説明

有機エレクトロルミネッセント素子

【課題】陽極電極層からのホ−ル注入時のエネルギ−障壁を低減する新しい構成のホ−ル注入層を陽極電極層に接する層に設け、低電圧駆動化と素子の駆動安定性を付与することを実現する。
【解決手段】陽極電極層と、陽極電極層と対向して配置された陰極電極層と、陽極電極層と陰極電極層との間に位置する、陽極電極層に接するホ−ル注入層及び少なくとも一層の発光層と、を有し、陽極電極層と陰極電極層の少なくとも一方は透明であり、ホ−ル注入層は、ダメージ低減層として機能し、金属酸化物と有機化合物との混合膜を含み、混合膜は共蒸着によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面光源や表示素子に利用される有機エレクトロルミネッセント素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、以下、「有機EL素子」、もしくは「素子」と略記することがある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
発光層が有機化合物から構成される有機EL素子は、低電圧駆動の大面積表示素子を実現するものとして注目されている。KODAK社のTangらは素子の高効率化のため、キャリア輸送性の異なる有機化合物を積層し、ホ−ルと電子がそれぞれ陽極電極層、陰極電極層よりバランスよく注入される構造とし、しかも有機層の膜厚を2000Å以下とすることで、10V以下の印加電圧で1000cd/m2と外部量子効率1%の実用化に十分な高輝度、高効率を得ることに成功した(Appl.Phys.Lett.,51,913(1987).)。
【0003】
このような高効率素子を開発する上で、陰極電極層からの電子注入や陽極電極層からのホ−ル注入をエネルギ−障壁なく有機層に注入する技術は重要な要素として認識されている。前述のTangらは基本的に絶縁物とみなされる有機化合物に対して、金属電極から電子を注入する際に問題となるエネルギ−障壁を低下させるため、仕事関数の小さいMg(マグネシウム、仕事関数:3.6eV:仕事関数値はCRC Handbook of Chemistry andPhysics,64thEDITIONより転載。以下、同様)を使用した。その際、Mgは酸化しやすく不安定であるのと、有機表面への接着性に乏しいので、化学的に安定で、つまり、仕事関数が高く、しかも有機表面に密着性の良いAg(銀、仕事関数:4.6eV)と共蒸着により合金化して用いた。前記合金組成の採用に至るまでの経緯はKODAK社の特許に詳細に記載されている。
【0004】
当初、KODAK社の特許(米国特許No.4,356,429もしくは、No.4,539,507)には、有機EL素子の陰極電極層に有用な低仕事関数金属(A low work functionmetal)として、Al,In,Ag,Sn,Pb,Mg,Mn等の金属を例示しており、具体的な仕事関数値の記載によって低仕事関数金属の定義をしていなかった。しかし、その後の特許(米国特許No.4,885,211もしくは、No.4,720,432もしくはNo.5,059,862)では、陰極電極層に使用される金属の仕事関数は低ければ低いほど、必要とされる駆動電圧も低くなることを記載した上で、4.0eV以下の仕事関数値を有する金属を低仕事関数金属と定義し、4.0eV以上の金属はむしろ化学的に不安定な4.0eV以下の低仕事関数金属と混合し合金化することで、前記合金陰極電極層に化学的安定性を付与する目的で使用することを記載している。
【0005】
この安定化金属は高仕事関数第2金属(higher workfunction second metal)と表現され、その候補となる金属に、当初は低仕事関数金属(A low work functionmetal)として挙げられていたAl,Ag,Sn,Pbが含まれており、開発初期の試行錯誤の過程が垣間見られる。また、KODAK社の上記一連の特許中では、最も仕事関数の低いアルカリ金属については、その原理的優位性を認めつつも、素子を安定駆動させるには反応性が高すぎるので陰極電極層金属の候補から除外するとしている。
【0006】
凸版印刷株式会社のグル−プ(第51回応用物理学会学術講演会、講演予稿集28a−Pub−4、p.1040)及びパイオニア株式会社のグル−プ(第54回応用物理学会学術講演会、講演予稿集29p−ZC−15、p.1127)は、Mgよりさらに仕事関数が小さく(低く)、KODAK社がその特許請求項から除外したアルカリ金属のLi(リチウム、仕事関数:2.9eV)を用いAl(アルミニウム、仕事関数:4.2eV)と合金化することにより安定化させ電子注入陰極電極層として用いることにより、Mg合金を用いた素子より低い駆動電圧と高い発光輝度を達成している。また、本発明者らは有機化合物層上にリチウムを単独で10Å程度に極めて薄く蒸着し、その上から銀を積層した二層型陰極電極層が低駆動電圧の実現に有効であることを報告している(IEEETrans. Electron Devices. 40, 1342(1993))。
【0007】
さらに、最近では本発明者らはリチウムなどのアルカリ金属、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、サマリウムなどの希土類金属を、陰極電極層金属ではなく、陰極電極層に接する有機層中にド−ピングすることにより、駆動電圧を低下させることに成功した(Appl.Phys.Lett.73(1998)2866、SID97DIGEST・P775,特開平10−270171号、対応米国特許6013384)。これは電極に接する有機層中の有機分子を金属ド−ピングによりラジカルアニオン状態とし、陰極電極層からの電子注入障壁を大幅に低下させたためと考えられる。この場合は、陰極電極層金属としてアルミニウムのように仕事関数が4.0eV以上の高仕事関数金属を使用しても駆動電圧を低くすることができるばかりでなく、ITOのように従来は陽極電極層として使用され、陰極電極層には最も不向きであるとされてきた高仕事関数の電極材料でも発光素子として駆動することも確かめられている(特願2001−142672号参照)。
【0008】
またさらに本発明者らは特開平11−233262号、又は特開2000−182774号において、陰極電極層に接する部分の有機層を、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、希土類金属イオンの少なくとも1種を含有する有機金属錯体化合物によって構成するか、又は前記有機金属錯体化合物と電子輸送性有機化合物との混合層によって構成し、かつ前記陰極電極層材料が、前記混合層中の有機金属錯体化合物中に含有されるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、希土類金属イオンを真空中において金属に還元しうる熱還元性金属からなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子を提案した。(The 10th International Workshop on Inorganic and OrganicElectroluminescence,P−61、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)L1348Part2,No.11B,15 November,reference12)、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.41(2002)L800)
【0009】
この構造の電子注入層の場合、アルミニウムやジルコニウム等の熱還元性金属が真空環境下での蒸着時において、前記有機金属錯体化合物上に原子状で(つまり反応活性な状態で)飛来し、化合物中の金属イオンを金属状態に還元、遊離させることができ、さらに還元、遊離した金属はその近傍に存在する電子輸送性有機化合物をin−situでド−ピングして還元(ここではLewisの定義による還元のことであり、電子の受容を指す)することになり、前記の直接的金属ド−ピングの手法と同様に前記電子輸送性有機化合物をラジカルアニオン化している。つまり、この手法においては、アルミニウムは従来のように仕事関数値の大小から選択されているのではなく、真空中における熱還元性という、その当時まで当業者間では知られていなかった新規なアイディアに基づいて選択されている。又、同様の現象はアルカリ金属等の低仕事関数金属イオンを有する無機化合物でも観測されて報告されている。(Appl.Phys.Lett.,Vol.70,p.152(1997),IEEE Trans.ElectronDevices.,Vol.44,No.8,p.1245(1997))
【0010】
このような、電子注入技術における歴史的変遷を見ても理解されるように、有機エレクトロルミネッセント素子開発においては、電子注入電極、もしくは陰極電極層界面の電子注入層形成法の改良は、絶え間なく行われてきており、結果として発光効率の劇的な改善や、低電圧駆動化を可能としてきたために、現在においては有機EL素子の性能向上のための重要な要素技術として認識されるに至っている。
【0011】
また、有機層へのホ−ル注入においては、陽極電極層として比較的仕事関数の高い透明な酸化物電極材料としてITO(Indium TinOxide)が用いられることが多かった。有機EL素子は光を面状に取り出す必要があるので、液晶表示装置で広く使われてきたこのITOが、その高仕事関数値の故に、比較的有機層へのホ−ル注入に適した材料であったことは、ある意味で幸運な偶然であったとも言える。
【0012】
KODAK社のTangらは陽極電極層界面のコンタクトをさらに改善して素子の低電圧化を実現するために200Å以下の膜厚の銅フタロシアニン(CuPc)を、陽極電極層と正孔輸送性有機化合物との間に挿入した。(上記KODAK社特許参照)また、パイオニア株式会社のグル−プは大阪大学の城田らの提案したスタ−バ−スト型のアリ−ルアミン化合物を用いることで同様の効果を得ている(Appl.Phys.Lett.,64,807(1994))。CuPcやスタ−バ−スト型アリ−ルアミンは、両者ともイオン化ポテンシャル(Ip)がITOよりも小さく、またホ−ル移動度も比較的大きいという特徴があり低電圧化とともに界面のコンタクト性改善によって、連続駆動時の安定性にも改善が見られる。
【0013】
また、豊田中央研究所のグル−プはITOよりも仕事関数の大きい、酸化バナジウム(VOX)や酸化ルテニウム(RuOX)や酸化モリブデン(MOX)などの金属酸化物をITO上に50〜300Åの厚さにスパッタリングの手法を用いて成膜して、陽極電極層であるITOから有機層へのホ−ル注入時のエネルギ−障壁を低減した有機EL素子を提案している(日本国特許第2824411号)。
【0014】
この素子の場合も、ITOを単独で使用した場合と比べて、明らかな低電圧化の効果が観測されている。同じく、陽極電極層からのホ−ル注入に関して、本出願人らは特願平10−49771号公報(特開平11−251067号(対応米国特許第6,423,429B2号))や特開2001−244079号(対応米国特許第6,589,673B1号)に示すように、ルイス酸化合物とホ−ル輸送性有機化合物を共蒸着の手法により所定量混合し、ホ−ル注入層とすることで、さらに改善されたホ−ル注入特性を得ることに成功した(「Jpn.J.Appl.Phys.Vol.41(2002)L358」)。
【0015】
この素子においては、予め有機化合物の酸化剤となりうるルイス酸である化合物を、陽極電極層に接触する有機化合物層中にド−ピングすることにより、有機化合物は酸化された状態の分子として存在するので、ホ−ル注入エネルギ−障壁を小さくでき、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧をさらに低下できる。また、このような化学ド−ピング層において、適当な有機化合物とルイス酸化合物の組み合わせを選べば、従来のド−ピングされていない有機化合物のみによって構成される層と異なり、層厚をμmオ−ダ−にまで厚くしても駆動電圧の上昇が観測されず、駆動電圧の層厚依存性が消失する(第47回高分子学会予稿集、47巻9号、p1940(1998))。また、前記特開2001−244079号公報(特願2000−54176号)中に記載されているとおり、前記ルイス酸ド−ピング層を光学膜厚(optical pathlength)の調整に使用し、発光スペクトル制御層として機能させ、色純度の改善等に利用することもできる。
【0016】
ここで、改めてこれらホ−ル注入技術のそれぞれが持っていた特徴、欠点について列挙すれば以下のようにまとめられる。まず、本出願人らのルイス酸化合物を混合したホ−ル注入層は、その低い比抵抗値によって実質的に前記ホ−ル注入層の膜厚によって駆動電圧が上昇しない等の他のホ−ル注入層にはない特徴があり、これまでのところ最も有効なホ−ル注入層と言えるが、一方、一般的にルイス酸化合物は化学的に不安定な物質が多く保存安定性に不安があった。また本発明者らの検討では、対電流効率(または量子効率)を若干ながら低下させる問題があった。また同じく、本発明者らの検討では電極成膜時のプロセスダメ−ジを低減するバッファ−層としては機能しなかった。Tangらや城田らのイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物を使用するホ−ル注入層は、陽極電極層界面でのコンタクト性能の改善が見られるものの、使用膜厚に上限があるため素子設計の自由度が制限される。
【0017】
また豊田中央研究所の仕事関数の大きい金属酸化物を陽極電極層上に積層して使用する場合もその光透過率の低さからやはり使用膜厚の上限があり、また、例示されている化合物は実質的にすべてスパッタリング法のみでしか成膜できない。
【0018】
いずれにしても、本発明のホ−ル注入層のように、その低い比抵抗値の故に駆動電圧の膜厚依存性がなく、高い電流効率(量子効率)を維持することができ、電極成膜時のプロセスダメ−ジ低減層としても機能する性質を併せ持つホ−ル注入層は、これまでのところ存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特願平10−49771号公報(特開平11−251067)
【特許文献2】特開2000−182774号公報
【特許文献3】特開平11−233262号公報
【特許文献4】特開平10−270171号公報
【特許文献5】特開2001−244079号公報
【特許文献6】米国特許第4,356,429号明細書
【特許文献7】米国特許第4,539,507号明細書
【特許文献8】米国特許第4,885,211号明細書
【特許文献9】米国特許第4,720,432号明細書
【特許文献10】米国特許第5,059,862号明細書
【特許文献11】米国特許第6,013,384号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】第51回応用物理学会学術講演会、講演予稿集28A−PB−4、1040頁
【非特許文献2】第54回応用物理学会学術講演会、講演予稿集29p−ZC−15、1127頁
【非特許文献3】IEEE Trans.Electron Devices,vol.44,No.8、p.1342(1993)
【非特許文献4】IEEE Trans.Electron Devices,40,1342(1993)
【非特許文献5】Appl.Phys.Lett.,73(1998)2866
【非特許文献6】The 10th International Workshop on Inorganic And Organic Electroluminescence,第61頁
【非特許文献7】Appl.Phys.Lett.,vol.70、p.152(1997)
【非特許文献8】Jpn.J.Appl.Vol.41(2002)pp L358
【非特許文献9】Jpn.J.Appl.Vol.41(2002)pp L800
【非特許文献10】SID97DIGEST・P775
【非特許文献11】Jpn.Appl.Phy.Vol.38(1999)pp L800
【非特許文献12】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.41(2002)pp L800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は陰極電極層や陽極電極層から有機化合物層へのホ−ル注入時におけるエネルギ−障壁を低下させることにより、素子の駆動電圧を低下させると共に、本発明で新たに導入されるホ−ル注入層の抵抗値が他の有機層に比べて桁違いに低いことを利用して、前記ホ−ル注入層の膜厚を(実質的に上限なく)調整して、駆動電圧を上昇させずに陰極電極層と陽極電極層間での電気的短絡の危険性を大幅に低減するために利用することにある。
【0022】
また、金属酸化物と有機化合物の混合層である本発明のホ−ル注入層が、スパッタリングによる電極成膜時に引き起こされる高エネルギ−粒子等のダメ−ジを低減するバッファ−層として機能させることも目的としている。
【0023】
また、本発明者らは、特願2002−086599号において、これまでの有機EL素子とは異なる、新規な構造を有する素子構造を提案した。前記素子構造の特徴は複数の発光ユニット(従来型有機EL素子の陰極電極層と陽極電極層に挟まれた層部分)が「電荷発生層」と呼ばれる層によって仕切られた構造を有しており、電圧印加時には前記電荷発生層がホ−ルと電子の発生層として機能して、結果的に複数の従来型有機EL素子が直列に接続されたように同時に発光する特徴を持っている。
【0024】
この電荷発生層は陰極電極層や陽極電極層に接する電子注入層やホ−ル注入層としても機能することが予想された。なぜなら、前記電荷発生層は、その陰極電極層側に接する発光ユニットに対してはホ−ル注入層として機能しており、またその陽極電極層側に接する発光ユニットに対しては電子注入層として機能しているからである。したがってこの電荷発生層の構成を陽極電極層に接する層に使用して、素子の低電圧化と安定駆動を達成するのが本発明の目的である。
【0025】
また、本発明の他の目的は、従来の有機EL素子においてその駆動電圧や発光効率の一支配要因であった電極(本発明では陽極電極層)の仕事関数値を不問とし、つまり陽極電極層材料の選択の幅を広げることにある。したがって本発明の素子の陽極電極層材料は導電性を有していればいかなる材料でも使用できる。一般に、当業者間ではAlのように仕事関数が4.2eV程度とITO(5.0eV程度)と比べて低い値の場合、素子の駆動電圧が上昇するだけでなく。素子の駆動安定性を損なうことも良く知られている。
【0026】
一方、本発明において前記混合膜を陽極電極層に接するホ−ル注入層として使用する時は、混合膜中で使用されるアリ−ルアミン等の有機分子は既にラジカルカチオン状態にあるので、電圧印加時には陽極電極層材料の種類によらず、エネルギ−障壁なく、「発光層を含む有機構造体」へホ−ル注入が可能である。
【0027】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、陽極電極層からのホ−ル注入時のエネルギ−障壁を低減する新しい構成のホ−ル注入層を陽極電極層に接する層に設け、低電圧駆動化と素子の駆動安定性を付与することを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、陽極電極層と、陽極電極層と対向して配置された陰極電極層と、陽極電極層と陰極電極層との間に位置する、陽極電極層に接するホ−ル注入層及び少なくとも一層の発光層と、を有し、陽極電極層と陰極電極層の少なくとも一方は透明であり、ホ−ル注入層は、ダメージ低減層として機能し、金属酸化物と有機化合物との混合膜を含み、混合膜は共蒸着によって形成されている。
【0029】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、対向する陽極電極と陰極電極の間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットを複数個有し、発光ユニットのそれぞれが少なくとも一層からなる電荷発生層によって仕切られており、電荷発生層が1.0×102Ω・cm以上の比抵抗を有する電気的絶縁層であり、陽極電極に接するホール注入層は金属酸化物と有機化合物との混合膜を含み、混合膜は共蒸着によって形成されている。
【0030】
混合膜中の有機化合物は、イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さく、ホ−ル輸送性を有し、混合膜は、金属酸化物と有機化合物間との酸化還元反応によって生成した有機化合物のラジカルカチオンと金属酸化物のラジカルアニオンからなる電荷移動錯体を有し、電荷移動錯体中のラジカルカチオンが、電圧印加時に陰極電極層の方向へ移動することにより、発光層へホ−ルが注入されることが好ましい。
【0031】
有機化合物はアリ−ルアミン化合物であってもよく、例えば一般式
【化1】

で示されるアリ−ルアミン化合物でもよい。ただし、Ar1、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に置換基を有してよい芳香族炭化水素基を表わす。また、有機化合物は、ガラス転移点が90℃以上であるアリ−ルアミン化合物であってもよく、例えば、α−NPD、2−TNATA、スピロ−TAD又はスピロ−NPBであってもよい。
さらに有機化合物は前述のCuPcを代表とする、フタロシアニン化合物やポルフィリン化合物であっても良い。
さらに、ホール輸送性が確認されている、キナクリドン化合物(及び、その誘導体)やインダンスレン化合物(及びその誘導体)等が、適宜、好適に使用できる。
【0032】
金属酸化物は、例えばV25(5酸化バナジウム)又はRe27(7酸化2レニウム)であってもよい。
【0033】
基板上に、陽極電極層、ホ−ル注入層、発光層を含む有機構造体、及び陰極電極層を順に積層させてもよいし、あるいは逆に、基板上に、前記陰極電極層、前記発光層を含む有機構造体、前記ホ−ル注入層、及び前記陽極電極層を順に積層させてもよい。
【0034】
金属酸化物と有機化合物の混合比率は、陽極電極層側から発光層を含む有機構造体側にかけて、変化していてもよく、変化は連続的であっても不連続であってもよい。
【0035】
陽極電極層は例えばスパッタリング法で成膜することができ、混合膜がスパッタリングプロセス時のダメ−ジを低減するための緩衝層として機能しうる。
【0036】
スパッタリング法に使用されるスパッタリング装置は、具体的には例えば、所定距離隔てて対向配置した一対のタ−ゲットの各々の周辺の前方に電子を反射する反射電極を設けると共に、磁界発生手段により各タ−ゲットの周辺部の近傍にその面に平行な部分を有する平行磁界を形成した対向タ−ゲット式スパッタリング装置を用いることができる。
【0037】
金属酸化物は、少なくとも抵抗加熱蒸着法、電子ビ−ム蒸着法、又はレ−ザ−ビ−ム蒸着法によって成膜することができる。
【0038】
金属酸化物と有機化合物の混合膜であるホ−ル注入層の比抵抗は、1.0×102Ω・cm以上かつ1.0×1010Ω・cm未満の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、陰極電極層や陽極電極層から有機化合物層へのホ−ル注入時におけるエネルギ−障壁を低下させることにより、素子の駆動電圧を低下させると共に、前記ホ−ル注入層の膜厚を調整して、駆動電圧を上昇させずに陰極電極層と陽極電極層間での電気的短絡の危険性を大幅に低減することができる。また、金属酸化物と有機化合物の混合層であるホ−ル注入層を、スパッタリングによる電極成膜時に引き起こされる高エネルギ−粒子等のダメ−ジを低減するバッファ−層として機能させることができる。また、電荷発生層の構成を陽極電極層に接する層に使用することによって、素子の低電圧化と安定駆動を達成することができる。さらに、従来の有機EL素子においてその駆動電圧や発光効率の一支配要因であった電極(陽極電極層)の仕事関数値を不問とし、陽極電極層材料の選択の幅を広げることができる。一方、混合膜を陽極電極層に接するホ−ル注入層として使用する場合、混合膜中で使用されるアリ−ルアミン等の有機分子は既にラジカルカチオン状態にあるため、電圧印加時には陽極電極層材料の種類によらず、エネルギ−障壁なく、「発光層を含む有機構造体」へホ−ル注入が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ホ−ル注入層における電荷移動錯体の形成と電圧印加時におけるホ−ルの移動を示す説明図である。
【図2】アリ−ルアミン化合物である2−TNATA、α−NPD、スピロ−TAD及びスピロ−NPB、及び、金属酸化物であるV25(5酸化バナジウム)それぞれの単独での吸収スペクトル、並びに、各アリ−ルアミン化合物と5酸化バナジウムとの混合膜の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】α−NPDとRe27(7酸化レニウム)の混合膜の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】基準例の素子の積層構造を示す模式図である。
【図5】実施例1の素子の積層構造を示す模式図である。
【図6】実施例2の素子の積層構造を示す模式図である。
【図7】基準例、実施例1及び実施例2の素子の電流密度(mA/cm2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図8】基準例、実施例1及び実施例2の輝度(cd/m2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図9】基準例、実施例1及び実施例2の電流効率(cd/A)−電流密度(mA/cm2)特性を示す図である。
【図10】基準例、実施例1及び実施例2の電力効率(lm/W)−輝度(cd/m2)特性を示す図である。
【図11】基準例、実施例1及び実施例2の素子の発光スペクトルを示す図である。
【図12】実施例3の素子の積層構造を示す模式図である。
【図13】実施例3の素子の電流密度(mA/cm2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図14】実施例3の輝度(cd/m2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図15】実施例3の電流効率(cd/A)−電流密度(mA/cm2)特性を示す図である。
【図16】実施例3の電力効率(lm/W)−輝度(cd/m2)特性を示す図である。
【図17】実施例3の素子の発光スペクトルを示す図である。
【図18】実施例4の素子の積層構造を示す模式図である。
【図19】実施例4の素子の電流密度(mA/cm2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図20】実施例4の輝度(cd/m2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図21】実施例4の電流効率(cd/A)−電流密度(mA/cm2)特性を示す図である。
【図22】実施例4の電力効率(lm/W)−輝度(cd/m2)特性を示す図である。
【図23】実施例4の素子の発光スペクトルを示す図である。
【図24】実施例5の素子の積層構造を示す模式図である。
【図25】実施例5の素子の電流密度(mA/cm2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図26】実施例5の輝度(cd/m2)−駆動電圧(V)特性を示す図である。
【図27】実施例5の電流効率(cd/A)−電流密度(mA/cm2)特性を示す図である。
【図28】実施例5の電力効率(lm/W)−輝度(cd/m2)特性を示す図である。
【図29】実施例5の素子の発光スペクトルを示す図である。
【図30】サンドイッチ法による比抵抗評価用素子を示す平面図である。
【図31】図30の線A−Aにおける断面図である。
【図32】並置法による比抵抗評価用素子を示す平面図である。
【図33】図32の線B−Bにおける断面図である。
【図34】参考例の電流密度(A/cm2)−電場(V/cm)特性を示す図である。
【図35】V25とαNPDの共蒸着膜の混合比(モル分率)と比抵抗(Ω・cm)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1に示す本発明の有機EL素子においては、陽極電極層(陽極)1と発光層を含む有機構造体2に挟まれたホ−ル注入層3は、金属酸化物と有機化合物の混合層からなり、前記2種類の物質間で酸化還元反応によってラジカルカチオンとラジカルアニオンからなる電荷移動錯体が形成されていることを特徴としている。つまり、前記混合層中のラジカルカチオン状態(ホ−ル)が電圧印加時に陰極電極層(陰極)方向へ移動することで、ホ−ル注入層として機能することができる。
【0042】
つまり、本実施形態の有機EL素子において、ホ−ル注入層3は(a)イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さく、ホ−ル輸送性すなわち電子供与性を有する有機化合物、及び(b)(a)の有機化合物と酸化還元反応による電荷移動錯体を形成しうる金属酸化物からなる混合層からなり、前記(a)成分と(b)成分との間で酸化還元反応による電荷移動錯体を形成している。
【0043】
一般に電子供与性を有する有機化合物が容易にラジカルカチオン状態となるにはイオン化ポテンシャルが5.7eVより小さいことが望ましい。(a)成分の有機化合物のイオン化ポテンシャルが5.7eV以上であると、(b)成分の金属酸化物と酸化還元反応を起こすことが難しくなり、結果的に本発明における電荷移動錯体の形成も困難になる場合がある。
【0044】
さらに具体的には、(a)成分の有機化合物がアリ−ルアミン化合物であり、一般式(I):
【化2】

(式中、Ar1、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に置換基を有してよい芳香族炭化水素基を表わす。)で示されるアリ−ルアミン化合物であるのが好ましい。
【0045】
このようなアリ−ルアミン化合物の例としては、特に限定はないが、特開平6−25659号公報、特開平6−203963号公報、特開平6−215874号公報、特開平7−145116号公報、特開平7−224012号公報、特開平7−157473号公報、特開平8−48656号公報、特開平7−126226号公報、特開平7−188130号公報、特開平8−40995号公報、特開平8−40996号公報、特開平8−40997号公報、特開平7−126225号公報、特開平7−101911号公報、特開平7−97355号公報に開示されているアリ−ルアミン化合物類が好ましく、例えば、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル、N、N’−ジフェニル−N、N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、N、N、N’、N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオ−ドリフェニル、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾ−ル、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルN−フェニルカルバゾ−ル、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]p−タ−フェニル、4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ナフタレン、4,4’−ビス[N−(9−アントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−アントリル)−N−フェニル−アミノ]p−タ−フェニル、4,4’−ビス[N−(2−フェナントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(1−コロネニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン、2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン、2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン、4.4’’−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]タ−フェニル、4.4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)フェニル]アミノ}ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(2−ピレニル)−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]フルオレン、4,4’’−ビス(N,N−ジ−p−トリルアミノ)タ−フェニル、ビス(N−1−ナフチル)(N−2−ナフチル)アミン、下記の式:
【化3】

で表わされる4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、下記の式:
【化4】

で表わされるスピロ−(spiro−)NPB、下記の式:
【化5】

で表わされるスピロ−(spiro−)TAD、下記の式:
【化6】

で表わされる2−TNATAなどがある。さらに、従来有機EL素子の作製に使用されている公知のものを適宜用いることができる。
【0046】
またさらに、前記アリ−ルアミン化合物はガラス転移点が90℃以上であるアリ−ルアミン化合物であることが、素子の耐熱性の観点から望ましい。
【0047】
上記、化3〜化6に挙げられた化合物はガラス転移点が90℃以上である化合物の好適な例である。
【0048】
また、本実施形態の有機EL素子における陽極電極層に接するホ−ル注入層の最も好適な例は、(a)であるアリ−ルアミン化合物と、(b)前記アリ−ルアミン化合物と酸化還元反応によって電荷移動錯体を形成しうる金属酸化物との混合層がある。
【0049】
さらに、本実施形態のホ−ル注入層を構成する2種類の化合物が酸化還元反応により電荷移動錯体を形成しうるものであるか否かは、吸収スペクトルにより確認できる。吸収スペクトルは、分光学的分析手段(吸収スペクトル測定)によって測定する。本実施形態では、図2に示すように、2種類の化合物が(上述のアリ−ルアミン化合物と金属酸化物)それぞれ単独では、波長800〜2000nmの近赤外領域では吸収スペクトルのピ−クを示さないが、これらの化合物の混合膜では、波長800〜2000nmの近赤外領域に吸収スペクトルのピ−クが顕著に現れている。このため、2種類の化合物間における電子移動を伴う酸化還元反応により、電荷移動錯体が形成されていることが確認できた。
【0050】
図2及び図3に示した各混合膜の吸収スペクトルが、各々の単独の物質の吸収スペクトルの(単純な)重ね合わせではなく、電子移動を伴う反応(つまり酸化還元反応)によって、第3の新たな吸収ピ−クが近赤外線領域800nmから2000nmの位置に観測されており、本発明者らの検討では、前記混合膜中で発生する酸化還元反応の存在が、電圧印加時における電極からの電荷注入を容易にして、結果として素子の駆動電圧を低下させることが判明した。
【0051】
本実施形態の有機EL素子は、従来の有機EL素子と同様の成膜順序によって各層を積層してある。すなわち、ガラス基板上に、陽極電極層、ホ−ル注入層、発光層を含む有機構造体、及び陰極電極層が順に積層されている。陰極電極層としての金属やITOは、抵抗加熱蒸着やスパッタリングの手法を用いて成膜することができる。この場合、下記の実施例3に記載されるように、基板上に陽極電極層としてのAlを積層した後、本発明の混合膜をホ−ル注入層として成膜し、最後に透明陰極電極層としてITOを成膜して、成膜面側(ITO側)から光を取り出すトップエミッション構造の素子を実現することができる。一般にAlはホ−ル注入電極としては仕事関数が小さすぎて不向きであると認識されているが、本発明の混合膜をホ−ル注入層として使用すればこのような制限を不問とすることが可能である。
【0052】
また逆に、本実施形態の有機EL素子は、従来から広く行われてきた順序とは逆の順序で成膜してある。すわなち、基板上に、陰極電極層、発光層を含む有機構造体、ホ−ル注入層、及び陽極電極層が順に積層されている。陽極電極層としての金属やITOは、ホ−ル注入層を形成した後に、抵抗加熱蒸着やスパッタリングの手法を用いて成膜することができる。この場合は、本発明の(混合層である)ホ−ル注入層が、陽極電極層成膜時、特にスパッタリングプロセスを使用するITO透明電極の成膜プロセス時のダメ−ジ低減層として機能することが期待され、実際、下記実施例5に示すように有効に働くことが示される。
【0053】
本発明者らは、特願2001−142672号明細書において、有機層にダメ−ジのないスパッタリング成膜の手法を用いて、金属ド−ピングされた電子注入層上に陰極電極層として機能するITO透明導電膜を成膜できることを示している。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。有機化合物、金属酸化物、金属、及びITO透明電極の成膜には、アネルバ製真空蒸着機、またFTSコ−ポレ−ション製スパッタリング装置を使用した。蒸着物質の成膜速度の制御や膜厚の制御は前記蒸着機に取付けられている、水晶振動子を使用した成膜モニタ−CRTM−8000(ULVAC(日本真空技術社)製)を使用した。また、成膜後の実質膜厚の測定には、テンコ−ル(TencOr)社製P10触針式段差計を用いた。素子の特性評価には、ケ−スレ−(KEITHLEY)社ソ−スメ−タ2400、トプコンBM−8輝度計を使用した。素子に直流電圧を0.2V/2秒の割合でステップ状に印加して、電圧上昇1秒後の輝度及び電流値を測定した。また、EL素子のスペクトルは、浜松ホトニクスPMA−11オプチカルマルチチャンネルアナライザ−を使用して定電流駆動し測定した。
【0055】
基準例
図4の積層構成を有する従来の有機EL素子を基準例として作製した。ガラス基板11上に陽極透明電極層12として、シ−ト抵抗10Ω/□のITO(インジウム−スズ酸化物、日本板硝子社製)がコ−トされている。その上にホ−ル輸送性(電子供与性)を有する下記式:
【化7】

で表わされるαNPDを10-6Torr下で、2Å/秒の蒸着速度で600Åの厚さに成膜し、ホ−ル輸送層13を形成した。次に、前記ホ−ル輸送層13の上に、発光層14として下記式:
【化8】

で表されるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体層(以下「Alq」という)をホ−ル輸送層13と同じ条件で400Åの厚さに真空蒸着して形成した。
【0056】
次に、前記発光層14の上に、本発明者らが特開平10−270171号公報で開示した電子注入層(金属ド−ピング層、低抵抗電子輸送層)15として、下記式:
【化9】

で表されるバソクプロイン(以下、BCPと記す)とアルカリ金属であるCs(セシウム)をモル比率BCP:Cs=4:1で共蒸着し300Åの厚さに成膜した。なお、ホ−ル輸送層13、発光層14及び電子注入層15で発光層を含む有機構造体18を構成している。つづいて、陰極電極層(陰極、陰極電極)16として、Alを蒸着速度10Å/秒で1000Å蒸着した。発光領域は縦0.2cm、横0.2cmの正方形状とした。
【0057】
基準例の有機EL素子において、陽極透明電極層12であるITOと陰極電極層16であるAlとの間に、直流電圧を印加し、発光層14(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を図7、図8、図9、図10中の白丸プロット(○)で示す。また、基準例の素子の発光スペクトルを図11の太線で示した。
【0058】
実施例1
図5に実施例1の有機EL素子の積層構造を示す。ガラス基板21上に陽極透明電極層(陽極電極層)22として、シ−ト抵抗10Ω/□のITO(インジウム−スズ酸化物、日本板硝子社製)がコ−トされている。その上に金属酸化物であるV25とホ−ル輸送性を有する有機化合物としてのαNPDをモル比率V25:αNPD=4:1で共蒸着し、100Åの厚さの混合膜に成膜して、ホ−ル注入層27を形成した。その後は、上記の基準例と同様に、ホ−ル輸送層23であるαNPD、発光層24であるAlq、電子注入層(金属ド−ピング層、低抵抗電子輸送層)25、陰極電極層(陰極)26を順次積層した。なお、ホ−ル輸送層23、発光層24、及び電子注入層25で発光層を含む有機構造体28を構成している。
【0059】
実施例1の有機EL素子において、陽極透明電極層22であるITOと陰極電極層26であるAlとの間に、直流電圧を印加し、発光層24(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を図7、図8、図9、図10中の白四角プロット(□)で示す。また、実施例1の素子の発光スペクトルを図11の点線で示した。
【0060】
実施例2
図6に実施例2の有機EL素子の積層構造を示す。ガラス基板31上に陽極透明電極層32として、シ−ト抵抗10Ω/□のITO(インジウム−スズ酸化物、日本板硝子社製)がコ−トされている。その上に金属酸化物であるV25とホ−ル輸送性を有する有機化合物としてのαNPDをモル比率V25:αNPD=4:1で共蒸着し、1000Åの厚さの混合膜に成膜して、本発明のホ−ル注入層37を形成した。その後は、上記の基準例と同様に、ホ−ル輸送層33である αNPD、発光層34であるAlq、電子注入層(金属ド−ピング層)35、陰極電極層36を順次積層した。なお、ホ−ル輸送層33、発光層34及び電子注入層35で発光層を含む有機構造体38を構成している。実施例2の有機EL素子において、陽極透明電極層32であるITOと陰極電極層36であるAlとの間に、直流電圧を印加し、発光層34(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を図7、図8、図9、図10中の白三角プロット(△)で示す。また、実施例2の素子の発光スペクトルを図11の細線で示した。
【0061】
図7〜図11に示すデータに基づいて基準例、実施例1、実施例2の素子を比較すると以下のことが分かった。
(1)実施例1及び実施例2の素子は、実施例1及び実施例2のようなホール注入層を有さない基準例の素子に比べて、駆動電圧が低く(図7)、最高輝度も高い(図8、図10)。
(2)実施例1及び実施例2の素子は、基準例の素子と比較して、高電流密度領域(1000mA/cm2の電流密度単位の領域)でも電流効率(量子効率)の低下がほとんど観測されない(図9)ため、素子の信頼性が高い。
(3)実施例1及び実施例2の素子のように、ホ−ル注入層の膜厚を厚くしても素子の駆動電圧は上昇することがなく、むしろ実施例2のようにホ−ル注入層の膜厚が厚い方が、より低電圧で所望の電流密度を得ることができる(図7)。
(4)発光スペクトルは、前記ホ−ル注入層が1000Åと厚い素子(実施例2)は干渉効果によってピ−ク位置が長波長側にシフトし(図11)、本発明のホ−ル注入層が色調制御にも利用できることが分かった。(実施例2の素子が基準例や実施例1の素子と比べて最高電流効率で若干低い値を示しているのは、この干渉効果によるものである。)
【0062】
実施例3
図12に実施例3のトップエミッション構造有機EL素子の積層構造を示す。ガラス基板41上にAl(アルミニウム、仕事関数4.2eV)を10Å/秒の蒸着速度で1000Åの厚さに成膜して陽極電極層42を形成した。その上に金属酸化物であるV25とホ−ル輸送性を有する有機化合物としてのαNPDをモル比率V25:αNPD=4:1で共蒸着し、100Åの厚さの混合膜に成膜して、本発明のホ−ル注入層47を形成した。その上にホ−ル輸送層43としてαNPDを10-6Torr(1Torr=133.32Pa)下で、2Å/秒の蒸着速度で600Åの厚さに成膜し、次に発光層44としてAlqをホ−ル輸送層43と同じ条件で600Åの厚さに真空蒸着して形成した。
【0063】
次に、前記発光層44の上に、本発明者らが特開平11−233262号公報で開示した電子注入層45を形成するため下記式:
【化10】

で表される(8−キノリノラト)リチウム金属錯体層(以下「Liq」という)を10Åの厚さに成膜し、次にAlを15Å蒸着して熱還元反応による電子注入層45を形成した。なお、ホ−ル輸送層43、発光層44及び電子注入層45で発光層を含む有機構造体48を構成している。次に、陰極透明電極層46として、ITOを、発明者らが特開平2001−142672号公報で開示したスパッタリングの手法を用いて4Å/秒の速度で1000Åの厚さに成膜した。発光領域は縦0.2cm、横0.2cmの正方形状とした。
【0064】
実施例3の有機EL素子において、陽極電極層42であるAlと陰極透明電極層46であるITOとの間に、直流電圧を印加し、発光層44(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を図13、図14、図15、図16中に示す。また、実施例3の素子の発光スペクトルを図17に示した。
【0065】
図14に示すように、実施例3の素子の最高輝度は25000cd/m2を超え、電流効率も基準例や実施例1の素子と比べて遜色ない値が得られた(図15、16)ため、本発明のホ−ル注入層はAlのような低仕事関数金属を陽極電極層として用いても良好に機能することが分かった。
【0066】
実施例4
図18に実施例4の有機EL素子の積層構造を示す。実施例4の素子は、通常の有機EL素子とは逆の順番に、すなわち、基板上に、陰極透明電極層、発光層を含む有機構造体、ホ−ル注入層、及び陽極電極層が順に積層されている。ガラス基板51上に陰極透明電極層56として、シ−ト抵抗10Ω/□のITO(インジウム−スズ酸化物、日本板硝子社製)がコ−トされている。その上に電子注入層(金属ドーピング層)55として、BCPとCsをモル比率BCP:Cs=4:1で共蒸着し100Åの厚さの混合膜に成膜した。
【0067】
次に、電子注入層55の上に、発光層54として、Alqを600Åの厚さに真空蒸着して形成した。次に発光層54の上にホ−ル輸送層53としてαNPDを600Åの厚さに形成した。その上に金属酸化物であるV25とホ−ル輸送性を有する有機化合物としてのαNPDをモル比率V25:αNPD=4:1で共蒸着し、100Åの厚さに成膜して、ホ−ル注入層57を形成した。次に、陽極電極層52として、Alを蒸着速度10Å/秒で1000Å(1Å=1×10-10m)蒸着した。発光領域は縦0.2cm、横0.2cmの正方形状とした。なお、ホ−ル輸送層53、発光層54及び電子注入層55で発光層を含む有機構造体58を構成している。
【0068】
実施例4の有機EL素子において、陰極透明電極層52であるITOと陽極電極層56であるAlとの間に、直流電圧を印加し、発光層54(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を、図19、図20、図21、図22に示す。また、実施例4の素子の発光スペクトルを図23に示した。
【0069】
図20に示すように、実施例4の素子の最高輝度は20000cd/m2に達し、電流効率も基準例や実施例1の素子と比べて遜色ない値が得られた(図21、図22)ため、実施例4の有機EL素子は通常の素子と逆順に積層して最後に成膜される陽極電極層の前に、ホ−ル注入層を設けて、かつAlのような低仕事関数金属を陽極電極層として用いても良好に機能することが分かった。
【0070】
実施例5
図24に実施例5の有機EL素子の積層構造を示す。実施例5の素子は、通常の有機EL素子とは逆の順番に、すなわち、基板上に、陰極透明電極層、発光層を含む有機構造体、ホ−ル注入層、及び陽極透明電極層が順に積層されている。ガラス基板61上に陰極透明電極層66として、シ−ト抵抗10Ω/□のITO(インジウム−スズ酸化物、日本板硝子社製)がコ−トされている。その上に電子注入層65として、BCPとCsをモル比率BCP:Cs=4:1で共蒸着し100Åの厚さの混合膜に成膜した。
【0071】
次に、電子注入層65の上に、発光層64としてAlqを600Åの厚さに真空蒸着して形成した。次に発光層64の上にホ−ル輸送層63としてαNPDを600Åの厚さに形成した。その上に金属酸化物であるV25とホ−ル輸送性を有する有機化合物としてのαNPDとをモル比率V25:αNPD=4:1で共蒸着し、1000Åの厚さに成膜して、ホ−ル注入層67を形成した。なお、ホ−ル輸送層63、発光層64及び電子注入層65で発光層を含む有機構造体68を構成している。次に、陽極透明電極層(陽極層)62として、ITOをスパッタリングの手法で成膜速度4Å/秒で1000Å蒸着した。発光領域は縦0.2cm、横0.2cmの正方形状とした。
【0072】
実施例5の有機EL素子において、陰極透明電極層66であるITOと陽極透明電極層62であるITOとの間に、直流電圧を印加し、発光層64(Alq)から緑色発光の輝度を測定した。その結果を図25、図26、図27、図28に示す。これらの図において、ガラス基板(基板)側からの測定結果を白丸プロット(○)で、成膜面側から見た測定結果を黒丸プロット(●)で示した。また、図29において、実施例5の素子のガラス基板(基板)側から見た発光スペクトルを実線で、成膜面側から見た発光スペクトルを図29の点線で示した。
【0073】
実施例5の素子は、ガラス基板側と成膜面側(陽極透明電極層側)のいずれからも発光を観察できる透明な発光素子である。しかし、両発光スペクトルは図29に示すように、干渉効果により互いに異なるものであった。
【0074】
また、実施例5の素子は通常の素子と逆順に積層しており、最後に成膜される陽極電極層の前にホ−ル注入層を設けている。このため、陽極透明電極層62であるITOのスパッタリングプロセスのような高エネルギ−粒子を含むプロセスにおいても、ホール注入層67によって保護されることにより、発光層を含む有機構造体68へのダメ−ジが低減され、ホール注入層67がダメージ低減層として良好に機能することが分かった。
【0075】
なお、本実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、複数の発光ユニット(陰極電極層と陽極電極層に挟まれた層部分、例えば、「(陽極)/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子注入層/(陰極)」という構成の素子の場合は、「ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子注入層」が「発光ユニット」に相当する。)が電荷発生層によって仕切られた構造を採用してもよく、電圧印加時には電荷発生層がホ−ル発生層と電子発生層として機能して、結果的に複数の有機EL素子が直列に接続されたように同時に発光させることができる。電荷発生層は、その陰極電極層側に接する発光ユニットに対してはホ−ル注入層として機能し、またその陽極電極層側に接する発光ユニットに対しては電子注入層として機能しうる。
【0076】
参考例
参考例として、本発明のホール注入層の比抵抗(Ω・cm)を、被測定物の比抵抗の値(レンジ)によって2種類の方法で測定した。
【0077】
第1の測定法(サンドイッチ法)は、比較的比抵抗の大きい物質に対して適当とされる方法で、被測定物の蒸着薄膜を電極で狭持した形態(図30及び図31に示すサンドイッチ構造の比抵抗評価用素子)で測定を行った。印加電圧(V)と被測定物薄膜の膜厚(cm)(つまり電極間距離)から得られる電場E(V/cm)及び観測電流(A)と電流が流れる領域の断面積(cm2)とから得られる電流密度(A/cm2)の比〔(V/cm)/(A/cm2)=(Ω・cm)〕として比抵抗を算出した。
【0078】
具体的には(2mm幅の)ITO電極101上に(場合により2mm幅のAl電極上に)被測定物103を所望の膜厚になるように蒸着し、最後に(同じく2mm幅の)アルミニウム電極102をITO電極101と直交するように成膜して、比抵抗評価用素子を作製した。
【0079】
第2の測定法(並置法)は、比較的比抵抗の小さい物質に対して適当とされる方法で、並置構造の比抵抗評価用素子を用いて測定する。すなわち、図32及び図33に示したように、基板200上の同一平面上に予め陽極電極層201、陰極電極層202となる電極を所定距離(Lcm)隔てて成膜されたものを用意しておき、その上から被測定物203の蒸着薄膜を所定の開口幅(Wcm)を有するエリア規定用金属マスクを介して、所定の膜厚(tcm)を成膜する。この場合得られる電場E(V/cm)は、印加電圧(V)を電極間距離(Lcm)で除して算出され、電流密度(A/cm2)は観測電流(A)を電流が流れる領域の断面積(この場合はW×tcm2)で除して算出される。このようにして得られた値から、前記のサンドイッチ構造の場合と同様に、比抵抗(Ω・cm)を算出した。
【0080】
被測定物は、ITO(透明電極材料)、V25、V25とαNPDの共蒸着膜(V25:αNPD=4:1、1:1、1:2の3種類のモル比)、V25と2−TNATAの共蒸着膜〔V25:2−TNATA=4:1(モル比)〕、CsとBCPの共蒸着膜〔Cs:BCP=1:1(モル比)、実施例中の電子注入層〕〕、α−NPD、Alq3である。ITO、V25とαNPDの共蒸着膜、及びV25と2−TNATAの共蒸着膜については、並置構造の比抵抗評価用素子で測定し、CsとBCPの共蒸着膜、α−NPD及びAlq3については、サンドイッチ構造の比抵抗評価用素子で測定した。さらにα−NPDついては電極からの電荷注入をオ−ミック(ohmic)にするため、本発明のホ−ル注入層の組成である、V25とαNPDの混合膜を両電極に接する部分に50Åと薄く形成した上で、1000Åの厚さのαNPDをサンドイッチして測定した。また、V25については、並置構造とサンドイッチ構造の両方で測定し、測定法によらず略同一の比抵抗が得られることを確認した。
【0081】
図34から算出した比抵抗は以下のとおりである。
(1)並置法で測定
−○− ITO 4.6×10-4Ω・cm
−●−V25 7.2×104Ω・cm
−▲− (V25:αNPD=4:1)の共蒸着膜 2.0×103Ω・cm
−◇− (V25:αNPD=1:1)の共蒸着膜 3.6×104Ω・cm
−+− (V25:αNPD=1:2)の共蒸着膜 2.9×105Ω・cm
−□− (V25:2−TNATA=4:1)の共蒸着膜 5.8×103Ω・cm
【0082】
(2)サンドイッチ法で測定
−△− ITO/V25/Al 2.8×105Ω・cm
−☆− ITO/Cs:BCP/Al 1.7×105Ω・cm
−▼− Al/Alq3/Al 4.8×1013Ω・cm
−★− ITO/αNPD/Al 1.5×1013Ω・cm
−■− ITO/V25:αNPD(50Å)/αNPD(1000Å)/V25:αNPD(50Å)/Al 8.0×108Ω・cm
この結果に示すように、V25を含むホール注入層の比抵抗は、1.0×102Ω・cm以上かつ1.0×1010Ω・cm未満の範囲内にある。
【0083】
図35に示されるとおり、本実施形態の金属酸化物と有機化合物の混合膜であるホ−ル注入層は、両物質の混合によりそれぞれの物質が単独では示すことのない低い比抵抗を示し、この事実によっても電子移動に伴う酸化還元反応の存在が示唆されており、ひいては素子の低駆動電圧化と高効率化にこのホ−ル注入層が有効である基礎的な証明となっている。
【0084】
なお、本実施形態のホ−ル注入層の膜厚は、特に制限はないが5Å以上とすることが好ましい。このホ−ル注入層中では無電場の状態でもアリ−ルアミン化合物がラジカルカチオンの状態で存在し、内部電荷として振る舞えるので膜厚には特に上限はなく、その低い比抵抗値の故に厚膜にしても素子の電圧上昇をもたらすことがないので電極間の距離を通常の有機EL素子の場合よりも長く設定することにより短絡の危険性を大幅に軽減する手段としても有用である。したがって電極間の総膜厚を2000Å以上にしても、通常の有機EL素子と変わらない低電圧駆動が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1、42、52 陽極電極層
2、28、38、48、58、68 発光層を含む有機構造体
3、27、37、47、57、67 ホ−ル注入層
21、31、41、51、61 ガラス基板
22、32、62 陽極電極層(陽極透明電極層)
23、33、43、53、63 ホール輸送層
24、34、44、54、64 発光層
25、35、45、55、65 電子注入層
26、36 陰極電極層(陰極層)
46、56、66 陰極電極層(陰極透明電極層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極層と、前記陽極電極層と対向して配置された陰極電極層と、前記陽極電極層と前記陰極電極層との間に位置する、前記陽極電極層に接するホ−ル注入層と、少なくとも一層の発光層と、を有し、前記陽極電極層と前記陰極電極層の少なくとも一方は透明である有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記ホ−ル注入層は、ダメージ低減層として機能し、金属酸化物と有機化合物との混合膜を含み、前記混合膜は共蒸着によって形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
対向する陽極電極と陰極電極の間に、少なくとも一層の発光層を含む発光ユニットを複数個有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、前記発光ユニットのそれぞれが少なくとも一層からなる電荷発生層によって仕切られており、前記電荷発生層が1.0×102 Ω・cm以上の比抵抗を有する電気的絶縁層であり、前記陽極電極に接するホール注入層が請求項1に記載のホール注入層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記混合膜中の前記有機化合物は、イオン化ポテンシャルが5.7eVより小さく、ホ−ル輸送性を有し、前記混合膜は、前記金属酸化物と前記有機化合物間との酸化還元反応によって生成した前記有機化合物のラジカルカチオンと前記金属酸化物のラジカルアニオンからなる電荷移動錯体を有し、前記電荷移動錯体中の前記ラジカルカチオンが、電圧印加時に前記陰極電極層の方向へ移動することにより、前記発光層へホ−ルが注入されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記有機化合物は、一般式
【化1】

で示されるアリ−ルアミン化合物であることを特徴とすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。ただし、Ar1、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に置換基を有してよい芳香族炭化水素基を表わす。
【請求項5】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記有機化合物は、フタロシアニン誘導体を含むポルフィリン化合物誘導体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンント素子において、前記有機化合物は、ガラス転移点が90℃以上であるアリ−ルアミン化合物であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記有機化合物であるアリ−ルアミン化合物は、α−NPD、2−TNATA、スピロ−TAD又はスピロ−NPBであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物がV25又はRe27であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項9】
請求項1、3乃至8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、基板上に、前記陽極電極層、前記ホ−ル注入層、前記発光層を含む有機構造体、及び前記陰極電極層が順に積層されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項10】
請求項1、3乃至8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、基板上に、前記陰極電極層、前記発光層を含む有機構造体、前記ホ−ル注入層、及び前記陽極電極層が順に積層されている有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項11】
請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物と前記有機化合物の混合比率が前記陽極電極層側から前記発光層を含む有機構造体側にかけて、連続的に変化していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項12】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物と前記有機化合物の混合比率が前記陽極電極層側から前記発光層を含む有機構造体側にかけて、連続的に変化していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項13】
請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物と前記有機化合物の混合比率が前記陽極電極層側から前記発光層を含む有機構造体側にかけて、不連続に変化していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項14】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物と前記有機化合物の混合比率が前記陽極電極層側から前記発光層を含む有機構造体側にかけて、不連続に変化していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項15】
請求項10、12及び14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極電極層がスパッタリング法で成膜され、かつ前記混合膜がスパッタリングプロセス時のダメ−ジを低減するための緩衝層として機能している有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項16】
請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記スパッタリング法に使用されるスパッタリング装置は、所定距離隔てて対向配置した一対のタ−ゲットの各々の周辺の前方に電子を反射する反射電極を設けると共に、磁界発生手段により各タ−ゲットの周辺部の近傍にその面に平行な部分を有する平行磁界を形成した対向タ−ゲット式スパッタリング装置である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、前記金属酸化物が抵抗加熱蒸着法、電子ビ−ム蒸着法、又はレ−ザ−ビ−ム蒸着法によって成膜されている有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項18】
請求項1乃至請求項16のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子において、金属酸化物と有機化合物の混合膜であるホ−ル注入層の比抵抗が、1.0×102Ω・cm以上かつ1.0×1010Ω・cm未満の範囲であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2010−34594(P2010−34594A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258054(P2009−258054)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【分割の表示】特願2003−358402(P2003−358402)の分割
【原出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【出願人】(501231510)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】