説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】素子の輝度を向上させつつ、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図り、発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子、照明装置、面状光源および表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、陽極24、陰極25、陽極24および陰極25の間に配置され、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22、並びに、第1及び第2の発光ユニット21、22に挟持された電荷発生層23を有する発光機能部12と、発光機能部12が搭載される支持基板11と、発光機能部12を囲繞する封止基板13と、支持基板11の発光機能部12側とは反対側の主面に配置される放熱層15とを備え、電荷発生層23は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、熱放射率が0.70以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)、照明装置、面状光源及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は一対の電極と該電極間に設けられる有機化合物を含む発光層(以下、有機発光層という場合がある)を含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、陽極から正孔が注入されるとともに、陰極から電子が注入され、これら正孔と電子とが有機発光層において再結合することによって発光する。
有機EL素子は、通常、有機発光層を1層含んで構成されるが、注入する電流に対する発光効率を向上させるために、有機発光層を含む発光ユニットを複数段積層した構成の有機EL素子が提案されている。このような有機EL素子には、発光ユニット間に電荷発生層が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
有機EL素子を駆動するために素子に供給される電力の一部はジュール熱などにより熱エネルギーに変換される。そのため有機EL素子は発光する際に発熱する。有機EL素子の高温化は、輝度などの発光特性の低下や、有機EL素子自体の劣化を引き起こす要因の1つと考えられている。そのため、有機EL素子が発光する際に生じる熱を素子外に放熱することにより素子の温度上昇を抑制するための方策が種々検討されている。特に、有機EL素子を備える装置として実用化が望まれている照明装置などは、有機EL素子を高輝度で駆動させる必要があるために、発熱量が多くなるので、装置に生じた熱をいかにして装置外に放出するかという点が重要な課題となっている。
【0004】
放熱性を改善する手法として、一部の部材に熱伝導性の高い材料を採用することが提案されている(例えば、特許文献2など)。また、有機EL素子の内部構造中の一部に放熱膜を設けることが提案されている(例えば、特許文献3など)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【特許文献2】特開2004−186045号公報
【特許文献3】特開2006−244847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、有機EL素子の開発にあたっては、発光効率の向上とともに、更に長寿命化を図った有機EL素子の研究、開発が進められている。特許文献1に記載されているような発光ユニットが複数段積層された構成の有機EL素子においては、輝度を向上させることはできるが、他方で発熱量が多くなるために、素子の温度上昇の影響が大きくなり、寿命特性の高い有機EL素子を得ることが困難であるという問題がある。
【0007】
また特許文献2、3に記載されているような有機EL素子の内部構造の一部、例えば発光層の側面または各素子を区画する隔壁部などに熱放射層を設けても、発光層を含む積層体との接触面積が小さく、これだけでは有機EL素子で発生する熱の放熱効果が十分ではない。そのため複数の有機EL素子を備える装置、または大面積の有機EL素子を備える装置のように、大面積で発光を生じさせる装置では、中心部分に熱がこもりやすく、有機EL素子に温度分布が生じることがあるために、高輝度で有機EL素子を駆動する際に、輝度ムラが生じるとともに、素子の長寿命化を十分に図ることができないという問題がある。
【0008】
そこで有機EL素子を実用化していくにあたり、素子の輝度を向上させつつ、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図ることで、発光性能のより優れた有機EL素子が求められている。
【0009】
本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、発光中の温度上昇が少ないマルチフォトン型の有機EL素子、照明装置、面状光源および表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、下記構成を有する有機EL素子およびこれを備える装置を提供する。
[1] 陽極、陰極、前記陽極および陰極の間に配置され、それぞれが有機発光層を含む複数の発光ユニット、並びに、前記発光ユニットに挟持された電荷発生層を有する発光機能部と、
該発光機能部が搭載される支持基板と、
前記支持基板との間に前記発光機能部が介在するように配置される封止基板と、
前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に配置される放熱層と、を備え、
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、
熱放射率が0.70以上である、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
[2] 前記発光層は、高分子有機化合物を含む、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記電荷発生層が、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものを1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)の1種類以上を含む第2の層とを含んで成り、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、上記「1」又は[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記電荷発生層は、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、前記化合物(B)の1種類以上とが混合されてなる層である、上記「1」又は[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記化合物(B)が遷移金属酸化物である、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である、上記[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)がV25である、上記[1]から[7]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記放熱層の前記熱放射率が0.85以上である、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[10] 前記放熱層の熱伝導率が1W/(m・K)以上である、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[11] 前記放熱層の前記熱伝導率が200W/(m・K)以上である、上記[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[12] 前記放熱層が、黒色系材料を含む、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[13] 前記放熱層が、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有する、上記[12]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[14] 前記高熱伝導性層が、アルミニウム、銅、銀、およびこれらから選ばれる2種以上の合金、並びにセラミックス材料からなる群より選ばれる無機材料、または高熱伝導性の樹脂で形成されてなる、上記[13]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[15] 前記支持基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の前記発光機能部側とは反対側の主面に、前記放熱層が設けられる、上記[1]から[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[16] 前記ガラス基板の両主面に、前記放熱層が設けられる、上記[15]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[17] 前記ガラス基板の前記発光機能部側の主面に高熱伝導性層が設けられる、上記[15]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[18] 前記封止基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、上記[1]から[17]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[19] 上記[1]から[18]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
[20] 上記[1]から[18]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
[21] 上記[1]から[18]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状光源。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明によれば、有機発光層を備える発光ユニットが複数段積層されたマルチフォトン型の有機EL素子を構成するとともに、特定の3層から成る第2電極を用いることによりトップエミッション型の有機EL素子を構成することができる。
マルチフォトン型の有機EL素子は、素子全体として取出される光を各発光ユニットが分担して放出することになるため、結果として有機EL素子全体に加わる負荷を各発光ユニットに分散させることができる。そのため、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子とマルチフォトン型の有機EL素子とを輝度が同じ条件で駆動させた場合、シングルフォトン型の有機EL素子の有機発光層に加わる負荷に比べて、マルチフォトン型の有機EL素子の各有機発光層に加わる負荷を軽くすることができる。このように、マルチフォトン型の有機EL素子は、各有機発光層に加わる負荷を軽くすることができるので、素子の長寿命化を図ることができる。さらに、放熱効果を高めることで有機発光層は素子で発生した熱による影響を受け難くなるため、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図ることができる。
そのため、本発明によって素子の輝度を向上させつつ、大面積で素子の均一な発光を可能とし、素子の長寿命化を図ることができるため、発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子を実現することができる。
本発明の有機EL素子は、照明装置、面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL素子を搭載した有機EL装置においては、電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において支持基板の厚み方向の一方を上または上方といい、支持基板の厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0013】
1.本発明の有機EL素子
本発明にかかる有機EL素子は、陽極、陰極、前記陽極および陰極の間に配置され、それぞれが有機発光層を含む複数の発光ユニット、並びに、前記発光ユニットに挟持された電荷発生層を有する発光機能部と、該発光機能部が搭載される支持基板と、前記支持基板との間に前記発光機能部が介在するように配置される封止基板と、前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に配置される放熱層と、を備え、前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、熱放射率が0.70以上であることを、特徴としている。
【0014】
有機EL素子は、2個以上の発光ユニットを備え、複数の発光ユニットが電荷発生層を介して複数段積層された構成のマルチフォトン型の有機EL素子である。有機EL素子のとりうる素子構成を以下に示す。
(i)陽極/第1の発光ユニット/電荷発生層/第2の発光ユニット/陰極
(ii)陽極/発光ユニット/(電荷発生層/発光ユニット)x/陰極
ここで記号「/」は、記号「/」を挟む層が隣接して積層されていることを表す。また記号「x」は、2以上の整数を表し、「(電荷発生層/発光ユニット)x」は、電荷発生層と発光ユニットとからなる積層体が、x段積層されていることを表す。
【0015】
発光機能部は、有機発光層を含む複数の発光ユニットと、発光ユニットに挟持された電荷発生層とを支持基板及び封止基板の間に配置した構成としている。発光ユニットと電荷発生層とを複数段積層することによりマルチフォトン型の有機EL素子が実現される。マルチフォトン型の有機EL素子では、各発光ユニットに負荷を分散させ、各発光ユニットから放射される光を重ね合わされた光が取出される。
このため、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と複数の発光ユニットを積層したマルチフォトン型である有機EL素子とから取出される光量を同じにして比較したとき、マルチフォトン型の有機EL素子の方がシングルフォトン型の有機EL素子より各有機発光層に加わる電力を小さくした状態で各有機発光層を発光させることができる。
したがって、マルチフォトン型の有機EL素子全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、マルチフォトン型の有機EL素子は、シングルフォトン型の有機EL素子より各有機発光層に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。
【0016】
また、支持基板の少なくとも一方の主面、または、封止基板の少なくとも一方の主面に放熱層を設けることにより、支持基板又は封止基板から外界への熱放射を大幅に向上させ、有機EL素子の温度上昇を抑制することができる。支持基板又は封止基板の放熱効果を高めることで、有機発光層は素子で発生した熱による影響を受け難くなるため、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図ることができる。
【0017】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について図1を参照しつつ説明する。図1に、第1の実施形態の有機EL素子1の断面図を示す。本実施形態の有機EL素子1は、陽極、陰極、前記陽極および陰極の間に配置され、それぞれが有機発光層を含む複数の発光ユニット、並びに、前記発光ユニットに挟持された電荷発生層を有する発光機能部12が支持基板11上に搭載されている。発光機能部12は、封止基板(上部封止膜という場合がある)13によって全体が覆われ、封止基板13と支持基板11とが接着部14にて密封されている。このようにして発光機能部12は、支持基板11と封止基板13とにより囲繞され、外界から遮断されている。支持基板11の外側の主面、すなわち、発光機能部12が搭載される側とは反対の主面に、放熱層15が設けられている。
【0018】
有機EL素子1は、熱放射機構を設けて、熱を支持基板11から外界へと熱をより積極的に逃がしている。そのため、素子の温度上昇を抑制する効果が大きい。また、支持基板11に付属して放熱層15を設ける構成を採用しており、有機EL素子1の内部構造、例えば、発光機能部や発光機能部を区画する隔壁(バンク)などの構造設計を複雑化する必要がなく、簡素な構造の素子とすることができる。
【0019】
<複数の発光ユニットを含む発光機能部>
発光機能部12は、それぞれが有機発光層を含む第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22の2個の発光ユニットを備え、これら第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22に挟持される電荷発生層23を備える。第1の発光ユニット21は、第1の有機発光層21aと正孔注入層21bで構成されている。第2の発光ユニット22は、第2の有機発光層のみで構成されている。発光機能部12は、通常、前述した(i)または(ii)の構成において、光透過性を有する電極として陽極24を最も支持基板11寄りに配置するように支持基板11上に設けられる。発光機能部12は、支持基板11の上に、陽極24、第1の発光ユニット21、電荷発生層23、第2の発光ユニット22および陰極25の順に積層されて構成される。また、発光機能部12は、前述した(i)または(ii)の構成において、第2電極として陰極25を最も支持基板11寄りに配置するように支持基板11上に設けられてもよい。
【0020】
なお本実施形態では、陽極24を支持基板11側に配置し、陰極25を封止基板13側に配置しているが、発光機能部12の積層順を逆順にして、陽極24を封止基板13側に配置し、陰極25を支持基板11側に配置した有機EL素子であっても本発明を好適に適用することができる。
【0021】
また、第1の発光ユニット21、第2の発光ユニット22には、さらに任意の層を付加して設けてもよい。
【0022】
以下に、まず、第1の発光ユニット21、第2の発光ユニット22、電荷発生層23、放熱層15について説明する。その後、有機EL素子の他の構成要素について説明する。
【0023】
<A>発光ユニット
発光ユニットは、有機発光層を含んで構成される。また発光ユニットは、1層の有機発光層から構成されていてもよいし、複数の有機発光層により構成されていてもよい。また、発光ユニットは有機発光層のみによって構成されていてもよく、無機層を含んでいてもよい。発光ユニットは、マルチフォトン型ではない有機EL素子、すなわち1層の有機発光層を有する有機EL素子のうちの、陽極と陰極とに挟持された部分と同様の構成を有する。図1に示す有機EL素子1においては、第1の発光ユニット21は第1の発光層21aと正孔注入層21bとで構成され、第2の発光ユニット22は第2の発光層のみで構成されている。
【0024】
発光ユニットは発光層を形成する材料(以下、発光材料という場合がある)を含む溶液を塗布し、乾燥することにより形成された有機発光層を少なくとも一層含むものとしてもよい。図1に示す有機EL素子1においては、第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22は発光材料を含む溶液を塗布し、乾燥することにより形成してもよい。また、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22には各々第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22の一層の有機発光層しか含んでいないが、複数の有機発光層を有するようにしてもよい。
【0025】
発光層は、発光材料を含む層であり、有機発光層は、発光材料として有機化合物を含む層である。有機発光層には、主として蛍光および/または燐光を発光する有機物(低分子化合物および/または高分子化合物)が含まれる。この蛍光および/または燐光を発光する有機化合物として用いられる低分子化合物および高分子化合物が発光材料として用いられる。なお、本明細書において、高分子化合物とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が103以上のものである。本発明に関し、数平均分子量の上限を規定する特段の理由はないが、通常、ポリスチレン換算の数平均分子量の上限は、108以下である。また、有機発光層は、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0026】
<A−1>色素系材料
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などが挙げられる。
<A−2>金属錯体系材料
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。さらに金属錯体系材料の他の例として、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0027】
<A−3>高分子系材料
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、例えば、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0028】
<A−4>ドーパント材料
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm以上、2000nm以下である。
【0029】
<A−5>発光層の成膜方法
発光層の成膜方法としては、有機発光層が積層される下地層上に発光材料を含む溶液を塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、発光層を主に構成する発光材料を溶解するものであればよく、例えば、水、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒を挙げることができる。
【0030】
有機発光層が積層される下地層上に発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーまたは摩擦による転写や熱転写により、所望のところのみに有機発光層を形成する方法も用いることができる。
【0031】
また発光ユニットは、必要に応じて有機発光層以外の層を有している場合がある。発光ユニットを構成する層のうちで、有機発光層を基準にして陽極側に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。
また発光ユニットを構成する層のうちで、有機発光層を基準にして陰極側に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。
これら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層については、任意の層として後述する。
【0032】
<B>電荷発生層
電荷発生層は、発光ユニットに挟持されて配置されている。電荷発生層は、陽極と陰極とに電圧を印加したときに、電荷(正孔と電子)を発生し、電荷発生層に対して陽極側に隣接する発光ユニットに電子を注入するとともに、電荷発生層に対して陰極側に隣接する発光ユニットに正孔を注入する層として機能する。陽極および陰極から注入される電荷に加えて、電荷発生層が電荷を生じさせることによって、注入した電流に対する発光効率(電流効率)が向上する。
本実施形態の有機EL素子1においては、図1に示すように、この電荷発生層23が第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22に挟持され、これら第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22を仕切っている。これによって、マルチフォトン型の有機EL素子が構成される。マルチフォトン型の有機EL素子では、各発光ユニットに負荷を分散させ、各発光ユニットから放射される光を重ね合わされた光が取出される。
このため、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1の発光ユニット21と第2の発光ユニット22とを積層したマルチフォトン型である本実施の形態の有機EL素子1とから取出される光量を同じにして比較したとき、マルチフォトン型である有機EL素子1の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1の有機発光層21aおよび第2の有機発光層22に加わる電力を小さくした状態で第1の有機発光層21a及び第2の有機発光層22を発光させることができる。
したがって、マルチフォトン型である有機EL素子1全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、本実施の形態の有機EL素子1は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1の有機発光層21a及び第2の有機発光層22に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。
【0033】
本実施形態における電荷発生層23は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含む。電荷発生層23は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上を単独で用いるよりも、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上と組合せて用いることにより、電荷を効率的に発生することができる。
【0034】
なお、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの仕事関数の上限値としては3.0eVが好ましく、下限値としては1.5eVが好ましい。また、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の仕事関数の下限値としては4.0eVが好ましく、上限値としては7.5eVが好ましい。
【0035】
仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、金属の仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。電荷発生層23に仕事関数が前記範囲を満たす材料が含まれていない場合、有効な電荷注入が起こりにくくなり本発明の効果が十分に得られないので好ましくない。
【0036】
電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属からなる群から選択することができる。中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、及びセシウム(Cs)(1.95eV)が好ましく、アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)及びバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す。)。これらの中では、Liがより好ましい。また、電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物としては、前記の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。
【0037】
仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)としては、仕事関数が4.0eV以上の無機又は有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては、遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物の中でも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましく、V25がより好ましい。
【0038】
仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものから電子を受け取りやすい電子受容性を示すものが好ましく、さらに好ましくは、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものと電荷移動錯体を形成するものが好ましい。このような材料の例として、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)が挙げられる。
【0039】
電荷発生層は、以下の2通りの構造をとり得る。
(i)電荷発生層23が、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものを1種類以上含む第1の層23−1と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層23−2とを含む(積層構造:図1参照)。
(ii)電荷発生層が、一つの層に、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である(混合層)。
【0040】
前記積層構造の場合には、図1に示すように、第1の層23−1を、第2の層23−2よりも陽極寄りに配置することが好ましい。
【0041】
前記混合層の場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料が混合した層を一度に形成する方法や、第1の層を構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この構造の上に第2の層を形成することにより混合層とする方法、などを用いて混合層を形成することができる。
【0042】
第1の層23−1の厚さは、本発明の効果を十分に得るためには、0.1nm以上、10nm以下が好ましく、より好ましくは0.1nm以上、6nm以下である。
第2の層23−2の厚さは、2nm以上、100nm以下が望ましく、より好ましくは4nm以上、80nm以下である。
【0043】
また、本実施形態の電荷発生層は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)などを用いることができる。
【0044】
本実施形態の電荷発生層の光透過率は、有機発光層から放出される光に対して高い透過率を有することが望ましい。十分に光を取り出し、十分な輝度を得るためには、波長550nmでの透過率が30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0045】
よって、本実施形態の有機EL素子1によれば、同時に発光する第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22を含み、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1及び第2の発光ユニット21、22を積層したマルチフォトン型の有機EL素子1とから取出される光量を同じにして比較したとき、マルチフォトン型の有機EL素子1の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層21a、22に加わる電力を小さくした状態で発光させることができる。よって、マルチフォトン型である有機EL素子1全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、有機EL素子1は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層21a、22に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。これにより、信頼性の高い有機EL素子を実現することができる。
【0046】
(混色、白色)
また、本実施形態の有機EL素子1は、同時に発光する第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22を含むため、各々の第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22の各々の第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22の発光波長を互いに異なるようにすることによって、混色により有機EL素子1から取出される光の色を、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22の第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22からそれぞれ発せられる光の色とは別の色とすることが可能である。例えば補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、又は4色以上の混色によって、取出される光の色を白色とすることができる。例えば本実施の形態の一つの電荷発生層23を挟持する第1の発光ユニット21と第2の発光ユニット22における第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22の発光色を互いに異ならせることによって、所期の発光色で発光する有機EL素子を実現することができるため、設計の自由度を向上させることができる。
【0047】
(キャビティ効果)
また積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができるが、キャビティ効果(光の干渉効果)を考慮することが好ましい。具体的には、陽極24と陰極25とに挟持された構造物の厚さが、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22から発生する光の波長を前記構造物の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍であることが好ましい。このような関係が満足される構成では、光の干渉効果により光取り出し効率が最大となるためである。この関係は厳密に成立しているときに効果が最大となるが、誤差はあっても効果は認められ、おおむね構造物の厚さが、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内であればよい。さらに実質的に発光している部位と、光を反射する方の反射性電極(本実施形態では陰極25)との距離が、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍となる場合に光の干渉効果が最大となるので好ましい。有機EL素子1が、発光色が異なる複数の発光ユニットからなる場合は、どれか一つの波長に対して前記の関係が成り立つように膜厚を制御することが好ましい。あるいは2つの波長に対して前記層厚の関係が同時に成り立つように層厚を制御してもよい。
【0048】
<C>放熱層
放熱層15は、高い熱放射性を発揮する層であり、熱放射率が0.70以上である。本明細書において、熱放射とは、物体から熱エネルギーが電磁波として放出される現象、あるいはその電磁波のことをいう(岩波理化学辞典、岩波書店、1998年、第5版)。放熱層15の熱放射率は、0.70以上であり、好ましくは0.85以上である。熱を逃がすという観点から、熱放射率の上限は特に規定するに及ばない。熱放射率とは、ある温度の物質の表面から放射されるエネルギー量と、前記ある温度と同温度の黒体(放射で与えられたエネルギーを100%吸収する仮想物質)から放射されるエネルギー量の比率のことをいう。熱放射率は、フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)に従って測定することができる。熱放射性の高い材料としては、黒色系材料が挙げられ、黒色塗料の顔料成分などを好適に用い得る。例えば、カーボン材料とプラスチック材料との混合材料(カーボンプラスチック)、所定の金属元素などをドーピングしたTiO、チタニアと所定の金属微粒子とが分散したコロイド、Feなどが例示される。
【0049】
有機EL素子1は、熱放射機構を設けて、熱を支持基板11から外界へと熱をより積極的に逃がしている。そのため、素子の温度上昇を抑制する効果が大きい。また、支持基板11に付属して放熱層15を設ける構成であるため、有機EL素子1の内部構造、例えば、発光機能部や発光機能部を区画する隔壁(バンク)などの構造設計を複雑化する必要がなく、簡素な構造の素子とすることができる。
【0050】
よって、支持基板11の発光機能部12が設けられている主面側とは反対側の主面に放熱層15を設けることにより、支持基板11から外界への熱放射を大幅に向上させ、有機EL素子1の温度上昇を抑制することができる。支持基板11の放熱効果を高めることで、第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22は素子で発生した熱による影響を受け難くなるため、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図ることができる。
【0051】
放熱層15は、熱放射性が高い材料であるのみならず、熱伝導性も高い材料で形成されることが好ましい。本明細書において、熱伝導とは、物質の移動や放射によるエネルギー輸送なしに熱が物体の高温部から低温部に移る現象をいう(岩波理化学辞典、岩波書店、1998年、第5版)。
【0052】
放熱層60は、高い熱放射性を発揮するとともに、高い熱伝導性を発揮するものが好ましく、熱伝導率が、1W/(m・K)以上が好ましく、より好ましくは10W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは200W/(m・K)である。熱を逃がすという観点から、熱伝導率の上限は特に規定するに及ばない。熱伝導率は、物体内部の等温面の単位面積を通って単位時間に垂直に流れる熱量と、この方向における温度勾配との比のことをいう(岩波理化学事典、同上)。熱伝導率は、例えば、ASTM D5470(American Society For Testing and Materials D5470)の方法により測定することができる。熱伝導性の高い材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、セラミック材料、および高熱伝導性の樹脂などが挙げられる。高熱伝導性の樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0053】
放熱層が、放射性に加え、熱伝導性を有することで、支持基板又は封止基板内部が保有する熱を拡散させ、支持基板又は封止基板内部の温度分布をより均一化(均熱化)することができる。支持基板又は封止基板が保有する熱を拡散させつつ、外界に放熱することで、有機発光層が素子で発生した熱により影響を受けるのを更に軽減することができると共に、更に大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の更なる長寿命化を図ることができる。
【0054】
また基板としてはガラスが汎用されているが、一般にガラスの熱伝導率は、1W/(m・K)と低いために、発生した熱はガラスの内側から外側まで伝導しにくい。また、ガラスは熱が均一に拡散しにくいため、ガラス基板内で熱分布の偏りを生じ、有機EL素子やこれを実装する装置において、輝度バラツキ、寿命などの特性に差が生じてしまう場合がある。本実施形態において、放熱層15が放熱性に加え、更に熱伝導性をも有することにより、支持基板11が保有する熱を拡散させ、支持基板11表面の温度分布の均一化(均熱化)することができる。これにより、支持基板11から外界への熱放射を向上させつつ、支持基板11表面の温度分布を均熱化することができる。このため、有機EL素子1の温度上昇を抑制すると共に、第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22は素子で発生した熱により影響を受けるのを更に軽減することができるため、大面積で素子の均一な発光を可能としつつ、素子の更なる長寿命化を図ることができる。また、支持基板11の一部のみが他の部分より著しく高い温度となってその部分の劣化が早まることを防止することができる。よって、有機EL素子やこれを実装する装置において、輝度バラツキ、寿命などの特性に差が生じるのを防ぐことができる。
【0055】
放熱層15は、単層で形成されてもよいし、2つ以上の複数の層を有する積層構造を有していてもよい。単層の場合としては、例えば樹脂材料中に高熱伝導性の微粒子を分散させると共に、黒色系の顔料を混合し、この樹脂材料を基板に塗布して形成された層などの形態が挙げられる。また、複数の層を含む放熱層15としては、高熱伝導性層と高熱放射性を示す黒色系材料層とを含む積層体として形成し得る。複数の層を含む放熱層は、黒色系材料層などの高熱放射性を示す高熱放射性層および高熱伝導性層がそれぞれ複数層積層されて構成されていてもよい。
【0056】
<C−1>放熱層の形成方法
放熱層は、前述の通り様々な形態を採用し得る。単層の放熱層を作製する場合、例えば、樹脂材料中に黒色系の顔料など熱放射を促進する材料を混合し、この樹脂材料を基板に塗布して層を形成するなどの方法を採用し得る。また、単層で高熱伝導性を有する放熱層とする場合には、例えば、樹脂材料中に高熱伝導性の微粒子を分散させると共に、黒色系の顔料を混合し、この樹脂材料を基板に塗布して層を形成するなどの方法を採用し得る。
【0057】
複数の層を含む放熱層としては、高熱伝導性層と、高熱放射性を示す黒色系材料層とを含む積層体の形態が挙げられる。このような積層体としては、例えば、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層体が挙げられる。高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層体は、例えば、高熱伝導性を示す材料からなる高熱伝導性シート(高熱伝導層)の一面または両面に、黒色系の顔料を含む塗料を塗布することにより、作製することができる。このような複合シートは、予め作製たものを支持基板に貼り合わせてもよく、または支持基板上で各層を順次形成してもよい。複数の層を含む放熱層15は、黒色系材料層などの高熱放射性を示す高熱放射性層および高熱伝導性層がそれぞれ複数層積層されて構成されていてもよい。
【0058】
より具体的には、例えば、黒色塗料をアルミニウムシートの一方の主面に塗布して、黒色系材料層が形成されたシートを作製し、これを支持基板に接着剤(不図示)など用いて接着する形態が挙げられる。また、他の形態としては、支持基板に予めアルミニウムを蒸着させておき、形成されたアルミニウム層の表面に黒色塗料を塗布して黒色系材料層を形成する形態が挙げられる。
【0059】
シート状の放熱層は、接着剤を介在させて基板に貼り付けてもよい。該接着剤としては、アクリル系接着剤やエポキシ系接着剤などの熱伝導性の高いものが好適に用いられる。また、ガラス基板の場合、ガラスとの接着性にも優れる点で、アクリル系接着剤が好適に用い得る。
【0060】
また、可塑性または可撓性を有するシート状のフィルムを支持基板または封止基板となるガラス基板に融着させてもよい。
【0061】
本実施形態に係る有機EL素子の特徴は、上述のように、有機発光層を含む複数の発光ユニットと、前記発光ユニットに挟持された電荷発生層が陽極および陰極間に設けられていること、前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に、熱放射率が0.70以上である放熱層が設けられていることにある。これら複数の発光ユニット、電荷発生層および放熱層の詳細は、上述の通りである。
【0062】
以上説明した本実施形態の有機EL素子によれば、同時に発光する第1及び第2の発光ユニット21、22と電荷発生層23とを含み、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1及び第2の発光ユニット21、22を積層したマルチフォトン型の有機EL素子1とから取出される光量を同じにして比較したとき、マルチフォトン型の有機EL素子1の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層21a、22に加わる電力を小さくした状態で発光させることができる。よって、マルチフォトン型である有機EL素子1全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、有機EL素子1は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層21a、22に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。これにより、信頼性の高い有機EL素子を実現することができる。
また、支持基板11の発光機能部12が設けられている主面側とは反対側の主面に放熱層15を設け、支持基板11の放熱効果を高めることで、第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22は素子で発生した熱による影響を受け難くなるため、大面積で素子の均一な発光を可能とすると共に、素子の長寿命化を図ることができる。
そのため、本実施形態によって、素子の輝度を向上させつつ、大面積で素子の均一な発光を可能とし、素子の長寿命化を図ることができるため、発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子を実現することができる。
したがって、本発明の有機EL素子は、照明装置、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に使用することができる。
【0063】
続いて、これら第1の発光ユニット21、第2の発光ユニット22、電荷発生層23及び放熱層15以外の有機EL素子の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0064】
<D>基板
有機EL素子1を構成する基板として、支持基板11と封止基板13がある。支持基板11は、その一方の主面に発光機能部12が搭載される。封止基板13は支持基板11上の発光機能部12を覆い、素子を封止する。各基板を構成する材料としては、電極等を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが用い得る。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。また、基板は、市販のものが入手可能であり、あるいは、公知の方法によって製造することもできる。支持基板11の形状は、発光機能部12を搭載できる領域がある平面状の形状であることが好適である。
【0065】
封止基板13の形状は、支持基板11と貼り合わせて、発光機能部12を封止できるものであればよく、図1のように平板状でもよいし、あるいは、箱形であってもよい(不図示)。図1に示すように、封止基板13と発光機能部12との間に空隙が生じている場合には、この空隙に樹脂などの充填剤を設けてもよい。また、封止基板13は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0066】
有機EL素子1において基板となり得るものとしては、上記のような材料が挙げられるが、取り扱いの容易さなどの観点からは、ガラス基板が好適である。その反面、ガラス基板は、熱放射性が低い。本発明は放熱性の向上が図れるため、ガラス基板などの熱放射性が低いものを基板として用いる場合に好適に適用され得る。
【0067】
また、図1に示すような発光ユニット21、22からの光を支持基板11側から取出すいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子では、支持基板11は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
なお後述の第2の実施形態にて示すような第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22からの光を陰極25側から取出すトップエミッション型の有機EL素子では、支持基板は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0068】
なおプラスチック基板はガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、また第1の有機発光層21a及び第2の有機発光層22などの発光物質は酸化されやすく、水と接触することにより劣化しやすいため、支持基板11としてプラスチック基板が用いられる場合には、支持基板11および封止基板13により発光機能部である発光機能部12が被包されていても経時変化し易いので、ガスバリア性を高めるための処理をプラスチック基板に予め施すことが好ましい。例えばプラスチック基板上にガスおよび液体などに対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に発光機能部12を積層することが好ましい。この下部封止膜は、通常、封止基板(上部封止膜)13と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0069】
<E>陽極
陽極24は、第1の発光ユニット21の第1の有機発光層21a及び第2の発光ユニット22の第2の有機発光層22からの光を透過させる光透過性を有する透明電極である。陽極24には、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、第1の有機発光層21a、第2の有機発光層22の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。
【0070】
陽極24の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、金、白金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属を少なくとも1種類以上含む合金等が用いられる。光透過率の高さ、パターニングの容易さから、陽極としては、ITO、IZO、酸化スズからなる薄膜が好適に用いられる。陽極の作製方法としては、真空蒸着法(前述した実施形態の電子ビーム蒸着法を含む)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。また、前記有機の透明導電膜に用いられる材料、金属酸化物、金属硫化物、金属、およびカーボンナノチューブなどの炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上を含む混合物からなる薄膜を陽極に用いても良い。
陽極には、光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0071】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、さらに好ましくは20nm〜500nmである。
【0072】
上述の陽極24を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
また陽極24を電気的に分離させた複数のセルに仕切る方法としては、例えば、第1電極を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。
【0073】
<F>陰極
陰極は、陽極に対向して配置される電極である。陰極の材料としては、仕事関数の小さく、発光層への電子注入が容易な材料及び/又は電気伝導度が高い材料及び/又は可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や13族金属などを用いることができる。より具体的な例を示すと、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、またはこれらの金属を少なくとも1種類以上含む合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が挙げられる。
合金の例としては、例えば、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用い得る。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0074】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0075】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法(前述した実施形態の電子ビーム蒸着法を含む)、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、および金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0076】
<G>任意の構成層
図1に示す有機EL素子1では、陽極24と陰極25との間に、第1の発光ユニット21、第2の発光ユニット22及び電荷発生層23が設けられた形態を示している。しかし、陽極24と電荷発生層23との間、電荷発生層23と陰極25との間に設けられる層の構成としては、図1に示す構成例に限られるわけではない。陽極24と陰極25との間には必須の構成として第1の発光ユニット21、第2の発光ユニット22及び電荷発生層23が設けられればよく、第1の発光ユニット21の正孔注入層21bのように、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22には第1の有機発光層21a及び第2の有機発光層22の他にさらに他の機能層を1または2以上設けてもよい。第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22のその一部として付属し得る任意の構成層としては、上述のように例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。
【0077】
陽極24と第1の有機発光層21aとの間、電荷発生層23と第2の有機発光層22との間に設け得る層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極24と第1の有機発光層21aとの間、電荷発生層23と第2の有機発光層22との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極または電荷発生層に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0078】
第1の有機発光層21aと電荷発生層23との間、第2の有機発光層22と陰極25との間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。第1の有機発光層21aと電荷発生層23との間、第2の有機発光層22と陰極25との間に、電子注入層と電子輸送層との両方が設けられる場合、電荷発生層または陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0079】
なお正孔注入層および電子注入層を総称して電荷注入層ということがある。正孔輸送層および電子輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。また電子ブロック層および正孔ブロック層を総称して電荷ブロック層ということがある。
電荷輸送層は、それぞれ独立に2層以上用いてもよい。
【0080】
以下、正孔注入層21bを含め、任意の機能層(不図示)について説明する。
発光ユニットを構成する任意の層として、上述の通り、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層を設けても良い。
<G−1>正孔注入層
正孔注入層は、陽極または電荷発生層からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔注入層は、陽極24と正孔輸送層との間、陽極24と第1の有機発光層21aとの間、電荷発生層23と第2の有機発光層22との間、電荷発生層23と正孔輸送層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、該正孔注入層の一方の表面、および他方の表面に隣接して設けられる2層の各イオン化ポテンシャルの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料が好ましい。具体的には、陽極24のイオン化ポテンシャルと第1の有機発光層21aの陽極24側の表面部のイオン化ポテンシャルとの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料、電荷発生層23のイオン化ポテンシャルと第2の有機発光層22の電荷発生層23側の表面部のイオン化ポテンシャルとの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料などである。例えば、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、モリブデン酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物などの厚さ1〜200nmの層、又は金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等の厚さ2nm以下の層が望ましい。
導電性高分子材料としては、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などが挙げられる。
該導電性高分子の電気伝導度は、10-7S/cm以上103S/cm以下であることが好ましく、有機EL素子が表示装置の画素として機能する場合には、画素間のリーク電流を小さくするためには、10-5S/cm以上102S/cm以下がより好ましく、10-5S/cm以上101S/cm以下がさらに好ましい。通常は該導電性高分子の電気伝導度を10-5S/cm以上103S/cm以下として正孔注入性を上げるために、該導電性高分子に適量のアニオンをドープする。アニオンの例としては、ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、樟脳スルホン酸イオンなどが好適に用いられる。
【0081】
正孔注入層の成膜方法としては、上述の第1の発光ユニット21を構成する第1の有機発光層21a及び第2の発光ユニット22を構成する第2の有機発光層22を成膜する方法と同様の方法によって形成することができる。具体的には、有機発光層を主に構成する発光材料を溶解する溶媒と同様の溶媒に、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって塗布することで成膜することができる。
【0082】
また正孔注入層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って正孔注入層の膜厚は、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0083】
<G−2>正孔輸送層
正孔輸送層は、陽極24、電荷発生層23、正孔注入層または陽極24により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0084】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0085】
正孔輸送層の成膜の方法には、特に制限はない。低分子正孔輸送材料を用いる場合には、例えば、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法などが挙げられる。また、高分子正孔輸送材料を用いる場合には、例えば、溶液からの成膜による方法などが挙げられる。
【0086】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
【0087】
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0088】
高分子バインダーを用いる場合、その高分子バインダーは電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0089】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μm程度であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0090】
<G−3>電子ブロック層
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
電子ブロック層としては、例えば上記正孔注入層または正孔輸送層の材料として例示した各種材料を用い得る。
【0091】
<G−4>電子注入層
電子注入層は、陰極25または電荷発生層23からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子注入層は、第1の有機発光層21aと電荷発生層23との間、電子輸送層と電荷発生層23との間、第2の有機発光層22と陰極25との間、または電子輸送層と陰極25との間に設けられる。電子注入層の材料としては、該電子注入層の一方の表面、および他方の表面に隣接して設けられる2層の各電子親和力の間となる電子親和力を有する材料が好ましい。具体的には、電荷発生層13の電子親和力と第1の有機発光層11aの電荷発生層13側の表面部の電子親和力との間となる電子親和力を有する材料、陰極16の電子親和力と第2の有機発光層12の陰極16側の表面部の電子親和力との間となる電子親和力を有する材料などである。
電子注入層の材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物、またはこれらの物質の混合物などが用いられる。
【0092】
アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0093】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0094】
さらに金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
また電子注入層の材料としては、導電性高分子材料も用いられる。該導電性高分子の材料としては、正孔注入材料で説明した電気伝導度の高分子材料を用いればよいが、電子注入性を向上させるためには、適量のカチオンをドープする。カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどが用いられる。
【0095】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm以上、1μm以下程度が好ましい。
【0096】
<G−5>電子輸送層
電子輸送層は、陰極、電荷発生層、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層であり、電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する層である。
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0097】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0098】
電子輸送層の成膜法としては、特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法などが例示される。また高分子電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法などが例示される。
また溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。
溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法が挙げられる。
【0099】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0100】
<G−6>正孔ブロック層
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0101】
<H>発光ユニットの層構成の組合せ
上記のように、発光機能部に含まれる発光ユニットは、その実施形態として、様々な層構成を採用し得る。発光ユニットに電荷注入層、電荷輸送層を選択肢に加えた場合の、発光ユニットのとり得る層構成の具体的な例を以下に示す。
a)有機発光層
b)正孔注入層/有機発光層
c)有機発光層/電子注入層
d)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
e)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層
f)有機発光層/電子輸送層/電子注入層
g)正孔注入層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
h)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
i)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
なお以上のa)〜i)の構成では、左側が陽極寄りの層であり、右側が陰極寄りの層である。
【0102】
有機EL素子が有する複数の発光ユニットは、互いに同じ層構成であってもよく、また互いに異なる層構成であってもよい。図1に示す本実施形態の第1の発光ユニット21は、b)の構成、すなわち正孔注入層21bと第1の有機発光層21aが積層された構成を有し、第2の発光ユニット22は、前記a)の構成、すなわち第2の有機発光層のみから構成されている。
【0103】
本発明にかかる有機EL素子は、複数の発光ユニットが電荷発生層を介して複数段積層された構成のマルチフォトン型の有機EL素子である。図1に示す本実施形態の有機EL素子1では、上述の通り、2組の発光ユニットを用い、第1の発光ユニット21及び第2の発光ユニット22が電荷発生層23を介して積層されている。さらに、その変形例として、3組以上の発光ユニットを電荷発生層を介して積層させた構成のマルチフォトン型の有機EL素子も採用し得る。
【0104】
有機EL素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0105】
また、他の任意の機能層として、例えば電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。さらに他の任意の機能層として界面の密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0106】
図1に示す実施形態では、支持基板11上に陽極24を設ける形態を示している。これらの場合、上記a)からi)の各形態では、左側(陽極側)に示された層から順に支持基板11上に配置されることになる。
【0107】
他方、本発明の有機EL素子としては、支持基板上に陰極を配置する形態も採用し得る。この場合、上記a)からi)の各形態では、右側(陰極側)に示された層から順に支持基板上に配置されることになる。
【0108】
<トップエミッション型およびボトムエミッション型>
有機EL素子は、有機発光層からの光を放出するために、通常、有機発光層のいずれか一方側の層を全て光が透過可能なものとする。具体的には例えば、支持基板/陽極/発光ユニット/(電荷発生層/発光ユニット)x/陰極/封止基板という構成を有する有機EL素子の場合、支持基板、陽極の全てを光が透過可能なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とし得る。あるいは、陰極および封止部材の全てを光が透過可能なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることもできる。
なお記号「x」は、1以上の整数を表し、(電荷発生層/発光ユニット)xは、(電荷発生層/発光ユニット)がx層積層された積層体を表す。
【0109】
また、支持基板/陰極/発光ユニット/(電荷発生層/発光ユニット)x/陽極/封止基板という構成を有する有機EL素子の場合、支持基板、陰極の全てを光が透過可能なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、または陽極および封止部材の全てを光が透過可能なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。ここで光が透過可能なものとしては、発光層から光を放出する層までの可視光透過率が30%以上のものが好ましい。紫外領域または赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において30%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0110】
本発明においては、放熱層が設けられる。放熱層を非光透過性の材料で形成する場合には、放熱層を設けた側とは反対側の基板側から光が出射することになる。
【0111】
[第2の実施形態]
次に、本発明に係る有機EL素子の第2の実施形態を、図2を参照して説明する。図2は、本発明の有機EL素子の第2の実施形態を示す正面断面図である。図2中、第1の実施形態と同様である部材については、図1と同一符号を付して重複した説明は省略する。以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0112】
図2に示すように、放熱層31は、封止基板32側に設けてもよい。図2に示す有機EL素子2では、封止基板32の発光機能部12側の主面とは反対側の主面に放熱層31が設けられている。封止基板32には、ガラス基板または可塑性を有するシートが用いられており、封止基板32と支持基板11とは融着されている。
【0113】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態およびその変形例について図3−1から図3−5を参照しつつ説明する。図3−1に、第3の実施形態の有機EL素子3A(以下、「第3の実施形態の素子」という場合がある)の断面図を示す。図3−1中、第1の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し、以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0114】
有機EL素子3Aは、封止基板側から光が出射するトップエミッション型の素子であり、本実施形態における放熱層は、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有するものである。図3−1に示す有機EL素子3Aでは、支持基板11の発光機能部20側の主面とは反対側の主面に放熱層33が設けられている。放熱層33は、2つの層で構成されている。一方の層は、黒色系材料層33aであり、他方の層は高熱伝導性層としてのアルミニウム層33bである。放熱層33は、アルミニウム層33bが支持基板11に接して設けられている。有機発光層の発熱により支持基板11には熱が伝わる。支持基板11としてガラス基板のような熱伝導性の低い部材が用いられている場合は特に、熱が支持基板11に停滞してしまいやすい。しかし、有機EL素子3Aにおいては、高熱伝導性を有するアルミニウム層33bが支持基板11に接触して設けられていることにより、支持基板11およびアルミニウム層33bでの熱分布の分散化を促し、また熱を支持基板11の外部へと逃がすことを助ける。さらに、アルミニウム層33bには、黒色塗料を塗布して形成された黒色系材料層33aが設けられており、黒色系材料層33aに伝達された熱の外界への放射が促進される。
【0115】
また、高熱伝導性層としてアルミニウム層33bを用いているが、高熱伝導性を有するものであればよく、アルミニウムの他に、銅、銀、およびこれらから選ばれる2種以上の合金、並びにセラミックス材料からなる群より選ばれる無機材料、または高熱伝導性の樹脂で形成されてなるものを用いるようにしてもよい。
【0116】
図3−2に、第3の実施形態の素子の一変形例である有機EL素子3Bを示す。有機EL素子3Aでは支持基板11の一方の主面にのみ放熱層33が設けられていたが、有機EL素子3Bにおいては、支持基板11の両方の主面に放熱層33が設けられている。このように支持基板11の両主面に放熱層33を設けることにより発光機能部12を熱源とする熱を、支持基板11全体へとより円滑に伝達させることができ、熱分散性をより向上させ得る。図3−2に示す例では、支持基板11と放熱層33は、発光機能部12から外側に向かって順に(図面上、発光機能部12から下方に向かって順に)次の順序で構成される。
(I)アルミニウム層33b/黒色系材料層33a/支持基板11/黒色系材料層33a/アルミニウム層33b
【0117】
黒色系材料層33aとアルミニウム層33bの位置は、電極形成等の設計上の都合などにより変更し得る。例えば、図3−3に示す変形例のように、支持基板11と放熱層(黒色系材料層33aおよびアルミニウム層33b)は、発光機能部12(不図示)から順に次の順序で構成してもよい。なお、以下、図3−3から図3−6において発光機能部12等の上部構成は図3−2と同様なので省略している。
(II)黒色系材料層33a/アルミニウム層33b/支持基板11/アルミニウム層33b/黒色系材料層33a
【0118】
さらに、下記(III)、(IV)および(V)の順に積層してもよい(不図示)。
(III)黒色系材料層33a/アルミニウム層33b/支持基板11/黒色系材料層33a/アルミニウム層33b
(IV)アルミニウム層33b/黒色系材料層33a/支持基板11/アルミニウム層33b/黒色系材料層33a
(V)アルミニウム層33b/黒色系材料層33a/支持基板11/黒色系材料層33a/アルミニウム層33b/黒色系材料層33a
放熱性の観点からは、(V)に示す順序に積層することが好ましい。
【0119】
図3−4に、第3の実施形態の素子のさらに他の変形例を示す。有機EL素子3Bでは、黒色系材料層33aおよびアルミニウム層33bの2層を含む放熱層33が設けられたが、図3−4に示す変形例では、アルミニウム層33bの両主面に黒色系材料層33aが設けた3層構造の放熱層34が設けられている。このように、黒色系材料層33aを両主面に設ける形態は、より放熱性を高め得るという点において、好ましい一形態である。
【0120】
図3−5に、第3の実施形態の素子のさらに別の変形例を示す。図3−5に示す変形例では、支持基板11の発光機能部12側の主面とは反対側の主面(図3−5では、支持基板11の下面)に放熱層33が設けられ、かつ、支持基板11の発光機能部12側の主面(図3−5では、支持基板11の上面)には、高熱伝導性層としてアルミニウム層33bのみが設けられている。発光機能部12を設ける側には、黒色系材料層を設けたくない場合などに採用し得る。
【0121】
図3−6に、第3の実施形態の素子のさらに別の変形例を示す。図3−6に示す変形例では、支持基板11の発光機能部12側の主面(図3−6では、支持基板11の上面)に、黒色系材料層33aとアルミニウム層33bの2層を含む放熱層33が設けられ、支持基板11の発光機能部12側の主面とは反対側の主面(図3−6では、支持基板11の下面)に、アルミニウム層33bの両面に黒色系材料層33aが設けた3層構造の放熱層33が設けられている。
【0122】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態について図4を参照しつつ説明する。図4に、第4の実施形態の有機EL素子4の断面図を示す。図4中、第3の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し、以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0123】
有機EL素子4は、支持基板11側から光が出射するボトムエミッションタイプの素子である。そのため有機EL素子4では、放熱層33は支持基板11には設けられず、封止基板13の上面に設けられている。このように、放熱層33は封止基板13に設けることもできる。また図4に示す例の変形例として、封止基板13に放熱層33を設ける場合、発光機能部12と封止基板13との間に熱伝導性の高い樹脂を充填し、発光機能部12から封止基板13までの熱伝導性をさらに向上させてもよい。
【0124】
2.有機EL装置
本発明の有機EL装置は、上記有機EL素子を1または2つ以上搭載した装置である。有機EL装置は、例えば、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライト、照明装置などとすることができる。本発明の有機EL装置は、素子の放熱性に優れている。そのため、輝度バラツキが少なく、経時的な耐久性に優れた装置とし得る。特に、照明装置は高輝度であることが要求されるため、高電力を印可する要請が強く、発熱量も多くなりがちである。そのため、本発明の有機EL装置は、照明装置として特に好適である。
【0125】
有機EL素子を搭載した有機EL装置を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示装置が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置するパッシブマトリックス用基板、あるいは薄膜トランジスタを配置した画素単位で制御を行うアクティブマトリックス用基板を用いればよい。さらに、発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0126】
さらに、前記面状の発光装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0127】
以下、作製例および比較例に基づいて本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0128】
<マルチフォトン型の有機EL素子の発光効率の検証>
作製例1−1、1−2及び比較例1−1〜1−4では、2つの発光ユニットを1つの電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子を作製し、その効果を確認した。
【0129】
<作製例1−1> 電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子の作製
(作製例1−1の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/Li/V25/MEH−PPV/Al−Li合金)
作製例1−1における有機EL素子の作製例を、図1を参照しながら説明する。図1に示す有機EL素子1において支持基板に相当するガラス基板11に、陽極24として利用するITO膜を、スパッタ法により150nmの厚みで形成した基板を用意し、該基板にBYTRON製のPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSS(ポリスチレンスルホン酸)溶液をスピンコート法により40nmの厚みで製膜し、窒素雰囲気下において200℃で熱処理して正孔注入層21bとした。ついで、これに発光材料としてAldrich社製の重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラ−フェニレンビニレン)の1重量%トルエン溶液を作製し、これをPEDOT/PSSが製膜された基板上にスピンコートして90nmの膜厚で第1の有機発光層21aを製膜した。正孔注入層21bと第1の有機発光層21aを併せて第1の発光ユニット21とする。
【0130】
この上に真空蒸着法により、電荷発生層23としてLi(仕事関数:2.93eV)、V25(酸化バナジウム)(仕事関数:4eV以上)を順次それぞれ、2nm、20nmの厚みで形成し、第1の層23−1、第2の層23−2とした。ここでLiの蒸着はAl−Li合金(Li含有率0.05%)を用い、Alが飛びはじめる前の数十秒間、先に飛ぶLiのみを蒸着することで行い、その直後にV25の蒸着を行った。
さらに、V25膜上に、MEH−PPVの1重量%トルエン溶液をスピンコートして、90nmの膜厚で第2の有機発光層(第2の発光ユニット)22を製膜した。さらにこの上に真空蒸着法により陰極25としてAl−Li合金を100nm形成した。以上により2つの発光ユニットを1つの電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子を作製した。
得られた素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧12V、最大輝度80cd/m2であった。
電流効率は0.072cd/Aであり、下記の比較例1−1の素子(0.037cd/A)に比べて1.95倍に増大した。
【0131】
<比較例1−1> 有機EL素子の作製
(比較例1−1の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/Al−Li合金)
比較のために、作製例1−1において電荷発生層23と第2の有機発光層(第2の発光ユニット)22を設けない以外は作製例1−1と同様にして、図5に示すように第1の発光ユニット21が1つだけの有機EL素子5を作製した。なお、図5中、図1におけるものと同一部材については同一符号を付している。
比較例1−1における有機EL素子5に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧5.5V、最大輝度52cd/m2であった。電流効率は0.037cd/Aであった。
【0132】
<比較例1−2> 有機EL素子の作製
(比較例1−2の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/V25/MEH−PPV/Al−Li合金)
電荷発生層として、膜厚30nmのV25の1層のみからなるものを用いたことを除いて、比較例1−1と同様にして有機EL素子を作製した。得られた素子は40V印加しても発光しなかった。
【0133】
<作製例1−2> 異なる色の発光ユニットの積層からなる混色素子
(作製例1−2の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−BT/Li/V25/PEDOT/PSS/F8−TPA−PDA/Al−Li合金)
作製例1−1における有機発光層であるMEH−PPVの代わりに、緑色の光を発光する下記構造式(1)で示す高分子発光材料35(略称F8(poly(9,9-dioctylfluorene))−TPA(トリフェニルアミン)−BT(ポリビスアミドトリアゾール))からなる高分子発光層を含む第1の発光ユニット21と、電荷発生層23とを形成した後、PEDOT/PSS層を形成し、引き続いて青色の光を発光する下記構造式(2)で示す高分子発光材料36(略称F8−TPA−PDA(p‐フェニェレンジアミン))からなる高分子発光層を含む第2の発光ユニット22を製膜した後、作製例1−1と同様にして陰極を形成して、二つの発光ユニットからの発光波長が異なる発光素子を作製した。
【0134】
高分子発光材料35
【化1】

【0135】
高分子発光材料36
【化2】

【0136】
<比較例1−3、1−4> 作製例1−2の比較、緑と青の有機発光層のみからなる単一素子
(比較例1−3の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−BT/Al−Li合金)
(比較例1−4の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−PDA/Al−Li合金)
作製例1−2との比較のため、比較例1−2と同様にITO/PEDOT/有機発光層/Al−Li合金の構造の発光ユニット1つからなる素子を作製した。ここで比較例1−3では、有機発光層に緑色発光層材料F8−TPA−BTを用い、比較例1−4では、有機発光層に青色発光材料F8−TPA−PDAを用いた。
【0137】
比較例1−3、1−4の駆動電圧はそれぞれ3.6V、5.4Vであるのに対し、作製例1−2では8.0Vとなり2つのユニットを積層した素子の予想に近い電圧を示した。また作製例1−2の素子では2つの層からの混色により、スペクトルが広くなり白がかった緑色の発光が得られた。
【0138】
<放熱性、熱伝導性に関する検証実験等>
次に、以下の作製例2−1〜2−3および比較例2−1、2−2では、放熱層の効果を確認した。
【0139】
検証実験は、図6に示すような試験装置を用いて行った。本発明は、有機EL素子の発光機能部の部分の構造には実質的に依存しないと考えられるため、熱源として自作のポイントヒーターを用い、ガラス、熱放射率の高い素材が被覆されたアルミニウムシートなどを用いて評価をおこなった。図6に示すように試験台41の上にホットプレート42が設けられ、その中央部には、円柱形状の熱伝導部43が設けれられている。熱伝導部43は真鍮製であり、また、熱伝導部43の側面には断熱シート44が巻かれている。熱伝導部43の上端部には試験基板保持ガラス45が設けられている。そして、試験基板保持ガラス45上に、被試験体となる試験基板46が載置される。試験基板46上面部は、その上方から温度センサー47によって温度が測定される。当該試験基板46の上面部から放射熱を測定する。
【0140】
図7に、試験基板保持ガラス45上に載置された試験基板46の平面図を示す。試験基板46上に示すA〜Kの符号は、温度センサー47による上方からの測定位置を示す。また、中央部の破線は、試験基板保持ガラス45の下にある熱伝導部43の上端面の位置を示す。このように中央部に熱源を設け、試験基板46の一方の角部から中央部さらに対角にある他方の角部まで複数の位置を測定することにより、試験基板46の熱拡散性を測定することができる。
【0141】
各試験基板の評価は次の要領にて行った。まず、放熱効果については、最大温度(試験基板の中心部)の低下レベルを指標とした。具体的には、比較例2−1(ガラス基板のみ)における試験基板の最大温度(中心部の温度)を最大温度の最高値とし、この最高値を他の試験基板の中心部の最大温度から引いた差として求めた。最大温度が低く、最大温度の差がマイナス側に大きくなるほど熱放射性が優れることを示す。また、均熱性(熱分散性)については、各試験基板内での測定位置ごとの温度により示される温度分布を指標とした。試験基板内での温度分布に偏りが少ないほど、均熱化に優れることを示す。
【0142】
<試験例2−1>
試験例2−1として、図8−1に示す試験基板を用いた。試験例2−1の試験基板として、ガラス基板11(厚さ0.7mm)に、放熱層33として熱放射率が高い黒色塗装を施した高熱伝導性アルミニウムシートとガラス基板に接着させるための接着材からなるシート(神戸製鋼社製、商品名:コーべホーネツ・アルミ(KS750)、熱伝導率230W/(m・K)、熱放射率0.86)を設けた基板を作製した。したがって、試験例2−1の試験基板は、試験基板保持ガラス45から順に、ガラス基板11/アルミニウム層33b/黒色系材料層33aが順次積層された積層体として構成されている。
【0143】
ホットプレートの設定温度は、比較例2−1の試験ガラス基板が90℃になる温度を基準とし、その温度になるように設定して試験基板を加熱した。測定点の温度の揺らぎが±0.2℃の範囲に収まる状態で温度が安定したと判断し、図7に示すA〜Kの位置について温度センサー47を用いて、温度を測定した。
【0144】
<試験例2−2>
試験基板として、図8−2に示すものを用いた点以外は、上記試験例2−1と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。試験例2−2の試験基板は、図8−2に示すように、ガラス基板の両面に放熱層33として高熱伝導性および高熱放射性を有する層が貼付されている。すなわち、試験例2−2の試験基板は、試験基板保持ガラス45側から順に、黒色系材料層33a/アルミニウム層33b/ガラス基板11/アルミニウム層33b/黒色系材料層33aが順次積層された積層体として構成されている。
【0145】
<試験例2−3>
試験基板として、図8−3に示すものを用いた点以外は、上記試験例2−1と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。試験例2−3の試験基板は、図8−3に示すように、ガラス基板の外面側(発光機能部が形成される側とは反対側)表面に高熱伝導性および高熱放射性を有する層が貼付され、他方、内面側表面にはアルミニウムシートのみ貼付されている。したがって、試験例2−3の試験基板は、試験基板保持ガラス45側から順に、アルミニウム層33b/ガラス基板11/アルミニウム層33b/黒色系材料層33aが順次積層された積層体で構成されている。
【0146】
<比較例2−1>
試験基板として、図8−4に示すものを用いた点以外は、上記試験例2−1と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。比較例2−1の試験基板としては、図8−4に示すように、ガラス基板11単体が用いられた。
【0147】
<比較例2−2>
試験基板として、図8−5に示すものを用いた点以外は、上記試験例2−1と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。比較例2−2の試験基板は、図8−5に示すように、ガラス基板11の発光機能部が形成される側の表面にアルミニウムシートのみ貼付されている。したがって、比較例2−2における試験基板は、試験基板保持ガラス45から順に、アルミニウム層33b/ガラス基板11が順次積層された積層体で構成されている。
【0148】
<評価>
以上の試験例2−1〜2−3、並びに比較例2−1、2−2についての上記検証試験結果を図9および表1に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
表1は最大温度および最大・最小温度差の一覧を示す。最大温度は、各試験基板について最も高い温度を示した値であり、各試験基板の中央部の温度を示す。また括弧内の数値は、各試験基板における最高温度から比較例2−1の最大温度(すなわち、90.0℃)を差し引いた値である。また、最大−最少温度の数値は、同一試験基板内での最大値および最小値の差であり、均熱性(熱分散性)の指標である。
【0151】
表1に示されるとおり、試験例2−1〜2−3のいずれも、比較例2−1、2−2よりも最大温度が低く、最大温度を示す中央部において熱をより多く逃がしていることが明らかになった。また、比較例2−1および比較例2−2の方が最大・最小温度差の値が大きく、同一基板内での温度差が大きいことが明らかになった。
【0152】
図9に示されるように、比較例2−1、2−2においては、試験基板周辺部の測定位置A〜CおよびI〜Kが約40〜55℃程度であるのに対し、基板中央部の測定位置D〜Hにおいては、約80〜90℃程度と顕著な温度差が認められた。このように比較例2−1および比較例2−2に供された試験基板は、均熱性(熱分散性)が低いことが明らかとなった。
【0153】
これに対し、試験例2−1〜2−3については、測定位置A〜K間における温度分布が、およそ70〜80℃程度の間でなだらかに分布していることが明らかとなった。すなわち、試験例2−1〜2−3に供された試験基板は、均熱性(熱分散性)が高いことが明らかとなった。
【0154】
<作製例3>ボトムエミッション型有機EL素子の作製
以下の方法で、ボトムエミッション型有機EL素子を作製した。まず、30×40mmサイズの有機EL素子用のITO透明導電膜パターンおよびCrパターンが複数個形成された200×200mmガラス基板を作製した。ITO透明導電膜はスパッタ法で膜厚約150nm成膜し、Crはスパッタ法で200nmをパターニングした。
【0155】
次に、ITOおよびCrパターン付きガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(HCスタルク社製、Bytron P TP AI 4083)の懸濁液を用いて、スピンコート法により成膜し、オーブン上で200℃、20分間の乾燥をして60nmの厚さのホール注入層を形成した。その後で、有機EL素子周囲の不要部分の正孔注入層を水で浸したワイパーで拭き取り除去した。
【0156】
次に、シクロヘキサノンとキシレンを1:1に混合した溶媒を用いて高分子有機発光材料(ルメーションGP1300、サメイション社製)の1.5重量%の溶液を作製し、この溶液を用いてスピンコート法により、正孔注入層を形成した基板上に塗布し発光層を形成した。その後で素子周辺部の不要部分の発光層を有機溶剤で拭き取った後、真空乾燥(圧力1×10-4Pa以下、温度約170℃、15分加熱)を行った。
【0157】
その後、蒸着チャンバーに基板を移し、陰極マスクとアライメントしたあとで陰極を蒸着する。陰極は、抵抗加熱法にてBa金属を加熱し蒸着速度約2Å/sec、膜厚50Åにて蒸着、電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約10Å/sec、膜厚1000Åにて蒸着した。陰極形成後、蒸着室から大気には曝露せず、不活性雰囲気下のグローブボックスに移す。
【0158】
ついで、黒色塗装が施された高熱伝導性材料からなる材料を貼り付けたガラス封止基板(厚さ0.7mm)を準備した。黒色塗装が施された高熱伝導性材料には、熱放射率が高い黒色塗装を施した高熱伝導性アルミニウムシートとガラス基板に接着させるための接着材からなるシート(神戸製鋼社製、商品名:コーベホーネツ・アルミ(KS750)、熱伝導率230W/(m・K)、熱放射率:0.86)を用いた。黒色塗装が施された高熱伝導性材料のガラス封止基板への接着は、熱硬化性樹脂(Robnor resins社製、商品名:PX681C/NC)を使用し、接着エリアは周辺部とした。全面塗布後、ガラス封止基板を不活性雰囲気下のグローブボックスに入れて、陰極が形成された基板と位置合せをしたあとで貼り合せ、さらに真空に保った後で大気圧に戻し、加熱により素子基板と封止基板を固定し高分子有機EL素子を作製した。なお用いた熱硬化性樹脂の硬化前の粘度は50mPa・sであった。
【0159】
<作製例4>トップエミッション型有機EL素子の作製
作製例4では、上記作製例3における支持基板と封止基板の材料組み合わせが反対である。すなわち、支持基板に黒色塗装が施された高熱伝導性材料からなる材料を貼り付けた基板を用い、封止基板にはガラス基板を用い、全面封止を行なっている。これにより封止基板側から光を取り出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子において、作製例2−1〜2−3と同様に表面温度分布が均一な素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図3−1】本発明の第3の実施形態の有機EL素子を示す断面図である。
【図3−2】本発明の第3の実施形態の有機EL素子の一変形例を示す断面図である。
【図3−3】本発明の第3の実施形態の有機EL素子の一変形例を示す断面図である。
【図3−4】本発明の第3の実施形態の有機EL素子の一変形例を示す断面図である。
【図3−5】本発明の第3の実施形態の有機EL素子の一変形例を示す断面図である。
【図3−6】本発明の第3の実施形態の有機EL素子の一変形例を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の有機EL素子を示す断面図である。
【図5】従来の有機EL素子の構成を示す正面断面図である。
【図6】検証実験装置の側面を示す図である。
【図7】検証実験装置上に載置される試験基板および測定位置を示す平面図である。
【図8−1】試験例2−1に供された試験基板の断面図である。
【図8−2】試験例2−2に供された試験基板の断面図である。
【図8−3】試験例2−3に供された試験基板の断面図である。
【図8−4】比較例2−1に供された試験基板の断面図である。
【図8−5】比較例2−2に供された試験基板の断面図である。
【図9】検証試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0161】
1、2、3A、3B、4 有機EL素子
11 支持基板
12 発光機能部
13、32 封止基板(上部封止膜)
14 接着部
15、31、33、34 放熱層
21 第1の発光ユニット
21a 第1の有機発光層
21b 正孔注入層
22 第2の発光ユニット(第2の有機発光層)
23 電荷発生層
23−1 第1の層
23−2 第2の層
24 陽極(第1電極)
25 陰極(第2電極)
33a 黒色系材料層
33b アルミニウム層
41 試験台
42 ホットプレート
43 熱伝導部(熱源、真鍮)
44 断熱シート
45 試験基板保持ガラス
46 試験基板
47 温度センサー
A〜K 測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、前記陽極および陰極の間に配置され、それぞれが有機発光層を含む複数の発光ユニット、並びに、前記発光ユニットに挟持された電荷発生層を有する発光機能部と、
該発光機能部が搭載される支持基板と、
前記支持基板との間に前記発光機能部が介在するように配置される封止基板と、
前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に配置される放熱層と、を備え、
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、
熱放射率が0.70以上である、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層は、高分子有機化合物を含む、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電荷発生層が、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものを1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)の1種類以上を含む第2の層とを含んで成り、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電荷発生層は、前記金属およびその化合物からなる群(A)から選ばれるものの1種類以上と、前記化合物(B)の1種類以上とが混合されてなる層である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記化合物(B)が遷移金属酸化物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)がV25である、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記放熱層の前記熱放射率が0.85以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記放熱層の熱伝導率が1W/(m・K)以上である、請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記放熱層の前記熱伝導率が200W/(m・K)以上である、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記放熱層が、黒色系材料を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記放熱層が、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有する、請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記高熱伝導性層が、アルミニウム、銅、銀、およびこれらから選ばれる2種以上の合金、並びにセラミックス材料からなる群より選ばれる無機材料、または高熱伝導性の樹脂で形成されてなる、請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記支持基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の前記発光機能部側とは反対側の主面に、前記放熱層が設けられる、請求項1から14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記ガラス基板の両主面に、前記放熱層が設けられる、請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記ガラス基板の前記発光機能部側の主面に高熱伝導性層が設けられる、請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記封止基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、請求項1から17のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状光源。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図8−5】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−146894(P2010−146894A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324006(P2008−324006)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】