説明

有機ケイ素化合物及びその製造方法、ゴム用配合剤、ゴム組成物並びにタイヤ

【課題】ゴム組成物の硬化物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐磨耗性を大幅に向上させることが可能な含硫黄有機ケイ素化合物及びその製造方法、該含硫黄有機ケイ素化合物を含むゴム用配合剤、該ゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物並びに該ゴム組成物の硬化物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】加水分解性シリル基、アミノ基及びメルカプト基を有する含硫黄有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に加水分解性シリル基、メルカプト基及びアミノ基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法、該有機ケイ素化合物を含むゴム用配合剤、該ゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物並びにゴム組成物の硬化物を用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
含硫黄有機ケイ素化合物は、タイヤの製造に用いられるシリカ充填ゴム組成物に配合する成分として有用である。シリカ充填タイヤは、自動車用途で向上した性能、特に耐磨耗性、転がり抵抗及びウェットグリップ性に優れる。こういった性能向上は、タイヤの低燃費性向上と密接に関連しており、昨今盛んに研究されている。
【0003】
低燃費性向上には、ゴム組成物のシリカ充填率を上げることが必須であるが、シリカ充填ゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、ウェットグリップ性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要し、作業性に問題がある。そのためシリカ等の無機充填剤を単に配合したゴム組成物においては、充填剤の分散が不足し、破壊強度及び耐磨耗性が大幅に低下するといった問題が生じる。そこで、無機充填剤のゴム中への分散性向上、並びに充填剤とゴムマトリックスの化学結合をさせるため、含硫黄有機ケイ素化合物が必須であった。
【0004】
含硫黄有機ケイ素化合物としては、アルコキシシリル基とポリスルフィドシリル基を分子内に含む化合物、例えば、ビス−トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィドやビス−トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等が有効であることが知られている。
【0005】
上記ポリスルフィド基を有する有機ケイ素化合物の他に、シリカの分散性に有利なチオエステル型の封鎖メルカプト基含有有機ケイ素化合物や、水素結合によるシリカとの親和性に有利な加水分解性シリル基部分にアミノアルコール化合物をエステル交換したタイプの含硫黄有機ケイ素化合物の応用も知られている。
【0006】
しかしながら、上記のような含硫黄有機ケイ素化合物を使用しても所望の低燃費性を実現するタイヤ用ゴム組成物を得るには至っておらず、他にもスルフィド型の化合物と比較して高コストである他、製造法が複雑であることから生産性に問題があるなど種々課題が残されるものであった。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51−20208号公報
【特許文献2】特表2004−525230号公報
【特許文献3】特開2004−18511号公報
【特許文献4】特開2005−8639号公報
【特許文献5】特開2002−145890号公報
【特許文献6】特開2008−150546号公報
【特許文献7】特開2010−132604号公報
【特許文献8】特許第4571125号公報
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0245754号明細書
【特許文献10】米国特許第6229036号明細書
【特許文献11】米国特許第6414061号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、上記従来技術の問題を解決し、ゴム組成物の硬化物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐磨耗性を大幅に向上させることが可能な含硫黄有機ケイ素化合物及びその製造方法、該含硫黄有機ケイ素化合物を含むゴム用配合剤、該ゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物並びに該ゴム組成物の硬化物を用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、加水分解性シリル基、アミノ基及びメルカプト基を有する含硫黄有機ケイ素化合物を主成分とするゴム用配合剤を使用したゴム組成物が、所望の低燃費タイヤ特性を満足することを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す有機ケイ素化合物及びその製造方法、ゴム用配合剤、ゴム組成物並びにタイヤを提供する。
〔請求項1〕
下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物。
【化1】


[式中、R1は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R2は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R1及びR2のうち少なくとも1つは下記一般式(2)
【化2】


(式中、波線は結合手を示す。R3は独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基であり、Zは独立にハロゲン原子又は−OR4を示し、R4は酸素原子が介在されていてもよくカルボニル基が介在されていてもよい炭素数1〜20の一価炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)
で表される加水分解性シリル基であり、A,B及びDはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい二価炭化水素基であり、AとBがアルキレン基で連結された環式構造でもよく、Eは水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子もしくはカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい一価炭化水素基である。]
〔請求項2〕
1及びR2のアミノ基が下記一般式(11)で示される基、メルカプト基が下記式(12)で示される基、エポキシ基が下記一般式(13)で示される基である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化3】


(式中、波線は結合手を示し、R5は独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR5同士がアルキレン基で連結された炭素数4〜10の環式構造である。R6,R7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR6とR7がアルキレン基で連結された炭素数4〜10の環式構造である。)
〔請求項3〕
下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化4】


(式中、A,B,D,E,Z,R2,R3,nは上記と同じである。)
〔請求項4〕
下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化5】


(式中、A,B,D,E,Z,R3,nは上記と同じであり、Z,R3はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。n’は1〜3の整数である。)
〔請求項5〕
下記一般式(5)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化6】


(式中、A,B,D,E,Z,R1,R3,nは上記と同じである。)
〔請求項6〕
下記一般式(6)〜(8)で表される構造より選択される請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化7】


(式中、A,D,E,R1,R2,R3,R4,nは上記と同じであり、n’は1〜3の整数である。)
〔請求項7〕
1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を有する化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
〔請求項8〕
1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上のエピスルフィド基を有する化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
〔請求項9〕
1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
〔請求項10〕
請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物を含んでなるゴム用配合剤。
〔請求項11〕
更に、少なくとも1種の粉体(B)を含有してなり、前記有機ケイ素化合物(A)と少なくとも1種の粉体(B)との質量比が、(A)/(B)=70/30〜5/95の割合である請求項10記載のゴム用配合剤。
〔請求項12〕
請求項10又は11記載のゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物。
〔請求項13〕
請求項12記載のゴム組成物の硬化物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機ケイ素化合物は、加水分解性シリル基、メルカプト基及びアミノ基を有しており、該化合物を主成分とするゴム用配合剤を使用したシリカ充填ゴム組成物は、上記化合物中のアミノ基とゴム中のシリカとの相互作用により、シリカ近傍での反応性及び分散性が上がるため、ゴム組成物を用いて製造されたタイヤのヒステリシスロスを大幅に低下し、所望の低燃費タイヤ特性を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「シランカップリング剤」は「有機ケイ素化合物」に含まれる。
【0013】
[有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)]
本発明の有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)は、下記一般式(1)で表されるものである。
【化8】


[式中、R1は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R2は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R1及びR2のうち少なくとも1つは下記一般式(2)
【化9】


(式中、波線は結合手を示す(以下、同じ)。R3は独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基であり、Zは独立にハロゲン原子又は−OR4を示し、R4は酸素原子が介在されていてもよくカルボニル基が介在されていてもよい炭素数1〜20の一価炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)
で表される加水分解性シリル基であり、A,B及びDはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい二価炭化水素基であり、AとBがアルキレン基で連結された環式構造でもよく、Eは水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子もしくはカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい一価炭化水素基である。]
【0014】
上記一般式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)の特徴としては、下記構造(i)、(ii)、(iii)を共に有することが挙げられる。
(i)加水分解性シリル基
(ii)メルカプト基
(iii)アミノ基
【0015】
上記式(1)において、R1,R2の加水分解性シリル基は、下記一般式(2)で表される。
【化10】


ここで、R3は独立に炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基などが挙げられる。
また、Zは独立にハロゲン原子又は−OR4を示し、R4は酸素原子が介在されていてもよくカルボニル基が介在されていてもよい炭素数1〜20、好ましくは1〜18の一価炭化水素基であり、−OR4としては、アルキル部分に酸素原子が介在してもよい炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニルオキシ基もしくはアシルオキシ基又は炭素数6〜10のアリーロキシ基である。具体的には、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、プロペノキシ基、アセトキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、エチレングリコールモノアルキルエーテル基などが挙げられる。
nは1〜3の整数、好ましくは2又は3である。
【0016】
また、上記式(1)において、R1及びR2のアルキル基としては、下記一般式(9)で表される一価の構造基が例示できる。
【化11】


(式中、kは1〜20、好ましくは1〜10の整数である。)
アルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
【0017】
また、R1及びR2のビニル基は、下記式(10)
【化12】


で表される一価の構造基であり、アミノ基としては、下記一般式(11)で表される一価の構造基が例示できる。
【化13】


上記式中、R5は独立に水素原子、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR5同士がアルキレン基で連結された炭素数4〜10、好ましくは4〜8の環式構造であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基、スチリル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。
アミノ基の具体的な構造としては、1級アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、フェニルアミノ基などの2級アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジニル基などの3級アミノ基が挙げられる。
【0018】
また、R1,R2のメルカプト基は、下記式(12)
【化14】


で表される一価の構造基であり、エポキシ基としては、下記一般式(13)で表される一価の構造基が例示できる。
【化15】


上記式中、R6,R7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR6とR7がアルキレン基で連結された炭素数4〜10、好ましくは4〜8の環式構造であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基、スチリル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。
エポキシ基の具体的な構造としては、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、ブテンオキシド基、ペンテンオキシド基、ヘキセンオキシド基、スチレンオキシド基、シクロヘキセンオキシド基などが挙げられる。
【0019】
A,B及びDは、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい二価炭化水素基であり、二価炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは3〜18の直鎖状、分岐状又は環状の二価炭化水素基、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)などが挙げられる。
また、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでもよい二価炭化水素基としては、例えば、
【化16】


(Meはメチル基を示す。)
などを間に挟む二価炭化水素基が例示でき、置換基を有してもよい二価炭化水素基としては、例えば、
【化17】


などの置換基を間に挟む二価炭化水素基が例示できる。
また、AとBがアルキレン基で連結された環式構造を形成してもよい。
【0020】
Eは水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子もしくはカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは3〜18の直鎖状、分岐状又は環状の一価炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでもよい一価炭化水素基としては、例えば、
【化18】


(Meはメチル基を示す。)
などを間に挟む一価炭化水素基が例示でき、置換基を有してもよい一価炭化水素基としては、例えば、
【化19】


などの置換基を間に挟む一価炭化水素基が例示できる。
【0021】
上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物として、具体的には、下記一般式(3)〜(5)で示すものを挙げることができる。
【化20】


(式中、A,B,D,E,Z,R2,R3,nは上記と同じである。)
【化21】


(式中、A,B,D,E,Z,R3,nは上記と同じであり、Z,R3はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。n’は1〜3の整数、好ましくは2又は3である。)
【化22】


(式中、A,B,D,E,Z,R1,R3,nは上記と同じである。)
【0022】
より具体的には、下記一般式(6)〜(8)で示すことができる。
【化23】


(式中、A,D,E,R1,R2,R3,n,n’は上記と同じであり、R4は独立に酸素原子が介在されていてもよくカルボニル基が介在されていてもよい炭素数1〜20の一価炭化水素基である。1分子中のR3,R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
上記式中、R4は上記の通りである。
【0023】
本発明の有機ケイ素化合物は、1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を有する化合物との反応や、1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上のエピスルフィド基を有する化合物との反応、1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物との反応等により得ることができる。
【0024】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料であるエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物としては特に限定されないが、加水分解性シリル基を含有するものであることが好ましく、具体的には、下記式(14)〜(17)で示される化合物が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【化24】

【0025】
この化合物の製造は、極性溶媒中で対応するエポキシ化合物と、エピスルフィド化剤とを反応させる方法に従って行うことができ、エピスルフィド化剤としては、例えば、チオ尿素、チオシアン酸カリウムが挙げられ、極性溶媒としては、エタノール、アセトン、トルエン等を用いることができる。
【0026】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料である1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物としては特に限定されないが、加水分解性シリル基を含有するものであることが好ましく、具体的には、α−アミノメチルトリメトキシシラン、α−アミノメチルメチルジメトキシシラン、α−アミノメチルジメチルメトキシシラン、α−アミノメチルトリエトキシシラン、α−アミノメチルメチルジエトキシシラン、α−アミノメチルジメチルエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルジメチルメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルジメチルエトキシシラン、ビス−(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(メチルジメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(ジメチルメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(ジメチルエトキシシリルプロピル)アミン等が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【0027】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料であるエピスルフィド基を含有する化合物としては特に限定されないが、具体的には、下記式(18)〜(21)で示される化合物が挙げられ、ここに例示されたものに限らない。
【化25】

【0028】
この化合物の製造は、極性溶媒中で対応するエポキシ化合物と、エピスルフィド化剤とを反応させる方法に従って行うことができ、エピスルフィド化剤としては、例えば、チオ尿素、チオシアン酸カリウムが挙げられ、極性溶媒としては、エタノール、アセトン、トルエン等を用いることができる。
【0029】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料である1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を有する化合物としては特に限定されないが、市販されていて入手容易なものとしては、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペラジンなどが挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【0030】
本発明の有機ケイ素化合物を製造するにあたり、エピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を有する化合物との配合比、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物とエピスルフィド基を有する化合物との配合比、及びエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物との配合比は、反応性、生産性の点から、エピスルフィド基1モルに対し、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を0.5〜1.5モル、特に0.7〜1.3モルの範囲で反応させることが好ましい。エピスルフィド化合物の配合量が少なすぎると、アミノ基が残存し、シランの諸物性に影響を与えないものの、ゴム用配合剤として使用時にスコーチが生じやすくなるおそれがある。逆に多すぎるとエピスルフィド化合物が重合し、ゲル化するおそれがある。
【0031】
上記より、エピスルフィド基と活性水素を有するアミノ基との反応によりメルカプト基とアミノ基を有する構造が形成され、本発明の有機ケイ素化合物が得られる。
【0032】
エピスルフィド基と活性水素基を有するアミノ基との反応には2つの反応点が考えられるが、立体障害の少ない炭素への反応が進行するため、上記式(6)〜(8)の構造の有機ケイ素化合物が主生成物として得られる。
【0033】
本発明の有機ケイ素化合物製造時には、必要に応じて溶媒を使用してもよい。溶媒は上述した原料となるエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物、1級アミノ基あるいは2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物、エピスルフィド基を含有する化合物、1個以上の1級アミノ基あるいは2級アミノ基を有する化合物等と非反応性であれば特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0034】
本発明の有機ケイ素化合物製造時において、好ましい反応温度は30〜150℃であり、より好ましくは40〜120℃、更に好ましくは50〜100℃の範囲である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅くなることがあり、反応温度が高すぎると、反応速度の更なる向上はなく、非経済的となることがある。
【0035】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる反応時間は、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは1〜10時間程度である。
【0036】
本発明のゴム用配合剤は、上記有機ケイ素化合物(A)を含んでなるものである。また、本発明の上記有機ケイ素化合物(A)を予め少なくとも1種の粉体(B)と混合したものをゴム用配合剤として使用することも可能である。粉体(B)としては、各種ゴム組成物でフィラーとして用いるカーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウム等が挙げられる。補強性の観点からシリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。
【0037】
粉体(B)の配合量は、成分(A)/(B)の質量比で70/30〜5/95、更に好ましくは60/40〜10/90の割合である。粉体(B)の量が少なすぎるとゴム用配合剤が液状となり、ゴム混練機への仕込みが困難となる場合がある。粉体(B)の量が多すぎるとゴム用配合剤の有効量に対し、全体量が多くなってしまい輸送費用が高くなる場合がある。
【0038】
本発明のゴム用配合剤は、本発明の目的を損なわない範囲で脂肪酸、脂肪酸塩、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシアルキレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体等の有機ポリマーやゴムと混合されたものでもよく、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、充填剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合してもよく、その形態として液体状でも固体状でもよく、更に有機溶媒に希釈したものでもよく、またエマルジョン化したものでもよい。
【0039】
本発明のゴム用配合剤は、シリカ配合のゴム組成物に対して好適に用いられる。
この場合、上記ゴム用配合剤の添加量は、ゴム組成物に配合されるフィラー(上記粉体(B)を含む全フィラー)100質量部に対して本発明の有機ケイ素化合物を好ましくは0.2〜30質量部、特に好ましくは1〜20質量部添加するのが望ましい。有機ケイ素化合物の添加量が少なすぎると所望のゴム物性が得られないおそれがある。逆に多すぎると添加量に対して効果が飽和し、非経済的である。
【0040】
ここで、本発明にかかるゴム用配合剤を用いるゴム組成物に主成分として配合されるゴムとしては、従来から各種ゴム組成物に一般的に配合されている任意のゴム、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムやエチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPR,EPDM)などを単独又は任意のブレンドとして使用することができる。また、配合されるフィラーとしては、シリカ、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン等が挙げられる。ここで、上記粉体(B)を含む全フィラーの配合量は、上記ゴム100質量部に対し20〜2,000質量部、特に40〜1,000質量部であることが好ましい。
【0041】
本発明にかかるゴム用配合剤を用いるゴム組成物には、前述した必須成分に加えて、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、充填剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量も本発明の目的に反しない限り従来の一般的な配合量とすることができる。
【0042】
なお、これらのゴム組成物において、本発明の有機ケイ素化合物は、公知のシランカップリング剤の代わりをなすことも可能であるが、更に他のシランカップリング剤の添加は任意であり、従来からシリカ充填剤と併用される任意のシランカップリング剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよく、それらの典型例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビス−トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド、ビス−トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等を挙げることができる。
【0043】
本発明のゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物は、一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。なお、加硫は通常の公知の条件でよい。
【0044】
本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を用いて製造することを特徴とし、上記のゴム組成物の硬化物がトレッドに用いられていることが好ましい。本発明のタイヤは、転がり抵抗が大幅に低減されていることに加え、耐磨耗性も大幅に向上している。なお、本発明のタイヤは、従来公知の構造で特に限定はなく、通常の方法で製造できる。また、本発明のタイヤが空気入りのタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体として通常のあるいは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、製造例、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記例中、部は質量部を示し、粘度、屈折率は、25℃において測定した値である。また、NMRは核磁気共鳴分光法の略である。粘度は毛細管式動粘度計による25℃における測定に基づく。
【0046】
[製造例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−403)556.8g(2.0mol)、チオ尿素213.1g(2.8mol)、アセトン400.0gを納め、オイルバスにて60℃に加熱した。その後60℃にて16時間加熱撹拌した。その後濾過し、濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮することで得られた235.6gの反応生成物は、粘度6.7mm2/s、屈折率1.4590の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(14)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0047】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.75(t,2H),
1.18(t,9H),1.62(m,2H),2.13(d,1H),
2.42(d,1H),2.97(m,1H),3.36(m,1H),
3.40(t,2H),3.57(m,1H),3.76(t,6H)
【0048】
【化26】


(式中、Etはエチル基を示す。以下同じ。)
【0049】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、製造例1で得られた化合物(14)を294.5g(1.0mol)、テトラヒドロフラン500.0gを仕込み、イソブチルアミン87.7g(1.2mol)を滴下し、オイルバスにて60℃まで昇温した。続いて5時間熟成した。その後、溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮、濾過することで得られた360.2gの反応生成物は、粘度18.7mm2/s、屈折率1.4574の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(22)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0050】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.59(t,2H),
0.85(d,6H),1.19(t,9H),1.58−1.79(m,5H),
2.38(m,2H),2.60(m,1H),2.82(m,1H),
3.05(m,1H),3.38(m,2H),3.70(m,2H),
3.79(t,8H)
【0051】
【化27】

【0052】
[実施例2]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、製造例1で得られた化合物(14)を294.5g(1.0mol)、テトラヒドロフラン500.0gを仕込み、ドデシルアミン222.5g(1.2mol)を滴下し、オイルバスにて60℃まで昇温した。続いて5時間熟成した。その後、溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮、濾過することで得られた455.8gの反応生成物は、粘度25.3mm2/s、屈折率1.4590の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(23)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0053】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.62(t,2H),
0.69(t,3H),1.12(t,9H),1.10−1.20(m,18H),
1.29(m,2H),1.68(m,2H),1.79(m,2H),
2.48(m,3H),2.78(m,1H),2.95(m,1H),
3.20−3.40(m,4H),3.65(t,9H)
【0054】
【化28】

【0055】
[実施例3]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、製造例1で得られた化合物(14)を294.5g(1.0mol)、テトラヒドロフラン500.0gを仕込み、ジブチルアミン155.0g(1.2mol)を滴下し、オイルバスにて60℃まで昇温した。続いて5時間熟成した。その後、溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮、濾過することで得られた406.7gの反応生成物は、粘度13.5mm2/s、屈折率1.4545の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(24)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0056】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.60(t,2H),
0.81(t,3H),1.12(t,9H),1.17(m,4H),
1.27(m,4H),1.55(m,2H),2.39(m,6H),
2.50(m,1H),2.97(m,1H),3.20−3.35(m,3H),
3.41(m,1H),3.63(t,9H)
【0057】
【化29】


(式中、n−Buはn−ブチル基を示す。)
【0058】
[実施例4]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、製造例1で得られた化合物(14)を294.5g(1.0mol)、テトラヒドロフラン300.0gを仕込み、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−903)221.4g(1.0mol)を滴下し、オイルバスにて60℃まで昇温した。続いて5時間熟成した。その後、溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮、濾過することで得られた505.6gの反応生成物は、粘度32.7mm2/s、屈折率1.4502の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(25)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0059】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.63(t,4H),
1.08(t,18H),1.42(m,2H),1.53(m,2H),
1.80(m,2H),2.40−2.58(m,3H),2.80(m,1H),
2.95(m,1H),3.23−3.40(m,3H),3.65(t,12H)
【0060】
【化30】

【0061】
[実施例5]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、アリルグリシジルエーテル112.2g(1.0mol)、チオ尿素106.6g(1.4mol)、トルエン200.0gを納め、オイルバスにて60℃に加熱した。その後60℃にて16時間加熱撹拌した。その後濾過し、濾液にγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−903)166.2g(0.75mol)を滴下し、オイルバスにて60℃まで昇温した。続いて5時間熟成した。その後、溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮、濾過することで得られた341.1gの反応生成物は、粘度6.25mm2/s、屈折率1.4642の淡黄色透明液体であり、1H NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(26)に示す構造を有する生成物であることを確認した。この化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0062】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.63(t,2H),
1.09(t,9H),1.44(m,2H),1.71(m,2H),
2.43−2.60(m,3H),2.78(m,3H),2.99(m,1H),
3.40(m,2H),3.70(t,9H),3.82(t,2H),
5.07(dd,2H),5.72(m,1H)
【0063】
【化31】

【0064】
[実施例6〜10、比較例1〜3]
油展エマルジョン重合SBR(JSR社製#1712)110部、NR(一般的なRSS#3グレード)20部、カーボンブラック(一般的なN234グレード)20部、シリカ(日本シリカ工業社製ニプシルAQ)50部、実施例1〜5の有機ケイ素化合物又は下記に示す比較化合物A〜C6.5部、ステアリン酸1部、老化防止剤6C(大内新興化学工業社製ノクラック6C)1部を配合してマスターバッチを調製した。これに亜鉛華3.0部、加硫促進剤DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)0.5部、加硫促進剤NS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)1.0部、硫黄1.5部を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
次に、ゴム組成物の未加硫又は165℃×30分の条件で加硫した場合の加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1,2に示す。
【0065】
〔未加硫物性〕
(1)ムーニー粘度
JIS K 6300に準拠し、余熱1分、測定4分、温度130℃にて測定し、比較例1を100として指数で表した。指数の値が小さいほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
【0066】
〔加硫物性〕
(2)動的粘弾性
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、引張の動歪5%、周波数15Hz、60℃の条件にて測定した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を160gとした。tanδの値は比較例1を100として指数で表した。指数値が小さいほどヒステリシスロスが小さく低発熱性である。
【0067】
(3)耐磨耗性
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型磨耗試験機を用いて室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例1の磨耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きいほど、磨耗量が少なく耐磨耗性に優れることを示す。
【0068】
〔比較化合物A〕
【化32】


〔比較化合物B〕
【化33】


〔比較化合物C〕
【化34】

【0069】
【表1】

【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物。
【化1】


[式中、R1は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R2は加水分解性シリル基、アルキル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基から選択される基であり、R1及びR2のうち少なくとも1つは下記一般式(2)
【化2】


(式中、波線は結合手を示す。R3は独立に炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基であり、Zは独立にハロゲン原子又は−OR4を示し、R4は酸素原子が介在されていてもよくカルボニル基が介在されていてもよい炭素数1〜20の一価炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)
で表される加水分解性シリル基であり、A,B及びDはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい二価炭化水素基であり、AとBがアルキレン基で連結された環式構造でもよく、Eは水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子もしくはカルボニル炭素を間に挟んでもよく、置換基を有してもよい一価炭化水素基である。]
【請求項2】
1及びR2のアミノ基が下記一般式(11)で示される基、メルカプト基が下記式(12)で示される基、エポキシ基が下記一般式(13)で示される基である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化3】


(式中、波線は結合手を示し、R5は独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR5同士がアルキレン基で連結された炭素数4〜10の環式構造である。R6,R7はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又はR6とR7がアルキレン基で連結された炭素数4〜10の環式構造である。)
【請求項3】
下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化4】


(式中、A,B,D,E,Z,R2,R3,nは上記と同じである。)
【請求項4】
下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化5】


(式中、A,B,D,E,Z,R3,nは上記と同じであり、Z,R3はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。n’は1〜3の整数である。)
【請求項5】
下記一般式(5)で表されることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化6】


(式中、A,B,D,E,Z,R1,R3,nは上記と同じである。)
【請求項6】
下記一般式(6)〜(8)で表される構造より選択される請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化7】


(式中、A,D,E,R1,R2,R3,R4,nは上記と同じであり、n’は1〜3の整数である。)
【請求項7】
1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を有する化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項8】
1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上のエピスルフィド基を有する化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項9】
1個以上の1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有する有機ケイ素化合物と、1個以上のエピスルフィド基を含有する有機ケイ素化合物とを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物を含んでなるゴム用配合剤。
【請求項11】
更に、少なくとも1種の粉体(B)を含有してなり、前記有機ケイ素化合物(A)と少なくとも1種の粉体(B)との質量比が、(A)/(B)=70/30〜5/95の割合である請求項10記載のゴム用配合剤。
【請求項12】
請求項10又は11記載のゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物。
【請求項13】
請求項12記載のゴム組成物の硬化物を用いたタイヤ。

【公開番号】特開2012−240924(P2012−240924A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109462(P2011−109462)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】