有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】本発明は、電極からの電荷の注入が良好であり、電荷注入輸送層と電極との界面での劣化が生じにくく、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、陽極と第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層と陰極とを有し、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【解決手段】本発明は、陽極と第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層と陰極とを有し、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に、発光層と2層の電荷注入輸送層とが順次積層された構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。
【0003】
また、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けることが知られている。このブロッキング層が設けられた有機EL素子では、特に、発光層とブロッキング層との界面に電荷が蓄積しやすく、そのため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0004】
駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、電荷注入輸送層(正孔注入輸送層、電子注入輸送層)に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献2および特許文献3には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−251067号公報
【特許文献2】特開平10−270171号公報
【特許文献3】特開平10−270172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような、正孔注入輸送層や電子注入輸送層として、電極との界面にて電子受容性ドーパントまたは電子供与性ドーパントがドープされた有機化合物層を有する有機EL素子では、発光層から対極側へ正孔もしくは電子が突き抜けた場合、上記有機化合物層と電極との界面にて劣化が生じることがある。これは、発光層から対極側へ突き抜けた正孔もしくは電子が、上記有機化合物層の電子受容性ドーパントまたは電子供与性ドーパントがドープされた領域で、何らかの影響を及ぼすためであると考えられる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電極からの電荷の注入が良好であり、電荷注入輸送層と電極との界面での劣化が生じにくく、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、上記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、上記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0009】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。また、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。さらに、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、エネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぎ、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0010】
上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に第1電子注入輸送層が形成され、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0011】
また上記発明においては、上記第1電子注入輸送層と上記陰極との間に第2電子注入輸送層が形成され、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることが好ましい。第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるからである。また、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができるからである。
【0012】
さらに本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、上記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、上記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0013】
本発明によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。また、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。さらに、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp4<Ip5であるので、エネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぎ、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
上記発明においては、上記発光層と上記陽極との間に第2正孔注入輸送層が形成され、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0015】
また本発明は、対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0016】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。また、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。さらに、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。また、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0017】
上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記発光層と上記陰極または上記電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0018】
また上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記第1電子注入輸送層と上記陰極または上記電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有し、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることが好ましい。第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるからである。また、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができるからである。
【0019】
さらに本発明は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0020】
本発明によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。また、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができる。さらに、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。また、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0021】
上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記発光層と上記陽極または上記電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0022】
また本発明においては、上記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0023】
さらに本発明においては、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0024】
また本発明においては、上記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、上記発光層中の上記発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。発光ドーパント濃度に分布をもたせることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0025】
さらに本発明においては、上記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができるからである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を所定の関係とする、あるいは、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を所定の関係とすることにより、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図10】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図12】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図13】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図16】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により4つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0029】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、上記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、上記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0030】
なお、イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0031】
また、本発明において、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
【0032】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図2および図3はそれぞれ、図1に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と第1正孔注入輸送層4と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と陰極8とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、例えば図2に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4となり、また例えば図3に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4とすると、例えば図2に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4となり、また例えば図3に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4となる。
【0033】
本実施態様によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ip1<Ip2≦Ip3となるように陽極および発光層の間に第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層が形成されていることにより、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層を介して陽極から発光層に正孔を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0034】
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
【0035】
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0036】
本実施態様においては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3である。また、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成され、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0037】
通常、このような有機EL素子では、Ip3≧Ip4、Ea2≧Ea3であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。
【0038】
しかしながら、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3となり、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4となるように、第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0039】
図4は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5および図6はそれぞれ、図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図4に例示するように、発光層6および陰極8の間に第1電子注入輸送層7が形成され、さらに第1電子注入輸送層7および陰極8の間に第2電子注入輸送層9が形成されていてもよい。
この有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図5に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図6に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4<Ip5となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図5に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図6に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4<Ea5となる。
【0040】
この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、かつ、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0041】
このような有機EL素子においては、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、仮に陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0042】
本実施態様においては、従来のように発光層に接するようにブロッキング層が設けられていないので、上述したように、発光層内で効率良く正孔および電子を再結合させることが困難であるとも考えられる。したがって、発光効率を向上させるために、素子構成を最適化することが有効である。例えば、(1)発光層の膜厚を比較的厚くする、(2)第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2<Ip3とする、(3)発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3<Ea4とする、(4)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、ホスト材料のバンドギャップ内に発光ドーパントのバンドギャップが含まれるようにする、(5)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をもたせる、こと等によって、発光効率を向上させることができる。
【0043】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0044】
1.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本実施態様においては、第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3である。
【0045】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0046】
第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であればよい。中でも、Ip1<Ip2<Ip3であることが好ましい。Ip1<Ip2<Ip3であれば、第1正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0047】
Ip1およびIp2の差としては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ip1およびIp2の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第1正孔注入輸送層から第2正孔注入輸送層へ正孔を輸送させることができる。
また、Ip2<Ip3の場合、Ip2およびIp3の差としては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ip2およびIp3の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第2正孔注入輸送層から発光層へ正孔を輸送させることができる。
【0048】
第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であればよい。中でも、Ea1<Ea2、Ea2>Ea3であることが好ましい。Ea2>Ea3かつIp2<Ip3であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0049】
Ea1およびEa2の差としては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
また、Ea2>Ea3の場合、Ea2およびEa3の差としては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0050】
発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であることが好ましい。Ip3≧Ip4であれば、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができるからである。
中でも、Ip3>Ip4であることがより好ましい。Ip3>Ip4であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0051】
Ip3>Ip4の場合、Ip3およびIp4の差としては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0052】
また、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4としたとき、通常はEa3≦Ea4である。中でも、Ea3<Ea4であることが好ましい。第1電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0053】
Ea3<Ea4の場合、Ea3およびEa4の差としては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ea3およびEa4の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第1電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0054】
第1電子注入輸送層および陰極との間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルの関係としては、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であることが好ましい。陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。これにより、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0055】
Ip4およびIp5の差としては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0056】
また、第1電子注入輸送層および陰極との間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の電子親和力の関係としては、第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea4<Ea5であることが好ましい。Ea3≦Ea4<Ea5であることにより、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように陰極および発光層の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0057】
Ea4およびEa5の差としては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0058】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の測定方法は、上述したとおりである。
【0059】
2.第2正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる第2正孔注入輸送層は、第1正孔注入輸送層および発光層の間に形成され、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有するものである。
第2正孔注入輸送層としては、正孔輸送機能を有することが好ましい。
【0060】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(4,4'-bis(2,2-diphenyl-ethen-1-yl)diphenyl;DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl;CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis(carbazol-9-yl)-9,9'-spiro-bifluorene;spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl;CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene;m-CP)、3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(3-tert−butyl-9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene;TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0061】
【化1】
【0062】
【化2】
【0063】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0064】
また、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよいが、中でも、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
さらに、発光層もバイポーラ材料を含有する場合、第2正孔注入輸送層、第1電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよいが、中でも、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0065】
第2正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0066】
第2正孔注入輸送層の厚みとしては、正孔輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0067】
3.第1正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる第1正孔注入輸送層は、陽極および第2正孔注入輸送層の間に形成されるものである。
第1正孔注入輸送層としては、正孔注入機能を有することが好ましい。
【0068】
第1正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極からの正孔の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0069】
また、第1正孔注入輸送層の構成材料は、バイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を第1正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0070】
上記第1正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、第1正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。第1正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する第1正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
【0071】
なお、本実施態様においては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。したがって、第1正孔注入輸送層が上記領域を有していても、陽極および第1正孔注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるのである。
【0072】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0073】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0074】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0075】
第1正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、第1正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、第1正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、第1正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
【0076】
第1正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとのモル比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:10の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、第1正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0077】
第1正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0078】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0079】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0080】
第1正孔注入輸送層の厚みとしては、正孔注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0081】
また、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0082】
4.発光層
本実施態様に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。発光層の構成材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0083】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0084】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0085】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0086】
また、発光層の構成材料はバイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0087】
この発光層に用いられるバイポーラ材料は、それ自体が蛍光発光または燐光発光する発光材料であってもよく、後述の発光ドーパントがドープされるホスト材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0088】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、蛍光発光または燐光発光する発光ドーパントを添加してもよい。すなわち、発光層は、上記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、バイポーラ材料等のホスト材料と、発光ドーパントとを含有するものであってもよい。
【0089】
発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0090】
発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0091】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントの単分子におけるイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0092】
また、発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。これにより、正孔または電子の発光ドーパントによるトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができるからである。
本発明においては、発光層に注入された正孔および電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が発光層に接して設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
そこで、本発明者らが種々検討を行った結果、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をつけることにより、発光効率が向上することが判明した。例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陰極側から陽極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陽極側で高くすることにより、陽極から注入され発光層に輸送された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。また例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陽極側から陰極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陰極側で高くすることにより、陰極から注入され発光層に輸送された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。
【0093】
発光層中の発光ドーパントの濃度分布としては、発光ドーパント濃度に分布があればよく、例えば、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していてもよく、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在していてもよい。
【0094】
発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有する場合、発光ドーパント濃度は、陽極側で高くてもよく、陰極側で高くてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が陽極側で高いことが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が陰極側で高いことが好ましい。
【0095】
また、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在している場合、例えば、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていてもよく、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていてもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に周期的に変化していてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていることが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていることが好ましい。
【0096】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合に、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。
【0097】
なお、発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。
【0098】
発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、発光層に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0099】
発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0100】
また、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、第1正孔注入輸送層および第2電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0101】
なお、ホスト材料および発光ドーパントからなる発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0102】
発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していることが好ましい。また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有していることも好ましい。これにより、発光層に注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0103】
発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度が濃度勾配を有する場合、第3発光ドーパントの濃度が陽極側で高く、第4発光ドーパントの濃度が陰極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度が陰極側で高く、第4発光ドーパントの濃度が陽極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも陽極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも陰極側で高くてもよい。
【0104】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が陽極側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が陰極側で高いことが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が陰極側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が陽極側で高いことも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0105】
また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有している場合、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていてもよく、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていてもよい。また、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていてもよく、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていてもよい。
【0106】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていることが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていることも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0107】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは30nm〜80nmの範囲内である。
【0108】
発光層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0109】
また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0110】
さらに、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0111】
また、発光層中の発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0112】
5.第1電子注入輸送層
本実施態様においては、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成され、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0113】
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0114】
第1電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0115】
第1電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0116】
第1電子注入輸送層の厚みとしては、所望の機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0117】
6.第2電子注入輸送層
本実施態様においては、第1電子注入輸送層および陰極の間に第2電子注入輸送層が形成され、第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0118】
第1電子注入輸送層および陰極の間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2電子注入輸送層が電子注入層として機能し、第1電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0119】
第2電子注入輸送層の構成材料としては、陰極からの電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。また、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0120】
また、第2電子注入輸送層の構成材料は、バイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を第2電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0121】
上記第2電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、第2電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。第2電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。第2電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
【0122】
なお、本実施態様においては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であることが好ましいので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。したがって、第2電子注入輸送層が上記領域を有していても、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるのである。
【0123】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0124】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0125】
第2電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、第2電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、第2電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、第2電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
【0126】
第2電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、第2電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0127】
第2電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0128】
中でも、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の成膜方法としては、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0129】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0130】
第2電子注入輸送層の厚みとしては、所望の機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0131】
また、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、第2電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0132】
7.陽極
本実施態様に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0133】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0134】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0135】
8.陰極
本実施態様に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0136】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0137】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0138】
9.基板
本実施態様における基板は、上記の陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層および陰極の順に積層される。
【0139】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0140】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、上記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、上記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0141】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図7は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図8および図9はそれぞれ、図7に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図7に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と第2電子注入輸送層9と陰極8とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図8に示すようにEa2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図9に示すようにEa2=Ea3=Ea4<Ea5となる。また、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図8に示すようにIp2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図9に示すようにIp2=Ip3=Ip4<Ip5となる。
【0142】
本実施態様によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0143】
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0144】
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0145】
本実施態様においては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4である。また、陽極および発光層の間に第2正孔注入輸送層が形成され、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ea2≧Ea3、Ip3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることができる。
【0146】
本実施態様においては、図4に例示するように、陽極3および発光層6の間に第2正孔注入輸送層5が形成され、さらに陽極3および第2正孔注入輸送層5の間に第1正孔注入輸送層4が形成されていてもよい。この場合、図5および図6に例示するように、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0147】
このような有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、仮に正極側への正孔の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0148】
なお、陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層、第2電子注入輸送層、陰極および基板については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0149】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0150】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図10は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図11は、図10に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図10に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット10aと電荷発生層11aと発光ユニット10bと電荷発生層11bと発光ユニット10cと陰極8とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層11a,11bを介して3個の発光ユニット10a,10b,10cが積層されており、図11に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極8側から電子(e)が注入され、また電荷発生層11a,11bによって陰極8方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット10a,10b,10c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極8間で発生する。
【0151】
また、発光ユニット10a,10b,10cはそれぞれ、陽極3側から、第1正孔注入輸送層4と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7とが順次積層されたものとなっている。
【0152】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する第1正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する第1電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0153】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0154】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図11に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット10b,10cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層11a,11bの陰極8側に接する発光ユニット10b,10cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層11a,11bの陽極3側に接する発光ユニット10a,10bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0155】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0156】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0157】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0158】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0159】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0160】
図12(a),(b)はそれぞれ、図10に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、例えば図12(a)に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4となり、また例えば図12(b)に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4とすると、例えば図12(a)に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4となり、また例えば図12(b)に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4となる。
【0161】
本実施態様によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ip1<Ip2≦Ip3となるように陽極および発光層の間に第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層が形成されていることにより、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層を介して陽極から発光層に正孔を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0162】
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
【0163】
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0164】
本実施態様においては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3である。また、発光層と陰極または電荷発生層との間に第1電子注入輸送層が形成され、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ip3≧Ip4、Ea2≧Ea3であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0165】
本実施態様においては、図13に例示するように、発光層6および陰極8の間、ならびに発光層6および電荷発生層11の間に第1電子注入輸送層7が形成され、さらに第1電子注入輸送層7および陰極8の間、ならびに第1電子注入輸送層7および電荷発生層11の間に第2電子注入輸送層9が形成されていてもよい。
【0166】
図14(a),(b)はそれぞれ、図13に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図14(a)に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図14(b)に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4<Ip5となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図14(a)に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図14(b)に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4<Ea5となる。
【0167】
この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、かつ、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0168】
このような有機EL素子においては、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、仮に陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0169】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0170】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0171】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における他の構成について説明する。
【0172】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0173】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0174】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0175】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0176】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0177】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0178】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0179】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0180】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0181】
【化3】
【0182】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0183】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0184】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0185】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0186】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0187】
また、各発光ユニットは、発光層と陰極または電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、発光層および第1電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第1電子注入輸送層は、バイポーラ材料を含有することが好ましい。
さらに、各発光ユニットは、第1電子注入輸送層と陰極または電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有していてもよい。この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
【0188】
なお、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0189】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0190】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0191】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0192】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0193】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0194】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図15は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図15に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット10aと電荷発生層11aと発光ユニット10bと電荷発生層11bと発光ユニット10cと陰極8とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。また、発光ユニット10a,10b,10cはそれぞれ、陽極3側から、第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と第2電子注入輸送9とが順次積層されたものとなっている。
【0195】
本実施態様によれば、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0196】
図16(a),(b)はそれぞれ、図15に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図16(a)に示すようにEa2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図16(b)に示すようにEa2=Ea3=Ea4<Ea5となる。また、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図16(a)に示すようにIp2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図16(b)に示すようにIp2=Ip3=Ip4<Ip5となる。
【0197】
本実施態様によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0198】
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0199】
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0200】
本実施態様においては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4である。また、陽極または電荷発生層と発光層との間に第2正孔注入輸送層が形成され、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ea2≧Ea3、Ip3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0201】
本実施態様においては、図13に例示するように、陽極3および発光層6の間、ならびに電荷発生層11および発光層6の間に第2正孔注入輸送層5が形成され、さらに陽極3および第2正孔注入輸送層5の間、ならびに電荷発生層11および第2正孔注入輸送層5の間に第1正孔注入輸送層4が形成されていてもよい。この場合、図14(a),(b)に例示するように、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0202】
このような有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、仮に陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0203】
さらに本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0204】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であり、また電荷発生層については、上記第3実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における発光ユニットについて説明する。
【0205】
1.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0206】
また、各発光ユニットは、発光層と陽極または電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第2正孔注入輸送層は、バイポーラ材料を含有することが好ましい。
さらに、各発光ユニットは、第2正孔注入輸送層と陽極または電荷発生層との間に形成された第1正孔注入輸送層をさらに有していてもよい。この場合、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
【0207】
なお、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。また、発光ユニットのその他の点については、上記第3実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0208】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0209】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
まず、実施例で用いた材料の構造式、ならびにイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記に示す。
【0210】
【化4】
【0211】
【表1】
【0212】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0213】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0214】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、TBADNとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層を形成した。
【0215】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0216】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚50nmとなるように成膜し、正孔注入層を形成した。次に、TBADNを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、正孔輸送層を形成した。
【0217】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0218】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、TBADNとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層を形成した。
【0219】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0220】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3を体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層を形成した。
【0221】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0222】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0223】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0224】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0225】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0226】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0227】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0228】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0229】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545t濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0230】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0231】
上記電子注入層上に、特許第3933591号公報に記載されているように、電荷発生層の陽極側に接する層としてAlを蒸着速度0.1Å/secで1.5nmの厚さに蒸着した。その上にMoO3とα-NPDを体積比1:4にて20nm成膜し、電荷発生層を形成した。
【0232】
次に、上記電荷発生層上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0233】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0234】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0235】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0236】
[評価]
表2に実施例1〜4および比較例1の有機EL素子の10mA/cm2下での発光特性を示す。
【0237】
【表2】
【0238】
実施例1〜4および比較例1の有機EL素子からは、C545T由来の発光ピークがそれぞれ観測された。
実施例1〜4および比較例1の有機EL素子を比較すると、実施例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が10cd/Aであった。また、実施例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が12cd/Aであった。さらに、実施例3の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が14cd/Aであった。また、実施例4の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が27cd/Aであった。一方、比較例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は8.6cd/Aであった。
また、寿命特性については、初期輝度1000cd/m2からの輝度半減寿命を定電流密度下で観察したところ、実施例1の有機EL素子では、輝度が半減する時間は200時間を達成した。また、実施例2の有機EL素子では、輝度が半減する時間は180時間を達成した。さらに、実施例3の有機EL素子では、輝度が半減する時間は250時間を達成した。また、実施例4の有機EL素子では、輝度が半減する時間は510時間を達成した。
【符号の説明】
【0239】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 第1正孔注入輸送層
5 … 第2正孔注入輸送層
6 … 発光層
7 … 第1電子注入輸送層
8 … 陰極
9 … 第2電子注入輸送層
10a,10b,10c … 発光ユニット
11,11a,11b … 電荷発生層
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に、発光層と2層の電荷注入輸送層とが順次積層された構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。
【0003】
また、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けることが知られている。このブロッキング層が設けられた有機EL素子では、特に、発光層とブロッキング層との界面に電荷が蓄積しやすく、そのため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0004】
駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、電荷注入輸送層(正孔注入輸送層、電子注入輸送層)に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献2および特許文献3には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−251067号公報
【特許文献2】特開平10−270171号公報
【特許文献3】特開平10−270172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような、正孔注入輸送層や電子注入輸送層として、電極との界面にて電子受容性ドーパントまたは電子供与性ドーパントがドープされた有機化合物層を有する有機EL素子では、発光層から対極側へ正孔もしくは電子が突き抜けた場合、上記有機化合物層と電極との界面にて劣化が生じることがある。これは、発光層から対極側へ突き抜けた正孔もしくは電子が、上記有機化合物層の電子受容性ドーパントまたは電子供与性ドーパントがドープされた領域で、何らかの影響を及ぼすためであると考えられる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電極からの電荷の注入が良好であり、電荷注入輸送層と電極との界面での劣化が生じにくく、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、上記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、上記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0009】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。また、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。さらに、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、エネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぎ、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0010】
上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に第1電子注入輸送層が形成され、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0011】
また上記発明においては、上記第1電子注入輸送層と上記陰極との間に第2電子注入輸送層が形成され、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることが好ましい。第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるからである。また、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができるからである。
【0012】
さらに本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、上記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、上記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0013】
本発明によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。また、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。さらに、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp4<Ip5であるので、エネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぎ、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
上記発明においては、上記発光層と上記陽極との間に第2正孔注入輸送層が形成され、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0015】
また本発明は、対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0016】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。また、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。さらに、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。また、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0017】
上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記発光層と上記陰極または上記電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0018】
また上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記第1電子注入輸送層と上記陰極または上記電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有し、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることが好ましい。第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるからである。また、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができるからである。
【0019】
さらに本発明は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0020】
本発明によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。また、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層にバイポーラ材料を用いるので、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での劣化を抑制することができる。さらに、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がIp4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。また、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0021】
上記発明においては、上記各発光ユニットが、上記発光層と上記陽極または上記電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。これにより、駆動中における第2正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0022】
また本発明においては、上記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0023】
さらに本発明においては、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0024】
また本発明においては、上記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、上記発光層中の上記発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。発光ドーパント濃度に分布をもたせることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0025】
さらに本発明においては、上記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができるからである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を所定の関係とする、あるいは、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を所定の関係とすることにより、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図10】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図12】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図13】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図16】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により4つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0029】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、上記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、上記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0030】
なお、イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0031】
また、本発明において、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
【0032】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図2および図3はそれぞれ、図1に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図1に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と第1正孔注入輸送層4と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と陰極8とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、例えば図2に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4となり、また例えば図3に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4とすると、例えば図2に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4となり、また例えば図3に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4となる。
【0033】
本実施態様によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ip1<Ip2≦Ip3となるように陽極および発光層の間に第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層が形成されていることにより、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層を介して陽極から発光層に正孔を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0034】
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
【0035】
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0036】
本実施態様においては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3である。また、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成され、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0037】
通常、このような有機EL素子では、Ip3≧Ip4、Ea2≧Ea3であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。
【0038】
しかしながら、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3となり、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4となるように、第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0039】
図4は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図5および図6はそれぞれ、図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図4に例示するように、発光層6および陰極8の間に第1電子注入輸送層7が形成され、さらに第1電子注入輸送層7および陰極8の間に第2電子注入輸送層9が形成されていてもよい。
この有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図5に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図6に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4<Ip5となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図5に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図6に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4<Ea5となる。
【0040】
この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、かつ、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0041】
このような有機EL素子においては、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、仮に陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0042】
本実施態様においては、従来のように発光層に接するようにブロッキング層が設けられていないので、上述したように、発光層内で効率良く正孔および電子を再結合させることが困難であるとも考えられる。したがって、発光効率を向上させるために、素子構成を最適化することが有効である。例えば、(1)発光層の膜厚を比較的厚くする、(2)第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2<Ip3とする、(3)発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa3<Ea4とする、(4)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、ホスト材料のバンドギャップ内に発光ドーパントのバンドギャップが含まれるようにする、(5)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をもたせる、こと等によって、発光効率を向上させることができる。
【0043】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0044】
1.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本実施態様においては、第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3である。
【0045】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0046】
第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であればよい。中でも、Ip1<Ip2<Ip3であることが好ましい。Ip1<Ip2<Ip3であれば、第1正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0047】
Ip1およびIp2の差としては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ip1およびIp2の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第1正孔注入輸送層から第2正孔注入輸送層へ正孔を輸送させることができる。
また、Ip2<Ip3の場合、Ip2およびIp3の差としては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ip2およびIp3の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第2正孔注入輸送層から発光層へ正孔を輸送させることができる。
【0048】
第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であればよい。中でも、Ea1<Ea2、Ea2>Ea3であることが好ましい。Ea2>Ea3かつIp2<Ip3であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0049】
Ea1およびEa2の差としては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
また、Ea2>Ea3の場合、Ea2およびEa3の差としては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0050】
発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であることが好ましい。Ip3≧Ip4であれば、駆動中における発光層および第1電子注入輸送層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができるからである。
中でも、Ip3>Ip4であることがより好ましい。Ip3>Ip4であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0051】
Ip3>Ip4の場合、Ip3およびIp4の差としては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0052】
また、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成されている場合、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4としたとき、通常はEa3≦Ea4である。中でも、Ea3<Ea4であることが好ましい。第1電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0053】
Ea3<Ea4の場合、Ea3およびEa4の差としては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。なお、Ea3およびEa4の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、第1電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0054】
第1電子注入輸送層および陰極との間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルの関係としては、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であることが好ましい。陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。これにより、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0055】
Ip4およびIp5の差としては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0056】
また、第1電子注入輸送層および陰極との間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の電子親和力の関係としては、第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea4<Ea5であることが好ましい。Ea3≦Ea4<Ea5であることにより、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように陰極および発光層の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0057】
Ea4およびEa5の差としては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0058】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の測定方法は、上述したとおりである。
【0059】
2.第2正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる第2正孔注入輸送層は、第1正孔注入輸送層および発光層の間に形成され、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有するものである。
第2正孔注入輸送層としては、正孔輸送機能を有することが好ましい。
【0060】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(4,4'-bis(2,2-diphenyl-ethen-1-yl)diphenyl;DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl;CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis(carbazol-9-yl)-9,9'-spiro-bifluorene;spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl;CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene;m-CP)、3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(3-tert−butyl-9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene;TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0061】
【化1】
【0062】
【化2】
【0063】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0064】
また、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよいが、中でも、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
さらに、発光層もバイポーラ材料を含有する場合、第2正孔注入輸送層、第1電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよいが、中でも、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が第1電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が第2正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0065】
第2正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0066】
第2正孔注入輸送層の厚みとしては、正孔輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0067】
3.第1正孔注入輸送層
本実施態様に用いられる第1正孔注入輸送層は、陽極および第2正孔注入輸送層の間に形成されるものである。
第1正孔注入輸送層としては、正孔注入機能を有することが好ましい。
【0068】
第1正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極からの正孔の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0069】
また、第1正孔注入輸送層の構成材料は、バイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を第1正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0070】
上記第1正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、第1正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。第1正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する第1正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
【0071】
なお、本実施態様においては、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。したがって、第1正孔注入輸送層が上記領域を有していても、陽極および第1正孔注入輸送層の界面での劣化を抑制することができるのである。
【0072】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0073】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0074】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0075】
第1正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、第1正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、第1正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、第1正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
【0076】
第1正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとのモル比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:10の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、第1正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0077】
第1正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0078】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0079】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0080】
第1正孔注入輸送層の厚みとしては、正孔注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0081】
また、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた第1正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0082】
4.発光層
本実施態様に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。発光層の構成材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0083】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0084】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0085】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0086】
また、発光層の構成材料はバイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0087】
この発光層に用いられるバイポーラ材料は、それ自体が蛍光発光または燐光発光する発光材料であってもよく、後述の発光ドーパントがドープされるホスト材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0088】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、蛍光発光または燐光発光する発光ドーパントを添加してもよい。すなわち、発光層は、上記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、バイポーラ材料等のホスト材料と、発光ドーパントとを含有するものであってもよい。
【0089】
発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0090】
発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0091】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントの単分子におけるイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0092】
また、発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。これにより、正孔または電子の発光ドーパントによるトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができるからである。
本発明においては、発光層に注入された正孔および電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が発光層に接して設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
そこで、本発明者らが種々検討を行った結果、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をつけることにより、発光効率が向上することが判明した。例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陰極側から陽極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陽極側で高くすることにより、陽極から注入され発光層に輸送された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。また例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陽極側から陰極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陰極側で高くすることにより、陰極から注入され発光層に輸送された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。
【0093】
発光層中の発光ドーパントの濃度分布としては、発光ドーパント濃度に分布があればよく、例えば、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していてもよく、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在していてもよい。
【0094】
発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有する場合、発光ドーパント濃度は、陽極側で高くてもよく、陰極側で高くてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が陽極側で高いことが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が陰極側で高いことが好ましい。
【0095】
また、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在している場合、例えば、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていてもよく、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていてもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に周期的に変化していてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていることが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、陽極側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、陰極側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていることが好ましい。
【0096】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合に、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。
【0097】
なお、発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。
【0098】
発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、発光層に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0099】
発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0100】
また、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、第1正孔注入輸送層および第2電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0101】
なお、ホスト材料および発光ドーパントからなる発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0102】
発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していることが好ましい。また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有していることも好ましい。これにより、発光層に注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0103】
発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度が濃度勾配を有する場合、第3発光ドーパントの濃度が陽極側で高く、第4発光ドーパントの濃度が陰極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度が陰極側で高く、第4発光ドーパントの濃度が陽極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも陽極側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも陰極側で高くてもよい。
【0104】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が陽極側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が陰極側で高いことが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が陰極側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が陽極側で高いことも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0105】
また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有している場合、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていてもよく、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていてもよい。また、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていてもよく、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていてもよい。
【0106】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられていることが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陽極側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陰極側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が陽極側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が陰極側に設けられていることも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0107】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは30nm〜80nmの範囲内である。
【0108】
発光層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0109】
また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0110】
さらに、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0111】
また、発光層中の発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0112】
5.第1電子注入輸送層
本実施態様においては、発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層が形成され、第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0113】
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0114】
第1電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0115】
第1電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0116】
第1電子注入輸送層の厚みとしては、所望の機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0117】
6.第2電子注入輸送層
本実施態様においては、第1電子注入輸送層および陰極の間に第2電子注入輸送層が形成され、第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすことが好ましい。
【0118】
第1電子注入輸送層および陰極の間に第2電子注入輸送層が形成されている場合、通常は、第2電子注入輸送層が電子注入層として機能し、第1電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0119】
第2電子注入輸送層の構成材料としては、陰極からの電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。また、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0120】
また、第2電子注入輸送層の構成材料は、バイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を第2電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
なお、バイポーラ材料については、上記第2正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0121】
上記第2電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、第2電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。第2電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。第2電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
【0122】
なお、本実施態様においては、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であることが好ましいので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。したがって、第2電子注入輸送層が上記領域を有していても、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができるのである。
【0123】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0124】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0125】
第2電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、第2電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、第2電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、第2電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
【0126】
第2電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、第2電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0127】
第2電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0128】
中でも、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の成膜方法としては、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0129】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0130】
第2電子注入輸送層の厚みとしては、所望の機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0131】
また、還元性ドーパントがドープされた第2電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、第2電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0132】
7.陽極
本実施態様に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0133】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0134】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0135】
8.陰極
本実施態様に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0136】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0137】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0138】
9.基板
本実施態様における基板は、上記の陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層および陰極の順に積層される。
【0139】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0140】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、上記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、上記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0141】
本実施態様の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図7は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図8および図9はそれぞれ、図7に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
図7に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と第2電子注入輸送層9と陰極8とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図8に示すようにEa2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図9に示すようにEa2=Ea3=Ea4<Ea5となる。また、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図8に示すようにIp2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図9に示すようにIp2=Ip3=Ip4<Ip5となる。
【0142】
本実施態様によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0143】
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0144】
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0145】
本実施態様においては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4である。また、陽極および発光層の間に第2正孔注入輸送層が形成され、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ea2≧Ea3、Ip3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることができる。
【0146】
本実施態様においては、図4に例示するように、陽極3および発光層6の間に第2正孔注入輸送層5が形成され、さらに陽極3および第2正孔注入輸送層5の間に第1正孔注入輸送層4が形成されていてもよい。この場合、図5および図6に例示するように、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0147】
このような有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、仮に正極側への正孔の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0148】
なお、陽極、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層、第2電子注入輸送層、陰極および基板については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0149】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、上記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、上記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0150】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図10は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図11は、図10に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図10に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット10aと電荷発生層11aと発光ユニット10bと電荷発生層11bと発光ユニット10cと陰極8とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層11a,11bを介して3個の発光ユニット10a,10b,10cが積層されており、図11に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極8側から電子(e)が注入され、また電荷発生層11a,11bによって陰極8方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット10a,10b,10c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極8間で発生する。
【0151】
また、発光ユニット10a,10b,10cはそれぞれ、陽極3側から、第1正孔注入輸送層4と第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7とが順次積層されたものとなっている。
【0152】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する第1正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する第1電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0153】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0154】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図11に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット10b,10cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層11a,11bの陰極8側に接する発光ユニット10b,10cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層11a,11bの陽極3側に接する発光ユニット10a,10bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0155】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0156】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0157】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0158】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0159】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0160】
図12(a),(b)はそれぞれ、図10に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4とすると、例えば図12(a)に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4となり、また例えば図12(b)に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4とすると、例えば図12(a)に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4となり、また例えば図12(b)に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4となる。
【0161】
本実施態様によれば、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ip1<Ip2≦Ip3となるように陽極および発光層の間に第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層が形成されていることにより、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層を介して陽極から発光層に正孔を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0162】
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への電子の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
【0163】
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0164】
本実施態様においては、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3である。また、発光層と陰極または電荷発生層との間に第1電子注入輸送層が形成され、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ip3≧Ip4、Ea2≧Ea3であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0165】
本実施態様においては、図13に例示するように、発光層6および陰極8の間、ならびに発光層6および電荷発生層11の間に第1電子注入輸送層7が形成され、さらに第1電子注入輸送層7および陰極8の間、ならびに第1電子注入輸送層7および電荷発生層11の間に第2電子注入輸送層9が形成されていてもよい。
【0166】
図14(a),(b)はそれぞれ、図13に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図14(a)に示すようにIp1<Ip2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図14(b)に示すようにIp1<Ip2=Ip3=Ip4<Ip5となる。また、第1正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図14(a)に示すようにEa1<Ea2、Ea2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図14(b)に示すようにEa1<Ea2=Ea3=Ea4<Ea5となる。
【0167】
この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、かつ、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0168】
このような有機EL素子においては、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、仮に陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ電子が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0169】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0170】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0171】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における他の構成について説明する。
【0172】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0173】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0174】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0175】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0176】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0177】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0178】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0179】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0180】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0181】
【化3】
【0182】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0183】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0184】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0185】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0186】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0187】
また、各発光ユニットは、発光層と陰極または電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、発光層および第1電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第1電子注入輸送層は、バイポーラ材料を含有することが好ましい。
さらに、各発光ユニットは、第1電子注入輸送層と陰極または電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有していてもよい。この場合、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
【0188】
なお、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0189】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0190】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0191】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0192】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0193】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、上記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、上記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、上記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、上記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とするものである。
【0194】
本実施態様の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図15は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図15に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット10aと電荷発生層11aと発光ユニット10bと電荷発生層11bと発光ユニット10cと陰極8とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。また、発光ユニット10a,10b,10cはそれぞれ、陽極3側から、第2正孔注入輸送層5と発光層6と第1電子注入輸送層7と第2電子注入輸送9とが順次積層されたものとなっている。
【0195】
本実施態様によれば、陽極および陰極の間に、複数個の発光ユニットが電荷発生層を介して形成されているので、電流密度を比較的低く保ったまま高い輝度を実現することができる。したがって、高効率、高輝度で、長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0196】
図16(a),(b)はそれぞれ、図15に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
上記有機EL素子においては、第2正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、発光層6の構成材料の電子親和力をEa3、第1電子注入輸送層7の構成材料の電子親和力をEa4、第2電子注入輸送層9の構成材料の電子親和力をEa5とすると、例えば図16(a)に示すようにEa2>Ea3、Ea3<Ea4<Ea5となり、また例えば図16(b)に示すようにEa2=Ea3=Ea4<Ea5となる。また、第2正孔注入輸送層5のイオン化ポテンシャルをIp2、発光層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、第1電子注入輸送層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、第2電子注入輸送層9の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5とすると、例えば図16(a)に示すようにIp2<Ip3、Ip3>Ip4、Ip4<Ip5となり、また例えば図16(b)に示すようにIp2=Ip3=Ip4<Ip5となる。
【0197】
本実施態様によれば、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であるので、陰極から発光層へ電子を注入しやすくすることができる。そのため、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であっても、Ea3≦Ea4<Ea5となるように発光層および陰極の間に第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層が形成されていることにより、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層を介して陰極から発光層に電子を安定的に注入し円滑に輸送することができる。
【0198】
また、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp4<Ip5であるので、陰極側への正孔の突き抜けが起こり第1電子注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第1電子注入輸送層から陰極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第2電子注入輸送層および陰極の界面での劣化を抑制することができる。
【0199】
さらに、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa3≦Ea4<Ea5であり、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4、Ip4<Ip5であるので、第2電子注入輸送層の構成材料は、第1電子注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、電子輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陰極から第2電子注入輸送層への電子注入において有利な構成とすることができる。
【0200】
本実施態様においては、発光層および第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp3≧Ip4である。また、陽極または電荷発生層と発光層との間に第2正孔注入輸送層が形成され、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。この場合、Ea2≧Ea3、Ip3≧Ip4であり、さらに第2正孔注入輸送層および第1電子注入輸送層がバイポーラ材料を含有するので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における第2正孔注入輸送層、発光層および第1電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0201】
本実施態様においては、図13に例示するように、陽極3および発光層6の間、ならびに電荷発生層11および発光層6の間に第2正孔注入輸送層5が形成され、さらに陽極3および第2正孔注入輸送層5の間、ならびに電荷発生層11および第2正孔注入輸送層5の間に第1正孔注入輸送層4が形成されていてもよい。この場合、図14(a),(b)に例示するように、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、かつ、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、第2正孔注入輸送層がバイポーラ材料を含有することが好ましい。
【0202】
このような有機EL素子においては、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であるので、陽極から発光層へ正孔を注入しやすくすることができる。
また、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2であるので、仮に陽極側への電子の突き抜けが起こり第2正孔注入輸送層へ正孔が注入されたとしても、第1正孔注入輸送層および第2正孔注入輸送層間にエネルギー障壁が存在することにより第2正孔注入輸送層から陽極側への正孔の突き抜けを防ぐことができる。そのため、第1正孔注入輸送層および陽極の界面での劣化を抑制することができる。
さらに、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1<Ip2≦Ip3であり、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa1<Ea2、Ea2≧Ea3であるので、第1正孔注入輸送層の構成材料は、第2正孔注入輸送層の構成材料と比較して、材料選択の幅が広く、正孔輸送性等に優れる材料を用いることができる。これにより、陽極から第1正孔注入輸送層への正孔注入において有利な構成とすることができる。
【0203】
さらに本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0204】
なお、陽極、陰極および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であり、また電荷発生層については、上記第3実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子における発光ユニットについて説明する。
【0205】
1.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0206】
また、各発光ユニットは、発光層と陽極または電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たし、第2正孔注入輸送層は、バイポーラ材料を含有することが好ましい。
さらに、各発光ユニットは、第2正孔注入輸送層と陽極または電荷発生層との間に形成された第1正孔注入輸送層をさらに有していてもよい。この場合、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしていることが好ましい。
【0207】
なお、第1正孔注入輸送層、第2正孔注入輸送層、発光層、第1電子注入輸送層および第2電子注入輸送層については、上記第1実施態様に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。また、発光ユニットのその他の点については、上記第3実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0208】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0209】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
まず、実施例で用いた材料の構造式、ならびにイオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記に示す。
【0210】
【化4】
【0211】
【表1】
【0212】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0213】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0214】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、TBADNとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層を形成した。
【0215】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0216】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚50nmとなるように成膜し、正孔注入層を形成した。次に、TBADNを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように真空蒸着し、正孔輸送層を形成した。
【0217】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0218】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、TBADNとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層を形成した。
【0219】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0220】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3を体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層を形成した。
【0221】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0222】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0223】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0224】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0225】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0226】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0227】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0228】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0229】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545t濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0230】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0231】
上記電子注入層上に、特許第3933591号公報に記載されているように、電荷発生層の陽極側に接する層としてAlを蒸着速度0.1Å/secで1.5nmの厚さに蒸着した。その上にMoO3とα-NPDを体積比1:4にて20nm成膜し、電荷発生層を形成した。
【0232】
次に、上記電荷発生層上に、DNTPDを真空度10-5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で膜厚40nmとなるように成膜し、正孔注入層(1層目の正孔注入輸送層)を形成した。次に、TBADNとMoO3とを体積比90:10で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように真空蒸着し、その上にTBADNを10nmの厚さになるように真空蒸着し、正孔輸送層(2層目の正孔注入輸送層)を形成した。
【0233】
次に、ホスト材料としてTCTAを用い、緑色発光ドーパントとしてC545Tを用いて、上記正孔輸送層上に、TCTAおよびC545Tを、C545T濃度が3wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで35nmの厚さに真空蒸着により成膜し、緑色発光層を得た。
【0234】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、電子輸送層(1層目の電子注入輸送層)を形成した。次に、上記電子輸送層上に、BCPとLiqとを体積比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚20nmに成膜し、電子注入層(2層目の電子注入輸送層)を形成した。
【0235】
最後に、上記電子注入層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0236】
[評価]
表2に実施例1〜4および比較例1の有機EL素子の10mA/cm2下での発光特性を示す。
【0237】
【表2】
【0238】
実施例1〜4および比較例1の有機EL素子からは、C545T由来の発光ピークがそれぞれ観測された。
実施例1〜4および比較例1の有機EL素子を比較すると、実施例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が10cd/Aであった。また、実施例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が12cd/Aであった。さらに、実施例3の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が14cd/Aであった。また、実施例4の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が27cd/Aであった。一方、比較例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は8.6cd/Aであった。
また、寿命特性については、初期輝度1000cd/m2からの輝度半減寿命を定電流密度下で観察したところ、実施例1の有機EL素子では、輝度が半減する時間は200時間を達成した。また、実施例2の有機EL素子では、輝度が半減する時間は180時間を達成した。さらに、実施例3の有機EL素子では、輝度が半減する時間は250時間を達成した。また、実施例4の有機EL素子では、輝度が半減する時間は510時間を達成した。
【符号の説明】
【0239】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 第1正孔注入輸送層
5 … 第2正孔注入輸送層
6 … 発光層
7 … 第1電子注入輸送層
8 … 陰極
9 … 第2電子注入輸送層
10a,10b,10c … 発光ユニット
11,11a,11b … 電荷発生層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、前記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、前記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、前記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、
前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層と前記陰極との間に第1電子注入輸送層が形成され、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第1電子注入輸送層と前記陰極との間に第2電子注入輸送層が形成され、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
陽極と、前記陽極上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、前記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、前記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、
前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層と前記陽極との間に第2正孔注入輸送層が形成され、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する前記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、前記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、
前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記各発光ユニットが、前記発光層と前記陰極または前記電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記各発光ユニットが、前記第1電子注入輸送層と前記陰極または前記電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有し、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する前記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、
前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記各発光ユニットが、前記発光層と前記陽極または前記電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項2、請求項3、請求項5、請求項7、請求項8または請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記バイポーラ材料が、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、または複素環化合物であることを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、前記発光層中の前記発光ドーパントの濃度に分布があることを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有することを特徴とする請求項1から請求項15までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された第1正孔注入輸送層と、前記第1正孔注入輸送層上に形成された第2正孔注入輸送層と、前記第2正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、前記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、
前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層と前記陰極との間に第1電子注入輸送層が形成され、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第1電子注入輸送層と前記陰極との間に第2電子注入輸送層が形成され、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
陽極と、前記陽極上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された第1電子注入輸送層と、前記第1電子注入輸送層上に形成された第2電子注入輸送層と、前記第2電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、
前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層と前記陽極との間に第2正孔注入輸送層が形成され、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
対向する陽極および陰極の間に、第1正孔注入輸送層と第2正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する前記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記第1正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3としたとき、Ip1<Ip2≦Ip3であり、かつ、前記第1正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3としたとき、Ea1<Ea2、Ea2≧Ea3であり、
前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記各発光ユニットが、前記発光層と前記陰極または前記電荷発生層との間に形成された第1電子注入輸送層をさらに有し、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4としたとき、Ip3≧Ip4であり、前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記各発光ユニットが、前記第1電子注入輸送層と前記陰極または前記電荷発生層との間に形成された第2電子注入輸送層をさらに有し、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip4<Ip5であり、かつ、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
対向する陽極および陰極の間に、発光層と第1電子注入輸送層と第2電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する前記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の構成材料の電子親和力をEa3、前記第1電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa4、前記第2電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa5としたとき、Ea3≦Ea4<Ea5であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、前記第1電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp4、前記第2電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp5としたとき、Ip3≧Ip4、Ip4<Ip5であり、
前記第1電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記各発光ユニットが、前記発光層と前記陽極または前記電荷発生層との間に形成された第2正孔注入輸送層をさらに有し、前記第2正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea2≧Ea3であり、前記第2正孔注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項2、請求項3、請求項5、請求項7、請求項8または請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記第2正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記第1電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記バイポーラ材料が、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、または複素環化合物であることを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、前記発光層中の前記発光ドーパントの濃度に分布があることを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有することを特徴とする請求項1から請求項15までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−3607(P2011−3607A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143580(P2009−143580)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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