説明

有機化合物の分解処理方法及びその装置

【課題】ハロゲンを含む有機物等の分解時の分解効率の向上をはかるとともに、反応管自体の耐久性を向上させるようにした有機化合物の分解処理方法及びその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中の反応管41内で分解処理する方法及び装置において、反応管41の素材として、ニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用し、分解及び腐食反応によって、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させることにより、反応管41内部において触媒としてのニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行うようにした有機化合物の分解処理方法とその装置を基本手段としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境汚染物質等の難分解物質である有機化合物の分解処理方法及びその装置に関し、特にはフロンガス等の有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中で反応させる反応管として、ニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を素材とする反応管を使用することにより、分解初期工程においては反応管を構成する合金中の鉄を反応助剤として利用し、該合金から鉄が抜け落ちるに連れて反応管内部において触媒作用を有するニッケルの表面積を拡大させることにより、分解効率を高く維持・向上するとともに、反応管の耐久性をも向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から冷媒とかスプレー剤として使用されているフロンガス及び消火剤として使用されているハロンガス等の有機化合物は環境汚染物質であることが指摘されており、これら物質の無害化処理が地球環境を守る観点から全世界的な関心事として各種の対処手段が提案されている。例えばフロンガス処理方法に関しては、水熱反応法,焼却法,爆発反応分解法,微生物分解法,超音波分解法及びプラズマ反応法等が提案されている。
【0003】
これらの処理方法の中で、水熱反応法はフロンガス等に限定することなく、トリクレン等有機溶剤、廃油、ダイオキシン、PCB、糞尿等の産業廃棄物を主体とする被分解物質全般に対し汎用性のある処理方法として注目されている。この水熱反応法では、例えばフロンガスを塩化ナトリウム、二酸化炭素等の安全な物質に分解することができる。
【0004】
水熱反応法を具体化するための装置に関しては、実験室においてオートクレーブを用いた処理実験、例えば苛性ソーダ液,エタノール,フロン液の混合比率、温度の設定値、圧力の設定値及び反応時間の設定値についての実験が行われているが、通常水熱反応は300〜450℃で100〜350kg/cmという高温高圧条件を維持して行われている。
【0005】
本願出願人は先に特許文献1により水熱反応処理による環境汚染物質の処理方法と装置に関する提案を行った。その内容を図11のフロン処理システムフローに基づいて簡単に説明すると、タンク1にフロン液,苛性ソーダ液,エタノールの混合液を収容し、これをポンプ2,流量計3を介して配管4から熱交換器5に送り込み、水熱反応器6で反応させた後に再び熱交換器5を介して冷却器7に送り、冷却器7から流量制御のための圧力調整弁8を経て分離器9に送り、分離器9により清浄水及び清浄物に分離する。同図のタンク1a、ポンプ2a及び流量計3aは、フロンガスの種類によっては常温でガス化する場合もあるため、このようなときに用いる系統である。
【0006】
上記ポンプ2,2aは通常のスラリーポンプを用いる。このスラリーポンプとしては吸入がバキュームで圧送力が高く、容積効率が良いことが必要であり、高濃度スラリー,粉体混合スラリー,酸,アルカリ性スラリー等の高濃度スラリー圧送シリンダが採用可能である。
【0007】
水熱反応器6は、図12に示したように前記熱交換器5を経由した混合液が入口11からバンドヒータ13が巻き付けられたパイプ12を通って出口14から排出されるように蛇行して構成されている。このバンドヒータ13はパイプ12の長手方向へ適宜間隔にて必要個数が配設されていて、パイプ12内の温度が一定になるように制御される。更に前記冷却器7は、反応チューブの周囲に冷却水の通路を形成した通常の冷却機器が採用されている。
【0008】
しかしながら、水熱反応器6は高温高圧条件を維持しなければならないので、圧力調整弁8の構造は複雑、かつ、高価となり、更に高温高圧で使用するために機械的な強度、例えば引張応力とか熱応力に耐えるための設計が難しく、使用する材料が限定されるという難点がある。また高温高圧下での固液混合液の圧送と排出を行う機構は複雑であって被分解物質の種類によっても構造を変える必要があり、操作上のコントロールが難しいという問題点があり、高圧に伴って運転中に配管4の破損事故が生じる惧れもあるため、安全性確保の観点からも難点を残している。
【0009】
上記に対処して、更に本願出願人は特許文献2により、常圧の状態で有機化合物の分解を可能としたことにより、高温高圧に起因する配管とか排出弁の破損がなく、装置を構成する材質を任意に選択することができる分解処理方法とその装置を提案した。即ち、被分解物タンク内に投入されたフロンと水タンク内に投入された水を配管を通して加熱器に送り込み、予め加熱器に配置された内部ヒータと外部ヒータを働かせて加熱器の内部を500℃〜750℃に加熱しておくことによって過熱蒸気が発生する。分解処理するために必要な過熱蒸気の温度は被分解処理物によって異なるため、それぞれ被分解処理物に応じて設定する。例えばフロンガスの場合は500℃〜750℃、ポリエチレンで400℃前後の過熱蒸気とする。
【0010】
加熱器内には過熱蒸気と反応して水素を生成する物質である鉄片が配置されていて、この鉄片がほぼ同温度に加熱されると、過熱蒸気が鉄片と接触して以下の反応式によりマグネタイトと水素を生成する。
3Fe+4HO → Fe+4H………(1)
【0011】
ここで生成した水素は非常に還元力が強く、多くの物質と結合して有機化合物を分解する。反応器内も予め内部ヒータと外部ヒータの駆動によって過熱蒸気の温度を維持するように加熱しておき、該反応器内に配置された鉄片の存在により上記(1)式の反応を行わせる。この反応器内には同じ雰囲気中に過熱蒸気も存在しているため加水分解も併行して起こり、複合的な分解反応が進行する。これに伴って被分解処理物の分解速度が速くなるとともに分解率も向上する。
【0012】
反応器内は加熱器内と略同じ温度に加熱しておくことが適当であり、反応器内を過熱蒸気が通過する間に所定の反応時間が経過して過熱蒸気中の有機化合物が分解処理され、次段の冷却器内に送り込まれて分解処理された分解物のガスが冷却されて液化する。
【0013】
排液は冷却器から気液分離器に導入されて液状物が中和装置に流入し、所定の中和処理が行われてから排出され、排液タンク内に貯留される。また、溶媒としての水のみを加熱器により過熱蒸気として反応器に連続して供給し、この溶媒の過熱蒸気の雰囲気中の反応器内に有機化合物を供給して所定の反応時間経過させることもできる。この構成は被分解処理物として流体状又は気体状以外の固形状の有機化合物、例えばPE、プラスチック、ゴム等を分解処理する場合に適しており、固形状の被分解処理物としての有機化合物を反応器に供給するとともに、反応器内にフィーダ等の移送手段を設けておく。
【0014】
更に本願出願人は、特許文献3により、環境汚染物質であるフロンガスとかポリエチレン,プラスチック,更にはベンゼン核を持つ有機化合物及びその他の産業廃棄物等の難分解物質の分解を行うシステムにおいて、常圧の状態で分解可能とすることで高温高圧に起因する配管とか排出弁の破損がなく、溶媒として水を用いた場合でも分解率を高めるとともに反応の経時的変化が生じない有機化合物の分解処理方法及びその装置を提供することを目的として、溶媒として水を使用するとともに、加熱器及び反応器の何れか一方もしくは双方を、鉄又は鉄を含む合金を用いて構成し、鉄と有機化合物との直接反応、鉄と過熱蒸気との直接反応で生成した水素による還元反応及び過熱蒸気による加水分解反応の複合反応によって有機化合物を分解処理するようにした有機化合物の分解処理方法とその装置を提案した。
【0015】
かかる方法によれば、溶媒として水のみを供給して反応器内で所定の反応を行わせることにより、鉄と有機化合物との直接反応、鉄と過熱蒸気との直接反応で生成した水素による還元反応及び過熱蒸気による加水分解反応の何れかの形態によって有機化合物を分解処理することが可能であり、特に水熱反応を利用した分解手段のように反応器内を高温高圧に維持する必要がないため、反応器及びその他の圧力調整弁等を不要とし、操作上のコントロールも容易となる利点がある。
【特許文献1】特許第2612249号
【特許文献2】特許第3219706号
【特許文献3】特許第3607624号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記した特許文献3による反応器は、熱源を外部から又は内部に入れるなどの方法が用いられているが、反応器内壁の温度が低いと十分な反応が期待できないため、該反応器が熱伝導効率のよい金属材料で構成されており、ハロゲンを含む有機物等の分解時には反応器自身の腐食速度が問題になる。例えば反応器及び反応管の素材としてSUS304,SUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼を用いてフロン分解を行うと、肉厚が4mmの管では分解反応の生じる出口側で数百時間の使用で腐食減肉による漏洩が生じ、凝縮側では孔食等の局部腐食が生じて1ヶ月程度で使用できなくなる。特に分解で生じたハロゲン化物は高温下において酸素,蒸気とも相俟って金属の腐食作用を高めるため、反応器の寿命は極端に短くなる。
【0017】
更に、反応器としてSiCのようなセラミックスを使用する手段もしくはそのコーティング手段も考えられるが、耐食性は高くなる反面で、金属ではないことによって有機化合物の分解反応が起きにくくなるという根本的な難点が生じる。また、ハロゲンガス分解では液燃焼装置はあるが、腐食性が強いため、内面に耐火煉瓦での防食手段を施す必要がある。この耐火煉瓦は耐腐食性はよいが、割れの発生とか目地隙間にガスが浸入して母材が腐食するという問題がある。更に下流側の構成材料としてチタンを使用する方法もあるが、腐食が著しくなるという問題が残っている。
【0018】
高温ハロゲンガスでの金属の腐食は、腐食生成物であるハロゲン化物の蒸気圧が高く、揮発性に富んでいるため、腐食反応が速く、金属の消耗が激しくなる。
Fe + Cl → FeCl
2FeCl → FeCl (低沸点)
Cr + Cl → CrCl
2/3Cr + Cl → 2/3CrCl (昇華)
Ni + Cl → NiCl
【0019】
HClガスとの反応も同じで、腐食挙動はClと類似している。
Fe + 2HCl → FeCl + H
Cr + 2HCl → CrCl + H
Ni + 2HCl → NiCl + H
【0020】
また、酸素があると酸化物を経由したハロゲン化物が生じて腐食を促進するオキシクロリネーション反応が起こる。鉄の場合ではハロゲンとしての塩素により、下記の反応が起こる。
Fe + 2HCl → FeCl + H
2FeCl + 2/3O → Fe + 2Cl
Fe + 6HCl → 2FeCl + 3H
【0021】
このFeClの飽和蒸気圧は高く、融点(308℃),沸点(315℃)ともに低いため、腐食進行が著しくなる。クロムもCrCl,CrClの飽和蒸気圧が高く、同様にCrClは昇華反応を生じて、やはり腐食速度は速い。一方ニッケルはNiCl,NiClの融点,沸点ともに900℃以上であり、他の金属よりもハロゲンの腐食反応は顕著でないことが判明した。
【0022】
他方でハロゲンガスとしてのフッ素ガスは塩素ガスと類似した挙動を示すことが知られている。しかしながら各単独のハロゲンガスでの高温腐食データはあるものの概ね500〜600℃までの検討であり、今回のような分解反応による発熱反応で、かつ、800〜1000℃以上でのフロンガス及びその分解ガスでのデータはほとんどないのが実情である。
【0023】
また、前記反応器を外部から冷却したり、内部に反応に寄与しないガスを混入させて熱容量を大きくすることで温度の上昇を抑え、反応器の腐食速度を遅くする等の工夫もなされているが、腐食速度を大きく遅らせることができず、数ヶ月に一度は反応器を交換しているのが現状である。金属材料中に含まれる鉄やカーボン等は、反応時の反応助材及び触媒として作用するため、従来の反応温度よりも低い温度で反応させることが可能である。しかしながら、反応助材としての反応自体が発熱反応であり、反応自体がより一層促進されることで激しい反応が継続されるため、分解効率の向上と処理量の増大が期待される長所もあるものの結果として反応器の腐食速度を改善することにはならず、前記とほぼ同じ期間での反応器の交換が必要である。
【0024】
これらの欠点を回避するために直接加熱も試みられているが、その手段としては反応器内部に耐熱タイルなどを貼り付けるなどの処置をして補助燃料を燃焼させ、反応器内温度を高く維持しながら反応を継続させる必要がある。このため、本来反応に必要ない燃料であるプロパン,メタン,石油及び酸素源が必要となり、反応過程で副生成物が多く生成されるため滞留時間などについても厳重な管理が必要になる。また、反応器内のタイルの損傷もあり、半年に一回とか年に一回の張替えが必要で長期間の停止期間が必要になる等の欠点がある。
【0025】
メンテナンスの観点からも反応器の耐食性が高く、寿命の長い素材を用いることが有利である。前記通常のステンレス鋼を短期的に交換して使用するという考え方もあるが、24時間運転では2〜3週間毎の交換頻度となり、高温腐食でのスケール堆積によって伝熱面での低下とかスケールによる閉塞という問題も発生する。
【0026】
前記したように、ニッケルが炭化水素での分解反応で炭化水素の吸着,活性化,水素の吸着,ハロゲン化物の脱着に寄与することは、その触媒作用の面からも顕著であり、従ってニッケルをベースにした合金は高温での耐腐食性を有することが類推される。
【0027】
そこで本発明は上記従来の問題点に鑑みて、ハロゲンを含む有機物等の分解時の分解効率の向上をはかるとともに反応管自体の耐久性を向上させるようにした有機化合物の分解処理方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は上記目的を達成するために、有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中の反応管内で分解処理する反応管の素材として、ニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用し、分解反応の初期工程において、分解及び腐食反応によって反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させるとともにニッケルを残存させることにより、反応管内部におけるニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行うようにした有機化合物の分解処理方法とその装置を基本手段としている。
【0029】
上記のように鉄を離脱させて反応管の内部をニッケル主体の表面とすることにより、反応管の腐食の進行を遅らせ、耐久性を向上させるとともに、ニッケルの触媒作用によって離脱させた鉄の反応助材としての作用を補完させて分解効率を向上させる。
【0030】
ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用する。ニッケル基合金として、ニッケル40重量%〜50重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄25重量%〜40重量%,モリブデン0重量%〜5重量%の合金、又はニッケル50重量%〜65重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン10重量%〜15重量%の合金、或いはニッケル60重量%〜80重量%,クロム10重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン0重量%〜10重量%の合金から選択された1種又は複数の合金を使用する。また、過熱蒸気の温度は700℃〜1200℃とし、特に有機化合物がフロンであるときの過熱蒸気の温度を650℃〜1100℃とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる有機化合物の分解処理方法及びその装置によれば、フロンガス等の有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中の反応管内で所定の分解反応を行わせるに際して、反応管の素材としてニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用したことにより、ニッケル基合金に含まれる鉄と有機化合物との直接反応、鉄と過熱蒸気との直接反応で生成した水素による還元反応及び過熱蒸気による加水分解反応の何れかの形態によって有機化合物を分解処理することが可能である。特に本発明では、分解反応の初期工程において反応管を構成するニッケル基合金中から鉄を反応助材として作用させて離脱させるという分解及び腐食反応によって、反応管内部において触媒としてのニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行うことができるので、分解効率を高いレベルに維持・向上させるとともに、反応管自体の耐久性をも向上させることができ、相反する関係にある分解効率と耐久性の双方を同時に改善することができる。
【0032】
分解の終了したガス成分は冷却することにより、液化して排出することができる。操作は常圧下での加熱が主工程となっているため、高圧ポンプは不要であり、排出弁とか配管が破損する懸念はない。更に反応は全て反応管の中で起こるクローズドシステムであるので二次汚染がないという効果が得られる。
【0033】
更に本発明によれば、低圧で工程が進行するため反応管は所定の高温に耐えられるニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用すればよく、機械的な強度及び引張応力とか熱応力に耐えるための設計は格別要求されないという利点があり、各種機器の破損に対する対策は容易であるとともに装置自体の自動化も容易であり、安全性が高いという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下図面に基づいて本発明にかかる有機化合物の分解処理方法及びその装置の最良の実施形態を説明する。図1は本発明にかかる有機化合物の分解処理装置の一実施形態を概略的に示すシステム図であり、図中の21はフロン等の被分解物タンク、22は被分解物ポンプ、23は溶媒としての水タンク、24は水ポンプ、25は加熱器であり、この加熱器25には内部ヒータ26と外部ヒータ27が配置されている。被分解物ポンプ22としては被分解処理物に応じて被分解処理物を圧送可能なポンプが選択され、高濃度スラリー、粉体混合スラリー等を圧送できる圧送力が高く、容積効率がよいスラリーポンプを用いるのが適当である。
【0035】
29は反応器であり、その内部に装備した反応管41内を所定の温度を保って被分解処理物と溶媒の過熱蒸気及び水素を所定時間反応させて分解処理するための装置である。この反応器29には、内部に装備した反応管41を過熱するための内部ヒータ30,30と外部ヒータ31,31が配備されている。
【0036】
反応器29内は加圧されておらず、排出口側を開放した常圧としている。つまり注入口側の配管の圧力は管路による圧損のみの圧力勾配となっている。あるいは、排出口側からブロア等で吸引するようにしてもよい。このように反応器29は従来の高圧の水熱反応装置と異なって強制的に加圧をしない開放型の装置を使用して被分解処理物質を分解処理できることが本発明の特徴の一つである。また、反応器29内は過熱蒸気によって僅かな圧力が自然に発生しており、圧力勾配によって被分解物を移送する。常圧とはこのように従来の水熱反応装置のように強制的に高圧に加圧することなく、排出口を開放した状態であることを示している。
【0037】
図2は反応器29の内部構造を示す概要図、図3は図2のA−A線に沿う部分を上下に開いた状態の断面図であり、図中の41は円管状の反応管、42は反応管41の周囲を覆う位置に配置された上ケース、43は同じく下ケース、30は反応管41に近接して配置された内部ヒータ、44は内部ヒータ用の断熱材、45,46は上ケース42と下ケース43の開口端を覆う断熱材である。前記反応管41には空気/酸素の導入管47とフロンガスと水との混合物の導入管48が連結されている。このように予め溶媒としての水と被分解物質としてのフロンガスを混合して反応器29に供給する場合は導入管は1本でよい。一方、被分解物質であるフロンガスと溶媒としての水とを個別に反応器29に供給する場合は、水蒸気の導入管49を設け、この水蒸気の導入管49から水を加熱した水蒸気を反応器29の反応管41に供給し、フロンガスと水との混合物の導入管48からはフロンガスのみを供給するようにする。図3に示したように上ケース42と下ケース43は蝶番50により開閉自在に構成されている。尚、図2では外部ヒータの図示は省略してある。
【0038】
本実施形態では、反応管41として、分解部では径長が50〜250mm,長さが1000〜3000mm,肉厚は2〜20mmとし、分解に使用されるガスの組成は、フロンガス:10〜30vol%,空気:0〜50%,蒸気:10〜50%,ガスの流速:25m/秒として実施をした。
【0039】
被分解物質の種類に応じて、反応器29を複数設けることも本発明の実施形態に含まれる。例えば固体を分解しようとする場合は、反応器29に入れると蒸発潜熱などが必要で温度が下がり安定した反応場が形成できない。そこで反応器29を複数設置し、先ず最初の反応器29でガス化などの適正な1次処理をしたのち次弾の反応器29において本来の目的に応じた分解を行うことが適当である。なお、加熱器25は溶媒としての水を加熱する加熱器と被分解物質としてのフロンガスを加熱する加熱器を別個に装備することもできる。反応管41は加熱器25と同様に赤熱温度に加熱しておくことが肝要である。そして該反応管41内を過熱蒸気が通過する間に所定の反応時間が経過して、過熱蒸気中の有機化合物が分解処理され、次段の冷却器32内に送り込まれる。
【0040】
32は冷却器であり、該冷却器32内には反応器29から導出された配管と連通する配管33が配置されている。34は冷却水の入口、35は冷却水の出口である。36は気液分離器、37は中和装置であって、冷却器32から導出された配管38の他端部が気液分離器36の底部近傍に挿入され、気液分離器36から導出された配管39の他端部が中和装置37に挿入されている。40は処理液の排出口である。
【0041】
本発明者等は反応管41が有している問題点を解消し、分解効率と耐久性の双方を同時に改善するために、反応管41を構成する金属材料とその構成比の異なる種々の材料について反応試験を行い、反応時の副生成物の量,耐久性,分解効率などについて鋭意研究し精査した結果、高い分解効率を発揮するとともに副生成物が少なく、反応管自体の寿命が長い材質構成とその配合比率、更に反応に対する触媒作用について以下の知見を得た。
【0042】
先ず、本発明者等は反応管の素材として、従来使用されているステンレス鋼としてSUS304,SUS310Sや、各種のニッケル基合金を使用した反応管を650℃〜1200℃に間接加熱し、反応管内部で腐食性のある物質が生成される反応、特にフロン,ハロン,PCB等の分解反応、ハロゲンを含む物質の反応からHF,HCl等の腐食性の強い酸性ガスが生成される反応を連続的に行なった。その結果、分解反応工程において、反応管を構成する合金素材中から鉄,クロムが優先的にハロゲン化され、腐食により合金結合から抜け落ちていくことが判明した。このため合金の表面には抜け落ちた金属の一部である腐食生成物が残るが、合金表面は分解及び腐食反応による2次的な表面加工によって鉄,クロムが抜け落ちたニッケルを主体とする微細な蜂の巣状の小孔を多数有する表面となって析出することを知見した。
【0043】
更に、合金中のニッケル含有量がある一定量を超えると、これらのハロゲンからなる酸性ガスには耐食性が強く、この状態となってから以降の腐食速度は極端に遅くなり、これ以上の侵食は進まず、長くこの状態を維持することを知見した。即ち、反応管中に含まれているニッケルと反応管の寿命との間に相関関係があるのである。また、ニッケルは炭素水素化合物に対して強い触媒作用が認められ、表面積の拡大したニッケルの存在によって分解効率も前記従来技術で説明した鉄を反応助材とする反応と、鉄を触媒とする反応及びこれらの合成反応で得られる分解効率とほとんど差が無くなる。このことは金属表面の鉄,クロムが腐食されて抜け落ちることで、腐食されないニッケルだけが残って、鉄,クロムの存在した部分が蜂の巣状の小孔を形成し、この小孔が反応ガスとの接触面積を大きくする作用をもたらしてニッケルの触媒作用効率を高める結果となるものである。
【0044】
図4は上記した反応管41を構成するNi−Cr−Fe合金51からCr塩化物及びFe塩化物52が抜け落ちてNi主体の層53が残った状態を示す模式図であり、金属表面の鉄,クロムが腐食されて抜け落ちることで、Ni−Cr−Fe合金51に腐食されないニッケル主体の層53だけが残り、鉄,クロムの存在した部分が蜂の巣状の小孔を形成する。この蜂の巣状の小孔が反応ガスとの接触面積を大きくする効果をもたらし、ニッケルの触媒効率が高められる結果となる。
【0045】
そこで本発明では、反応管41の素材として、ニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用し、分解反応の初期工程において、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させることにより、分解及び腐食反応による2次的な表面加工によって反応管内部において触媒としてのニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行う反応管41を採用することが基本的な特徴となっている。反応管41の素材として使用するニッケル基合金としては、ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%程度、鉄の含有量が2重量%〜40重量%程度のニッケル基合金を使用する。ニッケルが40重量%以上なければニッケルによる十分な耐食性と触媒作用が得られないためであり、又十分な耐食性と触媒作用を得るとともに他の合金成分とのバランスを考慮すると80重量%程度までとすることが望ましい。更に、鉄が2重量%以上なければ鉄の反応助材としての作用が得られずに分解効率が悪く、一方鉄が40重量%を超えてしまうと分解反応は促進されるが、耐食性に著しく欠けることとなる。具体的には次の構成を有するニッケル基合金A,B,Cが適当である。
【0046】
[ニッケル基合金A]
本発明にかかるニッケル基合金として、ニッケル40重量%〜50重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄25重量%〜40重量%,モリブデン0重量%〜5重量%の合金(以下、ニッケル基合金Aという)を使用する。本実施形態では、ニッケル基合金Aの具体的構成としてニッケル42.1重量%,クロム21.5重量%,鉄29.6重量%,モリブデン2.9重量の合金(以下、ニッケル基合金aという)を使用した。
【0047】
[ニッケル基合金B]
本発明にかかるニッケル基合金として、ニッケル50重量%〜65重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン10重量%〜15重量%の合金(以下、ニッケル基合金Bという)を使用する。本実施形態では、ニッケル基合金Bの具体的構成としてニッケル58.2重量%,クロム22.2重量%,鉄4.0重量%,モリブデン13.5重量の合金(以下、ニッケル基合金bという)を使用した。
【0048】
[ニッケル基合金C]
本発明にかかるニッケル基合金として、ニッケル60重量%〜80重量%,クロム10重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン0重量%〜10重量%の合金(以下、ニッケル基合金Cという)を使用する。本実施形態では、ニッケル基合金Cの具体的構成としてニッケル75.8重量%,クロム15.5重量%,鉄7.6重量%の合金(以下、ニッケル基合金cという)を使用した。或いはこれらのニッケル基合金A,B,Cから選択された複数の合金を使用することもできる。なお、表1にニッケル基合金A,B,Cの化学組成を、表2にニッケル基合金a,b,cと従来の素材であるSUS304,SUS310Sの化学組成を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
本発明では上記したように反応管41の素材としてニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用しており、分解反応の初期工程において反応管41内部の素材中から鉄が反応助材として作用することで合金結合から離脱し、分解及び腐食反応による2次的な表面加工によって反応管41の内部において鉄,クロムが抜け落ちたニッケルを主体とする微細な蜂の巣状の小孔を多数有する表面積が拡大する。なお、加熱器25も反応管41と同様のニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を用いた構成を採用することができる。
【0052】
かかる本実施形態の動作態様を、環境汚染物質であるフロンガス等の有機化合物を分解処理する場合を例として説明する。先ず、被分解物タンク21内にフロンを投入し、被分解物ポンプ22と水ポンプ24を起動することによってフロンと溶媒としての水が配管を通して加熱器25に送り込まれ、適当な比率で混合される。
【0053】
予め加熱器25に配置された内部ヒータ26と外部ヒータ27を働かせて、加熱器25を赤熱した状態に加熱しておくことによって過熱蒸気が発生する。分解処理するために必要な過熱蒸気の温度は有機化合物の種類によって異なるため、それぞれの被分解処理物に応じて設定する。例えばフロンガスの場合は650℃〜1100℃前後の過熱蒸気とすることが適当であるが、上記以上の加熱温度であってもよい。特に加熱器25を構成するニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金が赤熱された温度とすることによって被分解処理物の分解率を高くすることができる。
【0054】
反応管41の使用開始初期の段階では、ニッケルの触媒反応はほとんど期待することができない。その理由はニッケルが合金として強く結合しており、該ニッケルの露出表面も少ないためである。しかしながら、このときは合金成分である鉄が反応助材や触媒として作用し、反応効率は高く維持される。表面の鉄,クロムがハロゲン化鉄,ハロゲン化クロム等となって徐々に脱落し、前記したように金属表面には蜂の巣状の小孔が形成され、徐々にニッケルの触媒作用が強くなってくる。このように鉄,ニッケルの作用が互いに作用時期を補完しあって分解効率を高く維持することができる。
【0055】
即ち、フロンガス等の有機化合物は過熱蒸気の雰囲気中の反応管41内を通過する間に所定の反応時間が経過して、分解処理されたガスが次段の冷却器32に送られる。冷却器32では冷却水の入口34から冷却水を供給して同出口35から流出させることにより、反応管41と連通する配管33内で分解処理された分解物のガスが冷却されて液化する。冷却器32内の温度は分解物のガスを液化できる温度であればよく、フロンガスの場合は略18℃とした。このように液化することにより副生成物の発生が防止される。
【0056】
排液は配管38を通って気液分離器36に入り、気液が分離されて発生する無害化された気体は大気中に放散され、液状物は中和装置37に流入し、所定の中和処理が行われて排出口40から排出され、図外の排液タンク内に貯留される。上記冷却器32に熱交換器を組み込んで、熱交換器により冷却する熱を回収し、回収した熱を過熱蒸気の発生に再利用することも可能である。
【0057】
上記の説明において、溶媒としての水のみを加熱器25により過熱蒸気としてから反応器29の反応管41に連続して供給し、この溶媒の過熱蒸気の雰囲気中の反応器29の反応管41内に被分解処理物を供給して所定の反応時間経過させることもできる。この構成は被分解処理物として流体状又は気体状以外の固形状の被分解処理物、例えばPE,プラスチック,ゴム等を分解処理する場合に適しており、固形状の被分解処理物を反応器29に供給するとともに、反応管41内にフィーダ等の被分解処理物の移送手段を設けておくとよい。
【0058】
前記反応管41内の反応温度は650℃〜1200℃の温度範囲が採用可能である。反応温度650℃は有機化合物の処理量が少ない時とか、反応速度を問題にしないケースで用いられ、反応管41の腐食等が最小限になるという利点がある。反応温度1200℃は有機化合物の処理量が多くて反応速度を高めるケースで用いられるが、反応管41の腐食劣化も早められるので、被分解物に応じて最適の温度を選択することが要求される。
【0059】
そこで、フロンガスとしてR−12,R−22,R−134Aを用いて、フロンガス:10〜30vol%,空気:0〜50%,蒸気:10〜50%,ガスの流速:2〜5m/秒として分解処理を行った。
【0060】
フロンガスがR−12の場合は
CFCl+ HO → 2CO+ 2HF + 2HCl + H ……(2)
R−22の場合は
CHClF+ 2HO → 2CO+ HCl + HF + H ………(3)
R−134Aの場合は
+ 2HO → 2CO+ 4HF + H …………………(4)
となる。
【0061】
(2)(3)(4)式は発熱反応であり、反応が進行するにつれて反応管41の壁温度はより高温となり、完全に分解反応が終了する反応管41の下流側では約900〜950℃まで上昇する。何れの分解反応でもフロンの分解率は99.99%である。
【0062】
表3はフロンガスとしてR−12を分解する際の反応管41の素材として、従来のSUS304及びSUS310Sと、本発明にかかるニッケル基合金a,b,cを用いた場合の1000時間経過後及び年間(8760時間)に換算した腐食減肉量(mm)を示している。腐食減肉量は前もって各管の初期肉厚を測定しておき、各試験終了後に管の外面よりUT(超音波)による肉厚測定によって腐食減肉量を求めた。また、図5はフロンガスとしてR−12を分解する際の反応管41のニッケル量(重量%)と表3に示す年間の腐食減肉量との関係を示すグラフである。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すように、R−12を分解した場合に、従来使用されているSUS304では、年間136.7mm腐食するのに対して、ニッケル基合金bでは僅か14.0mm、ニッケル基合金cでは僅か7.9mmの腐食に留まり、SUS304に対して、それぞれ約10倍,約17倍の耐食性を有している。SUS310Sでも87.6mm腐食するのに対して、ニッケル基合金bでも14.0mmの腐食に留まり、その差は6倍以上ある。R−12に対する腐食減肉量は、ニッケル基合金c<ニッケル基合金b<ニッケル基合金a<SUS310S<SUS304の順で高くなっている。そして、図5に示すようにニッケル基合金中のNi量の増大に伴って腐食速度平均が指数関数的に減少していることが分かる。
【0065】
表4はフロンガスとしてR−22を分解する際の反応管41の素材として従来のSUS304及びSUS310Sと本発明にかかるニッケル基合金a,b,cを用いた場合の1000時間経過後及び年間(8760時間)に換算した腐食減肉量(mm)を示している。腐食減肉量は前もって各管の初期肉厚を測定しておき、各試験終了後に管の外面よりUT(超音波)による肉厚測定によって腐食減肉量を求めた。また、図6は、フロンガスとしてR−22を分解する際の反応管41のニッケル量(重量%)と表4に示す年間の腐食減肉量との関係を示すグラフである。
【0066】
【表4】

【0067】
表5はフロンガスとしてR−134Aを分解する際の反応管41の素材として従来のSUS304及びSUS310Sと本発明にかかるニッケル基合金a,b,cを用いた場合の1000時間経過後及び年間(8760時間)に換算した腐食減肉量(mm)を示している。腐食減肉量は前もって各管の初期肉厚を測定しておき、各試験終了後に管の外面よりUT(超音波)による肉厚測定によって腐食減肉量を求めた。また、図7は、フロンガスとしてR−134Aを分解する際の反応管41のニッケル量(重量%)と表5に示す年間の腐食減肉量との関係を示すグラフである。
【0068】
【表5】

【0069】
表4,表5に示すように、R−22やR−134Aを分解した場合にあっても、ニッケルを40重量%以上含有しているニッケル基合金a,b,cは、ニッケル含有量が20.3重量%のSUS310Sや、8.3重量%のSUS304に対して、約2.5倍〜約17.5倍の耐食性を有している。R−22及びR−134Aに対する腐食減肉量はニッケル基合金c<ニッケル基合金b<ニッケル基合金a<SUS310S<SUS304の順で高くなっている。そして、図6,図7に示すようにニッケル基合金中のNi量の増大に伴って腐食速度平均が指数関数的に減少していることが分かる。
【0070】
よって、ニッケル基合金においてニッケルの含有量が40重量%を超えるとR−12,R−22,R−134Aといったフロンガスを分解するための650℃〜1100℃の温度であっても反応管41の耐食性を顕著に改善することができる。なお、R−134A<R−22<R−12の順で腐食減肉量がやや高くなる傾向になっている。これらの結果から、分解ガスの組成はHClとHFの組成に因るものと考えることができる。
【0071】
表6は、反応管41の素材として一般構造用圧延鋼材(SS)を用いた場合の分解反応時間を1として基準化し、従来のSUS304及びSUS310Sと本発明にかかるニッケル基合金a,b,cを用いた場合のR−12の反応時間比と腐食減肉量を示すものであり、図8は表6に示す反応時間比と腐食減肉量との関係を示すグラフである。分解反応時間比は850℃の分解温度で処理量が1kg/hの小型反応器を用いて処理した際のR−12の分解率が99.99%に達成するのに要する時間を測定して算出した。
【0072】
【表6】

【0073】
表7は、R−12に換えて、R−22を分解した場合の表6と同様のデータであり、図9は表7に示す反応時間比と腐食減肉量との関係を示すグラフである。分解反応時間比は850℃の分解温度で処理量が1kg/hの小型反応器を用いて処理した際のR−22の分解率が99.99%に達成するのに要する時間を測定して算出した。
【0074】
【表7】

【0075】
表8は、R−12に換えて、R−134Aを分解した場合の表6と同様のデータであり、図10は表8に示す反応時間比と腐食減肉量との関係を示すグラフである。分解反応時間比は850℃の分解温度で処理量が1kg/hの小型反応器を用いて処理した際のR−134Aの分解率が99.99%に達成するのに要する時間を測定して算出した。
【0076】
【表8】

【0077】
表6〜表8及び図8〜図10に示すように、腐食減肉量(腐食速度)と分解反応時間比とは逆比例の関係にあることが分かる。従って分解反応時間比が低くなるほど金属の腐食率は高くなる。これは分解反応時間比は鉄によって支配されており、反応時間比の短さとともに鉄のハロゲン化物により鉄が消耗して腐食率が高められるためである。
【0078】
SUS310Sにおける分解反応後の表面を解析した結果、腐食して層状になったスケール中には、鉄を主成分とする酸化物及び塩化物が堆積している一方、金属母材中ではFe−Cr−Niの合金でFe及びCr成分が金属組織から抜け落ちていることが確認された。Niは残存しているものの多少は減少している。ニッケル基合金cは分解反応後においても母材の表面に主成分が残存していることが認められた。
【0079】
よって、従来の素材であるSUS304やSUS310Sは分解反応時間比は小さく、分解反応が迅速に行われるが、同時に腐食減肉量も大きく、腐食の速度が早く反応管の寿命が短く、煩瑣な交換が必要となる。これに対して、本発明にかかるニッケル基合金a,b,cでは、従来例に比して分解反応時間比は大きくなるが実用性のある範囲であり、かつ、腐食の進行が遅く十分な耐食性と耐久性を有する。このように、本発明にかかるニッケル基合金a,b,cは、耐食性と分解反応時間の両者を共にバランスよく充足できるものである。なお、反応管41の素材としてニッケルで製造した場合の前記同様の分解反応時間比は50.78となり、同様に銅で51.88、SiCで52.38、アルミナで56.17となり、これらの素材は鉄を含んでいないため、分解反応に時間がかかりすぎ、反応管の素材として適当でない。よって、本発明ではニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用する。
【0080】
図4に示すように、反応管41の合金の表面から鉄,クロムが腐食されて抜け落ちることで、Ni−Cr−Fe合金51に腐食されないニッケル主体の層53だけが残り、鉄,クロムの存在した部分が蜂の巣状の小孔を形成する。この小孔が反応ガスとの接触面積を大きくする効果をもたらし、ニッケルの触媒効率が高められる結果となるのである。Ni−Cr−Fe合金中のNiの含有量が増大すると反応時間比は長くなるが、金属の腐食率は低くなる。これは分解したハロゲン化物によるNiの消耗が著しく抑制された結果である。従って金属材料にあっては、Ni含有量が低いと分解反応時間比が低くなるが腐食率は高くなるという問題が生じるため、分解反応時間比はある程度以上であればNi含有量が高い材料を用いることが好ましい。本発明の実施形態ではガス処理による分解試験での分解率は何れも99.99%であり、従って分解反応時間比が30以下の場合にはNi合金の素材を使用しても何ら問題なく、反応管41の寿命増大に大きな効果があることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、反応器の素材としてニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用したことで分解反応の初期工程では素材中の鉄を反応助材として作用させて離脱させ、触媒としてのニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行うことができるので、分解効率の向上とともに反応器自体の耐久性をも同時に向上させることができる。従って冷媒とかスプレー剤として使用されているフロンガス及び消火剤として使用されているハロンガス等の環境汚染物質である有機化合物の無害化処理のみならず、各種の有機溶剤、廃油、ダイオキシン、PCB、糞尿等の産業廃棄物を主体とする難分解物質である被分解物質全般に対しても汎用性のある処理方法及び装置として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の基本的実施形態を示すシステム図。
【図2】本発明を適用した反応器の内部構造を示す概要図。
【図3】図2のA−A線に沿う部分を上下に開いた状態の断面図。
【図4】本発明で用いたニッケル基合金材料を示す模式図。
【図5】フロンガスR−12の分解時における反応管のニッケル量と腐食減肉量との関係を示すグラフ。
【図6】フロンガスR−22の分解時における反応管のニッケル量と腐食減肉量との関係を示すグラフ。
【図7】フロンガスR−134Aの分解時における反応管のニッケル量と腐食減肉量との関係を示すグラフ。
【図8】フロンガスR−12の分解時における反応時間比と腐食減肉量との関係を示すグラフ。
【図9】フロンガスR−22の分解時における反応時間比と腐食減肉量の関係を示すグラフ。
【図10】フロンガスR−134Aの分解時における反応時間比と腐食減肉量との関係を示すグラフ。
【図11】従来のフロン処理方法の概要を示すシステム図。
【図12】図11のシステム図における水熱反応装置の概要図。
【符号の説明】
【0083】
21…被分解物タンク
22…被分解物ポンプ
23…水タンク
24…水ポンプ
25…加熱器
26,30…内部ヒータ
27,31…外部ヒータ
29…反応器
32…冷却器
36…気液分離器
37…中和装置
41…反応管
42…上ケース
43…下ケース
50…蝶番
51…Ni−Cr−Fe合金
52…Cr塩化物及びFe塩化物
53…Ni主体の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中の反応管内で分解処理する方法において、
反応管の素材としてニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用し、分解及び腐食反応によって、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させるとともにニッケルを触媒として残存させて分解処理を行うことを特徴とする有機化合物の分解処理方法。
【請求項2】
有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中の反応管内で分解処理する方法において、
反応管の素材としてニッケル及び鉄を一定量含有するニッケル基合金を使用し、分解及び腐食反応によって、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させることにより、反応管内部において触媒としてのニッケルの表面積を拡大させて分解処理を行うことを特徴とする有機化合物の分解処理方法。
【請求項3】
ニッケルの触媒作用により、離脱させた鉄の反応助材としての作用を補完させて分解処理を行う請求項1又は2記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項4】
鉄を離脱させて反応管の内部をニッケル主体の表面とすることにより、反応管の腐食の進行を遅らせ、耐久性を向上させた請求項1,2又は3記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項5】
鉄を離脱させて反応管の内部をニッケル主体の表面とすることにより、反応管の腐食の進行を遅らせて耐久性を向上させるとともに、ニッケルの触媒作用により、離脱させた鉄の反応助材としての作用を補完させて分解効率を向上させる請求項1,2又は3記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項6】
ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用する請求項1,2,3,4又は5記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項7】
ニッケル基合金として、ニッケル40重量%〜50重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄25重量%〜40重量%,モリブデン0重量%〜5重量%の合金、
又はニッケル50重量%〜65重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン10重量%〜15重量%の合金、
或いはニッケル60重量%〜80重量%,クロム10重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン0重量%〜10重量%の合金から選択された1種又は複数の合金を使用する請求項1,2,3,4,5又は6記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項8】
過熱蒸気の温度を700℃〜1200℃とした請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項9】
有機化合物がフロンであるときの過熱蒸気の温度を650℃〜1100℃とした請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の有機化合物の分解処理方法。
【請求項10】
有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中で分解処理するための反応管において、
反応管の素材として、ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用したことを特徴とする有機化合物の分解処理装置。
【請求項11】
有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中で分解処理するための反応管において、
反応管の素材として、ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用し、分解及び腐食反応によって、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させるとともにニッケルを触媒として残存させることを特徴とする有機化合物の分解処理装置。
【請求項12】
有機化合物を過熱蒸気の雰囲気中で分解処理するための反応管において、
反応管の素材として、ニッケルの含有量が40重量%〜80重量%で、鉄の含有量が2重量%〜40重量%のニッケル基合金を使用し、分解及び腐食反応によって、反応管内部の素材中から鉄を反応助材として作用させて離脱させることにより、反応管内部におけるニッケルの表面積を拡大させることを特徴とする有機化合物の分解処理装置。
【請求項13】
鉄を離脱させて反応管の内部をニッケル主体の表面とすることにより、反応管の腐食の進行を遅らせ、耐久性を向上させた請求項10,11又は12記載の有機化合物の分解処理装置。
【請求項14】
鉄を離脱させて反応管の内部をニッケル主体の表面とすることにより、反応管の腐食の進行を遅らせて耐久性を向上させるとともに、ニッケルの触媒作用によって離脱した鉄の反応助材としての作用を補完させて分解効率を向上させる請求項10,11又は12記載の有機化合物の分解処理装置。
【請求項15】
ニッケル基合金として、ニッケル40重量%〜50重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄25重量%〜40重量%,モリブデン0重量%〜5重量%の合金、
又はニッケル50重量%〜65重量%,クロム20重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン10重量%〜15重量%の合金、
或いはニッケル60重量%〜80重量%,クロム10重量%〜25重量%,鉄2重量%〜10重量%,モリブデン0重量%〜10重量%の合金から選択された1種又は複数の合金を使用する請求項10,11,12,13又は14記載の有機化合物の分解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−271994(P2008−271994A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222836(P2006−222836)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】