説明

有機ホスフィン酸化合物で処理された無機粒子状固体

無機粒子状固体の処理が提供される。ある種の有機ホスフィン酸化合物を使用するこの処理は、これらの処理された無機粒子状固体がポリマーマトリックス中に添加された場合、耐レーシング性を含む物理的化学的品質の改善、分散の改善および化学反応性の低減をもたらす。本発明による有機ホスフィン酸化合物の添加は、さまざまな時点で、公知のプロセスに柔軟に組み込んで実施することができ、好ましくは、濾過工程の後でまたは乾燥した無機粒子状固体に対して添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子状固体、詳しくは、有機ホスフィン酸およびそれらの塩などの、ある種の有機ホスフィン酸化合物によって処理されている無機粒子状固体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子状固体のポリマーマトリックスへの添加は、長年にわたり実施されており、ここ何年かの間、多くの理由から無機粒子状固体が、ポリマーマトリックスへ添加されており、添加され続けている。例えば、無機粒子状固体はフィラーとして用いられる。また、それらは、低減された化学活性および改善された熱安定性、特に押出しポリマーフィルムの用途における耐レーシング性を含む、よりよい物理的および化学的特性をポリマーマトリックスへ付与するためにも使用できる。種々の利益を得るために、無機粒子状固体は、表面処理を加えることをも含めて種々の方法で処理することができる。
【0003】
ポリマーマトリックスへ添加するのに一般的に使用される無機粒子状固体としては、二酸化チタンおよびカオリンが挙げられる。これらの固体に適用されてきた公知の表面処理剤には、シラン、アルカノールアミン、ポリオール、有機リン酸、有機スルホン酸、およびリン酸化ポリエンが挙げられる。最適な処理は、処理した固体に求められる特性によって一部は決まり、その特性は、その固体が使用される用途によって決まる。安定で、調製しやすく、費用対効果的な、ポリマー中に高度に分散することができ、リトポンなどの他の添加物の存在下で反応性のない疎水性の粒子状固体を提供することが、しばしば必要となる。しかし、多くの公知の表面処理が存在しているにもかかわらず、コストおよび所望の性質を含むさまざまな理由から、すべての用途にとって理想的な公知の表面処理は存在していない。したがって、粒子状固体に適した、新しい、より優れた処理を開発する要求が常に存在している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
驚いたことに、有機ホスフィン化合物を用いて無機粒子状固体を処理することによって、ポリマーマトリックス中の分散性が良好な組成物が製造されることが発見された。本発明は、これらの処理された無機粒子状固体、それらを製造するための方法、およびそれらの利用法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、顔料、フィラー、エクステンダー、紫外線吸収剤などの、ポリマーマトリックス中で使用するための処理された無機粒子状固体、およびこれらの処理された無機粒子状固体を製造するための方法を提供する。本発明の処理された無機粒子状固体は、1種以上の有機ホスフィン酸化合物によって処理された無機粒子状固体を含む。所望により、処理された無機粒子状固体は、金属酸化物も含むことができる。本発明の処理された無機粒子状固体は、次式で表される有機ホスフィン酸化合物または有機ホスフィン酸化合物の塩により、無機粒子状固体を処理することによって形成される。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである。
【0008】
一実施形態によれば、本発明は、
(a)無機粒子状固体、および
(b)次式を有する有機ホスフィン酸化合物
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである。)
を含む処理された無機粒子状固体を提供する。
【0011】
第2の実施形態によれば、本発明は、処理された無機粒子状固体組成物を製造するための方法を提供する。この方法は、無機粒子状固体を含むスラリーを濾過すること、および濾過された無機粒子状固体に第1の実施形態の有機ホスフィン酸化合物を一緒にすることを含む。
【0012】
第3の実施形態によれば、本発明は、処理された無機粒子状固体組成物を調製するための別の方法を提供する。この方法は、乾燥した無機粒子状固体に第1の実施形態の有機ホスフィン酸化合物を一緒にすることを含む。
【0013】
本発明の処理された無機粒子状固体は、無機粒子状固体が有機ホスフィン酸化合物によって処理された後で、ポリマーと一緒にし、ポリマー中に容易に分散させて、ポリマーマトリックスを形成することができる。本発明の無機粒子状固体は、ポリマー物品およびフィルムに添加された場合、優れた分散性、耐レーシング性およびその他の物理的性質を有する。
【0014】
本発明の処理された無機粒子状固体は、また、高度に充填されたポリマーのマスターバッチの製造に使用される。処理された無機粒子状固体は、処理された無機粒子状固体を約85%まで含有するマスターバッチに添加された場合、特に優れた分散品質を示す。これらの高度に充填されたマスターバッチは、分散および熱安定性、特に耐レーシング性が極めて重要な用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ポリマーと共に使用するための無機粒子状固体およびこれらの無機粒子状固体を製造するための方法を対象とする。本発明によれば、無機粒子状固体は有機ホスフィン酸化合物によって処理する。得られた処理された無機粒子状固体は、次いで、ポリマーと一緒にして、ポリマーマトリックスを形成する。
【0016】
本開示は、無機粒子状固体またはポリマーマトリックスの製造に関する専門的な論文であることを意図されておらず、読者は、本発明の主題に関するさらなる背景については、当分野における適切な入手可能な文献およびその他の資料を参照されたい。
【0017】
本発明により製造された、処理された無機粒子状固体は、有機ホスフィン酸化合物によって処理された無機粒子状固体を含む。好ましくは、無機粒子状固体は、酸化アルミニウムなどの金属酸化物をさらに含む。本発明において使用するのが適切な無機粒子状固体としては、限定されるものではないが、二酸化チタン、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛および雲母が挙げられる。本明細書において使用される「無機粒子状固体」という用語は、有機ホスフィン酸化合物によって処理されていない無機粒子状固体を指す。好ましくは、二酸化チタンが、選ばれた無機粒子状固体である。無機粒子状固体が二酸化チタンの場合は、二酸化チタンは、硫酸法または塩素法によって製造されたルチル、あるいは硫酸法によって製造されたアナターゼでよい。ルチルまたはアナターゼの無機粒子状固体を製造する方法は、当業者には公知である。
【0018】
無機粒子状固体が白色および不透明性を付与するのに適した形態の二酸化チタンである組成物が、本発明に含まれる。この形態の二酸化チタンは、通常顔料二酸化チタンと呼ばれる。無機粒子状固体が、「透明」二酸化チタンと通常呼ばれる形態の二酸化チタンである組成物も、本発明に含まれる。透明二酸化チタンは、可視光を散乱または吸収する傾向をほとんど有していないが、紫外線を良好に吸収することができる。したがって、当業者には知られているように、紫外線から保護するために、プラスチックおよびその他の組成物に透明な二酸化チタンが添加されている。
【0019】
無機粒子状固体の通常の粒径範囲は、約0.10μmから約20μmである。無機粒子状固体が、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、雲母などのフィラーおよびエクステンダーとみなされる場合は、粒径範囲は、通常約0.5μmから約20μmである。通常顔料とみなされる無機粒子状固体に関しては、平均粒径は、約0.1μmから約0.5μmの間で変化する。通常、無機粒子状固体が顔料形態の二酸化チタンである場合は、平均粒径は0.2〜0.35μmの範囲に存在する。無機粒子状固体が透明な二酸化チタンである場合は、平均粒径は約0.01から約0.15μmである。無機粒子状固体の形状がおおよそ球形である場合は、これらの測定値は直径を表す。無機粒子状固体の形が針状または非球形である場合は、これらの測定値は、最も長い寸法の測定値を表す。
【0020】
好ましくは、本発明の有機ホスフィン酸化合物は、約2から約22個の炭素原子を含有する少なくとも1つの有機基を有する。特記しない限り、これらの有機基は、置換または非置換、線状、分岐または環式、および飽和または不飽和である。本発明において有用な有機基の例には、限定されるものではないが、エチル−、プロピル−、ブチル−、イソブチル−、t−ブチル−、ペンチル−、ヘキシル−、ヘプチル−、オクチル−、イソオクチル−、2−エチルヘキシル−、デシル−、ドデシル−、などが含まれる。好ましくは、有機基は、線状ヘキシル、線状オクチル、イソオクチルまたは2−エチルヘキシルである。また、好ましくは、有機基は非置換である。さらに、好ましくは、R1およびR2はアリール化合物ではない。
【0021】
本発明の処理された無機粒子状固体を調製するために、無機粒子状固体は、一般的に式Iにより表される有機ホスフィン酸だけではなくそれらの塩も含む、有機ホスフィン酸化合物によって処理する。「有機ホスフィン酸化合物」という用語は、有機ホスフィン酸および有機ホスフィン酸の塩の両方を指す。式Iのこれらの有機ホスフィン酸化合物は、新規に合成するかまたはフルカケミカル社などの供給業者から入手することができる。式Iにより表すことのできる化合物に関しては、好ましくは、R1およびR2は、ヘキシル−、オクチル−、イソオクチル−、または2−エチルヘキシル−である。式Iは次の通りであり、
【0022】
【化3】

【0023】
式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基、および
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである。
【0024】
本発明によるの表面処理を実施するのに使用される、上述の有機ホスフィン酸化合物は、処理された無機粒子状固体を形成するために、無機粒子状固体を処理するのに使用される。「処理された無機粒子状固体」という用語は、表面が処理または変性された無機粒子状固体のいずれをも指す。「有機ホスフィン処理された無機粒子状固体」という用語は、上の式Iにより表される任意の物質によって、処理された無機粒子状固体を指す。有機ホスフィン酸化合物の好ましい量は、使用される用途および無機粒子状固体の性質によって決まる。通常、無機粒子状固体の重量に基づいて、約0.1重量%から約30重量%の有機ホスフィン化合物が存在する。顔料寸法の無機粒子状固体を処理するために使用される有機ホスフィン酸化合物の量は、無機粒子状固体の重量に基づいて、好ましくは、約0.1%から約5重量%、より好ましくは、約0.3%から約2.0%、最も好ましくは、約0.7%から約1.2%である。より小さな粒径の無機粒子状固体では、有機ホスフィン酸化合物の量は、通常より多い。透明な二酸化チタンに関しては、使用される有機ホスフィン酸化合物の量は、透明な二酸化チタンの重量に基づいて、好ましくは、約3から30重量%、より好ましくは、約5から約30%、最も好ましくは、約10から20%である。
【0025】
有機ホスフィン酸化合物は、処理された無機粒子状固体を製造するいくつかの段階のいずれか一段階において、無機粒子状固体と一緒にすることができる。処理された二酸化チタンを製造する場合に、有機ホスフィン酸化合物が、塩素法および/または硫酸法のいくつかの製造段階のいずれか一段階において添加される理由の1つは、有機ホスフィン酸化合物と無機粒子状固体表面との相互作用による副生物が存在せず、せいぜい水または塩が副生物であり得るが、両方とも容易に除去されるからである。
【0026】
本発明においては、好ましくは無機粒子状固体と表面処理剤を、約10℃から約270℃の温度で一緒にする。無機粒子状固体と表面処理剤とを一緒にする最適温度は、表面処理剤が追加される無機粒子状固体の製造工程における段階によって決まる。
【0027】
また、どの金属も、酸化物の形態で存在することが好ましく、有機ホスフィン酸化合物が添加されるときに、酸化アルミニウムが存在することがより好ましい。最も好ましくは、無機粒子状固体の重量に基づいて、約0.2重量%から1.2重量%の間のアルミナが使用される。無機粒子状固体、特に二酸化チタンの製造にアルミナを使用することは、当業者に公知である。
【0028】
これらの条件下では、無機粒子状固体を、「非活性化無機粒子状固体」と呼ぶことができ、アルミニウムなどの金属がイオンの形態で存在し、無機粒子状固体を活性化する環境と区別する。TiO2の製造などの予備工程の間に、例えば、濾過ケークが形成されたとき、または有機ホスフィン酸化合物が無機粒子状固体に添加された後に、「非活性化無機粒子状固体」が存在するpH値を見出すことができる。標準加工処理の下では、この後の濾過は実施されず、したがって有機ホスフィン酸化合物は除去されず、この方法を経済的に実施することができるので、これらの時点における添加は、特に有益である。
【0029】
有機ホスフィン酸化合物を添加する方法は、無機粒子状固体の製造工程に柔軟かつ容易に組み込める他の表面処理剤を添加する方法と同様である。したがって、無機粒子状固体を製造する間に有機ホスフィン酸化合物を添加することができる箇所が多く存在しており、本明細書において記載されている添加箇所で、余すところなくすべてを表すつもりはない。有機ホスフィン酸化合物を添加すべき最適箇所は、化合物を添加する方法によって幾分かは左右される。
【0030】
最も単純な方法では、無機粒子状固体がすでに存在している系の中へ、噴霧または注入することによって、有機ホスフィン酸化合物を添加する。有機ホスフィン酸化合物の分布の均一性を最大にするために、有機ホスフィン酸化合物および無機粒子状固体を混合または撹拌してもよい。処理剤および無機粒子状固体を混合する方法は、当業者に公知である。粉末に対して液体を塗布するための強化バーを装備したV型混合機、または当業者に現在公知のもしくは将来知られる他の適切な混合装置などが使用される。
【0031】
別法として、有機ホスフィン酸化合物が、粉砕されるべき無機粒子状固体粉末と共に、ミクロナイザーまたはジェット微粉砕機中に、計量添加される。空気または蒸気による微粉化技術は、当業者に知られまたは容易に知り得るように、室温から250℃前後までの温度で使用される。
【0032】
従来の製造方法においては、他の例として、有機ホスフィン酸化合物は、噴霧乾燥フィーダのところで、微粉化の前にまたは微粉化と同時に高度に強力な粉砕装置またはミクロナイザー供給原料に添加される。有機ホスフィン酸化合物の一部は、無機粒子状固体を洗浄する際に失われることになるので、濾過および洗浄の前に、有機ホスフィン酸化合物を無機粒子状固体のスラリーに添加することは、上述のように効果的ではない。対照的に、本発明の有機ホスフィン酸化合物を濾過ケークまたはミクロナイザー供給原料に添加することにより、有機部分の損失が最小限になり、製造効率が改善される。したがって、無機粒子状固体粒子の中に有機ホスフィン酸化合物を均一に混合することを確実にするために、撹拌により、流動化され洗浄された濾過ケークに有機ホスフィン酸化合物を添加することが望ましい。さらに、いくつかの実施形態においては、濾過および洗浄段階の後だが乾燥段階の前で有機ホスフィン酸化合物を添加することが望ましい。
【0033】
有機ホスフィン酸化合物を、噴霧乾燥器生成物またはミクロナイザー供給原料などの乾燥した無機粒子状固体に添加する場合は、有機ホスフィン酸化合物と無機粒子状固体粉末とが均一に混合されることを確実にするために、特別の注意を払わなければならない。このことは、例えば有機性の純粋な液体または溶液を塗布するための強化バーを装備したV型混合機を使用することによって、あるいは他の適切な混合装置を使用することによって達成される。有機ホスフィン酸化合物が固体材料である場合は、それを水、エタノール、テトラヒドロフラン、または任意の適切な溶媒に溶解させることは、無機粒子状固体に有機ホスフィン酸化合物を均一に塗布するのを助ける。
【0034】
固体物質を溶液に溶解させることによって、均一な混合がより容易に得られる。例えば、有機ホスフィン酸化合物を適切な溶媒に溶解させた場合は、有機ホスフィン酸化合物を、無機粒子状固体が乾燥された後でミクロナイザーに入る前に、または無機粒子状固体がミクロナイザーに添加されるのと同時に、ミクロナイザーに添加することができる。
【0035】
有機ホスフィン酸化合物を無機粒子状固体と一緒にした後、処理された無機粒子状固体は、蒸気または空気を使用して、流体エネルギーミルにより粉砕され、有機ホスフィン酸化合物を高水準で保持している、処理され、仕上げられた無機粒子状固体を製造することができる。すべての濾過段階の後で処理剤が加えられる場合は、無機粒子状固体に伴って残留している処理剤の量は、表面処理が加えられた後に濾過段階があるとした場合よりはるかに多い。これによって、処理された無機粒子状固体を製造する全体のコストが低減できる。
【0036】
例えば、無機粒子状固体が二酸化チタンの場合は、塩素法または硫酸法などの製造方法から直接得られた未処理の二酸化チタンに、有機ホスフィン酸化合物を添加することができる。また、無機粒子状固体の二酸化チタンは、本発明の有機ホスフィン酸化合物による処理に先立って、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物により、当業者に知られている任意方法を使用してさらに処理してもよい。処理の他の例には、リン酸塩およびスズが含まれる。加えて、未処理の無機粒子状固体または処理された無機粒子状固体に、有機ホスフィン酸化合物を添加する前にまたは有機ホスフィン酸化合物を添加した後で、トリメチロールエタンやトリメチロールプロパンなどのポリアルコール、またはトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンによって、二次的処理をすることができる。また、無機リン酸塩または無機リン酸塩と金属酸化物との組合せによる処理を選択することもできる。さらに、前述の化合物の組合せまたは混合物による処理を選択することもできる。無機粒子状固体が二酸化チタンである場合は、有機ホスフィン酸化合物によって処理された無機粒子状固体を、例えば、蒸気または空気を使用して流体エネルギーミルにより粉砕し、高水準の有機ホスフィン酸化合物を保持する無機粒子状固体製品を製造し、それによって改質されたTiO2を製造する全体のコストを低減することができる。
【0037】
有機ホスフィン酸により処理された無機粒子状固体が形成されると、それはポリマーと一緒にしてポリマーマトリックスを形成することができる。「ポリマーマトリックス」という用語は、ポリマーおよび処理された無機粒子状固体を含む物質を指す。本発明において有用なポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、およびエチレンと4から12個の炭素原子を含有するα−オレフィンまたは酢酸ビニルとのコポリマーを含む非置換エチレンモノマーのポリマー;ビニルホモポリマー、アクリルホモポリマーおよびコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびポリエーテルなどの熱可塑性プラスチック用途に使用するポリマーが挙げられる。また、その他の適切なポリマーの種類には、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステルおよび塩素化ポリエステル、ポリオキシエチレン、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂およびアセタール樹脂が含まれる。処理された無機粒子状固体とポリマーとを一緒にするための方法は、当業者には公知である。
【0038】
処理された無機粒子状固体をポリマーと一緒にすることができ、ポリマーマトリックスの重量に基づいて約85重量%まで充填し得る。好ましくは、ポリマーマトリックスの重量に基づいて、処理された無機粒子状固体を約50重量%から約85重量%充填する。この充填物はマスターバッチとして使用され得る。「マスターバッチ」は、一緒に混合され、次いで、最初の2種類の物質のいずれかと同種でも異なってもよい他の1種以上の成分と混合される、2種以上の物質の混合物を指す。処理された無機粒子状固体を有するマスターバッチを作製するための方法は、当業者には公知であるかまたは容易に知られ得る。例えば、マスターバッチは、BRバンバリーミキサまたは二軸スクリュー押出機を使用し、処理された無機粒子状固体とポリマーとを一緒にすることによって作製される。
【0039】
本発明の処理された無機粒子状固体は、硫化亜鉛と硫酸バリウムを組み合わせて含有するポリマーフィラーリトポンと一緒に使用される場合は、潜在的に危険なまたは有害なガスを発生しないことが、驚くべきことにまた意外にも分かった。対照的に、リン酸化されたポリエンをリトポンと組合せて使用する場合は、潜在的に危険なガスが放出される。
【0040】
本発明の処理された無機粒子状固体は、それらが添加されている熱可塑性ポリマーに対して、良好な耐レーシング性を付与することが、驚くべきことにまた意外にも分かった。レーシングは、充填された無機粒子状固体の特定の重量%および加工処理温度における、揮発性の尺度と考えられ、プラスチックフィルムにおける空隙または孔として現れる。
【0041】
処理された有機粒子状固体は、熱可塑性プラスチックの用途において使用されることが特に有益であるので、これらの用途のポリマーと組み合わされる場合、ポリマーと組み合わされる前およびポリマーと組み合わされた後の両方で、有機溶媒および水を基本的に含まないように、加工処理することが好ましい。
【0042】
さらに、本発明により製造された無機粒子状固体は、熱可塑性ポリマーフィルム物品内に添加された場合、優れた分散を示すことが驚くべきことにまた意外にも判明した。当業者に知られているように、通常、フィルムは、約14%までの処理された無機固体を含有する。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものである。これらの実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定することは全く意図されておらず、限定すると解釈されるべきではない。
【0044】
実施例におけるホスフィン酸化合物を、例えばJ.Med.Chem.,1988年、32巻、204頁およびZhurnal Obshcei Khimi,1979年、50巻、1744頁に記載されているような、当業者に公知の通常の方法に従って若干の変更を加えつつ製造した。
【0045】
実施例1
この実施例においては、ジイソオクチルホスフィン酸0.90%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0046】
溶液1リットル当たり386.4グラムのAl23が入っているアルミン酸ナトリウム溶液26.8mlを、スラリー1リットル当たり350グラムで含まれている塩素法によるTiO2の微粒子5230グラムに、70℃で混合しながら添加した。50%の水酸化ナトリウム溶液を用いてスラリーのpHを7.0に調整し、撹拌しながら30分間スラリーを熟成させた。熟成したスラリーを、濾過し、80℃の脱イオン水5000mlで2回洗浄し、次いで、オーブン内で115℃で一晩乾燥した。ジイソオクチルスルホン酸による処理に備えて、乾燥した濾過ケークを8メッシュの篩に通した。
【0047】
上述したように調製した、1000グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さに広げて、ジイソオクチルホスフィン酸(フルカケミカル社)9.0グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0048】
分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチにそれぞれ取り入れた。結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
この実施例においては、ジイソオクチルホスフィン酸1.10%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0050】
実施例1に記載したように調製した、1000グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、ジイソオクチルホスフィン酸(フルカケミカル社)11.0グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0051】
分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチにそれぞれ取り入れた。結果を表1に示す。
【0052】
実施例3
ジ−n−オクチルホスフィン酸の調製。250mLの95%エタノール中にn−オクチルホスフィン酸46.5g(0.261mol)が入った、撹拌した混合物に、1−オクテン(58.6g、0.5218mol)を添加し、続いて、70%の過酸化ベンゾイル9.042g(0.026mol)を添加した。得られた混合物を、8時間還流し、次いで、さらに過酸化ベンゾイル6.758g(0.0196mol)を添加し、反応をさらに8時間還流下で続けた。3回目の過酸化ベンゾイル4.244gを添加し(0.01305mol)、還流をさらに8時間続けた。得られた混合物を冷蔵庫内で冷却し、濾過し、ロータリエバポレータを用いて、ジ−n−オクチルホスフィン酸11.8gを回収した。冷却された95%エタノール100mLにより、固形物を洗浄し、濾液を回転真空ポンプにより濃縮し、冷蔵庫内に置いた。さらに24.9gのジ−n−オクチルホスフィン酸が冷却によって得られ、総計36.7g(48.4%の収率)に達した。
【0053】
実施例4
この実施例においては、ジ−n−オクチルホスフィン酸0.90%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0054】
実施例1に記載したように調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21000グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、実施例3の方法によって調製したジ−n−オクチルホスフィン酸9.0グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0055】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0056】
実施例5
この実施例においては、ジ−n−オクチルホスフィン酸1.10%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0057】
実施例1に記載したように調製した、1000グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、実施例3の方法によって調製したジ−n−オクチルホスフィン酸11.0グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0058】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0059】
実施例6
n−オクチルホスフィン酸の調製。600mLの95%エタノール中に次亜リン酸(=ホスフィン酸)ナトリウム水和物95.1g(0.897mol)が入っている混合物に、濃硫酸23.8mLを添加した。撹拌した混合物に、1−オクテン(33.6g、0.299mol)を添加し、続いて、30%の過酸化水素を1.69g(0.0149mol)添加した。得られた混合物を、8時間還流し、次いで、過酸化水素を、さらに1.15g(0.010mol)添加し、反応混合物をさらに8時間還流し続けた。得られた混合物を冷却し、濾過し、次いで、ロータリエバポレータを用いて、エタノールを除去した。得られた残留物に、200mLの水を添加し、次いで、溶液がアルカリ性になるまで、50%の水酸化ナトリウム溶液を添加した。混合物を200mLのジエチルエーテルにより2回抽出し、次いで水相を濃硫酸により酸性にした。水層を200mLの酢酸エチルによって抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウムによって洗浄し、次いで、無水硫酸マグネシウムの上で乾燥した。有機層をデカンテーションし、乾燥剤をさらに50mLの酢酸エチルによって洗浄した。一緒にした有機層を、ロータリエバポレータ上で蒸発させた。n−オクチルホスフィン酸45.2g(84.8%の収率)を得た。
【0060】
実施例7
この実施例においては、n−オクチルホスフィン酸0.90%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0061】
実施例1に記載したようにして調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21200グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、実施例6で調製したn−オクチルホスフィン酸11.9グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0062】
それぞれ分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0063】
実施例8
この実施例においては、n−オクチルホスフィン酸1.2%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0064】
実施例1に記載したようにして調製した、1200グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、実施例6で調製したn−オクチルホスフィン酸14.6グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0065】
分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチにそれぞれ取り入れた。結果を表1に示す。
【0066】
実施例9
n−オクチルホスフィン酸のナトリウム塩の調製。実施例6によって調製したn−オクチルホスフィン酸35.0gを、100mLの95%エタノール中に溶解させ、得られた溶液を、フェノールフタレインを指示薬として用いて、5M(重量モル濃度)(50/50%EtOH/H2O)の水酸化ナトリウムによって中和した。溶媒を蒸発させ、対応するナトリウム塩を回収した。
【0067】
実施例10
この実施例においては、n−オクチルホスフィン酸ナトリウム塩0.90%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0068】
実施例9で調製したn−オクチルホスフィン酸のナトリウム塩9.0グラムを、脱イオン水80.0グラム中に溶解した。実施例1に記載したようにして調製した、1000グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、この溶液を、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0069】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0070】
実施例11
この実施例においては、n−オクチルホスフィン酸ナトリウム塩1.10%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0071】
実施例9で調製したn−オクチルホスフィン酸のナトリウム塩11.0グラムを、脱イオン水84.1グラム中に溶解した。実施例1に記載したようにして調製した、1000グラムの乾燥した、8メッシュ篩を通した、アルミナで被覆されたTiO2を、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、この溶液を、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0072】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0073】
実施例12
n−ヘキシルホスフィン酸およびそのナトリウム塩の調製。600mLの95%エタノール中に次亜リン酸ナトリウム水和物95.2g(0.898mol)が入っている混合物に、濃硫酸23.8mLを添加した。撹拌した混合物に、1−ヘキセン(25.2g、0.30mol)を添加し、続いて、30%の過酸化水素1.76g(0.0155mol)を添加した。得られた混合物を、8時間還流し、次いで、過酸化水素を、さらに1.14g(0.0101mol)添加し、反応混合物をさらに8時間還流し続けた。得られた混合物を冷却し、濾過し、次いで、ロータリエバポレータを用いて、エタノールを除去した。得られた残留物に、200mLの水を添加し、次いで、溶液がアルカリ性になるまで、50%の水酸化ナトリウム溶液を添加した。混合物を200mLのジエチルエーテルにより2回抽出し、次いで水相を濃硫酸により酸性にした。水層を200mLの酢酸エチルによって抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウムによって洗浄し、次いで、無水硫酸マグネシウムの上で乾燥した。有機層をデカンテーションし、乾燥剤をさらに50mLの酢酸エチルによって洗浄した。一緒にした有機層を、ロータリエバポレータ上で蒸発させた。n−ヘキシルホスフィン酸37.0g(82.4%の収率)を得た。
【0074】
次いで、n−ヘキシルホスフィン酸35.0gを、100mLの95%エタノール中に溶解させ、得られた溶液を、フェノールフタレインを指示薬として用いて、5M(50/50%EtOH/H2O)の水酸化ナトリウムによって中和した。次いで、溶媒を蒸発させ、対応するナトリウム塩を回収した。
【0075】
実施例13
この実施例においては、n−ヘキシルホスフィン酸ナトリウム塩0.90%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0076】
実施例12によって調製したn−ヘキシルホスフィン酸のナトリウム塩9.0グラムを、脱イオン水78.2グラム中に溶解した。実施例1に記載したように調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21000グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、この溶液を、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0077】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0078】
実施例14
この実施例においては、n−ヘキシルホスフィン酸のナトリウム塩1.10%を、0.20%のアルミナによって被覆された、乾式塩素法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0079】
実施例12によって調製したn−ヘキシルホスフィン酸のナトリウム塩11.0グラムを、脱イオン水86.2グラム中に溶解した。実施例1に記載したように調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21000グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、この溶液を、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0080】
分散を評価するために、仕上がり顔料を、75%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0081】
実施例15
この実施例においては、ジイソオクチルホスフィン酸1.0%を、0.40%のアルミナによって被覆された、乾式硫酸法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0082】
アルミン酸ナトリウム溶液1リットル当たり、381.6グラムのAl23が入っている液体52.4mlを、スラリー1リットル当たり350グラムが存在している、硫酸法によるTiO2微粒子(Millennium Chemicalsから入手できるTiONA(登録商標)RUFとして、一般に知られている)5000グラムに、70℃で混合しながら添加した。50%の水酸化ナトリウム溶液を用いてスラリーのpHを7.0に調整し、撹拌しながら30分間スラリーを熟成させた。熟成したスラリーを、濾過し、80℃の脱イオン水から5000mlを分けとったアリコートによって3回洗浄し、次いで、オーブン内で115℃で一晩乾燥した。ジイソオクチルスルホン酸による処理に備えて、乾燥した濾過ケークを8メッシュの篩に通した。
【0083】
上述したように調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21000グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、ジイソオクチルホスフィン酸(フルカケミカル社)10.0グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0084】
それぞれ分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0085】
実施例16
この実施例においては、ジイソオクチルホスフィン酸1.36%を、0.40%のアルミナによって被覆された、乾式硫酸法によるルチルTiO2ベースに添加する。
【0086】
実施例15に記載したように調製した、8メッシュ篩を通した、乾燥しているアルミナで被覆されたTiO21000グラムを、ポリエチレンフィルム上に1cmの厚さで広げて、ジイソオクチルホスフィン酸(フルカケミカル社)13.6グラムを、円を描くように滴下させながら添加した。大きなスパチュラにより顔料を混合し、1ガロンの広口ナルゲン瓶へ移しかえた。顔料を収容している瓶を、ローラミル上で10分間回転させた。回転させた顔料を蒸気で粉砕して仕上がり顔料を製造した。
【0087】
それぞれ分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0088】
比較例
実施例1に記載したように、塩素法により調製され、含水アルミナによって被覆されたルチルTiO2を、乾燥顔料の重量に基づいて0.60重量%のトリエタノールアミンによって処理した。
【0089】
それぞれ分散およびレーシングを評価するために、仕上がり顔料を、75%および50%のTiO2を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチに取り入れた。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
分散およびレーシング性能の評価
レーシングの評価
無機粒子状固体を含有するポリマーの高温安定性は、市販のポリマーフィルム、特にポリエチレンフィルムの用途についての重要な性質である。ボイディング、すなわち「レーシング」は、それに伴うフィルムの破損を引き起こす。レーシングは、特定の重量%の無機粒子状固体の充填および加工処理温度における揮発の尺度であると考えられている。
【0092】
本発明に関しては、調製された50%TiO2濃縮物試料について、ハケレコード9000コンピュータ制御トルクレオメーターを使用し、レーシング試験を実施した。その結果として、TiO2125gおよびダウケミカル社製のLDPE722、125gを乾式混合し、50rpmで回転している回転子を備えた、75℃に予熱されたチャンバに添加した。TiO2/LDPEの混合物を添加した1分後に、チャンバの温度を105℃に上げた。混合過程で発生した摩擦熱により、定常状態の混合物が得られるまで、TiO2のLDPEへの添加割合を上昇させることができた。濃縮物を、混合チャンバから取り出し、カンバーランドクラッシャーに入れ、微細に粒状化された50%濃縮物の試料を得た。粒状化された濃縮物を、23℃、50%の相対湿度において48時間コンディショニングした。次いで、これらの濃縮物を、ダウケミカル722LDPEの中に溶かし込み、最終フィルムにTiO2を20%充填した。
【0093】
レーシング評価は、キャストフィルムスロットダイを装備した1インチ押出機によって行われた。ダイ625°F、締付けリング515°F、ゾーン3 415°F、ゾーン2 350°F、およびゾーン1 300°Fの温度プロフィールを使用した。スクリュー速度を約90rpmに設定した。押出機に接続して設置された25.4cmの研磨されたクロムのチルロールを使用して、75μmのフィルム厚を維持し、フィルムを冷却し輸送した。チルロールのダイリップからの距離は約22mmであり、温度は約27℃であった。
【0094】
TiO2/LDPEの混合物をホッパに配した後、フィルムに白色の薄い色合いが出現するまで、材料を排出すようにした。フィルムのTiO2濃度が確実に安定するようにするために、レーシングの観察を記録してフィルム試料を得る前に、2分の時間間隔をおいた。次いで、フィルムが透明に変化するまで、押出機をLDPEにより浄化した。黒色の表面上に置かれたフィルム試料に発生している孔の相対的な大きさおよび数を算出することによって、レーシング性能を決定した。1.0〜3.0のランク付けシステムを使用した。1のランクは、レーシングなしのフィルムに、2はレーシングが開始しているフィルムに、3は極端なレーシングを有するフィルムに与えた。0.1の増分を用いて、試料間の相対的な性能を表示した。
【0095】
分散試験
小規模の実験室用押出し装置を使用して、押出機の金網パックの金網上に捕捉された無機粒子状固体の相対的な量を測定することにより、無機粒子状固体の有機ポリマー中への分散を測定した。ハケ3000レオミックス混合機を使用して調製した、低密度ポリエチレンへの75%TiO2濃縮物を用いて試験を行った。ハケ9000レコードトルクレオメーターによって混合機を制御し、監視した。微粉状のTiO2337.7グラムおよびイクィスター社製のNA209 LDPE112.6グラムを乾式混合し、50rpmで稼働している回転子を有する75℃の混合チャンバに添加した。混合機の温度をプログラムし、乾燥混合物が混合チャンバに導入された1分後に120℃に上昇するようにした。混合物が定常状態に到達した後、さらに3分間、化合物を混合した。化合物をチャンバから取り出し、カンバーランド粉砕機を使用して粒状にした。
【0096】
キリオン単軸スクリュー押出機、長さ:直径の比が20:1のスクリューを装備したモデルKL−100を使用して、分散試験を行った。ゾーン1からダイまで、それぞれ330、350、390および380°Fで押出機を予熱し、70rpmで運転した。イクィスター社製のNA952 LDPE、1000グラムの浄化剤を装置の中に通し、新しい金網パックを取り付けた。金網パックは、ダイから押出機のスロートへ向かって、40/500/200/100メッシュの金網からなっていた。温度が安定した後、粒状化された75%のTiO2濃縮物133.33グラムを、押出機に供給した。次いで、NA952浄化剤1500グラムが供給され、供給ホッパが空になった。LDPE浄化剤が押し出された後、金網を取り出し、分離し、蛍光X線分光計による測定値を基に相対係数法を使用して試験した。パック中の100、200および500メッシュの金網について、1秒当たりのTiO2のカウント数を得、それを合計して分散の結果を得た。1秒当たりのTiO2のカウント数が小さいものほど望ましい。5000未満のカウント結果は、優れた分散を表すと考えられる。
【0097】
硫化亜鉛との反応性
(リトポンの反応性成分)
リトポン、硫化亜鉛含有組成物は、さまざまなポリマー組成物において、フィラーまたはエクステンダーとして使用される。アリゾナケミカル社から入手できるシルファットK(登録商標)などのリン酸化ポリエンによって処理されたTiO2顔料が、約20から25℃を超える温度において硫化亜鉛と接触させられると有害な臭いが発生する。対照的に、本発明の顔料が同一条件下で硫化亜鉛と接触させられても臭いは発生しない。
【0098】
硫化亜鉛の反応性
実施例17
二酸化チタンおよびリン酸化ポリエンを含む顔料製品である、ミレニウムケミカルズ社製RCL−4、5グラムを、硫化亜鉛1グラムとともに密封された小瓶内に加えた。小瓶を200℃に10分間加熱し、次いで、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法を組合せた方法(GC/MS)によって、気相の一部を分析した。硫化ジメチルが検出された。試験用の小瓶を密封していない場合は、有害な臭いがした。
【0099】
実施例18
実施例11のn−オクチルホスフィン酸ナトリウム塩によって処理されたTiO2顔料を使用して、実施例17において用いられたGC/MS試験を繰り返した。有害な臭いは検出されず、有機硫黄成分は、GC/MSによっては検出されなかった。
【0100】
実施例19
実施例16のジイソオクチルホスフィン酸によって処理されたTiO2顔料を使用して、実施例17において使用されたGC/MS試験を繰り返した。有害な臭いは検出されず、有機硫黄成分は、GC/MSによっては検出されなかった。
【0101】
本発明を、上記のようにある程度詳細に記述し例示してきたので、特許請求の範囲はその文言に限定されず、特許請求の範囲のそれぞれの構成要素およびその均等物の表現に相当する技術的範囲が与えられるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)無機粒子状固体、および
(b)次式を有する有機ホスフィン酸化合物
【化1】

(式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである)
を含む処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項2】
無機粒子状固体が、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛および雲母からなる群から選択される請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項3】
無機粒子状固体が二酸化チタンである請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項4】
無機粒子状固体が、ポリアルコール、アルカノールアミン、無機リン酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択された化合物によって処理されている請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項5】
さらに無機酸化物を含んでいる請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項6】
前記無機酸化物が、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選択される請求項5に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項7】
1がヘキシル−、オクチル−、イソオクチル−または2−エチルヘキシル−である請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項8】
有機ホスフィン酸化合物が、無機粒子状固体を有機ホスフィン酸化合物によって処理する前の無機粒子状固体の重量に基づいて、約0.1重量%から約5重量%の量で存在している請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項9】
有機ホスフィン酸化合物が、無機粒子状固体を有機ホスフィン酸化合物によって処理する前の無機粒子状固体の重量に基づいて、約5重量%から約30重量%の量で存在している請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物。
【請求項10】
ポリマーおよび請求項1に記載の処理された無機粒子状固体組成物からなるポリマーマトリックス。
【請求項11】
ポリマーがポリエチレンである請求項10に記載のポリマーマトリックス。
【請求項12】
処理された無機粒子状固体組成物の量が、ポリマーマトリックスの重量に基づいて、約50重量%から約85重量%である請求項11に記載のポリマーマトリックス。
【請求項13】
無機粒子状固体が二酸化チタンである請求項12に記載のポリマーマトリックス。
【請求項14】
(i)無機粒子状固体を含むスラリーを濾過する工程、および(ii)濾過後の無機粒子状固体および有機ホスフィン酸化合物を一緒にする工程を含み、有機ホスフィン酸化合物は次式を有する
【化2】

(式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基である、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基である、
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである)
処理された無機粒子状固体組成物を製造する方法。
【請求項15】
無機粒子状固体が、乾燥工程の前に有機ホスフィン酸化合物によって処理される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
無機粒子状固体が、粉砕工程の間に有機ホスフィン酸化合物によって処理される請求項14に記載の方法。
【請求項17】
無機粒子状固体が濾過ケークの形態をしているときに、無機粒子状固体が有機ホスフィン酸化合物によって処理される請求項14に記載の方法。
【請求項18】
乾燥した無機粒子状固体および有機ホスフィン酸化合物を一緒にする工程を含み、該有機ホスフィン酸化合物が次式を有する
【化3】

(式中、R1は2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
2は水素または2から22個の炭素原子を有する有機基であり、
Mは水素、アンモニウム、有機アンモニウムまたは金属イオンである)
処理された無機粒子状固体を製造する方法。
【請求項19】
無機粒子状固体が、微粉化段階の間に有機ホスフィン酸化合物によって処理される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
無機粒子状固体が二酸化チタンである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
無機粒子状固体が二酸化チタンであり、R1がヘキシル−、オクチル−、イソオクチル−または2−エチルヘキシル−である請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2007−501309(P2007−501309A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522562(P2006−522562)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/021636
【国際公開番号】WO2005/011851
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506036493)ミレニアム インオーガニック ケミカルズ、 インコーポレイテッド (11)
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM INORGANIC CHEMICALS, INC.
【Fターム(参考)】