説明

有機ヒ素化合物の無機化方法

【課題】 酸化剤等薬品を使用しないで、有機ヒ素化合物を分解し無機化する。
【解決手段】有機ヒ素化合物を含む液にオゾンを溶解し、これに200〜300nmの中波長紫外線を照射することを特徴とする有機ヒ素化合物の無機化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ヒ素化合物を無機化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ヒ素化合物は、化学兵器にも使用される物質であり、非常に有毒なため、これを含んだ地下水、排水、土壌などは、無害化処理、もしくは有機ヒ素化合物の分離除去が必要である。このうち、水中の有機ヒ素化合物の処理方法としては、活性炭による吸着処理法、凝集剤による凝集沈殿法が挙げられるが、両技術とも有機ヒ素含有廃棄物が発生する。そこで、燃焼処理で無機ヒ素とした後、凝集沈殿を行い、さらに産廃処理するといった複雑な工程が必要となる。
水中の無機ヒ素の凝集沈殿法としては、鉄系薬剤を使用してヒ酸鉄とする方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3213045号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、有機ヒ素化合物を無機化する方法を見出し、一般的な凝集沈殿法での処理を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
斯かる実情に鑑み本発明者らは鋭意研究を行った結果、有機ヒ素化合物を含む液にオゾンを溶解し、これに200〜300nmの中波長紫外線を照射すれば、有機ヒ素化合物が無機化できることを見出し本発明を完成した。
【0005】
<1> 有機ヒ素化合物を含む液にオゾンを溶解し、これに200〜300nmの中波長紫外線を照射することを特徴とする有機ヒ素化合物の無機化方法。
【0006】
<2> 更に、有機ヒ素化合物を含む液に光触媒を導入し、該光触媒に200〜400nmの長中波長紫外線を照射することを特徴とする<1>記載の無機化方法。
【0007】
<3> 有機ヒ素化合物が、芳香環を有するヒ素化合物である<1>又は<2>記載の無機化方法。
【0008】
<4> 無機化後、得られた無機ヒ素化合物を凝集沈殿法に付すことを特徴とする<1>、<2>又は<3>記載の無機化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化剤等薬品を使用しないで、オゾン+中波長紫外線で活性酸素種を生成させ、流水中に混在する有機ヒ素化合物を分解し無機化させることができる。
また、芳香環を有するヒ素化合物に限らず、揮発性有機化合物(VOC)、ダイオキシン及びPCB等多くの難分解性有機化合物を分解し無害化または無機化させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施態様を示す図面に基づいて本発明をより詳細に説明する。
本発明方法に用いる装置の1例を図1に示す。
本装置は、空気1を吸込み、その空気からオゾンを生成するためのオゾン発生装置3と、被処理水2を引くためのポンプと、ポンプによって引かれた被処理水と、オゾン発生装置で生成されたオゾンを混合し、圧力をかけるための圧力タンク4(設計圧力〜1MPa)と、圧力タンクを通過した被処理水に中波長の紫外線を照射し、水中の有機ヒ素化合物を分解するための中波長紫外線照射装置5と、中波長紫外線照射装置を通過した水に長波長の紫外線を照射するための長波長紫外線照射装置7を有する。
【0011】
<オゾン発生装置>
オゾン発生装置としては、空気を吸込み、その空気に短波長紫外線を照射し、オゾンを生成するものが好ましい。
この装置は、空気吸込口から外部の空気を吸込み、オゾン発生紫外線短波長ランプ(短波長UV照射管)から発光される波長190nm以下の短波長紫外線を空気中の酸素に照射して、オゾンを発生させる。その反応式は次の通りである。
【0012】
2+hν(短波長紫外線)→2O(3P)
O(3P)+O2+M→O3+M
【0013】
ここで、O(3P)は基底状態酸素原子(三重項酸素原子と呼ばれる)である。Mは第三体(窒素分子及び余剰の酸素分子を指す)を示している。三重項酸素原子は第三体の存在下で酸素分子と反応してオゾンを発生する。なお、オゾン生成法としては、上記UVランプ方式以外にオゾナイザー(オゾン発生器)の利用も考えられる。
【0014】
<中波長紫外線照射装置>
被処理水は取水口から取り込み、ポンプで圧力タンクへ送られる。短波長紫外線照射装置で生成されたオゾンは被処理水へ導かれ、溶存オゾンとなって圧力タンクへ送られる。圧力タンクは被処理水中へのオゾンの溶解を促進する働きをもつ。オゾンを溶解した被処理水は中波長紫外線照射装置へ導き、中波長UV照射管から200〜300nmの中波長紫外線、好ましくは254nmにピークを有する中波長紫外線を照射し、下記反応によりヒドロキシラジカル(以下「OHラジカル」と称す)が生成される。
【0015】
3+hν(中波長紫外線)→O(1D)+O2
O(1D)+H2O→2・OH
ここでO(1D)は一重項酸素原子と呼ばれ、三重項酸素原子より高いエネルギーを持ち、OHラジカル(・OH)を生成する。
【0016】
このときに、反応塔壁面の接液部に光触媒6を塗布しておけば、該光触媒によるOHラジカル発生も加わり、好ましい。光触媒による反応は下記の通りである。
【0017】
hν+TiO2→Hole++e-+TiO2
Hole++OH-→・OH
【0018】
この反応塔で使用する光触媒はTiO2が好ましいが、固体で光触媒機能を持つ金属酸化物(TiO2、ZnO、NiO、Cu2O等)、金属硫化物(ZnS、CdS、HgS等)、金属セレン化物(CdSe等)も使用可能である。また、本反応塔への光触媒の添着方法は、チタニアブル液の焼き付け(200〜400℃)により行うことができる。また、光触媒の効果を高めるために、反応塔内部に光触媒繊維、光触媒を塗布した充填物などの装填、または光ファイバーを使用しても良い。光触媒には、200〜400nmの長中波長紫外線照射が有効である。
【0019】
反応塔内の被処理水の有機ヒ素化合物は、中波長紫外線照射(及び光触媒)により発生したOHラジカルにより芳香環の開環・多価フェノールの酸化分解等が行われ、無機化される。この反応をさらに詳しく説明する。
電子を奪う酸化活性力をもったOHラジカルは、先ず芳香環の二重結合を担う電子の内の結合状態が相対的に弱いπ電子を奪うべく作用し、π電子を拘束する。次いでやってくるOHラジカルは、π電子を拘束され単結合(σ電子結合)になっている炭素原子からσ原子を含む水素原子までも奪い水分子になってエネルギー的に安定(平準化)になろうとする。一方、芳香環側にとっては、π電子結合を含む六角構造がエネルギー的に安定なため、水素原子を後から来たOHラジカルに差し出すことで系外に出し、先にやってきたOHラジカルとπ電子を共用しようとする。その結果下記の反応が起こる。
【0020】
R・C65+4OH→R・C63・2OH+2H2
【0021】
こうして酸化された芳香環は従来のフェノール類と同様に開環・分解しやすくなり、次々にやってくるOHラジカルで小分子に分解される。
【0022】
次に、二つの芳香環を有する有機ヒ素化合物であるジフェニルアルソン酸(DPAA)の分解について説明する。
DPAAは、官能基として一般に攻撃し易いOH基や二重結合で繋がる酸素原子結合も有しているが、OHラジカルはそれに留まらず、電子密度の高い芳香環、即ち、フェニル基(C65−)をも攻撃し(多分、π電子から攻略する)、開環させ、As部分を残して、最終的にH2OとCO2にまで分解してしまうのである。
【0023】
<長波長紫外線照射装置>
前記中波長照射装置によって無機化されたヒ素化合物を含有する処理水は、最後に長波長紫外線照射装置に送られ、長波長UV照射管(ブラックライト)を使用して365nmの長波長紫外線を照射し活水化される。すなわち、OHラジカルが結合し、一部酸素を遊離し水と酸素になる。(4・OH→2H2O+O2
本反応塔内面にも光触媒が塗布されていてもよく、この場合、長波長紫外線照射によるOHラジカル発生・分解反応も起こるが、これは中波長照射部の反応とは異なり光触媒のごく近傍、つまり反応塔の表面でのみ起こる現象である。光触媒表面での反応により発生したOHラジカルは、分解対象がなければ照射される長波長紫外線により、活水化される。
中波長紫外線装置で生成された一重項酸素原子(O(1D))は、その寿命がナノ秒(10-9)オーダーというほど極めて短い上に、中波長紫外線を照射した環境でなければ発生しないため、中波長紫外線と反応して三重項酸素原子と酸素分子になる。
【0024】
3+hν(長波長紫外線)→O(3P)+O2
【0025】
三重項酸素原子O(3P)は、酸化力はあるもののその力は弱く危険性は少ない。そして酸化対象物がなければ相互に化合して容易に酸素分子となるので安全である。
【0026】
本発明方法に用いる上記の装置としては、市販品、例えば、三井造船株式会社製、殺菌活水化装置が挙げられる。当該装置の処理能力に対する空気取込量の関係は下記の通りとなる。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、本発明を利用した有機ヒ素化合物で汚染された地下水の原位置処理方法の一例について説明する(図2)。
【0029】
<第1工程:揚水>
芳香族を有するヒ素化含物を含んだ地下水や排水等被処理水をポンプで揚水する。
【0030】
<第2工程:濾過>
被処理水を濾過槽11へ送り、無機化装置の阻害要因となるSS(浮遊固形物)類等を除去する。
【0031】
<第3工程:無機化>
装置12中で、本発明方法により有機ヒ素化合物を分解し、無機化する。
【0032】
<第4工程:凝集沈殿>
凝集沈殿槽13で、無機化したヒ素を、凝集沈殿させ、固形物と水を分離させる(図3参照)。
(1)水溶液中で砒素は、砒酸イオン・亜砒酸イオンのような状態で存在している。亜砒 酸イオンについては、過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ等の酸化剤を用いて砒酸イオン に酸化させる。
(2)次に凝集沈殿の共沈効果を高める為に、被処理水のpHを最適pH4〜9(好まし くは4〜5)に調整する。
(3)最後に、凝集沈殿剤として塩化第二鉄等を投入して(ヒ鉄比(Fe/As=2〜1 0))用いて、不溶性の砒酸鉄として沈殿させる。
(4)沈殿したケーキを脱水するために、フィルタープレス機等を使用して、脱水する。
以上の方法で、ヒ素化合物を分離し、コンパクト化できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、有機ヒ素化合物を安全かつ容易な設備で無機化でき、一般的な凝集沈殿法での処理を可能とするので、有機ヒ素化合物の処理法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明方法に用いる装置を示す図である。
【図2】地下水中のヒ素化合物の処理の装置を示す図である。
【図3】凝集沈殿方法の工程図である。
【符号の説明】
【0035】
1 空気
2 被処理水
3 オゾン発生装置
4 圧力タンク
5 中波長紫外線照射装置
6 光触媒
7 長波長紫外線照射装置
8 無機ヒ素化合物
11 濾過槽
12 無機化装置
13 凝集沈殿槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ヒ素化合物を含む液にオゾンを溶解し、これに200〜300nmの中波長紫外線を照射することを特徴とする有機ヒ素化合物の無機化方法。
【請求項2】
更に、有機ヒ素化合物を含む液に光触媒を導入し、該光触媒に200〜400nmの長中波長紫外線を照射することを特徴とする請求項1記載の無機化方法。
【請求項3】
有機ヒ素化合物が、芳香環を有するヒ素化合物である請求項1又は2記載の無機化方法。
【請求項4】
無機化後、得られた無機ヒ素化合物を凝集沈殿法に付すことを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−212552(P2006−212552A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28418(P2005−28418)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】