説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】発光効率が高く、素子寿命が長い発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子、照明装置、面状光源および表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子は、第1電極と、光透過性を有する第2電極と、両電極間に設けられ、有機発光層を含む複数の発光ユニットと、発光ユニット間に配置される電荷発生層とを備え、電荷発生層は仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、第2電極が発光ユニット側から第1層、第2層、第3層の順に配置された3層の積層体からなり、第1層が金属、金属酸化物、金属フッ化物及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、第2層に含まれる材料が第1層に含まれる材料に対して還元作用を有する。また第3層の可視光領域の光の透過率が40%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)、照明装置、面状光源及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は一対の電極と該電極間に設けられる有機化合物を含む発光層(以下、有機発光層という場合がある)を含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、陽極から正孔が注入されるとともに、陰極から電子が注入され、これら正孔と電子とが有機発光層において再結合することによって発光する。
有機EL素子は、通常、1層の有機発光層を含んで構成されるところ、注入する電流に対する発光効率を向上させるために、有機発光層を含む発光ユニットを複数段積層したいわゆるマルチフォトン型の有機EL素子が提案されている。このような有機EL素子には、正孔と電子とを発生する電荷発生層が発光ユニット間に設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような自発光型の有機EL素子を画素として用いた表示装置の実用化が検討されている。例えばアクティブマトリックス駆動方式の表示装置では、駆動回路が形成されたTFT(Thin Film Transistor)基板上に複数の有機EL素子が設けられる。基板側から光を取出すボトムエミッション型の有機EL素子では、基板上に設けられた駆動回路などによって光が遮られるため、通常は駆動回路などの遮光物に重ならないように有機EL素子が配置される。従って遮光物が占有する面積の分だけ有機EL素子の開口率が低下することになり、結果として全体としての輝度が低下する。そこで駆動回路などの遮光物とは無関係に開口率を向上するために、基板とは反対側から光を取出すトップエミッション型の有機EL素子が検討されている。
【0004】
トップエミッション型の有機EL素子は、基板とは反対側に設けられる電極が透明電極によって構成される。例えば透明電極を、第1〜第3層の3層からなる陰極とした有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献2)。この有機EL素子では、第1層および第3層が酸化物薄膜層によって構成され、第2層がAu、Ag、Cu、PdおよびPtから選択される金属の薄膜からなる層によって構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【特許文献2】特開2004−79422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子を実用化していくにあたり、開口率が高いトップエミッション型において素子の発光効率のさらなる向上と、素子の長寿命化が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、発光効率が高く、素子寿命が長い発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子、照明装置、面状光源および表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、下記の構成を採用した。
[1] 陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である第1電極と、
前記第1電極に対向して配置され、前記陽極および陰極のうちの他方の電極であり、光透過性を有する第2電極と、
前記第1電極および第2電極間に設けられ、かつそれぞれが有機化合物を含む発光層を有する複数の発光ユニットと、
前記発光ユニットに挟持されて配置される電荷発生層とを備え、
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、
前記第2電極が、前記発光ユニット側から第1層、第2層および第3層の順に配置された3層の積層体からなり、
前記第1層が金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、
前記第2層に含まれる材料が前記第1層に含まれる材料に対して還元作用を有する、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
[2] 前記発光層が、高分子有機化合物を含む、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記電荷発生層が、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上を含む第1の層と、前記化合物(B)の1種類以上を含む第2の層とを含み、前記第2の層よりも第1電極または第2電極としての陽極寄りに前記第1の層が配置される、上記[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記電荷発生層は、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、前記化合物(B)の1種類以上とが混合されてなる層である、上記[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属から成る群から選択される、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記化合物(B)が、遷移金属酸化物である、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である、上記[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物がV25である、上記[1]から[7]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記第2層が、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[10] 前記第1層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる材料を含む、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[11] 前記第1層がバリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、及びこれらの混合物からなる第1の群より選ばれる材料、またはナトリウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、及びこれらの混合物からなる第2の群より選ばれる材料を含む、上記[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[12] 上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
[13] 上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状光源。
[14] 上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機発光層を備える発光ユニットが複数段積層されたマルチフォトン型の有機EL素子を構成するとともに、特定の3層から成る第2電極を用いることによりトップエミッション型の有機EL素子を構成することができる。
マルチフォトン型の有機EL素子は、素子全体として取出される光を各発光ユニットが分担して放出することになるため、結果として有機EL素子全体に加わる負荷を各発光ユニットに分散させることができる。そのため、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子とマルチフォトン型の有機EL素子とを輝度が同じ条件で駆動させた場合、シングルフォトン型の有機EL素子の有機発光層に加わる負荷に比べて、マルチフォトン型の有機EL素子の各有機発光層に加わる負荷を軽くすることができる。このように、マルチフォトン型の有機EL素子は、各有機発光層に加わる負荷を軽くすることができるので、素子の長寿命化を図ることができる。また特定の3層から成る第2電極を用いることにより、トップエミッション型の有機EL素子とすることができるため、基板に設けられた遮光物により開口率が低下することを避けることができる。これらにより、トップエミッション型で発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子を実現することができる。
本発明の有機EL素子は、照明装置、面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL素子を搭載した有機EL装置においては、電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において支持基板の厚み方向の一方を上または上方といい、支持基板の厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0011】
1.本発明の有機EL素子
本発明にかかる有機EL素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である第1電極と、前記第1電極に対向して配置され、前記陽極および陰極のうちの他方の電極であり、光透過性を有する第2電極と、前記第1電極および第2電極間に設けられ、かつそれぞれが有機化合物を含む発光層を有する複数の発光ユニットと、前記発光ユニットに挟持されて配置される電荷発生層とを備え、前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、前記第2電極が、前記発光ユニット側から第1層、第2層および第3層の順に配置された3層の積層体からなり、前記第1層が金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、前記第2層に含まれる材料が前記第1層に含まれる材料に対して還元作用を有することを特徴としている。また、前記第3層の可視光領域の光の透過率が40%以上であることが好ましい。
【0012】
有機EL素子は、2個以上の発光ユニットを備え、複数の発光ユニットが電荷発生層を介して複数段積層された構成のマルチフォトン型の有機EL素子である。有機EL素子のとりうる素子構成を以下に示す。
(i)陽極/第1の発光ユニット/電荷発生層/第2の発光ユニット/陰極
(ii)陽極/発光ユニット/(電荷発生層/発光ユニット)x/陰極
ここで記号「/」は、記号「/」を挟む層が隣接して積層されていることを表す。また記号「x」は、2以上の整数を表し、「(電荷発生層/発光ユニット)x」は、電荷発生層と発光ユニットとから成る積層体が、x段積層されていることを表す。
【0013】
[第1の実施形態]
図1を参照しつつ、有機EL素子の第1の実施形態およびその変形例について説明する。図1は、本発明の有機EL素子の第1の実施形態を示す正面断面図である。
本実施形態における有機EL素子10は、それぞれが有機発光層を含む第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12の2個の発光ユニットを備え、これら第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12に挟持される電荷発生層13を備える。第1の発光ユニット11は、第1の有機発光層11aと正孔注入層11bとで構成されている。第2の発光ユニット12は、第2の有機発光層のみで構成されている。有機EL素子10は、通常、(i)または(ii)の構成において、第1電極として陽極14を最も支持基板15寄りに配置するようにして支持基板15上に設けられる。第2の発光ユニット12上に第2電極として光透過性を有する陰極16が配置されている。この透明な第2電極16は、3層の積層体から構成されている。3層の積層体は、第1及び第2の発光ユニット11、12側から第1層16a、第2層16b、第3層16cがこの順に積層された3層の積層体からなる。すなわち本実施の形態の有機EL素子10は、陽極14、第1の発光ユニット11、電荷発生層13、第2の発光ユニット12及び陰極16がこの順に積層されて構成される。
【0014】
有機EL素子10には、これら支持基板15上に配置された有機EL素子10を保護するために有機EL素子10全体を保護する封止基板(上部封止膜という場合がある)17が通常設けられる。支持基板15と封止基板17とは接着部18にて密封されている。また、有機EL素子10は、(i)または(ii)の構成において、第2電極として陰極を最も支持基板15寄りに配置するように支持基板15上に設けられてもよい。
また本明細書では、「光透過性を有する支持基板」、「光透過性を有する電極」とは、入射した光の少なくとも一部が透過する支持基板、電極を意味する。
【0015】
以下に、まず、第1の発光ユニット11、第2の発光ユニット12、電荷発生層13、陰極(第2電極)16の3層構造について説明する。その後、有機EL素子の他の構成要素について説明する。
【0016】
<A>発光ユニット
発光ユニットは、有機発光層を含んで構成される。また発光ユニットは、1層の有機発光層から構成されていてもよいし、複数の有機発光層により構成されていてもよい。また発光ユニットは有機発光層のみによって構成されていてもよく、無機層を含んでいてもよい。発光ユニットは、マルチフォトン型ではない有機EL素子、すなわち1層の有機発光層を有する有機EL素子のうちの、陽極と陰極とに挟持された部分と同様の構成を有する。図1に示す有機EL素子10においては、第1の発光ユニット11は第1の有機発光層11aと正孔注入層11bとで構成され、第2の発光ユニット12は第2の有機発光層のみで構成されている。
【0017】
発光ユニットは発光層を形成する材料(以下、発光材料という場合がある)を含む溶液を塗布し、乾燥することにより形成された有機発光層を少なくとも一層含むものとしてもよい。図1に示す有機EL素子10においては、第1の発光ユニット11の第1の有機発光層11aおよび第2の発光ユニット12の第2の有機発光層12は発光材料を含む溶液を塗布し、乾燥することにより形成してもよい。また第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12には各々第1の有機発光層11a、第2の有機発光層12を一つしか含んでいないが、複数の有機発光層を有するようにしてもよい。
【0018】
発光層は、発光材料を含む層であり、有機発光層は、発光材料として有機化合物を含む層である。有機発光層には、主として蛍光および/または燐光を発光する有機物(低分子化合物および/または高分子化合物)が含まれる。この蛍光および/または燐光を発光する有機化合物として用いられる低分子化合物および高分子化合物が発光材料として用いられる。なお、本明細書において、高分子化合物とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が103以上のものである。本発明に関し、数平均分子量の上限を規定する特段の理由はないが、通常、ポリスチレン換算の数平均分子量の上限は、108以下である。また、有機発光層は、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0019】
<A−1>色素系材料
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0020】
<A−2>金属錯体系材料
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。さらに金属錯体系材料の他の例として、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0021】
<A−3>高分子系材料
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、例えば、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0022】
<A−4>ドーパント材料
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm以上、2000nm以下である。
【0023】
<A−5>発光層の成膜方法
発光層の成膜方法としては、有機発光層が積層される下地層上に発光材料を含む溶液を塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、発光層を主に構成する発光材料を溶解するものであればよく、例えば、水、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒を挙げることができる。
【0024】
有機発光層が積層される下地層上に発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーまたは摩擦による転写や熱転写により、所望のところのみに有機発光層を形成する方法も用いることができる。
【0025】
また発光ユニットは、必要に応じて有機発光層以外の層を有している場合がある。発光ユニットを構成する層のうちで、有機発光層を基準にして陽極側に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。
また発光ユニットを構成する層のうちで、有機発光層を基準にして陰極側に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。
これら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層については、任意の層として後述する。
【0026】
<B>電荷発生層
電荷発生層は、発光ユニットに挟持されて配置されている。電荷発生層は、陽極と陰極とに電圧を印加したときに、電荷(正孔と電子)を発生し、電荷発生層に対して陽極側に隣接する発光ユニットに電子を注入するとともに、電荷発生層に対して陰極側に隣接する発光ユニットに正孔を注入する層として機能する。陽極および陰極から注入される電荷に加えて、電荷発生層において生じた電荷が各発光ユニットに注入されるため、有機EL素子に注入した電流に対する発光効率(電流効率)が向上する。
本実施形態の有機EL素子10においては、図1に示すように、この電荷発生層13が第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12に挟持され、これら第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12を仕切っている。これによって、マルチフォトン型の有機EL素子が構成される。マルチフォトン型の有機EL素子では、各発光ユニットに負荷を分散させ、各発光ユニットから放射される光を重ね合わした光が取出される。
このため、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1の発光ユニット11と第2の発光ユニット12とを積層したマルチフォトン型である本実施の形態の有機EL素子10とから取出される光の強度を同じにして比較したとき、マルチフォトン型である有機EL素子10の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1の有機発光層11aおよび第2の有機発光層12に加わる電力を小さくした状態で第1の有機発光層11a及び第2の有機発光層12を発光させることができ、マルチフォトン型の有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量とすることができる。
したがって、マルチフォトン型である有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、本実施の形態の有機EL素子10は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1の有機発光層11a及び第2の有機発光層12に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。
【0027】
本実施形態における電荷発生層13は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含む。電荷発生層13は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上を単独で用いるよりも、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上と組合せて用いることにより、電荷を効率的に発生することができる。
【0028】
なお、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの仕事関数の上限値としては3.0eVが好ましく、下限値としては1.5eVが好ましい。また、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の仕事関数の下限値としては4.0eVが好ましく、上限値としては7.5eVが好ましい。
【0029】
仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、金属の仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。電荷発生層13に仕事関数が前記範囲を満たす材料が含まれていない場合、有効な電荷注入が起こりにくくなり本発明の効果が十分に得られないので好ましくない。
【0030】
電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属から成る群から選択することができる。中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、及びセシウム(Cs)(1.95eV)が好ましく、アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)及びバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す。)。これらの中では、Liがより好ましい。また、電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物としては、前記の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。
【0031】
仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)としては、仕事関数が4.0eV以上の無機又は有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては、遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物の中でも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましく、V25がより好ましい。
【0032】
仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものから電子を受け取りやすい電子受容性を示すものが好ましく、さらに好ましくは、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものと電荷移動錯体を形成するものが好ましい。このような材料の例として、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)が挙げられる。
【0033】
電荷発生層は、以下の2通りの構造をとり得る。
(i)電荷発生層13が、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものを1種類以上含む第1の層13−1と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層13−2とを含む(積層構造:図1参照)。
(ii)電荷発生層が、一つの層に、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である(混合層)。
【0034】
前記積層構造の場合には、図1に示すように、第1の層13−1を、第2の層13−2よりも陽極寄りに配置することが好ましい。
【0035】
前記混合層の場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料が混合した層を一度に形成する方法や、第1の層を構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この構造の上に第2の層を形成することにより混合層とする方法などを用いて混合層を形成することができる。
【0036】
第1の層13−1の厚さは、本発明の効果を十分に得るためには、0.1nm以上、10nm以下が好ましく、より好ましくは0.1nm以上、6nm以下である。
第2の層13−2の厚さは、2nm以上、100nm以下が好ましく、より好ましくは4nm以上、80nm以下である。
【0037】
また本実施形態の電荷発生層は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)などを用いることができる。
【0038】
本実施形態の電荷発生層の光透過率は、有機発光層から放出される光に対して高い透過率を有することが望ましい。十分に光を取り出し、十分な輝度を得るためには、波長550nmでの光の透過率が30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0039】
本実施形態の有機EL素子10によれば、同時に発光する第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12を含み、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1及び第2の発光ユニット11、12を積層したマルチフォトン型の有機EL素子10とから取出される光の強度を同じにして比較したとき、マルチフォトン型の有機EL素子10の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層11a、12に加わる電力を小さくした状態で発光させ、マルチフォトン型の有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量とすることができる。よって、マルチフォトン型である有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、有機EL素子10は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層11a、12に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。これにより、信頼性の高い有機EL素子を実現することができる。
【0040】
(混色、白色)
また、本実施形態の有機EL素子10は、同時に発光する第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12を含むため、各々の第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12の各々の第1の有機発光層11a、第2の有機発光層12の発光波長を互いに異なるようにすることによって、混色により有機EL素子10から取出される光の色を、第1の発光ユニット11の第1の有機発光層11a、及び第2の発光ユニット12の第2の有機発光層12からそれぞれ発せられる光の色とは別の色とすることが可能である。例えば補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、又は4色以上の混色によって、取出される光の色を白色とすることができる。例えば本実施の形態の第1の有機発光層11a、第2の有機発光層12の発光色を互いに異ならせることによって、所期の発光色で発光する有機EL素子を実現することができるため、設計の自由度を向上させることができる。
【0041】
(キャビティ効果)
また積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができるが、キャビティ効果(光の干渉効果)を考慮することが好ましい。具体的には、陽極14と陰極16とに挟持された構造物の厚さが、第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12から発生する光の波長を前記構造物の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍であることが好ましい。このような関係が満足される構成では、光の干渉効果により光取り出し効率が最大となるためである。この関係は厳密に成立しているときに効果が最大となるが、誤差はあっても効果は認められ、おおむね構造物の厚さが、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内であればよい。さらに実質的に発光している部位と、光を反射する方の反射性電極(本実施形態では陽極14)との距離が、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍となる場合に光の干渉効果が最大となるので好ましい。有機EL素子10が、発光色が異なる複数の発光ユニットからなる場合は、どれか一つの波長に対して前記の関係が成り立つように膜厚を制御することが好ましい。あるいは2つの波長に対して前記膜厚の関係が同時に成り立つように膜厚を制御してもよい。
【0042】
<C>第2電極
第2電極は、第1電極に対向して配置され、陽極および陰極のうちの他方の電極であり、光透過性を有する。この第2電極は、発光ユニット側から第1層、第2層および第3層の順に配置された3層の積層体からなる。前記第1層が金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、前記第2層に含まれる材料が前記第1層に含まれる材料に対して還元作用を有する。前記第3層の可視光領域の光の透過率は40%以上であることが好ましい。第2電極を上記のような三層構造とすることで、2層のみからなる電極を使用した場合に比べて、発光効率及び輝度半減寿命を向上させることができる。
また図1に示すように、本実施形態における有機EL素子10では、第2電極16は、第1及び第2の有機発光層11a、12からの光を透過させる透明電極であって、陰極となるものである。3層の積層体は、第1及び第2の発光ユニット11、12側から第1層16a、第2層16b、第3層16cがこの順に積層された3層の積層体からなる。この第2電極16を陰極として用い、第2電極16側から光を抜出すトップエミッション型の素子とすることで、ボトムエミッション型のように開口率が低下することを避けることができる。
【0043】
本実施形態において、第2電極16の第1層16aが、金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、かつ第2層16bに含まれる材料が第1層16aに含まれる材料に対して還元作用を有する。第2層16bは、具体的には、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される金属を含むことが好ましい。
【0044】
本実施形態において、第1層16aが、金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含む場合、第1層16aは、これらの材料から実質的になる層とすることができる。金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物の中では金属が好ましい。第1層16aに含まれる金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物を構成する金属としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を挙げることができる。より具体的には、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができ、バリウム、ナトリウム、ルビジウムであることが特に好ましい。第2層16bを構成する材料がカルシウム又はマグネシウムを含む場合、第1層16aを構成する金属は、カルシウム又はマグネシウム以外の金属であることが好ましい。
【0045】
第2層16bがカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む場合、第2層16bは、これらの金属、これらの金属の酸化物、これらの金属のフッ化物、又はこれらの混合物のいずれかのみから実質的になる層とすることができる。特に、カルシウム、アルミニウム、又はマグネシウムなどの金属のみから実質的になることが好ましい。
【0046】
部材A(例えば金属)「のみから実質的になる」とは、蒸着等の製造工程、及び使用に際しての酸化等の過程において混入した部材Aとは異なる他の元素が含まれてもよいことを意味し、具体的には、部材Aの含有割合が90モル%以上である場合とすることができる。
【0047】
第2層16bに含まれる材料が第1層16aに含まれる材料に対して還元作用を有する場合において、材料間の還元作用の有無およびその程度は、例えば、化合物間の結合解離エネルギー(ΔrH°)から決定することができる。即ち、第2層16bを構成する材料による、第1層16aを構成する材料に対する還元反応において、結合解離エネルギーが正となる組み合わせの場合、第2層16bの材料が第1層16aの材料に対して還元作用を有するといえる。
【0048】
結合解離エネルギーは、例えば、電気化学便覧第5版(丸善、2000)、熱力学データベースMALT(科学技術社、1992)などで参照できる。例を挙げると、LiFとAlの組み合わせでは、
3LiF+Al→3Li+AlF、ΔrH°=−36.28
となり、吸熱反応であることからAlはLiFに対して還元作用を有しない。また、LiFとCaの組み合わせでは、
2LiF+Ca→2Li+CaF、ΔrH°=+38.58
となり、放熱反応であることからCaはLiFに対して還元作用を有する。
【0049】
第2層16bの材料が第1層16aの材料に対して還元作用を有する場合の第1層16a及び第2層16bの材料の組み合わせの例を以下に列挙する。以下の式においては、左辺の左側の材料が第1層16aの材料、左辺の右側の材料が第2層16bの材料であり、左辺の右側の材料が左辺の左側の材料に対して還元作用を有する。
(1)2BaO+Al→2Ba+AlO,ΔrH°=+197.6
(2)BaO+Ca→Ba+CaO,ΔrH°=+172.4
(3)BaO+Mg→Ba+MgO,ΔrH°=+217.2
(4)BaF+Ca→Ba+CaF,ΔrH°=+55.2
(5)2BaF+Ca→2Ba+CaF,ΔrH°=+51.0
(6)BaF+Mg→Ba+MgF,ΔrH°=+135.9
(7)2BaF+Mg→2Ba+MgF,ΔrH°=+139.3
(8)2LiF+Ca→2Li+CaF,ΔrH°=+38.5
(9)CsF+Ca→Cs+CaF,ΔrH°=+14.7
(10)CsF+Ag→Cs+AgF,ΔrH°=+158.0
(11)CsCO+Al→2Cs+AlO+CO,ΔrH°=+303.0
(12)CsCO+Ca→2Cs+CaO+CO,ΔrH°=+431.6
(13)CsCO+Ag→2Cs+AgO+CO,ΔrH°=+595.4
(14)2NaO+Al→4Na+AlO,ΔrH゜=+41.7
(15)2RbO+Al→4Rb+AlO,ΔrH゜=+41.7
(16)RbO+Ca→2Rb+CaO,ΔrH゜=+94.4
【0050】
本実施形態において、第1層16aの材料が、酸化物又はフッ化物などで無い金属のみから実質的になる場合は、前記金属の酸化物に対して第2層16bの材料が還元作用を有するか、または前記金属のフッ化物に対して第2層16bの材料が還元作用を有するか、または前記金属酸化物および金属フッ化物の両方に対して第2層16bの材料が還元作用を有する場合、本発明でいう「第2層の材料が第1層の材料に対して還元作用を有する」場合に該当するものとする。第1層16aの材料が金属のみから実質的になるものとして有機EL素子を製造した場合であっても、製造工程等の過程において第1層16aに混入する微量の酸素、水分等により酸化物、フッ化物等が生じうる。その酸化物、フッ化物等に対して、第2層16bの材料が還元作用を有する場合、本発明の効果を得ることができる。したがって、第2層16bの材料は、第1層16aを構成する金属の酸化物およびフッ化物の両方に対して還元作用を有することが好ましい。
この場合、上記に列挙したように、カルシウム、アルミニウム、マグネシウムを第2層16bの材料として好適に用いることができる。
【0051】
第3層16cの可視光透過率は通常40%以上であり、好ましくは50%以上である。このような可視光透過率とすることにより、第2電極16を、透明な電極とすることができる。
第3層16cを構成する材料は、金、銀、銅、錫、鉛、ニッケル、インジウム、及びこれらの合金からなる群より選択されることが好ましい。
【0052】
第2電極16を構成する第1層16a、第2層16b、第3層16cの厚さは、特に限定されないが、特に可視光透過率に鑑みて適宜設定され、第1層16aが0.5nm以上、10nm以下、第2層16bが0.5nm以上、10nm以下、第3層16cが5nm以上30nm以下であることが好ましい。
また、第2電極16の全層を通る光の可視光透過率は、40%以上であることが、有機EL素子の光特性を良好なものとする上で好ましい。
【0053】
第1層16a〜第3層16cを形成する方法としては、発光層等へのダメージを避けることが可能であるため、真空蒸着法等の蒸着法が好ましい。真空蒸着法により第2電極16の第1層16a〜第3層16cを形成する場合、操作の簡便性、及び異物混入による品質低下の防止の観点から、真空蒸着装置のチャンバー内に基板を設置して減圧し、真空を保ったまま第1層16a〜第3層16cを連続して形成することが好ましい。
【0054】
また、第2電極16の光透過率を向上させることを目的として、第2電極16の第3層16cの上に、反射防止層を設ける事もできる。反射防止層に用いられる材料としては屈折率(n)が1.8以上、3.0以下程度の物が好ましく、例えば、ZnS、ZnSe、WOなどが挙げられる。反射防止層の膜厚は材料の組合せによって異なるが、通常10nm以上、150nm以下の範囲である。
例えば、第2電極16として、第1層16aにBaを5nm、第2層16bにAlを1nm、第3層16cにAgを15nmの構成を用いた場合、第3層16c上に反射防止層としてWOを21nm積層すると、第1の有機発光層11a及び第2の有機発光層12側からの光透過率が10%向上する。
【0055】
本実施形態に係る有機EL素子の特徴は、上述のように、有機発光層を含む複数の発光ユニットと、前記発光ユニットに挟持されて配置される電荷発生層が第1電極および第2電極間に設けられていること、光透過性を有する第2電極が3層構造であることにある。これら発光ユニット、電荷発生層および第2電極の詳細は、上述の通りである。
【0056】
以上説明した本実施形態の有機EL素子によれば、同時に発光する第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12を含み、1層の有機発光層のみからなるシングルフォトン型の有機EL素子と第1及び第2の発光ユニット11、12を積層したマルチフォトン型の有機EL素子10とから取出される光の強度を同じにして比較したとき、マルチフォトン型の有機EL素子10の方がシングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層11a、12に加わる電力を小さくした状態で発光させ、マルチフォトン型の有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量とすることができる。よって、マルチフォトン型である有機EL素子10全体としてはシングルフォトン型の有機EL素子と同じ光量となるように駆動させたとしても、有機EL素子10は、シングルフォトン型の有機EL素子より第1及び第2の有機発光層11a、12に加わる負荷を小さくした状態で発光させることができるため、素子の長寿命化を図ることができる。
また、上記三層構造を備えた第2電極16は、第1及び第2の発光ユニット11、12側から第1層16a、第2層16b、第3層16cの順に配置された3層の積層体からなり、第1層16aが金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、第2層16bに含まれる材料が第1層16aに含まれる材料に対して還元作用を有する。また第3層16cの可視光領域の光の透過率は40%以上であることが好ましい。このため、第2電極16を陰極として用い、第2電極16側から光を抜出すトップエミッション型の素子とすることで、ボトムエミッション型のように開口率が低下することを避けることができる。
従って、本実施形態によって、開口率が高いトップエミッション型で発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子を実現することができる。
【0057】
また本実施形態に係る有機EL素子10は、次のような工程による製造方法により製造される。
すなわち有機発光層を含む複数の発光ユニットを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、基板上に第一電極を形成する第一電極形成工程と、前記第一電極の上に発光ユニットを形成し、その発光ユニットの上に電荷発生層を形成し、その電荷発生層の上に更に発光ユニットを形成し、前記発光ユニット同士の間に電荷発生層を挟持するようにして複数の発光ユニットを形成する工程と、最も最後に形成された発光ユニットの上に、第2電極を形成する第1層を形成し、前記第1層の上に第2層を形成し、前記第2層の上に第3層を形成し、第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する。
【0058】
続いて、これら第1の発光ユニット11、第2の発光ユニット12、電荷発生層13及び第2電極16以外の有機EL素子の構成要素(第1電極14)および支持基板15などの付随物について、以下に詳しく説明する。
【0059】
<D>支持基板
支持基板15としては、有機EL素子を形成する工程において変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらにプラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。支持基板15としては、市販のものが使用可能である。また支持基板15を公知の方法により製造することもできる。
【0060】
<E>第1電極
第1電極は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である。本実施形態における第1電極は、有機EL素子10の陽極14となるものである。陽極14には、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、第1の有機発光層11a、第2の有機発光層12の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。また後述のように、第1電極を陰極として用いる構成の有機EL素子も可能である。
【0061】
陽極14の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、金、白金、銀、銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0062】
また陽極14の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0063】
また第1の発光ユニット11の第1の有機発光層11aへの電荷注入を容易にするという観点から、陽極14の第1の発光ユニット11側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1nm以上、200nm以下の層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0064】
このような陽極14の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm以上、10μm以下であり、好ましくは10nm以上、1μm以下であり、より好ましくは20nm以上、500nm以下である。
【0065】
上述の陽極14を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
また陽極14を電気的に分離させた複数のセルに仕切る方法としては、例えば、第1電極を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。
【0066】
<F>封止基板
上述のように陰極16が形成された後、有機EL素子10を保護するために、該有機EL素子10を封止する封止基板(上部封止膜)17が形成される。この封止基板17は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0067】
封止基板17の形状は、支持基板15と貼り合わせて、有機EL素子10を封止できるものであればよく、図1に示すように平板状であってもよいし、有機EL素子10を収容するためのザグリを表面に形成した板状の基板を用いてもよい(不図示)。図1に示す例では、封止基板17と有機EL素子10との間に空隙が生じているが、この空隙に樹脂などの充填剤を設けてもよい。この封止基板17は、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよい。また封止基板17は、支持基板15について例示したものと同様のものを採用してもよい。
【0068】
なおプラスチック基板はガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、また第1の有機発光層11a及び第2の有機発光層12などを構成する発光物質は酸化されやすく、水と接触することにより劣化しやすいため、支持基板15としてプラスチック基板が用いられる場合には、支持基板15および封止基板17により有機EL素子10が囲繞されていても経時変化し易いので、ガスバリア性を高めるための処理をプラスチック基板に予め施すことが好ましい。例えばプラスチック基板上にガスおよび液体などに対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に有機EL素子10を積層することが好ましい。この下部封止膜は、通常、封止基板17と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0069】
図1に示すような第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12からの光を封止基板17側から取出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子では、封止基板17は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
【0070】
<G>任意の構成層
図1に示す有機EL素子10では、陽極14と陰極16との間に、第1の発光ユニット11、第2の発光ユニット12及び電荷発生層13が設けられた形態を示している。しかし、陽極14と電荷発生層13との間、電荷発生層13と陰極16との間に設けられる層の構成としては、図1に示す構成例に限られるわけではない。陽極14と陰極16との間には必須の構成として第1の有機発光層11a、第2の有機発光層12及び電荷発生層13が設けられればよく、第1の発光ユニット11の正孔注入層11bのように、第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12には第1の有機発光層11a及び第2の有機発光層12の他にさらに他の機能層を1または2以上設けてもよい。第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12のその一部として付属し得る層としては、上述のように例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。
【0071】
陽極14と第1の有機発光層11aとの間、電荷発生層13と第2の有機発光層12との間に設け得る層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極14と第1の有機発光層11aとの間、電荷発生層13と第2の有機発光層12との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極または電荷発生層に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0072】
第1の有機発光層11aと電荷発生層13との間、第2の有機発光層12と陰極16との間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。第1の有機発光層11aと電荷発生層13との間、第2の有機発光層12と陰極16との間に、電子注入層と電子輸送層との両方が設けられる場合、電荷発生層または陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0073】
なお正孔注入層および電子注入層を総称して電荷注入層ということがある。正孔輸送層および電子輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。また電子ブロック層および正孔ブロック層を総称して電荷ブロック層ということがある。
電荷輸送層は、それぞれ独立に2層以上用いてもよい。
【0074】
以下、正孔注入層11bを含め、任意の機能層(不図示)について説明する。
発光ユニットを構成する任意の層として、上述の通り、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層を設けても良い。
<G−1>正孔注入層
正孔注入層は、陽極または電荷発生層からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔注入層は、陽極14と正孔輸送層との間、陽極14と第1の有機発光層11aとの間、電荷発生層13と第2の有機発光層12との間、電荷発生層13と正孔輸送層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、該正孔注入層の一方の表面、および他方の表面に隣接して設けられる2層の各イオン化ポテンシャルの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料が好ましい。具体的には、陽極14のイオン化ポテンシャルと第1の有機発光層11aの陽極14側の表面部のイオン化ポテンシャルとの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料、電荷発生層13のイオン化ポテンシャルと第2の有機発光層12の電荷発生層13側の表面部のイオン化ポテンシャルとの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料などである。例えば、フタロシアニン誘導体、ポリチオレン誘導体等の導電性高分子、モリブデン酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物などの厚さ1〜200nmの層、又は金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等の厚さ2nm以下の層が望ましい。
導電性高分子材料としては、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などが挙げられる。
該導電性高分子の電気伝導度は、10-7S/cm以上103S/cm以下であることが好ましく、有機EL素子が表示装置の画素として機能する場合には、画素間のリーク電流を小さくするためには、10-5S/cm以上102S/cm以下がより好ましく、10-5S/cm以上101S/cm以下がさらに好ましい。通常は該導電性高分子の電気伝導度を10-5S/cm以上103S/cm以下として正孔注入性を上げるために、該導電性高分子に適量のアニオンをドープする。アニオンの例としては、ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、樟脳スルホン酸イオンなどが好適に用いられる。
【0075】
正孔注入層の成膜方法としては、上述の第1の発光ユニット11を構成する第1の有機発光層11a及び第2の発光ユニット12を構成する第2の有機発光層12を成膜する方法と同様の方法によって形成することができる。具体的には、有機発光層を主に構成する発光材料を溶解する溶媒と同様の溶媒に、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって塗布することで成膜することができる。
【0076】
また正孔注入層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って正孔注入層の膜厚は、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
<G−2>正孔輸送層
正孔輸送層は、陽極14、電荷発生層13、正孔注入層または陽極14により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0077】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0078】
上記芳香族アミン化合物としては、第3級アミンが好ましく、具体的には下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む化合物があげられる。
【0079】
【化1】

式中、Ar、Ar、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Ar、Ar及びArは置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を表し、n及びmはそれぞれ独立に、0又は1を表し、0≦n+m≦2である。
【0080】
式(1)中、芳香環上の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、酸イミド基、イミン残基、置換アミノ基、置換シリル基、置換シリルオキシ基、置換シリルチオ基、置換シリルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、1価の複素環基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基及びカルボキシル基などから選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0081】
また、置換基は、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、シラノール基、小員環(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)を有する基、ラクトン基、ラクタム基、又はシロキサン誘導体の構造を含有する基等の架橋基であってもよい。また、上記の基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせ(例えばエステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基など)なども架橋基として利用できる。
【0082】
なお、正孔輸送層を構成する芳香族アミン化合物としては、上記一般式(1)で表される繰り返し単位において、ArとArが直接または、−O−、−S−等の2価の基を介して結合した構造の繰り返し単位を含む化合物でもよい。
【0083】
アリーレン基としては、フェニレン基等があげられ、2価の複素環基としては、ピリジンジイル基等が挙げられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、1価の複素環基としては、ピリジル基等が挙げられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0084】
芳香族第3級アミン化合物の構造を含む繰返し単位を含む重合体は、さらに他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位としては、フェニレン基、フルオレンジイル基等のアリーレン基があげられる。
なお、この重合体の中では、架橋基を含んでいるものがより好ましい。
【0085】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0086】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0087】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0088】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0089】
<G−3>電子ブロック層
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
電子ブロック層としては、例えば上記正孔注入層または正孔輸送層の材料として例示した各種材料を用い得る。
【0090】
<G−4>電子注入層
電子注入層は、陰極16または電荷発生層13からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子注入層は、第1の有機発光層11aと電荷発生層13との間、電子輸送層と電荷発生層13との間、第2の有機発光層12と陰極16との間、または電子輸送層と陰極16との間に設けられる。電子注入層を形成する材料としては、該電子注入層の一方の表面、および他方の表面に隣接して設けられる2層の各電子親和力の間となる電子親和力を有する材料が好ましい。具体的には、電荷発生層13の電子親和力と第1の有機発光層11aの電荷発生層13側の表面部の電子親和力との間となる電子親和力を有する材料、陰極16の電子親和力と第2の有機発光層12の陰極16側の表面部の電子親和力との間となる電子親和力を有する材料などである。
電子注入層の材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物、またはこれらの物質の混合物などが用いられる。
【0091】
アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0092】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0093】
さらに金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
また電子注入層の材料としては、導電性高分子材料も用いられる。該導電性高分子の材料としては、正孔注入材料で説明した電気伝導度の高分子材料を用いればよいが、電子注入性を向上させるためには、適量のカチオンをドープする。カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどが用いられる。
【0094】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm以上、1μm以下程度が好ましい。
【0095】
<G−5>電子輸送層
電子輸送層は、陰極、電荷発生層、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層であり、電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する層である。
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0096】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0097】
電子輸送層の成膜法としては、特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法などが例示される。また高分子電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法などが例示される。
また溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。
溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法が挙げられる。
【0098】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0099】
<G−6>正孔ブロック層
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0100】
<H>発光ユニットの層構成の組合せ
上記のように、発光機能部に含まれる発光ユニットは、その実施形態として、様々な層構成を採用し得る。発光ユニットのとり得る層構成の具体的な例を以下に示す。
a)有機発光層
b)正孔注入層/有機発光層
c)有機発光層/電子注入層
d)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
e)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層
f)有機発光層/電子輸送層/電子注入層
g)正孔注入層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
h)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
i)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
なお以上のa)〜i)の構成では、左側が陽極寄りの層であり、右側が陰極寄りの層である。
【0101】
有機EL素子が有する複数の発光ユニットは、互いに同じ層構成であってもよく、また互いに異なる層構成であってもよい。図1に示す本実施形態の第1の発光ユニット11は、b)の構成、すなわち正孔注入層11bと第1の有機発光層11aが積層された構成を有し、第2の発光ユニット12は、前記a)の構成、すなわち第2の有機発光層のみから構成されている。
【0102】
本発明にかかる有機EL素子は、複数の発光ユニットが電荷発生層を介して複数段積層された構成のマルチフォトン型の有機EL素子である。図1に示す本実施形態の有機EL素子10では、上述の通り、2組の発光ユニットを用い、第1の発光ユニット11及び第2の発光ユニット12が電荷発生層13を介して積層されている。さらに、その変形例として、3組以上の発光ユニットを電荷発生層を介して積層させた構成のマルチフォトン型の有機EL素子も採用し得る。
【0103】
有機EL素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0104】
また、他の任意の機能層として、例えば電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。さらに他の任意の機能層として界面の密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0105】
図1に示す実施形態では、支持基板15上に陽極14を設ける形態を示している。これらの場合、上記a)からi)の各形態では、左側(陽極側)に示された層から順に支持基板15上に配置されることになる。
【0106】
他方、本発明の有機EL素子としては、支持基板上に陰極を配置する形態も採用し得る。この場合、上記a)からi)の各形態では、右側(陰極側)に示された層から順に支持基板上に配置されることになる。
【0107】
[第2の実施形態]
本実施形態の有機EL素子は、上記図1に示す第1の実施形態における第1電極を陰極として用い、第2電極を陽極として用いる。第1電極として陰極を最も支持基板15寄りに配置するようにして支持基板15上に設け、第2の発光ユニット12上に第2電極として光透過性を有する陽極を配置する。すなわち本実施形態の有機EL素子は、陰極(第1電極)、第1の発光ユニット11、電荷発生層13、第2の発光ユニット12及び陽極(第2電極)がこの順で支持基板15上に積層される。
【0108】
本実施形態の有機EL素子のように、第1の実施形態における第1電極を陰極として用い、第2電極を陽極として用いても、上述の第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。すなわち、本実施形態によって、開口率が高いトップエミッション型で発光性能のより優れたマルチフォトン型の有機EL素子を実現することができる。
【0109】
2.本発明の有機EL素子を搭載した装置
以上説明した本発明の各実施形態の有機EL素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、表示装置に好適に用いることができる。
【0110】
有機EL素子を備える表示装置としては、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置などを挙げることができる。なお有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置、ドットマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【実施例】
【0111】
以下、作製例および比較例に基づいて本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0112】
<マルチフォトン型の有機EL素子の発光効率の検証>
作製例1−1、1−2及び比較例1−1〜1−4では、2つの発光ユニットを1つの電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子を作製し、その効果を確認した。
【0113】
<作製例1−1> 電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子の作製
(作製例1−1の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/Li/V25/MEH−PPV/Al−Li合金)
作製例1−1における有機EL素子の作製例を、図1を参照しながら説明する。図1に示す有機EL素子10において支持基板に相当するガラス基板15に、陽極14として利用するITO膜を、スパッタ法により150nmの厚みで形成した基板を用意し、該基板にBYTRON製のPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSS(ポリスチレンスルホン酸)溶液をスピンコート法により40nmの厚みで製膜し、窒素雰囲気下において200℃で熱処理して正孔注入層11bとした。ついで、これに発光材料としてAldrich社製の重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラ−フェニレンビニレン)の1重量%トルエン溶液を作製し、これをPEDOT/PSSが製膜された基板上にスピンコートして90nmの膜厚で第1の有機発光層11aを製膜した。正孔注入層11bと第1の有機発光層11aを併せて第1の発光ユニット11とする。
【0114】
この上に真空蒸着法により、電荷発生層13としてLi(仕事関数:2.93eV)、V25(酸化バナジウム)(仕事関数:4eV以上)を順次それぞれ、2nm、20nmの厚みで形成し、第1の層13−1、第2の層13−2とした。ここでLiの蒸着はAl−Li合金(Li含有率0.05%)を用い、Alが飛びはじめる前の数十秒間、先に飛ぶLiのみを蒸着することで行い、その直後にV25の蒸着を行った。
さらに、V25膜上に、MEH−PPVの1重量%トルエン溶液をスピンコートして、90nmの膜厚で第2の有機発光層(第2の発光ユニット)12を製膜した。さらにこの上に真空蒸着法により陰極16としてAl−Li合金を100nm形成した。以上により2つの発光ユニットを1つの電荷発生層で仕切った構造の有機EL素子を作製した。
得られた素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧12V、最大輝度80cd/m2であった。
電流効率は0.072cd/Aであり、下記の比較例1−1の素子(0.037cd/A)に比べて1.95倍に増大した。
【0115】
<比較例1−1> 有機EL素子の作製
(比較例1−1の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/Al−Li合金)
比較のために、作製例1−1において電荷発生層13と第2の有機発光層(第2の発光ユニット)12を設けない以外は作製例1−1と同様にして、図2に示すように発光ユニット11が1つだけの有機EL素子30を作製した。なお、図2中、図1におけるものと同一部材については同一符号を付している。
比較例1−1における有機EL素子30に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧5.5V、最大輝度52cd/m2であった。電流効率は0.037cd/Aであった。
【0116】
<比較例1−2> 有機EL素子の作製
(比較例1−2の層構成:ITO/PEDOT/MEH−PPV/V25/MEH−PPV/Al−Li合金)
電荷発生層として、膜厚30nmのV25の1層のみからなるものを用いたことを除いて、比較例1−1と同様にして有機EL素子を作製した。得られた素子は40V印加しても発光しなかった。
【0117】
<作製例1−2> 異なる色の発光ユニットの積層からなる混色素子
(作製例1−2の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−BT/Li/V25/PEDOT/PSS/F8−TPA−PDA/Al−Li合金)
作製例1−1における有機発光層であるMEH−PPVの代わりに、緑色の光を発光する下記構造式(1)で示す高分子発光材料31(略称F8(poly(9,9-dioctylfluorene))−TPA(トリフェニルアミン)−BT(ポリビスアミドトリアゾール))からなる高分子発光層を含む第1の発光ユニット11と、電荷発生層13とを形成した後、PEDOT/PSS層を形成し、引き続いて青色の光を発光する下記構造式(2)で示す高分子発光材料32(略称F8−TPA−PDA(p‐フェニェレンジアミン))からなる高分子発光層を含む第2の発光ユニット12を製膜した後、作製例1−1と同様にして陰極を形成して、二つの発光ユニットからの発光波長が異なる発光素子を作製した。
【0118】
高分子発光材料31
【化2】

【0119】
高分子発光材料32
【化3】

【0120】
<比較例1−3、1−4> 作製例1−2の比較、緑と青の有機発光層のみからなる単一素子
(比較例1−3の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−BT/Al−Li合金)
(比較例1−4の層構成:ITO/PEDOT/F8−TPA−PDA/Al−Li合金)
作製例1−2との比較のため、比較例1−2と同様にITO/PEDOT/有機発光層/Al−Li合金の構造の発光ユニット1つからなる素子を作製した。ここで比較例1−3では、有機発光層に緑色発光層材料F8−TPA−BTを用い、比較例1−4では、有機発光層に青色発光材料F8−TPA−PDAを用いた。
【0121】
比較例1−3、1−4の駆動電圧はそれぞれ3.6V、5.4Vであるのに対し、作製例1−2では8.0Vとなり2つのユニットを積層した素子の予想に近い電圧を示した。また作製例1−2の素子では2つの層からの混色により、スペクトルが広くなり白がかった緑色の発光が得られた。
【0122】
<透明な第2電極を特定の3層構造とした有機EL素子の効果の検証>
次に、以下の作製例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−3では、透明な第2電極を特定の3層から構成した有機EL素子を製造し、その効果を確認した。
【0123】
(作製例2−1)
(A:第1電極(陽極)の形成)
ガラス基板上に、真空蒸着法にて、第1電極(陽極)である厚さ100nmの銀層を成膜した。本銀層は反射率90%の光反射陽極である。さらに、真空を保ったまま、光反射陽極上に、正孔注入層として、厚さ10nmのMoO3層をさらに成膜した。
【0124】
(B:正孔輸送層の形成)
正孔輸送性高分子材料及びキシレンを混合し、正孔輸送性高分子材料の0.7重量%キシレン溶液(正孔輸送層形成用組成物)を得た。
【0125】
上記(A)で得た、陽極及び正孔注入層を有する基板を真空装置より取り出し、正孔注入層の上に、正孔輸送層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚20nmの塗膜を得た。
この塗膜を設けた基板を190℃で20分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔輸送層を得た。
【0126】
(C:発光層の形成)
発光高分子材料及びキシレンを混合し、発光高分子材料の1.4重量%キシレン溶液(発光層形成用組成物)を得た。
【0127】
上記(B)で得た、陽極、正孔注入層、及び正孔輸送層を有する基板の正孔輸送層の上に、発光層形成用組成物(有機発光インキ)をスピンコート法により塗布し、膜厚80nmの塗膜を得た。
この塗膜を設けた基板を130℃で20分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層を得た。
【0128】
(D:第2電極(陰極)の形成)
上記(C)で得た、陽極、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を有する基板の発光層の上に、真空蒸着法によって、第2電極(陰極)の第1層である5nmのBa層、第2層である5nmのCa層、第3層である15nmのSn−Ag合金(モル比はSn:Ag=96:4)層を、連続的に成膜し、第1層〜第3層からなる陰極を形成した。
【0129】
(E:封止)
上記(D)で得た、発光機能部が積層された基板を真空蒸着装置より取り出し、窒素雰囲気下、封止ガラス及び2液混合エポキシ樹脂にて前記基板上の発光機能部を封止し、有機EL素子E1を得た。
【0130】
(F:評価)
上記(E)で得られた素子に、0V〜12Vまでの電圧を印加し、最大発光効率を測定した。さらに、初期輝度6000cd/mとなる電流で通電し、一定電流を通電の下、輝度半減寿命を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
(作製例2−2)
第2電極(陰極)の第3層として15nmのCu層を成膜した他は、作製例2−1と同様に操作し、有機EL素子E2を得て評価した。結果を表1に示す。
【0132】
(作製例2−3)
第2電極(陰極)の第2層として1nmのAl層、第3層として15nmのCu層を成膜した他は、作製例2−1と同様にして有機EL素子E3を作製し、得られた有機EL素子E3を作製例2−1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0133】
(作製例2−4)
第2電極(陰極)の第3層として15nmのAg層を成膜した他は、作製例2−3と同様にして有機EL素子E4を作製し、得られた有機EL素子E4を作製例2−1と同様に評価した。結果を表1に示す。
以上の作製例2−1〜2−4の第3層を、上記の材料で上記の膜厚にそれぞれ形成した場合、各作製例の第3層の可視光透過率は、それぞれ40%以上となる。
【0134】
(比較例2−1)
第2電極(陰極)のCa層を成膜せず、第1層上に直接15nmのSn−Ag合金層を成膜した他は、作製例2−1と同様にして有機EL素子E5を作製し、得られた有機EL素子E5を作製例2−1と同様に評価した。結果を(表1)に示す。
【0135】
(比較例2−2)
第2電極(陰極)のCa層を成膜せず、第1層上に直接15nmのCu層を成膜した他は、作製例2−1と同様にして有機EL素子E6を作製し、得られた有機EL素子E6を作製例2−1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
作製例2−1と比較例2−1とを参照すれば明らかな通り、Baの第1層、Caの第2層、及びSn−Ag合金の第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しBaの層及びSn−Ag合金の層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が顕著に優れていた。また、輝度半減寿命も顕著に優れていた。
また、作製例2−2、作製例2−3及び比較例2−2を参照すれば明らかな通り、Baの第1層、Ca又はAlの第2層、及びCuの第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しBaの層及びCuの層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が優れていた。また、輝度半減寿命も優れていた。
さらに、作製例2−4に示される通り、Baの第1層及びAlの第2層に加えて第3層としてAgのみからなる層を用いた場合に、発光効率及び輝度半減寿命のいずれもが最も優れていた。
【0138】
(作製例2−5)
第2電極(陰極)の第1層として3.5nmのLiF層、第2層として4nmのCa層、第3層として15nmのAg層を成膜した他は、作製例2−1と同様に操作し、有機EL素子E7を得て評価した。結果を表2に示す。
【0139】
(比較例2−3)
第2電極(陰極)の第1層として3.5nmのLiF層を成膜し、Ca層を成膜せず第1層上に直接15nmのAg層を成膜した他は、作製例2−1と同様に操作し、有機EL素子E8を得て評価した。結果を表2に示す。
【0140】
【表2】

【0141】
作製例2−5と比較例2−3とを参照すれば明らかな通り、LiFの第1層、Caの第2層、及びAgの第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しLiFの層及びAgの層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が顕著に優れていた。また、輝度半減寿命も顕著に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の有機EL素子の第1の実施形態を示す正面断面図である。
【図2】従来の有機EL素子の構成を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0143】
10、20 有機EL素子
11 第1の発光ユニット
11a 第1の有機発光層
11b 正孔注入層
12 第2の発光ユニット(第2の有機発光層)
13 電荷発生層
13−1 第1の層
13−2 第2の層
14 陽極(第1電極)
15 支持基板
16 陰極(第2電極)
16a 第1層
16b 第2層
16c 第3層
17 封止基板(上部封止膜)
18 接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である第1電極と、
前記第1電極に対向して配置され、前記陽極および陰極のうちの他方の電極であり、光透過性を有する第2電極と、
前記第1電極および第2電極間に設けられ、かつそれぞれが有機化合物を含む発光層を有する複数の発光ユニットと、
前記発光ユニットに挟持されて配置される電荷発生層とを備え、
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含み、
前記第2電極が、前記発光ユニット側から第1層、第2層および第3層の順に配置された3層の積層体からなり、
前記第1層が金属、金属酸化物、金属フッ化物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものの1種以上を含み、
前記第2層に含まれる材料が前記第1層に含まれる材料に対して還元作用を有する、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層が、高分子有機化合物を含む、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電荷発生層が、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上を含む第1の層と、前記化合物(B)の1種類以上を含む第2の層とを含み、前記第2の層よりも第1電極または第2電極としての陽極寄りに前記第1の層が配置される、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電荷発生層は、前記金属およびその化合物から成る群(A)から選ばれるものの1種類以上と、前記化合物(B)の1種類以上とが混合されてなる層である、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属から成る群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記化合物(B)が、遷移金属酸化物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物がV25である、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記第2層が、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記第1層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる材料を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第1層がバリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、及びこれらの混合物からなる第1の群より選ばれる材料、またはナトリウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、及びこれらの混合物からなる第2の群より選ばれる材料を含む、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状光源。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−146895(P2010−146895A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324026(P2008−324026)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】