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有機光学単結晶の損傷を修復する方法
説明

有機光学単結晶の損傷を修復する方法

【課題】 レーザー照射により結晶の内部に損傷が生じた有機光学結晶の損傷を修復する方法を提供する。
【解決手段】 スチルバゾリウム誘導体からなる有機光学単結晶を、不活性ガス中で有機光学単結晶の融点以下かつ結晶分子の自由度が高まる温度以上の範囲でアニーリング処理することにより、レーザー照射により結晶の内部に損傷が生じた有機光学結晶の損傷を修復する修復方法により、テラヘルツ波の発生時間が向上した有機光学単結晶を安定して容易にかつ簡便に提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた有機光学単結晶の損傷を修復する方法、およびその修復された有機光学単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
有機光学結晶として、スチルバゾリウム誘導体、なかでもスチルバゾリウム誘導体であるDAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)結晶、DASC(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウム−p−クロロベンゼンスルホネート)結晶、MC−PTS(メロシアニン−p−トルエンスルホン酸)結晶、またMMONS(3−メチル−メトキシ−4’−ニトロスチルベン)結晶、DAD((−)4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−3−(2’―ヒドロキシプロピルアミノ)シクロブテン−3、4−ジオン)結晶、およびLAP(L−アルギニンホスフェート モノ−ハイドレート)結晶、pNA(4−ニトロアニリン)、MNA(2−メチル−ニトロアニリン)結晶等の各種有機結晶が知られており、無機光学結晶と比較して高い非線形性を有し、光損傷の閾値も高いため波長変換素子、光素子等への応用が期待されている。
【0003】
これら有機光学結晶のなかでも有機非線形光学結晶としてスチルバゾリウムカチオン誘導体であるDAST結晶、DASC結晶、MC−PTS結晶は、その非線形光学効果や電気光学効果を利用して、テラヘルツ波発生装置、テラヘルツ波検出素子および高感度電界センサー等への適用が期待されており、様々な研究開発が行われている。
【0004】
これまでに、DAST結晶においては結晶の成長速度や成長環境といった結晶育成の面から種々の提案がなされている。例えば、欠陥のない均一な結晶を提供するものとして、傾斜させた基板上に自然核成長させ、その後比重差溶媒清浄法とを組み合わせることにより結晶全体に亘って均一な電気光学的特性を有する結晶とする方法(特許文献1)、過飽和溶液から溶質を析出させる際、磁場を作用させ高密度に配向した結晶構造に成長させる磁場印加法(特許文献2)、またテラヘルツ波発生装置に使用した場合に、テラヘルツ波出力が減衰しない結晶として、有機光学結晶材料溶液を過飽和状態で撹拌しながら結晶を形成する内部の劈開面上に直線状欠陥を存在させない方法(特許文献3)等がなされている。
【0005】
一般に、サブミリ波から遠赤外域を含む周波数領域(0.1〜100THz)はテラヘルツ電磁波領域と総称され、光波と電波の境界に位置する。このテラヘルツ波は、電磁波として情報通信分野だけでなく、その性質、例えばX線の1/100万のエネルギーを有し、人体に安全で、紙やプラスチック材料などをよく透過し、金属は透過しない性質により、隠匿物の非接触・非破壊で簡便に検査する必要のある安全・防犯分野、薬物や化合物の水分量の差に敏感に反応するので、生体分子や各種化合物の分析ツール、悪性腫瘍の早期発見、その他半導体LSIの内部構造の欠陥検査、ウエハーの物性評価などその応用は広範囲にわたるものである。
【0006】
テラヘルツ波発生装置は、レーザー照射器から照射されたレーザーにより二波長パラメトリック発振器において波長が異なる二つの電磁波が発生し、前記二つの電磁波が集光レンズを介して差周波発生素子に入射され、前記差周波発生素子から前記二つの電磁波の差周波に対応する電磁波(テラヘルツ波)が発生するという構成が一般的であり、前記差周波発生素子として、前記有機非線形光学結晶が使用される。
【0007】
前記レーザー照射器から照射されたレーザーを有機非線形光学結晶に照射するが、これまでの有機非線形光学結晶は、2波長光のビーム密度が1.1GW/cm以下で結晶内部に損傷が生じてしまいテラヘルツ波の発生時間が短くなってしまうという問題があった。これまでのところDAST結晶では、入射レーザーのピークパワー密度が2.8GW/cmである結晶が最もレーザー耐久性を有するものとされ(前記特許文献3)、テラヘルツ波の安定した発生時間については確認されていなかった。
【0008】
結晶の損傷閾値は一般的に結晶へ照射するレーザーのビーム密度により示される。結晶へ照射するレーザーのビーム密度が高ければ高いほど結晶は損傷を起こしやすく、ビーム密度が低いほど結晶は損傷を起こしにくいと理解されている。このことによれば、テラヘルツ波の発生時間はピークパワー値の低いレーザー照射ならば発生時間は長く、ピークパワー値の高いレーザー照射ならば発生時間は短くなる。
【0009】
現在のところ、結晶育成時の特性良好な結晶の作製について上記のとおり各種検討されている段階であるが、一度レーザー照射により損傷してしまった結晶はすでにテラヘルツ波の発生用には使用できないものであり、これを用いてテラヘルツ波を発生させるという観点からの検討はまだされていなかった。
【0010】
従来有機単結晶の製造方法として、有機材料の多結晶を融点未満の一定の温度に保たれた雰囲気中におくことにより単結晶化させる方法(特許文献4)、有機化合物を多結晶や非晶質化した後に融点より低い温度で処理する非線形光学素子の育成方法(特許文献5)は提案されていたが、いずれも有機光学結晶の単結晶化の技術、すなわち単結晶の育成技術の一種であり、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた有機光学単結晶を修復させることは何も示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−107104号公報
【特許文献2】特開2004−205531号公報
【特許文献3】特開2007−232936号公報
【特許文献4】特開平4−349200号公報
【特許文献5】特開平7−168221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた有機光学単結晶を修復する方法を確立すること、およびその修復された有機光学単結晶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機光学単結晶をアニーリング処理することにより、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶の損傷を修復する方法、およびその修復された有機光学単結晶を発明するに至った。
【0014】
従来からアニーリング処理は、結晶内に点在する種々の格子欠陥を低減させることや結晶内に存在する残存応力を除去する方法として各種金属材料に対して、またシリコン単結晶や各種無機結晶にも利用されている。特に有機光学結晶においては、上記特許文献3、4のとおり、アニーリング処理は多結晶や非晶質のものを単結晶化させるのに利用されていた。また、有機薄膜結晶においても種々の格子欠陥を低減させる方法として利用されていた。
【0015】
しかし、有機光学バルク単結晶はその溶融温度と分解温度が非常に近接しており、また非常に機械的・熱的強度も弱く、融点近傍で取り扱うこと自体が困難であり、薄膜結晶と比較すると結晶のサイズが大きくアニーリングによる熱の伝わりに揺らぎが生じる恐れがあることから、当技術分野では有機光学バルク単結晶のアニーリング処理は無理であると考えられていた。また有機光学バルク単結晶をレーザー照射により結晶内部に損傷が生じた際の結晶の損傷を修復する観点からアニーリング処理により修復させることについては、これまで全く検討されていなかった。
【0016】
有機光学結晶にレーザーを照射した際の有機光学結晶から発生するテラヘルツ波の発生時間が安定しておらず、時間とともに減衰していくことは知られていたが、この原因が何に起因するものかは未だ解明されていなかった。そこで、本発明者らは、レーザー照射した結晶について偏光顕微鏡、位相差顕微鏡、構造解析、NMRなどを用いて分析したところ、その原因がレーザー照射により結晶の内部に分子の熱分解や配向の均一性に乱れが生じるなどの種々の欠陥が生じ損傷を生じてしまうものであることを見出した。
そして、上記損傷が生じたバルク単結晶の損傷部位の透過性がアニーリング処理により向上することを確認でき、結晶の損傷を修復させることができることを見出し、有機光学単結晶のレーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶の損傷を修復する方法を発明するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、
[1] 有機光学単結晶をアニーリング処理することにより、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶の損傷を修復する方法。
[2] 前記アニーリング処理を、不活性ガス中で有機光学単結晶の融点以下かつ結晶分子の自由度が高まる温度以上の範囲で処理する上記[1]に記載の方法。
[3] 前記アニーリング処理を、アニーリング温度に結晶中の欠陥を除去するために十分な時間保持した後、徐冷する上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記アニーリング処理を、磁場を作用させた条件のもとで行う上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記有機光学単結晶が、スチルバゾリウム誘導体からなる結晶である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記有機光学単結晶が、スチルバゾリウムカチオン誘導体であるDAST、DASCまたはMC−PTS結晶のいずれかから選択される少なくとも一つの結晶である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載された方法により結晶の損傷が修復された有機光学単結晶。
【発明の効果】
【0018】
有機光学単結晶をアニーリング処理することにより、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶の損傷を修復させた有機光学単結晶を容易かつ簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明結晶のアニーリング効果温度範囲図
【図2】本発明結晶のテラヘルツ発生試験結果
【図3】損傷のビーム密度依存性試験結果
【図4】本発明結晶のアニーリング前後のテラヘルツ発生試験結果
【図5】アニーリング前後の透過像
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の対象とする有機光学単結晶には、下記式1に示すスチルバゾリウム誘導体結晶がある。このスチルバゾリウム誘導体は、−X、−YおよびZの組み合わせで各種誘導体が構成されている。またMMONS(3−メチル−メトキシ−4’−ニトロスチルベン)結晶、DAD((−)4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−3−(2’―ヒドロキシプロピルアミノ)シクロブテン−3,4−ジオン)結晶およびLAP(L−アルギニンホスヘート モノ−ハイドレード)結晶、pNA(4−ニトロアニリン)、MNA(2−メチル−ニトロアニリン)結晶等の各種有機非線形光学結晶がある。
【0021】
なかでも有機非線形光学結晶として有用な下記式1で示されるスチルバゾリウム誘導体からなる結晶を用いることができる。
【化1】

*誘導体分子中に少なからず1つ以上の重水素(D)が含まれている物質も含む。
【0022】
特に、スチルバゾリウム誘導体結晶のなかでも上記X=9、Y=イ、Z=bであるDAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)結晶、上記X=9、Y=イ、Z=cであるDASC(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウム−p−クロロベンゼンスルホネート)結晶、上記X=1、Y=イ、Z=bであるMC−PTS(メロシアニン−p−トルエンスルホン酸)の単結晶を用いるのが、テラヘルツ波の発生時間を向上させるのに有用な有機非線形光学結晶とすることができる点で最も好ましい。
【0023】
本発明において、テラヘルツ波(THz波)発生用に使用するレーザーとしては、有機光学単結晶に照射したときテラヘルツ波を発生させることができるものであればいかなるものでもかまわない。例えばレーザー光の光源にはNd;YAGレーザーを用いた波長1475nm、1493nm、パルス幅15ns/pulseのレーザーや、Nd;YAG/SHGレーザーを用いた波長532nm、パルス幅10ns/pulseのレーザーなどがある。
【0024】
本発明におけるアニーリング方法は、有機光学単結晶をアニーリング処理できる装置であるならば、いかなる装置でもかまはない。例えば、インキュベーターを用い、次のようにアニーリング処理をすることができる。有機光学単結晶を加熱による変形防止のための耐熱性材料からなる例えばセラミックス製の敷板の上に並べ、これをインキュベーター内に載置する。インキュベーター内を真空にし、その後不活性ガスで置換し、アニーリング温度である任意の設定温度まで昇温させる。昇温後、任意のアニーリング時間保温し保持後、室温まで徐冷する。
【0025】
本発明におけるアニーリング処理温度は、一般的には結晶中の欠陥を除去するために十分な温度であり、物質によりその温度は異なる。有機光学結晶のサイズ、物性、またアニーリング処理時間によって、該有機光学単結晶の融点以下かつ結晶分子の自由度が高まる温度以上の範囲で実験的に温度を設定して処理する。好ましくは、有機光学単結晶の融点以下10℃から60℃程度低い範囲の温度に設定することが好ましい。またこの設定温度まで任意の昇温速度で昇温させればよい。例えば、1℃/minの速度で昇温させることができる。DAST結晶の場合、融点が示差走査熱量計(DSC)によれば、259.7℃であるので、249.7℃〜199.7℃、好ましくは、240℃〜200℃、特に好ましくは、225℃〜215℃でアニーリングすることができる。
また、DASC結晶の場合は、融点を示差走査熱量計(DSC)等での測定値、または文献値(281℃)に基づき、実験的にアニーリング温度を設定することが望ましい。
【0026】
アニーリング処理するときの雰囲気は、非酸化性雰囲気ならばかまわない。不活性ガス雰囲気中で行うのがよい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウムなどがあり、好ましくは、アルゴンガス雰囲気中で処理を行うことがよい。
【0027】
アニーリング処理するとき、磁場を作用させた条件のもとで行うこともレーザー照射により結晶内部に損傷を生じた結晶の損傷を修復するうえでも好ましい。磁場の作用により結晶の配向を向上させることで、THz波出力の減衰の原因の一つと考えられる位相欠陥起因のTHz波出力の減衰を防ぐ効果が得られる。作用させる磁場としては、水平な一方向の磁場をかけるものであるが、0.01T〜10T(テスラ)の磁場であり、超伝導磁石により発生させる磁場であることが好ましい。磁場によるDAST結晶の配向方向は、磁場方向に対してDAST結晶のa軸が平行に配向する。また、DAST結晶における配向率の増加が見込める磁場強度としては、0.05T〜0.2T程度である。このことから、少なくとも0.05T以上の磁場を作用させた状態、かつ、磁場方向とDAST結晶a軸が平行となる状態に設定した上でアニーリング処理することにより、結晶内部に存在する損傷をa軸に平行に配向させつつ修復させることができる。
【0028】
アニーリング処理時間は、処理する有機光学単結晶のサイズや物性に応じて、またアニーリング温度に応じて最適時間が決まるが、一般的には結晶中の欠陥を除去するために十分な時間であり、物質によりその時間は異なるので実験的に時間を設定すればよい。下記式2のDAST結晶の場合、融点が示差走査熱量計(DSC)によれば、259.7℃であるので、アニーリング処理温度にもよるが、2時間から140時間である。好ましくは、10時間から20時間であり、特に220℃で12時間アニーリング処理することが好ましい。
【化2】

【0029】
本発明者らは、アニーリング温度が有機光学単結晶の融点以下60℃までの温度範囲内で、最適アニーリング温度範囲を時間との関係で検討した。
DAST結晶粉末を210℃から240℃の温度範囲にわたり、各加熱温度における保温時間を表1のとおり変えて、結晶の状態変化を観察した。その結果、結晶状態を保っている状態をアニーリング温度適応性「あり」、結晶の表面が液化(分解溶融)したものをアニーリング温度適応性「限界点」、結晶が液化(分解溶融)したものをアニーリング温度適応性「なし」とした。
【表1】

【0030】
結晶の表面が液化、または結晶が液化(分解溶融)したものは、NMR測定結果によればケミカルシフトが生じていることがわかり、DASTの骨格を保持していない分解物、または、熱分解による炭化物となっており、もはやDAST結晶としての非線形光学効果及び電気光学的効果は損失してしまうものである。図1にアニーリング効果温度範囲を示す。状態変化限界点曲線は、DAST結晶が液化し始める温度と変化が生じるまでの保温時間を示すことになる。この結果によればDAST結晶の場合、図1に示す状態変化限界点曲線より下の範囲内において、アニーリングすることができる温度範囲・時間であるといえる。また、DASTの融点および表1の実験データをもとに近似曲線を描くことでDAST結晶におけるアニーリング効果温度範囲である200℃までの保温時間を推定できる。
【0031】
上記アニーリング温度で加熱および保温した後、任意の速度で室温まで徐冷させる。徐冷(冷却ということもある)の仕方については、本発明のレーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶の損傷を修復させる効果を損なわないことを限度として特に制限はない。例えば、アニーリングした結晶において部分的な温度(向上させた結晶分子の自由度)低下が生じるようなことは、上記の効果を損なう可能性があるので好ましくない。これらを踏まえていれば、冷却の仕方は、直線的、段階的などのいずれであってもかまわない。加熱および保温した結晶を構成する化合物の特性や結晶の大きさに依存した熱伝導等を考慮し、結晶全体が均一に上記の効果を享受できるよう最適な条件を実験的に設定することが好ましい。冷却の仕方の好ましい例としては、工業的な観点からは、温度管理の工程を省略できるので熱処理後に非酸化性雰囲気に保持した状態のアニーリング処理できる装置ごと室温環境にて自然徐冷させることや、アニーリング温度にて加熱および保温した結晶のみを室温環境にて自然徐冷させることがあげられ、機器等により精密な温度管理が可能であるならば0.05℃/minの速度で降温させることがあげられる。
【0032】
本発明の修復方法に使用し得る対象結晶は、いかなる育成方法による結晶に対して、レーザー照射により損傷した結晶であるならばかまわない。例えば、DAST結晶ならば自然核成長法、種結晶成長法、斜面法、磁場印加法、溶液撹拌法などいずれの成長法によるものでよい。特に、結晶の成長速度や成長環境を改良した成長法によらない方法を用いるのが好適である。改良された結晶成長法によらない有機光学結晶は、結晶内部に種々の格子欠陥を有しており、テラヘルツ波発生時間が劣っているものであるが、結晶成長法としては最も成長条件の自由度が大きく特別な制御手段を設けることなく簡単な手段で結晶を成長させることができる。
【0033】
上記テラヘルツ波発生時間が劣っているものとしては、例えば自然核成長法による結晶がある。自然核成長法による有機光学単結晶の形成は、次のようにして行う。最初に有機光学単結晶を構成する有機物を溶媒であるメタノールなどに溶解した後、この溶液中に核成長物質を浸漬させる。次いで、前記溶液温度を降下して前記有機物が過飽和になるようにする。すると有機物が前記核成長物質上に析出して成長し、有機光学単結晶が得られるものである。本発明によれば、このテラヘルツ波発生時間が劣っているものでも、テラヘルツ波発生時間を向上させることができるものである。
【0034】
有機光学結晶におけるテラヘルツ波発生時間は次のように、テラヘルツ波出力により判定した。一定条件のレーザー照射を行ったときに得られるテラヘルツ波出力において、同測定時に観測された最大テラヘルツ波出力を用いて各出力値を割ることで算出した値が、照射開始から5分間以内に、連続して20秒以上、0.5以下に減衰しない結晶をテラヘルツ波の発生が安定した結晶としてこれを目標とした。
また、一定条件のレーザー照射を行ったときに得られるテラヘルツ波出力において、同測定時に観測された最大テラヘルツ波出力を用いて各出力値を割ることで算出した値が、照射開始から5分間以内に、連続して20秒以上、0.5以下に減衰する結晶はテラヘルツ波の発生が安定していない結晶とした。
ここで、0.1THz〜10THzの領域を1回分光するために要する測定時間は5分であり、実用性の観点から1測定以上可能な結晶を評価するためにレーザー照射時間を5分とした。
【0035】
アニーリング後における照射レーザー条件を以下に示す。
・入射レーザーのパルス幅:15ns
・ビーム密度:0.48、および1.5 GW/cm
・レーザー波長:1475nmと1493nm
THz出力は、焦電素子(DTGS(Deuteriated triglycine sulfate))により検出を行った。
【0036】
本発明ではレーザーを照射し結晶内部に損傷が生じた結晶に対してアニーリング処理することにより、有機光学単結晶における格子欠陥を修復させることができている。図1に示す上記アニーリング効果温度範囲の状態変化限界点曲線を超えた条件でアニーリングすると、DAST結晶は熱分解を起こしてしまう。この状態変化限界点曲線以下の範囲内のアニーリング処理条件内であると、レーザー照射により損傷した結晶の格子欠陥を修復できることは、これまで想像もつかなかったことである。
【0037】
本発明者は、アニーリング処理の前後において、単結晶の偏光顕微鏡による透過像解析を行った。DAST結晶においてレーザー照射により結晶損傷となった個所は、損傷による結晶の不均一化により光が散乱され黒く影となって表れるものであるが、アニーリング処理により影が消えて透明性が増した。偏光顕微鏡として、Nikon ECLIPSE E600POLを用い、測定条件として、偏光板なし、調光ダイヤルを60%の位置に合わせる。顕微鏡の視野全開(光量FULL)で、光の三原色であるRGB平均値を算出し、単結晶の偏光顕微鏡による透過像解析を数値化した。結果を、損傷部位におけるRGB平均値として算出すると、アニーリング処理によりRGB平均値が増加し、レーザー照射前に戻り、結晶内部のレーザー照射により損傷した結晶の格子欠陥が修復されたものと理解できる。
【0038】
本発明は、上記に記載された修復方法により得られる、レーザー照射により損傷した結晶の格子欠陥が修復された有機光学単結晶に関する。レーザー照射により損傷した結晶の格子欠陥が修復された有機光学単結晶は、テラヘルツ発生用とすることは勿論のこと、各種電気光学素子として使用することもできる。例えば、テラヘルツ波検出用、高感度電界センサー用、高速光変調器用、電界プローブ用、電気光学サンプリング用、2次元電界マッピング用あるいは空間電界検出用などの電気光学素子として使用可能なものである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。本発明の有機光学単結晶の代表例であるDAST結晶を用いて、以下に説明する。
【0040】
[実施例1]
図1の「アニーリング効果温度範囲」の状態変化限界点曲線範囲内の215℃から225℃において、アニーリング効果があるかを確認した。用いたDAST結晶の製造方法を以下に示す。
【0041】
(単結晶の育成)
DAST単結晶の育成は、自然核発生法により行った。市販のDAST粉末(純度99.9%以上 第一化学薬品社製)17.7gに400gのメタノールを加えDAST育成溶液を調整した。次いで、この溶液を55.0℃まで攪拌しつつ昇温し、10時間55.0℃を維持し、DAST粉末を完全に溶解させた。その後調整した溶液を280mlずつ分注し結晶育成用溶液とした。調整した結晶育成用溶液は再度55.0℃まで昇温し、10時間55.0℃を維持した。次いで、この溶液を44.8℃まで攪拌しつつ降下させ、その後30分維持し、支持体に付着させた種結晶を投入した。種結晶投入後、速やかに43.3℃まで降下させ、0.1℃/日の速度で溶液温度を降下させながら、40日間支持体に付着させた種結晶を育成したときに容器底面にて自然発生する結晶を同期間育成した後に、容器底面の結晶を回収した。次いで、回収したバルク結晶をアセトンにて20秒間、酢酸エチルにて5分間以上洗浄した。
【0042】
得られた各DAST単結晶のサイズを表2に示す。
【表2】

【0043】
試料番号cont-1、225-1、220-1、220-2、215-1、215-2のDAST結晶へのアニーリングは以下の方法・条件でアニーリング処理を行った。
インキュベータとして、EYELA VACUUM OVEN VOS−201SDを用いた。耐熱性のある敷板としてのSiウェハー上に、DAST結晶を並べ、インキュベータへ入れ、インキュベータ内を一度真空にし、その後不活性ガスとしてのアルゴンガスを装置内に充填する。アニーリング温度として215℃、220℃、225℃まで1℃/minの速度で昇温させ、保持時間として12時間のアニーリング処理を行い、その後、自然徐冷により結晶を室温まで冷却した。
【0044】
図2にテラヘルツ波(THz波)発生試験結果を示す。THz波を発生させるために結晶へ照射したビーム密度は480MW/cmである。各試料において安定して0.5以上THz波が安定して発生している時間を、表3に示す。
【表3】

【0045】
図2に示されるとおり、アニーリングなしの試料番号cont-1の場合には576秒で出力値が0.5以下まで連続して減少しているのに対し、215℃、220℃、225℃において12時間アニーリングを行った結晶(試料番号225-1、220-1、220-2、215-1、215-2)は1200秒以上安定して0.5以上のTHz波が発生した。このことから、アニーリング効果温度範囲の状態変化限界点曲線範囲内であればアニーリングによる効果が得られることが理解できる。
【0046】
[実施例2]
安定したTHz波発生のためのビーム密度依存性およびアニーリング効果の確認試験をおこなった。DAST単結晶の製造は、実施例1と同じ条件で育成した。
得られた各DASTバルク単結晶のサイズを、表4に示す。
【表4】

【0047】
試料番号C−1、C−2、C−3のDAST結晶へのアニーリングは実施例1と同じく、アニーリング温度220℃まで1℃/minの速度で昇温させ、保持時間として12時間のアニーリング処理を行い、その後、自然徐冷により結晶を室温まで冷却した。
【0048】
ビーム密度依存性によるテラヘルツ波の発生を確認した。前記[0008]に示したビーム密度とTHz波発生時間の関係性を確認するために、DAST結晶において安定したTHz波発生を確認するためのビーム密度依存性を検証した。
条件として、レーザー出力1.5GW/cm未満の出力に設定したレーザー照射において300秒以内に安定して0.5以上のTHz波が発生できなくなったDAST結晶であるC−1およびC−2、または、300秒以上に安定して0.5以上のTHz波が発生したDAST結晶であるC−3にレーザー出力1.5GW/cmのレーザーを照射した。また、THz波発生試験のためにレーザーを照射した結晶の部位は、顕微鏡により結晶の内部透過性が良好と確認された部位である。また、事前の評価にてレーザーによる結晶内部の損傷が生じている結晶については、内部損傷によるTHz波出力の減衰を懸念し、損傷発生前後で結晶の内部透過性が同等程度、かつ、レーザー照射により損傷を生じていない部位である。ビーム密度が高いほどTHz波発生時間が短くなるとするならば、上記条件方法によりレーザー出力1.5GW/cmを照射すると安定してTHz波が発生している時間が早くなるまたは安定してTHz波が発生している結晶でも安定してTHz波が発生している時間が早くなると推測できるからである。その結果を、表5に示す。
【0049】
図3にビーム密度差による結晶のTHz波発生試験結果を示す。表5での条件イはビーム密度1.5GW/cm未満において出力値/最大出力の値が0.5以下になるまでの時間とし、条件ロはビーム密度1.5GW/cmにおいて出力値/最大出力の値が0.5以下になるまでの時間である。試料番号C−3は、上記のとおりレーザー出力1.5GW/cm未満の出力に設定したレーザー照射において300秒以上に安定して0.5以上のTHz波が発生したDAST結晶であり、表5では「−」とした。
各結晶におけるTHz波発生のビーム密度依存性をみてみると、どの結晶においてもビーム密度を上昇させることでTHz波が発生している時間が短くなっている。即ちこのことは、どのDAST結晶においてもビーム密度を上昇させると安定してTHz波を発生させることが困難であることを示している。
【表5】

* 条件イ;ビーム密度1.5GW/cm未満において出力値/最大出力の値が0.5
以下になるまでの時間
* 条件ロ;ビーム密度1.5GW/cmにおいて出力値/最大出力の値が0.5以下
になるまでの時間
【0050】
レーザー出力1.5GW/cm未満の出力に設定したレーザー照射により300秒以内に安定して0.5以上のTHz波が発生できなくなったDAST結晶A−1、A−2、A−3に対して実施例1と同じ方法で、アニーリング温度220℃まで1℃/minの速度で昇温させ、保持時間として12時間のアニーリング処理を行い、その後、自然徐冷により結晶を室温まで冷却した。その後1.5GW/cmのレーザー照射による耐久性試験をおこなった。
【0051】
レーザー照射によるTHz波発生試験は次のとおりである。DAST結晶回転用治具上に載せたDAST結晶にレンズ、ミラー系を介して二波長レーザービームを照射し、A/Dコンバーターを用い1秒ごとにDLATGS出力をモニタしてTHz波の発生状況を確認した。アニーリング処理前には2波長光のビーム密度1.5GW/cm未満とし、アニーリング後は2波長光のビーム密度1.5GW/cmとした。2波長光のレーザーは、波長λ1=1475nm、λ2=1493nm、パルス幅15ns/pulse、繰り返し周波数50Hzに設定したレーザー光を照射した。また、THz波発生試験のためにレーザーを照射した結晶の部位は、顕微鏡により結晶の内部透過性が良好と確認された部位である。また、事前の評価にてレーザーによる結晶内部の損傷が生じている結晶については、内部損傷によるTHz波出力の減衰を懸念し、損傷発生前後で結晶の内部透過性が同等程度、かつ、レーザー照射により損傷を生じていない部位である。
【0052】
THz波発生試験の結果を、表6および図4に示す。アニーリング前は安定して300秒以上のTHz波を発生した結晶は試料3つのうちなかったが、上記アニーリング処理により試料3つとも300秒以上の安定したTHz波を発生した結晶になっていた。
【表6】

【0053】
[実施例3]
300秒以内に安定して0.5以上のTHz波が発生できなくなった結晶について、透過像の画像解析を行った。偏光顕微鏡はニコン社製ECLIPSE E600 POLを用い、測定条件としては、偏光板を用いず、結晶を透過させる光は調光ダイヤルを60%の位置に合わせ、顕微鏡視野を全開に設定した。得られた透過像のコントラストは、画像編集ソフト(Photoshop CS、Adobe製)を用い、レーザー照射前後およびアニーリング前後にて変化が現れていない結晶の同一部位について同等程度のRGB平均値を示すようにコントラストを調整した。
上記画像処理を行った結晶透過像について、まず、300秒以内に安定して0.5以上のTHz波が発生できなくなった結晶について、THz波の発生前後での透過像を比較すると、レーザー照射を照射した部位については透過像の変化が確認できた。これは、レーザー照射により結晶中における分子配向の均一性が乱れ、透過光が散乱されたことに起因する。つまり、レーザー照射により欠陥が発生したと考えられる。一方、図5で同一結晶におけるアニーリング前後での透過像を比較すると、欠陥が発生した部位の透過像に変化が見られた。アニーリング前では、光が散乱され黒く示されていたレーザー照射による欠陥部位が、アニーリング後では透明性が増している。これは、結晶中の分子配向の均一性が向上したことにより光が結晶中を透過したものである。このことは、アニーリングを行うことで結晶内部に存在する欠陥が修復または除去されたことを示している。
【0054】
上記実施例2の試料A−1、A−2、A−3について、a.アニーリング前、レーザー照射前、b.アニーリング前、レーザー照射後、c.アニーリング後、レーザー照射後のRGB平均値およびa.アニーリング前、レーザー照射前のRGB平均値を100%とするRGB比は表7のとおりである。アニーリングを行うことでレーザー照射部位による損傷部位のRGB比は、A−1で9.3%、A−2で2.4%、A−3で10.5%上昇し、結晶内部に存在する欠陥が修復または除去されたことを示している。
【表7】

* a.;アニーリング前レーザー照射前
b.;アニーリング前レーザー照射後
c.;アニーリング後レーザー照射後
* RGB比とは各RGB平均値を条件a.のRGB値で割り100をかけた値である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、有機光学単結晶をアニーリング処理することにより、レーザー照射により結晶内部に損傷が生じた結晶を修復でき、有機光学単結晶のテラヘルツ波の発生時間を向上させることができた。そしてその修復方法によってテラヘルツ波の発生時間を向上させた有機光学単結晶を容易に得ることができ、テラヘルツ波発生用に安定したものとして有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチルバゾリウム誘導体からなる有機光学単結晶の結晶内部の損傷の有無を評価する方法において、有機光学単結晶に光を透過することにより得られる透過像解析工程により、有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項2】
前記透過像解析工程において、前記透過像データからRGB平均値を算出することを含む、請求項1に記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項3】
前記透過像解析工程において、前記有機光学単結晶の透過像と、レーザー照射前の有機光学単結晶の透過像とを比較することにより、前記有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する、請求項1または2に記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項4】
前記透過像解析工程が、前記透過像データからRGB平均値を算出することを含み、
前記有機光学単結晶のRGB平均値が、レーザー照射前の有機光学単結晶のRGB平均値よりも低い場合、前記有機光学単結晶が、レーザー照射後に損傷が発生した結晶であると判断する、請求項1〜3のいずれかに記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項5】
前記透過像解析工程において、更に、
前記有機光学単結晶のRGB平均値が、レーザー照射前の有機光学単結晶のRGB平均値よりも低く、かつ、レーザー照射後でアニーリング処理前の有機光学単結晶のRGB平均値よりも高い場合、前記有機光学単結晶において、損傷が修復された結晶であると判断する、請求項1〜4のいずれかに記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項6】
前記スチルバゾリウム誘導体が、下記式1で表されるスチルバゾリウム誘導体である請求項1〜5のいずれかに記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【化1】

*誘導体分子中に少なからず1つ以上の重水素(D)が含まれている物質も含む。
【請求項7】
前記有機光学単結晶が、スチルバゾリウムカチオン誘導体であるDAST、DASCおよびMC−PTS結晶からなる群から選択される少なくとも一つの結晶であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機光学単結晶内部の損傷の有無を評価する方法。
【請求項8】
有機光学単結晶の製造方法において、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により、前記有機光学単結晶の損傷の有無を評価する損傷評価工程を含むことを特徴とする有機光学単結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された方法により結晶の損傷の有無が評価された有機光学単結晶。
【請求項10】
請求項9に記載された有機光学単結晶を、構成材料として含むことを特徴とする電気光学素子。
【請求項11】
前記電気光学素子が、テラヘルツ波発生用、テラヘルツ波検出用、高感度電界センサー用、高速光変調器用、電界プローブ用、電気光学サンプリング用、2次元電界マッピング用あるいは空間電界検出用のいずれかである請求項10に記載の電気光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−20257(P2013−20257A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174479(P2012−174479)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2008−211302(P2008−211302)の分割
【原出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会講演予稿集第1分冊」(2008年3月27日 (社)応用物理学会発行)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】