説明

有機元素分析測定方法及びシステム

【課題】
従来の有機元素分析の測定は測定試料を正確に計る必要があった。成分比を計測することで秤量を行わないで有機元素分析を行い、C/N、C/H/N、H/Cの測定と
測定試料の純度の所定誤差%内の判定をする。
【解決手段】
試料の秤量を行わないでする有機元素分析測定方法及びシステムであり、装置出力信号の各成分比 C/N count、C/H count、N/H countと標準試料の重量%比 C/N%、C/H%、N/H%との相関係数を用いて元素分析装置固有の換算係数を求め、測定化合物の理論値に0.3%の誤差を加減した各成分質量%比を演算し、其の最小値と最大値を用いて測定化合物の純度の判定を所定の誤差%内で行う方法であり、同様の判定を行う有機元素分析測定システム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機元素分析測定装置及びその情報処理方法に関する
【背景技術】
【0002】
従来、有機元素分析測定は測定物の重量をミクロ天びんで正確に量り、炭素、水素、
窒素各元素の重量に対する含有量(w/w%)を測定するものであり、測定物の純度の確
認や医薬品の構造決定に用いられている。
【0003】
また、産業界においては土壌や堆肥中のC/N比測定及び産業廃棄物中の可燃分の元素組成(炭素、水素、窒素の割合)の測定やゴミ焼却用高温ガス炉の安定化と制御のために可燃分中の水素と炭素のモル比の測定、及び水質浄化のための高効率なC/N比の測定、さらに大気粉塵中の炭素の定量など環境分野の利用や、食品原材料、石油、石炭、海洋浮遊物など非常に広い利用の分野を挙げることができる。
【0004】
有機元素分析装置の構成の例として一般に普及している国産機の原理を図1に示して実際の測定の手順を以下に示す。測定には図1に示す分析装置の他にミクロ天びんを使用する。
【0005】
1.測定系にキャリアガスとして高純度ヘリウムを一定速度で流す。
2.ミクロ天びんを用いて試料化合物の重さ2mg程度を正確に計る。
3.950oCの分解炉及び850oCの酸化炉に入れた酸化銅を充填した石英燃焼管の中で試料化合物を完全に燃焼し気体にする。このときキャリアガスの10%程度の純酸素を燃焼管内に流している。この過程で炭素はCO2に、窒素はNO2に、水素はH2Oになる。NO2は次の還元炉の中の石英還元管に充填された還元銅によりN2に還元される。余分な酸素は同じく還元管の還元銅により酸化銅として除く。試料中にハロゲンと硫黄が含まれる場合は還元管先端に充填された銀粒によりハロゲン化銀、硫化銀としてそれぞれトラップする。
4.残った気体はCO2とN2とH2O、およびキャリアガスの混合気体である。
5.150mlの容量の金属ポンプにキャリアガスで送り込んで希釈した後、混合燃焼気体を一定の流量で測定系に送り込む。
6.混合気体は3つの計測セルを順次通してそれぞれの濃度をTCD検出器により電気信号で検出し、電気信号は信号処理手段により演算処理されて計数値countとして出力される。さらにTCD検出器について説明する。TCD検出器の計測セルにはフィラメントがある。ヘリウムは熱伝導度の良い気体であるが、そこに他の気体が不純物として混じると熱伝導度が下がり、セルのフィラメントの温度が高くなり、抵抗値が上がる。抵抗値の大きさが計数値countとして記録計に出力される。
7.混合気体はH2Oの吸収剤を充填した吸収管をまず通り、H2Oが取り除かれる。その前後の計測セルによる抵抗値の差をすでに説明した方法で計数値countに変換する。
8.つぎに、残りの混合気体はCO2の吸収剤を充填した吸収管を通りCO2が除かれる。その前後の抵抗値の差を同じように計数値countに変換する。
9.最後に、残りの気体N2の抵抗値とヘリウムの抵抗値の差を同じように計数値countに変換する。
10.以上の計数値countについて測定当日の気圧補正を行う。これは検出器における気体のモル分率による大気圧補正を行うものである。
11.あらかじめCHN含有率(w/w%)が既知の元素分析用標準試料を用いてCHN元素ごとの感度係数(μg/count)を決定する。これはファクターとも呼ばれる。決められた感度係数(μg/count)即ちファクターを用い未知試料化合物のCHN含有率(w/w%)を計算する。以後本発明においては感度係数をファクターと表す。
12.元素分析値はC: □%、H: □%、N: □%と表示される。
【0006】
次に上記測定における演算処理方法について説明する。
はじめに、元素分析用標準試料を用いて、分析装置のファクターSH、SC、SN(μg/count)を以下にして求める。同じ標準試料で通常4回程度測定し、その平均値を用いる。または標準試料の各量を測定してy=aXまたはy=aX+bの検量線式を用いる。
ここではファクターの計算方法を説明する。
YH:水素の計数値count、 YC:炭素の計数値count、 YN:窒素の計数値countとする。元素分析標準試料の重さWμg、含有%をC、H、N%とするとファクター SH、SC SNは各成分重量μgと装置計数値countから以下に示す関係式より求められる。
SH: W×H(%)/100=H(μg)= FactorH×YH
SC: W×C(%)/100=C(μg)= FactorC×YC
SN: W×N(%)/100=N(μg)= FactorN×YN
ただし、上述のように装置の原理より計数値YH 、YC 、YNの気圧補正が必要であるが、次の項で説明する。
【0007】
気圧補正について、C、H、N各測定セルでは体積あたりの気体分子数は測定時の気圧により変化するため以下のように補正される。補正された計数値とファクターSH 、SC 、SNと成分含有量との関係式を数1の3式のように示す。
【数1】

ここで、FH、FC、FNは混合気体に対する補正係数(後述)、Pは測定時の気圧mmHgである。ファクターSH、SC、SN を用いて、下式(4)〜(6)により組成%を求める。試料の採取量μgをWとする。
【数2】

なお、補正係数は下の式で求める。

FH=1.005+Cμg×10-5 (7)
FC=1.000176−(Cμg×9.968×10-5−Nμg×6.934×10-6
(8)
FN=0.99977−(Hμg×10-4×Cμg×1.642×10-5
(9)

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】CHNコーダーの素顔 穂積啓一郎監修 ヤナコ分析工業(株)技術グループ編集 1993年 非売品
【非特許文献2】有機化合物微量分析 (有機微量分析懇談会編集)1969年南港堂出版P330-333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、有機元素分析測定は天びんと元素分析装置によって行われる分析方法であり、試料を正確に測りとることと標準試料を用いて検量線を作成することが求められるため、作業場の空調管理や秤量技術の熟練と毎回の作業工程が困難であり、普及が限られている。
【0010】
同じく、測定物の成分含有w/w%を求めるという原理に基づいているために、産業界で利用しているような炭素、水素、窒素各元素の成分ひを求めたい場合にも炭素、水素、窒素の含有重量%を計算してからその比を出すという不合理な面があった。
【0011】
さらに有機元素分析装置は高温炉をもち室温の上昇が大きいので、検量線作成と試料の測定とを同じ環境条件でしなければならないために常時エアコンによる測定環境の調整が必要であった。
【0012】
本発明は有機元素分析測定における上記記述の不合理を解決し、元素分析測定の現状の目的にあう簡素なシステムを構成し、産業界への普及を目的としている。
【0013】
さらに本発明は、秤量工程中や分析計動作中の装置出力信号安定化のための精密な環境管理(室温、湿度)から開放されることと作業時間の短縮で不必要な電気エネルギーの損失を抑え炭酸ガス排出軽減効果をえることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】

上記目的を解決する本発明の有機元素分析方法は、燃焼した測定物に含有された炭素、水素、および窒素の中から選んだ所定の第1の元素の含有量を表す値を出力するとともに、該測定物に含有された炭素、水素、および窒素の中から選んだ、該第1の元素とは異なる所定の第2の元素の含有量を表す値を出力する分析装置を用いた有機元素分析測定方法において
前記第1の元素の含有量と第2の元素の含有量との比が既知の第1標準物質における該第1の元素の既知の含有量と第2の元素の既知の含有量との比に対応する関係を求めるファクター導出ステップと、
前記分析装置から出力される、燃焼した測定物における前記第1の元素の含有量を表す第1計測測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2計測測定値を求める測定値計測ステップと、
第1計測測定値を分母とし前記第2計測測定値を分子とした比率を算出する比率算出ステップと、
前記比率算出ステップで算出した比率を前記ファクター導出ステップで求めたファクターに基づいて換算する換算ステップと、
前記換算ステップで算出した比率に大気圧補正を行うステップとを有することを特徴とする。
【0015】
なお、上記第1標準物質と上記第2標準物質は同じもの、即ち、上記ファクター導出ステップでは、前記第1の元素及び前記第2の元素それぞれの含有量が既知の標準物質を用いてよい。
【0016】
また、本発明の有機元素分析測定方法において、
前記分析装置から出力される、前記第1の元素の含有量および第2の元素の含有量それぞれが理論値として既に求められている燃焼したサンプルにおける前記第1の元素の含有量を表す第1理論測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2理論測定値を求める理論出力値計測ステップと、
前記第1理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分母とし前記第2理論測定値から該許容誤差を加えた値を分子とした最大値と、該第1理論測定値から該許容誤差を加えた値を分母とし該第2理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分子とした最小値との間に前記換算ステップおよび大気圧補正ステップで補正した比率が属するか否かを判定する判定ステップとを有することが好ましい。
【0017】
上記目的を解決する本発明の有機元素分析測定システムは、
燃焼した測定物に含有された炭素、水素、窒素の中から選んだ所定の第1の元素の含有量をあらわす値を出力するとともに、該測定物に含有された炭素、水素、及び窒素の中から選んだ、該第1の元素とは異なる所定の第2の元素の含有量をあらわす値を出力する分析装置を有する有機元素分析測定システムにおいて、
前記第1の元素の含有量と第2の元素の含有量との比が既知の第1標準物質における該第1の元素の既知の含有量と第2標準物質における該第2元素の既知の含有量を表す値との比に対応する関係を求めるファクター導出手段を有し、
前記分析装置は、燃焼した測定物における前記第1の元素の含有量を表す第1計測測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2計測測定値を出力するものであり、
さらにこの有機元素分析測定システムが、
前記、第1計測測定値を分母とし前記第2計測測定値を分子とした比率を算出する比率算出手段と、
前記比率算出ステップで算出した比率を、前記ファクター導出ステップで求めたファクターに基づいて換算する換算手段と、
前記換算ステップで算出した値に大気圧補正を行う手段とを有することを特徴とする。
【0018】
なお、上記第1標準物質と上記第2標準物質は同じもの、即ち、上記ファクター導出手段は、前記第1の元素及び前記第2の元素それぞれの含有量が既知の標準物質を用いる手段であっても良い。
【0019】
また、本発明の有機元素分析測定システムにおいて、前記分析装置は、前記第1の元素の含有量および第2の元素の含有量それぞれが理論値として既に求められている燃焼したサンプルにおける前記第1の元素の含有量を表す第1理論測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2理論測定値を出力するものであり、
さらにこの有機元素分析測定システムが、
前記第1理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分母とし前記第2理論測定値から該許容誤差を加えた値を分子とした最大値と、該第1理論測定値から該許容誤差を加えた値を分母とし該第2理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分子とした最小値との間に前記換算ステップおよび大気圧補正ステップで補正した比率が属するか否かを判定する判定手段とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
有機元素分析は重さを基準にその測定物の含有する炭素、水素、窒素の各成分の含有率w/w%を求め組成比から分子式を導くための手段であったため、近年利用の仕方が多様化しているにもかかわらず専門技術者による秤量は必然であったが、本発明では秤量を行わないで合理的に成分比を求めることができ、誰にでも使える機器として再開発することができる。
【0021】
本発明の効果は測定を成分単位ではなく成分比を用いて行い、新しい発想である成分比のファクターを利用することによるものである。
【0022】
上述したように本発明により検量線の作成又は複数個のファクターを求めることなく純度の確認をすることができるため測定作業工程を大きく改善し、迅速な計測を実現するものである。
【0023】
また、本発明は分析作業工程の軽減と作業時間中を通して厳密に空調設備による調整を必要としないため電気エネルギーの損失をおさえることができる。
【0024】
また秤量を関せず、装置の高性能な検出能力を直接利用できるためこれまで秤量誤差の大きい検量域でも目的を達成でき、燃焼により回収できない測定物の損失を少なくする効果がある。
【0025】
また、本発明によれば、土壌や堆肥その他の産業界で必要とするC/N比の測定や医薬品やその他の品質管理などに測定物を量ることなく、利用できる利点がありこの方面の普及拡大も図れる。
【0026】
さらに本発明によれば、重さの計れない不安定な化合物の純度のチェックもでき、その結果正しい分子式の確認もできる利点がある。近年医薬品製造のための有機化合物の合成において極微量で純度を調べる意義はきわめて大きくNMR,HRMSなどの他機器では代用できない重要な役割を持つ元素分析の利用の向上により医薬業界にはきわめて重要な発明効果を与えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に使用している有機元素分析装置の原理図である
【図2】本発明を実施するシステムの構成図である。(実施例)
【図3】本発明における情報処理装置に装着したソフトウエアの情報を判断し純度の判断を提供するフローチャートである。(実施例)
【図4】本発明の実施例における手順のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明はすべての計算を成分ではなく成分比を用いて行うことを特徴とする。
上述した数2の(4)〜(6)の式は成分比にすると以下のように重さWの項が消えることを利用する。
【数3】


以下本発明の実施の形態を図1−図4に基づいて説明する。
【0029】
本発明のシステムにおける、ファクター導出手段、比率算出手段、換算手段、大気圧補正手段、および判定手段はパーソナルコンピューター(PC)によって行われるもの、すなわち、有機元素分析測定アプリケーションソフトがインストールされたPCにおいて、当該ソフトに従ってファクター導出処理、比率算出処理、ファクター換算処理、大気圧補正処理それぞれを実行するCPUがこれら各手段に相当する。
【0030】
本発明における元素分析装置14はPC13(パーソナルコンピューター、以下PCと省略する。)に接続されている。元素分析装置の原理図は従来法と同じ図1に示す。上述分析装置の情報処理装置はPC13である。また、情報処理装置は有機元素分析装置内の一部の機器であってもよい。
【0031】
図2は、本発明を実行する情報処理装置のハードウェア構成図であり、有機元素分析装置14とPC13はI/OバスA、Bを経由して各機能部がデータを授受する。15,16はRAMであり、PCのOS等制御系のプログラム等を格納する。17,18はCPUであり、情報処理A,Bを実行するメモリであり、結果をプリンター19へ出力する。
【0032】
本発明の理論値入力部と情報処理部Aはプログラムを含む処理機能であり、PCで作動する。また、装置出力信号は装置格納部からPCの制御機構内に転送され、情報処理部Bにて処理される。当該PCの手入力による情報処理部Aと交流して情報処理部Bにより合否の判断処理を行う。
【0033】
PC13のキーボード1より測定化合物の推定理論値を入力し情報がRAM15に記憶される。次に情報処理Aにより後述の方法で誤差を処理する。一方、分析装置よりの出力信号強度即ち計数値(count)はRAM16に記憶される。情報処理部Aよりの情報に基づいて情報処理部Bは情報処理する。純度の判定はC/N、C/H、N/Hと順次誤差処理情報に基づいて判別され、NOであれば“許容誤差範囲外“と出力され、プリンター8で印字される。YESの場合は次に進み最終は”許容誤差範囲内“と出力され、プリンター8に印字される。このようにして純度が認証され判定されたことになる。
【0034】
本発明では 標準試料で1回C、H、N質量構成比C/N%、C/H%、N/H%と装置信号からの計数値C/Ncount、C/Hcount、N/Hcountとの相関から求めたファクターを用いて、以後はすべての分析は装置出力信号からの計数値C/Ncount、C/Hcount、H/Ncountをそのファクターで演算することにより通常の測定によって得られる質量%比、C/N%、C/H%、N/H%と同じ意味を持つ数値が得られる。理論値入力ステップはファクター算出ステップの前に行ってもよくこのステップを行うタイミングは限定されない。
【0035】
本発明による計数値countの各成分比によるファクターを求めるには有機微量分析標準試料の各成分の理論値w/w%の比とその装置出力信号強度即ち計数値countの比から以下に示す式により求める。
検出感度(μ/count)
FactorC/N (成分比換算係数) 理論値C/N(%)=FactorC/N×C/N(count)
FactorC/H (成分比換算係数) 理論値C/H(%)=FactorC/H×C/H(count)
FactorH/N (成分比換算係数) 理論値H/N(%)=FactorH/N×H/N(count)

【0036】
本発明ではすべての情報処理を有機元素分析装置内の一部の機器に任せても良い。
【0037】
本発明は、有機化合物の純度を所定の誤差で確認するために、試料をはかり取ることなく分析し、装置の出力信号を用いて情報処理装置に任せる点に特徴がある。この場合、利用する情報処理装置にあらかじめ被測定有機化合物の推定理論値より所定の誤差%に外れた場合の測定の幅をシミュレーションし、其の値から求めたC/N値、C/H値、N/H値の各誤差幅を情報処理して測定値と比較する必要がある。本発明では其の対比を当該情報処理装置によりチェックすることにより認証するものである。
【0038】
即ち、有機化合物の純度が低く分析値が其の推定理論値と
所定の誤差%以上外れるような化合物の場合、当該情報処理装置により“許容誤差範囲外”と判定される。同様に、純度が 所定の誤差%内に確定される化合物については当該情報処理装置により“許容誤差範囲内”と判定される。分析利用者は測定値を理論値と対比して其の差を計算し純度の判定をする代わりに自動的に前述の判定を与えられることになる。
【0039】
さらに、装置出力信号比より装置固有のファクターを用いてC/N値が求められる。特にはかりにくい医薬品や天秤上安定しない医薬品は、従来法に比較してより信頼のある純度の確認の判定ができる。秤量から開放されれば利用者は測定環境管理することなく、分析作業が従来法にくらべてはるかに容易になる。
【0040】
上述の所定の誤差というのは元素分析装置の実測精度で置き換えて判断する方が合理的である場合について述べたものであり、従来の許容誤差0.3%とどちらも発明の方法で実施できる。
【0041】
図3は、本発明における上記情報処理の工程を説明するフローチャートである。有機元素分析装置からの出力信号と手入力した試料の情報をパソコンが記憶、誤差判定アプリケーションによって判断した結果の”許容誤差範囲内“または”許容誤差範囲外”を提供するフローチャートである。以下、その処理の流れを図3に沿って説明する。情報処理部Aは理論値を入力し、その許容誤差範囲の限界数値を演算する。その演算方法を以下に示す。
【0042】
許容誤差範囲の限界数値の計算法
許容誤差範囲の限界数値は±0.3%の誤差とすると
例えばC:71.09% H:6.71% N:10.36%の化合物の場合
C%について
最小値71.09−0.3=70.79
最大値71.09+0.3=71.39である。
同様にNについては
最小値10.36−0.3=10.06
最大値10.36+0.3=10.66
然るに成分比C/Nの最小値は(C-0.3)/(N+0.3)=70.79/10.66=6.640
成分比C/Nの最大値は(C+0.3)/(N―0.3)=71.39/10.06=7.096
つまりC/Nの限界数値は上述最小値と最大値でありこの範囲外であれば純度が許容誤差を外れると判断する。以下同様にC/N、C/H、N/Hの計算をする
【0043】
情報処理部Bは分析装置よりの信号を演算し情報処理部Aと比較しながらC/N、C/H、N/Hと順次“許容誤差範囲内”“許容誤差範囲外“の判定をしながら進む。最後の判定が”許容誤差範囲内“であれば試料は
所定の誤差%ないに元素分析が合うことを示す。”許容誤差範囲外”であれば不純物が相当数含むことを示す。以上のように本実施形態によれば試料の重さを計ることなく純度の確認や各成分比の測定値を得られるのである。以下に実験により数値的に確かめた例を示す。
【実施例】
【0044】
従来の方法と発明の方法で測定物の純度の確認を行い両方法の判定結果を比較する
(実験)
【0045】
試料12個について上述した従来方法で元素分析を行う。以下の実験試料の分子式より得られる理論値との測定誤差を分析誤差として表1に示す。
【表1】

【0046】
次に発明の方法で許容誤差範囲の限界数値を計算する。計算方法は図3に基づき以下に示す

【0047】
以上のG,H,I,J,K,Lを以下の表に作成し、分析成分比による許容誤差内に合否判断の基準を示す。
【表2】

【0048】
以上の計算により成分比による許容誤差判定の基準が求められたので、つぎに測定試料の成分比を計算する。計算方法は同じく図3に基づき以下に示す。

【0049】
発明の方法による成分比の測定値を表2の基準値で許容誤差範囲内であるか判定する。
表3はその判定結果と従来法による判定結果を比較したものである。
【表3】

【0050】
次に本発明の方法を用いて各成分比を求める方法について示す。

1.測定物を適量燃焼炉に投入する
2.従来法で説明したとおりに生成する炭酸ガス、水、窒素酸化物は還元炉へ送られ、還元銅で還元されて窒素酸化物は窒素になる。
3.ヘリウムガスと3つの気体はポンプに集められ検出系へ送られる。
つぎに装置の検出系から出力された計数値(COUNT)は各成分比を演算される。
その結果に上述の標準試料によって得られた成分比のファクターを乗じた各成分比をプリンターに自動出力する。

なお、以上、本発明は通常の元素分析測定に必要な測定物をはかり取るという作業を必要としないで、成分比や純度の判定ができることを説明した。さらに産業界で行われるC/N比、C/H/N比、H/C比の測定も同様の方法で可能になることを付け加える。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法は医薬品やその他産業用試料の純度の判定や品質検査用として利用できる。またC/N値の測定は土壌改良や堆肥やいわゆるゴミの中の可燃分の元素組成(炭素、水素、窒素の割合い)の調査や、ごみ焼却の際の高温ガス炉の安定化と制御のために可燃分中の水素と炭素のモル比の測定、また水質浄化のための高効率なC/N比測定など環境分野の利用や食品原材料、石油、石炭、海洋浮遊物など非常に広い分野に応用できる。
【0052】
本発明は検量線を作成する1時間ほどの手間を省き、電源消費電力を1日8時間稼動する場合約12.5%削減できる。さらに、装置の安定のための環境調整に要する消費電力を削減し、環境負荷を大きく軽減する。特に有機元素分析装置は複数の電気炉を装備し長時間の放熱により室温が上昇するのを空冷により抑えなければならないため、本発明による合理的な測定システムは設置環境の二酸化炭素削減効果に少なからず貢献するとともに産業振興のために広く普及をはかれる効果を有する。
【符号の説明】
【0053】
1.試料分解炉
2.酸化炉
3.還元炉
4.燃焼管
5.試料導入棒
6.ポンプ
7.H:TCD検出器
8.C:TCD検出器
9.N:TCD検出器
10.H20吸収管
11.CO2吸収管
12.パソコンキーボード
13.パソコン
14.元素分析装置
15.情報記憶装置A RAM
16.情報記憶装置B RAM
17.17.情報処理装置A CPU
18.情報処理装置B CPU
19.プリンター
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼した測定物に含有された炭素、水素、および窒素の中から選んだ所定の第1の元素の含有量を表す値を出力するとともに、該測定物に含有された炭素、水素、および窒素の中から選んだ、該第1の元素とは異なる所定の第2の元素の含有量を表す値を出力する分析装置を用いた有機元素分析測定方法において
前記第1の元素の含有量と第2の元素の含有量との比が既知の第1標準物質における該第1の元素の既知の含有量と第2の元素の既知の含有量との比に対応する関係を求めるファクター導出ステップと、
前記分析装置から出力される、燃焼した測定物における前記第1の元素の含有量を表す第1計測測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2計測測定値を求める測定値計測ステップと、
第1計測測定値を分母とし前記第2計測測定値を分子とした比率を算出する比率算出ステップと、
前記比率算出ステップで算出した比率を前記ファクター導出ステップで求めたファクターに基づいて換算する換算ステップと、
前記換算ステップで算出した比率に大気圧補正を行うステップとを有することを特徴とする有機元素分析測定方法。
【請求項2】
前記分析装置から出力される、前記第1の元素の含有量および第2の元素の含有量それぞれが理論値として既に求められている燃焼したサンプルにおける前記第1の元素の含有量を表す第1理論測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2理論測定値を求める理論出力値計測ステップと、
前記第1理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分母とし前記第2理論測定値から該許容誤差を加えた値を分子とした最大値と、該第1理論測定値から該許容誤差を加えた値を分母とし該第2理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分子とした最小値との間に前記換算ステップおよび大気圧補正ステップで補正した比率が属するか否かを判定する判定ステップとを有することを特徴とする請求項1記載の有機元素分析測定方法。
【請求項3】
燃焼した測定物に含有された炭素、水素、窒素の中から選んだ所定の第1の元素の含有量をあらわす値を出力するとともに、該測定物に含有された炭素、水素、及び窒素の中から選んだ、該第1の元素とは異なる所定の第2の元素の含有量をあらわす値を出力する分析装置を有する有機元素分析測定システムにおいて、
前記第1の元素の含有量と第2の元素の含有量との比が既知の第1標準物質における該第1の元素の既知の含有量と第2標準物質における該第2元素の既知の含有量を表す値との比に対応する関係を求めるファクター導出手段を有し、
前記分析装置は、燃焼した測定物における前記第1の元素の含有量を表す第1計測測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2計測測定値を出力するものであり、
さらにこの有機元素分析測定システムが、
前記、第1計測測定値を分母とし前記第2計測測定値を分子とした比率を算出する比率算出手段と、
前記比率算出ステップで算出した比率を、前記ファクター導出ステップで求めたファクターに基づいて換算する換算手段と、
前記換算ステップで算出した値に大気圧補正を行う手段とを有することを特徴とする有機元素分析測定システム。
【請求項4】
前記分析装置は、前記第1の元素の含有量および第2の元素の含有量それぞれが理論値として既に求められている燃焼したサンプルにおける前記第1の元素の含有量を表す第1理論測定値および前記第2の元素の含有量を表す第2理論測定値を出力するものであり、
さらにこの有機元素分析測定システムが、
前記第1理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分母とし前記第2理論測定値から該許容誤差を加えた値を分子とした最大値と、該第1理論測定値から該許容誤差を加えた値を分母とし該第2理論測定値から所定の許容誤差を引いた値を分子とした最小値との間に前記換算ステップおよび大気圧補正ステップで補正した比率が属するか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする請求項3記載の有機元素分析測定システム。























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−164020(P2011−164020A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29003(P2010−29003)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本分析化学会第58年会講演要旨集(平成21年9月10日発行)第125頁に発表
【出願人】(309033884)
【Fターム(参考)】