説明

有機亜鉛化合物の処理方法およびその処理装置

【課題】 簡便な手法・構成で、有機亜鉛化合物の自己分解や微量の水分との反応によるパーティクルの発生を効果的に抑制することができるとともに、効率よく高純度の有機亜鉛化合物を貯蔵し、あるいは搬送・供給することができる方法および供給装置を提供すること。
【解決手段】 有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料が周期表第4族の金属または金属化合物と接液することによって、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機亜鉛化合物の処理方法およびその処理装置に関し、例えば、半導体や太陽電池等の生産装置や研究設備等において使用される有機亜鉛化合物の処理方法およびその処理装置に関するものである。なお、本願にいう「有機亜鉛化合物」とは、広く工業的に用いられる有機亜鉛化合物、例えばジメチル亜鉛(DMZn)やジエチル亜鉛(DEZn)等を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体や太陽電池等を生産する製造装置や新たな素材を開発する研究設備、あるいは高純度品が要求される半導体の材料等として、有機亜鉛化合物が多く使用されている。こうした有機亜鉛化合物は、液体材料として使用される一方、反応性が高いことから、ヘリウムやアルゴン等の希ガス等の反応性が低く安定性の高いガスによって希釈・搬送され、上記製造装置に供給され消費される。
【0003】
例えば、図2に示すように、未ドープならびにFドープおよびBドープZnOの堆積に使用する容量結合PECVDリアクターの構成例を挙げることができる(例えば特許文献1参照)。リアクター101は、ガラスベルジャーに密封された、およそ3.5インチ直径のトップ電極102および2インチ×3インチボトム電極103からなる。トップアルミニウム電極102は、「シャワーヘッド」の形態であり、事前に組み合わされた反応物の混合物を導入する単一のフィードライン108に接続する。シャワーヘッド102には、ボトム電極103の上におかれる基板105上への反応物の均一な分布を容易にする複数の小径の穴104がある。ボトム電極103は、組み込み式のヒーターおよび熱電対(図示せず)を有するグラファイトでできている。熱電対を用いて、ZnOでコーティングすべき基板105の温度が監視および制御される。シャワーヘッド102は、メインのフィードライン108に接続しており、それが他のライン(109、110、111、112および113)にも接続する。有機亜鉛化合物、フッ素またはホウ素含有ドーパント(もしあれば)、キャリアアルゴンまたはヘリウムおよび二酸化炭素を含む反応物の混合物は、フィードライン108によりリアクター101に導入される。場合によっては、水素ガスも反応物と混合される。反応物は全て、質量流量計(114、115、116、117、118および119)を利用して計量される。ライン108および109(望まれる場合他のラインも)は、電動柔軟ヒートテープまたはスチームまたは加熱された流体トレースラインを含んでなるヒートトレース120により加熱される(特許文献1段落0049〜0050参照)。
【0004】
ここでは、以下のような亜鉛化合物が好適な例として挙げられている。Zn(R)(R’)などの有機亜鉛化合物を含んでなり、前式において、RおよびR’は、数ある中でも、アルキル、フルオロアルキル、アセチルアセトナト、ヘキサフルオロアセチルアセトナトである。有機亜鉛化合物は、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、亜鉛アセチルアセトテートおよび亜鉛アセチルアセトナトからなる群から選択される少なくとも1種の亜鉛化合物を含んでよい(特許文献1段落0024参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような有機亜鉛化合物は、反応性が高く、以下の課題が生じることがあった。
(i)有機亜鉛化合物は、微量の空気や水との反応でもパーティクルを発生する性質がある。このような性質のため、貯蔵、輸送中の温度変化による自己分解や貯蔵容器の残留水分との反応によりパーティクルを発生することが問題となっている。従って、貯蔵や搬送において、上記のようなヘリウムやアルゴン等の希ガス等の反応性が低く、安定性の高いガスによって、貯蔵槽内の空気との置換を行うとともに、当該ガスによって希釈・搬送される。しかしながら、長期間貯蔵する設備,保守頻度の高い設備や長期間使用する設備においては、パーティクルの発生を完全阻止することは難しい。
【0007】
(ii)有機亜鉛化合物は、高純度品が要求される半導体の材料として使用されている。こうした有機亜鉛化合物には、自然発火性または自己分解性を有する化合物が多く、また反応性が高く、温度上昇により容易に分解してパーティクルを発生する。そのため、パーティクルが発生すると、製造ラインの汚染による製品の品質の低下やバルブのリークなど供給系のトラブルを引き起こす。したがって、有機亜鉛化合物の分解を抑制するような技術が要求されているが、こうしたパーティクルの発生を抑制することは難しく、現段階でこうした抑制方法は報告されていない。
【0008】
本発明の目的は、簡便な手法・構成で、有機亜鉛化合物の自己分解や微量の水分との反応によるパーティクルの発生を効果的に抑制することができる有機亜鉛化合物の処理方法およびその処理装置を提供し、効率よく高純度の有機亜鉛化合物を貯蔵し、あるいは搬送・供給することができる方法および供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す有機亜鉛化合物の処理方法およびその処理装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、有機亜鉛化合物の処理方法であって、有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料を周期表第4族の金属または金属化合物と接液させることによって、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする。
【0011】
上記のように、有機亜鉛化合物は、非常に有用であり高純度物質は各種工業製品の基盤材料であると同時に、取扱いの難しい物質である。特に、パーティクルの発生は、自己分解性という特異な性質に起因することから、従前非常に解決困難な課題であった。本発明は、有機亜鉛化合物のハンドリングを行なっている本願発明者が種々の検討を行なった結果、有機亜鉛化合物の液体材料を、チタンやジルコニウム等の周期律表第4族に属する金属または金属化合物(以下「特定金属等」という)と接液させることによって、該有機亜鉛化合物の自己分解を抑制することができる、あるいは発生したパーティクルを吸着することができることを見出したものである。こうした知見を基に、有機亜鉛化合物に対して当該処理を行うことによって、簡便な手法・構成で、有機亜鉛化合物の自己分解や微量の水分との反応によるパーティクルの発生を効果的に抑制することが可能となった。なお、本願にいう「パーティクル」は、一般的なダストやスートあるいは浮遊微粒子等ではなく、有機亜鉛化合物の反応によって生じる物質、例えば、亜鉛微粒子や酸化亜鉛あるいは水酸化亜鉛やジエトキシ亜鉛等を挙げることができる。
【0012】
具体的には、前記処理方法が、
(1)予め所定容量の処理槽に前記金属または金属化合物からなる抑制処理部を備え、
(2)前記液体材料を該処理槽に所定量を導入するとともに、
(3)導入後、所定時間経過後、前記液体材料が供出される
ことを特徴とする。
こうしたプロセスによって、有機亜鉛化合物と特定金属等との接液を確保することができ、有機亜鉛化合物の自己分解や微量の水分との反応によるパーティクルの発生を効果的に抑制することが可能となった。
【0013】
また、本発明は、有機亜鉛化合物の処理装置であって、有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料が導入される処理槽と、該処理槽に前記液体材料が導入される液体材料導入部と、処理された液体材料が供出される液体材料供出部を備え、
前記処理槽に、周期表第4族の金属または金属化合物からなる抑制処理部が設けられることによって、前記処理槽内において前記液体材料と該金属が接液し、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする。
こうした構成によって、上記知見を基に、簡便な構成で、有機亜鉛化合物の自己分解や微量の水分との反応によるパーティクルの発生を効果的に抑制することができる有機亜鉛化合物の処理装置を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る有機亜鉛化合物の処理装置の基本構成例を示す概略図
【図2】従来技術に係る有機亜鉛化合物が使用される半導体製造装置を例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料が周期表第4族の金属または金属化合物と接液することによって、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする。ここでいう「有機亜鉛化合物の液体材料」(以下「液体材料」という)は、広く工業的に用いられる有機亜鉛化合物の液体材料をいい、具体的には、一般に常温(20〜30℃)常圧(約0.1MPa)で液体であるジエチル亜鉛(沸点118℃)などの液体材料に加え、ここでは、広く加圧条件下あるいは低温条件下において液化されたジメチル亜鉛(沸点46℃)などの液体材料をも含む。また、「周期表第4族の金属または金属化合物」(特定金属等)は、周期表第4族に属し、チタン族元素とも呼ばれるチタン・ジルコニウム・ハフニウム・ラザホージウムまたはその化合物である。
【0016】
<有機亜鉛化合物の処理装置の基本構成例>
本発明の基本構成例に係る有機亜鉛化合物の処理装置(以下「本装置」という)は、有機亜鉛化合物の液体材料(液体材料)を処理対象とし、該液体材料が導入される処理槽と、該処理槽に液体材料が導入される液体材料導入部と、処理された液体材料が供出される液体材料供出部を備え、処理槽に周期表第4族の金属または金属化合物(特定金属等)からなる抑制処理部が設けられることによって、処理槽内において液体材料と該金属が接液し、該液体材料中での不純物の発生を抑制する(以下「抑制処理」という)ことを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本装置を示す概略図であり、液体材料が導入・貯留され特定金属等と抑制処理される所定容量の処理槽10が設けられている。処理槽10には、液体材料が導入される液体材料導入部1と処理された液体材料が供出される液体材料供出部2が接続される。液体材料導入部1および液体材料供出部2には、導入および供出される液体材料を制御する開閉弁V1,V2が設けられる。処理槽10の内部には、予め特定金属等からなる抑制処理部3が設けられるとともに、その下方に液体材料供出部2に繋がる流通管2aの先端(取出口2b)が配され、処理された液体材料が取り出される。なお、本装置は、液体材料として取り出すだけではなく、処理槽10にキャリアガスを導入し、気相の有機亜鉛化合物として取り出すことも可能である。
【0018】
処理対象となる液体材料は、開閉弁V1を介して液体材料導入部1から処理槽10に導入され、抑制処理部3を流通させて槽内に所定量充填される。処理槽10に貯留された液体材料は、抑制処理部3を流通させ、抑制処理部3と所定時間接液させることによって、パーティクルの発生を未然に防止するように抑制処理される。抑制処理された液体材料は、開閉弁V2を介して液体材料供出部2から供出される。
【0019】
図1に例示するように、処理槽10の下部に配設された抑制処理部3において、導入された液体材料は、特定金属等との接液により抑制効果を得ることができる。このとき、接液時間を所定時間(例えば約5時間以上)有することによって、十分な抑制効果を得ることができる。
【0020】
このとき、抑制処理部3は、特定金属等からなり、液体材料との接液面積が大きく、かつ流通しやすい構造体が好ましい。例えば、格子状体を構成する構造や格子状体を複数重ねた構造などを構成することができる。また、いわゆるスポンジチタン等のような多孔質金属により構成することも可能である。特に、1または複数の網状の特定金属等から構成されることによって、液体材料の流通性に優れ、効果的な接液を確保し、簡便な構成で高い抑制機能を得ることができるとともに、目詰まりの発生もなく保守等が容易な構成とすることができる。網状、格子状あるいは粒子状の特定金属等については、形成された流通路を流通することによって、液体材料の接液機能を確保する一方、多孔質金属については、大きな接液表面積を有する細孔内への浸透によって、液体材料の接液機能を確保することができる。
【0021】
〔有機亜鉛化合物の処理方法〕
本発明に係る有機亜鉛化合物の処理方法(以下「本処理法」という)は、
(1)予め所定容量の処理槽に特定金属等からなる抑制処理部を備え、
(2)前記液体材料を該処理槽に所定量を導入するとともに、
(3)導入後、所定時間経過後、前記液体材料が供出される
ことを特徴とする。
【0022】
本処理法の各プロセスについて、本装置を基に、詳述する。
(1)処理槽内への抑制処理部の配設
図1のように、所定容量の処理槽10内部の中央下部に、抑制処理部3の下部に液溜用空間部を有するように抑制処理部3が配設される。液溜用空間部には、さらに、液体材料供出部2に繋がる流通管2aの先端(取出口2b)が配され、処理された液体材料の取り出しが可能な構成が好ましい。こうした構成によって、液体材料との接液機能を高め、さらに高い抑制機能を得ることができる。
【0023】
(2)液体材料の処理槽への導入
所定容量の処理槽10に液体材料が、予め設定された所定の量、導入される。液体材料は、開閉弁V1を開にして液体材料導入部1から導入される。所定量導入されると、開閉弁V1が閉とされる。
【0024】
(3)処理槽からの液体材料の供出
処理槽10内に導入後、所定時間(例えば5時間以上)経過後、液体材料が供出される。本処理法に係る処理プロセスによって抑制処理された液体材料は、開閉弁V2を開にして液体材料供出部2から供給することができる。
【0025】
〔本装置および本処理法における処理効率の検証〕
本装置および本処理法における処理効率の検証として、簡易な処理槽を用い、特定金属等の抑制処理機能およびその温度特性を、以下の通り検証した。
【0026】
(a)処理条件
直径13mmの円状に加工したチタン、銅、ニッケル、アルミ製の金網をそれぞれ濁度計の測定セルに入れ、ジエチル亜鉛10mLを加えた。これにリファレンス(Ref)として金網を入れていないサンプルを追加し、濁度計(笠原理化工業株式会社製、型式:TR−55)で各サンプルの濁度を測定した。オーブンで5〜6時間、60〜80℃に加熱した後、再び濁度を測定した。
【0027】
(b)実験結果
表1に、室温(RT)と60〜80℃に加熱後の濁度の測定結果を示す。室温と60℃では濁度に大きな差は見られないが、70℃以上になるとチタン以外のサンプルは濁度が大きく増加した。また80℃で加熱した場合は目視でも明らかな差がみられた。チタンは透明のままであったが、チタン以外は黒っぽく濁った。以上のことから、チタンによってパーティクルの発生が抑制されたあるいはチタンにパーティクルが吸着したことが推測される。以上の通り、自然発火性または自己分解性の有機亜鉛化合物にチタンなどの金属を加えた場合、室温から80℃まで加熱しても、パーティクルが発生・増加しないことが確認できた。
【0028】
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1 液体材料導入部
2 液体材料供出部
2a 流通管
2b 取出口
3 抑制処理部
10 処理槽
V1,V2 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料を周期表第4族の金属または金属化合物と接液させることによって、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする有機亜鉛化合物の処理方法。
【請求項2】
前記処理方法が、
(1)予め所定容量の処理槽に前記金属または金属化合物からなる抑制処理部を備え、
(2)前記液体材料を該処理槽に所定量を導入するとともに、
(3)導入後、所定時間経過後、前記液体材料が供出される
ことを特徴とする請求項1記載の有機亜鉛化合物の処理方法。
【請求項3】
有機亜鉛化合物の液体材料を処理対象とし、該液体材料が導入される処理槽と、該処理槽に前記液体材料が導入される液体材料導入部と、処理された液体材料が供出される液体材料供出部を備え、
前記処理槽に、周期表第4族の金属または金属化合物からなる抑制処理部が設けられることによって、前記処理槽内において前記液体材料と該金属が接液し、該液体材料中での不純物の発生を抑制することを特徴とする有機亜鉛化合物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131746(P2012−131746A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286374(P2010−286374)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】