有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】本発明は、対極への正孔および電子の突き抜けを防止する層を有さず、かつ、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【解決手段】本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極および陰極の間に、3層以上の電荷注入輸送層と発光層とが順次積層された構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能、ブロッキング機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。また、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。特に、ブロッキング層が設けられた有機EL素子では、界面に電荷が蓄積しやすく、このため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0004】
駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、正孔注入輸送層や電子注入輸送層に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、陽極からの正孔の注入性および陰極からの電子の注入性を改善するために、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)を、有機化合物および酸化性ドーパント、あるいは、有機化合物および還元性ドーパント、あるいは、有機化合物および導電性微粒子から構成されるものとすることが開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の有機EL素子は、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)と有機発光層との間に無機電荷障壁層(ブロッキング層)を設けているため、上述したように、発光効率の低下や素子の劣化が懸念される。
【0005】
また、例えば特許文献2には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献3および特許文献4には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−315581号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特開平10−270171号公報
【特許文献4】特開平10−270172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発光効率の低下や素子の劣化を効果的に抑制するためには、陽極からの正孔注入におけるエネルギー障壁や、陰極からの電子注入におけるエネルギー障壁を低下させるだけでは充分ではなく、対極への正孔および電子の突き抜けを防止する層を有さないような素子構成とすることが有効であると思料される。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、対極への正孔および電子の突き抜けを防止する層を有さず、かつ、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの少なくともいずれか一方を、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力に対して、対極への電荷の突き抜けを防止することのないように設定し、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択し、さらに素子構成を最適化することにより、従来の有機EL素子と比較して、高効率で長寿命の有機EL素子が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0010】
本発明によれば、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、駆動中における各正孔注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
また、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルが、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であるので、発光層への正孔の輸送が円滑になるとともに、各正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への正孔の注入を制御し、発光効率を高めることが可能である。
【0011】
上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に第1の電子注入輸送層が形成され、上記第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であり、かつ、上記第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、Ea0≦Ea1'であることが好ましい。Ip0≧Ip1'である電子注入輸送層を有することにより、駆動中における第1の電子注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。また、Ea0≦Ea1'であることにより、陰極から発光層への電子輸送が円滑になるからである。
【0012】
上記発明においては、上記発光層と上記第1の電子注入輸送層との間に第2の電子注入輸送層が形成され、上記第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であり、かつ、上記第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、Ea0<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。Ip0≧Ip2'≧Ip1'とすることにより、駆動中における第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層および、発光層の界面での劣化を抑制することができるからであり、Ea0<Ea2'<Ea1'とすることにより、陰極から発光層への電子輸送が円滑になるからである。
【0013】
また上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成され、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0'≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることが好ましい。このような電子注入輸送層を有することにより、発光層への電子の輸送を円滑にすることができる。また、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0015】
本発明によれば、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、各電子注入輸送層およびおよび発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
また、各電子注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であるため、発光層への電子の輸送が円滑になるとともに、各電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への電子の注入を制御し、発光効率を高めることが可能である。
【0016】
上記発明においては、上記発光層と上記陽極との間に第1の正孔注入輸送層が形成され、上記第1の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1としたとき、Ea0≦Ea1であり、かつ、上記第1の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、Ip0≧Ip1であることが好ましい。Ea0≦Ea1であることにより、上記第1の正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。また、Ip0≧Ip1であることにより、陽極から発光層への正孔輸送が円滑になるからである。
【0017】
また、上記発明においては、上記発光層と上記第1の正孔注入輸送層との間に第2の正孔注入輸送層が形成され、上記第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea0≦Ea2≦Ea1であり、かつ、上記第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip0>Ip2>Ip1であることが好ましい。Ea0≦Ea2≦Ea1とすることにより、駆動中における正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および、発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。また、Ip0>Ip2>Ip1であることにより、陽極から発光層への正孔輸送が円滑になるからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記正孔注入輸送層および上記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層および電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0019】
上記の場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0020】
また上記の場合、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、上記発光層中の上記発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。発光ドーパント濃度に分布をもたせることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0022】
また本発明においては、上記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができるからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力、ならびに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の少なくともいずれか一方を所定の関係とすることにより、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面、ならびに、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制するとともに、電極から発光層への電荷の輸送を円滑にすることができ、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図10】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図13】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図16】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図17】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図18】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図19】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図20】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により2つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0026】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とするものである。
【0027】
図1は本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図2、図3はそれぞれ、図1に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。なお、図1では、n=3の場合を例にして考えるものとする。
図1に例示するように、本実施態様の有機EL素子1は、透明基板2と、透明基板2上に、陽極3と第1の正孔注入輸送層4と第2の正孔注入輸送層5と第3の正孔注入輸送層6と発光層7と第1の電子注入輸送層8と陰極9とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0とすると、図2に例示するようにIp1<Ip2<Ip3<Ip0となっていてもよく、図3に例示するようにIp1<Ip2<Ip3=Ip0となっていてもよい。
また、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3、上記発光層7の構成材料の電子親和力をEa0とすると、図2に例示するように、Ea0<Ea3<Ea2<Ea1となっていてもよく、図3に例示するように、Ea0=Ea3=Ea2=Ea1となっていてもよい。
【0028】
本発明によれば、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、陽極から各正孔注入輸送層を介して発光層に正孔を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陽極の仕事関数と発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルIp0との差が比較的大きい場合であっても、発光層への正孔の輸送を円滑化することができる。
また、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0029】
本実施態様の有機EL素子としては、上記発光層と陰極との間に1層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0030】
例えば図1に示すように、発光層7と陰極9との間に第1の電子注入輸送層8が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の電子注入輸送層8のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、図2に例示するようにIp1'<Ip0、または、図3に例示するようにIp1'=Ip0であることが好ましい。また、上記第1の電子注入輸送層8の電子親和力をEa1'としたとき、図2に例示するようにEa0<Ea1'、または、図3に例示するようにEa0=Ea1'であることが好ましい。
【0031】
通常、このような有機EL素子では、Ip1'≦Ip0、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、第1の電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1'≦Ip0であり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における各正孔注入輸送層、発光層、および第1の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第1の電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1'≦Ip0となり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように、各正孔注入輸送層、第1の電子注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0032】
また、発光層および第1の電子注入輸送層の電子親和力が上述の関係となるように、発光層の陰極側に第1の電子注入輸送層を形成することにより発光層へ電子注入しやすくなるため、発光層内での正孔と電子との再結合効率が高くなる。
【0033】
図4は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図5、図6はそれぞれ、図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図4に例示するように、発光層7と第1の電子注入輸送層8との間に第2の電子注入輸送層10が形成されていることが好ましい。
この場合、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、図5および図6に例示するように、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であることが好ましい。また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、図5に例示するように、Ea0<Ea2'<Ea1'となっていることが好ましい。
【0034】
また、図7は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図8、図9はそれぞれ、図7に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図7に例示するように、発光層7と陰極9との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。図7では、3層の電子注入輸送層が形成されている場合について説明する。
形成された3層の電子注入輸送層をそれぞれ陰極9側から順に、第1の電子注入輸送層8、第2の電子注入輸送層10、第m(m=3)の電子注入輸送層11とし、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図8および図9に例示するように、Ip0≧Ip3' ≧Ip2' ≧Ip1'であることが好ましい。また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図8に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。
【0035】
なお、図4から図9について、上記説明していない構成と、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャル、および電子親和力の関係とは図1から図3で説明したものと同様であるため、記載を省略する。
【0036】
本実施態様においては、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるよう電子注入輸送層を形成することにより、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。また、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるよう電子注入輸送層を形成することにより、複数層の電子注入輸送層を介して電子を発光層へ円滑に輸送することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0037】
本発明においては、従来のブロッキング層が設けられていないので、上述したように、発光層内で効率良く正孔および電子を再結合させることが困難であるとも考えられる。したがって、発光効率を向上させるために、素子構成を最適化することが有効である。例えば、(1)発光層の膜厚を比較的厚くする、(2)Ipn<Ip0とする、(3)Ea0<Eam'とする、(4)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、ホスト材料のバンドギャップ内に発光ドーパントのバンドギャップが含まれるようにする、(5)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をもたせる、(6)複数層の正孔注入輸送層を形成する、(7)複数層の電子注入輸送層を形成する、こと等によって、発光効率を向上させることができる。
【0038】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0039】
1.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本実施態様においては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第x(x=1〜nの整数、n≧3の整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ipxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1である。
【0040】
なお、後述する電子注入輸送層を含む、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0041】
正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であればよいが、中でも、Ip0>Ipnであることが好ましい。第1の正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0042】
Ip0>Ipnの場合のIp0およびIpnの差、ならびに、IpxおよびIpx-1の差としては、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0043】
また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であればよいが、中でも、Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1であることが好ましい。Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1、かつ、Ip0>Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0044】
Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1の場合、Ea0およびEanの差、ならびに、EaxおよびEax−1の差としては、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0045】
また、発光層と陰極との間に、第1の電子注入輸送層が形成されている場合は、発光層および第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であることが好ましく、中でも、Ip0>Ip1'であることが好ましい。Ip0>Ip1'かつEa0<Ea1'であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0046】
Ip0>Ip1'の場合、Ip0およびIp1'の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0047】
また、発光層および第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、通常はEa0≦Ea1'とされる。中でも、Ea0<Ea1'であることが好ましい。第1の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0048】
Ea0<Ea1'の場合、Ea0およびEa1'の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
なお、Ea0およびEa1'の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0049】
上記第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であることが好ましい。これにより、駆動中における第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0050】
また、第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、第1の電子注入輸送層電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'、第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、通常はEa0≦Ea2'≦Ea1'とされる。中でも、Ea0<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。Ea0およびEa1'の差が比較的大きい場合には、第1の電子注入輸送層から発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea0<Ea2'<Ea1'となるように第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、第1の電子注入輸送層から発光層へ第2の電子注入輸送層を介して電子を円滑に輸送することができるからである。また、第1の電子注入輸送層から第2の電子注入輸送層への電子輸送、および、第2の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0051】
Ea0<Ea2'<Ea1'の場合、Ea0およびEa2'の差、ならびに、Ea2'およびEa1'の差としては、第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0052】
発光層と陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されている場合、陰極側からそれぞれ、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層としたとき、各電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であることが好ましい。これにより、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0053】
また、発光層と陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されている場合、各電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、通常Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'とされる。中でも、Ea0<Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'が好ましい。陰極の仕事関数および発光層の構成材料の電子親和力の差が比較的大きい場合には、陰極から発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea0<Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように、陰極と発光層との間に複数層の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から発光層へ各電子注入輸送層を介して電子を円滑に輸送することができるからである。また、第1の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0054】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルは、上記構成材料を真空蒸着法により成膜し、その蒸着膜のイオン化ポテンシャルを、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」または「AC−3」、ともに理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0055】
2.正孔注入輸送層
本発明に用いられる3層以上の正孔注入輸送層は、陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層として陽極および発光層の間に形成されるものであり、陽極から発光層に正孔を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0056】
通常は、第1の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能し、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能する。
【0057】
各正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0058】
中でも、各正孔注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。
なお、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
このようなバイポーラ材料を各正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および各正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
【0059】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(m-CP)、または3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0060】
【化1】
【0061】
【化2】
【0062】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0063】
第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0064】
また、各正孔注入輸送層および後述の電子注入輸送層がいずれもバイポーラ材料を含有する場合、各正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、各正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が各正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
さらに、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が各正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0065】
陽極に隣接する正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
また、陽極に隣接しない正孔注入輸送層の構成材料が正孔注入輸送層用有機化合物である場合も、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極側に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。
【0066】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0067】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0068】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0069】
陽極に隣接する正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
また、陽極側に隣接しない正孔注入輸送層が、上記の領域を有する場合も同様である。
【0070】
正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとのモル比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:10の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0071】
本実施態様における正孔注入輸送層の層数としては、3層以上であり、陽極と発光層との間の正孔の輸送を円滑に行うことができるならば特に限定されるものではないが、本実施態様においては3層であることが好ましい。
【0072】
各正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0073】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0074】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0075】
各正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0076】
また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0077】
3.電子注入輸送層
本実施態様においては、発光層および陰極の間に、1層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0078】
本実施態様に用いられる1層以上の電子注入輸送層は、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が上述した関係を満たすことが好ましい。
【0079】
1層の電子注入輸送層のみ、すなわち第1の電子注入輸送層のみが形成されている場合は、第1の電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
また、電子注入輸送層が複数層形成されている場合は、陰極側から、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層としたとき、通常は、第1の電子注入輸送層が電子注入層として機能し、第2、…、第mの電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0080】
電子注入層の構成材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。
【0081】
また、電子輸送層の構成材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0082】
中でも、各電子注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を各電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および各電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0083】
第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層、第1、第2、…、第mの電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0084】
陰極に隣接する電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、その電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
また、陰極に隣接しない電子注入輸送層の構成材料が電子注入輸送層用有機化合物である場合も、その電子注入輸送層は、少なくとも陰極側に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。
【0085】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0086】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0087】
電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
また、陰極に隣接しない電子注入輸送層が上記の領域を有する場合も同様である。
【0088】
電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0089】
本実施態様における電子注入輸送層の層数としては、1層以上であり、陰極と発光層との間の電子の輸送を円滑に行うことができるならば特に限定されないが、3層以上であることが好ましく、特に3層であることが好ましい。
【0090】
電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0091】
中でも、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法としては、上記電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0092】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0093】
電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。また、電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0094】
また、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0095】
4.発光層
本発明に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。発光層の構成材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0096】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0097】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0098】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0099】
また、発光層の構成材料はバイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0100】
この発光層に用いられるバイポーラ材料は、それ自体が蛍光発光または燐光発光する発光材料であってもよく、後述の発光ドーパントがドープされるホスト材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料については、上記正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0101】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、蛍光発光または燐光発光する発光ドーパントを添加してもよい。すなわち、発光層は、上記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、バイポーラ材料等のホスト材料と、発光ドーパントとを含有するものであってもよい。
【0102】
発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0103】
発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0104】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントの単分子におけるイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0105】
また、発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。これにより、正孔または電子の発光ドーパントによるトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができるからである。
本発明においては、発光層に注入された正孔および電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
そこで、本発明者らが種々検討を行った結果、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をつけることにより、発光効率が向上することが判明した。例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陰極側から陽極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陽極側で高くすることにより、陽極から正孔注入輸送層に注入され発光層に輸送された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。また例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陽極側から陰極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陰極側で高くすることにより、陰極から電正注入輸送層に注入され発光層に輸送された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。
【0106】
発光層中の発光ドーパントの濃度分布としては、発光ドーパント濃度に分布があればよく、例えば、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していてもよく、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在していてもよい。
【0107】
発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有する場合、発光ドーパント濃度は、正孔注入輸送層側で高くてもよく、電子注入輸送層側で高くてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が正孔注入輸送層側で高いことが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が電子注入輸送層側で高いことが好ましい。
【0108】
また、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在している場合、例えば、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていてもよく、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていてもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に周期的に変化していてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていることが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていることが好ましい。
【0109】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合に、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。
【0110】
なお、発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。
【0111】
発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、発光層に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0112】
発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0113】
また、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、正孔注入輸送層および電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0114】
なお、ホスト材料および発光ドーパントからなる発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0115】
発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していることが好ましい。また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有していることも好ましい。これにより、発光層に注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0116】
発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度が濃度勾配を有する場合、第3発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高く、第4発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高く、第4発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも正孔注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも電子注入輸送層側で高くてもよい。
【0117】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高いことが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高いことも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0118】
また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有しいている場合、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよく、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよい。また、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよく、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよい。
【0119】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていることが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていることも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0120】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは30nm〜80nmの範囲内である。
【0121】
発光層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0122】
また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0123】
さらに、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0124】
また、発光層中の発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0125】
5.陽極
本発明に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0126】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0127】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0128】
6.陰極
本発明に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0129】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0130】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0131】
7.基板
本発明における基板は、上記の陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極の順に積層される。
【0132】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0133】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とするものである。
【0134】
図10は本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図11、図12はそれぞれ、図10に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。なお、図10では、m=3の場合を例にして考えるものとする。
本実施態様においては、図10に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、第1の正孔注入輸送層4と、発光層7と、第3の電子注入輸送層11と、第2の電子注入輸送層10と、第1の電子注入輸送層8と、陰極9とが順に積層したものである。
発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第nの電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図11に例示するように、Ip0>Ip3'>Ip2'>Ip1'となっていてもよいし、図12に例示するように、Ip0=Ip3'=Ip2'=Ip1'となっていてもよい。
また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第nの電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図11に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよいし、図12に例示するようにEa0=Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよい。
【0135】
本発明によれば、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から各電子注入輸送層を介して発光層に電子を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陰極の仕事関数と発光層の構成材料の電子親和力との差が比較的大きい場合であっても、発光層への電子の輸送を円滑化することができる。
また、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0136】
本実施態様の有機EL素子としては、上記発光層と陽極との間に1層以上の正孔注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0137】
例えば、図10に示すように、陽極2と発光層7との間に第1の正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の正孔注入輸送層4の電子親和力をEa1としたとき、図11および図12に例示するように、Ea0≦Ea1であることが好ましい。また、上記第1の正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、図11および図12に例示するように、Ip0≧Ip1であることが好ましい。
【0138】
通常、このような有機EL素子では、Ea0≦Ea1、かつ、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、本発明においては、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1であり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルが、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における各電子注入輸送層、発光層、および第1の正孔注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1となり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように、各電子注入輸送層、第1の正孔注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0139】
また、発光層および第1の正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルが上述の関係となるように、発光層の陽極側に第1の正孔注入輸送層を形成することにより、発光層へ正孔注入しやすくなるため、発光層内での正孔と電子との再結合効率が高くなる。
【0140】
図13は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図14、図15はそれぞれ、図13に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図13に例示するように、発光層7と第1の正孔注入輸送層4との間に第2の正孔注入輸送層5が形成されていることが好ましい。
この場合、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、 第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、図14および図15に例示するように、Ea0≦Ea2≦Ea1であることが好ましい。また、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、 第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、図14に例示するように、Ip0>Ip2>Ip1であることが好ましい。
【0141】
なお、上記説明していない構成と、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャル、および電子親和力の関係とは図10から図12で説明したものと同様であるため、記載を省略する。
【0142】
本実施態様においては、第1の正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea2≦Ea1になるよう正孔注入輸送層を形成することにより、駆動中における各正孔注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。また、、第1の正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0>Ip2>Ip1になるよう正孔注入輸送層を形成することにより、複数層の正孔注入輸送層を介して正孔を発光層へ円滑に輸送することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0143】
なお、本実施態様の有機EL素子における各構成については、「I.第1実施態様」で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0144】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、3層以上の正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とするものである。
【0145】
図16は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図17は、図16に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図16に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット12aと電荷発生層13aと発光ユニット12bと電荷発生層13bと発光ユニット12cと陰極9とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層13a,13bを介して3個の発光ユニット12a,12b,12cが積層されており、図17に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極9側から電子(e)が注入され、また電荷発生層13a,13bによって陰極9方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット12a,12b,12c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極9間で発生する。
【0146】
また、発光ユニット12a,12b,12cはそれぞれ、陽極3側から、3層以上の正孔注入輸送層(図16中では、第1の正孔注入輸送層4、第2の正孔注入輸送層5、第3の正孔注入輸送層6)と発光層7と第1の電子注入輸送層8とが順次積層されたものとなっている。
【0147】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0148】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0149】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図17に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット12b,12cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層13a,13bの陰極9側に接する発光ユニット12b,12cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層13a,13bの陽極3側に接する発光ユニット12a,12bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0150】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0151】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0152】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0153】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0154】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0155】
図18(a),(b)はそれぞれ、図16に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
この発光ユニットにおいては、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0とすると、図18(a)に例示するようにIp1<Ip2<Ip3<Ip0となっていてもよく、図18(b)に例示するようにIp1<Ip2<Ip3=Ip0となっていてもよい。
また、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3、上記発光層7の構成材料の電子親和力をEa0とすると、図18(a)に例示するように、Ea0<Ea3<Ea2<Ea1となっていてもよく、図18(b)に例示するように、Ea0=Ea3=Ea2=Ea1となっていてもよい。
【0156】
本発明によれば、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、陽極から各正孔注入輸送層を介して発光層に正孔を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陽極の仕事関数と発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルIp0との差が比較的大きい場合であっても、発光層への正孔の輸送を円滑化することができる。
また、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0157】
本実施態様の有機EL素子としては、発光ユニットが、上記発光層と陰極または電荷発生層との間に1層以上の電子注入輸送層を有することが好ましい。
以下、本実施態様の有機EL素子の例として、1層の電子注入輸送層を有するものについて図を用いて説明する。
【0158】
例えば図16に示すように発光層7と陰極9または電荷発生層13a,13bとの間に第1の電子注入輸送層8が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の電子注入輸送層8のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、図18に例示するようにIp1'≦Ip0であることが好ましい。また、上記第1の電子注入輸送層8の電子親和力をEa1'としたとき、図18に例示するようにEa0≦Ea1'であることが好ましい。
【0159】
上記の場合、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ip1'であり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0160】
なお、正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の関係は「I.第1実施態様」の項で説明したものと同様なので、ここでの記載は省略する。
【0161】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0162】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0163】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。なお、陽極、陰極、および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0164】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0165】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0166】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0167】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0168】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0169】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0170】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0171】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0172】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0173】
【化3】
【0174】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0175】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0176】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0177】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0178】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また3層以上の正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する正孔注入輸送層、および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0179】
本実施態様に用いられる発光ユニットは、発光層から陽極側に1層以上の電子注入輸送層が形成されてもよい。
【0180】
なお、発光層、正孔注入輸送層、および電子注入輸送層については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0181】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0182】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0183】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0184】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0185】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と3層以上の電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とするものである。
【0186】
図19は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図19に例示するように、本実施態様の発光ユニット12a,12b,12cはそれぞれ、陽極3側から、第1の正孔注入輸送層4と発光層7と3層以上の電子注入輸送層(図19中では、第3の電子注入輸送層11、第2の電子注入輸送層10、第1の電子注入輸送層8)とが順次積層されたものとなっている。
【0187】
図20(a),(b)はそれぞれ、図19に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図20(a)に例示するように、Ip0>Ip3'>Ip2'>Ip1'となっていてもよいし、図20(b)に例示するように、Ip0=Ip3'=Ip2'=Ip1'となっていてもよい。
また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図20(a)に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよいし、図20(b)に例示するようにEa0=Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよい。
【0188】
本発明によれば、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から各電子注入輸送層を介して発光層に電子を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陰極の仕事関数と発光層の構成材料の電子親和力との差が比較的大きい場合であっても、発光層への電子の輸送を円滑化することができる。
また、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0189】
なお、発光ユニット以外の構成や、動作機構については「III.第3実施態様」の項で記載したものと同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0190】
本実施態様の有機EL素子としては、発光ユニットが上記発光層と陽極または電荷発生層との間に1層以上の正孔注入輸送層を有することが好ましい。
【0191】
例えば、図19に示すように、発光層7と陰極3または電荷発生層13a、13bとの間に第1の正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の正孔注入輸送層4の電子親和力をEa1としたとき、図20に例示するように、Ea0≦Ea1であることが好ましい。また、上記第1の正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、図20に例示するように、Ip0≧Ip1であることが好ましい。
【0192】
上記の場合、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1であり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、上記第2実施態様の場合と同様に、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0193】
なお、正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の関係は「I.第1実施態様」の項で説明したものと同様なので、ここでの記載は省略する。
【0194】
本実施態様の有機EL素子の各構成については、発光ユニットを構成する各層に関しては、「II.第2実施態様」の項、その他の項に関しては、「III.第3実施態様」の項に記載したものとそれぞれ同様であるのでここでの記載は省略する。
【0195】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0196】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
まず、実施例で用いた材料の構造式、イオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記表1に示す。
【0197】
【化4】
【0198】
【表1】
【0199】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。続いて、TBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。更に、TCTAを真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、第3の正孔注入輸送層を形成した。
【0200】
次に、ホスト材料として4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)を用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(piq)3を用いて、上記第3の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで30nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0201】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第2の電子注入輸送層上に、TBADNと、Liqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0202】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0203】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
発光層形成までは実施例1と同様の方法で、ITO基板上に、第1の正孔注入輸送層40nm、第2の正孔注入輸送層10nm、第3の正孔注入輸送層10nm、発光層30nmを形成した。
【0204】
発光層を形成した後、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第3の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第3の電子注入輸送層上に、Alq3を、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。続いて、Alq3とLiqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0205】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0206】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。続いて、TBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。
【0207】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(piq)3を用いて、上記第2の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで30nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0208】
上記発光層上に、TBADNを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第3の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第3の電子注入輸送層上に、Alq3を、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。続いて、Alq3とLiqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0209】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0210】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、銅フタロシアニン(CuPc)を真空度10-5Paの条件下、1Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。次に、第1の正孔注入輸送層上にTBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚40nmとなるように成膜し、続いてTBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。更に、TCTAを真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、第3の正孔注入輸送層を形成した。
【0211】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(ppy)3を用いて、上記第3の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(ppy)3を、Ir(ppy)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で膜厚30nmとなるように成膜し、発光層を形成した。
【0212】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第2の電子注入輸送層上に、TBADNと、Liqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0213】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0214】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
実施例1で用いた方法と同様にして、ITO基板上に第1の正孔注入輸送層70nm、発光層30nm、第2の電子注入輸送層10nm、第1の電子注入輸送層10nm、および陰極を形成して有機EL素子を作製した。
【0215】
[比較例2]
(有機EL素子の作製)
実施例1で用いた方法と同様にして、ITO基板上に第1の正孔注入輸送層50nm、第2の正孔注入輸送層10nm、発光層30nm、第1の電子注入輸送層30nm、および陰極を形成して有機EL素子を作製した。
【0216】
[評価]
表2に実施例1〜4および比較例1〜2の有機EL素子の発光特性を示す。
【0217】
【表2】
【0218】
実施例1〜4および比較例1〜2の有機EL素子を比較すると、実施例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が10cd/Aであった。また、実施例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が12cd/Aであった。また、実施例3の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が14cd/Aであった。さらに、実施例4の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が28cd/Aであった。一方、比較例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は8cd/Aであった。また、比較例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は6cd/Aであった。
また、寿命特性については、初期輝度1000cd/m2からの輝度半減寿命を定電流密度下で観察したところ、実施例1の有機EL素子では、輝度が半減する時間は240時間を達成した。また、実施例2の有機EL素子では、輝度が半減する時間は250時間を達成した。また、実施例3の有機EL素子では、輝度が半減する時間は300時間を達成した。さらに、実施例4の有機EL素子では、輝度が半減する時間は370時間を達成した。
【符号の説明】
【0219】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 第1の正孔注入輸送層
5 … 第2の正孔注入輸送層
6 … 第3の正孔注入輸送層
7 … 発光層
9 … 陰極
8 … 第1の電子注入輸送層
10 … 第2の電子注入輸送層
11 … 第3の電子注入輸送層
12a,12b,12c … 発光ユニット
13a,13b … 電荷発生層
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極および陰極の間に、3層以上の電荷注入輸送層と発光層とが順次積層された構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、長寿命および高効率化の達成のため、正孔もしくは電子の注入機能、輸送機能、ブロッキング機能を有する材料を用いて複数の層を積層した多層構造をとることが一般的である。また、多層構造を有する有機EL素子では、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるために、電極および発光層の間に対極側への正孔もしくは電子の突き抜けを防止するブロッキング層を設けるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、多層構造を有する有機EL素子では、駆動中に各層の界面にて劣化が生じることによって、発光効率が低下したり、素子が劣化して輝度が低下したりすることが懸念される。特に、ブロッキング層が設けられた有機EL素子では、界面に電荷が蓄積しやすく、このため界面にて劣化が生じやすく、輝度劣化が懸念される。
【0004】
駆動中に各層の界面にて劣化が生じるのを抑制するために、正孔注入輸送層や電子注入輸送層に用いる材料を工夫する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、陽極からの正孔の注入性および陰極からの電子の注入性を改善するために、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)を、有機化合物および酸化性ドーパント、あるいは、有機化合物および還元性ドーパント、あるいは、有機化合物および導電性微粒子から構成されるものとすることが開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の有機EL素子は、有機半導体層(正孔注入輸送層または電子注入輸送層)と有機発光層との間に無機電荷障壁層(ブロッキング層)を設けているため、上述したように、発光効率の低下や素子の劣化が懸念される。
【0005】
また、例えば特許文献2には、陽極から有機化合物層(正孔注入輸送層)への正孔注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陽極に接する有機化合物層に電子受容性ドーパントをドープする方法が開示されている。さらに、例えば特許文献3および特許文献4には、陰極から有機化合物層(電子注入輸送層)への電子注入におけるエネルギー障壁を低下させることを目的として、陰極に接する有機化合物層に電子供与性ドーパントをドープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−315581号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特開平10−270171号公報
【特許文献4】特開平10−270172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発光効率の低下や素子の劣化を効果的に抑制するためには、陽極からの正孔注入におけるエネルギー障壁や、陰極からの電子注入におけるエネルギー障壁を低下させるだけでは充分ではなく、対極への正孔および電子の突き抜けを防止する層を有さないような素子構成とすることが有効であると思料される。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、対極への正孔および電子の突き抜けを防止する層を有さず、かつ、高効率で長寿命な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力および電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの少なくともいずれか一方を、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力に対して、対極への電荷の突き抜けを防止することのないように設定し、正孔注入輸送層、電子注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択し、さらに素子構成を最適化することにより、従来の有機EL素子と比較して、高効率で長寿命の有機EL素子が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0010】
本発明によれば、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、駆動中における各正孔注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
また、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルが、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であるので、発光層への正孔の輸送が円滑になるとともに、各正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への正孔の注入を制御し、発光効率を高めることが可能である。
【0011】
上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に第1の電子注入輸送層が形成され、上記第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であり、かつ、上記第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、Ea0≦Ea1'であることが好ましい。Ip0≧Ip1'である電子注入輸送層を有することにより、駆動中における第1の電子注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。また、Ea0≦Ea1'であることにより、陰極から発光層への電子輸送が円滑になるからである。
【0012】
上記発明においては、上記発光層と上記第1の電子注入輸送層との間に第2の電子注入輸送層が形成され、上記第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であり、かつ、上記第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、Ea0<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。Ip0≧Ip2'≧Ip1'とすることにより、駆動中における第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層および、発光層の界面での劣化を抑制することができるからであり、Ea0<Ea2'<Ea1'とすることにより、陰極から発光層への電子輸送が円滑になるからである。
【0013】
また上記発明においては、上記発光層と上記陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成され、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0'≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることが好ましい。このような電子注入輸送層を有することにより、発光層への電子の輸送を円滑にすることができる。また、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0014】
本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0015】
本発明によれば、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、各電子注入輸送層およびおよび発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
また、各電子注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であるため、発光層への電子の輸送が円滑になるとともに、各電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、発光層への電子の注入を制御し、発光効率を高めることが可能である。
【0016】
上記発明においては、上記発光層と上記陽極との間に第1の正孔注入輸送層が形成され、上記第1の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1としたとき、Ea0≦Ea1であり、かつ、上記第1の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、Ip0≧Ip1であることが好ましい。Ea0≦Ea1であることにより、上記第1の正孔注入輸送層および発光層の界面での電荷の蓄積がなく劣化を抑制することができ、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。また、Ip0≧Ip1であることにより、陽極から発光層への正孔輸送が円滑になるからである。
【0017】
また、上記発明においては、上記発光層と上記第1の正孔注入輸送層との間に第2の正孔注入輸送層が形成され、上記第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea0≦Ea2≦Ea1であり、かつ、上記第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip0>Ip2>Ip1であることが好ましい。Ea0≦Ea2≦Ea1とすることにより、駆動中における正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および、発光層の界面での劣化を抑制することができるからである。また、Ip0>Ip2>Ip1であることにより、陽極から発光層への正孔輸送が円滑になるからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記正孔注入輸送層および上記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することが好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層および電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0019】
上記の場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0020】
また上記の場合、上記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有していてもよい。この場合、上記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、上記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることが好ましい。上述したように、これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、上記発光層中の上記発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。発光ドーパント濃度に分布をもたせることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0022】
また本発明においては、上記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。また例えば、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができるからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力、ならびに、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の少なくともいずれか一方を所定の関係とすることにより、駆動中における正孔注入輸送層および発光層の界面、ならびに、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制するとともに、電極から発光層への電荷の輸送を円滑にすることができ、高効率化を図り、安定な寿命特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図10】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図13】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図14】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図15】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図16】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図17】本発明の有機EL素子の動作機構を示す説明図である。
【図18】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【図19】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図20】本発明の有機EL素子のバンドダイヤグラムの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、層構成により2つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0026】
I.第1実施態様
本発明の有機EL素子の第1実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とするものである。
【0027】
図1は本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図2、図3はそれぞれ、図1に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。なお、図1では、n=3の場合を例にして考えるものとする。
図1に例示するように、本実施態様の有機EL素子1は、透明基板2と、透明基板2上に、陽極3と第1の正孔注入輸送層4と第2の正孔注入輸送層5と第3の正孔注入輸送層6と発光層7と第1の電子注入輸送層8と陰極9とが順次積層されたものである。
この有機EL素子においては、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0とすると、図2に例示するようにIp1<Ip2<Ip3<Ip0となっていてもよく、図3に例示するようにIp1<Ip2<Ip3=Ip0となっていてもよい。
また、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3、上記発光層7の構成材料の電子親和力をEa0とすると、図2に例示するように、Ea0<Ea3<Ea2<Ea1となっていてもよく、図3に例示するように、Ea0=Ea3=Ea2=Ea1となっていてもよい。
【0028】
本発明によれば、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、陽極から各正孔注入輸送層を介して発光層に正孔を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陽極の仕事関数と発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルIp0との差が比較的大きい場合であっても、発光層への正孔の輸送を円滑化することができる。
また、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0029】
本実施態様の有機EL素子としては、上記発光層と陰極との間に1層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0030】
例えば図1に示すように、発光層7と陰極9との間に第1の電子注入輸送層8が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の電子注入輸送層8のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、図2に例示するようにIp1'<Ip0、または、図3に例示するようにIp1'=Ip0であることが好ましい。また、上記第1の電子注入輸送層8の電子親和力をEa1'としたとき、図2に例示するようにEa0<Ea1'、または、図3に例示するようにEa0=Ea1'であることが好ましい。
【0031】
通常、このような有機EL素子では、Ip1'≦Ip0、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、第1の電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1'≦Ip0であり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における各正孔注入輸送層、発光層、および第1の電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第1の電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp1'≦Ip0となり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように、各正孔注入輸送層、第1の電子注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0032】
また、発光層および第1の電子注入輸送層の電子親和力が上述の関係となるように、発光層の陰極側に第1の電子注入輸送層を形成することにより発光層へ電子注入しやすくなるため、発光層内での正孔と電子との再結合効率が高くなる。
【0033】
図4は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図5、図6はそれぞれ、図4に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図4に例示するように、発光層7と第1の電子注入輸送層8との間に第2の電子注入輸送層10が形成されていることが好ましい。
この場合、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、図5および図6に例示するように、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であることが好ましい。また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、図5に例示するように、Ea0<Ea2'<Ea1'となっていることが好ましい。
【0034】
また、図7は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図8、図9はそれぞれ、図7に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図7に例示するように、発光層7と陰極9との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。図7では、3層の電子注入輸送層が形成されている場合について説明する。
形成された3層の電子注入輸送層をそれぞれ陰極9側から順に、第1の電子注入輸送層8、第2の電子注入輸送層10、第m(m=3)の電子注入輸送層11とし、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図8および図9に例示するように、Ip0≧Ip3' ≧Ip2' ≧Ip1'であることが好ましい。また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図8に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。
【0035】
なお、図4から図9について、上記説明していない構成と、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャル、および電子親和力の関係とは図1から図3で説明したものと同様であるため、記載を省略する。
【0036】
本実施態様においては、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるよう電子注入輸送層を形成することにより、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。また、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるよう電子注入輸送層を形成することにより、複数層の電子注入輸送層を介して電子を発光層へ円滑に輸送することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0037】
本発明においては、従来のブロッキング層が設けられていないので、上述したように、発光層内で効率良く正孔および電子を再結合させることが困難であるとも考えられる。したがって、発光効率を向上させるために、素子構成を最適化することが有効である。例えば、(1)発光層の膜厚を比較的厚くする、(2)Ipn<Ip0とする、(3)Ea0<Eam'とする、(4)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、ホスト材料のバンドギャップ内に発光ドーパントのバンドギャップが含まれるようにする、(5)発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をもたせる、(6)複数層の正孔注入輸送層を形成する、(7)複数層の電子注入輸送層を形成する、こと等によって、発光効率を向上させることができる。
【0038】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。
【0039】
1.イオン化ポテンシャルおよび電子親和力
本実施態様においては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第x(x=1〜nの整数、n≧3の整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ipxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1である。
【0040】
なお、後述する電子注入輸送層を含む、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルとは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料のイオン化ポテンシャルをいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをいう。また同様に、各層の構成材料の電子親和力とは、各層が単一の材料で構成されている場合には、その材料の電子親和力をいい、また各層がホスト材料とドーパントとから構成されている場合には、ホスト材料の電子親和力をいう。
【0041】
正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であればよいが、中でも、Ip0>Ipnであることが好ましい。第1の正孔注入輸送層から発光層への正孔輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、正孔の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0042】
Ip0>Ipnの場合のIp0およびIpnの差、ならびに、IpxおよびIpx-1の差としては、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0043】
また、正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であればよいが、中でも、Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1であることが好ましい。Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1、かつ、Ip0>Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0044】
Ea0<Ean、x=2〜nのすべてについてEax<Eax−1の場合、Ea0およびEanの差、ならびに、EaxおよびEax−1の差としては、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0045】
また、発光層と陰極との間に、第1の電子注入輸送層が形成されている場合は、発光層および第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であることが好ましく、中でも、Ip0>Ip1'であることが好ましい。Ip0>Ip1'かつEa0<Ea1'であれば、発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーを比較的大きくすることができるので、例えば発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合に、発光効率の向上のために、ホスト材料および発光ドーパントのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たすように、ホスト材料および発光ドーパントを選択することが容易となるからである。
【0046】
Ip0>Ip1'の場合、Ip0およびIp1'の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0047】
また、発光層および第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、通常はEa0≦Ea1'とされる。中でも、Ea0<Ea1'であることが好ましい。第1の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0048】
Ea0<Ea1'の場合、Ea0およびEa1'の差としては、発光層および電子注入輸送層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的には0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
なお、Ea0およびEa1'の差が比較的大きい場合であっても、駆動電圧を比較的高くすれば、電子注入輸送層から発光層へ電子を輸送させることができる。
【0049】
上記第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であることが好ましい。これにより、駆動中における第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0050】
また、第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されている場合、第1の電子注入輸送層電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、発光層の構成材料の電子親和力をEa0、第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'、第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、通常はEa0≦Ea2'≦Ea1'とされる。中でも、Ea0<Ea2'<Ea1'であることが好ましい。Ea0およびEa1'の差が比較的大きい場合には、第1の電子注入輸送層から発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea0<Ea2'<Ea1'となるように第1の電子注入輸送層と発光層との間に第2の電子注入輸送層が形成されていることにより、第1の電子注入輸送層から発光層へ第2の電子注入輸送層を介して電子を円滑に輸送することができるからである。また、第1の電子注入輸送層から第2の電子注入輸送層への電子輸送、および、第2の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0051】
Ea0<Ea2'<Ea1'の場合、Ea0およびEa2'の差、ならびに、Ea2'およびEa1'の差としては、第1の電子注入輸送層、第2の電子注入輸送層、および発光層の構成材料に応じて異なるものであるが、具体的にはそれぞれ0.1eV以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2eV〜0.5eVの範囲内である。
【0052】
発光層と陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されている場合、陰極側からそれぞれ、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層としたとき、各電子注入輸送層、および発光層のイオン化ポテンシャルの関係としては、第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であることが好ましい。これにより、駆動中における各電子注入輸送層、および発光層の各層の界面での劣化を抑制することができるからである。
【0053】
また、発光層と陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されている場合、各電子注入輸送層、および発光層の電子親和力の関係としては、第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、通常Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'とされる。中でも、Ea0<Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'が好ましい。陰極の仕事関数および発光層の構成材料の電子親和力の差が比較的大きい場合には、陰極から発光層へ電子が輸送され難くなるが、Ea0<Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように、陰極と発光層との間に複数層の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から発光層へ各電子注入輸送層を介して電子を円滑に輸送することができるからである。また、第1の電子注入輸送層から発光層への電子輸送において多少のエネルギー障壁が存在することにより、電子の注入を制御し、発光効率を高めることができるからである。
【0054】
なお、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルは、上記構成材料を真空蒸着法により成膜し、その蒸着膜のイオン化ポテンシャルを、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」または「AC−3」、ともに理研計器製)により求めた値とする。また、電子親和力の測定方法としては、まずHOMOエネルギーをUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0055】
2.正孔注入輸送層
本発明に用いられる3層以上の正孔注入輸送層は、陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層として陽極および発光層の間に形成されるものであり、陽極から発光層に正孔を安定に注入または輸送する機能を有するものである。
【0056】
通常は、第1の正孔注入輸送層が正孔注入層として機能し、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層が正孔輸送層として機能する。
【0057】
各正孔注入輸送層の構成材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子およびそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0058】
中でも、各正孔注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。
なお、バイポーラ材料とは、正孔および電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合に電子を安定に輸送することができ、かつ、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合に正孔を安定に輸送することができる材料をいう。ユニポーラデバイスを作製する際には、具体的には、還元性ドーパントとして、Csもしくは8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を材料にドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製し、酸化性ドーパントとしてV2O5もしくはMoO3を材料にドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製することができる。
このようなバイポーラ材料を各正孔注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および各正孔注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
【0059】
バイポーラ材料としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記式で示される4,4'-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(DPVBi)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、2,2',7,7'-テトラキス(カルバゾール-9-イル)-9,9'-スピロ-ビフルオレン(spiro-CBP)、4,4''-ジ(N-カルバゾリル)-2',3',5',6'-テトラフェニル-p-テルフェニル(CzTT)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)-ベンゼン(m-CP)、または3-tert−ブチル-9,10-ジ(ナフサ-2-イル)アントラセン(TBADN)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0060】
【化1】
【0061】
【化2】
【0062】
なお、上記の手法により正孔および電子の両キャリアの輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
【0063】
第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0064】
また、各正孔注入輸送層および後述の電子注入輸送層がいずれもバイポーラ材料を含有する場合、各正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、各正孔注入輸送層および電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が各正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
さらに、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。中でも、各正孔注入輸送層、電子注入輸送層および発光層に含有されるバイポーラ材料は、同一であることが好ましい。これらのバイポーラ材料が同一であれば、上述したように、正孔が電子注入輸送層に突き抜けたり、電子が各正孔注入輸送層に突き抜けたりしても、これらの層が劣化しにくくなるからである。また、真空蒸着法等によりこれらの層を成膜する場合には、共通の蒸着源を用いることができ、製造工程上有利である。
【0065】
陽極に隣接する正孔注入輸送層の構成材料が有機材料(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。正孔注入輸送層が、少なくとも陽極との界面にて、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有することにより、陽極から正孔注入輸送層への正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陽極から基本的に絶縁物である有機層への正孔注入過程は、陽極表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成である(Phys. Rev.Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を酸化する酸化性ドーパントを陽極に接触する正孔注入輸送層中にドープすることにより、陽極からの正孔注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層中には、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。
また、陽極に隣接しない正孔注入輸送層の構成材料が正孔注入輸送層用有機化合物である場合も、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極側に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。
【0066】
酸化性ドーパントとしては、正孔注入輸送層用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。
【0067】
電子受容性化合物としては、無機物および有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化バナジウム(V2O5)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0068】
中でも、電子受容性化合物としては、金属酸化物が好ましく、MoO3、V2O5が好適に用いられる。
【0069】
陽極に隣接する正孔注入輸送層が、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、その正孔注入輸送層は、少なくとも陽極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、正孔注入輸送層中に、酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよく、酸化性ドーパントの含有量が発光層側から陽極側に向けて連続的に多くなるように酸化性ドーパントがドープされていてもよく、正孔注入輸送層の陽極との界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
また、陽極側に隣接しない正孔注入輸送層が、上記の領域を有する場合も同様である。
【0070】
正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとのモル比率が、正孔注入輸送層用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:10の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、正孔注入輸送層中の酸化性ドーパント濃度が正孔注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超えて、酸化性ドーパントにより酸化された正孔注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0071】
本実施態様における正孔注入輸送層の層数としては、3層以上であり、陽極と発光層との間の正孔の輸送を円滑に行うことができるならば特に限定されるものではないが、本実施態様においては3層であることが好ましい。
【0072】
各正孔注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0073】
中でも、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の成膜方法としては、正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法において、塩化第二鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントはるつぼに入れて一般的な抵抗加熱法によって蒸着可能である。一方、常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合は、ニードルバルブやマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
【0074】
また、発光層側から陽極側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の正孔注入輸送層用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0075】
各正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0076】
また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.5nm以上とすることが好ましい。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層は、無電場の状態でも正孔注入輸送層用有機化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので、膜厚は特に限定されないのである。また、酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層を厚膜にしても、素子の電圧上昇をもたらすことがないので、陽極および陰極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより、短絡の危険性を大幅に軽減させることもできる。
【0077】
3.電子注入輸送層
本実施態様においては、発光層および陰極の間に、1層以上の電子注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0078】
本実施態様に用いられる1層以上の電子注入輸送層は、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が上述した関係を満たすことが好ましい。
【0079】
1層の電子注入輸送層のみ、すなわち第1の電子注入輸送層のみが形成されている場合は、第1の電子注入輸送層としては、電子注入機能を有する電子注入層、および電子輸送機能を有する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、あるいは、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
また、電子注入輸送層が複数層形成されている場合は、陰極側から、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層としたとき、通常は、第1の電子注入輸送層が電子注入層として機能し、第2、…、第mの電子注入輸送層が電子輸送層として機能する。
【0080】
電子注入層の構成材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述の発光層の発光材料に例示する化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。
【0081】
また、電子輸送層の構成材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体などを挙げることができる。
【0082】
中でも、各電子注入輸送層の構成材料は、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料であることが好ましい。バイポーラ材料を各電子注入輸送層に用いることにより、駆動中における発光層および各電子注入輸送層の界面での劣化を効果的に抑制することができる。
なお、バイポーラ材料については、上記正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0083】
第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。さらに、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層、第1、第2、…、第mの電子注入輸送層、および発光層のすべてがバイポーラ材料を含有する場合も、これらの層に含有されるバイポーラ材料は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0084】
陰極に隣接する電子注入輸送層の構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、その電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。電子注入輸送層が、少なくとも陰極との界面にて、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することにより、陰極から電子注入輸送層への電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができるからである。
有機EL素子において、陰極から基本的に絶縁物である有機層への電子注入過程は、陰極表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成である(Phys. Rev. Lett., 14, 229 (1965))。あらかじめ有機化合物を還元する還元性ドーパントを陰極に接触する電子注入輸送層中にドープすることにより、陰極からの電子注入に際するエネルギー障壁を低下させることができる。電子注入輸送層中には、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子注入エネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるのである。さらには、陰極に、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することができる。
また、陰極に隣接しない電子注入輸送層の構成材料が電子注入輸送層用有機化合物である場合も、その電子注入輸送層は、少なくとも陰極側に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有していてもよい。
【0085】
還元性ドーパントしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。
【0086】
電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、または有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、Wなどが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩などが挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)などが挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性が得られるからである。
【0087】
電子注入輸送層が、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、電子注入輸送層は、少なくとも陰極との界面に上記の領域を有していればよく、例えば、電子注入輸送層中に、還元性ドーパントが均一にドープされていてもよく、還元性ドーパントの含有量が発光層側から陰極側に向けて連続的に多くなるように還元性ドーパントがドープされていてもよく、電子注入輸送層の陰極との界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。
また、陰極に隣接しない電子注入輸送層が上記の領域を有する場合も同様である。
【0088】
電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜99重量%程度とすることが好ましい。還元性ドーパント濃度が上記範囲未満であると、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が低すぎてドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、還元性ドーパント濃度が上記範囲を超えると、電子注入輸送層中の還元性ドーパント濃度が電子注入輸送層用有機化合物濃度をはるかに超え、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の濃度が極端に低下するので、同様にドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。
【0089】
本実施態様における電子注入輸送層の層数としては、1層以上であり、陰極と発光層との間の電子の輸送を円滑に行うことができるならば特に限定されないが、3層以上であることが好ましく、特に3層であることが好ましい。
【0090】
電子注入輸送層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0091】
中でも、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法としては、上記電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0092】
また、発光層側から陰極側に向けて還元性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記の電子注入輸送層用有機化合物と還元性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
【0093】
電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。また、電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0094】
また、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の厚みとしては、特に限定されるものでないが、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。厚みが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないためにドーピングの効果が十分に得られない場合があるからである。また、厚みが上記範囲を超えると、電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがあるからである。
【0095】
4.発光層
本発明に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。発光層の構成材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料を挙げることができる。
【0096】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0097】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることができる。
【0098】
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系材料および金属錯体系材料を高分子化したものも挙げられる。
【0099】
また、発光層の構成材料はバイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を発光層に用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を効果的に抑制することができるからである。
【0100】
この発光層に用いられるバイポーラ材料は、それ自体が蛍光発光または燐光発光する発光材料であってもよく、後述の発光ドーパントがドープされるホスト材料であってもよい。
なお、バイポーラ材料については、上記正孔注入輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0101】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、蛍光発光または燐光発光する発光ドーパントを添加してもよい。すなわち、発光層は、上記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、バイポーラ材料等のホスト材料と、発光ドーパントとを含有するものであってもよい。
【0102】
発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、イリジウム(Ir)化合物、白金化合物、金化合物、オスミウム化合物、ルテニウム(Ru)化合物、レニウム(Re)化合物等を挙げることができる。より具体的には、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(2,5,8,11-Tetra-tert-butylperylene)(ペリレン誘導体)、2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7,-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン(C545t)(2,3,6,7-Tetrahydro-1,1,7,7,-tetramethyl-1H,5H,11H-10-(2-benzothiazolyl)quinolizino-[9,9a,1gh]coumarin(C545t))(クマリン誘導体)、(5,6,11,12)-テトラフェニルナフタセン((5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene)(ルブレン誘導体)、および、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III);Ir(ppy)3)、トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Tris(1-phenylisoquinoline)iridium(III);Ir(piq)3)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム(III)(Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium(III);FIrpic)(イリジウム化合物)が挙げられる。
【0103】
発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、ホスト材料の電子親和力をEah、発光ドーパントの電子親和力をEadとしたとき、Eah<Eadであり、かつ、ホスト材料のイオン化ポテンシャルをIph、発光ドーパントのイオン化ポテンシャルをIpdとしたとき、Iph>Ipdであることが好ましい。ホスト材料および発光ドーパントの電子親和力およびイオン化ポテンシャルが上記の関係を満たす場合には、正孔および電子が発光ドーパントにトラップされるので、発光効率を向上させることができるからである。
【0104】
ここで、発光層を構成するホスト材料および発光ドーパントの単分子におけるイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、次のようにして得られる。イオン化ポテンシャルは、UPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)により求める。一方、電子親和力の測定方法としては、まずUPS(紫外光電子分光法)(例えば測定機名「AC−2」理研計器製)によりHOMOエネルギーを求め、次いで光吸収によるエネルギーギャップ測定値と上記HOMOエネルギーから算出する方法を採用する。
【0105】
また、発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布があることが好ましい。これにより、正孔または電子の発光ドーパントによるトラップを制御することができ、高効率な素子を得ることができるからである。
本発明においては、発光層に注入された正孔および電子が対極へ突き抜けるのを防止するブロッキング層が設けられていないため、従来のブロッキング層を有する有機EL素子と同じようにして、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることは困難である。
そこで、本発明者らが種々検討を行った結果、発光層中の発光ドーパントの濃度に分布をつけることにより、発光効率が向上することが判明した。例えば、発光ドーパントが電子よりも正孔を輸送しやすいものである場合には、正孔の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陰極側から陽極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陽極側で高くすることにより、陽極から正孔注入輸送層に注入され発光層に輸送された正孔が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陽極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陰極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。また例えば、発光ドーパントが正孔よりも電子を輸送しやすいものである場合には、電子の注入が過剰になる傾向があるので、発光層中の発光ドーパントの濃度が陽極側から陰極側に向けて増加するように濃度勾配をつけることにより、発光効率が向上する。これは、発光ドーパントの濃度を陰極側で高くすることにより、陰極から電正注入輸送層に注入され発光層に輸送された電子が、発光層中でより多く発光ドーパントにトラップされ、特に陰極側でより多く発光ドーパントにトラップされて、陽極へ突き抜けるのを防止しているためであると思料される。
【0106】
発光層中の発光ドーパントの濃度分布としては、発光ドーパント濃度に分布があればよく、例えば、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していてもよく、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在していてもよい。
【0107】
発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有する場合、発光ドーパント濃度は、正孔注入輸送層側で高くてもよく、電子注入輸送層側で高くてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が正孔注入輸送層側で高いことが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、発光ドーパント濃度が電子注入輸送層側で高いことが好ましい。
【0108】
また、発光ドーパント濃度が相対的に高い領域と相対的に低い領域とが混在している場合、例えば、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていてもよく、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていてもよく、発光ドーパント濃度が発光層の厚さ方向に周期的に変化していてもよく、正孔および電子の注入バランスがとれるように適宜選択される。例えば、正孔の注入が過剰である場合には、注入された正孔を陽極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられていることが好ましい。また例えば、電子の注入が過剰である場合には、注入された電子を陰極側でトラップできるように、正孔注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が設けられ、電子注入輸送層側に発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が設けられていることが好ましい。
【0109】
さらに、発光層は、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有していてもよい。例えば、ホスト材料と発光ドーパントとの励起エネルギーの差が比較的大きい場合に、ホスト材料および発光ドーパントの励起エネルギーの中間に励起エネルギーをもつ発光ドーパントをさらに含有させることにより、エネルギー移動を円滑に起こさせることができ、発光効率を向上させることができる。また例えば、電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとを含有させることにより、発光層へ注入される正孔および電子のバランスをとることができ、発光効率を向上させることができる。
【0110】
なお、発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、各発光ドーパントがそれぞれ発光してもよく、1種類のみが発光してもよい。例えば、発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合や、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合など、いずれの場合も、その発光ドーパントの励起エネルギーの大小、分布状態、および濃度により、1種類もしくはそれぞれの発光ドーパントの発光が得られる。
【0111】
発光層が2種類以上の発光ドーパントを含有する場合、発光効率の向上の観点から、発光層に、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有させたり、あるいは、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有させたりすることができる。
【0112】
発光層が、第1発光ドーパントと、ホスト材料の励起エネルギーよりも小さく、第1発光ドーパントの励起エネルギーよりも大きい励起エネルギーをもつ第2発光ドーパントとを含有する場合、第1発光ドーパントおよび第2発光ドーパントとしては、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ホスト材料として緑色発光するAlq3を用い、第1発光ドーパントとして赤色発光するDCMを用いる場合、第2発光ドーパントとして黄色発光するルブレンを用いることにより、Alq3(ホスト材料)→ルブレン(第2発光ドーパント)→DCM(第1発光ドーパント)の順に円滑にエネルギー移動を起こさせることができる。
【0113】
また、発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントとしては、正孔注入輸送層および電子注入輸送層の構成材料、ならびに発光層のホスト材料の組み合わせに応じて、上述の発光ドーパントの中から適宜選択して用いることができる。例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにルブレンを用いた場合、ルブレンは電子よりも正孔を輸送しやすい発光ドーパントとなる。また例えば、正孔注入輸送層および電子注入輸送層にTBADNを用い、発光層のホスト材料にCBP、発光ドーパントにアントラセンジアミンを用いた場合、アントラセンジアミンは正孔よりも電子を輸送しやすい発光ドーパントとなる。
【0114】
なお、ホスト材料および発光ドーパントからなる発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすいものであるか、正孔よりも電子を輸送しやすいものであるかは、ホスト材料と単一の発光ドーパントとを含有する発光層を有する有機EL素子の発光スペクトルの放射パターンの角度依存性を評価することにより確認することができる。すなわち、発光スペクトルの波長、材料の屈折率、有機EL素子にて発光層から光が取り出されるまでの光路長、および放射パターンの角度依存性から確認することができる。
【0115】
発光層が、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントと、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントとを含有する場合、発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度はそれぞれ発光層の厚さ方向に連続的に変化する濃度勾配を有していることが好ましい。また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有していることも好ましい。これにより、発光層に注入される正孔および電子のバランスをとることができるからである。
【0116】
発光層中の第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度が濃度勾配を有する場合、第3発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高く、第4発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高く、第4発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも正孔注入輸送層側で高くてもよく、第3発光ドーパントの濃度および第4発光ドーパントの濃度がいずれも電子注入輸送層側で高くてもよい。
【0117】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高いことが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパントの濃度が電子注入輸送層側で高く、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパントの濃度が正孔注入輸送層側で高いことも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0118】
また、発光層が、第3発光ドーパントおよび第4発光ドーパントの濃度のそれぞれ相対的に高い領域と相対的に低い領域とを有しいている場合、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよく、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよい。また、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよく、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていてもよい。
【0119】
上記の中でも、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられていることが好ましい。また、電子よりも正孔を輸送しやすい第3発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第3発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が電子注入輸送層側に設けられており、かつ、正孔よりも電子を輸送しやすい第4発光ドーパント濃度の相対的に低い領域が正孔注入輸送層側に設けられ、第4発光ドーパント濃度の相対的に高い領域が電子注入輸送層側に設けられていることも好ましい。これにより、効果的に正孔および電子の注入バランスをとることができるからである。
【0120】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜200nm程度で設定することができる。中でも、発光層の厚みを厚くすることによって、正孔および電子の注入バランスを向上させることで発光効率を高めるには、発光層の厚みが10nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは30nm〜80nmの範囲内である。
【0121】
発光層の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法などを挙げることができる。
【0122】
また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。この隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0123】
さらに、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法としては、ホスト材料および発光ドーパントを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。
なお、溶液からの塗布で薄膜形成が可能な場合には、ホスト材料および発光ドーパントを含有する発光層の成膜方法として、スピンコート法やディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料および発光ドーパントを不活性なポリマー中に分散して用いてもよい。
【0124】
また、発光層中の発光ドーパント濃度に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料および発光ドーパントの蒸着速度を連続的または周期的に変化させる方法を用いることができる。
【0125】
5.陽極
本発明に用いられる陽極は、透明であっても不透明であってもよいが、陽極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0126】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。また、陽極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。
【0127】
陽極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陽極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0128】
6.陰極
本発明に用いられる陰極は、透明であっても不透明であってもよいが、陰極側から光を取り出す場合には透明電極である必要がある。
【0129】
陰極には、電子が注入しやすいように仕事関数の小さな導電性材料を用いることが好ましい。また、陰極は抵抗ができるだけ小さいことが好ましく、一般には、金属材料が用いられるが、有機物あるいは無機化合物を用いてもよい。具体的には、単体としてAl、Cs、Er等、合金としてMgAg、AlLi、AlLi、AlMg、CsTe等、積層体としてCa/Al、Mg/Al、Li/Al、Cs/Al、Cs2O/Al、LiF/Al、ErF3/Al等が挙げられる。
【0130】
陰極は、一般的な電極の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
また、陰極の厚みとしては、目的とする抵抗値や可視光線透過率、および導電性材料の種類により適宜選択される。
【0131】
7.基板
本発明における基板は、上記の陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極等を支持するものである。陽極もしくは陰極が所定の強度を有する場合には、陽極もしくは陰極が基板を兼ねていてもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に陽極もしくは陰極形成される。また、一般的に有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、通常は、基板上には、陽極、正孔注入輸送層、発光層、電子注入輸送層、および陰極の順に積層される。
【0132】
基板は、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には透明基板である必要がある。透明基板としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板などを用いることができる。
【0133】
II.第2実施態様
本発明の有機EL素子の第2実施態様は、陽極と、上記陽極上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、上記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とするものである。
【0134】
図10は本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図11、図12はそれぞれ、図10に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。なお、図10では、m=3の場合を例にして考えるものとする。
本実施態様においては、図10に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、第1の正孔注入輸送層4と、発光層7と、第3の電子注入輸送層11と、第2の電子注入輸送層10と、第1の電子注入輸送層8と、陰極9とが順に積層したものである。
発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第nの電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図11に例示するように、Ip0>Ip3'>Ip2'>Ip1'となっていてもよいし、図12に例示するように、Ip0=Ip3'=Ip2'=Ip1'となっていてもよい。
また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第nの電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図11に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよいし、図12に例示するようにEa0=Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよい。
【0135】
本発明によれば、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から各電子注入輸送層を介して発光層に電子を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陰極の仕事関数と発光層の構成材料の電子親和力との差が比較的大きい場合であっても、発光層への電子の輸送を円滑化することができる。
また、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0136】
本実施態様の有機EL素子としては、上記発光層と陽極との間に1層以上の正孔注入輸送層が形成されていることが好ましい。
【0137】
例えば、図10に示すように、陽極2と発光層7との間に第1の正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の正孔注入輸送層4の電子親和力をEa1としたとき、図11および図12に例示するように、Ea0≦Ea1であることが好ましい。また、上記第1の正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、図11および図12に例示するように、Ip0≧Ip1であることが好ましい。
【0138】
通常、このような有機EL素子では、Ea0≦Ea1、かつ、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、発光層内で効率良く電荷再結合を起こし励起状態を生成させ放射失活させることが困難であり、発光効率が低下したり、また対極への正孔および電子の突き抜けが起こり、正孔注入輸送層へ電子が注入されたり電子注入輸送層へ正孔が注入されたりすることによって、寿命特性が悪くなったりすることが想定される。しかしながら、本発明においては、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1であり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルが、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、対極への正孔および電子の突き抜けは起こるものの、陽極および陰極間を正孔および電子が円滑に輸送されるので、駆動中における各電子注入輸送層、発光層、および第1の正孔注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。また、正孔および電子が円滑に輸送されることによって、発光層内全体で正孔および電子が再結合するため、正孔および電子の再結合効率が著しく低下することもない。したがって、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1となり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように、各電子注入輸送層、第1の正孔注入輸送層、および発光層にそれぞれ用いる材料を適宜選択することにより、高効率化を図り、顕著に安定な寿命特性を得ることが可能である。
【0139】
また、発光層および第1の正孔注入輸送層のイオン化ポテンシャルが上述の関係となるように、発光層の陽極側に第1の正孔注入輸送層を形成することにより、発光層へ正孔注入しやすくなるため、発光層内での正孔と電子との再結合効率が高くなる。
【0140】
図13は本実施態様の有機EL素子の他の一例を示す概略断面図であり、図14、図15はそれぞれ、図13に示す有機EL素子のバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
本実施態様においては、図13に例示するように、発光層7と第1の正孔注入輸送層4との間に第2の正孔注入輸送層5が形成されていることが好ましい。
この場合、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、 第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、図14および図15に例示するように、Ea0≦Ea2≦Ea1であることが好ましい。また、発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、 第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、図14に例示するように、Ip0>Ip2>Ip1であることが好ましい。
【0141】
なお、上記説明していない構成と、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャル、および電子親和力の関係とは図10から図12で説明したものと同様であるため、記載を省略する。
【0142】
本実施態様においては、第1の正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea2≦Ea1になるよう正孔注入輸送層を形成することにより、駆動中における各正孔注入輸送層、および発光層の各層の界面での電荷の蓄積がなく、劣化を抑制することができる。また、、第1の正孔注入輸送層、第2の正孔注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0>Ip2>Ip1になるよう正孔注入輸送層を形成することにより、複数層の正孔注入輸送層を介して正孔を発光層へ円滑に輸送することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子とすることが可能である。
【0143】
なお、本実施態様の有機EL素子における各構成については、「I.第1実施態様」で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0144】
III.第3実施態様
本発明の有機EL素子の第3実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、3層以上の正孔注入輸送層と発光層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とするものである。
【0145】
図16は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図であり、図17は、図16に示す有機EL素子の動作機構を示す模式図である。
図16に例示するように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と発光ユニット12aと電荷発生層13aと発光ユニット12bと電荷発生層13bと発光ユニット12cと陰極9とが順次積層されたものである。すなわち、陽極および陰極間には、発光ユニットおよび電荷発生層が交互に繰り返し形成されている。一般に有機EL素子においては、陽極側から正孔(h)、陰極側から電子(e)が注入されて発光ユニット内で正孔および電子が再結合し励起状態を生成して発光する。上記の有機EL素子においては、電荷発生層13a,13bを介して3個の発光ユニット12a,12b,12cが積層されており、図17に例示するように陽極3側から正孔(h)、陰極9側から電子(e)が注入され、また電荷発生層13a,13bによって陰極9方向に正孔(h)、陽極3方向に電子(e)が注入されて、各発光ユニット12a,12b,12c内で正孔および電子の再結合が生じ、複数の発光が陽極3および陰極9間で発生する。
【0146】
また、発光ユニット12a,12b,12cはそれぞれ、陽極3側から、3層以上の正孔注入輸送層(図16中では、第1の正孔注入輸送層4、第2の正孔注入輸送層5、第3の正孔注入輸送層6)と発光層7と第1の電子注入輸送層8とが順次積層されたものとなっている。
【0147】
正孔注入は、層の価電子帯からの電子の引き抜きによる、ラジカルカチオンの生成を意味する。電荷発生層の陰極側に接する正孔注入輸送層の価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層の陽極側に接する電子注入輸送層の導電帯に注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用される。電荷発生層においては、ラジカルアニオン状態(電子)とラジカルカチオン状態(正孔)とが電圧印加時にそれぞれ陽極方向および陰極方向へ移動することにより、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入し、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入する。すなわち、陽極および陰極間に電圧が印加されると、陽極側から正孔、陰極側から電子が注入されると同時に、電子および正孔が電荷発生層にて発生して電荷発生層から分離し、電荷発生層中に発生した電子は陽極方向に向かい、隣接する発光ユニットに注入され、電荷発生層中に発生した正孔は陰極の方に向かい、隣接する発光ユニットに注入される。続いて、これらの電子および正孔は、発光ユニットにて再結合して光を発生する。
【0148】
したがって本実施態様によれば、陽極および陰極間に電圧が印加されたとき、各発光ユニットが直列的に接続されて同時に発光することになり、高い電流効率が実現可能である。
【0149】
陽極および陰極間に単一の発光ユニットが挟まれた構成を有する有機EL素子(以下、この項において単一発光ユニットの有機EL素子という。)では、「外部回路で測定される電子(数)/秒に対する、光子(数)/秒の比」である量子効率の上限は、理論上、1(=100%)であった。これに対し、本実施態様の有機EL素子においては、理論上の限界はない。これは、上述したように、図17に例示する正孔(h)注入は、発光ユニット12b,12cの価電子帯からの電子の引き抜きを意味しており、電荷発生層13a,13bの陰極9側に接する発光ユニット12b,12cの価電子帯から引き抜かれた電子は、電荷発生層13a,13bの陽極3側に接する発光ユニット12a,12bの導電帯にそれぞれ注入されることで発光性励起状態を作り出すために再利用されるからである。したがって、電荷発生層を介して積層された各発光ユニットの量子効率(この場合は、各発光ユニットを(見かけ上)通過する電子(数)/秒と、各発光ユニットから放出される光子(数)/秒の比と定義される。)の総和が、本実施態様の有機EL素子の量子効率となり、その値に上限はない。
【0150】
また、単一発光ユニットの有機EL素子の輝度は、電流密度にほぼ比例し、高輝度を得るためには必然的に高い電流密度が必要である。一方、素子寿命は、駆動電圧ではなく電流密度に反比例するため、高輝度発光は素子寿命を短くする。これに対し、本実施態様の有機EL素子は、例えばn倍の輝度を所望電流密度にて得たい場合は、陽極および陰極間に存在する同一の構成の発光ユニットをn個とすれば、電流密度を上昇させることなくn倍の輝度を実現できる。n倍の輝度が寿命を犠牲にせずに実現できるのである。
【0151】
さらに、単一発光ユニットの有機EL素子では、駆動電圧の上昇により電力変換効率(W/W)の低下を招いていた。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、n個の発光ユニットを陽極および陰極間に存在させると発光開始電圧(turn on Voltage)等も略n倍となるため、所望輝度を得るための電圧も略n倍となるが、量子効率(電流効率)も略n倍となるため、原理的には電力変換効率(W/W)は変化しないことになる。
【0152】
また本実施態様によれば、発光ユニットが複数層存在するため、素子短絡の危険性を低減できるという利点を有する。単一発光ユニットの有機EL素子は、1個の発光ユニットのみを有するため、発光ユニット中に存在するピンホール等の影響によって陽極および陰極間に(電気的)短絡を生じた場合は、即無発光素子となってしまうおそれがある。これに対し、本実施態様の有機EL素子の場合は、陽極および陰極間に複数個の発光ユニットが積層されているため厚膜であり、短絡の危険性を低下させることができる。さらに、ある特定の発光ユニットが短絡していたとしても、他の発光ユニットは発光可能であり、無発光という事態を回避できる。特に定電流駆動であれば、駆動電圧が短絡した発光ユニット分低下するだけであり、短絡していない発光ユニットは正常に発光可能である。
【0153】
さらに、例えば有機EL素子を単純マトリクス構造の表示装置に適用する場合、電流密度の減少により、配線抵抗による電圧降下や基板の温度上昇を、単一発光ユニットの有機EL素子の場合に比べて大きく低減できる。この点でも、本実施態様の有機EL素子は有利である。
【0154】
また、例えば有機EL素子を大面積を均一に光らせるような用途、特に照明に適用する場合にも、上記の特徴は充分有利に働く。単一発光ユニットの有機EL素子においては、電極材料、特にITO等に代表される透明電極材料の比抵抗(〜10-4Ω・cm)は、金属の比抵抗(〜10-6Ω・cm)に比べて2桁程度高いので、給電部分から距離が離れるにつれて、発光ユニットにかかる電圧(V)(もしくは電場E(V/cm))が低下するため、結果的に給電部分近傍と遠方での輝度むら(輝度差)を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施態様の有機EL素子のように所望の輝度を得るに際して、単一発光ユニットの有機EL素子よりも電流値を大きく低減できれば、電位降下を低減でき、結果的に略均一な大面積の発光を得ることが可能となる。
【0155】
図18(a),(b)はそれぞれ、図16に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
この発光ユニットにおいては、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3、上記発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0とすると、図18(a)に例示するようにIp1<Ip2<Ip3<Ip0となっていてもよく、図18(b)に例示するようにIp1<Ip2<Ip3=Ip0となっていてもよい。
また、上記第1の正孔注入輸送層4の構成材料の電子親和力をEa1、上記第2の正孔注入輸送層5の構成材料の電子親和力をEa2、上記第3の正孔注入輸送層6の構成材料の電子親和力をEa3、上記発光層7の構成材料の電子親和力をEa0とすると、図18(a)に例示するように、Ea0<Ea3<Ea2<Ea1となっていてもよく、図18(b)に例示するように、Ea0=Ea3=Ea2=Ea1となっていてもよい。
【0156】
本発明によれば、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、陽極から各正孔注入輸送層を介して発光層に正孔を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陽極の仕事関数と発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルIp0との差が比較的大きい場合であっても、発光層への正孔の輸送を円滑化することができる。
また、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1となるように陽極と発光層との間に3層以上の正孔注入輸送層が形成されていることにより、正孔注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0157】
本実施態様の有機EL素子としては、発光ユニットが、上記発光層と陰極または電荷発生層との間に1層以上の電子注入輸送層を有することが好ましい。
以下、本実施態様の有機EL素子の例として、1層の電子注入輸送層を有するものについて図を用いて説明する。
【0158】
例えば図16に示すように発光層7と陰極9または電荷発生層13a,13bとの間に第1の電子注入輸送層8が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の電子注入輸送層8のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、図18に例示するようにIp1'≦Ip0であることが好ましい。また、上記第1の電子注入輸送層8の電子親和力をEa1'としたとき、図18に例示するようにEa0≦Ea1'であることが好ましい。
【0159】
上記の場合、電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ip1'であり、かつ、各正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であるので、上記第1実施態様の場合と同様に、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0160】
なお、正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の関係は「I.第1実施態様」の項で説明したものと同様なので、ここでの記載は省略する。
【0161】
本実施態様においては、発光位置がとびとびに分離して複数存在している。従来、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層された有機EL素子(マルチフォトンエミッション)では、素子の厚みが厚くなるにつれて干渉効果が顕著になり、色調(すなわち、発光スペクトル形状)が大きく変化するという不具合があった。具体的には、発光スペクトル形状が変化したり、また元の発光ピーク位置の発光が顕著な干渉効果によって相殺され、結果的に大幅に発光効率が低下したり、発光の放射パターンの角度依存性が発生したりしてしまう。一般的には、発光位置から反射電極までの光学膜厚を制御することにより、干渉効果による不具合に対処することができる。
【0162】
しかしながら、光学膜厚の制御によって正面輝度を改善できたとしても、斜めからの輝度については光路長が変わるため干渉効果によって低下する傾向がある。
これに対し、本実施態様においては、従来のように発光層とブロッキング層との界面で支配的に正孔および電子が再結合するのではなく、発光層内全体で正孔および電子が再結合するので、従来のマルチフォトンエミッションと比較して、発光色の視野角依存性を改善することができる。
【0163】
以下、本実施態様の有機EL素子における各構成について説明する。なお、陽極、陰極、および基板については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0164】
1.電荷発生層
本実施態様において、電荷発生層とは、所定の比抵抗を有する電気絶縁性の層であって、電圧印加時において素子の陰極方向に正孔を注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層をいう。
【0165】
電荷発生層は、比抵抗が1.0×102Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0×105Ω・cm以上であることが好ましい。
【0166】
また、電荷発生層は、可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。可視光の透過率が上記範囲未満であると、生成した光が電荷発生層を通過する際に吸収され、複数個の発光ユニットを有していても所望の量子効率(電流効率)が得られなくなる可能性があるからである。
【0167】
電荷発生層に用いられる材料としては、上記の比抵抗を有するものであれば特に限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれも使用可能である。
【0168】
中でも、電荷発生層は、酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成されうる、異なる2種類の物質を含有するものであることが好ましい。この2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンとからなる電荷移動錯体が形成され、この電荷移動錯体中のラジカルカチオン状態(正孔)とラジカルアニオン状態(電子)が、電圧印加時にそれぞれ陰極方向または陽極方向へ移動することにより、電荷発生層の陰極側に接する発光ユニットへ正孔を注入し、電荷発生層の陽極側に接する発光ユニットへ電子を注入することができる。
【0169】
電荷発生層は、異なる2種類の物質それぞれからなる層が積層されたものであってもよく、異なる2種類の物質を含有する単一の層であってもよい。
【0170】
電荷発生層に用いられることなる2種類の物質としては、(a)正孔輸送性、すなわち電子供与性を有する有機化合物、および、(b)上記(a)の有機化合物との酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる無機物質または有機物質、であることが好ましい。また、この(a)成分と(b)成分との間では酸化還元反応による電荷移動錯体が形成されていることが好ましい。
【0171】
なお、電荷発生層を構成する2種類の物質が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、分光学的分析手段によって確認することができる。具体的には、2種類の物質がそれぞれ単独では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、2種類の物質の混合膜では、波長800nm〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピークが示されれば、2種類の物質間での電子移動を明確に示唆する存在(もしくは証拠)として、2種類の物質間での酸化還元反応による電荷移動錯体の形成を確認することができる。
【0172】
(a)成分の有機化合物としては、例えば、アリールアミン化合物を挙げることができる。アリールアミン化合物は、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0173】
【化3】
【0174】
ここで、上記式において、Ar1,Ar2,Ar3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0175】
このようなアリールアミン化合物としては、例えば、特開2003−272860号公報に記載のアリールアミン化合物を用いることができる。
【0176】
また、(b)成分の物質は、例えば、V2O5、Re2O7、4F−TCNQ等が挙げられる。さらに、(b)成分の物質としては、正孔注入輸送層に用いられる材料であってもよい。
【0177】
なお、電荷発生層については、特開2003−272860号公報に詳しい。
【0178】
2.発光ユニット
本実施態様における発光ユニットは、対向する陽極および陰極の間に複数個形成されるものであり、また3層以上の正孔注入輸送層と発光層とが順次積層されたものである。さらに、発光ユニットを構成する正孔注入輸送層、および発光層は、各層の構成材料のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力が所定の関係を満たしている。
【0179】
本実施態様に用いられる発光ユニットは、発光層から陽極側に1層以上の電子注入輸送層が形成されてもよい。
【0180】
なお、発光層、正孔注入輸送層、および電子注入輸送層については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0181】
本実施態様においては、電荷発生層を介して複数個の発光ユニットが積層されている。発光ユニットの積層数としては、複数、すなわち2層以上であれば特に限定されるものではなく、例えば3層、4層、またはそれ以上であってもよい。この発光ユニットの積層数は、高い輝度が得られる数であることが好ましい。
【0182】
また、各発光ユニットの構成は、同じであっても異なっていてもよい。
例えば赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ発光する3層の発光ユニットを積層することができる。この場合には白色光を発生させることができる。このような白色光を発生する有機EL素子を例えば照明用途に用いた場合には、大面積から生じる高い輝度を得ることができる。
【0183】
白色光を発生する有機EL素子とする場合には、各発光ユニットからの発光の強度および色相は、それらが組み合わさって白色光または白色光に近い光を生成するように選択される。白色に見える光を生成するために使用できる発光ユニットとしては、上記の赤色光、緑色光および青色光の組み合わせの他、多くの組合せがある。例えば、青色光と黄色光、赤色光とシアン光、または、緑色光とマゼンタ光、の組み合わせを挙げることができ、このように二色の光をそれぞれ発光する2層の発光ユニットを用いて白色光を生成させることができる。また、これらの組み合わせを複数種用いて、有機EL素子を得ることもできる。
【0184】
また、青色光を発生する有機EL素子を利用して色変換方式によりカラー表示装置に適用することもできる。従来では、青色光を生じる発光材料は寿命が短いという不具合があったが、本実施態様の有機EL素子は高効率で長寿命であるため、このようなカラー表示装置にも有利である。
【0185】
IV.第4実施態様
本発明の有機EL素子の第4実施態様は、対向する陽極および陰極の間に、発光層と3層以上の電子注入輸送層とが順次積層された発光ユニットを複数個有し、隣接する上記発光ユニット間に電荷発生層が形成された有機EL素子であって、上記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、上記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、上記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、上記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、上記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とするものである。
【0186】
図19は、本実施態様の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
図19に例示するように、本実施態様の発光ユニット12a,12b,12cはそれぞれ、陽極3側から、第1の正孔注入輸送層4と発光層7と3層以上の電子注入輸送層(図19中では、第3の電子注入輸送層11、第2の電子注入輸送層10、第1の電子注入輸送層8)とが順次積層されたものとなっている。
【0187】
図20(a),(b)はそれぞれ、図19に示す有機EL素子における発光ユニットのバンドダイヤグラムの一例を示す模式図である。
発光層7の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、第1の電子注入輸送層8の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp3'としたとき、図20(a)に例示するように、Ip0>Ip3'>Ip2'>Ip1'となっていてもよいし、図20(b)に例示するように、Ip0=Ip3'=Ip2'=Ip1'となっていてもよい。
また、発光層7の構成材料の電子親和力をEa0、第1の電子注入輸送層8の構成材料の電子親和力をEa1'、 第2の電子注入輸送層10の構成材料の電子親和力をEa2'、第3の電子注入輸送層11の構成材料の電子親和力をEa3'としたとき、図20(a)に例示するように、Ea0<Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよいし、図20(b)に例示するようにEa0=Ea3'<Ea2'<Ea1'となってもよい。
【0188】
本発明によれば、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、陰極から各電子注入輸送層を介して発光層に電子を円滑に輸送することができる。そのため、例えば発光層の構成材料のバンドギャップエネルギーが比較的大きい場合であって、陰極の仕事関数と発光層の構成材料の電子親和力との差が比較的大きい場合であっても、発光層への電子の輸送を円滑化することができる。
また、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'となるように陰極と発光層との間に3層以上の電子注入輸送層が形成されていることにより、電子注入輸送層および発光層の界面での劣化を抑制することができる。
【0189】
なお、発光ユニット以外の構成や、動作機構については「III.第3実施態様」の項で記載したものと同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0190】
本実施態様の有機EL素子としては、発光ユニットが上記発光層と陽極または電荷発生層との間に1層以上の正孔注入輸送層を有することが好ましい。
【0191】
例えば、図19に示すように、発光層7と陰極3または電荷発生層13a、13bとの間に第1の正孔注入輸送層4が形成されていることが好ましい。
この場合、上記第1の正孔注入輸送層4の電子親和力をEa1としたとき、図20に例示するように、Ea0≦Ea1であることが好ましい。また、上記第1の正孔注入輸送層4のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、図20に例示するように、Ip0≧Ip1であることが好ましい。
【0192】
上記の場合、第1の正孔注入輸送層および発光層の構成材料の電子親和力がEa0≦Ea1であり、かつ、各電子注入輸送層および発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルがIp0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であるので、上記第2実施態様の場合と同様に、駆動中における正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層の各層の界面での劣化を抑制することができる。したがって、高効率で長寿命な有機EL素子を得ることが可能である。
【0193】
なお、正孔注入輸送層、発光層、および電子注入輸送層のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の関係は「I.第1実施態様」の項で説明したものと同様なので、ここでの記載は省略する。
【0194】
本実施態様の有機EL素子の各構成については、発光ユニットを構成する各層に関しては、「II.第2実施態様」の項、その他の項に関しては、「III.第3実施態様」の項に記載したものとそれぞれ同様であるのでここでの記載は省略する。
【0195】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0196】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
まず、実施例で用いた材料の構造式、イオン化ポテンシャルおよび電子親和力を下記表1に示す。
【0197】
【化4】
【0198】
【表1】
【0199】
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。続いて、TBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。更に、TCTAを真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、第3の正孔注入輸送層を形成した。
【0200】
次に、ホスト材料として4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)を用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(piq)3を用いて、上記第3の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで30nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0201】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第2の電子注入輸送層上に、TBADNと、Liqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0202】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0203】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
発光層形成までは実施例1と同様の方法で、ITO基板上に、第1の正孔注入輸送層40nm、第2の正孔注入輸送層10nm、第3の正孔注入輸送層10nm、発光層30nmを形成した。
【0204】
発光層を形成した後、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第3の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第3の電子注入輸送層上に、Alq3を、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。続いて、Alq3とLiqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0205】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0206】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、TBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚50nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。続いて、TBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。
【0207】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(piq)3を用いて、上記第2の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(piq)3を、Ir(piq)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで30nmの厚さに真空蒸着により成膜し、発光層を形成した。
【0208】
上記発光層上に、TBADNを真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第3の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第3の電子注入輸送層上に、Alq3を、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。続いて、Alq3とLiqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0209】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0210】
[実施例4]
(有機EL素子の作製)
まず、ガラス基板上に陽極としてITOが2mm幅のライン状にパターニングされたITO基板を準備した。そのITO基板上に、銅フタロシアニン(CuPc)を真空度10-5Paの条件下、1Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第1の正孔注入輸送層を形成した。次に、第1の正孔注入輸送層上にTBADNとMoO3とを重量比67:33で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により1.5Å/secの蒸着速度で合計膜厚40nmとなるように成膜し、続いてTBADNを蒸着により1.0Å/secの蒸着速度で膜厚10nmとなるように成膜し、第2の正孔注入輸送層を形成した。更に、TCTAを真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で合計膜厚10nmとなるように成膜し、第3の正孔注入輸送層を形成した。
【0211】
次に、ホスト材料としてCBPを用い、発光中心となる発光ドーパントとしてIr(ppy)3を用いて、上記第3の正孔注入輸送層上に、CBPおよびIr(ppy)3を、Ir(ppy)3濃度が5wt%となるように、真空度10-5Paの条件下、蒸着により1Å/secの蒸着速度で膜厚30nmとなるように成膜し、発光層を形成した。
【0212】
次に、上記発光層上に、TBADNを、真空度10-5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで10nmの厚さに真空蒸着により成膜し、第2の電子注入輸送層を形成した。次に、上記第2の電子注入輸送層上に、TBADNと、Liqとを重量比1:1で真空度10-5Paの条件下、共蒸着により蒸着速度1Å/secで膜厚10nmに成膜し、第1の電子注入輸送層を形成した。
【0213】
最後に、上記第1の電子注入輸送層上に陰極としてAlを蒸着速度5Å/secで100nmの厚さに蒸着した。
【0214】
[比較例1]
(有機EL素子の作製)
実施例1で用いた方法と同様にして、ITO基板上に第1の正孔注入輸送層70nm、発光層30nm、第2の電子注入輸送層10nm、第1の電子注入輸送層10nm、および陰極を形成して有機EL素子を作製した。
【0215】
[比較例2]
(有機EL素子の作製)
実施例1で用いた方法と同様にして、ITO基板上に第1の正孔注入輸送層50nm、第2の正孔注入輸送層10nm、発光層30nm、第1の電子注入輸送層30nm、および陰極を形成して有機EL素子を作製した。
【0216】
[評価]
表2に実施例1〜4および比較例1〜2の有機EL素子の発光特性を示す。
【0217】
【表2】
【0218】
実施例1〜4および比較例1〜2の有機EL素子を比較すると、実施例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が10cd/Aであった。また、実施例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が12cd/Aであった。また、実施例3の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が14cd/Aであった。さらに、実施例4の有機EL素子では、正面輝度の発光効率が28cd/Aであった。一方、比較例1の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は8cd/Aであった。また、比較例2の有機EL素子では、正面輝度の発光効率は6cd/Aであった。
また、寿命特性については、初期輝度1000cd/m2からの輝度半減寿命を定電流密度下で観察したところ、実施例1の有機EL素子では、輝度が半減する時間は240時間を達成した。また、実施例2の有機EL素子では、輝度が半減する時間は250時間を達成した。また、実施例3の有機EL素子では、輝度が半減する時間は300時間を達成した。さらに、実施例4の有機EL素子では、輝度が半減する時間は370時間を達成した。
【符号の説明】
【0219】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 第1の正孔注入輸送層
5 … 第2の正孔注入輸送層
6 … 第3の正孔注入輸送層
7 … 発光層
9 … 陰極
8 … 第1の電子注入輸送層
10 … 第2の電子注入輸送層
11 … 第3の電子注入輸送層
12a,12b,12c … 発光ユニット
13a,13b … 電荷発生層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、前記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、前記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、前記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層と前記陰極との間に第1の電子注入輸送層が形成され、前記第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であり、かつ、前記第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、Ea0≦Ea1'であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層と前記第1の電子注入輸送層との間に第2の電子注入輸送層が形成され、前記第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であり、かつ、前記第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、Ea0<Ea2'<Ea1'であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層と前記陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成され、前記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、前記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、前記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、前記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
陽極と、前記陽極上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、前記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、前記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、前記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、前記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層と前記陽極との間に第1の正孔注入輸送層が形成され、前記第1の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1としたとき、Ea0≦Ea1であり、かつ、前記第1の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、Ip0≧Ip1であることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層と前記第1の正孔注入輸送層との間に第2の正孔注入輸送層が形成され、前記第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea0≦Ea2≦Ea1であり、かつ、前記第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip0>Ip2>Ip1であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記正孔注入輸送層および前記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項2、請求項3、請求項4、請求項6、または請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、前記発光層中の前記発光ドーパントの濃度に分布があることを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有することを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された3層以上の正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記3層以上の正孔注入輸送層をそれぞれ、前記陽極側から順に、第1、第2、…、第n(n≧3の整数)の正孔注入輸送層とし、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、前記第x(x=1〜nの整数)の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEaxとしたとき、Ea0≦Ean、x=2〜nのすべてについてEax≦Eax−1であり、かつ、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、前記第xの正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpxとしたとき、Ip0≧Ipn、x=2〜nのすべてについてIpx>Ipx-1であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層と前記陰極との間に第1の電子注入輸送層が形成され、前記第1の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1'としたとき、Ip0≧Ip1'であり、かつ、前記第1の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1'としたとき、Ea0≦Ea1'であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層と前記第1の電子注入輸送層との間に第2の電子注入輸送層が形成され、前記第2の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2'としたとき、Ip0≧Ip2'≧Ip1'であり、かつ、前記第2の電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2'としたとき、Ea0<Ea2'<Ea1'であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層と前記陰極との間に3層以上の電子注入輸送層が形成され、前記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、前記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、前記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、前記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
陽極と、前記陽極上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された3層以上の電子注入輸送層と、前記電子注入輸送層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記3層以上の電子注入輸送層をそれぞれ、前記陰極側から順に、第1、第2、…、第m(m≧3の整数)の電子注入輸送層とし、前記発光層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp0、前記第y(y=1〜mの整数)の電子注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIpy'としたとき、Ip0≧Ipm'、y=2〜mのすべてについてIpy'≧Ipy−1'であり、かつ、前記発光層の構成材料の電子親和力をEa0、前記第yの電子注入輸送層の構成材料の電子親和力をEay'としたとき、Ea0≦Eam'、y=2〜mのすべてについてEay'<Eay−1'であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層と前記陽極との間に第1の正孔注入輸送層が形成され、前記第1の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa1としたとき、Ea0≦Ea1であり、かつ、前記第1の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp1としたとき、Ip0≧Ip1であることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層と前記第1の正孔注入輸送層との間に第2の正孔注入輸送層が形成され、前記第2の正孔注入輸送層の構成材料の電子親和力をEa2としたとき、Ea0≦Ea2≦Ea1であり、かつ、前記第2の正孔注入輸送層の構成材料のイオン化ポテンシャルをIp2としたとき、Ip0>Ip2>Ip1であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記正孔注入輸送層および前記電子注入輸送層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項2、請求項3、請求項4、請求項6、または請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光層が、正孔および電子を輸送しうるバイポーラ材料を含有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記正孔注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記電子注入輸送層に含有されるバイポーラ材料と、前記発光層に含有されるバイポーラ材料とが同一であることを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層がホスト材料と発光ドーパントとを含有しており、前記発光層中の前記発光ドーパントの濃度に分布があることを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記発光層が、ホスト材料と、2種類以上の発光ドーパントとを含有することを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−9498(P2011−9498A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152104(P2009−152104)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]