説明

有機ケイ素化合物含有重合性液晶組成物

【課題】保存安定性に優れた重合性液晶組成物、この重合性液晶組成物からなる配向制御された液晶層、この重合性液晶組成物を硬化した液晶フィルム、およびこのフィルムを用いた光学補償フィルムの提供。
【解決手段】式(1),式(2)の重合性液晶化合物、特定のアルキル,アルコキシシリルアルキルアミン、および特定の2つの群から選択される混合溶剤を含有する重合性液晶組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物を含有する重合性液晶組成物およびこれから得られる液晶フィルムに関する。更に、このフィルムを用いた光学素子および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光重合性の液晶を用いた偏光板や位相差板等の、光学素子への応用が提案されている。これらの光学素子は、光学異方性を有する重合性液晶を液晶状態で重合し、その液晶状態を固定化することによって得られる。重合性液晶は、液晶状態において適切な配向制御を行った後、その配向状態を保持したまま重合させることができる。従って、液晶骨格の配向状態をホモジニアス配向(水平配向)、チルト配向(傾斜配向)、ホメオトロピック配向(垂直配向)またはツイスト配向(ねじれ配向)等の配向状態で固定化することにより、種々の光学異方性を有する重合体を得ることができる。以下において、上記の配向状態を示すことを、簡略化して「ホモジニアス配向を有する」、「チルト配向を有する」、「ホメオトロピック配向を有する」、または「ツイスト配向を有する」と記すことがある。
【0003】
ホメオトロピック配向を有する重合体は、光軸の方向がn方向にあり、光軸方向の屈折率がその直交する方向の屈折率より大きいため、屈折率楕円体では、ポジティブC−プレートに分類される。このポジティブC−プレートは、他の光学機能を有するフィルムと組み合わせることによって、水平配向した液晶モードいわゆるIPS(In-Plane Switching)モード等の光学補償、例えば偏光板の視野角特性の改善に応用できる(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】M.S.Park et al, IDW '04 FMC8-4
【0004】
上記の用途に対して重合性液晶材料は、ガラス基板またはプラスチック基板に積層される場合がある。プラスチック基板として用いられる材料の例は、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリカーボネート、PET、およびノルボルネン系樹脂類の重合体である。
【0005】
重合性液晶の重合体を支持基板上に積層する場合には、その支持基板への良好な塗工性(ハジキ等が生じない)、良好な密着性、および均一なホメオトロピック配向性等が求められる。重合性液晶材料をガラス基板またはプラスチック基板上に積層させるには、製造プロセスを考慮すると、溶剤を用いて溶液状態にする必要がある。その際、(1)プラスチック基板を用いる場合、溶剤により侵食されないこと、(2)ハジキ等が生じないこと、(3)重合性液晶材料が析出(結晶化)しないこと、(4)溶液特性の経時変化が少ないこと(保存安定性が良好であること)等が溶剤の選定に重要となる。重合性液晶材料の重合前の特性として、(5)室温で広いネマチック相を有していること、(6)均一なホメオトロピック配向性を示すことも必要である。更に、この材料の重合後の特性として、(7)光学設計に応じた適切なΔn(屈折率異方性値)を有していること、(8)透明性を有していること、(9)支持基板との密着性に優れていること、(10)耐熱性および耐湿性にも優れていることが必要である。
【0006】
上記のような重合体が得られる重合性液晶組成物の開発が望まれている。これらの特性のうち、本発明者らは特に、重合体とプラスチック基板との密着性、均一な配向性等に優れた重合性液晶組成物をこれまでに見出している。しかし、これらの組成物は溶液の保存安定性が十分に満足できていなかったのが現状であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、例えば、溶液状態において安定性に優れ、かつ支持基板上に良好な塗工性を示し、均一なホメオトロピック配向性を有する重合性液晶組成物を提供することである。更に本発明は、この重合性液晶組成物からなる配向が制御された液晶層、この重合性液晶組成物を重合して得られる液晶フィルム、およびこのフィルムを用いた光学補償フィルムを提供することを目的とする。そして、この光学補償フィルムを含む液晶表示装置、有機EL表示装置、PDPなどの画像表示装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の重合性液晶化合物を重合性液晶組成物の成分として用い、この重合性液晶組成物に1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物を添加することが、重合性液晶化合物の均一なホメオトロピック配向の制御に有効であり、かつ、溶剤としてA群から選択される比較的高極性の溶剤とB群から選択される比較的低極性の溶剤からなる混合溶剤を用いることが溶液の保存安定性を改善させることを知った。そして、この重合性液晶組成物から得られる重合体が支持基板との密着性に優れていること、均一なホメオトロピック配向性を示すことを知った。また、上記重合性液晶組成物をラビング等の機械的な表面処理、あるいは化学的な表面処理を行った支持基板上へ塗布した場合にも、同様な効果が得られることを知った。本発明は下記の構成を有する。
【0009】
[1] 式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される有機ケイ素化合物、並びにA群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤とB群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する重合性液晶組成物:


ここに、mは2〜10の整数であり;nは2〜10の整数であり;Gは水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり;Wは水素またはフッ素であり;Yは単結合、−CH=CH−または−CHCH−であり;Aは1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2、3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレン、2、3−ジトリフルオロメチル−1,4−フェニレン、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチル−フルオレン−2,7−ジイル、または9−エチル−フルオレン−2,7−ジイルであり;Rは2〜10個の炭素原子を有する直鎖状のアルキレンであり、このアルキレン中の1つまたは隣り合わない2つの−CH−は、−O−または−NH−で置き換えられてもよく;Rはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;Rはメチル、エチルまたはトリメチルシリルであり;rは0〜2の整数であり;A群の溶剤はエステル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤およびグリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群に含まれる溶剤であり;そして、B群の溶剤は芳香族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤および脂環式炭化水素系溶剤からなる群に含まれる溶剤である。
【0010】
[2] 式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物、および水酸基を有する有機酸アルキルエステルから選択される少なくとも1つの溶剤と芳香族炭化水素系溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する、[1]項に記載の重合性液晶組成物。
【0011】
[3] 式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物、並びに乳酸アルキルから選択される少なくとも1つの溶剤とトルエン、キシレン、エチルベンゼンおよびイソプロピルベンゼンから選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する、[1]項に記載の重合性液晶組成物。
【0012】
[4] 1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物の割合が、重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【0013】
[5] 混合溶剤の割合が重合性液晶組成物全量を基準として95〜60重量%である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【0014】
[6] 1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物の割合が重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30であり、そして混合溶剤の割合が重合性液晶組成物全量を基準として95〜60重量%である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【0015】
[7] 混合溶剤に含まれるA群の溶剤から選択される溶剤の割合が混合溶剤の全重量を基準として10〜80重量%である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【0016】
[8] 1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物の割合が重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30であり、そして混合溶剤に含まれるA群の溶剤から選択される溶剤の割合が混合溶剤の全重量を基準として10〜80重量%である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【0017】
[9] [1]〜[8]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物をガラス基板またはプラスチック基板上に直接塗布して得られる重合性液晶層。
【0018】
[10] プラスチック基板がポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロース、トリアセチルセルロースの部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびノルボルネン系樹脂から選ばれるいずれか1つのフィルムである、[9]項に記載の重合性液晶層。
【0019】
[11] 基板がその表面をラビング処理されたものである、[9]項または[10]項に記載の重合性液晶層。
【0020】
[12] 基板がその表面をコロナ処理またはプラズマ処理されたものである、[9]項または[10]項に記載の重合性液晶層。
【0021】
[13] 重合性液晶層中の液晶骨格の配向状態がホメオトロピック配向である、[9]〜[12]のいずれか1項に記載の重合性液晶層。
【0022】
[14] [9]〜[13]のいずれか1項に記載の重合性液晶層を重合させて得られる液晶フィルム。
【0023】
[15] [14]項に記載の液晶フィルムの少なくとも1つを有する光学補償素子。
【0024】
[16] [14]項に記載の液晶フィルムの少なくとも1つと偏光板とを有する光学素子。
【0025】
[17] [15]項に記載の光学補償素子を液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
【0026】
[18] [16]項に記載の光学素子を液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
【0027】
[19] 重合性液晶化合物が、式(MA−1)、式(MA−5)、式(MA−35)、式(MA−39)および式(MA−51)のそれぞれで示される化合物の少なくとも1つであり、有機ケイ素化合物が式(3−1)で示される化合物であり、A群の溶剤から選択される溶剤が乳酸エチルであり、B群の溶剤から選択される溶剤がトルエンであり、重合性液晶化合物に対する有機ケイ素化合物の割合が重量比で0.03〜0.10であり、乳酸エチルとトルエンの混合割合が重量比で1:1であり、そして重合性液晶組成物全量を基準とする混合溶剤の割合が95〜60重量%である、[1]項に記載の重合性液晶組成物:


【発明の効果】
【0028】
式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物に有機ケイ素化合物を加え、そして溶剤としてA群から選択される溶剤とB群から選択される溶剤との混合溶剤を用いることにより、溶液の安定性に優れ、支持基板への塗工性に優れた重合性液晶組成物が得られる。さらに本発明の重合性液晶組成物から得られる液晶フィルムは、均一なホメオトロピック配向性を示し、そして支持基板への良好な密着性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明で用いる用語について説明する。液晶骨格の配向状態が支持基板(基板)平面と成す角度を「チルト角」とする。チルト角が一方の界面から他方の界面にかけて一様にゼロに近く、特に0〜5°である配向状態を「ホモジニアス配向」と称する。ここで、界面は、配向層を備えた支持基板界面または自由界面である。チルト角が一方の界面から他方の界面にかけて5〜85°の範囲で一定、または0〜90°の範囲で連続的に変化する配向状態を「チルト配向」と称する。チルト角が一方の界面から他方の界面にかけて一様に85〜90°である配向状態を「ホメオトロピック配向」と称する。また、配向状態がねじれ構造を有し、かつその螺旋軸が界面に対してほぼ垂直である配向状態を「ツイスト配向」と称する。「重合性液晶層」は、重合性液晶組成物を塗布して得られる層またはこの組成物の塗膜を乾燥して得られる層を意味する。
【0030】
「液晶性」の意味は、液晶相を有することだけに限定されない。それ自体は液晶相を持たなくても、他の液晶化合物と混合したときに、液晶組成物の成分として使用できる特性も、「液晶性」の意味に含まれる。「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意であることを示す。そして、任意のAがB、CまたはDで置き換えられてもよいという表現は、1つのAがB、CまたはDで置き換えられてもよいという意味と、複数のAのどれもがB、CおよびDのいずれか1つで置き換えられてもよいという意味とに加えて、Bで置き換えられるA、Cで置き換えられるA、およびDで置き換えられるAの少なくとも2つが混在してもよいという意味を有する。例えば、任意の−CH−が−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルケニル、アルケニルオキシアルキルなどが含まれる。なお、本発明においては、連続する2つの−CH−が−O−で置き換えられて−O−O−になることは好ましくない。アクリレートおよびメタクリレートの総称として、「(メタ)アクリレート」を用いることがある。特に断らずにアルキルと記述するときは、直鎖アルキルと分岐アルキルの両方を含むアルキルを意味する。アルケニル、アルキレンおよびアルケニレンについても同様である。例えば、ブチルはn−ブチル、2−メチルプロピルおよび1,1−ジメチルエチルのいずれであってもよい。ハロゲンは、フッ素、塩素または臭素を意味する。シクロアルキルおよびシクロアルケニルには、通常の環状基の他、架橋構造の環状基も包含される。以下の説明では、式(1)で表される重合性液晶化合物を化合物(1)で示し、式(2)で表される重合性液晶化合物を化合物(2)で示すことがある。他の式で表される化合物についても同様の簡略化法を適用することがある。
【0031】
本発明の重合性液晶組成物は必須成分として重合性液晶化合物を含有する。本発明では、式(1)および式(2)のそれぞれで示される重合性液晶化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物を用いる。


式(1)におけるmは2〜10の整数である。式(2)において、Gは水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり、Wは水素またはフッ素であり、Yは単結合、−CH=CH−または−CHCH−であり、Aは1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2、3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレン、2、3−ジトリフルオロメチル−1,4−フェニレン、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチル−フルオレン−2,7−ジイル、または9−エチル−フルオレン−2,7−ジイルであり、そしてnは2〜10の整数である。
【0032】
このような重合性液晶化合物の具体例を次に示す。


【0033】


【0034】


【0035】


【0036】


【0037】


【0038】


【0039】


【0040】


【0041】


【0042】


【0043】


【0044】
上記の化合物のうちで好ましい化合物は、MA−1、MA−4〜5、MA−9、MA−18〜20、MA−34〜35、MA−38〜39、MA−44〜45、およびMA−51である。
【0045】
上記の化合物は、有機合成化学における公知の手法を適宜組み合わせることにより合成することができる。出発物質に目的の末端基、環および結合基を導入する方法は、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などに記載されている。そして下記の文献には、具体的な合成方法が記載されている。
特開2003−238491公報(MA−2、MA−7〜13)、
特開2004−231638公報(MA−3〜6、MA−18、MA−19〜21、MA−38〜MA−39、MA−44〜MA−49)
GB2306470B(MA−22〜MA−25)
特開昭63−64029号公報(MA−26)
特願2004−183449(MA−30〜MA−31)
特開2004−175728公報(MA−32〜35、MA−59〜MA−61)
特願2004−265163号公報(MA−50〜MA−58)
【0046】
本発明で用いる有機ケイ素化合物は、式(3)で示される化合物である。


式(3)において、Rは2〜10個の炭素原子を有する直鎖状のアルキレンであり、このアルキレン中の隣り合わない1〜2個の−CH−は−O−または−NH−で置き換えられてもよい。Rはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルである。Rはメチル、エチルまたはトリメチルシリルである。そして、rは0〜2の整数である。すなわち、化合物(3)はアミノ基と加水分解性のアルコキシ基またはトリメチルシリルオキシ基とを有するケイ素化合物である。
【0047】
化合物(3)の具体例を次に示す。


【0048】


【0049】


【0050】
本発明で用いる溶剤は、A群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤とB群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤である。このA群の溶剤はエステル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤およびグリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群に含まれる溶剤である。即ち、A群の溶剤はその化学式中に酸素原子または/および窒素原子を有する化合物であり、比較的大きな極性を有する溶剤である。B群の溶剤は芳香族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤および脂環式炭化水素系溶剤からなる群に含まれる溶剤である。即ち、B群の溶剤はその化学式中に酸素原子または窒素原子を含まない化合物であり、比較的小さな極性を有する溶剤である。
【0051】
まず、A群の溶剤について説明する。エステル系溶剤の好ましい例は有機酸アルキルエステルであり、具体的には酢酸アルキル(例:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチルおよび酢酸イソペンチル)、トリフルオロ酢酸エチル、プロピオン酸アルキル(例:プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびプロピオン酸ブチル)、酪酸アルキル(例:酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソブチルおよび酪酸プロピル)、マロン酸ジアルキル(例:マロン酸ジエチル)、グリコール酸アルキル(例:グリコール酸メチルおよびグリコール酸エチル)、乳酸アルキル(例:乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸n-プロピル、乳酸ブチルおよび乳酸エチルヘキシル)、モノアセチン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどである。
【0052】
アミド系溶剤の好ましい例は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、N−メチルカプロラクタムおよびジメチルイミダゾリジノンである。
【0053】
アルコール系溶剤の好ましい例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ブタノール、2−エチルブタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、1−ドデカノール、エチルヘキサノール、3、5、5−トリメチルヘキサノール、n−アミルアルコール、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−3−メトキシブタノール、シクロヘキサノールおよびメチルシクロヘキサノールである。
【0054】
エーテル系溶剤の好ましい例は、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ビス(2−プロピル)エーテル、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフラン(THF)である。
【0055】
グリコールモノアルキルエーテル系溶剤の好ましい例は、エチレングリコールモノアルキルエーテル(例:エチレングリコールモノメチルエーテルおよびエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:プロピレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、およびジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(例:ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)である。
【0056】
上記のA群に属する溶剤のうち、エステル系溶剤が好ましく、水酸基を有する有機酸アルキルエステルがより好ましい。水酸基を有する有機酸アルキルエステルの特に好ましい例は乳酸アルキルである。
【0057】
芳香族炭化水素系溶剤の好ましい例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、i−プロピルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、s−ブチルベンゼン、n−ブチルベンゼン、およびテトラリンである。ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤の好ましい例はクロロベンゼンである。脂肪族炭化水素系溶剤の好ましい例は、ヘキサンおよびヘプタンである。ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤の好ましい例は、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンである。脂環式炭化水素系溶剤の好ましい例は、シクロヘキサンおよびデカリンである。
【0058】
重合性液晶化合物の溶解性および溶剤の沸点を考慮すると、上記のB群に属する溶剤のなかでは芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、およびイソプロピルベンゼンがより好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0059】
有機ケイ素化合物の安定性はA群の溶剤、好ましくはアルコール系溶剤、エステル系溶剤またはエーテル系溶剤を用いることにより向上する。A群の溶剤のより好ましい例は水酸基を有する有機酸アルキルエステルである。A群の溶剤の最も好ましい例は乳酸アルキルである。混合溶剤を調製するに当たっては、A群の溶剤およびB群の溶剤のどちらも、単独で用いてもよいし、または2つ以上を組み合わせて用いてもよい。重合性液晶化合物の溶解性の観点、および塗布後の乾燥工程を短縮する観点(溶剤を効率的に除去する観点)から、混合溶剤を調製するときのA群の溶剤の好ましい割合は、混合溶剤全重量を基準として10〜80重量%である。この割合のより好ましい範囲は20〜70重量%であり、さらに好ましい範囲は30〜70重量%であり、そして特に好ましい範囲は30〜60重量%である。A群の溶剤をこのような割合で含有する混合溶剤を用いることにより、溶液の保存安定性が向上し、その結果、基板に対する良好な塗工性、均一なホメオトロピック配向を得ることができる。
【0060】
重合性液晶組成物における混合溶剤の割合は60〜95重量%である。この範囲の下限は重合性液晶化合物の溶解性および重合性液晶組成物を塗工する際のその最適粘度を考慮した数値である。そしてその上限は、溶剤コストおよび溶剤を蒸発させる際の時間や熱量といった経済的観点を考慮した数値である。この割合の好ましい範囲は50〜90重量%であり、より好ましい範囲は70〜85重量%である。
【0061】
本発明の重合性液晶組成物は、非重合性の液晶性化合物を含有することができる。このような化合物を添加することによって、重合物の光学特性に温度特性(温度追従性能)を付与することもできる。非重合性液晶性化合物の具体例は、液晶化合物データベース「LiqCryst」(商品名、LCI Publisher GmbH (Hamburg, Germany))に記載されている。
【0062】
重合性液晶組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において上記の重合性液晶化合物以外の重合性化合物を配合することができる。この重合性化合物は液晶性でなくてもよい。非液晶性の重合性化合物の好ましい使用量は、組成物全量を基準とする割合で40重量%以下である。この割合のより好ましい範囲は30重量%以下であり、更に好ましい範囲は20重量%以下である。組成物の液晶性が保たれ、液晶層が層分離しないためには、この割合が40重量%以下であることが好ましい。
【0063】
非液晶性の重合性化合物としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂などを用いてもよい。ポリエステル(メタ)アクリレートは、多価アルコールと一塩基酸または多塩基酸とのポリエステルプレポリマーに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる。ポリウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールと2個のイソシアネート基を持つ化合物とを反応させた後、(メタ)アクリル酸を反応させて得られる。エポキシ樹脂の例は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪酸系エポキシ樹脂、脂環式系エポキシ樹脂、アミンエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂などである。
【0064】
非液晶性の重合性化合物の好ましい例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2−ジメチルブタン酸ビニル、2,2−ジメチルペンタン酸ビニル、2−メチル−2−ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2−エチル−2−メチルブタン酸ビニル、N−ビニルアセトアミド、p−t−ブチル安息香酸ビニル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、スチレン、o−、m−またはp−クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t−アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン、およびヘキサフルオロプロペンである。
【0065】
重合体の被膜形成能をより高めるために、多官能アクリレートを組成物に添加してもよい。好ましい多官能アクリレートの例は、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールAグリシジルジアクリレート、およびポリエチレングリコールジアクリレートである。
【0066】
重合性液晶組成物の重合速度を最適化するために、公知の光重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤の好ましい添加量は、組成物全量を基準とする割合で、0.01〜10重量%である。より好ましい割合は0.1〜7重量%である。光重合開始剤の例は、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、イルガキュアー500、イルガキュアー2959、イルガキュアー907、イルガキュアー369、イルガキュアー1300、イルガキュアー819、イルガキュアー1700、イルガキュアー1800、イルガキュアー1850、ダロキュアー4265、イルガキュアー784、イルガキュアー754、イルガキュアーOXE01、p−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、および2,4−ジエチルキサントンとp−ジメチルアミノ安息香酸メチルとの混合物である。上記のダロキュアーおよびイルガキュアーはどちらもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から販売されている商品の名称である。これらに公知の増感剤(イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントンなど)を添加してもよい。
【0067】
光ラジカル重合開始剤のその他の例は、p−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、9,10−ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4−ジエチルキサントン/p−ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物などである。
【0068】
重合性液晶組成物には、保存時の重合開始を防止するために重合防止剤を添加することができる。公知の重合防止剤を使用できるが、その好ましい例は、2,5−ジ(t−ブチル)ヒドロキシトルエン(BHT)、ハイドロキノン、メチルブルー、ジフェニルピクリン酸ヒドラジド(DPPH)、ベンゾチアジン、4−ニトロソジメチルアニリン(NIDI)、o−ヒドロキシベンゾフェノンなどである。
【0069】
重合性液晶組成物の保存性を向上させるために、酸素阻害剤を添加することもできる。組成物内で発生するラジカルは雰囲気中の酸素と反応しパーオキサイドラジカルを与え、重合性化合物との好ましくない反応が促進される。これを防ぐ目的で酸素阻害剤を添加することが好ましい。酸素阻害剤の例はリン酸エステル類である。
【0070】
重合性液晶組成物の耐候性を向上させるために、各種耐候剤(紫外線吸収剤、光安定剤等)を添加しても良い。好ましい耐候剤は、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から販売されているチヌビンPS、チヌビン99−2、チヌビン213、チヌビン109、チヌビン328、チヌビン384−2、チヌビン327、チヌビン400、チヌビン411L、チヌビン900、チヌビン928、チヌビン1130、チヌビン111FDL、チヌビン123、チヌビン144、チヌビン292、チヌビン5050、チヌビン5055、チヌビン5060、チヌビン5151などである。
【0071】
以下の説明では、重合性液晶組成物から得られる本発明の液晶フィルムを単に液晶フィルムと称することがある。液晶フィルムは、次のようにして形成させることができる。まず、重合性液晶組成物を支持基板上に塗布して塗膜を形成させる。つぎに、その塗膜に光照射して重合性液晶組成物を重合させ、塗膜中の組成物が液晶状態で形成するネマチック配向を固定化する。支持基板の例はガラス基板およびプラスチック基板である。プラスチックの例は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースおよびその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびノルボルネン系樹脂であり、これらの樹脂のフィルムがプラスチック基板として用いられる。
【0072】
ノルボルネン系樹脂の1つの例は、ジシクロペンタジエン系樹脂であり、その不飽和結合が水素添加されたものが好ましい。例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物、2種類以上のノルボルネン系モノマーの共重合体の水素添加物、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマー(エチレン、α−オレフィンなど)の共重合体の水素添加物、ノルボルネン系モノマーと環状オレフィン系モノマー(シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなど)との共重合体の水素添加物、およびこれ等の変性物などである。このようなノルボルネン系樹脂の好ましい市販品は、日本ゼオン社製のZEONEXおよびZEONOR、JSR(ジェイエスアール)社製のARTON、日立化成社製のOPTOREZ、三井化学社製のAPELなどである。
【0073】
プラスチック基板は、一軸延伸フィルムであってよく、二軸延伸フィルムであってもよい。プラスチック基板は、例えば、コロナ処理やプラズマ処理などの親水化処理、または疎水化処理などの表面処理を施したものであってもよい。親水化処理の方法は特に制限はないが、コロナ処理あるいはプラズマ処理が好ましく、特に好ましい方法はプラズマ処理である。プラズマ処理は、特開2002−226616号公報、特開2002−121648号公報などに記載されている方法を用いても良い。また、プラスチック基板は積層フィルムであってもよい。プラスチック基板に代えて、表面にスリット状の溝をつけたアルミニウム、鉄、銅などの金属基板や、表面をスリット状にエッチング加工したアルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板などを用いることもできる。
【0074】
これらのガラス基板およびプラスチック基板板には、重合性液晶組成物の塗膜形成に先立って、ラビング等による物理的、機械的な表面処理が行われてもよい。ホメオトロピック配向の重合性液晶層および液晶フィルムを形成する場合はラビング等の表面処理を行わない場合が多いが、配向欠陥等を防止する点でラビング処理を行ってもよい。ラビング処理には任意の方法が採用できるが、通常はレーヨン、綿、ポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、支持基板または重合体被膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法、ロールを固定したまま支持基板側を移動させる方法などが採用される。
【0075】
本発明の重合性液晶組成物には、塗布を容易にするため、または液晶相の配向を制御するために、本発明の効果を損なわない範囲で界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の例はイミダゾリン、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族または芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル基と親水性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親油性基とを有するオリゴマー、およびパーフルオロアルキル基を有するウレタンである。界面活性剤の添加量は、重合性液晶化合物に対する重量比で、2×10−5〜0.05、さらに好ましくは1×10−4〜0.01の範囲である。
【0076】
支持基板には、塗膜形成に先立って、ラビング等による機械的な表面処理が行われてもよい。ホメオトロピック配向の重合性液晶層を形成させる場合、およびこの重合性液晶層を重合させてホメオトロピック配向の液晶フィルムを形成する場合は、通常ラビングのような表面処理を行わなくてもよいが、配向欠陥を防止する目的でラビング処理を行ってもよい。ラビング処理は支持基板に直接施されていてもよく、または支持基板上に予め重合体被膜を設け、その重合体被膜にラビング処理を施してもよい。ラビング処理の方法は前述のとおりである。支持基板の種類によっては、その表面に酸化ケイ素を傾斜蒸着して配向能を付与することもできる。
【0077】
重合性液晶組成物を塗工する際、均一な膜厚を得るための塗布方法の例は、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法およびダイコート法である。特に、塗布時に液晶組成物にせん断応力がかかるワイヤーバーコート法等を、ラビング等による基板の表面処理を行わないで液晶組成物の配向を制御する場合に用いてもよい。
【0078】
有機ケイ素化合物を重合性液晶組成物中に均一に分散させるために、溶剤を用いて希釈した有機ケイ素化合物を用いてもよい。このような溶剤は有機ケイ素化合物を溶解させる能力を有し、更に本発明の目的である重合性液晶組成物の安定性を損なわない溶剤から選択される。そして、その使用量も重合性液晶組成物の安定性を損なわない範囲内で設定される。本発明の重合性液晶組成物の安定性は、有機ケイ素化合物を添加することによって生じる組成物の経時変化による着色がないことによって確認される。
【0079】
溶液の安定性を向上させるために好ましい溶剤の例は、A群の溶剤のうち、エーテル(例:THF)、アルコール(例:メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、メトキシメチルアルコール)、酢酸エステル(例:酢酸エチル、酢酸メチル)、および乳酸アルキル(例:乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸n-プロピル、乳酸ブチル、乳酸エチルヘキシル)である。
【0080】
本発明の重合性液晶組成物を塗工するときには、塗布後に溶剤を除去して、支持基板上に膜厚の均一な重合性液晶層、即ち重合性液晶組成物の層を形成させる。溶剤除去の条件は特に限定されない。溶剤がおおむね除去され、重合性液晶組成物の塗膜の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどを利用して溶剤を除去することができる。重合性液晶組成物に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜を乾燥する過程で、塗膜中の重合性液晶組成物のネマチック配向が完了していることがある。従って、乾燥工程を経た塗膜は、後述する熱処理工程を経由することなく、重合工程に供することができる。しかしながら、塗膜中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜を熱処理し、その後に光重合処理することが好ましい。
【0081】
塗膜を熱処理する際の温度および時間、光照射に用いられる光の波長、光源から照射する光の量などは、重合性液晶組成物に用いる化合物の種類と組成比、光重合開始剤の添加の有無やその添加量などによって、好ましい範囲が異なる。従って、以下に説明する塗膜の熱処理の温度および時間、光照射に用いられる光の波長、および光源から照射する光の量についての条件は、あくまでもおよその範囲を示すものである。
【0082】
塗膜の熱処理は、溶剤が除去され重合性液晶の均一配向性が得られる条件で行うことが好ましい。重合性液晶組成物の液晶相転移点以上で行ってもよい。熱処理方法の一例は、前記重合性液晶組成物がネマチック液晶相を示す温度まで塗膜を加温して、塗膜中の重合性液晶組成物にネマチック配向を形成させる方法である。重合性液晶組成物がネマチック液晶相を示す温度範囲内で、塗膜の温度を変化させることによってネマチック配向を形成させてもよい。この方法は、上記温度範囲の高温域まで塗膜を加温することによって塗膜中にネマチック配向を概ね完成させ、次いで温度を下げることによってさらに秩序だった配向にする方法である。上記のどちらの熱処理方法を採用する場合でも、熱処理温度は室温〜120℃である。この温度の好ましい範囲は室温〜90℃であり、より好ましい範囲は室温〜70℃である。熱処理時間は5秒〜2時間である。この時間の好ましい範囲は10秒〜40分であり、より好ましい範囲は20秒〜20分である。重合性液晶組成物からなる層の温度を所定の温度まで上昇させるためには、熱処理時間を5秒以上にすることが好ましい。生産性を低下させないためには、熱処理時間を2時間以内にすることが好ましい。このようにして本発明の重合性液晶層が得られる。
【0083】
重合性液晶層中に形成された重合性液晶化合物のネマチック配向状態は、この重合性液晶化合物を光照射により重合することによって固定化される。光照射に用いられる光の波長は特に限定されない。電子線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)などを利用することができる。通常は、紫外線または可視光線を用いればよい。波長の範囲は150〜500nmである。好ましい範囲は250〜450nmであり、より好ましい範囲は300〜400nmである。光源の例は、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などである。光源の好ましい例は、メタルハライドランプ、キセノンランプ、超高圧水銀ランプ、および高圧水銀ランプである。光源と重合性液晶層との間にフィルターなどを設置して特定の波長領域のみを通すことにより、照射光源の波長領域を選択してもよい。光源から照射する光量は、2〜5000mJ/cm2である。光量の好ましい範囲は10〜3000mJ/cm2であり、より好ましい範囲は100〜2000mJ/cm2である。光照射時の温度条件は、上記の熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。
【0084】
本発明の重合性液晶層、およびこれを光や熱などにより重合させた液晶フィルムを様々な光学素子に用いる場合、または液晶表示装置に用いる光学補償素子として適用する場合には、厚み方向におけるチルト角の分布の制御が極めて重要となる。
【0085】
チルト角を制御する方法の一つは、重合性液晶組成物に用いる液晶性化合物の種類や組成比などを調整する方法である。この重合性液晶化合物に他の成分を添加することによっても、チルト角を制御することができる。液晶フィルムのチルト角は、重合性液晶組成物中の溶剤の種類や溶質濃度、他の成分の1つとして加える界面活性剤の種類や添加量などによっても制御することができる。支持基板または重合体被膜の種類やラビング条件、重合性液晶組成物の塗膜の乾燥条件や熱処理条件などによっても、液晶フィルムのチルト角を制御することができる。さらに、配向後の光重合工程での照射雰囲気や照射時の温度なども液晶フィルムのチルト角に影響を与える。即ち、液晶フィルムの製造プロセスにおけるほとんど全ての条件が多少なりともチルト角に影響を与えると考えてよい。従って、重合性液晶性組成物の最適化と共に、液晶フィルムの製造プロセスの諸条件を適宜選択することにより、任意のチルト角にすることができる。
【0086】
ホメオトロピック配向は、チルト角が基板界面から自由界面にかけて一様に85°〜90°に分布している。この配向状態は、有機ケイ素化合物を添加した本発明の重合性液晶組成物を支持基板表面に塗布することによって得られる。本発明において、安定してホメオトロピック配向を得るためには、有機ケイ素化合物の使用割合を重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30にすることが好ましい。この割合のより好ましい範囲は0.03〜0.20であり、さらに好ましい範囲は0.03〜0.15である。有機ケイ素化合物の好ましい例はアルコキシシランである。そして、前記の化合物(3−1)〜化合物(3−5)、化合物(3−8)、および化合物(3−10)がより好ましい。
【0087】
ホメオトロピック配向の均一性および支持基板との密着性を両立する点から有機ケイ素化合物を単独、または複数種の有機ケイ素化合物を併用して用いてもよい。有機ケイ素化合物は重合性液晶組成物に直接、または溶剤等で希釈して添加することができる。また、重合性液晶化合物の種類または重合性液晶組成物の組成によっては上記方法においても安定したホメオトロピック配向を得にくい場合がある。この場合はホモジニアス配向性または、チルト配向性が強いと考えられるため、その場合は有機ケイ素化合物の添加量を増加させる、あるいは該重合性化合物を必要最小量まで減らすなどの最適化により安定したホメオトロピック配向が得られる。このようなホメオトロピック配向は支持基板の表面が親水化処理等により極性を有していれば、ラビング等により処理されていなくても得ることができる。ラビング処理を行わないで塗膜した際に配向欠陥等が生じたりする場合にはラビング処理等を行うと均一なホメオトロピック配向が得られる。
【0088】
一方、垂直配向剤を支持基板上に形成する場合は、オクタデシルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤、レシチン、クロム錯体、垂直配向用のポリイミド系配向膜、ポリアミック酸配向膜の低温(180℃以下)焼成膜、水溶性シルセスキオキサン膜などの利用が挙げられる。さらに電場や磁場などを用いてチルト角を制御することも可能である。配向欠陥の無いホメオトロピック配向を得るために、支持基板の表面をラビングのような機械的手段を用いて配向処理してもよい。
【0089】
液晶フィルムにおける上記の各配向形態の均一性は、使用される重合性液晶化合物の構造を適宜選択することにより向上する場合がある。本発明においては、2官能型の重合性液晶化合物において、メソゲン骨格にエステル基、アルキルエステル基、またはシンナメート基が含まれる場合に安定して得られることが認められている。それらのうち、好ましい化合物は、MA−2〜5、MA−9、MA−18〜20、MA−34〜35、MA−38〜41、MA−44〜47、MA−51などである。
【0090】
液晶フィルムの厚さは、目的とする素子に応じたレタデーションや液晶フィルムの複屈折率によって適当な厚さが異なるので、その範囲を厳密に決定することはできない。しかしながら、敢えて示せば、好ましい液晶フィルムの厚さは、0.05〜50μmである。そして、より好ましい範囲は0.1〜20μmであり、さらに好ましい範囲は0.5〜10μmである。液晶フィルムの好ましいヘイズ値は1.5%以下であり、好ましい透過率は80%以上である。より好ましいヘイズ値は1.0%以下であり、より好ましい透過率は95%以上である。透過率については、可視光領域でこれらの条件を満たすことが好ましい。
【0091】
液晶フィルムは、液晶表示素子(特に、アクティブマトリックス型およびパッシブマトリックス型の液晶表示素子)に適用する光学補償素子として有効である。この液晶フィルムを光学補償膜として使用するのに適している液晶表示素子の型の例は、IPS型(イン・プレーン・スイッチング)、OCB型(光学的に補償された複屈折)、TN型(ツィステッド・ネマティック)、STN型(スーパー・ツィステッド・ネマティック)、ECB型(電気的に制御された複屈折)、DAP型(整列相の変形効果)、CSH型(カラー・スーパー・ホメオトロピック)、VAN/VAC型(垂直配向したネマチック/コレステリック)、OMI型(光学モード干渉)、SBE型(超複屈折効果)などである。さらにゲスト−ホスト型、強誘電性型、反強誘電性型などの表示素子用の位相レターダーとして、この液晶フィルムを使用することもできる。なお、液晶フィルムに求められるチルト角の厚み方向の分布や厚みなどのパラメーターの最適値は、補償すべき液晶表示素子の種類とその光学パラメーターに強く依存するので、素子の種類によって異なる。
【0092】
液晶フィルムは、偏光板などと一体化した光学素子としても使用することができ、この場合は液晶セルの外側に配置させられる。しかしながら、光学補償素子としての液晶フィルムは、セルに充填された液晶への不純物の溶出がないかまたは少ないので、液晶セルの内部に配置させることも可能である。重合性液晶組成物を使用する際にフォトリソグラフィー技術を適用すれば、液晶表示素子の青、緑、赤などの波長域の異なる画素ごとに、または1画素を分割して区分された所定の領域に、光学パラメーターの異なる液晶フィルムから成る光学補償層を配置することができる。例えば、特開2001−222009公報に開示されている方法を応用すれば、1画素を反射表示部と、液晶フィルムからなる1/4λ板を配置した透過表示部に分割することによって、光利用効率が改善された半透過反射型液晶表示素子を構築することができる。即ち、液晶表示素子の表示性能を更に向上させることが可能である。
【0093】
重合性液晶組成物が非重合性の低分子液晶を含有するとき、これを用いて高分子分散型液晶表示素子またはホログラフィック高分子分散型液晶表示素子を製造することができる。重合性液晶組成物が強誘電性液晶または反強誘電性液晶を含有するとき、これを用いて高分子安定化強誘電性液晶表示素子または高分子安定化反強誘電性液晶表示素子を製造することができる。これらの素子に関する素子自体の具体的な構築方法は以下の文献に記載されている。
特開平6−340587号公報.
IDW '98, P.105, 1998.
J. of Photopoly. Sci. Technol., 295-300, 13(2),(2000).
【0094】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例で行った評価法を次に示す。
(1)重合条件:窒素雰囲気下において、室温で250Wの超高圧水銀灯を用いて30mW/cm(365nm)の強度の光を30秒間照射した。
(2)液晶配向状態の確認:回転可能な偏光子および検光子で回転/傾斜ステージを挟んだ光学系を用いて、得られた液晶フィルム付基板を回転/傾斜ステージに設置し、フィルム面に対して垂直方向から傾斜させながらレタデーションを測定し確認した。ホメオトロピック配向の均一性は、2枚の偏光板をクロスニコルの状態にし、その間に液晶フィルム付基板を入れ、正面から観察した場合に、液晶の配向欠陥由来の光りぬけが目視で確認されないとき(暗視野)を均一配向の状態とした。支持基板にはガラスを用いた。ガラス上に重合性液晶組成物を塗膜・配向させ、上記重合条件下で重合させることによって得た。
(3)溶液の安定性の確認:室温状態で保存し、有機ケイ素化合物を添加後24時間経過した溶液の着色を目視により確認した。
【実施例1】
【0095】
<MA−39の合成>



(第1段階)
エタノール(1,500ml)に3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(1150g)を加えた溶液を撹拌しながら、硫酸(230g)を10分かけて滴下して、その後5時間還流させた。反応混合物を濃縮し、得られた濃縮液を水(1,000ml)に注ぎ入れ、酢酸エチルを加えて攪拌した。分液した後、酢酸エチル層を飽和炭酸ナトリウム溶液で中和し、少量の水で水洗した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この酢酸エチル層から酢酸エチルおよび未反応成分を溶剤留去して、1400gの濃縮物が得られた。濃縮物を減圧蒸留により精製して1,144gの3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エチルを得た。沸点は160℃/4.0hPaであった。
【0096】
(第2段階)
アイスバスで10℃に冷却した無水酢酸(1,200ml)に6−クロロヘキサノール(800g)を加え、次にピリジン(934g)を10分かけて滴下した。敵下後、2時間還流させた。反応溶液を水に注ぎ、そこにトルエンを加えて撹拌した。トルエン層を分液して、これを飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、少量の水で水洗した。その後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。このトルエン層からトルエンおよび未反応成分を溶剤留去して濃縮物を得た。この濃縮物を減圧蒸留で精製して983gの6−アセトキシクロロへキサンを得た。沸点は82℃/5.3hPaであった。
【0097】
(第3段階)
3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エチル(400g)をジメチルホルムアミド(2,800ml)に溶かした。そこへ水酸化ナトリウム(98g)を加え、40℃で30分撹拌した。塩の生成が目視で観察できた。6−アセトキシクロロヘキサン(515g)を加え80℃で7時間撹拌した。反応混合物を水(2,000ml)に注ぎ、そこにトルエンを加えて攪拌した。分液した後、トルエン層を6N塩酸、飽和炭酸ナトリウム溶液、水の順番で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。このトルエン層から溶剤を留去して709gの濃縮物を得た。水酸化ナトリウム(185g)を水(400ml)に溶かし、そこへエタノール(600ml)と濃縮物709gを加えて加熱し、2時間還流させた。エバポレーターを用いて減圧下に反応混合物を濃縮し、得られた濃縮物を6N塩酸に注いだ。得られたスラリーをろ過して固形物を得、これをエタノールで再結晶して281gの(4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)フェニル)プロピオン酸を得た。(融点:109〜112℃)
【0098】
(第4段階)
(4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)フェニル)プロピオン酸(200g)、N,N−ジメチルアニリン(100g)およびBHT(0.3g)をジオキサン(1,000ml)に溶かした。そこへアクリル酸クロリド(74.3g)を10分かけて滴下し、60℃で5時間かくはんした。反応溶液を水に注ぎ、酢酸エチルを加えて攪拌した。酢酸エチル層を分液した後、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この酢酸エチル層から溶剤を留去して固形物を得た。この固形物をトルエンに溶解し、多量のヘプタンに注いで再沈殿させて、213gの(4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)フェニル)プロピオン酸を得た。(融点:64〜68℃)
【0099】
(第5段階)
(4−(6−アクリルオキシヘキシルオキシ)フェニル)プロピオン酸(150g)、2,3−ビス(トリフルオロメチル)ハイドロキノン(52.2g)、BHT(0.75g)、ジメチルアミノピリジン(15g)を塩化メチレン(900ml)に溶解した。この溶液に、DCC(N、N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド)(100g)を塩化メチレン(300ml)に溶かした溶液を1時間かけて滴下した。更に2時間撹拌した後、水を加えて分液した。塩化メチレン層を6N塩酸、10%水酸化ナトリウム水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この塩化メチレン層から得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して125gのMA−39を得た。
【実施例2】
【0100】
<重合性液晶組成物(1)の調製>
[MIX1]


MA−5は特開2003−238491号公報に記載の方法で合成した。
MA−1はMacromolecules, 3938-3943, (23), (1990)に記載の方法で合成した。
上記の組成物MIX1に対して重量比0.03の重合開始剤イルガキュアー907および重量比0.10の化合物(3−1)を添加した。この組成物に混合溶剤(トルエン/乳酸エチル=1/1(重量比))を加えて、混合溶剤が85重量%である溶液とした。


【実施例3】
【0101】
実施例2で得られた重合性液晶組成物(1)を、ガラス上にスピンコートにより塗布した。次に、70℃で3分間加熱して溶剤を除去し、紫外線により窒素気流下で重合を行い、均一なホメオトロピック配向を有する液晶フィルムを得た。この液晶フィルムは均一配向であり、フィルム面に対して垂直方向から傾斜させながらレタデーションを測定した結果を図1に示した。溶液の保存安定性は良好であり、着色はほとんど観察されなかった。
【実施例4】
【0102】
組成物MIX1に対して、重量比0.03の重合開始剤イルガキュアー907および重量比0.03の化合物(3−1)を添加したこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(2)を調整し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。この液晶フィルムは均一配向であり、フィルム面に対して垂直方向から傾斜させながらレタデーションを測定した結果を図1に示した。溶液の保存安定性は良好であり、着色はほとんど観察されなかった。
【実施例5】
【0103】
組成物MIX1に対して重量比0.05の重合開始剤イルガキュアー907を加えたこと以外は実施例2と同様にして重合性液晶組成物(3)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。この液晶フィルムは均一配向であり、フィルム面に対して垂直方向から傾斜させながらレタデーションを測定した結果を図1に示した。溶液の保存安定性は良好であり、着色はほとんど観察されなかった。
【0104】
[比較例1]
溶剤としてシクロヘキサノンを単独で用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(4)を調製した。得られた重合性液晶組成物(4)を用い、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた液晶フィルムは白濁しており、液晶の配向欠陥(光ぬけ)が確認された。溶液の保存安定性は不良であり、着色がはっきりと観察された。
【0105】
[比較例2]
有機ケイ素化合物(3−1)を添加しないこと以外は実施例2と同様にして重合性液晶組成物(5)を調製した。得られた重合性液晶組成物(5)を用い、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。しかし、液晶は無配向であり評価に値しなかった。
【0106】
[比較例3]
溶剤としてトルエンを単独で用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(6)を調製した。得られた重合性液晶組成物(6)を用い、実施例3と同様の方法で液晶フィルムの製膜を試みたがハジキが多く、評価に値しなかった。
【0107】
[比較例4]
溶剤をトルエン/シクロヘキサノン=1/1の混合溶剤としたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(7)を調製した。得られた重合性液晶組成物(7)を用い、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。液晶の配向は図1と同様な傾向の光学特性であったが、配向欠陥がやや目立って確認された。溶液の保存安定性テストの結果、少しの着色が観察された。
【実施例6】
【0108】
<MA−35の合成>


特開2004−175728公報に記載の方法に準じて合成した4−(6−(α−トリフルオロメチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)安息香酸(91g)、2−メチルヒドロキノン(15g)、および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(9g)を塩化メチレン(500ml)に溶解した。得られた溶液に、DCC(52g)を塩化メチレン(300ml)に溶解した溶液を1時間かけて滴下した。更に2時間撹拌した後、水を加えて分液した。得られた塩化メチレン層を6N塩酸、10%水酸化ナトリウム水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この塩化メチレン層から得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して61gのMA−35を得た。
【実施例7】
【0109】
[MIX2]


上記の組成物MIX2を用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(8)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた液晶フィルムは均一であり、また図1と同様な傾向の光学特性であった。溶液の保存安定性は良好であり、着色がほとんど観察されなかった。
【実施例8】
【0110】
[MIX3]

MA−51を、特願2004−265163公報記載の方法に基づいて合成し、上記の組成物MIX3を用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(9)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた液晶フィルムは均一であり、また図1と同様な傾向の光学特性であった。溶液の保存安定性は良好であり、着色がほとんど観察されなかった。
【実施例9】
【0111】
[MIX4]


上記の組成物MIX4を用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合性液晶組成物(10)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた光学フィルムは均一であり、また図1と同様な傾向の光学特性であった。溶液の保存安定性は良好であり、着色がほとんど観察されなかった。
【実施例10】
【0112】
混合溶剤を95重量%としたこと以外は実施例2と同様にして、重合性液晶組成物(11)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた液晶フィルムは均一であり、また図1と同様な傾向の光学特性であった。溶液の保存安定性は良好であり、着色がほとんど観察されなかった。
【実施例11】
【0113】
混合溶剤を60重量%としたこと以外は実施例2と同様にして、重合性液晶組成物(12)を調製し、実施例3と同様の方法で液晶フィルムを得た。得られた液晶フィルムは均一であり、また図1と同様な傾向の光学特性であった。溶液の保存安定性は良好であり、着色がほとんど観察されなかった。
【0114】
上記の実施例および比較例の結果から、本発明の重合性液晶組成物から得られた液晶フィルムは均一なホメオトロピック配向性を示し、溶液の保存安定性を改善できることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明により、配向均一性、保存安定性に優れた液晶フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例3で得られた液晶フィルムについて、フィルム面に対して垂直方向から傾斜させながらレタデーションを測定した結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される有機ケイ素化合物、並びにA群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤とB群の溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する重合性液晶組成物:


ここに、mは2〜10の整数であり;nは2〜10の整数であり;Gは水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり;Wは水素またはフッ素であり;Yは単結合、−CH=CH−または−CHCH−であり;Aは1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレン、2,3−ジトリフルオロメチル−1,4−フェニレン、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチル−フルオレン−2,7−ジイル、または9−エチル−フルオレン−2,7−ジイルであり;Rは2〜10個の炭素原子を有する直鎖状のアルキレンであり、このアルキレン中の1つまたは隣り合わない2つの−CH−は、−O−または−NH−で置き換えられてもよく;Rはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;Rはメチル、エチルまたはトリメチルシリルであり;rは0〜2の整数であり;A群の溶剤はエステル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤およびグリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群に含まれる溶剤であり;そして、B群の溶剤は芳香族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤および脂環式炭化水素系溶剤からなる群に含まれる溶剤である。
【請求項2】
式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される有機ケイ素化合物、および水酸基を有する有機酸アルキルエステルから選択される少なくとも1つの溶剤と芳香族炭化水素系溶剤から選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する、請求項1に記載の重合性液晶組成物。
【請求項3】
式(1)および式(2)のそれぞれで示される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性液晶化合物、式(3)で示される有機ケイ素化合物、並びに乳酸アルキルから選択される少なくとも1つの溶剤とトルエン、キシレン、エチルベンゼンおよびイソプロピルベンゼンから選択される少なくとも1つの溶剤との混合溶剤を含有する、請求項1に記載の重合性液晶組成物。
【請求項4】
有機ケイ素化合物の割合が、重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【請求項5】
混合溶剤の割合が重合性液晶組成物全量を基準として95〜60重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【請求項6】
有機ケイ素化合物の割合が重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30であり、そして混合溶剤の割合が重合性液晶組成物全量を基準として95〜60重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【請求項7】
混合溶剤に含まれるA群の溶剤から選択される溶剤の割合が混合溶剤の全重量を基準として10〜80重量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【請求項8】
有機ケイ素化合物の割合が重合性液晶化合物に対する重量比で0.01〜0.30であり、そして混合溶剤に含まれるA群の溶剤から選択される溶剤の割合が混合溶剤の全重量を基準として10〜80重量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物をガラス基板、またはプラスチック基板上に直接塗布して得られる重合性液晶層。
【請求項10】
プラスチック基板がポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロース、トリアセチルセルロースの部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびノルボルネン系樹脂から選ばれるいずれか1つのフィルムである、請求項9に記載の重合性液晶層。
【請求項11】
基板がその表面をラビング処理されたものである、請求項9または10に記載の重合性液晶層。
【請求項12】
基板がその表面をコロナ処理またはプラズマ処理されたものである、請求項9または10に記載の重合性液晶層。
【請求項13】
重合性液晶層中の液晶骨格の配向状態がホメオトロピック配向である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の重合性液晶層。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の重合性液晶層を重合させて得られる液晶フィルム。
【請求項15】
請求項14に記載の液晶フィルムの少なくとも1つを有する光学補償素子。
【請求項16】
請求項14に記載の液晶フィルムの少なくとも1つと偏光板とを有する光学素子。
【請求項17】
請求項15に記載の光学補償素子を液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
【請求項18】
請求項16に記載の光学素子を液晶セルの内面または外面に有する液晶表示装置。
【請求項19】
重合性液晶化合物が、式(MA−1)、式(MA−5)、式(MA−35)、式(MA−39)および式(MA−51)のそれぞれで示される化合物の少なくとも1つであり、有機ケイ素化合物が式(3−1)で示される化合物であり、A群の溶剤から選択される溶剤が乳酸エチルであり、B群の溶剤から選択される溶剤がトルエンであり、重合性液晶化合物に対する有機ケイ素化合物の割合が重量比で0.03〜0.10であり、乳酸エチルとトルエンの混合割合が重量比で1:1であり、そして重合性液晶組成物全量を基準とする混合溶剤の割合が95〜60重量%である、請求項1に記載の重合性液晶組成物:




【図1】
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【公開番号】特開2006−291096(P2006−291096A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115810(P2005−115810)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】