説明

有機モリブデン化合物よりなる摩擦調整剤およびそれを含む潤滑組成物

【課題】リンを含有せず、摩擦係数を低下させ、湿式クラッチなどの摩擦を最適に調整する潤滑添加剤として有用な有機モリブデン化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるジシクロペンタジエニルモリブデン架橋錯体よりなる摩擦調整剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機モリブデン化合物よりなる摩擦調整剤およびそれを含む潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤の摩擦特性を適切なレベルに調整するために摩擦調整剤(フリクションモディファイア)があり、省燃費を目指したギヤ油やエンジン油のような潤滑組成物には摩擦低減作用のある摩擦調整剤が使用されており、自動変速機の湿式クラッチ部分に用いる潤滑組成物ではある程度高い摩擦レベルを維持するため摩擦向上作用のある摩擦調整剤が使用されている。これらの摩擦調整剤としては多くのタイプのものが提案されている。
【0003】
そして、その摩擦調整剤として最も代表的なものが有機モリブデン化合物であるが、非特許文献1にみられるように、これらの有機モリブデン化合物は、下記式(2)および(3)に示されているように1分子中に2個のMo元素を含有する化合物である。
【化1】

また、特許文献1〜5においても1分子中に2個のMo元素含有化合物が開示されている。
そして、前記式(2)で示されるように分子中にリンを含有する化合物は、リンがエンジン油に使用される場合、排ガス浄化装置の触媒毒となるという問題を含んでおり、リンを含まない化合物が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】昭和61年7月25日、株式会社 幸書房発行、桜井俊男編著「新版石油製品添加剤」
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3495764号公報
【特許文献2】特公昭45−24562号公報
【特許文献3】特開昭52−19629号公報
【特許文献4】特開昭52−106824号公報
【特許文献5】特開昭48−56202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、リンを含有せず、摩擦係数を低下させ、湿式クラッチなどの摩擦を最適に調整する潤滑添加剤として有用な有機モリブデン化合物よりなる摩擦調整剤を提供する点にある。
本発明の第2の目的は、それを含有する潤滑組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、下記一般式(1)で示されるジシクロペンタジエニルモリブデン架橋錯体よりなる摩擦調整剤に関する。
【化2】

(式中、R〜R10は、水素、メチル基およびエチル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
本発明の第2は、請求項1に記載の摩擦調整剤を含有する潤滑組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
(1)新規なリンを含まないMo系摩擦調整剤が得られる。
(2)本発明で用いる化合物は低い摩擦係数を示し、各種省エネルギー潤滑油の摩擦調整剤として利用できる。
(3)本発明で用いる化合物はリンを含まないことにより、とくに省燃費エンジンオイルの摩擦調整剤としての利用に適する。
(4)自動車排ガス浄化装置に内蔵される触媒(NOxの削減)を傷めることがない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の化合物は、例えば下記の方法により製造することができる。
<第1工程>
合成中間原料ジシクロペンタジエニルモリブデンヘキサカルボニル錯体の合成
【化3】

(式中R〜R10は、前記のとおりである。)

<第2工程>
ジシクロペンタジエニルモリブデン架橋錯体の合成
下記反応式のとおり、
一般式(2)のジ(シクロペンタジエニル)μ−チオキソモリブデン錯体
一般式(1)のジ(シクロペンタジエニル)μ−チオキソジオキソモリブデン錯体
一般式(3)のジ(シクロペンタジエニル)μ−オキソモリブデン錯体
一般式(4)のジ(シクロペンタジエニル)μ−オキソジオキソモリブデン錯体
を同時に生成する。
【化4】

前記R〜R10としては、水素、メチル基およびエチル基を挙げることができ、一般式(1)の錯体の例としては、以下の表1〜表5のような組み合せによる化合物を挙げることができる。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
【表3】

【0013】
【表4】

【0014】
【表5】

【0015】
本発明の潤滑組成物としては、潤滑油やグリースなどを挙げることができる。本発明で用いる化合物の潤滑組成物中の存在量は、従来の摩擦調整剤と同様であり、例えば通常、組成物に対し、0.1〜10重量%程度の割合で配合する。
【実施例】
【0016】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。
【0017】
実施例1(前記表1中における化合物2の合成:R〜R10がCHの場合)
(イ)第1工程
【化5】

ペンタメチルシクロペンタジエン(3.75g、18.8mmol)にテトラヒドロフラン(THF)45mlを加え、−78℃に冷却した後、Bu−Li(12.5ml、18.8mmol)を滴下し、リチウムペンタメチルシクロペンタジエニルを調整した。そこにモリブデンヘキサカルボニル(5g、18.8mmol)を加え、48時間加熱還流し、反応終了後、母液を0℃に冷却した。別に精製水100mlと酢酸20mlを混合した溶液に硫酸鉄(II)(3.2g、18.8mmol)を加えて得られた溶液を母液に滴下した。得られた赤色溶液を吸引ろ過し、洗浄、乾燥させ、再結晶によりジ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)モリブデンヘキサカルボニル錯体を得た。収率24%

(ロ)第2工程
【化6】

前記ジ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)モリブデンヘキサカルボニル錯体(0.5g、0.79mmol)と3−スルホレン(0.69g、5.84mmol)をトルエン100mlに溶かし、120℃で3時間加熱還流した。反応終了後、溶媒除去し、反応生成物をカラムクロマトグラフィーによりオレンジ色の錯体を単離した。収率4%
【0018】
実施例2(前記表1中における化合物1の合成:R〜R10がHの場合)
(イ)第1工程
【化7】

シクロペンタジエン(18.8mmol)にテトラヒドロフラン(THF)45mlを加え、−78℃に冷却した後、Bu−Li(12.5ml、18.8mmol)を滴下し、リチウムシクロペンタジエニルを調整した。そこにモリブデンヘキサカルボニル(5g、18.8mmol)を加え、48時間加熱還流し、反応終了後、母液を0℃に冷却した。別に精製水100mlと酢酸20mlを混合した溶液に硫酸鉄(II)(3.2g、18.8mmol)を加えて得られた溶液を母液に滴下した。得られた赤色溶液を吸引ろ過し、洗浄、乾燥させ、再結晶によりジ(シクロペンタジエニル)モリブデンヘキサカルボニル錯体を得た。収率20%

(ロ)第2工程
【化8】

実施例3と同様の手順で反応を、カラムクロマトグラフィーにより赤色生成物ジ(シクロペンタジエニル)μチオキソジオキソモリブデン錯体を単離した。収率14%
【0019】
実施例3
実施例1で得られた錯体を「分散剤(アルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミド 商品名InfinumC9266)5%を添加したエステル油(ジイソノニルアジピン酸)(100℃における粘度3.04mm/s)」中にMo含有量500ppmとなるように混合した。その組成を表7に示す。
【0020】
比較例1
実施例3の組成において実施例1で得られた錯体を用いないケースを比較例1とした。
その組成を表7に示す。
【0021】
上記試料油について、SRV試験機(図2に示すシリンダー・オン・ディスク型の往復動試験機)により、下記表6の条件で30分間摩擦係数を測定した。その結果を図1に示す。試験片は52100鋼である。
試験条件
【表6】

【表7】

実施例の場合は試験開始1分以降、無添加基油と比較して、図1に示すとおり低い摩擦係数を示し、摩擦調整剤としての機能を有することが分かった。すなわち、本発明の摩擦調整剤を配合した方が、配合しない場合に較べて低い摩擦係数を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例3および比較例1の試料油が時間の経過とともに、どのような摩擦係数をもつかを示すグラフである。
【図2】シリンダー・オン・ディスク型往復動試験機の作動概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるジシクロペンタジエニルモリブデン架橋錯体よりなる摩擦調整剤。
【化9】

(式中、R〜R10は、水素、メチル基およびエチル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦調整剤を含有する潤滑組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−14775(P2013−14775A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191734(P2012−191734)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2007−23479(P2007−23479)の分割
【原出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】