説明

有機・無機複合体エマルジョンの製造方法

【課題】優れたガスバリア性、破断強度、及び耐熱性を有する新規な有機・無機複合体エマルジョンの製造方法、また、それを用いたガスバリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、水膨潤性粘土鉱物の表面及び層間にノニオン界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍及び層間に局在化させてラジカル重合を行うことを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合によって得られる疎水性有機高分子と、水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成されている有機・無機複合体エマルジョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物の大部分が層状ケイ酸塩であり、その層状ケイ酸塩のインターカレーション機能を利用した有機・無機ナノコンポジットの研究は盛んに行われている。その中で、ナイロンと天然の粘土鉱物であるモンモリロナイトからなるナノコンポジットは特に広く知られている。この技術では、ω-アミノ酸アンモニウム塩を用い、粘土表面を有機化し、層間にモノマーを更にインターカレーションして重合することによって、粘土鉱物がほぼ単層に均一分散したナノコンポジットを製造することができる。例えば、特許文献1にはナイロンとモンモリロナイトからなる樹脂組成物及びその製造方法が開示されている。しかし、この方法では、粘土鉱物層間にあるω-アミノ酸アンモニウム塩が実質に重合停止剤として働き、高粘度タイプのナノコンポジットやモンモリロナイトの含有率が高いナノコンポジットを効率的且つ経済的に製造することができなかった。また、長鎖アルキルアンモニウム塩で粘土表面を修飾して得られる有機化粘土を用いて、熱可塑性樹脂と共に溶融混練することによって、粘土鉱物が微細に均一分散したナノコンポジットを製造する手法もよく使われており、数多くの文献が報告されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。しかし、有機化剤をポリマーに混入するため、ポリマーの物性、例えば耐熱性を損なう場合がある。
【0003】
また、水系塗料の耐チッピング性を改良するため、乳化重合して得られるNBRラテックスに板状のカオリンを添加することが特許文献5に報告されている。しかし、単純に混合するだけで、カオリンと樹脂との相互作用がなく、溶媒除去することによりカオリンが凝集して、均一なナノコンポジットが得られない場合がある。これを改善するため、有機オニウム塩を用いることが特許文献6に提案されている。この方法では、疎水性樹脂の水分散体と粘土鉱物水溶液との混合溶液を有機オニウム塩水溶液に加え、固形分を析出させてガスバリア性樹脂組成物を製造することができる。しかし、前述したように、有機オニウム塩を樹脂組成物に混入するため、樹脂物性に悪影響を及ぼす欠点を有する。また、これらの問題点を解決する巧みな方法が、特許文献7に例示されている。即ち、分子内に四級アンモニウム塩を有する水溶性アクリル樹脂に水膨潤性粘土鉱物を加え、該粘土鉱物と四級アンモニウム塩とがイオン結合を形成して、機械強度に優れるアクリル樹脂組成物を得ることができる。しかし、この方法では、分子内に四級アンモニウム塩の濃度を高くした場合、クレイとの反応によって沈殿を生じやすく、クレイ含有率の高いナノコンポジットが得られない欠点を有する。
【0004】
また、少量の水の中で、クレイ共存下、ビニルモノマーを重合して得られる複合体を合成ゴムと混合した組成物が、ガソリン透過性の低いゴム材料となることが特許文献8に報告されている。しかし、少量の水中では、クレイが十分にへき開されず、また、重合過程で疎水性モノマーとクレイとが十分に混合されていない状態で得られた複合体では、クレイの微分散性及び分散均一性に劣るものであった。
【0005】
また、高クレイ含有率のガスバリア性樹脂組成物の例として、特許文献9が挙げられる。この文献では、ポリビニルアルコールの水溶液とクレイの水分散液とを混合し、得た塗工液を基材に塗布することによって、ガスバリア性の高い積層フィルムを製造する。しかしながら、この樹脂組成物では、親水性樹脂ポリビニルアルコールを用いることで、耐水性、特に耐熱水性は十分ではなかった。
【0006】
【特許文献1】特公昭58-35211号公報
【特許文献2】特開平9-217012号公報
【特許文献3】特開平10-1608号公報
【特許文献4】特開2002-256144号公報
【特許文献5】特開平5-311095号公報
【特許文献6】特開2005-232257号公報
【特許文献7】特開平6-172605号公報
【特許文献8】特開2004-250654号公報
【特許文献9】特開平7-33909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れたガスバリア性及び耐熱性を有する新規な有機・無機複合体フィルム及びそれを与える有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、前記水膨潤性粘土鉱物の表面及び層間に前記ノニオン界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍又は層間に局在化させ、その場でラジカル重合反応を行うことによりまたは上述のラジカル重合反応を行った後、アニオン性界面活性剤と重合性ビニルモノマー(ii)を更に添加し、アニオン性界面活性剤ミセル中で重合性ビニルモノマーの重合を行うことにより、上記課題を達成する有機・無機複合体エマルジョンが得られることを見出し、本発明を完成させた。疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍及び層間に局在化させてラジカル重合反応を行うことにより、粘土鉱物の層状剥離・へき開が効果的に起こり、粒子径の小さいクレイ被覆型有機・無機複合体エマルジョンを製造することが可能となり、それよりガスバリア性に優れ、耐熱性を有するフィルムを得ることができる。
【0009】
すなわち、本発明は、水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、前記水膨潤性粘土鉱物の表面又は層間に前記ノニオン性界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍又は層間に局在化させてラジカル重合を行うことを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、前記水膨潤性粘土鉱物の表面又は層間に前記ノニオン性界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍又は層間に局在化させてラジカル重合を行ない、その後、アニオン性界面活性剤と重合性ビニルモノマー(ii)を添加し、前記アニオン性界面活性剤ミセル中で前記重合性ビニルモノマー(ii)の重合を行うことを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルジョンを提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、上記の有機・無機複合体エマルジョンからなる層を有機高分子フィルム上に設けた積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明で得られる有機・無機複合体エマルジョンは、粘土鉱物共存下で疎水性の重合性ビニルモノマー(i)をin-situ重合することによって、粘土鉱物の層剥離・へき開が促進されて、マトリックス中の粘土鉱物の分散サイズが一層小さくなる。このエマルジョンから得られる有機・無機複合体は、粘土鉱物を含まない樹脂又はゴムと比べて、ガスバリア性及び力学特性が著しく向上している。また、本発明のエマルジョンの粘土鉱物の表面が樹脂に覆われているため、他のゴムラテックス及び合成樹脂エマルジョンとの親和性が高く、粘土鉱物同士の凝集を生じにくい特徴を有する。このようなことから、本発明の有機・無機複合体のエマルジョンは優れた被覆材料、包装材料、ゴム材料、成形材料、充填材料などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用する疎水性の重合性ビニルモノマー(i)は、少なくとも一つのエチレン性不飽和基を有するラジカル重合性モノマー、例えば、次の(1)〜(6)に挙げる各種のビニルモノマーを使用することができる。これらのモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、本発明で言う疎水性の重合性ビニルモノマー(i)とは、そのモノマーを単独で重合した重合体が水に不溶となるモノマーを表す。
【0015】
(1)芳香族ビニル系モノマー
スチレン、p-クロロスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレンなど
【0016】
(2)シアン化ビニル系モノマー
(メタ)アクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなど
【0017】
(3)脂肪族共役ジエン系モノマー
1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロブレン、シクロペンタジエンなど
【0018】
(4)ビニルエステル系モノマー
酢酸ビニルなど
【0019】
(5)(メタ)アクリル系モノマー
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n又はi-プロピル(メタ)アクリレート、n-,i-,s-又はt-ブチル(メタ)アクリレート、n-又はt-ペンチル(メタ)アクリレート、3-ペンチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸C1〜20アルキルエステル類、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート類、ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート類、2-イソポルニル(メタ)アクリレート、2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなどの多環式(メタ)アクリレート類、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基又はフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類
【0020】
(6)官能基含有ビニル系モノマー
グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジフェノキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシランなどのアルコキシシリル基を有するビニル系モノマー
【0021】
また、本発明では、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)と共に、水に可溶となる親水性モノマーを共重合させることもできる。そのような親水性の重合性ビニルモノマーとしては、例えば、次に挙げる各種のビニルモノマーを用いることができる。
【0022】
(7)官能基含有親水性ビニル系モノマー
2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸又はその塩などのカルボキシル基含有ビニル系モノマー、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有モノマー又はその塩、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンなどのピリジル基を有するビニル系モノマー、
【0023】
(8)(メタ)アクリルアミド
(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-i-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなど
なお、本発明で使用する有機高分子は疎水性であることが好ましいため、上記の親水性ビニルモノマーの使用量は、使用する全モノマーに対して、50質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0024】
上述のビニル系モノマーのラジカル重合から得られる疎水性高分子は、本発明の複合体エマルジョンの基本性能を担う主要成分であり、粘土鉱物がガスバリア性や強度などを引き出す機能を効果的に発揮するための分散媒でもある。また、本発明で使用する疎水性の重合性ビニルモノマー(i)としては、耐水性を保持するため、スチレン、メチルメタクリレート(MMA)、アクリロニトリル、ブタジエン、ブチルアクリレート、イソプレンなどの疎水性モノマーを基本構成成分として、全モノマーに対して50質量%以上占めることが好ましい。
【0025】
更に、成膜性をもたらすため、スチレン、メチルメタクリレート(MMA)、アクリロニトリルなどの硬質モノマーとブタジエン、ブチルアクリレート、イソプレンなどの軟質モノマーとを組み合わせて用いることが好ましい。粘土鉱物の層剥離・へき開を起こすため、親水性モノマー、例えば、p-スチレンスルホン酸などを用いることが有効である。また、複合体エマルジョンの機械安定性を向上させるため、通常、アクリル酸などの酸モノマーを疎水性高分子に対して2〜10質量%程度添加することが好ましい。また、基材との密着性を増すため、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマーを用いることが好ましい。
【0026】
本発明で使用する重合性ビニルモノマー(ii)としては、公知の親水性及び疎水性の重合性ビニルモノマーを使用することができるが、上記の疎水性の重合性ビニルモノマー(i)及び親水性ビニルモノマーと同じモノマーを用いることが好ましい。中でも、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、n-ブチルアクリレートなどを用いることが特に好ましい。
【0027】
本発明で用いる水膨潤性粘土鉱物は、疎水性高分子に分散されてガスバリア性や強度などの機能性をもたらすものである。代表的なものとしては、モンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトナイト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、マイカ、フッ素化マイカなどが挙げられる。天然物由来のものでも、天然物の処理品でもよく、水膨潤性マイカのような合成品であっても良い。中でも、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性合成マイカがガスバリア性に優れ、特に好ましく用いられる。市販品としては、クニピアF(クニミネ工業(株)製)、ベンゲル(ホージュン(株)製)、NTSシリーズ(トピー工業(株)製)などがある。これらの粘土鉱物は通常負の電荷を有し、結晶層の間に存在するナトリウムイオン又はリチウムイオンなどの金属カチオンにより中和されている。また、水中において、結晶層の層間が広がり、単層又は数十層にまで分散する性質を有している。
【0028】
本発明においては、複合体エマルジョンの固形分における粘土鉱物の質量比は0.1〜90質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜85質量%であり、特に好ましくは1〜80質量%である。粘土鉱物が0.1質量%未満であると、目的とするガスバリア性が得られない。一方、粘土鉱物が90質量%を超えると、複合体エマルジョンが成膜しにくく、例え成膜できても、強度や耐水性が劣り、好ましくない。
【0029】
本発明で用いられる界面活性剤は通常の乳化重合で使用されているアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を挙げることができ、これらが一種又は二種以上使用される。なお、アニオン系、ノニオン系であれば高分子界面活性剤を使用することもできる。カチオン系界面活性剤は負に帯電している粘土鉱物と反応して、ゲル化又は沈降する恐れがあり、好ましくない。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレートなどの脂肪酸モノグリセライド、オキシエチレンーオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと、脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物などを挙げることができ、これらが一種又は二種以上使用される。ノニオン界面活性剤は粘土鉱物の水分散液中に粘土鉱物の表面及び層間に吸着することができる。界面活性剤が吸着されている粘土鉱物の表面及び層間はビニル系モノマーの重合の場となり、重合反応の進行によって粘土鉱物の層剥離・へき開が起こり、得られた樹脂/粘土複合体ラテックスの粘土鉱物は、分散サイズが小さくなるだけではなく、表面が樹脂に覆われていることになる。
【0030】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などが挙げられる。これらが一種又は二種以上の組み合わせで使用される。通常、粘土鉱物は水分散液中、負に帯電しているため、負の電荷を有するアニオン界面活性剤との相互作用が弱く、粘土鉱物共存下での乳化重合はより安定に進行することができる。高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、末端長鎖アルキル基変性ポリビニルアルコール、ゼラチン、レシチンなどの蛋白質、寒天、デンブン誘導体などの糖誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒトロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらが一種又は二種以上の組み合わせで使用される。親水性の高分子界面活性剤(分散剤)を用いることによって、粘土鉱物の層間距離が広げられやすく、疎水性高分子マトリックスに粘土鉱物の分散が促進される。
【0031】
ノニオン界面活性剤としては、曇点が重合温度以下のものを用いることが好ましい、曇点が重合温度以下であれば、ノニオン界面活性剤は重合過程で水溶液中から析出して、強固に粘土鉱物の表面に吸着するため、粘土鉱物被覆型複合体エマルジョンの合成に好適である。中でも曇点0〜80℃であることが好ましく、0〜70℃であることが最も好ましい。
【0032】
ノニオン性界面活性剤が粘土鉱物に吸着することは次のような簡単な実験によって確認することができる。例えば、粘土鉱物XLGの2%透明溶液20gに曇点40℃のノニオン性界面活性剤NE-10を0.1g添加し、均一に混合した。次に、溶液温度を60℃に上げて、溶液の透明性を観察したところ、溶液は透明なままであった。これは、ノニオン性界面活性剤が粘土鉱物に吸着して、曇点以上の温度でも、水溶液から析出しなかったと考えられる。
【0033】
乳化重合で用いられる界面活性剤の内、反応性界面活性剤は、製膜時の水溶性物質を減らすことができたり、被膜の耐水性が高めることができるため、特に好ましく用いられる。一般に反応性基を有する界面活性剤は、反応性界面活性剤と称され、該反応性基としては、例えば、(メタ)アリル基、1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、イソプロペニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの炭素―炭素二重結合を有する官能基が挙げられる。ノニオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンーポリオキシプロピレンブロック共重合体のような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類もしくは(メタ)アクリル酸エステルのモノマー類などが挙げられる。アリル基(CH2=C(-R)-CH2-)(ただしRはアルキル基)を含有するノニオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、アリル基を有するポリオキシエチレンC6-20アルキルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープNE-10、曇点40℃(旭電化工業(株)製)などがある。(メタ)アクリロイル基(CH2=C(-R)-C(=O)-O-)(ただしRはアルキル基)を含有するノニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、市販品として、「RMA-560」シリーズ(日本乳化剤(株)製)、「ブレンマーPE」シリーズ(日本油脂(株)製)などが挙げられる。プロペニル基(CH3-CH=CH-)を含有するノニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アクアロンRN」シリーズ(第一工業製薬(株)製)などがある。
【0034】
アニオン性を有する反応性界面活性剤としては、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、カルボン酸塩基、リン酸塩基などの構造を含有するものが挙げられ、スルホン酸塩基を有するビニルモノマーとして、例えばアリルスルホン酸、2-メチルアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-ビニルベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの各種のスルホン酸基含有ビニルモノマー類を各種の塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。該塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエチルアルコール、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロキサイドなどが挙げられる。硫酸エステル塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばアリルアルコールの硫酸エステル基を含有するビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。リン酸塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばモノ{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェートなどのリン酸基含有ビニルモノマー類を前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものが挙げられる。アリル基(CH2=C(-R)-CH2-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩などが挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープSE-10N」シリーズ(旭電化工業(株)製)、「エレミノールJS-2」(三洋化成工業(株)製)、「ラテムルS-180もしくはS-180A」(花王(株)製)、「H3390A」及び「H3390B」(第一工業製薬(株)製)などがある。(メタ)アクリロイル基(CH2=C(-R)-C(=O)-O-)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、市販品として、「エレミノールRS-30」シリーズ(三洋化成工業(株)製)、「Antox MS-60」シリーズ(日本乳化剤(株)製)などが挙げられる。プロペニル基(CH3-CH=CH-)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩などが挙げられ、市販品としては「アクアロンHS-10」シリーズ及び「アクアロンBC」シリーズ(第一工業製薬(株)製)などがある。
【0035】
上述のノニオン性界面活性剤の使用量としては、疎水性高分子を含むエマルジョン樹脂固形分100質量部に対して0.05〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50質量部であり、特に好ましくは1〜25質量部である。0.05質量部未満では、重合時に凝集物が生じやすい。逆に100質量部を超えると、塗膜の耐水性が極端に低下する。
【0036】
また、アニオン性界面活性剤の使用量としては、臨界ミセル濃度(CMC)以上であることが好ましい。臨界ミセル濃度以上であれば、水溶液中に界面活性剤のミセルが形成され、疎水性のビニルモノマーはミセルの中でラジカル重合を行い、安定なエマルジョンが得られる。
【0037】
本発明で製造される複合体エマルジョンは、通常のラジカル重合法により製造される。ラジカル重合法は特に限定されず、例えば、以下の(1)〜(3)に挙げる方法があり、これらの方法を更に組み合わせたものでもよい。
(1)粘土鉱物、モノマー、界面活性剤、及び溶媒を反応容器に加えてプリエマルジョンを作製し、このプリエマルジョンにラジカル重合開始剤を添加して、ラジカル重合を行う一括重合方法。
(2)粘土鉱物、界面活性剤、溶媒及びラジカル重合開始剤を反応容器に加えて攪拌しながら、モノマーを滴下して、ラジカル重合を行うモノマー添加重合方法。
(3)粘土鉱物、ノニオン性界面活性剤、一部のモノマー、溶媒及びラジカル重合開始剤を反応容器に加えてラジカル重合を行った後、更にアニオン性界面活性剤、モノマーを加えて、乳化重合を行う二段階重合方法。
【0038】
重合で用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライト(商品名V-50)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライト(商品名VA-044)などの水性アゾ化合物、過酸化水素などが挙げられる。また、ラジカル重合開始剤と共に、亜硫酸水素ナトリウム、L-アスコルビン酸などの還元剤を併用して、レドックス開始剤としてもよい。重合開始剤の使用量はモノマーに対して、通常0.05〜10質量%である。
【0039】
重合温度については、重合開始剤によって異なるが、通常、0〜100℃であり、好ましくは40〜90℃である。
【0040】
疎水性高分子の分子量を調節するために連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン類及びα-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0041】
重合転化率が大きくなるとゲル化する場合がある。その際、重合転嫁率は80%以下に抑えることが好ましい。重合の停止は所定の重合転化率に達した時点で、重合停止剤を添加することによって行われる。重合停止剤としては、ヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのアミン化合物、ヒドロキノンなどのキノン化合物などが挙げられる。重合停止後、反応系から必要に応じて水蒸気蒸留などの方法により未反応モノマーを除去し、安定なエマルジョンを得ることができる。
【0042】
また、必要であれば、PH調整剤(例えば、酸(硫酸、塩酸など)、アンモニア、アミンなど)を重合過程又は反応終了後のエマルジョンに添加してもよい。重合系又はエマルジョンのPHは、例えば、PH7〜9程度に調製することが好ましい。
【0043】
なお、必要に応じて、キレート化剤、酸素捕捉剤、消泡剤、防腐剤などを反応容器に添加して重合することもできる。
【0044】
次に、本発明の代表的な有機・無機複合体エマルジョンの製造方法の一例を説明するが、これらの製造方法により何ら限定されるものではない。
【0045】
(1)粘土鉱物被覆型有機・無機複合体エマルジョン
粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤、重合開始剤過硫酸アンモニウム、所定量のモノマーなどを順次加えて、70℃、5時間重合を行い、沈降のない安定な複合体エマルジョンが得られた。エマルジョンの粒径を測定したところ、重合開始前の粘土鉱物の粒子径より一桁以上小さくなった。また、エマルジョンをTEMで観察したところ、ポリマーに由来する独立球状粒子が全く観察されず、ポリマーは殆ど燐片状の粘土鉱物表面に付着していることがわかった。また、エマルジョンから得られた乾燥膜の広角X線回折の測定では、粘土鉱物の層間距離が広げられることが確認された。このタイプのエマルジョンの合成には、モノマー量が重要である。全固形分に対して、モノマー量が80質量%を超えると、粘土鉱物が疎水化されて、系内から析出して沈降する傾向がある。
【0046】
(2)被覆された粘土鉱物内添型有機・無機複合体エマルジョン
粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤、重合開始剤過硫酸アンモニウム、所定量のモノマーを順次加えて、70℃、5時間重合を行った。得た複合体エマルジョンに、更にアニオン性界面活性剤、重合開始剤過硫酸アンモニウム、モノマーなどを順次加えて、70℃、5時間重合を行い、沈降のない安定な複合体エマルジョンが得られた。エマルジョン及びエマルジョンの乾燥膜の分析から、粘土鉱物の粒子径が小さくなり、層間距離が広げられることが確認された。また、エマルジョンから取り出した固形複合体のTEM観察では、へき開された粘土鉱物の凝集が殆ど無かった。この二段階重合法では、二段階目の重合において、アニオン性界面活性剤を用いることが重要である。その使用量は臨界ミセル濃度(CMC)以上であることが好ましい。一段階目のノニオン性界面活性剤を続けて使うと、粘土鉱物に吸着するポリマーが増えて、凝集沈降を生じ、エマルジョンが得られなくなる。一方、アニオン性界面活性剤を添加すると、二段階目のモノマーの殆どがアニオン性界面活性剤のミセルの中で重合され、粘土鉱物の沈降がなく、安定なエマルジョンが得られる。このエマルジョンをTEMで観察したところ、ポリマーに由来する独立球状粒子と燐片状の粘土鉱物が共存していることが確認された。
【0047】
上述の方法で得られる複合体エマルジョンは、ガスバリア性コート剤として使用することができる。例えば、樹脂、紙、アルミ箔、木材、布、不織布などの基材に塗布した後、加熱乾燥することによってガスバリア性の積層体が得られる。樹脂基材としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂及び液晶ポリエステル樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーポネート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのプラスチック成型品が挙げられる。
【0048】
これらの中でフィルム形態での積層体が特に好ましい。この場合、通常の有機高分子フィルムを基材として用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリイミド樹脂などよりなるフィルム又はそれらのフィルムの積層体が挙げられ、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0049】
また、基材フィルムとガスバリアコート層の接着性を向上させるため、基材フィルム表面にコロナ放電処理やプラズマ処理などをしてもよく、アンカーコートをしてもよい。
【0050】
基材フィルムに本発明の複合体エマルジョンをコーティングする方法は特に限定されないが、例えば、ロールコーター、バーコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーター、刷毛などを用いた塗布、ディップコート、流し塗り、スプレーやこれらを組み合わせたコーティング法などの方法が挙げられる。
【0051】
本発明におけるガスバリア性積層フィルムのガスバリア層の厚みは、0.01〜20μmの範囲であることが好ましく、0.05〜10μmの範囲であることがより好ましい。ガスバリア層が0.01μm未満では、十分なガスバリア性効果が得られない恐れがある。一方、20μmを超えると、透明性が低下した上、塗膜にクラックを生じる問題がある。
【0052】
本発明のガスバリア性積層フィルムのガスバリア層はへき開された粘土鉱物を含有することによって、気体遮断性が極めて優れていることがわかった。実施例に示したように、粘土鉱物を含まない同じ樹脂の場合、酸素ガス透過係数がせいぜい2×10-10程度であるのに対して、本発明の積層フィルムのガスバリア層では、酸素ガス透過係数が1×10-13以下のものや、更に優れたものでは3×10-14以下のものが得られる。
【0053】
本発明で得られる有機・無機複合体エマルジョンは、極めて優れたガスバリア性を有するため、市販のゴムラテックス又は合成樹脂エマルジョンの添加剤として用いることができる。合成ゴムラテックスとしては、SBR(スチレン-ブタジエン)、BR(ブタジエン)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエン)、MBR(メタクリル酸エステル-ブタジエン)、CR(クロロプレン)、IR(イソプレン)などが挙げられる。また、合成樹脂エマルジョンとしては、酢酸ビニル系エマルジョン、アクリル系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル系(EVA)エマルジョン、塩化ビニリデン系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、ポリアミド系エマルジョンなどが挙げられる。本発明のエマルジョンの粘土鉱物表面が樹脂に覆われているため、上記のゴムラテックス及び合成樹脂エマルジョンとの親和性が高く、粘土鉱物同士の凝集を生じにくい特徴を有する。
【0054】
本発明の複合体エマルジョンから、疎水性高分子・粘土鉱物複合体を取り出すには、公知のラテックスからゴム成分を凝固させて、凝固物として取り出す一般的な方法が用いられる。また、加熱、減圧などの方法により水系媒体を除去して複合体を取り出してもよい。より均一な疎水性高分子・粘土鉱物複合体とするためには前者の方法が好ましい。
【0055】
凝固方法としては、例えば、通常塩析と呼ばれる方法、即ち、電解液構成成分である(1)塩化ナトリウム、塩化カリウム、(2)カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどの多価金属の塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウムなどの水溶液、及び/又は(3)必要に応じ塩酸、硝酸、硫酸などを添加することによって、疎水性高分子・粘土鉱物複合体をクラムとして凝固させることができる。これらの電解質は、一種単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。また、高分子凝集剤などを用いて微細の粘土鉱物を凝固させることもできる。共凝固の際の温度、pHなどは特に限定されないが、製造される疎水性高分子・粘土鉱物複合体に残留する無機塩を低減するためには、温度を10℃以上、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10℃〜50℃とし、pH値を2〜14(好ましくはpH4〜11)の範囲内に制御することが好ましい。10℃未満では、工業的に適さない。一方、温度が高すぎると、大きなクラムが得られないことがある。上記好ましい温度範囲の内、より低い温度で共凝固することにより、大きな複合体を得ることができる。
【0056】
疎水性高分子・粘土鉱物複合体を共凝固させた後、通常、凝固物を水洗するなどにより、界面活性剤や電解質などを除去し、続いて、熱風乾燥、真空乾燥などにより水分を除去することにより、疎水性高分子中に粘土鉱物が均一に分散した複合体が得られる。
【0057】
上記の方法でエマルジョンから得られた複合体には、粘土鉱物が極めて微細に分散されており、特に水膨潤性モンモリロナイト「クニピアF」を用いた場合、粘土鉱物がほぼ単層に近いナノオーダーレベルで高分子マトリックスに分散している。粘土鉱物の分散が微細であることは、層状粘土鉱物と疎水性高分子との接触面積が大きいことを意味するため、疎水性高分子が層状粘土鉱物により拘束される割合が増え、その結果、得られる複合体の耐熱性、弾性率及び破断強度が大幅に向上する。このため、本発明の複合体は力学強度が要求される分野、例えば、ゴム材料として使用可能である。
【0058】
通常、ゴム材料はカーボンブラックや粉体シリカなどの補強充填剤で補強して用いられる。より微小な粒子を均一にゴムマトリックス中に分散させることが大きな補強効果になることが知られている。補強充填剤の分散は通常ロールミルやインターナルミキサーを用いた混練りによって行われている。本発明の複合体は、粘土鉱物の共存下、ゴムなどの疎水高分子を合成し、均一に微細分散した粘土鉱物が補強充填剤となり、大きな力学物性(強度と弾性率)が与えられた。また、粘土鉱物とゴムを合成する段階で混合しマスターバッチを製造するので、補強充填剤の混練り工程を省略することが可能となる。更に、混練りでは、達成することが困難な数nm厚みの一次粒子のナノ分散が実現できる。
【0059】
本発明で得られるゴム系疎水性高分子・粘土鉱物複合体の力学特性を更に向上させるため、添加剤などと共に用いてゴム組成物を調製することができる。添加剤としては、加硫剤を含む架橋剤、補強用充填剤、カップリング剤、加硫促進剤、脂肪酸類などが配合される。
【0060】
上記の架橋剤には、硫黄、含硫黄化合物などの加硫剤、又は過酸化物などの非硫黄系架橋剤が含まれ、そのうち、特に硫黄が好ましい。
【0061】
上記補強用充填剤としては、カーボンブラック、シリカなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、製造方法によりチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックなどがあるが、いずれのものも使用することができる。
【0062】
シリカとしては、従来からゴム補強剤として使用されているもの、例えば、乾式法シリカ、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などを用いることができるが、湿式法シリカが好ましい。上記補強用充填剤としては、カーボンブラックのみを用いてもよいし、シリカのみを用いてもよい。更には、カーボンブラックとシリカを併用してもよい。上記添加剤に加え、ゴム用伸展油、亜鉛華、加硫助剤、老化防止剤及び加工助剤などを適量配合することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これらの例中の部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。また、各種の物性の測定方法は以下のとおりである。
【0064】
[粒径測定]
得られたエマルジョンは、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製)を用いて、平均粒子径を測定した。
【0065】
[粘度測定]
エマルジョンの粘度は、B型回転粘度計(東京計器株式会社製)を用いて測定した。
【0066】
[pH測定]
エマルジョンのpHは、堀場pH計(堀場製作所製)を用いて測定した。
【0067】
[酸素ガス透過係数]
酸素バリア性は、ガス透過係数測定装置(株式会社東洋精機製作所製)を用いて23℃にて測定した。また、積層フィルムを構成するガスバリア層(塗布層)の酸素ガス透過係数P2(O2)は、下記式(1)から算出した。

ただし、P: 積層フィルムの酸素ガス透過係数 P1: 基材フィルムの酸素ガス透過係数 P2:塗布層の酸素ガス透過係数 l: 積層フィルムの厚み l1: 基材フィルムの厚み l2: ガスバリア層(塗布層)の厚み
なお、厚み38μmのPETフィルムの酸素ガス透過係数は2.68×10-12 cm3 cm/cm2 sec cmHg、また、厚み25μmのPSフィルムの酸素ガス透過係数は、1.86×10-10 cm3 cm/cm2 sec cmHgとした。
【0068】
[引張試験]
厚み約120μmの複合体フィルムを幅2.5mmの短冊状に切り出して、滑りのないようにして引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS-H)に装着し、標点間距離=10mm、引張速度=100mm/分にて引張試験を行った。
なお、本発明実施例について次の試薬が使用された。
【0069】
粘土鉱物
NTS-5: 膨潤性合成マイカの水分散液、N.V.= 6%(トピー工業株式会社製)
クニピアF: 高純度モンモリロナイト(クニミネ工業株式会社製)
【0070】
界面活性剤
NE-10: 「アデカリアソープNE」シリーズ、反応性ノニオン性界面活性剤、曇点40℃(旭電化工業株式会社製)
エマルゲン1135S-70: ノニオン性界面活性剤、曇点>100℃(花王株式会社製)
2A-1: ダウファクス2A-1、アニオン性界面活性剤(日本乳化剤株式会社製)
【0071】
モノマー
アクリロニトリル(AN): 旭化成ケミカルズ株式会社製
スチレンモノマー(St): 出光石油化学株式会社製
ブタジエン(モノマー)(Bd): 日本ゼオン株式会社製
イソプレン(IP): 和光純薬工業株式会社製
アクリル酸(AAc): 80%、大阪有機化学工業株式会社
【0072】
重合開始剤
過硫酸アンモニウム(APS): 三菱ガス化学株式会社製、10%水溶液にして使う。
【0073】
金属封止剤
クレワットTAA(EDTA): ナガセケムテックス株式会社製、5%水溶液にして使う。
【0074】
分散剤
PVA117H: クラレ株式会社製
【0075】
連鎖移動剤
ドデシルメルカプタン(DOMC): 和光純薬工業株式会社製
【0076】
ゴムラテックス
NBRラテックス: ラックスターDN-703、N.V.=42%、大日本インキ化学工業株式会社製
SBRラテックス: ラックスター7310とラックスターDS810Kとの等量混合品、N.V.=50%、
大日本インキ化学工業株式会社製
【0077】
実施例1(粘土鉱物被覆型有機・無機複合体エマルジョンの合成)
合成マイカの水分散液NTS-5 62.5部を純水191部で希釈して、攪拌しながら、ノニオン性界面活性剤NE-10 0.11部を加えた。それにモノマーアクリロニトリル(AN) 1.7部、ブタジエン(Bd) 3.9部及び重合開始剤過硫酸アンモニウム(APS) 0.08部を更に加えて、耐圧ガラス製のボトル容器に充填した。次に、密封したガラス製ボトル容器を回転重合槽に固定し、回転しながら、70℃、5時間、そして、80℃、7時間でラジカル重合反応を行った。得られたエマルジョンの粒子径は、合成マイカ水分散液の粒子径及び合成マイカとNBRラテックスとの混合溶液の粒子径(比較例1)と比べて、極めて小さくなり、重合反応と共に、合成マイカの層剥離・ヘキ開が進んで粒子径が小さくなったと考えられる。また、実施例1及び比較例1のエマルジョンを基材フィルム(PETフィルム)に塗布して、得られた積層フィルムの酸素ガス透過係数を測定(ガス透過係数測定装置(株式会社東洋精機製作所製))したところ、実施例1の酸素ガスバリア性が比較例1より優れていることが明らかである。
【0078】
実施例2〜8
表1及び表2に示した仕込み量で実施例1と同様にして、粘土鉱物被覆型有機・無機複合体エマルジョンを得た。これらのエマルジョンを用いた積層フィルムのガスバリア性は表1及び表2にまとめている。
【0079】
実施例9(被覆された粘土鉱物内添型有機・無機複合体エマルジョン)
表3に示した一段階目のラジカル重合の仕込み量で実施例1と同様にして、まず粘土鉱物被覆型有機・無機複合体エマルションを合成した。次に、このエマルジョンに二段階目のモノマー、アニオン性界面活性剤、金属封止剤、連鎖移動剤、重合開始剤を加えて、実施例1と同じ条件で乳化重合を行った。得られたエマルジョンをガラス板上に塗布し、80℃熱風乾燥させた後、ガラス板から乾燥フィルムを剥離して、酸素ガス透過係数測定用フィルムを得た。この単層フィルムの酸素ガス透過係数を測定したところ、クレイを含まない樹脂単体(比較例2:PSフィルムのみ(単層フィルム))と比べて、酸素ガス透過係数が二桁低くなり、優れたガスバリア性を示した。
【0080】
実施例10(被覆された粘土鉱物内添型ゴム・粘土鉱物複合体)
表4に示した仕込み量で二段階重合を行い、複合体エマルジョンを得た。次に、このエマルジョンを製膜して、得られた複合体フィルムの引張試験を行った。比較例3で得られたゴム単体と比べて、実施例10の強度と弾性率が大きく増加した(図1)。
【0081】
実施例11(被覆型ゴム・粘土鉱物複合体エマルジョンとゴムラテックスとの混合体)
表4に示した仕込み量で実施例1と同様にして、被覆型ゴム・粘土鉱物複合体エマルジョンを合成した。次に、このエマルジョンとSBRラテックスとを均一に混合し、製膜することによって複合体フィルムを得た。引張試験を行ったところ、比較例3と比べて、実施例11の強度、弾性率及び伸びが大きく増加した(図1)。
【0082】
【表1】

【0083】
注) P(O2): 積層フィルムの酸素ガス透過係数
塗布層P2(O):式(1)による計算値
【0084】
【表2】

【0085】
注) P(O2): 積層フィルムの酸素ガス透過係数
塗布層P2(O):式(1)による計算値
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例10,11で得られたゴム/粘土鉱物複合体及び比較例3で得られたゴムの強度と伸びを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、前記水膨潤性粘土鉱物の表面又は層間に前記ノニオン性界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍又は層間に局在化させてラジカル重合を行うことを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項2】
水膨潤性粘土鉱物の水分散液に、ノニオン性界面活性剤を添加し、前記水膨潤性粘土鉱物の表面又は層間に前記ノニオン性界面活性剤を吸着させ、次いで、疎水性の重合性ビニルモノマー(i)を加え、前記界面活性剤が存在している粘土鉱物の表面、表面近傍又は層間に局在化させてラジカル重合を行ない、その後、アニオン性界面活性剤と重合性ビニルモノマー(ii)を添加し、前記アニオン性界面活性剤ミセル中で前記重合性ビニルモノマー(ii)の重合を行うことを特徴とする有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項3】
前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1又は2に記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項4】
前記ノニオン性界面活性剤が、アリル基を有するポリオキシエチレンC6-20アルキルフェニルエーテルである請求項1又は2に記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項5】
前記疎水性の重合性ビニルモノマー(i)が、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートから選択される少なくとも一種のモノマーとブタジエン、イソプレン、ブチルアクリレートから選択される少なくとも一種のモノマーとを含む請求項1〜4のいずれかに記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項6】
前記疎水性の重合性ビニルモノマー(i)が、カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基、ヒドロキシル基及び加水分解性シリル基から選択される官能基を有するモノマーを含む請求項1〜4のいずれかに記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項7】
前記水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性モンモリロナイト又は水膨潤性合成フッ素雲母である請求項1〜6のいずれか一つに記載の有機・無機複合体エマルジョンの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルジョンに、電解質水溶液を加えて塩析させ、有機・無機複合体を凝固沈殿させることを特徴とする有機・無機複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる有機・無機複合体エマルジョン。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる有機・無機複合体。
【請求項11】
有機高分子フィルム上に請求項9に記載の有機・無機複合体エマルジョンからなる層を設けた積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−67892(P2009−67892A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237860(P2007−237860)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】