説明

有機ケイ素化合物及び室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物

【課題】温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として有用な有機ケイ素化合物及びこの有機ケイ素化合物を硬化触媒として含有する室温硬化性(RTV)オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される有機ケイ素化合物、及び特定のオルガノポリシロキサン及びケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に2個以上有し、かつケイ素原子に結合した残余の有機基がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基から選択されるシラン化合物及び/又はその部分加水分解物からなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として有用な有機ケイ素化合物及びこの有機ケイ素化合物を硬化触媒として含有する室温硬化性(RTV)オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
湿気により架橋する室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物は、その取り扱いの容易さに加えて耐熱性、接着性、電気特性等に優れるため電気電子分野での接着剤、建築用シーラント等、様々な分野で利用されている。アセトン型室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物を構成する触媒としては、一般的に、強塩基性を有する有機ケイ素化合物が使用される。しかし、従来使用されてきた触媒であるテトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシラン等の塩基性有機ケイ素化合物を含有するRTVシリコーンゴム組成物は、硬化性は良好なものの触媒自体に吸湿性があるため、組成物の耐湿性、例えば85℃/85%RH等の高温高湿下で著しく悪いことが問題点として挙げられる。
【0003】
そこで、吸湿性が少ない塩基性有機化合物を触媒として使用することで、耐湿性を改善した室温硬化性(RTV)シリコーンゴムの開発が望まれている。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−039897号公報
【特許文献2】特開昭59−176349号公報
【特許文献3】特開昭60−190457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来使用されてきた硬化触媒であるテトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランより吸湿性が少なく室温硬化性シリコーンゴム組成物の硬化触媒として有用な有機ケイ素化合物、及びこの有機ケイ素化合物を硬化触媒として使用することで、耐湿性に優れた硬化物を与える室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成させるため鋭意検討を行った結果、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に下記一般式(1)、特に一般式(1a)又は(1b)で示される特定の有機ケイ素化合物を配合することにより、シリコーンゴムの耐湿性が向上することを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物を提供する。
(A)下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R4はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。Rは加水分解性基、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はケイ素原子を有する官能基である。Zは、Rが加水分解性基の場合、ヘテロ原子を必ず含む炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基又はこれらが組合された基であり、Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はケイ素原子を有する官能基の場合、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基又はこれらが組合された基を示す。)
【0008】
この場合、上記式(1)において、Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又は各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基であるトリアルキルシロキシ基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基又は該アルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)であるか、あるいはRが加水分解性基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)であることが好ましい。
【0009】
更に、R1〜R4が、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、有機ケイ素化合物のZが炭素数3〜10の直鎖状のアルケニル基、又はケトン基、エステル基又はアミド基が介在した直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0010】
特に、上記有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1a)又は(1b)で示されるものが好ましい。
【化2】

(式中、R1a〜R4aはそれぞれ水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、Z1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、Raは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rbはメチル基、エチル基又はトリメチルシリル基である。)
【0011】
また、本発明は、(A)下記一般式(7)
【化3】

(式中、R5は独立に炭素数1〜10の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン及び/又は下記一般式(8)
【化4】

(式中、R5及びnは上記の通りであり、R6は炭素数1〜6の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基又は酸素原子であり、aは独立に0又は1である。)
で示されるオルガノポリシロキサン100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に2個以上有し、かつケイ素原子に結合した残余の有機基がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基から選択されるシラン化合物及び/又はその部分加水分解物0.1〜30質量部、及び
(C)上記した有機ケイ素化合物からなる硬化触媒0.1〜5質量部
を含有してなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【0012】
この場合、(B)成分の加水分解性基が、アルコキシ基、イソプロペノキシ基及びケトオキシム基から選択されることが好ましい。
本発明は、更に、上記した有機ケイ素化合物からなる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物用の硬化触媒を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機ケイ素化合物は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として使用され、耐湿性に優れた硬化物を与える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0015】
本発明に係る有機ケイ素化合物は、1分子中にケイ素原子を1個以上含む化合物であり、更に触媒機能を発現する塩基性部位を有するものである。この化合物は下記一般式(1)で示される。
【化5】

【0016】
式(1)中のR1〜R4はそれぞれ、水素原子、又は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を示し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0017】
Rはそれぞれ独立にアルコシキ基、イソプロペノキシ基、ケトオキシム基等の加水分解性基、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、トリアルキルシロキシ基等のケイ素原子を有する官能基などが挙げられる。
【0018】
例えば、Rの少なくとも1個が加水分解性基の場合、SiR3として、トリメトキシ基、メチルジメトキシシリル基、ビニルジメトキシシリル基、フェニルジメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のアルコキシシリル基;トリイソプロペノキシシリル基、メチルジイソプロペノキシシリル基、エチルジイソプロペノキシシリル基、ビニルジイソプロペノキシシリル基、フェニルジイソプロペノキシシリル基等のイソプロペノキシシリル基;トリス(ジメチルケトオキシム)シリル基、トリス(ジエチルケトオキシム)シリル基、トリス(エチルメチルケトオキシム)シリル基等のケトオキシムシリル基が挙げられる。また、アルキル基、アルケニル基、アリール基、トリアルキルシロキシ基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、トリエトキシ基、トリメチルシロキシ基等であり、特に好ましくは、メチル基、トリエトキシ基、トリメチルシロキシ基である。
【0019】
Zは、Rがアルコシキ基、イソプロペノキシ基、ケトオキシム基等の加水分解性基の場合、ヘテロ原子を必ず含む炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等又はこれらが組合された基であり、Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、トリアルキルシロキシ基等のケイ素原子を有する官能基の場合、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等又はこれらが組合された基を示す。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、2−メチルプロピレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、これらアルキレン基とアリーレン基が結合した基、ケトン基、エステル基、アミド基等が介在した上記アルキレン基等が挙げられるが、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、アミド結合を介したプロピレン基等であり、特に好ましくはプロピレン基、アミド結合を介したプロピレン基である。
【0020】
この場合、特には、Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又は各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基であるトリアルキルシロキシ基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基又は該アルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)であるか、あるいはRが加水分解性基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)であることが好ましい。
【0021】
上記有機ケイ素化合物としては、特に下記一般式(1a)又は(1b)で示されるものが好ましい。
【化6】

(式中、R1a〜R4aはそれぞれ水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、Z1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、Raは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rbはメチル基、エチル基又はトリメチルシリル基である。)
【0022】
具体例として、下記一般式(2)〜(6)に示すものが挙げられる。なお、下記の例においてMeはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を示す(以下、同じ)。
【化7】

【0023】
ここで、上記式(1)で示される有機ケイ素化合物は、例えば下記スキームAやスキームBで示される方法により得ることができる。
【化8】

(式中、R1〜R4、Rは上記の通りである。Halはハロゲン原子を示し、ハロゲン原子としてはヨウ素、臭素、塩素、フッ素であるが、好ましくはヨウ素、臭素、塩素であり、特に好ましくは臭素及び塩素である。)
【0024】
上記反応は、ハロゲン原子(X)を有する有機ケイ素化合物に対するグアニジンの求核反応である。本反応は、無溶媒で行うことができるが、塩が発生するため溶媒を添加することが好ましい。特に限定はされないが、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
この場合、グアニジンとハロゲン原子を有する有機ケイ素化合物の使用割合は、通常グアニジン1molに対し有機ケイ素化合物が0.4〜0.5mol、特に好ましくは0.48〜0.5molである。反応温度は200℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは70〜200℃、特に好ましくは100〜150℃である。反応時間は通常3〜8時間、特に5〜8時間である。
【0025】
【化9】

(式中、R1〜R4、Rは上記の通りである。)
【0026】
上記反応は、イソシアネートに対するグアニジンの求核付加反応であり、無溶媒で行うことができる。反応時に溶媒を添加してもよく、特に限定はされないが、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
この場合、グアニジンとイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物の使用割合は、通常グアニジン1molに対しイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物が0.9〜1.1mol、特に好ましくは0.95〜1.05molである。反応温度は200℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは0〜200℃、特に好ましくは0〜150℃である。反応時間は通常1〜8時間、特に3〜6時間である。
【0027】
上記有機ケイ素化合物は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として有効である。
この場合、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物としては、
(A)下記一般式(7)及び/又は下記一般式(8)で示されるオルガノポリシロキサン100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解物0.1〜30質量部、及び
(C)上記有機ケイ素化合物からなる硬化触媒0.1〜5質量部
を含有するものが好適に用いられる。
【0028】
以下、この点について更に詳述する。
[(A)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物の(A)成分は、一般式(7)及び/又は(8)で示されるものである。
【化10】

(式中、R5は独立に炭素数1〜10の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
【化11】

(式中、R5及びnは上記の通りであり、R6は炭素数1〜6の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基又は酸素原子であり、aは独立に0又は1である。)
【0029】
式中、R5は炭素数1〜10の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等である。これらの中では、特にメチル基が好ましい。
【0030】
一般式(7),(8)中の複数のR5は同一の基であっても異種の基であってもよく、またnは10以上の整数であり、特にジオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25〜500,000mm2/sの範囲、好ましくは500〜100,000mm2/sの範囲となる整数である。なお、この粘度はオストワルド粘度計により測定できる。
【0031】
また、R6は炭素数1〜6の一価の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、フェニル基等が挙げられるが、特にメチル基が好ましい。aは独立に0又は1である。
【0032】
[(B)成分]
(B)成分は、ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に2個以上有し、かつケイ素原子に結合した残余の有機基がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基から選択されるシラン化合物及び/又はその部分加水分解物である。
【0033】
この場合、シラン化合物は、下記式(9)

(式中、R7はメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基から選択される基であり、bは2又は3であり、R6は前記の通りである。)
で表すことができ、1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0034】
(B)成分のシラン化合物及びその部分加水分解物が有する加水分解性基としては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基等が挙げられ、アルコキシ基、イソプロペノキシ基が好ましい。
【0035】
(B)成分の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のイソプロペノキシ基含有シラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシラン、並びにこれらのシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0036】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部、特に好ましくは1〜15質量部の範囲で使用される。0.1質量部未満では、充分な架橋性が得られず、目的とするゴム弾性を有する組成物が得難い。また30質量部を超えると、得られる硬化物は機械特性が低下し易い。
【0037】
[(C)成分]
(C)成分は、上述した有機ケイ素化合物であり、本発明の組成物において、室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物の硬化触媒であり、従来の触媒と比較して耐湿性を向上する重要な作用を示す成分である。
【0038】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し0.1〜5質量部である。0.1質量部より少ないと、硬化触媒効果が十分に発揮されず、5質量部より多いと、触媒効果の更なる向上はなく、不経済となることがある。
【0039】
[その他の成分]
また、本発明には、上記成分以外に、一般的に知られている充填剤、接着助剤等を配合してもよい。
充填剤としては、粉砕シリカ、煙霧状シリカ、湿式シリカや炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ等が挙げられる。これらの充填剤の量は、(A)成分100質量部に対して1〜500質量部、好ましくは1〜300質量部、特に好ましくは3〜250質量部である。
【0040】
本発明の組成物は、常法に従って上記成分を互いに混合、混練することによって製造することができる。本発明の組成物は、湿気によって硬化するので、組成物は使用前までは湿気を断って貯蔵しておくことが好ましい。
本発明の組成物は、通常の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と同様の方法で使用することができ、室温下に放置することにより、湿気の存在で硬化する。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を具体的に説明する合成例、実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
[合成例1]
化合物(2)
【化12】

攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロートを備えた1,000mLの四つ口フラスコに、トルエン250mL、3−クロロプロピルトリメチルシラン[信越化学工業(株)製(試薬名:LS1180)]75.36g(0.5mol)を入れ、120℃に設定した。次に、テトラメチルグアニジン115.18g(1.0mol)を120℃条件下で滴下反応させ、滴下終了後6時間追加攪拌した後、得られた塩酸塩をろ過した。ろ液からトルエンを減圧留去すると89.5gの固体(収率78%)を得た。この固体は、1H−NMR、29Si−NMR解析により、化合物(2)であることを確認した。
【0043】
[合成例2]
化合物(3)
【化13】

滴下ロートを備えた200mLの二つ口フラスコに、攪拌子、ジクロロメタン50mL、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン[信越化学工業(株)製(試薬名:KBE−9007)]49.5g(0.2mol)を入れ、0℃に保った。次に、テトラメチルグアニジン23.0g(0.2mol)を滴下反応させた。0℃の状態で3時間追加攪拌した後、ジクロロメタンを減圧留去し、71.05gの目的化合物(収率98%)を得た。1H−NMR、29Si−NMR解析により、化合物(3)であることを確認した。
【0044】
[合成例3]
化合物(4)
【化14】

攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロートを備えた1,000mLの四つ口フラスコに、トルエン250mL、3−イソシアネートプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン[信越化学工業(株)製(試薬名:9007TS)]189.9g(0.5mol)を入れ、120℃に設定した。次に、テトラメチルグアニジン57.59g(0.5mol)を120℃条件下で滴下反応させ、滴下終了後6時間追加攪拌した後、トルエンを減圧留去すると237.5gの目的化合物(収率96%)を得た。1H−NMR、29Si−NMR解析により、化合物(4)であることを確認した。
【0045】
[合成例4]
化合物(5)
【化15】

攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロートを備えた1,000mLの四つ口フラスコに、トルエン250mL、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン123.7g(0.5mol)を入れ、120℃に設定した。次に、1,3−ジフェニルグアニジン105.6g(0.5mol)を120℃条件下で滴下反応させ、滴下終了後6時間追加攪拌した後、トルエンを減圧留去すると201.8gの目的化合物(収率88%)を得た。1H−NMR、29Si−NMR解析により、化合物(5)であることを確認した。
【0046】
[合成例5]
化合物(6)
【化16】

化合物(6)を化合物(4)の合成例に準じて合成した。収率は94%であった。
【0047】
[実施例1]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(2)で示される有機ケイ素化合物を0.44質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物1を得た。
【化17】

【0048】
[実施例2]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(3)で示される有機ケイ素化合物を0.69質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物2を得た。
【化18】

【0049】
[実施例3]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(4)で示される有機ケイ素化合物を0.94質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物3を得た。
【化19】

【0050】
[実施例4]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(5)で示される有機ケイ素化合物を0.94質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物4を得た。
【化20】

【0051】
[実施例5]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(6)で示される有機ケイ素化合物を1.1質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物5を得た。
【化21】

【0052】
[比較例1]
分子鎖両末端がヒドロキシル基で封鎖され、25℃における粘度が5,000mm2/sのポリジメチルシロキサン100質量部に、ビニルイソプロペノキシシラン7.7質量部(ヒドロキシル基に対して5eq.)と下記式(10)で示される有機ケイ素化合物を0.53質量部(ヒドロキシル基に対して0.28eq.)加えて常圧下10分間攪拌した後、5分間の減圧混合により組成物6を得た。
【化22】

【0053】
調製した組成物1〜6を、2mm厚になるように塗布し、23℃/50%RHにて7日間硬化させて試験体を調製した。調製した試験体は、JIS K6249に従い硬度を確認した。
また、耐湿性試験として、組成物1〜6から得られた試験体を85℃/85%RH環境下100時間放置し、初期硬度と比較した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
従来使用している式(10)の化合物は、水に対して反応性を有する部位(イミン、トリメトキシシラン)が存在していることから、耐湿試験後の硬さ劣化が激しいと推察される(比較例1、組成物6)。
一方(2)のような化合物は、イミン構造を有しているものの、非加水分解性のトリメチルシリル基になっているので、耐湿試験後の硬さ劣化は抑えられたと考えられる(実施例1、組成物1)。
式(5),(6)のような化合物は、窒素上にフェニル基が置換されており、その結果塩基性は弱くなるので、他の例と比較して初期硬度が小さくなったと考えられる。但し、フェニル基で置換することで疎水性が増すため、耐湿試験後の硬度劣化は抑えられたと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物。
【化1】

(式中、R1〜R4はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示す。Rは加水分解性基、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はケイ素原子を有する官能基である。Zは、Rが加水分解性基の場合、ヘテロ原子を必ず含む炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基又はこれらが組合された基であり、Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、又はケイ素原子を有する官能基の場合、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数3〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基又はこれらが組合された基を示す。)
【請求項2】
Rが炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又は各アルキル基がそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基であるトリアルキルシロキシ基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基又は該アルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
Rが加水分解性基であり、Zが炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基の一方の末端に−NR’CO−基が結合した基(但し、R’は水素原子又は炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、−NR’CO−基の窒素原子が上記アルキレン基に結合し、炭素原子が=N−に結合する)である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【請求項4】
1〜R4が、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、前記(C)成分で示される有機ケイ素化合物のZが炭素数3〜10の直鎖状のアルキレン基、又はケトン基、エステル基又はアミド基が介在した直鎖状のアルキレン基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
下記一般式(1a)又は(1b)で示される請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化2】

(式中、R1a〜R4aはそれぞれ水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、Z1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、Raは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rbはメチル基、エチル基又はトリメチルシリル基である。)
【請求項6】
下記式(2)〜(6)から選ばれる請求項5記載の有機ケイ素化合物。
【化3】

(式中、Phはフェニル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。)
【請求項7】
(A)下記一般式(7)
【化4】

(式中、R5は独立に炭素数1〜10の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン及び/又は下記一般式(8)
【化5】

(式中、R5及びnは上記の通りであり、R6は炭素数1〜6の非置換又は置換の一価の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基又は酸素原子であり、aは独立に0又は1である。)
で示されるオルガノポリシロキサン100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に2個以上有し、かつケイ素原子に結合した残余の有機基がメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基から選択されるシラン化合物及び/又はその部分加水分解物0.1〜30質量部、及び
(C)請求項1乃至6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物からなる硬化触媒0.1〜5質量部
を含有してなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項8】
(B)成分の加水分解性基が、アルコキシ基、イソプロペノキシ基及びケトオキシム基から選択されることを特徴とする請求項7記載の組成物。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物からなる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物用の硬化触媒。

【公開番号】特開2013−1670(P2013−1670A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133371(P2011−133371)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】