説明

有機ケイ素化合物の製造方法

【課題】簡便な工程にて高い収率で生成物を得ることができる有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を、一般式(2)で表される金属化合物と反応させて、一般式(3)で表される有機ケイ素化合物を得る。RSi−R−SiX・・・・・(1)(式中、Rはメチレン基、アルキレン基、アリーレン基を示し、RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基を示し、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、mおよびnは0〜3の整数を示し、m+n=3である。)M(OR・・・・・(2)(式中、Mは金属元素を示し、rは金属元素の価数を示し、Rは同アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基を示す。)R(ORSi−R−Si(OR・・・・・(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアルコキシ基やハロゲン原子等の加水分解基を有するケイ素化合物は、無機高分子材料の前駆体やCVDなどの原料として用いられている。その中でも、少なくとも1以上の炭素原子を介して2つのケイ素原子が結合した骨格を有する有機ケイ素化合物を用いて形成された膜は、耐熱性、耐薬品性、導電性、弾性率など、化学的および機械的に高い物性を有する点で有用である(特許文献1)。
【0003】
炭素原子を介して2つのケイ素原子が結合した骨格を有する有機ケイ素化合物は例えば、遷移金属を触媒としたヒドロシリル化や、アルカリ金属を用いた求核反応(グリニヤール反応)によるケイ素−炭素結合形成などによって合成可能である。(特許文献1)には、有機ケイ素化合物の製造方法として、具体的には、(クロロメチル)トリメチルシランとマグネシウムとを反応させて得られたグリニャール試薬と、メチルトリメトキシシランとを反応させることで、[トリメチルシリル)メチル]メチルジメトキシシランを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号第2005/068539号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(特許文献1)に開示された製造方法によって上述の有機ケイ素化合物を製造する際には、該加水分解性基の反応性が高いため、副反応による重合を抑制するための条件を制御する必要がある。特に、炭素原子を介して2つのケイ素原子が結合した骨格を有し、かつ2つのケイ素原子それぞれにアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を合成する場合、副反応による重合を抑制が特に重要な課題であり、また両端のアルコキシ基の数を任意に制御することは必ずしも容易ではなかった。このため、炭素原子を介して2つのケイ素原子が結合した骨格を有し、かつ2つのケイ素原子それぞれにアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を、簡便に合成できる汎用性が高い方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、簡便な工程にて高い収率で生成物を得ることができる有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる有機ケイ素化合物の製造方法は、
下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を、下記一般式(2)で表される金属化合物と反応させて、下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物を得る工程を含む。
【0008】
Si−R−SiX ・・・・・(1)
【0009】
(式中、Rは置換もしくは非置換のメチレン基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキレン基、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリーレン基を示し、RおよびRはそれぞれ同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示し、Xは同一または異なり、水素原子またはハロゲン原子を示し、mおよびnは同一または異なり、0〜3の整数を示し、m+n=3である(ただし、2つあるmのうち少なくとも一つは1以上である。)。)
【0010】
M(OR ・・・・・(2)
【0011】
(式中、Mは金属元素を示し、rは金属元素の価数を示し、Rは同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示す。)
【0012】
(ORSi−R−Si(OR ・・・・・(3)
【0013】
(式中、R、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりであり、Rは上記一般式(2)で定義されたとおりである。)
【0014】
上記有機ケイ素化合物の製造方法において、下記一般式(4)で表される化合物と下記一般式(5)で表される化合物とを反応させて、上記一般式(1)で表される化合物を得る工程をさらに含むことができる。
【0015】
Y−R−Y ・・・・・(4)
【0016】
(式中、Yはハロゲン原子を示し、Rは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
【0017】
SiXm+1 ・・・・・(5)
【0018】
(式中、X、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
上記有機ケイ素化合物の製造方法では、上記一般式(1)および上記一般式(2)において、Rがメチレン基であることができる。
【0019】
上記有機ケイ素化合物の製造方法では、上記一般式(2)において、Mがアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素から選ばれる少なくとも1種であることができる。この場合、上記一般式(2)において、Mがナトリウムであることができる。
【発明の効果】
【0020】
上記有機ケイ素化合物の製造方法によれば、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を上記一般式(2)で表される金属化合物と反応させることにより、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物中のXで表される基をOR基に変換することができる。これにより、簡便な工程にて高い収率で生成物(上記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態にかかる有機ケイ素化合物およびその製造方法について具体的に説明する。
【0022】
1.有機ケイ素化合物の製造方法
1.1.有機ケイ素化合物の製造方法
本発明の一実施形態にかかるケイ素化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物(以下、「化合物1」ともいう。)を、下記一般式(2)で表される金属化合物(以下、「化合物2」ともいう。)を反応させて、下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物(以下、「化合物3」ともいう。)を得る工程を含む。
【0023】
Si−R−SiX ・・・・・(1)
【0024】
(式中、Rは置換もしくは非置換のメチレン基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキレン基、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリーレン基を示し、RおよびRはそれぞれ同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示し、Xは同一または異なり、水素原子またはハロゲン原子を示し、mおよびnは同一または異なり、0〜3の整数を示し、m+n=3である(ただし、2つあるmのうち少なくとも一つは1以上である。)。)
【0025】
M(OR ・・・・・(2)
【0026】
(式中、Mは金属元素を示し、rは金属元素の価数を示し、Rは同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示す。)
【0027】
(ORSi−R−Si(OR ・・・・・(3)
【0028】
(式中、R、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりであり、Rは上記一般式(2)で定義されたとおりである。)
【0029】
上記一般式(1)および(3)のRにおいて、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルキレン基としては、例えば、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基が挙げられ、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。なお、メチレン基、アルキレン基、アリーレン基は各々置換されていてもよいが、置換基としては例えばハロゲン原子を挙げることができる。
【0030】
上記一般式(1)および(3)のRおよびRにおいて、炭素原子数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基が挙げられ、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基が挙げられ、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基が挙げられる。なお、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基は各々置換されていてもよいが、置換基としては例えばハロゲン原子を挙げることができる。
【0031】
また、上記一般式(2)および(3)のRとしては、炭素原子数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基が挙げられ、炭素原子数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基が挙げられ、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基が挙げられる。なお、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基は各々置換されていてもよいが、置換基としては例えばハロゲン原子を挙げることができる。
【0032】
上記一般式(2)のMとしては、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素等が挙げられる。アルカリ金属元素(一価)としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属元素(二価)としては、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。Mとしては、アルカリ金属元素であることが好ましく、ナトリウムであることがより好ましい。
【0033】
上記一般式(1)および(3)において、Rはメチレン基またはフェニレン基が好ましく、メチレン基であることがより好ましく、RおよびRは、アルキル基としては、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基が好ましく、アルケニル基としては、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基が好ましく、中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ビニル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましく、Xは水素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0034】
また、上記一般式(2)および(3)において、Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0035】
上記一般式(1)および(3)において、2つあるmが同一であることが好ましく、同様に2つあるnが同一であることが好ましい。また、mとしては、1または2であることが好ましく、2であることがより好ましい。さらに、nとしては、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0036】
化合物1(原料)としては、例えば、ビス(ジクロロメチルシリル)メタン、ビス(ジクロロメチルシリル)エタン、トリメチルシリルメチルジクロロシラン、トリメチルシリルエチルジクロロシラン、ビス(クロロメチルシリル)メタン、ビス(クロロメチルシリル)エタン、ビス(クロロジメチルシリル)メタン、ビス(クロロジメチルシリル)エタン、p−(ジクロロシリル)ベンゼンが挙げられる。
【0037】
化合物2としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシドが挙げられる。
【0038】
化合物3(目的物)としては、例えば、ビス(ジメトキシメチルシリル)メタン、ビス(ジエトキシメチルシリル)メタン、ビス(ジメトキシメチルシリル)エタン、ビス(ジエトキシメチルシリル)エタン、トリメチルシリルメチルトリメトキシシラン、トリメチルシリルメチルトリエトキシシラン、トリメチルシリルエチルトリメトキシシラン、トリメチルシリルエチルトリエトキシシラン、ビス(メトキシジメチルシリル)メタン、ビス(メトキシジメチルシリル)エタン、ビス(エトキシジメチルシリル)メタン、ビス(エトキシジメチルシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)ベンゼンが挙げられる。
【0039】
1.2.化合物3の製造
化合物3の製造において、化合物1の使用量に対する化合物2の使用量(モル比)は通常1〜10である。また、化合物3の製造における反応温度は通常0〜100℃であり、反応時間は通常1〜10時間である。
【0040】
また、本実施形態に係る有機ケイ素化合物の製造方法において、化合物1を化合物2と反応させる際の溶媒としては、得られた生成物(化合物3)中の官能基の置換を防ぐために、ROH(ここで、Rは、上記一般式(2)におけるRと同一である。)で表されるアルコール系溶媒であることが好ましい。
【0041】
1.3.化合物1(原料)の製造
本実施形態に係る有機ケイ素化合物の製造方法において、下記一般式(4)で表される少なくとも1種の化合物(以下「化合物4」ともいう。)を、下記一般式(5)で表される化合物(以下「化合物5」ともいう。)とを反応させて、上記一般式(1)で表される化合物を得る工程をさらに含むことができる。
【0042】
Y−R−Y ・・・・・(4)
【0043】
(式中、Yはハロゲン原子を示し、Rは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
【0044】
SiXm+1 ・・・・・(5)
【0045】
(式中、X、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
【0046】
化合物4と化合物5とを反応させて化合物1を得る場合、化合物4と化合物5とのグリニャール反応によって、Si−R−Si骨格を有する化合物1が得られる。
【0047】
化合物4と化合物5とを反応させる際の化合物4と化合物5との混合比は、1モルの化合物4に対して化合物5が0.7〜10モルであることが好ましく、2〜5モルであることがさらに好ましい。また、このときの反応温度は−15〜150℃が好ましく、0〜40℃がさらに好ましい。
【0048】
化合物4としては、例えば、ジブロモメタン、ジクロロメタン、ジブロモエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼンが挙げられる。
【0049】
また、化合物5としては、例えば、クロロジメチルシラン、ブロモジメチルシラン、ジクロロメチルシラン、ジブロモメチルシラン、ジクロロエチルシラン、ジブロモエチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロエチルシラン、が挙げられる。
【0050】
化合物1の製造では、エーテル系溶媒を使用するのが好ましい。エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。これらのうち、化合物4および化合物5の溶解性に優れている点で、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルが好ましい。
【0051】
1.4.最終生成物(化合物3)
本実施形態にかかる有機ケイ素化合物の製造方法において、最終生成物である化合物3は例えば、ケイ素、炭素、酸素、および水素を含む絶縁膜を形成するために用いることができる。このような絶縁膜は、半導体製造工程中の洗浄工程で汎用されているフッ酸系の薬液に対して高い耐性を有するため、加工耐性が高いという特徴を有する。
【0052】
また、化合物3を絶縁膜形成用材料として使用する場合、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素(以下、「不純物」ともいう。)の含有量が各々10ppb以下であり、かつ、含水分量が500ppm以下であることものが好ましく、200ppm以下であることものが好ましい。このような化合物3を用いて絶縁膜を形成することにより、低比誘電率でかつ加工耐性に優れた絶縁膜を収率良く得ることができる。
【0053】
化合物3は、上記一般式(3)において、Rがメチル基であるものがより好ましい。上記一般式(3)において、Rがメチル基であることにより、低沸点であるため、CVD材料として用いる際の利便性に優れる。
【0054】
また、化合物3は、上記一般式(3)において、Rはメチレン基であるものがより好ましい。上記一般式(3)において、Rがメチレン基であることにより、化合物3を絶縁膜材料として用いた場合に、機械的強度に優れた絶縁膜を得ることができる。
【0055】
1.5.作用効果
本実施形態に係る有機ケイ素化合物の製造方法によれば、化合物1と化合物2との反応において、化合物1においてXで表される基を一括してOR基に変換することにより化合物3を得ることができる。これにより、短い工程で効率的に化合物3を収率良く合成することができるという特有の作用効果を有する。例えば、化合物1がXで表される基を複数含む場合において、かかるXで表される複数の基が水素原子およびハロゲン原子の両方である場合、水素原子およびハロゲン原子を同時にOR基に変換することができるため、簡便な工程にて化合物3を収率良く得ることができる。なお、化合物1がXで表される基が水素原子またはハロゲン原子のみである場合においても、Xで表される基をOR基に効率良く変換できる。
【0056】
また、本実施形態に係る有機ケイ素化合物の製造方法によらずに化合物3を合成する場合、例えば、下記の一般式(6)で表される化合物(以下、「化合物6」ともいう。)と下記の一般式(7)で表される化合物(以下、「化合物7」ともいう。)とのグリニャール反応により、化合物3を直接得る方法が考えられる。
【0057】
(ORSi−R−MX ・・・(6)
【0058】
(式中、R、R、X、mおよびnは上記一般式(1)で定義された通りであり、Rは上記一般式(2)で定義された通りであり、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)
【0059】
Si(OR ・・・(7)
【0060】
(式中、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義された通りであり、Rは上記一般式(2)で定義された通りである。)
【0061】
しかしながら、上記反応では、化合物6がアルコキシ基等の加水分解性基を有する場合、グリニャール反応中に化合物6の自己縮合が起こり、化合物6がポリマー化する結果、反応生成物である化合物3の収率が低くなる場合がある。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る有機ケイ素化合物の製造方法によれば、化合物1と化合物2との反応によって、化合物3を収率良く得ることができる。
【0063】
2.実施例および比較例
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」は特記しない限り、それぞれ重量%であることを示している。
【0064】
2.1.評価方法
精製後の有機シラン化合物の純度は、ガスクロマトグラフ(装置本体:Agilent technologies社製6890N、カラム:Supelco社製SPB−35)を使用して同定した。また、精製した有機シラン化合物中の水分量および不純物含有量は、カールフィッシャー水分計(平沼産業社製、微量水分測定装置AQ−7)および原子吸光分光光度計(日立ハイテク社製、偏光ゼーマン原子吸光分光光度計Z−5700)を用いて測定した。
【0065】
2.2.合成例
2.2.1.合成例1
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0066】
フラスコにテトラヒドロフラン800g、マグネシウム50gおよびジクロロメチルシラン(化合物5)400gをいれ、40℃の水浴中で、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次に、ジブロモメタン(化合物4)6gをフラスコへ加えた。内温が45℃まで上昇した後、水浴を25℃に冷却した。次いで、滴下漏斗を用いてジブロモメタン144gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を6時間続けた。
【0067】
その後、副生成したマグネシウム塩を濾過し、塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮し、ビス(ジクロロメチルシリル)メタン(化合物1)103g(収率72%)を得た。
【0068】
最終生成物の残存水分量(含水分量)は79ppm、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素の含有量(金属不純物含有量)は、Na=4ppb、K=6ppb、Fe=6ppb、Ni=2ppb、Li、Fe、Cr、Ag、Cu、Zn、Mn、Co、Ti、Zr、Al、Pb、Sn、Wの各元素は検出限界値(0.2ppb)以下であった。
【0069】
2.2.2.合成例2
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0070】
フラスコにナトリウムメトキシド(化合物2)59gおよびメタノール153gをいれ、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次いで、25℃の水浴中で、滴下漏斗を用いて合成例1で得られたビス(ジクロロメチルシリル)メタン(化合物1)86gを2時間かけて添加した。滴下終了後、攪拌を2時間続けた。
【0071】
その後、副生成したナトリウム塩を、セライトを敷いたガラスフィルターにて濾過し、塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮し、ビス(ジメトキシメチルシリル)メタン(化合物3)100g(収率90%)を得た。
【0072】
最終生成物の残存水分量(含水分量)は114ppm、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素の含有量(金属不純物含有量)は、Na=9ppb、K=6ppb、Fe=3ppb、Ni=3ppb、Li、Fe、Cr、Ag、Cu、Zn、Mn、Co、Ti、Zr、Al、Pb、Sn、Wの各元素は検出限界値(0.2ppb)以下であった。
【0073】
2.2.3.合成例3
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0074】
フラスコにナトリウムエトキシド(化合物2)75gおよびエタノール220gをいれ、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次いで、25℃の水浴中で、滴下漏斗を用いてトリメチルシリルメチルジクロロシラン(化合物1)94gを2時間かけて添加した。滴下終了後、攪拌を2時間続けた。
【0075】
その後、副生成するナトリウム塩を、セライトを敷いたガラスフィルターにて濾過し、塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮し、トリメチルシリルメチルトリメトキシシラン(化合物3)89g(収率85%)を得た。
【0076】
最終生成物の残存水分量(含水分量)は109ppm、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素の含有量(金属不純物含有量)は、Na=8ppb、K=7ppb、Fe=8ppb、Ni=9ppb、Li、Fe、Cr、Ag、Cu、Zn、Mn、Co、Ti、Zr、Al、Pb、Sn、Wの各元素は検出限界値(0.2ppb)以下であった。
【0077】
2.2.4.合成例4
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0078】
フラスコにナトリウムメトキシド(化合物2)59gおよびメタノール153gをいれ、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次いで、25℃の水浴中で、滴下漏斗を用いてビス(クロロメチルシリル)エタン(化合物1)94gを2時間かけて添加した。滴下終了後、攪拌を2時間続けた。
【0079】
その後、副生成するナトリウム塩を、セライトを敷いたガラスフィルターにて濾過し、塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮し、ビス(ジメトキシメチルシリル)エタン(化合物3)95g(収率80%)を得た。
【0080】
最終生成物の残存水分量(含水分量)は100ppm、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素の含有量(金属不純物含有量)は、Na=4ppb、K=3ppb、Fe=3ppb、Ni=2ppb、Li、Fe、Cr、Ag、Cu、Zn、Mn、Co、Ti、Zr、Al、Pb、Sn、Wの各元素は検出限界値(0.2ppb)以下であった。
【0081】
2.2.5.合成例5
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0082】
フラスコにナトリウムメトキシド(化合物2)59gおよびメタノール153gをいれ、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次いで、25℃の水浴中で、滴下漏斗を用いてp−(ジクロロシリル)ベンゼン(化合物1)88gをテトラヒドロフラン100gに溶解させた溶液を2時間かけて添加した。滴下終了後、攪拌を2時間続けた。
【0083】
その後、副生成するナトリウム塩を、セライトを敷いたガラスフィルターにて濾過し、塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮し、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン(化合物3)121g(収率75%)を得た。
【0084】
最終生成物の残存水分量(含水分量)は89ppm、ケイ素、炭素、酸素、および水素以外の元素の含有量(金属不純物含有量)は、Na=6ppb、K=7ppb、Fe=6ppb、Ni=4ppb、Li、Fe、Cr、Ag、Cu、Zn、Mn、Co、Ti、Zr、Al、Pb、Sn、Wの各元素は検出限界値(0.2ppb)以下であった。
【0085】
2.2.6.比較合成例1
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを60℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0086】
メタノール153gをいれ、スリーワンモーターで300rpmにて15分間攪拌した。次いで、25℃の水浴中で、滴下漏斗を用いてビス(メチルクロロシリル)メタン(化合物1)86gを2時間かけて添加した。滴下終了後、攪拌を2時間続けた。
【0087】
反応後、エバポレーターにて減圧濃縮し、ビス(ジメトキシメチルシリル)メタン(化合物3)14g(収率6%)を得た。
【0088】
2.2.7.比較合成例2
冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた3つ口フラスコを50℃で減圧乾燥した後、窒素充填した。
【0089】
次に、マグネシウム29.04gを前記フラスコに入れた。次いで、テトラヒドロフラン96gを前記フラスコに加え、室温で撹拌しながら、クロロメチルメチルジメトキシシラン(化合物6の原料)4.0gを前記フラスコに投入した。10分後に反応が開始し、反応液の温度が50℃に上昇した。この反応液にテトラヒドロフラン150gを加え、25℃に温度を保ったバスに浸け、5分間攪拌した。
【0090】
クロロメチルメチルジメトキシシラン(化合物6の原料)176gおよびメチルトリメトキシシラン(化合物7)250gをテトラヒドロフラン200gに溶解させた溶液を、フラスコ中の反応液に120分間かけて滴下した。滴下開始から20分後に白色の沈殿物が生じた。滴下終了後、バスの温度を70℃に昇温して、3時間反応させた。
【0091】
反応後、副生成するマグネシウム塩を桐山ロートにて濾過し、該マグネシウム塩を200mLのヘキサンで洗浄した。濾液をエバポレーターにて減圧濃縮した後に、蒸留を行ない、最終生成物であるビス(ジメトキシメチルシリル)メタン(化合物3)10gを得た(収率3.8%)。
【0092】
合成例2〜5によれば、化合物1と化合物2との反応によって、化合物3を高い収率で得ることができることがわかる。
【0093】
これに対して、比較合成例1のように、化合物2のかわりにアルコールと化合物1とを反応させて化合物3を製造する場合、ならびに、比較合成例2のように、グリニャール反応によって化合物3を製造する場合、化合物3の収率が著しく低いことがわかる。
【0094】
以上により、本発明の有機ケイ素化合物(化合物3)の製造方法によれば、化合物1を化合物2との反応により、簡便な工程にて高い収率で化合物3を得ることができる。
【0095】
本発明に係る実施の形態の説明は以上である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を、下記一般式(2)で表される金属化合物と反応させて、下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物を得る工程を含む、有機ケイ素化合物の製造方法。
Si−R−SiX ・・・・・(1)
(式中、Rは置換もしくは非置換のメチレン基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキレン基、炭素原子数6〜12の置換若しくは非置換のアリーレン基を示し、RおよびRはそれぞれ同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示し、Xは同一または異なり、水素原子またはハロゲン原子を示し、mおよびnは同一または異なり、0〜3の整数を示し、m+n=3である(ただし、2つあるmのうち少なくとも一つは1以上である。)。)
M(OR ・・・・・(2)
(式中、Mは金属元素を示し、rは金属元素の価数を示し、Rは同一または異なり、炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルケニル基、炭素原子数2〜10の置換もしくは非置換のアルキニル基、または炭素原子数6〜12の置換もしくは非置換のアリール基を示す。)
(ORSi−R−Si(OR ・・・・・(3)
(式中、R、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりであり、Rは上記一般式(2)で定義されたとおりである。)
【請求項2】
下記一般式(4)で表される化合物と下記一般式(5)で表される化合物とを反応させて、上記一般式(1)で表される化合物を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
Y−R−Y ・・・・・(4)
(式中、Yはハロゲン原子を示し、Rは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
SiXm+1 ・・・・・(5)
(式中、X、R、mおよびnは上記一般式(1)で定義されたとおりである。)
【請求項3】
上記一般式(1)および上記一般式(2)において、Rがメチレン基である、請求項1または2に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
上記一般式(2)において、Mがアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項5】
上記一般式(2)において、Mがナトリウムである、請求項4に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−229115(P2010−229115A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81032(P2009−81032)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【特許番号】特許第4379637号(P4379637)
【特許公報発行日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】