有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法
【課題】 輝度を上昇させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 TFT140の上方で層間絶縁膜12上に平坦化層としての中間媒質層3が形成される。また、中間媒質層3に開口部が形成され、この開口部内にカラーフィルタ層2が形成される。カラーフィルタ層2上から中間媒質層3上に渡り、中間媒質層3が有する屈折率よりも高い屈折率を有するホール注入電極4がそれぞれ形成される。ホール注入電極4の一部を覆うように平坦化層13が形成される。ホール注入電極4および平坦化層13を覆うように発光層を含む有機層5が全体の領域上に形成され、この有機層5上に電子注入電極6が形成される。
【解決手段】 TFT140の上方で層間絶縁膜12上に平坦化層としての中間媒質層3が形成される。また、中間媒質層3に開口部が形成され、この開口部内にカラーフィルタ層2が形成される。カラーフィルタ層2上から中間媒質層3上に渡り、中間媒質層3が有する屈折率よりも高い屈折率を有するホール注入電極4がそれぞれ形成される。ホール注入電極4の一部を覆うように平坦化層13が形成される。ホール注入電極4および平坦化層13を覆うように発光層を含む有機層5が全体の領域上に形成され、この有機層5上に電子注入電極6が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報技術の興隆に伴い、厚さ数mm程度の薄型でフルカラー表示が可能な薄型表示素子への要望が高まっている。この薄型表示素子として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子を用いた有機EL装置の開発が進められている。
【0003】
一般的に、上記有機EL素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にキャリア注入層(電子注入層およびホール注入層)、キャリア輸送層(電子輸送層およびホール輸送層)ならびに発光層が形成された積層構造を有する。
【0004】
ホール注入電極としては、インジウム−スズ酸化物(ITO)のような金属からなる仕事関数の大きな電極材料が用いられ、電子注入電極としては、例えばアルミニウムまたはリチウムのような仕事関数の小さな電極材料が用いられる。
【0005】
また、ホール輸送層、発光層および電子輸送層には有機材料が用いられる。ホール輸送層にはp型半導体の性質を有する材料が用いられ、電子輸送層にはn型半導体の性質を有する材料が用いられる。発光層も、電子輸送性またはホール輸送性のようなキャリア輸送性を有するとともに、蛍光または燐光を発する有機材料からなる。
【0006】
有機EL素子の輝度を向上させる技術としては、例えば非特許文献1および2において、それぞれTangおよびBaldoらが、高輝度化を実現できる材料を用いることにより発光効率を制御することを報告している。
【0007】
また、有機EL素子の輝度を向上させる他の技術として、例えば非特許文献3において、Grabzovらが、発光層により発せられた光の伝播経路に起因する光量の損失を低減するための素子構造を報告している。
【0008】
しかしながら、高輝度化を実現できる材料の研究は、その基礎研究から量産に至るまでの長い研究時間、高い研究費用および環境的な課題の解決を要する。また、光量の損失を低減するための素子構造を製造するにあたっては、プロセスの増加と歩留りの低下とにより低コスト化を実現することができない。
【0009】
そこで、容易かつ比較的低コストで輝度を向上させる有機EL装置が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。以下、この特許文献1および2に開示されている有機EL装置を模式的かつ簡略的に示した図面を参照しながら従来の有機EL装置について説明する。
【0010】
図12は、従来の有機EL装置の概略的構成を示す断面図である。なお、図12の有機EL装置は、ボトムエミッション型の有機EL装置である。
【0011】
図12に示すように、基板1上にカラーフィルタ層2が形成されている。後述の発光層から発せられた光がカラーフィルタ層2を透過することにより、所望の色の光が得られる。なお、基板1は、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である。
【0012】
カラーフィルタ層2を覆うように基板1上に、例えば約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂からなる中間媒質層3が形成される。
【0013】
この中間媒質層3上に、例えば約2.0の屈折率を有するITOからなるホール注入電極4、有機材料からなる発光層を含む有機層5および反射電極としての例えばアルミニウムからなる電子注入電極6がこの順で形成される。
【0014】
このように、基板1とカラーフィルタ層2との間に通常設けられる平坦化膜を省くことにより、発光層から発せられた光が平坦化膜により拡散されることがないので、カラーフィルタ層2側へ放射される光の量が増加される。
【特許文献1】特開平07−003766号公報
【特許文献2】特開2003−282259号公報
【非特許文献1】Applied Physics letters, Vol.51, pp913-915, 1987
【非特許文献2】Applied Physics letters, Vol.75, pp4-6, 1999
【非特許文献3】Optics Letters, Vol.22, pp396-398, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の有機EL装置において、有機層5により発せられた光は、主にホール注入電極4、中間媒質層3、カラーフィルタ層2および基板1をそれぞれ透過して大気中へ放射される。
【0016】
しかしながら、ホール注入電極4と中間媒質層3との屈折率の差が大きいことにより、有機層5からの光がホール注入電極4内に閉じ込められ、中間媒質層3を透過する光が減少する。これは、屈折率の大きい方へ進むという光の性質によるものである。
【0017】
また、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に光を導くためのガイドがないため、ホール注入電極4を透過した光が中間媒質層3内で拡散される。その結果、カラーフィルタ層2に到達する光がさらに減少し、輝度の低下が著しくなる。
【0018】
上記の結果、例えば、有機層5により発せられた光の量(以下、光量と呼ぶ)を100とした場合に、有機層5およびホール注入電極4による光量の損失は約47となり、中間媒質層3による光量の損失は約6となり、カラーフィルタ層2による光量の損失は約8となり、基板1および大気による光量の損失は約34となり、残りの約5の光量しか大気中へ放射されない。すなわち、人間の目により認識される光の光量は、有機層5により発せられた光の光量の約20分の1となる。
【0019】
本発明の目的は、輝度を上昇させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置は、第1の電極と、光を発生する発光層を含む有機層と、第1の屈折率を有しかつ発光層により発生された光を透過する第2の電極と、カラーフィルタ層とを順に備え、第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように設けられかつ第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層とをさらに備えたものである。
【0021】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置においては、第1の屈折率を有する第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層が設けられる。
【0022】
それにより、発光層を含む有機層からの光が第2の電極を透過し、この透過した光がカラーフィルタ層を透過する。これにより、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0023】
第1の屈折率と第2の屈折率との差が0.1以上であることが好ましい。この場合、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止されるという効果を確保することができる。
【0024】
第2の電極は、インジウム−スズ酸化物、酸化亜鉛、酸化スズおよび酸化チタンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。この場合、発光層から発生された光が第2の電極を透過しやすくなる。
【0025】
中間媒質層は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂および酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。これらの材料から中間媒質層を形成することにより、第2の電極が有する第1の屈折率よりも中間媒質層が有する第2の屈折率を確実に低く設定することができる。
【0026】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板をさらに備え、基板、カラーフィルタ層、第2の電極、有機層および第1の電極がこの順に積層されてもよい。この場合、ボトムエミッション構造を有する輝度の高い有機EL装置が実現される。
【0027】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板をさらに備え、第1の電極、有機層、第2の電極、カラーフィルタ層および基板がこの順に積層されてもよい。この場合、トップエミッション構造を有する輝度の高い有機EL装置が実現される。
【0028】
トップエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス装置は、有機層と中間媒質層との間に有機層よりも低い透水性を有する保護層をさらに備えてもよい。
【0029】
この場合、酸素、洗浄時の水分および薬品の有機層への浸入が保護層により防止される。また、所定の第2の電極をエッチングにより形成する際に、エッチングにより除去された第2の電極下に保護層が形成されていることにより、エッチングから有機層が保護される。
【0030】
第2の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、第1の電極、光を発生する発光層を含む有機層、第1の屈折率を有しかつ発光層により発生された光を透過する第2の電極およびカラーフィルタ層を形成する工程と、第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように、第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層を形成する工程とを備えたものである。
【0031】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法においては、第1の屈折率を有する第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層が設けられる。
【0032】
それにより、発光層を含む有機層からの光が第2の電極を透過し、この透過した光がカラーフィルタ層を透過する。これにより、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)装置およびその製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態では、駆動方法の一例として、アクティブマトリクス駆動型の有機EL装置について説明するが、本発明はパッシブマトリクス駆動型の有機EL装置においても同様に適用可能である。
【0035】
[第1の実施の形態:ボトムエミッション構造]
図1は、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。なお、図1は、以下に説明する各構成部を透過的に示している。
【0036】
図1に示すように、有機EL装置は複数のカラーフィルタ層2を備える。図1においては、4つのカラーフィルタ層2が図示されており、この4つのカラーフィルタ層2は、例えば、赤色の波長領域の光、緑色の波長領域の光または青色の波長領域の光のうちいずれかの光を透過させるものである。
【0037】
各カラーフィルタ層2を覆うようにホール注入電極4がそれぞれ形成される。複数のホール注入電極4を覆うように発光層を含む有機層5および電子注入電極6がこの順で形成される。各ホール注入電極4、有機層5および電子注入電極6がそれぞれ一つの有機EL素子を構成する。上記有機層5は、発光層の他に、例えばホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層を含む。
【0038】
なお、後述のTFT(薄膜トランジスタ)140(図2)のドレインはドレイン電極43dを介して上記ホール注入電極4にそれぞれ接続されており、TFT140のソースは後述のソース電極43s(図2)を介して、一方向に延びるように形成された電源線51にそれぞれ接続されている。
【0039】
図2は、図1の有機EL装置のA−A線断面図である。
【0040】
図2に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である基板1上に多結晶シリコン等からなる能動層11が形成される。その能動層11の一部が各有機EL素子を駆動するためのTFT140となる。
【0041】
TFT140は、能動層11からなるチャネル領域、ゲート酸化膜(図示せず)、ドレイン電極43d、ソース電極43sおよびゲート電極41からなる。
【0042】
基板1上に形成されたチャネル領域上にドレイン電極43dおよびソース電極43sが形成される。また、チャネル領域上にゲート酸化膜が形成される。
【0043】
能動層11上にゲート酸化膜を介してダブルゲート構造のゲート電極41が形成され、ゲート電極41を覆うように能動層11上に層間絶縁膜12が形成される。
【0044】
TFT140の上方で層間絶縁膜12上にカラーフィルタ層2および平坦化層としての中間媒質層3がそれぞれ形成される。中間媒質層3の詳細については後述する。
【0045】
カラーフィルタ層2上から中間媒質層3上に渡りホール注入電極4がそれぞれ形成される。ホール注入電極4の詳細については後述する。
【0046】
ホール注入電極4の一部を覆うように平坦化層13が形成される。TFT140は、平坦化層13の下方に形成されている。
【0047】
ホール注入電極4および平坦化層13を覆うように発光層を含む有機層5が全体の領域上に形成され、この有機層5上に電子注入電極6が形成される。さらに、電子注入電極6上には樹脂等からなるカバー層(図示せず)が形成される。
【0048】
次に、ボトムエミッション構造を有する上記有機EL装置の製造方法について説明する。
【0049】
図3は、第1の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。なお、図3においては、図2に示す有機EL装置の一部が簡略的に図示されており、赤色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2、緑色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2および青色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2のうちいずれか一つのカラーフィルタ層2が図示されている。
【0050】
図3(a)に示すように、基板1上に例えば厚さ約1μmのカラーフィルタ層2が形成される。基板1の屈折率は例えば1.54であり、カラーフィルタ層2の屈折率は例えば2.0である。
【0051】
次に、図3(b)に示すように、カラーフィルタ層2を覆うように基板1上に、例えば厚さ約2μmの中間媒質層3が形成される。
【0052】
中間媒質層3は、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂もしくはフッ素樹脂等の有機材料または酸化ケイ素等の無機材料からなり、その屈折率は、ホール注入電極4の屈折率よりも低く、例えば1.5である。
【0053】
続いて、図3(c)に示すように、カラーフィルタ層2上方の中間媒質層3上の領域を除いた中間媒質層3上にフォトリソグラフィにより所定のレジストRを設け、中間媒質層3のエッチングを行う。それにより、カラーフィルタ層2上の中間媒質層3が除去される。なお、フォトリソグラフィおよびエッチングの代わりに、レーザビーム等の光学エネルギービーム、瞬間加熱装置または局所的な化学エッチングを用いてカラーフィルタ層2上の中間媒質層3を除去してもよい。
【0054】
続いて、図3(d)に示すように、カラーフィルタ層2上にスパッタリング法、蒸着法、化学気相堆積(CVD)法またはパルスレーザ堆積(PLD)法等により例えば厚さ約1μmのホール注入電極4が形成される。
【0055】
ホール注入電極4は、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、金(Au)、アルミニウム(Al)またはガリウム(Ga)がドープされた酸化亜鉛、酸化スズ(SnO2 )または酸化チタン(TiO2 )等の中間媒質層3の屈折率よりも高い屈折率を有する材料からなる。上記の酸化亜鉛にはガリウム(Ga)またはアルミニウム等の13族元素がドープされており、上記の酸化チタンには錫(Sn)等の14族元素またはアンチモン(Sb)等の15族元素がドープされている。
【0056】
また、ホール注入電極4は、可視光領域で例えば60%以上の高い透過率を有し、例えば約0.1Ωcm以下の抵抗率を有する材料により形成されることが好ましく、電気伝導性および高透過率を有するのであれば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂およびフッ素樹脂等の有機材料により形成されてもよい。
【0057】
さらに、ホール注入電極4の屈折率は中間媒質層3の屈折率よりも高く、例えば2.0である。
【0058】
次いで、図3(e)に示すように、中間媒質層3上およびホール注入電極4上に有機材料からなる発光層を含む有機層5が形成され、この有機層5上に反射電極としての例えばアルミニウムからなる電子注入電極6が形成されることにより、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置が作製される。
【0059】
なお、有機層5の発光層は複数の発光源を含み、これら複数の発光源により面発光が実現されている。また、電子注入電極6は、高反射係数を有する導電性材料であれば任意の材料により形成することが可能で、アルミニウムの代わりに、銀またはアルミニウムと銀との混合材料により形成することができる。さらに、近年において開発されている電気伝導性および高反射係数を有する有機材料等により電子注入電極6を形成してもよい。
【0060】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に中間媒質層3が設けられずに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0061】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が中間媒質層3を透過することなく、カラーフィルタ層2を透過する。
【0062】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0063】
[第2の実施の形態:トップエミッション構造]
図4は、トップエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。なお、図4は、以下に説明する各構成部を透過的に示している。
【0064】
図4に示すように、有機EL装置は反射電極としての複数の電子注入電極6を備える。
【0065】
各電子注入電極6上に発光層を含む有機層5がそれぞれ形成される。有機層5は、発光層の他に、例えばホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層を含む。
【0066】
各有機層5上に複数のホール注入電極4がそれぞれ形成される。各ホール注入電極4、各有機層5および各電子注入電極6がそれぞれ一つの有機EL素子を構成する。
【0067】
なお、後述のTFT140(図5)のドレインはドレイン電極43dを介して上記ホール注入電極4にそれぞれ接続されており、TFT140のソースは後述のソース電極43s(図5)を介して、一方向に延びるように形成された電源線51にそれぞれ接続されている。
【0068】
各ホール注入電極4上にカラーフィルタ層2がそれぞれ形成される。なお、図4においては、4つのカラーフィルタ層2が図示されており、この4つのカラーフィルタ層2は、例えば、赤色の波長領域の光、緑色の波長領域の光または青色の波長領域の光のうちいずれかの光を透過させるものである。
【0069】
図5は、図4の有機EL装置のB−B線断面図である。
【0070】
図5に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である基板1上に多結晶シリコン等からなる能動層11が形成される。その能動層11の一部が各有機EL素子を駆動するためのTFT140となる。
【0071】
TFT140は、能動層11からなるチャネル領域、ゲート酸化膜(図示せず)、ドレイン電極43d、ソース電極43sおよびゲート電極41からなる。なお、基板1は不透明な材料により形成されてもよい。
【0072】
基板1上に形成されたチャネル領域上にドレイン電極43dおよびソース電極43sが形成される。また、チャネル領域上にゲート酸化膜が形成される。
【0073】
能動層11上にゲート酸化膜(図示せず)を介してダブルゲート構造のゲート電極41が形成され、ゲート電極41を覆うように能動層11上に第1の層間絶縁膜12が形成される。
【0074】
第1の層間絶縁膜12上にドレイン電極43dおよびソース電極43sを覆うように第2の層間絶縁膜14が形成される。
【0075】
第2の層間絶縁膜14上の一部の領域に電子注入電極6がそれぞれ形成され、各電子注入電極6上に発光層を含む有機層5がそれぞれ形成される。
【0076】
各有機層5上にホール注入電極4がそれぞれ形成される。また、第2の層間絶縁膜14上から有機層5上に渡り保護層7が形成される。保護層7の詳細については後述する。
【0077】
各ホール注入電極4上にカラーフィルタ層2が形成される。また、カラーフィルタ層2と同じ高さとなるように、かつ、保護層7の一部およびホール注入電極4の一部を覆うように接着剤層としての中間媒質層3が形成される。
【0078】
カラーフィルタ層2上および中間媒質層3上に、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である対向基板8が設けられる。
【0079】
次に、トップエミッション構造を有する上記有機EL装置の製造方法について説明する。
【0080】
図6は、第2の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。なお、図6においては、図5に示す有機EL装置の一部が簡略的に図示されており、赤色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2、緑色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2および青色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2のうちいずれか一つのカラーフィルタ層2が図示されている。
【0081】
図6(a)に示すように、基板1上に反射電極である電子注入電極6および有機材料からなる発光層を含む有機層5が順に形成される。
【0082】
そして、この有機層5上に、酸素、洗浄時等の水分および薬品等の浸入を防止するための保護層(緩衝層)7が形成される。
【0083】
なお、保護層7は、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ケイ素(SiN)および酸化ケイ素(SiO2 )等を含む無機膜、またはテフロン(登録商標)等のフッ化物有機材料を含む有機膜からなり、有機層5よりも低い透水性を有する。
【0084】
次に、図6(b)に示すように、保護層7上にフォトリソグラフィにより所定のレジストRを設け、保護層7のエッチングを行う。それにより、後工程で形成されるホール注入電極の幅に等しい幅の保護層7が除去される。なお、フォトリソグラフィおよびエッチングの代わりに、レーザビーム等の光学エネルギービーム、瞬間加熱装置または局所的な化学エッチングを用いて所定の保護層7を除去してもよい。
【0085】
続いて、図6(c)に示すように、有機層5上および保護層7上に例えばITO等からなる厚さ約4μmのホール注入電極4が形成される。
【0086】
次いで、図6(d)に示すように、形成されたホール注入電極4上において、エッチングにより除去された保護層7の上記幅に対応する領域にフォトリソグラフィによりレジストRを設け、ホール注入電極4のエッチングを行う。それにより、保護層7上に形成されたホール注入電極4が除去される。この場合、エッチングにより除去されたホール注入電極4下に保護層7が形成されていることにより、エッチングから有機層5が保護される。
【0087】
次に、図6(e)に示すように、保護層7上およびホール注入電極4上に例えば厚さ約5μmの中間媒質層3が形成される。
【0088】
続いて、図6(f)に示すように、形成された中間媒質層3上において、保護層7の上方における保護層7の幅に対応する領域にフォトリソグラフィによりレジストRを設け、中間媒質層3のエッチングを行う。それにより、ホール注入電極4上に形成された中間媒質層3が除去される。
【0089】
次いで、図6(g)に示すように、ホール注入電極4上に、中間媒質層3の高さと同じ高さを有するように、例えば厚さ約1μmのカラーフィルタ層2が形成される。そして、中間媒質層3上および形成されたカラーフィルタ層2上に対向基板8が貼り合わされることにより、トップエミッション構造を有する有機EL装置が作製される。
【0090】
なお、有機層5の発光層は複数の発光源を含み、これら複数の発光源により面発光が実現されている。また、電子注入電極6は、高反射係数を有する導電性材料であれば任意の材料により形成することが可能で、アルミニウムの代わりに、銀またはアルミニウムと銀との混合材料により形成することができる。さらに、近年において開発されている電気伝導性および高反射係数を有する有機材料等により電子注入電極6を形成してもよい。
【0091】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に中間媒質層3が設けられずに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0092】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が中間媒質層3を透過することなく、カラーフィルタ層2を透過する。
【0093】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0094】
[第3の実施の形態:ボトムエミッション構造の他の例]
図7は、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【0095】
図7に示すように、本実施の形態に係る有機EL装置の構成が上記第1の実施の形態に係る有機EL装置の構成と異なる点は以下の点である。
【0096】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間にも所定の厚さの薄い中間媒質層3が存在する。この中間媒質層3は、例えば、上述の第1の実施の形態で説明した図3(c)において、エッチングにより除去しきれなかったものである。
【0097】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に薄い中間媒質層3が存在するとともに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0098】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が薄い中間媒質層3およびカラーフィルタ層2を透過する。
【0099】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0100】
[第4の実施の形態:トップエミッション構造の他の例]
図8は、トップエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【0101】
図8に示すように、本実施の形態に係る有機EL装置の構成が上記第2の実施の形態に係る有機EL装置の構成と異なる点は以下の点である。
【0102】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間にも所定の厚さの薄い中間媒質層3が存在する。この中間媒質層3は、例えば、上述の第2の実施の形態で説明した図6(f)において、エッチングにより除去しきれなかったものである。
【0103】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に薄い中間媒質層3が存在するとともに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0104】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が薄い中間媒質層3およびカラーフィルタ層2を透過する。
【0105】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0106】
なお、上記各実施の形態においては、ホール注入電極4の屈折率と中間媒質層3の屈折率との差は、少なくとも0.1以上であることが好ましい。
【0107】
上記各実施の形態においては、ホール注入電極4が第2の電極に相当し、電子注入電極6が第1の電極に相当し、ホール注入電極4の屈折率が第1の屈折率に相当し、中間媒質層3の屈折率が第2の屈折率に相当する。
【実施例】
【0108】
[計算例1]
計算例1では、シュミレーション(計算)により上記第1の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を算出した。なお、シュミレーションでは、中間媒質層3およびホール注入電極4の材料を特定する必要はなく、屈折率をそれぞれ定めることにより間接的に材料を特定することが可能である。
【0109】
ここで、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を共に1.5としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ホール注入電極4の屈折率を上昇させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。
【0110】
このように、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を同じ値に設定することにより、図12に示す従来の有機EL装置の構成と同等の構成をシュミレーションの対象にすることが可能となる。
【0111】
図9は、計算例1のシュミレーション結果を示すグラフである。
【0112】
図9に示すように、ホール注入電極4の屈折率が約2.0となるまでの範囲において相対輝度は上昇し、ホール注入電極4の屈折率が約2.0以上になると相対輝度はほぼ一定となった。
【0113】
それにより、ホール注入電極4の屈折率よりも低い屈折率を有する中間媒質層3を用いることが好ましいことがわかった。
【0114】
一方、図12に示す従来の有機EL装置および第1の実施の形態に係る有機EL装置をそれぞれ製造した後、これらの有機EL装置を用いて輝度を実験的に測定した(実験例1)。
【0115】
従来の有機EL装置の輝度を1とした場合の第1の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を相対輝度として測定した結果、この相対輝度は約1.2となった。これにより、計算例1と同様な結果を確認することができた。
【0116】
なお、実験例1においては、各有機EL装置におけるホール注入電極4を約2.0の屈折率を有するITOにより形成し、中間媒質層3を約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂により形成した。
【0117】
[計算例2]
計算例2では、シュミレーション(計算)により上記第2の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を算出した。
【0118】
ここで、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を共に1.5としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ホール注入電極4の屈折率を上昇させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。
【0119】
このように、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を同じ値に設定することにより、図12に示す従来の有機EL装置の構成と同等の構成をシュミレーションの対象にすることが可能となる。
【0120】
図10は、計算例2のシュミレーション結果を示すグラフである。
【0121】
図10に示すように、ホール注入電極4の屈折率が約2.0となるまでの範囲において相対輝度は上昇し、ホール注入電極4の屈折率が約2.0以上になると相対輝度はほぼ一定となった。
【0122】
それにより、ホール注入電極4の屈折率よりも低い屈折率を有する中間媒質層3を用いることが好ましいことがわかった。
【0123】
一方、図12に示す従来のボトムエミッション構造を有する有機EL装置に対応するトップエミッション構造の有機EL装置(図示せず)および第2の実施の形態に係る有機EL装置をそれぞれ製造した後、これらの有機EL装置を用いて輝度を実験的に測定した(実験例2)。
【0124】
従来の有機EL装置の輝度を1とした場合の第2の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を相対輝度として測定した結果、この相対輝度は約1.1となった。これにより、計算例2と同様な結果を確認することができた。
【0125】
なお、実験例2においては、各有機EL装置におけるホール注入電極4を約2.0の屈折率を有するITOにより形成し、中間媒質層3を約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂により形成した。
【0126】
[計算例3]
図11は、ギャップ幅を変化させたときの有機EL装置の相対輝度を示すグラフである。
【0127】
上記のギャップ幅は、ホール注入電極4と有機層5との界面からホール注入電極4側のカラーフィルタ層2表面までの距離をLとし、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間の距離をrとした場合に、r/Lにより定義される。
【0128】
r/L=0の場合、第1の実施の形態に係る有機EL装置がシュミレーションの対象となり、r/L>0の場合、第3の実施の形態に係る有機EL装置がシュミレーションの対象となる。
【0129】
計算例3では、r/L≒0.95を満たす第3の実施の形態に係る有機EL装置を対象としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ギャップ幅を変化させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。なお、ホール注入電極4および中間媒質層3の屈折率をそれぞれ2.0および1.5とした。
【0130】
図11に示すように、ギャップ幅が小さくなるにつれ、相対輝度が上昇する傾向が確認された。
【0131】
それにより、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間に中間媒質層3が存在する構成、すなわち、ギャップ幅を有する構成の有機EL装置よりも、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間に中間媒質層3が存在しない構成、すなわち、ギャップ幅を有さない構成の有機EL装置の方が輝度を上昇させることが可能であることが明らかになった。
【0132】
また、有機EL装置がギャップ幅を有する構成であるとしても、そのギャップ幅が0.7以下である場合には、相対輝度の著しい上昇が見込めることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置は、各種光源および各種表示装置等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】図1の有機EL装置のA−A線断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図4】トップエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。
【図5】図4の有機EL装置のB−B線断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図7】ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【図8】トップエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【図9】計算例1のシュミレーション結果を示すグラフである。
【図10】計算例2のシュミレーション結果を示すグラフである。
【図11】ギャップ幅を変化させたときの有機EL装置の相対輝度を示すグラフである。
【図12】従来の有機EL装置の概略的構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0135】
1 基板
2 カラーフィルタ層
3 中間媒質層
4 ホール注入電極
5 有機層
6 電子注入電極
7 保護層
8 対向基板
11 能動層
12 層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)
13 平坦化層
14 第2の層間絶縁膜
41 ゲート電極
43d ドレイン電極
43s ソース電極
51 電源線
140 薄膜トランジスタ(TFT)
R レジスト
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報技術の興隆に伴い、厚さ数mm程度の薄型でフルカラー表示が可能な薄型表示素子への要望が高まっている。この薄型表示素子として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子を用いた有機EL装置の開発が進められている。
【0003】
一般的に、上記有機EL素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にキャリア注入層(電子注入層およびホール注入層)、キャリア輸送層(電子輸送層およびホール輸送層)ならびに発光層が形成された積層構造を有する。
【0004】
ホール注入電極としては、インジウム−スズ酸化物(ITO)のような金属からなる仕事関数の大きな電極材料が用いられ、電子注入電極としては、例えばアルミニウムまたはリチウムのような仕事関数の小さな電極材料が用いられる。
【0005】
また、ホール輸送層、発光層および電子輸送層には有機材料が用いられる。ホール輸送層にはp型半導体の性質を有する材料が用いられ、電子輸送層にはn型半導体の性質を有する材料が用いられる。発光層も、電子輸送性またはホール輸送性のようなキャリア輸送性を有するとともに、蛍光または燐光を発する有機材料からなる。
【0006】
有機EL素子の輝度を向上させる技術としては、例えば非特許文献1および2において、それぞれTangおよびBaldoらが、高輝度化を実現できる材料を用いることにより発光効率を制御することを報告している。
【0007】
また、有機EL素子の輝度を向上させる他の技術として、例えば非特許文献3において、Grabzovらが、発光層により発せられた光の伝播経路に起因する光量の損失を低減するための素子構造を報告している。
【0008】
しかしながら、高輝度化を実現できる材料の研究は、その基礎研究から量産に至るまでの長い研究時間、高い研究費用および環境的な課題の解決を要する。また、光量の損失を低減するための素子構造を製造するにあたっては、プロセスの増加と歩留りの低下とにより低コスト化を実現することができない。
【0009】
そこで、容易かつ比較的低コストで輝度を向上させる有機EL装置が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。以下、この特許文献1および2に開示されている有機EL装置を模式的かつ簡略的に示した図面を参照しながら従来の有機EL装置について説明する。
【0010】
図12は、従来の有機EL装置の概略的構成を示す断面図である。なお、図12の有機EL装置は、ボトムエミッション型の有機EL装置である。
【0011】
図12に示すように、基板1上にカラーフィルタ層2が形成されている。後述の発光層から発せられた光がカラーフィルタ層2を透過することにより、所望の色の光が得られる。なお、基板1は、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である。
【0012】
カラーフィルタ層2を覆うように基板1上に、例えば約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂からなる中間媒質層3が形成される。
【0013】
この中間媒質層3上に、例えば約2.0の屈折率を有するITOからなるホール注入電極4、有機材料からなる発光層を含む有機層5および反射電極としての例えばアルミニウムからなる電子注入電極6がこの順で形成される。
【0014】
このように、基板1とカラーフィルタ層2との間に通常設けられる平坦化膜を省くことにより、発光層から発せられた光が平坦化膜により拡散されることがないので、カラーフィルタ層2側へ放射される光の量が増加される。
【特許文献1】特開平07−003766号公報
【特許文献2】特開2003−282259号公報
【非特許文献1】Applied Physics letters, Vol.51, pp913-915, 1987
【非特許文献2】Applied Physics letters, Vol.75, pp4-6, 1999
【非特許文献3】Optics Letters, Vol.22, pp396-398, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の有機EL装置において、有機層5により発せられた光は、主にホール注入電極4、中間媒質層3、カラーフィルタ層2および基板1をそれぞれ透過して大気中へ放射される。
【0016】
しかしながら、ホール注入電極4と中間媒質層3との屈折率の差が大きいことにより、有機層5からの光がホール注入電極4内に閉じ込められ、中間媒質層3を透過する光が減少する。これは、屈折率の大きい方へ進むという光の性質によるものである。
【0017】
また、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に光を導くためのガイドがないため、ホール注入電極4を透過した光が中間媒質層3内で拡散される。その結果、カラーフィルタ層2に到達する光がさらに減少し、輝度の低下が著しくなる。
【0018】
上記の結果、例えば、有機層5により発せられた光の量(以下、光量と呼ぶ)を100とした場合に、有機層5およびホール注入電極4による光量の損失は約47となり、中間媒質層3による光量の損失は約6となり、カラーフィルタ層2による光量の損失は約8となり、基板1および大気による光量の損失は約34となり、残りの約5の光量しか大気中へ放射されない。すなわち、人間の目により認識される光の光量は、有機層5により発せられた光の光量の約20分の1となる。
【0019】
本発明の目的は、輝度を上昇させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置は、第1の電極と、光を発生する発光層を含む有機層と、第1の屈折率を有しかつ発光層により発生された光を透過する第2の電極と、カラーフィルタ層とを順に備え、第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように設けられかつ第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層とをさらに備えたものである。
【0021】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置においては、第1の屈折率を有する第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層が設けられる。
【0022】
それにより、発光層を含む有機層からの光が第2の電極を透過し、この透過した光がカラーフィルタ層を透過する。これにより、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0023】
第1の屈折率と第2の屈折率との差が0.1以上であることが好ましい。この場合、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止されるという効果を確保することができる。
【0024】
第2の電極は、インジウム−スズ酸化物、酸化亜鉛、酸化スズおよび酸化チタンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。この場合、発光層から発生された光が第2の電極を透過しやすくなる。
【0025】
中間媒質層は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂および酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。これらの材料から中間媒質層を形成することにより、第2の電極が有する第1の屈折率よりも中間媒質層が有する第2の屈折率を確実に低く設定することができる。
【0026】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板をさらに備え、基板、カラーフィルタ層、第2の電極、有機層および第1の電極がこの順に積層されてもよい。この場合、ボトムエミッション構造を有する輝度の高い有機EL装置が実現される。
【0027】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板をさらに備え、第1の電極、有機層、第2の電極、カラーフィルタ層および基板がこの順に積層されてもよい。この場合、トップエミッション構造を有する輝度の高い有機EL装置が実現される。
【0028】
トップエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス装置は、有機層と中間媒質層との間に有機層よりも低い透水性を有する保護層をさらに備えてもよい。
【0029】
この場合、酸素、洗浄時の水分および薬品の有機層への浸入が保護層により防止される。また、所定の第2の電極をエッチングにより形成する際に、エッチングにより除去された第2の電極下に保護層が形成されていることにより、エッチングから有機層が保護される。
【0030】
第2の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、第1の電極、光を発生する発光層を含む有機層、第1の屈折率を有しかつ発光層により発生された光を透過する第2の電極およびカラーフィルタ層を形成する工程と、第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように、第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層を形成する工程とを備えたものである。
【0031】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法においては、第1の屈折率を有する第2の電極およびカラーフィルタ層を取り囲むように第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層が設けられる。
【0032】
それにより、発光層を含む有機層からの光が第2の電極を透過し、この透過した光がカラーフィルタ層を透過する。これにより、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、中間媒質層内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層よりも高い屈折率を有する第2の電極内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)装置およびその製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態では、駆動方法の一例として、アクティブマトリクス駆動型の有機EL装置について説明するが、本発明はパッシブマトリクス駆動型の有機EL装置においても同様に適用可能である。
【0035】
[第1の実施の形態:ボトムエミッション構造]
図1は、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。なお、図1は、以下に説明する各構成部を透過的に示している。
【0036】
図1に示すように、有機EL装置は複数のカラーフィルタ層2を備える。図1においては、4つのカラーフィルタ層2が図示されており、この4つのカラーフィルタ層2は、例えば、赤色の波長領域の光、緑色の波長領域の光または青色の波長領域の光のうちいずれかの光を透過させるものである。
【0037】
各カラーフィルタ層2を覆うようにホール注入電極4がそれぞれ形成される。複数のホール注入電極4を覆うように発光層を含む有機層5および電子注入電極6がこの順で形成される。各ホール注入電極4、有機層5および電子注入電極6がそれぞれ一つの有機EL素子を構成する。上記有機層5は、発光層の他に、例えばホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層を含む。
【0038】
なお、後述のTFT(薄膜トランジスタ)140(図2)のドレインはドレイン電極43dを介して上記ホール注入電極4にそれぞれ接続されており、TFT140のソースは後述のソース電極43s(図2)を介して、一方向に延びるように形成された電源線51にそれぞれ接続されている。
【0039】
図2は、図1の有機EL装置のA−A線断面図である。
【0040】
図2に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である基板1上に多結晶シリコン等からなる能動層11が形成される。その能動層11の一部が各有機EL素子を駆動するためのTFT140となる。
【0041】
TFT140は、能動層11からなるチャネル領域、ゲート酸化膜(図示せず)、ドレイン電極43d、ソース電極43sおよびゲート電極41からなる。
【0042】
基板1上に形成されたチャネル領域上にドレイン電極43dおよびソース電極43sが形成される。また、チャネル領域上にゲート酸化膜が形成される。
【0043】
能動層11上にゲート酸化膜を介してダブルゲート構造のゲート電極41が形成され、ゲート電極41を覆うように能動層11上に層間絶縁膜12が形成される。
【0044】
TFT140の上方で層間絶縁膜12上にカラーフィルタ層2および平坦化層としての中間媒質層3がそれぞれ形成される。中間媒質層3の詳細については後述する。
【0045】
カラーフィルタ層2上から中間媒質層3上に渡りホール注入電極4がそれぞれ形成される。ホール注入電極4の詳細については後述する。
【0046】
ホール注入電極4の一部を覆うように平坦化層13が形成される。TFT140は、平坦化層13の下方に形成されている。
【0047】
ホール注入電極4および平坦化層13を覆うように発光層を含む有機層5が全体の領域上に形成され、この有機層5上に電子注入電極6が形成される。さらに、電子注入電極6上には樹脂等からなるカバー層(図示せず)が形成される。
【0048】
次に、ボトムエミッション構造を有する上記有機EL装置の製造方法について説明する。
【0049】
図3は、第1の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。なお、図3においては、図2に示す有機EL装置の一部が簡略的に図示されており、赤色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2、緑色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2および青色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2のうちいずれか一つのカラーフィルタ層2が図示されている。
【0050】
図3(a)に示すように、基板1上に例えば厚さ約1μmのカラーフィルタ層2が形成される。基板1の屈折率は例えば1.54であり、カラーフィルタ層2の屈折率は例えば2.0である。
【0051】
次に、図3(b)に示すように、カラーフィルタ層2を覆うように基板1上に、例えば厚さ約2μmの中間媒質層3が形成される。
【0052】
中間媒質層3は、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂もしくはフッ素樹脂等の有機材料または酸化ケイ素等の無機材料からなり、その屈折率は、ホール注入電極4の屈折率よりも低く、例えば1.5である。
【0053】
続いて、図3(c)に示すように、カラーフィルタ層2上方の中間媒質層3上の領域を除いた中間媒質層3上にフォトリソグラフィにより所定のレジストRを設け、中間媒質層3のエッチングを行う。それにより、カラーフィルタ層2上の中間媒質層3が除去される。なお、フォトリソグラフィおよびエッチングの代わりに、レーザビーム等の光学エネルギービーム、瞬間加熱装置または局所的な化学エッチングを用いてカラーフィルタ層2上の中間媒質層3を除去してもよい。
【0054】
続いて、図3(d)に示すように、カラーフィルタ層2上にスパッタリング法、蒸着法、化学気相堆積(CVD)法またはパルスレーザ堆積(PLD)法等により例えば厚さ約1μmのホール注入電極4が形成される。
【0055】
ホール注入電極4は、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、金(Au)、アルミニウム(Al)またはガリウム(Ga)がドープされた酸化亜鉛、酸化スズ(SnO2 )または酸化チタン(TiO2 )等の中間媒質層3の屈折率よりも高い屈折率を有する材料からなる。上記の酸化亜鉛にはガリウム(Ga)またはアルミニウム等の13族元素がドープされており、上記の酸化チタンには錫(Sn)等の14族元素またはアンチモン(Sb)等の15族元素がドープされている。
【0056】
また、ホール注入電極4は、可視光領域で例えば60%以上の高い透過率を有し、例えば約0.1Ωcm以下の抵抗率を有する材料により形成されることが好ましく、電気伝導性および高透過率を有するのであれば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂およびフッ素樹脂等の有機材料により形成されてもよい。
【0057】
さらに、ホール注入電極4の屈折率は中間媒質層3の屈折率よりも高く、例えば2.0である。
【0058】
次いで、図3(e)に示すように、中間媒質層3上およびホール注入電極4上に有機材料からなる発光層を含む有機層5が形成され、この有機層5上に反射電極としての例えばアルミニウムからなる電子注入電極6が形成されることにより、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置が作製される。
【0059】
なお、有機層5の発光層は複数の発光源を含み、これら複数の発光源により面発光が実現されている。また、電子注入電極6は、高反射係数を有する導電性材料であれば任意の材料により形成することが可能で、アルミニウムの代わりに、銀またはアルミニウムと銀との混合材料により形成することができる。さらに、近年において開発されている電気伝導性および高反射係数を有する有機材料等により電子注入電極6を形成してもよい。
【0060】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に中間媒質層3が設けられずに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0061】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が中間媒質層3を透過することなく、カラーフィルタ層2を透過する。
【0062】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0063】
[第2の実施の形態:トップエミッション構造]
図4は、トップエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。なお、図4は、以下に説明する各構成部を透過的に示している。
【0064】
図4に示すように、有機EL装置は反射電極としての複数の電子注入電極6を備える。
【0065】
各電子注入電極6上に発光層を含む有機層5がそれぞれ形成される。有機層5は、発光層の他に、例えばホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層を含む。
【0066】
各有機層5上に複数のホール注入電極4がそれぞれ形成される。各ホール注入電極4、各有機層5および各電子注入電極6がそれぞれ一つの有機EL素子を構成する。
【0067】
なお、後述のTFT140(図5)のドレインはドレイン電極43dを介して上記ホール注入電極4にそれぞれ接続されており、TFT140のソースは後述のソース電極43s(図5)を介して、一方向に延びるように形成された電源線51にそれぞれ接続されている。
【0068】
各ホール注入電極4上にカラーフィルタ層2がそれぞれ形成される。なお、図4においては、4つのカラーフィルタ層2が図示されており、この4つのカラーフィルタ層2は、例えば、赤色の波長領域の光、緑色の波長領域の光または青色の波長領域の光のうちいずれかの光を透過させるものである。
【0069】
図5は、図4の有機EL装置のB−B線断面図である。
【0070】
図5に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である基板1上に多結晶シリコン等からなる能動層11が形成される。その能動層11の一部が各有機EL素子を駆動するためのTFT140となる。
【0071】
TFT140は、能動層11からなるチャネル領域、ゲート酸化膜(図示せず)、ドレイン電極43d、ソース電極43sおよびゲート電極41からなる。なお、基板1は不透明な材料により形成されてもよい。
【0072】
基板1上に形成されたチャネル領域上にドレイン電極43dおよびソース電極43sが形成される。また、チャネル領域上にゲート酸化膜が形成される。
【0073】
能動層11上にゲート酸化膜(図示せず)を介してダブルゲート構造のゲート電極41が形成され、ゲート電極41を覆うように能動層11上に第1の層間絶縁膜12が形成される。
【0074】
第1の層間絶縁膜12上にドレイン電極43dおよびソース電極43sを覆うように第2の層間絶縁膜14が形成される。
【0075】
第2の層間絶縁膜14上の一部の領域に電子注入電極6がそれぞれ形成され、各電子注入電極6上に発光層を含む有機層5がそれぞれ形成される。
【0076】
各有機層5上にホール注入電極4がそれぞれ形成される。また、第2の層間絶縁膜14上から有機層5上に渡り保護層7が形成される。保護層7の詳細については後述する。
【0077】
各ホール注入電極4上にカラーフィルタ層2が形成される。また、カラーフィルタ層2と同じ高さとなるように、かつ、保護層7の一部およびホール注入電極4の一部を覆うように接着剤層としての中間媒質層3が形成される。
【0078】
カラーフィルタ層2上および中間媒質層3上に、ガラスまたはプラスチック等からなる透明基板である対向基板8が設けられる。
【0079】
次に、トップエミッション構造を有する上記有機EL装置の製造方法について説明する。
【0080】
図6は、第2の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。なお、図6においては、図5に示す有機EL装置の一部が簡略的に図示されており、赤色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2、緑色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2および青色の波長領域の光を透過させるカラーフィルタ層2のうちいずれか一つのカラーフィルタ層2が図示されている。
【0081】
図6(a)に示すように、基板1上に反射電極である電子注入電極6および有機材料からなる発光層を含む有機層5が順に形成される。
【0082】
そして、この有機層5上に、酸素、洗浄時等の水分および薬品等の浸入を防止するための保護層(緩衝層)7が形成される。
【0083】
なお、保護層7は、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ケイ素(SiN)および酸化ケイ素(SiO2 )等を含む無機膜、またはテフロン(登録商標)等のフッ化物有機材料を含む有機膜からなり、有機層5よりも低い透水性を有する。
【0084】
次に、図6(b)に示すように、保護層7上にフォトリソグラフィにより所定のレジストRを設け、保護層7のエッチングを行う。それにより、後工程で形成されるホール注入電極の幅に等しい幅の保護層7が除去される。なお、フォトリソグラフィおよびエッチングの代わりに、レーザビーム等の光学エネルギービーム、瞬間加熱装置または局所的な化学エッチングを用いて所定の保護層7を除去してもよい。
【0085】
続いて、図6(c)に示すように、有機層5上および保護層7上に例えばITO等からなる厚さ約4μmのホール注入電極4が形成される。
【0086】
次いで、図6(d)に示すように、形成されたホール注入電極4上において、エッチングにより除去された保護層7の上記幅に対応する領域にフォトリソグラフィによりレジストRを設け、ホール注入電極4のエッチングを行う。それにより、保護層7上に形成されたホール注入電極4が除去される。この場合、エッチングにより除去されたホール注入電極4下に保護層7が形成されていることにより、エッチングから有機層5が保護される。
【0087】
次に、図6(e)に示すように、保護層7上およびホール注入電極4上に例えば厚さ約5μmの中間媒質層3が形成される。
【0088】
続いて、図6(f)に示すように、形成された中間媒質層3上において、保護層7の上方における保護層7の幅に対応する領域にフォトリソグラフィによりレジストRを設け、中間媒質層3のエッチングを行う。それにより、ホール注入電極4上に形成された中間媒質層3が除去される。
【0089】
次いで、図6(g)に示すように、ホール注入電極4上に、中間媒質層3の高さと同じ高さを有するように、例えば厚さ約1μmのカラーフィルタ層2が形成される。そして、中間媒質層3上および形成されたカラーフィルタ層2上に対向基板8が貼り合わされることにより、トップエミッション構造を有する有機EL装置が作製される。
【0090】
なお、有機層5の発光層は複数の発光源を含み、これら複数の発光源により面発光が実現されている。また、電子注入電極6は、高反射係数を有する導電性材料であれば任意の材料により形成することが可能で、アルミニウムの代わりに、銀またはアルミニウムと銀との混合材料により形成することができる。さらに、近年において開発されている電気伝導性および高反射係数を有する有機材料等により電子注入電極6を形成してもよい。
【0091】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に中間媒質層3が設けられずに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0092】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が中間媒質層3を透過することなく、カラーフィルタ層2を透過する。
【0093】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0094】
[第3の実施の形態:ボトムエミッション構造の他の例]
図7は、ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【0095】
図7に示すように、本実施の形態に係る有機EL装置の構成が上記第1の実施の形態に係る有機EL装置の構成と異なる点は以下の点である。
【0096】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間にも所定の厚さの薄い中間媒質層3が存在する。この中間媒質層3は、例えば、上述の第1の実施の形態で説明した図3(c)において、エッチングにより除去しきれなかったものである。
【0097】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に薄い中間媒質層3が存在するとともに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0098】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が薄い中間媒質層3およびカラーフィルタ層2を透過する。
【0099】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0100】
[第4の実施の形態:トップエミッション構造の他の例]
図8は、トップエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【0101】
図8に示すように、本実施の形態に係る有機EL装置の構成が上記第2の実施の形態に係る有機EL装置の構成と異なる点は以下の点である。
【0102】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間にも所定の厚さの薄い中間媒質層3が存在する。この中間媒質層3は、例えば、上述の第2の実施の形態で説明した図6(f)において、エッチングにより除去しきれなかったものである。
【0103】
本実施の形態に係る有機EL装置においては、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間に薄い中間媒質層3が存在するとともに、ホール注入電極4およびカラーフィルタ層2を取り囲むように中間媒質層3が設けられる。
【0104】
それにより、発光層を含む有機層5からの光がホール注入電極4を透過し、この透過した光が薄い中間媒質層3およびカラーフィルタ層2を透過する。
【0105】
これにより、中間媒質層3内に光が拡散することが防止されるとともに、中間媒質層3よりも高い屈折率を有するホール注入電極4内に光が閉じ込められることも防止される。したがって、有機EL装置の輝度を上昇させることが可能となる。
【0106】
なお、上記各実施の形態においては、ホール注入電極4の屈折率と中間媒質層3の屈折率との差は、少なくとも0.1以上であることが好ましい。
【0107】
上記各実施の形態においては、ホール注入電極4が第2の電極に相当し、電子注入電極6が第1の電極に相当し、ホール注入電極4の屈折率が第1の屈折率に相当し、中間媒質層3の屈折率が第2の屈折率に相当する。
【実施例】
【0108】
[計算例1]
計算例1では、シュミレーション(計算)により上記第1の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を算出した。なお、シュミレーションでは、中間媒質層3およびホール注入電極4の材料を特定する必要はなく、屈折率をそれぞれ定めることにより間接的に材料を特定することが可能である。
【0109】
ここで、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を共に1.5としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ホール注入電極4の屈折率を上昇させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。
【0110】
このように、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を同じ値に設定することにより、図12に示す従来の有機EL装置の構成と同等の構成をシュミレーションの対象にすることが可能となる。
【0111】
図9は、計算例1のシュミレーション結果を示すグラフである。
【0112】
図9に示すように、ホール注入電極4の屈折率が約2.0となるまでの範囲において相対輝度は上昇し、ホール注入電極4の屈折率が約2.0以上になると相対輝度はほぼ一定となった。
【0113】
それにより、ホール注入電極4の屈折率よりも低い屈折率を有する中間媒質層3を用いることが好ましいことがわかった。
【0114】
一方、図12に示す従来の有機EL装置および第1の実施の形態に係る有機EL装置をそれぞれ製造した後、これらの有機EL装置を用いて輝度を実験的に測定した(実験例1)。
【0115】
従来の有機EL装置の輝度を1とした場合の第1の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を相対輝度として測定した結果、この相対輝度は約1.2となった。これにより、計算例1と同様な結果を確認することができた。
【0116】
なお、実験例1においては、各有機EL装置におけるホール注入電極4を約2.0の屈折率を有するITOにより形成し、中間媒質層3を約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂により形成した。
【0117】
[計算例2]
計算例2では、シュミレーション(計算)により上記第2の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を算出した。
【0118】
ここで、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を共に1.5としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ホール注入電極4の屈折率を上昇させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。
【0119】
このように、中間媒質層3およびホール注入電極4の屈折率を同じ値に設定することにより、図12に示す従来の有機EL装置の構成と同等の構成をシュミレーションの対象にすることが可能となる。
【0120】
図10は、計算例2のシュミレーション結果を示すグラフである。
【0121】
図10に示すように、ホール注入電極4の屈折率が約2.0となるまでの範囲において相対輝度は上昇し、ホール注入電極4の屈折率が約2.0以上になると相対輝度はほぼ一定となった。
【0122】
それにより、ホール注入電極4の屈折率よりも低い屈折率を有する中間媒質層3を用いることが好ましいことがわかった。
【0123】
一方、図12に示す従来のボトムエミッション構造を有する有機EL装置に対応するトップエミッション構造の有機EL装置(図示せず)および第2の実施の形態に係る有機EL装置をそれぞれ製造した後、これらの有機EL装置を用いて輝度を実験的に測定した(実験例2)。
【0124】
従来の有機EL装置の輝度を1とした場合の第2の実施の形態に係る有機EL装置の輝度を相対輝度として測定した結果、この相対輝度は約1.1となった。これにより、計算例2と同様な結果を確認することができた。
【0125】
なお、実験例2においては、各有機EL装置におけるホール注入電極4を約2.0の屈折率を有するITOにより形成し、中間媒質層3を約1.5の屈折率を有するアクリル樹脂により形成した。
【0126】
[計算例3]
図11は、ギャップ幅を変化させたときの有機EL装置の相対輝度を示すグラフである。
【0127】
上記のギャップ幅は、ホール注入電極4と有機層5との界面からホール注入電極4側のカラーフィルタ層2表面までの距離をLとし、ホール注入電極4とカラーフィルタ層2との間の距離をrとした場合に、r/Lにより定義される。
【0128】
r/L=0の場合、第1の実施の形態に係る有機EL装置がシュミレーションの対象となり、r/L>0の場合、第3の実施の形態に係る有機EL装置がシュミレーションの対象となる。
【0129】
計算例3では、r/L≒0.95を満たす第3の実施の形態に係る有機EL装置を対象としてシュミレーションした場合に算出された輝度を1として、ギャップ幅を変化させた場合の各輝度を相対輝度として算出した。なお、ホール注入電極4および中間媒質層3の屈折率をそれぞれ2.0および1.5とした。
【0130】
図11に示すように、ギャップ幅が小さくなるにつれ、相対輝度が上昇する傾向が確認された。
【0131】
それにより、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間に中間媒質層3が存在する構成、すなわち、ギャップ幅を有する構成の有機EL装置よりも、カラーフィルタ層2とホール注入電極4との間に中間媒質層3が存在しない構成、すなわち、ギャップ幅を有さない構成の有機EL装置の方が輝度を上昇させることが可能であることが明らかになった。
【0132】
また、有機EL装置がギャップ幅を有する構成であるとしても、そのギャップ幅が0.7以下である場合には、相対輝度の著しい上昇が見込めることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置は、各種光源および各種表示装置等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】図1の有機EL装置のA−A線断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図4】トップエミッション構造を有する有機EL装置の一例を示す概略平面図である。
【図5】図4の有機EL装置のB−B線断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る有機EL装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【図7】ボトムエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【図8】トップエミッション構造を有する有機EL装置の他の例を示す模式的断面図である。
【図9】計算例1のシュミレーション結果を示すグラフである。
【図10】計算例2のシュミレーション結果を示すグラフである。
【図11】ギャップ幅を変化させたときの有機EL装置の相対輝度を示すグラフである。
【図12】従来の有機EL装置の概略的構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0135】
1 基板
2 カラーフィルタ層
3 中間媒質層
4 ホール注入電極
5 有機層
6 電子注入電極
7 保護層
8 対向基板
11 能動層
12 層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)
13 平坦化層
14 第2の層間絶縁膜
41 ゲート電極
43d ドレイン電極
43s ソース電極
51 電源線
140 薄膜トランジスタ(TFT)
R レジスト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
光を発生する発光層を含む有機層と、
第1の屈折率を有しかつ前記発光層により発生された光を透過する第2の電極と、
カラーフィルタ層とを順に備え、
前記第2の電極および前記カラーフィルタ層を取り囲むように設けられかつ前記第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層とをさらに備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との差が0.1以上であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記第2の電極は、インジウム−スズ酸化物、酸化亜鉛、酸化スズおよび酸化チタンからなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記中間媒質層は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂および酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
基板をさらに備え、
前記基板、前記カラーフィルタ層、前記第2の電極、前記有機層および前記第1の電極がこの順に積層されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
基板をさらに備え、
前記第1の電極、前記有機層、前記第2の電極、前記カラーフィルタ層および前記基板がこの順に積層されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記有機層と前記中間媒質層との間に前記有機層よりも低い透水性を有する保護層をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
第1の電極、光を発生する発光層を含む有機層、第1の屈折率を有しかつ前記発光層により発生された光を透過する第2の電極およびカラーフィルタ層を形成する工程と、
前記第2の電極および前記カラーフィルタ層を取り囲むように、前記第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項1】
第1の電極と、
光を発生する発光層を含む有機層と、
第1の屈折率を有しかつ前記発光層により発生された光を透過する第2の電極と、
カラーフィルタ層とを順に備え、
前記第2の電極および前記カラーフィルタ層を取り囲むように設けられかつ前記第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層とをさらに備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との差が0.1以上であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記第2の電極は、インジウム−スズ酸化物、酸化亜鉛、酸化スズおよび酸化チタンからなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記中間媒質層は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂および酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
基板をさらに備え、
前記基板、前記カラーフィルタ層、前記第2の電極、前記有機層および前記第1の電極がこの順に積層されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
基板をさらに備え、
前記第1の電極、前記有機層、前記第2の電極、前記カラーフィルタ層および前記基板がこの順に積層されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記有機層と前記中間媒質層との間に前記有機層よりも低い透水性を有する保護層をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
第1の電極、光を発生する発光層を含む有機層、第1の屈折率を有しかつ前記発光層により発生された光を透過する第2の電極およびカラーフィルタ層を形成する工程と、
前記第2の電極および前記カラーフィルタ層を取り囲むように、前記第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有する中間媒質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−236683(P2006−236683A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47365(P2005−47365)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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