説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】正孔注入層への水分の浸入が防止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子1は、一対の電極(陽極20、陰極30)間に、少なくとも正孔注入層41および発光層43を備えた発光部40を有し、正孔注入層41は、導電性塗料から形成された導電性塗膜からなり、前記導電性塗料は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとエポキシ化合物の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフッ素含有エポキシ化合物と溶剤とを含み、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際のフッ素含有エポキシ化合物の質量比率が0.5〜3.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に正孔注入層と発光層を備えた発光部を有する有機エレクトロルルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型ディスプレイとして、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイに続いて、有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイが商品化されてきている。
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光物質が発光する原理を用いた自発発光素子である。具体的に、有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、発光層とそれを機能的に動作させるための薄膜層との積層体からなる発光部を備えたものである。薄膜層としては、陽極から正孔を注入するための正孔注入層、正孔を発光層に輸送するための正孔輸送層などが使用されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔注入層としては、塗布方式で形成できることから、π共役系導電性高分子を含む薄膜を用いることがある(特許文献1,2)。ここで、正孔注入層は、正孔輸送層の最高被占軌道(HOMO)準位と陽極の仕事関数との間のHOMO準位を有し、陽極から発光層への正孔注入障壁を下げる役割を果たす。π共役系導電性高分子を正孔注入層に用いた場合には、表面抵抗率が10〜10Ω/□になる導電性を有すれば、正孔注入層として好適であると言われている。
有機エレクトロルミネッセンス素子の性能を向上させるために、正孔注入層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびポリスチレンスルホン酸(以下、「PEDOT/PSS」という。)を含む導電性ポリマーに含フッ素ポリマー酸を組み合わせたものを用いることが知られている。例えば、特許文献3には、パーフルオロエチレンスルホン酸存在下でチオフェンを酸化重合した水分散系ポリチオフェンを正孔注入層に用いることによって、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率および寿命が向上することが開示されている。
また、特許文献4には、PEDOT/PSSにNafion(登録商標)を混合した材料を正孔注入層に用いることによって、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命が向上することが開示されている。
【0004】
ところが、PEDOT/PSSに代表される導電性高分子は水溶性のものが多いため、正孔注入層のような数十ナノメートルオーダーの塗膜では、大気中の水分を吸収して初期性能を維持できないことがある。また、水分を吸収した際には、塗膜中のイオン性物質の移動が容易となるため、蓄電効果が生じ、それが漏れ電流となって発光特性に悪影響を与えるおそれもある。
塗工後の水分を高効率で除去し、安定した塗膜を得る方法として、ガラス転移点以上での乾燥(特許文献5)や凍結乾燥(特許文献6)が開示されているが、塗膜になった後の水の浸入を防止することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1227529号明細書
【特許文献2】特開2005−108828号公報
【特許文献3】特表2006−500463号公報
【特許文献4】特開2005−226072号公報
【特許文献5】特開2004−55283号公報
【特許文献6】特開2004−55279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、正孔注入層への水分の浸入が防止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、少なくとも正孔注入層および発光層を備えた発光部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層は、導電性塗料から形成された導電性塗膜からなり、前記導電性塗料は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとエポキシ化合物の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフッ素含有エポキシ化合物と溶剤とを含み、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際のフッ素含有エポキシ化合物の質量比率が0.5〜3.0であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、正孔注入層への水分の浸入が防止されている。そのため、耐湿性能が高く、初期性能を維持しやすい。さらに、大気中の水分の影響を受けにくく、長期間放置しても性能が劣化しないため、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する際の工程の自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「OEL素子」という。)の一実施形態について説明する。
図1に、本実施形態のOEL素子の断面図を示す。本実施形態のOEL素子1は、基材10と、基材10の片面側に設けられた陽極20および陰極30と、これらの間に設けられた発光部40とを有する。
【0011】
<発光部>
発光部40は、正孔注入層41と正孔輸送層42と発光層43と電子輸送層44との積層体からなっている。また、陽極20側から陰極30側に向かって、正孔注入層41、正孔輸送層42、発光層43、電子輸送層44の順に配置されている。
【0012】
(正孔注入層)
正孔注入層41は、導電性塗料から形成された導電性塗膜からなっている。
前記導電性塗料は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとフッ素含有のエポキシ化合物と溶剤とを含むものである。
【0013】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば特に制限されず、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。極性溶剤との相溶性及び透明性の面から、ポリチオフェン類がより好ましい。
【0014】
π共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0015】
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【0016】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。
なお、ポリアニオンはπ共役系導電性高分子に対するドーパントとしても機能する。
【0017】
ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和二重結合(ビニル基)が1個含まれる構成単位からなる高分子である。
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物と、オキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドを例示できる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等を例示できる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を例示できる。
【0018】
上記ポリアニオンが置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシ基等が挙げられる。溶剤への溶解性、耐熱性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシ基、フェノール基、エステル基が好ましい。
【0019】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、へキシル、オクチル、デシル、ドデシル等のアルキル基と、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。
ヒドロキシ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したヒドロキシ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。ヒドロキシ基は、これらの官能基の末端又は中に置換されている。
アミノ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したアミノ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。アミノ基は、これらの官能基の末端又は中に置換されている。
フェノール基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したフェノール基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。フェノール基は、これらの官能基の末端又は中に置換されている。
【0020】
置換基を有するポリアルキレンの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等を例示できる。
ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる1種以上の構成単位を含む重合体を例示できる。
【0021】
ポリアニオンのアニオン基としては、−O−SO、−SO、−COO(各式においてXは水素イオン、アルカリ金属イオンを表す。)が挙げられる。すなわち、ポリアニオンは、スルホ基及び/又はカルボキシ基を含有する高分子酸である。これらの中でも、π共役系導電性高分子へのドーピング効果の点から、−SO、−COOが好ましい。
また、このアニオン基は、隣接して又は一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
【0022】
上記ポリアニオンの中でも、溶剤溶解性及び導電性の点から、ポリイソプレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸を含む共重合体、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレートを含む共重合体、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)を含む共重合体、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸を含む共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸を含む共重合体等が好ましい。
【0023】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶剤溶解性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0024】
ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、得られる導電性塗膜において導電性が不足することがある。その上、溶剤への分散性及び溶解性が低くなり、均一な塗料を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0025】
[フッ素含有エポキシ化合物]
フッ素含有エポキシ化合物は、エポキシ化合物の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換された化合物である。
フッ素含有エポキシ化合物としては、π共役系導電性高分子との相溶性の点から、脂肪族系の化合物が好ましい。また、分岐した構造よりも直鎖状の構造が好ましい。
直鎖状のフッ素含有エポキシ化合物としては、例えば、下記一般式のものが挙げられる。
Gu−(OCH−{(CFO)q−(CnF2(n−m))}−(CHO)−Gu
ここで、Guはグリシジル基である。nは1以上の整数であり、優れた成形性を発現させる点では、1〜8であることが好ましい。m,p,qは各々0〜1であり(ただしm<n)、rは1〜3である。
【0026】
直鎖状のフッ素含有エポキシ化合物としては、保存安定性がより向上する点から、エポキシ基を2つ有すると共にエーテル結合を有することが好ましい。
エポキシ基を2つ有すると共にエーテル結合を有するエポキシ化合物としては、米国のエクスフロー社より、フッ素化トリエチレングリコールジエポキシド(製品名:C6GDEP)、フッ素化テトラエチレングリコールジエポキシド(製品名:C8GDEP)、1H,1H,4H,4H−パーフルオロ−1,4−ブタンジオールジエポキシド(製品名:C4DEP)、1H,1H,5H,5H−パーフルオロ−1,5−ペンタンジオールジエポキシド(製品名:C5DEP)、1H,1H,6H,6H−パーフルオロ−1,6−ヘキサンジオールジエポキシド(製品名:C6DEP)、1H,1H,8H,8H−パーフルオロ−1,8−オクタンジオールジエポキシド(製品名:C8DEP)、1H,1H,10H,10H−パーフルオロ−1,10−デカンジオールジエポキシド(製品名:C10DEP)が市販されている。
例えば、製品名C6GDEPは、上記一般式において、m=0、n=1、p=1、q=1、r=2のものであり、C5DEPはm=0、n=3、p=1、q=0、r=0のものである。 また、エーテル結合を有さないフッ素含有エポキシ化合物としては、ダイキン工業(株)より、1,6−ビス(2’,3’−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ヘキサン、1,4−ビス(2’,3’−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン、1,2−ビス(2’,3’−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−エタンが市販されている。 上記フッ素含有エポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。さらに、必要に応じて他のエポキシ樹脂、又はアクリル樹脂等の混合物として用
いてもよい。
【0027】
フッ素含有エポキシ化合物の含有量は、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際のフッ素含有エポキシ化合物の質量比率が0.5〜3.0であり、0.6〜2.9であることがより好ましい。フッ素含有エポキシ化合物の含有量が前記範囲内であると、π共役系導電性高分子による電気導電性と、フッ素含有エポキシ化合物による水遮断性を両立できる。しかし、フッ素含有エポキシ化合物の含有量が前記下限値未満であると、正孔注入層への水の浸入を防止できないことがあり、前記上限値を超えると、電荷移動の経路を充分に確保できなくなり、導電性が低下する傾向にある。
【0028】
[溶剤]
溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、n−アミルアルコール、s−アミルアルコール、t−アミルアルコール、アリルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−オクタノール、n−オクタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレンカルボナート、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン等のケトン類、アセト酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、蟻酸イソブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸メチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジエチル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジブチル、フタル酸エチル、フタル酸メチル、フタル酸ブチル、γ−ブチロラクトン、マロン酸エチル、マロン酸メチル等のエステル類などが挙げられる。なかでも、樹脂成分との相溶性の面から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0029】
溶剤の使用量は、フッ素含有エポキシ化合物を充分に溶解できることから、40〜99質量%が好ましく、50〜98質量%がより好ましい。溶剤使用量が40質量%以上であると、フッ素含有エポキシ化合物の溶解性が向上し、得られる導電性塗料の保存安定性が高くなり、99質量%以下であると、π共役系導電性高分子の分散性が高くなる。
【0030】
[他の成分]
導電性塗料は、高導電化剤を含有することが好ましい。ここで、高導電化剤とは、π共役系導電性高分子またはπ共役系導電性高分子のドーパントと相互作用し、π共役系導電性高分子の導電性を向上させるものである。
高導電化剤としては、例えば、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を含む化合物、2個以上のカルボキシル基を含む化合物、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を含む化合物、スルホ基とカルボキシル基を含む化合物、アミド基を含む化合物、イミド基を含む化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物等が挙げられる。
高導電化剤の中でも、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、グリコール類が好ましい。
【0031】
高導電化剤の含有量はπ共役系導電性高分子とポリアニオンの合計質量に対して1〜1000倍量であることが好ましく、2〜100倍量であることがより好ましい。高導電化剤の含有量が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による効果が充分に得られ、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度が高くなり、充分な導電性を確保できる。
【0032】
[形成方法]
正孔注入層41は、導電性塗料を基材10に塗布し、加熱することにより形成される。
塗布方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗工機を用いた塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が挙げられる。
【0033】
導電性塗料を塗布した後に加熱して、水及び溶剤を蒸発させて乾燥すると共にフッ素含有エポキシ化合物を硬化させる。加熱乾燥の際には、熱風乾燥機、赤外線乾燥機を用いることができる。加熱乾燥の前には、必要に応じて、加熱せずに送風して乾燥してもよい。
加熱温度は基材10の融点にもよるが100〜300℃にすることが好ましい。加熱温度が100℃以上であれば、フッ素含有エポキシ化合物を充分に架橋させて硬化させることができ、300℃以下であれば、熱による劣化を防止できる。
【0034】
[厚さ]
正孔注入層41の厚さ0.5nm〜1000nmであることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。
【0035】
(正孔輸送層)
正孔輸送層42は、正孔注入層41から発光層43に正孔を輸送するための層である。
正孔輸送層42を構成する材料としては、例えば、アリールアミン類;フタロシアニン類;酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物;アモルファスカーボン;ポリアニリン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体等の導電性高分子;などが挙げられる。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
正孔輸送層42の厚さ0.5nm〜1000nmであることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。
【0036】
(発光層)
発光層43は、発光材料を含有する層である。ここで、発光材料としては、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料が挙げられる。
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が挙げられる。
金属錯体系発光材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等が挙げられる。
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体(酸がドーピングされていないもの)、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体等が挙げられる。また、上記の色素系発光材料や金属錯体系発光材料を高分子化したもの等が挙げられる。
【0037】
発光層43の厚さは、用いる発光材料に応じて適宜選択されるが、駆動電圧と発光効率とを考慮すると、1nmから1μmであることが好ましく、2nm〜500nmであることがより好ましく、5nm〜200nmであることがさらに好ましい。
【0038】
発光層43の形成方法としては、例えば、蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等が挙げられる。これらのうち、蒸着法、スピンコート法およびインクジェット法が好ましい。
発光層は必要に応じて公知の方法によってパターニングしてもよい。
【0039】
(電子輸送層)
電子輸送層44は、陰極30から発光層43に電子を輸送するための層である。
電子輸送層44を構成する材料としては、トリス(8−キノリノエート)アルミニウム(Alq)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,20−フェナントロリン(BCP)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、シロール誘導体等が挙げられる。
電子輸送層44の厚さ0.5nm〜1000nmであることが好ましく、10nm〜500nmであることがより好ましい。
【0040】
<基材>
基材10は透明なシート又は板からなる。
基材10の具体例としては、ソーダライムガラス、石英ガラス等のガラス類、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アモルファスポリエチレンテレフタレート等の透明熱可塑性樹脂を主成分とするシートが挙げられる。また、必要に応じて、蒸着などによって透明電極が予め設けられていてもよい。
【0041】
<陽極>
陽極20は、透明導電層からなる電極である。透明導電層としては、導電性の金属酸化物の層、金属の層が挙げられる。導電性の金属酸化物としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、錫ドープ酸化インジウム(ITO)が挙げられ、なかでも、ITOが好ましい。金属としては、金、白金、銀、銅等が挙げられる。
陽極20の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0042】
陽極20の厚さは10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜1μmであることがより好ましく、50nm〜500nmであることがさらに好ましい。陽極20の厚さが前記下限値以上であれば、陽極20の導電性が向上し、前記上限値以下であれば、陽極20の透明性が向上する。
【0043】
<陰極>
陰極30は、仕事関数の小さい材料からなる層である。
仕事関数の小さい材料としては、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が挙げられる。
【0044】
陰極30の厚さは10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜1μmであることがより好ましく、50nm〜500nmであることがさらに好ましい。陰極30の厚さが前記下限値以上であれば、陰極30の導電性が向上し、前記上限値以下であれば、陰極30の耐久性が向上する。
【0045】
<OEL素子の作用効果>
上記実施形態のOEL素子1を構成する正孔注入層41は、フッ素含有エポキシ化合物を含有する導電性塗料によって形成されており、水分の浸入が防止されている。そのため、耐湿性能が高く、初期性能(特に導電性)を維持しやすい。さらに、大気中の水分の影響を受けにくく、長期間放置しても性能が劣化しないため、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する際の工程の自由度が高くなる。
【0046】
<OEL素子の他の実施形態>
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
本発明における発光部は、発光層と正孔注入層とを備えていればよく、上記実施形態における正孔輸送層、電子輸送層を省略してもよい。例えば、電子輸送層を構成する材料として例示したAlqは発光材料にもなるため、Alqを用いた場合には、電子輸送層と発光層とを兼ねることができる。また、電子輸送層と陰極との間に電子注入層が設けられていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例により限定されるものではない。
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の調製
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を2時間攪拌した。
これにより得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸1000mlと10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約10000ml溶液を除去し、残液に10000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
限外ろ過条件は下記の通りとした(他の例でも同様)。
限外ろ過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3000ml/分
膜分圧:0.12Pa
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0048】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水溶液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記ろ過処理が行われた処理液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)水溶液を得た。
【0049】
(製造例3)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)溶液の調製
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液125gに純水75g、2−プロパノール275g、ジメチルスルホキシド25gを混合、攪拌してPEDOT−PSS溶液(I)500gを得た。この溶液(I)におけるPEDOT−PSSの固形分濃度は0.3質量%であった。
【0050】
(実施例1)
フッ素含有エポキシ化合物(東ソー・エフテック株式会社製、製品名:H022、1,4−ビス(2,3−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン、化学式(1)参照)10gと2−プロパノール90gとを混合、攪拌し、フッ素含有エポキシ化合物溶液を得た。製造例3で得た溶液(I)10gに、上記フッ素含有エポキシ化合物溶液0.3g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は1.0)を混合、攪拌して、導電性高分子溶液を得た。
その導電性高分子溶液を、75×75×0.5mmソーダガラス基材にスピンコーターを用い、3,000回転/分、30秒の塗工条件で塗工した後、乾燥機を用いて150℃、15分間加熱し、乾燥・硬化させて導電性塗膜を形成して、導電性基材1を得た。
【0051】
【化1】

【0052】
(実施例2)
フッ素含有エポキシ化合物を、エクスフロー社製、製品名:C6GDEP(化学式(2)参照)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材2を得た。
【0053】
【化2】

【0054】
(実施例3)
フッ素含有エポキシ化合物を、エクスフロー社製、製品名:C5DEP、1H,1H,5H−パーフルオロ−1,5−ペンタジオール−ジエポキシド(化学式(3)参照)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材3を得た。
【0055】
【化3】

【0056】
(比較例1)
フッ素を含有していないエポキシ化合物(阪本薬品工業株式会社、製品名:SR−GLG、化学式(4)参照)10gと2−プロパノール90gを混合、攪拌し、フッ素を含有していないエポキシ化合物溶液を得た。製造例3で得た溶液(I)10gに、上記フッ素を含有していないエポキシ化合物溶液0.3gを混合、攪拌して、導電性高分子溶液を得た。その導電性高分子溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性基材4を得た。
【0057】
【化4】

【0058】
(比較例2)
フッ素を含有していないエポキシ化合物を、阪本薬品工業株式会社、製品名:SR−4GL(化学式(5)参照)に変更した以外は、比較例1と同様にして導電性基材5を得た。
【0059】
【化5】

【0060】
(比較例3)
フッ素を含有していないエポキシ化合物を、阪本薬品工業株式会社、製品名:SR−SEP(化学式(6)参照)に変更した以外は、比較例1と同様にして導電性基材6を得た。
【0061】
【化6】

【0062】
(実施例4)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.15g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は0.5)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材7を得た。
【0063】
(実施例5)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.18g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は0.6)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材8を得た。
【0064】
(実施例6)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.87g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は2.9)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材9を得た。
【0065】
(実施例7)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.9g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は3.0)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材10を得た。
【0066】
(比較例4)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.12g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は0.4)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材11を得た。
【0067】
(比較例5)
製造例3で得た溶液(I)10gに対する上記フッ素含有エポキシ化合物溶液の添加量を0.93g(π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際の質量比率は3.1)に変更した以外は、実施例1と同様にして導電性基材12を得た。
【0068】
〔導電性基材の環境試験〕
導電性基材1〜12を、温度60℃、相対湿度95%に調整した高温高湿環境試験器(機種名:ETAC HIFLEX FH24C)の中に1000時間放置し、その前後での表面抵抗値の測定を行った。
【0069】
〔導電性基材の表面抵抗値の測定〕
三菱化学(株)製 電気抵抗測定器(製品名:ローレスタGP MCP−T600、電極プローブ:ESP)を用いて表面抵抗率の測定を行った。表1,2には、表面抵抗率の変動値として、log(環境試験後の表面抵抗率B)−log(環境試験前の表面抵抗率A)の値を示す。なお、OEL素子の正孔注入層としては、表面抵抗率の絶対値が1×10〜1×10、変動値が±0.5以内が要求される。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
フッ素含有のエポキシ化合物を含む実施例1〜7の導電性基材は、高温高湿環境下に放置されても表面抵抗値が変化しにくく、正孔注入層で要求される範囲内になっていた。また、実施例4〜7では、フッ素含有エポキシ化合物の含有量が多くなる程、表面抵抗率が上昇し、さらに、フッ素含有エポキシ化合物の質量比が0.5〜3.0であれば、正孔注入層で求められる表面抵抗率になることが確認された。したがって、OEL素子とした場合には、発光効率が高く、長寿命になるものと推測される。
【0073】
上記実施例に対し、フッ素化合物を含まないエポキシ化合物を用いた比較例1〜3では、高温高湿環境下での表面抵抗率の変動値が大きく、具体的には、表面抵抗率が数百倍〜数千倍上昇していた。
また、フッ素含有エポキシ化合物の含有量が所定の範囲になかった比較例4,5では、表面抵抗率の範囲が、OEL素子の正孔注入層として要求される範囲から逸脱した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によって得られた導電性塗膜は、OEL素子の正孔注入層以外にも、導電性包装材料、電子部品用容器(キャリアテープ、カバーテープ、トレイ、マガジン、バルクケース、OA機器カバー等)などの帯電防止性が要求される製品にも利用できる。導電性包装材料や電子部品用容器に収容されるものとして、例えば、IC、LSI、VLSI等の半導体デバイス、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)、シリコンウェハ、ハードディスク、液晶基板、磁気デバイス、光デバイス、光磁気デバイス及びこれらを形成する電子部品等が挙げられる。さらに、本発明における導電性塗膜は、帯電防止性が求められる家電や日用品等にも利用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 有機エレクトロルミネッセンス素子(OEL素子)
10 基材
20 陽極
30 陰極
40 発光部
41 正孔注入層
42 正孔輸送層
43 発光層
44 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも正孔注入層および発光層を備えた発光部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔注入層は、導電性塗料から形成された導電性塗膜からなり、前記導電性塗料は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとエポキシ化合物の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフッ素含有エポキシ化合物と溶剤とを含み、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を1とした際のフッ素含有エポキシ化合物の質量比率が0.5〜3.0であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−235064(P2012−235064A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104484(P2011−104484)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】