説明

有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】基板と凸版印刷版との相対位置合わせを容易にし、製造効率を低下させることなく、簡便な手法で均一な膜厚の有機発光層を所期の領域に形成することができる有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】有機EL装置10の製造方法は、陽極12、陰極25、有機発光層24を含む有機EL素子と、有機EL素子が搭載される基板11とを含む有機EL装置の製造方法であって、基板11上に複数本の隔壁15を略平行に配設する工程と、隔壁15が設けられた基板11表面を撥液処理する工程と、親液性下地層19を陽極12の表面に形成する工程と、隔壁15で区画された領域内に有機発光層23を形成する工程とを含み、有機発光層23を形成する工程では、複数本の隔壁15の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部を備える凸版印刷版を用いて隔壁15の長手方向に沿って有機発光インキを複数本の隔壁15間に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)を基板上に有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は一対の電極と有機発光層とを含んで構成される。有機EL素子は、電圧を印加すると、各電極から正孔および電子がそれぞれ注入され、注入された正孔と電子とが発光層において結合することによって発光する。無機EL素子に比べると、有機EL素子は低電圧での駆動が可能であり、輝度が高いため、複数の有機EL素子を備えた表示装置や照明装置などの有機EL装置の実用化が検討されている。
【0003】
複数の有機EL素子を用いた表示装置では、例えば格子状の隔壁が基板上に設けられ、この隔壁によって区画される領域(以下、画素領域という場合がある)に各有機EL素子が設けられる。そのため各有機EL素子を構成する有機発光層を各画素領域ごとに形成する必要がある。
【0004】
各画素領域にそれぞれ有機発光層を形成する方法として、その工程の簡易さから塗布法が検討されている。例えば凸版印刷法またはインクジェットプリント法などの塗布法を用いて有機発光材料を含むインキ(以下、有機発光インキという場合がある)を各画素領域に選択的に供給し、さらに乾燥させることにより有機発光層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
有機発光層を塗布法により形成する場合、所定の画素領域に供給されたインキが、隣接する他の画素領域に流出することを防ぐためにも、通常は隔壁表面に撥インキ性が予め付与されている。図4−1および図4−2を参照して、上記従来技術による有機発光層の形成方法の概略を説明する。図4−1に示すように、ITO膜等からなる複数の第1電極102と、隣り合う第1電極102間を絶縁する無機絶縁層103と、有機隔壁層104とをまず基板101上に形成する。無機絶縁層103及び有機隔壁層104を形成した段階では、これらは上記有機発光インキに対して親液性を示す部材である。
【0006】
次に前述の各部材が形成された基板101の表面に対して、CF4プラズマ処理(撥液処理)を行う。有機物から成る部材(有機隔壁層104)はCF4プラズマ処理によってフッ素化され易いため、このCF4プラズマ処理によって有機隔壁層104は表面が容易にフッ素化され、撥液性が付与される。他方無機物から成る部材(無機絶縁層103、第1電極102)はCF4プラズマ処理によってフッ素化され難いため、このCF4プラズマ処理によっても無機絶縁層103、第1電極102は親液性を維持する。このためCF4プラズマ処理によって有機隔壁層104のみが選択的に有機発光インキに対して撥液性が付与されることになり、表面状態が選択的に変更される。
【0007】
図4−2に示す従来技術では、インクジェットヘッド105から有機発光インキ106を画素領域(有機隔壁層104間)に吐出する。所定の画素領域に着弾した有機発光インキ106は、撥液性を有する有機隔壁層104ではじかれるため、有機隔壁層104を超えて隣接する画素領域に流出することがなく、着弾した画素領域にそのまま保持される。この有機発光インキ106を乾燥させることにより、第1電極102上に有機発光層をパターン形成することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−286243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したインクジェットプリント法ではなく凸版印刷版を用いて有機発光インキを各画素領域に供給する際には、凸版印刷版に設けられる複数の凸部と、複数の画素領域とをそれぞれ正確に位置合わせする必要がある。インクジェットプリント法では、インクジェットヘッド105および基板のいずれか一方を移動すればよいため、位置合わせは比較的容易であるが、凸版印刷法では凸版印刷版と基板との両方を移動させつつ複数の凸部と、複数の画素領域とをそれぞれ正確に位置合わせする必要があるため、その位置ずれ許容度が小さく、凸版印刷版の軸心方向および周方向の位置精度、基板の送り方向の角度精度が厳しくなり、効率的な製造が困難となるという問題があった。
【0010】
有機発光層がその表面上に形成される層(図4では第1電極102)の表面は前述したように親液性を示すが、それでも有機発光インキを各画素領域内に選択的に供給したときに、画素領域の周縁および画素領域内において有機発光インキがはじかれることがあり、画素領域全域への有機発光インキの均一な塗布が実現されないおそれがある。凸版印刷法では凸版印刷版を介して画素領域にインキが供給されるため、凸版印刷版上においてインキが乾燥し、粘度の高いインキが画素領域に供給されることになる。そのため特に凸版印刷法では画素領域内においてインキが濡れ広がり難くなるため、画素領域全域への有機発光インキの均一な塗布が困難である。このようにして形成された有機発光層は、膜厚が不均一となり、場合によっては有機発光インキがはじかれた部分に孔が生じる。そのため実際に発光する画素領域の面積が設計値以下となったり、発光にムラが生じたりすることがあり、その結果、発光特性が著しく低下することになる。
【0011】
本発明は、上記従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その課題は、基板と凸版印刷版との位置合わせを容易にし、製造効率を低下させることなく、簡便な手法で均一な膜厚の有機発光層を所期の領域に形成することができる有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明では、下記の構成を採用した。
[1] 第1電極、該第1電極と対をなす第2電極、および前記第1電極と前記第2電極との間に配置される有機発光層をそれぞれ含んで構成される複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、該複数の有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される基板とを含む有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
第1電極が形成された基板を用意する準備工程と、
前記第1電極が形成された基板上に、複数本の隔壁を略平行に配設する隔壁配設工程と、
前記基板の厚み方向のうちの、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される側から、前記隔壁が設けられた基板表面を撥液処理する撥液処理工程と、
撥液処理された隔壁よりも、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキに対して高い親液性を有する親液性下地層を前記第1電極上に形成する親液性下地層形成工程と、
前記親液性下地層形成工程の後、前記隔壁で区画された領域内に前記有機発光材料を含むインキを供給して有機発光層を形成する有機発光層形成工程と、
前記第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記有機発光層形成工程では、前記複数本の隔壁の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記隔壁の長手方向に沿って前記有機発光材料を含むインキを前記複数本の隔壁間に供給する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[2] 前記親液性下地層形成工程では、前記親液性下地層を乾式方法により形成する、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[3] 前記親液性下地層が、金属の酸化物又は金属の複合酸化物からなる層である、上記[1]または「2」に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[4] 前記親液性下地層を形成する金属の酸化物が、酸化モリブデン又は酸化タングステンである、上記[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[5] 前記撥液処理が、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理である、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[6] 画素の形成される複数の画素領域を規定する絶縁層を前記第1電極が形成された基板上に設ける、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[7] 前記凸版印刷版は、円筒状または円柱状であり、周方向に前記複数本の凸部の長手方向が重なるように前記複数本の凸部が配列されている、上記[1]から[6]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL装置の製造方法によれば、基板と凸版印刷版との位置合わせを容易にし、製造効率を低下させることなく、簡便な手法で均一な膜厚の有機発光層を所期の領域に形成することができ、発光ムラの少ない有機EL素子を備える有機EL装置を製造することができる。
したがって、本発明の有機EL装置の製造方法により製造される有機EL装置は、照明装置、面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL素子を搭載した有機EL装置においては、電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において基板の厚み方向の一方を上または上方といい、基板の厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
本発明にかかる有機EL装置の製造方法の一実施形態について説明し、その後、本発明に係る製造方法が対象とする有機EL装置の構造の一実施形態について説明する。
第1の実施形態によって作製される有機EL装置10(図1−7、参照)には複数の画素が設けられる。画素が形成される領域、すなわち画素領域は、当該領域を囲む隔壁により区画され、その平面形状は、仕様により適宜設定され、例えば略矩形状、略楕円形状、又は小判形状などとなっている。各画素は、有機EL素子によって構成される。有機EL素子は、一対の電極と当該電極間に挟まれた、有機化合物を含む発光層(以下、「有機発光層」という。)とを含んで構成され、基板上に各種の層を順次積層させて作製される。
【0016】
本発明の有機EL装置の製造方法は、第1電極、該第1電極と対をなす第2電極、および前記第1電極と前記第2電極との間に配置される有機発光層をそれぞれ含んで構成される複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、該複数の有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される基板とを含む有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、第1電極が形成された基板を用意する準備工程と、前記第1電極が形成された基板上に、複数本の隔壁を略平行に配設する隔壁配設工程と、前記基板の厚み方向のうちの、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される側から、前記隔壁が設けられた基板表面を撥液処理する撥液処理工程と、撥液処理された隔壁よりも、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキに対して高い親液性を有する親液性下地層を前記第1電極上に形成する親液性下地層形成工程と、前記親液性下地層形成工程の後、前記隔壁で区画された領域内に前記有機発光材料を含むインキを供給して有機発光層を形成する有機発光層形成工程と、前記第2電極を形成する工程と、を含み、前記有機発光層形成工程では、前記複数本の隔壁の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記隔壁の長手方向に沿って前記有機発光材料を含むインキを前記複数本の隔壁間に供給する。
【0017】
<A>基板準備工程
基板準備工程は、第1電極が形成された基板を用意する準備工程であり、基板に第1電極を形成することにより、第1電極が形成された基板を用意してもよく、また第1電極が形成された基板を市場から入手することにより第1電極が形成された基板を用意してもよい。なお本実施形態では第1電極を陽極とし、第2電極を陰極として説明するが、他の形態として第1電極を陰極とし、第2電極を陽極としてもよい。
図1−1は、本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の基板準備工程を示す断面構成図であり、図2−1の切断面線(I−I)−(I−I)から見た断面図である。図2−1は、図1−1の基板の平面図である。本実施の形態では基板上に第1電極として陽極を形成することにより、第1電極が形成された基板を用意する。基板準備工程ではまず基板材料からなる基板を準備する。プラスチック基板などのガスバリア性の低い基板を用いる場合には、必要に応じて基板11上に下部封止膜を形成しておく。
【0018】
基板11上に後述のいずれかの陽極材料を用いて、第1電極に相当する陽極12をパターン形成する。この陽極12を透明電極とする場合には、後述のように、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料を使用する。電極のパターン形成は、例えば、ITOを用いる場合、スパッタリング法により基板11上に均一な堆積膜として形成され、続いて、フォトリソグラフィーにより島状またはライン状にパターニングされる。なお陽極は、スパッタリング法の他に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法等によって形成してもよい。
【0019】
<B>絶縁層形成工程
絶縁層形成工程は、前記基板準備工程により前記基板上に形成された前記第1電極の露出面を覆うように絶縁層を設け、画素領域を形成する工程である。
図1−1は、本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の絶縁層形成工程を示す断面構成図であり、図2−1の切断面線(I−I)−(I−I)から見た断面図である。図2−1は、図1−1の基板の平面図である。
【0020】
陽極12を形成した後、例えば格子状の絶縁層13を形成する。この絶縁層13は、プラズマCVD法やスパッタ法等の公知の方法によりSiO、SiN等の無機絶縁材料からなる絶縁膜を形成し、次いでフォトリソグラフィーとエッチングを実施し、パターニングすることにより形成し得る。前記絶縁膜が除去された領域が画素領域14に相当する。絶縁層13は、絶縁性を示すことが重要であり、絶縁性を有さない場合には、互いに異なる画素間に電流が流れてしまい表示不良が発生するおそれがある。
【0021】
図2−1に示すように、この格子状の絶縁層13に覆われた矩形状の領域が画素領域14となり、この画素領域14には、パターン形成された陽極12が露出する。
また、絶縁層13により区画された画素の開口形状は、円形、楕円、四角、いずれの形状でも構わないが、インク組成物には表面張力があるため、四角形の場合、その角部は丸みを帯びているほうが好ましい。
なお、絶縁層13を設けない場合には、陽極12が帯状に露出することになるが、この帯状の領域が画素領域となる。
【0022】
<C>隔壁配設工程
隔壁配設工程は、第1電極が形成された基板上に、複数本の隔壁を略平行に配設する工程である。
図1−2は、本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の隔壁配設工程を示す断面構成図であり、図2−2の切断面線(I−II)−(I−II)から見た断面図である。図2−2は、隔壁が形成された基板の平面図であり、図1−2に示す隔壁が形成された基板の平面図である。
絶縁層13を形成後、隔壁配設工程ではまず絶縁層13が形成された基板11上に感光性材料を塗布してフォトレジスト膜を積層する。次に、このフォトレジスト膜を、フォトリソグラフィーによりストライプ状にパターニングする。図1−2、図2−2に示すように、基板11のフォトレジスト膜をストライプ状にパターニングすることにより、陽極12上に、ストライプ状に配置される複数本の絶縁性の隔壁15を形成する。また、隔壁15で区画された領域は凹状の溝部16を形成しており、基板の厚み方向の一方から見て、有機発光層が形成される発光層形成領域17がストライプ状に区分けされる。
なお、ここに言う「ストライプ状に配置される」とは、複数本の隔壁15が略平行に縦縞状もしくは横縞状に配置されることを意味している。
本実施形態では、陽極12はストライプ状に配置され、基板11の厚み方向の一方から見て、陽極12の延びる方向に、陽極12間の間隙に重なるように隔壁15が配置され、隔壁15間において、画素の形成される複数の画素領域14が隔壁15に沿って設定されている。なお隔壁15は、陽極12の延びる方向とは直交する方向にストライプ状に配置するようにしてもよい。
発光層形成領域17は、隣り合う隔壁15の対向面15aに挟まれた領域である。図1−2〜図1−8では、隔壁15の延伸する方向に垂直な平面で切断した隔壁15の断面形状は、基板11側が幅広な台形型となっているため、発光層形成領域17は絶縁層13から離間するほど幅広に形成される。
【0023】
以上のように、陽極12が形成された基板11上に画素の形成される複数の画素領域14を規定する絶縁層13を設け、絶縁層13の上に隔壁15を設けることにより、隣接する隔壁15同士の間に隔壁に沿って複数の画素領域14が設けられている。
【0024】
隔壁15の主たる役割は、隔壁15で区切られた隣接する画素間での絶縁を図るとともに、隣接画素間の混色を防止する点にある。そのために、その高さ寸法を高く設定する。したがって、画素領域14上に形成される親液性下地層や有機発光層などの積層膜の合計厚さより、隔壁15の厚さを幾分厚く形成すればよい。他方、上記絶縁層13の役割は、隔壁15に沿って配置される同一色の複数の画素間の絶縁を行う点にあり、混色防止の役割はない。絶縁層13が厚くなると、その分だけ装置が厚膜化するとともに、絶縁層13の露出面13aと画素領域14との境界付近に形成される段差が有機発光層の性状に影響を与えるおそれがあるため、絶縁層13の厚さは電気絶縁を図ることができる範囲内で薄く形成することが好ましく、本実施の形態では絶縁層13の基板11からの高さは、隔壁15の絶縁層13からの高さよりも低くして設けるようにしている。かかる基準から、上記隔壁15の高さ寸法としては2〜3μm、絶縁層13の高さ寸法としては0.1〜0.2μmに設定することが好ましい。なお、有機材料の電気伝導性の大きさにより絶縁層13は不要にすることもできる。
【0025】
隔壁15を形成する絶縁性の感光性材料(フォトレジスト組成物)は、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよい。この隔壁15を構成するための絶縁性の感光性材料としては、具体的には、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系の各感光性化合物を用いることができる。なお、この感光性材料には、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を含有させてもよい。
【0026】
前記構造の隔壁15の作製方法は、特に限定されないが、例えば、以下のようにして作製することができる。
格子状の絶縁層13上に2〜3μm厚のフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をストライプ状のマスクを介して露光し、ストライプ状に配置される複数本の陽極12間にのみレジスト層が残るように現像し、熱硬化させる。
上記ストライプ状にパターニングされたレジスト層が上記隔壁15を構成する。
【0027】
上記フォトレジスト層を形成するための感光性材料(フォトレジスト組成物)の塗布は、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スリットコーター等を用いたコーティング法により行うことができる。塗布膜は、硬化後、慣用のフォトリソグラフィーを用いて、所望寸法のストライプ状にパターニングする。
【0028】
なお図1−2〜図1−7に示すように、隔壁15の延伸する方向に垂直な平面で切断した隔壁15の断面形状は、基板11側が幅広な台形型としたが、隔壁15の断面形状はこれに限定されるものではなく、矩形状および蒲鉾状などであってもよい。
【0029】
また、基板11上の絶縁層13で陽極12同士を絶縁し、隔壁15で発光層形成領域17を区画するようにしているが、基板11上に形成されているストライプ状の陽極12同士の間に隔壁15を形成し、ストライプ状の画素領域を形成する場合などは、絶縁層13を省略し、隔壁15に陽極12同士を絶縁する機能と隔壁間に塗布されるインキを区画する機能とを同時に有するようにしてもよい。この場合、形成される隔壁は、上述の隔壁15と同様の材料を用いて形成するようにする。
【0030】
<D>撥液処理工程
撥液処理工程は、基板の厚み方向のうちの、有機EL素子が搭載される側から、隔壁が設けられた基板表面を撥液処理する工程である。
本明細書で「撥液性」とは、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキ(有機発光インキ)(又はその溶剤)に対するインキ供給対象表面の親和性が小さいことを意味する。撥液性の有無は、有機発光インキと基板との接触角によって判断することができる。接触角は、固体表面上に滴下された液体の液滴の接触部分と固体表面がつくる角度として定義される。
【0031】
本明細書では、液滴と固体表面との接触角が30°以上である場合に、液体に対して固体表面は撥液性があると定義する。また、接触角が30°未満の場合は、液体に対して固体表面は親液性があり、濡れ易いと定義する。この場合には、液体を塗布した場合に固体表面上に均一に広がり良質な膜が形成される。
【0032】
撥液処理は、液滴と固体表面との接触角を高くするための処理であり、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理を行う方法と、撥液性を有する材料を塗布する方法とがあり、これらは撥液性を付与したい面の材質により適宜選択することができる。
撥液性を付与したい面が有機材料で形成されている場合には、撥液処理として撥液性を有する材料を塗布する方法、及びフッ素系ガスを使用したプラズマ処理を行う方法の両方法を選択することができる。フッ素系ガスを使用したプラズマ処理では、CF4、SF6のようなフッ素系ガスを用いた真空プラズマ処理、または大気圧プラズマ処理を適用することができる。
【0033】
一方、撥液性を付与したい面が無機材料で形成されている場合には、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理を行っても表面がフッ素化されにくく良好な撥液性を付与することが難しいため、撥液性を有する材料を塗布する方法により撥液処理を行うことが好ましい。撥液性材料としては、分子内にフッ素を有するフッ素系樹脂、界面活性剤やシランカップリング材等を使用することができる。
【0034】
図1−3に示すように、本実施形態では、隔壁15表面を撥液処理して、隔壁15表面上に撥液層18を形成している。これにより、隔壁15の表面に高い撥液性を付与することができる。
図1−3〜図1−7において、撥液層18は、撥液処理が施された隔壁15の表面の状態を表しており、プラズマ処理を用いる場合、実際には、層を形成するまでに至っておらず、表面処理されて撥液性被膜が形成された状態であるが、図示の便宜上、層として表している。また、プラズマ処理を用いず、撥液性を有する材料を塗布する方法を用いる場合には、層が形成される。
【0035】
隔壁15を形成した後に隔壁15の表面に撥液性被膜を形成する方法としては、隔壁15表面の有機材料の官能基をフッ素で置換することにより表面を改質する方法、撥液性成分を気化させて隔壁15表面に堆積させる方法を挙げることができる。具体的には、CF4ガスを導入ガスとして用いるプラズマ処理を挙げることができる。陽極12などの電極および絶縁層13などに比べると、有機物の隔壁15はCF4ガスによってフッ化され易く、プラズマ処理を行うことで隔壁15表面を選択的に撥液化することができる。
【0036】
本実施形態では、隔壁15が有機材料、陽極12、絶縁層13が無機材料で形成されている。撥液性を付与したい面である隔壁15が有機材料で形成されているので、基板11の表面にフッ素系ガスを使用したプラズマ処理を行う。この処理により、隔壁15の表面に撥液層18が形成され、隔壁15の表面にのみ高い撥液性を付与することができる。
なお、陽極12、絶縁層13は無機材料で形成されているので、上記プラズマ処理を行っても、陽極12、絶縁層13は親液性表面のままである。
【0037】
なお陽極12、絶縁層13および隔壁15が共に無機材料で形成されている場合は、撥液性を付与したい面である隔壁15が無機材料で形成されているので、基板11の表面に撥液性を有する材料を塗布する処理を行う。これにより、陽極12、絶縁層13および隔壁15の表面に撥液性が付与される。
【0038】
また隔壁15の表面に撥液性を付与するために、隔壁15を形成した後、その表面に撥液性物質を被覆させることにより、隔壁15表面に撥液性を付与しているが、隔壁形成用の感光性材料に撥液性物質を加えてもよい。撥液性は、後述の正孔注入層形成用のインキ、有機発光層を形成するための有機発光材料を含む有機発光インキなどに対しても、撥液性であることが好ましい。
【0039】
前記感光性材料に撥液性物質を添加する場合に用いる撥液性化合物としては、シリコーン系化合物またはフッ素含有化合物が用いられる。これらの撥液性化合物は、後述の有機発光層形成に用いる有機発光インキ(塗布液)と、正孔注入層などの有機材料インキ(塗布液)の両方に撥液性を示すため、好適に用いることができる。
【0040】
<E>親液性下地層形成工程
親液性下地層形成工程は、撥液処理された隔壁よりも、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキ(有機発光インキ)に対して高い親液性を有する親液性下地層を第1電極上に形成する工程である。
【0041】
図1−4に示すように、発光層形成領域17の陽極12および絶縁層13上に親液性下地層19を形成する。この親液性下地層19を形成する領域は、発光層形成領域17内である。
この工程では、開口部20aを有するマスク20を基板11上に配置し、真空蒸着法により発光層形成領域17内に親液性下地層19を成膜する。親液性下地層19は、後の工程で、その上に有機発光インキが均一に濡れ広がり易くするためのものであり、親液性表面を提供する。
【0042】
また、所定パターンの親液性下地層19を形成する方法として、上述の真空蒸着法以外に、基板11の発光層形成領域17内の陽極12および絶縁層13上の全面に親液性下地層19を形成した後にフォトリソグラフィー工程により親液性下地層19をパターン形成する方法等を採用してもよい。
【0043】
本実施形態において陽極と有機発光層の間に設けられる親液性下地層19は、後述のように、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などの層の少なくとも一つとして機能する。
【0044】
また、本実施形態では、隔壁15の表面を撥液処理し撥液層18を形成した後、基板11の発光層形成領域17に親液性下地層19を形成するようにしているが、後述のように、親液性下地層19として無機物系材料が使用されている場合、CF4ガスを導入ガスとして用いるプラズマ処理を行っても、親液性下地層19は親液性表面のままで、隔壁15の表面にのみ撥液層18を形成することができる。よって、親液性下地層19として無機物系材料が使用される場合、撥液処理工程と親液性下地層工程との順序を逆にして、親液性下地層19を形成した後、撥液処理し隔壁15の表面に撥液層18を形成するようにしてもよい。
【0045】
<F>有機発光層形成工程
有機発光層形成工程は、親液性下地層形成工程の後、隔壁で区画された領域内に有機発光材料を含むインキ(有機発光インキ)を供給して有機発光層を形成する工程である。
図1−5に示すように、親液性領域である親液性下地層19が形成された後、隔壁15で区画された領域(発光層形成領域)内に有機発光インキ21を供給する。
この有機発光層形成工程の特徴は、有機発光インキ21を凸版印刷法を用いて塗布することと、その場合に用いる凸版印刷版として、図3に示すように、前記複数本の隔壁15間の幅にそれぞれ対応する幅を有し、前記複数本の隔壁15の配置される間隔にそれぞれ対応する間隔で、版胴の軸心方向Yに直交する周方向にストライプ状に配置される複数本の凸部22を備える凸版印刷版23を用いることである。さらに、凸版印刷版23が、円筒状または円柱状であることが好ましく、凸部22の長手方向が周方向と重なるように、前記複数本の凸部22を配列することが好ましい。
【0046】
親液性下地層19の表面が親液性であり、その周囲の隔壁15の表面(撥液層18)が撥液性となっている。親液性下地層19に塗布された有機発光インキ21は、撥液層18ではじかれることにより、隔壁15を跨って隣接する他の発光層形成領域17内に流れ出さず、隔壁15により区画された発光層形成領域17内に収まる。これにより、有機発光インキ21は、発光層形成領域17内の親液性下地層19上に配置される。
【0047】
また塗布法である有機発光インキ21を凸版印刷法により基板11全面に塗布した場合、有機発光インキ21が隔壁15上に塗布される場合があるが、その場合、隔壁15上の有機発光インキ21は、撥液性を示す撥液層18表面によりはじかれることにより、隔壁15により区分けされた発光層形成領域17内に流れ、各発光層形成領域17内の親液性下地層19上に配置される。
【0048】
また、上述のように隔壁15を形成した後、隔壁15を撥液処理することで隔壁15同士が対向する対向面15aも撥液処理され、撥液層18が形成されている。そのため、隔壁15形成後の発光層形成領域17内の絶縁層13の露出面13a上に配置された有機発光インキ21は、隔壁15同士が対向する対向面15aの表面上の撥液層18によりはじかれ、露出面13aと対向面15aとが接触する近傍では、有機発光インキ21が配置されず発光層形成領域17内の一部に塗布ムラが生じる場合がある。しかしながら、隔壁15の対向面15aと画素領域14との間には絶縁層13の露出面13aの分だけ間隔があるため、画素領域14では対向面15a上の撥液層18による影響を受けず、画素領域14の親液性下地層19上の全面に有機発光インキ21を配置することができる。
【0049】
有機発光層に使用される有機発光材料としては、後述の通り、高分子有機発光材料及び/又は低分子有機発光材料が用いられる。
高分子有機発光材料を用いる場合、高分子材料を溶媒に溶解または安定に分散させて、有機発光材料を含むインキ(有機発光インキ)を調製する。この有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が、有機発光材料の良好な溶解性を有することから好ましい。また、有機発光材料のインキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0050】
次に、図1−6に示すように、有機発光インキ21を乾燥させて親液性下地層19上に有機発光層24を形成する。
有機発光インキ21を乾燥させることにより、有機発光材料からなる有機発光層24が親液性下地層19上に形成される。
有機発光インキ21は、基板11を保持するステージ(図示せず)に取付けられた温度調整機構により温度調整しながら、ホットプレート、オーブン、ドライヤー等の乾燥機構で乾燥させることができる。
【0051】
なお、有機発光インキ21の塗布工程及び乾燥工程を複数回繰り返してもよい。このように複数回繰り返すことにより、所望の厚さの有機発光層24を得ることができると共に、塗布ムラを分散してより均一な厚さの有機発光層24を形成することができる。
また、異なる有機発光インキ21を用いて、塗布工程及び乾燥工程を複数回繰り返してもよい。このように複数種の有機発光インキ21を使用することにより、より複雑な層構造を有する有機発光層24を形成することができる。
【0052】
このように、本発明では、有機発光インキ21を供給する前に予め陽極12と有機発光層24との間に親液性下地層19を設け、複数本の隔壁15の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部22を備える凸版印刷版23を用いて、隔壁15の長手方向に沿って有機発光材料を含むインキ(有機発光インキ)21を複数本の隔壁15間に供給することにより、有機発光層24を形成している。
【0053】
従来のように格子状の隔壁が設けられた基板を用いて有機EL素子を製造する場合には、格子状の隔壁に対応するように、行方向及び列方向に規則的に配置された複数の凸部を有する凸版印刷版を用いていたため、印刷に際して、行方向と列方向との両方向の位置あわせをする必要があり、印刷精度における許容度が小さかった。そのため、従来の格子状の隔壁を設けた基板を用いる製造方法では、凸版印刷版の軸心方向、周方向の位置精度、基板の送り方向の角度精度が厳しくなり、効率的な製造が困難であった。これに対し、本発明では、基板11上にストライプ状(縦縞状もしくは横縞状)の隔壁15を形成し、複数本の隔壁15の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部22を備える凸版印刷版23を用いて、隔壁15の長手方向に沿って有機発光インキ21を複数本の隔壁15間に供給して印刷するため、隔壁15の長手方向の位置合わせをする必要がなく、短手方向の位置合わせをするだけで足りる。その結果、隔壁15の長手方向の位置合わせ精度を緩和することができ、有機EL装置の製造効率を向上することができる。
【0054】
また、隔壁15内に有機発光インキ21を塗布する際、従来の方法では、有機発光層24がその表面に設けられる層の表面で有機発光インキ21がはじかれ、塗膜に欠損(塗布むら)が生じることがあった。これに対し、本実施形態では、有機発光層24を形成する前に、予め発光層形成領域17内の陽極12および絶縁層13に親液性下地層19を形成することで、有機発光インキ21に対して撥液層18の表面よりも高い親液性を有することができる。このため、隔壁15により区画された発光層形成領域17内に供給された有機発光インキ21は、絶縁層13により規定される画素領域14の全面に行き渡るように塗布され、塗布ムラが生じることなく各画素領域14の全面に有機発光塗膜を形成し、有機発光層24を画素領域14の全面に形成することができる。
【0055】
また、親液性下地層19が形成された後の表面は、発光層形成領域17を親液性とし、隔壁15の対向面15aの部分が撥液性となっているため、隔壁15に区画された発光層形成領域17からはみ出すように有機発光インキ21を供給した場合でも、有機発光インキ21は発光層形成領域17以外ではじかれ、発光層形成領域17にのみ有機発光インキ21が供給された状態となる。よって、発光層形成領域17には有機発光層24をほとんど欠陥が生じることなく形成することができる。
【0056】
本実施形態によれば、有機発光インキ21を供給する前に予め陽極12上に親液性下地層19を設け、凸版印刷版23を用いた有機発光インキ21の供給方法により有機発光層24を形成することによって、基板11上の複数の画素領域14へ凸版印刷法により有機発光インキ21を供給する際の印刷ズレを防止し、製造コストが低く、且つ簡便な手法で、基板11上の隔壁15の長手方向の位置合わせ精度を緩和することができ、高い精度で画素領域14に混色が生じることのない有機発光層24を形成しつつ製造効率を向上させることができる。
【0057】
<G>陰極形成工程
図1−7に示すように、有機発光層24の表面上に陰極25を形成する。陰極25は、後述のいずれかの材料を用い、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、および金属薄膜を圧着するラミネート法などにより形成する。
【0058】
陰極25を形成した後、基本構造として陽極12−有機発光層24−陰極25を有してなる発光機能部26を保護するために、上部封止膜を形成する。この上部封止膜は、必要に応じて、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層とから構成する。これらの積層数は、必要に応じて決定し、基本的には、無機層と有機層は交互に積層する。
【0059】
本実施形態に係る有機EL装置の製造方法の特徴は、上述のように、第1電極が形成された基板上に、複数本の隔壁を略平行に配設する隔壁配設工程と、前記基板の厚み方向のうちの、有機EL素子が搭載される側から、前記隔壁が設けられた基板表面を撥液処理する撥液処理工程と、撥液処理された隔壁よりも、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキに対して高い親液性を有する親液性下地層を前記第1電極上に形成する親液性下地層形成工程と、前記親液性下地層形成工程の後、前記隔壁で区画された領域内に前記有機発光材料を含むインキを供給して有機発光層を形成する有機発光層形成工程とからなり、前記有機発光層形成工程では、前記複数本の隔壁の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記隔壁の長手方向に沿って前記有機発光材料を含むインキを前記複数本の隔壁間に供給することにある。これらの各工程の詳細は、上述の通りである。
【0060】
従って、以上説明した本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によれば、有機発光インキを供給する前に予め前記第1電極上に前記親液性下地層を設けることで、予め有機発光インキが塗布される面の濡れ性を高くすることができるため、画素領域に有機発光インキを均一に広げることができる。
また、前記隔壁の配置に対応して略平行に配置された凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記隔壁の長手方向に沿って前記有機発光インキを前記隔壁間に供給することによって、前記基板上の前記隔壁の長手方向の位置合わせ精度を緩和し、印刷ズレを防止しながら前記基板上の複数の前記画素領域へ前記有機発光インキを供給することができる。このため、各々の前記画素領域には高精度で混色が生じることのない有機発光層を簡便に形成し、有機EL装置の製造効率を向上させることができる。
よって、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法を用いれば、基板と凸版印刷版との相対位置合わせを容易にし、製造効率を低下させることなく、簡便な手法で均一な膜厚の有機発光層を所期の領域に形成することができ、製造効率を向上しつつ、発光ムラの少なくすることができる。
したがって、本発明の有機EL装置は、照明装置、面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好ましく使用できる。
【0061】
次に、上述した有機EL装置の製造方法により作製される有機EL装置の各構成について説明する。
【0062】
<a>基板
基板としては、有機EL装置を形成する工程において変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板としては、市販のものが使用可能である。また前記基板を公知の方法により製造することもできる。
【0063】
有機発光層からの光を基板側から取出すボトムエミッション型の有機EL装置では、基板は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
なお、有機発光層からの光を陰極側から取出すトップエミッション型の有機EL装置では、基板は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0064】
<b>第1電極
第1電極は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極であり、かつ他方の電極である第2電極よりも基板寄りに設けられるものである。本実施形態における第1電極は陽極であり、該陽極は、有機発光層からの光を透過させる透明電極であるが、他の形態として、陰極を透明な電極から構成した有機EL装置も可能である。陽極には、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、有機発光層の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。透明な陽極の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO、金、白金、銀、銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0065】
また、陽極の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0066】
また、有機発光層への電荷注入を容易にするという観点から、前記陽極の有機発光層側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1nm以上、200nm以下の層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0067】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm以上、10μm以下であり、好ましくは10nm以上、1μm以下であり、より好ましくは20nm以上、500nm以下である。
【0068】
<c>絶縁層
絶縁層は、各有機EL素子間の電気絶縁性を確保するとともに、有機発光層が形成される画素領域を規定する。陽極を形成した後、通常、その上に絶縁層を形成し、さらにパターニングすることで、基板の厚み方向の一方から見て、有機発光層が形成される画素領域を区分けする。画素領域は、発光領域に相当する。
【0069】
絶縁層13は、SiO、SiN等の無機絶縁材料を用いて形成される。また、絶縁層13は、後述の隔壁15と同様の材料を用いて形成するようにしてもよい。
【0070】
複数の有機EL素子を基板上に形成する場合、上記絶縁層のパターニングにより、各有機EL素子間の電気絶縁性を確保するとともに、発光領域を規定する。絶縁層の厚さは、通常、0.1μm以上、0.2μm以下に設定される。
【0071】
<d>隔壁
隔壁は、各有機発光層の構成材料の塗布領域を規定する。絶縁層13を形成し、画素領域14を形成した後、陽極が形成された基板上に感光性材料を塗布してフォトレジスト膜を積層する。次に、このフォトレジスト膜を、フォトリソグラフィーによりストライプ状にパターニングして絶縁性隔壁が形成される。
【0072】
上記隔壁15を形成する絶縁性の感光性材料(フォトレジスト組成物)は、上述の通り、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよい。隔壁15を構成する感光性材料(フォトレジスト組成物)についても、上述の通り、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系の各感光性化合物を用いられる。なお、この感光性材料には、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性を示す材料を含有させてもよい。
【0073】
隔壁15を形成するための感光性材料(フォトレジスト組成物)は、上述の通り、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スリットコーター等を用いたコーティング法により塗布することができる。塗布膜は、硬化後、慣用のフォトリソグラフィーを用いて、所望寸法の格子状にパターニングする。
【0074】
<e>撥液層
撥液層は、隔壁を形成することにより発光層形成領域が区分けされた基板を撥液処理することにより隔壁表面に形成される層である。撥液層は、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理、又は基板上に撥液性を有する材料を塗布する処理により形成される。係る構成によれば、撥液処理を施す面が有機物から成る場合には、上記フッ素系ガスを使用したプラズマ処理及び撥液性材料を塗布する処理の両方から選択可能となる。また、撥液処理を施す面が金属又は金属酸化物等の無機物からなる場合には、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理では表面がフッ素化され難く撥液性を付与し難いので、撥液性材料の塗布処理により撥液処理を実施することができる。
【0075】
本実施形態では、撥液処理を施す隔壁15は有機物から成り、陽極12、絶縁層13が金属又は金属酸化物等の無機物から成るため、隔壁15表面に撥液処理する際、隔壁15表面に撥液層18を形成し、陽極12、絶縁層13に撥液層18が形成されないようにするため、撥液処理としてフッ素系ガスを使用したプラズマ処理を用いて撥液層18を形成する。図1−3〜図1−7において、撥液層18は、上述の通り、撥液処理が施された隔壁15の表面の状態を表しており、プラズマ処理を用いる場合、実際には、層を形成するまでに至っておらず表面処理された状態であるが、図示の便宜上、層として表している。また、プラズマ処理を用いず、撥液性を有する材料を塗布する方法を用いる場合には、層が形成される。
【0076】
<f>親液性下地層
親液性下地層は、有機発光層の陽極側の表面に接して設けられ、有機発光層が塗布法により均一に形成される役割を果たす層であり、有機発光インキに対して親液性を有する。
【0077】
また、発光層形成領域17においては、必要に応じて、陽極12と有機発光層24との間に、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などの層が設けられる。本実施形態において陽極12と有機発光層24の間に設けられる親液性下地層19は、上記正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などの層の少なくとも一つとして機能する。
【0078】
<f−1>親液性下地層の材料
また、本実施形態において、親液性下地層は、無機物系材料や有機物系材料を使用することができ、特に限定されない。
無機物系材料としては、金属の酸化物又は金属の複合化物が好ましく、具体的には、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化ニッケル、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムを挙げることができる。
有機物系材料としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層に用いられる有機材料などの、有機発光インキに対して不溶な有機材料を挙げることができる。
【0079】
<f−2>親液性下地層の形成方法
本実施形態において、親液性下地層19は発光層形成領域17上の陽極12と絶縁層13の表面に直接形成する。
【0080】
該親液性下地層19を形成する工程では、親液性下地層19を乾式方法により形成する。親液性下地層19を、塗布法ではなく、乾式方法により形成することによって、親液性下地層19を形成する面の塗れ性に影響されずに親液性下地層19を形成することができる。乾式方法としては、蒸着法,スパッタリング法,CVD法等の一般的な手法が使用可能である。また、乾式方法により親液性下地層をパターン形成する方法には、例えば、成膜領域が開口部となっているマスクを使用する方法を採用することができる。
【0081】
<g>有機発光層
発光層は発光材料を含む層であり、有機発光層は発光材料として有機化合物を含む層である。有機発光層には、主として蛍光および/または燐光を発光する有機物(低分子化合物および/または高分子化合物)が含まれる。この蛍光および/または燐光を発光する有機化合物として用いられる低分子化合物および高分子化合物が発光材料として用いられる。なお、本明細書において、高分子とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が103以上の化合物である。本発明に関し、上限を規定する特段の理由はないが、通常、ポリスチレン換算の数平均分子量は108以下の化合物である。また、有機発光層は、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる有機発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。なお、前述の実施の形態の有機EL素子は、陽極と陰極との間に、有機発光層を1層しか含んでいないが、複数の有機発光層を有するようにしてもよい。
【0082】
<g−1>色素系材料
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0083】
<g−2>金属錯体系材料
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。さらに金属錯体系材料の他の例として、中心金属に、Al、Zn、Be、Irなど、またはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0084】
<g−3>高分子系材料
高分子系材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、例えば、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0085】
<g−4>ドーパント材料
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm以上、2000nm以下である。
【0086】
<g−5>有機発光層の成膜方法
有機発光層は、上述の凸版印刷法を用いて形成することができる。
【0087】
<h>第2電極
第2電極は、第1電極とは極性が異なる電極である。第1電極が陽極に相当する本実施形態では、第2電極は陰極25である。陰極の材料としては、仕事関数が小さく、有機発光層への電子注入が容易な材料が好ましい。また陰極の材料としては電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0088】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0089】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0090】
陰極は、例えば、陰極側から光を取出す場合などのように、必要に応じて光透過性を有する電極とされる。このような光透過性を有する陰極の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0091】
なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0092】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm以上、10μm以下であり、好ましくは20nm以上、1μm以下であり、さらに好ましくは50nm以上、500nm以下である。
【0093】
陰極を形成させる方法としては、上述の通り、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。
【0094】
<i>保護膜
上述のように陰極25が形成された後、基本構造として(陽極)−(陽極と有機発光層との間の層)−(有機発光層)−(陰極)を有してなる発光機能部26を保護するために、該発光機能部26を封止する保護膜(上部封止膜)が形成される。この保護膜は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0095】
なお、プラスチック基板はガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、また有機発光層などの発光物質は酸化されやすく、水と接触することにより劣化しやすいため、前記基板としてプラスチック基板が用いられる場合には、基板および保護膜により発光機能部が被包されていても経時変化し易いので、プラスチック基板上にガスおよび液体に対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層する。この下部封止膜は、通常、上記保護膜(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0096】
<j>陽極と有機発光層との間に設けられる層
陽極12と有機発光層24との間には、少なくとも親液性下地層19が設けられる。また親液性下地層19の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が設けられてもよい。なお親液性下地層19は、これら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層のうちの少なくとも1つの層として機能する。
【0097】
正孔注入層とは、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層らの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層とは、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0098】
<j−1>正孔注入層
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と有機発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料(正孔注入材料)としては、該正孔注入層の一方の表面、および他方の表面に隣接して設けられる2層の各イオン化ポテンシャルの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料が好ましい。具体的には、陽極12のイオン化ポテンシャルと有機発光層23の陽極12側の表面部のイオン化ポテンシャルとの間となるイオン化ポテンシャルを有する材料などである。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0099】
正孔注入層の成膜方法としては、正孔注入層が積層される下地層上に正孔注入材料を含む溶液を塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解するものであればよく、例えば、水、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒を挙げることができる。具体的には、正孔注入材料を溶解する溶媒に、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を溶解した塗布液を塗布法によって塗布することで成膜することができる。
【0100】
正孔注入層が積層される下地層上に正孔注入材料を含む溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができ、前述した発光層を形成する方法と同様の凸版印刷法によって形成することが好ましい。
【0101】
また正孔注入層の厚みとしては、5nm以上、300nm以下程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0102】
<j−2>正孔輸送層
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0103】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0104】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0105】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0106】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0107】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1nm以上、1000nm以下程度であることが好ましい。この厚みが前記下限値未満となると、製造が困難になる。または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、前記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって、正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1nm以上、1000nm以下であるが、より好ましくは、2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは、5nm以上、200nm以下である。
【0108】
<j−3>電子ブロック層
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
電子ブロック層としては、例えば上記正孔注入層または正孔輸送層の材料として例示した各種材料を用い得る。
【0109】
<陰極と有機発光層との間に設けられる層>
有機発光層と陰極との間には、必要に応じて、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が設けられる。
【0110】
有機発光層と陰極との間に、一層のみが設けられる場合には、該層を電子注入層という。また有機発光層と陰極との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
電子注入層とは、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。
電子輸送層とは、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。
正孔ブロック層とは、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。
なお電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0111】
<k−1>電子注入層
電子注入層は、先に述べたように、電子輸送層と陰極との間、または有機発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層は、有機発光層の種類に応じてその材料が適宜選択され、その材料としてはアルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0112】
アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0113】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0114】
さらに金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0115】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していてもよい。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm以上、1μm以下程度が好ましい。
【0116】
<k−2>電子輸送層
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0117】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0118】
電子輸送層の成膜法としては、特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法などが例示される。また高分子電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法などが例示される。
また溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。
溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法が挙げられる。
【0119】
この電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って、電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0120】
<k−3>正孔ブロック層
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0121】
<l>陽極、陰極および有機発光層を含む発光機能部の層構成の組合せ
本発明の有機EL素子において、陽極12から陰極25までの層構成の組み合わせ例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
c)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/陰極
d)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
a)〜f)において、陽極と有機発光層との間に設けられる層の一層が親液性下地層である。
【0122】
図1−7などに示す実施形態では、1組の有機発光層を設けている。しかし、その変形例として、2組以上の有機発光層を重ねて設ける形態も採用し得る。ここで、上記(a)〜(f)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された部分の積層体を「繰り返し単位A」とすると、例えば下記(g)に示す層構成なども採用し得る。
g)陽極/(繰り返し単位A)/電荷発生層/(繰り返し単位A)/陰極
【0123】
また3層以上の有機発光層を有する有機EL素子としては、「(繰り返し単位A)/電荷発生層」を「繰り返し単位B」とすると、例えば下記(h)に示す層構成などを挙げることができる。
h)陽極/(繰り返し単位B)/(繰り返し単位A)/陰極
【0124】
なお記号「n」は、2以上の整数を表し、(繰り返し単位B)は、繰り返し単位Bがn層積層された積層体を表す。
上記層構成g)およびh)において、陽極、電極、陰極、有機発光層以外の各層は必要に応じて略してもよい。
【0125】
電荷発生層とは、電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0126】
有機EL素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0127】
本実施形態の有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0128】
本実施形態の有機EL装置は、有機発光層からの光を透明な陽極を透過させて透明な基板から外部へ出射するボトムエミッション型の素子であったが、有機発光層からの光を透明な陰極を透過させて透明な保護層から外部へ出射するトップエミッション型の他の形態についても、本発明は同様に適用することができる。
【0129】
上記他の実施形態では、有機発光層からの光を透過させる透明な陰極には、例えば陽極として例示した金属薄膜を透明陰極として用いることができる。なお透明陰極に用いられる金属薄膜は、光が透過可能な程度に薄膜に形成されるので、シート抵抗が高くなる。したがって、透明陰極は、金属箔膜状にITO薄膜などの透明電極を積層させた積層体によって構成されることが好ましい。また、陽極と基板との間に、例えば銀などの反射率の高い反射膜を設けることが好ましく、このような反射膜を設けることによって、基板側に向かう光を透明陰極側に反射することができ、光の取出し効率を向上させることができる。
【0130】
また、本実施形態に係る有機EL装置10の製造方法では、基板11側に第1電極として陽極12を配置する構成の有機EL装置について説明したが、基板11側に第1電極として陰極を配置する構成の有機EL装置も可能である。この構成では、有機EL装置は、基板11上に陰極側から陽極方向に向かって、陰極(第1電極)、親液性下地層(電子注入層)19、有機発光層24、陽極(第2電極)がこの順で積層されて構成される。
また第1電極を陰極、第2電極を陽極とした場合には、親液性下地層19は、電子注入層、電子輸送層、電子ブロック層のうちの少なくとも1つの層として機能する。
【0131】
<製造された有機EL装置>
以上説明したような本発明の有機EL装置の製造方法により製造し得る有機EL装置10(図1−7、参照)は、上記のようにして有機EL素子で構成された画素が複数実装された装置である。電気的配線、駆動手段等の設置については、通常の有機EL装置の製造における様々な態様を採用し得る。
【0132】
本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置は、表示装置に用いることができる。
【0133】
上記実施形態の製造方法により製造される有機EL装置は、ストライプ状の第1電極を形成して作製されるパッシブマトリクス型の表示装置としている。本発明の有機EL装置の製造方法は、パッシブマトリクス型の表示装置に限らずに、TFT(Thin Film Transistor)基板を用い、行列状に、島状に配置した第1電極を形成したアクティブマトリクス型の表示装置を製造する場合にも適用可能である。
【0134】
また表示装置のように各有機EL素子の形状を小型にするのではなく、各有機EL素子のサイズを照明、または面状光源に適した大きさにすることにより、本発明の製造方法により製造される有機EL装置を照明、またはバックライトおよびスキャナの光源などの面状光源に好適に適用可能である。
【実施例】
【0135】
以下、作製例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の作製例に限定されるものではない。
【0136】
以下の作製例1−1〜1−4及び比較例1では、有機発光層を形成するための親液性下地層を設けることによる効果を確認するために、陽極と有機発光層との間に親液性下地層を設けた積層構造の有機EL素子を製造した。
【0137】
(作製例1−1)
透明ガラス基板上に第1電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)をパターニングした基板を準備した。
次に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製:OFPR−800)をスピンコーティング法により全面に塗布、乾燥させ膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。
次に、ITO端部を覆うように設計されたフォトマスクを用いてアライメント露光機により紫外線照射を行った後、レジスト現像液(東京応化社製:NMD−3)により露光部のフォトレジストを除去した。次に、ホットプレート上で230℃で1時間加熱処理を行いレジストを完全に加熱硬化させ有機絶縁層とした。
【0138】
次に、CF4ガスを用いた真空プラズマ装置により絶縁層表面に撥液処理を実施した。
次に、少なくともITO露出部(開口部)が開口部となるように設計されたメタルマスクを介し、真空蒸着機により親液性下地層として酸化モリブデンを抵抗加熱法によりパターン作製した。
【0139】
(評価1)
絶縁層上および親液性下地層上で自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)によりアニソール(表面張力35dyn/cm)で接触角測定を行った結果、有機絶縁層上で48.7°、親液性下地層上で10°以下であった。これにより、絶縁層は撥液層であり、親液性下地層は親液性表面であることが確認された。
【0140】
次に、Aldrich社製、重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチル-ヘキシロキシ)-パラ-フェニレンビニレン)を薄膜形成材料として用いて液状材料を作製した。溶媒としてトルエンとアニソールとを混合した混合溶媒を用い、作製した液状材料におけるPPVの濃度を1重量%とした。ノズルコート法により親液性下地層である酸化モリブデン層上にインキ(作製した液状材料)を塗布し、これを乾燥させて膜厚1000Åの有機発光層を作製した。
【0141】
(評価2)
光学顕微鏡によりITO開口部周辺の観察を行い有機発光層のパターン形成の状態を観察した結果、有機発光層が親液性下地層上に良好に形成されていることを確認した。
【0142】
次に、第2電極としてカルシウムを100Åの厚さで蒸着し、さらに、保護層として銀を2000Åの厚さで蒸着した。これにより、ボトムエミッション構造の有機EL素子を作製した。
【0143】
(評価3)
ITO電極(第1電極)側を正極、金属電極(第2電極)側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印加し、発光部の状態を観察した結果、良好な発光状態が得られている事を確認した。
【0144】
(作製例1−2)
作製例1−1において、反応性ガスとしてCF4ガスを用い大気圧プラズマ装置により撥液処理を実施した以外は全て同一のプロセスにて素子を作製した。
【0145】
(評価1)
プラズマ処理後、自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)によりアニソール(表面張力35dyn/cm)で接触角測定を行った結果、有機絶縁層上で52.4°、親液性下地層上で10°以下であった。これにより、絶縁層は撥液層であり、親液性下地層は親液性表面であることが確認された。
(評価2)
有機発光層形成後、光学顕微鏡によりITO開口部周辺の観察を行い有機発光層のパターン形成の状態を観察した結果、有機発光層は親液性下地層上に良好に形成されていることを確認した。
(評価3)
ITO電極側を正極、金属電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印加し、発光部の状態を観察した結果、良好な発光状態が得られている事を確認した。
【0146】
(作製例1−3)
透明ガラス基板上に第1電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)をパターニングした。
次に、スパッタリング法により膜厚2000Åの酸化シリコン層を形成した。
次に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製:OFPR−800)をスピンコーティング法により全面に塗布、乾燥させ、膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。
次に、ITO端部を覆うように設計されたフォトマスクを用いてアライメント露光機により紫外線照射を行った後、レジスト現像液(東京応化社製:NMD−3)により露光部のフォトレジストを除去した。
【0147】
次に、真空ドライエッチング装置によりCF4と酸素を混合したガスを用いて酸化シリコンをエッチングした。その後、フォトレジスト層を剥離して無機絶縁層を形成した。
次に、撥液処理として、フルオロアルキルシラン(トーケムプロダクツ(株)製:MF−160E)をスピンコート法により塗布し乾燥させて撥液層を形成した。
次に、少なくともITO露出部(開口部)が開口部となるように設計されたメタルマスクを介し、真空蒸着機により親液性下地層として酸化モリブデンを抵抗加熱法によりパターン作製した。
【0148】
(評価1)
絶縁層上および親液性下地層上で自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)によりアニソール(表面張力35dyn/cm)で接触角測定を行った結果、絶縁層上で60.5°、親液性下地層上で10°以下であった。これにより、絶縁層は撥液層であり、親液性下地層は親液性表面であることが確認された。
【0149】
Aldrich社製、重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチル-ヘキシロキシ)-パラ-フェニレンビニレン)を薄膜形成材料として用いて液状材料を作製した。溶媒としてトルエンとアニソールとを混合した混合溶媒を用い、作製した液状材料におけるPPVの濃度を1重量%とした。ノズルコート法により親液性下地層である酸化モリブデン層上にインキを塗布、乾燥させて膜厚1000Åの有機発光層を作製した。
【0150】
(評価2)
光学顕微鏡によりITO開口部周辺の観察を行い有機発光層のパターン形成の状態を観察した結果、有機発光層が親液性下地層上に良好に形成されていることを確認した。
【0151】
次に、第2電極としてカルシウムを100Åの厚さで蒸着し、さらに、保護層として銀を2000Åの厚さで蒸着した。
【0152】
(評価3)
ITO電極側を正極、金属電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印加し、発光部の状態を観察した結果、良好な発光状態が得られている事を確認した。
【0153】
(作製例1−4)
作製例1−4では、トップエミッション構造の有機EL素子を作製した。
まず、透明ガラス基板上に第1電極としてCr,インジウムスズ酸化物(ITO)の順に形成した積層体をパターニングした基板を準備した。
次に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製:OFPR−800)をスピンコーティング法により全面に塗布、乾燥させ膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。
次に、ITO端部を覆うように設計されたフォトマスクを用いてアライメント露光機により紫外線照射を行った後、レジスト現像液(東京応化社製:NMD−3)により露光部のフォトレジストを除去した。次に、ホットプレート上で230℃で1時間加熱処理を行いレジストを完全に加熱硬化させ有機絶縁層とした。
【0154】
次に、CF4ガスを用いた真空プラズマ装置により絶縁層表面に撥液処理を実施した。
次に、少なくともITO露出部(開口部)が開口部となるように設計されたメタルマスクを介し、真空蒸着機により親液性下地層として酸化モリブデンを抵抗加熱法によりパターン作製した。
【0155】
(評価1)
絶縁層上および親液性下地層上で自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)によりアニソール(表面張力35dyn/cm)で接触角測定を行った結果、有機絶縁層上で48.7°、親液性下地層上で10°以下であった。これにより、絶縁層は撥液層であり、親液性下地層は親液性表面であることが確認された。
【0156】
次に、Aldrich社製、重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチル-ヘキシロキシ)-パラ-フェニレンビニレン)を薄膜形成材料として用いて液状材料を作製した。溶媒としてトルエンとアニソールとを混合した混合溶媒を用い、作製した液状材料におけるPPVの濃度を1重量%とした。ノズルコート法により親液性下地層である酸化モリブデン層上にインキ(溶液)を塗布し、これを乾燥させて膜厚1000Åの有機エレクトロルミネッセンス層(有機発光層)を作製した。
【0157】
(評価2)
光学顕微鏡によりITO開口部周辺の観察を行い有機発光層のパターン形成の状態を観察し、有機発光層が親液性下地層上に良好に形成されていることを確認した。
【0158】
次に、第2電極としてカルシウムを100Å、引き続きアルミニウムを50Åの厚さで蒸着し、さらに、インジウムスズ酸化物(ITO)をターゲットとした対向ターゲット式成膜装置により透明電極層を2000Åの厚さで蒸着した。これにより、トップエミッション構造の有機EL素子を作製した。
【0159】
(評価3)
Cr,ITOの積層体側の電極を正極、ITOのみの電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印加し、発光部の状態を観察した結果、ガラス基板側とは反対の方向に良好な発光状態が得られている事を確認した。
【0160】
(比較例1)
作製例1−1において、撥液処理を実施しない事以外は全て同一のプロセスにて素子を作製した。
【0161】
(評価1)
絶縁層上および親液性下地層上で自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)によりアニソール(表面張力35dyn/cm)で接触角測定を行った結果、有機絶縁層上で12°、親液性下地層上で10°以下であった。これにより、絶縁層及び親液性下地層は共に親液性表面であることが確認された。
(評価2)
発光層を形成後、光学顕微鏡によりITO開口部周辺の観察を行い有機発光層のパターン形成の状態を観察した結果、有機発光層が親液性下地層の幅よりも大幅に広がっていることを確認した。
(評価3)
ITO電極側を正極、金属電極側を負極に接続し、ソースメーターにより直流電流を印加したところ電極間が短絡し発光を確認できなかった。
【0162】
【表1】

【0163】
(作製例2)
以下の作製例2では、略平行に配置した隔壁を設け、隔壁間の凹溝(画素領域に相当)に、該凹溝に対応する凸部を有する凸版印刷版を用いて、有機発光インキを供給し、有機発光層を形成することによる製造上の効果を確認した。
【0164】
(基板の準備および陽極の形成)
まず、200mm(縦)×200mm(横)×0.7mm(厚み)の透明ガラス板上にITO薄膜を形成し、さらにパターニングを行ってストライプ状の陽極を形成した。陽極の繰り返し間隔(ピッチ)は、80μmで、陽極の幅(ライン幅)70μmに対して陽極間の間隔(スペース幅)は10μmであった(ライン/スペース=70μm/10μm)。陽極の厚みは、150nmであった。基板の厚み方向の一方から見て画素の形成される画素領域は、一方向に延びるITO薄膜上において、前記一方向に所定の間隔をあけて島状に設定される。
【0165】
(電気絶縁層の形成)
次に、プラズマCVD法によりSiOからなる絶縁膜を形成し、次いでフォトリソグラフィーとエッチングによって、幅50μm×長さ150μmの矩形形状の複数の画素領域を除去し、電気絶縁層を形成した。
【0166】
(隔壁の形成)
次に、上記基板上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化工業(株)製、商品名「OFPR−800」)を用いて、慣用のフォトリソグラフィーにより、図1−2〜図1−7、図2−2に示す形状の隔壁15を形成した。形成した隔壁15の幅寸法は30μm、高さ寸法は2μmとした。また、隔壁15同士の隣接間寸法は75μmとした。
【0167】
次に、CF4ガスを用いた真空プラズマ装置(サムコインターナショナル社製、商品名「RIE−200L」)を用いて、隔壁15に撥液化処理を行った。
【0168】
(凸版印刷版)
上記隔壁に対応する凸部を有する凸版印刷版として図3に示す構造のフレキソ印刷版(材質:ポリエステル系樹脂)を準備した。この凸版印刷版23の凸部22の高さ寸法は100μm、幅寸法は30μm、ピッチ幅は75μmで、版胴の軸心方向Yに直交する周方向にストライプ状に形成した。
【0169】
(正孔注入層の形成)
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(Bayer社製、商品名「BaytronP AI4083」)の懸濁液を調製し、この懸濁液を0.2μmメンブランフィルターで濾過した。この濾過液を上記凸版印刷版を用いて、上記画素領域に塗布した。続いて、この塗布層を200℃×20分間、加熱処理して、80nm厚の正孔注入層を形成した。
【0170】
(発光層の形成)
有機発光材料として、赤、緑、青の3色の高分子発光材料(サメイション社製、商品名「RP158(赤)」、「GP1300(緑)」、「BP361(青)」)をそれぞれ溶媒(アニソール/シクロへキシルベンゼン=重量比1/1の混合溶媒)に溶解させた3色の有機発光インキ(濃度:1重量%)を準備した。
【0171】
上記構造のストライプ状の凸部を有するフレキソ印刷版を用いて、赤色の有機発光インキを基板上の対応する画素領域に印刷し、乾燥させ、赤色の有機発光層を形成した。同様にして、緑色の有機発光インキおよび青色の有機発光インキを順次印刷し、乾燥させて、緑色の有機発光層および青色の有機発光層を形成した。各色の有機発光層の厚みは、100nmのほぼ同一寸法であった。
【0172】
なお、この時の印刷には、印刷機として、日本写真印刷(株)製の「オングストローマーSDR−0023(商品名)、版ドラム直径:80mm」を用いた。印刷速度は50mm/秒とした。版と基板とが接触する状態を印刷押し込み量0μmとして、その位置から版を50μm押し付けた状態(印刷押し込み量=50μm)で印刷した。
【0173】
各画素領域内に形成された有機発光層の形状を光学顕微鏡(ニコン社製、商品名「オプチフォト88」、対物レンズ倍率:50倍)にて観察したところ、各有機発光層は画素領域からずれることなく画素領域に成膜していることが確認された。
【0174】
(陰極の形成)
次に、上記有機発光層の上に、陰極として、カルシウムを100Åの厚さで蒸着し、さらに、酸化保護層としてアルミニウムを2000Åの厚さで蒸着した。これにより、ボトムエミッション構造の有機EL素子を作製した。
【0175】
上述のようにして得た有機発光素子を発光させたところ、多色発光に滲みは見られず、鮮明な多色表示が得られた。
【0176】
(比較例2)
格子状に形成された隔壁を設けた基板と、前記隔壁により画成された画素領域に対応する凸部を有する凸版印刷版を用いて、上記作製例2と同様の印刷機および印刷条件にて、有機発光インキを印刷し、乾燥して有機発光層を形成した。それ以外は、上記作製例2と同様にして有機EL素子を製造した。形成した隔壁の寸法は、高さ2μm、幅50μm、長さ150μmであった。
【0177】
製造した有機EL素子を発光させたところ、発色に滲み(混色)があり、表示ムラが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1−1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の基板準備工程を示す断面構成図である。
【図1−2】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の隔壁配設工程を示す断面構成図である。
【図1−3】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の撥液層形成工程を示す断面構成図である。
【図1−4】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の親液性下地層を形成する親液性下地層形成工程を示す断面構成図である。
【図1−5】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の有機発光インキを塗布する工程を示す断面構成図である。
【図1−6】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法の発光層形成工程を示す断面構成図である。
【図1−7】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図2−1】図1−1の基板の平面図である。
【図2−2】図1−2に係る隔壁の形成された基板の平面図である。
【図3】本発明に用いる凸版印刷版の構造および該凸版印刷版を用いた有機発光層の印刷時の基板との位置関係を示した斜視図である。
【図4−1】従来技術に係る有機発光層を形成前の基板を示す断面図である。
【図4−2】従来技術に係る有機発光層を形成する工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0179】
10 有機EL装置
11 基板
12 陽極
13 絶縁層
13a 露出面
14 画素領域
15 隔壁
15a 対向面
16 凹状の溝部
17 発光層形成領域
18 撥液層
19 親液性下地層
20 マスク
20a 開口部
21 有機発光インキ
22 凸部
23 凸版印刷版
24 有機発光層
25 陰極
26 発光機能部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、該第1電極と対をなす第2電極、および前記第1電極と前記第2電極との間に配置される有機発光層をそれぞれ含んで構成される複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、該複数の有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される基板とを含む有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
第1電極が形成された基板を用意する準備工程と、
前記第1電極が形成された基板上に、複数本の隔壁を略平行に配設する隔壁配設工程と、
前記基板の厚み方向のうちの、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が搭載される側から、前記隔壁が設けられた基板表面を撥液処理する撥液処理工程と、
撥液処理された隔壁よりも、有機発光層を形成するための有機発光材料を含むインキに対して高い親液性を有する親液性下地層を前記第1電極上に形成する親液性下地層形成工程と、
前記親液性下地層形成工程の後、前記隔壁で区画された領域内に前記有機発光材料を含むインキを供給して有機発光層を形成する有機発光層形成工程と、
前記第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記有機発光層形成工程では、前記複数本の隔壁の配置に対応して略平行に配置された複数本の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記隔壁の長手方向に沿って前記有機発光材料を含むインキを前記複数本の隔壁間に供給する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記親液性下地層形成工程では、前記親液性下地層を乾式方法により形成する、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
前記親液性下地層が、金属の酸化物又は金属の複合酸化物からなる層である、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記親液性下地層を形成する金属の酸化物が、酸化モリブデン又は酸化タングステンである、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記撥液処理が、フッ素系ガスを使用したプラズマ処理である、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
画素の形成される複数の画素領域を規定する絶縁層を前記第1電極が形成された基板上に設ける、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
前記凸版印刷版は、円筒状または円柱状であり、周方向に前記複数本の凸部の長手方向が重なるように前記複数本の凸部が配列されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図1−7】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公開番号】特開2010−160946(P2010−160946A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1875(P2009−1875)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】