説明

有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置

【課題】 排ガス等の被処理ガスに含まれている有機ハロゲン化合物を安全に除去・無害化し、またその処理を確実に且つ効果的に行うことができる有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置の提供を課題とする。
【解決手段】 有機ハロゲン化合物を吸着する吸着剤を備えた吸着塔3、吸着塔3に被処理ガスを導いて有機ハロゲン化合物を除去させると共に吸着塔3を通過した被処理ガスを排出する被処理ガス導入排出手段1〜2、11〜14、吸着塔4に対して加湿状態の熱風を送って有機ハロゲン化合物を吸着剤から脱離させる熱風導入手段6〜9、21〜26、熱風導入手段から吸着塔4を経た熱風を導入して熱風中に混在する炭化水素類を酸化分解させる第1触媒塔51及び第1触媒塔51を経た熱風を導入して熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を行う第2触媒塔52からなる複合触媒塔5を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスから有機ハロゲン化合物の除去・無害化を図る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日々の市民生活空間において使用される電化製品、繊維製品、プラスチック製品等には、火災防止対策の観点から製品の発火・燃焼を抑制するために臭素化ビフェニルエーテル、四臭素化ビスフェノールA等の臭素化難燃剤が添加されて製品化されている。臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は塩素系ハロゲン化炭化水素等の環境ホルモン物質は生殖器等への悪影響が指摘され、人類の生存を脅かす要因として第2のPCBと恐れられる所以である。従来は臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は塩素系ハロゲン化炭化水素等の環境ホルモン物質は法規制されていないこともあって、具体的な対策技術の開発が遅れており、リサイクル・焼却・埋め立て等の後処理についても系統的な浄化システムがなく、飛散防止に努める程度の処理が一般的であった。
【0003】
しかし欧米、特にEU諸国では既に一部の臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、環境ホルモン物質等の製造、使用、又は処分に関する規制がされており、「EU−特定有害物質使用規制」が提示されている。我国でも今後法律によって規制される方向にあり、広範囲且つ厳密な処理技術の調査・対策が必要不可欠な状態となった。
特に臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン等の有害物質は大気拡散、排水域放流を経て摂取され、生体に影響を及ぼすとされることから、より合理的且つ高性能で、安価な処理システムの開発が待たれる状況にある。臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は環境ホルモンを含有する電化製品の処分等は、これまでに高温焼却法や固形化埋め立て法が施行されてきたが、前者は熱処理に伴うダイオキシン生成リスク、後者では根本的な完全対策でないこと及び再溶出、コストの点に問題があり、技術的に解決しなければならない課題が多く、製品関連の製造設備での排ガス処理や高性能な浄化処理システムの完成が必要とされているのが実情である。
【0004】
臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は環境ホルモン等の発生源は、プラスチック製造工程、電化製品の製造等において原料樹脂への臭素化難燃剤の添加・混合段階である製造装置、カーテン・カーペット等のインテリア繊維や難燃化処理のための製品段階での製造装置、廃棄物として処理する過程での排ガス等が重要な発生源である。前者では製造段階での排ガス・粒子に含有され、後者では破砕、分別、燃焼によって発生する。従って臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は環境ホルモンを含有する排ガスが当面の処理対象で、排ガスからの捕捉・分離と捕捉・分離された臭素化難燃剤・臭素系ダイオキシン、又は環境ホルモンを無害化する方法の確立が重要な課題となる。
【0005】
本発明者は特願2003−189269号(特開2005−21786号)において、先に有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置を提供している。この装置は、被処理ガス中に含まれる有機ハロゲン化合物の吸着剤による除去操作、及び除去された有機ハロゲン化合物の脱離と触媒を用いた脱ハロゲン化操作を、ダイオキシンの生成温度未満の温度において処理するようにした装置である。
【特許文献1】特開2005−21786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが上記特許文献1による発明装置では、被処理ガス中に有機ハロゲン化合物の他にスチレン、エチルベンゼン等の炭化水素類が多く含まれる場合、この炭化水素類が有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化に障害となることが判ってきた。
また被処理ガスに多量の高沸点炭化水素、可塑剤、潤滑油等の微粒子又はミスト、或いは樹脂の製造過程で発生する低重合物質等を含む場合には、吸着剤の細孔閉塞、触媒の失活性につながり、有機ハロゲン化合物の除去・無害化を効果的に行えなくなることが判ってきた。特にミストは常温では粘性の高い液体であり、ランニングコスト等の観点からの問題も大きいことが判ってきた。
【0007】
そこで本発明は上記従来の問題を解消し、排ガス等の被処理ガスに含まれている有機ハロゲン化合物を安全に除去・無害化し、またその処理を確実に且つ効果的に行うことができる有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のハロゲン化合物の除去・無害化装置は、被処理ガス中に含まれる有機ハロゲン化合物を被処理ガスから除去し、無害化する装置であって、前記有機ハロゲン化合物を吸着する吸着剤を備えた吸着塔と、該吸着塔に対して有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスを導いて該有機ハロゲン化合物を被処理ガスから除去させると共に吸着塔を通過した被処理ガスを排出する被処理ガス導入排出手段と、有機ハロゲン化合物が吸着剤に吸着された状態の吸着塔に対して加湿状態の熱風を送って前記吸着されている有機ハロゲン化合物を吸着剤から脱離させる熱風導入手段と、該熱風導入手段から前記吸着塔を経てきた熱風を導入して該熱風中に混在する炭化水素類を酸化分解させる第1触媒塔及び該第1触媒塔を経てきた熱風を導入して該熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を行う第2触媒塔からなる複合触媒塔とを備えたことを第1の特徴としている。
また本発明の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置は、上記第1の特徴に加えて、湿式電機集塵機と高密度ワイヤメッシュデミスタとからなる前処理器を吸着塔の手前に配置して被処理ガス中の微粒子及びミストを除去するようにしたことを第2の特徴としている。
また本発明の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置は、上記第1又は第2の特徴に加えて、吸着塔に備えられる吸着剤は30〜50Åのマクロ細孔を有する炭素系吸着剤若しくは無機系多孔質物質であり、第1触媒塔に備えられる触媒は酸化活性触媒であり、第2触媒塔に備えられる触媒はV−W−TiO型若しくはV−Mo−TiO型のペレット又はハニカム構造物であることを第3の特徴としている。
また本発明の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置は、上記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、被処理ガスの吸着塔での吸着操作を常温〜100℃未満で行い、熱風による吸着塔での有機ハロゲン化合物の脱離操作を130℃以上、250℃未満で行い、熱風による第1触媒塔での炭化水素類の酸化分解操作は200℃以上、350℃未満で行い、熱風による第2触媒塔での有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化操作を130℃以上、200℃未満で行うことを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、被処理ガス導入排出手段によって有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスが吸着剤を備えた吸着塔に導かれることで、被処理ガス中の有機ハロゲン化合物が前記吸着剤に吸着されて除去される。有機ハロゲン化合物が除去された被処理ガスは排出される。
前記吸着操作によって十分にハロゲン化合物を吸着した吸着塔に対しては、熱風導入手段によって加湿状態の熱風が送られ、これによって吸着塔の吸着剤に吸着されて捕捉されている有機ハロゲン化合物が熱風中に脱離される。
前記脱離操作で脱離された熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物は、熱風と共に第1触媒塔に導かれ、該第1触媒塔において熱風中に混在する炭化水素類が酸化分解される。
炭化水素類が酸化分解された熱風は第2触媒塔に導かれ、該第2触媒塔において熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化が行われ、無害化される。
よって請求項1に記載の発明によれば、吸着塔において被処理ガスから分離・吸着された有機ハロゲン化合物はその後において熱風中に脱離され、該熱風と共に複合触媒塔に導かれるが、複合触媒塔においては、先ず第1触媒塔において熱風中から混在する炭化水素類を熱風中から酸化分解除去し、しかる後に第2触媒塔に導いて熱風中の有機ハロゲン化合物を触媒によって脱ハロゲン化する構成としているので、それらの結果として複合触媒塔での有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化操作において、炭化水素類の干渉による脱ハロゲン化の低下や悪化がなく、効果的に且つ確実に脱ハロゲン化を行うことが可能となった。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、上記請求項1に記載の構成による上記効果に加えて、被処理ガスは吸着塔の手前に配置された前処理器に先ず導かれ、該前処理器に配備された湿式電機集塵機と高密度ワイヤメッシュデミスタにより、被処理ガス中に含まれる微粒子及びミストが除去される。
よって吸着塔での微粒子やミストによる吸着剤の早期の細孔閉塞やそれによる早期の失活性を防止し、有機ハロゲン化合物に対する良好な吸着効果を継続させると共に、吸着剤の再生や取り替えの回数や手間を減少させることによるランニングコストの低減を十分に図ることができる。
【0011】
また請求項3に記載の発明によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による上記効果に加えて、吸着塔に備えられる吸着剤を、30〜50Åのマクロ細孔を有する炭素系吸着剤若しくは無機系多孔質物質としたことで、被処理ガスからダイオキシンが生成される温度未満の処理温度において、有機ハロゲン化合物を吸着・除去し、被処理ガスを排出することができる。
また第1触媒塔に備えられる触媒を酸化活性触媒としたことで、熱風中に混在する炭化水素類を、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化操作に先立って、効果的に酸化分解させることができる。
また第2触媒塔に貯えられる触媒をV−W−TiO型若しくはV−Mo−TiO型のペレット又はハニカム構造物としたことで、ダイオキシンの生成温度未満の処理温度において、効果的に熱風中の有機ハロゲン化合物からCl、Br等のハロゲンを、HCl、HBr等のハロゲン化水素として無害化し、脱ハロゲン化を行うことができる。
よって請求項3に記載の発明によれば、被処理ガスから有機ハロゲン化合物を効果的に除去して、排出することができると共に、除去した有機ハロゲン化合物を第1触媒塔の酸化活性触媒と第2触媒塔のV−W−TiO型若しくはV−Mo−TiO型のペレット又はハニカム構造物からなる触媒とによる2種類の触媒の組み合わせによって、効果的に無害化することができる。
【0012】
また請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3の何れかに記載の構成による上記効果に加えて、吸着塔での有機ハロゲン化合物の吸着操作を常温〜100℃未満で行うことで、被処理ガスからダイオキシンの生成のない十分に安全な温度で有機ハロゲン化合物を吸着・除去して、被処理ガスを排出することができ、また吸着が十分になされた後における吸着塔での有機ハロゲン化合物の脱離を130℃以上、250℃未満で行うことで、加湿状態の熱風を用いて、温度をそれ程高くすることなく、有機ハロゲン化合物の脱離を効果的に行うことができる。そして第1触媒塔での炭化水素類の酸化分解操作を200℃以上、350℃未満で行うことで、第2触媒塔に行く前に、予め熱風中に混在する炭化水素類の酸化分解除去を効果的に行うことができる。そして第2触媒塔での脱ハロゲン化操作を130℃以上、200℃未満で行うことで、効果的に脱ハロゲン化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を以下に説明する。
図1は本発明の実施形態にかかる有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置の概略構成図、図2は本発明の実施形態の装置における各部での操作の処理温度を示す図である。
【0014】
先ず図1を参照して、本発明の実施形態の装置を説明する。
この装置は、一対の吸着塔3、4を備え、また複合触媒塔5を備えている。
一方の吸着塔3に対しては、有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスの発生源Xからの被処理ガス中に含まれる粒子、ミスト等を除く前処理器1と、前処理器1を通過した被処理ガスを送風するブロア2とが接続されている。
被処理ガス発生源Xからの有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスは、ブロア2によって搬送力をつけられ、ライン11を経て前処理器1を通過し、ライン12、13を経て吸着塔3に送られる。吸着塔3では、そこに備えられた吸着剤3aによって、送られてきた被処理ガス中に含まれる有機ハロゲン化合物を吸着して除去する。吸着塔3を通過した被処理ガスは、ライン14を経て排気される。
これら前処理器1、ブロア2、ライン11、12、13、14は被処理ガス導入排出手段を構成する。
【0015】
前記前処理器1は、被処理ガス中に共存する粒子、ミスト等を効果的に除去するため、特に連続運転・溶媒洗浄再生式の湿式電機集塵機と濾過効果の大きい高密度ワイヤメッシュデミスタとを備えている。
前記前処理器1の洗浄再生は、洗浄剤槽1aの洗浄剤をポンプ1bによってライン1c、前処理器1、ライン1dを経て循環させることで、逆洗浄して再生させている。
【0016】
前記吸着塔3には、操作温度を調節するための温度調節器3bを設けている。
前記ライン14の途中に排ガス熱交換器15を設けて、被処理ガス発生源Xからの被処理ガスを、前記排ガス熱交換器15を経て熱交換加熱してライン11に導くようにしてもよい。
なお図1中、実線で示すライン11〜14、21〜26が稼動ラインで、破線で示すラインが待機ラインとなっている。
【0017】
また他方の吸着塔4に対しては、複合触媒塔5、循環ブロア6、水タンク7、蒸発器8、熱交換器9が接続している。前記複合触媒塔5を経てきた循環ガスはライン25を経て循環ブロア6でライン26を熱交換器9側へ送られ、一方、前記水タンク7から水がライン21を経て蒸発器8に入り、発生された蒸気がライン22を通って熱交換器9へ送られる。熱交換器9では蒸気と前記循環ブロア6から送られてきた循環ガスとが混合され、加湿状態の熱風とされて、ライン23を経て吸着塔4に送られる。
前記循環ガスは窒素ガスとすることができる。そして加湿状態の熱風は蒸気が窒素ガスと混合されたものである。前記窒素ガスを用いることで、循環ガスを不活性として、脱離物の発火等を防止する。
吸着塔4は、既に有機ハロゲン化合物を十分に吸着した吸着塔である。前記吸着塔4に送られた加湿状態の熱風により、吸着剤4aに吸着されている有機ハロゲン化合物が吸着剤4aから脱離される。吸着塔4を経た熱風はライン24を経て複合触媒塔5に導かれる。
前記循環ブロア6、水タンク7、蒸発器8、熱交換器9、ライン21、22、23、24、25、26は熱風導入手段を構成する。
また吸着塔4、複合触媒塔5、循環ブロア6、熱交換器9、ライン23、24、25、26は閉回路を構成する。
【0018】
上記において吸着塔3と吸着塔4とは、それらに接続されるライン13、14と、ライン23、24とが切り替えられることで、吸着塔3が吸着塔4となり、また吸着塔4が吸着塔3となる。吸着塔を少なくとも2塔備えることで、有機ハロゲン化合物の除去と、無害化及び吸着塔の再生との2つの系統からなる操作を連続的に行うことができる。勿論、吸着塔は2塔以上設けて、2群ないしそれ以上の群に分けて、吸着、無害化と再生、待機等の群とすることもできる。
【0019】
有機ハロゲン化合物は、例えばポリ臭素化ビフェニルエーテル、四臭素化ビスフェノールA等の臭素化難燃剤(BFR)とすることができる。また塩素系ハロゲン化炭化水素等の有機ハロゲン化合物を含む環境ホルモンであってもよい。
【0020】
前記吸着塔3、4に備えられる吸着剤3a、4aは、前記臭素化難燃剤(BFR)又は環境ホルモンの吸着による捕捉と分解時の吸着剤からの脱離を考慮して、30〜50Åのマクロ細孔からなる炭素系吸着剤、又はシリカ、アルミナ等の無機系多孔質物質とし、これを吸着塔3、4に充填する。
また吸着塔3における吸着操作は、本実施形態の場合、常温〜100℃未満で行う。通常において、被処理ガスや吸着剤の加熱操作は行わない。
【0021】
前記熱風による吸着塔4での有機ハロゲン化合物の吸着剤4aからの脱離操作は、130℃以上、250℃未満で行う。好ましくは130℃以上、200℃未満で行うのがよい。
前記脱離操作は蒸気を加湿した熱風で行うため、蒸気の凝縮を防止するために、その最低温度を130℃とし、一方、有機ハロゲン化合物からダイオキシンの生成の恐れを避けるために、最高温度を250℃未満とした。好ましくは130℃以上、200℃未満として、ダイオキシンの発生を確実に避けるのがよい。
【0022】
前記熱風に水蒸気を加えて加湿状態の熱風として脱離操作を行うことで、吸着剤4aに吸着している有機ハロゲン化合物と水分との置換を行わせ、これによって脱離を促進させることができる。
熱風に含まれる蒸気の湿度をどの程度にするかは、吸着剤4aの性状にもよるが、吸着剤4aの表面で蒸気の部分凝縮が生じるような湿度とすることができる。蒸気の部分凝縮が吸着剤4aの表面で生じると、この凝縮熱により吸着している有機ハロゲン化合物の分子が吸着剤4aの表面から容易に飛び出す。
前記熱風の好ましい湿度は、吸着剤4aが活性炭の場合は60%以上になるが、蒸発潜熱によるエネルギー消費を考慮して、各条件毎に予め実験による適当な値を定めることになる。
【0023】
前記複合触媒塔5は、第1触媒塔51と第2触媒塔52とを有する。また温度調節器51a、52aを有する。
第1触媒塔51は、吸着塔4を経てきた熱風を導入して、該熱風中に混在するスチレン、エチルベンゼン等の炭化水素類を酸化分解させるための触媒塔である。第1触媒塔51の触媒としては、0.1〜2%のパラジウム、白金等の酸化活性触媒を用いることができる。
第1触媒塔51での操作温度は、200℃以上、350℃未満とする。また好ましくは200℃以上、250℃未満として、ダイオキシンの生成を回避するのがよい。
スチレン等の炭化水素類は、それが被処理ガス中に有機ハロゲン化化合物と共に多く含まれていると、V系触媒分解の特性に悪影響を及ぼす。従って熱風中から有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を、V系触媒を用いて行うには、予め炭化水素類を熱風中から除いておくのが好ましいのである。
【0024】
前記第1触媒塔51を出た熱風は冷風ブロア53による温度調整手段から供給される外気によって適当に温度降下され、第2触媒塔52での操作温度に調整され、臭素系ダイオキシンの副生成を回避する。
前記第2触媒塔52は、前記第1触媒塔51を経て炭化水素類が除去された熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を行うための触媒塔である。脱ハロゲン化は、有機ハロゲン化合物中に結合しているCl、Br等のハロゲンをHCl、HBr等のハロゲン化水素として分解、無害化することである。
第2触媒塔52の触媒としては、TiOに1〜35%の酸化バナジウムと、1〜40%の酸化タングステン又は酸化モリブデンを担持させたV−W−TiO型又はV−Mo−TiO型のペレット又はハニカム構造物を用いることができる。
第2触媒塔52での操作温度は、130℃以上、200℃未満とする。また好ましくは180℃±15℃とする。
【0025】
前記吸着塔4については、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化操作が終了した後、吸着剤4aの再生操作を行う。この再生操作では、280〜450℃、好ましくは360℃±20℃の加湿状態の熱風を熱風導入手段により吸着塔4に送る。熱風により、吸着剤4aに脱離されないで残っている分解中間生成物やその他の残余物の完全脱離と分解を行うと共に、吸着剤4aのマクロ細孔或いはハニカム構造の回復、再生を行う。前記残余物の脱離に際しては、残余物と水分との置換を行って脱離を促進させるため、必要に応じて熱風中に所定の水分分圧に設定できるような量の水を添加・蒸発させて循環させる。水分分圧は吸着剤4aの性状によって異なるが、多分子層吸着及び細孔内で水分の部分凝縮が生じる相対湿度に設定する。
【0026】
図2は本発明の実施形態における、吸着塔3での吸着操作の処理温度(常温〜100℃未満)、吸着塔4での脱離操作の処理温度(130℃以上、250℃未満、好ましくは130℃以上、200℃未満)、第1触媒塔51での炭化水素類の酸化分解操作の処理温度(200℃以上、350℃未満、好ましくは200℃以上、250℃未満)、第2触媒塔52での脱ハロゲン化操作の処理温度(130℃以上、200℃未満、好ましくは180℃±15℃)、吸着塔4での再生操作の処理温度(280℃以上、450℃未満、好ましくは360℃±20℃)とを示す。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
水にて稀釈した弱アルカリ性洗浄剤により集塵極板を再生洗浄するようにした界面活性剤循環型湿式電機集塵機と高密度ワイヤメッシュデミスタを直結して備えた前処理器1を、吸着塔3の手前に配置した。これによって被処理ガスは、吸着塔3の手前で被処理ガス中の98.5%以上のオイルミスト、粒子状物質が除去される。
前処理器1を経た被処理ガスを吸着塔3に導き、該吸着塔3において、吸着剤3aとして平均細孔35〜40Åが全体の95%を占めるマクロ細孔からなる活性炭素系吸着剤を用いて、四臭素化ビスフェノールAの吸着操作を行った。吸着条件は次の通りである。
<吸着条件>
濃度(ppm) :0.1、0.5、1.0
処理温度(℃) :26、85
実施例1における四臭素化ビスフェノールAの平衡吸着率の測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1によれば、四臭素化ビスフェノールAの平衡吸着率は85℃よりも温度の低い26℃における方が大きいことが判る。
【0030】
(実施例2)
実施例1において十分吸着がなされ、活性を失った吸着塔3を、吸着塔4として切り替えた。該吸着塔4に熱風を導入し、吸着塔4に吸着されている四臭素化ビスフェノールAの脱離操作を行った。脱離条件は次の通りである。
<脱離条件>
熱風成分 :窒素ガス、窒素ガス+水分加湿
操作温度(℃) :150、183、247、320(比較)
実施例2における脱離率の測定結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2によれば、窒素ガスだけからなる熱風よりも、水分を加湿した窒素ガスの方が脱離率が大きく向上することが判る。また加湿した窒素ガスの熱風では、ダイオキシンの発生を防止する250℃未満の温度であっても、かなりの高脱離率を得ることができることが判る。温度が低いほど運転コスト及び設備コストを減じることができる。
【0033】
(実施例3)
実施例2において吸着塔4から脱離された四臭素化ビスフェノールAを含む熱風を、第1触媒塔51に導入し、触媒としてPdハニカム触媒を用いて、熱風中に混在する炭化水素類の酸化分解による除去操作を行い、スチレン濃度の変化を測定した。酸化分解条件は次の通りである。
<酸化分解条件>
空塔速度(l/h):10000
操作温度(℃) :280
その結果、実施例3においてスチレン濃度は、第1触媒塔51の入口で370ppmであったのが、第1触媒塔51の出口において3.1ppmに減少しており、分解率は99.2%であった。
【0034】
(実施例4)
実施例3において炭化水素類を除去した熱風を第2触媒塔52に導き、触媒として5V−W−TiO(ハイブリットペレット)触媒を用いて、四臭素化ビスフェノールAの脱ハロゲン化操作を行った。脱ハロゲン化条件は次の通りである。
<脱ハロゲン化条件>
空塔速度(l/h):800、3700
操作温度(℃) :133、170、226(比較)、244(比較)
実施例4における脱ハロゲン化率の測定結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3によれば、操作温度が200℃未満においても、かなりの効率の脱ハロゲン化率を得ることができることが判る。温度が低いほどダイオキシンの発生を防止でき、また運転コスト及び設備コストを減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態にかかる有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態の装置における各部での操作の処理温度を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 前処理装置
1a 洗浄剤槽
1b ポンプ
1c ライン
1d ライン
2 ブロア
3 吸着塔
3a 吸着剤
3b 温度調節器
4 吸着塔
4a 吸着剤
4b 温度調整器
5 複合触媒塔
6 循環ブロア
7 水タンク
8 蒸発器
9 熱交換器
11、12、13、14 ライン
15 排ガス熱交換器
21、22、23、24、25、26 ライン
51 第1触媒塔
51a 温度調節器
52 第2触媒塔
52b 温度調節器
53 冷風ブロア
X 被処理ガスの発生源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガス中に含まれる有機ハロゲン化合物を被処理ガスから除去し、無害化する装置であって、前記有機ハロゲン化合物を吸着する吸着剤を備えた吸着塔と、該吸着塔に対して有機ハロゲン化合物を含む被処理ガスを導いて該有機ハロゲン化合物を被処理ガスから除去させると共に吸着塔を通過した被処理ガスを排出する被処理ガス導入排出手段と、有機ハロゲン化合物が吸着剤に吸着された状態の吸着塔に対して加湿状態の熱風を送って前記吸着されている有機ハロゲン化合物を吸着剤から脱離させる熱風導入手段と、該熱風導入手段から前記吸着塔を経てきた熱風を導入して該熱風中に混在する炭化水素類を酸化分解させる第1触媒塔及び該第1触媒塔を経てきた熱風を導入して該熱風中に含まれる有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を行う第2触媒塔からなる複合触媒塔とを備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置。
【請求項2】
湿式電機集塵機と高密度ワイヤメッシュデミスタとからなる前処理器を吸着塔の手前に配置して被処理ガス中の微粒子及びミストを除去するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置。
【請求項3】
吸着塔に備えられる吸着剤は30〜50Åのマクロ細孔を有する炭素系吸着剤若しくは無機系多孔質物質であり、第1触媒塔に備えられる触媒は酸化活性触媒であり、第2触媒塔に備えられる触媒はV−W−TiO型若しくはV−Mo−TiO型のペレット又はハニカム構造物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置。
【請求項4】
被処理ガスの吸着塔での吸着操作を常温〜100℃未満で行い、熱風による吸着塔での有機ハロゲン化合物の脱離操作を130℃以上、250℃未満で行い、熱風による第1触媒塔での炭化水素類の酸化分解操作は200℃以上、350℃未満で行い、熱風による第2触媒塔での有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化操作を130℃以上、200℃未満で行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有機ハロゲン化合物の除去・無害化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−688(P2007−688A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180303(P2005−180303)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(500483781)ツルイ化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】