説明

有機・無機複合体エマルジョンの製造方法

【課題】優れた力学特性及びガスバリア性を有する新規な有機・無機複合体フィルム及びそれを製造することができる有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供する。
【解決手段】水膨潤性粘土鉱物の水分散液中で、界面活性剤を用いて疎水性の重合性ビニルモノマーを乳化重合する有機・無機複合体エマルジョンの製造方法であって、前記界面活性剤がアニオン性界面活性剤であり、前記疎水性の重合性ビニルモノマーが、ブタジエン、イソプレン又はアクリル酸エステルを含有することを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化重合によって得られる疎水性有機高分子と、水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成されている有機・無機複合体エマルジョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物の大部分が層状ケイ酸塩であり、その層状ケイ酸塩のインターカレーション機能を利用した有機・無機ナノコンポジットの研究は盛んに行われている。その中で、ナイロンと天然の粘土鉱物であるモンモリロナイトからなるナノコンポジットは特に広く知られている。この技術では、ω-アミノ酸アンモニウム塩を用い、粘土表面を有機化し、層間にモノマーを更にインターカレーションして重合することによって、粘土鉱物がほぼ単層に均一分散したナノコンポジットを製造することができる。例えば、特許文献1にはナイロンとモンモリロナイトからなる樹脂組成物及びその製造方法が開示されている。しかし、この方法では、粘土鉱物層間にあるω-アミノ酸アンモニウム塩が実質に重合停止剤として働き、高粘度タイプのナノコンポジットやモンモリロナイトの含有率が高いナノコンポジットを効率的且つ経済的に製造することができなかった。また、長鎖アルキルアンモニウム塩で粘土表面を修飾して得られる有機化粘土を用いて、熱可塑性樹脂と共に溶融混練することによって、粘土鉱物が微細に均一分散したナノコンポジットを製造する手法もよく使われており、数多くの文献が報告されている(特許文献2)。しかし、有機化剤をポリマーに混入するため、ポリマーの物性、例えば耐熱性を損なう場合がある。
【0003】
また、水系塗料の耐チッピング性を改良するため、乳化重合して得られるNBRラテックスに板状のカオリンを添加することが特許文献3に報告されている。しかし、単純に混合するだけで、カオリンと樹脂との相互作用がなく、溶媒除去することによりカオリンが凝集して、均一なナノコンポジットが得られない場合がある。これを改善するため、有機オニウム塩を用いることが特許文献4に提案されている。この方法では、疎水性樹脂の水分散体と粘土鉱物水溶液との混合溶液を有機オニウム塩水溶液に加え、固形分を析出させてガスバリア性樹脂組成物を製造することができる。しかし、前述したように、有機オニウム塩を樹脂組成物に混入するため、樹脂物性に悪影響を及ぼす欠点を有する。また、これらの問題点を解決する巧みな方法が、特許文献5に例示されている。即ち、分子内に四級アンモニウム塩を有する水溶性アクリル樹脂に水膨潤性粘土鉱物を加え、該粘土鉱物と四級アンモニウム塩とがイオン結合を形成して、機械強度に優れるアクリル樹脂組成物を得ることができる。しかし、この方法では、分子内に四級アンモニウム塩の濃度を高くした場合、クレイとの反応によって沈殿を生じやすく、クレイ含有率の高いナノコンポジットが得られない欠点を有する。
【0004】
また、少量の水の中で、クレイ共存下、ビニルモノマーを重合して得られる複合体を合成ゴムと混合した組成物が、ガソリン透過性の低いゴム材料となることが特許文献6に報告されている。しかし、少量の水中では、クレイが十分にへき開されず、また、重合過程で疎水性モノマーとクレイとが十分に混合されていない状態で得られた複合体では、クレイの微分散性及び分散均一性に劣るものであった。
【0005】
また、アニオン性界面活性剤を用い、クレイ共存下でMMAの乳化重合によって複合体エマルジョンが得られることが非特許文献7に報告されている。しかし、MMAのみで得られたエマルジョンは低温製膜ができず、また、ブタジエンやイソプレンなどと比べて、クレイ層間へのインタカレーション効果も小さかった。
【0006】
一方、周知の通り、ゴム材料をカーボンブラックで補強する場合、ロールミルやインターナルミキサーを用いた混練りが必要である。近年、ゴムを生成時の状態での混合による混練り工程の省略したナノコンポジット材料の開発が注目を浴びている。その中、テトラエトキシシラン(TEOS)を出発物質とするゾルーゲル法を利用したシリカのin-situ合成をSBRラテックス中で行う方法が知られている(非特許文献8)。この方法では、得られたSBR-シリカ複合体はSBR単独と比べて、機械強度が大幅に向上しているが、シリカの粒子径が0.1〜0.5μmと大きく、改善の余地があった。また、高価な金属アルコキシトの使用も実用上問題であった。
【0007】
【特許文献1】特公昭58-35211号公報
【特許文献2】特開平9-217012号公報、特開平10-1608号公報、特開2002-256144号公報
【特許文献3】特開平5-311095号公報
【特許文献4】特開2005-232257号公報
【特許文献5】特開平6-172605号公報
【特許文献6】特開2004-250654号公報
【非特許文献1】D.Choo,L.W.Jang: J.Appl.Polym.Sci.,61,1117(1996)
【非特許文献2】吉海和正ら、日本ゴム協会誌、第69券、第7号、485頁(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた力学特性及びガスバリア性を有する新規な有機・無機複合体フィルム及びそれを製造することができる有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、アニオン性界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加し、疎水性の重合性ビニルモノマーをアニオン性界面活性剤ミセル中で重合を行うことにより、上記課題を達成する有機・無機複合体エマルジョンが得られることを見出し、本発明を完成させた。疎水性の重合性ビニルモノマーは、粘土鉱物の共存下でのin-situ重合反応を行うことにより、粘土鉱物の層状剥離・へき開が効果的に起こり、粒子径の小さくなったクレイとポリマー微粒子とを均一に混ざった安定な有機・無機複合体エマルジョンを製造することが可能となり、それにより力学特性に優れ、ガスバリア性を有する有機・無機複合体を得ることができる。
【0010】
すなわち、本発明は、水膨潤性粘土鉱物の水分散液中で、界面活性剤を用いて疎水性の重合性ビニルモノマーを乳化重合する有機・無機複合体エマルジョンの製造方法であって、
前記界面活性剤がアニオン性界面活性剤であり、
前記疎水性の重合性ビニルモノマーが、ブタジエン、イソプレン又は式(1)
【0011】
【化1】

(式中、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
で表される化合物を含有することを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルジョンを提供するものである。
【0013】
更に、本発明は、上記の有機・無機複合体エマルジョンから得られる有機・無機複合体を提供するものである。
【0014】
更に、本発明は、上記の有機・無機複合体エマルジョンからなる層を有機高分子フィルム上に設けた積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機・無機エマルジョンから得られる有機・無機複合体は、樹脂又はゴムと比べて、力学特性やガスバリア性などが著しく向上している。また、ゴム材料として、本発明の製造方法によれば、混練り工程を省略することができ、より一層経済的、且つ効率的ゴム材料を得ることができる。更に、本発明の粘土鉱物共存下でのin-situ重合法によれば、粘土鉱物の層剥離・へき開が促進されて、マトリックスに粘土鉱物の分散サイズが一層小さくなるものである。上述のような特徴から、本発明の有機・無機複合体及びそのエマルジョンが優れた被覆材料、包装材料、ゴム材料、成形材料、充填材料などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用する疎水性の重合性ビニルモノマーは、少なくとも一つのエチレン性不飽和基を有するラジカル重合性モノマーであり、軟質モノマーとしてブタジエン、イソプレン又は下記式(1)で表される重合性モノマーを必須成分として含有する。これらの軟質モノマーを必須成分として用いることにより、本発明の製造方法で得られる有機・無機複合体エマルジョンの低温製膜性が良好となる。なお、上記軟質モノマーは、全モノマー(疎水性の重合性ビニルモノマーと必要に応じて使用する後述の親水性の重合性ビニルモノマーの総和)に対して20質量%以上使用することが好ましい。このような使用量であれば、製造後のエマルジョンが良好なゴム弾性と低温製膜性を示し、好ましい。
【0017】
疎水性の重合性ビニルモノマーから得られる疎水性高分子は、本発明の複合体エマルジョンの基本性能を担う主要成分であり、粘土鉱物がガスバリア性や強度などを引き出す機能を効果的に発揮するための分散媒でもある。また、本発明では、疎水性の重合性ビニルモノマーと共に、必要に応じて後述の親水性の重合性ビニルモノマーを使用することができるが、疎水性の重合性ビニルモノマーとしては、耐水性を保持するため、全モノマーに対して50質量%以上使用することがより好ましい。
【0018】
【化2】

(式中、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
【0019】
本発明では、必須成分として使用するブタジエン、イソプレン又は下記式(1)で表される重合性モノマーを含め、例えば、次の(1)〜(6)に挙げる各種の疎水性の重合性ビニルモノマーを使用することができる。これらのモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、本発明で言う疎水性の重合性ビニルモノマーとは、そのモノマーを単独で重合した重合体が水に不溶となるモノマーを表す。
(1)芳香族ビニル系モノマー
スチレン、p-クロロスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレンなど
(2)シアン化ビニル系モノマー
(メタ)アクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなど
(3)脂肪族共役ジエン系モノマー
1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロブレン、シクロペンタジエンなど
(4)ビニルエステル系モノマー
酢酸ビニルなど
(5)(メタ)アクリル系モノマー
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n又はi-プロピル(メタ)アクリレート、n-,i-,s-又はt-ブチル(メタ)アクリレート、n-又はt-ペンチル(メタ)アクリレート、3-ペンチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸C1〜20アルキルエステル類、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート類、ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート類、2-イソポルニル(メタ)アクリレート、2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなどの多環式(メタ)アクリレート類、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基又はフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類
(6)官能基含有ビニル系モノマー
グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジフェノキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシランなどのアルコキシシリル基を有するビニル系モノマー
【0020】
また、本発明では、疎水性の重合性ビニルモノマーと共に、そのモノマーを単独で重合した重合体が水に可溶となる親水性モノマーを共重合させることもできる。そのような親水性の重合性ビニルモノマーとしては、例えば、次に挙げる各種のビニルモノマーを用いることができる。
(1)官能基含有親水性ビニル系モノマー
2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸又はその塩などのカルボキシル基含有ビニル系モノマー、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有モノマー又はその塩、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンなどのピリジル基を有するビニル系モノマー、
(2)(メタ)アクリルアミド
(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-i-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなど。
【0021】
なお、本発明で使用する有機高分子は疎水性であることが好ましいため、上記の親水性ビニルモノマーの使用量は、使用する全モノマーに対して、50質量%未満の範囲であることが好ましい。
【0022】
更に、粘土鉱物の層剥離・へき開を起こすため、親水性モノマー、例えば、p-スチレンスルホン酸などを用いることが有効である。また、複合体エマルジョンの機械安定性を向上させるため、通常、アクリル酸などの酸モノマーを疎水性高分子に対して2〜10質量%程度添加することが好ましい。また、粘土鉱物との相互作用を増すため、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマーを用いることが好ましい。
【0023】
本発明で用いる水膨潤性粘土鉱物は、疎水性高分子に分散されてガスバリア性や強度などの機能性をもたらすものである。代表的なものとしては、モンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトナイト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、マイカ、フッ素化マイカなどが挙げられる。天然物由来のものでも、天然物の処理品でもよく、水膨潤性マイカのような合成品であっても良い。中でも、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性合成マイカがガスバリア性に優れ、特に好ましく用いられる。市販品としては、クニピアF(クニミネ工業(株)製)、ベンゲル(ホージュン(株)製)、NTSシリーズ(トピー工業(株)製)などがある。これらの粘土鉱物は通常負の電荷を有し、結晶層の間に存在するナトリウムイオン又はリチウムイオンなどの金属カチオンにより中和されている。また、水中において、結晶層の層間が広がり、単層又は数十層にまで分散する性質を有している。
【0024】
本発明においては、複合体エマルジョンの固形分における粘土鉱物の質量比は0.1〜90質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜85質量%であり、特に好ましくは1〜80質量%である。粘土鉱物が0.1質量%未満であると、目的とする機械強度やガスバリア性が得られない。一方、粘土鉱物が90質量%を超えると、ゴム材料として、硬くなりすぎ、また、複合体エマルジョンが成膜しにくく、例え成膜できても、強度や耐水性が劣り、好ましくない。
【0025】
本発明で用いられる界面活性剤は通常の乳化重合で使用されているスルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、カルボン酸塩基、リン酸塩基などの構造を含有するアニオン性界面活性剤を挙げることができ、これらが一種又は二種以上使用される。なお、アニオン性又は非イオン性であれば高分子界面活性剤を使用することもできる。カチオン性界面活性剤は負に帯電している粘土鉱物と反応して、ゲル化又は沈降する恐れがあり、好ましくない。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などが挙げられる。これらが一種又は二種以上の組み合わせで使用される。通常、粘土鉱物は水分散液中、負に帯電しているため、負の電荷を有するアニオン界面活性剤との相互作用が弱く、粘土鉱物共存下での乳化重合はより安定に進行することができる。高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、末端長鎖アルキル基変性ポリビニルアルコール、ゼラチン、レシチンなどの蛋白質、寒天、デンブン誘導体などの糖誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒトロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらが一種又は二種以上の組み合わせで使用される。親水性の高分子界面活性剤(分散剤)を用いることによって、粘土鉱物の層間距離が広げられやすく、疎水性高分子マトリックスに粘土鉱物の分散が促進される。
【0026】
乳化重合で用いられるアニオン性界面活性剤の内、反応性アニオン性界面活性剤は、製膜時の水溶性物質を減らすことができたり、被膜の耐水性が高めることができるため、特に好ましく用いられる。一般に反応性基を有する界面活性剤は、反応性界面活性剤と称され、該反応性基としては、例えば、(メタ)アリル基、1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、イソプロペニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの炭素―炭素二重結合を有する官能基が挙げられる。アニオン性を有する反応性界面活性剤としては、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、カルボン酸塩基、リン酸塩基などの構造を含有するものが挙げられ、スルホン酸塩基を有するビニルモノマーとして、例えばアリルスルホン酸、2-メチルアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-ビニルベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの各種のスルホン酸基含有ビニルモノマー類を各種の塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。該塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエチルアルコール、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロキサイドなどが挙げられる。硫酸エステル塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばアリルアルコールの硫酸エステル基を含有するビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。リン酸塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばモノ{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェートなどのリン酸基含有ビニルモノマー類を前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。アリル基(CH2=C(-R)-CH2-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩などが挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープSE-10N」シリーズ(旭電化工業(株)製)、「エレミノールJS-2」(三洋化成工業(株)製)、「ラテムルS-180もしくはS-180A」(花王(株)製)、「H3390A」及び「H3390B」(第一工業製薬(株)製)などがある。(メタ)アクリロイル基(CH2=C(-R)-C(=O)-O-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、市販品として、「エレミノールRS-30」シリーズ(三洋化成工業(株)製)、「Antox MS-60」シリーズ(日本乳化剤(株)製)などが挙げられる。プロペニル基(CH3-CH=CH-)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩などが挙げられ、市販品としては「アクアロンHS-10」シリーズ及び「アクアロンBC」シリーズ(第一工業製薬(株)製)などがある。
【0027】
アニオン性界面活性剤の使用量としては、臨界ミセル濃度(CMC)以上であることが好ましい。臨界ミセル濃度以上であれば、水溶液中に界面活性剤のミセルが形成され、疎水性のビニルモノマーはミセルの中でラジカル重合を行い、安定なエマルジョンが得られる。具体的には、疎水性の重合性ビニルモノマーの合計100質量部に対して0.5〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜30質量部であり、特に好ましくは2〜20質量部である。0.5質量部未満では、重合時に凝集物が生じやすい。逆に50質量部を超えると、塗膜の耐水性が極端に低下する。
【0028】
本発明で製造される複合体エマルジョンは、通常の乳化重合法により製造される。乳化重合法は特に限定されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)粘土鉱物、モノマー、界面活性剤、及び溶媒を反応容器に加えてプリエマルジョンを作製し、このプリエマルジョンにラジカル重合開始剤を添加して、ラジカル重合を行う一括重合方法。
(2)粘土鉱物、界面活性剤、溶媒及びラジカル重合開始剤を反応容器に加えて攪拌しながら、モノマーを滴下して、ラジカル重合を行うモノマー添加重合方法。
【0029】
乳化重合で用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライト(商品名V-50)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライト(商品名VA-044)などの水性アゾ化合物、過酸化水素などが挙げられる。また、ラジカル重合開始剤と共に、亜硫酸水素ナトリウム、L-アスコルビン酸などの還元剤を併用して、レドックス開始剤としてもよい。重合開始剤の使用量はモノマーに対して、通常0.05〜10質量%である。
【0030】
重合温度については、重合開始剤によって異なるが、通常、0〜100℃であり、好ましくは40〜90℃である。
【0031】
疎水性高分子の分子量を調節するために連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン類及びα-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0032】
重合転化率が大きくなるとゲル化する場合がある。その際、重合転化率は80%以下に抑えることが好ましい。重合の停止は所定の重合転化率に達した時点で、重合停止剤を添加することによって行われる。重合停止剤としては、ヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのアミン化合物、ヒドロキノンなどのキノン化合物などが挙げられる。重合停止後、反応系から必要に応じて水蒸気蒸留などの方法により未反応モノマーを除去し、安定なエマルジョンを得ることができる。
【0033】
また、必要であれば、PH調整剤(例えば、酸(硫酸、塩酸など)、アンモニア、アミンなど)を重合過程又は反応終了後のエマルジョンに添加してもよい。重合系又はエマルジョンのPHは、例えば、PH7〜9程度に調製することが好ましい。
【0034】
なお、必要に応じて、キレート化剤、酸素捕捉剤、消泡剤、防腐剤などを反応容器に添加して重合することもできる。
【0035】
次に、本発明の代表的な有機・無機複合体エマルジョンの製造方法の一例を説明するが、これらの製造方法により何ら限定されるものではない。
【0036】
粘土鉱物の水分散液に、アニオン性界面活性剤、重合開始剤過硫酸アンモニウム、モノマーなどを順次加えて、70℃、5時間重合を行い、沈降のない安定な複合体エマルジョンが得られる。エマルジョン及びエマルジョンの乾燥膜の分析から、粘土鉱物の粒子径が小さくなり、層間距離が広げられることが確認された。また、エマルジョンから取り出した固形複合体のTEM観察では、へき開された粘土鉱物の凝集が殆ど無かった。この方法では、アニオン性界面活性剤の使用量は臨界ミセル濃度(CMC)以上であることが好ましい。殆どのモノマーがアニオン性界面活性剤のミセルの中で重合され、粘土鉱物の沈降がなく、安定なエマルジョンが得られる。このエマルジョンをTEMで観察したところ、ポリマーに由来する独立球状粒子と燐片状の粘土鉱物が共存していることが確認された。
【0037】
上述の方法で得られる複合体エマルジョンは、ガスバリア性コート剤として使用することができる。例えば、樹脂、紙、アルミ箔、木材、布、不織布などの基材に塗布した後、加熱乾燥することによってガスバリア性の積層体が得られる。樹脂基材としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂及び液晶ポリエステル樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーポネート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのプラスチック成型品が挙げられる。
【0038】
これらの中でフィルム形態での積層体が特に好ましい。この場合、通常の有機高分子フィルムを基材として用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリイミド樹脂などよりなるフィルム又はそれらのフィルムの積層体が挙げられ、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0039】
また、基材フィルムとガスバリアコート層の接着性を向上させるため、基材フィルム表面にコロナ放電処理やプラズマ処理などをしてもよく、アンカーコートをしてもよい。
【0040】
基材フィルムに本発明の複合体エマルジョンをコーティングする方法は特に限定されないが、例えば、ロールコーター、バーコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーター、刷毛などを用いた塗布、ディップコート、流し塗り、スプレーやこれらを組み合わせたコーティング法などの方法が挙げられる。
【0041】
本発明におけるガスバリア性積層フィルムのガスバリア層の厚みは、0.01〜20μmの範囲であることが好ましく、0.05〜10μmの範囲であることがより好ましい。ガスバリア層が0.01μm未満では、十分なガスバリア性効果が得られない恐れがある。一方、20μmを超えると、透明性が低下した上、塗膜にクラックを生じる問題がある。
【0042】
また、本発明で得られた複合体エマルジョンを枠付きガラス板に流し込み、セロファン紙を被せて乾燥すると、表面平滑、クラックのないフィルムを得ることができる。軟質モノマーを用いたため、複合体エマルジョンの低温製膜性が極めて優れている。かかるエマルジョンの乾燥(製膜)温度は15℃〜80℃の範囲であることが好ましく、20℃〜50℃の範囲であることがより好ましい。乾燥時間はフィルムの厚みと乾燥温度によって異なるが、一般に数時間〜数日の間で行われる。
【0043】
本発明の複合体エマルジョンから、疎水性高分子・粘土鉱物複合体を取り出すには、公知のラテックスからゴム成分を凝固させて、凝固物として取り出す一般的な方法が用いられる。また、加熱、減圧などの方法により水系媒体を除去して複合体を取り出してもよい。より均一な疎水性高分子・粘土鉱物複合体とするためには前者の方法が好ましい。
【0044】
凝固方法としては、例えば、通常塩析と呼ばれる方法、即ち、電解液構成成分である(1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、(2)カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどの多価金属の塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウムなどの水溶液、及び/又は(3)必要に応じ塩酸、硝酸、硫酸などを添加することによって、疎水性高分子・粘土鉱物複合体をクラムとして凝固させることができる。これらの電解質は、一種単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。また、高分子凝集剤などを用いて微細の粘土鉱物を凝固させることもできる。共凝固の際の温度、pHなどは特に限定されないが、製造される疎水性高分子・粘土鉱物複合体に残留する無機塩を低減するためには、温度を10℃以上、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10℃〜50℃とし、pH値を2〜14(好ましくはpH4〜11)の範囲内に制御することが好ましい。10℃未満では、工業的に適さない。一方、温度が高すぎると、大きなクラムが得られないことがある。上記好ましい温度範囲の内、より低い温度で共凝固することにより、大きな複合体を得ることができる。
【0045】
疎水性高分子・粘土鉱物複合体を共凝固させた後、通常、凝固物を水洗するなどにより、界面活性剤や電解質などを除去し、続いて、熱風乾燥、真空乾燥などにより水分を除去することにより、疎水性高分子中に粘土鉱物が均一に分散した複合体が得られる。
【0046】
上記の方法でエマルジョンから得られた複合体には、粘土鉱物が極めて微細に分散されており、特に水膨潤性モンモリロナイト「クニピアF」を用いた場合、粘土鉱物がほぼ単層に近いナノオーダーレベルで高分子マトリックスに分散している。粘土鉱物の分散が微細であることは、層状粘土鉱物と疎水性高分子との接触面積が大きいことを意味するため、疎水性高分子が層状粘土鉱物により拘束される割合が増え、その結果、得られる複合体の耐熱性、弾性率及び破断強度が大幅に向上する。このため、本発明の複合体は力学強度が要求される分野、例えば、ゴム材料として使用可能である。
【0047】
通常、ゴム材料はカーボンブラックや粉体シリカなどの補強充填剤で補強して用いられる。より微小な粒子を均一にゴムマトリックス中に分散させることが大きな補強効果になることが知られている。補強充填剤の分散は通常ロールミルやインターナルミキサーを用いた混練りによって行われている。本発明の複合体は、粘土鉱物の共存下、ゴムなどの疎水高分子を合成し、均一に微細分散した粘土鉱物が補強充填剤となり、大きな力学物性(強度と弾性率)が与えられた。また、粘土鉱物とゴムを合成する段階で混合しマスターバッチを製造するので、補強充填剤の混練り工程を省略することが可能となる。更に、混練りでは、達成することが困難な数nm厚みの一次粒子のナノ分散が実現できる。
【0048】
本発明で得られるゴム系疎水性高分子・粘土鉱物複合体の力学特性を更に向上させるため、添加剤などと共に用いてゴム組成物を調製することができる。添加剤としては、加硫剤を含む架橋剤、補強用充填剤、カップリング剤、加硫促進剤、脂肪酸類などが配合される。
【0049】
上記の架橋剤には、硫黄、含硫黄化合物などの加硫剤、又は過酸化物などの非硫黄系架橋剤が含まれ、そのうち、特に硫黄が好ましい。上記補強用充填剤としては、カーボンブラック、シリカなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、製造方法によりチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックなどがあるが、いずれのものも使用することができる。シリカとしては、従来からゴム補強剤として使用されているもの、例えば、乾式法シリカ、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などを用いることができるが、湿式法シリカが好ましい。上記補強用充填剤としては、カーボンブラックのみを用いてもよいし、シリカのみを用いてもよい。更には、カーボンブラックとシリカを併用してもよい。
【0050】
上記添加剤に加え、ゴム用伸展油、亜鉛華、加硫助剤、老化防止剤及び加工助剤などを適量配合することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これらの例中の部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。また、各種の物性の測定方法は以下のとおりである。
【0052】
[粒径測定]
得られたエマルジョンは、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製)を用いて、平均粒子径を測定した。
[粘度測定]
エマルジョンの粘度は、B型回転粘度計(東京計器株式会社製)を用いて測定した。
[pH測定]
エマルジョンのpHは、堀場pH計(堀場製作所製)を用いて測定した。
[酸素ガス透過係数]
酸素ガス透過係数は、ガス透過係数測定装置(株式会社東洋精機製作所製)を用いて23℃にて測定した。表中の酸素ガス透過係数の単位はcm3 cm/cm2 sec cmHgである。
[引張試験]
厚み約120μmの複合体フィルムを幅2.5mmの短冊状に切り出して、滑りのないようにして引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS-H)に装着し、標点間距離=10mm、引張速度=100mm/分にて引張試験を行った。
【0053】
なお、本発明実施例について次の試薬が使用された。
(1)粘土鉱物
NTS-5: 膨潤性合成マイカの水分散液、N.V.= 6%(トピー工業株式会社製)
クニピアF: 高純度モンモリロナイト(クニミネ工業株式会社製)
XLG: 水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)
(2)界面活性剤
2A-1: ダウファクス2A-1、1,1-オキシビス,テトラプロピレン誘導体ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、アニオン性界面活性剤(日本乳化剤株式会社製)
エマール20C: ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アニオン性界面活性剤(花王株式会社製)
(3)モノマー
アクリロニトリル(AN): 旭化成ケミカルズ株式会社製
スチレンモノマー(St): 出光石油化学株式会社製
ブタジエン(モノマー)(Bd): 日本ゼオン株式会社製
イソプレン(IP): 和光純薬工業株式会社製
アクリル酸(AAc): 80%、大阪有機化学工業株式会社
(4)重合開始剤
過硫酸アンモニウム(APS): 三菱ガス化学株式会社製、10%水溶液にして使う。
(5)金属封止剤
クレワットTAA(EDTA): ナガセケムテックス株式会社製、5%水溶液にして使う。
(6)ゴムラテックス
SBRラテックス: ラックスター7310とラックスターDS810Kとの等量混合品、N.V.=50%、
大日本インキ化学工業株式会社製
【0054】
実施例1及び比較例1,2,3
クニピアF 3部を純水200部に均一に分散させ、攪拌しながら、アニオン性界面活性剤2A-1 2.2部を加えた。それにモノマースチレン(St) 10部、ブタジエン(Bd) 10部、アクリル酸(AAc) 0.6部を加え、金属封止剤EDTA 0.1部及び重合開始剤過硫酸アンモニウム(APS) 0.12部を更に加えて、耐圧ガラス製のボトル容器に充填した。次に、密封したガラス製ボトル容器を回転重合槽に固定し、回転しながら、70℃、5時間、そして、80℃、7時間で乳化重合を行った。
【0055】
得られたエマルジョンの粒子径は、クニピアF水分散液の粒子径及びクニピアFとSBRラテックスとの混合溶液の粒子径(比較例2)と比べて、極めて小さくなり、重合反応と共に、クニピアFの層剥離・ヘキ開が進んで粒子径が小さくなったと考えられる。また、クレイを使わず、実施例1と同様にして、比較例1のSBRエマルジョンを合成した。得られた実施例1、比較例1及び比較例2のエマルジョンをそれぞれ枠付きガラス板上に流し込み、セロファン紙を被せ、室温乾燥(25℃)させた後、ガラス板から乾燥フィルムを剥離して、引張試験測定用フィルムを得た。引張試験を測定したところ、図1に示したように、クレイを含まないゴム単体(比較例1)及びクレイとSBRラテックスとの単純混合品(比較例2)と比べて、実施例1の酸素ガスバリア性、破断強度及び弾性率が大幅に向上した。
【0056】
また、軟質モノマーブタジエン(Bd)を用いない以外は実施例1と同様にして比較例3のエマルジョンを合成した。得られたエマルジョンを枠付きガラス板上に流し込み、セロファン紙を被せて80℃で乾燥したところ、ひび割れした白濁膜になり、良好なフィルムが得られなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例2及び比較例4
表2に示した仕込み量で実施例1と同様にして、実施例2(複合体)及び比較例4(NBR)のエマルジョンを得た。これらのエマルジョンを用いたフィルムの引張特性は図2に示したように、実施例2の複合体はクレイを含まない比較例4と比べて、酸素ガスバリア性、破断強度、弾性率及び伸びが大きく向上した。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例3〜5及び比較例5
表3に示した仕込み量で実施例1と同様にして、実施例3,4,5(複合体)及び比較例5(MBR)のエマルジョンを得た。これらのエマルジョンを用いたフィルムの引張特性は図3に示したように、実施例の複合体はクレイを含まない比較例と比べて、酸素ガスバリア性、破断強度及び弾性率が大きく向上した。
【0061】
【表3】

【0062】
実施例6,7及び比較例6
表4に示した仕込み量で実施例1と同様にして、実施例6,7(複合体)及び比較例6(MMA/n-BA共重合体)のエマルジョンを得た。これらのエマルジョンを用いたフィルムの引張特性は図4に示したように、実施例の複合体はクレイを含まない比較例と比べて、酸素ガスバリア性、破断強度及び弾性率が大きく向上した。
【0063】
【表4】

【0064】
実施例8及び比較例7
表5に示した仕込み量で実施例1と同様にして、実施例8(複合体)のエマルジョンを得た。このエマルジョンを用いたフィルムは市販のポリスチレンフィルムと比べて、酸素ガス透過係数が一桁低くなり、優れたガスバリア性を示した。
【0065】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1及び比較例1,2で得られたフィルムの強度と伸びを示す図である。
【図2】実施例2及び比較例4で得られたフィルムの強度と伸びを示す図である。
【図3】実施例3,4,5及び比較例5で得られたフィルムの強度と伸びを示す図である。
【図4】実施例6,7及び比較例6で得られたフィルムの強度と伸びを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤性粘土鉱物の水分散液中で、界面活性剤を用いて疎水性の重合性ビニルモノマーを乳化重合する有機・無機複合体エマルジョンの製造方法であって、
前記界面活性剤がアニオン性界面活性剤であり、
前記疎水性の重合性ビニルモノマーが、ブタジエン、イソプレン又は式(1)
【化1】

(式中、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
で表される化合物を含有することを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項2】
更に、前記疎水性の重合性ビニルモノマーが、カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基、ヒドロキシル基及び加水分解性シリル基から選択された官能基を有する重合性ビニルモノマーを含有する請求項1記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項3】
前記水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性モンモリロナイト又は水膨潤性合成フッ素雲母である請求項1又は2記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルションに、電解質水溶液を加えて塩析させ、有機・無機複合体を凝固沈殿させることを特徴とする有機・無機複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルジョン。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法により得られる有機・無機複合体。
【請求項7】
有機高分子フィルム上に請求項5に記載の有機・無機複合体エマルジョンからなる層を設けた積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138047(P2009−138047A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313388(P2007−313388)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】