説明

有機凝結剤

【課題】 環境に対する負荷が小さく、凝結効果に優れる有機凝結剤、並びにフロックの粗大化、脱水ケーキの低含水率化等の特性に優れる汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤を提供する。
【解決手段】 8〜20meq/gのカチオン度を有する水溶性のカチオン基変性多糖類を含有してなる有機凝結剤;該有機凝結剤と、水溶性不飽和モノマーを構成単位とする水溶性(共)重合体を含有してなる高分子凝集剤とを組み合わせてなる汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤;並びに、該処理剤を用いた汚泥または廃水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水またはし尿(以下、下水等と略記)および工場廃水等の有機性もしくは無機性の汚泥または廃水の処理に用いる有機凝結剤、および該有機凝結剤と高分子凝集剤とを組み合わせてなる汚泥または廃水用の処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水等や工場廃水等の、有機性または無機性の汚泥または廃水の凝結および固液分離処理においては、無機凝結剤(例えば硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸鉄および消石灰)および有機凝結剤[例えばエピハロヒドリンとアミンとの重縮合物(例えば、特許文献1参照)]が広く使用されている。
また、これらの有機性もしくは無機性の汚泥または廃水の凝結および固液分離処理に対しては、縮合系ポリアミンの有機凝結剤および両性高分子凝集剤を併用する方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭38−26794号公報
【特許文献2】特開2000−225400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の無機凝結剤は有機性汚泥等に対して莫大な添加量を必要とし、固液分離後のスラッジ量が増大する問題があった。また、上記の有機凝結剤は、無機凝結剤に比べて低添加量で済み、スラッジ量は大幅に低減できるものの、凝結効果が不十分であった。さらに近年汚泥または廃水の脱水処理後、コンポスト利用する動きが高まっており、合成高分子系の有機凝結剤や凝集剤の使用は、安全性や環境汚染、さらにはそれに伴う二次公害の問題が生じる恐れがある。また、合成高分子は生分解性が良くないため、土壌に残留、蓄積されるという問題もある等、環境への負荷が大きいことから改善が望まれていた。
本発明の目的は、少量の添加で凝結効果に優れ、環境負荷の小さい有機凝結剤、および該有機凝結剤と高分子凝集剤を組み合わせてなる環境負荷の小さい汚泥または廃水用の処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、8〜20meq/gのカチオン度を有する水溶性のカチオン基変性多糖類(A)を含有してなる有機凝結剤(X)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の有機凝結剤は下記の効果を奏する。
(1)凝結性能に優れ、多糖類に由来するため、環境に対する負荷が小さい。
(2)高分子凝集剤と組み合わせることにより汚泥または廃水の処理において優れた凝結および凝集性能を示す。
なお、本発明において凝結性能とは、分散している懸濁粒子の表面電荷を中和して該懸濁粒子同士を凝結させる性能をいい、凝集性能とは、該凝結された微細粒子をさらに架橋吸着作用で凝集させて粗大フロックを形成する性能をいう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[有機凝結剤(X)]
本発明の有機凝結剤(X)は8〜20、好ましくは9〜18、さらに好ましくは10〜16のカチオン度(単位はmeq/g。以下においては数値のみを示す。)を有する水溶性のカチオン基変性多糖類(A)を含有してなる。該カチオン度が8未満では凝結性能が発揮できず、20を超えるものは工業的に製造困難である。
なお、本発明において該カチオン度は、(A)1g当たりのカチオン電荷のmg当量を意味し、水溶性とは20℃の水に対する溶解度(g/水100g)が1以上であることを意味する。
【0008】
水溶性のカチオン基変性多糖類(A)を構成する多糖類(a1)には、天然高分子の多糖類(a11)および半合成高分子の多糖類(天然高分子の多糖類から化学的に誘導される多糖類)(a12)が含まれる。
【0009】
(a11)としては、例えば、セルロース、マンナン、ペクチン、デンプン、フルクタン、ガラクトマンナン、アラビアゴム、タラカントゴム、カラゲナン、アルギン酸、ラミナラン、ガラクタン、キチン、キトサン、デキストラン、プルラン、グアーガムが挙げられる。
【0010】
(a12)としては、例えば、セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアンエチルセルロース、アミノエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース)、デンプン誘導体(例えば、可溶性デンプン、メチルデンプン、カルボキシメチルデンプン)が挙げられる。
【0011】
これら(a1)のうち、環境負荷低減および工業上の観点から好ましいのは(a11)、(a12)のうちのデンプン誘導体、さらに好ましいのはデンプン、キトサン、可溶性デンプン、特に好ましいのはキトサンである。
【0012】
多糖類(a1)の数平均分子量[以下、Mnと略記。測定は後述の測定条件によるゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、(A)の凝結性能および水への溶解性の観点から好ましくは5,000〜200,000、さらに好ましくは20,000〜100,000である。
【0013】
前記GPCは下記の条件で測定できる。
<GPC測定条件>
測定装置 :HLC−8220GPC、東ソー(株)製
カラム :Guardcolumn α、TSKgel α−M
溶離液 :DMF LiBr 0.01M
流量 :1ml/min
サンプル濃度:0.125%
注入量 :100μl
カラム温度:40℃
検量線標準物質:ポリスチレン
【0014】
水溶性のカチオン基変性多糖類(A)としては、例えば多糖類(a1)からなる幹ポリマーと、カチオン性モノマー(a2)を構成単位とする枝ポリマーを有してなるグラフト(共)重合体が挙げられる。
【0015】
カチオン性モノマー(a2)としては、下記のもの、これらの塩[例えば無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等)塩、メチルクロライド塩、ジメチル硫酸塩およびベンジルクロライド塩]、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0016】
(a21)窒素原子含有(メタ)アクリレート
炭素数(以下Cと略記)5〜30のもの、例えばアミノアルキル(C2〜3)(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(アルキル基はC1〜2)アミノアルキル(C2〜3)(メタ)アクリレート[N,N−ジメチルアミノ−エチルおよびプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノ−エチルおよびプロピル(メタ)アクリレート等]、複素環含有(メタ)アクリレート[N−モルホリノエチル(メタ)アクリレート等];
(a22)アミノ基を有するエチレン性不飽和化合物
C5〜30のもの、例えばN,N−ジアルキル(C1〜2)アミノアルキル(C2〜3)(メタ)アクリルアミド[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等]、ビニルアミン、ビニルアニリン、(メタ)アリルアミン、p−アミノスチレン;
(a23)アミンイミド基を有する化合物
C5〜30のもの、例えば1,1,1−トリメチルアミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−エチルアミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2’−フェニル−2’−ヒドロキシエチル)アミン(メタ)アクリルイミド。
【0017】
これら(a2)のうち、グラフト重合性および(A)の凝結性能の観点から好ましいのは(a21)、(a22)、これらの塩、およびこれらの混合物、さらに好ましいのは(a22)、特に好ましいのは、ビニルアミン、アリルアミン、これらの塩、およびこれらの混合物である。
【0018】
前記(a2)のうちビニルアミンを(A)の構成単位とする場合、(a1)にN−ビニルホルムアミドを後述のグラフト(共)重合した後、加水分解する製造方法を採用することが工業的観点から好ましい
【0019】
カチオン性モノマー(a2)のうち塩を構成単位とする場合には、カチオン性の塩として重合させても重合後に塩を形成させてもいずれでもよい。重合後に塩を形成する場合には、(a2)をグラフト(共)重合させた後、酸(塩酸、硫酸等)を添加することにより塩を形成させることができる。(a2)のうちアミノ基を有するものの場合には、水溶解性の観点から、グラフト(共)重合させた後、塩を形成させるのが好ましい。
【0020】
(A)における(a1)と(a2)の重量比は、環境負荷低減および凝結性能の観点から、好ましくは3/97〜50/50、さらに好ましくは5/95〜40/60、特に好ましくは10/90〜30/70である。
【0021】
(A)を構成するモノマーとしては、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により前記(a2)以外のモノマーとして後述のノニオン性モノマー(b1)、アニオン性モノマー(b2)を用いることができる。(a2)以外のこれらのモノマーの含有量は、(a2)の重量に基づいて通常15%以下、好ましくは10%以下である。
【0022】
前記多糖類(a1)からなる幹ポリマーと、カチオン性モノマー(a2)を構成単位とする枝ポリマーを有するグラフト(共)重合体は、例えば多糖類(a1)に対してラジカル重合開始剤を用いてカチオン性モノマー(a2)をグラフト(共)重合させることにより得られる。
【0023】
該グラフト(共)重合体の製造方法としては、ラジカル重合法、例えば溶液滴下重合、逆相懸濁重合、光重合、沈澱重合および逆相乳化重合が採用できる。これらのうち工業的観点、分子量制御の観点から好ましいのは溶液滴下重合である。
溶液滴下重合としては、例えば溶媒の沸点下にモノマー、溶媒およびラジカル重合開始剤の溶液を滴下する方法(例えば特開平6−211942号公報)に準じて製造することができ、また、溶媒として有機溶媒を使用した場合は、取り扱い危険性および環境保護等の観点から必要により脱溶媒し水を加えて製造してもよい。
【0024】
使用する溶媒としては、例えば水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等)、ケトン(メチルエチルケトン、アセトン等)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびこれらの混合物等の極性溶媒、またはトルエン、キシレンなどの非極性溶媒が挙げられる。
これらのうち、モノマーおよび開始剤の溶解性、重合後の脱溶媒のしやすさの観点から好ましいのは水および水とアルコールの混合溶媒である。さらに好ましくは水溶媒である。
【0025】
グラフト(共)重合に用いるラジカル重合開始剤には、レドックス開始剤、有機過酸化物(過酢酸、t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド等)、セリウム塩(硝酸セリウムアンモニウム等)などの重合開始剤を用いる方法が含まれる。これらのうち、取り扱いの容易さおよびグラフト(共)重合性の観点から、レドックス開始剤、セリウム塩が好ましく、レドックス開始剤がさらに好ましい。
【0026】
前記レドックス開始剤は酸化剤と還元剤との組み合わせからなり、該組合せについては特に制限はなく適用できる。
酸化剤としては、例えば過酢酸、t−ブチルパーオキサイド、過酸化水素、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム)が挙げられる。
還元剤としては、例えば重亜硫酸塩(例えば、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウム)、還元性金属塩[例えば、硫酸鉄(II)]、遷移金属塩のアミン錯体[例えば、塩化コバルト(III)のペンタメチレンヘキサミン錯体、塩化銅(II)のジエチレントリアミン錯体]、有機性還元剤〔例えば、アスコルビン酸、3級アミン[ジメチルアミノ安息香酸(塩)、ジメチルアミノエタノール等]〕が挙げられる。
【0027】
これらのうち、グラフト重合性および(A)中の水不溶解分低減の観点から好ましいのは、酸化剤としては過酸化水素、過硫酸塩、還元剤としては還元性金属塩、有機性還元剤、さらに好ましいのは、酸化剤としては過酸化水素、還元剤としては硫酸鉄(II)、アスコルビン酸である。
【0028】
上記グラフト(共)重合に用いる開始剤には、アゾ化合物を併用してもよい。アゾ化合物のうち水溶性のものとしては、例えばアゾビスアミジノプロパン(塩)、アゾビスシアノバレリン酸(塩)、油溶性のものとしては、例えばアゾビスシアノバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリルが挙げられる。
【0029】
ラジカル重合開始剤の使用量は、最適な分子量を得るとの観点から、(a2)の重量に基づいて、好ましくは0.001〜1.0%、さらに好ましくは0.005〜0.5%、とくに好ましくは0.01〜0.2%、最も好ましくは0.02〜0.15%である。
【0030】
また、グラフト(共)重合には必要により連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば分子内に1つまたは2つ以上の水酸基を有する化合物[分子量32以上かつMn50,000以下、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量106以上かつMn50,000以下)およびポリオキシアルキレン[異種アルキレンオキシド(C2〜4)のブロックおよび/またはランダム]付加物(分子量120以上かつMn50,000以下)]、分子内に1つまたは2つ以上の(置換)アミノ基を有する化合物[例えばアンモニアおよびアミン(C1〜30、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンおよびプロパノールアミン)]、および分子内に1つまたは2つ以上のチオール基を有する化合物(後述)が挙げられる。
これらのうちで分子量制御の観点から好ましいのは、分子内に1つまたは2つ以上のチオール基を有する化合物である。
【0031】
分子内にチオール基を有する化合物には、以下のもの、これらの塩[アルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えばマグネシウムおよびカルシウム)塩、アンモニウム塩、アミン(C1〜20)塩および無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸)塩]、およびこれらの混合物が含まれる。
(1)1価チオール
脂肪族チオール[C1〜20、例えばメタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、n−オクタンチオール、n−ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、n−オクタデカンチオール、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、1−チオグリセロール、チオグリコール酸モノエタノールアミン)、1−チオグリセロール、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオマレイン酸、システインおよび2−メルカプトエチルアミン]、脂環式チオール(C5〜20、例えばシクロペンタンチオールおよびシクロヘキサンチオール)および芳香(脂肪)族チオール(C6〜12、例えばベンゼンチオールおよびベンジルメルカプタンおよびチオサリチル酸)が挙げられる。
【0032】
(2)多価チオール
ジチオール[脂肪族(C2〜40)ジチオール(例えばエタンジチオール、ジエチレンジチオール、トリエチレンジチオール、プロパンジチオール、1,3−および1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、ネオペンタンジチオール等)、脂環式(C5〜20)ジチオール(例えばシクロペンタンジチオールおよびシクロヘキサンジチオール)および芳香族(C6〜16)ジチオール(例えばベンゼンジチオール、ビフェニルジチオール)が挙げられる。
【0033】
連鎖移動剤の使用量は、(A)として最適な分子量を得るとの観点から、モノマーの合計重量に基づいて、好ましくは0.001〜10%、さらに好ましくは0.005〜5%、とくに好ましくは0.01〜3%、最も好ましくは0.05〜1%である。
【0034】
溶液滴下重合におけるモノマー溶液中のモノマー濃度は、モノマー溶液の全重量に基づいて、通常5〜90%、残存モノマー低減および重合時の温度コントロールの観点から好ましくは10〜85%、さらに好ましくは15〜80%、とくに好ましくは25〜75%、最も好ましくは25〜70%である。
【0035】
溶液滴下重合における重合温度は、所定温度を一定(例えば所定温度±5℃)に保つように、コントロールするのが分子量制御の観点から好ましい。温度は反応容器を適宜加熱、冷却することにより制御することもできるが、溶媒の沸点下で滴下重合することも可能である。溶媒の沸点は溶媒の種類および圧力によって調整できる。
重合温度は通常40〜190℃、生産性および安全性の観点から好ましくは50〜180℃、さらに好ましくは60〜170℃、とくに好ましくは70〜160℃、最も好ましくは80〜150℃である。
【0036】
グラフト(共)重合は重合による発熱がなくなった時点で反応終点が確認できるが、重合時間は発熱により重合開始を確認した時点から通常1〜24時間であり、重合を完結し、残存モノマーを減少させるとの観点および工業的観点から、好ましくは2〜12時間である。
モノマー濃度、重合温度および重合時間は、モノマー組成、重合法および開始剤種類等によって適宜調整することができる。
【0037】
重合時の溶媒として有機溶媒を用いる場合は、生成物の有機凝結剤の使用時の環境面および取り扱い危険性の観点から有機溶媒を脱溶媒後に水と置換しておくのが好ましい。脱溶媒は常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。水と置換する方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中あるいは脱溶媒後のいずれの段階で水を投入してもよい。
【0038】
(A)の分子量は固有粘度[η](dl/g)で表され、該[η]は、凝結性および凝結速度の観点から、好ましくは0.05〜3.0、さらに好ましくは0.1〜2.0である。なお、本発明において固有粘度[η]は1N−NaNO3水溶液中、30℃で測定した値である。
【0039】
本発明の有機凝結剤(X)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により消泡剤、キレート化剤、pH調整剤、界面活性剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤および防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を併用することができる。 これらの添加剤の合計の使用量は、(A)の重量に基づいて通常20%以下、各添加剤の併用効果および凝集性能の観点から好ましくは0.1〜10%である。、
【0040】
本発明の有機凝結剤(X)を汚泥または廃水に適用する際の(X)の使用量は、汚泥または廃水の種類、懸濁している粒子の含有量によって異なり、特に限定はされないが、汚泥または廃水中の蒸発残留物重量(以下、TSと略記)に基づいて、汚泥または廃水処理時の凝結性およびろ液の清澄向上効果等の凝結性能の観点から、好ましくは0.01〜10%、さらに好ましくは0.05〜8%、とくに好ましくは0.1〜5%、最も好ましくは0.2〜2%である。
【0041】
(X)を汚泥または廃水に適用する方法としては、均一混合の観点から(X)を水溶液にした後に汚泥または廃水に添加して十分に撹拌することが好ましいが、(X)をそのまま汚泥または廃水に添加して撹拌、混合してもよい。
(X)を水溶液として用いる場合は、(X)の濃度は好ましくは0.01〜5%、さらに好ましくは0.1〜1%である。
(X)の溶解方法および溶解後の希釈方法としては、例えば予め秤りとった水を、後述のジャーテスター等の撹拌装置を用いて撹拌しながら所定量の(X)を加え、数時間(約1〜4時間程度)撹拌して溶解させる方法等が採用できる。
【0042】
(X)の水溶液のpHは、溶解性の観点から好ましくは1〜7、さらに好ましくは2〜6、とくに好ましくは3〜5である。(X)を水溶液にした後、pHを調整するためには、無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸)、無機固体酸性物質(例えば酸性リン酸ソーダ、酸性ぼう硝、塩化アンモン、硫安、重硫安、スルファミン酸)および有機酸(例えばシュウ酸、コハク酸、リンゴ酸)を添加するか、あるいは、無機アルカリ性物質(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア)および有機アルカリ性物質(例えばグアニジン)を添加する。なお、上記pHは、(X)の水溶液の室温(20℃)でのpHメーター等を用いた測定値である。
【0043】
(X)は、汚泥または廃水への適用に際して、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により公知の有機凝結剤を併用することができる。
該公知の有機凝結剤としては、例えばアニリン−ホルムアルデヒド重縮合物塩酸塩、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジ(メタ)アリルアンモニウムクロライド、(ジ)(メタ)アリルアミンマレイン酸共重合体、(ジ)(メタ)アリルアミンシトラコン酸共重合体、(ジ)(メタ)アリルアミンイタコン酸、(ジ)(メタ)アリルアミンフマル酸共重合体が挙げられる。
これらの公知の有機凝結剤はそれぞれ1種単独または2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0044】
公知の有機凝結剤の使用量は、汚泥または廃水中のTSに基づいて、汚泥または廃水処理時の凝結性およびろ液の清澄向上効果の観点から、好ましくは0.01〜10%、さらに好ましくは0.05〜8%、とくに好ましくは0.1〜5%、最も好ましくは0.2〜2%である。
【0045】
公知の有機凝結剤を併用する場合は、本発明の有機凝結剤(X)と予め混合した上でこれを汚泥または廃水に適用する方法、または(X)と公知の有機凝結剤を別々に順不同で汚泥または廃水に適用する方法のいずれを採用してもよい。
【0046】
[汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)]
本発明の汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)は、前記の有機凝結剤(X)と、水溶性不飽和モノマー(b)を構成単位とする水溶性(共)重合体(B)を含有してなる高分子凝集剤(Q)とを組み合わせてなるものである。
【0047】
[水溶性(共)重合体(B)]
本発明における水溶性(共)重合体(B)は、水溶性不飽和モノマー(b)を(共)重合させてなるものである。
(b)としては、下記のノニオン性モノマー(b1)、アニオン性モノマー(b2)、前記カチオン性モノマー(a2)およびこれらの2種またはそれ以上の混合物が挙げられる。なお、水溶性(共)重合体(B)は水溶性ホモ重合体および水溶性共重合体を意味する。
【0048】
(b1)ノニオン性モノマー
下記のもの、およびこれらの混合物が挙げられる。
(b11)(メタ)アクリレート
C4以上かつMn5,000以下の水酸基含有(メタ)アクリレート[例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(重合度3〜50)モノ(メタ)アクリレート、(ポリ)グリセロール(重合度1〜10)モノ(メタ)アクリレート]およびC4〜5のアクリル酸アルキル(C1〜2)エステル(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル);
(b12)(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体
C3〜30のもの、例えば(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(C1〜3)(メタ)アクリルアミド[N−メチルおよび−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等]、およびN−アルキロール(メタ)アクリルアミド[N−メチロール(メタ)アクリルアミド等];
(b13)上記以外のノニオン性窒素原子含有エチレン性不飽和化合物
C3〜30のもの、例えばアクリロニトリル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルスクシンイミド、N−ビニルカルバゾールおよび2−シアノエチル(メタ)アクリレート。
【0049】
(b2)アニオン性モノマー
下記の酸、これらの塩[アルカリ金属(リチウム、ナトリウムおよびカリウム等、以下同じ)塩、アルカリ土類金属(マグネシウムおよびカルシウム等、以下同じ)塩、アンモニウム塩およびアミン(C1〜20)塩等]およびこれらの混合物が挙げられる。
(b21)不飽和カルボン酸
C3〜30のもの、例えば(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、安息香酸ビニルおよび酢酸アリル;
(b22)不飽和スルホン酸
C2〜20の脂肪族不飽和スルホン酸(ビニルスルホン酸等)、C6〜20の芳香族不飽和スルホン酸(スチレンスルホン酸等)、スルホン酸基含有(メタ)アクリレート[スルホアルキル(C2〜20)(メタ)アクリレート[2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシブタンスルホン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸、およびp−(メタ)アクリロイルオキシメチルベンゼンスルホン酸等]、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド[2−(メタ)アクリロイルアミノエタンスルホン酸、2−および3−(メタ)アクリロイルアミノプロパンスルホン酸、2−および4−(メタ)アクリロイルアミノブタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸、並びにp−(メタ)アクリロイルアミノメチルベンゼンスルホン酸等]、アルキル(C1〜20)(メタ)アリルスルホコハク酸エステル[メチル(メタ)アリルスルホコハク酸エステル等]等;
(b23)(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレン(C1〜6)硫酸エステル
(メタ)アクリロイルポリオキシエチレン(重合度2〜50)硫酸エステル等。
【0050】
水溶性不飽和モノマー(b)のうち高分子量化し易いという観点から好ましいのは(b1)、(a21)、(a22)、(b21)および(b22)、さらに好ましいのは(b12)、(b13)、(a21)、(a22)、(b21)、並びに(b22)のうちのスルホン酸基含有(メタ)アクリレートおよびスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド、特に好ましいのは(b12)、(b13)、(a21)、(b21)、並びに(b22)のうちのスルホン酸基含有(メタ)アクリレートおよびスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド、最も好ましいのは(b12)のうちの(メタ)アクリルアミド、(b13)のうちのアクリロニトリルおよびN−ビニルホルムアミド、(a21)のうちのN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびこれらの塩(前記のもの)、(b21)のうちの(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸およびこれらのアルカリ金属塩(前記のもの)、並びに(b22)のうちの2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−および3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩(前記のもの)である。また、これらの(b)は、任意に混合して共重合させることができる。
【0051】
本発明における水溶性(共)重合体(B)を構成するモノマー単位としては、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により水不溶性不飽和モノマー(x)を併用することができる。該(x)としては、以下の(x1)〜(x5)、およびこれらの混合物が挙げられる。なお、本発明において水不溶性とは、20℃における水に対する溶解度(g/水100g)が1未満であることを意味する。
(x1)C6〜23の水不溶性(メタ)アクリレート
脂肪族または脂環式アルコール(C3〜20)の(メタ)アクリレート[プロピル−、ブチル−、ラウリル−、オクタデシル−およびシクロヘキシル(メタ)アクリレート等]およびエポキシ基(C4〜20)含有(メタ)アクリレート[グリシジル(メタ)アクリレート等];
【0052】
(x2)[モノアルコキシ(C1〜20)−、モノシクロアルコキシ(C3〜12)−もしくはモノフェノキシ]ポリプロピレングリコール(以下、PPGと略記)(重合度2〜50)の水不溶性不飽和カルボン酸モノエステル
モノオール(C1〜20)もしくは1価フェノール(C6〜20)のプロピレンオキシド(以下POと略記)付加物の(メタ)アクリル酸エステル[ω−メトキシPPGモノ(メタ)アクリレート、ω−エトキシPPGモノ(メタ)アクリレート、ω−プロポキシPPGモノ(メタ)アクリレート、ω−ブトキシPPGモノ(メタ)アクリレート、ω−シクロヘキシルPPGモノ(メタ)アクリレート、ω−フェノキシPPGモノ(メタ)アクリレート等]およびジオール(C2〜20)もしくは2価フェノール(C6〜20)のPO付加物の(メタ)アクリル酸エステル[ω−ヒドロキシエチル(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート等]等;
【0053】
(x3)C2〜30の不飽和炭化水素
エチレン、ノネン、スチレン、および1−メチルスチレン等;
(x4)不飽和アルコール[C2〜4、例えばビニルアルコール、および(メタ)アリルアルコール]のカルボン酸(C2〜30)エステル(酢酸ビニル等);
(x5)ハロゲン含有モノマー(C2〜30、例えば塩化ビニル)
【0054】
水溶性(共)重合体(B)における水溶性不飽和モノマー(b)の構成単位の割合(モル%)は、(B)を構成するモノマーの全モル数に基づいて、水溶解性、凝集性能の観点から好ましくは50%以上、さらに好ましくは80〜100%である。
また、水不溶性不飽和モノマー(x)の構成単位の割合(モル%)は、(B)を構成するモノマーの全モル数に基づいて、通常60%以下、汚泥等の処理で形成されるフロックの強度および水溶解性、凝集性能の観点から好ましくは5〜50%、さらに好ましくは1〜20%である。
【0055】
水溶性(共)重合体(B)には、カチオン性水溶性(共)重合体(B1)、両性水溶性(共)重合体(B2)、アニオン性水溶性(共)重合体(B3)およびノニオン性水溶性(共)重合体(B4)が含まれる。
カチオン性水溶性(共)重合体(B1)は、前記カチオン性モノマー(a2)を必須構成単位とし、必要によりノニオン性モノマー(b1)および/または水不溶性不飽和モノマー(x)を構成単位としてさらに含有する(共)重合体であって、水に溶解した際にカチオン性を示す(共)重合体である。
(B1)を構成する(a2)と(b1)の合計モル数に基づくモル割合(モル%)は、汚泥粒子表面の荷電中和の観点から、(a2)は好ましくは70%以上、さらに好ましくは80〜100%、(b1)は好ましくは30%以下、さらに好ましくは0〜20%である。
【0056】
両性水溶性(共)重合体(B2)は、前記カチオン性モノマー(a2)並びにアニオン性モノマー(b2)を必須構成単位とし、必要によりノニオン性モノマー(b1)および/または水不溶性不飽和モノマー(x)を構成単位としてさらに含有する共重合体である。
(B2)を構成する(a2)、(b2)および(b1)の合計モル数に基づくモル割合(モル%)は、凝集性能の観点から、(a2)は好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜25%、(b2)は好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜25%、(b1)は好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜80%である。
【0057】
(B)のうち、アニオン性水溶性(共)重合体(B3)は、前記アニオン性モノマー(b2)を必須構成単位とし、必要によりノニオン性モノマー(b1)および/または水不溶性不飽和モノマー(x)を構成単位としてさらに含有する重合体であって、水に溶解した際にアニオン性を示す重合体である。
(B3)を構成する(b2)と(b1)のモル割合(モル%)は、凝集性能の観点から、(b2)は好ましくは70%以上、さらに好ましくは80〜100%、(b1)は好ましくは30%以下、さらに好ましくは0〜20%である。
【0058】
また、ノニオン性水溶性(共)重合体(B4)は、ノニオン性モノマー(b1)を必須構成単位とし、必要により水不飽和不溶性モノマー(x)を構成単位としてさらに含有する共重合体である。
【0059】
水溶性(共)重合体(B)の固有粘度[η]は通常1〜40、凝集性能および凝集速度の観点から好ましくは2〜38、さらに好ましくは4〜35、最も好ましくは5〜30である。
【0060】
本発明における水溶性(共)重合体(B)の製造方法としては、ラジカル重合開始剤を用いる種々のラジカル重合法、例えば水溶液重合、逆相懸濁重合、光重合、沈澱重合および逆相乳化重合が挙げられ、例えば特開2009−178634号公報記載の製造法などが採用できる。これらのうち工業的観点から好ましいのは、水溶液重合、逆相懸濁重合、光重合および逆相乳化重合、さらに好ましいのは水溶液重合および逆相懸濁重合である。
【0061】
[高分子凝集剤(Q)]
本発明における高分子凝集剤(Q)は、前記水溶性不飽和モノマー(b)を構成単位とする水溶性(共)重合体(B)を含有してなるものである。(Q)は前記(B1)〜(B4)のいずれであってもよく、またこれらを組み合わせたものであってもよい。
(Q)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により消泡剤、キレート化剤、pH調整剤、界面活性剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤および防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を併用することができる。
これらの添加剤の合計の使用量は、(Q)の重量に基づいて通常20%以下、各添加剤の併用効果および凝集性能の観点から好ましくは0.1〜10%である。
【0062】
本発明の汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)は、前記の有機凝結剤(X)と高分子凝集剤(Q)とを組み合わせてなるものであり、該組合せ処理剤(Z)には前記のとおり下記の(1)、(2)が含まれる。
(1)有機凝結剤(X)と高分子凝集剤(Q)とを予め混合して混合物とした上で汚泥または廃水に添加、混合して凝結および凝集処理してフロックを形成させ、その後固液分離を行うことを目的とする処理剤(Z);
(2)汚泥または廃水にまず、有機凝結剤(X)を添加、混合して凝結処理し、さらに高分子凝集剤(Q)を添加、混合して凝集処理してフロックを形成させ、固液分離を行うことを目的とする処理剤(Z)。
上記(1)、(2)のいずれにおいても(X)と(Q)の合計重量に基づく(X)の割合は、凝結および凝集処理剤(Z)の凝結性能および凝集性能の観点から好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは、0.2〜5%である。
【0063】
本発明の汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)を用いた処理方法においては、下水汚泥等のpHを予め調整しておいてもよい。pHの調整範囲は通常3〜8、加水分解防止の観点から好ましい下限は3.5、さらに好ましくは4、とくに好ましくは4.5、溶解性の観点から好ましい上限は7.8、さらに好ましくは7.5、とくに好ましくは7.0である。
pHの調整方法としては、特に限定されることはなく、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)等の酸性物質や苛性アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等のアルカリ性物質を用いる方法が挙げられる。また、前記の無機または有機凝結剤を下水汚泥等に予め加えることで、上記pHに調整することもできる。
【0064】
本発明の汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)を用いた汚泥または廃水の処理法としては、下記の方法が挙げられる。
(1)汚泥または廃水に、前記(X)と(Q)をあらかじめ混合して混合物とした凝結および凝集処理剤(Z)を添加、混合してフロックを形成させ、固液分離する汚泥または廃水の処理方法;
(2)(X)を汚泥または廃水に添加、混合した後、さらに(Q)を添加、混合してフロックを形成させ、固液分離する汚泥または廃水の処理方法。
上記のいずれの処理方法においても、各薬剤の添加時にままこを生じにくくする観点から、各薬剤は溶液の形態で添加することが好ましく、水溶液の形態で添加することがさらに好ましい。
これらの方法のうち、凝結性および凝集性の観点から好ましいのは(2)の方法である。
【0065】
また、上記の処理方法における固液分離方法(脱水方法)としては、遠心脱水、フィルタープレス脱水、ベルトプレス脱水、スクリュープレス脱水およびキャピラリー脱水等の種々の脱水法が適用できる。これらのうち、本発明の凝結および凝集処理剤の凝集性能である脱水ケーキの低含水率化の観点から好ましいのは、スクリュープレス脱水機を使用する方法およびベルトプレス脱水機を使用する方法、さらに好ましいのはにスクリュープレス脱水機を使用する方法である。
【実施例】
【0066】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の部は重量部、モル%以外の%は重量%を表す。
【0067】
有機凝結剤および凝結および凝集処理剤の性能評価において、下水汚泥等中のTS、浮遊物質(SS)、有機分(強熱減量)は、「下水試験方法」(日本下水道協会、1984年度版)記載の分析方法に準じて行った。また、本実施例中において有機凝結剤のみを用いて汚泥処理を行った場合の評価[1](上澄み液清澄度、凝結性、遠心分離後の上澄み液のCOD)、有機凝結剤および高分子凝集剤を用いて汚泥処理を行った場合の評価[2](フロック粒径、ろ液清澄度、脱水ケーキ含水率)は以下の方法に従った。
【0068】
評価[1]:有機凝結剤
(1)上澄み液清澄度
300mlのビーカーに汚泥200gを入れ、ジャーテスター[型式「JMD−6HS−A」、宮本理研工業(株)製、以下同じ。]に板状の塩ビ製撹拌羽根(直径5cm、高さ2cm、厚さ0.2cm)2枚を十字になるように上下に連続して撹拌棒に取り付けた撹拌装置にセットする。ジャーテスターの回転数を300rpmとし、徐々に汚泥を撹拌しながら、所定量の凝結剤水溶液を添加しさらに1分間撹拌する。撹拌後、1%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整する。T−1189のナイロン製ろ布[敷島カンバス(株)製、円形状、直径9cm]、ヌッチェ漏斗、および500mlのメスシリンダーをセットし、撹拌後の汚泥を一気に投入してろ過する。ろ過後のろ液について、吸光度計[UV−1200、(株)島津製作所製、以下同じ。]で波長590nmおよび700nmにおける吸光度を測定し、ろ液清澄度を評価する。なお、吸光度の数値(%)は、イオン交換水の吸光度を100%とした時の値を示す。
【0069】
(2)凝結性
上記(1)の評価後、ろ液を遠心分離機[形式LC06、TOMY SEIKO CO.LTD.製]を用いて2,000rpmにて10分間遠心分離を行い、全汚泥体積に対する、沈降スラッジ(下層)体積%を測定し凝結性を評価する。該体積%が小さいほど凝結性に優れることを示す。
【0070】
(3)遠心分離後の上澄み液のCOD
上記(2)の評価後のろ液について、JIS K−0102(2011年度版)に記載のCODMn分析法に準じてCODMnを測定する。
【0071】
評価[2]:凝結および凝集処理剤
(1)フロック粒径
300mlのビーカーに汚泥200gを入れ、上記[1](1)の評価方法と同様にジャーテスターにセットする。ジャーテスターの回転数を300rpmとし、徐々に汚泥を撹拌しながら、所定量の凝結および凝集剤水溶液を添加しさらに1分間撹拌する。pHを1%水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整後、所定量の高分子凝集剤水溶液(0.2%)を添加し、2分間撹拌した後、撹拌を止め形成されたフロックの粒径(mm)を目視にて観察する。
【0072】
(2)ろ液の清澄度
上記フロック粒径試験後の処理水全量を[1](1)と同様にしてろ過を行い、吸光度計で波長590nmおよび700nmにおける吸光度を測定し、ろ液清澄度を評価する。なお、吸光度の数値(%)は、イオン交換水の吸光度を100%とした時の値を示す。
【0073】
(3)脱水ケーキ含水率
上記[2](2)でろ過して得られたスラッジの一部をスパーテルで取り出し、プレスフィルター試験機を用いて脱水する(1kg/cm2、60秒)。脱水されたケーキ約3gをシャーレに秤量(W1)して、循風乾燥機中、105±5℃、8時間で乾燥させた後、シャーレ上に残った乾燥ケーキの重量を(W2)として、次式からケーキ含水率を算出する。

脱水ケーキ含水率(重量%)=[(W1)−(W2)]×100/(W1)
【0074】
[有機凝結剤の製造]
下記の有機凝結剤の製造は本来実施例または比較例に該当するが、便宜上製造例または比較製造例として記載した。
製造例1
反応容器に、N−ビニルホルムアミド162部、キトサン[商品名:SK−10、甲陽ケミカル(株)製、Mn:50,000。以下同じ。]10部を仕込み後、反応系内の固形分の合計濃度が20%となるようにイオン交換水686部を加え、塩酸でpHを3に調整した後、均一溶液になるまで撹拌した。次に、60℃の恒温槽中で内容物の温度を60℃に調整し、反応系内を窒素で充分に置換後(気相酸素濃度10ppm以下)、2,2’−アゾビス−(アミジノプロパン)ジハイドロクロライドの0.5%水溶液3.3部、1−チオグリセロールの0.1%水溶液3.3部、過酸化水素の0.08%水溶液3.3部、アスコルビン酸の0.14%水溶液3.3部、および硫酸鉄(II)の0.4%水溶液3.3部を撹拌しながら添加した。約1分後に重合が開始し発熱が認められたが、外部から冷却して内容物の温度を60〜65℃に調節し、5時間反応、熟成させた。熟成終了後、水酸化ナトリウムの35%水溶液260部を加え、80℃に昇温し5時間加水分解を行い、ポリビニルアミングラフト変性キトサン水溶液を得た。その後、10%塩酸/メタノール水溶液600部を加え、ポリビニルアミン塩酸塩として析出させた後、減圧濾過器に供給し固液分離を行った後、固形分を減圧乾燥機中(1.3kPa、50℃×3時間)で乾燥させ、カチオン基変性多糖類(A−1)を含有してなる有機凝結剤(X−1)170部を得た(収率97%、固形分含量95%)。
【0075】
製造例2
製造例1において、N−ビニルホルムアミド162部に代えて41部、イオン交換水686部に代えて200部、2,2’−アゾビス−(アミジノプロパン)ジハイドロクロライドの0.5%水溶液3.3部に代えて1部、1−チオグリセロールの0.1%水溶液3.3部に代えて1部、過酸化水素の0.08%水溶液3.3部に代えて1部、アスコルビン酸の0.14%水溶液3.3部に代えて1部、硫酸鉄(II)の0.4%水溶液3.3部に代えて1部、水酸化ナトリウムの35%水溶液260部に代えて57部を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カチオン基変性多糖類(A−2)を含有してなる有機凝結剤(X−2)51部を得た(収率97%、固形分含量96%)。
【0076】
製造例3
製造例1において、キトサン10部に代えて22部、N−ビニルホルムアミド162部に代えて28部を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カチオン基変性多糖類(A−3)を含有してなる有機凝結剤(X−3)51部を得た(収率97%、固形分含量96%)。
【0077】
製造例4
製造例2において、キトサン10部に代えて可溶性デンプン[商品名:可溶性デンプン、和光純薬工業(株)製、Mn:20,000。以下同じ。]10部を用いたこと以外は製造例2と同様にして、カチオン基変性多糖類(A−4)を含有してなる有機凝結剤(X−4)51部を得た(収率97%、固形分含量96%)。
【0078】
製造例5
反応容器に、アリルアミン塩酸塩40部、キトサン10部を仕込み後、反応系内の固形分の合計濃度が20%となるようにイオン交換水200部を加え、塩酸でpHを3に調整した後、均一溶液になるまで撹拌した。次に、60℃の恒温槽中で内容物の温度を60℃に調整し、反応系内を窒素で充分に置換後(気相酸素濃度10ppm以下)、2,2’−アゾビス−(アミジノプロパン)ジハイドロクロライドの0.5%水溶液1.0部、1−チオグリセロールの0.1%水溶液1.0部、過酸化水素の0.08%水溶液1.0部、アスコルビン酸の0.14%水溶液1.0部、および硫酸鉄(II)の0.04%水溶液1.0部を撹拌しながら添加した。約1分後に重合が開始し発熱が認められたが、外部から冷却して内容物の温度を60〜65℃に調節し、5時間反応、熟成させた。熟成終了後、アセトン300部を加え、ポリアリルアミン塩酸塩グラフト変性キトサンを析出させた後、減圧濾過器に供給し固液分離を行った後、固形分を減圧乾燥機中(1.3kPa、50℃×3時間)で乾燥させ、カチオン基変性多糖類(A−5)を含有してなる有機凝結剤(X−5)52部を得た(収率97%、固形分含量95%)。
【0079】
製造例6
製造例5において、キトサン10部に代えて可溶性デンプン10部を用いたこと以外は製造例5と同様にして、カチオン基変性多糖類(A−6)を含有してなる有機凝結剤(X−6)51部を得た(収率97%、固形分含量95%)。
【0080】
比較製造例1
市販のジメチルアミンとエピクロロヒドリン重縮合体[商品名:カチオマスターPD−7、四日市合成(株)製、固形分濃度50%水溶液]100部をアセトン1,000部中に加え、30分撹拌して沈殿物を得た。
沈殿物を含む生成物を減圧濾過器に供給し固液分離を行った後、固形分を減圧乾燥機中(1.3kPa、50℃×3時間)で乾燥させ、有機凝結剤(比X−1)98部を得た(収率98%、固形分含量98%)。
【0081】
比較製造例2
キトサン100部をミキサーで粉砕し、有機凝結剤(比X−2)99部を得た(収率99%、固形分含量99%)。
【0082】
[高分子凝集剤(Q)の製造]
製造例7
反応容器に、N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩の80%水溶液124部を仕込み後、反応系内のモノマーの合計濃度が30%となるようにイオン交換水205部を加え、均一溶液になるまで撹拌した。次に、40℃の恒温槽中で内容物の温度を40℃に調整し、反応系内を窒素で充分に置換後(気相酸素濃度10ppm以下)、2,2’−アゾビス−(アミジノプロパン)ジハイドロクロライドの0.2%水溶液2.0部、および1−チオグリセロールの0.2%水溶液2.0部を撹拌しながら添加した。約1分後に重合が開始し発熱が認められたが、外部から冷却して内容物の温度を40〜50℃に調節し、10時間反応、熟成させた。なお、重合中内容物が高粘度となり撹拌が困難となったため、撹拌は途中で停止した。重合完結後、内容物を取り出し、細断後、循風乾燥機中、50℃で10時間乾燥させ、さらにミキサーで粉砕して粉末状の水溶性(共)重合体(B−1)を含有してなる高分子凝集剤(Q−1)102部を得た(収率97%、固形分含量95%)。
【0083】
製造例8
製造例7において、N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩の80%水溶液124部に代えて114部、アクリルアミド50%水溶液16部を用いたこと以外は製造例7と同様にして、粉末状の水溶性(共)重合体(B−2)を含有してなる高分子凝集剤(Q−2)104部を得た(収率98%、固形分含量94%)。
【0084】
製造例9
製造例7において、N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩の80%水溶液124部に代えて25部、アクリルアミド50%水溶液82部、N,N―ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド塩の80%水溶液35部、アクリル酸80%水溶液13部を用いたこと以外は製造例7と同様にして、粉末状の水溶性(共)重合体(B−3)を含有してなる高分子凝集剤(Q−3)102部を得た(収率97%、固形分含量95%)
【0085】
上記で得られた有機凝結剤(X−1)〜(X−6)、(比X−1)〜(比X−2)を表1に、高分子凝集剤(Q−1)〜(Q−3)を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

DAM:N,N―ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩
DAA:N,N―ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド塩
AAM:アクリルアミド
AAC:アクリル酸
【0088】
実施例1〜6、比較例1、2
(X−1)〜(X−6)および(比X−1)〜(比X−2)をイオン交換水に溶解させ固形分含量0.2%の各有機凝結剤の水溶液を調製した。
A下水処理場から採取した消化汚泥(pH7.0、TS2.3%、有機分62%)200部ずつを各300mlビーカーにそれぞれ採り、各有機凝結剤の水溶液を2部ずつ添加し、300rpmで1分間撹拌し、前記の評価[1]の方法で評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3から、実施例1〜6では比較例1、2に比べて、上澄み液の清澄性、凝結性、ろ液のCODにおいて優れ、凝結性能に優れていることがわかる。
【0091】
実施例7〜18、比較例3〜6
前記有機凝結剤および高分子凝集剤を表4に従って配合した後、イオン交換水で固形分含量0.2%の水溶液(凝結および凝集処理剤としての水溶液)をそれぞれ調製した。
B下水処理場から採取した消化汚泥(pH6.8、TS2.9%、有機分58%。以下同じ。)200部ずつを各300mlビーカーにそれぞれ採り、上記処理剤の固形分が汚泥のTSに対して0.5%になるように上記処理剤の水溶液を添加し、300rpmで1分間撹拌し、前記の評価[2]の方法で評価を行った。結果を表4に示す。
【0092】
実施例19
有機凝結剤および高分子凝集剤の汚泥への添加方法を変更して、実施例9と同様に評価を行った。B下水処理場から採取した消化汚泥(pH6.8、TS2.9%、有機分58%)200部を300mlビーカーに採り、固形分含量0.2%の(X−1)の水溶液を汚泥に添加し、300rpmで1分間撹拌後、固形分含量0.2%の(Q−1)の水溶液を添加し、300rpmで1分間撹拌し、前記の評価[2]の方法でを行った。(X−1)と(Q−1)の添加量比(重量%)は、0.5/99.5になるように調製し、汚泥への添加量は(A)と(B)の合計重量が、汚泥のTSに対して0.5%になるように添加した。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表4の実施例7〜18の結果から、本発明の凝結および凝集処理剤(Z)は比較のものに比べ、粗大粒子を形成し、高い脱水性(低含水率)に優れ、凝結および凝集性能に優れていることがわかる。
また、実施例19の結果から、有機凝結剤(X)を添加、混合した後、さらに高分子凝集剤(Q)を添加する、(X)と(Q)で逐次処理する組合せ処理剤(Z)については、(X)と(Q)をあらかじめ混合して混合物とした処理剤(Z)よりさらに優れた凝結および凝集性能を発揮することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の有機凝結剤(X)は、環境に対する負荷が小さく、汚泥または廃水の凝結処理に優れた効果を発揮し、また、本発明の汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)は、凝結および凝集性能に優れることから、下水汚泥等の脱水用高分子凝集剤、製紙工程での濾水歩留向上用もしくは紙力増強用高分子凝集剤の他、工場廃水の凝集沈殿処理用薬剤等として幅広く好適に用いることができるため、本発明の有機凝結剤(X)、並びに、凝結および凝集処理剤(Z)は極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8〜20meq/gのカチオン度を有する水溶性のカチオン基変性多糖類(A)を含有してなる有機凝結剤(X)。
【請求項2】
(A)が、多糖類(a1)からなる幹ポリマーと、カチオン性モノマー(a2)を構成単位とする枝ポリマーを有してなるグラフト(共)重合体である請求項1記載の有機凝結剤。
【請求項3】
(a1)と(a2)の重量比が、3/97〜50/50である請求項2記載の有機凝結剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の有機凝結剤(X)と、水溶性不飽和モノマー(b)を構成単位とする水溶性(共)重合体(B)を含有してなる高分子凝集剤(Q)とを組み合わせてなる汚泥または廃水用の凝結および凝集処理剤(Z)。
【請求項5】
汚泥または廃水に請求項4記載の凝結および凝集処理剤(Z)を添加、混合してフロックを形成させ、固液分離することを特徴とする汚泥または廃水の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の有機凝結剤(X)を汚泥または廃水に添加、混合した後、さらに水溶性不飽和モノマー(b)を構成単位とする水溶性(共)重合体(B)を含有してなる高分子凝集剤(Q)を添加、混合してフロックを形成させ、固液分離することを特徴とする汚泥または廃水の処理方法。

【公開番号】特開2013−94720(P2013−94720A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238775(P2011−238775)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】