説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】照明用光源として重要である高色温度から低色温度領域での白色発光を、膜厚調整等の軽微な設計変更により実現可能であり、かつ、高演色性化、特に平均演色評価数Raと赤色の特殊演色評価数R9が高く、効率・寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極と、青色蛍光発光材料及び緑色蛍光発光材料を含む第一発光ユニット7と、中間層9と、赤色リン光発光材料及び緑色リン光発光材料を含む第二発光ユニット8と、陰極とを備えて形成される。前記第一発光ユニット7と前記第二発光ユニット8とが前記中間層9を介して積層される。前記第一発光ユニット7からの発光が、二つの三重項励起子の衝突融合により一重項励起子が生成する現象を利用したものである。前記緑色蛍光発光材料及び前記緑色リン光発光材料のうち少なくとも一方の発光スペクトルの半値幅が60nm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、面発光が可能であること、超薄型等の理由により、照明用の次世代光源として注目を集め、精力的に実用化を目指した開発が行われている。中でも、無機LED照明の課題の一つとされる高演色性化技術に関して特に盛んに研究開発が行われており、様々なデバイス設計技術開発による高演色性化手法が提案されている。しかしながら、従来の主照明、すなわち蛍光灯と比較し十分な高演色性を実現し、かつ高効率・長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子の実現にはまだ課題が残る。
【0003】
国際公開第2010/134352号(特許文献1)では、TTF現象を発現する第一発光ユニットと第二発光ユニットを積層し、高性能な白色素子を実現する手法が提案されている。この手法を用いることにより、従来の(TTF現象を発現しない)第一発光ユニットと第二発光ユニットを積層した白色素子と比較し、高効率・長寿命な白色有機エレクトロルミネッセンス素子の実現に非常に有効な手法として提案されているが、照明用有機エレクトロルミネッセンス素子として重要である、高演色性化に関する手法については言及されていない。
【0004】
また、照明用途では様々な色温度で発光する光源が必要とされ、色温度の異なる有機エレクトロルミネッセンス素子の開発が進められている。しかしながら、色温度の異なる照明用有機エレクトロルミネッセンス素子の実現には発光材料の変更やデバイス構造の大幅な変更などが必要であり、特に、第一発光ユニットと第二発光ユニットを積層したマルチユニット構造では、各ユニットの効率のバランスの崩れから、材料変更や大きな構造変更無しでは、優れた効率・寿命特性を維持し、様々な色温度での発光を実現することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/134352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、照明用光源として重要である高色温度から低色温度領域での白色発光を、膜厚調整等の軽微な設計変更により実現可能であり、かつ、高演色性化、特に平均演色評価数Raと赤色の特殊演色評価数R9が高く、効率・寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、青色蛍光発光材料及び緑色蛍光発光材料を含む第一発光ユニットと、中間層と、赤色リン光発光材料及び緑色リン光発光材料を含む第二発光ユニットと、陰極とを備えて形成され、前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとが前記中間層を介して積層され、前記第一発光ユニットからの発光が、二つの三重項励起子の衝突融合により一重項励起子が生成する現象を利用したものであり、前記緑色蛍光発光材料及び前記緑色リン光発光材料のうち少なくとも一方の発光スペクトルの半値幅が60nm以上であることを特徴とするものである。
【0008】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記緑色蛍光発光材料の極大発光波長が460〜540nmの間に存在し、前記緑色リン光発光材料の極大発光波長が540〜610nmの間に存在することが好ましい。
【0009】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記緑色蛍光発光材料の前記極大発光波長と前記緑色リン光発光材料の前記極大発光波長との差が35nm以上であることが好ましい。
【0010】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記青色蛍光発光材料の極大発光波長が460nm以下であることが好ましい。
【0011】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記赤色リン光発光材料の極大発光波長が610nm以上であることが好ましい。
【0012】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一発光ユニットが前記陽極の側に配置され、前記第二発光ユニットが前記陰極の側に配置されて形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、照明用光源として重要である高色温度から低色温度領域での白色発光を、膜厚調整等の軽微な設計変更により実現可能であり、かつ、高演色性化、特に平均演色評価数Raと赤色の特殊演色評価数R9が高く、効率・寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構造の概略を示す断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の青色発光スペクトルの極大発光波長と平均演色評価数Raとの関係を示すグラフである。
【図3】(a)は有機エレクトロルミネッセンス素子の緑色リン光発光スペクトルの半値幅と平均演色評価数Raとの関係を示すグラフであり、(b)は有機エレクトロルミネッセンス素子の緑色リン光発光スペクトルの半値幅と特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。
【図4】(a)は緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長の差と平均演色評価数Raとの関係を示すグラフであり、(b)は緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長の差と特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。
【図5】有機エレクトロルミネッセンス素子の赤色発光スペクトルの極大発光波長と特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を図1に示す。この有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板10の表面に透明電極1を形成し、その上に第一ホール輸送層11、青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、第一電子輸送層12、中間層9、第二ホール輸送層13、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5、第二電子輸送層14、反射電極6をこの順に備えて形成されている。さらに基板10の透明電極1と反対側の面に光取出層15が形成されている。以下、本構造を例として説明するが、この構造はあくまでも一例であり、本発明の趣旨に反しない限り、本構造に限定されるものではない。
【0017】
基板10は光透過性を有することが好ましい。基板10は無色透明であっても、多少着色されていてもよい。基板10は磨りガラス状であってもよい。基板10の材質としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどの透明ガラス;ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂等のプラスチックなどが挙げられる。基板10の形状はフィルム状でも板状でもよい。
【0018】
透明電極1は陽極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極は、発光層中にホールを注入するための電極である。透明電極1を形成するための材料としては、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等の金属酸化物等が用いられる。透明電極1は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の適宜の方法により形成され得る。透明電極1の好ましい厚みは透明電極1を構成する材料によって異なるが、500nm以下、好ましくは10〜200nmの範囲で設定されるのがよい。
【0019】
第一ホール輸送層11及び第二ホール輸送層13を構成する材料(ホール輸送性材料)は、ホール輸送性を有する化合物の群から適宜選定されるが、電子供与性を有し、また電子供与によりラジカルカチオン化した際にも安定である化合物であることが好ましい。ホール輸送性材料としては、例えば、ポリアニリン、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物、スターバーストアミン類(m−MTDATA)、TDATA系材料として1−TMATA、2−TNATA、p−PMTDATA、TFATAなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、一般に知られる任意のホール輸送材料が使用される。第一ホール輸送層11及び第二ホール輸送層13は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。
【0020】
第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14を形成するための材料(電子輸送性材料)は、電子を輸送する能力を有し、反射電極6からの電子の注入を受け得ると共に発光層に対して優れた電子注入効果を発揮し、さらに第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14へのホールの移動を阻害し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物であることが好ましい。電子輸送性材料として、Alq3、オキサジアゾール誘導体、スターバーストオキサジアゾール、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体などが挙げられる。電子輸送性材料の具体例として、フルオレン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、アントラキノジメタン、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等やそれらの化合物、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体などが挙げられる。金属錯体化合物としては、具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノラート等が挙げられるが、これらに限定されない。含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール誘導体などが好ましく、具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。電子輸送性材料として、ポリマー有機エレクトロルミネッセンス素子に使用されるポリマー材料も挙げられる。このポリマー材料として、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等が挙げられる。第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14の厚みに特に制限はないが、例えば、10〜300nmの範囲に形成される。第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。
【0021】
反射電極6は陰極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子における陰極は、発光層中に電子を注入するための電極である。反射電極6は、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物などの材料から形成されることが好ましい。反射電極6を形成するための材料としては、例えば、Al、Ag、MgAgなどが挙げられる。Al/Al混合物などからも反射電極6が形成され得る。反射電極6は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法等の適宜の方法により形成され得る。反射電極6の好ましい厚みは反射電極6を構成する材料によって異なるが、500nm以下、好ましくは20〜200nmの範囲で設定されるのがよい。
【0022】
光取出層15は、光拡散性向上のために基板10の透明電極1と反対側の面に光散乱性フィルムやマイクロレンズフィルムを積層して形成することができる。
【0023】
そして、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、以下に説明するように、適切な極大発光波長(発光ピーク波長)を有する複数の発光材料を組み合わせることにより、高演色性化を実現することができる。
【0024】
各発光層(青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5)は、発光材料(ドーパント)がドープされた有機材料(ホスト材料)から形成され得る。
【0025】
ホスト材料としては、電子輸送性の材料、ホール輸送性の材料、電子輸送性とホール輸送性とを併せ持つ材料の、いずれも使用され得る。ホスト材料として電子輸送性の材料とホール輸送性の材料とが併用されてもよい。
【0026】
青色蛍光発光層2に含有される青色蛍光発光材料としては、TTF現象を利用した高効率発光が可能なものであれば特に限定されるものではなく、任意の蛍光発光材料を用いることができるが、極大発光波長が460nm以下(下限は430nm程度)であるものを用いることが好ましい。このように、460nm以下に極大発光波長を有する短波長青色蛍光発光材料を用いることで、平均演色評価数Raが高く、高性能な白色有機エレクトロルミネッセンス素子の実現が可能になる。
【0027】
青色蛍光発光層2を構成するホスト材料としては、TBADN(2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン)、ADN、BDAFなどが挙げられる。青色蛍光発光材料の濃度は1〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
図2は、赤色リン光発光材料であるPqIr(acac)及び緑色発光材料であるIr(ppy)を用い、青色蛍光発光材料であるTBP(1−tert−ブチル−ペリレン)の発光スペクトルを445nmから470nmまでシフトさせたときの平均演色評価数Raの計算結果を示す。図2から明らかなように、高演色性の実現には青色発光スペクトルの短波長化が重要であり、特に平均演色評価数Raが90を超えるような高演色性(電球型蛍光灯の平均演色評価数Raは84)の実現には460nm以下の短波長青色発光が有効であることが分かる。同様に、530nmに極大発光波長を有するTPAと、566nmに極大発光波長を有するBtIr(acac)と、629nmに極大発光波長を有するIr(piq)とを用い、青色蛍光発光材料としてBCzVBiを用いた4波長白色デバイス(後述の実施例1〜3の有機エレクトロルミネッセンス素子)の検討においても、青色発光スペクトルの短波長化に伴い、演色性は向上し、極大発光波長が460nm以下の領域で平均演色評価数Raが90を超える高演色性化が可能であることを確認した。演色性はスペクトル形状によるものであり、上記は一例であるが、一般的な発光スペクトルを有する発光材料(スペクトルの半値幅が40nmから80nm程度)を用いた場合には、極大発光波長が演色性に大きく影響し、青色蛍光発光材料の極大発光波長の短波長化が高演色性化に有効であるといえる。
【0029】
緑色蛍光発光層3に含有される緑色蛍光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意の蛍光発光材料を用いることができるが、寿命特性の観点から緑色リン光発光材料の極大発光波長よりも短波長であるものを用いることが好ましく、具体的には極大発光波長が460〜540nmの間に存在するものを用いることが好ましい。この領域に極大発光波長を有する緑色蛍光発光材料を用いることで、緑色蛍光発光材料の発光スペクトルが、青色蛍光発光材料及び緑色リン光発光材料の発光スペクトル間をカバーすることが可能となり、より高演色性化が可能となる。
【0030】
緑色蛍光発光層3を構成するホスト材料としては、Alq3(トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III))、ADN、BDAFなどが挙げられる。緑色蛍光発光材料の濃度は1〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
緑色リン光発光層5に含有される緑色リン光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意のリン光発光材料を用いることができるが、寿命特性の観点から緑色蛍光発光材料の極大発光波長よりも長波長であるものを用いることが好ましく、具体的には極大発光波長が540〜610nmの間に存在するものを用いることが好ましい。この領域に極大発光波長を有する緑色リン光発光材料を用いることで、緑色リン光発光材料の発光スペクトルが、緑色蛍光発光材料及び赤色リン光発光材料の発光スペクトル間をカバーすることが可能となり、より高演色性化が可能となる。
【0032】
緑色リン光発光層5を構成するホスト材料としては、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)、CzTT、TCTA、mCP、CDBPなどが挙げられる。緑色リン光発光材料の濃度は1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
上記のように、極大発光波長領域が異なる2種類の緑色発光材料(緑色蛍光発光材料及び緑色リン光発光材料)を用いることで、発光色の調整が効果的に実現可能であり、かつ高演色、高効率化が容易である。
【0034】
緑色蛍光発光材料及び緑色リン光発光材料の発光スペクトルの半値幅は、特に限定されるものではないが、緑色蛍光発光材料及び緑色リン光発光材料のうち少なくとも一方の発光スペクトルの半値幅が60nm以上であることが好ましく、70nm以上(上限は120nm程度)であることがより好ましい。発光スペクトルの半値幅が60nm以上と大きな緑色発光材料を用いることにより、短波長青色蛍光発光スペクトルと長波長赤色リン光発光スペクトルとの間の広い波長領域を適切にカバーすることが可能となり、高演色性化に有効である。もちろん緑色蛍光発光材料及び緑色リン光発光材料の両方の発光スペクトルの半値幅が60nm以上であれば、より高演色性化に有効である。図3は、青色蛍光発光材料、緑色蛍光発光材料、赤色リン光発光材料として一定のものを用い、緑色リン光発光材料の発光スペクトル(緑色リン光発光スペクトル)の半値幅を50nmから83nmまで変化させたときの緑色リン光発光スペクトルの半値幅と平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。図3から明らかなように、緑色リン光発光スペクトルの半値幅が60nm以上のときに平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9(赤)について共に高い演色性を得ることが可能であることが分かる。演色性はスペクトル形状によるものであり、上記は一例であるが、緑色発光スペクトルの半値幅が演色性に大きく影響し、緑色発光スペクトルの半値幅の増加が高演色性化に有効であるといえる。
【0035】
緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長との差は特に限定されるものではないが、35nm以上であることが好ましく、40nm以上(上限は100nm程度)であることがより好ましい。極大発光波長の差が35nm以上である緑色発光材料を用いることで、それぞれの緑色発光スペクトルのカバーする波長領域を分離することが可能となり、より効果的に発光色の調整が可能であり、かつ高演色、高効率化が容易である。図4は、緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長との差(緑色発光材料の極大発光波長の差)と平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。図4から明らかなように、緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長との差が35nm以上である場合には平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9(赤)について共に高い演色性を得ることが可能であることが分かる。演色性はスペクトル形状によるものであり、上記は一例であるが、緑色蛍光発光材料の極大発光波長と緑色リン光発光材料の極大発光波長との差が演色性に大きく影響し、この極大発光波長の差の増加が高演色性化に有効であるといえる。
【0036】
赤色リン光発光層4に含有される赤色リン光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意のリン光発光材料を用いることができるが、高演色性化の観点から極大発光波長が610nm以上(上限は640nm程度)であるものを用いることが好ましい。このように、610nm以上に極大発光波長を有する長波長赤色リン光発光材料を用いることで、特殊演色評価数R9(赤)が高く、高性能な白色有機エレクトロルミネッセンス素子の実現が可能になる。図5は、赤色リン光発光材料の極大発光波長と特殊演色評価数R9(赤)との関係を示すグラフである。すなわち、青色蛍光発光材料であるBCzVBi、緑色蛍光発光材料であるTPA及び緑色リン光発光材料であるBtIr(acac)を用い、赤色リン光発光材料であるIr(piq)の発光スペクトルをシフトさせたときの特殊演色評価数R9(赤)の計算結果である。図5から明らかなように、赤色発光スペクトルの極大発光波長の長波長化が特殊演色評価数R9(赤)の向上に有効であり、特に特殊演色評価数R9(赤)が30を超える(電球型蛍光灯の特殊演色評価数R9(赤)は約25)高演色性化には610nm以上の長波長化が重要であることが分かる。
【0037】
赤色リン光発光層4を構成するホスト材料としては、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)、CzTT、TCTA、mCP、CDBPなどが挙げられる。赤色リン光発光材料の濃度は1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0038】
各発光層(青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5)は、真空蒸着、転写等の乾式プロセスや、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等の湿式プロセスなど、適宜の手法により形成され得る。
【0039】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、図1に示すように第一発光ユニット7と第二発光ユニット8とが中間層9を介して積層されてマルチユニット構造を形成している。
【0040】
第一発光ユニット7は、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を積層して含むものであり、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3は共に蛍光発光材料を含有する。
【0041】
そして、本発明では、第一発光ユニット7からの発光が、二つの三重項励起子の衝突融合により一重項励起子が生成する現象(TTF:triplet-triplet fusion)を利用したものである。TTF現象を利用した第一発光ユニット7は、上述の青色蛍光発光材料及び緑色蛍光発光材料を用いて形成することができる。このようにTTF現象を利用することで、第一発光ユニット7の高効率化が可能になり、第二発光ユニット8と組み合わせることで、白色素子としての高効率化が可能である。また、上記のように第一発光ユニット7を異なる発光色の積層構造とすることで、高い効率を維持したまま、発光色温度の調整が可能となる。例えば、第一発光ユニット7が青色蛍光発光層2のみからなる単色発光層の場合、青色発光強度が強くなりすぎるために、低色温度の白色素子を実現することが不可能となる。本発明のように青色蛍光発光層2と緑色蛍光発光層3とを積層することで、高色温度の白色を実現する際は、青色蛍光発光層2の膜厚を厚くして青色発光強度比を増加させ、一方、低色温度の白色を実現する際は、緑色蛍光発光層3の膜厚を厚くして緑色発光強度比を増加させることで、効率を低下させることなく、容易に発光色の調整が可能となる。また、本発明においてTTF現象を利用した第一発光ユニット7とは、TTF現象を利用するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは内部量子効率が25%以上で発光する第一発光ユニット7であれば、高効率と長寿命の両立が可能となる。TTF現象を有効に発現させて利用するためには、第一電子輸送層12を形成するための電子輸送性材料の三重項エネルギー準位が、第一発光ユニット7に含まれる材料の三重項エネルギー準位よりも高いことが好ましい。
【0042】
第二発光ユニット8は、緑色リン光発光層5及び赤色リン光発光層4を積層して含むものであり、緑色リン光発光層5及び赤色リン光発光層4は共にリン光発光材料を含有する。
【0043】
中間層9は、二つの発光ユニットを電気的に直列接続する機能を果たす。中間層9は透明性が高く、かつ熱的・電気的に安定性が高いことが好ましい。中間層9は、例えば等電位面を形成する層、電荷発生層などから形成され得る。等電位面を形成する層もしくは電荷発生層の材料としては、例えばAg、Au、Al等の金属薄膜;酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物;ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜;いわゆるn型半導体とp型半導体との積層体;金属薄膜もしくは透明導電膜と、n型半導体及びp型半導体のうちの一方又は双方との積層体;n型半導体とp型半導体の混合物;n型半導体とp型半導体とのうちの一方又は双方と金属との混合物などが挙げられる。前記n型半導体やp型半導体としては、特に制限されることなく必要に応じて選定されたものが使用される。n型半導体やp型半導体は、無機材料、有機材料のうちいずれであってもよい。n型半導体やp型半導体は、有機材料と金属との混合物;有機材料と金属酸化物との組み合わせ;有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料や無機系アクセプタ/ドナー材料との組み合わせ等であってもよい。中間層9は、BCP:Li、ITO、NPD:MoO、Liq:Alなどからも形成され得る。BCPは2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリンを示す。例えば、中間層9は、BCP:Liからなる第1層を陽極側に、ITOからなる第2層を陰極側に配置した二層構成のものにすることができる。中間層9がAlq3/LiO/HAT−CN6、Alq3/LiO、Alq3/LiO/Alq3/HAT−CN6などの層構造を有していることも好ましい。
【0044】
第一発光ユニット7の高性能化に必要な材料と、第二発光ユニット8の高性能化に必要な材料とでは要求されるイオン化ポテンシャルや電子親和力、三重項エネルギー準位などの材料物性値が異なるため、第一発光ユニット7と第二発光ユニット8とを中間層9で分離することで、それぞれのユニットごとに材料選定が可能になり、高効率、長寿命化に有効である。また、比較的短波長領域に発光スペクトルを有する第一発光ユニット7と、比較的長波長領域に発光スペクトルを有する第二発光ユニット8とを中間層9で分離して配置可能なマルチユニット構造を用いることにより、光学設計が容易になり、高演色性化、かつ、高効率、長寿命、高輝度、色度の視野角依存性低減などが可能になる。
【0045】
また、図1に示すように、第一発光ユニット7が透明電極1の側に配置され、第二発光ユニット8が反射電極6の側に配置されて形成されていることが、高効率化、色度の角度依存性の抑制の点から好ましい。反射電極6の側の発光ユニットは、透明電極1の側の発光ユニットと比較し、干渉の影響によるロスが小さく、反射電極6の側の発光ユニットの光取出し効率は、透明電極1の側の発光ユニットの光取出し効率と比較して高くなる傾向にある。そのため、内部量子効率の高い第二発光ユニット8を光取出し効率の比較的高い反射電極6の側に配置することで、より高性能化、高演色性化かつ高効率化が可能となる。
【0046】
上記のように、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を含み、TTF現象を利用した第一発光ユニット7と、赤色リン光発光層4及び緑色リン光発光層5を含む第二発光ユニット8とを組み合わせ、これらを中間層を介して積層することにより、異なる色温度での発光色を容易に得ることが可能であり、発光色の調整が効果的に実現可能であり、かつ、高演色性化、高効率化、長寿命化を容易に実現することできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
(実施例1)
図1に示すようなマルチユニット構造が形成された有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。具体的には、基板10(ガラス基板)上にITOを厚み130nmに成膜することで透明電極1を形成した。さらに透明電極1の上に第一ホール輸送層11、青色蛍光発光層2(青色蛍光発光材料としてBCzVBiを含有する)、緑色蛍光発光層3(緑色蛍光発光材料としてTPAを含有する)、第一電子輸送層12(CBP)を蒸着法により5nm〜60nmの厚みに順次形成した。次に、Alq3/LiO/Alq3/HAT−CN6の層構造を有する中間層9を層厚15nmで積層した。次に、第二ホール輸送層13、赤色リン光発光層4(赤色リン光発光材料としてIr(piq)を含有する)、緑色リン光発光層5(緑色リン光発光材料としてBtIr(acac)を含有する)、第二電子輸送層14を各層が最大50nmの膜厚で順次形成した。続いて、Al膜からなる反射電極6を順次形成した。なお、基板10の透明電極1と反対側の面に光散乱性フィルムを積層して光取出層15を形成した。
【0049】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子は、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を含む第一発光ユニット7においてTTF現象を利用したものであり、青色蛍光発光層2の膜厚は10nm、緑色蛍光発光層3の膜厚は20nm、緑色リン光発光層5の膜厚は10nm、赤色リン光発光層4の膜厚は30nmであり、3000Kの白色発光が得られた。
【0050】
(実施例2)
青色蛍光発光層2の膜厚が15nm、緑色蛍光発光層3の膜厚が15nm、緑色リン光発光層5の膜厚が20nm、赤色リン光発光層4の膜厚が20nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、4000Kの白色発光が得られた。
【0051】
(実施例3)
青色蛍光発光層2の膜厚が25nm、緑色蛍光発光層3の膜厚が5nm、緑色リン光発光層5の膜厚が30nm、赤色リン光発光層4の膜厚が10nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、5000Kの白色発光が得られた。
【0052】
(比較例1)
青色蛍光発光層2の膜厚が30nm、緑色蛍光発光層3を積層せず、緑色リン光発光層5の膜厚が30nm、赤色リン光発光層4の膜厚が10nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。青色蛍光発光強度が強すぎるため、白色領域での発光を実現することができなかった。
【0053】
(比較例2)
第一電子輸送層12を形成するための電子輸送性材料として、三重項準位の低い材料(Alq3)を用いることで、TTF現象を利用しない第一発光ユニット7を形成すると共に、第二発光ユニット8の発光材料の濃度調整による発光効率の調整を行ったこと以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、3000Kの白色発光が得られた。なお、第二発光ユニット8の発光材料の濃度調整による発光効率の調整とは、白色発光を得るために、緑色リン光発光材料や赤色リン光発光材料の濃度を調整して、第二発光ユニット8の発光効率を低下させるものである。
【0054】
(比較例3)
第一電子輸送層12を形成するための電子輸送性材料として、三重項準位の低い材料(Alq3)を用いることで、TTF現象を利用しない第一発光ユニット7を形成すると共に、第二発光ユニット8の発光材料の濃度調整による発光効率の調整を行ったこと以外は、実施例2と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、4000Kの白色発光が得られた。
【0055】
(比較例4)
第一電子輸送層12を形成するための電子輸送性材料として、三重項準位の低い材料(Alq3)を用いることで、TTF現象を利用しない第一発光ユニット7を形成すると共に、第二発光ユニット8の発光材料の濃度調整による発光効率の調整を行ったこと以外は、実施例3と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、5000Kの白色発光が得られた。
【0056】
実施例1〜3及び比較例1〜4の有機エレクトロルミネッセンス素子の効率、平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9(赤)を表1に示す。
【0057】
実施例1〜3の有機エレクトロルミネッセンス素子は、第一発光ユニット7においてTTFを利用するものであり、各発光層の膜厚の調整により容易に色温度を調整することが可能であり、かつ高効率、高演色性を同時に実現することができる。
【0058】
これに対して、比較例1〜4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、第一発光ユニット7においてTTF現象を利用しないものであるため、発光色調整のために第二発光ユニット8の効率を低下させる必要があり、結果として白色素子としての効率が低下した。
【0059】
【表1】

【符号の説明】
【0060】
1 透明電極
2 青色蛍光発光層
3 緑色蛍光発光層
4 赤色リン光発光層
5 緑色リン光発光層
6 反射電極
7 第一発光ユニット
8 第二発光ユニット
9 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、青色蛍光発光材料及び緑色蛍光発光材料を含む第一発光ユニットと、中間層と、赤色リン光発光材料及び緑色リン光発光材料を含む第二発光ユニットと、陰極とを備えて形成され、前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとが前記中間層を介して積層され、前記第一発光ユニットからの発光が、二つの三重項励起子の衝突融合により一重項励起子が生成する現象を利用したものであり、前記緑色蛍光発光材料及び前記緑色リン光発光材料のうち少なくとも一方の発光スペクトルの半値幅が60nm以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記緑色蛍光発光材料の極大発光波長が460〜540nmの間に存在し、前記緑色リン光発光材料の極大発光波長が540〜610nmの間に存在することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記緑色蛍光発光材料の前記極大発光波長と前記緑色リン光発光材料の前記極大発光波長との差が35nm以上であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記青色蛍光発光材料の極大発光波長が460nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記赤色リン光発光材料の極大発光波長が610nm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記第一発光ユニットが前記陽極の側に配置され、前記第二発光ユニットが前記陰極の側に配置されて形成されていることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−62262(P2013−62262A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2729(P2013−2729)
【出願日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【分割の表示】特願2011−66569(P2011−66569)の分割
【原出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】