説明

有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法

【課題】高感度、高精度で測定可能な有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法を提供すること。さらに迅速、簡便、安価に測定可能で有益な有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂からなる分析用前処理キット及びこれらを用いた分析方法により解決できる。
分解触媒封入ガラス管4と金属ナトリウム封入ガラス管5を壊して有機ハロゲン化合物と分解触媒及び金属ナトリウムとを反応させると、ハロゲン化物イオンとナトリウムイオンが放出され、更に水を加えて陽イオン交換樹脂封入ガラス管6を壊して陽イオン交換樹脂と接触させることより、ナトリウムイオンが吸着・除去されナトリウムイオンの影響が少ない分解液が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば絶縁油、潤滑油中のポリ塩化ビフェニールなどの有機ハロゲン化合物を簡便、迅速、高感度、高精度で測定可能な分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物は人体に悪影響を及ぼし、環境ホルモン物質として、また健康を害する有害物質として知られており、例えばポリ塩化ビフェニール(以下、PCBという)は、カネミ油症事件を契機として化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)が制定されPCBの生産、輸入及び新規使用が禁止されている。
【0003】
そして2001年にPCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法が制定され、2016年までにPCB廃棄物を処理すること及びPCB廃棄物の処理基準として、PCBの含有濃度を0.5mg/Kg以下とすることが定められている。
【0004】
PCBは例えば家庭用や工業用の高圧トランス・コンデンサーなどの絶縁油中に含まれており、廃棄物としてそのまま処分することはできないため、処理が必要である。
【0005】
しかし、国内には処理対象となるPCB廃棄物が大量に存在しており、円滑に処理を推進するためには安価で迅速、簡便にPCBを測定できる分析方法が求められている。
【0006】
絶縁油中のPCBの簡易分析法として、PCBを分解触媒(ジグリムとナフタレンの混合物)と安定化した金属ナトリウムにより分解し、生成した塩化物イオンを水で抽出した後、塩化物イオン電極法で測定するためのキットがあり(下記非特許文献1)、PCBを5mg/Kgの定量下限で測定できる。
【0007】
その他、絶縁油中のPCB分析法としては、PCBを含む試料をヘキサンに溶解させ、シリカゲルと硫酸で処理した後、ガスクロマトグラフ法で分析する方法(下記非特許文献2)や、極性溶媒を用いて試料からPCBを抽出し、質量分析計付きガスクロマトグラフ法で分析する方法(下記特許文献1)がある。
【0008】
また、試料中のPCBをビフェニルナトリウム溶液で分解して塩化物イオンとし、濃硝酸で中和した後、イオンクロマトグラフ法で分析する方法(下記特許文献2)や、防汚塗料中のPCBを有機物に抽出し、燃焼後、イオン電極法やイオンクロマトグラフ法で分析する方法(下記特許文献3)が知られている。
【特許文献1】特開2000−88825号公報
【特許文献2】特開2002−139480号公報
【特許文献3】特開2003−98057号公報
【非特許文献1】L2000DX:In‐field Screening Techniques for PCBs in Transformer Oil(DEXSIL CORPORATION)
【非特許文献2】社団法人 日本電気協会 「絶縁油中のPCBの分析方法規定」JEAC 1201 1991年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機ハロゲン化合物、例えば絶縁油中のPCB分析法として、上記特許文献1及び非特許文献2に記載されているようにガスクロマトグラフ法や質量分析計付きガスクロマトグラフ法で分析する方法は、微量のPCBを精度良く測定できるが、前処理操作が煩雑で時間がかかり、分析にかかるコストも高く、簡便、有益な方法とはいえない。
【0010】
更に特許文献2や特許文献3に記載されている構成では、有機溶媒でPCBを抽出させたり、燃焼させたりする工程があり前処理操作が煩雑となることに加え、有機溶媒を取り扱う上で安全性においても問題がある。
【0011】
また、非特許文献1に記載されているようにPCBを分解して得られた塩化物イオンをイオン電極法で測定するための簡易分析キットは、簡便、迅速、安価ではあるが、低濃度の塩化物イオンを精度良く測定できないという問題がある。上記塩化物イオン電極法測定用のキットでは、定量下限が5mg/Kgであり、PCB廃棄物の処理基準である0.5mg/Kg以下という濃度基準を満たすことはできない。
【0012】
また、潤滑油中には安定剤として数十〜数千ppmのパラフィン系の有機塩素化合物が含まれているが、その廃油の燃焼時にダイオキシン類が生成するなどの問題があり、その濃度の低減化や簡便な測定方法が求められている。
【0013】
本発明の課題は、上記問題点を解決することであり、具体的には高感度、高精度で測定可能な有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法を提供することである。
【0014】
また、本発明の課題は、迅速、簡便、安価に測定可能で有益な有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び有機ハロゲン化合物の分析方法を提供することである。
【0015】
更に本発明の課題は、比較的高濃度(数十〜数千ppm)の有機ハロゲン化合物の濃度の簡便な測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂からなる分析用前処理キット及びこれら分解触媒と金属ナトリウムと陽イオン交換樹脂を用いた分析方法により、解決できる。なお本明細書中、「水」とは脱イオン水又は純水をいう。
【0017】
具体的には以下のような構成を採用することにより達成できる。
請求項1記載の発明は、少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、有機ハロゲン化合物の分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂をそれぞれ密封し、押圧力で破壊可能な密閉容器と、前記各密閉容器の全てを入れた一つの薬剤保持具と、該薬剤保持具と有機ハロゲン化合物を含む試料を収納可能で、キャップにより密封可能な開口部を有する分解容器とを一体化した構造である有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットである。
【0018】
請求項2記載の発明は、前記破壊可能な密閉容器はガラス製であり、前記薬剤保持具及び前記分解容器は軟質プラスチック製である請求項1記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットである。
【0019】
請求項3記載の発明は、イオンクロマトグラフ法による分析用に用いる請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットである。
【0020】
請求項4記載の発明は、少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、有機ハロゲン化合物の分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂をそれぞれ密封して押圧力で破壊可能な密閉容器の全てを入れた薬剤保持具であって、請求項1から3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットに用いられる薬剤保持具である。
【0021】
請求項5記載の発明は、有機ハロゲン化合物を含む試料を分解触媒と金属ナトリウムにより分解させて、ハロゲン化物イオンを生成させ、次いで水を加え、該水を加えたときに得られた混合物中のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂により吸着・除去し、水中のハロゲン化物イオン濃度をイオンクロマトグラフ法により測定する有機ハロゲン化合物の分析方法である。
【0022】
請求項6記載の発明は、有機ハロゲン化合物を含む試料を分解触媒と金属ナトリウムにより分解させて、ハロゲン化物イオンを生成させ、次いで水を加え、該水を加えたときに得られた混合物中のナトリウムイオンを有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する量の陽イオン交換樹脂にて吸着・除去し、水中のハロゲン化物イオン濃度をモール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法で測定する有機ハロゲン化合物の分析方法である。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットの分解容器内に有機ハロゲン化合物を含む試料を入れ、分解容器内で分解触媒と金属ナトリウムをそれぞれ入れた密閉容器を破壊して、前記有機ハロゲン化合物と、分解触媒と金属ナトリウムを接触させて有機ハロゲン化合物を分解させてハロゲン化物イオンを生成させ、次いで分解容器内に水を入れた後、陽イオン交換樹脂を入れた密閉容器を破壊して、水を加えたときに得られた分解後のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂に吸着・除去させ、前記ハロゲン化物イオンを水に抽出して、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオンの濃度を測定する有機ハロゲン化合物の分析方法である。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットの分解容器内に有機ハロゲン化合物を含む試料を入れ、分解容器内で分解触媒と金属ナトリウムをそれぞれ入れた密閉容器を破壊して、前記有機ハロゲン化合物と、分解触媒と金属ナトリウムを接触させて有機ハロゲン化合物を分解させてハロゲン化物イオンを生成させ、次いで分解容器内に水を入れた後、有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する量の陽イオン交換樹脂を入れた密閉容器を破壊して、分解後のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂に吸着・除去させ、前記ハロゲン化物イオンを水に抽出して、モール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法でハロゲン化物イオン濃度を測定する有機ハロゲン化合物の分析方法である。
【0025】
(作用)
本発明の原理について説明する。有機ハロゲン化合物、例えばPCBは以下の反応によって分解する。
【化1】

すなわちPCBはPCB分解触媒と金属ナトリウムにより分解し、水を加えるとハロゲン化物イオンとナトリウムイオンを生成する。有機ハロゲン化合物の微量定量分析を行う場合、ナトリウムイオンの影響により、ハロゲン化物イオン濃度の測定が困難な場合がある。そこで、生成したナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂により吸着・除去して、ナトリウムイオンの影響が少ない分解液を得、生成した塩化物イオンの濃度を測定することにより、高感度、高精度なPCBの分析が可能となる。
【0026】
請求項1記載の発明によれば、分解触媒と金属ナトリウムと陽イオン交換樹脂がそれぞれ予め容器に密封されており、各密閉容器を押すことで簡単に密封を解くことができ、有機ハロゲン化合物を含む試料と接触させて反応させることができるため、有機ハロゲン化合物の分解反応、前処理がスムーズに進行する。また、分解容器に薬剤保時具が入っており、さらに薬剤保持具に各密閉容器が装着されているという一体的でコンパクトな構造となっている。
【0027】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の作用に加えて、軟質プラスチック製の薬剤保持具と分解容器であるので、外部から各密閉容器を押してガラスを割ることで簡単に各密閉容器の密封を解くことができる。またガラス製の各密閉容器は軟質プラスチック製の薬剤保持具に装着されていることから、薬剤保持具を落としても各密閉容器は、割れにくい。更に分解容器は軟質プラスチック製であるので、外部からの押圧で、変形させて簡単に前処理後の試料を取り出すことができる。
【0028】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加えて、ナトリウムイオンが陽イオン交換樹脂により吸着・除去され、ナトリウムイオンの影響が少ない処理液が得られるので、比較的低濃度のイオンを分析可能なイオンクロマトグラフ法により測定が可能である。
【0029】
請求項4記載の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明の作用に加えて、密閉容器を装着した薬剤保持具のみでも請求項1ないし3のいずれかに記載の分析用前処理キットから分離・独立可能であり、操作性に優れる。
【0030】
請求項5記載の発明によれば、有機ハロゲン化合物が分解触媒と金属ナトリウムにより分解され、ナトリウムイオンとハロゲン化物イオンが放出されるが、更に陽イオン交換樹脂に接触させることにより、ナトリウムイオンが吸着・除去されナトリウムイオンの影響が少ない分解液が得られ、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオン濃度を測定でき、例えばPCB廃棄物の処理基準である0.5mg/Kg以下という濃度基準を満たす測定が可能となる。
【0031】
比較的高濃度の有機ハロゲン化合物を含む試料をモール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法で測定・分析するためには、有機ハロゲン化合物を分解するための金属ナトリウムの量も多くしなければならず、更にナトリウムイオンを吸着・除去するために陽イオン交換樹脂量も多くする必要がある。
【0032】
したがって請求項6記載の発明によれば、試料に含まれる有機ハロゲン化合物の濃度に応じて陽イオン交換樹脂量を変えることで、比較的高濃度(数十〜数千ppm)の有機ハロゲン化合物を含む試料のハロゲン化物イオン濃度をモール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法で測定でき、有機ハロゲン化合物の分析が可能となる。
【0033】
請求項7記載の発明によれば、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオンの濃度を測定するための一連の前処理工程を前処理キットで行うことができる。そして請求項5記載の発明と同様の作用を有する。
【0034】
請求項8記載の発明によれば、モール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法でハロゲン化物イオン濃度を測定するための一連の前処理工程を前処理キットで行うことができる。そして請求項6記載の発明と同様の作用を有する。
【発明の効果】
【0035】
本発明により有機ハロゲン化合物の分析に有益な前処理キット及び分析方法が得られる。具体的には以下の効果を有する。
【0036】
請求項1記載の発明によれば、分解触媒と金属ナトリウムと陽イオン交換樹脂などの前処理に必要な試薬の一定量がそれぞれ予め密閉容器に密封されているので保存性に優れ、分析時にこれらの薬剤等を調製するといった煩雑な作業も不要であり、精度の良い定量が可能である。
【0037】
また、これらの密閉容器を破壊することで、簡単に試料と薬剤等が接触して前処理を開始することができ、有機ハロゲン化合物を含む試料の有機ハロゲン化合物の分解反応、前処理をスムーズに進行させることができるので、更に前処理段階における外部からのコンタミネーションを防ぐこともできる。
【0038】
そして、分解容器に薬剤保時具が入っており、さらに薬剤保持具に各密閉容器が装着されているという一体的でコンパクトな構造となっているため、作業性に優れ、保管や持ち運びにも便利である。更に有機ハロゲン化合物を含む試料を安価で迅速、簡便に処理可能である。
【0039】
また、透明な容器の前処理キットとすれば、ナトリウムイオンが陽イオン交換樹脂に吸着・除去された様子が目視により確認でき、pH試験紙などでも分解液がアルカリ性から中性に変わったことが簡単に確認できる。
【0040】
更に種々の分析法の前処理に汎用的に用いることができる。
【0041】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、外部から分解容器及び薬剤保持具を押すことでさらに容易に各密閉容器の密封を解くことができ、前処理をスムーズに行うことができる。
【0042】
また、薬剤保持具を落としても各密閉容器は、割れにくいため、更に保存性や保管性に優れ、持ち運びに便利である。
【0043】
更に分解容器を外部から押して変形させることで、簡単に分解後の試料を取り出すことができ、更に簡便、迅速な前処理が可能となる。
【0044】
請求項3記載の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、比較的低濃度のイオンが分析可能なイオンクロマトグラフ法により、ハロゲン化物イオン濃度を測定でき、高感度、高精度の有機ハロゲン化合物の分析が可能となる。
【0045】
請求項4記載の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、密閉容器を装着した薬剤保持具のみ予め準備可能であるから複数個用意したりすることもでき、また密閉容器を事前に装着でき操作性に優れる。
【0046】
請求項5記載の発明によれば、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオンの濃度を測定するための一連の前処理工程を前処理キットで行うことができるため、簡便、迅速、安価にまた高感度、高精度な有機ハロゲン化合物の分析が可能である。
【0047】
そして、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオン濃度を測定でき、例えばPCB廃棄物の処理基準である0.5mg/Kg以下という濃度基準を満たす測定が可能となる。
【0048】
請求項6記載の発明によれば、比較的高濃度(数十〜数千ppm)の有機ハロゲン化合物を含む試料をモール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法でハロゲン化物イオン濃度を測定でき、イオンクロマトグラフを使用することなく、より簡便、迅速、安価に有機ハロゲン化合物の分析が可能である。
【0049】
請求項7記載の発明によれば、イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオンの濃度を測定するための一連の前処理工程を前処理キットで行うことができるため、更に簡便、迅速、安価に有機ハロゲン化合物の分析が可能である。そして請求項5記載の発明と同様の効果を奏する。
【0050】
請求項8記載の発明によれば、モール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法で測定するための一連の前処理工程を前処理キットで行うことができ、更に簡便、迅速、安価に有機ハロゲン化合物の分析が可能である。そして請求項6記載の発明と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明者らは、絶縁油中に含有している有機ハロゲン化合物の一種であるPCBの簡易分析法として用いられている、塩化物イオン電極法で測定するためのキット(上記非特許文献1 DEXSIL社製)に着目して、有益な有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット及び分析方法について鋭意研究を重ねた。
【0052】
塩化物イオン電極法では、一般的に高感度、高精度な測定は難しい。しかし、本発明者らは高感度、高精度に低濃度の塩化物イオンを測定できる方法として、イオンクロマトグラフ法による分析法があることに着目し、イオンクロマトグラフ法により測定可能な分析用前処理キット及び分析方法について鋭意研究し、以下のことを見出した。
【0053】
まず上記塩化物イオン電極法用の前処理キット(DEXSIL社製)を用いて、有機ハロゲン化合物として例えばPCBを含む絶縁油を塩化物イオン電極法で測定するのと同様に処理し、イオンクロマトグラフ法により測定した。測定条件を以下に示す。
【0054】
装置:ダイオネクス社製 DX500型 カラム:ダイオネクス社製 イオンパック AG12A/AS12A サプレッサ:電気透析形のASRS−II 検出器:電気伝導度 溶離液:2.7mM炭酸ナトリウムと0.3mM炭酸水素ナトリウムの混合溶液を1.3ml/分にて通液 試料注入量:25μl カラム温度:35℃ 絶縁油試料として(財)産業廃棄物処理事業振興財団の「低濃度PCB汚染物対策検討委員会」から提供された試料No.7を5ml採取した。
【0055】
図7に塩化物イオン電極法用の前処理キットを用いて絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果を示す。図7に示すように分解液中に高濃度のナトリウムイオンが含まれているため、塩化物イオンのピークが影響を受けて正常なクロマトグラムが得られない。分解液を10倍に希釈しても得られるクロマトグラムはウォーターディップが大きく、塩化物イオンの分析を妨害する。
【0056】
この妨害を除く方法として、分解液を硝酸や硫酸で中和してから分析する方法を検討したが高濃度の硝酸イオンや硫酸イオンが分離カラムに残留してカラムが汚染され、水で洗浄してもなかなかベースラインが回復しない。また、分離カラム内の低交換容量の陰イオン交換樹脂が劣化する。更に硝酸イオンの影響を除くために10倍に希釈して測定した場合は感度が低下してしまう。
【0057】
本発明者らは、塩化物イオンの分離性を改善するためには、ナトリウムイオンを除去すればよいとの着想のもとに、ナトリウムイオンを除去する方法について鋭意研究を重ねた結果、ついに分解液を陽イオン交換樹脂に通して測定した場合に、低濃度の塩化物イオンを測定・分析可能であることを見出した。
【0058】
図8に塩化物イオン電極法用の前処理キットを用いて絶縁油中のPCBを分解後、分解液を陽イオン交換樹脂に通してイオンクロマトグラフ法により測定した結果を示す。測定条件は、上記図7の場合と同様とした。
【0059】
分解液中のナトリウムイオンが陽イオン交換樹脂により吸着・除去されることにより、ウォーターディップが消失して、ベースラインも安定し、塩化物イオンのピークが良好になることで、低濃度の塩化物イオンを測定できる。
また、分解液を陽イオン交換樹脂に通して測定する手間を省くことができればさらにより簡易、安価に分析することが可能となる。
【0060】
すなわち、上記塩化物イオン電極法用の前処理キットに陽イオン交換樹脂を加えることができれば、より簡易に測定できる。しかし、陽イオン交換樹脂は一般的に樹脂表面に油が付着すると、吸着性能が落ちると考えられており、油を含む試料には使用されないことが当業者の常識である。
【0061】
しかし、本発明者らは鋭意研究の結果、以下のことを見出した。あえて上記前処理キットに陽イオン交換樹脂を加え、従来では考えられなかった油を含む試料を添加して塩化物イオンの分析を試みたところ、従来考えられていた吸着性能の低下などの問題がないという、今までの常識を覆す事実を見出したのである。
【0062】
図9に絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果を示す。測定条件は、絶縁油として出光製のトランスフォーマーオイルG、PCB標準物質として(株)カネカ製のカネクロール(KC600)2ppmを使用して試料を作成し、他の条件は上記図7、8の場合と同様とした。
【0063】
図9からも分かるように、良好な塩化物イオンのピークが得られ、高感度、高精度に塩化物イオンの測定ができる。
更に前処理キットに陽イオン交換樹脂を加えることで、前処理段階での外部からのコンタミネーションを防ぐこともできる。
【実施例1】
【0064】
本発明の一実施例である分析用前処理キット20の正面縦断面図を図1(a)に示す。図1(b)は薬剤保持具3に各ガラス管4、5、6を装着した状態を示す正面縦断面図であり、図1(c)は流し口付きのキャップ2の構造を示す側面図である。
【0065】
分解触媒(0.1〜0.2ml程度)と金属ナトリウム(0.05〜0.1g程度)と陽イオン交換樹脂(1.0〜2.0g程度)がそれぞれガラス管4、5、6内に封入されており、薬剤保持具3に装着されている(図1(b))。薬剤保持具3は縦に割けており、先端が細い足(板)になっている。そして各ガラス管4、5、6を左右両側から包み込むように保持している。そしてガラス管4、5、6が割れれば、試料と分解触媒等がすぐに接触して反応、吸着等を起こさせることができる。
【0066】
図1では、下から分解触媒封入ガラス管4、金属ナトリウム封入ガラス管5、陽イオン交換樹脂封入ガラス管6の配置になっているが、試料の種類や反応の性質などにより、任意にそれらの配置を替えることができる。例えば分解触媒封入ガラス管4と金属ナトリウム封入ガラス管5の配置を逆にしたり、薬剤保持具3の形を変えれば同じ位置にしたりすることもできる。
【0067】
上記各ガラス管4、5、6の装着は薬剤保持具3に限られず、各ガラス管を一体的に保持できるものであれば良い。更に薬剤保持具3は分解容器1内に入っており、分解容器1の上部には流し口付きのキャップ2により密封された状態として使用する(図1(a))。
【0068】
各ガラス管4、5、6は、封入が簡易に解けるようなものであれば、ガラス管に限らず、どのような素材や形のものでも良い。また、上記分解触媒等を安定に保ち、密封できるものであればガラス管に限らない。薬剤保持具3や分解容器1の素材についても限定はないが、軽くて丈夫、安価であることからプラスチック製が好ましい。更に薬剤保持具3や分解容器1は軟質プラスチック製であれば各ガラス管4、5、6を外部から押すことで簡単に割ることができ、また分解容器1の側面を押すことにより分解した液を簡単に押し出すことができるため、好適である。また、各ガラス管4、5、6や薬剤保持具3、分解容器1の色について特に限定はないが、透明が好ましい。透明とすれば、分解液中のナトリウムイオンが陽イオン交換樹脂により吸着・除去され分解液がアルカリ性から中性になることで、分解液の色が褐色から透明に変わり目視により簡単に確認できる。
【0069】
本発明の一実施例である分析用前処理キット20は、分解容器1の上部にねじ込み式の流し口付きのキャップ2を取り付けて密栓できる構造となっている。流し口付きのキャップ2は、両端に開口部を持つ円筒体2aをキャップ2に回動自在に備えており、円筒体2aがA方向に回動することにより、流し口が開く構造となっている(図1(c))。このように流し口付きのキャップ2とすれば、分解容器1から分解液を、外部からのコンタミネーションを防ぎ、手を汚さずに取り出すことができるので簡単、便利であるが、特に流し口付きのキャップ2に限定されずどのようなキャップでも良い。また、分解容器1は密封が簡易に解けるような構造であれば、キャップを付けることに限定されず、どのような構造であっても良い。例えばキャップと分解容器1が一体的な構造であっても良い。さらにキャップ2による密封手段に限らず分解容器1が密封でき、また密封が簡易に解ける手段(例えば栓をするなど)であれば特に限定されない。
【0070】
分解容器1の大きさは限定されないが、直径15〜20mm程度、長さ130〜150mm程度の、持ちやすい大きさが簡便で良い。更に薬剤保持具3は幅7〜9mm程度、長さ120〜130mm程度、分解触媒封入ガラス管4は直径7〜9mm程度、長さ25〜30mm程度、金属ナトリウム封入ガラス管5は直径7〜9mm程度、長さ25〜40mm程度、陽イオン交換樹脂封入ガラス管6は直径7〜9mm程度、長さ30〜45mm程度が良い。
【0071】
分解触媒としては、例えばPCBの分解触媒としてジグリム(ジエチレングリコールジエチルエーテル)やナフタレン、ビフェニルナトリウムなどがあるが、これらの触媒に限定されず、測定試料、すなわち有機ハロゲン化合物の種類によって分解触媒を替えればよい。
【0072】
金属ナトリウムは安定化されたものであれば良く、状態は限定されないが、安定性が良く、反応がスムーズに起こる状態のものが好ましい。例えばペースト状としたものが好ましい。
【0073】
陽イオン交換樹脂としては、強酸性、弱酸性のどちらを使用しても良い。またゲル形、MR(マクロレティキュラー)形など種々の形態のものを用いることができ、樹脂の母体構造としてはスチレン系やアクリル系の陽イオン交換樹脂を用いることができる。またこれら陽イオン交換樹脂は、H型陽イオン交換樹脂であってもNa型陽イオン交換樹脂であってもよいが、Na型の場合は、硝酸でH型に再生してから使用すればよい。
【0074】
測定する有機ハロゲン化合物の種類としては、PCBの他にダイオキシン類、フラン類、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、アルドリン、エンドリン、クロルデン、ディルドリンなどがあるが、これらの物質に限定されない。
【実施例2】
【0075】
本発明の有機ハロゲン化合物を含む試料の一例としてPCBを含む絶縁油を試料とした場合の前処理キット20の使用方法のフローを図2に示し、当該フローによる操作の説明図を図3〜図5に示す。図2及び図3〜図5を用いて本発明の一実施例である前処理キット20の使用方法について詳細に説明する。
【0076】
まず分解容器1内に、分解触媒封入ガラス管4と金属ナトリウム封入ガラス管5と陽イオン交換樹脂封入ガラス管6を装着した薬剤保持具3を入れ(図3(a))、分解容器1内に有機ハロゲン化合物を含む試料をピペット7を用いて約5ml入れる(図3(b))。
【0077】
本実施例では絶縁油を試料として用いているが、潤滑油や土壌などでも良く、排水や排ガスにも適用できる。有機ハロゲン化合物を含む物質であれば、溶媒等で抽出、捕集することにより固体、気体を問わず、絶縁油等の油性物質に限定されない。例えば、土壌や水中の有機ハロゲン化合物をヘキサンやイソオクタンなどの有機溶剤で抽出し、試料とすればよい。
【0078】
次に分解容器1に流し口付きのキャップ2をして(図3(c))、分解触媒封入ガラス管4を割り、約10秒間振り混ぜる(図3(d))。その次に金属ナトリウム封入ガラス管5を割り約1分間振り混ぜ(図4(a))、ピペット7を用いて水を約5ml加え、約1分間振り混ぜ水にハロゲン化物イオンを抽出する(図4(b))。
【0079】
更に陽イオン交換樹脂封入ガラス管6を割って振り混ぜ(図4(c))、約10分間倒置させて絶縁油と分解液を分離させる(図4(d))。次に図5(a)に示すように流し口付きのキャップ2の円筒体2aをA方向に回動させて流し口を開けて指で分解容器1を押し、分解液を押し出し、ろ材9が入った別のろ過器8でろ過し、ろ液を別の容器10に取る。本実施例によれば、ここまでの段階(図3〜図5)で十数分足らずで前処理が可能となる。そして当該ろ液をシリンジ11を用いて取り出し、種々の分析に用いればよい。
【0080】
分析方法としては様々な方法があり、特に限定されないが、例えばイオンクロマトグラフ法の他、アルカリ溶液中のナトリウムイオンを吸着することから紫外可視吸光光度法などの前処理に用いることができる。
【0081】
また、陽イオン交換樹脂の代わりに陰イオン交換樹脂を用いると陰イオンを除去できるので、酸性液中の低濃度の陽イオンの分析も可能となり、様々な利用方法がある。
【0082】
本実施例によれば、有機ハロゲン化合物を低コストで迅速、簡便に測定可能であり、前処理段階における外部からのコンタミネーションを防ぐこともできる。また、容器を透明とすればナトリウムイオンが陽イオン交換樹脂に吸着・除去された様子が目視により確認でき、pH試験紙などでも分解液がアルカリ性から中性に変わったことが簡単に確認できる。
【実施例3】
【0083】
本実施例では、実施例1の前処理キット20を用いて絶縁油中のPCBを実施例2のように処理してイオンクロマトグラフ法を用いた分析に適用した例を示している。図6に、本発明の実施例1の前処理キット20を用いて、実施例2のように処理した分解液のろ液をイオンクロマトグラフ12により分析する様子の概略図を示す。
【0084】
実施例2によりろ液を調製し、ろ液をマイクロシリンジ11を用いてイオンクロマトグラフ12に注入する。そして得られたクロマトグラム13を分析することにより分析データ14を用いて、塩化物イオン濃度からPCB濃度に換算する。
【0085】
本実施例によれば、分解液をイオンクロマトグラフ法で分析することにより、0.5mg/Kg以下というPCB廃棄物の処理基準である定量下限を満たし、低濃度の有機ハロゲン化合物を高感度、高精度で測定・分析することができる。
【実施例4】
【0086】
また、例えばモール法による塩化物イオン簡易測定法があるが、一般的にpH(ペーハー)が3〜11の範囲内で測定可能である。したがって上記塩化物イオン電極法用の前処理キット(DEXSIL社製)により処理した分解液は高アルカリのため測定不可能である。
【0087】
潤滑油中の有機ハロゲン化合物の濃度は比較的高濃度(例えば数十〜数千ppm)であると言われており、これを金属ナトリウムで分解した液はアルカリの濃度が高いことから測定は困難である。
【0088】
しかし、本発明者らは陽イオン交換樹脂により高アルカリのナトリウムイオンを吸着させてアルカリ度を低くすれば測定可能であることを見出した。すなわち、分解液のpHが測定可能な範囲内(pH3〜11)になるよう、分解液のpHと陽イオン交換樹脂の添加量の関係について鋭意研究を重ねた結果、有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する陽イオン交換樹脂量とすればモール法を含む塩化物イオン簡易測定法にも適用できることを見出した。
【0089】
表1に分解液のpHと陽イオン交換樹脂の添加量との関係を示す。
【表1】

【0090】
表1はトリクロロベンゼン(TCB)1000ppm濃度の試料5mlを実施例1による前処理キット20で処理した際の陽イオン交換樹脂の添加量とpHについて調べた結果であり、モール法による塩化物イオン簡易測定法を用いた。表1の結果から、陽イオン交換樹脂の添加量を、予め分解液がpH3〜11になるように調製すると、塩化物イオン簡易測定法で分析することにより、簡易に塩化物イオン濃度から比較的高濃度の有機ハロゲン化合物(例えば数十〜数千ppm)を求めることができる。
【0091】
本実施例によればイオンクロマトグラフを使用することなく、陽イオン交換樹脂の添加量を有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する陽イオン交換樹脂量とすれば、より簡便、迅速に比較的高濃度の有機ハロゲン化合物の測定ができる。
【実施例5】
【0092】
従来の塩化物イオン電極法用の前処理キット(DEXSIL社製)は、イオン電極測定用であり定量下限がPCBとして5mg/Kgであるから、比較的高濃度(例えば数十〜数百)のPCBを分解するために最適な分解薬剤(ジグリムとナフタレン)と金属ナトリウム量が封入されている。そのため、PCBを分解後、水5mlを加えると、分解液中の水酸化ナトリウム濃度は約0.55mol/lとなる。陽イオン交換樹脂の添加量は、金属ナトリウム量に依存する。従来の前処理キットを用いた場合、分解液中のナトリウムイオンを吸着・除去するために必要な陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製 アンバーライト(商品名) IR124HAG)は、約2gである。
【0093】
本発明者らはイオンクロマトグラフ測定用として、低濃度のPCB(定量下限が0.5mg/Kg程度)を分解するために最適な分解薬剤と金属ナトリウム量は従来の前処理キットの薬剤の半量でも良いことを見出した。
【0094】
図10に従来の塩化物イオン電極法用の前処理キット中の分解薬剤を半量として、絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果を示す。測定条件は、PCB標準物質として(株)カネカ製のカネクロール(KC300)2ppmを使用して試料を作成し、他の条件は上記図9の場合と同様とした。
【0095】
分解薬剤及び金属ナトリウム量を半量とすれば、陽イオン交換樹脂の添加量は約1gとなる。潤滑油中の高濃度の有機ハロゲン化合物を分析する場合には分解薬剤及び金属ナトリウム量は多く必要であるため、陽イオン交換樹脂量を増加させればよい。
【0096】
本実施例によれば分解薬剤を従来の半量としても分解効率に変化が無く、またジグリム等の薬剤の減少により塩化物イオンの前のピークが小さくなり、塩化物イオンとの分離性が良好となる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明はPCBを含む絶縁油や有機ハロゲン化合物を含む潤滑油などの試料の微量分析に極めて有効な分析用前処理キット及び分析方法であり、有機ハロゲン化合物の微量定量分析法として産業上の利用可能性が高く、環境分析などの他様々な技術分野への応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1(a)は本発明の一実施例である分析用前処理キットの正面縦断面図である。図1(b)は薬剤保持具に各ガラス管を装着した状態を示す正面縦断面図であり、図1(c)は流し口付きのキャップの構造を示す側面図である。(実施例1)
【図2】PCBを含む絶縁油を試料とした場合の前処理キットの使用方法のフローである(実施例2)。
【図3】図2のフローによる操作の説明図である(実施例2)。図3(a)は、前処理キットをセットする様子を示す概略断面図であり、図3(b)は分解容器内に試料を注入する様子を示す概略断面図であり、図3(c)はキャップをした分解容器の状態を示す概略断面図であり、図3(d)は分解触媒封入ガラス管を割った様子を示す概略断面図である。
【図4】図2のフローによる操作の説明図である(実施例2)。図4(a)は金属ナトリウム封入ガラス管を割った様子を示す概略断面図であり、図4(b)は水を加える様子を示す概略断面図であり、図4(c)は陽イオン交換樹脂封入ガラス管を割った様子を示す概略断面図であり、図4(d)は分解容器を倒置させた様子を示す概略断面図である。
【図5】図2のフローによる操作の説明図である(実施例2)。図5(a)は分解液を押し出す様子を示す概略断面図であり、図5(b)はシリンジでろ液を取り出す様子を示す概略断面図である。
【図6】実施例1の前処理キットを用いて処理した分解液をイオンクロマトグラフにより分析する様子を示す概略図である(実施例3)。
【図7】塩化物イオン電極法用の前処理キットを用いて絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果である。
【図8】塩化物イオン電極法用の前処理キットを用いて絶縁油中のPCBを分解後、分解液を陽イオン交換樹脂に通してイオンクロマトグラフ法により測定した結果である。
【図9】本発明の一実施例である分析用前処理キットを用いて絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果である。
【図10】本発明の一実施例である、分解薬剤を従来の半量とした分析用前処理キットを用いて、絶縁油中のPCBをイオンクロマトグラフ法により測定した結果である(実施例5)。
【符号の説明】
【0099】
1 分解容器
2 キャップ
2a 円筒体
3 薬剤保持具
4 分解触媒封入ガラス管
5 金属ナトリウム封入ガラス管
6 陽イオン交換樹脂封入ガラス管
7 ピペット
8 ろ過器
9 ろ材
10 容器
11 シリンジ
12 イオンクロマトグラフ
13 クロマトグラム
14 分析データ
20 前処理キット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、有機ハロゲン化合物の分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂をそれぞれ密封し、押圧力で破壊可能な密閉容器と、
前記各密閉容器の全てを入れた一つの薬剤保持具と、
該薬剤保持具と有機ハロゲン化合物を含む試料を収納可能で、キャップにより密封可能な開口部を有する分解容器と
を一体化した構造であることを特徴とする有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット。
【請求項2】
前記破壊可能な密閉容器はガラス製であり、前記薬剤保持具及び前記分解容器は軟質プラスチック製であることを特徴とする請求項1記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット。
【請求項3】
イオンクロマトグラフ法による分析用に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キット。
【請求項4】
少なくとも有機ハロゲン化合物を分解する分解触媒と、有機ハロゲン化合物の分解試薬である金属ナトリウムと、ナトリウムイオンを吸着・除去する陽イオン交換樹脂をそれぞれ密封して押圧力で破壊可能な密閉容器の全てを入れた薬剤保持具であって、
請求項1から3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットに用いられることを特徴とする薬剤保持具。
【請求項5】
有機ハロゲン化合物を含む試料を分解触媒と金属ナトリウムにより分解させて、ハロゲン化物イオンを生成させ、
次いで、水を加え、該水を加えたときに得られる混合物中のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂により吸着・除去し、
水中のハロゲン化物イオン濃度をイオンクロマトグラフ法により測定することを特徴とする有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項6】
有機ハロゲン化合物を含む試料を分解触媒と金属ナトリウムにより分解させて、ハロゲン化物イオンを生成させ、
次いで水を加え、該水を加えたときに得られる混合物中のナトリウムイオンを有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する量の陽イオン交換樹脂にて吸着・除去し、
水中のハロゲン化物イオン濃度をモール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法で測定することを特徴とする有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットの分解容器内に有機ハロゲン化合物を含む試料を入れ、
分解容器内で分解触媒と金属ナトリウムをそれぞれ入れた密閉容器を破壊して、
前記有機ハロゲン化合物と、分解触媒と金属ナトリウムを接触させて有機ハロゲン化合物を分解させてハロゲン化物イオンを生成させ、
次いで分解容器内に水を入れた後、陽イオン交換樹脂を入れた密閉容器を破壊して、分解後のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂に吸着・除去させ、前記ハロゲン化物イオンを水に抽出して、
イオンクロマトグラフ法によりハロゲン化物イオンの濃度を測定することを特徴とする有機ハロゲン化合物の分析方法。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物の分析用前処理キットの分解容器内に有機ハロゲン化合物を含む試料を入れ、
分解容器内で分解触媒と金属ナトリウムをそれぞれ入れた密閉容器を破壊して、
前記有機ハロゲン化合物と、分解触媒と金属ナトリウムを接触させて有機ハロゲン化合物を分解させてハロゲン化物イオンを生成させ、
次いで分解容器内に水を入れた後、有機ハロゲン化合物の濃度に応じて添加した金属ナトリウム量に対応する量の陽イオン交換樹脂を入れた密閉容器を破壊して、
分解後のナトリウムイオンを陽イオン交換樹脂に吸着・除去させ、前記ハロゲン化物イオンを水に抽出して、
モール法を含むハロゲン化物イオン簡易分析法でハロゲン化物イオン濃度を測定することを特徴とする有機ハロゲン化合物の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−226813(P2006−226813A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40494(P2005−40494)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月18日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第53年会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月1日 廃棄物学会発行の「第15回 廃棄物学会研究発表会講演論文集2」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年12月15日 日本分析化学会イオンクロマトグラフィー研究懇談会主催の「第1回 日中韓合同イオンクロマトグラフィー討論会」において文書をもって発表
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(503269209)デクシル・コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】