説明

有機ケイ素化合物、その製造方法、及びその有機ケイ素化合物を接着性付与剤として含む硬化性シリコーン組成物

【課題】硬化性シリコーン組成物用接着性付与剤の原料として有用な有機ケイ素化合物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】新規な有機ケイ素化合物は式(1)で表され、この化合物はアルケニル官能性コハク酸無水物と特定構造を有する有機ケイ素化合物とのヒドロシリル化反応によって製造できる。


式(1)の化合物は硬化性シリコーン組成物のための接着性付与剤として有用である。式(1)の化合物を硬化性シリコーン組成物に添加することによって、アルミニウム又はポリフェニレンサルファイドに対する硬化性シリコーン組成物の接着力を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機ケイ素化合物およびその製造方法、ならびにその有機ケイ素化合物を接着性付与剤として含む硬化性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し且つ25℃での粘度が10mPa・s以上の液状又は固体状のオルガノポリシロキサン、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、かつ25℃での粘度が1,000mPa・s以下であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又はオルガノハイドロジェンシラン、ヒドロシリル化反応用触媒、一分子中に、ケイ素原子結合水素原子、オルガノオキシシリル基及びケイ素原子結合アルケニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基とエポキシ基とを有するケイ素化合物、および液状酸無水物を少なくとも含む硬化性シリコーン組成物が開示されている。また特許文献2には、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、三官能性シロキサン単位及び四官能性シロキサン単位から選ばれる少なくとも一種の分岐形成単位を含有する三次元状のオルガノポリシロキサンレジン、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ヒドロシリル化反応用触媒、接着性付与剤としての有機ケイ素化合物、および室温で液体の酸無水物を少なくとも含む硬化性シリコーン組成物が開示されている。
【0003】
しかし、このような硬化性シリコーン組成物といえども、比較的低温で硬化させた場合には、PPSなどの難接着性樹脂に対しては十分な接着性を発現できないという問題があった。
【0004】
特許文献3及び特許文献4には、有機ケイ素化合物として、アリルコハク酸無水物等のアルケニル基置換コハク酸無水物とトリアルコキシシランとのヒドロシリル化反応により得られるコハク酸無水物基含有オルガノシラン化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−327777号公報
【特許文献2】特開2008−169386号公報
【特許文献3】特開昭59−137493号公報
【特許文献4】特開平07−126272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の公知のコハク酸無水物基含有オルガノシラン化合物を付加反応硬化型シリコーンゴム組成物用の接着性付与剤として使用した場合でも、特にポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)などの難接着性基材へのシリコーンゴム組成物の接着性は満足できるものではなかった。
【0007】
本発明の目的は新規な有機ケイ素化合物、その製造方法、及びその有機ケイ素化合物からなる硬化性シリコーン組成物用接着性付与剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、 下記一般式(1)
【化1】

(R1は炭素原子数3〜12の置換または非置換の飽和二価炭化水素基または不飽和炭素−炭素二重結合もしくは三重結合を有する置換または非置換の二価炭化水素基(ただし、R1が分岐鎖である場合は分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有さず、R1が置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない)であり、R2は炭素原子数1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、R3は炭素原子数1〜18の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基またはアルコキシアルキル基であり、R4は炭素原子数1〜12の置換または非置換の二価炭化水素基(ただし、R4が分岐鎖である場合は分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有さず、R4が置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない)であり、R5はそれぞれ独立に、炭素原子数が1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、mは0〜20の整数であり、nは0、1または2である。)で示される、無水コハク酸基と有機ケイ素基とを有することを特徴とする有機ケイ素化合物に関するものである。
また、本発明は、上記の有機ケイ素化合物からなる、硬化性シリコーン組成物用接着性付与剤に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機ケイ素化合物は、当該化合物を硬化性シリコーン組成物に配合した場合、当該硬化性シリコーン組成物を比較的低温で硬化させた場合でも、PPSなどの難接着性樹脂に対して良好な接着性を示し、接着強度に優れるという特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)
【化2】

で示されるコハク酸無水物官能性有機ケイ素化合物である。式(1)中、R1は炭素原子数3〜12の置換または非置換の飽和二価炭化水素基又は不飽和炭素−炭素二重結合もしくは三重結合を有する置換または非置換の二価炭化水素基である。R1は直鎖状であることが好ましいが分岐していてもよい。ただし、R1が分岐鎖である場合は、分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含有しない。また、R1が置換基を有する場合は、置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない。
R1としては、炭素原子数が3〜12のアルキレン基、側鎖にフェニル基及び/又はシクロアルキル基を有する置換アルキレン基、アルキレン・アリーレン・アルキレン基、アリーレン・アルキレン基(例えば、-C6H4-CH2CH2-基)、及びフェニレン基が例示できる。とりわけ、R1は炭素原子数3〜12のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状の炭素原子数3〜10のアルキレン基であることが特に好ましい。
【0011】
R1の具体例としては、
【化3】

が挙げられる。
【0012】
式(1)中、R2は、炭素原子数が1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、及びデシル基などのアルキル基;3−クロロプロピル基および3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基;並びにフェニル基、トリル基及びキシリル基などのアリール基が例示される。R2はアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
【0013】
式(1)中、R3は、炭素原子数が1〜18の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基またはアルコキシアルキル基である。炭化水素基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、デシル基、ドデシル基、及びヘキサデシル基などのアルキル基が例示される。アルコキシアルキル基としては例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシ、プロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、プロポキシメチル基、プロポキシエチル基、プロポキシプロピル基などの炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基が例示される。R3はアルキル基、特にエチル基またはメチル基であることが好ましい。
【0014】
式(1)中、R4は炭素原子数1〜12の、置換または非置換の飽和二価炭化水素基又は不飽和炭素−炭素二重結合もしくは三重結合を有する置換または非置換の二価炭化水素基であり、この二価炭化水素基は直鎖状であることが好ましいが分岐していてもよい。ただし、この二価炭化水素基が、分岐鎖の分子鎖末端及び置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しないことを条件とする。
【0015】
R4としては、鎖状の−CH2−、
−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−、及び−CH(CH3)-CH2−などの炭素原子数が1〜12のアルキレン基、側鎖にフェニル基やシクロアルキル基を有する炭素原子数が8〜21の置換アルキレン基、炭素原子数が8〜21のアルキレン・アリーレン・アルキレン基、炭素原子数が8〜21のアリーレン・アルキレン基(例えば、-C6H4-CH2CH2-基)、及びフェニレン基が例示できる。中でもR4は炭素原子数1〜12のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状の炭素原子数2〜9のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0016】
R4の具体例としては、
【化4】

が挙げられる。
【0017】
式(1)中、R5はそれぞれ独立に、炭素原子数が1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、及びデシル基などのアルキル基;3−クロロプロピル基および3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基;並びにフェニル基、トリル基及びキシリル基などのアリール基が例示される。R5はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基、特に、メチル基、エチル基、シクロへキシル基及びフェニル基からなる群から選択されることが好ましく、メチル基がもっとも好ましい。-Si(R5)(R5)-の例として下記の構造を挙げることができる。
【0018】
【化5】

【0019】
式(1)中、nは0、1または2であり、0または1であることが特に好ましい。
【0020】
式(1)中、mは0〜20の整数であり、0〜10の整数であることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、1または2であることが特に好ましい。

【0021】
式(1)で表されるこのような新規なコハク酸無水物官能性有機ケイ素化合物の例としては、以下のものが挙げられる。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
これらのなかでも、蒸留によって高純度なものを製造しやすい点、及び原料の入手が容易である点から、下記の化合物が特に好ましい。
【0026】
【化9】

【0027】
上記一般式(1)で表される新規化合物は、下記一般式(2)
【化10】

で示されるアルケニル官能性コハク酸無水物と、下記一般式(3)
【化11】

で示される有機ケイ素化合物とを反応させて製造することができる。
【0028】
上記式(2)中、R6は、炭素原子数1〜10の置換または非置換の二価炭化水素基であり、炭素原子数が2〜10の不飽和炭素−炭素二重結合を有する置換または非置換の二価炭化水素基であってもよい。この二価炭化水素基は直鎖状であることが好ましいが分岐していてもよい。ただし、この二価炭化水素基が分岐鎖である場合は分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有さず、これが置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しないことを条件とする。R6は特に直鎖状の炭素原子1〜8のアルキレン基であることが好ましい。式(3)において、R2、R3、R4、R5、m、及びnは式(1)に対して定義したとおりである。
【0029】
なお、一般式(3)で表される有機ケイ素化合物は、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシリル基封鎖ジオルガノシロキサンオリゴマーとアルケニル基含有アルコキシシランまたはアルケニル基含有アルコキシアルコキシシランなどのアルケニル基含有オルガノシランとのヒドロシリル化反応により容易に製造することができる。ヒドロシリル化反応を行う際の、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシリル基封鎖ジオルガノシロキサンオリゴマーとアルケニル基含有オルガノシランとのモル比は、0.8:1.0〜1.2:1.0の範囲であることが好ましい。
【0030】
アルケニル官能性コハク酸無水物(2)と有機ケイ素化合物(3)とを反応させる場合に、アルケニル官能性コハク酸無水物1モルに対して有機ケイ素化合物(3)を1.0〜10.0モル用いて反応させるのが好ましく、1.0〜1.5モル用いて反応させるのがさらに好ましい。これは、アルケニル官能性コハク酸無水物1モルに対して有機ケイ素化合物(3)を1モル以上用いることによって、アルケニル官能性コハク酸無水物が未反応で多量に残存してしまうことを防止でき、目的物の収率を高くできるためであり、一方、アルケニル官能性コハク酸無水物1モルに対して有機ケイ素化合物(3)の使用量を10.0モル以下にすることによって、有機ケイ素化合物(3)が多量に残存することによる、製造時のポットイールドの低下を抑えることができ、コスト的に有利だからである。
【0031】
アルケニル官能性コハク酸無水物と有機ケイ素化合物(3)の反応装置内への導入方法は任意の方法を用いることができるが、これらの化合物の混合モル比が、上述した範囲から外れないようにすることが好ましい。また、加熱条件下で、アルケニル官能性コハク酸無水物中に有機ケイ素化合物(3)を導入してもよいし、またその逆でもよい。この反応を加熱して行う場合の温度は、後述する好適な反応温度の範囲内であることが好ましい。
【0032】
アルケニル官能性コハク酸無水物と有機ケイ素化合物(3)との反応温度は目的とする反応が進行するかぎり特に限定されず、任意の温度でこの反応を行うことができるが、反応は加熱下でおこなってもよい。その場合、反応温度は100℃〜180℃の範囲であることが好ましい。反応温度を100℃以上にすることによって、反応温度を速くして目的物を製造するために時間を短縮することができるためにコスト的に有利である。一方、反応温度を180℃以下にすることによって、生成物が着色する可能性を低減することができる。
【0033】
本発明の反応は任意の圧力で行うことができ、特に圧力に関する制限はない。しかし、用いる原料の沸点との関係によって、常圧で加熱した場合に目的とする温度に到達しない場合や、常圧における反応では反応の完結までに必要な時間が著しく長い場合は、加圧下で反応を行ってもよい。 この場合の圧力は任意の圧力であることができるが、1kPaから5kPaの範囲であることが望ましい。本発明の反応を1kpa以上で行うことによって、目的生成物の収率の低下が起こりにくい。
【0034】
上記の反応は、不活性ガス下、例えば、窒素及びアルゴンなどから選択される不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。また原料であるアルケニル官能性コハク酸無水物と有機ケイ素化合物(3)に含まれる水分量もできるかぎり少なくすることが好ましい。
【0035】
また、本発明の反応においては、必要に応じて有機溶媒、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、エチレンクロライド、クロロホルム、トリクロロエチレン、及びシクロヘキサンなどから選択される、活性水素を含まない有機溶媒を反応溶媒として使用してもよい。しかし、極性が低い溶媒を用いた上記反応を行った場合には反応効率が低下する場合があるので、これらの有機溶媒を使用しないことが一般的には好ましい。
【0036】
上記式(2)の化合物と有機ケイ素化合物(3)とのヒドロシリル化反応に用いる触媒は、式(3)中のケイ素原子結合水素原子(すなわち、ケイ素原子に結合した水素原子)が式(2)中のアルケニル基へ付加する反応を促進するための触媒であり、例えば、長周期型周期律表における第VIII属遷移金属系の触媒が挙げられ、好ましくは、白金系触媒である。このような白金系触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、及び白金のカルボニル錯体が例示できる。用いる触媒量は目的の反応が進行する限り、特に限定されない。
【0037】
本発明の式(1)で表される新規な有機ケイ素化合物は、硬化性シリコーン組成物の接着性付与成分として有用である。硬化性シリコーン組成物としては、分子鎖末端に不飽和基を含有するシリコーン化合物とSi−H基含有シリコーン化合物との間の付加反応によって架橋且つ硬化する当分野で公知の付加硬化反応型シリコーン組成物であってもよく、水酸基やアルコキシ基などの加水分解性基含有シリコーン化合物の縮合反応によって架橋且つ硬化する当分野で公知の縮合反応硬化型のシリコーン組成物であってもよい。本発明の式(1)で表される新規な有機ケイ素化合物は、とりわけ、付加反応硬化型シリコーン組成物用の接着性付与成分として有用である。例えば本発明の新規な有機ケイ素化合物を配合した付加反応硬化性シリコーン組成物は、難接着性のPPS(ポリフェニレンサルファイド)やアルミダイキャストへの低温接着性及び接着強度が優れている。
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。実施例中%は質量%を意味し、粘度は25℃で測定した値であり、Meはメチル基を、Viはビニル基を意味する。
【実施例1】
【0039】
[実施例1]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサーおよび滴下漏斗を備えた50 ミリリットルの4つ口フラスコに、アリルコハク酸無水物(和光純薬工業製, 14.01 g, 0.1 モル)、白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(アリルコハク酸無水物に対して錯体中の白金金属が15 ppmとなる量)を投入し、反応混合物を100℃に加熱して攪拌した。続いて、1-ハイドロジェン-3-(2’-トリメトキシシリルエチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン (28.26 g, 0.1 モル)を1時間かけて滴下した。その際、発熱するため、フラスコを適宜冷却しながら反応をおこなった。ハイドロジェンシロキサンの滴下終了後、反応混合物を110℃で1時間さらに攪拌し、反応を完結させた。その後、反応溶液を減圧蒸留して、32.40gの主留分を得た(収率 76.7 %, 沸点211 - 213℃ / 1 torr)。核磁気共鳴スペクトル分析、及びガスクロマトグラフ質量分析の結果から、このものは、下記に示す化合物であることがわかった。
【0040】
【化12】

【0041】
上記化合物の13C NMRスペクトルの解析結果を以下に示す。
【0042】
【化13】

【実施例2】
【0043】
[実施例2]
実施例1において、1-ハイドロジェン-3-(2’-トリメトキシシリルエチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの代わりに1-ハイドロジェン-3-(1’-トリメトキシシリル-1’-メチル-メチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン を用いた以外は、実施例1と同様にアリルコハク酸無水物とハイドロシラン化合物とのヒドロシリル化反応をおこなった。反応溶液を減圧蒸留して、28.1gの主留分を得た(収率 66.5%, 沸点201 - 203 ℃ / 1 torr)。
核磁気共鳴スペクトル分析及びガスクロマトグラフ質量分析の結果から、このものは、下記に示す化合物であることがわかった。
【0044】
【化14】

【0045】
上記化合物の13C NMRスペクトルの解析結果を以下に示す。
【0046】
【化15】

【実施例3】
【0047】
[応用例1(実施例)]
粘度50Pa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ポリジメチルシロキサン50質量部、平均単位式:(MeViSiO1/2(MeSiO1/240(SiO4/256で表されるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量約20,000のシリコーンレジン 10質量部、平均粒子径2μmの石英微粉末(U.S. Silica Company社製のMIN−U−SIL(登録商標)5)40質量部、式:(MeSiO1/2)(MeSiO2/230(MeHSiO1/230(MeSiO1/2)で表される粘度44センチストークスのジメチルハイドロジェン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体 3質量部、実施例1で調製した化合物 1質量部、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1.2質量部、反応抑制剤として、本硬化性シリコーン組成物中1000ppmとなる量の2−フェニル−3−ブチン−2−オール、白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(本硬化性シリコーン組成物中白金金属として8ppmとなる量)を均一に混合して硬化性シリコーン組成物を調製した。
得られた硬化性シリコーン組成物の接着性をJIS K 6850に規定の引張せん断接着強さ試験方法に準拠して測定した。
すなわち、100mm×20mm×1.6mmのPPS製被着材と100mm×20mm×1.6mmのアルミ製被着材を用い、これらの被着材の間に硬化性シリコーン組成物からなる接着層を10mm×20mm×1mmとなるように形成し、これを120℃で30分間加熱して前記組成物を硬化させて試験片を作製した。この試験片の引張せん断接着強さを引っ張り速度50mm/分で測定し、測定後のPPS(ポリフェニレンサルファイド)製被着材の接着界面の状態を観察し、シリコーン硬化物が凝集破壊した割合をCF率(凝集破壊率)として示した。CF率が0%の場合はAF(界面破壊)と示した。
また、比較として、100mm×20mm×1.6mmのアルミ製被着材の間に、硬化性シリコーン組成物からなる接着層を10mm×20mm×1mmとなるように形成し、これを120℃で30分間加熱して前記組成物を硬化させて試験片を作製した。上記と同様にして、引張せん断接着強さを測定し、測定後のアルミ製被着材の接着界面の状態を観察し、シリコーン硬化物が凝集破壊した割合をCF率(凝集破壊率)として示した。
得られた結果を表1に示した。
【実施例4】
【0048】
[応用例2(実施例)]
実施例1で調製した化合物 1質量部に替えて実施例2で調製した化合物 1質量部を使用した以外は応用例1と同様にして硬化性シリコーン組成物を調製した。得られた硬化性シリコーン組成物を応用例1と同様にして接着性を評価し、結果を表1に示した。
【実施例5】
【0049】
[応用例3(比較例)]
実施例1で調製した化合物 1質量部に替えて下式で表される化合物 1質量部を使用した以外は応用例1と同様にして硬化性シリコーン組成物を調製した。
【0050】
【化16】

【0051】
得られた硬化性シリコーン組成物を応用例1と同様にして接着性を評価し、結果を表1に示した。
【実施例6】
【0052】
[応用例4(比較例)]
実施例1で調製した化合物 1質量部に替えてアリルコハク酸無水物 1質量部を使用した以外は応用例1と同様にして硬化性シリコーン組成物を調製した。
得られた硬化性シリコーン組成物を応用例1と同様にして接着性を評価し、結果を表1に示した。
【実施例7】
【0053】
[応用例5(比較例)]
実施例1で調製した化合物 1質量部を配合しなかった以外は応用例1と同様にして硬化性シリコーン組成物を調製した。
得られた硬化性シリコーン組成物を応用例1と同様にして接着性を評価し、結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の無水コハク酸基含有有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤、コーティング剤、無機材料表面処理剤、繊維処理剤、接着性付与剤としての有機樹脂用添加剤、及び/または高分子変性剤として有用である。特に付加硬化型硬化性シリコーン組成物や縮合反応硬化性シリコーン組成物の接着性付与剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(R1は炭素原子数3〜12の置換または非置換の飽和二価炭化水素基または不飽和炭素−炭素二重結合もしくは三重結合を有する置換または非置換の二価炭化水素基(ただし、R1が分岐鎖である場合は分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有さず、R1が置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない)であり、R2は炭素原子数1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、R3は炭素原子数1〜18の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基またはアルコキシアルキル基であり、R4は炭素原子数1〜12の置換または非置換の二価炭化水素基(ただし、R4が分岐鎖である場合は分岐鎖の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有さず、R4が置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない)であり、R5はそれぞれ独立に、炭素原子数が1〜10の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基であり、mは0〜20の整数であり、nは0、1または2である。)で示される、無水コハク酸基と有機ケイ素基とを有することを特徴とする有機ケイ素化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の有機ケイ素化合物からなる、硬化性シリコーン組成物用接着性付与剤。
【請求項3】
一般式(2)
【化2】

(R6は炭素原子数1〜10の置換または非置換の二価炭化水素基(ただし、この二価炭化水素基が分岐鎖である場合は分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有さず、置換基を有する場合は置換基の分子鎖末端に脂肪族不飽和結合を有しない)で示されるアルケニル官能性コハク酸無水物と、
下記一般式(3)
【化3】

(R2,R3,R4,R5,m,及びnは請求項1で定義した通りである。)で示される有機ケイ素化合物とをヒドロシリル化反応させることによる、請求項1に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−136962(P2011−136962A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298662(P2009−298662)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】