説明

有機処理フィラーの製造方法

【課題】層状物質に機能性有機化合物を層間挿入した有機処理フィラー(層間化合物)を簡単な工程で製造することができる有機処理フィラーの製造方法を提供する。
【解決手段】層状物質(a)と、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)と、機能性有機化合物(c)とを接触混合して、層状物質(a)に機能性有機化合物(c)を層間挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状物質に機能性有機化合物を層間挿入した有機処理フィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、層状物質に機能性有機化合物を層間挿入した層間化合物が提案されている。上記の層状物質に層間挿入する機能性有機化合物としては、例えば難燃剤や発泡剤が挙げられる。難燃剤や発泡剤を層状物質にインターカラントとして挿入するには、予め層状物質を水で無限膨潤状態にしておく。インターカラントは、プロトン供与体と反応させてカチオン荷電を付与し、水溶液または水溶液−有機溶媒混合物に溶解させてイオン交換反応を行い、層状物質の中に層間挿入する。そのため、インターカラントは予めイオン化できる構造体にしなければならない。また、可溶でなければ層状物質中の金属イオンとイオン交換反応をすることができない。そのため、インターカラントにイオン性を持たせても水または水−有機溶媒の混合物に可溶であることが必須条件となっている。
【0003】
また、予め層状物質は水で無限膨潤化しておかなければならないが、その層状物質は水中で10重量%を越えると無限膨潤化により粘度が高まって10×10ポイズを越え、イオン性インターカラントを加えてイオン交換反応をするために撹拌することができない。そのため、イオン交換反応は多量の水を必要とし、濾過、乾燥、粉砕の工程も必要となり、エネルギーを多量に費やす。特にイオン交換反応、洗浄での水の使用は多量になるため、除害設備を含めた工業的設備投資が多大になる欠点を有している。
【0004】
溶液中で難溶性のインターカラントを挿入する方法では、上述のような問題点があり、非水反応系で非イオンのインターカラントを挿入する試み(共粉砕法)が多く報告されている。例えば、黒田、小川らは、アルキルアンモニウム塩を膨潤性粘土鉱物と摩砕することにより、非水環境下でインターカラントを挿入することを報告している。また、特許文献1および非特許文献1、2には、粘土鉱物とトリアジン化合物(主にメラミン化合物)を有機カチオン化したインターカラントとを用いて振動ボールミルで共粉砕によって粘土鉱物の層間にインターカラントを挿入することが記述されている。さらに、粘土鉱物のモンモリロナイトに非イオンを挿入する手法として、臼杵、福島(トヨタ中央研究所)らは、予めラウリルアミンカルボン酸で層間距離を広げた層間化合物を調製して、親有機化の性状を賦与した後、非イオン性の有機物であるε−カプロラクタムを挿入することを報告している(特許文献2)。
【0005】
上記のような粘土鉱物とインターカラントのいずれもが固体−固体による反応での挿入法や、粘土鉱物に有機カチオンを挿入した後、非イオンを挿入する手法に関する公知技術を踏まえて、新たに試みがなされている。例えば、特許文献3では、種々の有機化合物を層間挿入する際の層間化合物の製造方法として、ボールミルで粉砕する際に異径ボールを用いる方法に関する提案がなされている。また、特許文献4では、膨潤性粘土鉱物がアルコール、エーテル(以下「電子供与体」ということもある)等で膨潤することを利用して、メラミンに摩砕と同じ粉砕エネルギーを加えて非イオンの挿入を試みている。
【0006】
しかしながら、上述した方法では、アルコールやエーテルと膨潤性粘土鉱物とが接触する際に粉砕エネルギーによって熱が発生するため、膨潤した層間から気化し、あるいは粘土鉱物の層間に存在する配位する水等によって置換されにくい問題があった。そのため、粘土鉱物中の水分の管理が煩雑になるなどの問題点があった。また、加熱により脱水操作を行うと、粘土鉱物は結晶の熱崩壊(風化作用)によって新たな結晶水から風化によって自由水が生じ、その自由水の存在が層入条件を大きく変えるため、工業的には安定した挿入を行うことができないという課題があった。さらに、挿入速度も遅く、粉砕時間を長くしても水系反応に見られるようなイオン置換量まで到達することができず、低い挿入量の層間化合物しか得られない技術的問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−53858号公報
【特許文献2】特開昭62−74957号公報
【特許文献3】特開2006−265073号公報
【特許文献4】特開2006−290723号公報
【非特許文献1】ChemicalSociety of Japan CHEMISTRY LETTERS, 71-74, 1990
【非特許文献2】Applied ClayScience, 291-302, Vol7(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、特許文献3、4に記載された技術の欠点を回避すべく、アルコール、エーテル、芳香物にルイス酸を添加した酸付加物を用いてインターカラントと同時接触混合および/または逐次接触混合を摩砕、共粉砕により行うことによって、短時間で層間挿入量のより高い層間化合物を高収量で得ることができる有機処理フィラーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、層状物質(a)と、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)と、機能性有機化合物(c)とを接触混合して、前記層状物質(a)に前記機能性有機化合物(c)を層間挿入することを特徴とする有機処理フィラーの製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、上述した物質(a)、(b)および(c)を接触混合するだけで、層状物質に機能性有機化合物を層間挿入した有機処理フィラーを簡単に製造することができる。
【0011】
本発明において、層状物質(a)は、膨潤性層状粘土鉱物であることが好ましい。
【0012】
本発明において、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)は、孤立電子対を有する有機化合物であって、エーテル化合物群、ケトン類群およびヘテロ原子を有する化合物群から選ばれる少なくとも1種と、プロトンを有する無水無機酸および有機酸から選ばれる少なくとも1種とを混合して得られるルイス酸または酸付加物であることが好ましい。
【0013】
本発明において、機能性有機化合物(c)は、難燃剤および/または発泡剤であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、層状物質(a)と、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)と、機能性有機化合物(c)とを、乾式での粉砕、摩砕または摩擦により機械的エネルギーを加えることによって非水の反応系で接触混合することが適当である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、層状物質に機能性有機化合物を層間挿入した有機処理フィラーを簡単な工程で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。まず、物質(a)、(b)、(c)およびこれらを用いた有機処理フィラーの製造について述べる。
【0017】
[層状物質(a)]
層状物質(a)としては、スメクタイト型粘土、天然スメクタイト型粘土、合成スメクタイト型粘土、膨潤性雲母等の膨潤性層状粘土鉱物を好適に使用することができる。より具体的には、膨潤性マイカ、バーミキュライト、スメクタイト、モンモリロナイト、サボナイト、バイデライト、セピオライト、テニオライト、ゼオライト、カオリナイト、合成テトラシリシックマイカ、ヘクトライト、バリゴルスカイト、パイロサイト、タルク、ノントロナイト、スティブンサイト、ハロイサイト、ベントナイト、ディッカイト、ナクライト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、マーガライト、ザンソフィライト、緑泥石、白雲母、金雲母等が挙げられる。特に好ましいのは、層間にLiイオンやNaイオンを持ったスメクタイトや合成テトラシリシックマイカである。
【0018】
上記の層状物質を用い、摩砕、共粉砕により層状物質にインターカラントとして有機化合物を挿入する際には、層状化合物の水分量は2.0%以下が好ましい。より好ましくは1.5%以下である。水分量が多いと、挿入速度が遅く粉砕時間を長くしても目的の挿入量が得られないばかりか、工業的に安定した挿入量を得ることが困難になる。
【0019】
[有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)]
有機物電子供与体は、層状物質(a)の表面を活性化し、機能性有機化合物を層状物質(a)に層間挿入しやすくするもので、酸などで処理してルイス酸または酸付加物とする。上記有機物電子供与体としては、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、アミン類、ニトリル類、アルデヒド類等で、電子供与体構造を有するものを好適に用いることができる。
【0020】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾキノン等が挙げられる。エステル類としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、クロル酢酸メチル、ジクロル酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、シクロへキサンカルボン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、トルイル酸メチル、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、クマリン、フタリド、炭酸エチル等が挙げられる。エーテル類としては、メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アニソール等が挙げられる。
【0021】
アミド類としては、N,N−ジメチルアミド等の酸アミド類が挙げられる。アミン類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、ピペリドン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。ニトリル類としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリニトリル等が挙げられる。アルデヒド類としては、アルデヒド基が一官能のものとしてメトキシブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド(アクロレイン)、アセトアルデヒド、シアノアセトアルデヒド等が挙げられ、アルデヒド基が二官能のものとしてグリオキサール等が挙げられる。その他の有機物電子供与体としては、ジメチルスルホキシド、N,N’−ジメチルホルムアミド、四塩化炭素、二硫化炭素、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0022】
有機物電子供与体として特に好ましいのは、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、モルホリン等の環状エーテルであり、プロトン供与体として無水塩酸ガス、無水硝酸と組み合わせることで、物質(b)としてルイス酸が生成される。また、プロトン供与体としてアルコール類、ニトロアルカンあるいはケトエノールタイプのケトンと、電子供与体となる三ハロゲン化硼素、無水塩酸あるいは塩化チオニルとから生じる酸付加物も物質(b)として挙げられる。
【0023】
プロトン供与体としては、メタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノール、ペンタノ−ル、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプロピルベンジルアルコール等のアルコール類や、トリクロロメタノール、トリクロロエタノール、トリクロロヘキサノール等のハロゲン含有アルコール類を含む。
【0024】
[機能性有機化合物(c)]
機能性有機化合物(c)としては、例えば、難燃剤、発泡剤、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、耐電防止剤、導電性付与剤、着色剤、消臭剤、殺虫剤、防虫剤、防蟻剤、防鼠剤、可塑剤、安定剤、耐衝撃強化剤、制振材、防曇剤、導電性フィラー、界面活性剤、抗菌剤、防かび剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、架橋剤、架橋助剤、増核剤、金属不活性化剤、表面改質剤、除湿剤、分散剤、核剤、相容化剤、生分解性付与剤、粘着付与剤等を挙げることができる。
【0025】
本発明では、機能性有機化合物(c)として、難燃剤および/または発泡剤を好適に使用することができる。難燃剤、発泡剤は非イオン性であってもよく、酸によってカチオン性を賦与できる化学構造体であってもよい。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、有機リン酸エステル系難燃剤、トリアジン系難燃剤のいずれも使用できるが、環境外乱因子でない点でトリアジン系難燃剤が好ましく、特にメラミン、メラミンイソシアヌレート、メラミン燐酸塩化合物等が好ましい。最も望ましいのは、メラミンとメラミンイソシアヌレートとの併用である。
【0026】
発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0027】
難燃剤と発泡剤とを併用する場合は、発泡剤の分解温度は難燃剤の分解温度よりも低くなければならない。また、後述するようにポリオレフィン系材料のシートを成形後、加熱処理をして発泡させる後処理発泡の場合は、発泡剤の分解温度はシート押出温度より高くなければならない。また、押出成形と同時に発泡させる場合には、発泡剤の分解温度は樹脂温度と同レベルかそれよりも低くなければならない。このように難燃剤と発泡剤とを併用して使う場合は、その各々の温度構成を考慮して難燃剤と発泡剤の選定を行う必要がある。また、難燃剤と発泡剤は、インターカラントとして同じ層状物質に層間挿入してもよいが、望ましくは、層間挿入量を増大させる点、および難燃剤の分解温度と発泡剤の分解温度とが異なる点で、別々に層状物質に層間挿入して層間化合物を製造した方がよい。
【0028】
[有機処理フィラー(層間化合物)の製造]
本発明における層間化合物の製造では、例えば、層状物質(a)に有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)を加え、粉砕、摩砕または摩擦により活性化する。次いで、層状物質(a)に機能性有機化合物(c)を加え、同様に粉砕、摩砕または摩擦により機械的エネルギーを加え、層状物質(a)に機能性有機化合物(c)を層間挿入して、層間化合物を製造する。また、層状物質(a)の活性化と層間挿入の操作を同時に行ってもよい。すなわち、層状物質(a)、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)および機能性有機化合物(c)に粉砕、摩砕または摩擦により同時に機械的エネルギーを加えることによっても、層間化合物を製造することができる。
【0029】
機能性有機化合物(c)として難燃剤および/または発泡剤を使用し、本発明方法によって製造した層間化合物は、難燃性に優れ、高発泡倍率であって建築材料や断熱配管材料等に用いられるポリオレフィン系難燃発泡体の材料として好適に使用することができる。以下、この点について述べる。
【0030】
[従来におけるポリオレフィン系難燃発泡体の製造]
建築用断熱シートや家電製品等の断熱配管には、ガラス繊維、ロックウール等の無機材料または各種プラスチックス発泡体をシート状、テープ状あるいは筒状に加工したものが使用されている。これらの材料の中でも、プラスチックス発泡体は、軽量性、断熱性、衝撃吸収性等の特性に優れているので、多く使用されている。特にポリオレフィン系発泡体は、他のプラスチックス発泡体と比較して、耐寒性、耐水性、耐薬品性、機械的特性に優れており、また、架橋処理を行うと耐熱性にも優れた特性を示す上、熱成形等の成形加工性に優れ、形状の賦与に多様な成形手法を適用できる点で優れている。このようなことから、ポリオレフィン系発泡体は、上記の断熱用途には最適の材料とされている。
【0031】
しかしながら、ポリオレフィン系材料は燃焼熱が高く、また分解温度が400℃付近と低く、融点が低い上、着火した場合には燃焼速度が塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル等に比べて速い欠点がある。そのため、火災の際、安全の観点から建築材料として使用される断熱シートあるいは配管材料においては、建築法や消防法からの火災に対する難燃性能の要求が高く、特に昜燃性のポリオレフィン系材料には本来の優れた加工性、機械的特性をできるだけ損なわずに高度な難燃化処理を施す必要があった。
【0032】
[本発明による層間化合物を用いたポリオレフィン系難燃発泡体の製造]
これに対し、機能性有機化合物(c)として難燃剤および/または発泡剤を使用し、本発明方法によって製造した層間化合物を用いることにより、難燃性に優れ、高発泡倍率のポリオレフィン系難燃発泡体を得ることができる。
【0033】
上記ポリオレフィン系難燃発泡体を製造するに当たっては、例えば、層状物質に難燃剤および/または発泡剤を層間挿入した層間化合物を熱可塑性樹脂に分散して、層間の厚みが2.6〜300nmである層間化合物と、層剥離して分子状に分散した層間化合物との複合分散体を調製し、これを発泡させる。このポリオレフィン系難燃発泡体において、発泡体中の層間の厚みが2.6〜300nmの層間化合物の層間には難燃剤および/または発泡剤が層間挿入されており、燃焼時に熱分解によって初めて難燃剤が分解し、分解ガスによって燃焼酸素の遮断および燃焼ラジカルの捕集をしたり、あるいは難燃剤が分解して炭化熱遮断層を形成したりする。
【0034】
樹脂に難燃剤を用いると、押出混練時の熱履歴により難燃剤分散体を調製する前に一部分解や、また押出機の混練によって難燃剤の凝集による試薬としての効率の低下を招くことがある。このような問題から層状物質を四級アンモニウム塩などで有機化処理し、層間化合物とした後、樹脂中へ微分散させる。剥離した層間化合物はカスバリヤー性が発現するため、その結果、樹脂の分解ガスの気相への移動の平均工程が長くなる。気相での着火を遅らせることで難燃化を図り、微分散化により、少量の添加で高難燃化を図る試みがなされているが、微分散する目的で挿入したインターカラントの四級アンモニウム塩がアルキルアンモニウム塩で、昜燃焼性であるため、他に難燃剤を用いても、上記の試みは、コーンカロリーメーター試験での放散熱量の低減には効果的ではあっても、酸素指数の顕著な向上がみられないばかりか、UL燃焼試験では不合格になるなど、実用的な難燃性を得るまでには到達していない。
【0035】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、アルキルアンモニウム塩に替えて難燃剤そのものを層間挿入した層間化合物にした。層間内に単分子配列された層間化合物は、樹脂分散すると樹脂溶融時に初めて一部が剥離分散し、層間から単分子の状態で難燃剤が分散し、それら樹脂に難燃剤を分散した場合より凝集が小さく、難燃剤が着火時に有効に作用することが分かった。また、層間が2.6nmから300nmの厚みで存在するフラクタルな層間化合物は、難燃剤が樹脂中に単独で存在するよりも高い熱分解温度で分解することが熱天秤分析から確認された。このようなフラクタルな層間化合物は、樹脂の燃焼温度付近にまで達して、初めて熱分解する。層間化合物が剥離分散して樹脂中に存在する難燃剤の熱分解により難燃性能を発現した後、さらに高い燃焼時の温度でフラクタルな層間化合物は熱分解して難燃性能を発揮する。結果として、単独で難燃剤を添加した場合より、一部完全剥離分散して難燃剤を放出し、残りがフラクタルな層間化合物の分散体が存在する樹脂分散体が、広い温度範囲での難燃性を示すことがわかった。その結果、少量の難燃剤で高い難燃性を発現することが明らかとなり、例えば、従来の樹脂と難燃剤との組合せにより使用した場合に比べて、難燃剤の50モル%以下で同等の性能を発揮することを見出した。その上、樹脂に分散する際には層間化合物化されていると単独で樹脂に混練する時よりも熱により酸化されにくく、燃焼温度になって初めて分解反応を起こすため、樹脂の溶融程度の温度では安定である。そのため、リサイクルを行っても難燃性の性能保持にも優れている。
【0036】
また、一部分子状に分散した層状物質は、樹脂中でシートや射出成形等の成形手段を用いると押出方向に配向する。層状物質は元々ガスバリヤー性が高く、樹脂中に層状物質が配向分散した分散体では、配向した層状物質が透過ガスを遮蔽するため、透過ガスは配向した層状粘度鉱物を避けて樹脂の間を迂回しながら透過拡散することになり、透過の平均工程距離は見かけ上長くなる。このため、樹脂成形体のガスバリヤー性は高くなることが知られている。上記のように、発泡剤が熱分解によりガスを発生すると、発泡体が冷却固化するまでのガスの透過を抑止することができるので、高い発泡倍率を維持することができる。
【0037】
[ポリオレフィン系難燃発泡体の製造に用いる分散複合体]
前述した分散複合体について述べる。層間化合物と樹脂とを混合して押出機で混練する場合、樹脂に極性基が存在すると、層間化合物表面に樹脂は極性基を介して吸着する。その際に充分な剪断を樹脂に与えると、吸着した層間化合物をはぎ取るようにして、層間化合物を分子状に分散させる。その吸着力は樹脂の極性値に依存する。吸着の指標としては、樹脂の溶解性パラメータに依存することが細川らの報告からすでにわかっている(引用文献;細川、p180−196、2000年6月30日、「無機・有機ハイブリッド材料の開発と応用」、株式会社シーエムシー発行)。ポリオレフィン系材料は、層間化合物と混練分散しても層間化合物は分子状に剥離分散しないが、酢酸ビニル、無水マレイン酸などの極性基を有する共重合体などでは層間化合物に吸着し、押出剪断力によって層間化合物が層剥離し、分子状分散がなされる。そのため、ポリオレフィン系材料は、ポリオレフィン材料で極性基を有する共重合体や、ポリオレフィン材料と極性基を有する共重合体との混合物でもよい。
【0038】
層状物質に難燃剤を層間挿入した層間化合物を熱可塑性樹脂に分散して、層間の厚みが2.6〜300nmの層間化合物と、層剥離して分子状に分散した層間化合物との複合分散体では、層間化合物が樹脂中で一部は層間の厚み2.6〜300nmで分散し、残りが分子状分散となる。このようにするには、予めポリオレフィン系材料に難燃剤を挿入した層間化合物を高充填化した樹脂充填物をブレンドで製造する。次いで、樹脂で希釈して層間の厚みが2.6〜300nmの層間化合物を樹脂中に残存させるには剪断力を弱め、剥離分散の度合いを低減すればよい。そして、先の高充填化した樹脂充填物に用いた樹脂材料よりメルトフローの高い材料を選定して希釈分散すると、層間の厚みが2.6〜300nmの層間化合物と、層剥離して分子状に分散した層間化合物との複合分散体を得ることができる。その希釈分散をする際に、発泡剤を層間挿入した層間化合物、高充填の難燃層間化合物樹脂分散体、およびメルトフローの高い同じ樹脂の三者を混練溶融分散することで、標記の分散制御された構造体を得ることができる。また、その際に層状物質に分解温度の異なった難燃剤、発泡剤を同時に挿入したものを用いてもよい。
【0039】
[ポリオレフィン系難燃発泡体の製造に用いる樹脂]
ポリオレフィン系難燃発泡体の製造に用いる熱可塑性樹脂としては、従来から発泡体に用いられているポリオレフィン系材料であれば特に限定されるものではない。例えば、高圧ラジカル法で製造される低密度ポリエチレン、チグラー触媒をはじめとした中低圧法などで製造される直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン樹脂や、メタロセン触媒を用いて重合したものでもよい。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合体も含む。このような共重合体として、α−オレフィンにプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等を用いたエチレン−α−オレフィン共重合体や、主にラジカル重合法で製造されるエチレン−酢酸ビニル共重合体およびそのケン化物、エチレン−カルボン酸−金属塩(アイオノマー)共重合体、エチレン−グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタアクリレート−酢酸ビニル三元共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−炭酸カーボネート共重合体、エチレン−アクリレート共重合体、エチレン−ジメチルアミノメタクリレート共重合体、エチレン−ビニルシラン共重合体などのエチレン共重合体等が挙げられる。また、これらの2種類以上の混合物でもよい。
【0040】
また、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、電子線照射による架橋型ポリプロピレンやポリプテン、ポリイソプレン等のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。また、目的に応じて単独でも、2種類以上を併用してもよい。目的に応じて発泡特性や物性を損なわない範囲で、上記の熱可塑性樹脂以外の高分子化合物が混合されてもよい。
【0041】
望ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体10〜70重量%と、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびエチレン−エチルアクリレート共重合体の少なくとも1種以上からなるエチレン共重合体90〜30重量%とからなる樹脂組成物であって、メルトフローレートが0.1〜20g/10分(190℃)で、融点が130℃以下のものがよい。あるいは、エチレン−α−オレフィン共重合体10〜70重量%と、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびエチレン−無水マレイン酸共重合体の少なくとも1種以上からなるエチレン共重合体90〜30重量%とからなる樹脂組成物であって、メルトフローレートが0.1〜20g/10分で、融点が130℃以下のものがよい。
【0042】
また、ポリプロピレンを架橋発泡法で用いる場合、ポリエチレン共重合体のごとく過酸化物を用いて架橋反応を行うと、架橋反応よりも分子切断反応の方が優先して起こり、分子量の低下を招く。そのため、発泡成形に先立って予め電子線などの電離性放射線で架橋させる方法が採られる。そのため、低レベルの照射線量で5〜40Mrad程度の電子線照射されたポリプロピレン10〜70重量%と、ポリプロピレン−エチレンランダム共重合体および無水マレイン酸グラフト−ポリプロピレンの少なくとも1種以上からなるポリプロピレン90〜30重量%とからなる樹脂組成物であって、メルトフローレートが0.1〜20g/10分(230℃)で、融点が140〜160℃の性状を有するものを用い、電子線照射によってポリプロピレン中に固体ラジカルを蓄積させ、層間化合物との混練時に架橋分散させるとよい。同じように、低レベルの照射線量で5〜40Mrad程度の電子線照射されたポリプロピレン10〜70重量%と、ポリプロピレン−エチレンランダム共重合体およびグリシジル−メタアクリレートグラフト−ポリプロピレンの少なくとも1種以上からなるポリプロピレン90〜30重量%とからなる樹脂組成物であって、メルトフローレートが0.1〜20g/10分(230℃)で、融点が140〜160℃のものがよい。また、電子線照射したポリプロピレンとして、市販されているモンテル社のハイメルトストレングスポリプロピレンを使用してもよい。
【0043】
[層間化合物分散体における層間化合物の分散度]
層状物質と難燃剤および/または発泡剤をポリオレフィン系材料と接触溶融混合して得られる層間化合物分散体において、層間化合物は樹脂の層間化合物への吸着と押出機の剪断によって、2枚のシリケートシートにインターカラントが挿入されている層間化合物は1枚のシリケートシートのレベルで樹脂に吸着した形態で剥離される(分子状分散と称する)。そのような分散過程で層間化合物中の難燃剤および/または発泡剤は樹脂と溶融接触しており、樹脂と溶融接触するまで層間化合物の状態にあるため、凝集による試薬の有効力価低減や熱履歴による劣化から回避することができる。
【0044】
また、分子状分散する際に層間化合物中で難燃剤および/または発泡剤は単分子単位で配列されているため、剥離分散時には単分子で樹脂と接触し、凝集することなく有効に作用する。また、層状物質中に難燃剤および/または発泡剤が挿入されたままの状態で存在すると、それらの層間化合物は特異な機能を発現することができる。例えば、ポリオレフィン分散体の中に難燃剤をインターカラントする層間化合物が存在する場合は、燃焼によって初めて層間化合物は分解し、難燃剤を放出することになる。したがって、従来の樹脂分散体に比べて耐熱分解性に優れ、リサイクルしてもその機能が劣化しない。また、燃焼の際には熱分解によって層間内の難燃剤が単分子放出されるため、従来の樹脂分散体より少量で有効に作用する。また、発泡剤においては、成形には層間に存在する状態の量が多ければ、樹脂成形の後に加熱発泡する際に効率よく発泡することができる。
【0045】
上述したような観点から、難燃剤および/または発泡剤を層間挿入した層間化合物では、樹脂分散体とした場合には分子状分散より一部層間化合物として存在した方が、層間内に挿入したインターカラントの機能をより有効に使うことができる。その分子状分散しない量的な範囲を調べた。成形シートの成形配向に直角な断面を透過型電子顕微鏡(以下「TEM」と称する)で観察すると、層間化合物は成形配向方向に配向し、積層された層間化合物および分子状に層剥離した層状物質(分子状に層剥離したシリケートシート)が観測される。
【0046】
層状物質または層間化合物の結晶格子を構成する基本の立体は単位胞と呼ばれており、この単位胞の縦、横、高さに対応して、各辺に沿って座標軸を設け、これらを結晶軸(a軸、b軸、c軸)とする。このとき、積層された層間化合物はc軸方向に積層されたものが観察された。その厚みは2.6〜300nmで、また分子状分散したものは約1nm前後のものが観察された。
【0047】
透過型電子顕微鏡の樹脂分散体の観測視野で、層間化合物が1000粒子観測された視野において、2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物が数平均で5%以上、50%未満で存在すると、難燃性能や成形後の後加熱による発泡倍率の向上に有効であることがわかった。また、5%未満であると本来の難燃性の低下が大きく、多量の難燃剤の追加が必要になるばかりか、成形の際にリサイクル品として混入させると難燃性の低下が大きく、経済的に劣る。また、発泡剤を挿入した層間化合物においても、樹脂分散体とするペレット調製時にすでに樹脂中に分子状分散によって放出された発泡剤が多量に存在するため、発泡剤の熱分解温度と樹脂溶融温度が接近して発泡が始まる。このため、押出温度を下げて、発泡剤を熱分解させないために低温押出が可能な滑剤を多量に添加しなければならない。また、50%以上であると残りの分子状分散した層状物質の量が少ないため、成形体の剛性が低く、耐熱変形温度が低い上、発泡倍率は高く保持できても弾性回復が低い問題点がある。2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物の数平均は、望ましくは10%以上〜45%未満の範囲がよい。
【0048】
以上のように、TEM観察によって1000粒子前後の視野範囲において、樹脂中における層間化合物の積層体の厚み(層間化合物積層体粒子のc軸方向の厚み)が2.6〜300nmである粒子の数平均が5%以上、50%未満の樹脂分散体が、優れた性能を発揮することがわかった。その性能の特徴は、層間内のインターカラント、すなわち難燃剤および/または発泡剤が耐熱性や発泡倍率を有効に発現するばかりか、これらに徐放性を付与することである。なお、層間距離の観察、評価方法として上記のようにTEM観察による方法を述べたが、この方法に限定されるものではなく、例えばX線回折によって計算、評価してもよい。
【0049】
[ポリオレフィン系難燃発泡体の成形方法]
ポリオレフィン系難燃発泡体を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、既存の発泡方法を用いることができる。代表的な方法としては、調製した樹脂組成物を架橋発泡させる方法がある。架橋に際しては、発泡とほぼ同時に架橋させる方法と、発泡に先立って架橋させる方法とがある。発泡とほぼ同時に架橋させる方法の場合は、上記の成分に熱分解型の発泡剤および架橋剤を配合した樹脂組成物を、加圧式ニーダーや2本ロールなどの混練機にて架橋剤および発泡剤が分解しない温度(100〜130℃程度)で混練してペレット化した後、押出機(樹脂温度が100〜130℃程度)にて、所望の厚さと幅の母材シートを押出成形し、約180〜230℃に調整した加熱発泡炉に該母材シートを投入して架橋と同時に発泡せしめ、発泡体を作製する。
【0050】
熱分解型発泡剤は、加熱すると分解してガスを発生するタイプの発泡剤であり、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチルN,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。これらは単独または2種以上で用いることができる。配合量は、所望の発泡倍率に応じて適宜調整するが、樹脂成分100重量部に対して、2〜40重量部が好ましい。架橋剤としてはジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシクメン、4,4’−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレリック酸n−ブチルエステル、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物が挙げられ、その配合量は樹脂成分100重量部に対して、0.3〜2重量部が好ましい。
【0051】
発泡に先立って樹脂組成物を架橋させる方法の場合、上記の成分に熱分解型発泡剤およびビニルトリメトキシシラン等のシラン化合物を配合した樹脂組成物を混練し、母材シートを押出成形した後、ジブチルスズジラウレート等のシラノール縮合触媒および水の存在下でシロキサン縮合反応によってシラン架橋させ、次いで加熱炉に導入して発泡体を製造する。この場合の架橋剤は上に挙げられている有機過酸化物が適用でき、その配合量は、樹脂成分100重量部に対して、0.003〜2重量部である。シラノール縮合触媒の配合量は、樹脂成分100重量部に対して0.03〜5重量部が好ましい。また、発泡に先立って架橋させる方法としては、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、紫外線等の電離性放射線の照射による方法も用いることができ、この場合、上記の成分に熱分解型発泡剤を配合した樹脂組成物を混練し、押出成形して得られた母材シートに電離性放射線を照射して架橋させた後、加熱発泡炉に導入して発泡体を製造する。
【0052】
以上の架橋発泡方法はそれぞれ単独でも併用してもよく、いずれの方法によっても必要に応じてトリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋助剤を樹脂成分100重量部に対して0.05〜3重量部程度配合してもよい。
【0053】
その他、発泡体を製造する代表的な方法としては、押出機などで、溶融可塑化した樹脂組成物中に、発泡剤として成分と反応しない窒素、二酸化炭素、ブタン、プロパン、フロンなどのガスまたは揮発性液体などを注入した後、金型を通じて大気圧下に押し出すことで、樹脂組成物の圧力を開放して気泡を成長させ、発泡体を得る押出発泡方法がある。また、上記の架橋発泡体の製造方法で用いる化学発泡剤と樹脂の混合物を押出機に投入し、押出機内で、発泡剤の分解温度以上に加熱することで、発泡剤を分解させ、金型を通じて大気圧下に押し出すことで、樹脂組成物の圧力を開放して発泡せしめる方法がある。上記の押出発泡法は通常、無架橋の樹脂を用いるが、発泡性を高める目的などで、樹脂の粘度を調整するために、予め押出性を損なわない範囲で、予め架橋された樹脂を用いてもよいし、押出機中での反応によって架橋を形成する手法を用いてもよい。上記の押出機中での反応を利用する場合、樹脂と添加剤の混合性を高めたり、発泡体の物性を向上させたりするなどの目的で、樹脂をカルボン酸などの極性基などで変性してもよい。
【0054】
また、樹脂組成物をシート状やペレット状などの様々な形状に予め成形した上で、金型内に投入し、窒素、二酸化炭素、ブタン、プロパン、フロンなどのガスまたは揮発性液体などを金型内に充満させ、適度の加温と加圧下で樹脂に含浸させた後、金型を開放させ、金型内を減圧することにより、ガスを膨張させ、発泡せしめるバッチ法を使用してもよい。さらには、減圧前に発泡が開始しない程度に温度を下げて、減圧後、一旦ガスが含浸した未発泡の樹脂組成物を金型から取り出し、再び常圧下または金型内の加圧下で加熱して発泡せしめてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
1.難燃層間化合物の製造
内容積約1リットルの回転ボールミルに19mmφの鋼球1kgおよびテトラシリシックマイカ(層状粘土鉱物)100gを入れ、無水テトラヒドロフランに無水塩酸ガスを吸収させた付加物液体5gを添加した。毎分50回転で10分間粉砕を行い、層状粘土鉱物の活性化を行った。次いで、回転ボールミルにメラミン12.6g(100meq/100g)を加え、60分間粉砕を行った。得られた難燃層間化合物(層状珪酸塩メラミン複合体)は、熱重量分析(TGA)で200℃から257℃と350℃から400℃に熱分解ピークが認められた。その中で200℃から257℃の熱分解のピークは層状粘土鉱物の表面に付着したメラミンによるものであり、350℃から400℃の分解ピークは層状粘土鉱物に層間挿入されたメラミンによるものである。TGAの重量差から、層状粘土鉱物の表面に付着したメラミン量は50meq/100gであり、層状粘土鉱物に層間挿入されたメラミン量は50meq/100gであった。また、X線回折分析から、層間距離は13Åであった。
2.発泡層間化合物の製造
内容積約1リットルの回転ボールミルに19mmφの鋼球1kgおよびテトラシリシックマイカ(層状粘土鉱物)100gを入れ、無水テトラヒドロフランに無水塩酸ガスを吸収させた付加物液体5gを添加した。毎分50回転で10分間粉砕を行い、層状粘土鉱物の活性化を行った。次いで、回転ボールミルにアゾジカルボンアミド(ADCA)11.6g(100meq/100g)を加え、60分間粉砕を行った。TGAの重量差から、層状粘土鉱物の表面に付着したアゾジカルボンアミド量は15meq/100gであり、層状粘土鉱物に層間挿入されたアゾジカルボンアミド量は80meq/100gであった。また、X線回折分析から、層間距離は12.7Åであった。
3.マスターバッチの調製
上記1で得られた層状珪酸塩メラミン複合体3kgと、東ソー株式会社製のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)である商品名ウルトラセン627(メルトフローレート0.8g/10分)7kgとを混合した。この場合、添加剤としてステアリン酸アマイドをEVA100重量部に対して1重量部配合した。混練は、押出機(池貝株式会社製PCM30)を用いて押出温度130℃で行った。得られたマスターバッチにおける層状珪酸塩メラミン複合体の含量は30重量%であった。
4.希釈による難燃性樹脂発泡組成物の製造
上記3で得られたマスターバッチ5kgと、その調製の際に用いたEVAより粘度の低い材料として東ソー株式会社製のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)である商品名ウルトラセン626(メルトフローレート2.5g/10分)15kgと、上記2で得られた層状珪酸塩アゾジカルボンアミド複合体を組成物全量20kgに対して10phrの5kgと、架橋剤500gと、追添加発泡剤としてアゾジカルボンアミドを6phr(1110g)とを130℃で混合し、希釈ブレンドを行った。上記で得られた材料を用い、30mmスクリューを備え、L/D=30(スクリュー長さ:L、スクリュー径:D)のピッチ比を有し、1ベントを保有する単軸押出機で、コートハンガー型Tダイスを装着したシート成形機を使用して、厚さ3mmのシートを成形した。得られたシートを230℃のオーブン中に投入し、再度加熱することによって、見掛け密度32.8kg/mの発泡体シートを得ることができた。また、難燃性試験を行ったところ、94ULでは9mmの厚みの試験片でV−2の性能を示した。また、未発泡の押出シート材料を再粉砕し、リサイクル材として100%リペレット化して再度シート成形を行うと、見掛け密度33.9kg/mの発泡体シートを得ることができ、難燃性試験では94ULV−2の性能を維持することがわかった。また層間化合物でメラミンや発泡剤が包接された状態で保持されているため、熱安定性が高いことがわかった。また、後記表に記載のとおり、発熱性試験に合格し、酸素指数の評価では最良の結果が得られた。さらに、発泡体の機械的特性の評価では、引張試験、25%圧縮永久歪試験、熱伝導率の測定を行い、いずれも良好な値を得た。
【0057】
[発泡体の物性評価方法]
本実施例において、発泡体の物性評価方法は下記のとおりとした。
(1)発泡体の見かけ密度
得られた発泡体から10×10cmの大きさの試験シートを切り出し、質量(kg)を体積(m)で除して見かけ密度(kg/m)を求めた。
(2)発熱性試験
ISO−5660またはASTM−E1354におけるコーンカロリーメーター法に準拠し、総発熱量(MJ/m)および最大発熱速度(kW/m)を求めた。また、総発熱量が8MJ/m以下で、かつ最大発熱速度が200kW/mを超えない場合を合格とし、それ以外を不合格とした。
(3)難燃性評価
・UL94垂直燃焼性試験
UL94垂直燃焼性試験規格に準拠して燃焼試験を行い、V−0、V−1、V−2規格のいずれに該当するかを判定した。
・酸素指数の評価
難燃性の評価は、JIS−K−7201にしたがって酸素指数が25以上のものを難燃性があるものとして○、27を越えるものを最良として◎、20未満を易燃性として×、20以上25をやや易燃性として△とした。
(4)引張り強度、伸び率
JIS−K−6767の引張試験測定方法に準じ、試料破断時の引張強さ(KPa)と伸び率(%)を測定した。また、引張強さ100KPa以上、伸び率60%以上の場合を可、引張強さ150KPa以上、伸び率90%以上の場合を最良、引張強さ100KPa未満、伸び率60%未満を不可とした。
(5)25%圧縮永久歪
JIS−K−6767の25%圧縮永久歪測定方法に準じ、得られた発泡体に0.5kg/cmで24時間荷重を加え、荷重を加える前後の断熱層の肉厚から、肉厚の変化率を求め、変化率が7%以内のものを圧縮復元性良好、7%をこえるものを不良と判断した。
(6)熱伝導率
JIS−A−1412の熱絶縁材の熱抵抗および熱伝導率の測定方法における平板比較法に準拠して熱伝導率を求めた。また、0.041W/(mk)以下を良好とした。
【0058】
(実施例2〜23)
表1〜3に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして難燃層間化合物および/または発泡層間化合物を製造した。
【0059】
(比較例1)
実施例1において、メラミンを層状珪酸塩複合体にせずに、実施例で使用したEVA7kgと相当量メラミンとを押出機を用いてマスターバッチ化した。次いで、そのマスターバッチ5kgに、同じように層状珪酸塩アゾカルボンアミド複合体にせずにその相当量のアゾカルボンアミドを49.31630gと、希釈時に使用したEVA15kgとを添加して希釈押出を行った。実施例1と同じようにシート成形を行い、見掛け密度を測定したところ、59.7kg/mであり、熱伝導率は不可であった。また、94ULの燃焼試験を行ったところ、いずれのクラスにも不合格であった。なお、実施例1と同等の難燃性能を発現させるには、樹脂総重量100重量部に対してさらにメラミン8重量部以上を追加して初めて発現することがわかった。したがって、難燃剤を層間化合物化することで、少ない難燃剤で難燃性能が得られることがわかった。
【0060】
(比較例2)
実施例1において、層状珪酸塩メラミン複合体は同様に調製し、希釈の際に層状珪酸塩アゾカルボンアミド複合体にせずに、その相当量のアゾカルボンアミド1630gと、希釈時に使用したEVA15kgとを添加して希釈押出を行った。実施例1と同じようにシート成形を行い、見掛け密度を測定したところ、45.7kg/mであった。また、94ULの燃焼試験を行ったところ、厚さ9ミリの試験片ではV−2であったが、層状粘土鉱物複合体が存在しないと見掛け密度は増大し、熱伝導率が不可となることがわかった。樹脂総重量100重量部に対して25重量部以上の多量の発泡剤(ADCA)がないと発泡密度は33kg/mに達しないことが判明し、実施例では発泡剤を層間化合物化することで、少ない発泡剤で低い見掛け密度を有する発泡体が得られることがわかった。また、成形された発泡体は総合的にみて不適切と判断された。そのため、樹脂分散体の状況を観察してみた。成形品の成形流動方向に直角断面でのサンプルを採取し、透過型電子顕微鏡の視野で層間化合物が約500粒以上の視野において、層間化合物の厚み(d(001)方向の厚み)の分布表を作成すると、樹脂分散体中の層間化合物の総数において、2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物の数平均は53%であった。
【0061】
(比較例3)
実施例1において、テトラヒドロフランに乾燥塩酸ガスを吸収させず、粉砕によって層状珪酸塩メラミン複合体を得ようとしたが、その挿入量は20meq/100gを越えることができなかった。残りは層状珪酸塩の表面に吸着されているだけで、挿入されていないことがX線回折からわかった。また、層間挿入のバラツキも大きく、安定したものができないことがわかった。その20meq/100gの層状珪酸塩メラミン複合体を用いたこと以外は実施例1と同様にすると、難燃性は不合格であった。樹脂分散体中の層間化合物の総数において、2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物の数平均は53%で、層間挿入量が低いと難燃剤の効果が低減するとともに積層した層状粘土鉱物が多くなり、ガスバリヤーとして寄与する層間化合物の数平均が低くなるので、結果として発泡剤のガスバリヤー性も低くなる。そのため、シートの見掛け密度が高くなり、成形体として不適切である。
【0062】
(比較例4)
実施例1において、層状珪酸塩アゾカルボンアミド複合体の層間挿入量が低く、樹脂中に分子状分散する度合いが低下すると、ADCAの大半は層状珪酸塩の表面に吸着されているだけで、層間挿入されていないことがX線回折からわかった。また、挿入のバラツキも大きく安定したものができない。層状珪酸塩メラミン複合体は50meq/100gと比較的高くても、樹脂分散体中の層間化合物の総数において、2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物の数平均は60%であった。このように分子状分散の総数が低いと、発泡倍率は1.3倍しかなく、有効な手段にならないことがわかった。
【0063】
(比較例5)
実施例1において、分子状分散しやすいモンモリオナイトを用いて層間化合物を調製し、分子状分散を行ったところ、難燃性能は著しく悪かった。また、発泡体のセルの不均一さもあり、総合的に判断して好ましい発泡体ではないと判断した。樹脂分散体中の層間化合物の総数において、2.6〜300nmの積層厚みを保有する層間化合物の数平均は4%であった。
【0064】
(比較例6)
実施例1において、難燃剤の代わりに、オニウム塩である塩化ジメチルジデシルアンモニウムを用いて層間化合物を調整し、分子状分散を行ったところ、難燃性はコーンカロリーメーター試験には合格するが、酸素指数やUL94難燃試験には不合格となることが判明した。このことから、実施例のようにメラミンなどの難燃剤を用いて層間化合物を調整する方法が極めて有効なことがわかった。
【0065】
実施例1〜23、比較例1〜6についてのデータを表1〜4に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状物質(a)と、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)と、機能性有機化合物(c)とを接触混合して、前記層状物質(a)に前記機能性有機化合物(c)を層間挿入することを特徴とする有機処理フィラーの製造方法。
【請求項2】
前記層状物質(a)は、膨潤性層状粘土鉱物であることを特徴とする請求項1に記載の有機処理フィラーの製造方法。
【請求項3】
前記有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)は、孤立電子対を有する有機化合物であって、エーテル化合物群、ケトン類群およびヘテロ原子を有する化合物群から選ばれる少なくとも1種と、プロトンを有する無水無機酸および有機酸から選ばれる少なくとも1種とを混合して得られるルイス酸または酸付加物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機処理フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記機能性有機化合物(c)は、難燃剤および/または発泡剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機処理フィラーの製造方法。
【請求項5】
層状物質(a)と、有機物電子供与体とプロトン供与体とからなるルイス酸または酸付加物(b)と、機能性有機化合物(c)とを、乾式での粉砕、摩砕または摩擦により機械的エネルギーを加えることによって非水の反応系で接触混合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機処理フィラーの製造方法。

【公開番号】特開2008−201825(P2008−201825A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35992(P2007−35992)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】