説明

有機ハロゲン化合物の分解材及びその製造方法

【課題】有機ハロゲン化合物に汚染された土壌及び/又は地下水等に対する分解速度に優れた分解材及びその製造方法を提供すること。
また、上記の分解性能に加えて、コストが低減され、また製造が容易な分解材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る有機ハロゲン化合物の分解材は、鉄粉の表面に鉄より貴な金属を付着させた有機ハロゲン化合物の分解材であって、前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属に塩素が付着、又は前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属が塩素を含有していることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ハロゲン化合物に汚染された土壌及び/又は地下水等を迅速に分解できる有機ハロゲン化合物の分解材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物は優れた溶解力を持つ脱脂溶剤として、半導体製造業、金属加工業、クリーニング業などで広く使用されてきたが、使用後の有機ハロゲン化合物による土壌及び地下水の汚染が深刻となっている。
有機ハロゲン化合物を無害化する方法として、原位置から汚染土壌そのものを除去する方法、原位置で土壌、または有機塩素系化合物が溶けこんだ地下水を処理して有機ハロゲン化合物を分解する方法、汚染土壌の周辺において汚染土壌から流出する地下水を浄化する方法等が提案されている。
【0003】
これらのうち、原位置で汚染土壌を浄化する方法には、嫌気性微生物により生物分解する方法と鉄粉と水分を接触させ、鉄粉が酸化される際に発生する水素によって有機ハロゲン化合物を還元し、分解する方法(以下、鉄粉法)がある。これらの方法の中で、現在、鉄粉法が効果の確実性に優れ、且つ、工場跡地など広大な汚染土壌を処理するのに適していることから主流となりつつある。
【0004】
このような鉄粉法に関する技術として、特許文献1に記載された有機ハロゲン化合物分解用金属粉に関する発明がある。この特許文献1に記載された有機ハロゲン化合物分解用金属粉は、「少なくとも、鉄(以下、Feと記載する。)−ニッケル(以下、Niと記載する。)の2種の金属元素を主成分とする相を有し、Feを主成分とする相を母材金属相とし、Niを主成分とする相を付着金属相とし、付着金属相は母材金属相に付着してNi付着Fe粒子の形態となり、この粒子が集合したものである」(特許文献1[0016]参照)。
【0005】
また、鉄粉法に関する他の技術として、特許文献2に開示された被処理物用無害化処理剤の発明がある。この特許文献2に開示された発明は、「Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物をメカニカルアロイング法により合金化したFe−Ni合金からなる有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤」である(特許文献2、請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-136051
【特許文献2】特開2004-57881
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示された発明は、共に鉄粉にニッケル粉を付着させるという点で共通している。
そして、鉄粉にニッケル粉を付着させることにより、有機ハロゲン化合物に汚染された土壌等の浄化に効果があることは認められる。
しかしながら、上記特許文献1、2の発明では、初期の反応速度が十分ではなく、分解速度の点では必ずしも満足できるものではなかった。
【0008】
また、特許文献1のものでは、ニッケル粉の粒径については特に言及されておらず、他方特許文献2のものではニッケル粉の粒径として1〜10μm程度と記載されており、比較的粒径が粗いものを使用している。
しかしながら、ニッケル粉の粒径が粗いと、同じ効果を得るのにニッケル粉の必要量が増えコストが高くなるという問題がある。
また、ニッケル粉の粒径が大きいと鉄粉表面へ付着させにくく、例えば特許文献2においてはMA法に使用するアトライターミルなどを用いて30分以上の混合が必要とされており、製造に時間を要するという問題もある。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、有機ハロゲン化合物に汚染された土壌及び/又は地下水等に対する分解速度に優れた分解材及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、上記の分解性能に加えて、コストが低減され、また製造が容易な分解材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鉄粉にニッケル粉を付着させることにより、有機ハロゲン化合物に汚染された土壌等の浄化に効果があることは公知の事実である。
しかしながら、従来の分解材では初期の反応速度が十分でなく、この点を改善するべく発明者は研究を行い、その過程で、ニッケル粉の粒径に着目し、その粒径の微細なもの(以下、ニッケル微粉という)を用いて分解材を製造した。
ニッケル微粉として、発明者は、塩化ニッケルを気化し、還元反応を起こさせて気相から粒子を析出させる気相化学反応法(CVD法)で製造したものを使用し、このようにして製造されたニッケル微粉を鉄粉に付着させて分解材を製造し、その性能試験を行った。
その過程で、ニッケル微粉として製品として出荷されるものと、製品として出荷される前の、すなわち、CVD法によって気相から析出されたものをそのままの状態で使用した場合の比較実験を行った。
そうしたところ、CVD法によって気相から析出されたものをそのままの状態で使用したものが初期の反応速度の面で優れていることを発見した。
【0011】
そこで、製品として出荷される状態のニッケル微粉とCVD法によって気相から析出されたものをそのままの状態のものとの違いについて検討した。
通常、CVD法によって気相から析出されたニッケル微粉中には塩素ガスがHClとして金属ニッケル表面に再付着しているため、これを水洗し、水洗後はデカンターと言われる脱水器で脱水し、不活性ガス雰囲気中で乾燥し、塩素の残留量が数十ppm程度以下になるようにしている。この事実から、発明者は、ニッケル微粉に含まれる塩素がVOC分解材としての機能をより優れたものにする効果を発揮するとの知見を得た。
【0012】
つまり、塩素が含まれることにより、分解材を使用する際において塩素が水と反応して生成されるHClが鉄粉の溶解促進に寄与する。すなわち、VOCの分解に寄与する自由電子は、Fe→Fe2++2e-の反応によるが、この反応は酸性の方が起こりやすいので鉄粉表面(微細領域)に局所的にHClが存在すると、そこのサイトは塩酸酸性となり鉄の溶解が促進され、VOCの分解に優れることになり、特に初期の反応性に優れることになる。
もっとも、生成する塩酸の量が多いと、鉄粉表面が錆びてしまい、表面の鉄さび比率が増えるとFe→Fe2++2eによるVOCの分解に寄与する自由電子の発生が少なくなるし、あるいは分解材として長期保存を考慮すると、塩素の量には上限がある。
【0013】
本発明はかかる知見を基になされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0014】
(1)本発明に係る有機ハロゲン化合物の分解材は、鉄粉の表面に鉄より貴な金属を付着させた有機ハロゲン化合物の分解材であって、前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属に塩素が付着、又は前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属が塩素を含有していることを特徴とするものである。
【0015】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、塩素が付着し又は塩素を含有しているのが前記鉄より貴な金属であることを特徴とするものである。
【0016】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記鉄より貴な金属がニッケルであることを特徴とするものである。
【0017】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記塩素の濃度が前記鉄より貴な金属に対して0.1〜3質量%であることを特徴とするものである。
【0018】
(5)本発明に係る有機ハロゲン化合物の分解材の製造方法は、鉄より貴な金属の塩化物を気相中で分解して、塩素が付着した鉄より貴な金属粉を含む金属粉を製造し、これらの金属粉と鉄粉を機械的に接触させて前記鉄粉の上面に前記鉄より貴な金属粉を圧着させることを特徴とするものである。
【0019】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記鉄より貴な金属がニッケルであることを特徴とするものである。
【0020】
(7)また、上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、鉄より貴な金属粉の粒径が0.1〜1μmを90%以上含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解材よれば、有機ハロゲン化合物に汚染された土壌及び/又は地下水から、有機ハロゲン化合物を確実、且つ、迅速に分解除去でき、さらに、安価に製造できるため、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図2】実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図3】実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図4】実施例4の実験結果を示すグラフである。
【図5】実施例5の実験結果を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態1]
本発明に係る有機ハロゲン化合物の分解材は、鉄粉の表面に鉄より貴な金属であるニッケルを付着させた有機ハロゲン化合物の分解材であって、前記ニッケルが塩素を付着又は含有していることを特徴とするものである。そして、分解材を介して有機ハロゲン化合物のハロゲン原子を水素原子に置換することによって浄化作用を発揮するものである。
【0024】
<鉄粉>
この浄化剤に使用される鉄粉としては、アトマイズ鉄粉、海綿鉄粉、還元鉄粉、電解鉄粉を使用することができるが、鉄粉表面が酸化膜で覆われていない鉄粉が好ましい。もっとも、鉄粉表面が酸化膜で覆われている場合や酸化膜が厚い場合には、例えば仕上げ還元処理によって鉄粉表面の酸化膜厚を500nm以下にするのが好ましく、酸化膜の厚みは薄いほど好ましい。酸化膜厚が500nm以下であるためには、酸化膜は鉄粉の表面にほぼ均一に形成されると想定できることから鉄粉の酸素濃度で規定することができ、鉄粉の酸素濃度が1質量%以下であればよい。なお、酸化膜の除去に関しては、仕上げ還元処理の他、酸性溶液で表面の酸化膜を除去するようにしてもよい。
また、鉄粉粒径としては、500μm未満が望ましい。500μm未満としたのは、500μm以上の粒径の場合、鉄粉の比表面積が小さくなるため反応性が著しく劣化し、さらに、スラリー状態として土壌と混合する場合には、そのスラリーを圧送する配管、ポンプにおいて詰りや摩耗が発生するためである。また、鉄粉の粒径の下限値としては、45μm以下が45%以下にすることが施行性の観点から望ましい。
【0025】
<ニッケル>
ニッケルは鉄粉の表面にニッケル微粉を機械的に付着させるようにする。付着させるための具体的な方法としては、混合・造粒を主目的としたアイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサーにより、鉄粉とニッケル微粉を混合攪拌する方法があるが、これに限られるものではない。
ニッケル微粉としては、塩化ニッケルを気化し、還元反応を起こさせて気相から粒子を析出させる気相化学反応法(CVD法)で製造するようにしてもよいが、これに限定されるものではない。
もっとも、CVD法によってニッケル微粉を製造した場合には、製造されたニッケル微粉中に塩素ガスがHClとして金属ニッケル表面に再付着しているので、別途塩素を添加する必要がないので好ましい。
【0026】
ニッケル微粉の粒度は、鉄粉表面への機械的な付着させやすさを考慮して、鉄粉の粒度の1/10〜1/1000にするのが好ましい。なお、CVD法によってニッケル微粉を製造した場合には、その粒度は、0.1〜1μmで90%以上となる。
【0027】
<塩素>
金属ニッケルに付着している塩素の量は、金属ニッケルに対して0.1〜3質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、分解材として使用する際に鉄の溶解を促進する効果が少なく、分解材として初期反応の促進効果が期待できない。他方、3質量%を越えると、鉄が酸化して表面が酸化膜で覆われてしまい、Fe→Fe2++2eによるVOCの分解に寄与する自由電子の発生が少なくなるからである。また、分解材として長期保存の観点からも、塩素の量が3質量%を超えると長期保存ができなくなるので好ましくない。
【0028】
CVD法によってニッケル微粉を製造した場合には、上述したようにニッケルに塩素が付着することになり、別途塩素を添加する必要がない。しかし、ニッケル微粉を製造する方法としては、CVD法以外の例えば、金属を直接還元雰囲気下で昇華させて微粉末を作るプラズマPVD法、Ni塩の水溶液を還元して微粉末を製造する液相法、Ni塩をそのまま水素還元して微粉末を製造する固相法であってもよい。液相法や固相法では出発原料が塩化ニッケルであれば製造された微粉末に塩素が残留するので、CVD法と同様に別途塩素を添加する必要がない。
【0029】
上記のように構成された本実施の形態の分解材によれば、分解材としての初期の反応性に優れるという効果を奏する。
また、本実施の形態においては、塩素がニッケルに付着しているので、分解材の使用前の保存中には塩素によって鉄粉が腐食することがなく保存性に優れる。他方、分解材の使用状態では、前述したように、塩素が水と反応して鉄粉の溶解促進に寄与する。このように、本実施の形態の分解材は保存性に優れると共に初期反応性に優れるという効果を奏する。
もっとも、塩素は初期反応性に優れるという効果の点からすれば、塩素が鉄粉側に付着するものを排除するものではない。
【0030】
なお、上記の実施の形態においては、鉄より貴な金属の例としてニッケルを例に挙げて説明したが、鉄より貴な金属としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、銅(Cu)、コバルト(Co)が挙げられる。
【0031】
[実施の形態2]
本実施の形態2は、分解材の製造方法に関するものである。
本実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の分解材の製造方法は、塩化ニッケルを気相中で分解して、塩素が付着したニッケル微粉を含むニッケル微粉を製造する工程と(ニッケル微粉製造工程)、これらの金属粉と鉄粉を機械的に接触させて前記鉄粉の上面に前記鉄より貴な金属粉を圧着させる工程(圧着工程)とを有している。
【0032】
<ニッケル微粉製造工程>
ニッケル微粉製造工程をより具体的に示すと、塩化ニッケルを昇華させたガス、水素ガスおよび窒素ガスの3種のガス中で塩化ニッケルを昇華させたガスのモル比が0.10〜0.20となるように混合し、1000〜1200℃に加熱した反応管内で気相反応によってニッケル微粉を製造する(CVD法)。
CVD法によってニッケル微粉を製造した場合には、その粒度は、0.1〜1μmで90%以上となる。
CVD法によってニッケル微粉を製造した場合には、ニッケル微粉にHClが付着することになり、別途塩素を添加する必要がない。一部、未反応の塩化ニッケルも存在するがニッケル微粉に対し1質量%以下であれば問題ない。
【0033】
<圧着工程>
圧着工程には、アイリッヒミキサーなどの混合・造粒を主目的としたミキサーを使用し、鉄粉とニッケル微粉を混合攪拌する。
このとき、ニッケル微粉の粒度は、鉄粉表面への機械的な付着させやすさを考慮して、鉄粉の粒度の1/10〜1/1000にするのが好ましい。すなわち、ニッケル微粉の粒径を小さくすると、圧着工程で鉄粉の表面に薄く広い面積で付着させることができ、ニッケルの鉄粉に対する表面比率を大きくすることができる。
ミキサーのアジテータ(ミキサー内の羽)の回転数は1500〜5000rpm、混合時間は4〜15分である。
アジテータの回転により、ミキサー内の鉄粉とニッケル微粉が遠心力を受けながら混合攪拌され、このとき粒径の大きい鉄粉のせん断摩擦力によってニッケルが鉄粉に貼り付けられるようにして付着する。このような方法でニッケル微粉を鉄粉の表面に付着させるので、加工前後で粒度がほとんど変わらない。
【0034】
なお、アイリッヒミキサーに代えて、混合・造粒を目的としたミキサーとしてヘンシェルミキサーがあるが、このようなミキサーを使用することもできる。
また、振動ミルや回転ボールミルのようなミルでも加工でき、加工時間は数〜数十分以内である。
【0035】
以上のように本実施の形態の製造方法によれば、ニッケル微粉製造工程において製造されたニッケルに適量のHClが付着するので、別途塩素を付着させる必要がない。
また、ミキサーやミル内で混合攪拌される鉄粉のせん断摩擦力によってニッケルを鉄粉に付着させるようにしたので、簡易な方法で短時間での加工ができる。
【実施例1】
【0036】
<実施例1>
上記の実施の形態で示した分解材は、ニッケル微粉の表面に塩素が付着することによって反応速度が速くなるというものであるが、この点を確認するために以下のように、実施例1とこれに対する比較例1〜3について以下のような実験を行った。
実験条件は以下の通りである。
<実施例1>
・原料鉄粉 :仕上げ還元鉄粉[100重量部、平均粒径100μm]
・塩素量 :0.54質量%(対ニッケル金属)[金属ニッケル表面に付着]
・ニッケル微粉 :0.2重量部(平均粒径:0.4μm)
・混合攪拌条件 :アイリッヒミキサーによって3.000rpm、5分間混合
・分解試験方法 :浄化剤1.5gを50mLのバイアル瓶に入れ、シス-1,2-ジクロロエチレン
に汚染された地下水30mLを加えてPTFE栓で密栓して静置し所定
時間後のシス-1,2-ジクロロエチレン濃度を測定
(測定方法 GC-MSヘッドスペース法)
【0037】
<比較例1>
・塩素量 :0.01%未満(対ニッケル金属)
・ニッケル微粉 :0.2重量部(平均粒径:0.4μm)
ニッケル微粉の金属ニッケル表面に存在する塩素量を0.01%未満(対ニッケル金属)とし、他の条件は実施例1と同じ。
<比較例2>
・原料鉄粉 :仕上げ還元鉄粉[100重量部、平均粒径100μm]
・ニッケル微粉 :0.2重量部(平均粒径:0.4μm)
・塩化ニッケル微粉:0.01重量部
比較例1と同様にニッケル微粉の金属ニッケル表面に存在する塩素量を0.01%未満とし、さらに上記の塩化ニッケルを加えた。その他の条件は実施例1と同じ。
<比較例3>
・原料鉄粉 :仕上げ還元鉄粉[100重量部、平均粒径100μm]
・塩化ニッケル粉 :0.2重量部(平均粒径:5μm)
・塩化ニッケル :0.01重量部
ニッケル微粉に代えて上記粒径の異なるニッケル粉を用い、さらに塩化ニッケルを添加した。その他の条件は実施例1と同じ。
<比較例4>
・原料鉄粉 :仕上げ還元鉄粉[100重量部、平均粒径100μm]
・銅粉 :0.2重量部(平均粒径:5μm)
ニッケル微粉に代えて上記銅粉を添加した。その他の条件は実施例1と同じ。
【0038】
実験条件及び結果を表1に示すと共に、実験結果を図1に示す。図1においては、縦軸がcis-DCE濃度(mg/L)で、横軸が時間(hr)である。
【0039】
【表1】

【0040】
図1のグラフに示されるように、実施例1の金属ニッケル表面に塩素が付着するものについては、他のものに比較して反応速度、特に初期段階の反応速度が際立って速い。このことから、金属ニッケルの表面に塩素を付着させることが分解材としての反応速度を高める効果があることが確認できた。
【実施例2】
【0041】
次に、金属ニッケルの表面に付着する塩素量の最適範囲を確認するための実験を行った。実験方法は以下の通りである。
<試料>
(1)仕上げ還元鉄粉:[100重量部、平均粒径100μm]
(2)金属ニッケル表面上に塩素を0.03〜11%含有(対ニッケル金属)(表2参照)するニッケル微粉(平均粒径:0.4μm)を0.2重量部
上記(1)(2)を混ぜてアイリッヒミキサーで3000rpm、5分間混合して調製。
<分析試験方法>
分析試験方法は、実施例1と同様に、浄化剤1.5gを50mLのバイアル瓶に入れ、シス-1,2-ジクロロエチレンに汚染された地下水30mLを加えてPTFE栓で密栓して静置し所定時間後のシス-1,2-ジクロロエチレン濃度を測定(測定方法 GC-MSヘッドスペース法)
なお、反応速度の算出方法は下式による。
反応速度K=LN(C/Co)/h
但し、 C:h時間後の濃度
Co:初期濃度
【0042】
実験結果を表2及び図2に示す。図2において、横軸はNi微粉中の塩素含有量(%)、縦軸は反応速度(1/h)を示している。
【0043】
【表2】

【0044】
図2から分かるように、金属ニッケル表面上に付着する塩素量が0.1〜3質量%では、製造直後(Fresh)のもの及び製造後一ヶ月を経過したもののいずれのものでも優れた反応速度を示している。
他方、塩素量が0.1質量%未満のものでは、製造直後(Fresh)のもの及び製造後一ヶ月を経過したもののいずれのものでも反応速度が十分でない。
また、塩素量が3質量%を超えたものでは、製造直後(Fresh)に使用した場合には十分な反応速度を示しているが、製造後一ヶ月経過後に使用すると、製造直後に使用する場合に比較して反応速度が著しく低下していることが分かる。これは、塩素量が多過ぎると鉄粉表面が酸化して酸化被膜で覆われるためであると推察される。
以上の考察から、金属ニッケル表面上に付着する塩素量を0.1〜3質量%にするのが好適である。
【実施例3】
【0045】
次に、鉄粉表面に対するニッケルの添加量の最適範囲を求める実験を行った。
実験方法は以下の通りである。
<試料>
(1)アトマイズ鉄粉:[100重量部、平均粒径100μm]
(2)金属ニッケル表面上に塩素を0.54%含有(対ニッケル金属)するニッケル微粉(平均粒径:0.4μm)を0.05〜5.0重量部(表3参照)
上記(1)(2)を混ぜてアイリッヒミキサーで3000rpm、5〜10分間混合して調製
<分析試験方法>
分析試験方法は、実施例1と同様に、浄化剤1.5gを50mLのバイアル瓶に入れ、シス-1,2-ジクロロエチレンに汚染された地下水30mLを加えてPTFE栓で密栓して静置し所定時間後のシス-1,2-ジクロロエチレン濃度を測定(測定方法 GC-MSヘッドスペース法)
なお、反応速度の算出方法は下式による。
反応速度K=LN(C/Co)/h
但し、 C:h時間後の濃度
Co:初期濃度
【0046】
実験結果を表3及び図3に示す。図3において、横軸はニッケル微粉添加量(%)、縦軸は反応速度(1/h)を示している。
【0047】
【表3】

【0048】
図3から分かるように、塩素を0.54質量%含有するニッケル微粉の添加量が0.1質量%以上の範囲(表3のNo.2〜No.7参照)では、高い反応速度を示している。
以上のことから、所定量の塩素を含有するニッケル微粉の添加量としては0.1質量%以上の範囲が好適である。
【実施例4】
【0049】
次に、ニッケル微粉の粒度とVOC分解性能の関係について実験を行った。
実験方法は以下の通りである。
<試料>
(1)アトマイズ鉄粉:[100重量部、平均粒径100μm]
(2)表4に示す平均粒径0.1〜10μmで、金属ニッケル表面上に塩素を0.4%含有(対ニッケル金属)するニッケル微粉
なお、粒径0.1〜1μmのニッケル微粉はCVD法にて製造し、分級により平均粒径を調整した。また、粒径5μm及び10μmのニッケル微粉は試薬のニッケル金属を破砕、分級し、希塩酸でニッケル金属にCl相当分として0.4%になるように散布した。
上記(1)(2)を混ぜてアイリッヒミキサーで3000rpm、10分間混合して調製した。
<分析試験方法>
分析試験方法は、実施例1と同様に、浄化剤1.5gを50mLのバイアル瓶に入れ、シス-1,2-ジクロロエチレンに汚染された地下水30mLを加えてPTFE栓で密栓して静置し所定時間後のシス-1,2-ジクロロエチレン濃度を測定(測定方法 GC-MSヘッドスペース法)
なお、反応速度の算出方法は下式による。
反応速度K=LN(C/Co)/h
但し、 C:h時間後の濃度
Co:初期濃度
【0050】
実験結果を表4及び図4に示す。図4において、横軸はニッケル微粉の粒径(μm)、縦軸は反応速度(1/h)を示している。
【0051】
【表4】

【0052】
表4及び図4から分かるように、添加率が同じであればニッケル微粉の粒径が小さいほど表面被覆率が高く、特にニッケル微粉の平均粒径が0.1〜1.0μmではニッケルの表面被覆率が比較的高く、反応速度にも優れることが確認された。これは、鉄粉とニッケル微粉との粒径の差が大きいことにより、両者の質量差が大きく、混合時にニッケル微粉が効果的に鉄粉表面に付着したものと推認される。
以上のことから、ニッケル微粉の粒径としては0.1〜1.0μmの範囲にするのが好適であることが確認された。
【実施例5】
【0053】
次に、ニッケル微粉の粒度と混合時間との関係について実験を行った。
実験方法は以下の通りである。
<試料>
(1)アトマイズ鉄粉:[100重量部、平均粒径100μm]
(2)表5に示す平均粒径0.2μm及び10μmのニッケル微粉
なお、粒径0.2μmのニッケル微粉はCVD法にて製造し、分級により平均粒径を調整した。また、粒径10μmのニッケル微粉は試薬のニッケル金属を破砕、分級した。
上記(1)(2)を混ぜてアイリッヒミキサーで3000rpm、2〜30分間混合して調製した。
【0054】
実験結果を表5及び図5に示す。図5において、横軸はアイリッヒミキサーによる混合時間(min)、縦軸は反応速度定数(1/h)を示している。
【0055】
【表5】

【0056】
表5及び図5から分かるように、平均粒径が0.2μmのニッケル微粉では、約10分の混合時間で-0.12の高い分解反応速度が得られている。これに対して、平均粒径が10μmのニッケル微粉では30分間混合しても-0.01以下の低い分解反応速度しか得られていない。
このことから、添加率が同じであればニッケル微粉の平均粒径が小さいほど短い時間で鉄粉表面への被覆が行われることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉の表面に鉄より貴な金属を付着させた有機ハロゲン化合物の分解材であって、前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属に塩素が付着、又は前記鉄粉及び/または前記鉄より貴な金属が塩素を含有していることを特徴とする有機ハロゲン化合物の分解材。
【請求項2】
塩素が付着し又は塩素を含有しているのが前記鉄より貴な金属であることを特徴とする請求項1記載の有機ハロゲン化合物の分解材。
【請求項3】
前記鉄より貴な金属がニッケルであることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ハロゲン化合物の分解材。
【請求項4】
前記塩素の濃度が前記鉄より貴な金属に対して0.1〜3質量%であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機ハロゲン化合物の分解材。
【請求項5】
鉄より貴な金属の塩化物を気相中で分解して、塩素が付着した鉄より貴な金属粉を含む金属粉を製造し、これらの金属粉と鉄粉を機械的に接触させて前記鉄粉の上面に前記鉄より貴な金属粉を圧着させることを特徴とする有機ハロゲン化合物の分解材の製造方法。
【請求項6】
前記鉄より貴な金属がニッケルであることを特徴とする請求項6記載の有機ハロゲン化合物の分解材の製造方法。
【請求項7】
鉄より貴な金属粉の粒径が0.1〜1μmを90%以上含むことを特徴とする請求項5又は6記載の有機ハロゲン化合物の分解材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26518(P2011−26518A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175878(P2009−175878)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】