説明

有機・無機複合高分子ゲル及びその製造方法

【課題】 優れた力学物性や透明性を有し、且つ大気開放系でもより安定した性能を保持できる有機・無機複合高分子ゲルおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 水溶性有機モノマーから得られる有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが複合化して形成された三次元網目を有し、0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下の低揮発性媒体(C)を含むことを特徴とする有機・無機複合高分子ゲル、及び水溶性有機モノマー、水膨潤性粘土鉱物、水、及び低揮発性媒体を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させることを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業材料、電子材料、土木・建築材料、医療材料などの分野で有用な有機・無機複合高分子ゲルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは有機高分子の三次元架橋物が水や有機溶媒などの媒体を含んで膨潤したものであり、ソフトマテリアル、吸着・吸収材料、振動吸収・防振材、緩衝材、シーリング材などの材料として、工業、電子・電気、農業・土木、建築・衣料、医療・医薬、スポーツ関連などの分野で広く用いられている(非特許文献1参照)。
【0003】
近年、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)等の有機高分子と無機膨潤性クレイからなる、有機・無機複合高分子ヒドロゲルが開発され、従来にない高い力学物性を有する高分子ヒドロゲル材料として注目されている(特許文献1、非特許文献2参照)。しかし、該ヒドロゲルの大きな問題点として、大気開放条件下でヒドロゲルからかなり速い速度で水が蒸散することで次第に含水率が低下し、結果として力学物性を始めとする特性が低下し、最終的に脆い材料へと変化することが挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【非特許文献1】長田義仁、梶原莞爾編、「ゲルハンドブック」、エヌ・ティー・エス株式会社、1997年
【非特許文献2】American Chemical Society、「Macromolecules2002, vol35, p10162−10171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、優れた力学物性や透明性を有し、且つ大気開放系でもより安定した性能を保持できる有機・無機複合高分子ゲルおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、少なくとも一部が層状に剥離した粘土鉱物とポリ(N−アルキルアクリルアミド)などの有機高分子とが複合化して形成された三次元網目の中に、均一に低揮発性媒体が含まれている有機・無機複合高分子ゲルが、優れた力学物性、透明性、及び大気開放系での安定性を併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、水溶性有機モノマーから得られる有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが複合化して形成された三次元網目を有し、0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下の低揮発性媒体(C)を含むことを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルを提供する。
【0008】
また、本発明は水溶性有機モノマー、水膨潤性粘土鉱物、水、及び低揮発性媒体を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させることを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルの製造方法、更には、水溶性有機モノマー、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させ、有機高分子と水膨潤性粘土鉱物と水からなるヒドロゲルを得た後、該ヒドロゲルを低揮発性媒体または低揮発性媒体を含む液に含浸させることを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルの製造方法を提供する。さらに本発明は、これら方法により得られた有機・無機複合高分子ゲルから低揮発性媒体以外の媒体を除去する工程を有する有機・無機複合高分子ゲルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、低揮発性媒体を含む、または全媒体が低揮発性媒体である、有機・無機複合高分子ゲル及びその製造方法を提供するもので、均一性、透明性、柔軟性、強靱性などを有し、且つ大気開放系において、従来のヒドロゲルと比べて安定して使える特徴を有する。本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、その柔軟性、透明性、安定性などを生かして、工業材料、電子材料、医療材料分野などの幅広い分野で有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、水溶性有機モノマーから得られる有機高分子(A)(以下、単に有機高分子(A)と略記する。)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目を形成しており、該三次元網目に低揮発性媒体(C)を含むことが必須である。三次元網目の形成は、もっとも簡単には、各構成成分を溶解する溶媒で処理しても溶解されないことで確認され、詳細には、引張り弾性率や膨潤度の測定によって三次元網目密度が評価される。なお、本発明の有機・無機複合高分子ゲルでは、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目が形成されていれば良く、有機架橋剤と併用する形であっても良いが、より好ましくは、有機架橋剤を用いずに、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)だけから三次元網目が形成されたものである。
【0011】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルに用いる有機高分子(A)としては、重合前のモノマーが水または水を含む有機溶媒に溶解する性質を有する水溶性有機モノマーであって、重合後において水膨潤性粘土鉱物(B)と相互作用を有し、水膨潤性粘土鉱物(B)と三次元網目を形成するものが用いられる。好ましくは、水膨潤性粘土鉱物(B)と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有する有機高分子が用いられ、アミド基(CONH)、エステル基、アミノ基、カルボニル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する有機高分子が挙げられ、なかでもアミド基を有する有機高分子が好ましく用いられる。なお、ここで言う水を含む有機溶媒とは、水を含み水に混和する有機溶媒を意味する。水と混和する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド及びそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0012】
アミド基を有する有機高分子としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類の中から選択される一つ又は複数を重合して得られる有機高分子が例として挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。
【0013】
有機高分子(A)の具体例としては、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)等が例示される。
【0014】
かかる有機高分子(A)としては、単一水溶性モノマーからの重合体の他、複数の異なる水溶性モノマーを重合して得られる共重合体を用いることもできる。また上記水溶性モノマーと有機溶媒可溶性モノマーとの共重合体も、得られた重合体が水膨潤性粘土鉱物(B)と複合化して三次元網目を形成するものであれば使用することができる。
【0015】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルの形成に用いる水膨潤性粘土鉱物(B)は、水に膨潤性を有するものであり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0016】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルに用いられる低揮発性媒体(C)としては、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目の中に均一に含まれるもので、且つ、水より低い揮発性を有するものが用いられる。好ましくは、揮発性が60℃・1気圧の開放系において1cm・1時間当たり0.1g以下、好ましくは、0.05g以下、更に好ましくは0.01g以下、特に好ましくは0.001g以下のものが用いられる。特に好ましくは、室温(10〜30℃)において殆ど揮発しないものである。また、人体に対して毒性を有さないものが好ましい。具体的には(かっこ内は揮発性)、グリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ジグリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、エチレングリコール(0.01g/cm・hr・60℃・1atm)、プロピレングリコール(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ポリエチレングリコール(PEG600)(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)等が例示され、これらから選ばれる一種または複数が用いられるが、より好ましくは、グリセリン及び/またはジグリセリンであり、特に好ましくはグリセリンである。これに対して水は約0.28g/cm・hr・60℃・1atmと揮発性が高い。
【0017】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルの製造方法としては、幾つかの方法が可能である。例えば、有機高分子(A)の重合原料である水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)と水と低揮発性媒体(C)を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させることで、低揮発性媒体(C)を含む有機・無機複合高分子ゲルを製造する方法、また、有機高分子(A)の重合原料である水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)と水を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させ、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目ネットワークを形成させた後、得られたゲルを低揮発性媒体(C)または低揮発性媒体(C)を含む液に含浸させて少なくとも一部の媒体を低揮発性媒体(C)とする方法が用いられる。更に、これらのいずれの場合に対しても、得られた有機・無機複合高分子ゲルから低揮発性媒体(C)以外の媒体を、例えば乾燥などの方法により除去して、媒体中の低揮発性媒体(C)濃度を上げることによる製造方法も好ましく用いられる。
【0018】
前述の水溶性有機モノマーの重合反応は例えば、過酸化物の存在、加熱または紫外線照射など慣用の方法を用いたラジカル重合により行わせることができる。ラジカル重合開始剤および触媒としては、慣用のラジカル重合開始剤および触媒のうちから適宜選択して用いることができる。好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。特に好ましくは層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。
【0019】
具体的には、重合開始剤として水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物などが好ましく使用できる。例えば、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などを用いることができる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤なども用いられる。
【0020】
また触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが好ましく用いられる。重合温度は、用いる水溶性有機モノマー、重合触媒および開始剤の種類などに合わせて0℃〜100℃の範囲に設定する。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で行う。
【0021】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、力学物性が高く取り扱い性に優れているため、重合容器の形状を変化させたり、重合後のゲルを切削加工することなどで種々の大きさや形状をもった有機・無機複合高分子ゲルを調製できる。例えば、繊維状、棒状、平板状、円柱状、らせん状、球状など任意の形状を有する有機・無機複合高分子ゲルを調製可能である。
【0022】
本発明において、有機・無機複合高分子ゲルを構成する有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との質量比率は、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とからなる三次元網目を有するゲル構造体が調製されれば良く、また用いる有機高分子(A)や水膨潤性粘土鉱物(B)の種類によっても異なり一概に規定できないが、ゲル合成が容易であることや均一性に優れることから、有機高分子(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(B)/(A)が0.01〜10であることが好ましく、より好ましくは0.03〜2、特に好ましくは0.1〜1である。有機高分子(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比が0.01未満では、ゲル特性が十分に得られにくく、質量比が10を超えると、得られるゲルが脆くなりやすい。
【0023】
一方、本発明における有機・無機複合高分子ゲルに含まれる低揮発性媒体(C)の割合は、有機高分子(A)に対する低揮発性媒体(C)の質量比(C)/(A)が0.1〜100のものが好ましく用いられ、より好ましくは0.5〜50、特に好ましくは1〜30である。0.1以下では、低揮発性媒体(C)の量が少なすぎて、ゲルとしての特徴が小さくなり、また100以上では媒体が三次元網目の中に安定に保持できない場合が多くなる。また、低揮発性媒体(C)は、それのみで用いることも出来るし、それ以外の媒体(例えば水または水を含む有機溶媒)と一緒に用いることも出来る。好ましくは、低揮発性媒体(C)が媒体全体の10〜100質量%であり、より好ましくは、50〜100質量%であり、特に好ましくは100質量%である。
【0024】
本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、常温・常圧の開放系でも媒体の蒸散がなく、安定した形状および性能を示すことが特徴であり、特に、強度、伸び、強靱性、また圧縮性、振動吸収性などにおける優れた力学物性を安定して示すこと、及び/また高い透明性を有することが特徴である。例えば、本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、引っ張り破断伸びが50%以上、好ましくは、100%以上、より好ましくは200%以上、特に好ましくは300%以上であり、且つ、常温常圧で安定してそれらの性質を示すものである。また、透明性に関しても、本発明の有機・無機複合高分子ゲルは、厚さ1mmのサンプルに対して、600nmでの光透過率が50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上である透明性を、優れた力学物性などと併せ持つことが可能である。
【0025】
本発明の有機・無機高分子ゲルは柔軟性や屈曲性に優れ、密閉状態で安定して用いられるほか、大気中でも安定して用いられる特徴を有する。また該有機・無機高分子ゲルを延伸させた場合、その延伸量の多くが回復する可逆的伸縮性を示した。本発明の有機・無機高分子ゲルは、円柱状、棒状、フィルム状、糸状などの各種形状に成形でき、成分組成を変化させることで高透明性、高伸縮性、表面粘着/剥離性、吸着/吸収性に優れた各種工業材料、医療材料、電子部品材料などとして用いられる。
【実施例】
【0026】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1〜3)
水膨潤性粘土鉱物(B)には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG)を100℃で2時間真空乾燥して用いた。水溶性有機モノマーは、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:興人株式会社製)を用い、シリカゲルカラムで重合禁止剤を取り除いてから使用した。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)をKPS/水=0.192/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。低揮発性媒体としてのグリセリン、および触媒(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン:TMEDA)は試薬をそのまま使用した。水はイオン交換水を蒸留した純水を用いた。水は全て高純度窒素を予め3時間以上バブリングさせ含有酸素を除去してから使用した。
【0027】
内部を窒素置換した幅15mm、長さ25mm、高さ150mmの平底ガラス容器中に、実施例1では純水34gとグリセリン4g、実施例2では純水30gとグリセリン8g、実施例3では純水26gとグリセリン12gからなる均一水溶液に、0.96gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにDMAA4.0gを添加し、次いで、氷浴にてTMEDA32μlおよびKPS水溶液2.12gを加え、無色透明溶液を得た。なお、以上の調製は酸素を遮断した窒素雰囲気にて行い、また必要に応じて脱泡処理を行った。引き続き、上部を密栓をした状態で、20℃で24時間静置して重合を行った。その結果、平底ガラス容器内に弾力性のある均一で無色透明なゲルが生成しており、容器から容易に取り出された。得られたゲルは、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)と水膨潤性粘土鉱物からなる三次元網目を有し、媒体の各々10質量%(実施例1)、20質量%(実施例3)、30質量%(実施例3)が低揮発性媒体(グリセリン)で残りの媒体が水からなる、柔らかさと強靱性を併せ持つ無色透明の有機・無機複合高分子ゲルであった。600nmにおける厚さ1mmでの光透過率は各々、94%(実施例1)、92%(実施例2)、91%(実施例3)であった。25℃大気中での乾燥は、水媒体単独のものより遅く、大気開放系でより安定して用いられた。次いで、ゲルを60℃で一定質量になるまで乾燥することにより、水分が除去され、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)と粘土鉱物とグリセリンからなる有機・無機複合高分子ゲルが得られた。グリセリンの有機高分子に対する質量比率は各々、1.0(実施例1)、2.0(実施例2)、3.0(実施例3)であった。また粘土鉱物の有機高分子に対する質量比率はいずれも0.24であった。得られた水を含まない有機・無機複合高分子ゲルは、いずれも均一透明であり、600nmにおける厚さ1mmでの光透過率が各々93%(実施例1)、90%(実施例2)、90%(実施例3)であった。また引っ張り試験における破断伸びは各々、800%(実施例1)、1100%(実施例2)、910%(実施例3)であった。また、破断強度、初期弾性率(1〜10%の歪み範囲で測定)は各々4010kPa、10960kPa(実施例1)、2330kPa、1838kPa(実施例2)、920kPa、488kPa(実施例3)であった。また各サンプルの延伸破壊後、1分経過後に測定した残留歪みは各々、30%(実施例1)、45%(実施例2)、65%(実施例3)であり、大きな延伸歪みのほとんどが脱応力により直ちに解消され、元に戻ることがわかった。該有機・無機高分子ゲルは大気開放系において3ヶ月以上において極めて安定した形状および組成を保持した。
【0028】
(実施例4、5)
粘土鉱物(ラポナイトXLG)を1.6g(実施例4)または2.24g(実施例5)を除くと実施例3と同様にして無色透明な有機・無機複合高分子ゲルが得られた。これを60℃で一定重量になるまで乾燥することにより、水分が除去された有機・無機複合高分子ゲルが得られた。グリセリンの有機高分子に対する質量比率はいずれも3.0であり、粘土鉱物の有機高分子に対する質量比率は各々、0.4(実施例4)および0.56(実施例5)であった。得られた有機・無機複合高分子ゲルはいずれも均一透明であり、600nmにおける厚さ1mmでの光透過率は各々90%(実施例4)、91%(実施例5)であった。また引っ張り試験における破断伸び、破断強度、初期弾性率、破断延伸後1分経過後の残留歪みは各々、1080%、1280kPa、540kPa、80%(実施例4)および1010%、1920kPa、1720kPa、110%(実施例5)であった。該有機・無機高分子ゲルは大気開放系において3ヶ月以上において極めて安定した形状および組成を保持した。
【0029】
(実施例6,7)
水溶性有機モノマーとして精製したN−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人製)4.5gを用いることを除くと、実施例6は実施例1と、実施例7は実施例2と同様にして、有機・無機複合高分子ゲルを調製した。得られた有機・無機複合高分子ゲルは、透明(実施例6)および薄白濁(実施例2)であり、600nmでの光透過率が93%(実施例6)および66%(実施例7)であった。
これを60℃で一定重量になるまで乾燥することにより、水分が除去された有機・無機複合高分子ゲルが得られた。グリセリンの有機高分子に対する質量比率は各々、0.89(実施例6)、1.78(実施例7)であり、粘土鉱物の有機高分子に対する質量比率はいずれも0.21であった。得られた有機・無機複合高分子ゲルの引っ張り試験における破断伸び、破断強度、初期弾性率、破断延伸後1分経過後の残留歪みは各々、420%、12800kPa、142800kPa、250%(実施例6)および310%、4300kPa、35900kPa、215%(実施例5)であった。該有機・無機高分子ゲルは大気開放系において3ヶ月以上において極めて安定した形状および組成を保持した。
【0030】
(実施例8、9)
最初の均一水溶液として水とグリセリンの水溶液を用いる代わりに、水のみを37.92g用いる以外は、実施例8は実施例4と、実施例9は実施例5と同様にして、有機・無機複合高分子ヒドロゲルを調製した。得られた、均一透明なヒドロゲルを5mm×5mm×70mmにカットし、グリセリン40gを入れたガラス容器中に5日間保持した所、水を放出しグリセリンを吸収して全体が約23質量%(実施例8)、約38質量%(実施例9)減少し、均一透明(600nmでの光透過率が共に93%)で柔軟性のある有機・無機複合高分子ゲル(グリセリンの全媒体中での割合は約86質量%(実施例8)および約85質量%(実施例9))が得られた。得られたゲルは乾燥速度が低く押さえられ、出発原料であるヒドロゲルと比べて大気開放系でより安定した使用が可能であった。更に、60℃で質量一定になるまで乾燥することにより、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)と水膨潤性粘土鉱物とグリセリンからなる有機・無機複合高分子ゲルが得られた。該、有機・無機複合高分子ゲルは均一、透明(600nmでの光透過率が共に約92%)で、柔軟で強靱な力学物性を示した。グリセリンの有機高分子に対する質量比率は各々、6.25(実施例8)、4.73(実施例9)であり、粘土鉱物の有機高分子に対する質量比率は各々、0.4(実施例8)、0.56(実施例9)であった。得られた有機・無機複合高分子ゲルの引っ張り試験における破断伸び、破断強度、初期弾性率は各々、1060%、400kPa、55kPa(実施例6)および850%、630kPa、320kPa(実施例5)であった。且つ大気開放系において、長期間(3ヶ月以上)安定した形状、物性を示した。
【0031】
(比較例1)
最初の均一水溶液の調製において、水26.5g、グリセリン11.4gを用いる代わりに、水のみ(37.9g)を用いることを除くと、実施例2と同様にして、有機・無機複合高分子ヒドロゲルを調製した。得られたゲルは柔軟性、強靱性のある均一透明なヒドロゲルであった。該ヒドロゲルを5×5×70mmにカットし、大気開放系(25℃、常圧)においた所、媒体である水分を比較的早く蒸散し、1ないし3日後には、柔軟性のない、硬くて脆い(曲げると折れる)ものとなった。
【0032】
上記より、比較例1の水を媒体としたヒドロゲルの場合は、開放系では短期間に水が蒸散し含水率が低下して、柔軟性、強靱性を始めとする優れた性質が変化したり、失われたりしてしまう欠点を示したが、実施例1〜9の本発明の有機・無機高分子ゲルは、開放系でも長期間(3ヶ月以上)安定した形状、物性を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機モノマーから得られる有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが複合化して形成された三次元網目を有し、0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下の低揮発性媒体(C)を含むことを特徴とする有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項2】
前記有機・無機複合ゲルにおける低揮発性媒体(C)と有機高分子(A)との質量比(C)/(A)が0.1〜100である請求項1に記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項3】
前記低揮発性媒体(C)の含有量が、前記有機・無機複合ゲル中に含まれる媒体全体の10〜100質量%である請求項1または2に記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項4】
前記低揮発性媒体(C)がグリセリン、ジグリセリン、ポリエチエレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコールから選ばれる一種以上である請求項1〜3のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項5】
前記有機高分子(A)がアミド基を有する有機高分子である請求項1〜4のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項6】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)が水膨潤性のスメクタイトである請求項1〜5のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項7】
前記三次元網目が有機架橋剤を用いずに形成されている請求項1〜6のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項8】
前記有機無機複合高分子ゲルにおける水膨潤性粘土鉱物(B)と有機高分子(A)との質量比(B)/(A)が0.01〜10である請求項1〜7のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項9】
前記有機・無機複合高分子ゲルの引っ張り破断伸びが、常温常圧において50%以上である請求項1〜8のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項10】
厚みが1mmにおける波長600nmの光透過率が50%以上である請求項1〜9のいずれか一つに記載の有機・無機複合高分子ゲル。
【請求項11】
水溶性有機モノマー、水膨潤性粘土鉱物、水、及び低揮発性媒体を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させることを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルの製造方法。
【請求項12】
水溶性有機モノマー、水膨潤性粘土鉱物、及び水を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性有機モノマーを重合させ、有機高分子と水膨潤性粘土鉱物と水からなるヒドロゲルを得た後、該ヒドロゲルを低揮発性媒体または低揮発性媒体を含む液に含浸させることを特徴とする有機・無機複合高分子ゲルの製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法により得られた有機・無機複合高分子ゲルから低揮発性媒体以外の媒体を除去する工程を有する請求項11又は12に記載の有機・無機複合高分子ゲルの製造方法。

【公開番号】特開2006−28446(P2006−28446A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212898(P2004−212898)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】