説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明は、正孔注入層に隣接または離間して配置された電極や発光層の腐食を防いで発光寿命を改善できるとともに、発光効率低下を抑制できる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極(陽極12、陰極13)間に、少なくとも正孔注入層14aおよび発光層14bを備えた発光部14を備え、正孔注入層14aは、高分子半導体塗料から形成された高分子半導体塗膜からなり、前記高分子半導体塗料は、π共役系高分子半導体と、ポリアニオンと、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンの少なくとも一方からなる中和剤とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に少なくとも正孔注入層と発光層を備えた発光部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型ディスプレイの分野においては、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイの他に、有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイが商品化されている。また、照明分野においても、無機半導体を用いたLED照明に続いて、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた薄型フラット照明の開発も進められている。
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極より注入された正孔と、陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光物質が発光する原理を用いた自発発光型の発光素子である。この有機エレクトロルミネッセンス素子の最も単純な構成は、陽極となる透明電極、自発発光する発光層、陰極となる金属電極の三層の構造であるが、発光効率を上げ、より低電圧で発光させるためにこれらを補助する層を設けることが多い。具体的には、陽極と発光層と間に正孔注入層を設け、発光層と陰極との間に電子注入層を設ける。さらには、発光効率を上げるために、正孔注入層を複層化して正孔輸送層を設けたり、電子注入層を複層化して電子輸送層を設けたりすることもある。
【0003】
上記補助層(正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層)を設ける主たる理由は、各電極から注入される正孔および電子の注入におけるエネルギー障壁を下げることにある。トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、「Alq3」と表記する。)に代表される有機発光部材は、その最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位が6eV、最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位が3eV付近にあるものが多い。一方、透明電極である陽極に用いられる酸化インジウムスズ(ITO)の仕事関数は4.5〜5eV、陰極に用いられるアルミニウム電極の仕事関数は4〜4.5eVであり、有機発光部材は陽極、陰極それぞれに対して1eVものエネルギーギャップを有することになる。そこで、陽極と発光層との間に正孔注入層を設け、陰極と発光層との間に電子注入層を設けて、エネルギーギャップを緩和することにより、発光効率を向上させる方法が知られている。例えば、正孔注入層にはHOMO準位エネルギーが5〜6eV程度の有機材料が、電子注入層にはLUMO(有機物の場合)または仕事関数(無機物の場合)が3〜4eV程度の材料が用いられる。
【0004】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸をドープしたPEDOT/PSSは、電気導電の担い手が正孔であるp型有機半導体であり、また、HOMO準位エネルギーが約5.3eVで、陽極であるITOと発光層であるAlq3の中間に位置している。そのため、正孔注入層としての利用が検討されている。
ところが、PEDOT/PSSはドーパントとして使用されるPSSが強酸であり、その水溶液は強い酸性を示す。実用濃度である1〜3質量%水溶液の水素イオン濃度はpH1〜2を示し、金属を容易に腐食してしまうことから電子基材などへの展開の足枷となっている。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子において、正孔注入層に隣接する陽極や発光層、場合によっては陰極まで腐食してしまい、発光寿命が著しく低下するという問題が生じた。さらに、発光寿命の低下は、発光の際に素子に電圧を印加すると加速する傾向にあった。
そこで、発光寿命の低下を防ぐため、各種中和剤を添加して溶液の水素イオン指数を4〜8程度に調整することがある。中和剤としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、石灰(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等のイオン化傾向の強い金属を用いるものが安価で一般的である。しかし、それらは、それ自体に金属イオンを含有することから、金属不純物の存在により特性が多大な影響を受ける電子デバイス分野には不向きであった。また、これら中和剤の殆どは強塩基性であるため、強酸であるPEDOT/PSSと混合して中和点付近に水素イオン指数を調整するのは非常に困難であった。
一方、金属イオンを含まない中和剤としてアミン類を用いることもできる。技術分野は有機エレクトロルミネッセンスではないが、特許文献1,2には、イミダゾールやジメチルアミノエタノール等のアミンを中和剤として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−184317号公報
【特許文献2】特開2007−184318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アミン類により中和処理したPEDOT/PSS水溶液を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、中和剤が添加されていないものに比べて初期状態で発光電位が高く、発光効率が数十パーセント低下する問題が生じた。
本発明は、正孔注入層に隣接または離間して配置された電極や発光層の腐食を防いで発光寿命を改善できるとともに、発光効率低下を抑制できる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、アミン類により中和処理した際に発光効率が低下する原因について調べたところ、中和剤を添加したPEDOT/PSSのHOMO準位エネルギーは、中和剤を添加していないものに比べて絶対値の大きい側、すなわちITOの仕事関数と離れる側に0.5eV程シフトしていた。その結果、発光層であるAlq3のHOMO準位エネルギーとほぼ同等となっていた。したがって、発光効率の低下は、中和剤添加によりPEDOT/PSSのHOMO準位エネルギーがシフトしてしまい、ITOのエネルギー準位のギャップが大きくなって発光層への正孔注入効率が低下したためと推測された。
この知見を基に、本発明者らは、PEDOT/PSSのHOMO準位エネルギーをシフトさせにくいアミン類について検討して、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、少なくとも正孔注入層および発光層を備えた発光部を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層は、高分子半導体塗料から形成された高分子半導体塗膜からなり、前記高分子半導体塗料は、π共役系高分子半導体と、ポリアニオンと、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンの少なくとも一方からなる中和剤とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、正孔注入層に隣接または離間して配置された電極や発光層の腐食を防いで発光寿命を改善できるとともに、正孔注入層のエネルギー準位シフトによる発光効率低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のI−I’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「OEL素子」という。)の一実施形態について説明する。
図1に、本実施形態のOEL素子の平面図、図2に図1のI−I’断面図を示す。本実施形態のOEL素子10は、基材11と、基材11の片面側に設けられた陽極12および陰極13と、これらの間に設けられた発光部14とを有する。陽極12と陰極13とは基材11の中央で直交するように配置されている。
このOEL素子10では、陽極12−陰極13間に電位を与えた際に、陽極12と陰極13との直交部にて、基材11を通して発光を視認できるようになっている。
【0012】
<発光部>
発光部14は、少なくとも正孔注入層14a、発光層14b、電子注入層14cとの積層体となっている。正孔注入層14aは陽極12側に配置され、電子注入層14cは陰極13側に配置されている。
【0013】
(正孔注入層)
正孔注入層14aは、有機半導体塗料から形成された導電性塗膜からなっている。
前記高分子半導体塗料は、π共役系高分子半導体とポリアニオンとアミンとを含むものである。高分子半導体塗料の分散媒としては、水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール)等の水溶性有機溶媒を用いることができる。
【0014】
[π共役系高分子半導体]
π共役系高分子半導体としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば特に制限されず、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。極性溶剤との相溶性及び透明性の面から、ポリチオフェン系がより好ましい。
【0015】
π共役系高分子半導体の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0016】
π共役系高分子半導体は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等の官能基をπ共役系高分子半導体に導入することが好ましい。
π共役系高分子半導体の中でも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【0017】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。
なお、ポリアニオンはπ共役系高分子半導体に対するドーパントとしても機能し、ポリアニオンとπ共役系高分子半導体とは複合体となっている。
【0018】
ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和二重結合(ビニル基)が1個含まれる構成単位からなる高分子である。
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物と、オキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドを例示できる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等を例示できる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を例示できる。
【0019】
上記ポリアニオンが置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシ基等が挙げられる。溶剤への溶解性、耐熱性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシ基、フェノール基、エステル基が好ましい。
【0020】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、へキシル、オクチル、デシル、ドデシル等のアルキル基と、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。
ヒドロキシ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したヒドロキシ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。ヒドロキシ基は、これらの官
能基の末端又は中に置換されている。
アミノ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したアミノ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。アミノ基は、これらの官能基の末端又は中に置換されている。
フェノール基としては、ポリアニオンの主鎖に直接又は他の官能基を介在して結合したフェノール基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。フェノール基は、これらの官能基の末端又は中に置換されている。
【0021】
置換基を有するポリアルキレンの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等を例示できる。
ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる1種以上の構成単位を含む重合体を例示できる。
【0022】
ポリアニオンのアニオン基としては、−O−SO、−SO、−COO(各式においてXは水素イオン、アルカリ金属イオンを表す。)が挙げられる。すなわち、ポリアニオンは、スルホ基及び/又はカルボキシ基を含有する高分子酸である。これらの中でも、π共役系高分子半導体へのドーピング効果の点から、−SO、−COOが好ましい。
また、このアニオン基は、隣接して又は一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
【0023】
上記ポリアニオンの中でも、溶剤溶解性及び導電性の点から、ポリイソプレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸を含む共重合体、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレートを含む共重合体、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)を含む共重合体、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸を含む共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸を含む共重合体等が好ましい。
【0024】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶剤溶解性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0025】
ポリアニオンの含有量は、π共役系高分子半導体1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系高分子半導体へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、得られる導電性塗膜において導電性が不足することがある。その上、溶剤への分散性及び溶解性が低くなり、均一な塗料を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、π共役系高分子半導体の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0026】
[アミン]
高分子半導体塗料に含まれるアミンは、アンモニア分子の全ての水素原子をアルコール基で置換した構造を有するアミン、すなわちトリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンの少なくとも一方である。
トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンの構造は、アンモニア分子の全ての水素原子を炭素数2のアルコールまたは炭素数3のアルコールで置換した構造であり、等方的である。以下、本明細書では、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンのことを、「等方構造性アミン」という。
等方構造性アミンの含有量は、高分子半導体塗料のpH(水素イオン指数)が、好ましくは4〜8の範囲、より好ましくは5〜7の範囲となる量とされる。
等方構造性アミンは、中心の窒素原子に結合するアルコールの炭素数が小さい程、塩基性が高く、少量で中和できるが、アルコール炭素数が1であると、極少量で中和可能になり、中和点付近でpHが急激に変化するため、pHの制御性が不充分になる。そのため、本発明では、中心の窒素原子に結合するアルコールの炭素数を2または3として、pHの制御性を確保している。なお、中心の窒素原子に結合するアルコールの炭素数が4以上のものは、入手困難である。
【0027】
[高沸点溶媒]
高分子半導体塗料は、基材11への濡れ性を高めるため、少量の高沸点溶媒を含有してもよい。
濡れ性改善のための高沸点溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
ただし、多くの高沸点溶媒は同時に高導電化剤としても機能するため、注意が必要である。すなわち、塗工膜の導電率が高くなりすぎると、OEL素子を作成した際に発光に関与しない漏れ電流を誘発して発光効率の低下や発光寿命の短縮といった問題を引き起こすことがある。
高沸点溶媒として、ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等も使用することもできるが、これらは強力な高導電化剤として作用するために導電性の上昇に注意しながら使用する必要がある。
【0028】
高沸点溶剤の含有量は、π共役系高分子半導体とポリアニオンの合計質量に対して1〜1000倍量であることが好ましく、2〜100倍量であることがより好ましい。高沸点溶剤の含有量が前記下限値以上であれば、充分な濡れ性向上を得ることができ、前記上限値以下であれば、π共役系高分子半導体とポリアニオンが溶液中で析出することを防止できる。
【0029】
[形成方法]
正孔注入層14aは、高分子半導体塗料を陽極12がパターニングされた基材11に塗布し、加熱することにより形成される。高分子半導体塗料の塗布によって正孔注入層14aを形成する方法では、ディスプレイの大画面化、低コスト化を容易に実現できる。
高分子半導体塗料の塗布方法としては、例えば、スピンコーター、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗工機を用いた塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップなどの浸漬方法が挙げられる。
【0030】
高分子半導体塗料を塗布した後には加熱して、水及び溶剤を蒸発させて塗膜を形成する。加熱乾燥の際には、熱風乾燥機、赤外線乾燥機等の乾燥機を用いることができる。加熱乾燥の前には、必要に応じて、加熱せずに送風乾燥してもよい。また、予め予熱したホットプレート上に放置することにより基材11を介して加熱乾燥することも可能である。
加熱温度は、使用する基材11の融点にもよるが、100〜300℃にすることが好ましい。100℃以上であれば、塗料中の水分を容易に除去でき、300℃以下であれば熱による劣化を抑制できる。
【0031】
[厚さ]
正孔注入層14aの厚さは、1nm〜1μmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましく、50〜200nmであることがさらに好ましい。
【0032】
(発光層)
発光層14bは、発光材料を含有する層である。ここで発光材料としては、色素系発光材料、金属錯体型発光材料、高分子系発光材料が挙げられる。
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニフブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ポラゾリンダイマー等が挙げられる。
金属錯体型発光材料としては、例えば、アルミキノリール錯体、ベンゾキノリール錯体、ベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体等が挙げられる。
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体(酸がドーピングされていないもの)、ポリパラフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、上記の色素系発光材料や金属錯体発光材料を高分子化したもの等が挙げられる。
【0033】
発光層14bの厚さは、使用する発光材料によって適宜選択されるが、発光電圧、発光効率などの発光特性を考慮すると、1nm〜1μmであることが好ましく、5〜500nmであることがより好ましく、10〜200nmであることがさらに好ましい。
【0034】
発光層14bの形成方法としては、例えば、蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スピンコート法が挙げられる。これらのうち、蒸着法、スピンコート法およびインクジェット法が好ましい。
【0035】
(電子注入層)
電子注入層14cは、発光層14bと陰極13の間に、陰極13に接するように形成され、発光層14bと陰極13の電子注入におけるエネルギー障壁を緩和する働きをする層である。
電子注入層14cを形成する材料としては、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,20−フェナントロリン(BCP)、2−(4−ビフェニリル)−5−4(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、シロール誘導体、フッ化リチウム(LiF)等が挙げられる。
電子注入層14cの厚さは0.1nm〜1μmであることが好ましく、0.2〜500nmであることがより好ましい。
【0036】
<基材>
基材11としては、透明なシート又は板が使用される。基材11の具体例としては、ソーダライムガラス、石英ガラスなどのガラス類の板、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アモルファスポリエチレンテレフタレート等の透明熱可塑樹脂を主成分とするシートが挙げられる。
【0037】
<陽極>
陽極12は、透明導電層からなる電極である。透明電極層としては、導電性の金属酸化物の層、金属の層が挙げられる。
導電性酸化物としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、錫ドープ酸化インジウム(ITO)が挙げられ、なかでも、透明性や固有の仕事関数の値からITOが好ましい。
金属としては、金、白金、銀、銅等が挙げられる。
陽極12の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などが挙げられる。また、パターンの形成においては、簡便かつ安価なことから、予め全面に陽極材料層が形成されている基材を入手し、これを所定の大きさに切断してから、エッチング処理することが好ましい。また、予めパターンが形成されたマスクを介して、陽極材料を付着することにより形成しても構わない。
【0038】
陽極12の厚さは、10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜1μmであることがより好ましく、50〜500nmであることがさらに好ましい。陽極12の厚さが前記下限値以上であれば、陽極12の導電性が向上し、前記上限値以下であれば陽極12の透明性が向上する。
さらに陽極12は、正孔注入層14a以降の薄膜を形成する際の均一性が向上することから、表面の平坦性に優れていることが好ましい。OEL素子作製に求められる表面粗さは平均表面粗さRaが10nm以下であるが、Raが1.5nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。
【0039】
<陰極>
陰極13は、発光層14bのLUMOエネルギー準位よりも絶対値の小さな仕事関数を有する金属の層からなる。これを満たす材料としては、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が挙げられる。
【0040】
陰極13の厚さは、他の機能層に電子が供給できる厚さであればよく、外部回路との接点としての機能も要するため、10nm以上であることが好ましく、10nm〜10μmであることがより好ましく、20nm〜1μmであることがさらに好ましく、50〜500nmであることが特に好ましい。陰極13の厚さが前記下限値以上であれば、陰極13の導電性が向上し接点との耐久性も向上する。
陰極13の形成方法は、上述した陽極12の形成方法と同様の方法を適用することができる。
【0041】
<OEL素子の作用効果>
上記実施形態のOEL素子10を構成する正孔注入層14aは、等方構造性アミンによって中和されている。等方構造性アミンにおいては、分子内での電荷の局在化が起こりにくいため、π共役系高分子半導体とポリアニオンの混合体中に存在してもπ共役系高分子半導体の電子軌道に干渉せず、正孔生成能への影響が小さいと推測される。そのため、HOMO準位エネルギーをシフトさせずに、混合溶液を中和処理できる。HOMO準位エネルギーのシフトを抑制することで、陽極12−正孔注入層14a、正孔注入層14a−発光層14b間の仕事関数及びHOMO準位エネルギーの差を、中和処理を施さない正孔注入層14aとほぼ同等に保つことができる。そのため、初期の発光電位も変化せず、発光効率の低下を抑制できる。
また、中和処理によって、陽極12および陰極13や発光層14bの腐食を防止できるため、発光寿命を延ばすことができる。
【0042】
<OEL素子の他の実施形態>
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
上記実施形態における正孔注入層及び電子注入層は各一層の構造であるが、正孔及び電子の注入障壁をさらに緩和するため、正孔注入層や電子注入層を複数層設けてもよい。ただし、多層にする程、膜厚の調整が難しくなり、製造コストも上昇することから、実用性の観点からは、多層の場合でも2層程度が好ましい。正孔注入および電子注入を補助する層が2層になっている場合、正孔導入側については、発光層14bから近い順に、正孔輸送層、正孔注入層と称し、電子導入側については、発光層から近い順に、電子輸送層、電子注入層と称することがある。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例により限定されるものではない。
(製造例1)ITOパターン付基材の作製
市販のOEL用ITO付着ガラス(ITO側表面粗さ;Ra<10nm、厚さ0.5mm)をガラス切りにて20×20mmの大きさに切断した(チップα)。このチップαの中央を、幅3mmのメンディングテープでマスクした後、王水(塩酸:硝酸=1:3、体積比率)に10分間浸し、チップα上のマスク部以外のITO膜を除去した(チップβ)。次いで、チップβをイオン交換水で充分にすすいだ後、さらに流水ですすぎ、水分を拭き取った後、メンディングテープの粘着剤が残らないように注意深く剥がして、ITOパターン付基材を得た。
【0044】
(製造例2)ITOパターン付基材の洗浄
上記ITOパターン付き基材を、固形洗剤(和光純薬工業 コンタミノンO:3質量%水溶液)で10分間の超音波洗浄を行った後、さらにイオン交換水で10分間の超音波洗浄を行って固形洗剤洗浄済み基材を得た。この固形洗剤洗浄済み基材を、中性液体洗剤(メルク株式会社 エキストラン MA02 ニュートラル、2質量%水溶液)で10分間超音波洗浄を行った後、さらにイオン交換水で10分間の超音波洗浄を行って液体洗剤洗浄済み基材を得た。この液体洗剤洗浄済み基材を、アセトン中で10分間の超音波洗浄を行った後、IPA(イソプロピルアルコール)中で10分間の超音波洗浄を行って溶剤洗浄済み基材を得た。この溶剤洗浄基材を充分に乾燥させた後、オゾン洗浄機(Filgen UV253E)で20分間の洗浄を行って、洗浄済みチップを得た。
【0045】
(製造例3)ポリスチレンスルホン酸の調製
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を2時間攪拌した。
これにより得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000mlと10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約10000ml溶液を除去し、残液に10000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
限外ろ過条件は下記の通りとした(他の例でも同様)。
限外ろ過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3000ml/分
膜分圧:0.12Pa
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0046】
(製造例4)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水溶液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gの製造例3で得たポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記ろ過処理が行われた処理液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)水溶液を得た。
【0047】
(実施例1)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてトリエタノールアミン0.36gを添加して、高分子半導体塗料Aを得た。
【0048】
<水素イオン指数(pH)測定>
高分子半導体塗料について、pH測定器(堀場製作所 pHメーター D−52)を用いて水素イオン指数(pH)の測定を23℃で行ったところ、6.5であった。
【0049】
<最大被占軌道(HOMO)エネルギー準位の測定>
市販のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製板に、高分子半導体塗料Aを滴下し150℃のオーブンで乾燥させ、HOMO準位エネルギー測定用試料Aを得た。この試料を、光電子分光装置(理研計器株式会社 AC−3、光量:10nW、測定誤差:0.02eV)を用いてHOMO準位エネルギーを測定したところ、5.22eVであった。
【0050】
(製造例5)高分子半導体塗膜の形成
高分子半導体塗料Aをスピンコーター(ミカサ株式会社 MS−A100)を用いて洗浄済みチップ上のITO側の面に塗布した。塗布条件は、3,000回転/分、60秒とし、その後140℃に予熱したホットプレートで15分間の乾燥を行った。塗布及び乾燥は、大気中の酸素、水分による防ぐため、乾燥窒素にて充填されたチャンバー内で実施した。さらに、乾燥後のチップを真空度1.0×10−4Pa程度の真空状態で12時間放置し、余剰な水分を除去して高分子半導体塗膜付きチップAを得た。なお、形成された高分子半導体塗膜は正孔注入層として使用される。
【0051】
(製造例6)発光層の形成
高分子半導体塗膜付きチップAの塗装面上に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)からなる発光層を、有機蒸着装置(株式会社エイコー EO−6S)を用いて形成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa以下とし、発光層の膜厚は50nmとした。
【0052】
(製造例7)電子注入層の形成
製造例6で得られた発光層の蒸着面上に、フッ化リチウム(LiF)からなる電子注入層を製造例6で用いたものと同じ蒸着機を用いて形成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa程度とし、電子注入層の膜厚は0.5nmとした。
【0053】
(製造例8)陰極の形成
予め幅3mm幅で作成された蒸着マスクを、製造例7で得られた電子注入層の表面に、ITOパターンと直交するように配置し、その上から製造例6で用いたものと同じ蒸着機を用いてアルミニウムを蒸着して陰極を形成した。蒸着時の真空度は、1.0×10−4Pa程度とし、陰極の膜厚は130nmとした。その後、陰極蒸着時に用いた蒸着マスクを取り外し、OEL素子Aを得た。
【0054】
OEL素子Aの発光電位、発光効率、発光寿命を以下の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0055】
<発光電位、発光効率の測定>
直流電圧・電流源/モニタ(株式会社エーディーシー 6241A)および輝度計(コニカミノルタセンシング株式会社 LS−100)を用いて、発光電位および発光効率を測定した。
具体的には、OEL素子Aの陽極と陰極との間に電圧を印加して発光させ(発光面積:9×10−6)、輝度計により輝度を測定し、輝度が50Cd/mとなったときの電圧値を測定し、その電圧を発光電位とした。発光効率は、単位電流あたりの光度(Cd/A)とし、7.5V印加時の発光効率を測定した。なお、大気中の酸素および水分による劣化を防ぐため、測定は乾燥窒素で充填されたチャンバー内で行った。
【0056】
<発光寿命の測定>
発光電位、発光効率の測定の際に使用したものと同様の測定器を用いて発光寿命を測定した。具体的には、輝度を1,000Cd/mとなるように電圧を調整し、発光したまま放置し、輝度が800Cd/m(80%)に落ち込むまでの時間を測定し、その時間を発光寿命とした。なお、大気中の酸素および水分による劣化を防ぐため、測定は乾燥窒素で充填されたチャンバー内で行った。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてトリイソプロパノールアミン0.41gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料B、HOMO準位エネルギー測定用試料B、およびOEL素子Bを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Bの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料BのHOMO準位エネルギー、OEL素子Bの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤を加えず、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料C、HOMO準位エネルギー測定用試料C、およびOEL素子Cを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Cの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料CのHOMO準位エネルギー、OEL素子Cの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてジメチルアミノエタノール0.20gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料D、HOMO準位エネルギー測定用試料D、およびOEL素子Dを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Dの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料DのHOMO準位エネルギー、OEL素子Dの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてジエチルアミノエタノール0.16gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料E、HOMO準位エネルギー測定用試料E、およびOEL素子Eを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Eの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料EのHOMO準位エネルギー、OEL素子Eの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてイミダゾール0.20gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料F、HOMO準位エネルギー測定用試料F、およびOEL素子Fを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Fの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料FのHOMO準位エネルギー、OEL素子Fの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0063】
(比較例5)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤として2−メチルイミダゾール0.16gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料G、HOMO準位エネルギー測定用試料G、およびOEL素子Gを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Gの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料GのHOMO準位エネルギー、OEL素子Gの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0064】
(比較例6)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤としてN−エチルイミダゾール0.24gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料H、HOMO準位エネルギー測定用試料H、およびOEL素子Hを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Hの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料HのHOMO準位エネルギー、OEL素子Hの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0065】
(比較例7)
製造例4で得られたPEDOT/PSS水溶液25gに中和剤として1,2−ジメチルイミダゾール0.20gを使用した以外は、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料I、HOMO準位エネルギー測定用試料I、およびOEL素子Iを得た。
そして、実施例1と同様にして、高分子半導体塗料Iの水素イオン指数pH、HOMO準位エネルギー測定用試料IのHOMO準位エネルギー、OEL素子Iの発光電位、発光効率および発光寿命を測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
等方構造性アミンを中和剤として用いた実施例1,2のOEL素子は、HOMO準位エネルギーが殆どシフトしておらず、中和剤を入れていない比較例1のOEL素子Cと同等の発光電位、発光効率を示した。また、中和剤の添加により電極及び他機能層の腐食を防止でき、発光寿命が延長した。
上記実施例に対し、等方性構造を持たないアミンを中和剤として用いた比較例2〜7では、中和剤の添加により発光寿命は延びているものの、HOMO準位エネルギーが中和剤を添加する前と比べて大幅にずれてしまっており、これに伴い発光電位および発光効率が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のOEL素子を構成する高分子半導体塗膜は、それ自体で1010Ω/□程度の導電性を有するため、OEL素子正孔注入層以外にも、導電性梱包材料、電子部品容器(キャリアテープ、カバーテープ、トレイ、マガジン、バルクケース、OA機器カバー等)などの帯電防止が要求される製品にも使用できる。導電性梱包材料や電子部品容器に収容されるものとして、例えば、IC、LSI、VLSI等の半導体デバイス、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)、シリコンウエハ、ハードディスク、液晶基板、磁気デバイス、光デバイス、光磁気デバイス及びこれらを形成する電子部品などが挙げられる。さらに本発明における高分子半導体塗膜は、帯電防止性が求められる家電や日用品などにも利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10 OEL素子
11 基材
12 陽極
13 陰極
14 発光部
14a 正孔注入層
14b 発光層
14c 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも正孔注入層および発光層を備えた発光部を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔注入層は、高分子半導体塗料から形成された高分子半導体塗膜からなり、前記高分子半導体塗料は、π共役系高分子半導体と、ポリアニオンと、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンの少なくとも一方からなる中和剤とを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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