説明

有機ケイ素化合物、並びにそれを用いたゴム組成物、タイヤ、プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤

【課題】ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物、かかる化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有することを特徴とする有機ケイ素化合物と、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と前記有機ケイ素化合物(C)とを配合してなるゴム組成物と、該ゴム組成物を用いたタイヤである。更に、前記有機ケイ素化合物をプライマー組成物、塗料組成物又は接着剤に用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤ、並びに該有機ケイ素化合物を含むプライマー組成物、塗料組成物及び接着剤に関し、特には、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させると共に、耐摩耗性を向上させることが可能な有機ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、車両の安全性の観点から、タイヤの湿潤路面における安全性を向上させることが求められている。また、環境問題への関心の高まりに伴う二酸化炭素の排出量の削減の観点から、車両を更に低燃費化することも求められている。
【0003】
これらの要求に対し、従来、タイヤの湿潤路面における性能の向上と転がり抵抗の低減とを両立する技術として、タイヤのトレッドに用いるゴム組成物の充填剤としてシリカ等の無機充填剤を用いる手法が有効であることが知られている。しかしながら、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、湿潤路面における制動性を向上させ、操縦安定性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要するため、作業性に問題がある。そのため、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物においては、破壊強力及び耐摩耗性が大幅に低下し、加硫遅延や充填剤の分散不良等の問題を生じる。そこで、トレッド用ゴム組成物にシリカ等の無機充填剤を配合した場合、ゴム組成物の未加硫粘度を低下させ、モジュラスや耐摩耗性を確保し、また、ヒステリシスロスを更に低下させるためには、シランカップリング剤を添加することが必須となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,842,111号
【特許文献2】米国特許第3,873,489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シランカップリング剤は高価であるため、シランカップリング剤の配合によって、配合コストが上昇してしまう。また、分散改良剤の添加によっても、ゴム組成物の未加硫粘度が低下し、作業性が向上するが、耐摩耗性が低下してしまう。更に、分散改良剤がイオン性の高い化合物の場合には、ロール密着等の加工性の低下も見られる。また更に、本発明者が検討したところ、充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合しつつ、従来のシランカップリング剤を添加しても、ゴム組成物のヒステリシスロスの低減と耐摩耗性の向上とを十分満足できるレベルにすることができず、依然として改良の余地が有ることが分かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤ、更には該化合物を含むプライマー組成物、塗料組成物及び接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有する有機ケイ素化合物は、シリカ等の無機充填剤との反応速度が高いため、該有機ケイ素化合物を無機充填剤と共にゴム成分に配合することで、カップリング反応の効率が向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の有機ケイ素化合物は、分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の有機ケイ素化合物の好適例は、前記シリカと反応する基が、ケイ素原子と結合する酸素原子を含む。
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物としては、下記一般式(I):
【化1】

[式(I)中のR1、R2及びR3は、少なくとも一つが下記一般式(II)又は式(III):
【化2】

(式中、Mは−O−又は−CH2−で、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−で、R8は−OR10、−NR1011又は−R10で、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHで、但し、R10は−Cn2n+1であり、R11は−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜20である)で表され、その他が−M−Cl2l+1(ここで、M及びlは上記と同義である)又は−(M−Cl2l)ys2s+1(M及びlは上記と同義であり、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である)で表され、但し、R1、R2及びR3の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(IV)又は式(V):
【化3】

(式中、M、X、Y、R8、l及びmは上記と同義であり、R12は−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−で、但し、R10は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、
Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、
Bは=O又は=NR13(ここで、R13は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
Dは−O−、−S−又は−NR14−(ここで、R14は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
aは0〜2で、bは0〜4で、但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である]で表される有機ケイ素化合物が好ましい。
【0011】
また、本発明の有機ケイ素化合物としては、下記一般式(VI):
【化4】

[式(VI)中のWは−NR10−、−O−又は−CR1018−(ここで、R18は−R11又は−Cm2m−R9であり、但し、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHであり、R10は−Cn2n+1で、R11は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜20である)で表され、
15及びR16はそれぞれ独立して−M−Cl2l−(ここで、Mは−O−又は−CH2−で、lは0〜20である)で表され、
17は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R9(ここで、M、l及びR9は上記と同義である)或いは−(M−Cl2l)ys2s+1(M及びlは上記と同義であり、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である)で表され、但し、R15、R16及びR17の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(VII)又は式(VIII):
【化5】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−で、R8は−OR10、−NR1011又は−R10で、R12は−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−であり、但し、R10及びR11は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、
Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、
Bは=O又は=NR13(ここで、R13は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
Dは−O−、−S−又は−NR14−(ここで、R14は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
aは0〜2で、bは0〜4で、但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である]で表される有機ケイ素化合物も好ましい。
【0012】
上記好適な有機化合物において、前記Mは−O−であることが好ましい。
【0013】
上記式(I)で表される有機ケイ素化合物においては、前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R9(ここで、R9及びlは上記と同義である)で表され、その他が−O−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0014】
上記式(I)で表される有機ケイ素化合物においては、前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR1011(ここで、R10、R11及びlは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが更に好ましい。
【0015】
上記式(VI)で表される有機ケイ素化合物においては、前記Wが−NR10−(ここで、R10は上記と同義である)で表され、
前記R15及びR16がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R17は−O−Cl2l−R9(ここで、R9及びlは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0016】
また、上記式(VI)で表される有機ケイ素化合物においては、前記Wが−O−又は−CR1011−(ここで、R10及びR11は上記と同義である)で表され、
前記R15及びR16がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R17は−O−Cl2l−NR1011(ここで、R10、R11及びlは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることも好ましい。
【0017】
また、本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上記の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなることを特徴とする。
【0018】
本発明のゴム組成物は、前記天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、
更に、前記有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことが好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムである。ここで、該シリカは、BET表面積が40〜350m2/gであることが好ましい。
【0020】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0021】
更に、本発明のプライマー組成物は、上記の有機ケイ素化合物を含むことを特徴とし、本発明の塗料組成物は、上記の有機ケイ素化合物を含むことを特徴とし、本発明の接着剤は、上記の有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有し、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な有機ケイ素化合物を提供することができる。また、かかる有機ケイ素化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤ、更には該有機ケイ素化合物を含むプライマー組成物、塗料組成物及び接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<有機ケイ素化合物>
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子(S)を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子(C)に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有することを特徴とする。ここで、シリカと反応する基とは、シリカとの界面において加水分解反応や縮合反応等を充分に引き起こし得る良好な反応性を示す基を意味し、好ましくはケイ素原子と結合する酸素原子を含む基であり、シリカ等の無機充填剤の分散性の向上に寄与することができる。即ち、該有機ケイ素化合物は、分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合(Si−O)を有することが好ましい。また、本発明の有機ケイ素化合物は、シリカと反応する基の他、硫黄原子を含有する基を有しており、該基中の硫黄原子のβ位に位置する炭素原子には、水素原子と電子求引性基とが結合されている。このように、本発明の有機ケイ素化合物は、分子構造中に炭素−硫黄結合(C−S)を有しており、安定な構造を形成している。しかしながら、硫黄原子のβ位の炭素原子には、水素原子と電子求引性基とが結合しているため、該水素原子の酸性度が高い。このため、本発明の有機ケイ素化合物を加熱することで、β位の炭素原子に結合した水素原子が脱離し(即ち、脱プロトンが進行し)、炭素−硫黄結合が開裂を起こし、チオール基を効果的に発生させることができる。そのため、従来のシランカップリング剤に代えて、本発明の有機ケイ素化合物を無機充填剤配合ゴム組成物に添加することで、シランカップリング剤とゴム成分との反応が加硫中に促進され、カップリング効率が向上し、その結果として、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。なお、本発明においては、上記有機ケイ素化合物が、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基を有することにより、カップリング効率を向上できるため、上記有機ケイ素化合物のシリカと反応する基としては、シリカに対する反応性を示す基である限り特に限定されず、様々な基が含まれる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、添加効率が高いため、少量でも高い効果が得られ、配合コストの低減にも寄与する。更に、本発明の有機ケイ素化合物は、上記したように安定な構造を形成しており、未加硫時の作業性を向上させることもできる。なお、本発明の有機ケイ素化合物は、カップリング効率の向上によって、シリカ等の無機充填剤の分散性を向上できるため、タイヤの低転がり抵抗性、湿潤路面での制動性及び操縦安定性を改善することもできる。
【0024】
本発明の有機ケイ素化合物として、より具体的には、上記一般式(I)で表わされる化合物及び上記一般式(VI)で表わされる化合物が好ましい。これら有機ケイ素化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<<式(I)の化合物>>
上記一般式(I)において、R1、R2及びR3は、少なくとも一つが上記一般式(II)又は式(III)で表され、その他が−M−Cl2l+1(ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい)又は−(M−Cl2l)ys2s+1(M及びlは上記と同義であり、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である)で表される。但し、R1、R2及びR3の一つ以上はMが−O−である。なお、−Cl2l+1は、lが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。また、−Cs2s+1は、sが1〜20であるため、炭素数1〜20のアルキル基である。ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。また、−Cl2l−は、lが0〜20であるため、単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0026】
上記式(II)及び(III)において、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。また、上記式(II)において、mは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cm2m+1は、mが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。炭素数1〜20のアルキル基については、上述の通りである。
【0027】
上記式(II)において、X及びYは、それぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−である。ここで、R10は−Cn2n+1であり、nは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cn2n+1は、nが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。また、R8は、−OR10、−NR1011又は−R10である。ここで、R10は−Cn2n+1であり、R11は−Cq2q+1であり、n及びqはそれぞれ独立して0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cn2n+1については、上述の通りであり、−Cq2q+1は、qが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。また、炭素数1〜20のアルキル基については、上述の通りである。
【0028】
上記式(III)において、R9は、−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHである。ここで、R10は−Cn2n+1であり、R11は−Cq2q+1であり、n及びqはそれぞれ独立して0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0029】
また、上記式(I)において、R4は、上記一般式(IV)又は式(V)或いは−M−Cl2l−で表され、特には−Cl2l−で表されることが好ましく、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cl2l−は、lが0〜20であるため、単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜20のアルキレン基については、上述の通りである。
【0030】
上記式(IV)及び(V)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。また、上記式(IV)において、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−であり、R8は−OR10、−NR1011又は−R10である。なお、R10及びR11については、上述の通りである。更に、上記式(V)において、R12は、−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−であり、ここで、R10は−Cn2n+1であり、−Cn2n+1については、上述の通りである。
【0031】
更に、上記式(I)において、R5、R6及びR7は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。ここで、炭素数1〜20の直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数3〜20の分岐アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソへキシル基、イソオクチル基、イソステアリル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、トルイル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0032】
また更に、上記式(I)において、Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、Bは=O又は=NR13であり、Dは−O−、−S−又は−NR14−である。ここで、R13及びR14は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。なお、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基及び炭素数6〜20のアリール基については、上述の通りである。
【0033】
更にまた、上記式(I)において、aは0〜2で、bは0〜4である。但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である。
【0034】
上記式(I)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0035】
また、上記式(I)の化合物において、上記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R9で表され、その他が−O−Cl2l+1で表されることが好ましく、上記R4は−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R5は炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0036】
更に、上記式(I)の化合物において、上記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR1011で表されることが更に好ましく、上記R4は−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R5は炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0037】
<<式(VI)の化合物>>
上記式(VI)において、Wは、−NR10−、−O−又は−CR1018−で表され、ここで、R18は−R11又は−Cm2m−R9であり、但し、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHであり、R10は−Cn2n+1で、R11は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cm2m−は、mが0〜20であるため、単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また、−Cn2n+1及び−Cq2q+1は、n及びqが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0038】
上記式(VI)において、R15及びR16はそれぞれ独立して−M−Cl2l−で表され、R17は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R9或いは−(M−Cl2l)ys2s+1で表され、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHであり、R10は−Cn2n+1で、R11は−Cq2q+1で、l、n及びqはそれぞれ独立して0〜20であり、0〜10の範囲が好ましく、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である。但し、R15、R16及びR17の一つ以上は、Mが−O−である。なお、−Cl2l−は、lが0〜20であるため、単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基であり、ここで、炭素数1〜20のアルキレン基については、上述の通りである。また、−Cl2l+1は、lが0〜20であるため、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。更に、−Cs2s+1は、sが1〜20であるため、炭素数1〜20のアルキル基である。ここで、炭素数1〜20のアルキル基については、上述の通りである。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0039】
また、上記式(VI)において、R4は上記一般式(VII)又は式(VIII)、或いは−M−Cl2l−で表され、特には−Cl2l−で表されることが好ましく、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。なお、−Cl2l−については、上述の通りである。
【0040】
上記式(VII)及び(VIII)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜20であり、0〜10の範囲が好ましい。また、上記式(VII)において、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−であり、R8は−OR10、−NR1011又は−R10であり、ここで、R10は−Cn2n+1で、R11は−Cq2q+1である。更に、上記式(VIII)において、R12は、−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−であり、ここで、R10は−Cn2n+1である。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0041】
更に、上記式(VI)において、R5、R6及びR7は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。ここで、炭素数1〜20の直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数3〜20の分岐アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソへキシル基、イソオクチル基、イソステアリル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、トルイル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0042】
また更に、上記式(VI)において、Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、Bは=O又は=NR13であり、Dは−O−、−S−又は−NR14−である。ここで、R13及びR14は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。なお、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基及び炭素数6〜20のアリール基については、上述の通りである。
【0043】
更にまた、上記式(VI)において、aは0〜2で、bは0〜4である。但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である。
【0044】
上記式(VI)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0045】
また、上記Wが−NR10−で表される場合、上記R15及びR16はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R17は−O−Cl2l−R9で表されることが好ましく、上記R4は−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R5は炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0046】
一方、上記Wが−O−又は−CR1011−で表される場合、上記R15及びR16はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R17は−O−Cl2l−NR1011で表されることが好ましく、上記R4は−Cl2l−で表されることが好ましく、上記R5は炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。
【0047】
<<有機ケイ素化合物の合成方法>>
本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、下記一般式(IX):
【化6】

[式(IX)中のR1、R2、R3及びR4は上記と同義であり、Qはハロゲンである]で表される化合物に対し、下記一般式(X):
【化7】

[式(X)中のR5、R6、R7、A、B、D、a及びbは上記と同義である]で表されるチオール化合物を加え、必要に応じて触媒等を添加し、加熱することで、合成できる。
【0048】
<<有機ケイ素化合物の具体例>>
本発明の有機ケイ素化合物として、具体的には、2-エチルヘキシル-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピルチオ)プロパノアート、ヘキシル-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピルチオ)プロパノアート、ステアリル-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピルチオ)プロパノアート、2-エチルヘキシル-3-(3-(ジエトキシメチルシリル)プロピルチオ)プロパノアート、2-エチルヘキシル-3-(3-((エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタニル)プロピルチオ)プロパノアート等が挙げられる。
【0049】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上述の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなることを特徴とし、好ましくは、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を配合し、更に、上述の有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%配合してなる。
【0050】
ここで、有機ケイ素化合物(C)の含有量が無機充填剤(B)の配合量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまう。
【0051】
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなる。ここで、ジエン系合成ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。これらゴム成分(A)は、一種単独で用いても、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0052】
本発明のゴム組成物に用いる無機充填剤(B)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。無機充填剤(B)がシリカの場合は、有機ケイ素化合物(C)は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。なお、シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0053】
上記シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40 m2/g未満では、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350 m2/gを超えると、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまう。
【0054】
上記無機充填剤(B)の配合量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲である。無機充填剤(B)の配合量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分であり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するためである。
【0055】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分(A)、無機充填剤(B)、有機ケイ素化合物(C)の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)に、無機充填剤(B)及び有機ケイ素化合物(C)と共に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0056】
<タイヤ>
また、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物を用いたことを特徴とし、上述のゴム組成物がトレッドに用いられていることが好ましい。本発明のタイヤは、転がり抵抗が大幅に低減されていることに加え、耐摩耗性、湿潤路面での制動性及び操縦安定性も大幅に向上している。なお、本発明のタイヤは、従来公知の構造で、特に限定はなく、通常の方法で製造できる。また、本発明のタイヤが空気入りタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0057】
<プライマー組成物、塗料組成物及び接着剤>
本発明のプライマー組成物、塗料組成物及び接着剤は、上述の有機ケイ素化合物を含むことを特徴とし、ガラス、各種塗装面、多孔質面等の種々の被施工部材に対して良好な下塗り特性や塗工性、接着性を充分に発現することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
<有機ケイ素化合物Aの製造例>
アルゴン雰囲気下、反応容器(50ml)に、3-クロロプロピルトリエトキシシラン12.0g、2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロパノアート10.9gを投入し、攪拌しながら、常温から100℃まで約1時間かけて昇温した。その後、さらに100℃にて1時間反応を行った。その際、ディーン・スターク装置を用いることにより、副生するエタノールを除去した。得られた生成物35gについて、各種スペクトルデータにより分析したところ、下記式(XI):
【化8】

で表される化合物(2-エチルヘキシル-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピルチオ)プロパノアート)であることを確認した。
1H−NMR(CDCl3, 700MHz, δ;ppm) = 4.1(d;2H), 3.8(m;6H), 2.7(t;2H), 2.6(t;2H), 2.3(t;2H), 1.6(m;3H), 1.3(m;17H), 0.9(t;6H), 0.7(t;2H)
【0060】
<有機ケイ素化合物Bの製造例>
500mLの四つ口ナスフラスコに、窒素雰囲気下、2-エチルヘキシル-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピルチオ)プロパノアート42.2g、N-メチルジエタノールアミン11.9g、チタンテトラn-ブトキシド0.05gをキシレン200mL中に溶解した。150℃まで昇温し、6時間攪拌した。その後、20 hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて、ロータリーポンプ(10 Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、2-エチルヘキシル-3-(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチルプロピルチオ)プロパノアート41.7gを得た。
1H−NMR(CDCl3, 700MHz, δ;ppm) = 4.1(d;2H), 3.8(m;6H), 2.7(t;2H), 2.6(t;2H), 2.5(m;4H), 2.3(m;5H), 1.6(m;3H), 1.3(m;11H), 0.9(t;6H), 0.7(t;2H)
【0061】
<ゴム組成物の調製及び評価>
表1に従う配合処方のゴム組成物を、バンバリーミキサーにて混練して調製した。次に、得られたゴム組成物の加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(1)動的粘弾性試験
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、比較例1のtanδの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
【0063】
(2)耐摩耗性試験
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0064】
【表1】

【0065】
*1 JSR製,乳化重合SBR,#1500
*2 旭カーボン製,#80
*3 日本シリカ工業(株)製,ニップシールAQ,BET表面積=220m2/g
*4 ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
*5 3-オクタノイルチオ-プロピルトリエトキシシラン
*6 大内新興化学工業製,ノクラック6C
*7 大内新興化学工業製,ノクラック224
*8 三新化学工業製,サンセラーD
*9 三新化学工業製,サンセラーDM
*10 三新化学工業製,サンセラーNS
【0066】
表1から、従来のシランカップリング剤(*4及び*5)に代えて、本発明の有機ケイ素化合物(C)を配合することで、ゴム組成物のtanδを大幅に低減、即ち、ヒステリシスロスを大幅に低減して、低発熱性にしつつ、耐摩耗性を大幅に改善できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、シリカと反応する基と、硫黄原子を含み且つ該硫黄原子のβ位の炭素原子に水素原子及び電子求引性基が結合した基とを有することを特徴とする有機ケイ素化合物。
【請求項2】
前記シリカと反応する基が、ケイ素原子と結合する酸素原子を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(I):
【化1】

[式(I)中のR1、R2及びR3は、少なくとも一つが下記一般式(II)又は式(III):
【化2】

(式中、Mは−O−又は−CH2−で、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−で、R8は−OR10、−NR1011又は−R10で、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHで、但し、R10は−Cn2n+1であり、R11は−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜20である)で表され、その他が−M−Cl2l+1(ここで、M及びlは上記と同義である)又は−(M−Cl2l)ys2s+1(M及びlは上記と同義であり、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である)で表され、但し、R1、R2及びR3の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(IV)又は式(V):
【化3】

(式中、M、X、Y、R8、l及びmは上記と同義であり、R12は−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−で、但し、R10は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、
Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、
Bは=O又は=NR13(ここで、R13は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
Dは−O−、−S−又は−NR14−(ここで、R14は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
aは0〜2で、bは0〜4で、但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である]で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項4】
下記一般式(VI):
【化4】

[式(VI)中のWは−NR10−、−O−又は−CR1018−(ここで、R18は−R11又は−Cm2m−R9であり、但し、R9は−NR1011、−NR10−NR1011、−N=NR10又はHであり、R10は−Cn2n+1で、R11は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜20である)で表され、
15及びR16はそれぞれ独立して−M−Cl2l−(ここで、Mは−O−又は−CH2−で、lは0〜20である)で表され、
17は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R9(ここで、M、l及びR9は上記と同義である)或いは−(M−Cl2l)ys2s+1(M及びlは上記と同義であり、y及びsはそれぞれ独立して1〜20である)で表され、但し、R15、R16及びR17の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(VII)又は式(VIII):
【化5】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR10−又は−CH2−で、R8は−OR10、−NR1011又は−R10で、R12は−NR10−、−NR10−NR10−又は−N=N−であり、但し、R10及びR11は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、
Aは炭素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子であり、
Bは=O又は=NR13(ここで、R13は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
Dは−O−、−S−又は−NR14−(ここで、R14は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である)であり、
aは0〜2で、bは0〜4で、但し、Aが炭素原子の場合、2a+bは3で、Aが窒素原子の場合、2a+bは2で、Aが硫黄原子の場合、2a+bは1、3又は5で、Aがリン原子の場合、2a+bは2又は4である]で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
前記Mが−O−であることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項6】
前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R9(ここで、R9及びlは上記と同義である)で表され、その他が−O−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることを特徴とする請求項3又は5に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項7】
前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR1011(ここで、R10、R11及びlは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることを特徴とする請求項3、5又は6に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項8】
前記Wが−NR10−(ここで、R10は上記と同義である)で表され、
前記R15及びR16がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R17は−O−Cl2l−R9(ここで、R9及びlは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項9】
前記Wが−O−又は−CR1011−(ここで、R10及びR11は上記と同義である)で表され、
前記R15及びR16がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R17は−O−Cl2l−NR1011(ここで、R10、R11及びlは上記と同義である)で表され、
前記R4が−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表され、
前記R5が炭素数1〜20の直鎖アルキル基、炭素数3〜20の分岐アルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項10】
天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と請求項1〜9のいずれかに記載の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなるゴム組成物。
【請求項11】
前記天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、
更に、前記有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことを特徴とする請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記シリカのBET表面積が40〜350m2/gであることを特徴とする請求項12に記載のゴム組成物。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機ケイ素化合物を含むプライマー組成物。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機ケイ素化合物を含む塗料組成物。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれかに記載の有機ケイ素化合物を含む接着剤。

【公開番号】特開2010−270053(P2010−270053A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122579(P2009−122579)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】