説明

有機エレクトロルミネッセント素子および有機エレクトロルミネッセント素子用光触媒含有塗工液

【課題】発光特性が良好な有機EL素子、およびその製造に用いられる光触媒含有塗工液を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材上に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と、前記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層とを有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、 前記基材と前記第2電極層との間のいずれかの位置に、光触媒、特性付与剤、および前記光触媒の活性および、発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により前記特性付与剤の特性が変化する光触媒含有層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子、およびその製造に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子用光触媒含有塗工液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセント(以下、有機ELともいう。)素子の製造方法において、有機EL層や電極層等の形成は、フォトリソグラフィー法やマスク蒸着法等により行われていた。しかしながら、フォトリソグラフィー法では、工程が複雑でありコストがかかるという問題があり、またマスク蒸着法では、高価格の真空装置が必要となり歩留まりやコスト面で問題があった。
【0003】
そこで、最近では、有機EL層や電極層のパターニング方法として光触媒を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により表面の特性が変化する光触媒含有層を形成し、この光触媒含有層表面に、エネルギーをパターン状に照射することによって、光触媒含有層表面に特性の異なるパターンを形成する。その後、この光触媒含有層上に形成された特性変化パターンの特性の差を利用して、有機EL層や電極層等をパターニングする方法である。この方法によれば、上記特性の差を利用して高精細に有機EL層や電極層等を形成することができ、パターニングに要する手間を大幅に省略することが可能である。しかしながら、上記光触媒の活性が低い場合には、上記特性変化パターンの形成に時間がかかり、エネルギーの回り込みが生じてしまうこと等から、形成されるパターンが太ってしまい、高精細に有機EL層や電極層等を形成することが難しい、という問題があった。またさらに、上記光触媒含有層の種類によっては、有機EL素子の発光特性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−223270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、高精細なパターン状に有機EL層等の部材が形成されており、かつ有機EL層の発光特性が良好な有機EL素子、およびその製造に用いられる有機EL素子用光触媒含有塗工液の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材と、上記基材上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と、上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層とを有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、上記基材と上記第2電極層との間のいずれかの位置に、光触媒、特性付与剤、および上記光触媒の活性および上記有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により上記特性付与剤の特性が変化する光触媒含有層が形成されており、上記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、および包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子を提供する。
【0007】
本発明によれば、上記光触媒含有層が形成されていることから、この光触媒含有層の特性を利用して、例えば有機EL層や、各電極層が形成されたもの等とすることができる。また上記光触媒含有層中に、発光特性向上物質が含有されていることから、上記有機EL層の発光特性を良好なものとすることができ、発光効率の高い、高品質な有機EL素子とすることができる。またさらに、上記光触媒含有層中には、発光特性向上物質が含有されていることから、光触媒の感度が高いものとすることができ、エネルギーの回りこみ等の影響を受けることなく、高精細に特性の変化したパターンが形成された光触媒含有層とすることができる。したがって、本発明によれば、上記有機EL層や第2電極層等が、光触媒含有層の上に高精細なパターン状に形成されているものとすることができるという利点も有する。
【0008】
また本発明は、光触媒、特性付与剤、および上記光触媒の活性および有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、上記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子形成用光触媒含有塗工液を提供する。
【0009】
本発明によれば、有機EL素子形成用光触媒含有塗工液が上記のような発光特性向上物質を含有していることから、有機EL素子形成用光触媒含有塗工液を用いて光触媒含有層を形成した際に、光触媒の活性が高いものとすることができる。また、上記光触媒含有層の特性を利用して有機EL素子を製造した場合、有機EL層の発光特性を良好なものとすることができるという利点も有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記光触媒含有層の特性を利用して、例えば有機EL層や、各電極層等が高精細なパターン状に形成されたものとすることができる。また本発明によれば、上記有機EL層の発光特性を良好なものとすることができるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、各種ディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子、およびその製造に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子用光触媒含有塗工液に関するものである。
以下、それぞれについて説明する。
【0012】
A.有機EL素子用光触媒含有塗工液
まず、本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液について説明する。本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液は、光触媒、特性付与剤、および上記光触媒の活性および有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、上記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液は、有機EL素子を形成する際に用いられるものであって、通常、有機EL素子の有機EL層や各電極層等のパターニングに用いられるものである。
【0014】
本発明によれば、有機EL素子用光触媒含有塗工液中に、光触媒および特性付与剤が含有されていることから、この有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層が、エネルギー照射により、特性が変化する層とすることができる。また本発明においては、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液中に、上記光触媒とともに上記発光特性向上物質が含有されていることから、この発光特性向上物質の作用によって、光触媒の感度を向上させることができる。これにより、有機EL素子用光触媒含有塗工液が塗布されて形成された光触媒含有層の感度を高いものとすることができ、この光触媒含有層上に、短時間で効率よく特性の変化したパターンを形成することが可能となる。
【0015】
またさらに、本発明においては、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液中に、発光特性向上物質が含有されている。そのため、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて光触媒含有層を形成した場合、有機EL素子の有機EL層の発光特性を良好なものとすることができる、という利点も有している。以下、本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液に含有される各材料について、それぞれ詳しく説明する。
【0016】
1.発光特性向上物質
まず、本発明に用いられる発光特性向上物質について説明する。本発明に用いられる発光特性向上物質は、後述する光触媒の活性を向上させるものであり、かつ本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層が有機EL素子に用いられた際、有機EL層の発光特性を向上させる機能を有するものである。なお、有機EL層の発光特性を向上させるとは、有機EL素子に電圧を印加した際の輝度が向上することや、同一電流値における輝度が向上すること、発光開始電圧が低くなることをいうこととする。
【0017】
本発明においては、上記発光特性物質として、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、または包接化合物類等の有機酸の銀塩、または塩素酸、過塩素酸、またはフッ素等の無機酸の銀塩が用いられる。
【0018】
上記カルボン酸類としては、化学式RCOOHのRが、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基、水素基であるもの等も挙げられる。具体的には、蟻酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸、リンゴ酸、クエン酸、ソルビン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、ポリアクリル酸、安息香酸等が挙げられる。
【0019】
また上記スルホン酸類としては、化学式RSOHのRが、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基であるもの等も挙げられる。具体的には、ベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等が挙げられる。また、スルホン化ポリスチレン類やスルホン化ポリエチレン類、スルホン化ポリカーボネート類等も挙げられる。
【0020】
上記スルフィン酸類としては、化学式RSOHのRが、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基であるもの等が挙げられる。具体的には、トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸、メチルスルフィン酸、エチルスルフィン酸等が挙げられる。
【0021】
上記フェノール類としては、化学式R(C(5-n))OHのRが、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基であるもの等も挙げられる。またnは0〜5までの整数である。上記フェノール類として具体的には、フェノールやクレゾール等が挙げられる。
【0022】
上記エノール類としては、化学式RCH=C(OH)R´のRまたはR´が、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基、水素基であるもの等も挙げられる。また上記エノールはジケトン形となっているものであってもよく、具体的にはエチルフェニルジケトンや、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0023】
また、チオフェノール類としては、化学式R(C(5-n))SHのRが、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRが、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基であるもの等も挙げられる。またnは0〜5までの整数である。具体的には、チオフェノール、ジメチルチオフェノール等が挙げられる。
【0024】
またイミド類としては、化学式RCONHCOR´のRまたはR´が炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRまたはR´が、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基、水素基であるもの等も挙げられる。具体的には、フタルイミドやマレイミドが挙げられる。
【0025】
またオキシム類としては、化学式RCH=NOHのRが炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRまたはR´が、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基、水素基であるもの等も挙げられる。具体的には、ベンゾフェノンオキシムやホルムアルデヒドオキシム等が上げられる。
【0026】
また、上記第一級または第二級ニトロ化合物としては、化学式RCHNO、またはRCHNOの、Rが炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基であるもの、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルケニル基であるもの、炭素数5〜20のシクロアルキル基や炭素数6〜20のアリール基であるもの、さらに炭素数7〜20のアルカリール基、アラルキル基であるものとすることができる。またRまたはR´が、ピリジル基、キノリル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基などの複素環式基、またはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、エポキシ基、水素基であるもの等も挙げられる。具体的には、ニトロプロパン、ニトロセルロースが挙げられる。
【0027】
またさらに、包接化合物として具体的には、カリックスアレン類、チアカリックスアレン類、クラウンエーテル類、カルコン類等が挙げられる。
【0028】
本発明においては、上記の中でもカルボン酸類、スルホン酸類、エノール類、チオフェノール類、フッ素、塩素酸、または過塩素酸の銀塩を用いることが好ましく、特に酢酸銀、カンファースルホン酸銀、銀アセチルアセトナト錯体、銀メルカプチド、フッ化銀、塩素酸銀、または過塩素酸銀を用いることが好ましい。これにより、光触媒の感度、および有機EL層の発光特性を大きく向上させることが可能となるからである。
【0029】
上記発光性向上物質は、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液の固形分中に、0.0001質量%〜70質量%の範囲内、中でも0.001質量%〜50質量%の範囲内、特に0.01質量%〜10質量%の範囲内含有されていることが好ましい。これにより、光触媒含有層が有機EL素子に用いられた際に、有機EL層の発光特性を向上させることが可能となるからである。上記量は、X線光電子分光分析装置(XPS)による測定により算出することができる。
【0030】
また、本発明において上記発光特性物質は、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液中に含有される光触媒の質量を1とした場合に、0.0001〜0.5の範囲内、中でも0.001〜0.2の範囲内、特に0.01〜0.1の範囲内含有されていることが好ましい。これにより、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層の光触媒活性が高いものとすることができるからである。なお、上記比率についても、上記X線光電子分光分析装置(XPS)による測定により算出することができる。
【0031】
2.光触媒
次に、本発明に用いられる光触媒について説明する。本発明に用いられる光触媒は、有機EL素子形成用光触媒含有塗工液を用いて光触媒含有層が形成された際に、エネルギー照射により励起して、後述する特性付与剤を分解または変性等することが可能なものであれば、特に限定されるものではない。後述するような二酸化チタンに代表される光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、エネルギーの照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられており、本発明においては、このキャリアが後述する特性付与剤に作用を及ぼすものであると考えられる。
【0032】
本発明に用いられる光触媒としては、半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、および酸化鉄(Fe)を挙げることができる。また半導体以外としては、金属錯体や銀なども用いることができる。本発明においては、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
本発明においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0034】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0035】
また、上記酸化チタンとして可視光応答型のものを用いてもよい。可視光応答型の酸化チタンとは、可視光のエネルギーによっても励起されるものであり、このような可視光応答化の方法としては、酸化チタンを窒化処理する方法等が挙げられる。
【0036】
酸化チタン(TiO)は、窒化処理をすることにより、酸化チタン(TiO)のバンドギャップの内側に新しいエネルギー準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、通常酸化チタン(TiO)の励起波長は380nmであるが、その励起波長より長波長の可視光によっても、励起されることが可能となるのである。これにより、種々の光源によるエネルギー照射の可視光領域の波長も酸化チタン(TiO)の励起に寄与させることが可能となることから、さらに酸化チタンを高感度化させることが可能となるのである。
【0037】
ここで、本発明でいう酸化チタンの窒化処理とは、酸化チタン(TiO)の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子での置換する処理や、酸化チタン(TiO)結晶の格子間に窒素原子をドーピングする処理、または酸化チタン(TiO)結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配する処理等をいう。
【0038】
酸化チタン(TiO)の窒化処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性酸化チタンの微粒子をアンモニア雰囲気下で700℃の熱処理により、窒素をドーピングし、この窒素のドーピングされた微粒子と、無機バインダや溶媒等を用いて、分散液とする方法等が挙げられる。
【0039】
なお、上述したような光触媒は、本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液における固形分中に、固形分の全質量を1とした場合、0.1〜0.95の範囲内、中でも0.3〜0.8の範囲内含有されることが好ましい。これにより、有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層にエネルギーが照射された場合、後述する特性付与剤を分解または変性等することができ、光触媒含有層の表面の特性を変化させることが可能となるからである。なお、上述した量についても、上記X線光電子分光分析装置(XPS)による測定により算出することができる。
【0040】
3.特性付与剤
次に、本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液に用いられる特性付与剤について説明する。本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液に用いられる特性付与剤とは、有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて光触媒含有層が形成された際に、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、例えば分解または変性等されて、光触媒含有層表面の特性を変化させることが可能なものであれば、特にその種類等は限定されるものではない。例えば、撥液性の官能基を有する材料であり、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって表面の官能基が分解や置換等されることによって、表面の濡れ性が変化するものであってもよく、また例えばエネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、分解や変性等されて、有機EL層や電極層等を形成する材料との接着性が変化するもの等であってもよい。
【0041】
このような特性付与剤は、有機EL素子用光触媒含有塗工液の固形分中に、通常0.001質量%〜60質量%、中でも0.01質量%〜50質量%程度含有されることが好ましい。これにより、上記有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層の特性が変化するものとすることができるからである。
【0042】
また本発明においては、上記特性付与剤が有機EL素子形成用光触媒含有塗工液中でバインダとしての機能を果たすものであることが好ましい。これにより、有機EL素子用光触媒含有塗工液に別途バインダを含有させる必要のないものとすることができるからである。
【0043】
また本発明に用いられる上記特性付与剤としては、特に撥液性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される撥液性付与剤であることが好ましい。このような撥液性付与剤を用いることにより、有機EL素子用光触媒含有塗工液が塗布されて形成された光触媒含有層のエネルギーが未照射の領域を撥液性領域、エネルギーが照射された領域を親液性領域とすることができる。これにより、エネルギーが照射された領域とエネルギーが未照射の領域との濡れ性の差を利用して、容易に有機EL素子の有機EL層や各電極層等を形成することが可能となるからである。
【0044】
ここで、上記光触媒含有層が撥液性を有するとは、機能性部を形成するための機能性部形成用塗工液との濡れ性が低いことをいう。具体的には、上記光触媒含有層が、エネルギーが未照射の領域において、表面張力が72mN/mである液体との接触角が70°以上、中でも表面張力が72mN/mである液体との接触角が80°以上、特に表面張力が72mN/mである液体との接触角が90°以上、となるようなものであることが好ましい。エネルギーが未照射の領域において液体との接触角が小さい場合には、撥液性が十分でなく、上記機能性部形成用塗工液が残存する可能性が生じるからである。
【0045】
一方、上記光触媒含有層が親液性を有するとは、光触媒含有層と上記機能性部形成用塗工液との濡れ性が良好なことをいう。具体的には、上記光触媒含有層が、エネルギーが照射された領域において表面張力が72mN/mである液体との接触角が20°以下、中でも表面張力が72mN/mである液体との接触角が15°以下、特に表面張力が72mN/mである液体との接触角が10°以下となるようなものであることが好ましい。エネルギー照射された部分において液体との接触角が高いと、この部分での機能性部形成用塗工液の広がりが劣る可能性があり、機能性部の欠け等の問題が生じる可能性があるからである。
【0046】
なお、ここでいう液体との接触角は、有機EL素子用光触媒含有塗工液を用いて形成された光触媒含有層と上記液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得られるものである。
【0047】
なお、上記撥液性付与剤としては、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性等されて、光触媒含有層表面の液体との接触角を低下させることが可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えばバインダとしての機能を有しているものであってもよく、またバインダとしての機能を有していないものであってもよい。
【0048】
本発明に用いられる撥液性付与剤のうち、バインダとしての機能を有しないものとしては、例えば撥液性の官能基を有しており、有機EL素子用光触媒含有塗工液を塗布した際に、表面に配向して撥液性を発現する界面活性剤等が挙げられ、このような界面活性剤としては、例えば特開2003−195029号公報に記載されているもの等を使用することができる。
【0049】
またバインダとしても用いられる撥液性付与剤としては、光触媒の作用により劣化、分解しにくい主鎖を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される有機基を有するものであれば、特に限定されるものではないが、特にオルガノポリシロキサンが用いられることが好ましい。有機EL素子用光触媒含有塗工液中に、オルガノポリシロキサンが含有されることにより、容易に濡れ性が変化する光触媒含有層を形成することが可能となるからである。
【0050】
また特にフルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合には、エネルギー照射前の光触媒含有層を、撥液性の特に高いものとすることができることから、高い撥液性が要求される場合等には、これらのフルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。このようなオルガノポリシロキサンとして、具体的には、フルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られた、例えば特開2003−195029号公報に記載されているもの等を使用することができる。
【0051】
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物を混合してもよい。
【0052】
4.有機EL素子用光触媒含有塗工液
次に、本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液について説明する。本発明の有機EL素子用光触媒含有塗工液は、上述した発光特性向上物質、光触媒、および特性付与剤を含有するものであれば特に限定されるものではなく、必要に応じて例えば溶剤や、各種添加剤等を含有するものであってもよい。
【0053】
B.有機EL素子
次に、本発明の有機EL素子について説明する。本発明の有機EL素子は、基材と、上記基材上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と、上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層とを有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、上記基材と上記第2電極層との間のいずれかの位置に、光触媒、特性付与剤、および上記光触媒の活性および上記有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により上記特性付与剤の特性が変化する光触媒含有層が形成されており、上記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、および包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とするものである。
【0054】
本発明の有機EL素子は、例えば図1に示すように、基材1と、その基材1上に形成された第1電極層2と、第1電極層2上に形成された有機EL層3と、上記有機EL層3上に形成された第2電極層4とを有するものであり、上記基材1と第2電極層4との間のいずれかの位置(図1においては第1電極層2と有機EL層3との間)に光触媒含有層5が形成されているものである。なお、この場合、上記有機EL層が、上記光触媒含有層の特性が変化したパターンを利用して高精細なパターン状に形成されたものとすることができる。なお本発明の有機EL素子は、例えば図1に示すように、上記第1電極層2間に、絶縁層10等が形成されているものであってもよい。
【0055】
また本発明の有機EL素子は、例えば図2に示すように、基材1と、その基材1上に形成された第1電極層2と、第1電極層2上に形成された有機EL層3と、上記有機EL層3上に形成された第2電極層4とを有するものであり上記有機EL層3と、上記第2電極層4との間に光触媒含有層5が形成されているような構成であってもよい。この場合、上記第2電極層4が、上記光触媒含有層5の特性が変化したパターンを利用して高精細なパターン状に形成されたもの等とすることができる。
【0056】
本発明においては、有機EL素子内に、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化する光触媒含有層が形成されていることから、この光触媒含有層の表面の特性の差を利用して、上記有機EL層や第2電極層等が形成されたものとすることができる。また本発明においては、上記光触媒含有層中に、上記発光特性向上物質が含有されていることから、有機EL層の発光特性が良好な、高品質な有機EL素子とすることができる。
【0057】
またさらに本発明においては、上記光触媒含有層中に発光特性向上物質が含有されていることから、光触媒の感度を高いものとすることができ、光触媒含有層の特性を短時間で効率よく変化させることが可能である。そのため、光触媒含有層上に特性変化パターンが形成される際、エネルギーが回り込むこと等が少なく、上記光触媒含有層は、高精細なパターン状に特性変化パターンが形成されたものとすることができる。したがって本発明によれば、この光触媒含有層上に高精細に形成された特性変化パターンを利用して、上記有機EL層や上記第2電極層等が高精細なパターン状に形成されたものとすることができるという利点も有している。
以下、本発明の有機EL素子について、各構成ごとに詳しく説明する。
【0058】
1.光触媒含有層
まず、本発明に用いられる光触媒含有層について説明する。本発明に用いられる光触媒含有層は、後述する基材と上記第2電極層との間のいずれかの位置に形成されているものであって、光触媒、特性付与剤、および上記光触媒の活性および上記有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により上記特性付与剤の特性が変化するものである。また、上記発光特性向上物質としては、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、および包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩が用いられる。
【0059】
本発明において上記光触媒含有層が形成される位置としては、基材と第2電極層との間であれば特に限定されるものではなく、光触媒含有層を用いてパターニングされる層の種類により適宜選択される。例えば上記有機EL層が、光触媒含有層の特性変化パターンを利用してパターン状に形成される場合には、上記光触媒含有層は、第1電極層と有機EL層との間に形成されることとなる。また例えば上記第2電極層が、光触媒含有層の特性変化パターンを利用してパターン状に形成される場合には、上記光触媒含有層は、有機EL層と第2電極層との間に形成されることとなる。またさらに、上記有機EL層および上記第2電極層がそれぞれ、上記特性変化パターンを利用して形成される場合には、上記第1電極層と有機EL層との間、および有機EL層と上記第2電極層にそれぞれ光触媒含有層が形成されることとなる。
【0060】
また上記光触媒含有層は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により特性が変化するものであるが、この特性の変化の種類は特に限定されるものではなく、例えばエネルギー照射に伴う光触媒の作用により、表面の濡れ性が変化するものであってもよく、またエネルギー照射に伴う光触媒の作用により有機EL層や第2電極層等を形成する材料との接着性が変化するもの等であってもよい。本発明においては、特にエネルギー照射に伴う光触媒の作用により表面の液体との接触角が低下する層であることが好ましい。これにより、光触媒含有層表面の濡れ性の差を利用して、高精細なパターン状に有機EL層や第2電極層等を形成することが可能となるからである。なお、このような特性変化の種類は、光触媒含有層中に含有される特性付与剤の種類により決定されることとなる。なお、上記光触媒含有層に含有される発光特性物質、光触媒、および特性付与剤については、上述した「A.有機EL素子用光触媒含有塗工液」で説明したものと同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0061】
また、上記光触媒含有層の形成は、上述した「A.有機EL素子用光触媒含有塗工液」を用いて、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。
【0062】
また、上記光触媒含有層の膜厚としては、有機EL素子の種類等に応じて適宜選択されることとなるが、通常0.5nm〜500nm程度、中でも30nm〜300nm程度、特に40nm〜200nm程度とされることが好ましい。これにより、上記光触媒含有層が上述したような特性を発現することが可能となるからである。
【0063】
また、上記光触媒含有層に特性が変化した特性変化パターンを形成する方法としては、例えば図3(a)に示すように、上記光触媒含有層5に例えばフォトマスク6等を用いてエネルギー7を照射して、エネルギー照射された領域の特性付与剤を分解または変性させることにより、図2(b)に示すような、特性の変化した特性変化パターン8を形成する方法等とすることができる。
【0064】
ここで、本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、光触媒含有層表面の特性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0065】
通常このようなエネルギー照射に用いられる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは150nm〜380nmの範囲から設定される。これは、上述したように光触媒含有層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0066】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。また、上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0067】
なお、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、光触媒含有層中の光触媒の作用により光触媒含有層表面の特性が変化するのに必要な照射量とする。また、上記フォトマスクを介してエネルギー照射を行う場合、光触媒含有層およびエネルギー照射源の間に配置されるフォトマスクと、上記光触媒含有層との温度差が±3℃になるように温度制御を行うことが好ましい。これにより、より位置ずれのない露光が可能となり、発光層や電極層等の部材を形成する際に正確に塗工液の濡れ広がりを制御することが可能となる点で好ましい。具体的には15℃〜80℃の範囲内で制御することが好ましい。
【0068】
本発明におけるエネルギー照射方向は、後述する基材等が透明である場合は、基材側および光触媒含有層側のいずれの方向からであってもよい。一方、基材や、基材と光触媒含有層との間に形成されるいずれかの層が不透明な場合は、光触媒含有層側からエネルギー照射を行う必要がある。
【0069】
2.有機EL層
本発明に用いられる有機EL層は、少なくとも発光層を含む1層もしくは複数層の有機層から構成されるものである。すなわち、有機EL層とは、少なくとも発光層を含む層であり、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、塗布によるウェットプロセスで有機EL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層で形成される場合が多いが、有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0070】
発光層以外に有機EL層内に形成される有機層としては、正孔注入層や電子注入層といった電荷注入層を挙げることができる。さらに、その他の有機層としては、発光層に正孔を輸送する正孔輸送層、発光層に電子を輸送する電子輸送層といった電荷輸送層を挙げることができるが、通常これらは上記電荷注入層に電荷輸送の機能を付与することにより、電荷注入層と一体化される場合が多い。その他、有機EL層内に形成される有機層としては、キャリアブロック層のような正孔あるいは電子の突き抜けを防止し、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
【0071】
なお本発明において、上記光触媒含有層が正孔を輸送する機能、および正孔を注入する機能を有することから正孔注入層もしくは正孔輸送層、または正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層からなる正孔注入輸送層としての役割を兼ねることもできる。
以下、このような有機EL層の各構成について説明する。
【0072】
a.発光層
本発明における有機EL層の必須構成である発光層としては、例えば色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料等の発光材料を用いることができる。
【0073】
色素系発光材料としては、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0074】
また、金属錯体系発光材料としては、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロビウム錯体等、中心金属にAl、Zn、Be、Ir等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
【0075】
さらに、高分子系発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0076】
上記発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的でドーピング剤を添加してもよい。このようなドーピング剤としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。
【0077】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜500nm程度とすることができる。
【0078】
本発明においては、上述したように、光触媒含有層が例えば正孔注入層、正孔輸送層、または正孔注入機能および正孔輸送機能を有する単一の層からなる正孔注入輸送層としての役割を兼ねる場合には、上記光触媒含有層と隣接するように、有機EL層として発光層がパターン状に形成されていることが好ましい。発光層が赤・緑・青の3色の発光層となるようにパターン状に形成されていることにより、カラー表示が可能であり、また上述した発光特性材料を含有する光触媒含有層と発光層とが隣接していることから、発光特性の高い有機EL素子とすることができるからである。
【0079】
このような発光層の形成方法としては、上記材料を含有する発光層形成用塗工液を、上述した特性変化パターンが形成された光触媒含有層上に塗布すること等により、形成することができる。このような発光層形成用塗工液の塗布方法としては、上述した光触媒含有層の特性変化パターン上に塗布することが可能な方法であれば特に限定されるものではないが、発光層を均一かつ高精細に形成することが可能な方法であることが好ましい。このような塗布方法としては、例えばディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0080】
b.電荷注入輸送層
本発明においては、第1電極層または第2電極層と発光層との間に電荷注入輸送層が形成されていてもよい。ここでいう電荷注入輸送層とは、上記発光層に第1電極層または第2電極層からの電荷を安定に輸送する機能を有するものであり、このような電荷注入輸送層を発光層と第1電極層または第2電極層との間に設けることにより、発光層への電荷の注入が安定化し、発光効率を高めることができる。
【0081】
このような電荷注入輸送層としては、陽極から注入された正孔を発光層内へ輸送する正孔注入輸送層、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送する電子注入輸送層とがある。以下、正孔注入輸送層および電子注入輸送層について説明する。
【0082】
(i)正孔注入輸送層
本発明に用いられる正孔注入輸送層としては、発光層に正孔を注入する正孔注入層、および正孔を輸送する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、正孔注入層および正孔輸送層が積層されたものであってもよく、または、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0083】
本発明においては、通常、第1電極層が陽極となることから、正孔注入輸送層は発光層と第1電極層との間に形成される。
【0084】
正孔注入輸送層に用いられる材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0085】
また、正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されないが、具体的には0.5nm〜1000nmの範囲内、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0086】
(ii)電子注入輸送層
本発明に用いられる電子注入輸送層としては、発光層に電子を注入する電子注入層、および電子を輸送する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、または、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0087】
本発明においては、通常、第2電極層が陰極となることから、電子注入輸送層は発光層と第2電極層との間に形成される。
【0088】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アルミニウムリチウム合金、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、リチウム、セシウム、フッ化セシウム等のようにアルカリ金属類、およびアルカリ金属類のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体等を用いることができる。
【0089】
上記電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0090】
また、電子輸送層に用いられる材料としては、第1電極層もしくは第2電極層から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、またはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等を挙げることができる。
【0091】
上記電子輸送層の厚みとしては、電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0092】
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層からなる電子注入輸送層としては、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした金属ドープ層を形成し、これを電子注入輸送層とすることができる。上記電子輸送性の有機材料としては、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体等を挙げることができ、ドープする金属としては、Li、Cs、Ba、Sr等が挙げられる。
【0093】
上記の単一の層からなる電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能および電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0094】
3.第1電極層
次に、本発明に用いられる第1電極層について説明する。本発明に用いられる第1電極層は、後述する基材上に形成されるものであって、基材上に全面に形成されたものであってもよく、パターン状に形成されたものであってもよい。また本発明に用いられる電極層は、陽極であっても陰極であってもよいが、通常は陽極として形成される。
【0095】
また、電極層は透明性を有していても有していなくてもよく、光の取出し面あるいは受取り面等によって適宜選択される。本発明の有機EL素子において、例えば電極層側から光を取り出す場合は、電極層は透明または半透明である必要がある。
【0096】
陽極としては、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましく、具体的にはITO、酸化インジウム、金のような仕事関数の大きい金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子等を挙げることができる。
【0097】
また、電極層は抵抗が小さいことが好ましく、一般には金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
【0098】
このような電極層の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法や、CVD法などを挙げることができる。また、電極層のパターニング方法としては、所望のパターンに精度よく形成することができる方法であれば特に限定されないが、具体的にはフォトリソグラフィー法等を挙げることができる。
【0099】
4.第2電極層
次に、本発明に用いられる第2電極層について説明する。本発明に用いられる第2電極層は、上記有機EL層上に形成されるものであり、上記第1電極層に対向する電極である。本発明に用いられる第2電極層は、陽極であっても陰極であってもよいが、通常は陰極として形成される。
【0100】
また、第2電極層は、透明性を有していても有していなくてもよく、光の取出し面あるいは受取り面等によって適宜選択される。例えば第2電極層側から光を取り出す場合は、第2電極層は透明または半透明である必要がある。
【0101】
陰極としては、電子が注入しやすいように仕事関数の小さい導電性材料を用いることが好ましく、例えばMgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類、または、アルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。
【0102】
また、第2電極層は抵抗が小さいことが好ましく、一般には金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
【0103】
また、上記第2電極層の形成方法としては、上述した第1電極層と同様の方法であってもよいが、例えば上記有機EL層上に光触媒含有層が形成されている場合には、上記光触媒含有層の表面の特性の変化したパターンを利用して、第2電極層を形成してもよい。この場合、例えば上記材料を含有するコロイド溶液等を、上記光触媒含有層上に塗布し、目的とするパターン状にのみ付着させて、第2電極層を形成する方法等であってもよく、このような塗布方法としては、例えばディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスト法、インクジェット法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。また上記材料を含有する塗布液を、例えば電解ジェット法等により、上記光触媒含有層上に塗布し、目的とするパターン状にのみ付着させて、第2電極層を形成する方法等であってもよい。なお、第2電極層のその他の点については、上記第1電極層の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0104】
5.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上述した第1電極層等を支持するものであり、所定の強度を有するものであれば特に限定されない。本発明においては、上記第1電極層が所定の強度を有する場合には、電極層が基材を兼ねるものであってもよいが、通常は所定の強度を有する基材上に第1電極層が形成される。
【0105】
基材としては、上記第1電極層等が形成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば光の取出し面あるいは受取り面により光透過性が必要か否かが適宜決定される。一般的には、基材側を光の取出し面あるいは受取り面とすることが好ましいことから、基材は透明な材料で形成されることが好ましい。
【0106】
このような基材の形成材料としては、例えばソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス板、またはフィルム状に成形が可能な樹脂基板等を用いることができる。この樹脂基板に用いる樹脂としては、耐溶媒性および耐熱性の比較的高い高分子材料であることが好ましい。具体的には、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル-スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。また、上記の他にも所定の条件を満たす高分子材料であれば使用可能であり、2種類以上の共重合体を用いることもできる。さらに必要に応じて水分、酸素等のガスを遮断するガスバリア性を有する基材を用いてもよい。
【0107】
また、本発明においては、基材上に遮光部や絶縁層が形成されていてもよい。このような遮光部や絶縁層等については、一般的な有機EL素子に用いられるものと同様とすることができる。
【0108】
6.有機EL素子
次に、本発明の有機EL素子について説明する。本発明の有機EL素子は、上述した基材、第1電極層、有機EL層、第2電極層、および光触媒含有層を有するものであれば特に限定されるものではなく、必要に応じて例えば絶縁層やバリア層等、必要に応じて適宜有していてもよい。
【0109】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0110】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0111】
[実施例1]
(第1電極層付き基材の洗浄)
150mm角のガラス基材上にITO層(第1電極層)がパターン状に形成された形成された第1電極層付き基材を、イソプロピルアルコールとアセトンとを含有する溶媒中で超音波洗浄した。
【0112】
(光触媒含有層の形成)
続いて、下記の組成を有し、かつ光触媒および撥液性付与剤を含有する光触媒含有液(塗布液1)と、下記の組成を有し、かつ発光特性物質を含有する発光特性物質含有液(塗布液2)とを混合、分散させて有機EL素子用光触媒含有塗工液(塗布液3)とした。この有機EL素子用光触媒含有塗工液を、上述した第1電極層付き基材上に、スピンコーターで塗布し、クリーンオーブン中(150℃)10分間の乾燥処理を行った。これにより、膜厚60nmの透明な光触媒含有層が形成された。なお、上記光触媒含有層の蒸留水との接触角を、接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定したところ、80°以上であった。次に、上記光触媒含有層に、有機EL層を形成するパターンと同様のパターンを有するフォトマスクを介して、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの積算露光量と、エネルギーが照射された領域のキシレンとの接触角との関係を、図4に示す。また上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(後述する比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
<光触媒含有液(塗布液1)の組成>
・二酸化チタンゾル液(石原産業(株)製STS-01) …3重量部
・テトラエトキシシラン …1重量部
・イソプロピルアルコール …100重量部
・フルオロアルコキシシラン (トーケムプロダクツ(株)製MF-160E)
…7.5重量部
<発光特性物質含有液(塗布液2)の組成>
・酢酸銀 …0.5重量部
・イソプロピルアルコール …99.5重量部
【0113】
[比較例1]
第1電極層付き基材上に、上記光触媒含有液(塗布液1)のみを用いて光触媒含有層を形成した以外は、実施例1と同様に膜厚が60nmである透明な光触媒含有層を形成した。なお、上記光触媒含有層の蒸留水との接触角を、接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定したところ、80°以上であった。次に、上記光触媒含有層に、有機EL層を形成するパターンと同様のパターンを有するフォトマスクを介して、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの積算露光量と、エネルギーが照射された領域のキシレンとの接触角との関係を、図4に示す。
【0114】
[実施例2]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、カンファースルホン酸銀に替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0115】
[実施例3]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、銀アセチルアセトナト錯体に替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0116】
[実施例4]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、銀メルカプチドに替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0117】
[実施例5]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、フッ化銀に替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0118】
[実施例6]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、塩素酸銀に替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0119】
[実施例7]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、過塩素酸銀に替えた以外は、実施例1と同様に光触媒含有層を形成し、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、70mW/cmの照度でエネルギーを照射した。このときの上記光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要とされる露光量(上記比較例1における光触媒含有層と、蒸留水との接触角が10°になるまでに必要な露光量を1とした場合の値)を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
[評価]
図4より、有機EL素子形成用光触媒含有液に、発光特性向上物質を含有させることによって、形成された光触媒含有層が、少ない露光量で、効率よく濡れ性が変化するものとできることが確認された。また、表1より、実施例1〜実施例7までのいずれの実施例においても、上記発光特性物質を含有させることにより、形成された光触媒含有層が、少ない露光量で、効率よく濡れ性が変化するものとできることが確認された。
【0122】
[実施例8]
(光触媒含有層の形成)
中央に2mm幅でITO層(第1電極層)がパターニングされた第1電極層付き基材を用いた以外は、実施例1と同様に、上記塗布液3を用いて膜厚50nmの光触媒含有層を形成した。なお、上記光触媒含有層の蒸留水との接触角を、接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定したところ、80°以上であった。次に、上記光触媒含有層に、有機EL層を形成するパターンと同様のパターンを有するフォトマスクを介して、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、積算露光量が5000mJ/cmとなるように、エネルギーを照射した。
【0123】
(有機EL層の形成)
続いて上記光触媒含有層上に、下記の組成を有する有機EL層形成用塗工液をスピンコート法により塗布し、上記光触媒含有層が親液化された領域のみに付着させた。その後、80℃で、30分間乾燥させ、膜厚1000Åの発光層(有機EL層)を得た。
<有機EL層形成用塗工液>
・American Dye Source 社製(ADS社製) ADS 132GE(商品名) …1重量部
・キシレン …66.67重量部
【0124】
(第2電極層の形成)
その後、発光部が2mm×2mmになるように、LiF膜(膜厚5nm)およびAl膜(膜厚2000Å)をマスク蒸着法により成膜した。この際、ITO膜のパターンと直交するようにパターン状にLiF膜およびAl膜を形成した。これにより、本発明の有機EL素子が得られた。
【0125】
[比較例2]
上記光触媒含有液(塗布液1)のみを用いて光触媒含有層を形成した以外は、実施例2と同様に有機EL素子を作製した。
【0126】
[実施例9]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、カンファースルホン酸銀に替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0127】
[実施例10]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、銀アセチルアセトナト錯体に替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0128】
[実施例11]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、銀メルカプチドに替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0129】
[実施例12]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、フッ化銀に替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0130】
[実施例13]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、塩素酸銀に替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0131】
[実施例14]
発光特性物質含有液中の酢酸銀を、過塩素酸銀に替えた以外は、実施例8と同様に有機EL素子を形成した。
【0132】
[評価]
ITO電極(第1電極層)上部に形成されたAl電極(第2電極層)をアドレス電極として駆動させることにより、実施例8、および比較例2の有機EL素子の発光を観測した。これらの有機EL素子の発光特性を測定したところ、図5に示すような輝度-電圧特性、および図6に示すような発光効率−電圧特性を示した。また、実施例9〜14についても、同様に有機EL素子の発光特性を測定した。これらの実施例において、5Vの電圧をかけた際のそれぞれの有機EL素子の輝度を、表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
これらの結果から、上記光触媒含有層に発光特性向上物質を含有させることにより、発光開始電圧が低くなり、同印加電圧における輝度も高まることが確認された。
【0135】
[実施例15]
(透明電極の形成)
洗浄したガラス基材上に第1電極層としてITO膜をスパッタリング法により1500Åの膜厚で成膜した。その後、ライン幅:85μm、ピッチ:100μmとなるようにフォトリソグラフィー法によりITO膜をパターニングした。
【0136】
(絶縁層の形成)
上記第1電極層が形成された基材に、ネガ型レジスト(新日鉄化学社製、V259PA)を乾燥膜厚が1μmになるようにスピンコート法にて塗布した後、120℃で1時間ベーキングした。その後、第1電極層ラインのエッジ部を絶縁層が覆うように、フォトマスクを介して365nmのUV光を500mJの露光量で露光した。このとき、フォトマスクと基材とを20μmのギャップを設けて露光した。これを有機アルカリの現像液(新日鉄化学社製、V259OD)で40秒間現像した後、160℃で1時間ベーキングすることにより、絶縁層を形成した。
【0137】
(光触媒含有層の形成)
上記第1電極層および絶縁層が形成された基材上に、実施例2と同様に塗布液3を4g用いて、膜厚60nmの透明な光触媒含有層を形成した。上記光触媒含有層の蒸留水との接触角を、接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定したところ、80°以上であった。次に、上記光触媒含有層に、有機EL層を形成する所望のパターン同様のパターンを有するフォトマスクを介して、高圧水銀灯(254、365nm)を用いて、照度70mW/cmで50秒間、エネルギーを照射し、露光された領域を親液性領域、露光されていない領域を撥液性領域とする濡れ性変化パターンを得た。
【0138】
(有機EL層の形成)
赤色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS100RE)1重量部をトルエン溶液66.67重量部に溶解させた赤色発光層形成用塗工液、緑色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS132GE)1重量部をトルエン溶液66.67重量部に溶解させた緑色発光層形成用塗工液、および、青色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS135BE)1重量部をトルエン溶液66.67重量部に溶解させた青色発光層形成用塗工液をそれぞれ調製した。この溶液をインクジェット塗布装置を用いて、上記光触媒含有層上に交互に配列するように塗り分けた。その後、80℃で30分間乾燥させて、それぞれ膜厚1000Åの3色の発光層をパターン状に形成した。
【0139】
(第2電極層の形成)
その後、1画素の発光部が240μm×60μmになるように、LiF膜(膜厚5nm)およびAl膜(膜厚2000Å)をマスク蒸着法により成膜した。この際、ITO膜のパターンと直交するようにパターン状にLiF膜およびAl膜を形成した。
以上により、有機EL素子を作製した。
【0140】
図7は、このようにして作製された有機EL素子を示す概略断面図である。この有機EL素子20においては、基材21上に第1電極層(ITO電極)22がパターン状に形成され、その第1電極層22間に絶縁層23が形成されている。さらに第1電極層22および絶縁層23上には光触媒含有層24が全面に形成され、その上に発光層(赤色発光層26R、緑色発光層26G、および青色発光層26B)がパターン状形成されている。そして、発光層26R,26Gおよび26B、ならびに光触媒含有層24の上に第2電極層27が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に用いられる光触媒含有層のパターニング方法の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例1および比較例1における積算エネルギー量と、エネルギーが照射された領域のキシレンとの接触角との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例8および比較例2における有機EL素子の輝度-電圧特性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例8および比較例2における有機EL素子の発光効率-電圧特性を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例15により形成される有機EL素子の構成を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0142】
1…基材
2…第1電極層
3…有機EL層
4…第2電極層
5…光触媒含有層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と、前記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層とを有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記基材と前記第2電極層との間のいずれかの位置に、光触媒、特性付与剤、および前記光触媒の活性および前記有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により前記特性付与剤の特性が変化する光触媒含有層が形成されており、前記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
光触媒、特性付与剤、および前記光触媒の活性および有機エレクトロルミネッセント層の発光特性を向上させる機能を有する発光特性向上物質を含有し、前記発光特性向上物質は、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、フェノール類、エノール類、チオフェノール類、イミド類、オキシム類、第一級または第二級ニトロ化合物類、包接化合物類、塩素酸、および過塩素酸からなる群から選択される酸、またはフッ素の銀塩であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子形成用光触媒含有塗工液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−81102(P2007−81102A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266656(P2005−266656)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】