説明

有機ポリマーモノリス、その製造方法、およびその用途

【課題】
通液の際の圧力負荷を増やさずに分離性能を上げるために必要となる制御された細孔構造を有し、かつ芳香族低分子化合物の分離も良好で、溶媒交換も自由にできる有機ポリマーモノリス、その製造方法、およびそれを用いた化学物質分離用具を提供すること。
【解決手段】
水酸基および/またはアミド基を有するモノマーに由来するモノマー単位を20質量%以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする有機ポリマーモノリス、その製造方法、
およびそれを用いた化学物質分離用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ポリマーモノリス、その製造方法、およびそれを用いた化学物質分離用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学物質分析用カラム(たとえば液体クロマトグラフィー用カラム)、化学物質濃縮用カラム(またはカートリッジ)、化学物質除去用カラム(またはカートリッジ)などの化学物質分離用具としては、適当な容器(カラム、カートリッジなど)に、多孔質の球状粒子、破砕粒子、繊維などの充填剤を充填したものが主に使用されてきた。充填剤の種類は、シリカゲル系、有機ポリマー系、アルミナ、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、活性炭、炭化ケイ素など多岐にわたる。特に、液体クロマトグラフィー用カラムとしては、シリカゲル系または有機ポリマー系の多孔質球状粒子を充填したものが大多数を占める。
【0003】
これら化学物質分離用具の分離性能を上げるためには、充填密度を上げる、充填剤の数平均直径を小さくする、のいずれかの方法が通常用いられる。しかし、前者では、充填剤の形状や直径のばらつきが原因となって充填密度が思うように上がらず、後者では、カラムや装置への圧力負荷が大きくなるため、処理速度に限界を生じやすい。また、内径1mm以下のミクロポアカラムやキャピラリーカラムでは、充填剤を保持するために必要なフリットのデッド・ボリュームが分離性能を下げる要因となりやすい。
【0004】
上記の不都合を改善する手段として、カラム内重合(希釈剤存在下での重合)によってロッド状の多孔質連続体(モノリス)を作る技術がある。重合条件を厳密に調整すれば、流量の確保を担うμmサイズの細孔(スルーポア)と、化学物質との相互作用を担うnmサイズの細孔(メソポア)との両方を持つモノリスを作ることができる。このようなモノリスを用いれば、圧力負荷を増やさずに分離性能を上げることが可能になる。さらに、モノリスとカラム内壁面との密着性さえよければ、また必要に応じて密着を促進するような工夫(壁面とモノリスとの共有結合など)を施せば、フリットも不要となる。
【0005】
モノリスとしては、シリカゲルモノリス(特許文献1、2;非特許文献1、2)と有機ポリマーモノリス(特許文献3〜5;非特許文献2〜8)が研究されており、これらを分離用担体とする液体クロマトグラフィー用カラムはいくつか市販されている。前者では逆相クロマトグラフィー用のChromolithTM(Merck社)、後者ではタンパク質のイオン交換または逆相クロマトグラフィー用のSwiftTM(Isco社)が例として挙げられる。
【0006】
上記のうちシリカゲルモノリスは、pH2以下またはpH9以上の条件で使うと性能が低下しやすく、表面修飾なしでの多機能化が難しい、という欠点を持つ。それに対して有機ポリマーモノリスは、その合成に利用できるモノマーの種類や重合方法の多様さから、化学的安定性(例えばpH1〜13で使用可能)、および分離に必要な付加機能(例えば疎水性調節、特定分子認識能)を、表面修飾なしでも容易に付与することができる、という利点を持つ。
【0007】
ところが現実には、有機ポリマーモノリスの場合は、シリカゲルモノリスに比べて合成条件と形成される細孔構造との関係がより複雑であるため、スルーポアおよびメソポアの大きさを独立に再現性よく調整することが難しい。たとえば、分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離するためには、モード直径が2〜50nmのメソポ
アを多く作って比表面積50m2/g以上を確保し、同時にモード直径が0.5〜10μ
mのスルーポアを充分に形成する必要がある。しかし、この条件を満足させることは極めて難しく、ジビニルベンゼンやエチルスチレンのような疎水性の極めて高い芳香族モノマーをモノマー総量に対して88〜100質量%用いた有機ポリマーモノリス、およびエチレンジメタクリレート(「エチレングリコールジメタクリレート」ともいう。)とグリシジルメタクリレートとを、エチレンジメタクリレート(架橋剤)の配合比を40質量%以下として共重合させた有機ポリマーモノリスにおいて、ごく一部の条件で達成されているに過ぎない(非特許文献3〜8)。
【0008】
ところが、ジビニルベンゼンやエチルスチレンのような疎水性の極めて高い芳香族モノマーをモノマー総量に対して75質量%よりも多く用いると、有機ポリマーモノリスへの芳香族低分子化合物の吸着が強すぎて、有機ポリマーモノリスを液体クロマトグラフィー用カラムとして用いるときにクロマトグラムのピークの遅れや広がりを生じたり、化学物質濃縮用カートリッジとして用いるときに目的物質の溶出効率が低下したりすることが多い。また、有機ポリマーモノリスの表面が水に濡れにくくなるため、化学物質除去用カートリッジとして用いるときに除去効率が低下する場合もある。
【0009】
一方、適度な疎水性を有するエチレンジメタクリレートとグリシジルメタクリレートとの共重合体での成功例は、架橋剤であるエチレンジメタクリレートをモノマー総量に対して40質量%以下の範囲で配合したものに限られるので、生成するポリマーの膨潤収縮の抑制が不充分となり、液体クロマトグラフィー用カラムとして用いるときに溶媒交換が自由にできない。他に、適度な疎水性を有する架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、モノマー総量に対して70質量%以上用いた例もあるが、比表面積が50m2/g以上で、かつスルーポアのモード直径が0.5〜10μm、という条件は、満
足できていない(非特許文献5、7)。
【0010】
したがって、架橋剤を50質量%以上に増やした場合でも、疎水性を望ましい範囲に調整しつつ、分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離するための上記条件(比表面積が50m2/g以上、かつスルーポアのモード直径が0.5〜10μm
)を満足させることが、有機ポリマーモノリスの実用化への重要な未解決課題となっている。
【0011】
このような事情から、有機ポリマーモノリスを分離用担体とする通常の液体クロマトグラフィー用カラムとして報告もしくは市販されているもののほとんどが、分子量1,000を超える高分子、たとえばタンパク質やポリペプチドの分離という用途に限られている。分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離できる有機ポリマーモノリスは、圧力負荷を回避するために電気浸透流を利用する特別な形態(キャピラリー電気クロマトグラフィー用)を除いて、いまだ実現されていない。キャピラリー電気クロマトグラフィーは、高めの理論段数を実現しやすい反面、電気伝導性の官能基を必ず導入しなければならないという制限があるうえ、カラム間の性能再現性が得られにくいという問題があるため、汎用の分析手段としては採用しづらく、カラムの製品化も難しい。
【特許文献1】国際公開第WO95/03256号パンフレット(米国特許5624875号明細書)
【特許文献2】国際公開第WO98/29350号パンフレット(米国特許6207098号明細書)
【特許文献3】国際公開第WO93/07945号パンフレット(特表平7−501140号公報)
【特許文献4】米国特許5334310号明細書
【特許文献5】米国特許5453185号明細書
【非特許文献1】H.Minakuchi他、“Anal.Chem.”、(米国)、1996年、第68巻、p.3498
【非特許文献2】H.Zou他、“J.Chromatogr.A”、(米国)、2002年、第954巻、p.5
【非特許文献3】J.m.J.Frechet他、“Chem.Mater.”、(米国)、1995年、第7巻、p.707
【非特許文献4】J.m.J.Frechet他、“Chem.Mater.”、(米国)、1996年、第8巻、p.744
【非特許文献5】K.Irgum他、“Chem.Mater.”、(米国)、1997年、第9巻、p.463
【非特許文献6】J.m.J.Frechet他、“Chem.Mater.”、(米国)、1998年、第10巻、p.4072
【非特許文献7】A.B.Holmes他、“Adv.Mater.”、(ドイツ)、1999年、第11巻、p.1270
【非特許文献8】P.Coufal他、“J.Chromatogr.A”、(米国)、2002年、第946巻、p.99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、化学物質、なかでも分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離できる有機ポリマーモノリスの実現を鋭意検討してきたが、通液の際の圧力負荷を増やさずに分離性能を上げるために必要となる制御された細孔構造を有し、かつ、液体クロマトグラフィー用カラムとして用いるときの芳香族低分子化合物の分離性能が良好で溶媒交換も自由にでき、化学物質濃縮用カートリッジとして用いるときの溶出効率が良好で、化学物質除去用カートリッジとして用いるときの除去効率も良好な有機ポリマーモノリスを作ることは、従来の技術だけでは極めて困難であると判断された。
【0013】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものであり、上述の従来技術の欠点を解消することが可能な有機ポリマーモノリスを提供することを目的の一つとする。
【0014】
また、該有機ポリマーモノリスの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0015】
更に、該有機ポリマーモノリスを用いた化学物質分離用具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下のような本発明の有機ポリマーモノリスにより、上記課題を解決することができた。特に、架橋剤(重合性官能基を複数個有するモノマー)を50質量%以上含有し、かつ水酸基および/またはアミド基(−CONH2、およ
び/または−CONH−)を含有するモノマーを20質量%以上含むモノマー混合物を用いて製造された有機ポリマーモノリスが良好な結果を与える、ということが分かった。
【0017】
すなわち、本発明は、例えば下記の事項からなる。
(1)水酸基および/またはアミド基を有するモノマーに由来するモノマー単位を20質量%以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする有機ポリマーモノリス。
(2)架橋剤に由来するモノマー単位を50質量%以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上であることを
特徴とする有機ポリマーモノリス。
(3)モノマー混合物を、希釈剤および重合開始剤の存在下で重合させることによって生成され、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基
および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有し、
該希釈剤は、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有する
ことを特徴とする前項(1)または(2)に記載の有機ポリマーモノリス。
(4)モノマー混合物を、希釈剤、重合開始剤および非架橋性ポリマーの存在下で重合させることによって生成され、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有する
ことを特徴とする前項(1)または(2)に記載の有機ポリマーモノリス。
(5)前記希釈剤が、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有することを特徴とする前項(4)に記載の有機ポリマーモノリス。
(6)前記の非架橋性ポリマーが、ポリスチレンであることを特徴とする請求項(4)または(5)に記載の有機ポリマーモノリス。
(7)前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーが、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−ビニルアルキルアミド、4−(ヒドロキシメチル)スチレン、および4−(アセトアミドメチル)スチレンからなる群から選ばれた1種または2種以上のモノマーであることを特徴とする前項(1)、(3)〜(6)のいずれかに記載の有機ポリマーモノリス。
(8)前記の水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤が、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサン、ヘプタン、オクタンまたはイソオクタンからなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物であることを特徴とする前項(3)、(5)〜(7)のいずれかに記載の有機ポリマーモノリス。
(9)モノマー混合物を、希釈剤および重合開始剤の存在下で重合させる工程を含み、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有し、
該希釈剤は、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有する
ことを特徴とする前項(1)〜(8)のいずれかに記載の有機ポリマーモノリスの製造方法。
(10)モノマー混合物を、希釈剤、重合開始剤および非架橋性ポリマーの存在下で重合させる工程を含み、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有する
ことを特徴とする前項(1)〜(8)のいずれかに記載の有機ポリマーモノリスの製造方法。
(11)前記希釈剤が、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有する希釈剤であることを特徴とする前項(10)に記載の製造方法。
(12)前記非架橋性ポリマーが、ポリスチレンであることを特徴とする前項(10)または(11)に記載の製造方法。
(13)前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーが、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−ビニルアルキルアミド、4−(ヒドロキシメチル)スチレン、および4−(アセトアミドメチル)スチレンからなる群から選ばれた1種または2種以上のモノマーであることを特徴とする前項(9)〜(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)前記の水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤が、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサン、ヘプタン、オクタンまたはイソオクタンからなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物であることを特徴とする前項(9)、(11)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。(15)分離用担体が、前項(1)〜(8)のいずれかに記載された有機ポリマーモノリスまたは表面修飾された該有機ポリマーモノリスであることを特徴とする化学物質分離用具。
(16)液体クロマトグラフィー用カラムであることを特徴とする前項(15)に記載の化学物質分離用具。
(17)化学物質濃縮用カラムまたは化学物質濃縮用固相抽出カートリッジであることを特徴とする前項(15)に記載の化学物質分離用具。
(18)化学物質除去用カラムまたは化学物質除去用固相抽出カートリッジであることを特徴とする前項(15)に記載の化学物質分離用具。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機ポリマーモノリスは、制御された細孔構造を有しているため、該有機ポリマーモノリスを用いると、化学物質、なかでも分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離することができる。
【0019】
さらに、本発明の製造方法によれば、上記のような優れた性能を有する有機ポリマーモノリスを提供することができる。
【0020】
また、本発明の有機ポリマーモノリスを用いれば、通液の際の圧力負荷が小さく、かつ芳香族低分子化合物の分離性能も良好で、溶媒交換も自由にできる化学物質分離用具を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明の化学物質分離用具は、芳香族低分子化合物の分離性能が良好で溶媒交換も自由にできる液体クロマトグラフィー用カラムとして、溶出効率が良好な化学物質濃縮用固相抽出カートリッジとして、あるいは除去効率が良好な化学物質除去用固相抽出カートリッジとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
[有機ポリマーモノリス]
本発明でいうモノリスとは、ロッド状の多孔質連続体である。
【0024】
本発明の有機ポリマーモノリスは、水酸基および/またはアミド基(−CONH2、お
よび/または−CONH−)を有するモノマーに由来するモノマー単位を20質量%(ただし、該有機ポリマーモノリスの質量を100質量%とする。)以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上
である。
【0025】
また、本発明のもう1つの有機ポリマーモノリスは、架橋剤に由来するモノマー単位を50質量%(ただし、該有機ポリマーモノリスの質量を100質量%とする。)以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上である。
【0026】
前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーに由来するモノマー単位とは、例えば、水酸基含有モノマーがグリセリンジメタクリレートの場合、以下のような単位を
いう。なお、このグリセリンジメタクリレートは、後で詳述する架橋剤(重合性官能基を複数個有するモノマー)でもある。
【0027】
【化1】

【0028】
本発明の有機ポリマーモノリスを構成する前記の水酸基および/またはアミド基(−CONH2、および/または−CONH−)を有するモノマーに由来するモノマー単位の含
量は、該有機ポリマーモノリス100質量%に対して、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。この含量は、本発明に用いられるモノマー混合物中の当該モノマーの仕込量で調整することができる。
【0029】
本発明で言うスルーポアとは、モノリス骨格間の隙間に相当するμmサイズのマクロな細孔(貫通孔)であり、メソポアとは、モノリス骨格の中に多数形成されたnmサイズのミクロな細孔である。また、モード直径とは、水銀圧入法またはBET法で、細孔直径をP、細孔容積をVとし、横軸にP、縦軸に△V/△(logP)をプロットした細孔サイズ分布曲線において、縦軸値が最高ピークを与えるPの値を意味する。
【0030】
水銀圧入法によるスルーポアのモード直径は、0.5〜10μmであり、1〜8μmが好ましく、1〜6μmがさらに好ましい。0.5μm未満では圧力負荷が大きくなり、処理速度が上がりにくくなる傾向があり、10μmより大きいとモノリスの空隙率が大きくなり、モノリスの物理的強度を保ちにくくなる傾向がある。
【0031】
BET法によるメソポアのモード直径は、2〜50nmであり、2〜40nmが好ましく、3〜30nmがさらに好ましい。2nm未満ではメソポア内に入り込める物質が限定されるためにモノリスが化学物質を分離する性能が低下する傾向があり、50nmより大きいと比表面積が減少しやすいために前記分離性能が低下する傾向がある。
【0032】
BET法による比表面積は、50m2/g以上であり、100m2/g以上が好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。50m2/g未満では充分な分離性能が得られにくくなる傾向がある。
【0033】
[有機ポリマーモノリスの製造方法]
重合
本発明においては、モノマー混合物を、希釈剤、重合開始剤および必要に応じて加えられる非架橋性ポリマーの存在下に重合させることで有機ポリマーモノリスが生成される。上記の重合反応により、有機ポリマーモノリスは、塊状の重合物、たとえばゲル化した重合物(ゲル化物)として得られる。また、この重合物(有機ポリマーモノリス)は、希釈
剤とは相分離し、スルーポアおよびメソポア内に希釈剤が取り残された状態で得られる。
【0034】
本発明における重合は、モノマー混合物、希釈剤、重合開始剤、および必要に応じて加えられる非架橋性ポリマーをよく混ぜて得られた溶液または懸濁液を、重合用容器内に充填して行なわれることが好ましい。なお、本発明においては、架橋剤(重合性官能基を分子内に複数個有するモノマー)と非架橋性モノマー(重合性官能基を分子内に1個だけ有するモノマー)とをあわせてモノマー混合物と言う。
【0035】
前記重合用容器の大きさ、形、材質は、特に限定されないが、重合後にモノリスを取り出さないで、そのまま化学物質分離用具に加工できる方が有利であることを考えると、液体クロマトグラフィー用カラムやガスクロマトグラフィー用カラムの製造に通常用いられる空カラム(ステンレス鋼製、ポリマー製、ガラス製)、配管用チューブ(ステンレス鋼製、ポリマー製)、キャピラリーチューブ(溶融シリカゲル製)、化学物質濃縮用(または除去用)固相抽出カートリッジの製造に用いられる空カートリッジ(ポリマー製、ガラス製)などが好ましい。
【0036】
上記溶液または懸濁液が充填された重合用容器の両端は、重合前に閉じておくことが普通であるが、中央部または下部にあたる必要部分(端部の切断後に、化学物質分離用具として使用する部分)の重合が完了した時点で、両端または一端に上記溶液または懸濁液が固化せずに残るような条件下では、液体部分が外気を遮断してくれるので、必ずしも容器の端を閉じておく必要はない。たとえば、水浴に浸けて熱重合する場合、細長い配管の場合は下端だけを閉じて開放上端の数cm分を水面上に出してもよく、U字型配管やたわみやすいキャピラリーチューブの場合は開放両端の各々数cm分を水面上に出してもよい。また、両端を閉じた場合でも、上端または両端の数cm分を意図的に水面上に出して熱重合を行なったり、重合途中で上端または両端に上記溶液または懸濁液を追加したりすることで、モノリスの分断や重合容器内壁との密着不良を防止できることがある。また、光重合の場合は、上端または両端の数cm分をマスクして光が当たらないようにしておいてもよい。
【0037】
一方、重合時の体積収縮を逆に利用して重合用容器からモノリスを抜き出し、ちょうどよいサイズの別容器に密着挿入する、モノリスの表面を樹脂などで固める、などの方法を採ってもよく、それらの場合にも、重合時に容器の端を閉じておく必要はない。
【0038】
<モノマー混合物>
〔架橋剤〕
本発明に用いられる架橋剤とは、分子内に重合性官能基を複数個有するモノマーである。該重合性官能基としてはエチレン性二重結合が好ましい。架橋剤が分子内にエチレン性二重結合を有する場合は、エチレン性二重結合は架橋剤分子内に2個以上あればよい。
【0039】
本発明に用いられる架橋剤としては、(メタ)アクリレート系架橋剤、(メタ)アクリルアミド系架橋剤、芳香族架橋剤などが挙げられるが、架橋反応に関わる官能基間の分子内距離が短いものほど、生成するポリマーの膨潤収縮を抑制する効果が大きいことを考えると、グリセリンジメタクリレート、エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、またはそれらのうち2種以上の混合物がより好ましい。これらの中でも、グリセリンジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミドは、後述する水酸基および/またはアミド基を有するモノマーの性質も兼ね備えているのでさらに好ましい。
【0040】
その他の架橋剤も、本発明の有機ポリマーモノリスの疎水性を望ましい程度に調整する目的で適宜使用することができる。疎水性を最も高めたい場合にはジビニルベンゼンが好ましく用いられる。
【0041】
本発明に用いられるモノマー混合物中の前記架橋剤の比率は、モノマー混合物の総量(100質量%)に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であるとさらに好ましい。架橋剤の比率が上記範囲にあると、生成するポリマーの膨潤収縮を抑制する効果が充分にあるため好ましい。但し、ジビニルベンゼンのように疎水性の極めて高い芳香族架橋剤などの場合は、75質量%以下にとどめるのが好ましい。例えば、ジビニルベンゼンを75質量%より多く用いると、有機ポリマーモノリスへの芳香族低分子化合物の吸着が強すぎて、液体クロマトグラフィー用カラムとして用いるときにクロマトグラムのピークの遅れや広がりを生じたり、化学物質濃縮用固相抽出カートリッジとして用いるときに目的物質の溶出効率が低下したりすることが多い。また、有機ポリマーモノリスの表面が水に濡れにくくなるため、化学物質除去用固相抽出カートリッジとして用いるときに除去効率が低下する場合もある。
【0042】
〔水酸基および/またはアミド基を有するモノマー〕
本発明においては、前記重合によって生成された重合体間または重合体内での水素結合による物理架橋(以下、「水素結合による物理架橋」という。)によって空間が仕切られることを利用して、スルーポアを形成することができる。このような水素結合による物理架橋を利用したスルーポアの形成のためには、水素結合可能な官能基を有するモノマーが、モノマー混合物中に含まれることが必要である。そのようなモノマーの代表例は、水酸基および/またはアミド基を有するモノマーである。水酸基および/またはアミド基を有するモノマーは、上述の架橋剤とは別のモノマー、すなわち非架橋性モノマー(重合性官能基を1個のみ有するモノマー)でもよいし、架橋剤の性質を兼ね備えるモノマー(重合性官能基を複数個有するモノマー)でもよい。
【0043】
本発明に用いられる水酸基および/またはアミド基を有するモノマーとしては、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−ビニルアルキルアミド、4−(ヒドロキシメチル)スチレン、4−(アセトアミドメチル)スチレンなどが好ましい。前記モノマーが架橋剤としての役割も兼ねれば生成するポリマーの膨潤収縮の抑制にも寄与できることを考えると、グリセリンジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミドがより好ましく、前記モノマーが水酸基を有していれば有機ポリマーモノリスを修飾を施しやすいという利点があることを考えると、グリセリンジメタクリレート、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミドがさらに好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明に用いられるモノマー混合物中の前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーの比率は、モノマー混合物の総量(100質量%)に対して20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーの比率が上記範囲にあると、有機ポリマーモノリスにおいて水素結合による物理架橋によってスルーポアが形成されるという効果が十分に発揮されるため好ましい。
【0045】
本発明に用いられるモノマー混合物は、その総量(100質量%)に対して、架橋剤(重合性官能基を複数個有するモノマー)を50質量%以上含有すると共に、水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有するという条件さえ満たしていればよく、さらに、非架橋性モノマーであって、水酸基またはアミド基のいずれも有さな
いモノマーを含有していてもよい。
【0046】
このようなモノマーとして、たとえば、最終的に得られる有機ポリマーモノリスが化学物質を分離する性能を損なわない範囲で、エチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン、グリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートなどを加えることができる。
【0047】
<非架橋性ポリマー>
本発明の一つの形態においては、本発明での重合反応に関与することなく一定空間を占有し続ける物質を反応系に添加することによって、該物質をテンプレートとして、スルーポアを形成することができる。そのような物質の代表例は、非架橋性ポリマーであり、具体的にはエチレン性二重結合などのラジカル重合性官能基を持たないポリマーである。スルーポアのこのような形成方法は、前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーの添加(より好ましくは、水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤(化合物)を、希釈剤の総量に対して85質量%以上含む希釈剤の併用)によるスルーポア形成と組み合わせて用いる場合に、特に効果を発揮する。
【0048】
前記非架橋性ポリマーとしては、特に限定はないが、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、などが挙げられる。これらの中では、比較的安定して特定の平均分子量を有するポリマーを複数種入手できることや、疎水性が中程度から高程度までの比較的広範囲の系において、前記モノマー混合物や前記希釈剤との相溶性に優れることを考えると、ポリスチレンが好ましく用いられる。
【0049】
これらは単独で用いてもよいし、種類や平均分子量の異なるものを複数組み合わせて用いてもよい。
【0050】
なお、重合時に前記非架橋性ポリマーが前記モノマー混合物や前記希釈剤に溶けていることは必須ではなく、前記非架橋性ポリマーの微液滴または微粒子が他の原料に懸濁または乳濁した状態で重合を進行させてもよい。例えば前記非架橋性ポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である場合は、水溶液にしたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を32℃未満で他の原料に乳濁させた後、32℃以上でモノマー混合物の重合を行なえば、ミセルが固化したサイズに応じて生成したポリマー中にスルーポアを空けることができ、かつ重合後に32℃未満で水洗することによって容易にポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を除去することが可能である。
【0051】
<希釈剤>
本発明に用いられる希釈剤(以下「溶媒」ともいう。)としては、前記のモノマー混合物、重合開始剤、および必要に応じて加えられる非架橋性ポリマーとの溶液または充分均一な懸濁液を作れるものであれば特に制限はなく、モノマー混合物中に極性の高い化合物が多い場合は、N,N−ジメチルホルムアミド、1−プロパノール、水などの極性溶媒を、単独でまたは他の溶媒と組み合わせて用いてもよい。また、有機ポリマーモノリスのスルーポアの形に規則性を持たせる目的で、液晶のような配向性・自己集積性を有する物質を希釈剤として用いてもよい。
【0052】
なお本発明においては、水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを、モノマー混合物の総量に対して20質量%以上含有するモノマー混合物が用いられるが、非架橋性ポリマーの助けを借りない場合は、水素結合による物理架橋によってスルーポアが形成されるという効果を薄れさせないため、水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤(化合物)を希釈剤の総量に対して85質量%以上含む希釈剤を使用することが好ましい。
【0053】
水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない溶媒としては、入手のしやすさを考えると、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンがより好ましく、架橋剤としてよく用いられる(メタ)アクリレート系またはスチレン系のモノマーや、非架橋性ポリマーとしてよく用いられる非架橋ポリスチレンとの相溶性を考えると、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサンがさらに好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0054】
非架橋性ポリマーを使用しない場合であって、メタノール、水、酢酸などの、水酸基、アミド基またはカルボキシル基を有する溶媒を使用する場合には、その使用量は希釈剤総量に対して15質量%未満とする必要がある。また、非架橋性ポリマーを使用する場合であっても、このような範囲とすることが好ましい。15質量%以上では、水酸基および/またはアミド基を有するモノマーによる物理架橋が妨げられ、スルーポアの形成が充分に行なわれなくなる。
【0055】
本発明において、前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマー、および水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を組み合わせて用いた場合の水素結合による物理架橋の存在は、重合物のゲル化の過程を動的光散乱法で観察して、散乱緩和時間と散乱強度との関係を自己相関関数分布としてモニターしたときの、自己相関関数の減衰が遅れる現象や、生成したモノリスのフーリエ変換赤外吸収スペクトルで、水酸基またはアミド基の関わる吸収の一部が低波数シフトする現象などによって確認することができる。
【0056】
本発明に用いられる希釈剤の比率は、モノマー混合物、希釈剤、および必要に応じて加えられる非架橋性ポリマーの総和に対して40〜90質量%であることが好ましく、50〜85質量%がより好ましく、60〜80質量%がさらに好ましい。40質量%未満では、モノリスのスルーポアの容積が不足して、通液の際に圧力負荷が大きくなる傾向がある。90質量%を超えると、スルーポアの容積が大きくなりモノリスの物理的強度が低下する傾向がある。
【0057】
<重合開始剤>
本発明に用いられる重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、レドックス重合開始剤などが挙げられるが、適用範囲の広さを考えると、ラジカル性熱重合開始剤が好ましい。入手のしやすさを考えると、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4―ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ジクミル、過酸化ラウロイルのような有機過酸化物がより好ましく、取り扱いのしやすさを考えると、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4―ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系化合物がさらに好ましい。
【0058】
前記重合開始剤の比率は、モノマー混合物100質量部に対して0.1〜3質量部であることが好ましく、0.1〜2質量部であるとより好ましく、0.2〜1質量部であるとさらに好ましい。前記重合開始剤の比率が0.1質量部未満では、重合が完結するまでに要する時間が長くなる傾向があり、3質量部よりも多いと、スルーポアが充分に形成されない傾向があり、またスケールによっては発熱量が大きくなる傾向がある。
【0059】
<重合条件>
本発明において重合を行なう温度は、熱重合、光重合、レドックス重合などの重合メカニズムの違いにより好適な範囲が異なるため、特に限定されないが、たとえば最もよく行なわれる熱重合の場合は、40〜100℃が好ましい。スルーポアを充分に形成しやすい
ことを考えると、45〜80℃がより好ましく、50〜70℃がさらに好ましい。重合を行なう温度が40℃未満では、重合が完結するまでに要する時間が長くなる傾向があり、100℃より高いと、スルーポアが充分に形成されない傾向があり、またスケールによっては発熱量が大きくなる傾向がある。
【0060】
なお、細孔構造の微調整のために必要であれば、温度を段階的または連続的に変化させてもよい。もちろん、光重合やレドックス重合の場合は、重合を行なう温度が40℃未満であっても多大な時間を要せずに重合を完結させ得ることが多い。
【0061】
本発明において重合を行なう時間は、重合メカニズム、重合開始剤の種類と使用量、重合温度などにより好適な範囲が異なるため、特に限定されないが、たとえば最もよく行なわれる熱重合の場合は、再現性を確保するために重合を完結するほうがよいことと、実用的な作業時間とを考えると、4〜48時間が好ましく、5〜36時間がより好ましく、6〜24時間がさらに好ましい。重合を行なう時間が4時間未満では、重合が完結しないため充分に重合物が固化しないか重合の再現性が確保できなくなる傾向があり、48時間よりも長いと、製造に時間がかかる。ただし、光重合の場合は、4時間未満でも重合が完結する場合が多いので、重合時間の一層の短縮が図れる可能性がある。
【0062】
有機ポリマーモノリスの表面修飾
本発明の有機ポリマーモノリスには、必要に応じて表面修飾を施すことができる。表面修飾の方法としては、従来から粒子型充填剤の表面修飾に用いられている種々の方法を転用すればよく、特に限定されない。例えば、モノリス表面の水酸基やオキシラン環などとの反応、モノリス表面に残存する二重結合を利用したグラフト化、モノリス表面への吸着を利用したコーティング、またはそれらの複合による手法を用いて、官能基を導入したり、疎水性を調整したりすることが挙げられる。これらの方法によるモノリスの表面修飾は、内部にモノリスが形成されている容器へ、修飾用の試薬などを直接送り込む方式で行なってもよいし、いったん容器から取り出したモノリスを、修飾用の試薬などに接触させる方式で行なってもよい。
【0063】
[化学物質分離用具]
本発明の化学物質分離用具は、本発明の有機ポリマーモノリスまたは表面修飾を施された該有機ポリマーモノリスを用いたものであり、その形態は特に限定はされない。例えば、カラム、キャピラリー、マイクロチャネル、カートリッジ、ディスク、フィルター、プレートなどが挙げられる。また、その用途も、化学物質の分離に関わるものであれば特に限定はされない。例えば、液体クロマトグラフィー、剪断駆動クロマトグラフィー(Shear−driven chromatography)、電気クロマトグラフィー、電気泳動、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、化学物質濃縮、化学物質除去などが挙げられる。
【0064】
上記の形態と用途とは自由に組み合わせることができるが、通液の際の圧力負荷が小さく、かつ芳香族低分子化合物の分離も良好で、溶媒交換も自由にできる、という本発明の効果が有効に活用されることを考えると、液体クロマトグラフィー用カラム(キャピラリー型を含む)、剪断駆動クロマトグラフィー(Shear−driven chromatography)用マイクロチャネル、薄層クロマトグラフィー用プレート、化学物質濃縮用カラム(または固相抽出カートリッジ)、化学物質除去用カラム(または固相抽出カートリッジ)がより好ましく、液体クロマトグラフィー用カラム(キャピラリー型を含む)、化学物質濃縮用カラム(または固相抽出カートリッジ)、化学物質除去用カラム(または固相抽出カートリッジ)がさらに好ましい。
【0065】
本発明の化学物質分離用具は、本発明の有機ポリマーモノリスまたは表面修飾を施され
た該有機ポリマーモノリスを容器(またはチャネル)内で調製し、そのままの形で用具として仕上げたものであってもよいし、容器(またはチャネル)ごと適当な長さに切断した後、必要な加工を加えたものであってもよい。また、いったん容器(またはチャネル)から中身を取り出して、必要に応じて切断、破砕、表面修飾などをさらに加えた後に、別の容器(またはチャネル)に充填あるいは挿入したものであってもよい。あるいはモノリスの表面を樹脂などで固めることによって用具として仕上げたものであってもよい。
【0066】
好ましい例としては、溶融シリカキャピラリー内で有機ポリマーモノリスを調製し、適当な長さに切断した液体クロマトグラフィー用キャピラリーカラム、ポリプロピレン製注射筒内で有機ポリマーモノリスを調製し、必要に応じて出口フィルターを取り付けた化学物質濃縮用カートリッジ、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
<GDMA+トルエン: ゲル化観察、細孔分布と比表面積の測定>
グリセリンジメタクリレート(GDMA)(2.0g)、トルエン(2.0g)およびAIBN(10mg)の均一混合物を、0.2μmのPTFEフィルターで濾過しながらガラス製試験管(内径1.0cm×長さ20cm)に移し、パスツールピペットを使ってアルゴンガスを10分間バブリングした。次いで試験管の開口部をキャップとテフロン(R)シールテープで密閉し、60℃の水浴(ガラス製)に浸けて6時間重合を行なった。そ
の間、試験管内容物の様子をCCDビデオカメラに収録し、ゲル化過程を観察したところ、強く白濁したゲル層が断続的(段階的)に積み重なっていき、水平な縞模様を形成することが分かった。ゲル断片をTHFで洗浄後、金蒸着してSEM観察(Hitachi S−3000N、倍率400〜5,000倍)を行なったところ、厚み約0.5〜1μmのよく繋がった骨格と、骨格間の距離約1〜2μmのよく繋がったスルーポアとが、互いに偏りなく分散した網目構造が確認された。
【0068】
水銀圧入法(Micrometrics社製PORESIZER9320)によるスルーポアのモード直径は2050nmであった。BET法(Micrometrics社製GEMINIII)によるメソポアのモード直径は9.08nm、比表面積は75.1m2
/gであった。
【0069】
[比較例1a]
<GDMA+トルエン+メタノール: ゲル化観察、細孔分布と比表面積の測定>
実施例1で用いられた均一混合物にメタノール(0.4g)を加えたほかは、実施例1と同様な方法で重合、観察および測定を行なった。ゲル化過程の観察では、強く白濁したゲル層が断続的(段階的)に積み重なっていき、水平な縞模様を形成することが分かった。縞模様は実施例1よりも明瞭に観察された。SEM観察では、直径約5〜10μmのポリマー球が隙間なく凝集した構造をしており、スルーポアは全く観察されなかった。
【0070】
水銀圧入法(Micrometrics社製PORESIZER9320)では、モード直径が0.5μm以上の細孔は検出されなかった。BET法(Micrometrics社製GEMINIII)によるメソポアのモード直径は7.86nm、比表面積は176.8m2/gであった。
【0071】
[比較例1b]
<EDMA+トルエン: ゲル化観察、細孔分布と比表面積の測定>
実施例1で用いられたグリセリンジメタクリレート(GDMA)をエチレンジメタクリ
レート(EDMA)(2.0g)に替えたほかは、実施例1と同様な方法で重合、観察および測定を行なった。ゲル化過程の観察では、半透明なゲル層が連続的に生成し、ゲル上端面がスムーズに上昇していくことが分かった。SEM観察では、ポリマー連続体が波打つ縞模様をなして積み重なっていた。5μm以上に及ぶ断層のような隙間が所々に見られたが、偏りなく分散したスルーポアは観察されなかった。
【0072】
水銀圧入法(Micrometrics社製PORESIZER9320)では、モード直径が0.5μm以上の細孔は検出されなかった。BET法(Micrometrics社製GEMINIII)によるメソポアのモード直径は4.79nm、比表面積は266.3m2/gであった。
【0073】
[比較例1c]
<HDMA+トルエン: ゲル化観察、細孔分布と比表面積の測定>
実施例1で用いられたグリセリンジメタクリレート(GDMA)を1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDMA)(2.0g)に替えたほかは、実施例1と同様な方法で重合、観察および測定を行なった。ゲル化過程の観察では、ほぼ透明なゲル層が連続的に生成し、ゲル上端面がスムーズに上昇していくことが分かった。SEM観察では、ノンポーラスな連続体に見え、スルーポアは全く観察されなかった。
【0074】
水銀圧入法(Micrometrics社製PORESIZER9320)では、モード直径が0.5μm以上の細孔は検出されなかった。BET法(Micrometrics社製GEMINIII)によるメソポアのモード直径は測定不能、比表面積は4.9m2
/gであった。
【0075】
[実施例2]
<GDMA+トルエン: ゲル化点でのDLS測定>
グリセリンジメタクリレート(GDMA)(2.0g)、トルエン(2.0g)およびAIBN(6mg)の均一混合物を、0.2μmのPTFEフィルターで濾過しながらガラス製試験管(内径1.0cm×長さ20cm)に移し、パスツールピペットを使ってアルゴンガスを10分間バブリングした。次いで試験管の開口部をキャップとテフロン(R)
シールテープとで密閉し、60℃水浴中でのゲル化の過程を動的光散乱法により観察した。具体的には、ALV社(ランゲン、ドイツ)製、動的光散乱(DLS)装置(ALV5000、He−Neレーザー、出力:22mW、波長:632.8nm)の試料ホルダーを60℃の水浴に浸けて、その中に上記試験管を挿入し、入射光に対して90度の角度における光散乱強度を連続測定した。この連続データを30秒間隔で切り出し統計処理をして、30秒ごとの散乱緩和時間と散乱強度との関係を、当該緩和時間10-4msから104msまでの自己相関関数分布としてプロットしながらモニターした。その結果、ゲル化
時点では、当該プロットより緩和時間300msにおいても自己相関関数は0.11と高く、水素結合が関与して分子間の距離相関が強くなり物理的な架橋密度が大きくなっていることが示唆された。
【0076】
[比較例2a]
<GDMA+トルエン+メタノール: ゲル化点でのDLS測定>
実施例2で用いられた均一混合物にメタノール(0.4g)を加えたほかは、実施例2と同様な方法で重合および測定を行なった。その結果、緩和時間300msにおける自己相関関数は0.011と極めて小さく、メタノールの添加により水素結合の関与が消失して分子間距離相関が小さくなり、物理的架橋密度が下がっていることが示唆された。
【0077】
[比較例2b]
<EDMA+トルエン: ゲル化点でのDLS測定>
実施例2のグリセリンジメタクリレート(GDMA)をエチレンジメタクリレート(EDMA)(2.0g)に替えたほかは、実施例2と同様な方法で重合および測定を行なった。その結果、緩和時間300msにおける自己相関関数は0.084であり、実施例2よりも小さく、物理的な架橋密度が実施例2よりも小さいことが示唆された。
【0078】
[比較例2c]
<HDMA+トルエン: ゲル化点でのDLS測定>
実施例2で用いられたグリセリンジメタクリレート(GDMA)を1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDMA)(2.0g)に替えたほかは、実施例2と同様な方法で重合および測定を行なった。その結果、緩和時間300msにおける自己相関関数は0.025と小さく、物理的な架橋密度がかなり低いことが示唆された。
【0079】
[実施例3]
<GDMA25%+EDMA75%モノリスキャピラリーカラム(希釈剤:トルエン)>
GDMA(1.0g)、EDMA(3.0g)、トルエン(6.0g)およびAIBN(20mg)の均一混合物に窒素ガスを15分間バブリングした。この混合物の少量をシリンジポンプでポリイミド被覆溶融シリカキャピラリー(内径200μm×外径375μm×長さ800mm)に充填した。具体的には、20μl/minで5分間(100μl)送液した後、キャピラリーの両端をテフロン(R)シールテープで塞いだ。このキャピラ
リー全体の中央部600mm分を60℃の水浴に浸けて、22時間重合を行なった。キャピラリーを水浴から取り出し、両端250mmずつをカットして、内径200μm×外径375μm×長さ300mmのモノリスキャピラリーカラムを得た。
【0080】
この一端をUpchurch社製のシリカシールタイトスリーブ(内径395μm、外径1/16inch、長さ40.6mm)に挿入し、Upchurch社製のシールタイトフィッティング、フェラル、ユニオンを用いてHPLC用ポンプに接続した。THFを2.0μl/minで5時間通液して洗浄後、カラムをHPLC用ポンプから外し、Micro−Tech Scientific社(米国)製ミクロLCシステム(The Ultra−PlusII)のインジェクターとUV検出器の間に直接接続して評価した。接続には、Upchurch社製のシリカシールタイトスリーブ、シールタイトフィッティング、フェラルを用いた。評価条件を以下に示す。
【0081】
移動相:アセトニトリル/水=60/40(v/v)
流量 :2.0μl/min
注入量:0.10μl (ループから0.05min自動注入)
試料 :プロピルベンゼン200ppm(移動相に溶解)
温度 :40℃
検出 :UV 254nm(セル容量0.25μl、光路長2mm)
その結果、装置のシステム圧力を引いたカラム圧力は4.8MPa、プロピルベンゼンの理論段数は4,500段であった。なお、理論段数は半値幅法に従い、保持時間tR、ピ
ーク半分高さの幅(W0.5)を用いて次式から求めた。
【0082】
理論段数=5.54×(tR/W0.52
カットした残りのキャピラリーについて、断面に金蒸着を施した後にSEM観察を行なったところ、ポリマー骨格とスルーポアとが偏りなく分散した網目構造が確認された。
【0083】
[比較例3]
<EDMA100%モノリスキャピラリーカラム(希釈剤:トルエン)>
実施例3で用いられたモノマー(GDMAおよびEDMA)をEDMA(4.0g)に替えたほかは、実施例3と同様な方法で、内径200μm×外径375μm×長さ300
mmのモノリスキャピラリーカラムを作成し、この一端を実施例3と同様な方法でHPLC用ポンプに接続した。THFによる洗浄を試みたが、1.0μl /minでもカラム
圧力が15MPaを超えてしまい、通液することができなかった。カットした残りのキャピラリーについて、断面に金蒸着を施した後にSEM観察を行なったところ、スルーポアは全く観察されなかった。
【0084】
[実施例4]
<GDMAモノリスキャピラリーカラム(希釈剤(クロロベンゼン)+PS)>
GDMA(4.0g)、クロロベンゼン(5.7g)、平均分子量25万のポリスチレン(0.3g)およびAIBN(20mg)の均一混合物に窒素ガスを15分間バブリングした。この混合物の少量をシリンジポンプでポリイミド被覆溶融シリカキャピラリー(内径200μm×外径375μm×長さ800mm)に充填した。具体的には、20μl/minで5分間(100μl)送液した後、キャピラリーの両端をテフロン(R)シールテープで塞いだ。このキャピラリー全体の中央部600mm分を55℃の水浴に浸けて、22時間重合を行なった。キャピラリーを水浴から取り出し、両端250mmずつをカットして、内径200μm×外径375μm×長さ300mmのモノリスキャピラリーカラムを得た。
【0085】
この一端をUpchurch社製のシリカシールタイトスリーブ(内径395μm、外径1/16inch、長さ40.6mm)に挿入し、Upchurch社製のシールタイトフィッティング、フェラル、ユニオンを用いてHPLC用ポンプに接続した。THFを3.0μl/minで3時間通液して洗浄後、カラムをHPLC用ポンプから外し、Micro−Tech Scientific社(米国)製ミクロLCシステム(The Ultra−Plus II)のインジェクターとUV検出器の間に直接接続して評価した。
接続には、Upchurch社製のシリカシールタイトスリーブ、シールタイトフィッティング、フェラルを用いた。評価条件を以下に示す。
【0086】
移動相:アセトニトリル/水=60/40(v/v)
流量 :2.0μl/min
注入量:0.10μl (ループから0.05min自動注入)
試料 :プロピルベンゼン200ppm(移動相に溶解)
温度 :40℃
検出 :UV 254nm(セル容量0.25μl、光路長2mm)
その結果、装置のシステム圧力を引いたカラム圧力は2.9MPa、プロピルベンゼンの理論段数は5,600段であった。カットした残りのキャピラリーについて、断面に金蒸着を施した後にSEM観察を行なったところ、ポリマー骨格とスルーポアとが偏りなく分散した網目構造が確認された。
【0087】
[実施例5]
<EDMAモノリスキャピラリーカラム(希釈剤(クロロベンゼン)+PS)>
GDMAをEDMAに替えたほかは実施例4と同様な方法で、内径200μm×外径375μm×長さ300mmのモノリスキャピラリーカラムを作成し、この一端を実施例4と同様な方法でHPLC用ポンプに接続した。THFを3.0μl /minで3時間通
液して洗浄後、カラムをHPLC用ポンプから外し、Micro−Tech Scientific社製ミクロLCシステム(The Ultra−Plus II)のインジェク
ターとUV検出器の間に直接接続して評価した。接続方法および評価条件は、実施例4と同じであった。
【0088】
その結果、装置のシステム圧力を引いたカラム圧力は4.0MPa、プロピルベンゼンの理論段数は2,900段であった。カットした残りのキャピラリーについて、断面に金
蒸着を施した後にSEM観察を行なったところ、ポリマー骨格とスルーポアとが偏りなく分散した網目構造が確認された。
【0089】
[実施例6]
<GDMAモノリスキャピラリーカラムの表面修飾>
実施例4で得られた内径200μm×外径375μm×長さ300mmのモノリスキャピラリーカラムの一端にシリンジポンプを接続し、ピリジンを3.0μl/minで6時間通液し、次いで塩化ブタノイルの2wt%ピリジン溶液を0.1μl/minで12時間通液した。カラムをシリンジポンプから外し、実施例4と同様な方法でHPLC用ポンプに接続した。メタノールを3.0μl /minで24時間通液して洗浄した後、カラ
ムをHPLC用ポンプから外し、Micro−Tech Scientific社製ミクロLCシステム(The Ultra−Plus II)のインジェクターとUV検出器の
間に直接接続して評価した。接続方法および評価条件は、実施例4と同じであった。
【0090】
その結果、装置のシステム圧力を引いたカラム圧力は3.9MPa、プロピルベンゼンの理論段数は3,400段であった。また、プロピルベンゼンの保持時間は、実施例4の1.6倍になっていた。
【0091】
[実施例7]
<GDMA+DVBモノリスカートリッジ(希釈剤(トルエン)+PS)>
GDMA(4.8g)、m−ジビニルベンゼン(DVB)(7.2g)、トルエン(39.7g)、平均分子量25万のポリスチレン(1.6g)およびAIBN(80mg)の均一混合物に窒素ガスを15分間バブリングした。この混合物を、下端をキャップ(内径12.7mmのポリプロピレン製注射筒型空カートリッジを中央で切り、細口側の先端を塞いだもの)で塞いだ内径9.52mm、外径12.7mm、長さ400mmのテフロン(R)チューブに、下端から350mmの高さまで注ぎ入れ、上端をキャップ(内径12
.7mmのポリプロピレン製注射筒型空カートリッジを中央で切り、広口側に連結用アダプターを嵌めて出口を塞いだもの)で塞いだ。次いで、テフロン(R)チューブの下から3
00mmの高さまでを60℃の水浴に浸けて、24時間重合を行なった。上端のキャップ外し上部に少し残った液体を除去してから、テフロン(R)チューブごと長さ10mmずつ
の円柱状に切り分けたところ、各円柱からモノリスが容易に抜け落ちた。風乾したモノリスの直径は8.80mmであり、これをメタノールに浸すと直径9.05mmまで膨潤することが分かった。
【0092】
続いて、下端から3〜20番目のモノリスから断面がきれいなものをいくつか選んで、各々を内径8.80mm、容量3mlサイズのポリプロピレン製注射筒型空カートリッジ(下端フリット装着済み)へ挿入充填し、上端フリットを装着した。次に、各カートリッジの入口からTHF(20ml)、アセトン/酢酸エチル=1/1(10ml)、メタノール(10ml)、水(10ml)を順次注ぎ、かつ自然落下させて洗浄した。
【0093】
モノリスを充填した前記のカートリッジは、化学物質濃縮用または化学物質除去用固相抽出カートリッジとして使用することができる。例えば、純水500mlに農薬混合標準液(メソミル(分子量:162.2)、ベンダイオカルブ(分子量:223.2)、メチオカルブ(分子量:225.3)を各300ppm含有。)を25μl添加したサンプル液を、ダイアフラム型定量ポンプを用いて10ml/minの速度で前記カートリッジに全量通液した後に、アセトン/酢酸エチル=1/1(10ml)で溶出、30℃に加温しながら窒素ガス噴き付けにより濃縮、アセトニトリルで3mlに定容し、HPLC分析したところ、良好な回収率(メソミル:99%、ベンダイオカルブ:102%、メチオカルブ:99%)を確認することができた。
【0094】
なお、ゲル状のモノリス断片を、THFで洗浄した後に金蒸着してSEM観察(倍率500倍)を行なったところ、直径約5〜10μmの粒子状単位が互いによく繋がった骨格と、骨格間の最大距離約10〜20μmのよく繋がったスルーポアとが、互いに偏りなく分散した網目構造が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、制御された細孔構造を有し、化学物質、なかでも分子量1,000以下である低分子量の化学物質を効率良く分離できる有機ポリマーモノリス、およびその製造方法を提供することができる。このような有機ポリマーモノリスを用いることにより、圧力負荷が小さく、かつ芳香族低分子化合物の分離も良好で、溶媒交換も自由にできる、液体クロマトグラフィー用カラム、化学物質濃縮用カラムまたは化学物質濃縮用固相抽出カートリッジ、あるいは化学物質除去用固相抽出カートリッジなどの化学物質分離用具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、(実施例1)<GDMA+トルエン>で生成したゲル断片のSEM写真である。
【図2】図2は、(比較例1a)<GDMA+トルエン+メタノール>で生成したゲル断片のSEM写真である。
【図3】図3は、(比較例1b)<EDMA+トルエン>で生成したゲル断片のSEM写真である。
【図4】図4は、(比較例1c)<HDMA+トルエン>で生成したゲル断片のSEM写真である。
【図5】図5は、(実施例7)<GDMA+DVBモノリスカートリッジ(希釈剤(トルエン)+PS)>で生成したゲル断片のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基および/またはアミド基を有するモノマーに由来するモノマー単位を20質量%以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする有機ポリマーモノリス。
【請求項2】
架橋剤に由来するモノマー単位を50質量%以上含有し、水銀圧入法によるモード(最頻値)直径が0.5〜10μmのスルーポアとBET法によるモード直径が2〜50nmのメソポアとを有し、かつBET法による比表面積が50m2/g以上であることを特徴
とする有機ポリマーモノリス。
【請求項3】
モノマー混合物を、希釈剤および重合開始剤の存在下で重合させることによって生成され、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有し、
該希釈剤は、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項4】
モノマー混合物を、希釈剤、重合開始剤および非架橋性ポリマーの存在下で重合させることによって生成され、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項5】
前記希釈剤が、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有することを特徴とする請求項4に記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項6】
前記の非架橋性ポリマーが、ポリスチレンであることを特徴とする請求項4または5に記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項7】
前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーが、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−ビニルアルキルアミド、4−(ヒドロキシメチル)スチレン、および4−(アセトアミドメチル)スチレンからなる群から選ばれた1種または2種以上のモノマーであることを特徴とする請求項1、3〜6のいずれかに記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項8】
前記の水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤が、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサン、ヘプタン、オクタンまたはイソオクタンからなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項3、5〜7のいずれかに記載の有機ポリマーモノリス。
【請求項9】
モノマー混合物を、希釈剤および重合開始剤の存在下で重合させる工程を含み、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有し、
該希釈剤は、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機ポリマーモノリスの製造方法。
【請求項10】
モノマー混合物を、希釈剤、重合開始剤および非架橋性ポリマーの存在下で重合させる工程を含み、
該モノマー混合物は、その総量に対して架橋剤を50質量%以上含有すると共に水酸基および/またはアミド基を有するモノマーを20質量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機ポリマーモノリスの製造方法。
【請求項11】
前記希釈剤が、その総量に対して水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤を85質量%以上含有することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記非架橋性ポリマーが、ポリスチレンであることを特徴とする請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記の水酸基および/またはアミド基を有するモノマーが、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビス−アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−ビニルアルキルアミド、4−(ヒドロキシメチル)スチレン、および4−(アセトアミドメチル)スチレンからなる群から選ばれた1種または2種以上のモノマーであることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記の水酸基、アミド基、カルボキシル基のいずれも有さない希釈剤が、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、クロロベンゼン、ジオキサン、ヘプタン、オクタンまたはイソオクタンからなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項9、11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
分離用担体が、請求項1〜8のいずれかに記載された有機ポリマーモノリスまたは表面修飾された該有機ポリマーモノリスであることを特徴とする化学物質分離用具。
【請求項16】
液体クロマトグラフィー用カラムであることを特徴とする請求項15に記載の化学物質分離用具。
【請求項17】
化学物質濃縮用カラムまたは化学物質濃縮用固相抽出カートリッジであることを特徴とする請求項15に記載の化学物質分離用具。
【請求項18】
化学物質除去用カラムまたは化学物質除去用固相抽出カートリッジであることを特徴とする請求項15に記載の化学物質分離用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−15333(P2006−15333A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142265(P2005−142265)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】