説明

有機元素化合物の合成方法

本発明は、化合物R1−A(III)と元素M1とをリチウム塩の存在下で反応させる、一般式R1−M1−Ad・zLiX(I)を有する化合物の製造方法を開示する。本願はまた、化合物R1−A(III)とM3含有化合物とをLi塩の存在下および元素金属M2の存在下で反応させる、一般式R1m−M3−Tn・zLiX(II)を有する化合物の製造方法を開示する。ここで、金属M3は、Al,Mn,Cu,Zn,Sn,Ti,In,La,Ce,Nd,Y,Li,Sm,Bi,Mg,B,SiおよびSから選ばれてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物を出発物質とする有機元素化合物の製造方法、および該有機元素化合物それ自体、ならびに該有機元素化合物の使用に関する。
【0002】
以後、本発明の基本原理が有機亜鉛化合物を用いて説明されるが、本発明は、有機亜鉛化合物に限定されるものではなく、多くの他の金属または半金属(メタロイド)を用いて実施することができる。
【背景技術】
【0003】
多くの官能基に対する独特の反応性と耐性により、有機亜鉛化合物は、有機化学において重要な出発物質または中間体となっている。しかしこれまでは、例えば、アリールブロマイドおよびアルキルブロマイドから有機亜鉛ブロマイドを直接製造するには、かなり高価で安定性の悪いリーケ(Rieke)亜鉛を使用する、または溶媒として、純ジメチルアセトアミド(DMAC)中で反応操作を行うという大きな制限があった。
【0004】
リーケ亜鉛の製造においては、塩化亜鉛を、微分散亜鉛粉末になるまでリチウムナフタレンで還元する。この亜鉛粉末は、その大きな表面積によって極めて反応性に富んでいる。また、炭素−ハロゲン結合に挿入することもできる。しかし、この高い反応性により、分子内に存在する他の官能基とも反応し、不必要な副反応を起こして副生成物を生成し得る。これまで、有機亜鉛化合物を単離することはできなかった。
【0005】
炭素−ハロゲン結合へマグネシウムを挿入することは、グリニャール反応として知られている。グリニャール化合物の溶解性は、例えば欧州特許第1582524号明細書に記載されているように、リチウムイオンをそのまま添加することによって向上させることができる。欧州特許第1582524号明細書には、マグネシウムイオンにおいて有機部位を置換する方法が開示されている。有機元素化合物の同様の製造方法は、他の金属または半金属については存在していない。
【特許文献1】欧州特許第1582524号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、有機ハロゲン化合物を出発物質として有機元素化合物を容易に製造する方法を提供することにある。本発明の目的はまた、新規な有機元素化合物を、純粋な化学物質または溶液としてそれぞれ提供することにある。本発明の別の目的は、新規の有機元素化合物の反応方法、およびその反応生成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、これらの目的は、独立クレームの構成によって達成することができる。
【0008】
近年の本発明者らの発見によれば、金属元素と有機ハロゲン化合物との反応は、リチウムイオンを含む溶液中で効率よく行うことができる。エステル、ニトリルなどの官能基は、この方法に耐性を有している。従って、当該方法は、様々な官能基を有し得る多種の有機化合物に適用することができる。
【0009】
本発明は、化合物R1−A(III)と元素M1とをLiXの存在下で反応させる、一般式
【0010】
【化1】

【0011】
を有する化合物の製造方法を開示する。
(式中、R1は、置換または無置換の、C3−C24アリールまたはB,O,N,S,Se,PもしくはSiなどの1個もしくは2個以上のヘテロ原子を含むC3−C24へテロアリール、直鎖状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニルまたはC2−C20アルキニル、置換または無置換のC3−C20シクロアルキル、あるいはこれらの誘導体であり;
1は、Mn,Cu,Zn,Sn,In,La,Ce,Nd,Y,Li,Sm,Na,KおよびBiから選ばれる元素であり;
Aは、F,Cl,Br,Iから選ばれるハロゲン;スルホネート(RSO3-)またはホスホネート(-OP(O)(OR)2)(Rは、R1の定義に同じ)であり;
dは、0または1であり;
zは、>0(大なり0)であり;
Xは、F;Cl;Br;CN;SCN;NCO;Hal1k(k=3または4、Hal1はCl,BrおよびIから選ばれる);NO3;BF4;PF6;H;一般式RxCO2を有するカルボキシレート;一般式(Rx3Si)2Nを有するジシラジド;一般式SRxを有するチオレート;一般式ORxを有するアルコレート;RxP(O)O2;またはSCORx;一般式RxNHを有するアミン;一般式Rx2Nを有するジアルキルまたはジアリールアミン、ここでRxは後記と同義であり、またはRx2Nは環状アルキルアミンを表す;一般式PRx2を有するホスフィン、ここで、Rxは後記と同義であり、またはPRx2は環状ホスフィンを表す;OjSRx(j=2または3);またはNOr(r=2または3);およびこれらの誘導体からなる群より選ばれ、ここで、Rxは、置換または無置換の、C4−C24アリールまたはB,O,N,S,Se,PもしくはSiなどの1個もしくは2個以上のヘテロ原子を含むC3−C24へテロアリール;直鎖状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C1−C20アルキル;C2−C20アルケニルまたはC2−C20アルキニル、置換または無置換のC3−C20シクロアルキル;またはこれらの誘導体;あるいはHである。)スルホネートとしてはトシレート(p−トルエンスルホネート)またはメシレート(メタンスルホネート)が、好適に用いられる。
【0012】
ここで本方法は、元素、特に元素金属(elementary metal)をあらゆる形態で用いることができるという利点を有する。元素または金属は、例えば、粒状、削状、棒状、シート状の形態で、または粉体として用いることができる。リチウム塩を添加することにより、反応が可能になるか、促進される。例えばリーケ亜鉛の場合のように、高微分散液をその状態で用いる必要はない。有機出発物質R1−A(III)としては、炭素−ハロゲン結合を有するあらゆる化合物を用いることができる。本発明の反応によれば、この炭素−ハロゲン結合に金属が挿入される。分子内に存在する他の官能基は、本方法において変化することはなく、本発明の反応を阻害することもない。そのため、多官能化された分子を本発明の反応に用いることができる。これにより、炭素−元素−ハロゲン基を有する異なって官能化された多数の化合物に対する門戸が開かれる。
【0013】
本発明のこの側面によれば、dの数は0または1である。ここで、nの値は、元素M1の価数と一致する。ここで、元素M1の価数は、その原子化または酸化数に相当する。この価数をvとした場合、d=v−1となる。従って、例えば、Liなどの1価の金属M1に対しては、dの値は0となる。Znなどの2価の金属に対しては、dの値は1となる。
【0014】
本発明の第二の側面によれば、化合物R1−A(III)とM3含有化合物とをLiXの存在下および元素金属M2の存在下で反応させることにより、一般式
【0015】
【化2】

【0016】
を有する化合物を得ることができる。ここで、M2は、Li,Na,K,Cs,Mg,Ca,MnおよびZnから選ばれる。R1、z、AおよびXは、前記と同義であり、M3は、前記M1と同義であり、さらにM3は、Al,Ti,Mg,B,SiおよびSであってよい。M3はまた、Al,Mn,Cu,Zn,Sn,Ti,In,La,Ce,Nd,Y,Li,Sm,Bi,Mg,B,SiおよびSからなる群より選ばれる。Tは、前記AまたはXと同義である。すなわち、Tは、Aおよび/またはXより選ぶことができ、XとTは、同一でも異なっていてもよい。nは、0,1,2または3である。mは、1,2または3である。m=2またはm=3である場合、複数の部位R1が、1個の元素M3と結合して存在する。上述のR1の定義に関し、これらの部位R1は、同一の部位でも異なった部位であってもよい。
【0017】
本発明のこの側面によれば、挿入反応およびトランスメタレーション反応を一工程で行うことができる。ここで、M3含有化合物の元素M3は、金属M2よりも反応性の低いものである。従って、他の場合には直接移動できないM3元素を、穏やかな条件で化合物(III)に挿入することができる。挿入反応は、容易に活性化が可能な反応性金属M2を用いて行うことができる。次いで、M3含有化合物の形態にある元素M3は、穏やかな条件下でトランスメタレーション反応により、有機化合物に挿入される。従って、元素M3が、元素M2よりも反応性が低いことが重要である。
【0018】
3含有化合物は、塩、特に金属塩、有機元素化合物、特に有機金属化合物、または有機元素塩化合物であってよく、好ましくは、有機金属塩化合物である。M1およびdについて既に上述したように、nおよびmは共に、元素M3の原子価に依存する。ここでは、原子価との用語は、価数および酸化数と同義に用いる。M3の価数vについて、数nおよびmとは、v=m+nの関係が適用される。
【0019】
本発明の別の側面によれば、一般式R1m−M3−Tn・zLiX(II)(式中、R1,M3,m,n,z,XおよびTは、前記と同義であるが、M3はMgを含まない。)を有する化合物が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の側面によれば、溶媒中に一般式R1m−M3−Tn・zLiX(II)(式中、R1,M3,m,n,z,XおよびTは、前記と同義であるが、M3はMgを含まない。)を有する化合物がある溶液が提供される。換言すれば、本発明は、式(II)を有する化合物を溶媒中に含む溶液の形態の組成物に関する。
【0021】
本発明のさらなる側面によれば、一般式R1m−M3−Tn・zLiX(II)を有する化合物と求電子剤との反応が提供される(式中、R1,M3,m,n,z,XおよびTは、前記と同義であるが、M3はMgを含まない)。原則として、多種多様な求電子剤を用いることができる。例えば、以下の文献に挙げられた求電子剤を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
a)Handbook of Grignard reagents; edited by Gary S. Silverman and Philip E. Rakita (Chemical Industries; v. 64).
b)Grignard reagents New Developments; edited by Herman G. Richey, Jr., 2000, John Wiley & Sons Ltd.
c)Methoden der Organischen Chemie, Houben-Weyl, vol. XIII/2a, Metallorganische Verbindungen Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Zn Cd. 1973.
d)The chemistry of the metal-carbon bond, vol. 4. edited by Frank R. Hartley. 1987, John Wiley & Sons.
【0022】
本発明の最後の側面は、求電子剤と、一般式R1m−M3−Tn・zLiX(II)を有する化合物との反応生成物に関する(式中、R1,M3,m,n,z,XおよびTは、前記と同義であるが、M3はMgを含まない)。可能な求電子剤は、ここでも、上記a)〜d)の文献中に挙げられたものより選ぶことができるが、それらに限られない。従って、化合物(II)は、求核剤として反応する。従って、化合物(II)は、求核剤を用いることができる反応において、用いることができる。
【0023】
本発明の方法、本発明の溶液、および本発明の反応に用いる溶媒は、環状、直鎖状または分岐鎖状の、モノまたはポリエーテル類、チオエーテル類、アミン類、ホスフィン類、ならびにO,N,SおよびPから選ばれる1個または2個以上のヘテロ原子をさらに含むこれらの誘導体、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン類(好ましくは1,4−ジオキサン)、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジメチルスルフィド、ジブチルスルフィド;環状または直鎖状のアミド類、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−ブチル−2−ピロリドン(NBP)、N,N−ジメチルホルミアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC);環状、直鎖状または分岐鎖状の、1個または2個以上の水素原子がハロゲンで置換された、アルカン類および/またはアルケン類、好ましくは、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、CCl4;尿素誘導体、好ましくは、N,N’−ジメチルプロピレンウレア(DMPU)、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア;芳香族、複素芳香族または脂肪族の炭化水素、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン;ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、CS2;またはこれらの組み合わせ、からなる群より選ぶことができる。
【0024】
一般式(I)を有する化合物を調製するための溶液または一般式(I)を有する化合物の溶液中にリチウムイオンが存在することにより、反応または当該化合物の溶解がそれぞれ可能になる。ここで、リチウム塩は、有機ハロゲン化合物(III)に対して、化学量論的に用いることができる(z=1)。しかし、トレース量のみのリチウム塩を用いることも可能である。このとき、z>0である。一方で、有機ハロゲン化合物に対し過剰に多くリチウム塩を導入することもでき、このとき、zは1より大きくなる。本発明のすべての側面において、zは、好ましくは0.01〜5、好ましくは0.5〜2、より好ましくは0.9〜1.2の範囲にあり、最も好ましくは、約1である。
【0025】
本発明の第2の側面に従って用いられるM3含有化合物は、例えば、塩、共有結合、または錯体にて、金属、半金属、または非金属のM3を含有し得る化合物である。ここで、金属−ハロゲン化合物、金属−アルキル−化合物、金属−アリール−化合物、金属−アルコキシ−化合物、または金属−アリールオキシ−化合物が好ましく用いられる。より好ましく用いられるM3を含有する化合物は、MgBr2,MgCl2,B(OMe)3,B(iPrO)3,BF3,Et2AlCl,Si(OMe)4,SiCl4,MnCl2,SnCl2,ZnCl2,ZnBr2,TiCl(OiPr)3,Ti(OiPr)4,InCl3,LaCl3,CeCl3,SmCl3およびNdCl3である。ここで、Meはメチルを表し、iPrはiso−プロピルを表す。
【0026】
本発明の溶液中の塩化リチウムの濃度は、0.01〜5モル/l、好ましくは0.1〜4モル/lである。0.2〜1.5モル/lの濃度が最も好ましい。M3含有化合物の濃度は、好ましくは1〜4モル/l、より好ましくは1.2〜3モル/l、最も好ましくは1.4モル/lである。
【0027】
当該反応で用いられる元素金属は、公知の化合物により活性化することができる。ここで、反応に向けて元素金属を活性化することが知られているすべての化合物を用いることができる。元素M1およびM2は、例えば、CuCl2、CuBr2またはCuSO4などの銅塩、NiCl2またはNiSO4などのニッケル塩、FeCl2またはFeCl3などの鉄化合物、CoCl2またはCoSO4などのコバルト化合物、I2、C24Br2、Cl(CH22Br、t−BuOLi、BCl3、BF3、LiBH4、LiAlH4、NaAlH4、Et3Al、DIBAL−H(ジイソブチルアルミニウムヒドリド)、Na[H2Al(OCH2CH2OCH3)]、Me3SiCl、Et2Zn、IClおよびSnCl2からなる群より選ばれる化合物により、活性化することができる。例えば、削状マグネシウムを、2〜3モル%のMe3SiClで活性化することができる。反応操作は、室温で行うことができる。
【0028】
本発明に関し、金属について言うと、反応に利用可能な、例えば、ホウ素、ケイ素またはイオウなどの半金属または非金属も包含される。M1については、金属Zn,Mn,La,Ce,NdおよびSmが好ましく、亜鉛が特に好ましい。M2の選択に関しては、Li,MgおよびNaが好ましい金属である。M3の選択に関しては、Zn,B,SiおよびSnが好ましい元素である。
【0029】
アルキル、アルケニルおよびアルキニルの用語は、直鎖状、環状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C1またはC2−C20化合物にそれぞれ関する。当該化合物の好ましい範囲は、アルキルについてはC1−C10であり、好ましくはC1−C5(低級アルキル)である。アルケニルおよびアルキニルについては、それぞれ、C2−C10であり、好ましくはC2−C5である。直鎖状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C3−C20シクロアルカン類は、シクロアルキルと解される。好ましい範囲は、C3−C15であり、より好ましくはC3−C8である。
【0030】
アリールについては、置換または無置換のC3−C24アリール化合物を意味する。ヘテロアリールは、置換または無置換の、B,O,N、S,Se,PまたはSiなどのヘテロ原子を1個または2個以上含むC3−C24へテロアリール化合物である。両者に関し、好ましい範囲は、C4−C15であり、さらにより好ましくはC4−C10である。
【0031】
部位R,RxまたはR1のうちのいずれか1つが置換基により置換されている場合には、置換基は、当業者に公知のいかなる置換基をも選択することができる。当業者は、その専門的知識によって可能性のある置換基を選択し、分子内に存在する他の置換基と相互作用することなく、かつ反応を阻害することも、特に本明細書に記載の反応において相互に影響を与えることもない置換基を選択することができるであろう。可能な置換基を以下に挙げるが、置換基はこれらに限られない。
− ハロゲン類、好ましくは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、炭化水素類、特に、アルカン類、アルケン類、アルキン類、アリール類、アリーリデン(arylidene)類、ヘテロアリール類およびヘテロアリーリデン(heteroarylidene)類;
− カルボン酸、その塩およびそのエステルを含む;
− カルボン酸ハライド類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、カルボン酸エステル類;
− アルデヒド類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、ケトン類;
− アルコール類および水酸基を含むアルコレート類;
− フェノール類およびフェノレート類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、エーテル類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、パーオキサイド類;
− ヒドロキシパーオキサイド類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、アミド類またはアミジン類;
− ニトリル類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、アミン類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、イミン類;
− 脂肪族の、脂環式の、芳香族のまたは複素芳香族の、スルフィド類、およびチオール基;
− スルホン酸類、その塩およびそのエステルを含む;
− チオール類およびチオレート類;
− ホスホン酸類、その塩およびそのエステルを含む;
− ホスフィン酸類、その塩およびそのエステルを含む;
− 亜ホスホン酸類、その塩およびそのエステルを含む;
− 亜ホスフィン酸類、その塩およびそのエステルを含む。
【0032】
当該置換基は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、またはリン原子を介して前記部位に結合することができる。例えばヘテロアトメート(heteroatomate)類において、ヘテロ原子としては、N,O,SおよびPが好適に用いられる。
【0033】
本発明のすべての側面の根底にある原理は、リチウムイオンの存在下で有機元素化合物を製造または使用することである。当該リチウムイオンは、元素金属M1およびM2の反応を可能にまたは促進する。また、反応溶液または式(I)で示される化合物中にリチウム塩が存在することによって、溶解性が向上し、さらには反応を可能にまたは促進する。
【0034】
一般式(I)を有する化合物はすべて、一般式(II)の範囲に入る。よって、一般式(II)を有する化合物を製造する方法は、元素M3について、Mg,B,SiおよびSを包含するが、ここで、Mgは、式(II)の化合物についてのM3または式(II)の化合物の溶液についてのM3の元素の選択からは除外される。
【0035】
本発明の一般式R1−M1−Ad・zLiX(I)の有機元素化合物の製造について、有機化合物R1−Aを、リチウム塩の存在下溶媒中で、元素、特に金属と反応させる。ここで金属は、有機化合物に対して、化学量論的に用いることができ、好ましくは過剰に用いる。反応は、−90℃〜100℃、好ましくは0℃〜80℃、最も好ましくは15℃〜60℃の温度範囲で行うことができる。好ましくは、反応は、不活性ガス雰囲気下で行われる。不活性ガスとしては、例えば、窒素またはアルゴンを用いることができる。
【0036】
元素金属との反応において、式(I)または(II)の有機元素化合物は、そのまま、さらに求電子剤と反応させることができる。しかし、有機元素化合物(I)または(II)を単離して、過剰の元素金属と分離することもできる。求電子剤とのさらなる反応の前に過剰の金属を分離しない場合には、当該金属は、有機化合物内の他の炭素−ハロゲン結合と反応を起こし得る。適切な方法を用いることにより、有機化合物内の1個の炭素−ハロゲン基または複数の炭素−ハロゲン基を選択的に反応させることができる。
【0037】
式(II)を有する化合物について、n=2であってよい。この場合、T2は、ジアミン類、ジアルコキシド類、ジチオール類からなる群より選ばれる二価のアニオンであってよい。その場合、ジアミンは、一般式R’NH−R−NHR’を有することが好ましく、ジアルコキシドは、一般式HO−R−OHを有していてよく、ジオールは、一般式HS−R−SHを有していてよい(式中R’およびRは、独立に、Rxと同じ基から選ばれ、Rは二価の部位である)。Rについての限定は、化学的に無意味な化合物を生じない限りにおいて、適用される。従って、Rxの選択の中でアルキル部位と称する部位は、Rの選択の中ではアルカンジイルであり、アルケニルはアルケンジイルであり、アルキニルはアルキンジイルである。好ましいジアミンは、CH3NHCH2CH2NHCH3であり、好ましいアルコキシドは、ジオール類HOCH2CH2OH、バイノール(binol)のアルコキシドであり、1,2−ジアミノシクロヘキサンである。
【0038】
複数のアニオンTが化合物(II)内に存在する場合、これらは、同一であっても異なっていてもよい。例えば、一方のアニオンが、化合物(III)の使用に由来し、他方のアニオンが、M3含有化合物に由来してもよい。従って、アニオンTは、互いに独立して選択される。
【0039】
リチウム塩およびM3含有化合物が存在する下での有機ハロゲン化合物と金属M2のそのままの反応により、金属M3を有する化合物(II)に容易に到達することができ、これは、別な方法では、より厳しい条件下でしか製造できない。よって、化合物(II)に容易に到達することが可能になり、これは、別の方法では、より厳しい条件下でのみ可能なことである。
【0040】
本発明の方法では、以前は可能ではなかった、有機元素化合物(II)への経路が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の反応を、概略的な例を用いて説明するが、これらの例に限定されるものではない。
【0042】
例えば、金属亜鉛と臭化アルキルを、THF中LiClの存在下50℃で反応させて、高収率で対応するアルキル亜鉛ブロマイドとすることも可能である。大まかな作業インストラクションとしては、0.7M(室温で飽和している)の塩化リチウムのTHF溶液中で、臭化アルキルと、3当量の亜鉛粉末を加熱する。この場合、亜鉛粉末は、2モル%CH2Br2および2〜5モル%Me3SiClで活性化する。反応は、50℃で2〜48時間行う。このようにして得られたアルキル亜鉛ブロマイドは、種々の求電子剤で捕捉してもよい。さらに、反応を促進するために、例えばパラジウムなどの触媒を用いることもできる。このようにして合成することができるいくつかの生成物の構造と収率を、以下のスキーム1にまとめる。
【0043】
【化3】

【0044】
アリールアイオダイドを出発物質に用いることも可能である。この場合、LiClの存在下で、亜鉛はアリール−ヨウ素結合に挿入される。本発明によって合成可能な化合物として選択したものをスキーム2に示す。次いで、亜鉛有機化合物を求電子剤と反応させる。この反応は、定量的に、普通はほぼ定量的に行う。
【0045】
【化4】

【0046】
さらに、金属含有塩または有機金属化合物などの金属含有化合物を出発物質として本発明の化合物を製造することも可能である。例えば、THF中塩化リチウムの存在下、臭化アリールまたは臭化アルキルを直接金属マグネシウムおよびZnCl2と反応させて、アリールまたはアルキル亜鉛化合物とすることができる。このとき、溶液中の塩化リチウムの濃度は、1〜5モル/lであり、好ましくは、2〜4モル/lである。2.2モル/lの濃度が特に好ましい。M3含有化合物の濃度は、好ましくは1〜4モル/lであり、より好ましくは1.2〜3モル/lであり、最も好ましくは約1.4モル/lである。使用する金属は活性化してもよい。例えば、削状マグネシウムは、2〜3モル%Me3SiClを用いて活性化することができる。反応操作は、室温で行うことができる。可能な反応の概要をスキーム3に示す。ここで、中間の亜鉛有機化合物はまた、求電子剤と反応させている。このとき、求電子剤はまた、スキーム3の2番目の例に示したように、再ハロゲン化が起こり得るようなハロゲンであってもよい。
【0047】
【化5】

【0048】
本発明の別の実施態様では、有機ハロゲン化合物を出発物質として、LiClの存在下で有機元素化合物を合成し、そのまま求電子剤で当該化合物を捕捉することもできる。例えば、THF中、ナフタレン(15モル%)、LiClおよびホウ酸トリメチルエステルの存在下で、4−クロロ−ベンゾトリフルオライドとリチウムを反応させて、4−トリフルオロメチルフェニルホウ酸とする(スキーム4参照)。生成物の後処理は、まず、塩基性媒体中で行い、次に酸性媒体中で行う。このとき、収率は42%である。
【0049】
【化6】

【0050】
THF中、LiClおよびEt2AlClの存在下4−クロローベンゾトリフルオライドとマグネシウムとの反応では、対応するアリールアルミニウム化合物が収率72%で得られ、次いで、当該化合物は、スキーム5に示されるように、そのままヨウ素または他の求電子剤で捕捉することができる。
【0051】
【化7】

【0052】
ハロゲン−炭素結合に、マンガンもまた挿入することができる。例えば、元素のマンガンは、塩化リチウムの存在下室温で、穏やかな反応条件下でn−オクチルアイオダイドと反応して、スキーム6に示すような対応する挿入生成物となる。
【0053】
【化8】

【0054】
上述の方法は、金属Cu,Bi、AlおよびInについても同様に適用することができる。
【0055】
複数ハロゲン化された有機化合物の反応は、選択的に一つの炭素−ハロゲン結合において、またはすべての炭素−ハロゲン結合において行うことができる。亜鉛の単一の炭素−ヨウ素結合への選択的挿入は、例えば、以下のスキーム7に示すように亜鉛を用いて行うことができる。続いて行われる銅種とのトランスメタレーションおよびアリルブロマイド(AllBr)との反応により、高収率で、一箇所のみがアリル化された生成物が得られる。
【0056】
2,5−ジヨードチオフェンを過剰の亜鉛と反応させ、次いで残存する亜鉛から溶液を分離するためにデカンテーションして、1置換体とすることができる。また、亜鉛との更なる反応で当該チオフェンの2つめのヨウ素を置換して、2−位および5−位が異なって置換されたチオフェンを得ることもできる。ただし、最初の反応の後に、亜鉛をデカンテーションもろ過もしない場合には、すなわち、反応混合物から除去しない場合には、カルボニル基もまた臭化アルキルにより攻撃される、従って、ビアリル化された生成物が生成する。
【0057】
2,5−ジヨードチオフェンを出発物質として、亜鉛の溶液を後の反応でデカンテーションもろ過もしなかった場合、すなわち、亜鉛が反応操作全体において反応混合物中に存在する場合には、チオフェンは、直接二置換される。
【0058】
【化9】

【0059】
例えば、ピリジン、キノリンおよびイソキノリンなどのアザへテロ環類の炭素−ハロゲン結合に亜鉛を挿入することもできる。これに対応する反応は、室温で行うことができ、例えば、24時間で、95%よりも高い収率で所望の有機亜鉛化合物が得られる。この方法で得られる化合物の例をスキーム8に示す。
【0060】
【化10】

【0061】
本発明の新規な方法を、アルケニル亜鉛化合物の合成に用いることもできる。Z−ヨードオクテンの場合には、対応するオクテニル亜鉛アイオダイドが80%よりも高い収率で得られた。スキーム9の上段の化学式に示されるように、次のアリルブロマイド(AllBr)との反応は銅とのトランスメタレーションの後に行うことができ、収率は72%である。ここで、Z−とE−異性体の比は、3対1である。
【0062】
本発明に従い、シクロプロペニル誘導体の炭素−ハロゲン結合への挿入を行うこともできる。以下のスキーム9に示された両場合において、一部のコンフィギュレーションの反転が見られるが、これらの例では、これらの系において初めて挿入が行われたことが非常に重要である。上述のヨードオクテンの例と同様にして、銅とのトランスメタレーションの後に、有機亜鉛化合物とアリルブロマイドとの反応を行うと、収率は75%である(スキーム9参照)。
【0063】
【化11】

【0064】
活性化された系では、出発物質として、より高価なヨウ化物の変わりに臭化物を用いることもできる。非対称の基質では、次のスキーム10の例に示すように、位置選択的挿入を行うことができる。
【0065】
【化12】

【0066】
多数の二亜鉛有機化合物を、Liイオンの存在下でのZnの挿入により製造することができる。この場合、亜鉛は、スキーム11の例に示すように、複数のヨウ素−炭素結合に挿入される。一方で、例えば亜鉛などの多価金属を有するジ−またはトリ−有機元素化合物を製造することもできる。スキーム11の3番目の例に示すように、二臭素化合物を例えば亜鉛などの単一の金属と反応させることができる。よって、例えば、直鎖状の1,5−ジブロモペンタンからは、環状の亜鉛ペンタン−1,5−ジイルを得ることができ、当該化合物は、例えば塩化アセチル(AcCl)などの求電子剤とさらに反応させることができる。この場合、直鎖状のペンタンの2本の手は、1個の亜鉛原子に配位する。この例からは、複数のモノハロゲン化合物も、1個の金属と反応して、ジ−またはトリ−有機元素化合物となり得ることがわかる。
【0067】
【化13】

【0068】
本発明の別の実施態様では、挿入反応を、アミン類の添加により促進することができる。通常の反応条件下では通常反応しない化合物を、今度は本発明の反応操作に利用することができる。さらに好ましい実施態様では、亜鉛の挿入が、アミン類の添加により促進される。
【0069】
アミン類としては、当業者に公知のあらゆるアミン類を用いることができる。このアミン類は、1級、2級および3級アミン類を含む。オリゴ−およびポリアミンが最も好適に用いられる。最も好ましいアミン類を、以下のスキーム12に示す。
【0070】
【化14】

【0071】
アミン類は、いかなる量で添加されてもよい。アミン類は、添加される元素M1および/または金属M2、特に亜鉛の量に対し、好ましくは0.05〜3当量の量で、より好ましくは0.15〜1.5当量の量で、最も好ましくは0.2〜1当量の量で添加される。
【0072】
以下の表1に、3aの通常の合成インストラクションに従って反応させた種々の試薬を示す。ここでは、アミン(アミン類)としてN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンを添加した後には、高収率となることが示されている。CuCNの添加は、触媒的に反応性のない亜鉛種を反応性の高いCu種に変換するために行われた。
【0073】
【表1−1】

【0074】
【表1−2】

【実施例】
【0075】
以下、典型的な合成インストラクションにより反応手順を説明する。これらのインストラクションは、例示の反応手順となるものであり、他の反応生成物を製造する際には、当業者はその専門的知識に従って変更することができる。当該反応は、本発明を決して限定するものではない。
【0076】
典型的合成インストラクション
4−エトキシ−4−オキソブチル亜鉛ブロマイドの製造:
25mlシュレンクフラスコに、LiCl(636mg, 15mmol)を加え、ホットエアブロワーを用いて高真空下140℃で10分間乾燥する。亜鉛粉末(981mg, 15mmol)、乾燥THF(12ml)、および1,2−ジブロモメタン(20μl, 0.225mmol)をフラスコに加え、注意深くアルゴン下60℃で1分間加熱する。35℃まで冷却した後、Me3SiCl(20μl, 0.102mmol)を添加し、15分間激しく攪拌する。反応は、オイルバス中で50℃の温度とし、セプタムから4−ブロモブタン酸エチルエステル(975mg, 5mmol)をゆっくりと添加する。反応のコントロールは、GCを用いて行う。1時間後、遊離体はもはや観測されない。
【0077】
[4−(エトキシカルボニル)フェニル]亜鉛ブロマイドの製造:
25mlシュレンクフラスコに、LiCl(636mg, 15mmol)を加え、ホットエアブロワーを用いて高真空下140℃で10分間乾燥する。亜鉛粉末(981mg, 15mmol)、乾燥THF(12ml)、および1,2−ジブロモメタン(20μl, 0.225mmol)をフラスコに加え、注意深くアルゴン下60℃で1分間加熱する。35℃まで冷却した後、Me3SiCl(20μl, 0.102mmol)を添加し、15分間激しく攪拌する。反応は、オイルバス中で50℃の温度とし、セプタムから4−ブロモ安息香酸エチルエステル(1145mg, 5mmol)をゆっくりと添加する。反応のコントロールは、GCを用いて行う。18時間後、遊離体はもはや観測されない。
【0078】
[2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]−(2,6−ジフルオロフェニル)メタノン(3a)の製造:
無水LiCl(16mol)をアルゴンでリンスした25mlシュレンクフラスコに加え、高真空下(<1mbar)150〜170℃で5分間乾燥する。亜鉛粉末(15mmol)をアルゴン下で添加し、フラスコを3回脱気・アルゴン充填する。次いで乾燥THF(10ml)を添加し、亜鉛をBrCH2CH2Br(5mol%)およびMe3SiCl(1mol%)を用いて活性化する。混合物を50℃に加熱し、次いで約10%の内部標準(n−テトラデカン)入りの2−ブロモ−1−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン(5mmol)の2ml乾燥THF溶液を添加する。次いで、5mmolのN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレンテトラミンを添加する。挿入反応が15時間後に完結する(反応アリコートのGC分析を用いたコントロール、反応が99%よりも進行)。ブロモ−[2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]亜鉛(2.5mmol, 5.5ml)の溶液を、シリンジを用いて残存する亜鉛粉体と注意深く分離し、アルゴンでリンスした別の10mlシュレンクフラスコに移す。CuCN 2LiCl(0.75mlの1.0MTHF溶液, 0.75mmol, 30mol%)を−20℃で添加し、次いで、2,6−ジフルオロベンゾイルクロライド(3.5mmol)を添加する。反応混合物を0℃で1時間攪拌し、飽和NH4Cl水溶液(5ml)で反応を停止する。水相をEtOAc(3x5ml)で抽出し、真空下で濃縮する。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(PE:ジエチルエーテル)で精製し、[2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]−(2,6−ジフルオロフェニル)メタノン(3a; 1.95mmol, 625mg, 78%)が、白色針状晶として得られる。
【0079】
以上の具体的な実施態様により本発明を説明したが、本発明はそれらに限定されるものではない。上記の例を、特許請求の範囲の保護範囲から逸脱することなく多様に変更できることは当業者には明らかである。従って、例えば、反応温度または反応時間、ならびに溶媒または試薬を様々に変更することができる。つまり、保護範囲は、特許請求の範囲によってのみ規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物R1−A(III)と元素M1とをLiXの存在下で反応させる、一般式
【化1】

を有する化合物の製造方法。
(式中、R1は、置換または無置換の、C3−C24アリールまたはB,O,N,S,Se,PもしくはSiなどの1個もしくは2個以上のヘテロ原子を含むC3−C24へテロアリール、直鎖状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニルまたはC2−C20アルキニル、置換または無置換のC3−C20シクロアルキル、あるいはこれらの誘導体であり;
1は、Mn,Cu,Zn,Sn,In,La,Ce,Nd,Y,Li,Sm,Na,KおよびBiから選ばれる元素であり;
Aは、F,Cl,Br,Iから選ばれるハロゲン;スルホネート(RSO3-)またはホスホネート(-OP(O)(OR)2)(Rは、R1の定義に同じ)であり;
dは、0または1であり;
zは、>0であり;
Xは、F;Cl;Br;CN;SCN;NCO;Hal1k(k=3または4、Hal1はCl,BrおよびIから選ばれる);NO3;BF4;PF6;H;一般式RxCO2を有するカルボキシレート;一般式(Rx3Si)2Nを有するジシラジド;一般式SRxを有するチオレート;一般式ORxを有するアルコレート;RxP(O)O2;またはSCORx;一般式RxNHを有するアミン;一般式Rx2Nを有するジアルキルまたはジアリールアミン、ここでRxは後記と同義であり、またはRx2Nは環状アルキルアミンを表す;一般式PRx2を有するホスフィン、ここで、Rxは後記と同義であり、またはPRx2は環状ホスフィンを表す;OjSRx(j=2または3);またはNOr(r=2または3);およびこれらの誘導体からなる群より選ばれ、ここで、Rxは、置換または無置換の、C4−C24アリールまたはB,O,N,S,Se,PもしくはSiなどの1個もしくは2個以上のヘテロ原子を含むC3−C24へテロアリール;直鎖状または分岐鎖状の、置換または無置換の、C1−C20アルキル;C2−C20アルケニルまたはC2−C20アルキニル、置換または無置換のC3−C20シクロアルキル;またはこれらの誘導体;あるいはHである。)
【請求項2】
化合物R1−A(III)とM3含有化合物とをLiXの存在下および元素金属M2の存在下で反応させる、一般式
【化2】

を有する化合物の製造方法。
(式中、R1、z、AおよびXは、請求項1と同義であり、
Tは、請求項1のAまたはXと同義であり、XとTは、同一でも異なっていてもよく、
3は、請求項1のM1と同義であるが、かつ、さらにTi,Al,Mg,B,SiおよびSを含み、
nは、0,1,2または3であり、
mは、1,2または3であり、
2は、Li,Na,K,Cs,Mg,Ca,MnおよびZnから選ばれる金属であり、部位R1は、m=2またはm=3のとき、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記M3含有化合物が、金属−ハロゲン化合物、金属−アルキル化合物、金属−アリール化合物、金属−アルコキシ化合物、または金属−アリールオキシ化合物から選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記M3含有化合物が、MgBr2,MgCl2,B(OMe)3,B(iPrO)3,BF3,Et2AlCl,Si(OMe)4,SiCl4,MnCl2,SnCl2,ZnCl2,ZnBr2,TiCl(OiPr)3,Ti(OiPr)4,InCl3,LaCl3,CeCl3,SmCl3およびNdCl3から選ばれる請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法を、環状、直鎖状または分岐鎖状の、モノまたはポリエーテル類、チオエーテル類、アミン類、ホスフィン類、ならびにO,N,SおよびPから選ばれる1個または2個以上のヘテロ原子をさらに含むこれらの誘導体、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン類(好ましくは1,4−ジオキサン)、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジメチルスルフィド、ジブチルスルフィド;環状または直鎖状のアミド類、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−ブチル−2−ピロリドン(NBP)、N,N−ジメチルホルミアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC);環状、直鎖状または分岐鎖状の、1個または2個以上の水素原子がハロゲンで置換された、アルカン類および/またはアルケン類、好ましくは、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、CCl4;尿素誘導体、好ましくは、N,N’−ジメチルプロピレンウレア(DMPU)、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア;芳香族、複素芳香族または脂肪族の炭化水素、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン;ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、CS2;またはこれらの組み合わせ、から選ばれる溶媒中で行う先行する1以上の請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記元素金属M1またはM2を、銅塩、ニッケル塩、鉄化合物、コバルト化合物、I2、C24Br2、Cl(CH22Br、t−BuOLi、BCl3、BF3、LiBH4、LiAlH4、NaAlH4、Et3Al、DIBAL−H、Na[H2Al(OCH2CH2OCH3)]、Me3SiCl、Et2Zn、IClおよびSnCl2からなる群より選ばれる化合物により活性化する先行する1以上の請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記M1またはM2がZnである先行する1以上の請求項に記載の方法。
【請求項8】
n=2である場合に、T2が、ジアミン類、ジアルコキシド類、またはジチオール類からなる群より選ばれる二価のアニオンである先行する1以上の請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記ジアミンが、一般式R’NH−R−NHR’を有し、前記ジアルコキシドが、一般式HO−R−OHを有し、前記ジオールが、一般式HS−R−SHを有し、好ましくは、CH3NHCH2CH2NHCH3、HOCH2CH2OH、バイノール、1,2−ジアミノシクロヘキサンが用いられる請求項8に記載の方法。
(式中、R’およびRは、互いに独立して、Rxと同じ基から選ばれ、Rは、二価の部位である。)
【請求項10】
アミン、好ましくは、オリゴ−またはポリアミンをさらに添加する先行する1以上の請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記アミンを、前記元素M1および/または前記金属M2に対し、0.05〜3当量の量で、好ましくは0.15〜1.5当量の量で、より好ましくは0.2〜1当量の量で添加する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
一般式
【化3】

を有する化合物。
(式中、R1,zおよびXは請求項1と同義であり、n,m,TおよびM3は請求項2と同義であるが、M3はMgを含まない。)
【請求項13】
溶媒中に一般式
【化4】

を有する化合物がある溶液。
(式中、R1,zおよびXは請求項1と同義であり、n,m,TおよびM3は請求項2と同義であるが、M3はMgを含まない。)
【請求項14】
前記方法を、環状、直鎖状または分岐鎖状の、モノまたはポリエーテル類、チオエーテル類、アミン類、ホスフィン類、ならびにO,N,SおよびPから選ばれる1個または2個以上のヘテロ原子をさらに含むこれらの誘導体、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン類(好ましくは1,4−ジオキサン)、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジメチルスルフィド、ジブチルスルフィド;環状または直鎖状のアミド類、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−ブチル−2−ピロリドン(NBP)、N,N−ジメチルホルミアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC);環状、直鎖状または分岐鎖状の、1個または2個以上の水素原子がハロゲンで置換された、アルカン類および/またはアルケン類、好ましくは、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、CCl4;尿素誘導体、好ましくは、N,N’−ジメチルプロピレンウレア(DMPU)、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア;芳香族、複素芳香族または脂肪族の炭化水素、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン;ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、CS2;またはこれらの組み合わせ、から選ばれる溶媒中で行う請求項13に記載の溶液。
【請求項15】
一般式
【化5】

を有する化合物の、求電子剤との反応への使用。
(式中、R1,zおよびXは請求項1と同義であり、n,m,TおよびM3は請求項2と同義であるが、M3はMgを含まない。)
【請求項16】
求電子剤と一般式
【化6】

を有する化合物との反応生成物。
(式中、R1,zおよびXは請求項1と同義であり、n,m,TおよびM3は請求項2と同義であるが、M3はMgを含まない。)

【公表番号】特表2009−532433(P2009−532433A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503572(P2009−503572)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053229
【国際公開番号】WO2007/113294
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(505121545)ルードヴィッヒ・マクシミリアンス・ウニベルジテート ミュンヘン (5)
【Fターム(参考)】