説明

有機ケイ素化合物及びそれを含む熱硬化性樹脂組成物

【課題】透明性、耐熱性、耐熱黄変性などに優れた熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記(A)、(B)、及び(C)で表される化合物がヒドロシリル化反応することによって得られる有機ケイ素化合物、ならびに該化合物と硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物。
(A) 1分子中にSi-H基を2個以上有する、分子量が100〜500000のシルセスキオキサン。
(B) 1分子中にアルケニルを2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。
(C) 1分子中にエポキシまたはオキセタニルを1個以上と、炭素数が2〜18のアルケニルとを有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機ケイ素化合物、および該化合物を含む、コーティング剤、光学材料、電気絶縁材料などの用途に有用な熱硬化性樹脂組成物、並びにこれを熱硬化させた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の表示板、画像読み取り用光源、交通信号、大型ディスプレイ用ユニット、携帯電話のバックライト等に実用化されている発光ダイオード(LED)等の発光装置は、芳香族エポキシ樹脂に硬化剤として脂環式酸無水物を用いたもので樹脂封止して製造されているのが一般的である。しかし、この樹脂系は酸無水物が酸で変色しやすいことや、硬化に長時間を要することが知られている。また、硬化した封止樹脂が屋外に放置される場合や、紫外線を発生する光源に曝される場合に、封止樹脂が黄変するという問題点を有している。
【0003】
このような問題点を解消するために、脂環式エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用い、カチオン重合開始剤によってLED等の樹脂封止を行なう方法が試みられている(特許文献1および2を参照)。しかし、上記カチオン重合した硬化樹脂は非常に脆いため、冷熱サイクルにより亀裂破壊を生じやすく、また、従来の芳香族エポキシ樹脂−酸無水物硬化系に比べ、硬化後の封止樹脂の着色が著しいという重大な欠点を有している。そのため、この硬化樹脂は、無色透明性を要求される用途、特に耐熱性と透明性が要求されるLEDの封止用途には不向きである。
【0004】
そこで、冷熱サイクルによるクラックの発生が改良され、耐光性に優れたLED封止材用樹脂組成物が特許文献3に開示されている。ここに示された樹脂組成物は、水素化エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂をマトリックス成分とするものではあるが、未だ硬化後の着色が大きく更なる変色に対する改善が望まれている。
【0005】
一方、特許文献4には、低粘度化剤として脂環式エポキシ樹脂やオキセタン樹脂を用いた配線基板の電子部品と基板との隙間を埋めるための埋込樹脂組成物が記載されている。しかし、この樹脂組成物は、多量の無機フィラーを含有するために、透明性を必要とする分野には適用できない。また、特許文献5には、変性オキセタン樹脂を活性エネルギー線硬化性樹脂とするアルカリ水溶液に可溶な樹脂組成物が示されているが、ここに示されたものは、アルカリ可溶性樹脂とすることを目的としており、また、変性オキセタン樹脂や多官能オキセタン樹脂は不飽和結合を有するため熱履歴による変色は避けられないものであった。なお、特許文献6〜10には、かご型ケイ素化合物およびその重合体が開示されているが、本発明の有機ケイ素化合物およびそれを含む熱硬化性樹脂組成物は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−112334号公報、
【特許文献2】特開平02−289611号公報
【特許文献3】特開2003−277473号公報
【特許文献4】特開2004−27186号公報
【特許文献5】国際公開WO01/072857号パンフレット
【特許文献6】特開2006−070049号公報
【特許文献7】国際公開WO2004/081084号パンフレット
【特許文献8】特開2004−331647号公報
【特許文献9】国際公開WO2003/24870号パンフレット
【特許文献10】国際公開WO2004/24741号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性と透明性が良好な硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題の一つとし、また、この熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物、成形体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、新規有機ケイ素化合物の合成に成功し、該化合物と硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物が透明性、耐熱性、耐熱黄変性などに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の構成を有する。
【0009】
[1](A)で表される化合物、(B)で表される化合物、及び(C)で表される化合物がヒドロシリル化反応することによって得られる有機ケイ素化合物。
(A) 1分子中にSi-H基を2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。
(B) 1分子中にアルケニルを2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。
(C) 1分子中にエポキシまたはオキセタニルを1個以上と、炭素数が2〜18のアルケニルとを有する化合物。
[2](A)で表される化合物が式(a−1)〜式(a−7)からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、(B)で表される化合物が式(b−1)および式(b−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、(C)で表わされる化合物が式(c−1)、式(c−2)および式(c−3)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]記載の有機ケイ素化合物。
【化1】

【化2】

式(a−1)〜式(a−7)において、
Rは炭素数1〜45のアルキル、炭素数4〜8のシクロアルキル、炭素数6〜14のアリールおよび炭素数7〜24のアリールアルキルから独立して選択される基であり;炭素数1〜45のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は、−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;アリールおよびアリールアルキル中のベンゼン環において、任意の水素はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキルで置き換えられてもよく、この炭素数1〜10のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;アリールアルキル中のアルキレンの炭素数は1〜10であり、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
1およびR2は、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;
3は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;
Xは、各化合物1分子中、少なくとも2個は水素であり、残りは、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;nは0〜100の整数であり、mは3〜10の整数である。
【化3】

式(b−1)、(b−2)において、
RおよびR1は上記式(a−1)から(a−6)におけるRおよびR1と同様に定義される基であり、
4は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり、
Yはビニルおよびアリルから独立して選択される基であり、
nは0〜100の整数である。
【化4】

式(c−1)、(c−2)、及び(c−3)において、R5およびR6のうち、一方は、炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルケニルにおける1つの−CH2−は−O−または1,4−フェニレンで置き換えられてもよく、他方は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
[3](A)で表される化合物が、式(a−4−1)で示されるシルセスキオキサン誘導体である、[2]記載の有機ケイ素化合物。
【化5】

[4](B)で表される化合物が、式(b−1−1)または(b−2−1)で表される、[2]または[3]記載の有機ケイ素化合物。
【化6】

式中、R4はメチルまたはフェニルから独立して選択され、nは0〜100の整数を表す。
[5](C)で表される化合物が、式(c−1−1)、式(c−2−1)、式(c−3−1)、及び(c−3−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[2]から[4]のいずれか一項記載の有機ケイ素化合物。
【化7】

[6][1]から[5]のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物と硬化剤とを含む、熱硬化性樹脂組成物。
[7]硬化剤が酸無水物である、[6]記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]さらに、希釈剤、硬化促進剤および添加剤を含む、[6]または[7]記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9]希釈剤が、ケイ素を分子内に含有しないエポキシ樹脂、ケイ素を分子内に含有しないオキセタン樹脂または有機溶媒である、[8]記載の熱硬化性樹脂組成物。
[10]添加剤が、紫外線吸収剤および/または酸化防止剤である、[8]記載の熱硬化性樹脂組成物。
[11][6]から[10]のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる硬化物および塗膜。
[12][11]記載の硬化物を成形して得られる成形体。
[13][6]から[10]のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を塗布してなる塗膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、例えば、透明性、耐熱性、耐熱黄変性などに優れている。そのため、硬化物からなる成形体は、半導体の封止材、光半導体の封止材、絶縁膜、シール剤、光学レンズなどの用途に好適に用いることができる。また、透明材料、光学材料、光学フィルム、光学シート、接着剤、電子材料、絶縁材料、層間絶縁膜、塗料、インク、コーティング材料、成形材料、ポッティング材料、液晶シール剤、表示デバイス用シール剤、太陽電池封止材料、レジスト材料、カラーフィルター、電子ペーパー用材料、ホログラム用材料、太陽電池用材料、燃料電池用材料、表示材料、記録材料、防水材料、防湿材料、電池用固体電解質、ガス分離膜に用いることができる。また、他の樹脂への添加剤等に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いる用語について説明する。
式(1)で表わされる化合物を化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても同様に簡略化して称することがある。本発明において「任意の」は位置だけではなく個数についても任意であることを意味する。そして、「任意のAはBまたはCで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも1つのAがBで置き換えられる場合と少なくとも1つのAがCで置き換えられる場合とに加えて、少なくとも1つのAがBで置き換えられると同時にその他のAの少なくとも1つがCで置き換えられる場合も含まれることを意味する。なお、アルキルまたはアルキレンにおける任意の−CH2−が−O−で置き換えられてもよいという設定には、連続する複数の−CH2−のすべてが−O−で置き換えられることは含まれない。実施例においては、電子天秤の表示データを質量単位であるg(グラム)を用いて示した。重量%や重量比はこのような数値に基づくデータである。
【0012】
<本発明の有機ケイ素化合物>
本発明の有機ケイ素化合物は化合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)をヒドロシリル化反応することによって得られる。
(A) 1分子中にSi-H基を2個以上有する、分子量が100〜500000のシルセスキオキサン。好ましくは、分子量1000〜100000である。
(B) 1分子中にアルケニルを2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。好ましくは、分子量150〜10000である。
(C) 1分子中にエポキシまたはオキセタニルを1個以上と、炭素数が2〜18のアルケニルとを有する化合物。
本発明の有機ケイ素化合物中の、化合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)それぞれに由来する構成単位の割合は、各化合物のモル分率をそれぞれa、b、cとすると、[a×化合物(A)1分子に含まれるSi-H基の数}≧{b×化合物(B)1分子に含まれるアルケニルの数}+{c×化合物(C)1分子に含まれるアルケニルの数}
となるような割合である。
【0013】
化合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)のヒドロシリル化反応は、化合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)を同時に加えてヒドロシリル化反応を行ってもよいが、まず、「(A)に含まれるSi-H基のモル数>(B)に含まれるアルケニルのモル数」となるように化合物(A)と化合物(B)をヒドロシリル化反応させ、次いで、過剰量の化合物(C)を加えて未反応のSi-H基と化合物(C)のアルケニルとをヒドロシリル化反応させることにより行うことが好ましい。
【0014】
ヒドロシリル化反応は溶剤中で行うことが好ましい。
ヒドロシリル化反応に用いる溶剤は、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限されない。好ましい溶剤は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤などである。これらの溶剤は単独で使用しても、その複数を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤の中でも、芳香族炭化水素系溶剤、その中でもトルエンが最も好ましい。
【0015】
ヒドロシリル化反応は室温で実施してもよい。重合を促進させるために加熱してもよい。重合による発熱または好ましくない重合等を制御するために冷却してもよい。ヒドロシリル化重合では、必要に応じて触媒を用いることができる。ヒドロシリル化触媒を添加することによって、重合をより容易に進行させることができる。好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karstedt)触媒、スパイヤー(Spier)触媒、ヘキサクロロプラチニック酸などであり、これらは一般的によく知られた触媒である。これらのヒドロシリル化触媒は、反応性が高いので少量添加すれば十分反応を進めることができる。その使用量は、触媒に含まれる遷移金属のヒドロシリル基に対する割合で、10-9〜1モル%である。好ましい添加割合は10-7〜10-3モル%である。
【0016】
化合物(A)としては、下記の式(a−1)〜式(a−7)で表わされる化合物が例示される。
【化8】

【化9】

【0017】
式(a−1)、式(a−4)、式(a−5)および式(a−6)において、Rは炭素数1〜45のアルキル、炭素数4〜8のシクロアルキル、炭素数6〜14のアリールおよび炭素数7〜24のアリールアルキルから独立して選択される基である。この炭素数1〜45のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は、−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよい。アリールおよびアリールアルキル中のベンゼン環において、任意の水素はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキルで置き換えられてもよい。この炭素数1〜10のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよい。アリールアルキル中のアルキレンの炭素数は1〜10であり、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。
【0018】
Rはシクロペンチル、シクロヘキシル、フェニルおよび素数1〜10のアルキルから独立して選択される基であることが好ましい。この炭素数1〜10のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。また、フェニルにおいて、任意の水素はフッ素等のハロゲンもしくは炭素数1〜10のアルキルで置き換えられてもよい。Rはシクロペンチル、シクロヘキシル、または任意の水素が塩素、フッ素、メチル、メトキシまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよいフェニルであることがより好ましく、シクロヘキシルまたはフェニルであることが更に好ましく、そしてフェニルであることが最も好ましい。
【0019】
式(a−1)、式(a−3)、式(a−4)、式(a−5)および式(a−6)において、R1およびR2は、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基である。炭素数1〜4のアルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、ブチルおよびt−ブチルである。R1またはR2の好ましい例はメチルおよびフェニルである。R1およびR2は同じ基であることが好ましい。
式(a−7)において、R3は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基である。炭素数1〜4のアルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、2−メチルエチル、ブチルおよびt−ブチルである。R1またはR2の好ましい例はメチルおよびフェニルである。
【0020】
式(a−1)〜式(a−7)において、Xは、各化合物の1分子中、少なくとも2個は水素であり、残りは、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基である。
式(a−4)、(a−5)において、nは0〜100の整数であり、式(a−7)において、mは3〜10の整数である。
【0021】
化合物(A)としてより好ましくは、下記式(a−4−1)で表わされる化合物が挙げられる。
【化10】

ここで、Phはフェニルを示す。式(a−4−1)の化合物は国際公開WO2004/024741号パンフレットに記載された方法に従って合成することができる。また、その他の化合物も公知の方法に従って入手することができる。
【0022】
化合物(B)としては、下記の式(b−1)または式(b−2)で表わされる化合物が例示される。
【化11】

式(b−1)において、RおよびR1は上記式(a−1)、式(a−3)、式(a−4)、式(a−5)および式(a−6)におけるRおよびR1と同様に定義される基であり、好ましい基も同様である。
式(b−2)において、R4は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり、nは0〜100の整数である。
式(b−1)および式(b−2)において、Yはビニルおよびアリルから独立して選択される基である。
【0023】
化合物(B)としてより好ましくは、下記式(b−1−1)または(b−2−1)で表わされる化合物が挙げられる。なお、式(b−2−1)において、R4はメチルまたはフェニルから独立して選択され、nは0〜100の整数である。
【化12】

式(b−2−1)の化合物の具体例としては、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジビニル−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、両末端ビニルポリジメチルシロキサンなどが例示される。
【0024】
化合物(C)としては、下記式(c−1)、式(c−2)または式(c−3)で表わされる化合物が例示される。
【化13】

式(c−1)、(c−2)、(c−3)において、R5およびR6のうちいずれか一方は、炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルケニルにおける1つの−CH2−は−O−または1,4−フェニレンで置き換えられてもよく、R5およびR6のうち他方は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【0025】
化合物(C)としてより好ましくは、下記式(c−1−1)、式(c−2−1)、式(c−3−1)または式(c−3−2)で表わされる化合物が例示される。
【化14】

なお、式(c−3−1)で表わされる化合物は、ダイセル化学工業株式会社よりセロキサイド2000として販売されているものが使用できる。
【0026】
<本発明の感光性樹脂組成物>
本発明の感光性樹脂組成物は有機ケイ素化合物と硬化剤とを含む。
【0027】
硬化剤としては、シクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物(三菱瓦斯化学(株)製H−TMAn)及びその他の酸無水物を例示することができる。
【0028】
その他の酸無水物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、およびメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物が利用できる。
【0029】
熱硬化性樹脂組成物中の酸無水物の好ましい使用割合は、使用する熱硬化性樹脂中のエポキシおよびオキセタニルのモル数と酸無水物のモル数の比が3:7〜7:3であることが好ましく、4:6〜6:4であることがより好ましい。
【0030】
硬化剤としてシクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物を用いる場合、熱硬化性樹脂組成物中のシクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物(以下、H−TMAnと略すことがある。)とその他の酸無水物とのモル比は、1:100〜100:1であればよく、1:5〜5:1が好ましく、1:2〜2:1が特に好ましい。酸無水物として新日本理化(株)製リカシッド(商品名) MH−700Gを用いた場合には、H−TMAn:MH−700G=1:2で混合して用いることが好ましい。
【0031】
本発明の感光性樹脂組成物は、硬化剤に加え、さらに硬化促進剤を含んでもよい。
硬化促進剤としては、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロミドなどの4級ホスホニウム塩;3級アミン;4級アンモニウム塩;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの双環式アミジン類とその誘導体;2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。しかしながら、硬化性がよく、着色がなければ、特に限定されない。これらの硬化促進剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの双環式アミジン類、およびイミダゾール類は、少量の添加量でも熱硬化性樹脂組成物に対して高い活性を示し、比較的低い硬化温度でも短時間、例えば、150℃程度でも90秒位で硬化することができるのでより好ましい。市販品としては、日本化学産業(株)製ニッカオクチックス亜鉛(商品名)やサンアプロ(株)製U−CAT5003(商品名)などが好ましく利用できる。
【0032】
このような硬化促進剤を用いるとき、その好ましい使用割合は、熱硬化性樹脂組成物の合計量に対する重量比で0.003〜0.04であり、より好ましくは0.004〜0.02である。この範囲であれば、充分な硬化促進効果が得られ、硬化物の物性低下や着色を引き起こすことがない。
【0033】
本発明の感光性樹脂組成物は、さらに希釈剤を含んでもよい。
希釈剤としては、有機溶媒または分子内にケイ素原子を含有しないエポキシ樹脂やケイ素を分子内に含有しないオキセタン樹脂が使用できる。なお、本発明において、3員環の環状エーテルをエポキシ、4員環の環状エーテルをオキセタニルと称し、それぞれが1分子中に2個以上有する化合物をエポキシ樹脂、オキセタン樹脂と呼ぶことがある。
ここで、有機溶媒としては、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、アセトン、2−ブタノンなどのケトン系溶剤が例示される。これらの溶剤は単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。
希釈剤としては、分子内にケイ素原子を含有しないエポキシ樹脂やケイ素を分子内に含有しないオキセタン樹脂を用いると、硬化剤により、本発明の有機ケイ素化合物ともに硬化されるため好ましい。前記分子内にケイ素原子を含有しないエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール−A型、ビスフェノール−F型、ビスフェノール−S型、水素化されたビスフェノール−A型などのエポキシ樹脂、ダイセル化学工業(株)製のセロキサイド(商品名) 2021 P、セロキサイド(商品名) 3000、セロキサイド(商品名) 2081などの脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。また、ケイ素を分子内に含有しないオキセタン樹脂の具体例としては、東亞合成(株)製アロンオキセタン(登録商標)などのオキセタン樹脂があげられる。また、エポキシやオキセタニルを分子内に含有するシランカップリング剤が挙げられる。前記シランカップリング剤の具体例としては、チッソ(株)製のサイラエース(商品名)S510、S520、S530などのシランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
このようなオキセタン樹脂あるいは分子内にケイ素原子を含有しないエポキシ樹脂、エポキシやオキセタニルを分子内に含有するシランカップリング剤を用いるとき、その好ましい配合割合は、熱硬化性樹脂組成物の合計量を基準として0〜95重量%である。この割合のより好ましい範囲は0〜75重量%である。
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤を添加することにより、加熱時の酸化劣化を防止し着色の少ない硬化物とすることができる。酸化防止剤の例はフェノール系、硫黄系、およびリン系の酸化防止剤である。酸化防止剤を使用するときの好ましい配合割合は、熱硬化性樹脂組成物全量を基準とする重量比で0.0001〜0.1である。
【0036】
酸化防止剤の具体例は、モノフェノール類(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど)、ビスフェノール類(2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなど)、高分子型フェノール類(1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジンー2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、トコフェノールなど)、硫黄系酸化防止剤(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルル−3,3’−チオジプロピオネートなど)、ホスファイト類(リフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、ビス[2−t−ブチル−6−メチル−4−{2−(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイトなど)、およびオキサホスファフェナントレンオキサイド類(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなど)である。これらの酸化防止剤はそれぞれ単独で使用できるが、フェノール系/硫黄系またはフェノール系/リン系と組み合わせて使用することが特に好ましい。市販のフェノール系の酸化防止剤としては、チバ・ジャパン(株)製IRGANOX 1010(商品名)やIRGAFOS 168(商品名)をそれぞれ単独で利用することができ、また、これらを混合して利用することもできる。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、耐光性を向上させるために紫外線吸収剤を配合してもよい。紫外線吸収剤としては、一般のプラスチック用紫外線吸収剤を使用でき、その好ましい配合割合は、熱硬化性樹脂組成物全量を基準とする重量比で0.0001〜0.1である。
【0038】
紫外線吸収剤の具体例は、フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{(2’−ヒドロキシ−3’,3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、およびビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル}メチル]ブチルマロネート等のヒンダートアミン類である。
【0039】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、更に下記成分を配合してもよい。
(1)粉末状の補強剤や充填剤、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカなどのケイ素化合物、ガラスビーズ等の透明フィラー、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、その他、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン等。これらは、本発明の熱硬化性樹脂組成物の透明性を損なわない範囲で配合される。これらを配合するときの好ましい割合は、本発明の熱硬化性樹脂組成物全量に対する重量比で、0.10〜1.0の範囲である。
【0040】
(2)着色剤または顔料、例えば、二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等。
(3)難燃剤、例えば、三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等。
(4)イオン吸着体。
これらの成分を配合するときの好ましい割合は、熱硬化性樹脂組成物全量に対する重量比で0.0001〜0.30である。
(5)エポキシ、オキセタニルを分子内に含有しないシランカップリング剤。
(6)ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカなどの金属酸化物のナノ粒子分散液。
これら(1)〜(6)の成分を配合するときの好ましい割合は、熱硬化性樹脂組成物全量に対する重量比で0.01〜0.50である。
【0041】
硬化物は、例えば、以下の方法で作製できる。本発明の有機ケイ素化合物、シクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物およびその他の酸無水物、さらには必要に応じて上記希釈剤を混合する。次に酸化防止剤を入れて攪拌し混合した後、減圧して脱泡する。そしてこの混合物を型に流し込み、125℃で1時間加熱し、最後に150℃で2〜3時間加熱することで硬化させることができる。
【0042】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中に硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合してもよい。
【0043】
硬化物の透明性は、耐熱試験前後の硬化物の透過率を紫外可視分光光度計で測定し、JIS K7363に従って計算される黄色度(YI値)及び光線透過率の保持率により評価したときに、150℃での黄色度(YI値)及び光線透過率の保持率がそれぞれ20以下、70%以上であることが好ましい。これらの範囲内にそれぞれの値が入る場合には、硬化物は、無色で透明性が高いことを示しており、透明性が要求されるような光半導体封止剤などの分野に特に好ましく利用できる。
【0044】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる硬化物を成形し、成形体とすることで、様々な用途に用いることができる。用途としては、光半導体封止材、半導体封止材、絶縁膜、シール材、接着剤、光学レンズなどが挙げられる。
本発明の塗膜は本発明の熱硬化性樹脂組成物を基材上に塗布することにより得られる。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されない。
シリコーン/シルセスキオキサンの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定することができる。具体的には、シリコーン/シルセスキオキサンをテトラヒドロフラン(THF)でシリコーン/シルセスキオキサンの濃度が約0.05〜0.10重量%になるように希釈し、昭和電工株式会社製カラムKF−805L、KF−804Lを用いて、THFを展開剤としてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定し、ポリメチルメタクリレート換算することにより求めることができる。
〔合成例1〕下記の式(1)により化合物(1−1)を製造した。
【化15】

【0046】
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積500ミリリットルの反応容器に国際公開WO2004/024741号パンフレットに開示されている方法により合成した化合物(A)(80g)、乾燥トルエン(80g)を仕込み、乾燥窒素でシールした。マグネチックスターラーで攪拌しながら反応温度が80℃になるように加熱した。Pt触媒(16μL)および、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(アヅマックス製)(11g)を添加した。反応溶液を還流温度まで昇温し、3時間攪拌した。反応温度を80℃に冷却し、Pt触媒(16μL)および、ダイセル化学工業(株)製セロキサイド2000(CEL2000)(30.5g)を添加し、2.5時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、SHシリカ(富士シリシア化学製)(1.0g)を加え、1時間攪拌した。SHシリカをろ過により除去し、ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。濃縮物の重量の4倍のアセトンを加え、20重量%溶液とした。溶液に3gの活性炭を加え、1時間攪拌した。活性炭をろ過により除去した。ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。無色ガラス状の濃縮物(1−1)を110g得た。これをGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=3600、重量平均分子量:Mw=8000であった。JIS K−7236に従い(1−1)のエポキシ当量を測定し、920g/molであった。
【0047】
〔合成例2〕下記の式(2)により化合物(1−2)を製造した。
【化16】

【0048】
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積500ミリリットルの反応容器に国際公開WO2004/024741号パンフレットに開示されている方法により合成した化合物(A)(32g)、乾燥トルエン(32g)を仕込み、乾燥窒素でシールした。マグネチックスターラーで攪拌しながら反応温度が80℃になるように加熱した。Pt触媒(16μL)および、1,3−ジビニル−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン(アヅマックス製)(7.6g)を添加した。反応溶液を還流温度まで昇温し、3時間攪拌した。反応温度を80℃に冷却し、Pt触媒(16μL)を添加した後、ダイセル化学工業(株)製セロキサイド2000(CEL2000)(9.2g)を添加し、2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、SHシリカ(富士シリシア化学製)(0.5g)を加え、30分攪拌した。SHシリカをろ過により除去し、ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。濃縮物の重量の4倍のアセトンを加え、20重量%溶液とした。溶液に3gの活性炭を加え、一晩攪拌した。活性炭をろ過により除去した。ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。無色ガラス状の濃縮物(1−2)を43g得た。これをGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=3500、重量平均分子量:Mw=7000であった。JIS K−7236に従い(1−2)のエポキシ当量を測定し、910g/molであった。
【0049】
〔合成例3〕下記の式(3)により化合物(1−3)を製造した。
【化17】

【0050】
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積500ミリリットルの反応容器に国際公開WO2004/024741号パンフレットに開示されている方法により合成した化合物(A)(16g)、乾燥トルエン(16g)を仕込み、乾燥窒素でシールした。マグネチックスターラーで攪拌しながら反応温度が80℃になるように加熱した。Pt触媒(16μL)および、両末端ビニルポリジメチルシロキサンDMS−V05(アヅマックス製、重量平均分子量:Mw=2500)(9.84g)を添加した。反応溶液を還流温度まで昇温し、3時間攪拌した。反応温度を80℃に冷却し、ダイセル化学工業(株)製セロキサイド2000(CEL2000)(6.2g)を添加し、2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、SHシリカ(富士シリシア化学製)(0.2g)を加え、30分攪拌した。SHシリカをろ過により除去し、ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。濃縮物の重量の4倍のアセトンを加え、20重量%溶液とした。溶液に1gの活性炭を加え、一晩攪拌した。活性炭をろ過により除去した。ろ液をエバポレーターに移し、濃縮した。無色ガラス状の濃縮物(1−3)を29.2g得た。これをGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=9200、重量平均分子量:Mw=79000であった。JIS K−7236に従い(1−3)のエポキシ当量を測定し、1300g/molであった。
【0051】
〔比較合成例1〕(1−4)の合成
下記の式(4)により、化合物(1−4)を製造した。
【化18】

窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積200ミリリットルの反応容器に、国際公開WO2004/024741号パンフレットに開示されている方法により合成した化合物(A)(21.0g)、乾燥トルエン(20g)を仕込み、乾燥窒素でシールした。マグネチックスターラーで攪拌しながら反応温度が60℃になるように加熱した。マイクロシリンジを用いてPt触媒(21μL)を添加し、滴下ロートからダイセル化学工業(株)製セロキサイド(商品名)2000(製品名 CEL2000)(10g)をゆっくりと滴下し、3時間攪拌した。反応容器の内容物をエバポレータに移し、濃縮し粗結晶を得た。得られた粗結晶にアセトンを加え20重量%溶液とした。さらに粗結晶に対して3重量%の活性炭を加えて1時間攪拌した。その後、活性炭をろ過し粗結晶の10倍量のヘキサンを加えて、25℃で2時間攪拌した。その後、ろ過を行い、ろ液をエバポレータで濃縮した。得られた粗結晶の1.25倍量のヘキサンを加えて、60℃に加熱して溶解した後、25℃で再結晶を行った。得られた結晶(収量22g、収率76%)は、NMRの測定の結果、化合物(1−4)であることがわかった。
【0052】
この実施例において使用した主な材料
シルセスキオキサン誘導体:
合成例で製造した化合物(1−1)、(1−2)、(1−4)
硬化剤:
シクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物:三菱瓦斯化学(株)製(H−TMAn)
ヘキサヒドロフタル酸無水物:新日本理化学(株)製(MH700G)
希釈剤:
・ダイセル化学工業(株)製エポキシ樹脂(セロキサイドCEL2021P)
・チッソ(株)製シランカップリング剤(S530)
添加剤:
・チバ・ジャパン(株)製酸化防止剤(IRGANOX1010)
・チバ・ジャパン(株)製酸化防止剤(IRGAFOS168)
【0053】
実施例1〜4 硬化物作成
スクリュー管に合成例1または2の合成物と反応性希釈剤の混合物を入れ、次にH−TMAn、及びMH700G、添加剤の混合物を加えた。スクリュー管を自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎ARE−250)にセットし、混合・脱泡を行ない、ワニスとした。ワニスを気泡が入らないようにフロン工業(株)製テフロン(登録商標)PFAペトリー皿に流し込んだ。このペトリー皿に流し込んだワニスを125℃に温めておいたオーブン中に置き、硬化させた。加熱は、125℃で1時間、150℃で3時間の順に行った。得られた硬化物はバンドソーで切断、マルチプレップ形サンプルポリッシャー(ALLIED社製Item NO.15−2000)で研磨することにより、各物性測定サンプルを作成した。各成分の仕込み量は、表1に示す。
【0054】
比較例1 硬化物作成
化合物(1−1)、(1−2)の代わりに、ダイセル化学工業(株)製のエポキシ樹脂(セロキサイドCEL2021P)を用い、表1の各成分を用いて、実施例1から4の硬化物作成と同じ条件で実施した。
【0055】
比較例2 硬化物作成
化合物(1−1)、(1−2)の代わりに、化合物(1−4)とダイセル化学工業(株)製のエポキシ樹脂(セロキサイドCEL2021P)の混合物を用い、表1の各成分を用いて、実施例1から4の硬化物作成と同じ条件で実施した。
【表1】

【0056】
<全光線透過率・濁度測定>
試験片は両面を平滑に研磨し厚さを3mmに揃えた硬化物を用いて、ヘーズメータ(日本電色工業(株)製NHD5000)により全光線透過率、拡散透過率と濁度を測定した。
<屈折率>
試験片は硬化物をバンドソーにて切断し、JIS K7142に従って試験片を作製した。この試験片を用いて、アッベ屈折計((株)アタゴ製NAR−2T)によりナトリウムランプのD線(586nm)を用いて屈折率を測定した。中間液はヨウ化メチレンを用いた。
<ショア硬度>
試験片は、硬化物からJIS B7727に従って成形して作製した。硬度の測定は、ショア硬さ試験器((株)ミツトヨ製ASH−D)により測定した。
<耐熱試験>
耐熱試験は、以下の方法にて実施、評価した。研磨後の厚さ3mmの硬化物を2個調製し、それぞれの光線透過率を紫外可視分光光度計(日本分光製、V−660)で測定し、400nmにおける透過率を、初期透過率とした。また、スペクトルから黄色度を計算して、初期の黄色度(YI値)とした。硬化物をそれぞれを150℃または、180℃のオーブン(送風定温乾燥機:アドバンテック製DRM420DA)に入れ、168時間、処理した。そして験前後の硬化物を紫外可視分光光度計(日本分光製、V−660)でスペクトルを測定し、波長400nmの透過率から、この波長における保持率(168時間熱処理後の透過率/初期透過率×100)を計算して評価した。また、硬化物の黄色度(YI値)を計算し、評価した。
<接着強さ試験>
試験片は、基材としてポリフタルアミド樹脂(ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製アモデル(商品名)A−4122NLWH905)を厚さ2mmの板状に成形し、JIS K−6850に従って寸法を調整して作製した。接着試験は引張圧縮試験機((株)東洋精機製作所製ストログラフV10−C)により5kNのロードセルを用いて測定した。
【0057】
表2に実施例1〜4と比較例1、2で得られた試験片の評価結果を示す。
【表2】

【0058】
このことから、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて得られた硬化物は、透明で屈折率が高く、従来のエポキシ樹脂並の接着強さを持ちながら、耐熱黄変性に優れていることが明らかとなった。また、この硬化物はダブルデッカー型のシルセスキオキサンの骨格を有することから、絶縁性に優れることがわかる。
このことから、これらの硬化物は(光)半導体封止材、絶縁膜、シール剤、接着剤、光学レンズなどに利用できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)で表される化合物、(B)で表される化合物、及び(C)で表される化合物がヒドロシリル化反応することによって得られる有機ケイ素化合物。
(A) 1分子中にSi-H基を2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。
(B) 1分子中にアルケニルを2個以上有する、分子量が100〜500000のシリコーンおよび/またはシルセスキオキサン。
(C) 1分子中にエポキシまたはオキセタニルを1個以上と、炭素数が2〜18のアルケニルとを有する化合物。
【請求項2】
(A)で表される化合物が式(a−1)〜式(a−7)からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、(B)で表される化合物が式(b−1)および式(b−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、(C)で表わされる化合物が式(c−1)、式(c−2)および式(c−3)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化1】

【化2】

式(a−1)〜式(a−7)において、
Rは炭素数1〜45のアルキル、炭素数4〜8のシクロアルキル、炭素数6〜14のアリールおよび炭素数7〜24のアリールアルキルから独立して選択される基であり;炭素数1〜45のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は、−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;アリールおよびアリールアルキル中のベンゼン環において、任意の水素はハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキルで置き換えられてもよく、この炭素数1〜10のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく;アリールアルキル中のアルキレンの炭素数は1〜10であり、そして隣接しない任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
1およびR2は、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;
3は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;
Xは、各化合物1分子中、少なくとも2個は水素であり、残りは、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり;nは0〜100の整数であり、mは3〜10の整数である。
【化3】

式(b−1)、(b−2)において、
RおよびR1は上記式(a−1)から(a−6)におけるRおよびR1と同様に定義される基であり、
4は炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから独立して選択される基であり、
Yはビニルおよびアリルから独立して選択される基であり、
nは0〜100の整数である。
【化4】

式(c−1)、(c−2)、及び(c−3)において、R5およびR6のうち、一方は、炭素数2〜10のアルケニルであり、このアルケニルにおける1つの−CH2−は−O−または1,4−フェニレンで置き換えられてもよく、他方は水素または炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項3】
(A)で表される化合物が、式(a−4−1)で示されるシルセスキオキサン誘導体である、請求項2記載の有機ケイ素化合物。
【化5】

【請求項4】
(B)で表される化合物が、式(b−1−1)または(b−2−1)で表される、請求項2または3記載の有機ケイ素化合物。
【化6】

式中、R4はメチルまたはフェニルから独立して選択され、nは0〜100の整数を表す。
【請求項5】
(C)で表される化合物が、式(c−1−1)、式(c−2−1)、式(c−3−1)、及び(c−3−2)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項2〜4のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物。
【化7】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物と硬化剤とを含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
硬化剤が酸無水物である、請求項6記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、希釈剤、硬化促進剤および添加剤を含む、請求項6または7記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
希釈剤が、ケイ素を分子内に含有しないエポキシ樹脂、ケイ素を分子内に含有しないオキセタン樹脂または有機溶媒である、請求項8記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
添加剤が、紫外線吸収剤および/または酸化防止剤である、請求項8記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる硬化物。
【請求項12】
請求項11記載の硬化物を成形して得られる成形体。
【請求項13】
請求項6〜10のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を塗布してなる塗膜。

【公開番号】特開2010−254814(P2010−254814A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106751(P2009−106751)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】