説明

有機ケイ素化合物、それを含む有機ケイ素化合物組成物、ゴム組成物、プライマー組成物、塗料組成物、接着剤、及びタイヤ

【課題】ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物を提供する。また、該化合物を含む有機ケイ素化合物組成物、ゴム組成物、プライマー組成物、塗料組成物、接着剤及び上記ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】有機物に対する反応基aを一つ以上有し、窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bを一つ以上有することを特徴とする有機ケイ素化合物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を含む有機ケイ素化合物組成物、ゴム組成物、プライマー組成物、塗料組成物、接着剤及び上記ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特には、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させると共に、耐摩耗性を向上させることが可能な有機ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、車両の安全性の観点から、タイヤの湿潤路面における安全性を向上させることが求められている。また、環境問題への関心の高まりに伴う二酸化炭素の排出量の削減の観点から、車両を更に低燃費化することも求められている。
【0003】
これらの要求に対し、従来、タイヤの湿潤路面における性能の向上と転がり抵抗の低減とを両立する技術として、タイヤのトレッドに用いるゴム組成物の充填剤としてシリカ等の無機充填剤を用いる手法が有効であることが知られている。しかしながら、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、湿潤路面における制動性を向上させ、操縦安定性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要するため、作業性に問題がある。そのため、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物においては、破壊強力及び耐摩耗性が大幅に低下し、加硫遅延や充填剤の分散不良等の問題を生じる。
【0004】
そこで、トレッド用ゴム組成物にシリカ等の無機充填剤を配合した場合、ゴム組成物の未加硫粘度を低下させ、モジュラスや耐摩耗性を確保し、また、ヒステリシスロスを更に低下させるためには、シランカップリング剤を添加することが必須となっている(特許文献1、2参照)。また、該シランカップリング剤は、プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤等のゴム組成物以外の用途にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,842,111号
【特許文献2】米国特許第3,873,489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シランカップリング剤は高価であるため、シランカップリング剤の配合によって、配合コストが上昇してしまう。また、分散改良剤の添加によっても、ゴム組成物の未加硫粘度が低下し、作業性が向上するが、耐摩耗性が低下してしまう。更に、分散改良剤がイオン性の高い化合物の場合には、ロール密着等の加工性の低下も見られる。また更に、本発明者が検討したところ、充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合しつつ、従来のシランカップリング剤を添加しても、ゴム組成物のヒステリシスロスの低減と耐摩耗性の向上とを十分満足できるレベルにすることができず、依然として改良の余地が有ることが分かった。また、シランカップリング剤は、上述のように、プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤等にも用いられるが、被着体が有機材料と無機材料からなるハイブリッド材料の場合、従来のシランカップリング剤は、プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤等では、有機材料と無機材料との界面の接着性や親和性が十分とはいえず、依然として改良の余地が有ることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる化合物を含む有機ケイ素化合物組成物、ゴム組成物、プライマー組成物、塗料組成物、接着剤及びゴム組成物を用いたタイヤを提供することにある。
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、有機物に対する反応基aを一つ以上有し、窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bを一つ以上有する有機ケイ素化合物は、シリカ等の無機充填剤との反応速度が高いため、該有機ケイ素化合物を無機充填剤と共にゴム成分に配合することで、カップリング反応の効率が向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上できる上、該有機ケイ素化合物が有機材料と無機材料からなるハイブリッド材料の界面の接着改善や親和性向上にも効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の有機ケイ素化合物は、有機物に対する反応基aを一つ以上有し、窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bを一つ以上有することを特徴とする。
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物においては、前記有機物が、樹脂及び/又はエラストマーであることが好ましい。
【0011】
本発明の有機ケイ素化合物においては、前記エラストマーが、ジエン系ゴムであることが好ましい。
【0012】
本発明の有機ケイ素化合物においては、前記反応基aが、一つ以上の硫黄原子を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の有機ケイ素化合物においては、前記反応基aの数が、2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜3であることが更に好ましい。
【0014】
本発明の有機ケイ素化合物としては、前記構造bが、下記一般式(b−1):
【化1】




[上記式(b−1)中、Mは、−O−、−S−,−NC2m+1−又は−CH2−(但し、mは0〜10)であり、Rは、−C2l−(但し、lは0〜10)で、Rは、−C2l−R11であり、(但し、R11は、−NR89又は−C2m+1であり、Rは、−Cn2n+1であり、R9は、−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立に、0〜10である)]で表される構造bを含む有機ケイ素化合物が好ましい。
【0015】
また、本発明の有機ケイ素化合物が、ケイ素原子間の窒素を含む原子団以外の位置に、前記反応基aを有することがより好ましい。
【0016】
さらに、前記反応基aが、下記一般式(a−1)〜(a−3){(a−1)、(a−2)又は(a−3)}:
【化2】

[ここで、上記式(a−1)〜(a−3)中、l及びmは上記と同義であり、xは、1〜10であり、
上記式(a−1)中、Aは、水素又は下記一般式(a−4)〜(a−11){(a−4)、(a−5)、(a−6)、(a−7)、(a−8)、(a−9)、(a−10)又は(a−11)}:
【化3】

(式(a−4)〜(a−11)中、l、m及びnは上記と同義である)で表される]から選択される有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の有機ケイ素化合物が、下記一般式(I):
【化4】

[式(I)中、M、R、R、A及びxは上記と同義であり、2箇所あるj及びkは、同一でも異なっても良く、
3は、下記一般式(Ia)又は式(Ib):
【化5】

(式中、M’は、−O−又は−CH2−で、X及びYは、それぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は、−OR8、−NR89又は−R8で、R7は、−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8、及び−Cl2l+1(但し、R8、R9、l、m、n及びqは上記と同義である))で表わされ、
は、下記一般式(Ic)又は式(Id):
【化6】

(式中、M’、X、Y、R6、l及びmは、上記と同義であり、R10は、−NR8−、−NR8−NR8−、−N=N−(但し、R8は上記と同義である)、或いは、−M’−Cl2l−(但し、M’及びlは上記と同義である)で表わされる]で表される構造を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明の有機ケイ素化合物が、下記一般式(II):
【化7】

[ここで、前記式(II)中、M、R、R、R、R、x、i、j及びkは、上記と同義であり、
が、−R−S−A又は下記一般式(IIa):
【化8】

(式(IIa)中、M’及びmは、上記と同義である)であり、
が、下記一般式(b−2)、(b−3)又は(b−4):
【化9】

(式(b−2)、(b−3)及び(b−4)中、M、R、R、R及びRは、上記と同義であり、式(b−2)及び(b−3)中、xは、上記と同義であり、2箇所以上にあるi、j及びkは、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、式(b−4)中、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、
式(b−2)及び(b−3)中、l及びmは上記と同義であり、
Bが、A又は上記一般式(b−4)で表される)
で表される構造を有することがより好ましい。
【0019】
また、本発明の有機ケイ素化合物としては、前記M及びM’が−O−であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の有機ケイ素化合物組成物は、上記の有機ケイ素化合物を含む。
【0021】
本発明の有機ケイ素化合物組成物が、下記一般式(III):
【化10】

[式中、M、R、R、R、R及びxは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、
は、水素又は上記一般式(a−4)〜(a−11)、(b-4)若しくは下記一般式(b−5):
【化11】

(式中、M、R、R、R、R、x、l及びmは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良い。)で表される]で表される有機ケイ素化合物を更に含むことが好ましい。ここで、本発明の有機ケイ素化合物組成物は、上記一般式(III)で表される化合物を30質量%以上含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明の有機ケイ素化合物組成物としては、前記M及びM’が−O−であることが好ましい。
【0023】
また、本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上記の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上記の有機ケイ素化合物組成物(C’)とを配合してなることを特徴とする。
【0024】
本発明のゴム組成物は、前記ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、
更に、上記の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上記の有機ケイ素化合物組成物(C’)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことが好ましい。
【0025】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムである。ここで、該シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。
【0026】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0027】
更に、本発明のプライマー組成物は、上記の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上記の有機ケイ素化合物組成物(C’)を含むことを特徴とし、本発明の塗料組成物は、上記の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上記の有機ケイ素化合物組成物(C’)を含むことを特徴とし、本発明の接着剤は、上記の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上記の有機ケイ素化合物組成物(C’)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、特定の反応基aを一つ以上有し、特定の構造bを一つ以上有する有機ケイ素化合物は、シリカ等の無機充填剤との反応速度が高いため、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な有機ケイ素化合物を提供することができる。また、かかる化合物を含む有機ケイ素化合物組成物、ゴム組成物、プライマー組成物、塗料組成物、接着剤及び上記ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<有機ケイ素化合物>
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、有機物に対する反応基aを一つ以上有し、窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bを一つ以上有することを特徴とする。さらに、好適な実施態様の1例としては、上記式(b−1)で表されるb1構造を含むことが好ましい。
該有機ケイ素化合物は、分子構造中の2つのケイ素原子間に、シリカ等の無機充填剤の表面との親和性が高い窒素原子を含むため、窒素原子の非共有電子対が、シランカップリング剤とシリカ等の無機充填剤の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速い。そのため、従来のシランカップリング剤に代えて、上記有機ケイ素化合物を無機充填剤配合ゴム組成物に添加することで、カップリング効率が向上し、その結果として、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、添加効率が高いため、少量でも高い効果が得られ、配合コストの低減にも寄与する。
ここで、有機物としては、樹脂及びエラストマーが挙げられる。また、樹脂は、天然樹脂であっても合成樹脂であってもよく、例えば、天然の高分子量化した樹脂状物質や化石資源等を原料に人工的に重合化学反応で高分子量化した樹脂状物質等が挙げられる。また、エラストマーは、室温でゴム弾性を有する高分子物質をいう。ここで、樹脂としては、天然樹脂や汎用樹脂やエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックが挙げられ、より具体的には、セルロース樹脂、ポリエチレン、ポリプロプリレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、生分解性プラスチック等が挙げられる。また、エラストマーとしてはジエン系ゴムが好ましく、該ジエン系は、天然ゴムであっても合成のジエン系ゴムであってもよい。ここで合成のジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0030】
<<b1構造>>
1構造は、上記式(b−1)で表される。上記式(b−1)中、Mは、−O−、−S−,−NC2m+1−又は−CH2−であり、ここで、mは0〜10である。なお、mが0〜10であるため、−C2m+1は、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
また、Rは、−C2l−であり、ここで、lは0〜10である。なお、lが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
また、Rは、−C2l−R11であり、ここで、R11は、−NR89又は−C2m+1であり、Rは、−Cn2n+1であり、R9は、−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立に、0〜10である。なお、−C2l−、−C2m+1については、上述の通りであり、n及びqが0〜10であるため、−Cn2n+1、−Cq2q+1は、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基については、上述の通りである。
【0031】
<<反応基a>>
また、該反応基aが、一つ以上の硫黄原子を含むことが好ましく、該硫黄原子が、有機物、特にジエン系ゴムと好適に反応するためである。さらに、上記反応基aが、上記式(a−1)〜(a−3)で表されることがより好ましい。ここで、xは1〜10であり、xは1〜4の範囲が好ましい。
上記式(a−1)中、Aは、水素及び上記式(a−4)〜(a−11)から選択されることが更に好ましい。これら、−C2l+1、−C2m+1、−Cn2n+1の水素又はアルキル末端とする、カルボニル基(−C=O−)、ジカルボニル基(−C=O−C=O−)、アルコキシメチル基(−C−O−)、チオカルボニル基(−C=S−)、スルフィド基(−S−)、カルボニルメチル基(−C−C=O−)と2−カルボニルエチル基(−C−C−C=O−)ビニル基(−C=C−)のいずれかを特性基として有する構造が、反応基aの一つ以上の硫黄原子の末端に連結することで、反応基aとジエン系ゴムとがより好適に反応するためである。また、上記式(a−3)中、l及びmは上記と同義であり、−C2l+1−、−C2m+1については、上述の通りである。また、上記式(a−4)〜(a−11)中、l、m及びnは上記と同義であり、−C2l+1、−C2m+1、−Cn2n+1については、上述の通りである。
なお、本発明の実施形態において、反応基aは、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基等の硫黄原子を含まない基であってもよい。
【0032】
また、上記反応基aの数が、2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜3であることが特に好ましく、シリカ等の無機充填剤との反応性が高く、カップリング効率が更に向上する。なお、有機物に対する反応基aは、10個以下であることが好ましく、それ以上反応基aが同一分子内にある場合、反応基同士の立体障害により、有機物との反応性が低下し、カップリング効率が十分に向上しない。その結果、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることができなくなる。
【0033】
また、本発明の有機ケイ素化合物が、ケイ素原子間の窒素を含む原子団以外の位置に、前記反応基aを有することがより好ましい。該有機ケイ素化合物は、分子構造中に、シリカ等の無機充填剤の表面との親和性が高いケイ素原子間の窒素原子を含む原子団と、有機物との反応性が高い反応基aを離れた位置で含むため、窒素原子の非共有電子対が、シランカップリング剤とシリカ等の無機充填剤の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速くなるとともに、有機物との反応性が高いまま維持されるためであると推察される。
【0034】
本発明の有機ケイ素化合物として、より具体的には、上記一般式(I)で表わされる化合物及び上記一般式(II)で表わされる化合物が好ましい。これら有機ケイ素化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、上記一般式(III)で表わされる化合物を更に含むことが好ましい。
【0035】
<<式(I)で表わされる化合物>>
上記一般式(I)において、M、R、R、A及びxは上記と同義であり、i、j及びkは、iが1〜3であり、i+2j+k=3を満たす関係にある。つまり、(i、j、k)は、(1、1、0)、(1、0、2)、(2、0、1)、(3、0、0)の4通りを取りうる。2箇所あるj及びkは、同一でも異なっても良い。R3は、上記一般式(Ia)又は式(Ib)で表わされ、Rは、上記一般式(Ic)又は式(Id)で表わされる。ここで、式(Ia)〜(Id)において、M’は、−O−又は−CH2−であり、X及びYは、それぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−であり、R6は、−OR8、−NR89又は−R8であり、R7は、−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−Cl2l+1であり、R10は、−NR8−、−NR8−NR8−、−N=N−又は−M’−Cl2l−であり、但し、R8、R9、l及びmは上記と同義であり、−C2l−、−C2m−、−C2m+1については、上述の通りである。
【0036】
上記式(I)において、jが1を取れる(つまり、窒素原子とケイ素原子を含む環状構造を有してもよい)。該窒素原子とケイ素原子を含む環状構造は、ケイ素−酸素結合(Si−O)を含む場合であっても、環状構造が安定である。そのため、ケイ素−酸素結合が加水分解してアルコール成分が発生することがなく、使用中の揮発性有機化合物(VOC)ガスを低減できる。
また、上記窒素原子とケイ素原子を含む環状構造において、−NR−で表わされる部分は3級アミン構造となることが好ましい。3級アミン構造を含む場合、2級アミン構造(Rが水素に置換された構造)を含む場合に比べて、スコーチタイムが極めて長く、未加硫ゴムの焼けを防止することができる。なお、Rにおける炭素数1〜10のアルキル基は、上述の通りである。
【0037】
上記式(I)の化合物において、M及びM’は、−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、M及びM’が−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0038】
<<式(II)で表わされる化合物>>
上記式(II)中、M、R、R、R、R、x、i、j及びkは、上記と同義であり、Rが、−R−S−A又は上記一般式(IIa)で表され、Aが、上記一般式(b−2)、(b−3)又は(b−4)で表され、Bが、A又は上記一般式(b−4)で表される。ここで、式(b−2)〜(b−4)において、M、R、R、R、R、x、l及びmは、上記と同義であり、2箇所以上にあるi、j及びkは、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、また、g及びhは、2g+h=3を満たす関係にある。つまり、(g、h)は、(0、3)、(1、1)の2通りを取りうる。2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良い。また、式(IIa)において、M’及びmは上記と同義である。
【0039】
該有機ケイ素化合物は、鎖状構造の窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bと、Si−R−S−R−Si構造を介してケイ素原子同士を複数個連結するオリゴマー化ないし高分子化した構造を持つことから、確実に複数のゴム成分と複数の無機充填剤とにカップリングすることができる上に、該有機ケイ素化合物は、分子構造中に、シリカ等の無機充填剤の表面との親和性が高いケイ素原子間の窒素原子を含む原子団と、有機物との反応性が高い反応基aを適度に離れた位置で複数個含むため、窒素原子の非共有電子対が、シランカップリング剤とシリカ等の無機充填剤の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速くなるとともに、有機物との反応性が高いまま維持されるためであると推察される。
【0040】
上記式(II)の化合物において、M及びM’は、−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、M及びM’が−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0041】
<有機ケイ素化合物組成物>
有機ケイ素化合物組成物として、上記一般式(I)で表わされる化合物及び/又は上記一般式(II)で表わされる化合物(一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。)を含むことが好ましく、更に上記式(III)で表わされる有機ケイ素化合物を含むことが特に好ましい。
【0042】
<<式(III)で表わされる化合物>>
上記式(III)中、M、R、R、R、R及びxは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、Aは、水素又は上記一般式(a−4)〜(a−11)、(b-4)若しくは上記一般式(b−5)で表される。上記一般式(b−5)中、M、R、R、R、R、x、l及びmは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良い。上記式(III)で表わされる有機ケイ素化合物は、ケイ素原子数が単数ないし2個である。
【0043】
上記式(III)の化合物を更に含む有機ケイ素化合物組成物の場合においても、M及びM’は、−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、M及びM’が−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0044】
<<有機ケイ素化合物の合成方法>>
本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、(R3)−Si−R−S−Aで表される化合物に対し、N-メチルジメタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-メチルジn-プロパノールアミン、N-メチルジイソプロパノールアミン等のアミン化合物を加え、更に触媒としてp-トルエンスルホン酸、塩酸等の酸や、チタンテトラn-ブトキシド等チタンアルコキシドを添加し、加熱して、2つの分子の各々1つのR3を−M−R1−NR−R1−M−で表わされる二価の窒素含有基で置換することで合成できる。さらに、同一分子内の2つのR3を二価の窒素含有基で置換してもよい。
【0045】
<<有機ケイ素化合物の具体例>>
本発明の有機ケイ素化合物(I)として、具体的には、ビス-[3-(オクタノイルチオ-プロピル)-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル]-メチルアミン(下記式(IV)に構造を示す)、
【化12】

ビス-[3-(オクタノイルチオ-プロピル)-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル]-メチルアミン、ビス-[3-(オクタノイルチオ-プロピル)-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル]-メチルアミン、ビス-[3-(オクタノイルチオ-プロピル)-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル]-メチルアミンが挙げられる。
本発明の有機ケイ素化合物(II)として、具体的には、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド(下記式(V)に構造を示す)、
【化13】

2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)トリスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)トリスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)トリスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)トリスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、2-[2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-2-オキシエチル(メチル)アミノ-2-エトキシ]-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル(2-エトキシ-1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
【0046】
更に、本発明の有機ケイ素化合物(III)として、具体的には、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピルトリジメチルアミノエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキサン、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリジメチルアミノエトキシ)シリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(トリジメチルアミノエトキシ)シリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-7-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
【0047】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上述の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物(C’)とを配合してなることを特徴とし、好ましくは、ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を配合し、更に、上述の有機ケイ素化合物(C)及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物(C’)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%配合してなる。
【0048】
ここで、有機ケイ素化合物(C)及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物(C’)の含有量が無機充填剤(B)の配合量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまう。
【0049】
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)は、ジエン系ゴムからなる。ここで、ジエン系ゴムは、天然ゴムであっても合成ゴムであってもよく、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。これらゴム成分(A)は、一種単独で用いても、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0050】
本発明のゴム組成物に用いる無機充填剤(B)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。無機充填剤(B)がシリカの場合は、有機ケイ素化合物(C)及び/又は有機ケイ素化合物組成物(C’)は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。なお、シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0051】
上記シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40 m2/g以下の場合、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350 m2/g以上の場合、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまう。
【0052】
上記無機充填剤(B)の配合量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲である。無機充填剤(B)の配合量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分であり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するためである。
【0053】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分(A)、無機充填剤(B)、有機ケイ素化合物(C)及び/又は有機ケイ素化合物組成物(C’)の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)に、無機充填剤(B)及び有機ケイ素化合物(C)及び/又は有機ケイ素化合物組成物(C’)と共に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0054】
<タイヤ>
また、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物を用いたことを特徴とし、上述のゴム組成物がトレッドに用いられていることが好ましい。本発明のタイヤは、転がり抵抗が大幅に低減されていることに加え、耐摩耗性も大幅に向上している。なお、本発明のタイヤは、従来公知の構造で、特に限定はなく、通常の方法で製造できる。また、本発明のタイヤが空気入りタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0055】
<プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤>
更に、本発明のプライマー組成物は、上記有機ケイ素化合物及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物を含むことを特徴とし、本発明の塗料組成物は、上記有機ケイ素化合物及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物を含むことを特徴とし、本発明の接着剤は、上記有機ケイ素化合物及び/又は上述の有機ケイ素化合物組成物を含むことを特徴とする。上述した本発明の有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物(C’)は、シラノール基以外のヒドロキシ基であっても高い親和性を有するため、ヒドロキシ基を有する種々の無機化合物との反応も促進でき、有機材料と無機材料のハイブリッド材料の界面の接着改善や親和性向上に効果がある。従って、上記有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物を含むプライマー組成物、塗料組成物、接着剤は、有機材料と無機材料の界面の接着性及び親和性を向上させることができる。
【0056】
ここで、本発明のプライマー組成物は、上記有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物の他に、硬化促進成分として、スズ、チタン等の金属又は金属化合物からなる触媒を含有させてもよく、また、プライマー組成物の粘度を調整するために、有機溶剤を含有させてもよい。また、本発明の塗料組成物は、上記有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物の他に、顔料、金属粒子、樹脂、更には、有機溶剤や水を含有させることができる。更に、本発明の接着剤は、上記有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物の他に、樹脂、更には、接着剤の粘度を調整するための有機溶剤を含有させることができる。なお、本発明のプライマー組成物、塗料組成物、接着剤は、それぞれ、上記有機ケイ素化合物及び/又は有機ケイ素化合物組成物と共に、目的に応じて適宜選択した配合剤や溶剤を混合して、公知の方法で作製できる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
<有機ケイ素化合物の製造例1>
500 mLの四つ口ナスフラスコに、3-オクタノイルチオ-プロピルトリエトキシシラン60 g、N-メチルジエタノールアミン 20g、チタンテトラn-ブトキシド 0.8 g、トルエン 220 mLを計量した。次に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2 L/分)、フラスコをオイルバスで加熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行なった。その後、20 hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて、ロータリーポンプ(10 Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、70 gの黄色透明の液体を得た。得られた有機ケイ素化合物(C−1)を1H−NMRで分析したところ、0.7(t;2H), 0.9(t;3H), 1.2(t;3H), 1.4(m;8H), 1.7(m;4H), 2.4(s;3H), 2.5(m;6H), 2.9(t;2H), 3.8(m;6H)であり、上記式(III)で表わされ、h=1、g=1、M=−O−、R1=−C2−(l=2)、R2=−CH(l=0、R11=−CH)、R3=−O−CH2CH3(式(Ib)で、M’=−O−、l=0、R=−C2)、R4が−CH2CH2CH2−(式(Id)で、M’=−CH2−、l=0、R10=−C2−、m=0)、x=1、A=−C=O−C15(式(a−4)で、l=7)である化合物を含むことが分かった。更に、1H−NMRとGPCで分析したところ、上述した式(IV)で表される化合物を20質量%程度含むことも分かった。
【0059】
<有機ケイ素化合物の製造例2>
500 mLの四つ口ナスフラスコに、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド40 g、N-メチルジエタノールアミン 20g、チタンテトラn-ブトキシド 0.8 g、トルエン 220 mLを計量した。次に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2 L/分)、フラスコをオイルバスで加熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行なった。その後、20 hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて、ロータリーポンプ(10 Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、50 gの黄色透明の液体を得た。得られた有機ケイ素化合物(C−2)を1H−NMRで分析したところ、0.70-0.83 ppm (m, 4H), 1.17-1.27 ppm (m, 6H), 1.77-1.91 ppm (m, 4H), 2.34-2.45 ppm (s, 6H), 2.50-3.05 ppm (m, 12H), 3.70-3.85 ppm (m, 12H)であり、上記式(III)で、h=1、g=1、M=−O−、R1=−C2−(l=2)、R2=−CH(l=0、R11=−CH)、R3=−O−CH2CH3(式(Ib)で、M’=−O−、l=0、R=−C2)、R4が−CH2CH2CH2−(式(Id)で、M’=−CH2−、l=0、R10=−C2−、m=0)、x=2、A=式(b−4)で表される化合物:h=1、g=1、M=−O−、R1=−C2−(l=2)、R2=−CH(l=0、R11=−CH)、R3=−O−CH2CH3(式(Ib)で、M’=−O−、l=0、R=−C2)、R4が−CH2CH2CH2−(式(Id)で、M’=−CH2−、l=0、R10=−C2−、m=0)である、上記式(III)で表わされる化合物を含むことが分かった。更に、1H−NMRとGPCで分析したところ、上述した式(IV)で表される化合物を20質量%程度含むことも分かった。
【0060】
<ゴム組成物の調製及び評価>
表1〜2に従う配合処方のゴム組成物を、バンバリーミキサーにて混練して調製した。次に、得られたゴム組成物の加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1〜2に示す。
【0061】
(1)動的粘弾性
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52 Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、表1においては比較例1のtanδの値を100として指数表示し、表2においては比較例3のtanδの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
【0062】
(2)耐摩耗性試験
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、表1においては比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示し、表2においては比較例3の摩耗量の逆数を100として指数表示た。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0063】
【表1】

【0064】
*1 JSR製, 乳化重合SBR1500
*2 旭カーボン製, #78
*3 日本シリカ工業(株)製, ニップシールAQ, BET表面積=220 m2/g
*4 ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
*5 3-オクタノイルチオ-プロピルトリエトキシシラン
*6 大内新興化学工業製, ノクラック6C
*7 三新化学工業製, サンセラーD
*8 三新化学工業製, サンセラーDM
*9 N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド
【0065】
【表2】

【0066】
*2、*3、*4、*5、*6、*7、*8は表1に同じ
*10 JSR製, 乳化重合SBR, #0122
*11 3-オクタノイルチオ-プロピルシラトラン
*12 大内新興化学工業製, ノクラック224
*13 三新化学工業製, サンセラーNS
【0067】
表1〜2から、従来のシランカップリング剤(*4、*5及び*11)に代えて、本発明の有機ケイ素化合物(C)及び/又は有機ケイ素化合物組成物(C’)を配合することで、ゴム組成物のtanδを大幅に低減、即ち、ヒステリシスロスを大幅に低減して、低発熱性にしつつ、耐摩耗性を大幅に改善できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物に対する反応基aを一つ以上有し、窒素原子を含む原子団によりケイ素原子同士がつながれた構造bを一つ以上有することを特徴とする有機ケイ素化合物。
【請求項2】
前記有機物が、樹脂及び/又はエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
前記エラストマーが、ジエン系ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項4】
前記反応基aが、一つ以上の硫黄原子を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
前記反応基aの数が、2〜10であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機ケイ素化合物。
【請求項6】
前記反応基aの数が、2〜6であることを特徴とする請求項5に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項7】
前記反応基aの数が、2〜3であることを特徴とする請求項6に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項8】
前記構造bが、下記一般式(b−1):
【化1】



[上記式(b−1)中、Mは、−O−、−S−,−NC2m+1−又は−CH2−(但し、mは0〜10)であり、Rは、−C2l−(但し、lは0〜10)で、Rは、−C2l−R11であり、(但し、R11は、−NR89又は−C2m+1であり、Rは、−Cn2n+1であり、R9は、−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立に、0〜10である)]で表される構造bを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機ケイ素化合物。
【請求項9】
前記有機ケイ素化合物が、ケイ素原子間の窒素を含む原子団以外の位置に、前記反応基aを有することを特徴とする請求項8に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項10】
前記反応基aが、下記一般式(a−1)、(a−2)又は(a−3):
【化2】

[ここで、上記式(a−1)〜(a−3)中、l及びmは上記と同義であり、xは、1〜10であり、
上記式(a−1)中、Aは、水素又は下記一般式(a−4)〜(a−11):
【化3】

(式(a−4)〜(a−11)中、l、m及びnは上記と同義である)で表される。]から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の有機ケイ素化合物。
【請求項11】
前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(I):
【化4】

[式(I)中、M、R、R、A及びxは上記と同義であり、2箇所あるj及びkは、同一でも異なっても良く、
3は、下記一般式(Ia)又は式(Ib):
【化5】

(式中、M’は−O−又は−CH2−で、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は−OR8、−NR89又は−R8で、R7は−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8、又は−Cl2l+1、但し、R8、R9、l、m、n及びqは上記と同義である))で表わされ、
は、下記一般式(Ic)又は式(Id):
【化6】

(式中、M’、X、Y、R6、l及びmは、上記と同義であり、R10は−NR8−、−NR8−NR8−、−N=N−(但し、R8は上記と同義である)、或いは、−M’−Cl2l−(但し、M’及びlは上記と同義である)で表わされる]で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜10に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項12】
前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(II):
【化7】

[ここで、前記式(II)中、M、R、R、R、R、x、i、j及びkは、上記と同義であり、
が、−R−S−A又は下記一般式(IIa):
【化8】

(式(IIa)中、M’及びmは、上記と同義である)であり、
が、下記一般式(b−2)、(b−3)又は(b−4):
【化9】

(式(b−2)、(b−3)及び(b−4)中、M、R、R、R及びRは、上記と同義であり、式(b−2)及び(b−3)中、xは上記と同義であり、2箇所以上にあるi、j及びkは、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、式(b−4)中、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、
式(b−2)及び(b−3)中、l及びmは上記と同義であり、
Bが、A又は上記一般式(b−4)で表される)で表される)]
で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜10に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項13】
前記M及びM’が−O−であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の有機ケイ素化合物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の有機ケイ素化合物を含む有機ケイ素化合物組成物。
【請求項15】
更に、下記一般式(III):
【化10】

[式中、M、R、R、R、R及びxは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良く、
は、水素又は上記一般式(a−4)〜(a−11)、(b-4)若しくは下記一般式(b−5):
【化11】

(式中、M、R、R、R、R、x、l及びmは、上記と同義であり、2箇所以上にg及びhがある場合、それぞれ独立して、同一でも異なっても良い。)で表される]で表される有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする請求項14に記載の有機ケイ素化合物組成物。
【請求項16】
前記M及びM’が−O−であることを特徴とする請求項15に記載の有機ケイ素化合物組成物。
【請求項17】
ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と請求項1〜13のいずれかに記載の有機ケイ素化合物(C)及び/又は請求項14〜16のいずれかに記載の有機ケイ素化合物組成物(C’)とを配合してなるゴム組成物。
【請求項18】
前記ジエン系ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、
更に、前記有機ケイ素化合物(C)及び/又は前記有機ケイ素化合物組成物(C’)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことを特徴とする請求項17に記載のゴム組成物。
【請求項19】
前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項17に記載のゴム組成物。
【請求項20】
前記シリカのBET表面積が40〜350 m2/gであることを特徴とする請求項19に記載のゴム組成物。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載の有機ケイ素化合物及び/又は請求項14〜16のいずれかに記載の有機ケイ素化合物組成物を含むプライマー組成物。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれかに記載の有機ケイ素化合物及び/又は請求項14〜16のいずれかに記載の有機ケイ素化合物組成物を含む塗料組成物。
【請求項24】
請求項1〜13のいずれかに記載の有機ケイ素化合物及び/又は請求項14〜16のいずれかに記載の有機ケイ素化合物組成物を含む接着剤。

【公開番号】特開2011−46644(P2011−46644A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196140(P2009−196140)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】