説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】照明用光源として重要である高輝度発光が可能なマルチユニット素子であり、輝度劣化を抑制した長寿命な白色有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極と、青色蛍光発光材料を含有する青色蛍光発光層2を含む第一発光ユニット7と、中間層9と、赤色リン光発光材料を含有する赤色リン光発光層4及び緑色リン光発光材料を含有する緑色リン光発光層5を含む第二発光ユニット8と、陰極とを備えて形成される。前記第一発光ユニット7と前記第二発光ユニット8とが前記中間層9を介して積層されることでマルチユニットとなる。前記赤色リン光発光層4の膜厚(tR)と前記緑色リン光発光層5の膜厚(tG)とが5×(tR)≦(tG)の関係にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、面発光が可能であること、発光物質の選択により任意の色調での発光が可能であること等の理由により、照明用の次世代光源として注目を集め、精力的に実用化を目指した開発が行われている。特に長寿命化技術に関して盛んに研究開発が行われており、様々なデバイス設計技術開発による長寿命化手法が提案されている。しかしながら、従来の主照明、すなわち蛍光灯と比較し、十分な寿命特性を実現するためにはまだ課題が残る。
【0003】
特開2006−172763号公報(特許文献1)では、蛍光ドーパントを含む発光層とリン光ドーパントを含む発光層との間に非発光界面層を設け、さらに、リン光発光層よりも陰極側に、蛍光発光層を設け、赤色リン光発光層の膜厚を島状薄膜とすることにより、優れた白色度、発光効率及び素子寿命を同時に実現する手法が提案されている。しかしながら、色度変化に関する説明がなく、特に色度の経時変化が大きくなる傾向のあるマルチユニット素子の長寿命化技術に関しては明確にされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−172763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、照明用光源として重要である高輝度発光が可能なマルチユニット素子であり、輝度劣化を抑制した長寿命な白色有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、青色蛍光発光材料を含有する青色蛍光発光層を含む第一発光ユニットと、中間層と、赤色リン光発光材料を含有する赤色リン光発光層及び緑色リン光発光材料を含有する緑色リン光発光層を含む第二発光ユニットと、陰極とを備えて形成され、前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとが前記中間層を介して積層されることでマルチユニットとなり、前記赤色リン光発光層の膜厚(tR)と前記緑色リン光発光層の膜厚(tG)とが5×(tR)≦(tG)の関係にあることを特徴とするものである。
【0007】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記赤色リン光発光層の前記膜厚(tR)が5nm以下であることが好ましい。
【0008】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記赤色リン光発光層及び緑色リン光発光層がホスト材料として電子輸送性材料を含有し、前記赤色リン光発光層が前記陽極の側に配置され、前記緑色リン光発光層が前記陰極の側に配置されて形成されていることが好ましい。
【0009】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記赤色リン光発光層及び緑色リン光発光層がホスト材料としてホール輸送性材料を含有し、前記赤色リン光発光層が前記陰極の側に配置され、前記緑色リン光発光層が前記陽極の側に配置されて形成されていることが好ましい。
【0010】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一発光ユニットが前記陽極の側に配置され、前記第二発光ユニットが前記陰極の側に配置されて形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、照明用光源として重要である高輝度発光が可能なマルチユニット素子であり、輝度劣化を抑制した長寿命な白色有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構造の概略を示す断面図である。
【図2】波長と視感度との関係を示す比視感度曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を図1に示す。この有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板10の表面に透明電極1を形成し、その上に第一ホール輸送層11、青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、第一電子輸送層12、中間層9、第二ホール輸送層13、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5、第二電子輸送層14、反射電極6をこの順に備えて形成されている。さらに基板10の透明電極1と反対側の面に光取出層15が形成されている。以下、本構造を例として説明するが、この構造はあくまでも一例であり、本発明の趣旨に反しない限り、本構造に限定されるものではない。
【0015】
基板10は光透過性を有することが好ましい。基板10は無色透明であっても、多少着色されていてもよい。基板10は磨りガラス状であってもよい。基板10の材質としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどの透明ガラス;ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂等のプラスチックなどが挙げられる。基板10の形状はフィルム状でも板状でもよい。
【0016】
透明電極1は陽極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極は、発光層中にホールを注入するための電極である。透明電極1を形成するための材料としては、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等の金属酸化物等が用いられる。透明電極1は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の適宜の方法により形成され得る。透明電極1の好ましい厚みは透明電極1を構成する材料によって異なるが、500nm以下、好ましくは10〜200nmの範囲で設定されるのがよい。
【0017】
第一ホール輸送層11及び第二ホール輸送層13を構成する材料(ホール輸送性材料)は、ホール輸送性を有する化合物の群から適宜選定されるが、電子供与性を有し、また電子供与によりラジカルカチオン化した際にも安定である化合物であることが好ましい。ホール輸送性材料としては、例えば、ポリアニリン、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物、スターバーストアミン類(m−MTDATA)、TDATA系材料として1−TMATA、2−TNATA、p−PMTDATA、TFATAなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、一般に知られる任意のホール輸送材料が使用される。第一ホール輸送層11及び第二ホール輸送層13は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。
【0018】
第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14を形成するための材料(電子輸送性材料)は、電子を輸送する能力を有し、反射電極6からの電子の注入を受け得ると共に発光層に対して優れた電子注入効果を発揮し、さらに第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14へのホールの移動を阻害し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物であることが好ましい。電子輸送性材料として、Alq3、オキサジアゾール誘導体、スターバーストオキサジアゾール、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体などが挙げられる。電子輸送性材料の具体例として、フルオレン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、アントラキノジメタン等やそれらの化合物、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体などが挙げられる。金属錯体化合物としては、具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノラート等が挙げられるが、これらに限定されない。含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール誘導体などが好ましく、具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。電子輸送性材料として、ポリマー有機エレクトロルミネッセンス素子に使用されるポリマー材料も挙げられる。このポリマー材料として、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等が挙げられる。第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14の厚みに特に制限はないが、例えば、10〜300nmの範囲に形成される。第一電子輸送層12及び第二電子輸送層14は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。
【0019】
反射電極6は陰極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子における陰極は、発光層中に電子を注入するための電極である。反射電極6は、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物などの材料から形成されることが好ましい。反射電極6を形成するための材料としては、例えば、Al、Ag、MgAgなどが挙げられる。Al/Al混合物などからも反射電極6が形成され得る。反射電極6は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法等の適宜の方法により形成され得る。反射電極6の好ましい厚みは反射電極6を構成する材料によって異なるが、500nm以下、好ましくは20〜200nmの範囲で設定されるのがよい。
【0020】
光取出層15は、光拡散性向上のために基板10の透明電極1と反対側の面に光散乱性フィルムやマイクロレンズフィルムを積層して形成することができる。
【0021】
各発光層(青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5)は、発光材料(ドーパント)がドープされた有機材料(ホスト材料)から形成され得る。
【0022】
ホスト材料としては、電子輸送性の材料、ホール輸送性の材料、電子輸送性とホール輸送性とを併せ持つ材料の、いずれも使用され得る。ホスト材料として電子輸送性の材料とホール輸送性の材料とが併用されてもよい。
【0023】
青色蛍光発光層2に含有される青色蛍光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意の蛍光発光材料を用いることができる。
【0024】
青色蛍光発光層2を構成するホスト材料としては、TBADN(2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン)、ADN、BDAFなどが挙げられる。青色蛍光発光材料の濃度は1〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
緑色蛍光発光層3に含有される緑色蛍光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意の蛍光発光材料を用いることができる。
【0026】
緑色蛍光発光層3を構成するホスト材料としては、Alq3(トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III))、ADN、BDAFなどが挙げられる。緑色蛍光発光材料の濃度は1〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
緑色リン光発光層5に含有される緑色リン光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意のリン光発光材料を用いることができる。
【0028】
緑色リン光発光層5を構成するホスト材料としては、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)、CzTT、mCP、CDBP、TCTA、TAZなどが挙げられる。これらの中では、CBP、CzTT、mCP、CDBPが電子輸送性とホール輸送性とを併せ持つ材料であり、TCTAがホール輸送性材料であり、TAZが電子輸送性材料である。緑色リン光発光材料の濃度は1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
赤色リン光発光層4に含有される赤色リン光発光材料としては、特に限定されるものではなく、任意のリン光発光材料を用いることができる。
【0030】
赤色リン光発光層4を構成するホスト材料としては、緑色リン光発光層5を構成するホスト材料と同様のものが挙げられる。赤色リン光発光材料の濃度は1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
各発光層(青色蛍光発光層2、緑色蛍光発光層3、赤色リン光発光層4、緑色リン光発光層5)は、真空蒸着、転写等の乾式プロセスや、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等の湿式プロセスなど、適宜の手法により形成され得る。
【0032】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、図1に示すように第一発光ユニット7と第二発光ユニット8とが中間層9を介して積層されてマルチユニット構造を形成している。第一発光ユニット7は、少なくとも青色蛍光発光層2を含むものであり、図1のように青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を積層して含むものでもよい。第二発光ユニット8は、緑色リン光発光層5及び赤色リン光発光層4を積層して含むものである。
【0033】
中間層9は、二つの発光ユニットを電気的に直列接続する機能を果たす。中間層9は透明性が高く、かつ熱的・電気的に安定性が高いことが好ましい。中間層9は、例えば等電位面を形成する層、電荷発生層などから形成され得る。等電位面を形成する層もしくは電荷発生層の材料としては、例えばAg、Au、Al等の金属薄膜;酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物;ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜;いわゆるn型半導体とp型半導体との積層体;金属薄膜もしくは透明導電膜と、n型半導体及びp型半導体のうちの一方又は双方との積層体;n型半導体とp型半導体の混合物;n型半導体とp型半導体とのうちの一方又は双方と金属との混合物などが挙げられる。前記n型半導体やp型半導体としては、特に制限されることなく必要に応じて選定されたものが使用される。n型半導体やp型半導体は、無機材料、有機材料のうちいずれであってもよい。n型半導体やp型半導体は、有機材料と金属との混合物;有機材料と金属酸化物との組み合わせ;有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料や無機系アクセプタ/ドナー材料との組み合わせ等であってもよい。中間層9は、BCP:Li、ITO、NPD:MoO、Liq:Alなどからも形成され得る。BCPは2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリンを示す。例えば、中間層9は、BCP:Liからなる第1層を陽極側に、ITOからなる第2層を陰極側に配置した二層構成のものにすることができる。中間層9がAlq3/LiO/HAT−CN6、Alq3/LiO、Alq3/LiO/Alq3/HAT−CN6などの層構造を有していることも好ましい。
【0034】
第一発光ユニット7の高性能化に必要な材料と、第二発光ユニット8の高性能化に必要な材料とでは要求されるイオン化ポテンシャルや電子親和力、三重項エネルギー準位などの材料物性値が異なるため、第一発光ユニット7と第二発光ユニット8とを中間層9で分離することで、それぞれのユニットごとに材料選定が可能になり、高効率、長寿命化に有効である。また、比較的短波長領域に発光スペクトルを有する第一発光ユニット7と、比較的長波長領域に発光スペクトルを有する第二発光ユニット8とを中間層9で分離して配置可能なマルチユニット構造を用いることにより、光学設計が容易になり、高演色性化、かつ、高効率、長寿命、高輝度、色度の視野角依存性低減などが可能になる。
【0035】
そして、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)と緑色リン光発光層5の膜厚(tG)とが5×(tR)≦(tG)の関係にある。このように、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)を緑色リン光発光層5の膜厚(tG)と比較して極端に薄膜化することにより、第二発光ユニット8からの発光が、駆動に伴い、赤色リン光発光強度/緑色リン光発光強度の比が変化し、赤色リン光発光強度と比較して視感度の高い緑色リン光発光強度を大きくすることにより、輝度寿命の長寿命化を実現することができる。
【0036】
一般的に有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命特性とは輝度寿命特性を意味することが多く、輝度は放射強度に比視感度をかけたもので表されるため、同じ放射強度でも、比視感度の高い領域に発光スペクトルを有する方が高い輝度を得ることができる。本発明では、駆動に伴う発光スペクトルの変化を視感度の高い領域に発光スペクトルが強くなるようにすることで、放射強度の低下よりも、輝度の低下を抑制して長寿命化を実現するものである。図2に比視感度曲線を示す。このように、比視感度曲線は555nmにピークを持ち、緑色発光領域の視感度が高いことを利用し、駆動前と比較し、第二発光ユニット8の緑色リン光発光強度を赤色リン光発光強度に比べて大きくすることにより輝度の長寿命化を実現することが可能となる。
【0037】
本来、駆動に伴う発光スペクトルの変化は好ましいものではないが、照明用途としては狙いとする白色領域内での色変化は許容されるものであり、本発明では許容される白色領域内で積極的に発光スペクトルを変化させ、長寿命化を実現するものである。
【0038】
有機エレクトロルミネッセンス素子を連続駆動すると一般的に発光領域(再結合領域)がわずかに変化する。本発明では赤色リン光発光層4を薄膜化することで、連続駆動に伴う発光領域のわずかなシフトが起こった場合でも効果的に発光色を狙いの方向へ変化させることが可能となる。
【0039】
具体的には、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)と緑色リン光発光層5の膜厚(tG)とが5×(tR)≦(tG)の関係にあればよく、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)は、上記の関係を満たすものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下(下限は0.1nm程度)である。このように、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)を薄膜化することで、効果的に駆動に伴う発光色の変化を制御することが可能であり、より視感度の高い緑色リン光発光強度を赤色リン光発光強度に比べて大きくすることにより輝度低下を抑制することが可能となる。
【0040】
緑色リン光発光層5の膜厚(tG)は、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)の5倍以上であれば特に限定されるものではないが、10倍以上(上限は80倍程度)であることが好ましい。発光層の膜厚比が大きくなるにつれ、発光色の変化を効果的に起こすことが可能であるためである。また、第二発光ユニット8の膜厚が薄くなると、この第二発光ユニット8を通り抜ける電子やホールが多くなり、効率の低下や短寿命化などを引き起こすため、第二発光ユニット8の膜厚は20nm以上(上限は80nm程度)であることが好ましい。
【0041】
また、赤色リン光発光層4と緑色リン光発光層5とを積層する順番は特に限定されるものではないが、赤色リン光発光層4及び緑色リン光発光層5がホスト材料として電子輸送性材料を含有する場合には、赤色リン光発光層4を透明電極1(陽極)の側に配置し、緑色リン光発光層5を反射電極6(陰極)の側に配置することが好ましい。このように、電子輸送性材料をホスト材料として用いる場合には、駆動に伴い第二ホール輸送層13が劣化し、第二発光ユニット8へのホール注入が抑制され、発光領域が第二ホール輸送層13の側から第二電子輸送層14の側へ移動し、これにより発光色を調整することが可能となる。さらに、赤色リン光発光層4を透明電極1の側に配置し、緑色リン光発光層5を反射電極6の側に配置することで、発光領域を赤色リン光発光層4の側に集中させることが可能であり、駆動に伴う劣化により、発光領域が反射電極6の側にシフトすることでより効果的に輝度劣化を抑制することが可能となる。
【0042】
一方、赤色リン光発光層4及び緑色リン光発光層5がホスト材料としてホール輸送性材料を含有する場合には、図示省略しているが、赤色リン光発光層4を反射電極6(陰極)の側に配置し、緑色リン光発光層5を透明電極1(陽極)の側に配置することが好ましい。このように、ホール輸送性材料をホスト材料として用いる場合には、駆動に伴い第二電子輸送層14が劣化し、第二発光ユニット8への電子注入が抑制され、発光領域が第二電子輸送層14の側から第二ホール輸送層13の側へ移動し、これにより発光色を調整することが可能となる。さらに、赤色リン光発光層4を反射電極6の側に配置し、緑色リン光発光層5を透明電極1の側に配置することで、発光領域を赤色リン光発光層4の側に集中させることが可能であり、駆動に伴う劣化により、発光領域が透明電極1の側にシフトすることでより効果的に輝度劣化を抑制することが可能となる。
【0043】
また、図1に示すように、第一発光ユニット7が透明電極1の側に配置され、第二発光ユニット8が反射電極6の側に配置されて形成されていることが、高効率化、色度の角度依存性の抑制の点から好ましい。反射電極6の側の発光ユニットは、透明電極1の側の発光ユニットと比較し、干渉の影響によるロスが小さく、反射電極6の側の発光ユニットの光取出し効率は、透明電極1の側の発光ユニットの光取出し効率と比較して高くなる傾向にある。そのため、内部量子効率の高い第二発光ユニット8を光取出し効率の比較的高い反射電極6の側に配置することで、輝度劣化を抑制し、かつ高効率化が可能となる。
【0044】
上記のように、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、第二発光ユニット8において、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)を緑色リン光発光層5の膜厚(tG)の5分の1以下と極端に薄膜化することにより、駆動に伴う発光スペクトルの変化を、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて大きくなる方向に制御することが可能であり、より視感度の高い緑色リン光発光強度を赤色リン光発光強度に比べて大きくすることで輝度低下を抑制し、輝度寿命の長寿命化が可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0046】
(実施例1)
図1に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。具体的には、基板10(ガラス基板)上にITOを厚み130nmに成膜することで透明電極1を形成した。さらに透明電極1の上に第一ホール輸送層11、青色蛍光発光層2(青色蛍光発光材料としてBCzVBiを含有する)、緑色蛍光発光層3(緑色蛍光発光材料としてTPAを含有する)、第一電子輸送層4を蒸着法により5nm〜60nmの厚みに順次形成した。次に、Alq3/LiO/Alq3/HAT−CN6の層構造を有する中間層9を層厚15nmで積層した。次に、第二ホール輸送層13、赤色リン光発光層4(赤色リン光発光材料であるIr(piq)をホスト材料であるTAZにドープしたもの)、緑色リン光発光層5(緑色リン光発光材料であるBtIr(acac)をホスト材料であるTAZにドープしたもの)、第二電子輸送層14を各層が最大50nmの膜厚で順次形成した。続いて、Al膜からなる反射電極6を順次形成した。なお、基板10の透明電極1と反対側の面に光散乱性フィルムを積層して光取出層15を形成した。
【0047】
第一発光ユニット7は、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を含んで形成され、第二発光ユニット8は、膜厚1.5nmの赤色リン光発光層4及び膜厚38.5nmの緑色リン光発光層5を含んで形成されている。緑色リン光発光層5の膜厚(tG)は、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)の26倍である。
【0048】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、LT70時点では白色発光を維持しているものの、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて増加し、長い輝度寿命が確認できた。
【0049】
(実施例2)
赤色リン光発光層4の膜厚(tR)が5nm、緑色リン光発光層5の膜厚(tG)が35nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0050】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて増加し、長い輝度寿命が確認できた。
(実施例3)
赤色リン光発光層4の膜厚(tR)が10nm、緑色リン光発光層5の膜厚(tG)が70nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0051】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて増加し、長い輝度寿命が確認できた。ただし、緑色リン光発光層5の膜厚(tG)の増加に伴う駆動電圧の上昇が見られた。
(実施例4)
次のような有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。すなわち、基板10(ガラス基板)上にITOを厚み130nmに成膜することで透明電極1を形成した。さらに透明電極1の上に第一ホール輸送層11、青色蛍光発光層2(青色蛍光発光材料としてBCzVBiを含有する)、緑色蛍光発光層3(緑色蛍光発光材料としてTPAを含有する)、第一電子輸送層4を蒸着法により5nm〜60nmの厚みに順次形成した。次に、Alq3/LiO/Alq3/HAT−CN6の層構造を有する中間層9を層厚15nmで積層した。次に、第二ホール輸送層13、緑色リン光発光層5(緑色リン光発光材料であるBtIr(acac)をホスト材料であるTCTAにドープしたもの)、赤色リン光発光層4(赤色リン光発光材料であるIr(piq)をホスト材料であるTCTAにドープしたもの)、第二電子輸送層14を各層が最大50nmの膜厚で順次形成した。続いて、Al膜からなる反射電極6を順次形成した。なお、基板10の透明電極1と反対側の面に光散乱性フィルムを積層して光取出層15を形成した。
【0052】
第一発光ユニット7は、青色蛍光発光層2及び緑色蛍光発光層3を含んで形成され、第二発光ユニット8は、膜厚1.5nmの赤色リン光発光層4及び膜厚38.5nmの緑色リン光発光層5を含んで形成されている。緑色リン光発光層5の膜厚(tG)は、赤色リン光発光層4の膜厚(tR)の26倍である。
【0053】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、LT70時点では白色発光を維持しているものの、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて増加し、長い輝度寿命が確認できた。
【0054】
(比較例1)
赤色リン光発光層4の膜厚(tR)が10nm、緑色リン光発光層5の膜厚(tG)が30nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0055】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、若干、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて低下し、輝度寿命が各実施例と比較し低下した。
【0056】
(比較例2)
赤色リン光発光層4の膜厚(tR)が5nm、緑色リン光発光層5の膜厚(tG)が10nmであること以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0057】
上記のようにして得られた有機エレクトロルミネッセンス素子について、初期輝度3000cd/mで連続駆動を行った結果、若干、緑色リン光発光強度が赤色リン光発光強度に比べて低下し、輝度寿命が各実施例と比較し低下した。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1 透明電極
2 青色蛍光発光層
4 赤色リン光発光層
5 緑色リン光発光層
6 反射電極
7 第一発光ユニット
8 第二発光ユニット
9 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、青色蛍光発光材料を含有する青色蛍光発光層を含む第一発光ユニットと、中間層と、赤色リン光発光材料を含有する赤色リン光発光層及び緑色リン光発光材料を含有する緑色リン光発光層を含む第二発光ユニットと、陰極とを備えて形成され、前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとが前記中間層を介して積層されることでマルチユニットとなり、前記赤色リン光発光層の膜厚(tR)と前記緑色リン光発光層の膜厚(tG)とが5×(tR)≦(tG)の関係にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記赤色リン光発光層の前記膜厚(tR)が5nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記赤色リン光発光層及び緑色リン光発光層がホスト材料として電子輸送性材料を含有し、前記赤色リン光発光層が前記陽極の側に配置され、前記緑色リン光発光層が前記陰極の側に配置されて形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記赤色リン光発光層及び緑色リン光発光層がホスト材料としてホール輸送性材料を含有し、前記赤色リン光発光層が前記陰極の側に配置され、前記緑色リン光発光層が前記陽極の側に配置されて形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第一発光ユニットが前記陽極の側に配置され、前記第二発光ユニットが前記陰極の側に配置されて形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−69703(P2013−69703A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−273812(P2012−273812)
【出願日】平成24年12月14日(2012.12.14)
【分割の表示】特願2011−66568(P2011−66568)の分割
【原出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】