説明

有機ハロゲン化物分解用鉄粉スラリー及びそれを用いた浄化方法

【課題】鉄粉を用いた有機ハロゲン化物の分解浄化では、鉄粉を水に分散したスラリーとして用いる場合、分解性能が低下するという問題があった。
【解決手段】有機ハロゲン化物で汚染された土壌、排水又は地下水に対し、鉄粉及び必要に応じて水を混合することにより有機ハロゲン化物を浄化する方法において、無機層状粘土構造化合物と鉄粉と水を含んでなる鉄粉スラリーを用いることにより、粘度が低く沈降し難いスラリーが得られ、なおかつ鉄粉の分解活性が低下することがない。無機層状粘土構造化合物としては、スメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライトが好ましく、粘度が10〜1000mPas、鉄粉の沈降速度が20mm/分以下である有機ハロゲン化物浄化用の鉄粉スラリーを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌、排水又は地下水中の有機ハロゲン化物の分解浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、TCE(トリクロロエチレン)、PCE(テトラクロロエチレン)、ジクロロメタン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物による環境汚染問題が大きな問題となっており、これら有機ハロゲン化物により汚染された土壌、排水、地下水等の浄化方法が検討されている。
【0003】
土壌や地下水中の有機ハロゲン化物の分解には種々の方法が検討されており、特に異種金属を含有させ粒子内に局部電池構造を構成させ、有機ハロゲン化物を還元分解する方法が高性能となることが知られている(例えば非特許文献1、特許文献1〜3)。
【0004】
有機ハロゲン化物の浄化に鉄粉を用いる場合、水に分散させてスラリー状にして用いることが一般的である(特許文献4参照)。しかし、鉄粉スラリーは、分散状態が高いものでは粘度が高くなりポンプで移送することが困難となり、粘度を下げると短時間に沈降してスラリー状態を維持することが困難であった。その様な問題を解決するために分散剤や界面活性剤を用いると、鉄粉の分解活性が低下するという問題があった。
【0005】
【非特許文献1】先崎ら、工業用水、VOL391,(1991),29.
【特許文献1】特開2003−80220
【特許文献2】特開2003−136051
【特許文献3】特開2003−105313
【特許文献4】特開2001−198567
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
汚染された土壌、地下水、排水中の有機ハロゲン化物の分解浄化において、鉄粉を分解触媒として用いる際に鉄粉をスラリーとして用いる場合、分散性を重視すると高粘度化しハンドリング性が悪くなり、粘度を低下させると沈降して不均一となる、装置配管の詰まりという問題があった。さらにスラリー状態の制御のために分散剤を用いると、鉄粉の分解活性が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、有機ハロゲン化合物の分解浄化について鋭意検討を重ねた結果、鉄粉を分解用触媒として用いる場合、無機層状粘土構造化合物と鉄粉と水を含んでなる鉄粉スラリーでは低粘度でなおかつ鉄粉の沈降がなく、さらに鉄粉の本来有する有機ハロゲン化物の分解活性の低下がないことを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0008】
以下本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明は有機ハロゲン化物で汚染された土壌、排水又は地下水に対し、鉄粉及び必要に応じて水を混合することにより有機ハロゲン化物を浄化する方法において、無機層状粘土構造化合物と鉄粉と水を含んでなる鉄粉スラリーを用いるものである。
【0010】
本発明で浄化される有機ハロゲン化物は特に限定はないが、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン、ジクロルエチレン、トリクロロエタン、四塩化炭素等が例示され、さらに難分解性のPCBやダイオキシン類に対しても使用することができる。
【0011】
用いる鉄粉には特に限定はなく、高純度の還元鉄粉、炭素を含有する鋳鉄粉、或いは鉄以外の金属と合金化した合金鉄が用いることができる。中でも、少量のニッケルを部分合金化した鉄では特に分解活性が高いため好ましい。
【0012】
Ni等の異種金属と合金化した鉄粉を用いる場合、完全合金化した場合活性が低下するため、部分合金化(一部非合金が残存すること)したものを用いることが好ましい。その様な部分合金は、強粉砕によるメカニカルアロイング法によって得られる。
【0013】
FeとNiの部分合金の存在部位としては、合金部分が鉄粒子の表面全体を占めるものでなく、鉄粉表面においてNi部位および合金化部位が夫々存在することが好ましい。鉄粉表面全体を合金が覆っていると、局部電池作用が起こり難く、有機塩素化物の分解が起こり難い。部分合金化はEPMA(電子線マイクロアナライザ−)やTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、合金層(Niの拡散層)を確認することができる。
【0014】
本発明の分解用鉄粉の炭素は、Niと同様に、炭素単独部位と鉄と炭素の合金部が存在することが望ましい。一般に鉄粉としては純鉄、鋼、鋳鉄、または銑鉄等を用いることができるが、これら鉄粉内に存在する鉄部分およびセメンタイト等の鉄炭素合金部分も活性点として作用し得る。鉄粉中の炭素量は、鋳鉄粉を用いた場合2〜3%、又還元鉄粉では0.01〜0.05%の範囲が例示できる。
【0015】
鉄粉の粉末形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状、海綿状等が含まれる。また分解用鉄粉の比表面積は0.05m/g以上、好ましくは0.2〜10m/gでは、分解反応速度や接触確率を向上させることができ、粗粒を用いる上で有効である。
【0016】
用いる鉄粉の粒度も特に限定されないが、粒度53μm未満が50重量%以上では危険物第2類に該当し、着火性等の危険性があるため、粒度53μm以上が40重量%未満で危険物第2類に該当しないものであることが好ましい。
【0017】
鉄粉の使用量は汚染状況(浄化すべき有機ハロゲン化物の存在量)によって異なるため一概に決められないが、通常は浄化対象物質に対して0.1〜10重量%、特に1〜3重量%用いることが好ましい。
【0018】
本発明で用いる無機層状粘土構造化合物は特に限定はないが、例えばスメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、の群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0019】
スメクタイトは、サポナイト構造を有する無機高分子であり、天然粘土又は合成無機高分子によって得られるものである。合成品としてはクニミネ工業の「スメクトン」が知られている。
【0020】
モンモリロナイトは、酸性白土、ベントナイトの主成分をなす主として含水珪酸アルミニウムと金属カチオンで構成される層状構造化合物である。
【0021】
イライトはスメクタイトの変質鉱物であり黒ボク土の成分が該当する。
【0022】
本発明の方法で用いる無機層状粘土構造化合物を含有する鉄粉スラリー中の鉄含有量は特に限定はないが、20〜70重量%、特に30〜50%の範囲が好ましい。
【0023】
本発明で用いる鉄粉スラリー中の無機層状粘土構造化合物の含有量は、含有する鉄粉の量によっても異なるため一概には決められないが、鉄粉含有量が50%のスラリーにおいて0.05%以上1%未満(対スラリー重量に対する重量%、)、特に0.1%以上0.5%以下の範囲が好ましい。無機層状粘土構造化合物が1%以上になると有機ハロゲン化物の分解活性が低下する傾向がある。
【0024】
本発明で用いる鉄粉スラリーは、低粘土でなおかつ沈降しないものであり、粘度は10〜1000mPas、特に20〜500mPasであることが好ましい。
【0025】
本発明で用いる鉄粉スラリーは粘度が低いだけでなく、スラリーの沈降がないことが必要であり、沈降速度は20mm/分以下、さらに10mm/分以下が好ましい。
【0026】
鉄粉スラリーの粘度は、一般的なB型粘度計で測定することが出来る。沈降速度は例えばスラリーをメスシリンダーに充填し、30分以上でのスラリー界面の低下から単位時間当りの沈降速度を算出することができる。
【0027】
本発明の方法では、鉄粉としてニッケルと部分合金化した鉄粉を用いる場合、分解活性が高いため、ニッケルを含有しない通常鉄粉又は酸化鉄で希釈して用いることができる。部分合金(A)と通常鉄又は酸化鉄(B)の混合比は特に限定されないがA/Bが9/1〜1/3の範囲で用いることが好ましい。
【0028】
本発明で用いる酸化鉄は特に限定されないが、酸化第一鉄、酸化第二鉄、マグネタイト、ベルドライト等、さらに具体的には一般的に入手が容易な砂鉄、鉄鉱物が用いられる。
【発明の効果】
【0029】
有機塩ハロゲン物汚染物を無機層状粘土構造化合物と鉄粉と水を含んでなるスラリーを用いて浄化する方法によれば、鉄粉スラリーの粘度が低く、スラリーの沈降速度が遅いためハンドリング性に優れ、鉄粉が有する有機ハロゲン化物の分解活性が低下することがない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例にさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0031】
なお鉄粉スラリーの粘度の測定にはB型粘度計(TOKISANGYOU製 VISCOMETER TVB−10)を用い、ローター21、0.6〜60rpmで測定した。
【0032】
また鉄粉スラリーの沈降速度は、250mlのメスシリンダーにスラリーを充填し、30分後の拡散層容量(スラリー界面の低下)によって算出した。
【0033】
実施例1
鋳鉄粉(炭素2.3重量%含有)にNiを0.3重量%混合し、振動ミル(中央化工機(株)製、商品名V−MILL,BM−3、1200vpm,6.6Lポット)を用いて、部分合金化粉末(以下「合金粉」という)を得た。(振動数600vpm、窒素ガス流量40ml/分、粉砕時間2時間)当該合金粉を水に分散し、無機層状粘土構造化合物としてそれぞれスメクタイト(クニミネ工業製「スメクトンSA」)を0.3重量%添加し、スラリー濃度47%の鉄粉スラリーとした。
【0034】
トリクロルエチレンを10ppm含有する水溶液に上記の鉄粉スラリーを鉄粉換算で1重量%添加した場合の分解挙動を図1に示した。
【0035】
鉄粉スラリーと混合から5日後にトリクロルエチレンが環境基準以下まで分解した。
比較例1
無機層状粘土構造化合物の代わりに、有機系(植物性多糖類)材料(テルナイト社製「レスタ」)を用いて実施例1と同様の処理を行った。
【0036】
無機層状粘土構造化合物を用いた場合に比べ、トリクロルエチレンの分解に長時間を要した。
【0037】
実施例2〜4
実施例1で用いた合金粉1にNiを含有しない鋳鉄粉2の割合で混合した混合鉄粉を用
い、実施例2では無機層状粘土構造化合物としてそれぞれスメクタイト(クニミネ工業製「スメクトンSA」)を用い、実施例1と同様の処理を行った。
【0038】
実施例3では無機層状粘土構造化合物として、ベントナイト(クニミネ工業製「クニピア−F」)を用い、実施例1と同様の処理を行った。実施例4では無機層状粘土構造化合物としてイライト(関東化成製「トチクレー」)を用い、実施例1と同様の処理を行った。
【0039】
いずれも、20日以内にトリクロルエチレン濃度が環境基準以下となったが、スメクタイトが最もトリクロルエチレンの分解性に優れていた。結果を図2に示す。
【0040】
比較例2
実施例2〜4で用いた混合鉄粉に無機層状粘土構造化合物の代わりに、有機系(植物性多糖類)材料(テルナイト社製「レスタ」)を添加して、実施例2〜4と同様の処理を行った。
【0041】
無機層状粘土構造化合物を用いた場合に比べ、トリクロルエチレンの分解に長時間を要した。
比較例3
実施例2〜4で用いた混合鉄粉に分散剤を添加しないトリクロルエチレン水溶液を作製し、分散状態を評価した。
【0042】
表1に各種分散剤の添加量と鉄粉スラリーの粘度、沈降速度を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2は無機層状粘土構造化合物(スメクタイト)を添加した系であり、粘度の顕著な上昇は無く、沈降速度も小さく、鉄粉スラリーの均質分散が認められた。実施例3は無機層状粘土構造化合物(ベントナイト)を添加した系であり、粘度の上昇は無く、沈降速度も小さく、鉄粉スラリーの均質分散が認められた。比較例2は有機系(植物性多糖類)材料(テルナイト社製「レスタ」)を添加した系であるが、鉄粉スラリーの沈降速度は大きく、沈殿現象認められた。比較例3は分散剤無添加系であり、鉄粉スラリーの粘度が低く、スラリーの沈降速度が最も大きく、沈殿現象が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ニッケルで部分合金化した鉄粉に無機層状粘土構造化合物(スメクタイト)又は有機系(植物性多糖類)材料(テルナイト社製「レスタ」)を添加して作製した鉄粉スラリーのトリクロルエチレンの分解挙動を示す。
【図2】ニッケルで部分合金化した鉄粉と鋳鉄粉の混合粉(混合比1:2)に各種無機層状粘土構造化合物(スメクタイト、ベントナイト、及びイライト又は有機系(植物性多糖類)材料(テルナイト社製「レスタ」)を添加して作製した鉄粉スラリーのトリクロルエチレンの分解挙動を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化物で汚染された土壌、排水又は地下水に対し、鉄粉及び必要に応じて水を混合することにより有機ハロゲン化物を浄化する方法において、無機層状粘土構造化合物と鉄粉と水を含んでなる鉄粉スラリーを用いることを特徴とする有機ハロゲン化物の浄化方法。
【請求項2】
無機層状粘土構造化合物がスメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、の群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載の浄化方法。
【請求項3】
鉄粉が、ニッケル及び/又は炭素と部分合金化した鉄粉であることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の浄化方法。
【請求項4】
さらに、ニッケルを含まない鉄及び/又は酸化鉄を混合してなる請求項3に記載の浄化方法。
【請求項5】
鉄粉及び水を含んでなる鉄粉スラリーに対し無機層状粘土構造化合物を0.1〜1重量%含み、粘度が10〜1000mPas、鉄粉の沈降速度が20mm/分以下である有機ハロゲン化物浄化用の鉄粉スラリー。
【請求項6】
無機層状粘土構造化合物がスメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、の群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項5に記載の鉄粉スラリー。
【請求項7】
鉄粉が、ニッケル及び/又は炭素と部分合金化した鉄粉であることを特徴とする請求項5乃至請求項6に記載のスラリー。
【請求項8】
鉄粉中にさらにニッケルを含まない鉄粉及び/又は酸化鉄を混合してなる請求項7に記載のスラリー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−110497(P2010−110497A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286389(P2008−286389)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】