説明

有機ハロゲン化合物類の分析方法

【課題】 ダイオキシン類、PCB類、有機溶剤類、農薬類等によって汚染された土壌、焼却炉飛灰、廃棄焼却灰、産業廃棄物、堆積等に含有される有機ハロゲン化合物類を無害化処理するに当たって、汚染土壌等の除害処理工程を経済的、効率的に管理するために、信頼度が高く統合的で、迅速かつ低コストの分析方法を提供する。
【解決手段】土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、トルエンによって抽出して得られた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換したのち、純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、または、分光光度法によって分析・定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌等にもともと存在することのない有害な有機ハロゲン化合物類の除害処理等の操業に当たって、添加する除害剤等の適正化、操業工程の管理などに適用可能な有機ハロゲン化合物類の含有量等を求める分析方法の開発を目的とし、さらに分析操作の改良によって信頼度を高め、分析所要時間を大幅に短縮することを可能にした、土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等に含まれる有機ハロゲン化合物類の簡易な分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用地の再開発等において、土壌中のダイオキシン類、PCB類、洗浄用溶剤類、農薬類などに由来する外来の有害な有機ハロゲン化合物類の存在は知られており、それらの有害性にかかる環境影響を判定するための個々の化合物の分析方法は、これまでに各種開発され、環境評価技術として広く実用されている。これに対して、土壌改良等の工程管理に適用しうる実用的な測定分析方法の開発は、対象とする物質の多様さと処理の複雑さの故に、未だに体系化されたものは見当たらない。最近では総じて用地の再開発等において、土壌等に含まれる外来のダイオキシン類、PCB類、洗浄用有機溶剤類、農薬類等の有害な有機ハロゲン化合物類の存在は忌避される傾向にあり、新たな除害技術の開発とともに総合的な除害処理が求められるようになり、その除害処理工程を管理するための迅速かつ低コストの測定分析方法の開発が望まれている。
【0003】
これに対して、平成12年1月に環境庁(現環境省)水質保全局土壌農薬課で纏められた「ダイオキシン類に係る土壌調査測定マニュアル」は最新の技術と目されるものではあるが、対象物質は土壌中のダイオキシン類に限定し、地域の汚染土壌の調査に重点が置かれて編纂されており、そのサンプリング手法及びデータ処理手法においては見るべきものがある。しかし、収録されている分析方法は、既存の個々の有害成分の分析値を総合して毒性等量として算出・評価する方法を採用しており、土壌改良等の工程管理などに適用するには視点の面からも、また操作性、迅速性及び費用負担の面からも利用しにくい実態がある。
【0004】
有機ハロゲン化合物類及びダイオキシン類に代表される有害ハロゲン化合物の分析技術に関しては、分析方法及び分析装置を対象として近年多数の特許提案がなされている。これらのうち本件発明に特に関連をもつものとして、特許文献1(特開2001−218866号公報)、特許文献2(特開2002−204901号公報)、特許文献3(特開平7−218494号公報)、特許文献4(特開2000−65814号公報)、特許文献5(特開2001−296291号公報)、特許文献6(特開2000−346832号公報)などが挙げられる。
【0005】
特許文献1(特開2001−218866号公報)は、難分解性ハロゲン化有害物質を安全、簡単、安価に効率よく分解する方法を提供するとしているが、水素化アルミニウムリチウム等の還元性分解剤とともに紫外線、超音波等の物理的手段を用いて分解除害する技術を示したに過ぎず、分析手段としての応用には言及していない。
【0006】
特許文献2(特開2002−204901号公報)は、排気ガス、飛灰等から有機ハロゲン化合物を捕集した捕集材から、ソクスレー法に代わる高速溶媒抽出法によって効率よく当該化合物を抽出し、GC/MS等の定法に従って分析する方法を提案しているが、超臨界流体を使うなど設備・操作面で一般的とはいえない問題がある。
【0007】
特許文献3(特開平7−218494号公報)は、排ガス中のダイオキシン類を大型ダスト捕集装置及び大型抽出装置をセットとして、捕集・抽出の効率を高め、分析時間の短縮を提案しているもので、具体的な分析方法にまでは言及しているものではない。
【0008】
特許文献4(特開2000−65814号公報)は、排ガス、排水、灰、土壌等を対象として、簡易・迅速にダイオキシン等分析を行う分析装置、分析方法を提案しているが、高圧抽出、多層カラムクロマトグラフ、GC/MSの機器構成が必要であり、設備負担が大きく利用が限定される問題がある。
【0009】
特許文献5(特開2001−296291号公報)は、焼却炉飛灰中に含まれる有機塩素化合物濃度をECD付ガスクロマトグラフによって測定し、標準法で測定したダイオキシン類の濃度と重回帰分析手法を用いて関連づけ、間接的にダイオキシン濃度を求めようとするもので、適用される試料の範囲が限定される問題がある。
【0010】
特許文献6(特開2000−346832号公報)は、ダイオキシン類の標準分析法とされるマニュアル法の乾燥、抽出、濃縮の操作を改良又は省略し、分析成分を限定して簡易な分析方法を提案しているが、広範囲の有機ハロゲン化合物等の分析には偏差を生じるおそれがあり、適用範囲に難点がある。
【0011】
【特許文献1】特開2001−218866号公報
【特許文献2】特開2002−204901号公報
【特許文献3】特開平7−218494号公報
【特許文献4】特開2000−65814号公報
【特許文献5】特開2001−296291号公報
【特許文献6】特開2000−346832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、有機ハロゲン化合物類ないしダイオキシン類の分析方法及び分析装置の改良に関して多数の提案がなされているが、現状では従来公知のマニュアル分析方法に準拠するものがほとんどで、本質的な改良がなされているものとは言えない実態がある。最近では総じて用地の再開発等において、土壌等に含まれる外来のダイオキシン類、PCB類、洗浄用有機溶剤類、農薬類等の有害な有機ハロゲン化合物類の存在は忌避される傾向にあり、新たな除害技術の開発とともに総合的な除害処理が求められるようになり、その除害処理工程を管理するための迅速かつ低コストの測定分析方法の開発が、緊急の課題として望まれている実情がある。
【0013】
本発明が対象とする有機ハロゲン化合物類として、例えば、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン類、クロロフェノール類、PCB類、ダイオキシン類、クロロベンゾフラン類、各種ブロモ化合物、各種のハロゲン系農薬類などの多種類の有機ハロゲン誘導体を挙げることができる。これらはいずれも汚染された土壌、堆積物等の環境中に存在して有害性が高く、生活環境や土地の有効利用等を阻害する原因ともなっている。これを打開するために、土壌等の除害処理が緊急の課題として取り上げられ、併せてその有害性の評価のために、これらを分別して極めて低濃度域まで精度よく分析する技術の開発が求められている。しかし、これらを含有する土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等はきわめて多様な形態を示し、その除害処理工程等において、従来公知のマニュアル分析方法等によって、すべての有機ハロゲン化合物を分離分析するには、多大の設備、時間、労力、コスト等の負担を必要とし、到底実用的とはいえない実態がある。
【0014】
本発明は、土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等の形態、除害すべき成分の種類、沸点範囲、除害処理に関係する成分等に応じて、分析対象成分を有機溶剤抽出、蒸留分離等の簡易な分別手段によって包括的に選択し、金属ナトリウム等の強還元性金属類による還元処理、さらに水相に移行した無機ハロゲン化合物の分析等の過程を通じて、従来の高価な分析設備や煩雑な分析手法によることなく、工程分析に適した迅速かつ信頼性の高い、簡易な分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、次の分析試料の調製方法を提案する。
【0016】
すなわちその第1工程として、処理対象とする土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等の試料性状が著しく異なり、その処理方法を誤れば、分析結果に著しい誤差が生ずることを考慮して、試料形態及び分析対象成分に応じて、処理を加えることなくそのまま、あるいは風乾、加熱乾燥等の前処理を施し
たのち、分析対象成分に応じて選択された1種又は複数の非ハロゲン系有機溶媒によってソクスレー法その他の方法によって抽出し、油溶成分とともに抽出された有機ハロゲン化合物類を含む有機溶媒試料溶液を調製する。
【0017】
次いで、必要に応じ、第2工程として、その有機溶媒試料溶液に分析対象成分に応じて選択された特定の沸点範囲をもつ他の非ハロゲン系有機溶媒を分留補助溶媒として加え、分留を行って分析対象成分の分離、濃縮等を行い、対応する複数の分析用有機溶媒溶液を調製する。なお、この際蒸留残留分等のように分析用有機溶媒溶液に重質油分等を含み、次の分析操作に支障が予想されるときは、妨害成分を除去するために硫酸処理、再溶解などの操作を付加することも含まれる。
【0018】
請求項1および2に係る発明は、上記の有機溶媒試料溶液、すなわち処理対象とする土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、トルエン、アセトン等の非ハロゲン系有機溶媒によって抽出して得られた上記の試料溶液を、還流冷却装置付きの反応容器内で窒素等の不活性ガス雰囲気のもとで、線状又は細片状にした金属ナトリウムを加えて加熱し、還元反応を進行させ、反応終了後冷却し、適量の純水を加えて振盪・抽出して生成した無機ハロゲン化合物を水相中に移行させ、目標成分に対応した試料水溶液を調製し、次いでその試料水溶液中に含まれる無機ハロゲン化合物を、その存在量に応じて滴定法、比濁法、分光光度法、イオンクロマトグラフ法などの比較的簡易な無機ハロゲン化合物の分析方法を選択・採用することによって、ハロゲン原子を指標とする有機ハロゲン化合物類の包括的な存在量を分析・定量することを特徴とする、有機ハロゲン化合物類の迅速かつ簡易な分析方法を提供する。
【0019】
請求項3に係る発明は、有機ハロゲン化合物類を、有機ハロゲン化合物類をo−キシレンによって抽出したのち、さらにフラン,n−ヘキサン,およびトルエンの等量混合液を添加して蒸留分離して得られた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換したのち、純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、または、分光光度法によって分析・定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明は、土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、または、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、トルエン、アセトン、o−キシレン等の非ハロゲン系有機溶媒によって抽出して得られた試料溶液、又はさらに必要に応じて蒸留分離等の処理を加えた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換し、反応終了後純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、分光光度法などの無機ハロゲン化合物の分析手段によって分析・定量することを特徴とする有機ハロゲン化合物類の分析方法を提供する。
これらの方法は、従来の多数の特定有害成分に着目して複雑かつ長時間をかけて行われてきた分析作業工程を著しく簡易なものとし、通常の試験室などにおいて高価な分析機器を使用することもなく、迅速かつ信頼度の高い包括的な分析値が得られるところに特徴があり、日常の作業現場の工程管理に利用できる分析技術として、きわめて実用性の高いものといえる。また分析操作に必要な装置類は、通常の分析試験室等において常備されているガラス器具等が主体であり、操作は簡易で、高度の熟練を必要としない点からも汎用性が高い。なお、ここに挙げた各種の分析方法は、JISK0101(工業用水の試験方法)などの規格にも広く採用され、きわめて汎用性があり、信頼性も高く、分析の簡易化、迅速化に対してもすぐれた効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明にかかるダイオキシン類、PCB類、塩素系有機化合物等によって汚染された、土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、無害処理するに必要な簡易な分析方法の実施形態を説明するが、本発明はここに挙げた装置、分析操作のみに限定されるものではない。
【0022】
前述の分析試料の調製方法の第1工程において、試料として採取された土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等のうち、粘土状、砂状、泥土状などの油質成分が比較的少なく、分析対象成分がダイオキシン、PCBのような高沸点物質に限られる場合は、試料を風乾又は分析成分が減失するおそれのない温度で乾燥し、そのまま非ハロゲン系有機溶媒を用い、固−液抽出法によって抽出を行い、分析前処理試料溶液を調製する。この場合、抽出操作には、公知のソクスレー抽出器などの装置を用いて抽出するのが有効で、この際の非ハロゲン系有機溶媒には、一般に難水溶性でかつ極性をもつフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン類、各種ケトン類、エステル類等のうちから、その沸点及び性状に応じて選択し、使用される。
【0023】
これに対して、油質成分を大量に含み、粘稠な土壌、産業廃棄物、堆積物などの中には、ときにはジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの低沸点のハロゲン系炭化水素を含むもの、あるいは多量の水分を包蔵して粘稠性を増しているものなどがあり、試料を風乾したり、又は高温で乾燥できない場合がある。このような試料に対しては、抽出手段として、試料を前処理又は乾燥することなくそのまま選択された非ハロゲン系有機溶媒と混合し、常温又は適切な温度管理などにより分析成分が減失するおそれのない条件のもとで、機械的な振盪、超音波振動などを与えて抽出を行い、含有成分を前記有機溶媒に移行させる。ついで、上部の溶媒層を水層とともに遠心分離によるか、ガラスろ過器を用いてろ過し、残さはさらに非ハロゲン系有機溶媒による抽出・ろ過を繰り返して、試料中の有機ハロゲン化合物類を完全に有機溶媒側に抽出・移行させる。得られたろ液は、必要に応じて分液ロートなどによって水層を分離・除去し、水層はさらに少量の新しい非ハロゲン系有機溶媒を加えて振盪・洗浄を繰り返し、分析成分を有機溶媒層に完全に移行させ、抽出液及び洗液を併せた有機溶媒溶液のみを分析用試料溶液として調製する。この際の非ハロゲン系有機溶媒のうちで、とくにジクロロメタン、テトラクロロエチレン等の工業用有機溶剤系成分を含めて測定分析する場合には、後述の蒸留分離を容易にするために、低沸点のフラン等のほかに、エチルベンゼン、キシレン類などの沸点130℃以上の非ハロゲン系有機溶媒を選択して使用することも含まれる。なお、上記有機溶媒による有機ハロゲン化合物類の抽出に当たっては、その抽出効果を高めるために、適切な種類の界面活性剤を添加することも含まれる。
【0024】
前記の抽出操作によって得られる試料溶液には、種々の沸点を持つ多数の有機ハロゲン化合物が混在する。現代ではこれらの化合物を分離し、個々に分析することは可能ではあるが、土壌等の除害工程などの分析操作においては、通常そこまでの分析・数値化の必要性は少ない。通常の工程分析などにおいては、あらかじめ特定の沸点範囲によって分別された有機ハロゲン化合物に含まれるハロゲン元素成分に着目し、その総量を数値化し、例えば減衰過程などの指標を用いて除害工程を評価し、管理できればその目的を達成することができる。また、前記の抽出操作において得られる試料溶液には、常温付近で揮発性の高い有機ハロゲン化合物(例えば、ジクロロメタンなどの工業用洗浄溶剤類)からダイオキシン、PCBなどの高分子ハロゲン化合物まで、広範囲に混在している可能性が高く、これらを沸点範囲などによって包括的に層別・分離したのち分析できれば、工程管理上きわめて有用であることは疑いがない。
【0025】
このための分離手段としては、混在する有機ハロゲン化合物の蒸気圧に着目し、沸点範囲を設定して蒸留によって分離し、留分別に分析試料として採取することができれば成分特定上きわめて望ましいといえる。しかし、通常土壌等に含まれる有機ハロゲン化合物類は多くの場合きわめて微量であり、その抽出操作により有機溶剤抽出液中の含有量もきわめて少ないという問題がある。これを一般の分留手法などによって分離・回収することはかなり困難な操作になり、試料の損失も大きく、実用しにくい現実があった。
そこでこれを克服するために、抽出溶媒とは別に、分離する成分の沸点範囲に応じて選択された非ハロゲン系有機溶媒を単独に又は混合液として添加し、これをキャリアー物質として分留し、必要な分析成分を厳密に分画する手法を提案する。
【0026】
この手法をさらに事例によって具体的に説明する。例えば前記の抽出溶媒溶液からジクロロメタン(沸点40℃)、トリクロロエチレン(沸点87℃)、テトラクロロエチレン(沸点121℃)などある特定の沸点範囲の留分を分離する場合には、その特定沸点の中間の沸点を持つ非塩素系有機溶媒、一例としてフラン(沸点32℃)、n−ヘキサン(沸点69℃)、トルエン(沸点110℃)、o−キシレン(沸点141℃)の等量混合物等の適量を加え、簡単な精留機能をもつ分留装置を用いて、上記添加有機溶媒の沸点を指標として分留することにより、これらの溶媒をキャリアー物質として利用し、微量にしか含まれていない成分の操作損失を抑止するとともに、目的成分を完全に捕捉・留出させることが可能になり、分離の目的を達成することができる。この分留操作で得られた各留出液及び残液は、それぞれ成分分析用の試料溶液として提供される。
【0027】
上記の操作により調製された成分分析用の試料溶液は、通常の化学分析手段のみならず、公知の電子捕捉型検出器を持つガスクロマトグラフなどによって、それぞれのハロゲン原子をもつ特定成分として分別分析することができる。また、さらに精密な分離分析を必要とするときは、各留出液及び残液を液体クロマトグラフィーなどによって分画、分離し、GC/MSなどの分析試料に供しても何ら差し支えない。
【0028】
次に強還元性金属による還元処理について説明する。前記の抽出操作又は分留操作によって調製された分析用試料溶液は、無水硫酸ナトリウムを加え、振りまぜて水分を除いたのち、その溶液の一定量を還流冷却器を付した反応容器に移し、一例として線状又は細片状とした適量の金属ナトリウムを加え、容器内を窒素等の不活性ガス雰囲気に置換したのち、加熱しながら試料中に存在する有機ハロゲン化合物類の還元を行い、水溶性の無機ハロゲン化合物に変換させる。この反応は、有機ハロゲン化合物類以外の不飽和結合を持つ有機化合物、有機イオウ化合物、有機リン化合物などにも還元作用を呈するので、金属ナトリウムが常に過剰に存在するように、反応の進行を確認しながら、追加添加するなど添加量を調整する必要がある。反応終了後、容器ごと冷水に漬けるなどの方法で常温まで冷却し、冷却しながら容器内に純水を徐々に加え、過剰の金属ナトリウムを反応・溶解させる。反応が終了したならば適量の純水を加えて振蕩したのち、分液ロートに移して水層を取り出し別容器に移す。分液ロート内の上層の有機溶剤溶液は、さらに水酸化ナトリウム水溶液(約4g/L)を少量加えて数回洗浄を繰り返し、残留する無機ハロゲン化合物を完全に抽出し、水層及び洗浄水を併せて、分析用試料溶液として調製する。なお、この純水による抽出操作において、もとの有機溶剤抽出によって得られた分析試料溶液中に夾雑する油分などの溶剤可溶成分は、ほとんどが水層に移行しないので、その後の分析操作において、それらによる妨害反応を避けることができる利点がある。
【0029】
これまでの操作で得られた、分別処理した分析用試料水溶液は、その一部を分取してそのまま、あるいはイオン交換樹脂などの前処理により過剰のナトリウム塩を除去したのち、硝酸銀沈殿滴定法、銀比濁法、各種吸光光度法、イオンクロマトグラフ法、クーロメトリー、ポテンショメトリーなどの汎用され、信頼性の高い無機ハロゲン化物分析法によって分析を行い、もとの試料に含まれる有機ハロゲン化合物を分離形態別に、それぞれ分別して分析・定量する。これらの無機ハロゲン化合物の分析方法の採用によって、従来長時間を要していた分析時間の短縮、操作の容易化等に貢献することが可能になった。
【0030】
前述した金属ナトリウム等の強還元性金属類としては、同等の性能を持つ金属カルシウム、金属カリウム、金属リチウム、金属マグネシウム、金属アルミニウム等及びそれらの強反応性合金類、水素化合物等が含まれる。
【0031】
上記試料調製方法、及び有機ハロゲン化合物類の簡易な分析方法は、必ずしも土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、堆積物等に含有される有機ハロゲン化合物類に対してのみ適用されるものではなく、その他の環境等の分析ならびに一般の有機ハロゲン化合物類の分析に対して適用して、きわめて有効な分析技術ということができる。
【0032】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの装置、操作方法等に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
本実施例は、上記分析試料調製方法、及び有機ハロゲン化合物類の分析方法を通じて実施した、分析信頼性の確認に関するものである。その代表的な結果を[表1]に示す。
分析用対象物質としては、トルエン溶媒抽出によって夾雑する有機ハロゲン化合物類をあらかじめ抽出除去した関東ローム土壌を使用し、これに一定量の六塩化ベンゼン及び五塩化フェノールをそれぞれ標準物質として均一に添加したものを試料として、上記分析試料調製方法及び分析操作を実行した。
この際、溶媒抽出装置にはソクスレー式抽出装置、抽出溶媒にはトルエンを使用し、抽出時間は8時間を標準とした。抽出液は定容としたのち、その一部を還流冷却器を付したガラス製フラスコに移し、窒素雰囲気のもとで線状金属ナトリウムを加え、煮沸して還元反応を進行させ、添加した有機ハロゲン化合物を無機ハロゲン化合物に変換した。冷却後純水を徐々に加えて残留する金属ナトリウムを反応溶解させたのち、分液ロートに移して振盪・抽出を行った。下部の水相は別容器に移し、上部のトルエン溶液は0.1M水酸化ナトリウム水溶液による抽出を6回繰り返し、無機ハロゲン化合物をすべて水相に移行させた。これらの水相を集め、硝酸を加えて酸性とし、その一部を分取してJIS−K0101(1998)工業用水試験法に規定するチオシァン酸水銀(II)吸光光度法に準じて、存在する塩化物量を定量した。その結果は[表1]に記載したとおり高い再現性が得られた。
また、真値(分析予測値)と実測値との差異(操作損失)は、標準試料による対照試験などによって十分カバー可能な数値である。これによって本発明による簡易分析方法は、工程分析などの迅速な結果が望まれる分析方法として利用でき、かつ十分な実用性、信頼性をもつことが確認された。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
本実施例も、上記分析試料調製方法、及び、有機ハロゲン化合物類の分析方法についての信頼性の確認に関するものである。その代表的な結果を[表2]に示す。
分析用対象物質としては、関東ローム土壌に夾雑成分としてC重油約5%、少量の界面活性剤を添加した水約15%を加え、均一に加熱混合した模擬汚染土壌を使用した。この粘稠性の高い模擬汚染土壌に一定量の六塩化ビフェニルを分析成分として均一に添加ししたものを試料として、上記分析試料調製方法にもとづく試料の抽出分離を実行した。
具体的には、溶媒抽出装置にはソクスレー式抽出装置を使用し、アセトンを抽出溶媒として第一段階の抽出を行って含まれる水分等の大部分を溶媒側に移行させたのち、抽出溶媒をトルエンに切り替えて抽出を続行した。抽出時間はおおむね合計8時間を基準とした。両抽出液を加え合わせて、ロータリーエバボレーターによって溶媒を留出・除去したのち、ダイオキシン類分析の常法にしたがって硫酸処理を行い、分析成分を再びトルエンで抽出・溶解させた。固形物をろ過・除去したのち、金属ナトリウム還元処理を行い、チオシァン酸水銀(II)吸光光度法を用いて存在する塩化物量を定量した。
なお、この定量に当たっては、分析成分を添加しない模擬汚染土壌中の有機塩素化合物量を別途定量し、これをブランク値として控除し、正確を期した。その分析結果は[表2]に示すとおり、油汚染のある土壌などにも適用できる分析方法として、実用できることが確認された。
また、真値(分析予測値)と実測値との差異(操作損失)は、標準試料による対照試験などによって十分にカバー可能な数値である。
【0036】
【表2】

【実施例3】
【0037】
本実施例は、つぎの[実施例4]とともに、上記分析試料調製方法及び分析操作の他の試料例についての信頼性の確認に関するものである。
分析用対象物質としては[実施例2]の関東ローム土壌に、夾雑成分としてC重油約5%、少量の界面活性剤を添加した水約15%を加え、均一に加熱混合した模擬汚染土壌を使用した。
この粘稠性の高い模擬汚染土壌に、[実施例2]に準じて六塩化ビフェニルを加え、さらに一定量のジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンを分析成分として均一に添加ししたものを試料として、上記分析試料調製方法にもとづく試料の抽出・分離処理を実行した。
具体的には、試料にo−キシレンを適量混合して流動性を付与したのち、超音波振動を加えて抽出を行い、遠心分離して上部の溶媒層を水層とともにガラスろ過器によってろ過し、遠心分離残さはさらにo−キシレンによる超音波抽出、ろ過を繰り返して、試料中の油分とともに分析成分をo−キシレン中に移行させる。
得られたろ液は分液ロートによって水層を分離し、水層はさらに新しいo−キシレンによって抽出を繰り返し、得られたo−キシレン抽出溶液をすべて集めて、低沸点成分用試料溶液として一定量に調製する。この低沸点成分用試料溶液はその一部を採り、適量のフラン・n−ヘキサン・トルエンの等量混合液をキャリアー成分として加え、分留管付きの蒸留装置によって留出温度を監視しながら分留を行い、キャリアー成分の沸点を指標として、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの各成分を含む留分を分画留出させ、それぞれの成分を含む分析用試料溶液を得た。
各試料溶液は、上記と同様の還元処理を行い、含有する塩化物量を定量した。低沸点成分についての結果の一例を[表3]に示す。これによって本発明による分析方法は、油汚染の著しい土壌などにも応用が可能で、かつジクロロメタンなどの低沸点有機ハロゲン化合物等の分析方法としても適用できることが確認された。
なお、真値(分析予測値)と実測値との差異(操作損失)は、標準試料による対照試験などによって十分にカバー可能な数値である。
【0038】
【表3】

【実施例4】
【0039】
本実施例は、前項の[実施例3]の抽出分離方法における、常温抽出残さ及び蒸留残さに残留する六塩化ビフェニルの定量についての信頼性の確認に関するものである。まず常温抽出残さについては、これを集めて[実施例1]に準じてソクスレー抽出を行い、抽出液を採集する。
次いでこの抽出液に前記蒸留残さを加え合わせ、ロータリーエバボレーターを用いて溶媒を留去し、重質油成分を含む濃縮物を蒸発皿に移してダイオキシン類分析の常法にしたがって硫酸処理による不溶化を行ったのち、これを再びトルエンによって抽出し、不溶成分を除いた抽出液を分析試料として調製した。
この一部を採取し、[実施例1]に準じて金属ナトリウム還元処理を行い、チオシァン酸水銀(II)吸光光度法を用いて存在する塩化物量を定量した。こうして得られた六塩化ビフェニルに相当する塩化物の分析結果を[表4]に示す。
なお、真値(分析予測値)と実測値との差異(操作損失)は、標準試料による対照試験などによって十分にカバー可能な数値である。
【0040】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、または、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、トルエンによって抽出して得られた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換したのち、純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、または、分光光度法によって分析・定量することを特徴とする、有機ハロゲン化合物類の分析方法。
【請求項2】
土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、または、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、アセトンによって抽出して得られた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換したのち、純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、または、分光光度法によって分析・定量することを特徴とする、有機ハロゲン化合物類の分析方法。
【請求項3】
土壌、焼却炉飛灰、焼却炉残灰、産業廃棄物、または、堆積物に含有される有機ハロゲン化合物類を、有機ハロゲン化合物類をo−キシレンによって抽出したのち、さらにフラン,n−ヘキサン,およびトルエンの等量混合液を添加して蒸留分離して得られた試料溶液に、不活性ガス雰囲気中において金属ナトリウムを加えて反応させ、含有される有機ハロゲン化合物類を無機ハロゲン化合物に還元・変換したのち、純水を加えて生成した無機ハロゲン化合物を水相に移行させ、水相中の無機ハロゲン化合物を滴定法、比濁法、または、分光光度法によって分析・定量することを特徴とする、有機ハロゲン化合物類の分析方法。

【公開番号】特開2006−177981(P2006−177981A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85135(P2006−85135)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【分割の表示】特願2003−44792(P2003−44792)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(503071277)
【Fターム(参考)】