説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】より高効率に光を取り出すことができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】透明基板1と、透明基板1の上に設けられた透明電極2と、透明電極2の上に設けられた有機発光層3とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。透明電極2はマトリクス樹脂4中に金属ナノワイヤ5及び屈折率制御用粒子6を含有して形成されている。そして、透明基板1の屈折率n1、透明電極2の屈折率n2、有機発光層3の屈折率n3は、n1≦n2≦n3、n3−n1≦0.3の関係に設定されている。有機発光層3と透明電極2の界面で、また透明電極2と透明基板1の界面で、それぞれ光の全反射を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光体などとして使用される有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面発光体の代表的なものとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)がある。この有機EL素子は、図3に示すように、光透過性の透明基板1の上に光透過性の透明電極2を設け、この透明電極2の上に有機発光層3を設け、さらに有機発光層3の上に電極10を設けることによって形成されている。そして透明電極2と電極10との間に電圧を印加することによって有機発光層3で発光した光は、透明電極2及び透明基板1を透過して取り出される。
【0003】
ここで、上記の透明電極2としては、ITO、IZO、AZO,GZO,FTO,ATOなどの金属酸化物を透明導電材料として用い、スパッタ法や真空蒸着法などの気相成膜法などで形成したものが一般的である(例えば特許文献1等参照)。
【0004】
しかしこれらの製膜方法は、高価な装置や多量のエネルギーが必要であり、このため製造コストや環境負荷を低減する技術が求められている。また、これらの金属酸化物を製膜して形成した透明電極2の屈折率は、一般にガラスで形成される透明基板1に比べて著しく高い。このため、透明基板1と透明電極2との屈折率差によって、有機発光層3で発光した光が透明電極2と透明基板1の界面で全反射し易くなり、この全反射ロスが光取出し効率を低下させる要因になるものであった。
【0005】
一方、ワイヤ状導電体を含む透明膜で透明電極を形成するようにした有機ELが提案されている(特許文献2参照)。そしてこのものでは、透明膜を形成する材料の選択によって透明電極の屈折率を制御できるので、透明基板と透明電極の屈折率の差が所定範囲内になるように調整することによって、光の全反射を抑制して光取出し効率を向上するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−329176号公報
【特許文献2】特開2009−181856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献2のものでは、透明電極の屈折率を制御して透明基板との屈折率の差を調整して、光の全反射を抑制するようにしているが、有機発光層から発生した光の取出し効率を向上するには、透明電極と透明基板の屈折率の関係を調整するだけでは不十分であり、光の取出し性能は十分といえないものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、より高効率に光を取り出すことができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、透明基板1と、透明基板1の上に設けられた透明電極2と、透明電極2の上に設けられた有機発光層3とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、透明電極2はマトリクス樹脂4中に金属ナノワイヤ5及び屈折率制御用粒子6を含有して形成されていると共に、透明基板1の屈折率n1、透明電極2の屈折率n2、有機発光層3の屈折率n3は、n1≦n2≦n3、n3−n1≦0.3の関係に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
このように、透明基板1と、透明電極2と、有機発光層3の3層の屈折率の関係を上記のように設定することによって、有機発光層3と透明電極2の界面で、また透明電極2と透明基板1の界面で、それぞれ光の全反射を抑制することができると共に、しかも透明電極2のマトリクス樹脂4中には屈折率制御用粒子6を含有するために、透明電極2内で光散乱を発生させることができ、この光散乱効果によっても光の全反射を抑制することができるものであり、より高効率に光を取り出すことができるものである。
【0011】
また本発明は、透明電極2の上記マトリクス樹脂4の屈折率n4と上記屈折率制御用粒子6の屈折率n5の差が0.2以上であることを特徴とするものである。
【0012】
このようにマトリクス樹脂4の屈折率と屈折率制御用粒子6の屈折率の差を大きく設定することによって、透明電極2内での屈折率制御用粒子6による光散乱効果を高めることができ、光の全反射を抑制する効果をより高く得ることができるものである。
【0013】
また本発明において、透明電極2の上記マトリクス樹脂4は導電性高分子であることを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、金属ナノワイヤ5の導電性に加えて、マトリクス樹脂4自身の導電性によって、透明電極2の電気特性を向上することができるものである。
【0015】
また本発明は、透明電極2の上記屈折率制御用粒子6は導電性金属酸化物粒子であることを特徴とするものである。
【0016】
透明電極2の屈折率を制御し且つ透明電極2内での光散乱効果を得るために、マトリクス樹脂4に含有される屈折率制御用粒子6に導電性を持たせることができ、透明電極2の電気特性を向上することができるものである。
【0017】
また本発明は、透明基板1の上記透明電極2を設けた側と反対側の表面に反射防止層7を設けたことを特徴とするものである。
【0018】
このように反射防止層7を設けることによって、透明基板1と空気との界面での全反射を低減することができ、光の取出し効率をより高めることができるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透明基板1の屈折率n1、透明電極2の屈折率n2、有機発光層3の屈折率n3を、n1≦n2≦n3、n3−n1≦0.3の関係に設定するようにしたので、有機発光層3と透明電極2の界面で、また透明電極2と透明基板1の界面で、それぞれ光の全反射を抑制することができると共に、しかも透明電極2のマトリクス樹脂4中には屈折率制御用粒子6を含有するので、透明電極2内で光散乱を発生させることができ、この光散乱効果によっても光の全反射を抑制することができるものであり、有機発光層3で発光した光を、より高効率に取り出すことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】従来例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は本発明に係る有機EL素子の実施の形態の一例を示すものであり、光透過性の透明基板1の片側の表面に光透過性の透明電極2が設けてある。またこの透明電極2の表面に有機発光層3が設けてあり、さらに有機発光層3の上に電極10を設けることによって有機ELを形成することができる。有機発光層3は有機EL材料を含有して形成されるものであり、有機発光層3は単独で形成する他、有機発光層3の陽極側に正孔輸送層や正孔注入層を、有機発光層3の陰極側に電子輸送層や電子注入層を積層して、複数層の有機層として形成することもできる。
【0023】
透明電極2を陽極とするときには、電極10は陰極となるものであり、透明電極2と電極10との間に電圧を印加すると、陽極となる透明電極2から注入された正孔と、陰極となる電極10から注入された電子が有機発光層3で再結合し、この際に光が発生する。そして有機発光層3で発光したこの光は、透明電極2及び透明基板1を透過して取り出されるものである。
【0024】
上記の透明基板1としては、光を透過させるものであれば特に制限されることなく使用することができるものであり、無機材料で形成されたもの及び有機材料で形成されたもののいずれであってもよい。透明基板1を形成する無機材料としては、例えば、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。また有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また透明基板1の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく適宜選択することができる。透明基板1の形状としては、例えば平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、また構造としては、例えば単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、適宜選択することができる。
【0026】
透明基板1は単体のものであってもよいが、基板の表面に一層ないし複数層のハードコート層が形成されたものであってもよい。このように透明基板1がハードコート層を備える場合、透明電極2はハードコート層の上に形成されるものである。本発明において、透明電極2と透明基板1の間で屈折率が問題になるのは、透明基板1のうち透明電極2との接触界面部である。従って本発明において透明基板1の屈折率とは、透明基板1が基板単体のものであれば、透明基板1自体の屈折率をいうものであり、透明基板1が表面にハードコート層を有するものであれば、ハードコート層の屈折率をいうものである。
【0027】
ハードコート層は、例えば、反応性硬化型樹脂、即ち、熱硬化型樹脂と電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方を含むハードコートコーティング材を用いて形成することができる。
【0028】
前記熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。
【0029】
また、前記電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、この中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。
【0030】
また、ハードコートコーティング材中に高屈折率粒子、すなわち高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子を添加することで、ハードコート層に高屈折率粒子を含有させて屈折率を調整しても良い。高屈折率粒子は屈折率が1.6以上で粒径が0.5〜200nmのものが好ましい。高屈折率粒子の配合量はハードコート層に対して例えば5〜70体積%の範囲となるように調整される。前記高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子としては、チタン、アルミニウム、セリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、アンチモンから選ばれる一つあるいは二つ以上の酸化物の粒子が挙げられ、具体的には、例えば、ZnO(屈折率1.90)、TiO(屈折率2.3〜2.7)、CeO(屈折率1.95)、Sb(屈折率1.71)、SnO、ITO(屈折率1.95)、Y(屈折率1.87)、La(屈折率1.95)、ZrO(屈折率2.05)、Al(屈折率1.63)等の微粉末が挙げられる。
【0031】
このようなハードコートコーティング材を基板に重ねて塗布し、必要に応じて乾燥した後、熱硬化性樹脂を含むハードコートコーティング材の場合は加熱し、電離線硬化性樹脂を含むハードコートコーティング材の場合は紫外線等の電離線を照射するなどして硬化成膜することで、ハードコート層が形成される。塗布方法は特に制限されず、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種方法が採用される。
【0032】
そして本発明において、この透明基板1の表面に設ける透明電極2は、マトリクス樹脂4中に金属ナノワイヤ5及び屈折率制御用粒子6を含有して形成されているものである。透明電極2の形成は、例えば、金属ナノワイヤ5と屈折率制御用粒子6を樹脂溶液に分散させ、この樹脂溶液を透明基板1の表面に塗布して、マトリクス樹脂4の膜を成膜することによって行なうことができる。
【0033】
透明電極2の膜を形成するためのマトリクス樹脂4としては、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ジアクリルフタレート樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、その他の熱可塑性樹脂や、これらの樹脂を構成する単量体の2種以上の共重合体を挙げることができる。
【0034】
またマトリクス樹脂4としては、モノマーやオリゴマーの重合反応によりポリマー化するものを用いることもできる。このような樹脂として、光重合反応または熱重合反応する樹脂を使用する場合、可視光、または紫外線や電子線のような電離放射線の照射により直接または開始剤の作用を受けて重合反応を生じるモノマーあるいはオリゴマーを用いることができ、アクリル基あるいはメタクリル基を有するモノマーあるいはオリゴマーが好適である。中でも架橋させて耐擦傷性、硬度を上げるには多官能性バインダー成分であることが好ましい。
【0035】
そして一分子中に一個の官能基をもつものとして、具体的には例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0036】
また二個以上の官能基を持つものとして、具体的には例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、更にベンゼン環を有する化合物としては、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、変性ビスフェノールAジアクリレートエチレングリコールジアクリレート、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイドテトラメチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールA−ジエポキシ−アクリル酸付加物、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジアクリレート、ポリエステルアクリレート等の多官能アクリレート類あるいはメタクリレート類が挙げられる。
【0037】
また、1,2−ビス(メタ)アクリロイルチオエタン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルチオプロパン、1,4−ビス(メタ)アクリロイルチオブタン、1,2−ビス(メタ)アクリロイルメチルチオベンゼン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルメチルチオベンゼンなどの硫黄含有(メタ)アクリレート類を用いることも高屈折率化に有効である。
【0038】
さらに、紫外線や熱による硬化を促進させるため、光または熱重合開始剤を配合してもよい。
【0039】
光重合開始剤としては、一般に市販されているもので構わないが、特に例示すると、ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー651」)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー184」)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「ダロキュアー1173」、ランベルティー社製「エサキュアーKL200」)、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)(ランベルティー社製「エサキュアーKIP150」)、2−ヒドロキシエチル−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー2959」)、2−メチル−1(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー369」)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー819」)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「CGI403」)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(=TMDPO)(BASF社製「ルシリンTPO」、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製「ダロキュアーTPO」)、チオキサントンまたはその誘導体などが挙げられ、これらのうち1種、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0040】
また、光増感作用の目的により第三アミン、例えばトリエタノールアミン、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、イソペンチルメチルアミノベンゾエートなどを添加しても良い。
【0041】
熱による重合開始剤としては、主として過酸化ベンゾイル(=BPO)などの過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル(=AIBN)などのアゾ化合物が用いられる。
【0042】
上記の光重合開始剤や熱重合開始剤の配合量は、通常、組成物(樹脂+金属ナノワイヤ)100質量部に対し、0.1〜10質量部程度が好ましい。
【0043】
また、エポキシ基、チオエポキシ基、オキセタニル基等のカチオン重合性官能基を有するモノマーあるいはオリゴマーを用いてもよい。さらに必要に応じて光カチオン開始剤等を組み合わせて用いることもできる。これらは同様に多官能であることが好ましい。
【0044】
また、熱重合する樹脂については一般的にゾル−ゲル系材料が挙げられ、アルコキシシシラン、アルコキシチタン等のゾル−ゲル系材料が好ましい。これらのなかでもアルコキシシランが好ましい。ゾル−ゲル系材料は、ポリシロキサン構造を形成する。アルコキシシランの具体的は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等があげられる。これらアルコキシシランはその部分縮合物等として用いることができる。これらのなかでもテトラアルコキシシラン類またはこれらの部分縮合物等が好ましい。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランまたはこれらの部分縮合物が好ましい。
【0045】
さらにマトリクス樹脂4として、導電性高分子を用いることもできる。導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリカルバゾール、ポリアセチレンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。また導電性を高めるために、次のようなドーパントを用いてドーピングを行なっても良い。ドーパントとしては、スルホン酸、ルイス酸、プロトン酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
透明電極2の膜を形成するマトリクス樹脂4としてこのように導電性高分子を用いることによって、金属ナノワイヤ5による導電性に加えて、マトリクス樹脂4で形成される膜自体にも導電性が付与されるものであり、透明電極2の電気特性を向上することができるものである。
【0047】
またマトリクス樹脂4としては、上記した光重合性の樹脂、熱重合性の樹脂、導電性高分子から選ばれる2種類以上のものを併用してもよい。
【0048】
本発明において透明電極2に含有される金属ナノワイヤ5としては、Agナノワイヤ、Auナノワイヤ、Cuナノワイヤ、Coナノワイヤなど任意のものを用いることができる。また金属ナノワイヤ5の製造手段には特に制限は無く、例えば、液相法や気相法などの公知の手段を用いることができる。具体的な製造方法にも特に制限は無く、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法として、Adv.Mater.2002,14,P833〜837や、Chem.Mater.2002,14,P4736〜4745、前記の特許文献2等を、Auナノワイヤの製造方法として、特開2006−233252号公報等を、Cuナノワイヤの製造方法として、特開2002−266007号公報等を、Coナノワイヤの製造方法として、特開2004−149871号公報等を挙げることができる。特に、上記のAdv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にかつ大量にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明で用いる金属ナノワイヤ5の製造方法として好ましく適用することができる。
【0049】
本発明において金属ナノワイヤ5の平均直径は、透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、導電性の観点から10nm以上であることが好ましい。平均直径が200nm以下であれば光透過率の低下を抑えることができるため好ましい。一方で、平均直径が10nm以上であれば導電体としての機能を有意に発現でき、平均直径がより大きい方が導電性が向上するため好ましい。従って平均直径は、より好ましくは20〜150nmであり、40〜150nmであることが更に好ましい。また金属ナノワイヤ5の平均長さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましく、凝集による透明性への影響から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜50μmであり、3〜50μmであることが更に好ましい。金属ナノワイヤ5の平均直径及び平均長さは、SEMやTEMを用いて十分な数のナノワイヤについて電子顕微鏡写真を撮影し、個々のナノワイヤ像の計測値の算術平均から求めることができる。金属ナノワイヤ5の長さは、本来直線状に伸ばした状態で求めるべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いて金属ナノワイヤ5の投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)ものとする。計測対象の金属ナノワイヤ数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上の金属ナノワイヤ5を計測するのが更に好ましい。
【0050】
また本発明において、上記の屈折率制御用粒子6は、透明電極2の屈折率を調整するために含有されるものであり、透明電極2のマトリクス樹脂よりも低い屈折率を有するものが好ましい。屈折率制御用粒子6の屈折率の数値は特に限定されるものではないが、1.10〜1.45の範囲であることが好ましい。
【0051】
このような屈折率制御用粒子6としては、特に限定されるものではないが、例えばシリカ、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化セリウム、フッ化アルミニウム、アクリル粒子、スチレン粒子、ウレタン粒子、或いはこれらの複合物やナノポーラス粒子を挙げることができる。
【0052】
また屈折率制御用粒子6としては、導電性金属酸化物粒子を用いることもできる。導電性金属酸化物としては、インジウム−錫酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、錫酸化物、アンチモンドープ錫酸化物(ATO)とガリウムドープ亜鉛酸化物(GZO)の混合物などを挙げることができる。
【0053】
透明電極2に含有させる屈折率制御用粒子6としてこのような導電性金属酸化物粒子を用いることによって、金属ナノワイヤ5による導電性に加えて、屈折率制御用粒子6でも導電性を付与することがでできるものであり、透明電極2の電気特性を向上することができるものである。
【0054】
屈折率制御用粒子6は中実粒子であってもよく、また一つの空洞を外殻が覆う構造を有する中空粒子や、或いは多孔質粒子であってもよい。これらの中空粒子や多孔質粒子は、その内部の中空部によって屈折率を低く調整する効果を高く得ることができるので、好ましい。また、屈折率制御用粒子6の形状は球状であってもよく、異形状であってもよい。さらに屈折率制御用粒子6の表面は、シラン系、チタン系、アルミニウム系、或いはジルコニウム系カップリング剤等の有機金属化合物で処理されていてもよい。屈折率制御用粒子6は、上記したものから1種を単独で使用する他、複数種を併用することもできるが、これらのなかでも、特に中空状のシリカ粒子が好ましい。
【0055】
また屈折率制御用粒子6の粒径は特に限定されるものではないが、その平均一次粒子径が100nm未満であることが好ましく、80nm以下であることが更に好ましい。屈折率制御用粒子6の平均一次粒子径が100nmを超えると、透明電極2の透明性が低下するおそれがある。屈折率制御用粒子6の粒径の下限は、実用上、平均一次粒子径で5nm程度である。尚、本発明において平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって測定された値である。
【0056】
透明電極2を形成する樹脂溶液への金属ナノワイヤ5の配合量は、後述のように透明電極2を形成した際に、透明電極2中に金属ナノワイヤ5が0.01〜90質量%含有されるように調整して設定するのが好ましい。金属ナノワイヤ5の含有量は0.1〜30質量%がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0057】
また透明電極2を形成する樹脂溶液への屈折率制御用粒子6の配合量は、樹脂固形分と屈折率制御用粒子6の合計量に対して10〜80質量%の範囲になるように設定するのが好ましく、より好ましくは20〜70質量%である。屈折率制御用粒子6の配合量がこの範囲未満であると、屈折率制御用粒子6を配合して透明電極2の屈折率を調整する効果が不十分になるおそれがあり、逆に屈折率制御用粒子6の配合量がこの範囲を超えて多いと、透明電極2の膜硬度が低下して、膜強度に問題が生じるおそれがある。
【0058】
ここで、樹脂溶液には、マトリクス樹脂4の固形分、金属ナノワイヤ5、屈折率制御用粒子6など固形成分を溶解・分散するための溶剤が含有されることが必須であるが、溶剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、あるいはこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、ケトン系の有機溶剤を用いるのが好ましく、ケトン系溶剤を用いて樹脂溶液を調製すると、透明基材の表面に容易に均一に塗布することができ、かつ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な厚さの大面積の透明導電膜を容易に得ることができるものある。また、溶剤としては上記の有機溶剤の他に、水を用いる場合もあり、有機溶剤と水を組み合わせて用いる場合もある。溶剤の量は、上記の各固形成分を均一に溶解・分散することができ、樹脂溶液を調製した後の保存時に凝集を来たさず、かつ、塗工時に希薄すぎない濃度となるように適宜調節するものである。この条件が満たされる範囲内で溶剤の使用量を少なくして高濃度の樹脂溶液を調製し、容量をとらない状態で保存し、使用時に必要分を取り出して塗工作業に適した濃度に溶剤で希釈するのが好ましい。固形分と溶剤の合計量を100質量部とした時に、全固形分0.1〜50質量部に対して、溶剤の量を50〜99.9質量部に設定するのが好ましく、さらに好ましくは、全固形分0.5〜30重量部に対して、溶剤を70〜99.5質量部の割合で用いることにより、特に分散安定性に優れ、長期保存に適した樹脂溶液を得ることができる。用いる樹脂と溶剤の組み合わせについては、特に規定されるものではないが、配合する樹脂が溶解しやすい溶剤を用いるほうが好ましい。また塗工する透明基板1によっては、用いる溶剤に溶解する場合もあるので、予め透明基板1への溶解性を確認したうえで適切な溶剤組成を設計することが望ましい。
【0059】
金属ナノワイヤ5や屈折率制御用粒子6を分散した樹脂溶液を透明基板1の表面に塗工するにあたっては、スピンコート、スクリーン印刷、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、グラビアコートなど任意の方法を採用することができる。
【0060】
本発明において、透明電極2の上に設けられる有機発光層3を形成する有機EL材料としては、有機EL素子において従来から使用されている任意のものを用いることができる。例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、ピラン、キナクリドン、ルブレン、及びこれらの誘導体、あるいは、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、及びこれらの発光性化合物からなる基を分子の一部分に有する化合物あるいは高分子等を挙げることができる。また上記化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、いわゆる燐光発光材料、例えばIr錯体、Os錯体、Pt錯体、ユーロピウム錯体等々の発光材料、又はそれらを分子内に有する化合物若しくは高分子も好適に用いることができる。
【0061】
ここで、本発明では、有機発光層3の屈折率が透明基板1の屈折率よりも高くなるように、有機EL材料を選定するものであり、また有機発光層3と透明基板1の屈折率の差が0.3以下になるように、有機EL材料を選定するものである。有機発光層3と透明基板1の屈折率の差は小さいほど好ましく、理想的には0である。
【0062】
また本発明において、有機発光層3の上に設けられる電極10の材料としては、Alなどを用いるのが一般的であるが、Alと他の電極材料を組み合わせて積層構造などとして構成することもできる。このような電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金などを挙げることできる。具体的には、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウムなどとAlとの積層体、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物などを例として挙げることができる。勿論、上記に挙げた材料や形態は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0063】
上記のようにして形成される有機EL素子にあって、透明電極2は膜のマトリクス樹脂4中に含有される金属ナノワイヤ5同士が接触しあうことによって、高い導電性を発現するものである。そして透明電極2の屈折率は、マトリクス樹脂4中に含有される屈折率制御用粒子6の種類や、含有率を変えることによって調整することができるものである。
【0064】
ここで本発明では、透明基板1の屈折率をn1、透明電極2の屈折率をn2、有機発光層3の屈折率n3とすると、n1≦n2≦n3となるように、すなわち透明電極2の屈折率n2が透明基板1の屈折率n1と有機発光層3の屈折率n3の間の数値になるように、透明電極2の屈折率n2を設定するようにしてある。そして上記のように透明基板1の屈折率n1と有機発光層3の屈折率n3の差は0.3以下、すなわちn3−n1≦0.3である。このため、有機発光層3の屈折率n3と透明電極2の屈折率n2の差や、透明電極2の屈折率n2と透明基板1の屈折率n3は小さくなり、有機発光層3で発光した光が透明電極2に入射される際に、有機発光層3と透明電極2の界面で全反射することを抑制することができると共に、また透明電極2を透過した光が透明基板1に入射される際に、透明電極2と透明基板1の界面で全反射することを抑制することができるものである。
【0065】
従って、有機発光層3と透明電極2、透明電極2と透明基板1のそれぞれの界面で光の全反射を抑制することができるものであり、光の取出し効率を高めることができるものである。しかも透明電極2のマトリクス樹脂4中には屈折率制御用粒子6を含有するので、透明電極2内で光散乱を発生させることができるものであり、この光散乱効果によっても光の全反射を抑制することができ、光の取出し効率をより高めることができるものである。
【0066】
ここで、透明電極2のマトリクス樹脂4の屈折率n4と屈折率制御用粒子6の屈折率n5は、その差が0.2以上あることが好ましい。このようにマトリクス樹脂4の屈折率n4と屈折率制御用粒子6の屈折率n5の差が大きいと、屈折率制御用粒子6による光散乱効果を高めることができるものであり、光の全反射を抑制して光の取出し効率をより高めることができるものである。
【0067】
図2は本発明の他の実施の形態を示すものであり、透明基板1の透明電極2を設けた側と反対側の表面に反射防止層7が設けてある。このように透明基板1に反射防止層7を設けることによって、透明基板1を透過する光が、透明基板1と空気との界面で全反射することを抑制できるものであり、光の取出し効率をより高めることができるものである。
【0068】
また、透明基板1の透明電極2を設けた側と反対側の表面には、ガスバリア層を設けるようにしてもよい。このようにガスバリア層を設けることによって、湿気や酸素が有機EL内に侵入することを防ぐことができ、有機発光層3の劣化を抑制して、有機EL素子の寿命を長く維持することができるものである。
【実施例】
【0069】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
(実施例1)
マトリクス樹脂4の形成材料として紫外線硬化型アクリル樹脂(新中村化学工業(株)製「A−DPH」、屈折率1.49)を7.50質量部、屈折率制御用粒子6として酸化Zr粒子(シーアイ化成社製、固形分20質量%、屈折率2.15)を30.0質量部用い、これらをメチルエチルケトン28.5質量部とメチルイソブチルケトン28.5質量部の混合溶媒に溶解した。次にこの溶液に金属ナノワイヤ5として銀ナノワイヤを配合した。銀ナノワイヤはMEKを分散媒として固形分30.0質量%で分散した分散液として用い、上記の混合溶液にこの分散液を5.0質量部加えてよく混合した。そしてさらに光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバガイギー社製「イルガキュア184」)0.50質量部を加えてよく混合し、25℃の恒温雰囲気下で1時間撹拌混合することによって、乾燥時の固形分質量比率がマトリクス樹脂:屈折率制御用粒子:金属ナノワイヤ=50:40:10の樹脂溶液を調製した。
【0071】
次に、透明基板1としてガラス基板(屈折率1.50)を用い、このガラス基板の表面に上記の樹脂溶液をスピンコートによって塗布し、常温(23℃)で2分間乾燥した後、さらに120℃で3分間加熱して乾燥した。その後、紫外線を強度500mJ/cmにて照射して硬化させることによって、膜厚0.5μmの透明電極2を形成した。尚、このように形成された透明電極2の屈折率は1.67であった。
【0072】
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリアニオンポリ(スチレンスルホン酸塩)を、前者をPEDOT、後者をPSSと略称とすると、PEDOT:PSS=1:2.5の組成比で混合した溶液を調製した。そして上記のように形成した透明電極2の上にこの溶液をスピンコート法により塗布し、200nmの膜厚になるように成膜して、120℃まで加熱することにより、ホール注入層を形成した。このPEDOT:PSS膜からなるこのホール注入層の屈折率は1.52であった。次に、TFB(Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4’-(N-(4-sec-butylphenyl))diphenylamine)])(アメリカンダイソース社製「Hole Transport Polymer ADS259BE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、膜厚12nmになるようにスピンコーターで塗布して、ホール注入層の上にTFB被膜を成膜し、これを200℃で10分間焼成することによって、ホール輸送層を形成した。このホール輸送層の屈折率は1.7であった。次にホール輸送層の上に赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emittingpolymer ATS111RE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、膜厚が70nmになるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、有機発光層3を形成した。この有機発光層3の屈折率を測定したところ1.7であった。さらにこの有機発光層3の上に電子注入層として、Ba(高純度化学製)を5nmの膜厚で形成した。
【0073】
そして最後に、電子注入層の上にAl(高純度化学社製)を80nmの膜厚で真空蒸着し、陰極となる電極4を形成した。このようにして、図1のような層構成の有機EL素子を得た。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、透明基板1としてフィルム状基材(PET、厚み125μm、屈折率1.65)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして、図1のような層構成の有機EL素子を得た。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、屈折率制御用粒子6としてITO粒子(シーアイ化成社製、固形分20質量%、屈折率2.10)を用いるようにし、その他は実施例1と同様にして透明電極2を形成した。この透明電極2の屈折率は1.60であった。そしてそれ以外は実施例1と同様にして、図1のような層構成の有機EL素子を得た。
【0076】
(実施例4)
実施例1において、マトリクス樹脂4の形成材料として、アクリル樹脂のかわりにポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリアニオンポリ(スチレンスルホン酸塩)を、PEDOT:PSS=1:2.5の組成比で混合した溶液を用いるようにした他は、実施例1と同様にして透明電極2を形成した。この導電電極2においてマトリクス樹脂の屈折率は1.52であり、透明電極2の屈折率は1.68であった。そしてそれ以外は実施例1と同様にして、図1のような層構成の有機EL素子を得た。
【0077】
(実施例5)
実施例2において、PET基材からなる透明基板1の透明電極2と反対側の表面に、膜厚100nm,屈折率1.35の低屈率膜からなる反射防止層7を設けるようにした。この反射防止層7は、次のように調製したコーティング材組成物を透明基板1の表面に塗工することによって形成した。
【0078】
まず、テトラエトキシシラン208質量部にメタノール356質量部を加え、更に水18質量部及び0.01Nの塩酸水溶液18質量部(「HO」/「OR」=0.5」を加え、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジンをマトリクス形成材料として得た。次に、中空シリカ微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20質量%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み約8nm、触媒化成工業社製)を用い、これをシリコーンレジンに加え、中空シリカ微粒子/シリコーンレジン(縮合化合物換算)が固形分基準で質量比が40/60になるように配合し、これを全固形分が3質量%になるようにメタノールで希釈することによって、コーティング材組成物を調製した。
【0079】
そしてそれ以外は実施例1と同様にして、図2のような層構成の有機EL素子を得た。
【0080】
(比較例1)
透明基板1の表面に、ITO膜(屈折率2.1)をスパッタすることによって、透明電極2を形成した。そしてそれ以外は実施例1と同様にして、図3のような層構成の有機EL素子を得た。
【0081】
(比較例2)
マトリクス樹脂4の形成材料として紫外線硬化型アクリル樹脂(新中村化学工業(株)製「A−DPH」、屈折率1.49)を13.50質量部用い、これをメチルエチルケトン40.5質量部とメチルイソブチルケトン40.5質量部の混合溶媒に溶解した。次にこの溶液に金属ナノワイヤ5として銀ナノワイヤを配合した。銀ナノワイヤはMEKを分散媒として固形分30.0質量%で分散した分散液として用い、上記の混合溶液にこの分散液を5.0質量部加えてよく混合した。そしてさらに光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバガイギー社製「イルガキュア184」)0.50質量部を加えてよく混合し、25℃の恒温雰囲気下で1時間撹拌混合することによって、乾燥時の固形分質量比率がマトリクス樹脂:屈折率制御用粒子:金属ナノワイヤ=90:0:10の樹脂溶液を調製した。
【0082】
次に、透明基板1としてガラス基板(屈折率1.50)を用い、このガラス基板の表面に上記の樹脂溶液をスピンコートによって塗布し、常温(23℃)で2分間乾燥した後、さらに120℃で3分間加熱して乾燥した。その後、紫外線を強度500mJ/cmにて照射して硬化させることによって、膜厚0.5μmの透明電極2を形成した。このように形成された透明電極2の屈折率は1.49であった。
【0083】
そしてそれ以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を得た。
(比較例3)
比較例2において、マトリクス樹脂4の形成材料として、アクリル樹脂のかわりにポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリアニオンポリ(スチレンスルホン酸塩)を、PEDOT:PSS=1:2.5の組成比で混合した溶液を用いるようにした他は、実施例1と同様にして透明電極2を形成した。この導電電極2においてマトリクス樹脂の屈折率は1.52であり、また透明電極2の屈折率も1.68であった。そしてそれ以外は比較例2と同様にして、有機EL素子を得た。
【0084】
上記のように作製した実施例1〜5の有機ELについて、2V印加時の電流値と、外部量子効率比を測定した。
【0085】
ここで、有機EL素子に2V印加時の電流値は、DC電源(ケースレイ社製)を用いて測定した。
【0086】
また、同じくDC電源(ケースレイ社製)を用い、有機EL素子内部に流れる電流を10mA/cmに固定し、輝度計(トプコン社製)を用いて有機EL素子の特性評価を行なった。そして正面輝度(cd/m)と電流効率(cd/A)を、10°ごとの角度方位で−80°〜+80°まで測定し、これを基に全光束[外部量子効率(%)]を算出した。表1には、比較例1を「1.0」として、その倍率で「外部量子効率比」を示した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1にみられるように、透明基板の屈折率n1、透明電極の屈折率n2、有機発光層の屈折率n3の関係が、透明電極がITOの比較例1では、n1≦n3≦n2になっており、また比較例2ではn2≦n1≦n3になっているのに対して、実施例1〜5ではn1≦n2≦n3の関係であるので、各実施例のものは、外部量子効率が高く、光の取出し効率が向上していることが確認される。
【0089】
また特許文献2に相当する比較例3ではn1≦n2≦n3の関係であるが、透明電極に屈折率制御用粒子が含有されていないので光散乱効果が得られず、光の取出し効率を向上する効果は不十分であることが確認される。
【符号の説明】
【0090】
1 透明基板
2 透明電極
3 有機発光層
4 マトリクス樹脂
5 金属ナノワイヤ
6 屈折率制御用粒子
7 反射防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、透明基板の上に設けられた透明電極と、透明電極の上に設けられた有機発光層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、透明電極はマトリクス樹脂中に金属ナノワイヤ及び屈折率制御用粒子を含有して形成されていると共に、透明基板の屈折率n1、透明電極の屈折率n2、有機発光層の屈折率n3は、n1≦n2≦n3、n3−n1≦0.3の関係に設定されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
透明電極の上記マトリクス樹脂の屈折率n4と上記屈折率制御用粒子の屈折率n5の差が0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
透明電極の上記マトリクス樹脂は導電性高分子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
透明電極の上記屈折率制御用粒子は導電性金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
透明基板の上記透明電極を設けた側と反対側の表面に反射防止層を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−101751(P2013−101751A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50734(P2010−50734)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】