。
【解決手段】二つの電極の間に一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する複数個の発光ユニット、及び該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持された電荷発生層を含んでなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られており、該電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなり、該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電流効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Tangらは有機蛍光色素を発光層とし、これと電子写真の感光体等に用いられている有機電荷輸送化合物とを積層した二層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)を作製した(特許文献1:特開昭59−194393号公報)。さらに、蛍光色素を電子輸送発光層に微量ドーピングすると、蛍光色素からの発光が生じ、高効率、長寿命の素子が得られることが報告されている。有機EL素子は、競合素子に比べ、低電圧駆動、高輝度に加えて多数の色の発光が容易に得られるという特徴があることから、その素子構造、及び用いられる有機蛍光色素や有機電荷輸送化合物について多くの試みが報告されている(非特許文献1:ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.)第27巻、L269頁(1988年))、非特許文献2:ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(J.Appl.Phys.)第65巻、3610頁(1989年))。
また、主に低分子の有機化合物を用いる有機EL素子とは別に、高分子の発光材料(以下、高分子蛍光体という。)を用いる高分子発光素子が、特許文献2(WO9013148号公開明細書)、特許文献3(特開平3−244630号公報)、非特許文献3(アプライド・フィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)第58巻、1982頁(1991年))などで提案されていた。WO9013148号公開明細書の実施例には、可溶性前駆体を電極上に成膜し、熱処理を行うことにより共役系高分子に変換されたポリ(p−フェニレンビニレン)(以下、PPVということがある。)の薄膜を用いた素子が開示されている。
このような従来の有機EL素子は、材料や素子構成の改良により、輝度、寿命の高性能化がなされているが、表示用ディスプレイや照明用途に要求される実用的レベルまで達していない。
このような従来の有機EL素子は、対向する電極の間に、発光層を含む発光ユニットを1個有するものであるが、その性能を向上する目的で、対向する電極の間に、発光層を含む発光ユニットを複数個有し、各発光ユニットが電荷発生層によって仕切られている有機EL素子(積層型素子と呼ぶことがある)が提案されている(特許文献4:特開2003−272860号公報)。
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】WO9013148号公開明細書
【特許文献3】特開平3−244630号公報
【特許文献4】特開2003−272860号公報
【非特許文献1】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.)第27巻、L269頁(1988年)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(J.Appl.Phys.)第65巻、3610頁(1989年)
【非特許文献3】アプライド・フィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)第58巻、1982頁(1991年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の積層型素子は低分子材料を用いたものに限られていたために、量産に適した塗布法や印刷法を利用できる高分子材料を用いた積層型素子を実現する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記課題を解決し、高分子系でも積層型有機EL素子を作製可能とすべく鋭意検討した結果、電荷発生層を仕事関数の異なる材料を積層又は混合して作製することにより、溶液から製膜できる高分子材料系でも積層型有機EL素子が有効に作動し、有機材料への電子や正孔の注入が効果的に行われることを見出し、本発明をなすに至った。
本発明は、以下の通りである。
(1) 電気的なエネルギーを与える外部回路に接続された二つの対向する電極であり、そのうち少なくとも一方が透明又は半透明である上記電極、並びに
該電極の間に
一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する複数個の発光ユニット、及び
該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持された電荷発生層
を含んでなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られており、
該電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなり、
該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(2) 前記電荷発生層が、前記金属又はその化合物(A)を1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層とを含んでなり、該第1の層が、正孔を注入する電極に対向する側にある上記(1)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(3) 前記電荷発生層が、一つの層に、前記金属又はその化合物(A)の1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である上記(1)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(4) 前記電荷発生層の550nmでの波長に対する透過率が30%以上である上記(1)〜(3)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(5) 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、及びアルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる上記(1)〜(4)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(6) 前記仕事関数4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である上記(1)〜(5)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(7) 前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である上記(6)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(8) 前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物がVである上記(1)〜(4)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(9) 前記仕事関数4.0eV以上の化合物が少なくとも一種の有機化合物である上記(1)〜(5)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(10) 前記高分子発光材料の重量平均分子量が1万から1000万であり、有機溶媒に可溶である上記(1)〜(9)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(11) 一つの電荷発生層により隔てられた二つの発光ユニットの発光層の発光色が同一でない上記(1)〜(10)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(12) 前記二つの対向する電極の間の、一つの発光ユニットと一つの電荷発生層とを含む層の厚みが、該発光ユニットから発生する光の波長を該発光ユニットと該電荷発生層の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内である上記(1)〜(11)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(13) 発光ユニットを構成する各層の少なくとも1層を溶液からの製膜により形成することを特徴とする、上記(1)〜(12)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
(14)(1)〜(12)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する発光装置。
本発明によれば、高分子発光材料を含有する発光層を塗布法で形成できるので、素子の全層を蒸着法によって作製する低分子積層型素子に比べて積層型EL素子の作製時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、本発明特有の電荷発生層を用いることにより高分子材料でタンデム型の有機EL素子を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における電荷発生層とは、その機能として、電圧印加時に陰極方向にホールを注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層である。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、この電荷発生層が二つの発光ユニットの間に狭持されている。ここで本発明において「発光ユニット」とは、一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する積層構造をいう。本発明の有機EL素子においては、複数個の発光ユニットが各々電荷発生層を挟んで積層された構造になっている。さらにこれらの複数個の発光ユニットのうち、少なくとも一つの発光ユニットにおいては、該発光ユニットを構成する一層以上の有機層のなかの一層が高分子発光材料を含有する発光層からなっている。
本発明における「発光ユニット」は、発光層が1層しかない従来型の有機EL素子の構成要素から対向する電極(陽極と陰極)を除いた部分に相当する。従って、本発明の有機EL素子は、高分子発光材料を有する有機層を含む複数の発光ユニットが本発明特有の電荷発生層によって仕切られた構造体が、2つの対向する電極に挟まれた構造であるとも言える。ここで2つの対向する電極の少なくとも一方は透明又は半透明であり、発光層で発生した光を有効に外部に取り出すことができる。
【0007】
本発明における電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなることを特徴とする。仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。仕事関数が上記の範囲から外れると有効な電荷注入が起こりにくくなり本発明の効果が十分に得られないので好ましくない。
電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属からなる群から選択することができる。中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としてはリチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、及びセシウム(Ce)(1.95eV)が、またアルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)及びバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す。)。Liがより好ましい。
また、電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、上記の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等である。
第1の層の厚さは、本発明の効果を十分に得るためには、10nm以下が好ましく、より好ましくは6nm以下である。
【0008】
本発明における電荷発生層は、上記の仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上を単独で用いるよりも、上記の化合物(B)の1種類以上と組合せて用いることにより格段に優れた効果を発揮する。
上記金属又はその化合物(A)と上記化合物(B)とを組合せて用いた電荷発生層としては以下の2通りがある。
(i)電荷発生層が、前記金属又はその化合物(A)を1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層とを含んでなる(積層構造)。
(ii)電荷発生層が、一つの層に、前記金属又はその化合物(A)の1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である(混合層)。
積層構造の場合には第1の層を陽極側(正孔を注入する電極に対向する側)に、第2の層を陰極側にして積層することが好ましい。混合層の場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料の混合した層を一度に形成する方法や、第1の層を構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この構造の上に第2の層を形成することにより混合層とする方法、などを用いて混合層を形成することができる。
第2の層を構成する材料としては仕事関数が4.0eV以上の無機又は有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物のなかでも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましい。V、MoOがより好ましい。
また第2の層に用いられる仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ第1の層の材料から電子を受け取りやすい電子受容性の材料が好ましい。さらに好ましくは第1の層の材料と電荷移動錯体を形成することが好ましい。このような材料の例としてテトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)が挙げられる。
第2の層の厚さは、2nm以上100nm以下が望ましく、さらに望ましくは4nm以上80nm以下である。
【0009】
また本発明の電荷発生層は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)などを用いることができる。
【0010】
本発明の電荷発生層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法などを用いることができる。
【0011】
本発明の電荷発生層の光透過率は、発光層から放出される光に対して高い透過率を有することが望ましい。十分に光を取り出し、十分な輝度を得るためには、波長550nmでの透過率が30%以上であることが望ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0012】
(混色、白色)
本発明の有機EL素子は、積層型素子であり、同時に発光する複数の発光ユニットを含むため、各々の発光ユニットの発光波長を互いに異なるようにして、混色により別の色とすることが可能である。特に補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、又は4色以上の混色によって白色とすることができる。
【0013】
(キャビティ効果)
本発明の有機EL素子では、対向する2つの電極に挟まれた発光ユニットと電荷発生層を含む層の厚さが、発光ユニットから発生する光の波長を該発光ユニットと電荷発生層の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍であることが好ましい。このような関係が満足される構成では光の干渉効果により最大の光取り出し効率が得られるためである。この関係は厳密に成立しているときに効果が最大となるが、誤差はあっても効果は認められ、おおむね膜厚が発光波長を平均屈折率で割った値1/4の整数倍の±20%以内であればよい。さらに実質的に発光している領域の位置が、光反射性電極からの距離が発光波長の1/4の整数倍となる位置にある場合に光の干渉効果が最大となるので好ましい。
有機EL素子が発光色が異なる複数の発光ユニットからなる場合は、どれか一つの波長に対して上記の関係が成り立つように膜厚を制御することが好ましい。あるいは2つの波長に対して上記層厚の関係が同時に成り立つように層厚を制御してもよい。
【0014】
本発明における発光ユニットの構成としては従来知られている構成を利用することができる。すなわち、
(陽極)/発光層/(陰極)、
(陽極)/ホール輸送層/発光層/(陰極)、
(陽極)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/(陰極)
などである。これらに加えて、電極と有機物層の間に電荷注入を容易にする目的で電荷注入層が用いられる場合がある。電荷注入層には、陰極側の電子注入層、陽極側のホール注入層がある。さらにホール輸送層と発光層の間又は電子注入層と発光層の間に発光効率を高める目的でインターレイヤを挿入する場合がある。
【0015】
本発明において第一の電極である透明電極又は半透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作成された膜(NESAなど)や、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0016】
また、陽極と発光ユニットの間に、ホール注入を容易にするために、ホール注入層を形成してもよい。ホール注入層の材料としては、陽極材料とホール輸送材料の中間のイオン化ポテンシャルを有する材料が好ましい。例えば、フタロシアニン誘導体、ポリチオレン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物などの厚さ1〜200nmの層、又は金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等の厚さ2nm以下の層が望ましい。
導電性高分子材料としては、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などが挙げられる。
該導電性高分子の電気伝導度は、10−7S/cm以上10S/cm以下であることが好ましく、発光画素間のリーク電流を小さくするためには、10−5S/cm以上10S/cm以下がより好ましく、10−5S/cm以上10S/cm以下がさらに好ましい。通常は該導電性高分子の電気伝導度を10−5S/cm以上10S/cm以下としてホール注入性を上げるために、該導電性高分子に適量のアニオンをドープする。アニオンの例としては、ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、樟脳スルホン酸イオンなどが好適に用いられる。
【0017】
本発明の第二の電極としては、仕事関数の小さい材料が好ましい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛などの金属、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの希土類金属、又はそれらのうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。陰極を2層以上の積層構造としてもよい。
【0018】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0019】
陰極と発光ユニットの間に電子注入を容易にするために、電子注入層を形成してもよい。電子注入層の材料としては、陰極材料と電子輸送材料との中間の電子親和力を有する材料が望ましい。例えば、金属フッ化物や金属酸化物、又は有機絶縁材料等が挙げられ、中でもアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の金属フッ化物や金属酸化物が好ましい。また導電性高分子材料も用いられる。
該導電性高分子の材料としては、ホール注入材料で説明した電気伝導度の高分子材料を用いればよいが、電子注入性を向上させるためには、適量のカチオンをドープする。カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどが用いられる。
電子注入層の膜厚は、例えば1nm〜150nmであり、2nm〜100nmが好ましい。
【0020】
第一の電極(陽極)又は第二の電極(陰極)の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が用いられる。
第一の電極と第二の電極を基材上に製膜する順番は特に制限はなく、トップエミッション型、ボトムエミッション型の素子構造に応じて適宜、選択することができる。
【0021】
さらに、本発明の有機EL素子では、複数個の発光ユニットが用いられ、該発光ユニットは一層以上の有機層を含む。該一層以上の有機層のうちの一層は発光層であり、そこで正孔と電子が再結合することにより、発光が起こる。該有機層には、低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料、又は高分子型有機EL素子に用いられる高分子発光材料が用いられる。発光色としては、赤、青、緑の3原色の発光以外に、中間色や白色の発光が例示される。フルカラー素子には、3原色の発光色が、平面光源では白色や中間色の発光が好ましい。
【0022】
低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料としては、公知の低分子化合物、三重項発光錯体が挙げられる。低分子化合物では、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体、又はテトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体などを用いることができる。
さらに三重項発光錯体の例としては、例えば、イリジウムを中心金属とするIr(ppy)、BtpIr(acac)、白金を中心金属とするPtOEP、ユーロピウムを中心金属とするEu(TTA)phen等が挙げられる。。
【0023】
これらの各層の厚みは、発光効率や駆動電圧が望みの値になるように、適宜選択されるが、5nmから200nmが一般的である。正孔輸送層としては、10〜100nmが例示され、好ましくは20〜80nmである。発光層としては、10〜100nmが例示され、20〜80nmが好ましい。正孔ブロック層では、5〜50nmが例示され、10nmから30nmが好ましい。電子注入層としては、10〜100nmが例示され、20〜80nmが好ましい。
これらの層の製膜方法としては、真空蒸着、クラスター蒸着、分子線蒸着などの真空プロセスが挙げられるが、それ以外に、溶解性やエマルジョンを形成できる材料の場合は、後述のコーティング法や印刷法にて製膜する方法が例示される。
【0024】
高分子型有機EL素子に用いられる高分子発光材料としては、ポリフルオレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレンビニレン、その誘導体及び共重合体、芳香族アミン及びその誘導体の(共)重合体が例示される。発光材料や電荷輸送材料には上述の低分子型有機EL素子用の発光材料や電荷輸送材料を混合して用いてもよい。
本発明の有機EL素子では、複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有する。
高分子発光材料の重量平均分子量は1万から1000万が好ましく、さらに好ましくは2万から500万である。また高分子発光材料は有機溶剤に対して可溶性を有することが好ましい。
高分子発光層の厚みとしては、5nmから300nmが例示され、30〜200nmが好ましく、さらに好ましくは40〜15nmである。
【0025】
これまで述べてきた高分子材料を含む発光層、電荷輸送層及び電荷注入層、高分子材料を含まない発光層、電荷輸送層及び電荷注入層の成膜方法としては、溶液からのコーティング法や印刷法を挙げることができる。この溶液から塗布後乾燥により溶媒を容易に除去することができる。また電荷輸送材料や発光材料を混合した場合においても同様な手法が適用でき、製造上非常に有利である。溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法を用いることができる。また電荷注入材料は、エマルジョン状で水やアルコールに分散させたものも溶液と同様な方法で、成膜することができる。
コーティング法や印刷法で、高分子材料に用いる溶媒としては特に制限はないが、塗布液を構成する溶媒以外の材料を溶解又は均一に分散できるものが好ましい。該塗布液を構成する材料が非極性溶媒に可溶なものである場合に、該溶媒としてクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソール、n−ヘキシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、デカリン、ビジクロヘキシル等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒が好適に利用できる。
【0026】
本発明の有機EL素子を形成する基板は、電極や該素子の各層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板などが例示される。不透明な基板の場合には、反対の電極が透明又は半透明であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 (ITO/PEDOT/MEH−PPV/Li/V/MEH−PPV/LiAl)
本発明の有機EL素子の作製例を図1を参照しながら説明する。陽極2として利用するITO膜を、スパッタ法により150nmの厚みで形成したガラス基板1に、BYTRON製のPEDOT:PSS溶液をスピンコート法により40nmの厚みで製膜し、窒素雰囲気下において200℃で熱処理して正孔注入層3−1とした。ついで、これに発光材料としてAldrich社製のMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラ−フェニレンビニレン)、重量平均分子量約20万の1重量%のトルエン溶液を作製し、これを先にPEDOT:PSSを製膜した基板上にスピンコートして90nmの膜厚で第1の発光層3−2を製膜した。正孔注入層3−1と第1の発光層3−2を併せて第1の発光ユニット3とする。
この上に真空蒸着法により、電荷発生層4としてLi(仕事関数:2.93eV)、V(仕事関数:4eV以上)を順次それぞれ、2nm、20nmの厚みで形成し、第1の層4−1、第2の層4−2とした。ここでLiの蒸着はAl−Li合金(Li含有率0.05%)を用い、Alが飛びはじめる前の数十秒間、先に飛ぶLiのみを蒸着することで行い、その直後にVの蒸着を行った。
さらに、V膜上に、MEH−PPVの1重量%のトルエン溶液をスピンコートして、90nmの膜厚で第2の発光層(第2の発光ユニット)5を製膜した。さらにこの上に真空蒸着法により陰極6としてAl−Li合金を100nm形成した。以上により2つの発光ユニットを1つの電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子を作製した。
得られた素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧12V、最大輝度80cd/mであった。
電流効率は0.072cd/Aであり、下記の比較例1の素子(0.037cd/A)に比べて1.95倍に増大した。
【0028】
比較例1
比較のために、実施例1において電荷発生層と第2の発光層を設けない以外は実施例1と同様にして、図2に示すように発光ユニットが1つだけの素子も作製した。図2中の符号の説明は図1と同様である。
比較の素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧5.5V、最大輝度52cd/mであった。電流効率は0.037cd/Aであった。
【0029】
比較例2
電荷発生層として、膜厚30nmのVの1層のみからなるものを用いたことを除いては実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。得られた素子の発光開始電圧は40Vでも発光しなかった。
【0030】
実施例2(異なる色の発光ユニットの積層からなる混色素子)
実施例1における発光層であるMEH−PPVの代わりに、緑色の発光をする構造式1で示す高分子発光材料1(略称F8−TPA−BT)からなる高分子発光層を含む第1の発光ユニットと電荷発生層4を形成した後で、PEDOT/PSS層を形成し、引き続いて青色の発光をする構造式2で示す高分子発光材料2(略称F8−TPA−PDA)からなる高分子発光層を含む第2の発光ユニットを製膜した後、実施例1と同様にして陰極を形成して、二つの発光ユニットからの発光波長が異なる発光素子を作製した。
高分子材料1
【化1】


高分子材料2
【化2】

【0031】
比較例3、4(実施例2の比較、緑と青の発光層のみからなる単一素子)
実施例2との比較のため、ITO/PEDOT/発光層/陰極(Li/Al)の構造の発光ユニット1つからなる素子を、緑色発光層材料F8−TPA−BT(比較例1)、青色発光材料F8−TPA−PDA(比較例2)の場合の2つを作製した。
【0032】
比較例1、2の駆動電圧はそれぞれ3.6V、5.4Vであるのに対し、実施例2では8.0Vとなり2つのユニットを積層した素子の予想に近い電圧を示した。また実施例2の素子では2つの層からの混色により、スペクトルが広くなり白がかった緑色の発光が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、本発明特有の電荷発生層を用いることにより高分子材料でタンデム型の有機EL素子の作製に利用することできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1の有機EL素子の断面層構造を示す図。
【図2】従来の有機EL素子の断面層構造を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 陽極(正孔注入電極)
3 第1の発光ユニット
3−1 正孔注入層
3−2 第1の発光層
4 電荷発生層
4−1 第1の層
4−2 第2の層
5 第2の発光層(第2の発光ユニット)
6 陰極(電子注入電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的なエネルギーを与える外部回路に接続された二つの対向する電極であり、そのうち少なくとも一方が透明又は半透明である上記電極、並びに
該電極の間に
一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する複数個の発光ユニット、及び
該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持された電荷発生層
を含んでなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られており、
該電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなり、
該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電荷発生層が、前記金属又はその化合物(A)を1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層とを含んでなり、該第1の層が、正孔を注入する電極に対向する側にある請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電荷発生層が、一つの層に、前記金属又はその化合物(A)の1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電荷発生層の550nmでの波長に対する透過率が30%以上である請求項1〜3のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属がアルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる請求項1〜4のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記仕事関数4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である請求項1〜5のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物がV25である請求項1〜4のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記仕事関数4.0eV以上の化合物が少なくとも一種の有機化合物である請求項1〜5のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記高分子発光材料の重量平均分子量が1万から1000万であり、有機溶媒に可溶である請求項1〜9のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
一つの電荷発生層により隔てられた二つの発光ユニットの発光層の発光色が同一でない請求項1〜10のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記二つの対向する電極の間の、一つの発光ユニットと一つの電荷発生層とを含む層の厚みが、該発光ユニットから発生する光の波長を該発光ユニットと該電荷発生層の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内である請求項1〜11のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
発光ユニットを構成する各層の少なくとも1層を溶液からの製膜により形成することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−242601(P2007−242601A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26800(P2007−26800)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】